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土居バイオアシンメトリプロジェクト中間評価報告書
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1. 研究の進捗状況と今後の見込み
本プロジェクトの評価や提言について、各評価者の意見が微妙に異なる場合が生じたために、該当部分はあえて統一せずに併記した。
(1)研究構想の具体化状況
評価者A
 当初の構想は理論と実験の3グループを通して、具体化の努力がなされている。本プロジェクトは、総括責任者にとって全く新規のプロジェクトであるため、その遂行にあたり試行錯誤が避けられず、結果の評価に時間がかかることは確実である。このような挑戦的課題に果敢に挑戦しているが、今後得られつつある成果を基礎に、どのように的を絞るか真剣に考慮する時期である。非対称変異体グループのPfuDNAポリメラーゼの分子改良も興味あるが、複製フォークにおける非対称性は本プロジェクトの中心課題である。酵母、線虫系の解析もマンパワーからみて一度に総展開せずある系に集中すべきである。
評価者B
 この研究チームが本来めざすべきは、(1)DNAの連続鎖と不連続鎖の各々に特異的な複製酵素の同定、(2)発生過程の細胞分裂でDNAの半保存的複製による新旧DNA鎖がノンランダムに分配されるかどうか、(3)連続鎖と不連続鎖がノンランダムに姉妹細胞に分配されるかどうか、つまり発生にDNA鎖の非対称性が反映しているか、というテーマである。(1)に関しては、DNA複製の連続鎖と不連続鎖が複製開始点との位置関係に依存しているので、本プロジェクトにとって基本的な重要性を持つ。
 しかし、その予測は困難に直面しているように見受けられ、複製開始点は理論的な方法だけからは、正確に予測できないという可能性が感じられた。ただ酵母の第6染色体は複製開始点がすべて分かっており、その情報を利用して、CAGリピートを持つ遺伝子が不連続鎖上に多く乗っていることを明らかにした。
ゲノム非対称性グループは、マウスの発生の初期過程(未受精卵から始めて16〜32細胞期まで)の各段階のcDNAライブラリの作成と解析を行っている。受精から細胞数のごく少数の発生初期過程に現れる非対称性が、前後、背腹などの個体の形態の非対称性の基盤になるという考えに基づき、ごく初期に現れる遺伝子発現の非対称性を検出し、卵割で生じる細胞の非対称な運命決定と結び付けようというものである。
 これまで、マウスの初期発生は、16細胞期のコンパクションまでは少なくとも対称であり、その後、inner cell massが生じて始めて非対称性が現れるとされてきた。しかし、中間評価資料にも述べられているように、最近、受精卵において極体の位置などによって生じる非対称性が、体軸の決定に関与している可能性が生じてきた。従って、このグループのめざす研究方向は理にかなっていると同時に、タイムリーでもある。cDNAライブラリの作成とそれに基づくESTデータの作成はきちんとなされているようである。現時点では、非常に基礎的な情報の集積であるが、土居プロジェクトのなかで最も具体的な成果を挙げつつあるように思われる。中間段階としての研究進展、その結果としては評価されるべきである。
 今後、これまでに得られたESTをどのように解析し、細胞運命の非対称性、あるいは、DNA連続鎖、不連続鎖の非対称性と結び付けて行くのかが課題である。正攻法でいけば、それぞれのESTに対して、卵割球での非対称な発現を検索することになるだろう。したがって、人数、労力、情報の大量処理がどうしても必要となるが、ERATOの利点を生かして、ここは、ぜひ腰を落ち着けて、正攻法で研究を進めることが期待される。
評価者C
「珍しさ度数によるゲノム情報解析」
新しい概念である「珍しさ度数」から出発して、実際の酵素において、この概念が役に立つことを実験的に証明しており、非常に興味深かった。すでに構造がわかっているほかの酵素について、どの程度同様のことがいえるのか楽しみである。
「ゲノム非対称性グループのEST解析」
いわゆるゲノム研究のデータとしては評価できるが、本プロジェクトにとって必要なものであるかどうかは疑問である。
(2)未踏の課題への挑戦状況
 染色体DNAの非対称性、複製の連続鎖、不連続鎖の非対称性、新旧中心粒の非対称性、配列の持つノンランダム性等と、個体発生や生物現象の非対称性など、実験対象にはなりにくい課題に果敢に挑戦する姿勢は評価されるが、既存の延長ではないこれらの研究の結論を得るのは容易ではない。意味ある結果を期間内に得るためには、既存の研究成果・技術を十分に利用することが必要である。
(3)研究者の参集状況
 優れた着想を持つ理論家である総括責任者とそのパートナーとして練達の実験家の協力により、新たなパラダイムを開くことが、本プロジェクトの特徴である。その点では、理論面では総括責任者がすでに一定の実績をあげてきたゲノム非対称性分野に、経験豊かな実験家を確保することが重要である。非対称変異体グループについても同様である。現状では、こうした実験家の確保に制約があるが、本プロジェクトがリスクを伴う時限プロジェクトであり、実験場所と大学などの研究拠点の連携が希薄である、などの要因が推測される。
(4)施設・設備の整備状況
 通常実験室も情報関係施設も十分に整備されており、通常実験室における細菌、酵母、動物細胞の培養設備等も計画的に設置されている。従ってやる気のある優れた研究者を集めれば、信頼できる実験結果を短期間に集中的に得ることは十分可能である。
(5)今後の見込み
評価者A
 ゲノム非対称性グループ、非対称変異体グループともに、今後の基礎となる興味ある結果を得つつある。本プロジェクトでは、古細菌、出芽酵母、分裂酵母、線虫、動物細胞、マウス初期胚等、用いられている実験系が多岐にわたっており、これらの系を維持し、安定な結果を得るためには独自の技術的熟練が要求される。有限の時間でこれまでの知見の中から、本プロジェクトの理論形成に有用な実験系を絞り込む作業が必要である。そのためには、これらの系に習熟した大学等のスペシャリストの協力を得ることも考慮するべきである。残された期間で、理論と実験の同時遂行という本プロジェクトの特徴を発揮するよう期待している。
評価者B
 バイオアシンメトリープロジェクトには、中間評価に馴染まない点がいくつかみられる。また、当プロジェクトは、全く新たに立ち上げられたプロジェクトなのである。これらのことを考えあわせると、当プロジェクトが見るべき成果を挙げるには、最初と最後の1年を除き、実質5年程の研究期間(計7年)が必要なのではないかというのが評者の考えである。
評価者C
「出芽酵母の老化」
出芽酵母の老化とDNA分配の非対称性という考えはおもしろく、可能性も大いにあると思う。老化によるRNAの発現の違いを主に調べているが、この方法だと核心に迫るのには時間がかかりすぎるだろうし、遺伝子の種類もありすぎてどれが本質的か決めるのが難しいと思われる。何かあたらしい斬新な発想が期待される。
「マウス初期発生における非対称性」
まだ始まって間もないプロジェクトであるが、哺乳動物胚にもショウジョウバエのように位置情報が組み込まれていることが証明できれば大きな発見になると思う。キメラの実験などから証明されている調整能と組み合わせてどのような整合性のある理論が作れるか興味がある。
2. 研究成果の現状と今後の見込み
(1)得られたあるいは得られる見込みの研究成果の意義と将来性
評価者A
 総括責任者の理論的着想を検証するために、実験系を吟味し研究課題を絞り込んで行くことにより、研究は当初の目的に沿って展開され、その成果は細胞の運命決定、形態形成等、生物学の重要問題の解明に貢献し得る。現状では、各グループの研究者は多岐にわたる実験系を操作しているためプロジェクト全体の目標よりも、系毎に特有な研究成果を横に広げる傾向が見られるが、各グループが総括責任者の当初の着想とは無関係に、横に拡散することは避けるべきである。解析的実験と統合的な概念に基づき、生物系における非対称性に新たな視点をもたらすよう期待する。
評価者B
 評者の見る限り、研究成果として見るべきものは、以下の2点である。即ち、
(1) 理論構築グループの複製開始点の予測に関連して、酵母の第6染色体でCAGリピートを持つ遺伝子が不連続鎖上に多く乗っていることを明らかにしたこと。
(2) ゲノム非対称性グループで、マウスの卵割期のcDNAライブラリの作成とESTデータの蓄積。
 この2つの成果は、その延長上に、DNAの非対称性と発生の非対称性を結び付ける成果が期待される。ただ、問題としているテーマが本質的であるだけに、目に見える成果がまとまった形で現れるには、多大な時間と労力を必要とすることが予想される。
評価者C
 本研究を評価するときに、すでに確固とした基盤を持ってスタートした他のプロジェクト研究とそのまま比較するのは妥当でない。そのようなプロジェクトは、はっきり言って、創造科学事業の課題としてもしなくても同じ成果を生みだすことは明白であるし、そもそも「科学技術の新しい芽」という目的からはずれていると思う。ネイチャー何報という評価にしても、そのグループが創造科学事業の課題となる前の5年間と比較して初めて意味があるのではないか。理論家主導の研究グループということだけでも斬新であり、それがどのような成果を生み出すかは未だに未知数であると思う。本研究プロジェクトの残りの期間に期待するものである。
3. その他
 本プロジェクトは、(1)不連続複製によるDNA鎖の非対称性、(2)分裂装置の中心粒の非対称性、(3)ゲノムのDNA配列、蛋白質のアミノ酸配列の非対称性、などが発生における姉妹細胞の不均等性をはじめ生物界に見られる非対象性に関与するという着想から出発している。総括責任者が取り上げた非対称性の3課題は、何れもオリジナリテイーの高い発想であり、これらの課題が相互に関連する同一原理に由来するのか、あるいは独立の原理に基づくものかは明らかではない。本プロジェクトの遂行において、理論形成と共にこれを検証するために、細菌、酵母、線虫、動物細胞、マウス初期胚などの実験系を用いているが、3課題と5実験系の組み合わせにより、その選択は多数にのぼる。現在得られつつある成果を基礎に、今後、どのように的を絞って行くか真剣に考慮すべき時期である。その見地から、古細菌の実験系を活用して(1)の課題により焦点をあてるべきことについては、評価者の見解は一致した。しかし(2)、(3)の課題については、見るべき成果が得られつつあるが、今後どのように展開すべきかについて統一見解には至らなかった。これらの課題に見られる非対称性が、同一原 理に由来しない独立の現象である場合を想定して、どの課題に集中すべきか考慮する時期であろう。また本プロジェクトは、これまでに成果をあげつつある既存の研究の延長線上にはない斬新な課題をとりあげており、見るべき成果を期限内におさめるためには、理論的洞察を実験的に検証するセンスある実験家が必要とされる。そのために優れた理論家である土居総括責任者が、優れた実験リーダーをパートナーとして持つことの重要性が、評価者の一致した見解である。今後、残された期間において、本プロジェクトを建設的に進める上で、この点は早急に改善すべきであると考える。

This page updated on December 8, 1999
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