レポート

The STEMM Congress2018参加レポート

日時:2018年10月11日(木)、12日(金)
場所:オランダ アムステルダム(Beurs van Berlage(ブールス・ファン・ベルラーヘ))
参加者:渡辺副理事、北京事務所 横山

【会議概要】
  • The STEMM Congress2018がアムステルダムで開催。(今回の参加人数は公表されてないが、2017年には5大陸から、31ヶ国、220人が参加。会場はベルリン。今回も同様の規模)。
  • STEMMダイバーシティに係る戦略、政策、実践について、世界中から指導者を招き、交流の機会提供を意図。
  • JSTからは渡辺副理事が登壇。JSTにおけるダイバーシティ推進の取り組みを紹介するとともに、パネルディスカッションにおいても、日本におけるダイバーシティ推進に係る現状及び今後の展望を紹介した。
    https://stemmequality.com/
  • 写真1
    オープニングセッションの壇上
  • 写真2
    セッション開始を知らせる銅鑼
【登壇者の発言内容】
  • 各人が無意識のうちに抱えるバイアスは、文化や社会的な背景に根ざしており、ジェンダー平等に対する障害となっている。
  • 研究における無意識のバイアスから抜け出し、研究における平等を進めていく必要がある。
  • AIによって無意識のバイアスを取り除く可能性もあるが、そもそもAIは人間によって作られるためその人にバイアスがあればAIにそのままバイアスが埋め込まれることになる。この点に留意しつつ、AIに以下の点を組み込む必要がある。AIを公平にするのは、今の私たちの義務であり責任である。
    1.自己抑制
    2.倫理の枠組み
    3.統制
  • 誰がLGBTであるかを知っているのと知らないのとでは、受け入れに大きな差(20%)がある。
  • テクノロジーはジェンダー平等を拡大できる。音声プログラムにおいて男女の声で印象が異なる。女性はAI開発に積極的にコミットすべきだが、女性比率は低く、意思決定において女性の視点が低い。
  • ジェンダーステレオタイプをなくすため教員に対する男女共同参画に係る教育が必要。社会的バイアスがAIに反映されてしまう。インターネットは公平でなくてはならない。
  • ダイバーシティは男性間においても世代や文化的な帰属等の違いとして存在する。男性から、また男性同士で主体的に取り組む必要がある時代に移りつつある。
  • 人種的な障壁は、社会経済的に広く存在しており、比率の改善はほぼない。これは教育の段階から再生産されてしまっていることの証左である(高等教育へのアクセスに人種の差があり、スタッフの雇用や勧誘にもバイアスがかかる)。このような社会的貧困の再生産を防ぎ、低収入者や高等教育から遠く離れている者へのアプローチが必要。
  • 連邦政府により、高等教育への事実上の差別を実質的になくすための行動を義務としなければならない。(例:公立大学への奨学金等)
  • 高等教育におけるダイバーシティ推進のリーダーシップに求められるものとして、責任者は、変化を管理するスペシャリストであると捉えるべき。ダイバーシティ推進とは、制度や機関の文化の変化を意図している。
  • ダイバーシティは社会正義を実現するツールであり、研究成果に優先する。
  • ダイバーシティを推進するということは、社会を変えるということを意味する。関係者が奮闘しつつも、なかなか社会があるべき方向に進んでいかない。
  • 一方で、職員がダイバーシティを認識した上で、男女が共同して業務に取り組んだ方が生産性が向上し、ダイバーシティが企業収益上も有益であることが、複数の調査により示された。
  • Equity(平等)→ Diversity(多様性)→ Inclusion(取り込み)。中心となる関心事項が、無意識のバイアスから、ダイバーシティ適正(Inclusion Skill)にシフトしている。ダイバーシティは当然の前提として、インクルージョンを着実に実施するための諸制度を実施する時期に来た。
  • 若手の女性研究者は少数派で特有の問題に直面しているため、そのフォローが必要。研究費のファンディングと研究推進組織における行動を求めていく必要がある。

【渡辺副理事発表の概要】
写真4登壇するJST渡辺副理事
  • 先の東京で開催されたジェンダーサミット10とそこで提案されたジェンダー平等2.0(女子・女性だけの問題ではないという主張、人種、文化等、ダイバーシティという言葉に代表される様々な多様性を受け入れることとして、ジェンダー平等2.0として示した)を紹介。特に、ジェンダー平等が、SDGsの17すべての課題をつなぐ橋であり、これらを結びつけることになる。
  • 日本において、一般的に男性は、女性上司や若い上司は好まない。年配になるほどその傾向が高く保守的になる。
  • アジアでは、男性が収入の柱であり女性は家庭を守るという価値観があり、女性の才能を社会で活用する意識が希薄だった。
  • 特許について、男女混合チームのほうが高い経済的価値を生み出す。
  • 最後にアジアの価値観の例として、平家物語を引用して、すべては流転することを紹介。ジェンダー平等は欧米由来の概念だが、アジアの価値観には異なる捉え方があり、ジェンダー平等は地域性のある価値を含むことを示した。

【パネルディスカッションにおける渡辺副理事発言概要】
写真5パネルディスカッションの様子
  • 日本では、意思決定の際に年配の男性によって決められる。ジェンダー平等の問題と同様に、世代の違いも重要な問題。
  • 意思決定における無意識のバイアスを避けるため、傾向を前もって掴み、データを元に基準を作ることも有効であるが、データ自体が偏っていることもある。若手は柔軟性があり受け入れやすいので、若手に無意識の偏見を示すことが効果的。
  • ファンディングが競争的になって、多くの研究者が研究費を獲得することが難しくなってきている。特に新しい研究領域において顕著。そして、権威者に研究費が集中する傾向がある。これが問題。