レポート

ジェンダーサミット15(Gender Summit 15 London 2018 )参加レポート

日時:2018年6月18日(月)~19日(火) 場所:イギリス、ロンドン
参加者:ダイバーシティ推進室 渡辺、加藤、松本

  • ジェンダーサミット 15 (GS15)がロンドンで開催され、38国・地域から約200名が参加しました。
  • プレナリーセッションで、ジェンダーサミット10開催後の日本の動きと取り組み状況を紹介しました。
  • また、ジェンダーサミット10を受けたJSTの取り組みについて、ポスター発表を行いました。

基調講演(1日目)

ピンクの脳とブルーの脳 ― 子供の脳の性差について、最新の科学的データによると、誕生時の脳の働きに性による差異はなく、むしろ8歳までの外的環境により大きく左右されるということが分かったそうです。例えば女の子は人形が好き、男の子はボール遊びなど、性差によるあるべき姿が求められ、子供たちがそれに呼応することで知らず知らずのうちにそれぞれの役割を自分も周りも思い込むようになっているのが現状です。これらアンコンシャスバイアスがもたらす影響を社会がより深く理解することにより、単なる性差だけでなくトランスジェンダーの人々に対しても個別の能力を生かす社会作りが可能となることが分かりました。(Lise Eliot, The Chicago Medical School of Rosalind Franklin University of Medicine & Science)

プレナリーセッション(1日目)

午前のセッションでは、基礎研究および応用研究の両者に重要である基礎知識の共有が行われました。オーダーメイド投薬やGWAS(ゲノムワイド関連解析)において男女の比が偏っていること、実験動物だけでなく培養細胞レベルにおいても性差を明確に認識した上で研究計画を立てることの重要性や、地球温暖化や海水の酸性化により絶滅の恐れがある性転換する海洋生物等の紹介などがありました。一部の魚類などは環境(温度、pHなど)で性別が決まるデータが示されました。続いて、生物的な性差やジェンダーの諸問題について発表がありました。AIのアルゴリズムにジェンダーが正しく反映されていないことに対するリスクや、放射線の人体への影響が男女で異なり女性のリスクがより高いこと、SDGsのそれぞれの目標同士の相関や影響する方向を係数で表した数理科学的研究(たとえば「5:ジェンダー平等を実現しよう」は「1:貧困をなくそう」および「2:飢餓をゼロに」との関係が、他のゴールと比較して深いなど)の紹介などが行われました。

GS15スライド

午後のセッションでは、政策立案のための指標やエビデンスの紹介が行われました。欧州委員会によるジェンダー問題に関する調査の結果やUNESCOによるSTEMにおける各国の調査プロジェクトの紹介、ラテンアメリカ及びカリブ諸国におけるジェンダーギャップの調査報告などがありました。また、リーダシップを中心テーマとした発表が行われ、アカデミックリーダーとしての教授職のリーダシップの重要性、オープンサイエンスにおけるリーダシップや、”invisible knapsack”を解くという言葉に象徴される民族や性差における不利益に対する経験と教育、認知症・アルツハイマー病と多様性についてなどの発表がありました。

プレナリーセッション2日目(渡辺登壇)

2日目のセッションは、これまでのジェンダーサミット(GS)が与えた影響やその後の各地域での取り組みについての報告でした。アジア・太平洋地域における次のGS開催が決まったシンガポールの開催準備進捗の報告、ルワンダで行われたGS 14の開催後のアフリカ数学研究所の活動、カナダで行われたGS 11のその後について報告がありました。また、ノルウェーやドイツ、チリ、イギリス、Elsevier社などから科学に関するジェンダー平等への取り組みの報告が行われました。

渡辺さん登壇

JSTからの発表(渡辺)は、”Development of Gender Summit 10 in Academic, Political & Industrial Society in Asia from Japan”と題し、ジェンダーサミットの歴史とアジアでの開催時期を紹介、2017年の東京でのジェンダーサミット10開催と東京宣言(BRIDGE-ジェンダーと科学技術イノベーションをつなぐ、SDGsをつなぐ、すべての人をつなぐ)、ジェンダー平等2.0のコンセプトを改めて示しました。また、日本で得られた知見として①男性のみのチームから生み出された特許よりも男女混合チームから生み出された特許の方が経済価値は平均20%高いというデータ(日本政策投資銀行より)、②九州大学において1人あたりの論文数やTop10%ジャーナル論文の割合は、女性枠で採用した研究者が九州大学の男女各平均よりも高いデータ(九州大学より)などを紹介しました。それから、ジェンダーサミット10後にそれを受けて開催されたシンポジウムやワークショップ、立ち上げられた委員会等により日本が継続的にこの問題に取り組んでいること、次回のアジア・太平洋地域におけるジェンダーサミットとなるシンガポールでの開催にJSTも協力することを提示して、アメリカやヨーロッパで先行し世界に影響を与えてきたジェンダー平等の問題が今後は各地が相互に良い影響を与えることで社会的持続可能性と幸福を実現することを望んでいると結びました。

パラレルセッション

パラレル1は「異なるプログラムとプロジェクトから学ぶ事例」と題し、各国における施策についての発表がありました。Horizon2020に代表されるようにヨーロッパ内におけるプログラムには、女性研究者の参加比率を明確に項目として設けた企画書とする等、一定の政策的配慮により女性研究者の育成、参加者数が増加しているそうです。一方、男女共同参加チームと性差一つによるチームの成果をどのように比べるのか、何を持って良いとするのかといった判断が難しい点が今後の課題であることが挙げられました。

パラレル2は「公平で体系的な学問的ピアレビュー」について発表がありました。科学ジャーナルのエディタからレビュアへのレビュー依頼について統計を取ると、エディタによるレビュアの選択時に同性を選ぶ(homophily)確率が高いという結果が得られたそうです。また論文の著者における女性の割合が依然として20~30%程度であること(口頭での説明はありませんでしたが日本は約10%)、エネルギーと地球分野ではジャーナルの編集長や編集メンバーの女性の割合が非常に低いこと、女性研究者の割合の増加がなかなか進んでいないこと(といっても世界の先進国の数値は日本の倍程度…20~30%台)などの紹介がありました。

最終サマリー

パラレル8では、「意識と姿勢を変革する」と題し、各国における取り組みが紹介されました。JST理数学習推進部が進めるプログラムにより愛媛大学が小学生を対象とした教育プログラムにて、男の子に比べて、女の子の方が体験後においても自主的に継続して自己のテーマを持って取り組んでいる旨の報告がなされ、早期から継続した教育の重要性が報告されました。

ポスター発表

JSTの取り組み状況の報告(松本、加藤)を中心としたポスター発表を行いました。ジェンダーサミット10開催を受けた日本の動向と科学技術におけるジェンダー平等取り組みのポイント(トップ研究者、生徒・学生、研究環境)、その中でJSTが昨年12月に男女研究者を対象に行ったアンケート結果や、「女性研究者と創る未来」と題した科学技術研究開発プログラムと女性研究者についてのシンポジウムを開催して講演者・参加者から得られた情報・提言などを紹介し、JSTの科学技術研究開発ファンドに応募する女性研究者を増やすための方策を検討していることを示しました。

他約10点のポスター発表は機関における取り組みやプロジェクトの紹介が主でした。一例としてアイルランドからは、大学の多様な留学生の受け入れへの取り組みや、物理分野における生徒、学生、教員等の女性の割合の経年変化とその取り組みについて発表されました。成績上位は女子が多く、下位で退学するのは男子が多いというデータが示され、また研究費ファンディングの女性比率については、応募(23%)より採択(20%)が少ないというデータを示し問題提起していました。さらには、女子の文理選択では親の影響が大きく、親が現実社会をよく知らないことが問題であると日本と同じ問題意識が示されました。

シンガポール主催者と

その他

2019年8月27, 28日に開催が決まった Gender Summit 16 (GS16) in Singapore を主催するVandana Ramachandran博士、Lakshmi Ramachandran博士(Institute of Medical Biology)と打合せを持ち、GS16への全面協力を約束しました。

参加・発表を終えて

  • 今回のジェンダーサミットのテーマは「United in Science and through Science」でしたが、「性差」を表す2つの用語「sex」と「gender」(自然科学-生物学的な性差と社会科学-社会・文化における性差など)に関して、あらゆる科学的研究や技術開発において、性差の存在を常に意識することの重要性と必要性が強調されたことが印象的でした。
  • 科学分野における女性研究者の参加の重要性が一定の共通認識を得つつある一方、エビデンスに基づくデータ収集をどのように行い、成果を可視化、評価していくのか検討していく必要性が今後の課題となると感じました。
  • 日本においても女性研究者の視点に基づく研究開発の促進は、新しい分野、新しいニーズの発掘、製品開発につながることを多くの方々に理解してもらうとともにJSTとしてもよりいっそう加速させるために戦略的に取り組む姿勢が必要と考えます。

YouTube GenderSummitチャンネル GS15の動画一覧はこちら(YoTubeへ移動します)