サイエンスアゴラ2016 開幕・閉幕セッション 開催報告

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    サイエンスアゴラNEXT

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開催概要

  • 日時:2016年11月6日(日)15:30~17:00
  • 会場:東京国際交流館 3階 国際交流会議場
  • 企画提供:科学技術振興機構

詳細


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登壇者

<サイエンスアゴラ2016の総括・パネル討論>
  • 渡辺美代子 科学技術振興機構(JST) 副理事/科学コミュニケーションセンター センター長
  • 小野芳朗 京都工芸繊維大学 副学長
  • 神尾陽子 国立精神・神経医療研究センター/精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部部長
  • アン・カンボン-トムセン フランス国立科学研究センター(CNRS)名誉研究局長
  • ジャブ・ヌケリ 南アフリカ科学技術振興庁(SAASTA)長官
  • ピーター・ティンデマンス ユーロサイエンス(EuroScience)事務局長
  • 津田博司 科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(RISTEX) 企画運営室 室長

<授賞式>
  • 安藤慶明 科学技術振興機構(JST)総括担当理事

概要

11回目を数える今年のサイエンスアゴラを締めくくる閉幕セッションでは、開催趣旨を振り返り、成果を総括するとともに、今後のアゴラが目指すビジョンや、今の科学技術が抱える課題について議論が交わされました。

内容

<サイエンスアゴラ2016の総括>
テーマに沿った対話で多様性を拡大したサイエンスアゴラ2016


閉幕セッションの冒頭、科学技術振興機構 副理事の渡辺氏より、今年のビジョン「つくろう科学とともにある社会」とテーマとの関係について説明がありました。このビジョンを基に、「科学によって社会がどう変わるのか」、また逆に「社会の要請を受けて科学はどう変わるのか」、そして両観点において「リスクとどう調和するのか」という3つの長期的な課題を意識し、「医・食・くらし」「教育・文化芸術・スポーツ」「震災復興5年」のテーマを掲げたといいます。特に、3つ目のテーマについては、東日本大震災から5年を経て「何を解決でき、何が解決できず課題として残ったのか」に注目したと振り返りました。実際には震災関連企画はブースを含め21件の対話が実施され、特に開幕セッションでは、福島と熊本の高校生らを交え、これからを生き、未来を作る若者の視点を中心に対話が繰り広げられたこと、また、今年はキーノートセッションを一般公募とし、登壇者に若者や外国の方を多く迎え入れ、企業参加数もほぼ倍増するなど、これまで以上に開かれた、多様性の拡大に成功した総会だったことが、渡辺氏より総括されました。


画像:講演者
渡辺美代子氏


<パネル討論「サイエンスアゴラ NEXT」>
求められる“当事者意識”と“個人を超えた仕組み作り”


パネル討論では、サイエンスアゴラ2017年度活動のためのビジョンの素案とテーマの素案(キーワード)を基に、「科学と社会」を巡る課題について討論が行われ、ファシリテーターは、「社会との協働が生む、社会のための知の実践」を行う科学技術振興機構 社会技術研究開発センターの津田氏(写真左)が務めました。


パネル討論風景
パネル討論風景


はじめに渡辺氏が、ビジョンの素案について、「一般市民から見ると、科学者は社会から少し分離された人物のように捉えられがちですが、本来、科学は社会の一部です。このビジョンはそれを踏まえ、科学がくらしと一緒になって未来を紡ぐイメージの共有を目指すものです」と説明しました。また、この観点から見た「科学と社会」を巡る課題の一例として、現在の科学研究は、学問の細分化やタコツボ化により、互いの専門領域が分かりづらくなっていること、現状においては専門領域の越境や研究推進のための社会的動機付けを得るのが困難であることを挙げ、「いかに各自が“当事者意識”を持って事の本質に迫った議論をできるか、また、責任と意思のある者同士が共に考え、行動につなげることを実現するにはどうすればよいかが重要」と、話題を提起しました。


渡辺氏発表資料より、ビジョン素案(左)とテーマ素案(キーワード)(右)
渡辺氏発表資料より、ビジョン素案(左)とテーマ素案(キーワード)(右)


これを受け、発達障害の子どもと家族への早期支援など、社会の中で求められる取り組みを行いながら研究を続ける児童精神科医の神尾氏は、発達障害に限らず、最近の社会問題は非常に複雑で多様な領域に関わると指摘。研究者同士はもちろんのこと、当事者や地域のメンバー、行政等からの意見や考え方を科学研究のプロセスに取り込み、解決策や社会実装までの合意形成を共に形作ることが重要であると説きました。「そのためには、人によって“well-being”のあり方が異なることを、科学者は謙虚に受け止めなければいけません。研究室の中で得られたBest(最良)が社会の中でのBestではありません。自分の研究が社会の役に立つことを願わない研究者はいないと思いますが、個人の研究者の動機付けに頼っていては、おそらく社会全体のwell-beingの追求はできないでしょう」と述べ、新しい研究者像として、研究者個々人が新たな資質として統合的思考を持ち、かつ、領域を越えて協働するための有機的な仕組み作りが必要であると語りました。

続いて、京都を拠点に、科学技術と建築やデザインを融合して社会変革に取り組む小野氏は、「細分化された学問を融合・統合して新しい学問を作ることは大変難しい」と切り出しました。そして自身が携わる京都市内の錦市場をリ・デザインする取り組みを紹介しながら、「専門性を持った人たちが、その都度の課題に応じて一つのプラットフォームに集まる“プロジェクト型”の進め方が良いと考えています」との見解を示しました。また、ある目的に対して現場に深く入り込み、エビデンスをもとに真の課題を見出すことが大切であり、その課題に最適な専門家を招集し、総力を挙げて課題解決にあたる手法が有効であると語り、「研究者として最も大事なことは、目的が達成されたと同時に立ち去るのではなく、対象となる地域社会とのつながりに継続的に目を配ることです」と指摘しました。


小野芳朗氏(左)と神尾陽子氏(右)
小野芳朗氏(左)と神尾陽子氏(右)


それぞれの視点の共通点から浮かび上がる“対話”の重要性


小野氏の錦市場の研究事例の中に、一般市民からのインプットを取り込む手法を見出し「とても興味深いアプローチ」と評したのは、フランス国立科学研究センターから来日したカンボン-トムセン氏でした。科学者は、自分の研究から一歩下がって一般市民の意見に耳を傾けることで多くを学べると述べました。そして、その際に、日本文化の特徴である「調和」「和」の考え方を盛り込むのもよいだろうと提案し、それを可能にするサイエンスアゴラという場の意義に触れました。また、科学者たちが勇気を持って分野をまたいで活動することの必要性を強調し、そのためには科学者にとってのwell-beingについても、今後しっかり考えていくことが大切だと語りました。

南アフリカから訪れた科学技術振興庁長官のヌケリ氏は、科学教育に長年携わった経験から、自分たちがどのような問題に直面しているのか、何が自分たちの日々の生活に影響を及ぼしているのかを考える上で、一般市民にも科学を理解してもらいたいと訴えました。「科学技術を一般市民に理解してもらうためには、社会と科学の双方向の対話が欠かせません。官民の連携に加え、先進国と途上国、都市部と農村部を橋渡しする役割を担うものが求められます」との視点を紹介し、そうした役割の一端を担うサイエンスアゴラのような場が、今後、アフリカでも開催されるよいと述べました。一方で、科学者の側も学問レベルに留まらず、社会のニーズを理解して社会的動機付けを持つことが重要であると説き、科学と社会に共通する意義ある成果に対して、より多くの投資が必要であると指摘しました。

4名から述べられた意見を受け、フロア参加者からもいくつかのコメントがありました。その一つに、「科学や社会を大きな塊として見てはいないだろうか」という指摘がありました。「実際は、科学の側にもテレビ番組になってエンターテインメントとして楽しまれる部分もあれば、学術的に貢献する部分もあるなど、多様な構成要素があります。それに対する社会側の受け止め方もさまざまで、ときには科学者の見方が受け入れられないこともあるでしょう。そうした個々の構成要素を見ていかなければ、科学と社会の問題は解決しないのではないでしょうか?」との発言がなされました。この発言を受け、神尾氏は、似非科学の問題を一つの事例として取り上げ、特に日本の場合は、メディアの情報が溢れ、正しい情報のプライオリティづけがなされていないと指摘。正しい科学の情報と似非科学の違いを伝えるメディアの役割がますます重要であると同時に、研究者の側にも、論文発表後の正しい科学情報の流通にまで注意を払う役割があるとの考えを示しました。

一方で、「一般市民は、科学者の見方を全て知る必要があるのか?」という問いかけもありました。これに対し、カンボン-トムセン氏は「難しい質問ですね」と考えつつ、「細かな研究の内容や手法まで理解してもらう必要はないでしょうが、私たちがエビデンスに基づいて研究をしているということだけは理解してほしい。また、研究活動をとても好きで行っていることも知ってもらいたいですね。そんな理解を通じて、私たち科学者が、何らかの形で一般市民の間に科学者に対する信頼感を育くむことができれば良いですし、もっと踏み込んで、私たちが見ているデータは美しく、データの解析も美しいことをいずれ理解してもらえたなら、もっと嬉しい」と答えました。


アン・カンボン-トムセン氏(左)とジャブ・ヌケリ氏(右)
アン・カンボン-トムセン氏(左)とジャブ・ヌケリ氏(右)


社会における科学の役割を対話の中で明確にしたい


最後に、ユーロサイエンス事務局長のティンデマンス氏が登壇し、このパネル討論を総括すると共に、今後のサイエンスアゴラについて、「科学の視点の重要性を社会に理解してもらうこと」「科学の役割を明確にすること」「場を活かすこと」の3点に着目したアドバイスを投げかけました。まず、科学の視点の重要性を理解してもらうために、「科学者は自分たちの研究やその成果を一方的に語るのではなく、いろいろな分野の科学者がそれぞれの視点を開示し、一般の人たちと話し合う場を持つことが重要です」と述べました。次に、「これまで社会における科学の役割が具体的に明示されず、一般論に終始していた」状況を振り返り、「例えば、遺伝子、エネルギー、水などの具体的な問題に、科学がどのような役割を担うのか、事例をもって明らかにしていく必要があります」と語りました。さらに、ヨーロッパ各国で行われている学生会議を紹介しながら、「さまざまな分野の代表団が集まり、ある特定の問題を解決に向けて討議する場を設けてはどうか」と提案。サイエンスアゴラという場をさらに活かしていくための可能性を示し、パネル討論を締めくくりました。


画像:講演者
ピーター・ティンデマンス氏


<サイエンスアゴラ各賞発表と来年の予定>


この後、サイエンスアゴラ2016への出展企画の中から各賞が選ばれました。機関独自の視点で選考する日本学生支援機構 東京国際交流館賞およびフジテレビ賞は各1企画に、継続的に多数のステークホルダーの参画を得る工夫をした模範的な活動に贈られるJST賞は6企画に決定し賞状が授与されました。
http://www.jst.go.jp/csc/scienceagora/reports/2016/prize/

JST賞(国立研究開発法人科学技術振興機構)
香川高等専門学校技術教育支援センター高松キャンパス、生物多様性保全協会、ふくしまサイエンスぷらっとフォームspff、南相馬サイエンスラボ、畿央大学 サイエンスコミュニケーションサークルKSCC、ミニ・エクスプロラトリアムを創る会

日本学生支援機構東京国際交流館賞(独立行政法人日本学生支援機構)
South African Agency for Science and Technology Advancement (SAASTA)

フジテレビ賞(株式会社フジテレビジョン)
畿央大学 サイエンスコミュニケーションサークル KSCC


受賞者と登壇者たち
受賞者と登壇者たち


最後に、来るサイエンスアゴラ2017は、11月24日~26日3日間で行う予定であるとが発表されました。例年同様お台場地区での開催に加え、福岡をはじめとした全国各地での開催を検討しているそうです。「サイエンスアゴラは私たちだけではできません。来年もまた、みなさんと一緒につくり上げていきたい」との司会の言葉で、サイエンスアゴラ2016は幕を下ろしました。


【ライターのひとこと】
大局的に捉える科学と社会の関係というのは、世界共通なのだと感じます。属性をまたいだ相互対話の重要性は従来も訴えられてきたところであり、多くの実践が試みられてきましたが、本セッションでは、「社会における科学の役割が曖昧だった」という気づきが共有されました。これまで私たちが積み重ねた経験が、一つ一つの課題に対する具体的な科学の役割を探り合っていくことで、今後さらに深まることに期待したいです。また、なかなか難しいことですが、科学と社会のあり方を見つめる立場として、私自身も“当事者意識を持って”、今後の動向に注意を払いたいと思います。


文責:橋本裕美子(科学コミュニケーター)

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