アゴラ2016 注目企画ほか 報告書

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  • いま世界が直面する持続可能な開発目標(SDGs)等の課題解決にイノベーションは何ができるか?

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English

開催概要

  • 日時:2016年11月3日(木・祝)10:15~12:00
  • 会場:日本科学未来館 7階 イノベーションホール
  • 企画提供:国立研究開発法人科学技術振興機構

詳細

登壇者

  • 濵口 道成[科学技術振興機構 理事長]
  • 大竹 暁 [内閣府経済社会総合研究所 総括政策研究官/JST研究開発戦略センター(CRDS)特任フェロー]
  • マッシミアーノ・ブッキ [トレント大学科学社会学科教授、Public Understanding of Science誌編集長]
  • ラッシュ・D・ホルト [米国科学振興協会(AAAS)CEO]
  • マイケル・エリス [南アフリカ共和国 科学技術振興庁 科学コミュニケーション部長]
  • デヴィッド・コープ [英国ケンブリッジ大学クレアホール フェロー/東京大学先端科学技術研究センター フェロー]
  • 有本 建男 [政策研究大学院大学(GRIPS)教授/JST 研究開発戦略センター(CRDS)上席フェロー]
  • ローサ・ポーラ・クエバス [国際稲研究所(IRRI、フィリピン共和国)穀類品質栄養センター 研究員]
  • ヌウォン・チョラクープ [国立金属・材料技術センター(MTEC、タイ王国)再生可能エネルギー研究所 所長]
  • 駒井 章治 [奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 准教授]

概要

貧困や飢餓の撲滅、気候変動への対処、資源の保全など、国際連合(以下、国連)が2015年に採択した2030年までに取り組むべき「持続可能な開発目標(SDGs)※1」は、17の目標と169のターゲットを掲げています。そしてその実現には、科学技術によるイノベーションの活用が不可欠です。本セッションでは、科学と政策に関わる米国・欧州・アフリカ・日本のパネリストと、アジアを中心とした若手研究者のコメンテーターを迎え、SDGsが掲げる課題解決のための科学技術を取り巻く現状の確認と、向かうべき方向性の議論がなされました。科学と社会の関係を、従来型から新たな形へと変革することの必要性が認識され、そのためにさまざまなステークホルダーを巻き込んだ対話の継続が重要であることが確認されました。また本セッションは、日本において、国内外からステークホルダーが集まる開かれた場でのSDGsの対話の第一歩であると位置づけられました。



※1 持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)。以下を参照のこと。
国際連合広報センターHP「持続可能な開発目標(SDGs)とは」
国際連合広報センターHP「持続可能な開発のための2030アジェンダ採択―持続可能な開発目標ファクトシート」
「Sustainable Development Goals website」

内容

はじめに、JSTの濵口理事長が開会の辞を述べました。2015年に国連で採択されたSDGs について、すでに世界でさまざまな動きが始まっていることに期待感を述べ、その上で、課題の多様さと大きさに対して「今私たちは何をすべきか?」という問いを投げました。17の目標が、互いに密接に関連することに言及し、個々の問題の解決に向けて、一方では一つの共通の課題として取り組む必要があると指摘し、「本セッションを通じて、われわれがSDGsにどう取り組むべきかを考えるきっかけになるとよい」と期待を語り、セッションが開幕しました。


濵口 道成 氏
濵口 道成 氏


SDGsとは何か?科学と社会にとってどんなチャンスなのか?

続いて座長の一人である大竹氏が、このセッションを開催するに至った背景を、SDGs が国連で採択されるまでの歴史を踏まえ説明しました。1999年のブダペスト会議で宣言された4つの科学の役割※2を取り上げ、SDGsが掲げる“持続可能な発展のため”の科学の役割を確認しました。さらに、2000年に国連が採択した「ミレニアム開発目標(MDGs)」※3から今回のSDGs への転換により、途上国だけでなく、全ての国、全ての人を対象とした開発目標に移ったことを強調しました。そして、今年6月のSTIフォーラム(Forum on Science, Technology and Innovation)をはじめ、世界では科学と社会を巻き込む対話がすでに多数開催されていることに言及し、本セッションもその一つであると述べました。


※2 ブダペスト宣言4つの柱/「知識のための科学:進歩のための知識」「平和のための科学」「開発のための科学」「社会における科学と社会のための科学」。以下を参照。
文部科学省HP「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」
※3 ミレニアム開発目標(MDGs)/以下を参照。
国連開発計画(UNDP)HP


本セッションの共同座長であり、イタリアのトレント大学科学社会学科教授、Public Understanding of Science誌編集長でもあるブッキ氏は、世界各国の人々に行った、科学に対するイメージの意識調査の結果を示しながら、SDGs 達成のための科学のあり方を問題提起しました。科学の役割とは何か?と問いかけ、技術的・実践的な問題解決だけが唯一の答えではないと明言した上で、イタリアで行った調査結果を報告。一般市民が科学に期待することとして、健康維持や技術的解決が上位に挙がる一方で、文化やエンターテインメントに対して役立つと答えた人が一定割合を占めていたと紹介し、「科学技術は、文化や教育にも貢献できる」と述べました。一方で、「科学を文化や教育で楽しみ役立たせるためには、これまでのやり方ではなく、その地域に合った形で行うことが重要である」と指摘しました。

座長の二人。左より、大竹 暁 氏、マッシミアーノ・ブッキ 氏
座長の二人。左より、大竹 暁 氏、マッシミアーノ・ブッキ 氏


“全ての人のための目標”達成に向けて何をすべきなのか?

次に、パネリスト4人の発表がありました。AAAS※4のCEOを務めるホルト氏は、まさにこのセッションの最中に行われていた大リーグ、ワールドシリーズの試合経過を会場に伝えるという変化球を発言の冒頭に取り入れ、その試合を見ている 99パーセントはSDGsについて聞いたことがないだろうと、一般市民の関心との間の大きなギャップを問題にしました。その責任の一端は科学者にあると指摘しつつ、一方で、「科学と社会の関係は変化している。全ての人を巻き込んで議論するべき時が来た」と述べました。さらにAAASの活動にも言及し、科学と社会を語る、開かれた討議の場が必要だと述べました。


※4 AAAS:American Association for the Advancement of Science 米国科学振興協会。米国最大の科学者団体で、科学者の情報共有、一般社会への発信、「Science」誌の発行、科学教育への貢献等を行う。
AAAS公式サイト


南アフリカで科学コミュニケーション活動を率いるエリス氏は、自国での事例を紹介しつつ、「科学技術イノベーションが社会に取り込まれていくプロセスでは政策者の介在が欠かせない」と、科学と政策の関わりに言及しました。その際に注目すべき点として、「温暖化問題などで、科学者が国際的な会議に参加する機会が増えているが、科学者に交渉のスキルが欠けている」ことと、「科学的知と社会的知の両者は、全ての人にとって必要である」ことの二つを指摘しました。その上で、21世紀の科学者像として、コミュニケーターとして社会と関わる人物像を挙げ、「従来型の科学者像からの転換が必要」と意見しました。また、「SDGsの実現は、地域や社会の特性に根ざした形で行うことで、効率良く短時間で達成できるのではないか」との考えを示し、「サイエンスアゴラや南アフリカで開催される科学フォーラムでも、方法論を継続して議論してもらいたい」と期待を示しました。

英国ケンブリッジ大学のフェローであり、元英国議会科学技術局事務局長のコープ氏は、英国国際開発省の英国連邦奨学金委員会メンバーとして500人以上の博士・修士課程の学生と研究者のための奨学金約40億円をどのように資金配分するかの役割を担っているが、その際に、提案された研究や調査がSDGs達成に向けてどれほど貢献するかを重要視していると語り、その視点で見た科学の立ち位置について述べました。17のSDGsの目標の中には、科学が直接関与しそうな分野とそうではなさそうな分野があることに触れながら、実際は全ての目標に多少の科学技術的な側面や科学技術のイニシアチブによって与えられるかもしれない影響が含まれることを強調。彼自身の専門はエネルギー問題や気候変動に関連するものの、『健康と福祉』(目標 3)が最も重要であろうとの考えを示しました。
また、「SDG sの目標の一つである『平和で包摂的な社会』(目標 16)は、科学から最も遠いと感じられるかもしれないが、科学はこの目標に貢献すべき。平和がなければ、他の目標も実現できないのだから」と述べ、最後にSDGsに対する意識 を科学界に浸透させていくためには、「ただ語るだけでなく、関心を引くことが必要」と主張しました。更に、科学技術研究に資金を供給する全ての政府や慈善財団機関は、資金の応募者に対して各目標促進のためにSDGsを分析し、可能な限り自らの研究提案と関連づけることを推奨すべきであると提案しました。
最終パネリストの有本氏は、SDGsは科学と政策の境界に位置するとして、政府、国連、学術組織、民間など多くのステークホルダーとの関連を整理し、「Transforming(変化)をキーワードに、多様なレベルでの変革が必要」と発言しました。SDGsを科学者の中で育んでいくという科学者側だけの変革でなく、日本の公害の例を挙げながら、規制改革や文化の変化など社会全体が変革される可能性に言及し、21世紀は、「Co-Design(共に研究計画を立て)、Co-Production(共に研究し)、Co-Delivery(共に応用・実装する)によって新しい価値観を創らなければならない」と述べました。

パネリストたち。左より、ラッシュ・D・ホルト 氏 、マイケル・エリス 氏、デヴィッド・コープ 氏、有本 建男 氏
パネリストたち。
左より、ラッシュ・D・ホルト 氏 、マイケル・エリス 氏、デヴィッド・コープ 氏、有本 建男 氏


ふだんの研究活動を基点とした若手研究者からのコメント

セッション中盤では、3人の若手研究者にマイクが渡りました。フィリピンで米穀の研究を行うクエバス氏は、食の科学、例えば生産率を高める方法は多様であり、かつ国や地域でお米の粘りや質感に対する好みが異なることを例に挙げ、SDGsを含めた科学技術・イノベーションによる課題解決の実現には、発展した技術が、当該技術の潜在的なユーザーである地域の人々に文化的に許容されるものであり、彼らのニーズに基づく必要性があると述べました。

駒井氏は、科学による問題解決では、論理的・合理的な話に終始しがちだが、SDGsの解決には、一般の人たちがどのように直面している課題なのかの認識を高め、その背後にある情緒的(emotional)、つまり、人の気持ちに働きかける活動も必要であるだろうと述べました。

チョラクープ氏は、タイで6年間行ったバイオ燃料に関する研究を振り返りつつ、社会の中に科学をどのように埋め込んでいくかという問題意識を持って科学コミュニケーションを行うことの重要性を挙げ、ブッキ氏の調査で10%に及ぶと発表された「科学は生活に関係ない」と答えた人の割合を、少しでも減らしていきたいと述べました。

左より、ローサ・ポーラ・クエバス 氏、駒井 章治 氏、ヌウォン・チョラクープ 氏
左より、ローサ・ポーラ・クエバス 氏、駒井 章治 氏、ヌウォン・チョラクープ 氏


後半の討論では、科学研究のあり方に変革を求める声も

全体討論では、科学研究の今後のあり方がさらに深く議論されました。ブッキ氏は、半世紀をさかのぼり、20世紀半ば以降、軍事や実践的問題解決を目的とした科学研究が行われ、その後、「Blue skies research」(実用目的に依らない研究)の時代になり、現在は社会のニーズに合わせた科学研究が求められている、として、SDGsは、研究自体が目的化している科学研究のありかたを変え、科学が社会に貢献する良い機会になると述べました。これに対してホルト氏は、今後も基礎研究を尊重すべきであると発言し、基礎研究から応用研究までを包含するルイ・パスツールの研究スタイル「Pasteur's quadrant」(パスツールの象限)を例に挙げ、基礎科学と応用科学を切り分けるのではない科学研究の可能性を示唆しました。

また、有本氏は、近代科学の制度は19世紀につくられたものであり、従来の「研究テーマ主導型の研究資金システムを変えていく必要がある」と語りました。さらに、国の変化に科学界が疎いのは、科学と政策のインターフェースが悪いためだとして、「民間企業を巻き込んだ包含的・包摂的な改革によって社会の個人に還元する発展を可能にしなければならない。また各地域にとって価値のある発展にするためには、地域ごとのアジェンダを掬い上げるプラットフォームとシステムをつくらねばならない」との考えを述べました。

SDGsが目指す「誰一人取り残さない世界を目指す」という観点にも議論が及びました。ブッキ氏が、「SDGsはグローバルな目標であるが、科学政策や科学と政治間の相関関係は国のレベルで決まってしまう」と現状を訴えたのに対し、エリス氏は、「南アフリカは歴史背景に基づく多様性のある社会であり、地域によって全く文化が異なる。そして、約2,500人の国民にアンケート調査した結果、15%が『バイオテクノロジー』という言葉さえ聞いたことがないという結果だった」として、「目標や方法については、国家レベルだけでなく、異なる地域の小さな単位に応じたさまざまなレベルの助言が必要」との見解を示しました。コープ氏は、SDGsが国レベルで推進される主な理由に中央政府と国家が受け持つ財団の予算が大きいことを挙げ、「次期国連総長には、SDGs達成に向けた数値目標を掲げ、各国の科学財団に向けて資金調達に取り組むべく働きかけてもらうことを期待したい」と発言しました。

全体討論風景
全体討論風景


SDGsのための対話を今後さらに深化させていくために

会場とのセッションでは、これまでの議論を受けた以下の三つの質問が引き立ちました。一つめの質問「科学と政策のインターフェースに民間を巻き込むことはできるのか?」が挙がるとチョラクープ氏は、タイでは、研究成果が、民間企業を巻き込んだ産業化につながらない課題があると話し、官民が協力するためのインセンティブ(動機付け)が必要であるとして近年タイ政府が力を入れ始めた科学が産業で活用される取組みを紹介しました。また、クエバス氏は、自らの研究拠点である国際稲研究所では、世界各地の米穀に対するニーズを分析し、それに即した工学や技術で対応していると紹介し、世界の多様な検討課題に応じた国際的プラットフォーム(対話と協力の基盤)を組織して機関が互いに協力すれば、目標に向けて設計できるのではないかと稲の科学のためのグローバル・パートナーシップ(GRiSP)の事例を挙げて提案しました。二つ目の質問は、全体討論で使われた“科学が社会に貢献する”というフレーズが取り上げられ、「社会という言葉に個人が隠れてしまっているのではないか」というものでした。これに対し、大竹氏は、SDG sでは、多様な利害関係者を同じ土俵に乗せて議論することには、まだ成功していないが、「今後も全ての人を巻き込んでいくことが重要」と答えました。さらに、「SDGsは、これに先立つミレニアム開発目標(MDGs)の評価の上で考えられているのか?」という質問が挙がりました。コープ氏は、MDGsについてはすでに多くの分析と評価が行われ、SDGsについても課題間のクラスター分析が行われていると説明。しかし、その分析に基づく判断から「より多くの人の命を救おう」とした場合、重視すべき研究対象は西洋でニーズが高いがん治療の研究なのか、あるいはマラリア対策や水問題解決のための研究なのか具体例を出し、評価が難しい課題があると言及しました。

最後にブッキ氏が、「SDGsの議論は、科学が社会に貢献できることに気づく良いチャンスであるが、それと同時に、社会にとっても、科学的な理解を通じて目標に向かって何をするかを捉える良いチャンスである。世界各地の社会構造に即しつつ共通課題や異なる解決策を見出すためには、各々が自ら考える必要がある」と述べ、これを受けて大竹氏は、「最近、“責任ある科学研究、責任あるイノベーション”と言われるが、SDGsは科学と社会のギャップを埋め、科学が社会の問題を解決する良い機会」と話し、「今回はその第一歩であり、諦めず、継続することが必要。次なる南アフリカ科学フォーラムでの、議論の深化を期待する」と述べ、セッションは終了しました。


【ライターのひとこと】
国連の掲げた SDGsに対する科学技術イノベーションの可能性についての議論を通じ、問題のあまりの大きさと、2030年という達成目標と現実との大きなギャップをまず実感しました。本セッションは、17の目標の個別の議論ではなく、社会と科学の関係に対する全体的なものでしたが、科学者、一般市民、政策立案者など、さまざまなステークホルダーの認識が、未だ古い価値観の上にあることが分かり、SDGs解決のためには多くの人が参加し、SDG 解決に向けて各々の専門性や価値観を共有し、変革していくことの必要性を強く感じました。このセッションの翌日、国連では「パリ協定」の発効が行われるなど、国際的な問題解決に対する意識の高まりを感じますが、一方で、全人類を巻き込む課題に対し、大多数の人々の意識が追いついていないことに改めて危機感を覚えるとともに、ハイレベルなものから草の根的なものまで、多くの活動と、多様な議論の場が必要だと感じました。


ライター名
大西 将徳(科学コミュニケーター)

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