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吉川弘之対談シリーズ

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吉川弘之対談シリーズ「科学コミュニケーションを考える」全8回
科学コミュニケーションとは何か。何を拠り所にして、誰に対して行っていけばよいのか。吉川弘之さん(科学技術振興機構特別顧問、東京大学元総長)が聞き役を務めた本対談シリーズでは、最前線で活躍する研究者・教育者8名が、現代の科学と社会を自らの視点で捉え、語りました。
(本対談は、2016年1月~12月に行われました)

※本対談シリーズは、2017年3月に書籍にまとまりました。
 書籍名:科学と社会の対話-研究最前線で活躍する8人と考える
 発行:丸善出版株式会社 ※3月下旬より全国の書店等で販売

※このホームページでは、当センター長がご案内する内容紹介文のみを掲載しています。

第7回
ゲスト:小林 傳司さん(大阪大学副学長)

対談内容のご紹介

 シリーズ7回目の対談は、科学コミュニケーションを専門とする小林傳司さんをゲストにお迎えし、科学コミュニケーションのこれまでの取り組みとこれからのあり方について語っていただきました。
 大学で科学哲学を研究した小林さんは90年代にロンドンで過ごし、遺伝子組み換え技術に対する市民の反発を目の当たりにし、科学と社会の新しい契約を結ぶための「コンセンサス会議」を体験されました。この会議は、60年代に米国で始まったテクノロジー・アセスメントという政策決定者に科学技術の社会的利点と功罪を事前に評価し伝えるやり方をもとに、社会で実際に影響を受ける市民が発言する機会をつくるべきという考えから1980年代後半にデンマークでつくられた制度でした。
 帰国後、小林さんは日本でも「コンセンサス会議」をつくれないか検討し、科学技術社会論学会を立ち上げました。20人程度の市民を集めて議論する方法で、遺伝子組み換えの研究等を取り上げ議論してみたところ、参加者からは好評で、その後の会議も常に感謝の声が多かったそうです。2005年には、さまざまな大学で科学と社会の対話を促すための取り組みが始まり、「科学コミュニケーション元年」と言われるようになりました。ただし、実際には専門家と素人である市民という単純な構図では語れず、また全てのプロセスに市民参加が必要というものではありません。専門家である科学者に任せたほうがよい部分は任せ、科学者だけで解決できない部分は双方で議論することが必要です。この二つの区切りをどこに置くのか、この分け方が問われることになります。
 次に問題になるのは、何か危険なことが発生した場合、だれがどこまで責任を持つべきかということです。モノやシステムをつくるときには全てのリスクを排除することはできず、ある程度のリスクを抱えながらつくることになりますが、実際に事故が起きたら被害者である市民が安心できるところまで科学者が責任を持つべきで、そこは割り切ってはいけないと吉川さんは力説します。お二人は、設計の段階から、このリスクの責任を科学者と市民が一緒に議論することこそ大事である、これこそが共和国の対話「トランス・サイエンス」と捉えます。
 トランス・サイエンスを実現するには、科学者が各専門分野を深堀りすると同時に、専門分野間を動き回る能力を「のりしろ」のような形で持つブローカーという役割の科学者が10~15%は必要とお二人は語ります。また、小林さんは、科学者が市民に語る際、市民が求めているのは正確な情報ではなく、科学者がなぜその研究に興味があるのか、なぜそんなことに熱心に取り組むのか、それを市民は知りたいのだということに科学者は気づくべきと語ります。
 異なる立場の対話は、科学者と市民に限らず、科学者と政治家、科学者とジャーナリスト等さまざまな関係において必要とされます。ここでお二人が重要になると注目するのは、合意形成はなかなか実現されないため、意見は一致しないけれど一緒に生きていくことに合意する、という「メタ合意」を成果とする考え方です。つまり、どちらにとっても不満は残るものの、ないと困る適当な状態を持つ合意のあり方です。
 本対談は、今、科学者に問われているのは何か、という問いを投げかけるものとなりました。

[渡辺 美代子]