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吉川弘之対談シリーズ

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吉川弘之対談シリーズ「科学コミュニケーションを考える」全8回
科学コミュニケーションとは何か。何を拠り所にして、誰に対して行っていけばよいのか。吉川弘之さん(科学技術振興機構特別顧問、東京大学元総長)が聞き役を務めた本対談シリーズでは、最前線で活躍する研究者・教育者8名が、現代の科学と社会を自らの視点で捉え、語りました。
(本対談は、2016年1月~12月に行われました)

※本対談シリーズは、2017年3月に書籍にまとまりました。
 書籍名:科学と社会の対話-研究最前線で活躍する8人と考える
 発行:丸善出版株式会社 ※3月下旬より全国の書店等で販売

※このホームページでは、当センター長がご案内する内容紹介文のみを掲載しています。

第6回
ゲスト:村山 斉さん(東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU) 機構長)

対談内容のご紹介

 第6回となる今回の対談は、今の日本の科学界で最も話が分かりやすいと言われている素粒子理論の物理学者、村山 斉さんをゲストにお迎えし、「科学を伝えること」の考え方を中心に吉川弘之さんと対談いただきました。科学の専門的な内容を専門家でない人たちに伝えるとはどういうことなのか、村山さんが実践している秘密を解き明かしていただきます。
 村山さんのお話を聞くと誰もがすっかり分かった気になると言われ、今の科学者が抱えるコミュニケーションの問題をいとも簡単に解決しているように思えます。村山さんが話をする動機は三つ。一つ目は税金を使って研究していることに対する社会へのお返し、二つ目は研究に必要な予算獲得のため、三つ目が最も単純かつ大事な理由で、「自分の研究に対する感動や楽しさを多くの人に知ってもらいたい」という気持ちだそうです。また、科学を専門としない人に説明する際には、「翻訳者になる」ことを心がけて話をしていると言います。専門の分野で使われる言語と一般の会話で使われる言語は異なるという認識のもと、全く同じ意味に直訳はできないけれど大方の意味は訳せるはずだと考え、例えば、南部陽一郎さんがノーベル賞を受賞された素粒子物理学の理論「自発的対称性の破れ」は、洗濯物を干す際にハンガーにかけた洗濯物が一方向に向く現象と同じであると村山さんは力説します。物理学はもともと日頃の身の回りの現象を解明する学問であり、身の回りの現象を物理語にして理解することができ、伝えたいという気持ちさえあれば逆もできるはずで、科学者が自分の研究の原点に戻れば翻訳ができないはずはないと考えます。
 科学にはさまざまな分野がありますが、村山さんは、素粒子物理学は単純で、それゆえ三つの条件が揃った段階にあるために解明が進んでいると語ります。その三つとは、理論の発展、技術の発達と共に進んだ実験装置、そして膨大なデータを解析するコンピュータの能力であり、生命科学などのような複雑な系を扱う他の学問は、まだこの三つが揃っていない段階にあると考えます。
 科学研究には新しいアイデアが必須ですが、村山さんは誰かと話をしているときにアイデアが出るそうで、コミュニケーションが新しい発想を刺激すると捉えています。また、科学の本質は答にあるのではなく、疑問を持ち、その疑問を解くためにどうすれば良いかを考え、試行錯誤し、多数の失敗をしながらたまに成功する「そのプロセス」にあると強調します。教育では、決められた知識を教えるための教科書を中心に据えるよりも、むしろ「そのプロセス」を教えることこそが重要であり、その過程では、教師の側も「答えられない経験」をすることが大切であると語ります。自分の知識には限界があり、その中で判断せざるをえない環境で子供を育てていることを自覚する必要性を訴えます。科学教育のあり方にも話が及ぶ対談となりました。

[渡辺 美代子]