平成22年度研究代表者

池田 宰 ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合による革新的な水処理微生物制御技術の開発
伊藤 禎彦 都市地下帯水層を利用した高度リスク管理型水再利用システムの構築
小松 登志子 地圏熱エネルギー利用を考慮した地下水管理手法の開発
澁澤 栄 超節水精密農業技術の開発
嶋田 純 地域水循環機構を踏まえた地下水持続利用システムの構築
三宅 亮 モデルベースによる水循環系スマート水質モニタリング網構築技術の開発

ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合による革新的な水処理微生物制御技術の開発

池田 宰

研究代表者

池田 宰
(宇都宮大学 理事・副学長)

共同研究者

加藤 紀弘
(宇都宮大学 大学院工学研究科 教授)
野村 暢彦
(筑波大学 生命環境系 教授)

 水をきれいにする浄化技術は、持続可能な水利用において非常に重要です。下水、廃水などの浄化方法としては、微生物の集合体である活性汚泥を用いる水処理技術が主に用いられています。活性汚泥を用いる方法は完成度の高い技術ですが、環境負荷、省エネルギー、省資源などの観点からは、まだ改良できる余地があると考えられます。一方、種々の膜を利用した水処理技術においては、バイオファウリングと呼ばれる微生物による目詰まりが大きな課題の一つとなっていますが、その対策として、微生物が膜上に形成するバイオフィルムを制御する技術開発が求められています。

 環境中の微生物は、自らが生産し分泌するシグナル物質を用いてお互いの認識応答を行ない、コミュニケーションをとりながら集団で生存しています。活性汚泥中やバイオフィルムにおいても、この微生物間コミュニケーションが微生物の活動に重要な役割を担っています。そこで、本研究課題では、微生物間のコミュニケーションを制御する手法、微生物の集団を制御する新しい技術を用いて、革新的な水処理技術の開発を目指します。

 本研究課題の研究グループは、これまでに、遺伝子工学、分子生物学、生物工学、応用化学、合成化学など、様々な手法を用いた微生物コミュニケーションに関わる世界最先端の研究基盤技術を有しています。これらを基に、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合による、微生物コミュニケーションをターゲットとした、新たな微生物制御技術を開発し、水処理技術に重要な活性汚泥の効率化や膜表面に形成されるバイオフィルム制御など、革新的な水処理技術の開発を進めます。

ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合による革新的な水処理微生物制御技術の開発

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都市地下帯水層を利用した高度リスク管理型水再利用システムの構築

伊藤 禎彦

研究代表者

伊藤 禎彦
(京都大学 大学院工学研究科 教授)

共同研究者

浅見 真理
(国立保健医療科学院 生活環境研究部水管理研究分野 上席主任研究官)
大河内 由美子
(麻布大学 生命・環境科学部環境科学科 准教授)

 気候変動の進展により降雨量の時間的変動の増大やそれに伴う水質変動が予想され,良質な水道原水の確保が困難になると予想されています。この問題の解決策の一つとして下水処理水の再生利用があり,極端な乾燥・水資源枯渇地域ではすでに一部水の再利用が行われています。しかし,これらの方法は高コストおよび高エネルギー消費,リスク管理手法の未整備という大きな問題を抱えています。下水処理水の再利用にあたっては人為由来の汚染物質・病原微生物を含むため逆浸透処理等の極端な方法が採られますが,これは,下水処理水の再利用に関して定量的なリスク評価に基づいたシステム設計・管理が行われていないために,人為由来の汚染物質・病原微生物のリスクが必要以上に問題視され,過剰な処理が行われる傾向にあるためです。

 このような問題点を踏まえ,本研究では,最低限の水質変換を施した上で,できる限り自然の力に委ねる都市内水循環システムを構築し,そのリスク評価・管理を高度化するという手法の確立を目指します。具体的には,下水処理水を地下に浸透させ,地下環境中で微生物の働きを利用して有機物・病原微生物を効率的に除去しつつ地下水涵養を行い,必要に応じて水道水源として利用するというものです。この一連の流れを,定量的微生物リスク評価(QMRA)と質量分析手法による微量汚染物質の高感度モニタリングに基づいて管理します。研究計画としては,地下浸透処理の処理条件・処理性・リスクの評価に関する課題についてパイロットスケールの実験に基づき,定量的な解答を与えた上で,移行シナリオについては地下水文や法制度の専門家へのヒアリングも踏まえ,この地下浸透処理の成立要件を整理し,実効性の高い実装シナリオをモデル計算により提案します。具体的な検討課題は以下の4点です。

(1) 処理水質と地圏環境の保全の観点から地下浸透処理の受入可能水質の基準を示すこと

(2) 溶存有機物,病原微生物,微量汚染物質の地下での除去・質変換過程を明らかにすること

(3) 地下浸透処理における気候変動にともなう負荷変動の影響評価

(4) 地下浸透処理を組み入れた水循環システムの持続可能性の評価

 本研究は,これまで日本やアジア各国では有効に利用されてこなかった都市地下帯水層を下水処理水の再生・貯留システムとして積極的に利用するものです。このシステムの可能性とその成立要件を示すことで,我が国やアジア地域における都市地下帯水層の有効かつ合理的な利用が促進されると期待されます。

都市地下帯水層を利用した高度リスク管理型水再利用システムの構築

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地圏熱エネルギー利用を考慮した地下水管理手法の開発

小松 登志子

研究代表者

小松 登志子
(埼玉大学 大学院理工学研究科 教授)

共同研究者

大西 純一
(埼玉大学 大学院理工学研究科 教授)
竹村 貴人
(日本大学 文理学部地球システム科学科 准教授)
斎藤 広隆
(東京農工大学 大学院農学研究院 准教授)

 温暖化は地球規模の環境問題の一つであるが,地下環境で温暖化(温度上昇)が起こるとどうなるのだろうか.あるいは逆に冷却化(温度低下)が起こるとどうなるのだろうか.

 地下水は貴重な水資源であり,地下水を保全することは,私たちが豊かな水資源を持続的に維持する上で必要不可欠である.地下水は水資源としてのみではなく熱資源としても利用されている.例えば近年,大気中のCO2削減や都市ヒートアイランド対策として,地下水の熱を有効活用して建物の冷暖房に用いるシステム(地中熱利用のヒートポンプシステム)の実用化が急速に進んでいる.

 これらの冷暖房システムは,大気と熱交換する従来の空気熱源の空調機と異なり,地下水を採熱・放熱の場として利用するものである.そのため,夏の冷房時には地中の温度上昇,冬の暖房時には温度低下が起こることが予想され,このようなシステムの普及が進むと地下環境の定常的な温度変化(熱汚染)が起こる可能性がある.

 地下における温度変化は微生物活動や,重金属類などの有害化学物質の地下水への溶解などに大きく影響を及ぼし,土壌・地下水汚染や微生物生態系のかく乱をひき起こす可能性も考えられる.しかしながら温度変化が地下環境に与える影響についてはこれまで明らかにされていない.したがって本研究では,局所的な熱負荷が地下環境における微生物活動や物質・熱循環および地盤力学特性に及ぼす影響を明らかにし,熱的かく乱による環境影響を評価するためのアセスメントツールを構築する.それに基づいて,温度変化が地下環境に与える影響を最小限にするための持続的で高度な地下水利用・管理手法の開発を行う.

地圏熱エネルギー利用を考慮した地下水管理手法の開発

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超節水精密農業技術の開発

澁澤 栄

研究代表者

澁澤 栄
(東京農工大学 大学院農学研究院 教授)

共同研究者

藤田 豊久
(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
杉本 恒美
(桐蔭横浜大学 工学部 教授)

 乾燥地で利用可能な高効率水利用の植物工場システムの設計をめざします。そのための技術要素は、①作物吸水ニーズに基づく水利用効率を最大化する灌水技術、②植物工場稼働のための省エネルギー水利用システム、③雨水・地下水・使用水を浄化・再生処理し貯留する高効率水管理システム技術であります。

 作物吸水ニーズに対応した灌水技術では,作物吸水量のリアルタイム計測技術と作物生理状態のリアルタイム観察技術および音波による浅層土壌水分の探査技術を開発します。省エネルギー水利用システムでは,最適給配水制御システムと省エネルギー施設空調システム技術および環境調節の最適制御技術を開発します。そして,高効率水管理システム技術では,作物吸水ニーズ対応型灌水制御システムと水の再生・循環利用のための浄化技術および精密農業による節水栽培管理システムを開発します。

 希薄な水資源を集水・貯留・循環利用する超節水精密農業技術の応用現場は、乾燥地を初めとしてたびたび干ばつに見舞われる地域であります。さらには、乾燥地と類似した微気象環境をもつ近郊農業の施設園芸における節水計測システムや超節水灌水制御技術として期待されます。

超節水精密農業技術の開発

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地域水循環機構を踏まえた地下水持続利用システムの構築

嶋田 純

研究代表者

嶋田 純
(熊本大学 大学院自然科学研究科 教授)

共同研究者

小池 克明
(京都大学 大学院工学研究科 教授)
河原 正泰
(熊本大学 大学院自然科学研究科 教授)
北野 健
(熊本大学 大学院自然科学研究科 准教授)

 地球温暖化に伴う降水量変動の増大や急速な人口増加によって,地球規模で水資源は不足している.豪雨や干ばつなどによって地表水の流量は大きく変化するが、地下水は貯留量が大きく滞留時間が長いため,相対的に安定した水資源として注目されている.我が国は温帯湿潤気候に属して降水量が多く,山が海に近くて流域の起伏が大きいため,流域に降る雨が海まで流出する時間が早く,水循環は極めて活発である.これまでは相対的に容易に取水できる地表水がよく利用されていたが,最近では供給が安定している地下水資源の利用に関心がでてきている.我が国のような水文気候条件下では,地下水の利用量が涵養量を超えないように適切に管理すれば,地下水の持続的な利用は可能である.

 本研究では,この地下水資源の持続的利用に必要な技術として水量と水質両面からの研究開発を展開する.水量把握に関しては,地下水の帯水層構造を把握するための周波数変換方式の電気探査の開発や,地下水の年齢を推定するための若い年代トレーサーなどの新しい技術開発を行う.日本を始めとして世界各地の地下水は農業用肥料の過剰施肥や畜産廃棄物に起因する硝酸性窒素汚染,一般廃棄物や産業廃棄物処分場等からの有害物質の流出など、問題が山積している。そこで,地下水汚染の発生機構とその変動プロセスを調査して,地下水汚染を防いだり,汚染された地下水の水質を改善したりする必要がある.そのため,硝酸性窒素や自然由来の有害物質などを汚染源で水質負荷を軽減する技術や,帯水層中で汚染物質を除去する技術、揚水後に水質を改善する簡便で実用的な浄化装置などの開発を行う.さらに,地下水を利用している人々にも水質汚染の実態が一目で分かるように,特定物質の水質が悪化すると赤色に変わるメダカなど,新しい生物モニタリング手法の開発を行う.

 このようにして本研究を通して水量と水質の両面から,地下水を持続的に利用できるような管理システムの開発を目指す.研究の展開方法としては,まず地下水利用の先進地域である熊本地域を対象として開発手法の適応による地下水賦存状況の実態把握と地下水3次元モデルを構築して,地下水流動や水質汚染機構などを再現する.そのモデルを使って地下水を持続的に利用するための揚水量の推定や,水質汚染軽減のシミュレーションなどを行い,持続的な地下水管理システムを構築する.その後,硝酸性窒素汚染と温暖化に伴う海面上昇など,地下水環境問題に逼迫している亜熱帯の島嶼地域を対象として,本課題で提案した様々な地下水の調査・開発手法や方法論の汎用化を目指した適用をすることで,地域に応じた持続的地下水資源利用策の提言を試みる.

地域水循環を踏まえた地下水量・水質の持続的利用システム構築

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モデルベースによる水循環系スマート水質モニタリング網構築技術の開発

三宅 亮

研究代表者

三宅 亮
(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

共同研究者

津留 英一
(株式会社日立製作所 インフラシステム社 土浦事業所電機・制御技術本部 主任技師)
横山 新
(広島大学 ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 教授)
村上 裕二
(豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系 准教授)

 水に対するニーズは、途上国では安心・安全な水の安定した供給、一方先進国では水道施設の老朽化に伴う漏水、突発的な災害対応、またおいしい水への高い関心、あるいは郊外・農村部では地下水汚染への懸念とその対応など、国・地域によって多様化しつつあります。持続可能な水利用のためには、地域ニーズ・特色に合わせた水質の確保や無駄のない水の利用、例えば近隣地域間の水の相互融通利用や、井戸水など水資源の有効活用など、地域に密着したきめ細かい水利用技術が望まれています。そのためには、水圏、上下水など水循環系全般にわたり、IT技術と連動させて地域ニーズ・特色に合わせた水質(塩素濃度や細菌数、窒素化合物など)をきめ細かくモニタリング・管理する水循環系におけるスマート水質モニタリング網が極めて有効です。水循環系スマート水質モニタリング網実現の要となるのは、屋外環境で多点に設置でき、用途・サイトに応じた適切な水質情報を無人で取得するためのコンパクトな水質モニタです。さらに地域ニーズ・特色に合わせたスマート水質モニタリング網をテーラーメードで構築するためには、多様な測定項目ニーズに合わせた多様な水質モニタのメニューと、かつそれをどのように配置し、どの程度の頻度で計測するかなどと言ったきめ細かい運用ノウハウをセットで迅速に提供する必要があります。

 近年、ラボ機に匹敵する分析性能をコンパクトに実現する技術として、マイクロ化学分析システム(Micro-TAS)が注目されています。自動分析装置やクロマトグラフィ装置などを構成する流体要素を、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて小型化(マイクロ流体要素)した後、再びシステム統合することでコンパクトな分析機を実現する技術です。また、ここ数年、主として自動車開発などにおいて、利便性の高い開発環境としてモデルベースによる開発手法が普及しつつあります。コンピュータ上で、要素毎に物理モデルを作成し、それらをブロック化、物理量の入出力端子を他の要素と連結することで、機械全体を電気回路モデルのように仮想モデルとして再現でき、試作レスで、過渡状態を含めた動作シミュレーションが可能となります。本研究では、このモデルベース手法を用いて、ミクロ(MEMS技術による水質モニタ内マイクロ流体システムレベル)からマクロ(多点設置された水質モニタから成るインテリジェントなモニタリング網)に至る系をモデル化し、それを用いてスマート水質モニタリング網を迅速に評価・設計・提示することのできる開発環境を世界に先駆けて構築することを目指します。

 具体的には、まず水質モニタを構成する様々な流体要素のモデル化を行います。比較的単純な構造のマイクロ流体要素に関しては物理モデルを組み合わせて作成しますが、複雑な構造を持つマイクロ流体要素については、仮想モデルと実要素デバイスを繋ぐHILS(Hardware In the Loop Simulator)技術を応用して実験データから要素モデルを作成します。次にこれら要素モデルを組み合わせたマイクロ流体システムモデルに分析機能、制御、信号処理機能等の要素モデルを付加した、水質モニタレベルのモデルベース型開発環境を構築します。最後にそれを用いて水質モニタを仮想的に動作確認し、設計・試作に移行します。この一連のモニタ設計・試作の流れを通して、モデルベース型開発環境による開発効率(設計・試作期間の効率化、設計性能等)の向上度合いを評価します。また、更に上位階層である多点に水質モニタを配置したモニタリング網の仮想モデルを作成します。このモニタリング網対応モデルの一部を試作した水質モニタに置換し、実フィールドにて実環境変動下での水質モニタの動作安定性の評価を行い、多点モニタリングの条件(設置台数、測定頻度等)の探索を行います。

モデルベースによる水循環系スマート水質モニタリング網構築技術の開発

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