8. 「目の色」


 目に関する成句は数多い。
目の色が違うといって日本の研究開発力の衰えを心配する声がよく聞えてくる。熱意が目つきを変えることは確かで対人判断の決め手にされることも多い。それは、目は口ほどに物を言うからであろう。


国際会議で日本の発表が減っている。特許庁の特許出願動向調査で日本は中国に抜かれたのではと(ポストゲノム分野で)の記事も気になる。サムソンの高収益と対照的に日本の大手電機メーカーはリストラで大変だ。日本経済新聞が企業再生の切り口で識者にインタビューをしている記事が目に留まった。
ジム・コリンズ氏(米、経営学者でビジヨナリーカンパニーの著者)は現実直視・高い理念・誇り、自負・優先事項などのキーワードを優れた会社の共通項として重視している。言葉としてこれらが欠落した会社は無い。しかし実績には大きな差が生じている。実践レベルの違いが大きいということなのだろう。なぜ格差が起こるのか。なぜ坂道を転げるように、目も当てられない状態になったのだろうか。現実を直視してるつもりでも本質に対して目を覆う。理念をわかりやすい目標に落とし込めずに、優先事項の整理もできず、目の回る日々。


企業の研究開発に30年を超えて携わってきた間に、何をやってもうまくいくような時代もあったし、厳しくてもなんとかなるやろと言ってるうちに回復することも経験した。しかしある時からこのままいくとまずいと漠然と思い、仲間に備えることの重要性を訴え、実践するように努めてきた。
備えるには目利きがいるとか、上の理解が無いと目玉にできるような開発は出来ないとか議論を重ねながらやってきた。そのころ漠然と風土と民族性の絡みが備えることを苦手にしているのかもしれないなあと思うようになった。農耕民族的な資質は、自然との共生や、協調して進めることには適合性が極めてよいのに比して、この裏返しで競争原理の働く世界に対する割り切りのよさに欠ける。将来のリスクに備えることは狩猟民族的資質のほうであろう。

欧米が線路を敷いて、日本がその上を超過密ダイヤで貨物列車を走らせた。そうこうするうちにアセアンから安い量産品を積んだ貨物列車が割り込んできて日本は劣勢にたたされていった。どこに獲物がいるかは自分で探せといわれ日本は慌てた。

今成長を続ける中国は安くモノを作る武器を持っている。日本はノウハウで空洞化を防ごうと必死である。特許料のハンデイ問題などはあっても、日本の轍を踏まないように備えている。シリコンバレーに行っても中国パワーには目を見張る。歴史を学ぶことが日本では中国に比べて手薄なことが将来のリスクに備える考え方を実例で学ぶ機会を少なくしてるのかもしれないが決定的なことは人口が圧倒的に多く比例的に優れた資質を持った人も多いということだろう。

絶対数で負けているのに目の色で負けてしまったのでは、バイオや、ナノテクノロジーなどのグローバルフロンテイアで勝ち続けるのはむずかしい。
狩猟民族のDNAに置き換えられる時代が来るのかもしれないが、そのときには勝負がついてしまう。

国のレベルで備えるということは国のレベルで戦略をクリアにすることであるが、根本の農耕民族の風土のなかで競争心を強めることはこまかな目配りのいることだとの認識を持って処したいものである。


                                                篠原 紘一 (2002.8.2)

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