67. 梶村語録(1)

 平成13年の12月から6つのナノサイエンス、ナノテクノロジー関連の研究プロジェクトが実質始まって、中間時点の評価を昨年の12月に終えた。評価結果は科学技術振興機構のホームページで、桜の咲くころには公開される。
平成14年、15年にもプロジェクトがスタートし、現在は11のチーム型研究が進んでいる。11のチームはバーチャルの研究所に属したようになっていて、所長に当たる研究総括が(財)機械振興協会の副会長であり、協会の技術研究所長をかねておられる梶村皓二博士である。

梶村さんのプロフィルを知る最新の情報源は、文部科学省、ナノテクノロジー総合支援センターが発行している Japan Nanonet Bulletin 80号の、ナノネットインタビューである。[このメールマガジンは、ナノテクノロジーに興味を持つ人には大変有用な情報源である。知らなかったという人がいれば是非配信を申し込まれたらいい(http://www.nanonet.go.jp ) ]。

さて梶村語録として、最初に紹介するのは「優秀な官僚の頭脳のすごさは並列処理できるということ。でも研究者の頭脳ではない。データも一流、考え方もたいしたもんだが、“とんでもない発想”は出てこない」である。この言葉に限らず、すべての言葉は文脈の中でこそ意味を持つのであって、ある話の中で筆者の印象に残ったことであるものの、これだけでは残念ながらインパクトは伝えきれない。

幸い、この言葉が持っているインパクトは、ナノネットインタビュー(をすぐ読んでください)を読んでもらえば届く。梶村さんが自らを「不思議な研究者人生」と振り返っているキャリアからの発露としての語録であって、そこには極めて多くのこと、思いが凝集されていることに気がついてもらえるだろう。
この言葉から、研究者、技術者は触発されるであろうがその受け止め方はいろいろあっていいが、発想がどこかで萎縮していないかは折りにふれて振り返って欲しいものである。

人生はおおまかにいえば、「経験効果」と「期待効果」の二つの軸で捕らえるのが一般的であろう。この語録に近い経験をしたか部分的には経験したといえる人は、経験効果によって共感する(まれには反発する場合もあるかも)であろうし、まったく知らない世界であれば、「期待効果」から、たとえば、工業技術院から独立行政法人として生まれ変わった産業技術総合研究所の社会貢献を心待ちにするようになっているかもしれない。
産総研を仕掛けた梶村さんは、ナノネットインタビューをこう締めくくった。「研究も行政も言うべきことは言ってきました。やがて下される歴史の評価も甘んじて受けますよ。」と。
この潔さは、科学技術研究機構の研究総括として、11チームの研究者にとって得がたい刺激だと思う。ナノテクノロジーの明日を見据えた研究マネジメント(その2)を楽しみにする人がきっと増えたに違いない。



                              篠原 紘一(2005.2.10)

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