4. 「 DCT」

 DCTはIT関連の用語として、画像圧縮の議論などに使われる信号の符号化での直交変換法のひとつでDiscrete Cosine Transform(離散余弦変換)として知られている。民間企業でハードディスクの関連でのプロジェクトチームを構成したときに、関係者にピンと来る簡便な親しみやすい呼び名はないものかと、あれこれ考えてDCTプロジェクトとしたがこれはIT用語のそれではない。

おもての説明は、いくつかあるディジタル・コア・テクノロジー(D.C.T)の一つとしてハード・ディスクを開発するという、おとなしいものとしたが、チーム内にはドリカム(吉田美和のボーカルで人気のグループ)(Dreams Come True)プロジェクトなのだと訴え瞬く間に浸透した。

社内の世論では光記録に重点投資してる時期になんで今更磁気記録なのかの逆風の中でのプロジェクトで、バックに米国のハード・ディスクメーカー(といっても、開発、設計、販売を生業としていた)と組んだグループ内の会社の強い要請があったとはいえ、チームを世界相手に戦っていける目標に結束させる上で、DCTで行きたいとチームのリーダーに御願いした。一人一人の夢が叶うことがこのプロジェクトの成功につながるようにしたいと。

磁気ヘッドの開発では、トップダウン加工によるナノテクノロジーの構築の困難殿の高さを痛いほど味わうことになった。年間億の単位の数量の、部品、デバイスを生産供給を支える開発スピードが求められ、その速度は有名なムーアの経験則を超える熾烈な世界であった。一面で半導体を超える速度の性能向上が求められる業界は、ビジネス条件も急変が続き、開発と事業化のリンクは決して容易ではなかった。この指とまれで集まってくれたプロジェクトメンバーの一人一人の夢は、業界で注目される成果を生み出してきた。

初の2カ国共催のFIFA2002ワールドカップは、王国ブラジルの5回目の優勝で幕を閉じた。敗れたドイツは4年後の開催国優勝を狙って、もう動き始めているだろう。国内はほとんど盛り上がらなかったというアメリカも2010年の開催国優勝に、お国柄戦略的に進めていくであろう。時差が無かったことでにわかサッカーファンとして楽しませてもらった。さしものカーンも襲いかかるブラジルの3R(ロナウド、リバウド、ロナウジーニョ)の攻撃を防ぎきれなかった。印象的だったのはピッチにたった一流のプレーヤーは、審判の判定も、組み合わせのあやも、青一色、赤一色のスタンドも、それを含めたすべてがワールドカップだと認識しているのに、外にいる側がいろいろ物語を当てはめて騒いでいたことだった。閉会式では折り鶴が舞い上がり、舞い降りた。夢の翼と名づけられた折り鶴をみながら、多くの人がそれぞれの夢に思いを馳せたことだろう。夢を大事にしたい。夢は挑戦のエンジンだから。

あそこであーすれば、日韓が3位決定戦で、会いまみえることが出来たかも、などなど日常会話の大半がワールドカップに集中した6月は多くの新鮮な驚きやメッセージを残して駆け抜けていった。さあ、また今日からナノテクだ。 

                                                  篠原 紘一 (2002.7.5)

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