34. 阪神優勝

 大阪の道頓堀の清掃が行われると、18年ぶりの阪神優勝で川へ飛び込むファンのためのサービスか(?)といわれたり、関西が元気になることが期待されるのはもちろんのこと、経済効果は全国規模におよび6355億円と見込まれるとの予測が大手銀行の研究所から発表されたり、星野監督に経営陣は見習えとの檄が飛んだり、恒例の夏の高校野球で、ホームグラウンドの阪神甲子園球場を離れる、例年死のロードとささやかれてきたロードも今年は絶好調とは行かなかったが乗り切った。
経済効果の出発点は阪神の熱烈なファンの祝杯だとのこと、結構なことある。それでも強すぎてぶっちぎりの独走になると、経済効果は下方に修正が必要になるとの懸念もあるそうである。

経済効果の中には阪神グッヅも当然増産でみこまれているであろうが、なんと「阪神優勝」の商標が個人の登録になっていて、グッヅ増販を当て込んだ球団があわてたとの記事が目に付いた。
特許や著作権などのニュースに比べると商標の件がニュースで目に留まることはほとんど無く、他にはソニーがプレステのゲームソフトに「衝撃と畏怖」(Shock and Awe)の商標登録したことが、イラク戦争の作戦名で不適切であったとして、取り下げたといった記事が目に付いたくらいである。

 
商標も特許や、意匠(デザイン)、著作物同様に知的な創造物として権利保護対象になっている。「阪神優勝」が知的な創造物かなあという気はするが、球団が商標登録した個人と実施許諾で話がついたということであり、グッヅの商売関係者はほっとしたところだろう。

特許と商標は違うが特許的に考えたら「阪神優勝は当業者が容易に考えることが出来ないこと」ともとれるわけで、ファンにとっては複雑な心境であろう。
いずれにしても、経済効果に期待が強まるのは、市場が冷えたままの状況がいまだに続いていて、回復の兆しもはっきりと実感できないからやむをえないことであろう。製造業の復権が重要なのはその通りであるが、そのコアになるのは「新たなる知の創造」であるし、その成果物の代表が「発明」であることには異論が無い。国も戦略的に知的財産を強化する方向に具体的に動き始めプロパテント政策を強めるアメリカとナノテクノロジーでも激烈な競争が展開されよう。


「発明」は権利として保護される範囲はもはや固定的には考えるとやけどをする時代に入っているし、発明そのものがビジネスになる時代に入っているとの認識を、市場から距離のある基礎研究に従事する研究者といえども、持ったほうがよい。
発明に関しては、いろんな視点での議論がなされるべきであるが、ここでは発明の対価について
少し考えてみたい。発明の対価はどのように考えたら実態に沿うのだろうか?個人が会社を相手取っての裁判の例もまだ少ないものの、明らかに、最近は増えてきている。

発明の対価についての議論の中で、マスコミにおいて対極に置かれている著名人は、青色ダイオードの発明者、中村修二カリフォルニア大学教授と昨年のノーベル化学賞受賞者、島津製作所のフェロー田中耕一氏であろう。両氏とも、技術者、研究者はもっと報われてもいいとの価値観を持っている点では共通しているが、その表現や、訴求の仕方で対極に写っている。この件で多くの情報を持っているわけでは無いが、筆者の経験も踏まえて言えるのは大多数の技術者、研究者は両氏の中間に位置しているのがこれまでであったといって間違いで無かろう。

発明の対価が定量的な算出式に落としこめるかといえば、事業や、経営の構造との関連で簡単ではなさそうであるし、現に、企業でも対価の考え方は今でもばらついている。これまでよりは多くすべきだとの方向性で一致しているにとどまっている状況である。せっかくの議論であるから、発明の対価についての議論は、技術者、研究者が嬉々として課題に立ち向かうモチベーションとなる要件はいったい何かといった議論に帰着するのが素直な気がする。要するにお金に換算しても透明性が保たれる部分と、お金ではなくて満たされるものも重要な要素であるとの部分に整理されよう。


「うまくいったときだけ成功報酬を、要求する」姿勢になると、「何もしないか、努力しても他との競争に負けて会社が損失をこうむったら損失の一部は従業員が負担すべきでは」といった考えが出てきそうである。そうなっていくと泥試合である。判例が積み重なっていって、共通のガイドラインが出来上がってくる前に、さわやかに決着する話で無いのは確かなようである。


                                               篠原 紘一(2003.8.22)
                                                   
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