19.プロジェクトX


 中島みゆきの作詞、作曲からなる「地上の星」で始まる45分ほどに凝縮された挑戦のドラマは「ヘッドライト・テールライト」のエンディング曲が、心にしみわたるような共感を残して一つの区切りとなる。NHKのプロジェクトXのホームページをみると、「プロジェクトX」は、熱い情熱を抱き、使命感に燃えて、戦後の画期的な事業を実現させてきた「無名の日本人」を主人公とする「組織と群像の知られざる物語」であり、先達者たちの「挑戦と変革の物語」を描くことで、今、再び、新たなチャレンジを迫られている21世紀の日本人に向け「挑戦への勇気」を伝えたくて企画された番組であることがわかる。


プロジェクトは科学技術の分野が取り上げられているのが多数を占めている。これまで放映されたものには確かに共通した要素を多く含んでいるのに気がつくし、独特の語り口で語られるキーワードをあげれば、“伝説の・・・”、“背水の陣で・・・”、“窓際に・・・”、“絶望の淵に・・・”、“逆転のドラマ・・・”、“執念が・・・”、“総力戦・・・”、“熱い思いが・・・”、リーダーの苦悩・・・“、”夢を追いかけて・・・”、“失敗の山・・・”、“負けたくない・・・・”などが思い起こされる。
それでも、今もよく似た話だとは感じながらも、身につまされてみているのが正直なところである。

当然ではあるが違った見方もある。毎月発行される、産業技術総合研究所のAIST Todayの巻頭に、各界からエールが送られている。その中でJT生命誌研究館館長の中村桂子さんは、産総研から“新しいタイプのプロジェクトX”が続々と生まれることを期待すると結ばれている。それは挑戦の物語がやはり、日本的な(?)モノトーンの印象をもたれたことからきているようである。確かに組織と個人の関係は、独創性発揮に対して抜本的な見直しが求められているし、追いつき追い越せから先頭を走ることが日本にも求められていることから、ターゲットがはっきりした挑戦のドラマとは一味違った(それを新しいといえば新しいのかもしれない)ドラマが創られていくのかもしれない。教育や、評価システムなどのエンカレッジにまつわる変革も待ったなしである。

数年後の「プロジェクトX」には、ナノテクノロジーに絡んだ挑戦のドラマも多く取り上げられることになろう。それが新しいプロジェクトXのイメージに合うのかといえば、そうでも無い気がする。世の中に挑戦の成果を押し出すまでのドラマであれば、今取り上げられてるドラマと基調は近いと思うからである。戦略的な研究成果を取り上げる、研究現場のドラマであれば新鮮な感動を覚えるであろう。プロジェクトXも研究事業版を取り上げるのも一つの手なのかもしれない。それを見て科学者を志す子供たちが増えるであろうことを期待するのは、ノーベル賞で一時的に騒ぐのと比べれば、力強いものがあるように感じるが、いかがであろうか。



                                                篠原 紘一(2002.12.13)
                                                   
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