戦略目標

最先端レーザー等の新しい光を用いた物質材料科学、生命科学など先端科学のイノベーションへの展開

研究総括・研究領域紹介

研究領域の概要

伊藤正
伊藤 正
大阪大学 名誉教授
大阪大学ナノサイエンスデザイン教育研究センター 特任教授

本研究領域は、物質・材料、加工・計測、情報・通信、環境・エネルギー、ライフサイエンスなどの異なる分野で個別に行われている光利用研究開発ポテンシャルの連携、融合を加速し、「物質と光の係わり」に関する光科学・光技術におけるイノベーション創出基盤の形成を目指します。

具体的には、高度な性能をもつ最先端レーザーに代表される各種の先端光源をブラックボックス化することなく、光源の特徴を徹底的に駆使した特色ある「物質と光の係わり」に関する研究を推進します。

光利用科学技術のブレークスルーを生み出す先導研究や、ライフサイエンス、環境・エネルギーなどの幅広い分野における目的基礎研究を対象としますが、事象の解析や原理の解明だけに終わることなく、実用化も念頭においた、波及効果の大きい技術シーズ創出に資する研究を対象とします。光源開発そのものは対象としませんが、研究の過程で要求される光源に対する的確で高度なニーズを光源開発にフィードバックし、光利用科学技術をより実効的に発展させる研究も含みます。

平成22年度の募集・選考・運営にあたっての方針

今日、発展の目覚ましい光技術は、光科学の理解の深化と拡大に伴って重要な社会基盤として普及・展開しており、産業的に有用なツールであるばかりでなく、イノベーション創出基盤の役割を果たしています。我が国の物作り産業、情報処理・通信、医療、環境などに不可欠な光科学・光技術を飛躍的に発展させるため、本研究領域 では、「物質と光の係わり」をキーワードに、光科学・光技術の利用と開発研究を主体的に推進します。それにより、実用化に向けた波及効果の大きな技術イノベーションの創出も狙います。
  募集の最終年度にあたる今年度の募集方針として、最先端光源の性能を極限まで制御し、イノベーション創出に資する研究を歓迎します。これまでの2回の募集では、計測・イメージング、物質・材料、量子操作などの学術指向的な課題を中心に採択してきましたが、今年度は、特に、環境、創・省エネルギー、低炭素化社会、情報処理・通信など人類にとって差し迫った重要な課題を解決するために最先端光源を導入・駆使するといった、課題追求型の研究や技術指向的な研究を中心に募集します。いずれの研究提案も、研究代表者のリーダーシップによる積極的で挑戦的な目標を射程としつつも、現状における方向感とデータを示し、全体計画における年度毎の達成目標、研究者間の連携体制、最終目標に向けての集約行程を具体的に明記することを求めます。
  今年度の選考方針においては、産業的・社会的ニーズに繋がる方向感をもつものか、今日解決すべき課題であるか、真に驚きを与えるオリジナルのアイデアであるか、などの観点で相対評価します。さらに、世界のトップを目指した研究であるか、融合的な体制にあるか、異分野にも波及するものか、息の長い技術シーズを生み出すものか、などについても考慮します。研究費種別においては、特に種別Ⅱ(平均4億円)の提案は種別Ⅰ(平均2億円)よりも、実用化や社会の期待に応える意識の高い成果を求めます。単に市販の先端光源の性能に頼るといった研究ではなく、利用研究者と開発研究者のシナジー効果により、独自では達成不可能な新しい技術シーズを生み出す提案が期待されます。
  なお、本研究領域は運営にあたり、領域内の研究課題間での活発な意見交換や技術交流を積極的に推進するとともに、文部科学省による「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」とも積極的に連携し、イノベーティブな研究の発展を図ります。

平成21年度採択の総評

本研究領域では、物質・材料、加工・計測、情報・通信、環境・エネルギー、ライフサイエンスなどの異なる分野で個別に行われている光利用研究開発ポテンシャルの連携、融合を加速し、「物質と光の係わり」に関する光科学・光技術の利用と開発研究を主体的に推進することで、実用化や波及効果の大きな技術シーズを生み出すと共に、光源開発にもフィードバックをかける役割を担います。そのために、高度な性能をもつ最先端レーザーに代表される各種の先端光源をブラックボックス化することなく、光源の特徴を徹底的に駆使した特色ある「物質と光の係わり」に関する研究を推進します。光技術のニーズが明確であれば、未踏波長の開拓や位相・出力・パルス幅などを精密に制御する技術開発が含まれた研究も対象とします。また、医療・環境など人類にとって差し迫った難題解決に最先端レーザー科学・技術を導入駆使することでブレークスルーを生み出す利用研究も対象とするものです。

平成21年度は、60件の応募がありました。「物質と光の係わり」に関する光科学・技術の幅広い適用を反映して、その内容は、ハイパワーレーザー利用、光波制御(波形整形応用)、医学・生命科学応用、放射光複合利用、量子情報、光物性、光化学、新奇光源技術など極めて多岐にわたりました。

 今年度の選考においては、研究総括、領域アドバイザー11名で、「物質と光の係わり」に関する光科学・光技術の利用と開発研究を主体的に推進する本研究領域の趣旨に沿っているか、国際レベルをリードする研究であるか、当該テーマでオリジナリティを発揮しているか、5年間で明確な進歩目標が提示されているか、研究実施体制は真に有機的に連携・統括されているか、異分野にも波及するものか、息の長い技術シーズを生み出すものか、産業的、社会的ニーズにどのようにつながるか、といったさまざまな観点で評価を行いました。書類選考により18件の提案を選択し、面接選考により以下の6件の提案を採択しました。面接選考にあたっては、研究提案者の提案内容と関係が深いテーマでの他の研究費の取得状況や内容の棲み分けなどを勘案して質疑応答を行いました。

その結果、新規超短パルスレーザーを駆使したin vivo光イメージング、電子線励起微小光源による光ナノイメージング、光技術が先導する臨界的非平衡物質開拓、モノサイクル量子もつれ光の実現、高強度テラヘルツ光による分光技術開拓、原子スケール動的イメージングを各々目指す提案を採択しました。いずれも光源の究極的利用、「物質と光の係わり」に新局面を開くもの、光技術応用として極めて挑戦的なものです。予算規模は種別Ⅰが3件、種別Ⅱが3件でした。

 今年度の多岐にわたるご提案全課題を見ると優れたものが多くあり、不採択課題の中には採択課題と匹敵する提案もありましたが、光源利用の構想としては優れているもののその実現性や「物質と光の係わり」への具体性や新規性の説明が不十分なもの、研究実績は十分であるが研究提案者の主体性と共同研究者の必要性の関係でCREST研究体制に適していないもの、本CREST研究領域の趣旨に沿って他の助成金との切り分けを明確に行う説得力に欠けるなどの点で一歩及びませんでした。来年度も募集を行う予定です。本CREST研究領域の趣旨に沿って、挑戦的な目標を射程としつつも現状におけるデータを明確に示し、研究計画における年度ごとの達成目標と最終目標へ向かっての研究者間の連携体制を具体的に明記し、より一層磨かれた研究構想の提案を期待したいと思います。

なお、本研究領域の運営にあたっては、文部科学省の「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」による新しい光源・計測法などの研究開発や人材育成、先端光源ユーザー開拓活動などと連携し、研究の一層の発展を図る予定です。