CRDSシンポジウム

11/7CRDSシンポジウム 「科学技術イノベーションにおける統合化」講演録

産学協同による統合化の取組みの現状と課題
小寺 秀俊 京都大学大学院工学研究科 教授

ただいまご紹介に与りました小寺でございます。私の話の用意したスライドは、最初に挨拶された吉川センター長から、先ほどの冨山CEOまでの話の復習をするみたいな話になっておりますので、ぜひご覧いただければと思います。

皆さんご承知だと思いますが、段々、高齢化が進んで、人口は1990年から、今2010年を超えていますが、ちょうど我々の孫が成人する頃には人口が減ってしまっている [スライド2]、私も現役の研究者ですが、この右の上の枝葉の先にチョンと止まっている。そういう状態なのです。それで、細分化された研究開発の成果を、事業化して社会貢献しなさいということを非常に言われるのですけども、そう言われても、我々がやっている領域は非常に狭いので、どこに持っていったらいいのか。冨山さんが言われたように、スマイルカーブのど真ん中の真下ぐらいにいて、相手もどこに持っていくのかっていうのが非常に大きな問題になっています。それで、中村理事長の言われた元素戦略がスタートした時に、京都大学に二つ大きなプロジェクトが走っていましたので、そこで挨拶をした時に、非常にショックを覚えたのが、その元素戦略のプロジェクトはネットワークを張って非常に大きくなっていることです。その中核研究者として京都大学がなっていました。それともう一つ前に、NEDOの大きな革新型二次電池のプロジェクトがありましたが、これも大きなネットワークを張っていました。

私は少しライフサイエンスの側にいるのですけども、一度少し試してみようと思い、京都大学の先生のプロットをしてみようということで [スライド3]、これは左側がハードウェア、右側がソフトウェアというふうに。ソフトウェアというのは、先程のスマイルカーブの端にある、サービスの部分でありますが、マテリアルからシステムまでをプロットすると、先生の数は少ししかいないですね。それで他の大学の先生を集めると、もう少し増えて、さらに海外の先生を加えると、もう少し埋まっていく。それで、いろんな企業の人達、大学へ相談に来るんですけども、先程の、非常に分化した、細分化した世界にいますので、その問題意識が、我々の持っている研究開発のターゲットと本当に合っている領域に辿り着くというのはなかなか難しいんですね。でもどうしても仕方ないから、人間関係もありますので、一緒にやると、ターゲットが少しずれているので、お互いに満足をしない。これが、やはり大学のジレンマでありますが、こうやって埋めていくと、「私が知っている国内の研究者、海外の研究者ならいい人がいます」ということをきちんと紹介していって、そこにネットワークを張る必要があるということです。それに産業界の人達を混ぜていくと、一つのマッピングができます [スライド4]。私は、この間まで産学連携本部長をやっていて、そこにURAもたくさんいましたので、その人達に「このマッピングをしましょう」と言ってみました。それはお互いに国内の大学、それから海外の大学と一緒にマッピングをして、そのネットワークの中で産学連携なり共同研究というのを進めていく必要があるだろう、ということです。

やはり元々の研究開発というのは、一つの夢を実現するために、何と何のコンポーネントが要るのか、そこにどのような材料が必要で、どのようなシステムが必要なのかというのは、大体みんなわかっているはずなのです [スライド5]。ところが、自分達の研究をやるためにはその非常に狭い世界をやるというのが、重要な研究のターゲットであり、非常に高度化しています。夢を実現するためにどうしたらいいかと言うと、やはり世界中から必要な人達を集めて、それを先程からたくさん言われているコンダクター、すなわちきちんと指揮を振る人がいることが重要であり、そうしてこの夢を実現していく必要があるわけです。

イノベーションというと、ちょっと不思議なモデルが二つあります [スライド6]。数年前まで言われていたイノベーションというのは、何かのキラーデバイズがあったり、キラー材料があったりして、その周りに人が寄ってくるっていうタイプだったと思います。ところが、今のイノベーションは、夢を語って、その夢のために、今持てる力を最大限に発揮することであり、研究開発をしなくてもいいのです。既存技術を集めるだけで何かをやっていく、その中で基礎研究も生まれる、ということだと思うのです。昔、携帯電話は大きかったですけど、今は本当に小さくなりました。つまり、順繰り、順繰りにサイクルが回って、いろいろな物になっていくわけです。ですから、イノベーションというのは、これからは、アンダーワンルーフで、ライフサイクル、ライフサイエンスからグリーンテクノロジー、電力関係など、全部含めて一同に介する必要があるのではないかと思います。

そこで、中村理事長が言われたように以前バックキャスティングをやりました [スライド7]。高齢化社会で「君達に何が必要か」について、小さい集団から、大きな集団では大学の先生、市民、それから学生を入れて100人規模まで、いろいろと議論しました。議論の中から出てきたビジョンをまとめる過程で明らかになったことが、我々の意識の中は面白くない [スライド8]。皆さんポケットの中、カバンの中には、いろいろな目的のために携帯電話をいっぱい持っています。それぞれに異なる充電器を持って、重くて仕方がないですね。電車に乗ったらみんな携帯電話を触っていますが、全然面白くないですね。人間関係も全部潰れてしまっています。そこで必要とされることは、統合化する、ということです。

実は、京都大学では国際イノベーション棟という建物を、今、京都大学のシンボルの時計台の横に作っています [スライド10]。この建物は、京都大学の人だけが入るわけではなくて、他所の大学、海外の研究機関や大学も入って、一緒に協働するためのものです。来年の春に完成するのですが、ここで、医療から流通までを統合化したいろいろなプロジェクトを動かしていくことを考えています。私のいた産学連携本部は、I-U=U-I活動を進めています [スライド9]。大学間がネットワークを張って、大学と企業がネットワークを張ると、お互い企業同士も一緒にやるだろうということで、これを世界中に展開して、一つのコーディネーションをしていくことを目的に組織を動かしていました。週末にいろいろなセミナーを開催するなど、世界や産業界、経済界を大学発のイノベーションにどうやって巻き込むか、ということが非常に大きな課題になっています。

我々はすぐに、ライフサイエンスだとかグリーンテクノロジーだという話をするのですけども、そこで生まれた技術は、実は農業にも使えますし、他の分野でたくさん使えるところあるのですね。「こういうものが使えるのだ」「こういう技術が開発されているから我々も使おう」という議論を進めるために、お互いに情報交換して、技術を流通させなければいけない、ということが非常に大きな課題になっています。京都大学には3千人も教員がいますけれども、隣の部屋の人が何をやっているかも知りません。吉川先生が言われたように、壁を叩くと段々分厚くなっていく、という面があるので、できればオープンにして、ネットワークを張りたい。いろいろな分野も巻き込みながら、ぜひ日本から世界に発信して、世界も巻き込んでいかなければならない。

同じような取組みは、ヨーロッパアメリカでも進められています。問題は、その中の一員として一緒にやるかどうかです。日本が世界と競争するだけではなく、世界と一緒にやるためには、今後どうしたらいいのか、という問題は、予算や研究体制、学生・教員の国際化なども含めて、非常に大きな課題になると思っています。大学にいる外国人研究者の数は、段々増えているようで実は減っています。むしろ、日本人が外国に行って一緒に研究している方が多いのではないかと思います。ぜひ、世界から日本に研究者が来るように、いろいろな施策を打っていただければいいなと期待しています。



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