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ロシアの宇宙開発

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 ロシアは旧ソ連時代より宇宙開発で世界を先導し、現在は中国やインドなどの新興国の台頭も著しいが、依然、米国と並んで宇宙開発大国と考えられる。本報告書ではロシアの宇宙開発に焦点を当てて記述する。

1.歴史

(1)「ロケットの父」ツィオルコフスキー

 ロシアのリャザン州に生まれたコンスタンチン・ツィオルコフスキー(Konstantin Tsiolkovsky)は、幼い頃に聴力を失ったものの独学で宇宙飛行の理論研究を行い、ロケットの速度と質量の関係、液体酸素と液体水素を使ったエンジンや多段式ロケットの設計、人工重力を発生させる回転式の宇宙ステーション等、ロケット工学に関する数多くのアイディアを発表した。ツィオルコフスキーは1916年に出版した「地球の外で」の中でロケットによる宇宙飛行の原理を著し、宇宙ロケットの礎を築いた人物とされており、「ロケットの父」と呼ばれている。

(2)「ロシア宇宙開発の父」コロリョフ

 1926年に、ロバート・ゴダード(Robert Goddard)が中心となって、米国が液体燃料ロケットを世界で初めて打ち上げるとともに、第二次大戦中にヴェルナー・フォン・ブラウン(Wernher von Braun)の指揮の下、ドイツが世界初の弾道ミサイルV-2の開発に成功し、ロンドンの爆撃などに使用された。

 第2次世界大戦後、フォン・ブラウンら多くの科学者は米国へ移住し、ソ連も科学者やロケット実物や資料などを接収して、ドイツで培われたロケット技術は戦勝国へ引き継がれた。ソ連ではセルゲイ・コロリョフ(Sergey Korolyov)を中心に宇宙開発が進められることとなる。コロリョフは、現在のバウマン名称モスクワ工科大学を卒業したエンジニアであり、1946年から大陸間弾道ミサイル設計チーム長などを務めた。1948年にドイツのV-2を基礎に開発された大陸間弾道ミサイルR-1(射程300km)の成果を受けてコロリョフは、1950年に射程600kmのR-2、1953年には射程1200kmのR-5、1957年にはR-7の開発に成功する。

 コロリョフ指導の下、1957年10月、R-7系列のスプートニクロケットにより世界初の人工衛星となるスプートニク1号が打ち上げられ、1959年には月の裏側の写真を撮影したルナ3号が打ち上げられた。また1961年4月には、有人宇宙船ボストーク1号により、ガガーリン(Yuri Gagarin)が108分間の世界初の有人宇宙飛行を達成する。これらの業績により、コロリョフは「ロシアの宇宙開発の父」と呼ばれている。

(3)ソ連と米国の宇宙開発競争

 1957年のスプートニク打ち上げは、米国の安全保障を脅かすものであるとの懸念から、スプートニク・ショックと呼ばれる社会現象が発生した。米国は1958年にNASAを設立し、ソ連との宇宙開発競争に乗り出すことになる。

 宇宙開発競争では当初はソ連が大きくリードし、有人宇宙飛行や月・惑星への探査機着陸など、次のような世界初の偉業をことごとく独占した。

  • 1959年:ルナ2号が月の表面に到達
  • 1959年:ルナ3号が月の裏側の写真を撮影し地球に送信
  • 1965年:ボスホート2号によりレオノフが宇宙遊泳
  • 1966年:ルナ9号が月に軟着陸し、月面の映像を約100分間地球に送信
  • 1970年:ベネラ7号が金星に軟着陸し、土壌および大気データを地球に送信
  • 1971年:マルス3号が火星に到達、火星の上空1,200kmの写真撮影に成功。

 しかし、1969年7月20日、米国のアポロ11号が世界初の有人月面着陸に成功して以降は、米ソ間のデタント、米ソ両国以外の国による宇宙開発参入、世論の注目の薄れなどから米ソ間の競争は緩やかになっていき、1975年の米ソ共同によるアポロ・ソユーズテスト計画で、競争から協力に大きく舵を切ることになる。

(4)圧倒的な打ち上げ数

 1957年のスプートニク打ち上げ成功から、50年あまり経った2011年末までに、地球軌道の宇宙空間に漂った10cm以上の人工物は3万8,044個に上る。うちロシアが2万271個、米国が1万334個であり、2か国の占める割合は圧倒的である。このように、旧ソ連時代を含めロシアは、有人月探査で米国に後塵を拝したものの、米国とともに世界の宇宙開発を先導してきたことは間違いない。

(5)米ソデタント後の宇宙開発

 1971年、ソ連は世界にさきがけ、長期滞在型宇宙ステーションであるサリュート1号を打ち上げた。その後、1986年からミールが後継の宇宙ステーションとしての活動を開始した。1990年には、TBS社員であった秋山豊寛氏が日本人として初めて宇宙へ行き、ミールに9日間滞在している。

 1991年のソ連崩壊による経済混乱期に、宇宙開発は完全に停滞することとなり、ロシアの宇宙産業は不遇の時期を迎えることとなる。それでも打ち上げ実績を見れば成功率90%以上となっており、他の産業分野と比較すれば、それなりに安定的に推移してきたと言える。

 その後、2000年代に入り、石油をはじめとした天然資源価格の高騰によりロシア経済は復活の兆しを見せ、宇宙開発分野においても、利用不能に陥っていたロシア版GPSである「グロナス」の復活、通信衛星や地球観測衛星の打ち上げなど、徐々に活気を取り戻しつつある。

 また米国、欧州、カナダ、日本の4極で計画され開発中であった国際宇宙ステーションは、米国等の開発資金難や構築技術の経験不足もあり、ソ連崩壊後のロシアの参加を求めることになった。さらに、2011年7月にスペースシャトルが退役した後、米国は民間企業に委託して新たな有人宇宙船を開発しているが、現時点では、ロシアのソユーズ宇宙船が国際宇宙ステーションに宇宙飛行士を運ぶことができる唯一の手段となっている。

(6)頻発する打ち上げ失敗とその要因

 このように、ロシアの宇宙開発の前途は明るくその扉を開いているかに見えるが、ここに暗い影を落としてきたのが頻発するロケット打ち上げの失敗である。世界的にもロシア製ロケットに対する関心が高まっていた2010年12月以降の2年半強で、10回も打ち上げに失敗している。

 これら一連のロケットの打ち上げ失敗の原因は、概ね単純な人的ミスであるとされており、30歳~40歳代の技術者の年齢層が薄い宇宙産業界において技術継承がしっかりとなされていない結果であるとの声が関係者や専門家から異口同音に聞かれた。これも1990年代のソ連崩壊による社会混乱によって生じた頭脳流出のためであろうか。

 さらに、宇宙関係者の給与アップなどについて政府レベルで言及はされているものの、政府関係者からは優秀な理系人材が給与の高い金融機関に流れてしまっているとの声も聞かれた。

 当初は、ロケット製造企業幹部の交代、さらに連邦宇宙庁の長官の更迭といった人事による対応であったが、失敗が重なるにつれて、連邦宇宙庁および宇宙産業の再編が政府内で検討されることになった。

(7)宇宙関連企業の再編

 2010年12月のグロナス衛星の失敗以来、打ち上げの失敗が続いたとは言え、過去を含めた打ち上げ成功率は依然として高い水準を誇っており、また、打ち上げ数についてもロシアの右に出る国はない 1

 しかし、ロシアの宇宙産業は「ソ連」そのものであり、長年にわたる構造的問題をはらんでいたのも事実であった。メドヴェージェフ(Dmitry Medvedev)首相(当時)は、①設備の老朽化(設備の90%は20年以上使用)、②電子的基盤整備の不足、③人材の高齢化と高度な技術者の不足について言及しており、またポポフキン(Vladimir Popovkin)連邦宇宙庁長官(当時)も、①主要国の宇宙部門の1人当たりの労働生産性は年間200万~400万ルーブルであるのに対し、ロシアでは人員過剰のため100万ルーブルと低い、②宇宙産業に支出されている政府資金の一部が不適切に流出している、③宇宙機器の電子部品のほとんどが外国製であり、年間購入額は100億~120億ルーブルに上ると指摘した。

 一連の打ち上げ失敗等を踏まえ、ロシア政府において2011年秋ごろから、宇宙産業の再編問題について検討が開始された。各種の組織案が提案されるなか、2014年には国内の宇宙産業を再編するかたちで国営公社統一ロケット宇宙会社が設立され、2016年1月1日付で連邦宇宙庁(旧ロスコスモス)が廃止され、同庁と統一ロケット宇宙会社を統合した国営宇宙公社「ロスコスモス」2が誕生した。この新生ロスコスモスは、原子力分野のロスアトムを成功事例として、ピラミッド構造を形成する巨大官庁・企業・研究所の集合体を目指して再編された組織である。

 ロスコスモス総裁は、国営公社統一ロケット宇宙会社社長であったコマロフ(Igor Komarov)氏が務めている。コマロフ氏は経済学部卒で長く銀行に勤務した後、ロシア最大の自動車会社であるアフトヴァスの副社長に転職した人物で、そこでの手腕を買われ、2013年に旧ロスコスモスの副長官に抜擢された。

2.宇宙開発体制

 以下では、ロシアの宇宙開発の体制についてロスコスモスを中心に概観する。

(1)ロスコスモス

 上記のような再編の結果、ロシアの宇宙関連企業は、ロスコスモス社を頂点とするピラミッド型に形成されつつある。宇宙開発全般を担当する国営公社として新たに発足したロスコスモス社のもとに多くの宇宙関連企業や組織が統合されることになった。

①沿革と所掌

 宇宙開発を担当する省は、ソ連時代は省庁の名前からその所掌事務が容易に分からないように命名されており、名称は「一般機械製造省」であった。1980年代後半まではその存在すら秘密とされていた。同省は、宇宙のみならず多くの科学技術研究所や関連企業をとりまとめる役割を担っており、大陸間弾道ミサイルや潜水艦用ミサイルの製造に関する調整等も行っていた。しかし、各々の宇宙プログラム(ソユーズ、月・火星・金星探査機、宇宙ステーション開発等)は、一般機械製造省の下にあった各設計局(現在の企業)単位で推進され、例えば同時に2つの月面プログラムが推進されるなど、重複を含めて何十ものプログラムが乱立する状況にあった。各部局単位で宇宙事業を推進する体制は、フルシチョフ(Nikita Khrushchev)書記長により容認されたものとされている。

 ソ連崩壊直後の1992年、宇宙政策全体を所掌する行政機関として、首相府が所管する「連邦宇宙庁(旧ロスコスモス)」が設置された。本体の職員数は183名(2012年時点)で、長官、6名の副長官、8局からなる組織であった。旧ロスコスモスは、政府の宇宙政策の企画立案および安全規制、国際宇宙ステーションを含む宇宙開発に係る国際協力の推進等を担っていた。

 2011年ごろから宇宙産業の再編について検討が行われ、政府はロシア宇宙機関の維持と強化を目指して国営宇宙公社「ロスコスモス」を設立した。同社は2016年から旧ロスコスモスの業務を引き継いで機能している。ロスコスモス社は、2014年に設立された統一ロケット宇宙会社と旧ロスコスモスが統合されてできた組織で、統一ロケット宇宙会社傘下の主要な宇宙企業は「孫会社」のような位置づけでロスコスモス社にすべて統合されることとなった。

 ロスコスモス社本体の職員数は504人(2016年時点)で、2015年での売上げは11億ルーブル、純利益は6億8,340万ルーブルである。

②軍との関係

 ロシア連邦軍(100万人規模)は陸・海軍の他、航空宇宙軍(空軍と航空宇宙防衛軍が統合して2015年に再編成)、戦略ロケット部隊、空挺部隊の5つからなり、国防の宇宙分野は航空宇宙軍(15万人規模)が所掌している。航空宇宙軍とロスコスモス社は、相互に協力して、ロケット打ち上げ基地や管制センターの共用での運用等を行い、宇宙開発に取り組んでいる。

 人事的にも関係が深く、2013年~2015年の2年間旧ロスコスモス長官を務めていたオスタペンコ(Oleg Ostapenko)氏は、宇宙軍(現航空宇宙軍)司令官、国防次官を歴任してきた人物であった。また、ポポフキン元長官も国防第一次官を経て就任し、その前のペルミノフ(Anatoly Perminov)元長官も宇宙軍司令官を経て就任している。このように、旧ロスコスモス長官は3代連続で軍出身者が就任していたことになる。その意味では、オスタペンコ氏の後を継いだ民間出身のコマロフ氏の総裁就任は異例の人事であったといえるだろう。

 ロシアでは、大陸間弾道ミサイルを改良して世界初の人工衛星や有人飛行を実現したことからも、宇宙開発をまず軍事利用の観点でとらえる傾向にある。例えば、ロゴジン(Dmitry Rogozin)副首相は2012年に、「宇宙探査・利用に関する国家的関心は、3つの基本的な目的を達成することにある。一つ目は、国家防衛・安全保障を確保すること、二つ目は国家経済の発展に対する宇宙の資源を効果的に利用すること、三つ目は、基礎科学や知見の開発であること」と発言しており、まずは軍事利用、次に社会経済の発展、最後に基礎科学といったプライオリティ付けが感じられる。

(2)宇宙基地(ロケット打ち上げ射場および着陸場)

 ロシアは、活発な宇宙活動を支えるため、図表1に示すとおり、ロケット打ち上げ等を行う宇宙基地を複数有している。

図表1 ロシアの宇宙基地

図表1 ロシアの宇宙基地

出典:各種資料を元に筆者作成

②-1 バイコヌール宇宙基地

 モスクワ南東約2,100km、北緯46度東経63度、カザフスタン共和国にある6,717平方kmの広さを持つ宇宙基地である。1955年に建設が開始され、この基地から1957年に人類初の人工衛星スプートニク、1961年に人類初の宇宙飛行士ガガーリンが打ち上げられている。カザフスタンは、ソ連崩壊後独立したため、ロシアはカザフスタンとの間で1994年3月にリース契約を締結しており、さらに2004年1月に、2050年までこのリース契約を延長した。賃借料は年間1億1,500万米国ドル(以下「ドル」と略す)である。非常に高価な賃借料を少しでも軽減するため、最近はバイコヌール宇宙基地での光熱費等をこれまでの半分の費用で賄うことが検討されるなど経費節減に向けた動きも見られる。

 バイコヌール宇宙基地には計12の打ち上げ施設があり、うち6つが現在も使用中で、ソユーズU、ソユーズFG、ソユーズ2、プロトンM、プロトンK、ゼニットが打ち上げられている。

 バイコヌール基地がカザフスタン領内にある弊害として、カザフスタン政府がソユーズの第1段目の落下地域としてカザフスタン領土を認めないことからロケットの打ち上げができなくなる可能性があることや、ロシアが2013年にバイコヌール宇宙基地から17回打ち上げを計画していたのに対し、カザフスタン政府はロケット燃料による環境への影響を考慮して12回しか認めなかったことなどが、マスコミで報道されている。両国政府はこれらの報道を否定しているが、自国の宇宙活動の自由度を確保するためにロシアがバイコヌール宇宙基地への依存度を下げようと考えるのは当然であり、ロシアは、バイコヌール宇宙基地を利用しつつ新たにボストーチヌィ宇宙基地を建設するにいたった。

②-2 プレセツク宇宙基地

 モスクワの北で北極に近いアルハンゲリスク州にあり、北緯63度東経40度の高緯度に位置する宇宙基地である。1957年に大陸間弾道ミサイル用に建設が開始され、大陸間弾道ミサイルR-7もプレセツク基地から打ち上げられた。1960年代初頭、宇宙活動を軍事目的に拡大する必要性から、基地は拡大された。

 現在、プレセツク基地は航空宇宙軍の管理下にあり、軍事ミサイルの試射や軍事用の人工衛星打ち上げなどのため、巨大な実験施設を有するとともに、中軽量級のロケットの打ち上げが行われている。ソユーズ、コスモス3M、ロコットなどの打ち上げ施設を有する。2001年以降、新たに開発中のアンガラの軽・中・重量級の打ち上げ施設を建設中である。1993年頃までは、年間50回を超える打ち上げが行われており、世界で最も打ち上げ回数の多い射場であったが、東西緊張緩和による軍事衛星の打ち上げ数の減少に伴い、プレセツク基地での打ち上げ数も減少している。

②-3 ボストーチヌィ宇宙基地

 ボストーチヌィ宇宙基地は、極東のハバロフスク市の西北で中国黒竜江省と接するアムール州にあり、北緯52度東経128度に位置し、閉鎖されたスボボドヌィ宇宙基地の施設の一部を利用して、新たに建設中の宇宙基地である。

 スボボドヌィ宇宙基地は、ソ連崩壊後、航空宇宙軍の旧ロケット師団の基地として開発が開始され、1996年に利用が一部開始された軍事基地であり、2006年までに5回の打ち上げが実施された。しかし、経済の悪化とバイコヌール宇宙基地の改装に伴い、2007年に閉鎖が決定された。その後、経済状況の好転とバイコヌール宇宙基地の代替基地の必要性から、打ち上げ施設などを一層拡充したボストーチヌィ宇宙基地の建設が決定された。

 ボストーチヌィ宇宙基地は、コスト低減のためバイコヌールやプレセツクに比べるとコンパクトな構想となっており、国防関連施設は建設されない予定である。当初計画では、2015年に最初のロケット打ち上げ、2015年~2018年に12機のロケットを打ち上げ、その後2018年に有人ロケットを打ち上げることとなっていたが、実際に最初のロケット打ち上げが行われたのは2016年4月であった。有人ロケットの打ち上げに向けて、現在、本格的な建設作業が進められている。

ボストーチヌィ基地

ボストーチヌィ基地 ©Wikimedia Commons

②-4 カプースチン・ヤール宇宙基地

 カプースチン・ヤール宇宙基地は、モスクワの南東でカスピ海に近いアストラハン州にあり、北緯49度東経46度に位置する。1946年、ソ連初の弾道ミサイルの試験センターとして設立された。建設当初は敗戦国ドイツからの技術、資材、科学的知識も動員された。ソ連軍および後のロシア軍の試験用ロケット、人工衛星、観測ロケットの打ち上げの多くがここで実施されていたほか、1957年から1961年にかけては上空で核実験も行われていたが、2008年に人工衛星を打ち上げて以来、ロケットの打ち上げは行われていない。

②-5 ヤースヌィ宇宙基地

 ヤースヌィ宇宙基地は、カザフスタンとの国境に近いロシアのオレンブルク州にある宇宙基地である。冷戦時には、ソ連空軍(ロシア空軍)のICBM用基地として利用されてきたが、近年、打ち上げサービス会社のISCコスモトラスによって、ICBMの地下サイロをそのまま利用し、ICBMを宇宙ロケットに改造したドニエプルロケットの商業打ち上げに利用されている。

 2015年3月、韓国の多目的衛星3号(KOMPSAT3)が打ち上げられた。これまでにこの基地から10回の打ち上げが行われている。

(3)関連企業

 かつては旧ロスコスモス傘下にある企業・研究所が比較的強い政治力を持ち、企業等が提案するプロジェクトが旧ロスコスモスを飛び越して直接政府決定されることもあり、必ずしも統制がとれている状況にはないと言われていた。しかしそうした傾向は今回の再編を経てかなり縮小していくものと容易に予想される。

 これまで宇宙関連企業は、旧ロスコスモスの統制を受けつつ、科学や社会経済の目標に向けた宇宙活動を実施してきた。従事者は約25万人で、うち研究者、技術者は約半分であった。旧ロスコスモス時代の宇宙関連企業は、旧ロスコスモスからの独立性が高い企業(公開型株式会社)と、旧ロスコスモスの管理下にある企業(連邦国家単一企業)の2つの種類に分けられていた。公開株式会社は51社、連邦国家単一企業は53社あり、これら企業では製造過程で約550社の企業に発注を行っていた。関連企業の多くは再編の過程で新設された統一ロケット宇宙会社傘下に入ることとなった。

 以下では、新生ロスコスモス社の管理下にある代表的な宇宙関連企業を紹介する。

①統一ロケット宇宙会社

 統一ロケット宇宙会社は2014年に新設された企業で、ロシア政府が100%株式を保有するオープン・ジョイント・ストック・カンパニーの形態をとる。直接の傘下には、代表的な宇宙企業であったエネルギア社(有人宇宙船ソユーズ等の製造)やフルニチェフ宇宙センター(プロトン等のロケットの製造)、プログレス社を含み、全体で62社から成る。そのうち公開型株式会社は50社、連邦国家単一企業は11社である。以下、代表的なものを紹介する。

①-1 エネルギア社

 公開型株式会社の代表は、「コロリョフ名称宇宙ロケット企業(通称:エネルギア社)」である。前身は1946年に弾道ミサイルの開発を目的にモスクワ郊外のカリーニングラードに設置された国立拠点第88研究所であり、1994年に現在の名称となった。既述の「ロシア宇宙開発の父」コロリョフがトップを務めたことから、同氏の名前が企業名に付いている。

 エネルギア社は、1948年以降弾道ミサイルRシリーズの開発を成功させ、1957年R-7を利用した世界初の人工衛星スプートニクの打ち上げ、1961年世界初の有人宇宙飛行を実現したボストークロケットの打ち上げを成功させるとともに、その後ソ連版のスペースシャトル「ブラン」、エネルギア(ブランを打ち上げるロケット)、現在の有人宇宙飛行や国際宇宙ステーションへの貨物輸送などに利用されているソユーズの開発製造を行っており、ロシア最大の宇宙企業である。

①-2 フルニチェフ宇宙センター

 連邦国家単一企業の代表が、「フルニチェフ名称国家研究製造宇宙センター(通称:フルニチェフ宇宙センター)」である。フルニチェフ宇宙センターは、1916年に立ち上げられた自動車工場にその起源を持ち、戦略爆撃機や、超音速爆撃機の開発に成功したが、1960年以降はロケット製造が業務の中心となった。数度の組織改編を経て、1993年に現在の名称となった。フルニチェフは、旧ソ連の大臣の名前に由来する。

 プロトン、ロコット、国際宇宙ステーションの一部を構成するズヴェズダ・モジュール、人工衛星などの開発製造を行っている。現在、ロシアで打ち上げられるロケットの大半は、エネルギアのソユーズとこのプロトンである。さらに現在、プロトンの後継ロケットとしてアンガラを開発中で、これまでに2機の試験機を打ち上げている。

①-3 ツープ管制センター

 連邦国家単一企業の代表的な例の一つが「機械製造中央科学研究所(TsNIImash)」であり、その傘下に、有人宇宙飛行、人工衛星(社会・経済および科学目的)製造等を行うツープ管制センターがある。同センターは、1972年の平和目的のための外宇宙使用・探索協力に関する米ソ協定に基づき、1973年に「アポロ-ソユーズ試験計画」のため設立された。

 宇宙ステーション「ミール」の管制を1986年から15年間行い、無人惑星探査機として金星探査機「ベネラ」、ハレー彗星探査機「ベハ」、火星探査機「マルス」、火星の衛星フォボスへの探査機「フォボス」の飛行管制を行ってきた。1987年には、ソ連版スペースシャトルである「ブラン」の管制のためのコントロールセンターも建設された。このコントロールセンターは、ブラン計画の中止に伴い再整備され、1998年以来、国際宇宙ステーションのミッションセンターとして活用されている。

 同センターで行っている国際宇宙ステーションのスケジュール管理等は、コンピュータではなくすべて紙で行われている。分単位のスケジュールが膨大な紙として打ち出され、管制センターの職員はそれを見ながら一つ一つペンを使ってチェックをしているのである。このように伝統的手法を用いている理由は、人為的なミスを最小限に防ぐためと言われている。ツープ管制センターの近代化に向けて、2011年からの3年間で約5億ルーブルが予算として拠出された。

 以上を踏まえ、図表2では、ロスコスモスを中心としたロシアにおける宇宙開発体制の概観図を示した。

図表2 ロシア宇宙開発体制

図表2 ロシア宇宙開発体制

出典:各種資料を元に筆者作成

 図表2では言及しなかったが、ロスコスモス社が管理する組織として、ガガーリン宇宙飛行士訓練センターがある。同センターは1960年に設立されたが、人類初の宇宙飛行を行なったガガーリンを記念して1969年に同氏の名前が付いた。同センターは、ロシアにある宇宙飛行士の訓練施設の中では最大である。

ガガーリン宇宙飛行士訓練センター

ガガーリン宇宙飛行士訓練センター ©津田

(4)その他

 新生ロスコスモスに属さない企業としては、ロシア衛星通信会社や地球観測センター、ガスプロム・スペース・システムズなどがある。

 また、連邦科学機関局傘下にある宇宙関連の研究所として、生物・医学的な観点から宇宙環境下における安全性に係る研究等を担うバイオメディカル問題研究所、宇宙研究所、地磁気・電離層・電波伝搬研究所、物理研究所などがある。

3.宇宙開発計画

 宇宙分野における現行の基本政策は、2013年4月に大統領により承認された「宇宙活動に関する2030年までおよびそれ以降の展望に関する国家基本方針」3において定められている。同方針で示されているロシアの宇宙活動(宇宙空間の調査・開発・利用)に関する国家政策上の主な関心事項および原則をまとめると、以下のとおりである。

  • ロシア領土内からの宇宙への打ち上げ確保、それに伴う諸外国の地上宇宙インフラの利用に伴う潜在的リスクの排除
  • ロシアの社会経済・科学の発展に宇宙活動を寄与
  • 月、火星、および太陽系の他の天体を含む宇宙空間の調査・開発・利用に関する国際プロジェクトへのロシアの参加
  • 宇宙分野におけるロシアの競争力・優位性の向上と、世界の宇宙産業市場におけるロシアのシェア拡大
  • 宇宙関連のサービス提供を通じた諸外国との協力関係の促進や、通信、航行サービス、放送などの宇宙関連機器の商業ベースでの展開、また、民間向けの有人宇宙飛行などの商業用宇宙分野の開発
  • ロシアの宇宙関連企業の形成と発展
  • 「宇宙大国」としてのロシアの立場を維持・向上

 同方針ではこれらの関心事項と原則を踏まえ、今後ロシアで展開される活動目標を、2015年まで、2020年まで、2030年まで、2030年以降と、4つの段階に分けて示している。バイコヌール、プレセツク、ボストーチヌィの3つの宇宙基地の利用・運営に係る主な目標は以下のとおりである。

  • バイコヌール宇宙基地では、カザフスタン側も参加するかたちでのバイコヌール市の社会インフラも構築していく支援と開発を前提として、ロシアの連邦特別プログラム、宇宙活動に係る国際・商業宇宙プロジェクトを実施すると同時に、地上の宇宙インフラの近代化と完備を目指す。2030年までおよびそれ以降の時期には、高毒性燃料を使用するプロトンMロケットの解体・処理も視野に入れる。
  • プレセツク宇宙基地では、地上にある既存の宇宙インフラの近代化と完備を目指すとともに、環境的に無害な燃料の利用に向けた機器の開発も実施する。
  • ボストーチヌィ宇宙基地は、様々な用途の宇宙機器、貨物輸送船および宇宙ステーションのモジュールの準備と打ち上げ、また、国際協力の一環としてのものも含め、有人飛行プログラムや天体調査や開発に関する優れた宇宙プログラムの実施のために利用される予定である。2030年までおよびそれ以降の時期には、重量級ロケットの打ち上げ、有人輸送システムの地上インフラ施設の近代化、超重量級のロケットの開発も予定している。

 同方針に基づいて、ロスコスモス社が中心となって関連府省と共同で策定し、2016年3月に政府により承認されたのが「2016年~2025年のロシア連邦宇宙プログラム」(以下「新プログラム」と略す)で、宇宙活動を展開していく上での具体的な方法や手段が示されている。新プログラムでは、2020年までを第一段階、2020年~2025年までを第二段階とし、前プログラムである「2013年~2020年のロシアの宇宙活動」等の課題を着実に継承・実施し、長期的な展望でロシアの宇宙開発を推進していくことを目指している。2016年~2025年の予算として1兆4,060億ルーブルが見込まれており、2022年以降に追加予算として1,150億ルーブルが拠出される可能性がある4

 なお、新プログラムの実施責任機関はロスコスモス社である。国防省の軍事プログラムが含まれることを理由にプログラム全文は非公開となっており、概要のみロスコスモス社のウェブサイトで確認できる5

 新プログラムの基本的優先課題は、大きく次の3点である6

  • 宇宙軌道上にある国産の宇宙機器群の展開・維持とそれに必要な搭載機の開発。また、次世代の超重量級ロケットの開発・打ち上げ
  • 科学的調査のための宇宙機器の開発・打ち上げ(天体観測、月・惑星探査、および「エクソマーズ」等の国際プロジェクトを含む)
  • 有人宇宙飛行(ISSのロシアセグメントの展開、2024年までISSの運用の継続、および次世代の有人宇宙船の開発・製造・試運転等を含む)。

 2011年時点では、ロケットの生産分野におけるロシアのシェアは世界の10.7%であった。これを、2015年までに14%、2020年までに16%まで高めることを目標としている。

4.ロケット

 宇宙開発の基本はロケット開発であるが、ロシアは旧ソ連時代以来、以下に示すように多くの種類のロケットを開発してきている。

(1)ソユーズ

 ソユーズ・ロケットは、1957年のスプートニク1号打ち上げに使われたロケット(R-7A)の改良版である。1966年には現在のソユーズに近いものが完成し、1973年の改造により現在の原型にいたっている。その後も改良が加えられ、現在は、ソユーズU、ソユーズFG、打ち上げ目的に応じて上段ロケットを取りかえるソユーズIKAR、ソユーズFREGAT、ソユーズ2、仏領ギアナのクールー基地打ち上げ用のソユーズSTなどがある。

 ソユーズロケットの2016年12月までの実績は、958回の打ち上げに対して成功933回(成功率97.4%)と成功率は極めて高い。

(2)プロトン

 プロトンはフルニチェフ宇宙センターで製造されてきた大型ロケットで、これまで350回以上の打ち上げが行われている。

 人工衛星等のLEO(低軌道)への投入を目的とするプロトンの基本型として、プロトンKとその改良型のプロトンMがある。LEOへの打ち上げ能力は、プロトンKが20.6トン、プロトンMが21.6トンと、ソユーズに比べて大きい。さらにGTO(静止トランスファ軌道)や地球脱出軌道への打ち上げを行うための強化型として、プロトンK/DM及びプロトンM/ブリーズMがある。前者のGTOへの打ち上げ能力は4.7トン、後者は5.6トンである。

 プロトンおよびプロトンKの2016年12月までの実績は、274回の打ち上げに対して成功235回(成功率85.8%)であり、プロトンM/ブリーズMの2016年12月までの実績は、89回の打ち上げに対して成功79回(成功率88.8%)である。

(3)アンガラ

 プロトンの後継として、1995年から開発中のロケットである。資金不足のため、初打ち上げがたびたび延期されてきたが、2014年にプレセツク宇宙基地から軽量級と重量級の2機のロケットの試験打ち上げが行われ、いずれも成功した。LEOへの打ち上げ能力は軽量級で1.5トン、重量級で25トンである。また、重量級のGTOへの打ち上げ能力は5.9トンである。なお、韓国で2009年、2010年と2回にわたり打ち上げが失敗し、3度目の2013年1月に打ち上げが成功した「ナロ」の第1段目ロケットは、ロシアから供給されたアンガラの1段目であった。

(4)ロコット

 大陸間弾道弾UR-100Nを改良した軽量級打ち上げロケットで、小型衛星を低価格で打ち上げられるメリットがある。LEO400kmへの打ち上げ能力は1.95トンである。2016年12月までの実績は26回の打ち上げに対して成功23回(成功率88.5%)である。

(5)コスモス3M

 1960年代から開発が始められた小型衛星の打ち上げをメインとした2段ロケットで、LEOへの打ち上げ能力は1.5トンである。2010年4月までの実績は464回の打ち上げに対して成功438回(成功率94%)である。

(6)ゼニット

 旧ソ連が開発し、ウクライナが製造しているロケットである。ゼニット2、2M、3M、F等がありバイコヌール基地等から打ち上げられる。ゼニットシリーズの第一段目はロシア製、第二段目はロシアとウクライナの共同製造による。ウクライナが燃料タンク等を製造するとともに、ロケット本体の組立ても行う。打ち上げ時の管制機能の一部はロシアに依存している。ゼニット2のLEO200kmへの打ち上げ能力は13.74トンである。2007年6月までの実績は36回の打ち上げに対して成功30回(成功率83%)である。

 海上施設(シー・ローンチ)からの打ち上げ用に改良したゼニット3SLもある。GTO(静止トランスファ軌道)への打ち上げ能力は6.06tで、ランドローンチ用のゼニット3SLBなども含め、ゼニット3の2015年12月までの実績は45回の打ち上げに対して成功41回(成功率91.1%)である。

(7)エネルギア

 次項に述べるソ連版スペースシャトル「ブラン」の打ち上げ用に開発されたロケット「エネルギア」は、LEO(低軌道)上に100トン、静止軌道上に18トン、月に32トン、火星及び金星に28トンの設計打ち上げ能力を有する強力なロケットであった。しかし、ブラン計画の中止により、2度の打ち上げでこのエネルギアの打ち上げも中止となった。

5.有人宇宙船

 ロシアは、米国と並んで有人宇宙開発を先導しており、その主力宇宙船はソユーズである。

 宇宙開発の基本はロケット開発であるが、ロシアは旧ソ連時代以来、以下に示すように多くの種類のロケットを開発してきている。

(1)ソユーズ宇宙船

 ソユーズ宇宙船は、ソユーズ・ロケットに搭載される約7.5mの有人宇宙船であり、宇宙飛行士はこのソユーズ宇宙船に搭乗し、バイコヌール基地から打ち上げられ、宇宙を飛行した後、国際宇宙ステーション(ISS)に到着する。そして、宇宙飛行士を乗せて、宇宙船の3分の2を切り捨て(大気圏で燃える)、帰還モジュールだけで約3時間半かけて地球に帰ってくる。

 ロシアは近年、年4回のペースでソユーズ宇宙船を打ち上げており、2011 年夏に米国のスペースシャトルが退役して以降、ISSを往復する唯一の手段となっている。運用方法は、ISS(定員6名)にソユーズ宇宙船(定員3名)で宇宙飛行士を送り届け、ソユーズ宇宙船を5~6か月ほどISSに係留した後、同じ宇宙飛行士を乗せて地球に帰還させるというサイクルである。つまり、宇宙飛行士は概ね半年程度ISSに滞在する。2015年から2016年にかけては2名の宇宙飛行士を1年間ISSに滞在させた。その場合に生じる空席を利用して、1週間程度の短期滞在者を搭乗させている。

 また、ISSへの無人貨物輸送船であるプログレス補給船は、ソユーズ宇宙船に改良を加えたものであり、燃料、空気、水、食料、衣服、実験装置など約2.5トンの荷物をISSに送り届けている。

ガガーリン宇宙飛行士訓練センターにあるソユーズ有人宇宙船操縦訓練用シミュレーター

ガガーリン宇宙飛行士訓練センターにある
ソユーズ有人宇宙船操縦訓練用シミュレーター ©津田

(2)ブラン~ソ連版スペースシャトル

 「ブラン」はソ連版スペースシャトル計画である。1972年に米国は再利用型宇宙往還機「スペースシャトル」の開発計画を打ち出したが、ソ連においても1976年にブランの開発が開始された。1984年に一号機が完成し、1988年にブランは無人での自動訓練飛行を無事終え、有人宇宙飛行に向かう予定であったが、ソ連崩壊による混乱期の中でブラン計画は中止となった。

 スペースシャトルは自らエンジンを備えているが、ブランはエンジンを備えておらず(グライダーのようなもの)、ロケットのみによって軌道上に投入される点で異なる。また、ブランは低軌道の緊急時にはシートが飛び出す仕組みとなっており、高軌道ではロケットからブランが容易に分離して緊急着陸を行うことができるが、このような非常時の装置はスペースシャトルには存在しない。

 なお、ブランの地球上での輸送用として開発された大型輸送機アントーノフ225は、現在でも世界最大の貨物輸送機として高い需要に応えている。

6.国際宇宙ステーション(ISS)

 国際宇宙ステーション(ISS)は、地上約400km上空に建設されたサッカーコートと同程度の大きさ(約108.5m×約72.8m)を有する巨大な有人実験施設であり、質量は約420トンに達し、約90分で地球を1周する。宇宙での実験・研究や、地球・天体の観測などを行うことを目的としている。このプロジェクトにロシアが途中から参加し、主要な役割を担っている。

(1)独自の宇宙ステーション・ミール

 ソ連は、1986年から本格的な長期滞在型宇宙ステーションであるミールでの活動を開始した。

(2)ISS計画へロシア参加招請

 1984年1月、レーガン大統領の年頭教書演説で提唱されたISSは、財政問題による計画の見直し、冷戦終結後の米露協議等を経て、1993年にロシアの参加が決定した。

(3)ISS構築準備段階での米ロの活動

 ロシアのISSへの参加が決定されると、1995年に米国のスペースシャトルがミールに初めてドッキングし、1998年までの間に8回のドッキングが行われた。2001年にミールは役割を終了し、地上からの指令により大気圏に突入した。

(4)ISSの構築開始

 ISSは、構成パーツが40回以上に分けて地上から打ち上げられ、宇宙空間で段階的に組み立てられ、2011年に一応の完成をみた。最初の構成要素「ザーリャ」は、全長12.99m、幅4.1m、重量約20tで、米国が資金を拠出し、ロシアが製造したロシアのセグメントと米国のセグメントを橋渡しするインターフェース部であり、1998年11月にバイコヌール宇宙基地からプロトンにより打ち上げられている。「ザーリャ」を含め、ロシアはISSに居住スペースとなる「ズヴェズダ」、ドッキング室「ピアース」、小型研究モジュール「ポイスク」・「ラスヴェット」等のモジュールを有しており、ザーリャやズヴェズダ等はこれら自身で独立した宇宙ステーションの機能を有している。

 ロシアはこのように自ら開発したシステムを自己の判断の下に運用している。つまり、ロシア以外の国際パートナーが米国のデータ中継衛星を経由してISSと交信するのに対し、ロシアは米国の衛星を介さず、ロシアの地上局との交信が可能な範囲でのみ、直接ISSと交信している。また、ロシア以外の国際パートナーは米国のジョンソン宇宙センターでの調整を経てISS内での実験を実施するが、ロシアはISSに滞在しているロシアの宇宙飛行士にツープから直接指示し、実験を実施させている。

(5)唯一の有人輸送手段~ソユーズ宇宙船

 2011年夏にスペースシャトルが退役して以降、ロシアの宇宙船ソユーズが宇宙飛行士をISSに往還させる唯一の手段となった。この宇宙飛行士のISSの往還に関しては、ロシア連邦宇宙庁(当時)と米国NASAとの間で交わされて新協定において、米国はロシアに対して、2014年からの2年間に総額7億5,300万ドルを支払うこととされており、宇宙飛行士一人がISSを往復する費用は6,300万ドル程度になる。2013年までは一人当たり5,600万ドル程度であった。この費用には、ガガーリン宇宙飛行士訓練センターでの訓練、地球帰還後のリハビリ等打ち上げに関連する費用も含まれる。

 なお、日本、欧州、カナダ等は米国の傘の下でロシアと協力しており、日本人宇宙飛行士も米国とロシアの協定の枠組みの中で打ち上げられることとなっている。現在、ISSには常時6名の宇宙飛行士が滞在しており、日本人宇宙飛行士としては、2011年6月から古川聡宇宙飛行士が、2012年7月から星出彰彦宇宙飛行士が、約半年間滞在している。また、若田光一宇宙飛行士が、約半年間の滞在予定で2013年11月にISSに到着し、後半の2か月は日本人初のコマンダーとして活躍した。2015年夏から油井亀美也宇宙飛行士が、2016年夏から大西卓哉宇宙飛行士が、それぞれ約半年間ISSに滞在している。さらに、2017年10月から金井宣茂宇宙飛行士が約半年間ISSに滞在する予定である。

7.グロナス~ロシア版GPS

 米国が開発しカーナビなどの利用が進んでいるのがGPSであるが、ロシアもこのGPSと同様の測位システムの開発を行っており、「グロナス」と呼ばれている。グロナスは、ロシアの宇宙開発分野の中でも特に重要な位置づけとなっている。

(1)開発の経緯

 グロナスは、旧ソ連時代の1976年に軍事目的で開発が始められた。最初の衛星は1982年10月に打ち上げられ、1995年には地上を完全に網羅する24機体制が完成した。しかし、第一世代のグロナス衛星の寿命は3年程度であったにもかかわらず、経済危機のため1999年まで後継衛星を打ち上げることができず、2002年には稼働している衛星が7機となってしまった。

 その後、経済の回復に伴い、グロナスを再度フル体制とすべく寿命7年の第2世代衛星グロナスMが2003年10月から順次打ち上げられ、2012年までにフル体制の24機の配置が完了した。この完了により、地球表面と高度2,000kmまでの連続的グローバルナビゲーションシステムが完成した。さらに、寿命10年の第3世代衛星グロナスKの打ち上げも始まっており、2017年1月の時点で、軌道上のグロナスは、運用中が24機、試験中が1機、予備1機、調整中が1機の合計27機である。

(2)将来計画

 新たな宇宙計画では、フル体制を維持するため、2012年から2020年の間に13機のグロナスMと22機のグロナスKを打ち上げることとしており、2020年の軌道上の衛星は30機で、うち6機は予備となる。現在のグロナスの精度は3~6mで、米国のGPSの精度1.8mと比べると劣るが、2017年には1.4m、2020年には0.6mまで改善することを目標としている。地上局の設置・運営、地図の作成・更新等にかかる経費を含め、2012年~2020年の間に3,265億ルーブルの資金を投入する予定と言われている。

(3)利用率の向上

 米国が構築したGPSが普及している現在、ロシアにおいても自国のグロナスを普及させることは簡単なことではない。ロシア政府はすでにグロナスの民間利用を無料で提供することを決めており、iPhone4SやiPhone5は、位置情報取得についてGPSとグロナスを併用している。グロナスは、ソニーモバイルのXperiaシリーズ、モトローラの「RAZR M 201M」等でもサポートされている。さらに、8人以上の旅客輸送車両の許認可条件としてグロナスの設置を義務付けられたといった報道や、下院議員の車にグロナスが設置されたため議員の行動が監視下におかれたという不満の声が公になるなど、政府がグロナスの民生利用を積極的に進めるため努力している姿勢がうかがえる。

(4)汚職事件の発生

 2012年、グロナス開発会社であるロシア宇宙システムの社長が、グロナス開発のための国家予算の一部65億ルーブルを横領したとして摘発され、同社長はその後解任された。これだけの額が横領されてもグロナスシステムが完成していることに驚かされる。ただ、この汚職事件は政争的な色彩の強い摘発とみられ、グロナスの現状や将来計画に大きな影響を及ぼすものではないと思われる。

8.国際プロジェクト(国際宇宙ステーションを除く)

 現時点におけるロシアが参加する最大の国際プロジェクトは上記のISSであるが、それ以外にも商業的な協力を含めて、次のような国際プロジェクトがある。

(1)シーローンチ社

 1993年、ロシアのエネルギア社が米国ボーイング社に提案したことがきっかけとなり、ノルウェーやウクライナの民間会社も参加して実現した国際プロジェクトが「シーローンチ(Sea Launch)」であり、可動式海上システムでロケットの打ち上げを行うものである。2009年の経営破綻を経て、エネルギア社がシーローンチ社の95%の株式を保有していたが、2016年にロシアのS7グループによって買収された。

 ロケット打ち上げ施設「オデッセィ」は、長さ137m、幅67m、最大排水トン5万600トンの構造物であり、約12ノットで司令船に曳航される。同時に3つのロケットを搭載可能である。赤道付近まで航行した後、ロケットを打ち上げることができ、ロシアの有するバイコヌール宇宙基地やプレセツク宇宙基地と比し、より地球の自転による推進力をロケットに与えることができることや、傾斜角を修正する必要がなくなることのため、燃料消費量の観点から有利である。

 最初の打ち上げは1999年で、ゼニット3SLロケットにより4.5tの実物大の衛星模型が打ち上げられた。年に6~8回程度打ち上げられ、ロシアに限定すると、2012年はゼニットが3回打ち上げられ、欧米の通信衛星などを軌道に乗せている。打ち上げの成功率は95%に上る。ただし、2013年2月にインテルサットの打ち上げに失敗した後、打ち上げは行われていない。

(2)中国の宇宙研究開発への協力

 2003年10月、中国は有人宇宙船「神舟5号」により、ソ連、米国に次ぐ3番目の有人宇宙飛行を達成した国となった。この「神舟」は、ロシアから技術供与を受けて中国で開発され、外観は「ソユーズ」にそっくりであるが、内部や機器等は独自の改良が加えられている。

 ロスコスモス社は現在、グロナスと中国の衛星測位システム「北斗」との間で、衛星ナビゲーション分野での協力を進めようとしている7。2015年12月には、ロスコスモス社と中国航法衛星システム委員会との間で、グロナスと北斗の両システムの平和目的利用のための技術協力に関する共同声明が締結された8。中国ではGPS端末は「北斗」衛星だけではなく、米国のGPS衛星やロシアのグロナス衛星も利用できる「兼容型」が標準的に製造され、国外にも販売されている。

(3)フランス・クールー宇宙基地でのソユーズ打ち上げ

 フランス領ギアナにあるクールー宇宙基地は、主に欧州のアリアンロケットの打ち上げに利用されているが、2003年11月に露仏政府間宇宙協定が締結され、フランス政府によりクールー宇宙基地にソユーズ用射場が整備(約5億ユーロ)されるとともに、ロシア政府はクールー基地用に改良したソユーズSTを製造することとなった。

 2011年10月、欧州版GPS「ガリレオ」衛星2機を搭載したソユーズSTを、クールー宇宙基地から初めて打ち上げ、2017年1月までに16回打ち上げている。

(4)韓国のロケット開発への協力

 韓国との間では、韓国航空宇宙研究院(KARI)が開発したKSLVロケットの第一段エンジンにアンガラのエンジンを供給し、2009年と2010年に韓国初のロケットとして打ち上げられたが、いずれも失敗した。2013年1月30日、ナロ1号と名付けられたロケットは約100kgの衛星を搭載して、成功裏に打ち上げられた。

 KARIは2016年9月、ロスコスモス社との間で両者の宇宙分野における協力活性化についての相互理解に関するMOUを締結したものの9、今後は独自ロケット開発を進めることが検討されている。

(5)他国の人工衛星受託打ち上げ

 ロシアでは、他国の衛星の商業ベースでの打ち上げに積極的に取り組んでおり、欧米各国の衛星を多数打ち上げている。2010年で見ると、ロシア全体で計43機の衛星を打ち上げ、うち20機は海外からの受注であった。しかし、2016年は打ち上げ回数が中国を下回るほどの低調となり、外国衛星の打ち上げも中型以上の衛星5機と超小型衛星4機しかなかった。

 このような衛星受注以外にも、ブラジルとの通信衛星の共同開発、カザフスタンとのロケット共同開発に関する検討を実施している。

(6)欧州の火星探査計画「エクソマーズ(ExoMars)」への協力

 「エクソマーズ」は欧州が主導する火星探査計画で、メタンを測定することにより火星に微生物が存在する可能性を調査することを目的として、2016年に火星の大気成分を観測する探査機を打ち上げ、2020年に自動走行観測機を用いて火星表面の岩石や土壌を採取する予定である。総経費は約12億ドルに達する。このプロジェクトは、当初欧米の協力により進められる予定であったが、米国の資金難のため打ち上げロケット「アトラスV」(約1億7,500万ドル)が用意できず、ロシアの「プロトンM/ブリーズM」(8,000万ドル以下)での打ち上げに変更された。

 2016年の調査を担うエクソマーズ2016宇宙船は、2016年3月にプロトンMロケットによりロシアのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。ロシアのエクソマーズ2016ミッションにおける科学的貢献は、宇宙分野の国際連携の促進だけでなく、ロシア独自の多様な科学実験の実施、また、太陽系や外部宇宙探査に関する今後のプロジェクトに向けた基盤構築をも可能にするものと考えられている。

9. 商業的宇宙旅行

 宇宙政策の基本方針の中でも指摘されているとおり、ロシアでは商業用宇宙分野の開発に向けた取組に前向きである。

 ロシア政府関係者によれば、現在3人の宇宙飛行士の搭乗が可能なソユーズ宇宙船を2人の旅行者と1人のパイロットで運転可能な宇宙船に改造し、これを商業的な宇宙旅行に充てる計画が浮上している。この場合の費用は一人5,000万ドル前後となる。月の周回旅行についても検討されており、1億5,000万ドルを支払う用意のある希望者がいるという。

 米国のヴァージン・ギャラクティック社が行う、高度約100kmで約5~6分程度の無重力を経験できる宇宙ツアーへの参加は、一人当たり20~25万ドルと高額にもかかわらず、ロシアからは20名の参加見込みがあり、これは、米国、英国についで3番目の多さだといわれている。

 また、英国人女性歌手のサラ・ブライトマンは、民間人向けに宇宙観光を提供する米スペース・アドベンチャーズ社のツアーに参加し、2015年にロシアの宇宙船ソユーズに乗ってISSに向かい、10日間ほど滞在し、プロ歌手として初めて宇宙で歌声を披露すると発表した。費用は約5,200万ドルとされており、2015年1月からガガーリン宇宙飛行士訓練センターにおいてトレーニングを開始していたが、同年5月に家族の事情により宇宙飛行を延期することを明らかにした。

10. 課題

 最後に、ロシアの宇宙開発が抱える現在の課題について主なものを以下に2点示す。

(1)低調なロケット打ち上げ

 先述のとおり、ロシアでは特に2011年以降、ロケット打ち上げの失敗が続く事態に陥ったが、最近ではロケット打ち上げ回数それ自体が低調な状態にある。2016年のロシアのロケット打ち上げ数は17回と前年より大幅に減少したため、これまではロシア、米国、中国の順だったのが、打ち上げを22回行って米国と並んだ中国よりも下回った。

 理由としては、ロスコスモス社の発足およびそれに伴う宇宙関連産業の再編の影響、原油安によるロシア経済の低迷、或いは、制裁による輸入資材不足などが考えられる。

 「宇宙大国」としてのロシアの威信を取り戻すべく、失敗の回避と実用衛星の打ち上げ数の確保が喫緊の課題として立ちはだかっている。

(2)人材育成

 2017年1月のサドーブニチィ・モスクワ大学学長のインタビューでは、宇宙分野の人材育成の観点から、モスクワ大学に宇宙学科を設置する計画などが示された。このように、一連の打ち上げ失敗により、宇宙産業における人材不足や射場建設での専門家の必要性などが指摘されている。

 例えば2016年12月のプログレス補給船墜落事故については事故検証にNASAから専門家の参加を要請したが、これら失敗が単純な人的ミスから引き起こされたことが一因となっていることから、宇宙分野に優れた人材をロシアで確保することが焦眉の問題となっている。

あとがき

 本報告書「ロシアの宇宙開発」は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が、2014年に出版した「ロシア科学技術情勢 - 模索続くソ連からの脱皮 - 」(丸善プラネット)の第6章「宇宙開発」部分を土台に、元在露日本国大使館一等書記官であった神谷考司、および津田憂子が加筆修正を行って作成した。加筆修正に際しては、野照久JST/CRDS特任フェローおよび鶴間陽世JAXAモスクワ事務所所長から貴重なご助言・情報をいただいた。この場を借りて御礼申し上げたい。

 上記書籍は、林幸秀JST/CRDS上席フェローを編者として、行松泰弘北海道大学大学院工学系教育研究センター教授(当時)、神谷考司元在露日本国大使館一等書記官、津田憂子国際科学技術センター上席技術調整管理官(当時)によって共同で執筆されたもので、「宇宙開発」の章は神谷が原案を作成した。

 なお、今回の加筆修正に当たっては、同書籍から事実関係を中心に多くの内容を引用していることを、ここで申し添えたい。

2017年3月

国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター

フェロー(海外動向ユニット担当)

津 田  憂 子

著者紹介

神谷 考司(かみたに こうじ)

 日本医療研究開発機構 戦略推進部次長。1997年京都大学大学院工学研究科卒。同年科学技術庁(現文部科学省)入庁。これまで、文部科学副大臣秘書官、在露日本国大使館一等書記官、内閣官房日本経済再生総合事務局企画官等を歴任。2016年6月より現職。

津田 憂子(つだ ゆうこ)

 国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター フェロー(海外動向ユニット)。2010年3月早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。早稲田大学政治経済学術院助手、国立国会図書館調査及び立法考査局海外立法情報課非常勤調査員、上智大学外国語学部ロシア語学科非常勤講師、在露日本国大使館専門調査員、国際科学技術センター上席技術調整管理官(在モスクワ)等を経て、2014年より現職。