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目次

科学技術・イノベーション動向報告
イタリア編(2016年度版)

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1. 国情

 イタリアの概況としては、総人口は約6,080万人であり、日本の約半分である。国土総面積は約30.1万平方キロメートルであり、日本の約5分の4の大きさである。名目GDP総額は約2兆1,385億ドルであり、GDP成長率は-0.3%、1人当たりの名目GDPは3万5,180ドルである。

図表1-1 イタリアの基本データ(2014年)1

図表1-1 イタリアの基本データ(2014年)

出典:世界銀行・外務省・ジェトロの各ウェブサイト

1.1地理2

 イタリアの国土面積は約30.1万平方キロメートル(サンマリノ共和国、バチカン市国を除く)であり、北緯47度六分から南緯35度30分に縦1200キロにわたる半島と島々から成る。気候は南北で異なり、北部は大陸性気候に近く雨量が多いが、南部は地中海性気候であり、雨量は少ない。また火山国としても有名であり、南部のシチリア島にあるエトナ山はヨーロッパ最大の活火山である。地震も多発しており、2009年の中部ラクイラ地震では多くの犠牲者が出た。

図表1-2 イタリアの州

図表1-2 イタリアの州

1.2社会3

 言語はイタリア語であるが、地域によりドイツ語やフランス語も使われている。
宗教に関しては、キリスト教のカトリックが国民の約80%を占めており、それ以外には、キリスト教のプロテスタント、ユダヤ教、イスラム教、仏教などがあげられる。

1.3政治4

 イタリアは共和制をとっており、上院・下院の二院制で任期は両院とも5年である。両院の権限は同等となっている。上院の議員定数は315名であり、他に5名の終身議員から構成されている。下院の議員定数は630名である。上院、下院ともに最大会派は民主党である。大統領はセルジョ・マッタレッラ大統領(2015年2月就任、任期7年)であり、首相は民主党のパオロ・ジェンティローニである。2016年12月に憲法改正を問う国民投票が否決された結果を受け、レンツィは辞任し、新たにレンツィ内閣で外相を務めたジェンティローニによる内閣が発足した。

1.4 経済の現況

1.4.1 名目GDP

 世界銀行の統計によれば、2015年の主要国の名目GDPは、下図の通り米国が約17.9兆ドル、中国が約10.9兆ドル、日本が約4.1兆ドル、ドイツが約3.4兆ドル、英国が約2.8兆ドル、フランスが約2.4兆ドル、イタリアが約1.8兆ドルである。イタリアのGDPは日本の約5割、米国の約1割にあたり、日本や米国と比べれば、そこまで経済規模は大きくはないといえる。

図表1-3 主要国の名目GDP(2015年)

図表1-3 主要国の名目GDP(2015年)

出典:世界銀行

1.4.2 一人当たりの名目GDP

 一方、人口一人当たりでのGDPを見ると、世界銀行の2015年のデータによれば、米国が約5.6万ドル、英国が約4.4万ドル、ドイツが約4.1万ドル、フランスが約3.6万ドル、日本が約3.2万ドル、イタリアが約3.0万ドル、中国が約0.8万ドルである(下図参照)。つまり、イタリアの一人当たりのGDPは、日本とイタリアはあまり変わらないが、人口が日本の半分ほどしかいないため、国全体のGDPが日本の約5割という結果になっているものと考えられる。

図表1-4 主要国の一人当たりの名目GDP(2015年)

図表1-4 主要国の一人当たりの名目GDP(2015年)

出典:世界銀行

1.4.3 ジニ指数

 世界の所得格差の現状について、社会全体の不平等を測る指標としてはジニ係数(Gini coefficient)があげられる。ジニ係数は0と1の間を取り、ジニ係数の値が0に近ければ所得格差が小さく不平等が小さい社会といえるが、1に近づくと所得格差が大きく不平等な社会といえる。次に示すのは、ジニ係数を100倍し、パーセント(%)で表示したジニ指数(Gini Index)であり、主要な国を選び、指数が大きい順に並べている。
 世界銀行のデータでは日本のデータが2008年までしかなかったため、他の国は2008年に近い、2010年のデータを用いている。2010年のデータを用いた理由としては、2010年には日本以外の国のデータは全て揃っており、他の年と比べて比較がしやすいことが理由である。
 その結果、中国(42.1%)、米国(40.5%)、英国(34.8%)、イタリア(34.4%)、フランス(33.8%)、日本(32.1%)、ドイツ(31.1%)の順であった。
 イタリアの数値を見ると34.4%であり、日本(32.1%)やドイツ(31.1%)よりは高いものの、中国(42.1%)や米国(40.9%)と比べるとそこまで高い位置にあるといえない。このデータは2010年のものであり、近年は変動している可能性もあるが、イタリアは欧州主要諸国とそれほど差がなく、まだ中国や米国ほどは所得格差が開いていないといえる。

1.4.4 経済活動別のGDP構成比(%)5

 世界銀行の2012年のデータより、主要国の経済活動別のGDP構成比(%)を示す。英国、フランス、米国の3カ国は第2次産業が20%前後、第3次産業が80%弱であり、近い値を示している。イタリア、日本も第2次産業が25%前後、第3次産業が70%強であり、近い値を示している。イタリアの経済活動別のGDP構成比(%)は日本に近い割合であるといえる。また第1次産業を見ると、イタリア(2.2%)は英国(0.7%)、ドイツ(0.8%)、フランス(1.8%)よりも高く、日本(1.2%)よりも高い値を示している。

図表1-5 主要国の経済活動別のGDP構成比(%)(2012年)

図表1-5 主要国の経済活動別のGDP構成比(%)(2012年)

出典:世界銀行

 2014年のイタリアのGDPの産業別割合(%)としては、情報通信、金融・保険等が51%、製造業(自動車・衣料品含む)が19%、電気、ガス、蒸気および空調供給が15%、輸送等が15%、宿泊・飲食が9%、建設業が5%、農林水産業等が2%である。

図表1-6 GDPの産業別割合(%)(2014年)

図表1-6 GDPの産業別割合(%)(2014年)

出典:National Accounts Main Aggregates Database
(国連)のデータを基によりCRDSが作成

 2014年の世界銀行の統計によれば、イタリアの農業生産額は世界全体では14位であり、第1位の中国(9,496億ドル)の約20分の1にすぎないが、欧州ではフランス(440億ドル)に次ぐ第2位の416億ドルである。

1.4.5 国内企業の国際競争力6

 The Fortune 2016 のGlobal500によれば、19位がEXOR Groupで収益が1526億ドル、49位がAssicurazioni Generaliで収益が1026億ドル、65 位がENIで収益が930億ドル、78位がEnelで収益が839億ドル、224位がIntesa Sanpaoloで収益が422億ドル、300位がUniCredit Groupで収益が346億ドル、305位がPoste Italianeで収益が341億ドル、404位がTelecom Italiaで収益が266億ドル、491位がUnipol Groupで収益が215億ドルである。
 EXOR Groupは北部のトリノにある自動車・部品の企業であり、Assicurazioni Generaliは北部のトリエステにある保険企業である。ENIはローマにある石油精製であり、Enelもローマにある公益事業である。Intesa Sanpaoloは北部トリノにある銀行であり、UniCredit Groupも北部ミラノにある銀行である。Poste Italianeはローマにある郵便事業であり、Telecom Italiaはミラノにある遠距離通信の事業社である。Unipol Groupは北部ボローニャにある保険業である。ローマ以外は全て北部の都市にある企業が入っており、企業の国際競争力の観点から見ても、イタリアは北部の経済が強いことが分かる。

1.4.6 モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行への公的支援

 国内第3位の銀行であるモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナは多額の不良債権を抱えており、2016年12月にレンツィ内閣を引き継いだジェンティローニ首相はモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナへの公的支援を表明した。

モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行(ローマ)(2016年)

モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行(ローマ)(2016年)© 樋口

2. 科学技術・イノベーションに関連する組織・制度

2.1主要関連機関

 イタリアの主要な科学技術・イノベーション関連の機関を示したものが、次の図である。省庁の中から科学技術・イノベーション行政に関連した機関を抽出している。

図表2-1 イタリアの主要科学技術・イノベーション関連機関

図表2-1 イタリアの主要科学技術・イノベーション関連機関

出典:各省庁のウェブサイトよりCRDSで作成

 この図の中から、経済計画のための省庁間委員会(CIPE)、教育大学研究省(MIUR)について説明する。

2.1.1 経済計画のための省庁間委員会(CIPE)7

 経済計画のための省庁間委員会(CIPE)は、閣僚会議(Council of Ministers)の議長をトップとしており、経済財政問題で政治的意思決定を行う委員会である。経済政策の策定における調整機能を有している。全体として、一般的な社会経済状況を調査し、国の主要な投資計画を承認している。

2.1.2 教育大学研究省(MIUR)8

 教育大学研究省(MIUR)は、小学校から大学に至るまでの全ての段階の教育と、全ての範囲の研究を担当している。教育大学研究省(MIUR)の研究担当部局はボトムアップ型のファンディングを実施しており、この研究担当局の内部には特定のテーマを扱う委員会がある。教育大学研究省(MIUR)はICTのような将来有望な技術に関する研究を支援するためのファンディングを実施している。その中でも特に基礎研究投資ファンド(FIRB)は、国家戦略における中期から長期にわたるイノベーションの土台を支えるような重要な技術領域における知識を拡大するような研究活動を支援している。

教育大学研究省(MIUR)(2016年)

教育大学研究省(MIUR)(2016年)© 樋口

2.2実施機関

 国の主要な研究開発実施機関は、主に教育大学研究省(MIUR)の下部機関として設置されている。前掲した機構図に記述されているとおり、イタリア学術会議(CNR)、国立核物理研究所(INFN)、イタリア宇宙局(ASI)、イタリア航空宇宙研究センター(CIRA)などがある。またイタリア技術研究所(IIT)は、教育大学研究省(MIUR)と経済財務省(MEF)の管轄下にある。以下、これらの機関について紹介する。

2.2.1 イタリア学術会議(CNR)9

 イタリア学術会議(CNR)はイタリア最大の公的研究機関であり、教育大学研究省(MIUR)の傘下にある。目的としては、研究の推進、イノベーションや競争力の促進、国際化の推進、技術や解決策の提供や助言、人材育成への貢献等がある。①地球システム科学・環境技術、②生物学、農業と食品科学、③化学と材料技術、④物理科学、⑤バイオメディカルサイエンス、⑥エンジニアリング、ICTとエネルギーと輸送技術、⑦社会科学と人文科学、文化的遺産の7部門に分かれており、部門ごとに計画・監督機能を有している。合わせて102の研究所があり、職員を合計すると8,000名以上、そのうち約6割が研究者もしくは技術者である。

2.2.2 国立核物理研究所(INFN)10

 国立核物理研究所(INFN)は、教育大学研究省(MIUR)による管轄のもとで、物質の根本的な構成要素と法則に関する研究を行う機関である。核物理の理論的・実験的研究を目的に合同で原子核や天文素粒子物理学の分野の基礎研究を行うために、ローマ、パドヴァ、トリノ、ミラノの大学のグループにより1951年に設立された。現在、国立核物理研究所(INFN)には国際的に著名な5,000名の科学者が在籍している。

2.2.3 イタリア宇宙局(ASI)11

 イタリア宇宙局(ASI)は1988年に設立された。今日では、イタリア宇宙局(ASI)は欧州で重要な役割を果たしており、米国航空宇宙局(NASA)とも緊密な関係を持ち、国際宇宙ステーションの建設などにも参加している。

2.2.4 イタリア航空宇宙研究センター(CIRA) 12

 イタリア航空宇宙研究センター(CIRA)は、イタリア航空宇宙研究プログラム(PRORA)の運営や、航空宇宙分野をイタリアがリードするために1984年に設立された。イタリア航空宇宙研究センター(CIRA)は、官民の株主を持つ企業である。イタリア航空宇宙研究センター(CIRA)はナポリ近くのカプア近郊に160ヘクタールの敷地を有している。370名のスタッフがおり、そのほとんどが国内外の研究活動に従事している。

2.2.5 イタリア技術研究所(IIT)13

 イタリア技術研究所(IIT)は、教育大学研究省(MIUR)と経済財務省(MEF)の管轄下にあり、設立の目的は、基礎研究と応用研究や経済の発展を促進することである。全体のスタッフは1,470名である。研究者のうち約45%は海外から来ており、45%の内訳としては、29%は50カ国以上から来ており、残りの16%は海外から帰国したイタリア人である。現在、科学のスタッフは約60名の主任研究者(PI)、140の研究者と技術者、500名のポスドク、400名の博士課程学生と奨学金受領者、160名のテクニシャンである。研究プログラムは①技術プログラム、②コアプログラム(材料化学、新材料等)、③多分野融合プログラム(ナノ・バイオフォトニクス等)の3つに分けられる。

2.2.6 新技術・エネルギー開発庁(ENEA)14

 新技術・エネルギー開発庁(ENEA)は経済開発省(MED)15傘下の機関である。主な研究課題はとしては、①エネルギー効率、②再生可能エネルギー資源、③原子力エネルギー、④気候と環境、⑤安全と健康、⑥新技術、⑦電気システム研究があげられている。a) 幅広い専門知識を活用したミッション指向の産業研究、b) 新技術と先端応用、c) 研究成果の普及と移転、生産目的での開発の促進、d) 政府や民間組織へのハイテクなサービス、研究、測定、テスト、評価の提供等が主な活動である。

2.3高等教育機関

 後述のようにイギリスの調査会社QS社は、毎年世界の大学の国際比較を実施しており、その結果を「World University Rankling」として公表している。最新版は2015/16版であり、これによればイタリアの大学は400位以内に7校入っている。ここでは、そのうち上位4校(187位のミラノ工科大学、204位のボローニャ大学、213位のローマ・ラ・サピエンツァ大学、306位のミラノ大学)について紹介する。

2.3.1 ミラノ工科大学16

 ミラノ工科大学は、工学、建築、工業デザインの分野でイタリア最大規模の大学である。12の研究科から構成され、7つのキャンパス(ミラノ(レオナルドとボヴィザ)、コモ、レッコ、クレモナ、マントヴァ、ピアチェンツァ)がある。教育では卒業後に活躍できる人材の育成を目指し、創造性や発明、柔軟性に力を入れるとともに、この10年間で国際化を進めてきている。2015年度の教官は1,316名、技術系事務系職員が1,207名、博士課程の学生が1,122名、学生が41,622名である。

ミラノ工科大学(2016年)

ミラノ工科大学(2016年)© 樋口

2.3.2 ボローニャ大学17

 ボローニャ大学は、11世紀頃に起源を持ち、現在は5つのキャンパス(ボローニャ、チェゼーナ、フォルリ、ラヴェンナ、リミニ)から構成され、33の研究科がある。分野としては科学・技術・医学・人文学・社会学がある。学生数は84,724名、教官や職員は5,856名である。

2.3.3 ローマ・ラ・サピエンツァ大学18

 ローマ・ラ・サピエンツァ大学は、1303年にローマ教皇ボニファティウス8世により設立された世界最古の大学の一つである。11の学部と63の研究科等から構成され、物理学、航空宇宙、環境、ナノテクノロジー、考古学、人文学などの研究を行っており、特に物理学と考古学に強みを有している。学生数は115,000名である。

2.3.4 ミラノ大学19

 ミラノ大学はライフサイエンス、医学、数学、人文科学(社会科学・法律)を中心として研究に注力している。国際化を重視し、英語での授業も行われている。またフィラレーテ財団(Filarete Foundation)を通じて、社会への知識の移転にも力を入れている。学生数は約64,000名であり、2,000名以上の教官が在籍している。

ミラノ大学(2016年)

ミラノ大学(2016年)© ミラノ大学

3. 科学技術・イノベーション政策

3.1イタリアの科学技術・イノベーション政策の歴史

 2000年以降のイタリアの科学技術・イノベーション政策の歴史について、主なものを紹介する。

3.1.1 国家研究計画(PNR)20

 教育大学研究省(MIUR)によって策定される国家研究計画(PNR)は、科学技術戦略や研究システムにおける重点分野・事項を示すものである。3年ごとに策定されており、経済計画のための省庁間委員会(CIPE)により承認される。
 イタリア政府は2002年、国内の研究強化のための新しい戦略として「科学技術政策のためのガイドライン21」を策定した。同ガイドラインは国家研究計画(PNR)2005-2007策定の際の基礎となった。イタリア政府は国家研究のための優先事項の正確なフレームワークを設定し、国の研究レベルを押し上げ、最も有望で付加価値のある技術分野において卓越した技術を開発しようとした。
 2005年1月に発表された「国家研究計画(PNR) 2005-2007」では、主要政策として基礎研究支援、産業研究支援、地域研究開発(R&D)プログラム支援を掲げていた。

3.1.2 国家研究計画(PNR)(2011年~2013年)22

 国家研究計画(PNR)(2011年~2013年)では、イタリアの地位を向上させ、最も有望で付加価値のある技術領域を開発するために、国の研究に優先順位をつけている。
 戦略としては、①知識のフロンティアの前進、②重要な複数領域の開発にむけた研究への支援、③産業における研究開発の強化、④革新的な製品やプロセスにおける中小企業の能力の向上の4点があげられている

3.2国家研究計画(PNR)(2015年~2020年)の概要

 現在PNR(2015年~2020年)が実施されている。そこでこの計画の概要を以下に示す。

3.2.1 計画の背景

 「イタリア国家研究計画(PNR)(2015年~2020年)」では、教育大学研究省(MIUR)はイタリアの強みと弱みを分析している。
  イタリアの弱みとしては、はじめに、イタリアの研究投資は、欧州各国や経済面で競争的な立場にある国々と比較して公的資金が少なく、特に民間による資金がとても少ない状況にあることを指摘している。次に官民ともに研究の国内需要を増やし、イノベーションを生み出す中心となるような研究者の雇用を改善必要があることも指摘している。
 そしてイタリア研究システムにおける主要な弱点としては、①研究開発費の対GDP比の低さ、②民間企業の研究者不足、③海外からの留学生の少なさ、④イタリアに対する海外企業からの研究開発費の減少をあげている。
 イタリアの強みとしては、論文数やその質において競争力を持ち、製造分野(特に中小企業)で強みがあることを指摘している。
 この強みを活かすべく、「イタリア国家研究計画(PNR)(2015年~2020年)」では、将来性がより期待できるような応用研究を優先しており、ただちに実行可能な専門分野を見極める計画として立案されている。ただし応用研究を優先するといっても基礎研究を軽視しているわけではなく、主に人材開発や研究インフラの強化を通じて行われている。

3.2.2 予算

 教育大学研究省(MIUR)は、大学と公的研究機関に毎年実施する80億ユーロの助成に加えて、「イタリア国家研究計画(PNR)(2015年~2020年)」に対して当初の3年間での約25億ユーロの追加助成を行う。

3.2.3 対象の12分野

 「イタリア国家研究計画(PNR)(2015年~2020年)」では、応用分野は以下の12分野に分けられている。①航空宇宙、②農作物、③文化遺産、④海洋エネルギーや海洋鉱物資源等、⑤環境負荷が低く持続可能な社会を支える化学技術、⑥デザイン・独創性とMade in Italy、⑦エネルギー、⑧スマート工場、⑨持続可能なモビリティ(社会の実現)、⑩健康、⑪安全でスマート、包括的な社会、⑫生活環境のための技術の12分野である。
 これら12分野は、欧州レベル、特に国と州に特化した政策プログラム、Horizon 2020に沿ったものとなっている。

3.2.4 6つの目標と計画

 「イタリア国家研究計画(PNR)(2015年~2020年)」では6つの目標と計画が示されている。


  • (1) 第1の目標:国際化
    •  第1の目標は国際化である。近年では競争的資金に関しては、国レベルよりも欧州による負担額が増加している。そのためHorizon 2020(2014年~2020年)による欧州の資金をイタリアの財源や計画作成において組織的に統合している。また「イタリア国家研究計画(PNR)(2015年~2020年)」では欧州の基準や構造に適応するように調整し、イタリア人研究者とその研究成果が世界レベルになるための準備に注力している。
       目標の詳細としては、1)イタリアの計画を欧州レベルの研究開発に照らして適正なものにする、2)国際的もしくは欧州での活動、特にHorizon2020へ参加するイタリア人による研究開発を支援する、3)科学技術外交により国際協力の枠組みに入り込むことがあげられている。
       具体的な行動目標としては、①ジョイントプログラム(JP)のプロセスを強化するとともに、Horizon2020でのイタリア人代表者を支援する、②国家戦略に基づく専門分野と地域戦略における優先的な共同研究をベースとしたマッチングファンド方式を実施する、③国際的協力と戦略プログラムにおけるリーダーシップを強化する(地中海エリアにおける研究・イノベーションのためのパートナーシップや海洋・海上に関する研究など)、④国家宇宙計画があげられている。2015年から2017年までの3年間の予算は1億740万ユーロである。>

  • (2) 第2の目標:人的資本への投資
    •  第2の目標は人的資本への投資である。官民双方の研究者数を増加させ、研究者の育成、能力向上させる。
       目標の詳細としては、優秀な研究人材を育成・強化するとともに、そのような人材が研究と社会を繋ぐような知識の移転プロセスにおいて中心的な存在となるようにすることがあげられている。
       具体的な行動目標としては、①育成の質の向上により革新的な博士課程を整備すること、②博士号取得者の増加や研究者が成長するための機会の増加、③知識移転において研究者を主役にすること(博士号取得者によるスタートアップ、雇用の促進等)があげられている。2015年から2017年までの3年間の予算は10億2,040万ユーロである。

  • (3) 第3の目標:研究インフラへの支援
    • 第3の目標は研究インフラへの支援である。「イタリア国家研究計画(PNR)(2015年~2020年)」では、国際レベルの研究、特に基礎研究における柱として、研究インフラに着目している。
       目標の詳細としては、1) 欧州レベルに沿った研究インフラの評価や、2) 研究インフラの合理化や国際性の強化を目指した支援があげられている。
       具体的な行動目標としては、①国にとって重要な研究インフラをマッピングし、継続的な評価システムやモニタリングシステムを開始すること、②国内における研究インフラの支援に向けた資金策とガバナンスの構築があげられている。2015年から2017年までの3年間の予算は3億4290万ユーロである。

  • (4) 第4の目標:官民連携
    •  第4の目標は官民連携である。「イタリア国家研究計画(PNR)(2015年~2020年)」では、社会におけるイノベーション、研究に対する理解、研究の役割に関するコミュニケーション等を通じ、社会との交流に力を入れている。
       目標の詳細としては、1) 研究分野における企業との連携と参加による官民連携を強化し、イノベーションに向けた広域ネットワークの構築を促進すること、2) 新たなソリューションやサービス、革新的な製品の市場導入を目指した研究成果応用、研究イノベーションにおける新分野の開拓を実現すること、3) 革新的なソリューションに対するニーズに基づいた研究推進政策を実施すること、4) 成果への自由なアクセス、研究における社会的責任の保証、5) 研究への投資が生み出す価値を市民に還元し、イノベーションを促進することがあげられている。
       具体的な行動目標としては、小規模インフラの調整や12の専門分野における産業研究とニーズの調整を含めた、産業研究・イノベーションに対する民間資金による支援等があげられている。 2015年から2017年までの3年間の予算は4億8,710万ユーロである。

  • (5)第5の目標:南部地域への支援
    •  第5の目標は、南部地域への支援である。これは国だけでなく州のプログラムとも連携し実施される。
       目標の詳細としては、研究開発の実施や利用の可能性を向上させ、南部地域に競争力を持たせることがあげられている。
       具体的な行動目標としては、①人的資本への投資(研究者の流動性、優れた人材や専門家の招へい)、②研究インフラの整備があげられている。
       2015年から2017年までの3年間の予算は4億3,600万ユーロである。

  • (6)第6の目標:投資の質と効率の向上
    •  第6の目標は、投資の質と効率の向上である。これは第1から第5の目的の基礎となるものであるが、評価プロセスの強化、モニタリング、透明化、簡素化、管理の強化が実施される。
       目標の詳細としては、研究およびイノベーションにおける公的・民間投資の質や効率の向上があげられている。
       行動計画の詳細としては、運営強化計画(PRA)の実施があげられており、①運営活動の透明性、②介入措置の選択、運営および実施の手続き、③ガバナンスおよび調和のある競争、④受益者および実施者の運営能力、⑤契約締結、資金供与手続きおよび管理手続きの簡素化、⑥監視および評価、⑦情報に基づいた企画立案の実現が求められている。
       2015年から2017年までの3年間の予算は3,480万ユーロである。

4. ファンディングシステムの概要23

4.1研究開発通常予算(FOE)24

4.1.1 国家研究計画(PNR)

 研究開発通常予算(FOE)は、教育大学研究省(MIUR)の管轄下にある公的研究機関に対するファンディングである。これは公的研究機関による提案に基づき、国家研究計画(PNR)(2011年~2013年)のガイドラインに沿う形で配分されている。
 国家研究計画(PNR)(2011年~2013年)では、教育大学研究省(MIUR)による調整の重要性が強調されており、この観点から配分されている。

4.1.2 特徴

 2011年以降、リソースの効果的かつ効率的な使用を目指し、ファンディングの一部(少なくとも7%、今後徐々に増加)は研究機関により提案された特定のプログラムやプロジェクトのために確保され、提案された内容の利点やその質をもとに配分される。
 またファンディングのもう一部分(全体の8%以下)は「フラグシッププロジェクト」に充てられている。フラグシッププロジェクトとは、国にとって戦略的に重要な領域における研究に関連するものである。

4.1.3 実施機関

 このファンドは教育大学研究省(MIUR)により管理されており、管轄下にある公的研究機関のみファンディングを受ける資格がある。

  • イタリア宇宙局(ASI)
  • イタリア学術会議(CNR)
  • 科学技術研究のためのトリエステ・コンソーシアム
  • イタリア「ドイツ研究」機構
  • 国立高等数学研究所(INDAM)
  • 国立天体物理学研究所(INAF)
  • 国立核物理研究所(INFN)
  • 国立地球物理学・火山学研究所(INGV)
  • 国立海洋学・実験地球物理学研究所(OGS)
  • 国立計測研究機構(INRIM)
  • エンリコ・フェルミ物理学博物館・研究学術センター
  • アントン・ドーン臨海実験所

2013年よりこのファンドは教育部門にある公的研究機関でも使えるようになった。

  • 国立教育学習システム評価機構(INVALSI)
  • 国立文書イノベーション教育研究機構(INDIRE)

4.24.2 基礎研究投資ファンド(FIRB)25

4.2.1 概要

 教育大学研究省(MIUR)によるファンディングであり、管轄下の大学や公的研究機関のみが「Future in Research」プログラムを受ける資格を有する。
 基礎研究投資ファンド(FIRB)は、国際的に高い科学技術レベルの基礎研究活動にファンディングを行うことにより、知識の獲得や競争力の向上に資することを目的としている。
 ちなみに基礎研究投資ファンド(FIRB)では、基礎研究を「科学技術の知識の獲得に向けられた活動であり、産業もしくは商業化の目的を伴わない活動」と定義している。

4.2.2 特徴

 世代交代を促すために、2008年から年1回、教育大学研究省(MIUR)は「Future in Researchプログラム」の公募を出している。「Future in Researchプログラム」では、40歳以下の若手研究者に、欧州研究会議(ERC)により定義されたカテゴリーに含まれる基礎研究プロジェクトに対して財政的な支援をしている。

4.2.3 教育大学研究省(MIUR)が実施機関に求める活動

 教育大学研究省(MIUR)は基礎研究投資ファンド(FIRB)を通じて、①国際的に高いレベルの基礎研究プロジェクト、②複数のセクターにわたる技術開発のための戦略的プロジェクト、③政府もしくは官民の研究インフラに権限を与えるようデザインされたプロジェクト、④国際的に高いレベルの公的もしくは民間研究センターの設立、権限委譲、連携に向けたプロポーザルの実現を目指している。

4.3研究助成ファンド(FAR))26

4.3.1 概要

 研究助成ファンド(FAR)では、今ある問題を解決するような研究成果や解決策を産業生かすことが必要と考えており、産業応用研究を研究システムにおける現実的・効率的かつ重要な要素と考えている。また知的財産の保護や革新的な起業家精神にも着目している。このファンドは教育大学研究省(MIUR)により直接管理されている。

4.3.2 特徴

 教育大学研究省(MIUR)は国家予算から毎年配分されている。国家実施プログラム(National Operative Programme(PON))によりカバーされているプロジェクトや、構造的基金(特に欧州地域開発基金(ERDF)、欧州特別基金(ESF)、地域政策実施循環基金27)により共同出資されたものも研究助成ファンド(FAR)の元で管理される。研究助成ファンド(FAR)は産業研究のための公的ファンドであり、競争前段階の開発や訓練活動も含まれる場合もある。

4.3.3 ファンディングを受ける資格のある組織

 研究助成ファンド(FAR)からの財政的な補助をうける資格があるのは、①製品やサービスを生産する企業、②輸送業(陸海空)、③1985年8月のイタリア法第443号による職人企業、④コンソーシアム企業(企業が50%以上の株式を保有、もしくはイタリアの「不況」エリアに本社があるコンソーシアムの場合は30%以上)、④1994年3月25日の教育大学研究省(MIUR)の決議案によるサイエンスパークである。

4.3.4 教育大学研究省(MIUR)が実施機関に求める活動

 活動としては大きく2つある。1つ目は「産業研究」であり、知識の獲得を目的とした計画された研究や投資(新製品、生産プロセスやサービスの開発に有用、もしくは既存の製品、プロセス、サービスにとっての重要な改良に有用)などがある。2つ目は「競争前段階の研究」であり、新しく、改善、改良され、販売や使用に向けられたものであり、計画・プロジェクト・製品のデザインにおける研究上の発見を具体的な形にするものであり、商業目的には適さない試作品の作成も含んでいる。さらに研究者とテクニシャンの訓練も活動に含まれている。

4.4国益に資する研究プロジェクト(PRIN)28

 国益に資する研究プロジェクト(PRIN)は教育大学研究省(MIUR)が管理しており、3年間のファンディングの公募をアナウンスしている。ファンディングの対象機関は、全てのイタリアの大学や大学の機関、国営もしくはその他、特別法による中等学校や教育大学研究省(MIUR)の管轄下の公的研究機関も含まれている。「国益のプロジェクト」のファンディングにおける法令の変更に伴い、教育大学研究省(MIUR)は共同ファンディングの配分、グループ研究、評価に関する新しいメカニズムを導入している。

4.5国家運用プログラム(NOP)

 教育大学研究省(MIUR)により国家運用プログラム(NOP)も実施されている。これは欧州構造・投資基金(ESIF)を通じて実施されており、欧州レベルにおいて経済・社会・地域の融合を促進し、不均衡を是正することを目的としている。「国家運用プログラム(NOP):研究とイノベーション2014年~2020年」では、発展移行地域(TR)(アブルッツォ州、モリーゼ州、サルデーニャ島)と発展途上地域(LD)(バジリカータ州、カンパニア州、カラブリア州、プーリア州、シチリア島)を支援している。

4.6その他のプログラム

 教育大学研究省(MIUR)は上記以外にもプログラムを実施しており、戦略的な領域での研究開発や知識移転の推進が目的である。国家南極研究プログラム(PNRA)や国家航空宇宙研究プログラム(PRORA)などがあげられる。

4.7EUのプログラムとファンディングスキーム

 Horizon 2020 とは、2014年~2020 年までの研究開発・イノベーション投資の方向性を定める枠組である。FP7 の後継プログラムという位置づけであるが、FP7 と並行するプログラムとしての位置づけであった欧州イノベーション技術機構(EIT)や競争力・イノベーション枠組みプログラム(CIP)の一部を含む、より広範なプログラムとなっている。Horizon 2020は欧州のグローバルは競争力を強めるためにデザインされ、卓越した科学、産業のリーダーシップ、社会の挑戦という3つの柱を中心に構築されている。

5. EUの政策との関係29

5.1EU の科学技術・イノベーション政策

 EU(欧州連合)とは、欧州の地域共同体であり、1951年に設立された欧州石炭鉄鋼共同体に端を発し、1993 年のマーストリヒト条約発効以降現在の形態であるEU となっているが、イタリアは欧州石炭鉄鋼共同体に加盟しており、ドイツ・フランス等と共に、当初から関わっていた国の一つである。
 EU の科学技術・イノベーション政策は、原則としてEU の加盟国に権限が付与されており、その規模はEU 全体の政策から見ればごく一部に過ぎないが、政策全体における優先順位は高い位置を占めている

5.2Horizon 2020

 Horizon 2020 とは、2014年~2020 年までの研究開発・イノベーション投資の方向性を定める枠組である。Horizon 2020 には3 つの大きな柱とその他の取り組みがあり、それらに従って公募型の資金配分がされる予定である。
 第一の柱は、「卓越した科学」である。これは、基礎研究支援や研究者のキャリア開発支援、インフラ整備支援などを通じ、欧州の研究力を高めることを目的としたものである。7 年間で約242 億ユーロの資金が配分される。
 第二の柱は、「産業リーダーシップ」である。これは、実現技術や産業技術研究の支援、リスクファイナンスの提供、中小企業の支援などを通じ、技術開発やイノベーションを推進するものである。7 年間で約165 億ユーロが配分される。
 第三の柱は、「社会的な課題への取り組み」である。ここでは7 つの社会的課題を定義し、その解決に資する様々な取り組み(基礎研究からイノベーション、社会科学的な研究まで)が行われる。ただし、この柱では、より市場に近い取り組み(パイロットテスト、テストベッド、デモンストレーションなど)に主眼が置かれている。7 年間で約286 億ユーロが配分される予定である。
 その他、欧州イノベーション技術機構(EIT)、共同研究センター(JRC)、エクセレンスの普及と参加の拡大、社会とともにある・社会のための科学など、相対的に規模の小さい複数の取り組みがあり、その取り組みごとに公募が行われる。
 2014年のEU 28カ国全体の拠出額30は約1,165億ユーロであり、そのうちイタリアは約144億ユーロ(12.33%)であった。31
 またHorizon 2020に限って見た場合、2016年9月時点において、Horizon 2020の全体の競争的資金(172.5億ユーロ)のうち、イタリアには8.2%である14.1億ユーロが配分されている。32

5.3Horizon 2020での公募(2014年)に対する評価

5.3.1 EUメンバー国の参加傾向

 2015年12月1日付のEU28メンバー国における参加国により署名されたグラント協定とのつながっているHorizon 2020の配分を見ると、ドイツに拠点を持つ組織がEUの基金の最も大きな割合を受け取ってきている(20.69%)。次が英国の15.90%であり、フランスの11.61%である。これにスペイン(8.74%)、オランダ(8.52%)、イタリア(8.19%)なども合わせると、これらの国々で2014年の公募におけるEUの基金のほぼ4分の3を受け取っていることになる。
 2014年のHorizon 2020におけるEU ContributionはEU28カ国全体で93億ユーロであり、イタリアはそのうちの8.19%(7.6億ユーロ)であった。前述のとおり、科学技術以外も含めたEU 28カ国全体の拠出額のうちイタリアが占める割合は約12.33%であったが、Horizon 2020の配分割合は8.19%であった。つまりHorizon 2020のみを見れば、イタリアは拠出額の割合よりももらう割合の方が小さいことが分かる。
 なおイタリアの場合、後述のように欧州構造・投資基金(ESIF)から受け取っている資金があり、2014年~2020年の予算額は約437億ユーロである。そのうちイタリアは約40億ユーロである。これを2014年1年間で見てみると、全体の予算額は約62.4億ユーロであり、イタリアは約5.7億ユーロであった。これとHorizon 2020の予算額を合わせてみると、EU全体の予算額は約155億ユーロであるのに対して、イタリアは13.3億ユーロ(8.58%)を受け取っていることになる。科学技術以外も含めたEU 28カ国全体の拠出額のうちイタリアが占める割合は約12.33%であることを考えれば、Horizon 2020と欧州構造・投資基金(ESIF)を合わせて見ても、イタリアは、拠出額の割合よりももらう割合の方が小さいことが分かる。33

5.3.2 Horizon 2020の3つの柱におけるメンバー国ごとの申請における採択率

 採択率に関しては、EUメンバー国のパフォーマンスは3つの柱ごとで、かなり異なっている。オランダ、英国、オーストリア、アイルランドのような国では、3つの柱ともに採択率は15%程度もしくはそれ以上である。しかしイタリアは3つの優先事項のいずれも15%未満であり、英国・フランス・ドイツなどと比べると採択率が低くなっている。

5.4共同研究センター(JRC)

 共同研究センター(JRC)とは欧州委員会に対して情報提供を行うシンクタンクであるとともに、計測標準等の技術サービスの提供等も行っている。欧州委員会の総局のうちの一つを構成し、欧州の研究開発・イノベーション政策に資する研究を行っている。ベルギーのブリュッセルに本部を置くとともに、欧州の各地に7 つの研究所をもつ。そのうちイタリアにある研究所は次の3つであり、3つともイタリア北部にあるロンバルディア州イスプラにある。

5.4.1 市民保護・セキュリティ研究所(IPSC)

 世界の安定とセキュリティ、危機管理、海洋・漁業政策、必須インフラの保護等の分野の研究・情報提供を行う。工学、ICT、衛星画像処理・分析、リスクアセスメント等の分野での強みをもっている。

5.4.2 環境・持続可能性研究所(IES)

 人間と物理環境との相互作用、戦略資源(水・土地・森・食料・ミネラル等)の持続可能な管理の分野での研究・情報提供を行う。分野横断的な研究を行うとともに、観察結果などを共有するためのICTインフラの開発にも取り組んでいる。

5.4.3 健康・消費者保護研究所(IHCP)

 食料品・消費者製品、公共医療、ナノテク、動物実験への代替案、遺伝子組み換え等について研究・情報提供を行っている。

5.5欧州構造・投資基金(ESIF)

5.5.1 概要

 Horizon 2020とともに重要なものが、欧州構造・投資基金(ESIF)34である。これは5 つの基金36を総称したもので、欧州域内で相対的に開発の遅れた地域を支援することが目的である。EU 域内の地域間の経済的・社会的不均衡の是正、拡大予防を行う意味も持っている。

 欧州構造・投資基金(ESIF)を用いた取り組みの一つとして、科学技術・イノベーションの推進がある。欧州委員会によると、2007年~2014 年において、860 億ユーロが欧州構造・投資基金(ESIF)から研究・イノベーションの取り組みに配分された。これはトップレベルの科学技術を支えるものではないが、その金額的インパクトは無視できない。

5.5.2 研究・イノベーションにかかる配分額

 欧州構造・投資基金(ESIF)のうち研究・イノベーションの領域に資金を配分するのは、欧州地域開発基金(ERDF)と地域開発のための欧州農業基金(EAFRD)である。2014年~2020 年の予算額は、約437 億ユーロである。ここでは、研究・イノベーションというテーマに基づき配分されている資金について述べる。
 2014年~2020 年の欧州構造・投資基金(ESIF) からの国別配分額は、以下の通りである。ポーランドに対する配分額が最も大きく、80 億ユーロ強である。次に大きいのがスペイン(約50 億ユーロ)であり、ドイツ(約40 億ユーロ)、イタリア(約40億ユーロ)、チェコ(20 億ユーロ強)と続いている。イタリアはEU加盟国の中では相対的に高い位置を占めており、配分額を多くもらっていることが分かる。

 次に「研究・イノベーションにかかる欧州構造・投資基金(ESIF) の国別配分額」について、人口一人当たりの配分額を見たのが次の図である。最も多くの配分を受けている国はエストニアで、約3,400 ユーロであった。リトアニア、ラトビア、スロバキアが、約2,800 ユーロで続いている。ここから分かることは、旧来からのEU 加盟国であるEU15 の多くは、数百ユーロ程度であり、新規加盟国であるEU13 への配分額が相対的に大きい傾向にあることであり、一部の例外を除き、概ね新規加盟国のEU13 に対し優先的に配分されていることが分かる。
 なお、英国・ドイツ・フランス・イタリア・スペインといった国々にも低開発地域または移行段階地域が複数あり、これらの国々もESIF から多くの資金を受け取っており、イタリアも配分額の総額だけでなく、人口一人当たりの配分額もそれなりに大きなものとなっている。

6. 科学技術のインプットとアウトプット

6.1科学技術・イノベーションのインプット

6.1.1 研究開発費(総額PPP)

 主要国の研究開発費の総額(購買力平価)について、2013年のUNESCO統計で見てみると、米,国が4,570億ドル、中国が3335億ドル、日本が1,602億ドル、ドイツが1004億ドル、フランスが556億ドル、英国が413億ドル、イタリアが275億ドルであった。
 イタリアはドイツ、フランス、英国よりも小さい額であった。

図表6-1 主要国の研究開発費の総額(2013年)の比較

図表6-1 主要国の研究開発費の総額(2013年)の比較

UNESCO35

6.1.2 研究開発費(総額PPP)の経年変化

 主要国の研究開発費の総額について、2004年から2013年までの10年間の経年変化を見たのが次のグラフである。イタリアの研究開発費の総額(購買力平価)の経年変化について、UNESCO統計で見てみると、2006年に200億ドルを超え、2010年に250億ドルを超えている。10年間で見ると、オランダより多いがドイツ、フランス、英国よりも少ない額で推移してきたことが分かる。

図表6-2 研究開発費の総額(2004年~2013年)の比較

図表6-2 研究開発費の総額(2004年~2013年)の比較

UNESCO36

6.1.3 研究開発費の対GDP比

主要国の研究開発費の対GDP比(%)について、2013年のUNESCO統計で見てみると、韓国は4.1%、日本は3.5%、スイスは3.0%、ドイツは2.8%、米国は2.7%、フランスは2.2%、オーストラリアは2.2%、中国とオランダは2.0%、カナダは1.7%、英国は1.7%、イタリアは1.3%、ロシアは1.1%であった。ただしスイスの値は2012年のものを用いている。

 イタリアはスイス、ドイツ、フランスと比べて小さい値であった。

図表6-3 研究開発費の対GDP比(%)(2013年)

図表6-3 研究開発費の対GDP比(%)(2013年)

UNESCO37

6.1.4 研究開発費(負担・使用割合)

 OECDの統計から2013年のイタリアの総研究開発費(購買力平価)のセクター別による負担割合と使用割合、およびそのフローを示したのが次の図である。
 研究開発費(負担)については、企業が127億ドル(45%)、政府が117億ドル(41%)、高等教育機関が3億ドル(1%)、民間非営利が8億ドル(3%)、海外が27億ドル(10%)であった。
 研究開発費(使用)については、企業が154億ドル(55%)、政府が39億ドル(14%)、高等教育機関が80億ドル(28%)、民間非営利が8億ドル(3%)であった。

図表6-4 研究開発費のセクター別負担・使用割合(イタリア:2013年)単位100万ドル

図表6-4 研究開発費のセクター別負担・使用割合(イタリア:2013年)単位100万ドル

OECDデータをもとにCRDSが作成

6.1.5 研究者総数(FTE)

 主要国の主要国の研究者総数(FTE)について、2012年のUNESCO統計で見てみると、中国は140.4万人、米国は126.5万人、日本は64.6万人、ロシアは44.3万人、ドイツは35.2万人、韓国は31.6万人、フランスは25.9万人、英国は25.6万人、カナダは16.2万人、イタリアは11.1万人、オーストラリアは10.0万人、オランダは7.3万人、スイスは3.6万人であった。ただしオーストラリアは2010年のデータである。
 イタリアはオランダやスイスよりは多いものの、ドイツ、フランス、英国よりも少ない位置であった。

 

図表6-5 主要国の研究者総数(FTE)

図表6-5 主要国の研究者総数(FTE)

UNESCO38

6.1.6 人口100万人あたりの研究者数

 主要国の人口100万人あたりの研究者数について、2012年のUNESCO統計で見てみると、韓国は6,362人、日本は5,084人、カナダは4,634人、オーストラリアは4,531人、スイスは4,481人、ドイツは4,379人、オランダは4,372人、フランスは4,073人、英国は4,029人、米国は4,019人、ロシアは3,094人、イタリアは1,853人、中国は1,036人であった。ただしオーストラリアは2010年のデータである。
 これは日本の4割弱、米国の5割弱にあたり、スイス、ドイツ、フランスなどと比べても小さい数値であるといえる。

図表6-6 人口100万人あたりの研究者数

図表6-6 人口100万人あたりの研究者数

UNESCO39

6.1.7 研究者の組織別割合

 主要国の研究者の組織別割合について、2012年のUNESCO統計で見てみると、日本、米国などは企業に所属する研究者の割合が70%近くであり、企業に所属する研究者の割合が多いといえるが、スイス、イタリア、英国などは企業に所属する研究者の割合が50%を下回っており、企業に所属する研究者の割合は他の主要国と比べた際に、あまり多くないといえる。
 イタリアでは、企業に所属する研究者の割合は4割を下回っており、むしろ大学に所属する研究者の割合が多いといえる。

図表6-7 研究者の組織別割合(%)(2012年)

図表6-7 研究者の組織別割合(%)(2012年)

UNESCO40

6.1.8 女性研究者の数と割合

 UNESCOの2013年の統計によれば、女性研究者数(FTE:フルタイム換算)は、ドイツが80,353人、フランスが69,418人、イタリアが42,004人、オランダが19,576人であった。研究者全体に占める女性研究者の割合はイタリアが36.2%、フランスが26.1%、オランダが25.5%、ドイツが22.7%であり、イタリアの割合が高くなっている。

図表6-8 女性研究者数と割合(%)

図表6-8 女性研究者数と割合(%)

UNESCO

6.2行政機構

6.2.1 論文数(総数)

 文部科学省科学技術・学術政策研究所がトムソンロイター社(現、Clarivate Analytics社)のデータを元に分析した「科学研究のベンチマーキング2015」によれば、2011年から2013年に発表された全分野における科学論文数は、1位が米国(26.1%)、2位が中国(14.9%)、3位がドイツ(7.4%)、4位が英国(7.1%)、5位が日本(6.2%)となっている。
 イタリアはシェア4.5%で世界7位となっている。米国、中国、ドイツ、英国、日本、フランスよりは少ないものの、カナダ、インド、スペインよりは多い状況である。

図表6-9 国地域別論文発表数(2011年~2013年)

図表6-9 国地域別論文発表数(2011年~2013年)

文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーキング2015」41

6.2.2 論文数のシェア(総数)

 これを、10年ごとの経年変化で見たのが次表である。世界順位はそれほど大きな変化はないが、シェアは1990年代に増加したものの2000年代にはあまり変化がないことが分かる。

図表6-10 イタリアの科学論文数の世界順位とシェアの変化

図表6-10 イタリアの科学論文数の世界順位とシェアの変化

文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーキング2015」

6.2.3 論文数(1%論文)

 上記の「科学研究のベンチマーキング2015」で、論文の質に関係するとされる引用度を考慮した順位を見たい。
 文部科学省科学技術・学術政策研究所がトムソンロイター社(現、Clarivate Analytics社)のデータを元に分析した「科学研究のベンチマーキング2015」によれば、2011年から2013年に発表された国地域別Top1%論文数は、1位が米国(50.3%)、2位が中国(15.7%)、3位が英国(15.7%)、4位がドイツ(13.5%)、5位がフランス(9.0%)となっている。
 イタリアはシェア6.8%で世界7位となっている。米国、中国、英国、ドイツ、フランス、カナダよりは少ないものの、オーストラリア、カナダ、スペイン、日本などよりは多い状況である。

図表6-11 国地域別Top1%論文数(2011年~2013年)

図表6-11 国地域別Top1%論文数(2011年~2013年)

文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーキング2015」42

6.2.4 論文数のシェア(1%論文)

 これを、10年ごとの経年変化で見たのが次表である。世界順位はそれほど大きな変化はないが、シェアを増大させてきているのがわかる。

図表6-12 イタリアのTop1%補正論文数の世界順位とシェアの変化

図表6-12 イタリアのTop1%補正論文数の世界順位とシェアの変化

文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーキング2015」

図表6-13 イタリアの2011年~2013年の分野別Top1%補正論文数

図表6-13 イタリアの2011年~2013年の分野別Top1%補正論文数

文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーキング2015」

6.2.5 QSランキング

 イギリスの調査会社QS社は、毎年世界の大学の国際比較を実施しており、その結果を「World University Rankling」として公表している。最新版は2015/16版であり、このデータを用いて、400位以内に入った主な国の大学について、それぞれの国で最も順位が高かった1校を記載し、イタリアについては、400位以内に入った大学を全て記載したのが次の表である。
 ミラノ工科大学(Politecnico di Milano)が187位、ボローニャ大学(Alma Master Studiorum-University of Bologna)が204位、ローマ・ラ・サピエンツァ大学(Sapienza University of Rome)が213位、ミラノ大学(University of Milan)が306位、パドヴァ大学(Universita di Padova)が309位、トリノ工科大学が314位、ピサ大学が367位であった。

図表6-14 大学ランキング(QS)におけるイタリアの大学の位置

図表6-14 大学ランキング(QS)におけるイタリアの大学の位置

QS World University Rankling2015/16

 213位のローマ・ラ・サピエンツァ大学はローマにあるが、それ以外の187位のミラノ工科大学、204位のボローニャ大学、306位のミラノ大学、309位のパドヴァ大学、314位のトリノ工科大学、367位のピサ大学は全てイタリアの北部に位置している。つまりイタリアの大学の中で、QSランキングで評価の高い大学は北に集中していることが分かる。

6.2.6 ノーベル賞

 1996年~2015年までの20年間に限って見た際に、受賞時の所属がイタリアの機関である研究者はいない。2002年にRiccardo Giacconiがノーベル物理学賞、2007年にMario R. Capecchiがノーベル医学・生理学賞を受賞しているが、両者ともイタリアで生まれた後に米国に渡った受賞者、もしくは米国籍を取得した受賞者である。ノーベル財団では、これらの受賞者を米国人として認識している。

6.2.7 特許出願数

 WIPO 統計に基づき、2007年~2014年における主要国の特許出願件数の推移を示す。主要国それぞれについて、自国及び他国に出願した件数を合計したものが次のグラフである。全体として近年、中国の出願件数が急激に増加していることが特徴的であり、米国・日本の後に、韓国・ドイツが続いている。
 2014年の中国の特許出願数(国内+海外)は837,897件であり、米国は509,622件、日本は465,987件、韓国は230,556件、ドイツは179,535件、フランスは72,369件、英国は52,612件、スイスは44,417件、オランダは37,738件、イタリアは29,298件、ロシアは28,515件、カナダは24,715件、オーストラリアは11,743件であった。
 2014年のイタリアの特許出願数(国内+海外)は29,298件であり、中国、米国、日本などと比べるとかなり小さいことが分かる。イタリアは日本と比べると人口は半分程度であるが、特許出願数は日本の約16分の1である。

図表6-15 特許出願件数の推移(2007年~2014年)

図表6-15 特許出願件数の推移(2007年~2014年)

WIPO43

7. 科学技術上のトピックス

7.1物理学

 イタリアは物理学(特に原子力と宇宙)で強さを発揮している。原子力に関しては、国立核物理研究所(INFN)は、教育大学研究省(MIUR)による管轄のもとで、物質の根本的な構成要素と法則の研究を行う機関である。核物理の理論的・実験的研究を目的に合同で原子核や天文素粒子物理学の分野の基礎研究を行うために、ローマ、パドヴァ、トリノ、ミラノの大学のグループにより1951年に設立された。今日、国立核物理研究所(INFN)は国際的に著名な約5,000名の科学者を雇用している。
 宇宙に関しては、イタリア宇宙局(ASI)は1988年に設立された。今日では、イタリア宇宙局(ASI)は欧州で重要な役割と果たしており、米国航空宇宙局(NASA)とも緊密な関係を持ち、国際宇宙ステーションの建設などにも参加している。
 イタリアが建造した多目的補給モジュールのレオナルドは、2001年3月に打ち上げられたディスカバリーに搭載され、補給ミッションを遂行して帰還した。その後5回の補給ミッションを経て、2010年4月の7回目の飛行で恒久的にISSに設置された、これによりイタリアは米国、ロシア、カナダ、ESA、日本に続き、ISSにエレメント設置することになった。また、イタリアは2007年から地球観測衛星システム、コスモスカイメッド(Cosmo Skymed)の軌道への打ち上げを開始した(8.2参照)。搭載されているリモートセンシングは、世界最新のレーダーシステムである。この衛星は、科学技術の応用(環境と気候のモニタリング)、商用や保安のための地球観測に利用されている。さらに2012年以降は、欧州宇宙機関の指揮の下でヴェガロケットのシステム開発を主導している。このように宇宙開発の分野においてイタリアの貢献は大きいといえる。

7.2北部地域の強さ

 前述のように、イタリアに企業に関しては、The Fortune 2016 のGlobal500によれば、EXOR Group(19位)は北部のトリノにある自動車部品の企業であり、Assicurazioni Generali(49位)は北部のトリエステにある保険企業である。ENI(65位)はローマにある石油精製であり、Enel(78位)もローマにある公益事業である。Intesa Sanpaolo(224位)は北部トリノにある銀行であり、UniCredit Group(300位)も北部ミラノにある銀行である。Poste Italiane(305位)はローマにある郵便事業であり、Telecom Italia(404位)はミラノにある遠距離通信の事業社である。Unipol Group(491位)は北部ボローニャにある保険業である。ローマ以外は全て北部の都市にある企業が入っており、企業の国際競争力の観点から見ても、イタリアは北部の経済が強いことが分かる。
 イタリアの大学に関しても北部にある大学が高いランキングを占めている。前述のように、イギリスの調査会社QS社による「World University Rankling」の最新版(2015/16)で400位以内に入ったイタリアの大学を見てみると、213位のローマ・ラ・サピエンツァ大学はローマにあるが、それ以外の187位のミラノ工科大学、204位のボローニャ大学、306位のミラノ大学、309位のパドヴァ大学、314位のトリノ工科大学、367位のピサ大学は全てイタリアの北部に位置している。つまりイタリアの大学の中で、QSランキングで評価の高い大学は北に集中していることが分かる。
 このようにイタリアで国際的に評価の高い企業や大学は、ローマ以外にはミラノ、ボローニャなどの北部の都市に集中する傾向があるといえる。
 また2015年にミラノ万博が開催されたが、その跡地の一部はイタリア技術研究所(IIT)、ミラノ工科大学、ミラノ大学などが参加するサイエンスパークになる予定である。

7.3イタリア版インダストリ4.044

 イタリア政府は2016年9月にイタリア版のインダストリ4.0計画を発表した。概要としては、関係省庁や研究機関が中心となり、イノベーションへの投資、能力の強化に重点を置くことで産業の改革を図ることが目的であり、2017年から2020年の4年間で130億ユーロが投入される予定である。ITを活用したものづくりの高度化を目指しているが、イタリア全体で見れば、まだネットインフラがIoTに適応できるほどには十分に整備されておらず、ドイツと同様の形というよりはネットインフラの拡充も含めた設備投資といった意味合いが強いものになる可能性もあるだろう。

7.4人材流出

 イタリア国立統計研究所(ISTAT)のデータによれば、2014年におけるイタリア国民の流入と流出に関しては、移民(入国)が29,271人であるのに対し、移民(出国)は88,859人であった。国別に見るとドイツへの移民(出国)が最も多く(14,440人)、英国(13,491人)、スイス(10,376人)、フランス(8,426人)、米国(5,181人)と続いている。
 そして移民の中でも、若いイタリア人(高度人材)が海外に移住する割合が増えている。高等教育の学位を持ちイタリアを離れるイタリア人の数は2010年以降急速に増加しており、同じくらいのレベルにあるイタリア人が帰国した数を差し引いても、補完できていない。高等教育の学位を持つイタリア人の移住の流れ(25歳より上)としては、2014年ではイタリア国内から海外に移住する人の数はイタリア国内に戻ってくる人の数の倍以上になっている。またイタリアから海外への移民のうち高等教育の学位を持つイタリア人の割合が30%近くまで上昇している。
 その背景としては、海外にはイタリア国内よりも良い仕事があることがあげられる。実際に、同じイタリア人の若い卒業生を比較した場合、海外では国内よりも、より高額な給料をもらい、しかも給料が増加するスピードがはやく、博士号を持ったイタリア人は、海外にいるほうが良い仕事に恵まれ、かなり高い給料をもらっている。これが、イタリア人(高度人材)がイタリアにあまり戻ろうとしないことの背景にあるのであろう。さらに若い外国人(高度人材)のイタリアへの流入はわずかであり、これにより補完できているわけでもない。
 このようにイタリアでは労働供給の質と潜在的な成長へのリスクが高まっているといえる。中長期的には、頭脳流出はイタリアの経済成長のみならず、財政の悪化にもつながるだろう。

7.5ラクイラ地震

 2009年4月にイタリア中部アブルッツォ州のラクイラでマグニチュード6.3の地震が発生した。この地震では309人が亡くなり、約6万人が家を失った。ラクイラではこの地震が起こる数ヶ月前から弱い群発地震が頻発しており、住民の間では不安が広がっていた。そのためラクイラ市では行政官と科学者から構成される委員会を設置し、その委員会の出したメッセージは住民からは「安全宣言」と受け取られていた。しかしその6日後にこの大地震が起こったため、市民たちはこの「安全宣言」があったために被害が大きくなったとして、行政官と科学者7名を過失致死罪で刑事告訴に踏み切った。一審では禁固6年の有罪判決を受けたが、ラクイラの上級裁判所は2014年11月10日の二審では無罪判決が言い渡された。この件では科学者が未来を予測したために罪を問われることになれば、科学者は自由に発言できなくなるとして議論を巻き起こした。科学者と社会との関わりという観点から見ても、特筆すべき事件であったといえる。

7.6建築学

 建築学における国際的な賞であるプリッカー賞45の受賞者は、1996年から2015年までの20年間で見ると、日本4名、英国3名などが受賞しており、イタリアに関しては、1998年にレンゾ・ピアノが受賞している。

7.7研究システムの課題46

7.7.1 公的債務の増加と改革の必要性

 2008 年に発生した世界的な経済金融危機(いわゆるリーマン・ショック)や2011 年の欧州債務危機の後、イタリアの財政収支は悪化した。イタリアでは生産性の向上が鈍く、これが競争力の回復を妨げており、公的債務比率はなかなか低下しない状況になっている。生産性が向上しづらい背景としては、イタリアでは構造的な脆弱性の問題があげられ、その結果イタリアのGDP成長率は年率1.5%であり、これはEUでの平均値の3分の2程度となっている。労働市場、銀行部門、行政改革、税制改革など様々な改革が求められている。

7.7.2 教育制度改革の現状

 は進行中であるが、大学などの高等教育、研究開発、ブロードバンド通信への投資は相対的に見て低いままである。30歳から34歳までの人々のうち高等教育を受けた人の割合はEUの中で最も低い国の一つである。研究やイノベーション(特に民間セクター)と同様に高等教育への支出は少なく、産学連携は最適な状況とはいえない。
 2016年の安定化法案により、850名のテニュアトラックの若手研究者と650名の新しい正教授と准教授を雇用するための資金が提供されるようになったものの、年配の教官に関する問題に対処するには充分とは言えず限界があるといえる。

7.7.3 産学連携の脆弱性47

 イタリアでは産学連携が弱いことがあげられる。EUROPEAN COMMISSION によれば、2012年の「高等教育機関と協力している革新的企業の割合」に関しては、EU、ドイツ、フランス、スペインと比べると、イタリアは10人~49人、50人~249人、250人以上の全ての企業区分で、EU、ドイツ、フランス、スペインよりも高等教育機関と協力している革新的企業のシェアは低くなっている。従業員数が250人より多い企業では、EUは約35%、ドイツは約40%、フランスは30%強であるが、イタリアは約25%に留まっている。

7.7.4 イタリア企業の特徴

 イタリアではローテク企業が多いことがあげられる。ハイテクで知識集約型のサービスやハイテクの製造活動のシェアが低く、ローテクの製造活動のシェアが高いことは、イタリアのイノベーションのパフォーマンスが低い原因であり結果である。

8. 日本との関係

8.1歴史的、地理的な関係による総論48

 日本とイタリアとの関係としては、明治政府は軍事、外交、政治、法律等の指導者として多くの外国人を招聘したが、イタリア人も招聘されていた。イタリア人を招聘した目的は美術に関するものであり、エドアルド・キヨッソーネは日本の紙幣や郵便切手のデザインを手がけ、彫刻技術を日本に伝授した。またイタリアの青銅砲と要塞砲の技術を学ぶためにイタリアから数名の技師を招聘している。

8.2科学技術協定や協力関係49

 二国間科学技術協力の枠組みとしては、日伊科学技術協力協定が1988年10月 7日に署名・発効している。これは1987年5月にローマで行われた竹下総理とデミータ首相との首脳会談の際、日伊両国間の科学技術協力の推進や科学技術に関する明確な枠組みの作成への積極的な対応について合意し、10月に締結されたものである。日伊科学技術協力協定に基づき、これまでに合同委員会が11回開催されている。近年では2011年10月に東京で日伊科学技術協力合同委員会の第11回会合が開催された。
 また日伊国交150周年に関連し、宇宙分野で両国の協力をテーマとする取り組みが行われており、2016年6月にはローマで「宇宙分野における日伊協力―ガバナンス、産業、開発に向けた展望―」シンポジウムが開催された。このシンポジウムでは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とイタリア宇宙機関(ASI)との間で協力協定が締結されたこと、東日本大震災でイタリアから緊急画像の提供を受けたこと、イタリア宇宙機関(ASI)とイタリア国防省がコスモスカイメッド(Cosmo Skymed)計画(7.1参照)と呼ばれる衛星を用いた地球観測システムの開発・運用を行っていること等について言及があった。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、イタリア経済振興省・新技術エネルギー環境局(ENEA)と共同で、自励式交流・直流変換器の普及に向けた省エネルギー実証事業の実施に合意し、2016年2月24日に基本協定書(MOU)を締結した。

8.3文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の共著論文関係による分析

 基礎研究の世界で、イタリアの研究者がどこの国の研究者と共同研究をしているかを示しているのが、下の表である。国際共著相手国としては、全ての分野で米国が1位であり、英国、ドイツ、フランスなどが続いている。

図表8-1 主要な国際共著相手国(2011年~2013年、%)

図表8-1 主要な国際共著相手国(2011年~2013年、%)

出典:文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーキング2015」

 同じ資料から、10年前の状況を見たのが次表である。10年前と比べると材料科学で日本は6位だったのが10位に落ちている。化学、計算機科学&数学、工学では10年前は10位以内であったものが、最新のデータでは10位よりも低い位置になっている。この10年で協力の度合いが減少しているのがわかる。

図表8-2 主要な国際共著相手国(2001年~2003年、%)

図表8-2 主要な国際共著相手国(2001年~2003年、%)

出典:文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーキング2015」

9. 参考文献・サイト

  • 1 GDP成長率のみ2013年のデータ
  • 2 外務省基礎データ「イタリア共和国」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/italy/data.html
  • 3 外務省基礎データ「イタリア共和国」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/italy/data.html
  • 4 外務省基礎データ「イタリア共和国」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/italy/data.html
  • 5 Agriculture, value added (% of GDP)を第1次産業、Industry, value added (% of GDP)を第2次産業、Services, etc, value added (% of GDP)を第3次産業としている。
  • 6 http://beta.fortune.com/global500/list/filtered?hqcountry=Italy 収益:Revenues($M)
  • 7 CIPE: Inter-ministerial Economic Planning Committee / Comitato Interministeriale per la Programmazione Economica
    Gabriele Pasquini, “The Italian Infrastructure Framework ~The Role of the Interministerial Committee for Economic Planning and Infrastructure Development Strategies~”, Symposium on Governance of Infrastructure, 29th February 2016, OECD Conference Centre, Paris
  • 8 http://www.chistera.eu/miur
    MIUR: Ministry of Education, University and Research / Ministero dell’istruzione, dell’università e della ricerca
  • 9 CNR: National Research Council / Consiglio Nazionale delle Ricerche
    https://www.cnr.it/en/about-us
  • 10 INFN: National Institute of Nuclear Physics / Istituto Nazionale di Fisica Nucleare
    http://home.infn.it/en/the-institute/mission-and-origins
  • 11 Italian Space Agency/Agenzia Spaziale Italiana
  • 12 http://www.cira.it/en/chi-siamo-en CIRA:Italian Aerospace Research Centre/Centro Italiano Ricerche Aerospaziali
  • 13 https://www.iit.it/institute-header/institute IIT:/Istituto Italiano Di Technologia
    https://multimedia.iit.it/asset-bank/assetfile/5487.pdf
  • 14 Agenzia nazionale per le nuove tecnologie, l'energia e lo sviluppo economico sostenibile / Italian National Agency for New Technologies, Energy and Sustainable Economic Development
    http://www.enea.it/en http://old.enea.it/com/ingl/
  • 15 Ministero dello Sviluppo Economico / Ministry of Economic Development
    経済発展、エネルギー・鉱物資源、通信等を含んだ幅広い政策を行っている。
  • 16 http://www.polinternational.polimi.it/overview/  JSTCRDSによる調査(2016年12月)に基づく。
  • 17 http://www.unibo.it/en/ http://www.unibo.it/en/university/who-we-are/university-today
  • 18 http://en.uniroma1.it/sapienza/about-us  JSTCRDSによる調査(2016年12月)に基づく。
  • 19 http://www.unimi.it/ENG/university/29497.htm JSTCRDSによる調査(2016年12月)に基づく。
  • 20 National Research Programme / Programma Nazionale della Ricerca
  • 21 Guidelines for Scientific and Technological Policy
  • 22 Plinio Innocenzi, “ITALY: SCIENCE & TECHNOLOGY COOPERATION WITH CHINA”, 2013
    http://eeas.europa.eu/delegations/china/documents/eu_china/science_tech_environment/20131010_10-italy.pdf
  • 23 Research Italy https://www.researchitaly.it/en/researching/funding/programmes/
    https://www.researchitaly.it/en/strategies-and-programmes/
    国家研究計画(2011年~2013年)の元での概要である。
  • 24 Ordinary fund for the financing of research bodies and institutes (Fondo Ordinario per il finanziamento degli Enti e degli istituti di ricerca - FOE)
    https://www.researchitaly.it/en/ordinary-fund-for-research-institutes-and-bodies/
  • 25 Fund for investment in basic research
    https://www.researchitaly.it/en/fund-for-investment-in-basic-research/
  • 26 Research subsidy fund
    https://www.researchitaly.it/en/research-subsidy-fund/
  • 27 Rotating Fund for implementing Community policies
  • 28 Projects of national interest (Progetti di Ricerca di Interesse Nazionale - PRIN)
  • 29 研究開発戦略センター(CRDS)、「科学技術・イノベーション動向報告~EU編~(2015年度版)」
  • 30 TOTAL national contribution
  • 31 EU expenditure and revenue 2014-2020 http://ec.europa.eu/budget/figures/interactive/index_en.cfm
  • 32 Horizon 2020 VINNOVA http://h2020viz.vinnova.se/#/
  • 33 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)、「科学技術・イノベーション動向報告~EU編~(2015年度版)」
  • 34 European Structural and Investment Funds
  • 35 スイスは2012年のデータを使用。購買力平価(GERD in ‘000 current PPP$)による比較。
  • 36 購買力平価(GERD in ‘000 current PPP$)による比較。
  • 37 GERD as a percentage of GDPによる比較。スイスは2012年のデータである。
  • 38 Researcher (FTE: Full-time equivalence)による比較。オーストラリアは2010年のデータである。
  • 39 Researchers per million inhabitants (FTE)による比較。オーストラリアは2010年のデータである。
  • 40 Researchers(FTE) Business enterprise(%) Government(%) Higher Education(%)による比較。オーストラリアは2010年のデータである。
  • 41 整数カウント
  • 42 Top1%補正論文数で見ている。「科学研究のベンチマーキング2015」によれば、Top1%論文数のシェアだけでなく、論文数自体の時系列変化を見る必要が生じてきたため、全論文数の1/100の件数になるように補正している。
  • 43 http://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/country_profile/
    自国及び他国に出願した件数を合計したものである。
  • 44 在伊日本大使館提供資料、JSTCRDSによる調査(2016年12月)に基づく。
  • 45 http://www.pritzkerprize.com/laureates/year
  • 46 EUROPEAN COMMISSION, “COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT Country Report Italy 2016”.
    EUROPEAN COMMISSION, ”Recommendation for a COUNCIL RECOMMENDATION on the 2016 national reform programme of Italy and delivering a Council opinion on the 2016 stability programme of Italy”.
  • 47 EUROPEAN COMMISSION, “COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT Country Report Italy 2016”.
    EUROPEAN COMMISSION, ”Recommendation for a COUNCIL RECOMMENDATION on the 2016 national reform programme of Italy and delivering a Council opinion on the 2016 stability programme of Italy”
  • 48 村上義和「イタリアを知るための62章」明石書籍
  • 49 二国間科学技術協力の枠組み
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/technology/nikoku/framework.html
    日伊科学技術協力http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/technology/nikoku/ja_it.html
    在伊日本大使館提供資料、JSTCRDSによる調査(2016年12月)に基づく。