2019年7月
(研究開発の俯瞰報告書)統合版(2019年)~俯瞰と潮流~/CRDS-FY2019-FR-01
エグゼクティブサマリー

 本報告書は、各分野別に発刊されている俯瞰報告書のポイントを集約しつつ、社会や政策等の動向を踏まえた上で分野を越えた全体像として捉えることを目指し作成されたものである。

 世界においては、これまで米欧で育まれた民主主義、市場原理、科学技術を規範とする価値観がグローバリズムを推し進めてきたが、米国による自国第一主義、中国の台頭等により世界の政治・経済が不安定化し、その価値観に揺らぎが生じている。また、社会における科学技術イノベーション(STI)への期待が高まりつつある一方、AI、ゲノム編集等に係るELSIの問題など科学技術への懸念も増大しているが、このことは前述の科学技術に係る価値観の揺らぎを反映しているとも言える。

 かかる情勢の下、我が国はより良い未来社会の実現に向け、「超スマート社会=Society5.0」の実現を目標として設定し、STIの推進に取り組んでいる。個々の研究開発分野で見れば、我が国が依然として優位性を保持している分野はもちろんあるが、マクロに見て、日本の相対的地位が低下していることが懸念されており、我が国の研究力強化は喫緊の課題である。

 また、主要な研究開発分野における動向や我が国の課題についてであるが、環境・エネルギー分野では、気候変動対応、脱化石燃料化、循環型社会形成への関心が国際的に高まっている中で、ビッグデータ化やスマート化への対応等が分野を横断する大きな技術潮流となっている。我が国としては再生可能エネルギー大規模導入時代に対応するエネルギー基盤の確立、プラスチックごみ等の人工物による環境や社会への影響把握や資源循環の革新、これらを支える工学系の基礎基盤の強化などが課題である。

 システム・情報科学技術は汎用的な基盤技術であり、さまざまな社会システム、産業、他の科学技術分野においてその効果を発揮し、多様な領域での課題解決や新産業創出を加速している。我が国としては、人工知能技術を含むさまざまな情報科学技術を活用して課題解決ができる人材の育成・確保、ITを徹底活用した社会システム・産業構造の変革、次世代AIや量子科学技術等の先端分野の開拓、急速な社会浸透に対応するための倫理規範整備などが課題である。

 ナノテクノロジー・材料分野では、先端技術の技術覇権争いが世界全体へ波及するなか、先鋭化・融合化された技術の保有とそのシステム化が市場浸透への要となっている。我が国としては、未来社会を見据えた魅力的な機能を有する新材料・デバイス・プロセス技術の開発や国際競争力強化につながる材料開発基盤の構築などが課題である。

 ライフサイエンス・臨床医学分野では、大量の生命情報から法則を発見するというデータ駆動型の新しいアプローチにより生命現象の理解が格段に進展している。これにより精緻な理解と予測が研究の基本的な方向性となっている。我が国としては、個別化・層別化医療の実現、バイオエコノミーの実現、分子・細胞・組織・器官等における生命システムの解明・活用や研究体制の拠点化とそのネットワーク化による研究エコシステム・プラットフォームの構築などが課題である。

 21世紀に入って、科学技術政策はその地平を大きく拡げている。従来は科学技術を振興するための予算や制度等のさまざまな施策を指す「科学技術振興のための政策(Policy for Science)」が中心であったが、「政策課題解決のための科学技術(Science for Policy)」が重視されるようになった。この報告書が、今年本格化する第6期科学技術基本計画の検討に資するとともに、科学技術と社会とのコミュニケーションと信頼の醸成のための基盤となり、科学技術の多様な国際協力の展開に貢献をすることを期待したい。

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研究開発の俯瞰報告書 統合版(2019年)~俯瞰と潮流~
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