2017年3月
(戦略プロポーザル)植物と微生物叢の相互作用の研究開発戦略 -理解の深化から農業/物質生産への展開-/CRDS-FY2016-SP-01
エグゼクティブサマリー

 本戦略プロポーザルは、植物個体の表面および内部に存在する微生物叢(細菌、菌類などの集団)に着目し、わが国が世界レベルで強みを有する基礎研究および技術群を糾合して、植物と微生物叢との相互作用を包括的に理解することで、新たな概念に基づく農作物生産技術および物質生産技術を創出するための諸方策を提言するものである。

 世界の人口は2030 年に80 億人を超え、その頃には主要農産物需要は40~50%増加(2010 年比)すると予想されている。同時に、農業由来の窒素やリンが地球環境へ与える負荷は深刻化し、水不足や地球温暖化などの環境変動から農業が受ける影響も甚大であると予想されている。世界の持続的な発展のためには、窒素・リン肥料・水を節減しつつ、苛烈な環境変動下においても、生産量を維持あるいは増加させるために、革新的な栽培関連技術の開発がこれからの大きな課題の一つとなっている。

 従来、微生物叢は植物・動物の成長や病気などとの関係が予想されていたものの、複雑で手付かずの研究領域であった。しかし、近年の次世代シーケンサーの爆発的な性能向上に伴い、微生物叢の全容解明と制御に向けた大きな動きがはじまりつつある。植物を宿主とした微生物叢の基礎研究も近年活性化している。従来、根粒菌や菌根菌など、有益な効果をもたらす微生物については、基礎・応用研究、そして社会実装が進んできた。しかしながら、次世代シーケンサーで存在が明らかにされた、それ以外の膨大な微生物叢との相互作用研究については、ほぼ未開拓のままであり、世界中が競争を開始しつつある研究領域である。

 わが国は、当該研究領域の推進にあたってコアとなる研究分野(植物科学、微生物学、天然物有機化学など)に大きな強みを有する。それらを含めた戦略的な研究開発を推進することで、世界をリードする成果の創出が可能である。本戦略プロポーザルでは、植物と微生物叢の相互作用の包括的理解と制御基盤技術確立のための、具体的な研究開発課題として、次の4課題を提言する。

  課題1:微生物叢の把握、分離、培養
  課題2:植物−微生物叢相互作用因の同定と機能解析
  課題3:実圃場での計測に基づく評価と再計
  課題4:農業資材開発、作物生産・利用への応用

 「課題1」においては、作物生産に有効な機能を持つ微生物叢を迅速かつ効率的に選抜し、分離・培養して確保する。次に、「課題2」においては、農作物生産に有効な機能を持つ微生物群(カクテル)の同定や相互作用因子(化学物質)の発見を通して、社会実装の礎をつくる。さらに「課題3」では、植物と微生物叢の相互作用を、実際の農作物生産現場で制御するため、農作物栽培時に得られる多階層のデータを統合的に評価し、最適な生産法を設計する基盤技術を開発する。「課題1~3」は互いにフィードバックを行いながら循環的に推進する。さらに、「課題4」では、「課題1~3」を一気通貫するような先鋭的な研究開発を支援・拡大し、新たな農業資材開発や栽培マネジメント技術の創出など、新規の介入手法の開発と、社会実装の加速を目指す。これら研究開発の技術目標は、高収量、高ストレス耐性、耐病性・耐害虫性、高品質・高付加価値化、また低環境負荷、省コスト・省労力などである。

 本戦略プロポーザルの推進によって、これらの技術基盤が確立することで、わが国の持続的な農業生産基盤の構築(高収量と高品質・高付加価値化の両立)へ多大な貢献が可能である。また、世界の作物生産能力の維持・向上と低環境負荷を同時に実現でき、持続可能な食料生産およびバイオ由来の物質生産にも貢献できる。

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