2015年3月
(戦略プロポーザル)ナノスケール熱制御によるデバイス革新 - フォノンエンジニアリング -/CRDS-FY2014-SP-04
エグゼクティブサマリー

今後の社会における情報爆発への対応やエネルギーの高効率利用などの課題に対し、情報の処理や蓄積、熱電変換などのデバイスの革新が求められ、そこではナノスケールの微小空間、微小時間での熱の振る舞いに対する理解と制御が不可欠になる。本提案は、フォノンの理解と制御に基づくナノスケールの熱制御に関する新たな学術分野の構築、およびデバイス革新に向けた研究開発の推進に関するものである。

近年の情報化・ネットワーク社会においては、情報通信デバイスの高性能化によってわれわれの生活の利便性が大きく改善されてきた。一方、新たに生成される情報量は飛躍的に増加しており、2020年には現在の約10倍の40ゼタ(1021)バイトになると予測されている。この情報爆発に対応するためには、今後も情報処理やデータストレージの大幅な高性能化・省電力化に向けた技術革新が不可欠である。しかし、半導体集積回路ではナノスケールに微細化されたデバイスの発熱・放熱の問題が高性能化を阻害するようになっており、また、ハードディスクではナノスケールの微小な磁石の熱揺らぎの問題から大容量化の大きな壁に直面している。このため、ナノスケールの熱制御手法の開発によるこれらの問題の解決、あるいはナノスケールでの熱発生を積極的に活用した新たな動作原理のデバイスの開発が強く望まれる。

このような状況では、ナノスケールでの熱の振る舞いを理解し、その特性を制御し利用することが非常に重要になる。ナノスケールでは、物質中の熱の輸送を格子振動の量子であるフォノンの輸送という概念に基づき扱う必要がある。フォノンの概念は20世紀初めに発見されたが、従来のデバイス開発にはその深い理解や制御はほとんど必要ではなかったため、フォノンを基礎とするナノスケールの熱の理解や制御技術は電子物性や光学物性に比べ大きく遅れた。一方で、電子デバイス、光 デバイス、磁気デバイスの微細化がナノスケールまで進むにつれ、電子、フォトン、スピンとフォノンとを別々に取り扱っていては、デバイス動作を正しく理解し、設計する事は不可能になっている。このため、本提案では微小領域の「熱」に対してナノサイエンスの立場で理解を深め、新たな熱制御・利用技術を確立することで、新たな学術領域の構築と材料・デバイスの 革新を図ることを目的にする。

この目的のための研究課題としては、熱計測、フォノン輸送の理論・シミュレーション、材料・構造作製によるフォノン輸送制御などがあり、ナノ量子熱科学、ナノ熱制御工学と呼ぶべき新たな学術分野を構築していく必要がある。また、フォノンと電子、フォトン、スピンなどの量子系を統一的に理解し、これらが複雑に絡みあうナノスケールの物理現象を制御して、材料やデバイスの革新技術を作ることが重要である。これらの研究開発の推進にあたっては、学術分野や応用分野の垣根を越えて、ナノスケールの熱伝導に関わる研究者・技術者・開発者が研究開発の目標を共有しながら取り組むことや、知識基盤としてナノスケールの熱物性に関する詳細なデータベースを構築し、関係者が自由にアクセスして利用できる利用環境・ツールの整備の重要性などを提案する。

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