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野依良治の視点

(12)国益に向けた大学と産業界の協力体制(その2)

2017年4月21日

 前回のコラム(11)で述べたように、産学連携を効果的に進めるためには、双方が互いの立場を理解し、共同作業に関わる明確な取り決めが必要である。ここには公的機関を含む官の統合的役割があるはずである。今回は、さらに具体的な課題について考えたい。

産学官連携プラットフォームの整備

 「知の共創」により多様な研究成果を最大化し、広く社会の繁栄をもたらすには、できるだけ多くのステークホルダーが、自らの資源を効果的に共用できる相当規模の公的プラットフォームの整備が必要である。多くの企業が集う国立研究開発法人の日本医療研究開発機構(AMED)とともに、国の研究戦略実現の要である理化学研究所、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構、科学技術振興機構などには、その広範かつ高度な専門性を生かして、強力なハブ機能を発揮してほしい。

 ドイツのフラウンホーファー協会は、国民の信頼にたる公的な産学連携制度の一例である。所長権限の所在、研究者たる資格(例えば企業経験など)、学生の進路も明確であり、円滑に運営されている。米国NSFなどの様々なプログラムとともに、英国の工学・物理科学研究会議(EPSRC)の先進製造センター(CIM)の仕組み(特定分野に焦点を当てた産学連携のための製造業プラットフォーム)も参考にしてはどうか。

「イノベーション特区」の設置

 産学官連携を促進するには上記の公的ハブ機構の整備とともに、個々の大学機関に「イノベーション特区」を設置する必要がある。複数大学による共同運営もありうる。教育、学術研究を旨とする大学本体とは連携しつつも、価値観を異にする独立組織である。共同研究には、非競争的、前競争的、競争的と様々な段階があり、目標課題により実施形態も異なる。それぞれを如何に効率的に進めるか、この特区はメリハリを利かせた法的、倫理的に整合性ある組織でなければならない。当然、参加者の身分、職務管理の明確化が必要である。

 研究立案、実行のみならず、資金の調達と運用、人事、渉外、安全管理、知財権などにかかわる、民間的な強靭かつ迅速な意思決定が求められる。組織内の円滑な管理運営にかかわる「バックオフィス」とともに、多様な外部連携を司る「フロントオフィス」機能が求められる。欧米のみならず、中国、韓国の大学におけるイノベーション事情を仄聞するに、旧来の縦割り行政的措置、学術的価値観や短期的な商業化視点だけでは、とうてい運営不可能である。

 残念ながら、現在のわが国の経営者不在の大学組織では、イノベーションを目指す産業活動への対応は困難である。大学に残された時間は少ないが、個々の具体的課題の実践についても、大学人ではなく、例えば米国のDARPA研究のように敏腕のプログラム・マネージャーの登用が鍵となる。さらに国内外のイノベーション業務経験をもつ責任者の確保と有能な専門人材の育成が不可欠となる。

大学で発生する情報リスク

 大学は公器であり続ける。主に文部科学省と「日本学術振興会」からの公的資金に支えられる「学術研究」には中立性と公開性が求められる。大学内における様々な外部組織との共同研究も同様に扱われるはずである。他方、他省庁の特定政策目的研究、さらに私的資金による、時には国境を超える経済産業活動はこれとは一線を画し、知的財産権の独占、発明技術の秘匿や不正流失への対処も不可欠となる。研究成果公表の制限もあろう。オープン・イノベーションとは、目的実現にむけて知識や技術を広く持ち寄ることであり、決して公開で共同作業することではない。外部に広く開かれ、データ管理の不統一、情報機器の公私取り扱いの区別も怪しい現行の大学研究室で、果たして知財、情報セキュリティーが守れると断言できるか。

 世界経済フォーラムは「グローバルリスク2017」の中で、情報通信技術の普及に伴って、データ不正またはデータ盗難を最も発生可能性が高いリスクTop5の項目の一つとして挙げている。教員とともに博士研究員、大学院生にあまりに危機意識がないが、問題が起こってからでは取り返しがつかない。「危なくて、大学とは共同研究できない」との企業の声もあり、再度しっかりと職務研修を実施し、安全、安心を保障する強靭な共同プラットフォームを構築してほしい。


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