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野依良治の視点

(11) 国益に向けた大学と産業界の協力体制(その1)

2017年4月13日

 大学の本来の使命は、近未来を見据えた有為の人材の養成と、優れた学術研究である(コラム10)。しかし、社会の要請は時代とともに変化する。現代の「知の共創」の時代に、もはや旧来の象牙の塔的な存在に止まることなく、より発展的に機能を発揮し、多様な社会的価値の創造(イノベーション)へ貢献することが期待されている。大学は本来の使命感を堅持しつつも、教条的な原理主義を排して、環境変化に責任をもって対応しなければならない。

 大学における自律性尊重の「学術研究」は、実は特例的な営みであり、官民を問わず一般社会における研究のほとんどは、組織の使命,目的により一定の制約を受ける。従って,大学が異なる制度下の組織と協力作業を行う場合には、それぞれの役割の本質を損なうことなく最大の効果を生むべく,予め明確な取り決め(法整備、契約)が必要になる。

大学と産業界の規律ある協力関係

 「第4次産業革命」にともない、世界では破壊的な社会変革が急激に進む。米国においてはグーグル、アップル、テスラ社などのグローバルなプラットフォーマー企業が、圧倒的な資金力と人的ネットワークを背景に、基礎研究から技術開発、ビジネス展開までを包括したイノベーション活動を展開する。対抗企業群が不在のわが国では、現実を直視しつつ、産学連携を軸とする競争力ある社会横断的な共同活動が不可欠である。

 わが国の研究費総額は世界3位、対GDP比3.57%比と極めて高い。ただし民間投資が72%、国の負担は僅か19%で、イノベーションに向けた両者の有効な混合が望ましい。実際、産学連携の強化は、現内閣における最重要の課題として議論されており、その結果、2025年までに、企業から大学、公的研究機関への投資額を現在の3倍の3,500億円に拡大する目標を掲げた。しかし、この投資が産業界の経営意志に基づくものである限り、その主たる目的は短中期的な産業力強化にあり、教育や学術振興のための自由資金(unrestricted fund)の「寄付行為」ではないであろう。

 異なるセクターをまたぐ協同作業は、特定の目標を掲げかつて大学が経験したことのない形で実施されよう。大学と企業の価値観と慣習は著しく異なるので、同床異夢のご都合主義の産学連携は、本来の目的達成を阻み、またなし崩し的に大学組織の秩序混乱をもたらす。そこには互恵的効果を生む最も合理的かつ規律ある制度が必要となる。大学に旧来の役割の変化を容認、さらに積極的に推進を要請するのであれば、大学側にはそれに応じた組織の再編と新たな部署の用意が必要になる。また研究教育の波及効果の評価(impact assessment)についても、従来の論文至上主義を超えて自律的に議論すべきである。

国境を超えた資金提供への対応

 研究は連続的であり,活動を支えるのは現行予算だけではく、それに先立つ実績である。かつて生物医学分野の優れた研究で有名な米国スクリプス研究所の経営方針をめぐって、知的財産の国外流出の観点から激しい議論が巻き起こった。私立の同研究所は、主に連邦政府機関である国立衛生研究所(NIH)から資金を得て研究成果をあげてきたが、経営危機に見舞われ、他国スイスの製薬会社サンド社(のちにノバルティス社)から多額の自由研究資金の提供を受けることとし、その代わり自らの発明の商業化の第一優先権を与えたからである。

 日本国民から大きな負託を受ける国立大学法人は約6万人の教員を擁するが、その名の通り、身分や研究教育環境の相当部分が国費で保障されている。ならば、上記の様な研究成果の商業展開を企図する国外企業からの資金提供にいかに対処すべきであろうか。納得できる原則を定めて欲しい。

 もとよりわが国の大学には、多く科学的発見、独自性ある技術発明があるが、しばしば潜在的価値が認められることなく、死蔵しがちであることは残念である。むしろ海外で注目、実用化された事例も少なくない。日本企業には是非とも鋭い鑑識眼を磨き、先見性をもって実用技術、ビジネスへと結実してほしい。さらに積極的に多くのスピンオフ企業の誕生をも期待している。

産学連携、人材養成、教育の整合性

 大学がかかわるオープン・イノベーションは、単に個々の企業体、大学機関、研究者の経済利益だけに資するものではない。民間資金の提供も、大学組織の延命のためではなく、公共的存在意義を高めるためにあるはずである。多様な連携活動は、わが国の「超スマート社会」構築を通して、経済発展はじめ長期的な国益の持続に向けた制度として位置づけられる。従って行政には、連携を特定の企業と大学の当事者だけに委ねるのではなく、さらに高等教育に関わる法的整備も含め総合的な指導力を発揮して欲しい。

 産業界は、短期的な目標達成を目指しがちであるが、さらなる未来の課題解決、知識資本時代を担うイノベーター育成こそが大学の最も重要な責務の一つであることを理解しなければならない。上記の新たな特別な環境で研究に携わる学生への学位授与問題、処遇と将来のキャリアーの保証は特に大切である。決して彼らを労働力として消耗させてはならない。大学院の教育研究のあり方(コラム3)にも密接に関係する。

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