科学オリンピックだより
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「科学オリンピックだよりvol.12」
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 世界中の化学好きが集う「国際化学オリンピック」。そこでは学校の授業とは違う化学の世界が展開されています。名古屋市のトヨタテクノミュージアムの一角で開催された実験ワークショップでは,国際化学オリンピックイギリス大会で出題された「アルドール縮合」を課題に,22名の女子中高生が有機合成化学実験に取り組みました。
 今回は,化学オリンピック国際大会の参加経験者である大学生4人が講師となって,実験手順や器具の扱い方の詳しい説明をするなど,参加者との交流を図りながらの指導を心がけ,参加した【リケジョ】達も,積極的に講師に質問を重ねながら,全員が実験を完了しました。終了後は,「難しかったけれど,説明もわかり易く楽しく実験ができた」との声が多く聞かれました。

*【リケジョ】理系女子のこと。今回の参加者は,研究者,化学者,薬剤師,臨床医,管理栄養士など,
理系を志す人が多数でした。

実験操作の内容

今回行ったのは,1-インダノンと3,4-ジメトキシベンズアルデヒドという2つの物質のアルドール反応です。反応には溶媒を用いないという特徴がある実験です。この2つの物質を混ぜて,液体になったところに,水酸化ナトリウムを加えると,ここでアルドール反応が起こって,炭素と炭素の新しい結合ができますが,違った物質に変わったことで,液体ではなく固体になってしまいます。この固体を塩酸で洗い,その後濾過し,固体から液体成分を吸い取る,という実験です。溶媒を使わないことで,実験者が目の前の物質の変化をしっかりと把握して適切な対応をすることが求められるタフな実験です。
 今回は,濾過操作を大胆に簡略化しました。これは,実験者が操作の正確さに神経を使いきって,物質の変化を追いかけられなくなるようなことがないようにと考えてのことです。

実験の背景〜有機合成化学

 宇宙はいろいろな物質からなりたっています。私たちのすぐ近く,日常生活に限って考えると,自身の体自体も含め有機物質が大きな部分を占めます。それ以外の物質は無機物質です。私たちの周囲の物質は大体いろいろなものの混じりあった状態にありますが,それを人為的に選り分けて,大体純粋な状態にして有機物の性質や,別の物質に変わることを学ぶのが有機化学という化学の一分野です。その中で大きな割合を占めるのが「有機合成」とよばれる,欲しい有機物質を作る化学です。
 有機合成化学,私たちの生活に密接に関わっているのですが,高校の化学ではほとんど勉強しません。有機物質を使う実験そのものも非常に少ないのです。これはなぜでしょうか? いろいろ理由はあると思いますが,物質が変わるときには一緒にいろいろなものができるのでそれを分けたり,純品と呼ばれるきれいな状態にするのが大変ということもあるでしょう。特に大きいのが実験廃棄物の処理でしょう。
 通常有機反応は溶液中で行います。きれいな溶剤に溶かして,反応を行うということはそこにいろいろ雑多なものを混ぜることを意味します。こういう状態が汚れた状態です。溶剤の中には蒸発して空気に混じるものもあります。
 ここで出てくる考えが,「有機溶剤を使わないで反応させたらよいだろう」ということ。有機溶剤の代わりに水を使う,などという試みもあります。究極には溶媒を使わないで,必要なものだけを混ぜあわせて,欲しい物だけできてくればよいわけです。言うのは簡単ですが,実際はどうでしょうか?(次ページへ続く)

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