研究開発の方針は「食の安全に配慮した海洋資源・環境の保全」を目指して、「海洋環境を整備し、海洋生物生産の増強を図るための研究開発」を推進することとする。長崎県総合水産試験場内に設置したコア研究室を中心に、引き続き第1分野「海洋環境保全技術の開発」および第2分野「海洋生物育成技術の開発」の2つの分野に重点を置いて研究開発を実施する。
第1分野では、海洋環境モニタリングと海洋環境修復技術の開発に取組み、海洋環境情報の早期発信、赤潮消長予測技術、赤潮防除技術の開発等により赤潮被害を軽減し、安定した海洋生物生産が可能となることを目指す。
第2分野では、餌料生物の育種から特産魚種の種苗生産の技術開発に取組み、マハタ・オニオコゼ・メバルを対象魚として長崎県特産魚を開発することを目指す。マハタの種苗では昨年度より民間企業により養殖実証試験を実施中であり、養殖段階での問題点を種苗生産技術にフィードバックすることにより、安定した種苗生産技術を確立する。
地域COEの構築については、基本的な考え方を「大学・研究機関の知と水産現場の知恵の融合により新産業を創出する」こととし、本年度は地域COEの母体となる「長崎県海洋資源活用研究協議会(仮称)」の設立準備に着手する。
*中間評価以降、ミクロ海洋生物の機能探索の医薬品・化粧品の研究を中止し、サブテーマを36から12に整理統合し、コア研究室も水産試験場内に移転してより海洋の研究に特化した体制にした。 以下は中間評価以降の体制・内容について記載する。
第1分野 海洋環境保全技術の開発 |
テーマ1:海洋環境モニタリング技術の開発 |
長崎県には閉鎖性海域の代表ともいえる大村湾がある。大村湾は昭和40年以来、渦鞭毛藻による赤潮が頻発し水産業に多くの被害を与えている。赤潮発生の予知予察には、まず、現場海域に原因となる赤潮生物の存在をいち早く発見すること、その生物の最適増殖環境を調査し、現場海域の環境がその生物の増殖に適した環境であるかを判断すること、さらに、長年にわたる現場海域の海洋環境連続観察から近未来の藻類量(クロロフィル)の推移を予測する技術を完成することが肝要である。
大村湾の枝湾である形上湾に定点を設け、赤潮発生期間である7月から11月まで三年間にわたって生物環境、物理・化学環境、微生物環境の推移を共同で観測した。それらの結果を基に、大村湾の形上湾における赤潮発生の予察技術の開発を行う。
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テーマ2:海洋環境修復/赤潮防除技術の開発 |
海域に赤潮生物の出現が確認された場合(テーマ1による)、その増殖を抑制して赤潮被害の発生を未然に防ぐ技術と、養殖魚(特に種苗)の抵抗力を増大させて、赤潮による養殖に対する被害を軽減させる技術の開発を試みる。
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第2分野 海洋生物育成技術の開発 |
テーマ3:餌料用プランクトンの培養・育種と仔魚飼育環境の最適化 |
魚類の種苗生産の成否は、まず第一に適切な餌生物が十分量供給されることである。孵化した稚魚の初期餌料としては、海産のシオミズツボワムシがもっぱら用いられている。ブラインシュリンプが耐久卵を天然湖などから採取して供給されているのと異なり、この餌料生物の供給は、種ワムシから継代培養(無性生殖)し大量培養することにより行われている。このワムシが有性生殖によって作る耐久卵を大量に作成し、それを保存し、種ワムシとして利用できるようにするならば、種苗の初期餌料の供給が容易になり、種苗生産技術に革命的な変革をもたらすものと思われる。さらに、ワムシの耐久卵の生産は有性生殖によって行われるので、耐久卵の生産技術の根本的な開発には、有性生殖誘導要因の解明、さらには誘導遺伝子の解明が必要になる。このような観点から、ワムシ耐久卵の大量生産、保存、保存後の孵化率向上の技術研究を基礎から応用まで、研究を行う。
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テーマ4:特産魚種の種苗量産技術の開発 |
県総合水産試験場と樺キ崎県漁業公社では、従来から長崎県の水産資源の確保と水産養殖の種苗確保の目的で種苗量産技術の開発と技術普及に取り組んでいる。そこで、本共同研究では県特産魚となりうるマハタ、オニオコゼ、メバルを取り上げ、これらの量産技術の開発を行う。
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