採択課題
採択課題
本テーマは令和2年度をもって終了しました。所属・役職は終了当時の情報に基づきます。

ナノレベルの分解能と識別感度をもつイオンセンサの実現に向けた技術開発


プログラムオフィサー(PO)
宮原 裕二 (東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 教授)

研究開発テーマの設定趣旨

●テーマの概要

半導体産業の分野では、ムーアの経験則によるトランジスタ微細化の限界が指摘され、微細化の極限追求と並行して多様化を指向した研究が行われています。その多様化の一つの方向として半導体デバイスとバイオ・化学との融合分野の研究領域が広がりつつあり、世界的に活発な研究が展開されています。半導体を用いたイオンセンサ(ISFET)の最初の研究は1970年にさかのぼり、その後実用化されて長らく汎用pHセンサとして使用されていましたが、2010年、ISFET型pHセンサを高密度にアレイ化したDNAシーケンサが製品化され、半導体とDNAを融合したシステムとして注目を集めました。半導体技術を用いることにより、小型、高密度集積化などの特長を持ったイオンセンサが実現され、この特長を最大に活かすことで新たな応用が拓けることが期待されます。

本研究開発テーマでは上記の背景、方向性に沿った研究領域において「ナノレベルの空間分解能と識別の感度を持つイオンセンサ」に関する研究を推進します。測定対象として試料中に均一に存在するイオンのほか、生体分子の反応や細胞の応答により増減するイオン、あるいは局所的に生成、消費されるイオンなども対象に含め、測定対象に適したデバイスの構造・材料、反応スキームに関する研究開発を推進します。

わが国の産業の強みであるエレクトロニクス、分析機器、化学、素材などの企業が特徴技術を持ち寄り、アカデミアと産業界の研究者が力を合わせて研究開発を行うことにより、医療・健康、生命科学、環境、食品、情報通信などの分野で革新的な機器・システムを創出し、この融合分野で学術、製品ともに国際競争力向上に繋がることが期待されます。

●公募・選考・研究開発テーマ運営にあたってのPOの方針

本タイプはA-STEP(研究成果最適展開支援プログラム)のステージⅠの比較的アーリーフェーズの研究開発ですが、本研究開発テーマでは新規なデバイス構造や動作原理の確認にとどまらず、市場性、提案技術の競争力などを含めて将来の製品化を見据えた応用研究を推進します。イオンセンサそのものは様々のタイプの製品が既に医療や環境計測分野で使用されています。半導体技術を用いる主な特長は小型、高密度集積化ですので、この特長を活かすことにより従来のイオンセンサでは実現できない、あるいは実現が難しい分野で使用可能なデバイス・システムの開発が求められます。既に述べたISFETを利用したDNAシーケンサは100-1000万個のトランジスタを集積化したチップが用いられ、高スループット、低価格化を実現しています。このように半導体技術ならではの特長を活かした応用分野を見出すことが求められます。また、既にナノチューブ、ナノワイヤーを用いたイオンセンサ、化学センサが多数報告され、ナノレベルの空間分解能が実現されていますが、本研究開発テーマでは、社会的要請のある測定対象、将来の市場性のある測定対象、従来の方法では得られない情報など、測定対象の意義、実使用環境下での測定の信頼性なども考慮いたします。また、デバイス構造、チップレイアウトだけではなく、そのデバイスを用いて測定対象をどのように測定するのかなど、測定方法、プロトコルを含めた提案を期待します。

通常、半導体イオンセンサは半導体デバイス上に機能性分子あるいは機能性膜を形成して製作されます。pH感応膜は半導体プロセスと整合性の良い方法で形成されますが、他のイオンに対する感応膜の材料・形成方法は半導体プロセスと異なります。特にナノメータレベルの領域に形成する場合には、感応膜材料・形成方法の見直しと最適化が必要になることが予想されます。また、イオン感応膜を形成したISFETの電位ドリフト、及びそれに基づくイオン濃度測定の精度劣化の問題は過去学会などで議論されてきました。イオン感応膜の課題とともに、測定対象、測定方法にも関係する課題です。この分野の研究はデバイス開発に力点がおかれる場合がほとんどですが、信頼性が高く実際に使えるデバイス・システムを実現するためには、上記課題に対して取り組むことが求められます。

また、生体分子や細胞と組み合わせて、生体分子認識反応や細胞応答によるイオン濃度変化を検出する場合、反応場、センシング場の設計製作が重要となります。この分野もナノメータレベルのイオンセンサの可能性を追求し、応用範囲を拡張する上で重要な研究開発要素であると考えます。一細胞計測、細胞間相互作用解析、核酸解析などは、ナノメータレベルのイオンセンサの特長を活かせる分野であり、学術的な貢献も期待されます。非標識、リアルタイム、カイネティックス、局所解析など従来の方法では得られない情報が取得できる可能性があり、本融合分野の国際競争力向上に繋がることが期待されます。生体分子、細胞と組み合わせた応用で信頼性の高い結果を得るためには、信頼性の高いイオンセンサを開発する必要があることはいうまでもありません。

以上のようにナノレベルの空間分解能と識別の感度を持つイオンセンサを実現するためには、半導体分野の研究者のほかに、材料科学、電気化学、生物学などの分野の研究者が協力して、デバイス、システム、アプリケーション開発を進める必要があります。また、将来の製品のコンセプトや測定対象のターゲット、システム開発などに関して、アカデミアの研究者と産業界の研究者と十分に議論できる環境を作ることが求められます。バランスの良い研究体制の構築と実効性のある研究計画の作成が求められます。

なお、課題の実施にあたっては、研究開発チーム間の連携、情報共有を推進します。機密保持には配慮しつつ、課題間で成果などを可能な限り共有し、テーマとしての成果最大化を図ります。必要に応じて採択課題間の協力を要請しますので、対応していただきます。

このページの先頭へ

テーマの評価

このページの先頭へ

追跡評価

このページの先頭へ

プログラムオフィサー(PO)及びアドバイザー

※2021年2月現在
役 職 PO・アドバイザー
氏 名 所属機関・役職
プログラム
オフィサー
宮原 裕二 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 教授
アドバイザー 岡 弘章 コニカミノルタ株式会社 プレシジョンメディシン事業部 事業統括部 商品企画部 担当部長
アドバイザー 吉川 公麿 広島大学 ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 特任教授
アドバイザー 佐藤 縁 産業技術総合研究所 エネルギー・環境領域 省エネルギー研究部門 総括研究主幹
アドバイザー 杉崎 吉昭 株式会社東芝 研究開発センター バックエンドデバイス技術ラボラトリ シニアエキスパート
アドバイザー 野村 聡 株式会社堀場製作所 開発企画センター 産学官連携推進室 室長
アドバイザー 秀 道広 広島大学大学院 医系科学研究科皮膚科学 教授
アドバイザー 益 一哉 東京工業大学 学長
アドバイザー 三村 秀典 静岡大学 電子工学研究所 所長・教授
アドバイザー 山岡 昇司 東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 教授
(五十音順、敬称略)
このページの先頭へ

課題

※「企業責任者」および「研究責任者」ならびにその所属機関は、直近の評価実施時のものとなります。[所属機関は()内に記載]
※下線はプロジェクトリーダー(課題の取りまとめ役)を指します。
課題名 課題概要 企業責任者  評価結果 完了報告書(概要版)
研究責任者 
標準CMOS集積回路とメムスプロセスによるスマート・イオンセンサ技術の開発 イオン信号に適した新しい集積回路技術を開発します。標準CMOS集積回路上にセンサ特有の構造をメムスプロセスで形成する際、両プロセスの間に存在するリソグラフィのギャップを自己整合プロセスにより解決します。分子認識部としてプローブを固定したビーズの3次元空間位置制御技術を開発します。スマート・イオンセンサに特化した汎用集積回路およびウィルスをフィールドで10分以内に検出する小型可搬型装置を開発します。 小切間 正彦
(株式会社メムス・コア)

pdf
中間評価

(平成29年度実施)

pdf
中間評価

(平成30年度実施)

pdf
中間評価

(令和元年度実施)

pdf
事後評価

(令和2年度実施)

pdf

中里 和郎
(名古屋大学)
CMOSセンサ技術とMEMS技術を融合した高精細イオンイメージセンサ開発 微小領域のイオンの挙動を可視化するため、CMOS技術とMEMS技術によりナノレベルの空間解像度とナノモーラレベルの検出感度を持つイオンイメージセンサ製作技術を確立します。ナノ材料や生体から放出されるイオンが、センサ表面に達するまでに横方向に拡散するのを防ぐためのインターフェースの開発を進めます。さらにイオンイメージセンサの信頼性の保証、およびそのための出荷検査の基準を検討し事業化への検討課題を明確にします。 山本 洋夫
(浜松ホトニクス株式会社)

pdf
中間評価

(平成29年度実施)

pdf
事後評価

(令和2年度実施)

pdf

澤田 和明
(豊橋技術科学大学)
電子線検出によるイオン分布のナノイメージセンシングシステム イオン感応膜の電荷検出に集束電子線を用いることにより、ナノスケールの分解能を実現するとともに、細胞の単一イオンチャンネルをイメージング可能なイオンセンサシステムを実現することを目指します。本システムでは、集束電子線を用いるためナノメートルスケールの空間分解能を実現することが可能であり、センサーの加工限界などの制限を受けないため、飛躍的な空間分解能の向上が期待できます。 小粥 啓子
(株式会社アプコ)

pdf
中間評価

(平成29年度実施)

pdf
事後評価

(令和2年度実施)

pdf

川田 善正
(静岡大学)
このページの先頭へ

このページの先頭へ