評価結果
 
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事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成27年1月公開 - 社会基盤 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
安全な食環境提供のための超精密安心洗浄法の開発 北海道大学
渡部正夫
北海道大学
小野寺晃一
凝縮性気体雰囲気の中で固体表面に高速で衝突する液滴の運動に着目し、衝突後の液滴のダイナミクスにより発生する流体せん断力を用いて、食品製造プロセスの殺菌・洗浄プロセスへの技術移転の可能性を探索することが目標である。そのために、真空チャンバ内での高速液滴衝突を実現するためのシステムを構築し、固体表面衝突後の液滴のダイナミクスは周囲気体雰囲気に大きく影響を受けることを実験的に確認することができた。今後は衝突時に発生する流体せん断力を定量的に計測することによって、本洗浄法の能力を定量的に解析する予定である。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、殺菌・洗浄を実現する微粒子の除去性能については、定量的な計測すら実現できておらず、真空中での高速液滴衝突現象を観察できたのみであり、申請時に設定した課題に対する技術的検討や評価を実施することが、必要である。今後は、着想に独創性があり、斬新であるので、基礎研究としての成果を十分達成してから、産業応用を検討することが望まれる。
給排気の熱交換だけでなく花粉や黄砂を防御する空気浄化機能を有する第一種換気装置の開発 北見工業大学
松村昌典
北見工業大学
有田敏彦
住宅換気において、外気から吸入した給気中の花粉やPM2.5を、新たに開発したサイクロン分離装置を用いて除去する空気浄化機能を付加した第一種換気装置の開発を試みた。その結果、粒径がおよそ100ミクロン以下の粒子を約45%除去する性能を得た。この性能は、本開発装置を空気浄化装置として単独で用いるには不足であるが、高性能フィルタと併用することによって、フィルタの寿命が2倍程度伸びる空気浄化装置として実用化可能である。さらに今後は、サイクロン分離装置内の機構を十分検討することによって、80%以上の集塵率を実現させたあと、実用的な空気浄化機能付き第一種換気装置として、共同研究の相手先企業から製品化する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標としていた集塵率には及ばなかったが、フィルターとの併用による実用化の可能性を導いていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、集塵率、必要消費電力について、ともに次のステップへ進めるための技術的課題が明確に示されているので、課題解決による実用化が望まれる。今後は、花粉、PM2.5対策等、室内の空気浄化装置へのニーズは高く、本研究成果が応用展開された際に、社会貢献が大いに期待できるので、住宅換気メーカーとの共同研究により開発が加速されることが期待される。
オオカミ尿由来の恐怖誘起物質による野生動物との共存 旭川医科大学
柏柳誠
旭川医科大学
尾川直樹
本研究の最大の成果は、ピラジン誘導体が害獣として北海道で多大な被害をおよぼしているエゾシカに忌避および恐怖を引き起こすことを確認したことである。工業的に合成された化合物で、シカのような大型動物に統計的な有意差をもつような科学的な検証を行った初めての研究成果である。また、申請者が行った検証の範囲ではエゾシカおよびマウスにおいて、簡単には慣れが生じないことを確認した。さらに、新たにオオカミ尿中に存在するピラジンがマウスに恐怖行動を誘発することを見いだすとともに、有機合成されたピラジン誘導体の一部は恐怖行動を誘発することを見いだした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、忌避効果はマウスとエゾシカで確認したのみだが、新たな誘導体を見出す可能性を得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、忌避効果への慣れを低減させる呈示方法処方の開発も念頭に、ニホンシカ・イノシシ・サルなどへの効果を早急に検証するなどでの実用化が望まれる。今後は、ピラジン誘導体の受容体への結合力を高める等の化学修飾で忌避活性のより高い化合物も検討されることが期待される。
簡易エンドトキシン活性値測定機器による乳の品質管理および甚急性乳房炎の迅速診断 酪農学園大学
鈴木一由
牛の甚急性乳房炎を対象に生体外試料中エンドトキシン(Etx)活性値測定機(PTSTM)を活用して、(1)簡便迅速に乳中Etx活性値を測定できるか、(2)乳中Etx活性値に基づいて甚急性乳房炎の予後評価が可能か検証した。その結果、PTSTMはカイネティック比濁法と同等の正確度・感度と相同性が認められ、血漿および罹患分房乳中Etx活性値による甚急性乳房炎の予後診断は実用的ではないが、反対側分房乳では臨床応用可能な予後判定が可能であった。今後は、本疾患以外のEtx関連性炎症疾患(子宮炎・牛複合性呼吸器疾患)への応用として子宮洗浄液および肺胞洗浄液中を用いた予後診断システムの開発、さらには牛だけでなく馬、羊、犬、猫を対象とした獣医療を視野に入れて評価・検討する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初に計画した目標が概ね達成されている点、また、研究成果の今後の応用展開が期待できる点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許等の知的財産権の出願がされること、既存の方法(例えば既知の診断方法など)と比較して優れている点を具体的に示すことが望まれる。オンサイトでの簡便かつ精度の高い診断機器の開発は臨床上非常に有益なので、今後は実用化に向けて研究開発を継続することが期待される。
オホーツク海産活貝の持続供給を実現させる未利用貝の生鮮食品化技術開発 東京農業大学
松原創
東京農業大学
西澤信
北海道の漁業者は貝類漁獲高の向上を期待しているが、ホタテガイ・マガキ以外の貝類漁獲量は不安定で、持続可能な貝類を探索している。ホッキガイ漁では、それに類似したビノスガイが大量混獲される。しかし、ビノスガイは独特のえぐみを有し、貝殻が開きにくいため食用にならないとされてきた。そこで、本課題ではオーガニック技術で、えぐみ除去を試みた。その結果、いずれの試験においても、えぐみを除去に成功した。さらに、オーガニック技術により貝殻を開けることができた。今後は、えぐみ成分を探索するとともに、本技術によるビノスガイの市場展開を目指し、低迷する貝類生産に貢献したい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、諸般の事情で大規模試験は実施できなかったが、えぐみの除去などビノスガイの可食化に必要な処理条件を明確にしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、えぐみ成分の同定と数値化、季節変化の把握などでの実用化が望まれる。今後は、漁業者や加工業者との連携を強めて、大規模試験を実施すると共に実用レベルでの処理の更なる効率化を推進されることが期待される。
衛星画像を用いた分光反射率データベースの作成とその応用 弘前大学
飯倉善和
弘前大学
上平好弘
衛星画像から地表面の物理量(分光反射率)を正確に求めるには、以下の3つの課題がある。(1)空間的に変動するエアロゾルの影響の補正、(2)周りの斜面からの照返し光の精密な推定、(3)方向性の反射率の影響の補正。本研究では(1)の問題を大気の光学的厚さと分光反射率を同時に推定する方法により、(2)の問題を視野域の計算をあらかじめ行い、それを圧縮してデータベースとして保存することにより解決した。(3)の問題が今後の課題として残るが、この成果により撮影時期の異なる衛星画像の相互比較が可能となることから、これまでに蓄積された衛星画像の有効利用にもつながることが期待される。また幾何的に未補正な衛星画像の簡便な精密オルソ補正法を開発した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に地表面の分光反射率を既知として、衛星画像からのエアロゾルの空間分布を推定する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、各補正アルゴリズムにおいて数値的な検討がされており、また、産学共同等の研究開発ステップについては、商業用衛星データセットという商品と見た場合に、データ加工の各ステップについては着実な構築が見込まれ、早急な実用化が望まれる。今後は、個々のアルゴリズムの高度化とともに、知財のパッケージ化と産業につながげるために、他機関と連携したデータセット作成システムの検討が期待される。
安価で簡便な飛来・飛散塩分計測シートの開発 弘前大学
上原子晶久
弘前大学
上平好弘
既存のゼオライト吸着シートを利用して、塩分計測シートの開発を行った。本課題では、2つの目標があった。その一つは、既存のモルタル板に替わる塩分計測シートを見出すことである。2つ目は、橋脚の傾斜面などで物理的制約を受けずに塩分計測をできるシートを決定することである。2つの目標に応じた塩害環境を模擬した実験を行った結果、最適な塩分計測シートの種類と形状を決定することができた。その結果より、当初の目標を概ね達成することができたと自己評価している。一方で、NETIS登録など、実用化に関わる部分は、未達成であった。今後は、そのようなことを意識しながら、実際の橋梁などの構造物において産官学共同で塩分計測を実施したいと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、不織布に粉末状の吸着材(ゼオライト)を織り込んだシートを開発し、飛来塩分が定量的に補足できることを明らかにし、従来のモルタル版より簡易で適応範囲が広く、精度のよいものであることを検証しており、当初の目標を達成したと評価できる。一方、技術移転の観点からは、実構造物等で計測データを集積し、従来技術と同等以上の精度で計測が可能で、しかも安価で広範囲に実施できることを実証し実用化に進むことが望まれる。今後は、本技術を普及させるためには、橋梁構造物等を管理している機関と連携して実構造物で実績を重ね、その有用性を認知してもらい、社会還元につながることが期待される。
副作用のない抽だい阻害剤の開発 弘前大学
高田晃
弘前大学
上平好弘
食味が優れた易抽性ダイコンは抽だいするため春栽培ができない。本研究課題の目標は副作用を示すことなくダイコンの抽だいのみを抑制する阻害剤を開発し、より付加価値の高いダイコン栽培を可能にすることである。水耕栽培法等を活用した抽だい阻害試験を指標に各種抽だい阻害剤候補物質の比較検討を進めた結果、得られた抽だい阻害剤は葉の黄化などの副作用を示すことなく、抽だいを抑制できることを実証できた。今後は本剤の量的供給面の改善、自然条件下での抽だい阻害活性評価等を経て、実用化へ向けて研究を進展させたい。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標とした抽だい阻害剤、従来比10倍の活性を持つ3-イソ-ククルビン酸を合成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、自然条件下での有効性の確認と効率的な大量合成法の確立などでの実用化が望まれる。今後は、大量合成法については合成研究者と共に出発原料元として冷凍カボチャの生産者との連携も検討されることが期待される。
放射線作業従事者を対象とした放射線感受性を検査する実用化技術開発 弘前大学
門前暁
弘前大学
工藤重光
本研究開発は、ヒト正常末梢血有核細胞を用いて、放射線作業従事者を対象とした放射線感受性を検査する技術の実用化に向けたコスト明確化と高精度化を目指すことにある。末梢血は有核細胞と血清に分離し、前者は様々な放射線量を照射し、微小核形成試験法を実施、後者は酸化ストレス分子の解析を実施した。微小核形成試験法は国際原子力機関のマニュアルを参考に最適化を試みた。その結果、末梢血5ml由来有核細胞を用いた微小核形成試験法は約10点の評価が可能であり、現時点の解析結果から3Gyまでの評価が可能であった。これらの方法は、1検体あたり約1万円以下で試験材料を準備できることも確認した(備品等初期投資を除く)。以上のことから、末梢血を用いた放射線感受性試験の実用化は可能であることが確認された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、1mlの検体量で4段階までの線量評価が行えることが確認できた点はについては評価できる。一方、機材の遅れなどにより必要な結果が取得できていない。放射線作業者の健康管理に関する問題は、中長期的に見て重要性が増すと考えられることから、検査方法の確立に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、当初計画に従って必要な結果を取得し、検査方法の確立を目指されることが望まれる。
鉄粉詰め込み法によるコンクリート構造物中の鋼材発錆予測方法の開発 八戸工業高等専門学校
青木優介
八戸工業高等専門学校
佐藤勝俊
本研究の目標は、独自の鉄粉詰め込み法を用いて塩害環境下にあるコンクリート構造物中の鋼材の発錆を予測する方法を開発することにあった。研究期間中は塩害環境下で長年供用されてきた実部材から試験体を採取し、同方法の実用性を検証することにつとめた。その結果、現段階では同方法の実用は難しいと判断された。今後は、実際の環境下にて数十年以上をかけてコンクリート内に浸透・蓄積した塩化物イオンの溶解形態を解明することで(特に、実験室にて数週間から年程度でそうなったものとの違いを解明することで)新たな展開が開かれると考えられた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、室内試験と実構造物を活用した試験では状況が異なることがわかり、今後の検討に生かせるデータを取得できたことは評価できる。一方、試験体と実構造物から採取した試験体との違いや状態などを試験法の原理との関係などから突き詰め、再度基本に立ち返って検討計画を練り直すことが必要と思われる。今後は、従来法との比較検討を含めて成果を積み重ねて社会還元につなげることが望まれる。
遺伝子発現動態を指標とした牛の肝機能障害診断・防除法の開発 岩手大学
橋爪一善
岩手大学
小川薫
牛の肝臓及び末梢血白血球中の遺伝子発現を網羅的に検証し、肝機能を推定する指標遺伝子を同定すること、また、末梢血細胞の肝機能検証に適している細胞種を明らかにすることを目的とした。牛の栄養及びエネルギー代謝により変化し、両組織で発現変動が関連する遺伝子群をバイオインフォマテイックスにより抽出した。肝臓で栄養状態により変動する遺伝子は末梢血顆粒球で検出出来た。得られた結果から、肝機能の把握には顆粒球が適した細胞種であること、また、対象とする疾病や組織により末梢血球種が異なることを確認した。これらのことは、末梢血球中遺伝子発現の解析は疾病や代謝異常の診断を可能とすることを示している。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、牛の肝機能障害診断・防除法を開発する指標となど同定しようとし、血球成分の顆粒球の遺伝子を提唱できた。その遺伝子変異を特定する手法は各種疾病の診断により感度の良い方法となる可能性があり評価できる。一方、技術移転の観点からは、特定した遺伝子の特性および一般性をさらに明らかにする必要がある。食の安全性の確保等に有用な遺伝子診断法の確立は、社会全体に必要とされていることであり、実用化が望まれる。今後は、畜産動物に頻度多く発生する疾患に焦点を絞って、遺伝子診断の汎用性を調べることにより、本研究の有用性がさらに高まることが期待される。
ブドウの標的遺伝子を特異的に発現抑制するウイルスベクターの開発 岩手大学
磯貝雅道
岩手大学
小川薫
ブドウに自然感染できるラズベリー黄化ウイルス(RBDV)を基に標的遺伝子を発現抑制できるウイルスベクターの開発を行った。RBDVの感染性cDNAクローンを遺伝子操作によりウイルスベクターに改変し、GFP遺伝子の塩基配列の一部を組み込んだ。これをGFP発現形質転換植物に接種すると、植物のGFP蛍光の消失し、GFP遺伝子のsiRNAの蓄積およびmRNAの減少が確認された。このことから、本ウイルスベクターは、標的であるGFP遺伝子に対しウイルス誘導ジーンサイレンシング(VIGS)が誘導され、GFP遺伝子の発現抑制できることが示された。今後、開発したウイルスベクターが、植物内在性遺伝子をVIGSにより発現抑制できるか解析する必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、高感染率で安定なウイルスベクターの開発に成功し、GFP 遺伝子の発現を抑制できたことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、ブドウを宿主とするウイルスベクターが応用展開されれば、非常に大きな社会還元が期待できることは間違いないく実用化が望まれる。今後は、外来遺伝子断片を組み込む位置、この研究で検討した 3 ヶ所以外にはないかを再検討することが期待される。
超薄フィルム型太陽光エネルギー供給による超軽量小型ワイヤレスバルーンネットワーク「マイクロバルーンネット」の実用化研究 岩手県立大学
柴田義孝
岩手県立大学
大橋裕司
東日本大震災のように地震や津波等による震災によって連絡手段が確保できない被災地域における情報通信手段の迅速な復旧を可能とするため、超薄フィルム型太陽光発電を装着した軽量小型気球と複数の異種無線ユニットを組み合わせた気球ワイヤレスネットワークノードを開発した。研究項目を(1)小型軽量気球ノードの開発、(2)自立電源ユニットの開発、(3)コグニティブ無線ユニットの開発、(4)これらを総合的に組み合わせた実証実験により実施した結果、ほぼ当初の研究目標通りの機能および性能を達成出来、実用化の目途がついた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に超薄フィルム型太陽光発電を装着した気球と複数の異種無線LANを組み合わせた気球ワイヤレスネットワークノードを開発し、被災地や避難所における緊急用情報ネットワークとする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、電源ユニットを気球に取り付けることができず、地上からの電源供給の対策を図ると共に、災害時のみならず、気象観測などの場面でも有用な技術に向けての実用化が望まれる。今後は、各自治体への防災備品として、また災害が頻発する東南アジア諸国への展開も期待される。
簡便、高感度なウイロイドの網羅的診断技術の開発 公益財団法人岩手生物工学研究センター
厚見剛
公益財団法人岩手生物工学研究センター
横田紀雄
多くの農作物において、ウイロイド感染による深刻な被害が生じている。しかし、未知ウイロイドの簡便で効率的な診断技術はない。本課題では、2本鎖RNA結合タンパク質DRB4*を利用したウイロイドの簡易な精製方法の確立を試みた。従来の方法では全く検出できなかったが、本研究で検討した条件で罹病植物由来トータルRNAを処理し、DRB4*で2本鎖RNAを精製すると、ウイロイドを検出できた。しかし、その精製効率は低く、実用化に届くレベルではなかった。今後は、DRB4*に代わる新規素材を探索するなど、ウイロイドの精製効率を上昇させる手法を確立し、簡便・高感度なウイロイドの網羅的診断技術の開発を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、成果はいずれも否定的なものであったが、社会的に望まれている課題であり、具体的達成目標を掲げて検討がなされたことについては評価できる。一方、本研究において2本鎖RNA結合タンパク質DRB4*のウイロイドRNAへの結合能力は低く、DRB4*のウイロイド診断技術への適用は困難であるとされた。新たな結合タンパク質の探索という次の課題に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、DRB4*以外の新たな結合タンパク質の探索を新規課題として取り組むとともに、2本鎖RNA結合タンパク質DRB4*のウイロイド診断技術への適用の可能性は依然あり、継続して検討されることが望まれる。
東日本大震災被災地における地域分散型養蚕技術の確立 宮城大学
一田(高濱)昌利
独立行政法人科学技術振興機構
原田省三
小規模・高付加価値養蚕業の展開
東日本大震災の被災地に養蚕に関する大学の最新の研究成果を実装し、新たな雇用を生み出す事を目的とする。そして、中・長期的には、その成果を高齢化の進む国内他地域に波及し、付加価値の高い新養蚕業を創出することを目標とする。塩溶液法によって繰糸コストが抑えられることが実証されたので、今後は小規模・高付加価値養蚕業として、被災地域活性化と雇用創出のための企業化価値は十分ある。
経済的価値・社会的価値
被災地では地域住民の高齢化に加え、職場を失った若者を中心とする労働人口が大都市へと流失し、地域復興は混迷の度を深めている。この現状を打破するためには、被災地住民自身が被災地で行える事業で雇用を創出する以外に道はない。地域住民の有する養蚕業の経験と暗黙知を活用する本プロジェクトを拡大展開すれば、地域再生のための画期的ビジネスモデルとなる。「小石丸亘理」は宮城県亘理郡に存在した亘理簡易養蚕学校によってはぐくまれた蚕であり、その付加価値の高い生糸を宮城県産ブランドとして育成できる
。 今後は、本プロジェクトを仙南地域へと順次展開し、丸森町、また隣接する大津波被災地である山元町、亘理町での地域再生活動を展開する予定である。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、日本を代表する希少価値のある「小石丸」の孵化・増殖と塩溶液保存法を最適化に関する成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、立案済みのスケールアップ計画とその数年後までの事業化計画に沿い、人材育成、機材製作、管理条件の把握などの課題を解決するなどでの実用化が期待される。今後は、連携企業を軸に行政機関、試験場、国研との連携を図り地域振興にも貢献することが期待される。
有機酸と糸状菌バイオマットを活用した農地土壌用低コスト除染技術の開発 秋田大学
村上英樹
秋田大学
伊藤慎一
土壌中のセシウムをバイオマットで効率良く除染する方法を検討した。乳酸等の有機酸水溶液(2.5~10%)に土壌を浸漬させると、土壌中の糸状菌類が活性化してセシウムを抽出すると共に、同時に形成されるバイオマットに濃縮させることが明らかになった。この現象を用いて粘土鉱物からセシウムを抽出させたところ、約30%のセシウムが回収できた。また、本手法とファイトレメディエーションを組み合わせてセシウムを抽出したところ、2年間で約20%のセシウムが回収された。さらに、研究の過程で、バイオマットの形成が農作物の生長を促進させることも明らかになり、稲の栽培では、その収穫量が二倍になった。今後は、バイオマットによる除染の高効率化を目指すと共に、農作物の生長促進効果についても実用化に向けた研究を進める。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、セシウムを土壌微生物のバイオフィルムにより除染するというエネルギー低消費型の技術については評価できる。一方、バイオフィルム形成に用いる有機酸の種類と使用量、イネ以外のファイトレメディエーションの植物に関する技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、セシウムのバイオフィルムによる除染に限定して、その実用化の可能性を追求することが望まれる。
テラヘルツ波方式による絶縁被覆電線素線の損傷検査の基盤技術開発 東北大学
小山裕
本研究の目標は、配電用絶縁電線の素線の劣化状態を、テラヘルツ波を用いて非破壊的・定量的に検査するための基盤技術を確立することにある。そのため (1)適用テラヘルツ周波数の最適化と性能限界 (2)銅素線腐食程度の定量評価 (3)絶縁電線中の水の存在 の三点を目標とした。 (1)は、絶縁被覆透過率と波長による空間分解能のトレードオフから、ほぼ最適な周波数を示すことが出来、断線検出について限界を示すことが出来た。(2)は、銅素線の腐蝕程度を酸化被膜の色分析とテラヘルツ反射強度の関係を定量的に明らかにできた。(3)は、フローセルを用いた一定塩濃度水溶液のテラヘルツ波反射特性を明らかにした。本研究で基盤技術を確立することが出来たので、今後は実際の通電状態や被覆の状態変化が測定結果に与える影響そして測定の高速化等、実測定へ向けての課題を調査する予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、絶縁被膜電線の劣化を定量的に評価する仕組みをテレヘルツ波により実現する目標は達成されていると評価できる。一方、技術移転の観点からは、腐食の程度や、損傷の発見につながる計測では、実際の電線を資料とした計測データの蓄積が重要な要素となっており、これに関する企業との連携は不可欠であると思われるので、現在実施中である関連企業の協力を得て、実用化に進むことが望まれる。今後は、電力の安定供給は、発電所より分配される送電線の信頼性に依存しており、この保全管理に向けた取り組みは、世界的なニーズにも対応できることになると考えられるので、電線内部劣化診断装置として、信頼度の高い客観的な測定法が確立されることが期待される。
柔軟関節機構を搭載したスキンシップロボットシステムの開発 東北学院大学
梶川伸哉
東北学院大学
佐藤忠行
関節内部に空気圧クッションを搭載したロボットフィンガを製作し、身体ケア作業における安定接触の維持と接触表面性状を把握する機能の実現を目指した。マッサージ等で必要と想定した最大指先力については、目標を若干下回る結果となったが、身体表面を倣う作業については、一定の接触力を保ちつつ、安定した動作を実現でき、安全性の高いスキンシップ動作が実現できた。さらに、クッションの内圧変動の周波数解析から、接触材質の凹凸や固着性など表面特性識別の可能性を示すことができた。今後、皮膚に対して同様の解析を行い、皮膚性状の識別と、それを反映した効果的なスキンケア作業の実現を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、空気圧クッションを搭載したロボットフィンガを試作し、基本性能を実験的に確認しており当初の目標をほぼ達成していると評価できる。一方、、剛性値に関しては不十分な結果であるとともに実用に必要なデータ取得は不十分であり、さらなる改良とデータの積み上げが必要と思われる。今後は、提案された柔軟関節機構は、実用化されたら、介護ロボットなどに広く利用される要素技術であるので、具体的な使用目的に合わせた動作を指定して、それぞれの仕様を実現する数値目標を設定して開発を進めることが望まれる。
化学修飾した木粉によりα-リポ酸の代謝誘導作用を強化して鶏肉品質を向上させる特殊飼料の開発 秋田県立大学
濱野美夫
秋田県立大学
渡邊雅生
α-リポ酸は代謝調節作用を有することから鶏肉の旨味成分と脂質組成を改善する機能がある。そこで本研究は、化学修飾した木粉を併用することによりα-リポ酸の効果を増強させることを目標とした。また、長期給与した化学修飾木粉の作用の特徴を明らかにした。化学修飾した木粉には、α-リポ酸と同様に生体ならびに鶏肉の旨味成分の蓄積を促し、脂質成分等の代謝にも変化をもたらす作用があった。しかし、α-リポ酸の肉質改善効果を化学修飾した木粉で増強することはできなかった。今後は、本木粉の化学修飾方法等の仕様を改良し、α-リポ酸の肉質改善効果の増強を図る。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、アイディア、実験計画とその実行については評価できる。一方、木粉の別の化学修飾などによるα-リポ酸の肉質改善効果の増強に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、α-リポ酸と化学修飾された木粉のの飼料添加物としての認可の可能性を確認されることが望まれる。
食材の風味・成分・抗酸化能を残す低酸素常温乾燥法の開発 山形大学
鹿野一郎
本研究では、常温域(55℃)における低酸素濃度での乾燥法を提案した。乾燥には青汁に使われるケールを採用し、カルシウム、ビタミンC、β-カロテン、クロロフィル、スーパーオキシド消去活性を調べた。また、乾燥したケールの葉を粉末化し、その色の違いも調べた。酸素濃度は20.9%、10、0%と変化させ、凍結真空乾燥法と比較を行った。その結果、酸素濃度0%の無酸素乾燥においては、スーパーオキシド消去活性は凍結乾燥よりもやや劣るものの、その他のビタミンC等の有効成分は、凍結真空乾燥法と同等以上であった。また、大腸菌、一般生菌共に検出されなかった。酸素濃度が0%、10%の場合は、大気濃度(20.9%)と比較すると色が濃く鮮やかな色であり、凍結乾燥した試料の色にほぼ近かった。以上、酸素濃度を低下させると、凍結乾燥品とほぼ同等に乾燥できることが分かった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、試験計画で列挙した検討項目は、すべて実施され、それに基づいて得られた結果もほぼ当初の予想に違わず目標が達成できていることは評価できる。一方、申請者も述べているように、測定に用いた試料間における成分組成のばらつきを排除できるだけのデータ収集が必要と思われるので、さらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。また、微生物に対する効果を検証については、無菌試料に一定数の大腸菌等を添加し、それが乾燥中にどう変化してゆくかを確認する必要があると思われる。今後は、対象食品の拡充と装置開発の両面を踏まえた計画の立案と実施が望まれる。
貯水池の持続的利用のための堆積物有効利用 筑波大学
入江光輝
筑波大学
柿本茂八
本研究は堆砂により利用可能な水資源量が減少している半乾燥地の貯水池を対象として、廃棄物である堆積物の有効利用を検討し、浚渫費用等を捻出して水利用の持続可能性向上に貢献することを目指した。具体的には底泥に含まれ抗アレルギー作用のある腐植物質の機能性を確認し、抽出方法の改善により抽出量増加を試みた。また粘土性質に着目し、付加価値の高いセラミックスフィルターの製造を試みた。腐植物質抽出量の向上については使用したサンプルが採取から相当の時間が経過して劣化し、以前は抽出できた方法ではほとんど抽出できなかった。また、孔径数μm程度のセラミックスフィルターの作成を目指し底泥のみ(平均粒径数μm)のみでのセラミックス作成を試みた。以前、砂を混ぜて焼成した際と同じ含水率・温度・時間で焼成を行ったが、底泥粘土のみでは乾燥・焼成の際に亀裂が生じてしまった。さらに内部応力が蓄積し、浸水時に多くの亀裂が発達することが確認された。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、試料を入手できなかったことが残念だが、着眼点は優れていることについては評価できる。一方、複数の貯水池を候補として選定すると共にフルボ酸の抽出方法についても見直しに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、政治・経済情勢等を十分に考慮した上で複数の中東・北アフリカの半乾燥地域を選定されることが望まれる。
機能性成分・GABAを強化した新規高付加価値トマト遺伝資源の探索 筑波大学
松倉千昭
本研究はトマトの野生種由来遺伝資源や突然変異誘発集団などのオープンリソースを有効活用して GABA 高含有トマト系統を開発すると共に、育種に利用可能な DNA マーカーを開発することを目的として実施した。具体的には (1) GABA 高含有野生種 S. pennellii 由来 IL 系統を活用した GABA 高含有系統の選抜とF2集団の作出および原因遺伝子座のラフマッピング、(2) TILLING 法によるトマト EMS 処理突然変異誘発集団からの GABA 代謝酵素遺伝子の変異体選抜 を行った。また、一部の変異系統について果実GABA 含量を評価し、GABA 高含有系統を獲得すると共に DNA マーカーの開発を行った。当該研究開発は概ね計画通り進めることができたと考えている。今後、(1) で作出した F2 集団を用いて GABA 高含有遺伝子座のファインマッピングを行うと共に、原因遺伝子の単離と育種マーカーの開発を進める。また、(2)で選抜した変異系統のGABA含量評価を継続し GABA 高含有系統の獲得を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、GABA高含量QTL座の絞り込みと高含量系統をIL系統およびEMS突然変異集団から獲得しており、当初の目標を達成していることに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、GABA高含量形質とその他の栽培特性、収量、果実形質などとの関係を検討し実用化が望まれる。今後は、食を通じた健康は国民の関心事であり、実用化に向けて企業等との早期の連携と早急な実用化が期待される。また、生産者にも高付加価値の農産物として還元できるように、高含量系統の安定多収な栽培方法の検討をされることが期待される。
電磁超音波による鋳造製品の非接触内部欠陥検査 独立行政法人産業技術総合研究所
西村良弘
シェールガスなどの化学プラント用のパイプは鋳造ステンレス鋼管であり、その表面は凸凹なので通常の超音波探傷は使えない。そのため完成品の欠陥検査はほとんど行われてこなかった。また、高減衰材料であることも問題である。本研究では電磁超音波とデジタル信号処理を用いることで非接触にて内部欠陥検査の可能性を検討することを目標とした。そのため、基礎的データとして高減衰凸凹表面材料の電磁超音波プローブを0.5MHzから5MHzに対応できるように開発を行い、産総研で開発した高度損傷評価装置に接続して解析できるようにプログラム作成を行い、欠陥検出を行えることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初目標としていたことがらは、ほぼすべて実施されていおり、鋳鋼管の欠陥検査に電磁超音波法が使える可能性が見えてきたことは評価できる。 一方、技術移転の観点からは、プローブ形状の検討、コイル、磁石設計の最適化、結果の画像化などの残された課題を克服し、実用化に進むことが望まれる。今後は、鋳鋼管の完成品の欠陥検査について、適切な方法がないことを考えると、本研究の意義は大きいと考えられるので、既に実施している企業との共同研究体制を生かして、実用化につなげることが期待される。
無注薬電解凝集法による自然由来重金属類を含んだ建設残土の減容化技術 埼玉大学
藤野毅
埼玉大学
高島徹
土壌成分の一つであるカオリナイトはpH4未満でプラスに帯電する。また、ヒ素イオンはほぼ全てのpH領域でマイナスに帯電する。本研究は、試薬を投入せずにpHを変化させる方法として、陰極を濾紙で覆った電気分解を行い、陰極から発生する水酸基が排水中に拡散するのを抑制し、排水を酸性にした。この電気分解により、カオリナイトとヒ素が含まれる疑似排水をpH4未満にして、プラスに帯電したカオリナイトとマイナスの電荷を持つヒ素イオンを共沈させる。結果、電解を行った排水の上澄み部分のヒ素濃度が時間経過とともに下がり、濁度の低下速度も電気分解していないものと比べ早く低下する結果が得られた。ただし、排水の水質にも依存するため、濁質粒子の沈降は促進するが、重金属の吸着には他にも条件があり、今後の課題である。今後は電解した後の香りナイト粒子の表面を観察することや、粒子の表面電化を調べることで実際のメカニズムについて研究をしていきたい。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、電解処理を行った擬似排水の上澄み部分のヒ素濃度の低下と濁度の低下速度が早いことが確認されたことは評価できる。一方、当初目標の処理時間の短縮、再漏出防止、他の重金属除去などの基礎的な技術検討や実際の建設残土を用いた評価試験などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
振動ふるいの異常振動を回避するためのダイナミックダンパの開発 埼玉大学
森博輝
埼玉大学
須田均
種々の社会基盤システムで使用されている振動ふるいでは、低周波の異常振動が発生して機械の運転ができなくなることがある。本研究ではこの異常振動への対策として、板ばね、おもりおよび減衰材で構成され、機械への設置およびパラメータの調整が非常に容易なダイナミックダンパの開発を行った。開発されたダンパの有用性について実験と解析の両面から検証を行うとともに、異常振動を発生させないためのパラメータの範囲をマップに整理した。これにより、振動ふるいの異常振動に対して簡単に設置およびパラメータ調整が可能なダイナミックダンパの実用化が十分に期待できることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、振動ふるいの異常振動への対策として、固有振動数と減衰比により構成されるパラメータの調整が容易なダイナミックダンパーを開発し正常運転可能範囲マップの作成できたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、振動ふるい機の基本技術の特許化と学術論文化に早急に対応するとともに、パラメータ数を増やして実験精度を高める等の研究開発を進めて、実用化に進むことが望まれる。今後は、振動ふるい機のニーズは大きいので、異常振動をなくす最適化設計を進めて、社会還元につながることが期待される。
マルチロータヘリコプタの完全自律型オートチューニングユニットの開発 千葉大学
野波健蔵
千葉大学
村上武志
本研究では、電動型マルチロータヘリコプタのオートチューニングユニットを開発する。このオートチューニング制御ユニットを搭載すれば、機体の重量やモータ・プロペラの数に無関係に、人を介さずに自動でモデリングと制御器チューニングがなされるために、いつでもどこでも誰でも安価に使用できる機体が誕生することになる。これは世界初の画期的な技術となる。
本研究においては適応制御理論の代表的な手法であるモデル規範型適応制御(MRACS )とセルフチューニング制御(STC) の直接法型適応制御と、STC の間接法型適応制御について理論的・実験的に検討した。 この結果、MRACSおよびSTCの直接法、および、STCの関節法について共に大変有力な方法であることが検証された。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の技術課題をほぼクリアしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、オートチューニングユニットの具体的な開発に早期に着手し、実用化につなげることが望まれる。今後は、本研究の成果が応用展開されれば、災害時の情報収集、警備レスキュー活動、科学的観測、大型構造物点検等多くの場面に有効活用されることが期待されるので、研究を加速化することが期待される。
干渉型合成開口レーダによる北極圏凍土・泥炭地域における石油・ガス資源の回収率向上技術の開発 東京大学
六川修一
北極圏の資源外交に資するため、最新の干渉型合成開口レーダ技術(以下干渉SAR)による石油・ガス 資源の回収率向上技術の開発を行った。極域は凍土・泥炭地域が多く、観測の根幹となる干渉性が十分でない可能性がある。このため、わが国のLバンドSARによって、極域の干渉状況および微細地表変動導出の可能性を検討した。その結果、夏期では融雪、氷解等によって地表の状態が大きく変化するため、InSARの活用には課題が大きいものの数年にわたる継続的観測データを用いたインバージョン処理によって微細地表変動を検知できることが明らかになった。今後、干渉ペア画像の選択方法を極域特有な気候を考慮し最適化することによって資源開発に資する可能性の高いことが示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に干渉型合成開口レーダ(InSAR)技術により油井周辺の地形の微細な変動を把握し、生産井と水圧入井の作業状況を高精度にコントロールすることで石油の回収率を図ることも目標とし、干渉SARを用いた微地形変動検知システムによるモデル地域への適用がなされ、北極域での課題の抽出などを行っている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、具体的な資源量の経済評価など社会還元に導かれることが期待され、また、衛星データの民業への普及のためには、産業に近い、資源探査のための検知確度の向上が望まれる。今後は、早急な知財の確保と目的を絞った検証プロセスを経た手法の確立とともに、他と連携した本手法から得られる資源量の経済評価手法の開発が期待される。
電動機における稼働中劣化検出手法の開発 早稲田大学
犬島浩
早稲田大学
落合澄
目標は、振動計などの信号を用いた電動機劣化検出の可能性も探索することである。劣化検出のための信号処理法も検討する。そこで、電動機における絶縁劣化800kΩ以下を検出できる信号処理法の開発を目標とする。
達成度は、正常状態振動データより正常自己回帰(AR)モデルを作成し評価した。正常状態のデータ及び劣化を想定した状態のデータに、作成した正常ARモデルを適用し、それぞれの残差列を求める。さらに残差列の自己相関を求め、比較することで差異が認められた。健全度診断には、当初の目標をほぼ達成できたと評価される。
今後の展開は、電動機製造会社に働きかけ、提案した診断手法により、大量のデータを検証する。そのためには、無線センサとクラウドコンピューティングを利用する。取得したデータは、統計的解析を実施して、劣化判定基準を作成する必要がある。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも稼働中の電動機において、正常状態のARモデルを作成し、劣化状態のデータを適用した残差列の解析により絶縁劣化を判定する技術については評価できる。一方、無線センサやARモデル作成、診断などのコスト面の目処に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、別の機械の劣化、ウェーブレット変換などの更なる検討が望まれる。
難水溶性物質を評価する動物実験代替法開発 横浜国立大学
板垣宏
横浜国立大学
原田享
本研究の目標は難水溶性物質を評価可能な培養細胞を用いる試験法の開発である。THP-1細胞を用いてIL-8の放出を測定する系において、「高濃度短時間暴露法」及び「低濃度長時間暴露法」の有用性を評価することである。しかし、IL-8の測定にELISA Kitを使用して6被験物質を評価したところ、「5分間高濃度暴露」により難水溶性の皮膚感作性物質であるphthalic anhydrideが新たに捉えることができた。このことから本暴露法が有用である可能性が示唆されたものと考える。
今後、他のIL-8測定方法を検討する必要がある。また、h-CLAT等の他の培養細胞を用いる試験への導入を検討する必要がある。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、「高濃度短時間暴露法」及び「低濃度長時間暴露法」の有用性を評価できたことについては評価できる。一方、THP-1細胞によるIL-8の測定だけでは、とても動物実験代替法とは言えないのではないで技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、組織工学的な手法を応用して、動物実験にもう少し近い手法を開発するされることが望まれる。
光学計測を用いた高空間解像度の流体騒音源探査システムの構築 新潟大学
山縣貴幸
新潟大学
嶽岡悦雄
本研究では、PIVによる非接触の速度場計測と数値解析を組み合わせた圧力場計測法を基に1つのマイクロフォンにより流れ場中の物体周りの音源探査を可能にするシステムの開発を目標とした。半円柱を対象として、圧力場の計測および音源位置の評価を行い、空間解像度が約0.6mmでの音源探査が可能であることを示した。解析結果の妥当性は、非定常流体力との比較により、圧力場については概ね一致する結果が得られたが、PIVのエラーベクトルや解析格子の影響、また、音源位置の妥当性の評価については今後更なる検討が必要である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、PIV計測結果から圧力場の予想ができた事は評価できる。一方、音源位置の妥当性の評価が行なわれておらず、研究成果を流体騒音の低減などの応用するためには、さらなる基礎研究の確立が必要と思われる。今後は、音源位置や強さの正確度と妥当性に関して、さらなる基礎的、実証的研究を重ねることが望まれる。
マランゴニ流を利用した新しい簡易分離分析手法の開発 新潟県工業技術総合研究所
岡田英樹
新潟県工業技術総合研究所
磯部錦平
工業製品におけるトラブルや食品の混入異物の分析のスクリーニングレベルの向上を目指し、マランゴニ流でサンプル溶液を駆動して、分離をアシストする新しい簡易分離技術を開発した。分析手法には赤外分光などの分光分析を用いている。イメージングシステム、ケモメトリックスを活用することによって、分離が難しい成分を分けることができた。また、溶液を展開するプレート材料は高価な金ミラーを使用しているが、代替として県内企業の技術である電解複合研磨によって鏡面化したアルミニウムやステンレス鋼の利用が可能であることが分かった。ただし、金ミラーに比べて取扱いに注意が必要であった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、マランゴニ流を利用した分離とケモメトリクスによる解析により、分離が困難だとされている糖の分離が可能であることを示したことは評価できる。一方、低コスト化を目指した材料の検討については、金蒸着プレート以外の2種の材料で検討しているものの、性能を犠牲にしている面もあるので、さらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、非常にユニークな技術だと思われ、本研究が応用展開されれば、大きな社会還元が期待できるので、共同研究の意志のある企業と綿密な意見交換をして、実用化に向けた新たな具体的な技術的課題を明らかにし、研究が発展することが望まれる。
化学増幅反応を用いる鉛(II)イオンの高感度オンサイト分析法 富山高等専門学校
間中淳
富山高等専門学校
古河秀一郎
本申請の目的は、自己触媒反応を用いて環境汚染物質の一つである鉛(II)イオンの高感度なオンサイト分析法を構築することである。その結果、市販の固相抽出を組み合わせることで、機器分析法に匹敵する高感度分析が実現するのみならず高い選択性を有する手法を開発することができた。また、本法は操作時間やコスト等において市販の簡易キットより優れた手法となった。今後は、種々の固相抽出を組合せることで、鉛(II)イオンのみならず様々な物質のオンサイト分析の構築を検討する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標である標準添加法を組み合わせることによる分析法の確立は達成されていないが、その代替法として申請時には無い固相抽出を組み合わせることにより、当初目標の濃度レベルを分析することが可能となっていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、当初計画にある試料の多様性や精度管理上の限界等、分析法を一般化する上で必要な情報の蓄積をおこない、実用化に進むことが望まれる。今後は、環境基準の強化を初めとして環境中の鉛濃度に対する関心は高いことから、本分析法の適用対象や制度管理上の適用範囲等を明確化することにより実用化が期待できる。
固定発生源の煙道内常設型PM2.5排出濃度モニタリングシステムの開発 石川工業高等専門学校
和田匡司
石川工業高等専門学校
吉田博幸
煙道内常設型PM2.5排出濃度モニタリングシステムを構築することを目的に、ハード面では煙道内常設型バーチャルインパクタ本体の作成、連続測定のための配管内粒子ロス対策に取り組み、ソフト面では煙道内排出濃度モニタリング環境整備について取り組んだ。ハード面の取り組みでは、当初の計画通りに装置の準備を完了した。ソフト面では、自動制御および遠隔モニタリングについて当初の予定以上に汎用性の高い環境整備に成功した。継続取り組み中の「自動吸引流量最適化システム」の開発が完了し本モニタリングシステムに組み込めば、システムのアイデアを具体化するプロトタイプが完成し、実用化に向けて大きな一歩となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に煙道常設型のPM2.5排出濃度モニタリングシステム技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、PM2.5の連続モニタリング、モニタリングのためのソフト開発などでの実用化が望まれる。今後は、バーチャルインパクタにより連続的にPM2.5をモニタリングできれば、安定した(燃焼等にともなう)排気が可能となり、社会還元につながることが期待される。
ワインパミスを活用した機能性色素の開発 山梨大学
久本雅嗣
山梨大学
奥脇勝也
現在、食に関する安全・健康志向の意識の高さから、天然由来で機能性の高い食品色素素材に関心が集まっている。本課題は、赤ワインに含まれるアントシアニン誘導体であるピラノアントシアニンに着目し、その耐熱性・耐光性試験を行った。その結果、従来のブドウアントシアニンより優れた耐熱性・耐光性を有していることが認められた。また、廃棄物として処理されているワインパミスからからピラノアントシアニンを生産する基礎技術を開発した。以上より、ワインの圧搾残渣を利用した高付加価値のある新たな食品素材技術の創出が可能となった。今後は、ワインパミスからピラノアントシアニンを高効率・大量生産可能な方法を開発する必要がある。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ワインの圧縮残査から新たな機能性色材を生産する技術については評価できる。一方、得られる色材(ピラノアントシアニン)の既存の赤色色素に対する、コスト面を含めた差異化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、収量とコストを導き出すという点からも物質収支を早急に取り実用化に向けた課題を整理すると共に市場調査も行うことが望まれる。
新しい熱中症リスク計測機器の開発 信州大学
佐古井智紀
信州大学
村上昭義
屋外では日射が人の体感温度、熱中症リスクに及ぼす影響が大きい。日射は気温と異なり、時々刻々変動する特徴がある。この研究では、上下および水平方向に人体と同じ投射面積を持つ発熱楕球を用いて、時々刻々と変動する屋外での日射と地物および天空からの放射を計測する理論を得、それを実証する計測システムを作成した。具体的には、一定温度で発熱し、表面の平均温度を測定、制御できる黒色および白色の楕球システムを作成し、白色発熱楕球の日射吸収率を決定した。また、このシステムに熱中症リスク指標として等価WBGTを得るプログラムを組み込んだ。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、白色および黒色の楕円球発熱システム、風速計、温・湿度センサーをAD変換器、PCと組合せ、日射、地物と天空の平均温度、気温、湿度の4要素を決定するシステムを構成した点は評価できる。一方、計測システムの有効性の検証と調整には至っていないので、早急に実行し、既存システムに対する有効性を明らかにすることが必要と思われる。今後は、実用化に向けた取り組みとして、共同開発を行う企業を早期に見出し、市場のニーズに沿った開発に進むことが望まれる。
カリンゼリーの胃粘膜保護作用における作用因子の解明 信州大学
濱渦康範
信州大学
福澤稔
先行研究において、カリン果実を3時間煮沸抽出したエキスで調製したゼリーはラットにおける胃粘膜保護作用が強いことがみとめられ、本研究ではその作用機序の一端を解明することを試みた。その結果、カリンゼリーの胃粘膜保護作用にはポリフェノール画分(PP画分)とペクチン質画分(AIS画分)がともに関与しており、特にPP画分は白血球浸潤抑制作用とラジカル消去作用が強く、また、プロシアニジン高重合体が胃粘膜上に長時間留まることが示され、これらのことが強い保護効果に関係していると推察された。本研究により作用機序の一部を説明する成果は得られたものの、AIS画分の作用機序など未解明の部分も多く、技術移転への成果としては、達成度は不十分である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、カリンゼリーから弱いながらもポリフェノール分画成分および溶媒不溶性成分に胃粘膜障害に対する保護作用が見られた点については評価できる。一方、分画成分の活性は弱く、分画すべき成分の探索アプローチに問題があった可能性がある。分画成分以外の成分の関与や成分間の相乗効果も踏まえた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、成分の単離精製法や物理化学的性質の解析法の検討などの基礎的解析や、培養細胞を用いる生物学的検定法も検討されることが望まれる。
‘ハニールージュ’等赤果肉リンゴ品種の消費拡大に向けた栽培技術の確立と加工用途の開発 信州大学
伴野潔
信州大学
福澤稔
本課題では、アントシアニンやポリフェノールなどの機能性成分を多量に含む信州大学育成のハニールージュ’等の赤果肉リンゴ品種の消費拡大に向けて、本品種の特性を最大限に発揮させる栽培技術の確立と様々な加工用途を検討した。
栽培技術の確立に関しては、目標としていた研究開発内容が確実に達成され、今後の普及拡大に繋がる信州大学育成赤果肉リンゴ品種生産者に必須の知見が多く得られた。さらに、近赤外光を利用した非破壊で果肉の赤味を測定する技術開発に向けて関連メーカーと共同研究進めるきっかけとなった。加工適性の検討に関しても、目標としていた研究開発内容がほぼ達成され、地域の中小企業による加工食品への利用と技術移転の可能性が示唆された。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、近赤外光を用いて果肉の赤味を非破壊で測定する技術を開発し、期間中に専門メーカーと共同研究に到ったことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、本測定技術を活用して果実肥大期の着色を高める栽培技術を開発するなどでの実用化が望まれる。今後は、栄養的・機能的特性および加工特性に関する詳細な情報を加えて商品価値を更に高めることが期待される。
自立型超小型携帯コジェネシステムの開発 岐阜大学
高橋周平
岐阜大学
安井秀夫
多孔質触媒層を持つ微小燃焼器(熱出力5~20W)を熱源として、Bi-Te型熱電モジュールで発電し、得られた電力で燃焼器の空気供給系を作動させる自立型マイクロコジェネの開発を行った。本研究では、空気供給系として12~20Vの電圧で駆動するマイクロブロアを用い、まず熱電モジュールでの発電量、発生電圧、昇圧装置およびブロアでの消費電力を要素ごとに調べ、これらの最適な組み合わせを検討した。その結果、内径1.5mmの微小燃焼器での熱出力を13Wとし、16Vの電圧でブロアを駆動させた際に、自立運転ができ、かつ正味熱効率として約1%の電力変換が達成できるマイクロコジェネとして成立することが実験においても確認された。今後は、パッケージ化することで、携帯コジェネのプロトタイプ作成を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に多孔質触媒層を有するマイクロコンバスタ(超小型燃焼器)と熱電変換モジュールを組み合わせた携帯用の超小型コジェネ(マイクロコジェネ)において熱電モジュールで発生した電力によりマイクロブロアを駆動して空気供給を行う自立運転を実証している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、熱電モジュールに適合させたマイクロブロア出力特性の再検討、マイクロコンバスタ自体の燃焼効率向上などでの実用化が望まれる。今後は、発電量の変動とマイクロブロア空気流量とのバランスから決まる安定性の確保を図ることが期待される。
微細気泡と周年マルチ点滴かん水による富有柿の超多収栽培方法の開発 岐阜県農業技術センター
新川猛
岐阜県農業技術センター
前川哲男
本研究課題は、カンキツ栽培で導入が進みつつあるマルドリ栽培法(周年マルチ点滴かん水同時施肥法)に高い溶存酸素量を保持できるマイクロナノバブル含有水を組み込み、カキ‘富有’の養分吸収量を極限まで高め、従来の果実品質を担保しながら収量の向上を目指した取り組みである。土壌間隙水の生育期間中の動態から、点滴かん水にマイクロナノバブルを組み込むことで樹体に養分吸収が効率的に行われたと考えることができた。結実数を慣行の2倍とした場合の大玉果率(L以上率)は目標の80%には届かなかったが、50%強となり1樹当たりの大玉果の総数は多くなった。果実糖度は慣行より高く、また他の品質に悪影響は認められなかった。既存樹を用いた短い期間での試験のため、主要な根群が点滴孔周辺に集まりつつある状態であり、今後継続して栽培を続けていくことで当初目標の達成の可能性も期待できる結果が得られた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、最適着果量の検討、施肥量とかん水量の最適化、果実品質の安定化など複数の視点から効果を細かく分析している点については評価できる。一方、周年マルチ点滴かん水の増収やL以上率の低下、糖度向上への効果のメカニズム解明に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、栽培結果である果実の評価のみならず、土壌成分の分析や樹への直接的な影響を含め効果を多角的に解釈すると共に、超多収に拘らずトータルでの経済性評価も行うことが望まれる。
鉄骨鉄筋コンクリート建物の新しい耐震補強方法 名古屋工業大学
市之瀬敏勝
名古屋工業大学
岡谷佳澄
東北地方太平洋沖地震で被害を受けた鉄骨鉄筋コンクリート造建物を対象とし、 被害の検証を実験によって行った。大きな被害を受けた柱を対象として、 耐震補強された実部材を想定した試験体および本研究開発で提案する耐震補強を施した場合を想定した試験体について実験を行った。実部材を想定したものは観測された被害と同様の破壊をし、 提案する耐震補強を施した試験体と比べて変形性能が小さかった。提案する耐震補強を簡易に行うことができるよう、 工場生産できる部品によって補強する工法を開発した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、耐震補強部材として用いるRC壁が連層形の場合は、せん断力だけでなく、全体曲げに対する対策が必要であること指摘し、「耐震壁+補強鋼板」(層をまたぐ補強)というアイディアを提案したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、提案する補強鋼板の効果の実証、設計方法の提示等を早急に行い、実用化につなげることが望まれる。今後は、施工方法は簡便であり、被害例もあることから、社会還元に導かれることが期待できる技術であるので、本研究を足がかりにした継続的な研究、開発が期待される。
高度環境モニタリングのための無人計測を指向した小型低環境負荷イオンクロマトグラフィーの開発 名古屋工業大学
北川慎也
名古屋工業大学
岩間紀男
小型低環境負荷イオンクロマトグラフィーの開発として、ピエゾ送液システム、小型自動試料注入器、低流路抵抗モノリスカラムを組み合わせたシステム構築を目指した。小型自動試料注入器のプロトタイプの開発に成功したが、ピエゾポンプの送液特性評価を行ったところ、接続負荷(カラム流路抵抗)に対する送液流量依存性が著しく、本提案の実現には、より流路抵抗の低いカラム開発が必要であることがわかった、新たなカラムとして温度誘起相分離法によるポリブタジエンテレフタレートモノリスカラムの開発を試みたところ、従来のポリマーモノリスカラムの数分の1程度の流路抵抗のモノリス構造体の開発に成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、新たな低背圧カラムの開発を行い、本研究で持ち上がった課題を解決したことは、評価できる。一方、 最終目標である、NOxなどの無機イオン分析は達成されていない。技術移転において重要なイオンクロマトグラフシステムの構築に関して、具体的な計画が挙げられているので、実現に向けて、さらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、環境分野における長期モニタリングシステムは重要性が高いので、今後の研究の進展が望まれる。
地上・壁・天井も走行できる空陸両用飛行ロボットの自動制御装置の開発 名古屋工業大学
山田学
名古屋工業大学
太田康仁
本研究では、本研究代表者が特許出願した、「飛行体を空陸両用化し、利用分野を屋内にまで拡大できる新しい飛行ロボット」の自動制御装置を開発し、実験により有用性を実証した。さらに、本研究支援により、2件の新しい発明が得られ、特許出願を行った。発明は、飛行体を「空陸両用型」から「空陸水万能型」に発展させるものと自動充電装置であり、その結果、これまで不可能であった無人飛行機の永久的な屋内・屋外運用も可能にする、安価で、長時間使える世界初の空陸水万能型移動ロボットと自動制御技術を開発した。本支援により、従来の移動ロボットに対する技術的優位性はより明確になり、事業化への可能性が大きく向上した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標である(1)4ロータ小型ヘリコプタの陸空両用化装置の開発、(2)コントローラの設計と制御装置の開発、(3)屋内飛行実験による有用性の実証のをすべて達成し、新規特許を2件出願していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、現在検討中の企業との共同研究を通じて、今後の課題である小型化・軽量化や複数ロボットによる協調追従制御システムの開発を実現し、実用化につなげることが望まれる。今後は、本技術は「見まもり」という視点で社会の安心・安全を担保する幅広い分野(セキュリティ、イベント会場、人命救助、原子炉、橋梁、トンネル等)でその応用が見込まれるので、早期の社会還元が期待される。
多孔質材料を用いた人に優しい触覚センサ材料の開発 名古屋市工業研究所
吉村圭二郎
名古屋市工業研究所
秋田重人
炭素材料を含有した多孔質複合材からなる、柔軟で人に優しい触覚センサ材料を開発した。マトリックスとする樹脂、炭素材料の種類、導入する空孔のサイズを検討し、センサ材料としての特性向上を目指した。
開発した多孔質複合材に圧縮試験、圧縮変形に伴う電気抵抗率変化の測定、ヒステリシス特性評価、耐久試験を行い、触覚センサ材料としての特性を評価した。この結果、炭素材料を含有した多孔質複合材は、柔軟性、広い測定可能なひずみ範囲、低ヒステリシス、耐久性をすべて兼ね備えた、優れた触覚センサ材料になり得ることがわかった。今後は生活支援、医療介護ロボットへの応用を目標とし、本開発品をこれらに搭載する方法を検討していく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、既存の触覚センサ材料に比べ、圧縮歪が大きく、低ヒシテリシスで耐久性に優れた多孔質炭素材料を開発したことは高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願を進め人に優しい触覚センサとして生活支援、医療介護ロボットなどへの応用が望まれる。今後は、センサーやロッボット関連企業などとの産学連携体制の構築による製品開発の推進が期待される。
BCP策定・運用支援システムの構築 名古屋産業大学
石橋健一
本研究では、BCP策定と改訂作業が容易に行えるように、BCP評価システムをマルチエージェント型システムとして構築する。同システムは、各部門での要素がそれぞれエージェントとして定義され、組織内部門間同士および組織内部門と組織外部門との情報のやり取りをシミュレートすることが可能となった。策定されたBCPに従ってすべてのエージェントを活動させることにより、BCPの評価が可能となり、部門間でのBCPの不整合や復旧目的時間の評価、経過時間帯ごとの復旧レベルの算出が可能となった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもBCP策定と改訂作業が容易に行えるように、BCP評価システムをマルチエージェント型システムとして複数の事業所をリンクしたBCPのIT化は評価できる。一方、BCPの完成度が十分に高くないようで、BCP訓練用にとどまっている点が残念である。そのためBCPの内容の高度化が望まれ、産学共同研究へステップアップするとか、広く社会還元に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、BCPの内容を高度化し、一般企業が緊急時のみならず、被災後も継続して事業運営を可能とする観点からの費用対効果などを示すことにより一般企業の関心が得られることが望まれる。
白根菜の異常色素発生症の発症前診断法の開発 三重大学
寺西克倫
三重大学
松井純
ダイコンの流通過程において根内部に青色色素が発症する生理障害(青変症)があり、消費者からの返品およびクレームによって生産者や流通業者において深刻な問題となっている。本研究の目的は、収穫時に抜き取り検査を行い、同一生産ロットの発症リスクを評価し、その発症リスク評価を基にしたロット別の流通条件の管理を行うための発症前診断技術を確立することである。本研究期間においては、申請前に見出した簡便・迅速・安価な人為的な青変化法が流通過程に生じる青変症を反映するのか、さらに人為的青変化法が発症前診断法として有効であるのか、の2点を検証した。研究の結果、人為的青変化法によって生成する青色色素は流通過程に生じる青色色素と化学的に同様であることを明らかとし、また申請前に見出した35種類のダイコンにおける人為的な青変化法による青変化度と流通条件で生じる青変症の発症度との相関結果とを合わせ、本青変化法が発症前診断法として有効であることを立証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、青色変色に関与する成分、その発症前診断(特定物質の存在)の可能性などを示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用者、JAや農業者が簡単に安価に使える診断キットなどの形とすることなどでの実用化が望まれる。今後は、診断キットとしての製品化へ向け試薬メーカーとの連携や、他の成果物の変色にも水平展開も検討されることが期待される。
前川次郎柿の摘果作業を2分の1以下に省力化する薬剤摘果技術の開発 三重県農業研究所
後藤雅之
NPO法人東海地域生物系先端技術研究会
前川哲男
カキ「前川次郎」において、開花後10日前後に、果実のへた部にエテホン液剤50ppmを処理することで、約70%以上が落果するが、同じ果実のへた部にエテホン50ppmとジベレリン200ppmまたはジベレリン塗布剤約50mgを処理した場合、落果は約25%と抑制されることを明らかにした。これにより、残す果実にジベレリンを処理し、全ての果実にエテホンを処理することで、新たな薬剤摘果方法として利用できる可能性が見出された。
また、この薬剤摘果方法は、慣行の摘果鋏を用いた摘果に比べ、作業時間が約45%と減少し、省力化が可能であることを明らかにし、当初の目標を達成した。
今後は、より早い時期(開花前)の処理効果を確認し、より実用的な方法を確立する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、栽培環境(土壌水分など)と作業時間、果実品質、コストについて詳細に解析し、5割程度の作業時間の短縮の可能性を示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、土壌水分条件と後期落果促進の関係や剤型による効果の違い、作業負荷の個人差なども検討することなどでの高齢化する農業現場での実用化が望まれる。今後は、導入コストも含めて本技術のコスト試算を行い、早期の現場での実証が期待される。
時系列フィルタを用いたスペクトル拡散音波による測位システムの誤差低減方法の開発 京都大学
近藤直
京都大学
佐藤祐一郎
本研究開発では、SS音波伝搬時のグリーンハウス壁面による反射波や作物の遮蔽に伴う誤差を低減し、ロバスト性の高い測位システムを開発することを目的とした。具体的には、時系列フィルタを用い過去の計測データから現在の各マイクとスピーカ間の距離および位置を推定することで、反射波や遮蔽による誤差を減少させる方法について検討した。その結果、受信強度が弱く相関ピークが検出できない場合でも、等速運動に対しては位置計測を継続して行うことができ、測位誤差121 mmという結果を得た。しかし、加速度運動が起こると計測誤差が大きくなった。今後は、加速度運動にも対応できるように時系列フィルタの改善を行う必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、測位誤差40mm以内という目標は達成されていないが、計算にカルマンフィルターを用いることによって、壁面近傍の直接波と反射波の両方の影響がある場合についてもほぼ誤差無く距離計算が可能になっており、技術移転につながる研究成果が得られていると評価できる。一方、技術移転の観点からは、移動体が加速・減速している場合の測位誤差低減化が今後の課題としてあげられており、課題克服により実用化が進むことが望まれる。今後は、安価かつ高精度な測位システムの構築は、農業用に留まらず工業用の価値も大きく社会還元に導かれる可能性は高いので、安価かつ高精度なシステムが構築されることが期待される。
光回路実装のための導波モード共鳴ミラー 京都工芸繊維大学
裏升吾
京都工芸繊維大学
小島義己
共振器集積導波モード共鳴ミラー(CRIGM)を設計・試作した。分布ブラッグ反射器で形成する共振器の内部にグレーティングカップラをチャネル導波路に集積する構造を設計した。石英ガラス基板にAu金属反射膜を蒸着後、バッファ層及びGe:SiO2導波コア層をプラズマCVDで堆積し、塗布した電子ビーム(EB)レジストにグレーティング凹凸およびチャネル構造を電子ビーム直接描画リソグラフィにて形成した。反射スペクトルおよび位相変化を測定した。反射位相を測定するため、2光束干渉を利用する光学系を構築した。その結果、2πの位相変化を確認することができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、研究計画に基づいた素子の試作を行い、その性能を評価するために、反射位相を測定する光学系を構築し、反射位相の波長依存性を精密に測定したことは高く評価できる。一方、反射損失は素子の基本動作に大きく関わる性能であり、重要な項目である。ミラーの機能を検証する上で、反射損失のデータを取り、技術的な検討が必要と思われる。今後は、提案のミラーを光回路に実装して、レーザ発振の可能性の検証を早期に進めることが望ましい。
歩行者が気付きやすく受け入れやすい電気自動車接近音の設計 龍谷大学
三浦雅展
龍谷大学
真部永地
快適かつ気づきやすいEV接近音の設計を目指して、ここでは特に接近音の快適性に着目し、聴取者の嗜好性と快適性に関係について調査した。 ガソリン自動車の排気音を評価対象とした実験の結果、排気音のラウドネスおよび周波数成分の変動が快適性に寄与することがわかった。特に被験者の自動車に対する嗜好性によって、スポーツカーを「好む群」「好まない群」に分割したところ、群間の評価はほぼ真逆の特性を示すものの、いずれもその2つの物理量によって説明可能であることがわかった。さらに周波数変動を抑えるための合成法を提案し、EV接近音として新たに用いることのできる可能性を見出した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも排気音の特性と被験者の嗜好性の相関を定量把握することで、快適性を持つ音を高次変動によって実現し、歩行者が気付きやすく受け入れやすい電気自動車接近音をめざしている点については評価できる。一方、道路周辺住民への配慮を重視する観点に対して、今回の快適性が被験者の主観的嗜好性に依存する傾向が指摘されている点での課題や、ピッチ変動に基づいた快適性の評価、被験者の気づき易さの定量化、関連企業との連携などの開発課題に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、音響の性質を総合的に捉え、完備した方法論として確立されることが望まれる。
遺伝子組換え型環境指標生物を利用した化学物質の生態影響試験法のハイスループット化の開発 大阪大学
渡邉肇
大阪大学
安原利正
環境中の化学物質が生態系に及ぼす影響については、適切に評価することは未だ困難である。特に生態系を構成する環境指標となる生物における化学物質影響を評価する手法は非常に限られていた。申請者らは、最近になって環境指標生物として代表的なミジンコにおいて、世界に先駆けて遺伝子導入法の確立に成功した。本研究ではこの遺伝子導入技術を利用して、環境中の化学物質に応答して蛍光を発するミジンコに作製し、化学物質に対する生物応答を容易にモニタリングできる系の確立を進めた。今後、これをもとに環境中の化学物質影響を従来の手法に比してはるかに簡便でハイスループットで評価する系を開発する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、対象化学物質を脱皮ホルモンに変更し、レポーター系を構築した点については評価できる。一方、課題は的確に把握されているが、いずれも基本的なステップにおける大きな壁であり、具体的検討に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、完成しているレポーターアッセイ系を数多く検証し、まずは感度の点で実用化できるレベルに到達した系が高頻度で得られることを示されることが望まれる。
ハイスループットで簡便なオルガネラ特異的DNA損傷・修復定量キットの開発 大阪府立大学
川西優喜
大阪府立大学
鈍寳宗彦
定量的PCR の原理を応用し、各オルガネラのDNA 損傷量を簡単に定量できる測定系を開発した。鋳型DNA が損傷しているとPCR 反応においてDNA 鎖伸長が阻害されることを利用し、PCR 産物量を測定、もとのDNA 損傷量が測定できることを実証した。各種変異原で処理したヒト培養細胞からDNA を抽出、核およびミトコンドリアDNA がどの程度損傷しているか2~3 時間で測定できた。同時に24 試料解析が可能であった。より高性能の測定機器を使用することで容易にハイスループット化が可能である。今後はDNA 純度の影響や、測定可能な損傷の種類、適用可能な生物種を明らかにする。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、市販の試薬やリアルタイムPCRを用いてDNA損傷を特異的に定量する技術の基本が取得できた点については評価できる。一方、オルガネラ単位でのDNA損傷量の評価は、主として医学系で活用されると考えられるが、提案内容と得られた成果のみでは、どの様な分野に応用されるのか不明確で、データの積み上げなどが必要と思われる。今後は、どの様な用途において利用を想定するか明確にすることにより、検討因子の絞り込みが行え、実用化に結びつくことが望まれる。
水耕栽培有害菌の遊泳性胞子を捕捉する膜の作製と評価 大阪府立大学
長岡勉
大阪府立大学
井上隆
植物工場などの水耕栽培において、根腐病の原因となるピシウム菌やオルピディウム菌は遊泳性胞子で繁殖・拡散する。一旦繁殖すると操業は完全停止に至り、ライン全体の洗浄など生産に大きな影響が生じる。しかし、予防策としての農薬添加はその残存が生じやすい。また、紫外光やオゾン、銀担持布による殺菌は有用菌や有用な有機物質も無差別に減少させるので、これらも適切な処理法ではない。本研究では、端緒として、ピシウム菌の鋳型を持つ膜を作製し、この膜によりピシウム菌の補足・除去を試みた。ピシウム菌は負の表面電位をもつので、容易にポリピロールに取り込まれる。このポリピロール膜を化学処理することによりピシウム菌の鋳型膜を作製することが可能である。本開発ではこの膜の作製法と基本的な性質の検討を行った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ピシウム菌の捕捉・除去に使える膜を独自のデザインで開発し初期評価では優れた性能を示したことについては評価できる。一方、ピシウム菌の選択的捕捉の手法を確立し用途に適した大面積の膜で高効率かつ選択的に利用できる段階に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、プロセスとして確立するために膜分野の専門家との共同研究を行うことも望まれる。
筋負担を考慮したパーソナルモビリティの提案 大阪府立大学
中川智皓
大阪府立大学
竹崎寿夫
本課題は、個人の移動手段として開発が期待されるパーソナルモビリティの提案に関するものである。主に、操縦者の重心移動によって走行する倒立振子型車両(平行に2つの車輪を有する立ち乗り型車両)に着目し、更なる安定化技術の構築を最終目標とする。ここでは、操縦者の筋負担も考慮にいれた安定化制御を検討した。走行実験において、加減速時に特に活動が大きい下肢の筋肉2部位を示した。車両乗車時に筋負担の大きい筋肉に着目し、車両の安定化制御を再設計することで新しいシステムの設計指針を得た。今回得られた結果に基づき、より詳細なデータ取得方法の整理、再実験、制御システムの再構築をし、提案したシステムを実装した車両の試作をすることが今後の展開として挙げられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、筋電図データに基づき、筋力負担軽減を定量的に求めていることは評価できる。一方、車両安定化技術の成果は曖昧であり、技術移転を想定した次ステップへの課題抽出にはいたっていないと考えられるので、さらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、福祉やリハビリなどニーズが多様であり、それぞれ個別の用途に合った性能を実現できれば技術は拡大活用が可能になると思われるので、実用的な段階に進めるように研究を発展させることが望まれる。
顔部位特徴を用いたユニバーサル音声認識の研究開発 神戸大学
滝口哲也
神戸大学
髙山良一
本研究開発では、障害者の自立生活支援を目指し、雑音環境下で頑健に発話認識を行う手法の一つとして、顔部位画像情報を、音声情報に併用したマルチモーダル認識を行う。実際の生活環境下では、発話者の顔が横を向いてしまうと、画像センサーから見た時の顔の形が変わるため、認識精度が大きく劣化する。本研究では、Active Appearance Modelsを用いることで、大語彙連続発話のタスクにおいて、雑音下での斜め方向発話に対して認識精度を改善することが出来た。今後は、少量学習データによる音響及び画像モデル適応化、不特定話者による認識を検討する事により、実用化を目指して行く。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に障害者の自立生活支援を目指し、音声に重畳する雑音に対処するため、音声及び顔部位特徴(唇、頬、顎などの動き)を考慮したマルチモーダル認識技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、大語彙連続発話において認識精度をさらに高めること、少量学習データによる音響および画像モデルの適応化、不特定話者による認識精度の向上が具体的な課題があげられ、これらへの対応を進めることなどでの実用化が望まれる。今後は、構音劣化に苦労する人々に大いに貢献する技術開発であり、実用化に向け企業や支援団体への早急な技術移転を進めることが期待される。
防刃性能を有する繊維強化複合材料の創成のための粘弾性パラメータの検討 兵庫県立大学
松田聡
兵庫県立大学
松井康明
刃物を用いた犯罪により多くの人命が失われているが、現有の素材では刃物を防護することは難しい。本申請の目的は、刃物に対する突き刺し抵抗(防刃性能)を有する新規な繊維強化織物複合材料を創成することである。また、防刃性能を発現するために必要な材料の力学パラメータを探索し、材料開発の指針を得ることである。本研究では、繊維強化織物複合材料のマトリックスの軟質高分子をナノフィラーで複合化した試料を作製し、防刃性能の向上を試みた。その結果、少量のフィラーで防刃特性を30%向上させることに成功した。さらに、防刃性能と相関する新しいパラメータを提案し、防刃性能を簡易的に評価する手法を見出した。 当初期待した成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は、一定程度高まった。中でも、カーボンナノチューブを用いることにより目標値以上の性能を持つ材料開発が可能なことを見いだしたことは評価できる。一方、もう一つの目標である防刃性能と直結するマトリックス樹脂の性能指標については目標の達成はできていないので、さらなるデータの蓄積が必要と思われる。今後は、防刃特性に優れた材料は、これまでほとんど検討されておらず、現在の社会では必要な材料として実用化が期待されるので、研究の進展により、産学連携による社会還元まで進むことが望まれる。
非線形ニューラルネットワーク手法による穀物生産予測の実証 関西学院大学
松村寛一郎
関西学院大学
丸本健二
カナダのプレーリー地域の春小麦と中国・吉林省のトウモロコシを対象として、収穫の数か月前に収量を予測する技術の開発を行った。収量を被説明変数として、積算気温、積算降水量、前年度の収量、気圧場のスコアを説明変数とした推計式を時系列データにより求めた。入手困難な肥料投入量データの代替として前年度収量を説明変数に加えたことで適用範囲の拡大が期待できる。また、北極振動を考慮することで、穀物生産量の予測精度が改善されることも確認された。さらに、データ提供機関との交渉を行い、地球上の任意の地点の気象条件を抽出する仕組みを構築するとともに、穀物生産予測結果をスマートフォンのアプリを用いて社会に公開する手法を開発した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも前年の穀物生産量と当該年の作付け前後の気象条件から、非線形ニューラルネットワーク手法を用いて穀物生産量を予測する手法については評価できる。一方、本手法を使用した結果の提供、他手法(MLR)による予測式の構築に関してもRMSE SSが0.25以上への達成に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、どのように農家の生産活動に活かされるかの具体論の検討をされることが望まれる。
災害時における蓄積搬送型エネルギー流通方式の開発 関西学院大学
巳波弘佳
関西学院大学
丸本健二
本課題は、電力系統が断絶する大規模災害時において、住宅・オフィス・マイクログリッドなどにおいて損傷を免れた発電・蓄電設備と、EV・PHVのような蓄電機能を持つ移動体による電力の蓄積搬送を組み合わせ、配電網とは独立に、電力系統の復旧までの代替手段となり得る「実用的な性能を有する蓄積搬送型エネルギー流通方式の開発」を目標とした。ここでは、効果的な電力需給マッチング・移動体経路制御法を設計し、現実的な状況を想定したシミュレーションによる性能評価を実施した。その結果、提案方式によって、避難所など優先順位が高い箇所に必要最低限の電力供給が可能であり、災害直後のエネルギー供給の緊急的な代替手段として有効であることがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に実用的な性能を有する蓄積搬送型エネルギー流通方式の開発において、一時的に緊急な地点への電力供給に対し、その対策、アルゴリズム、シミュレーションを行っている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、EVやPHVへの機能の追加による付加価値の向上、自治体や公共交通機関によるエネルギー供給支援体制の強化などによる実用化が望まれる。今後は、災害時の緊急避難誘導計画立案のためのシミュレーションに用いられるような技術等の利用も考慮されることが期待される。
無機吸着材を用いたフッ素・ホウ素含有温泉排水の高度処理技術開発 島根大学
桑原智之
島根大学
丹生晃隆
温泉排水処理に適応可能なフッ素・ホウ素吸着処理技術を開発することを目標に、無機吸着材であるSi-Al-Mg系複合含水酸化物の合成方法と処理装置運転条件を検討し、既に持つフッ素吸着能力に加えてホウ素吸着能力の付与を目指した。ホウ酸に対する選択吸着能力の観点では既知の能力とほぼ同程度であったが、検討したpH 7~11の範囲においてホウ酸を吸着できることが明らかになった。最適初期pHは9であり、このときホウ酸吸着量は最大値を示した。カラム試験により通水条件でフッ素含有温泉水を処理した結果、造粒化技術に関する問題点が抽出され、今後は適切な造粒化技術を確立する必要性が示された。造粒後のフッ素・ホウ酸吸着量の評価した後、温泉排水処理技術としての技術移転を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、フッ素に加えてホウ素吸着能力を有するSi-Al-Mg系複合含水酸化物の合成方法と処理条件を検討し、樹脂系の競合品と同程度の吸着能力を有する無機材料を見い出したことについては評価できる。一方、さらなるフッ素及びホウ素の吸着能力向上に向け本複合含水酸化物系吸着材の組成や成形法(造粒法)などの技術的検討やデータの積み上げが必要と思われる。
交流磁界環境を用いた植物の成長促進装置の高効率化 川崎医療福祉大学
茅野功
川崎医療福祉大学
梶谷浩一
本研究は、申請者らが開発した「植物の成長促進手法及び装置」について、実用化に向けた適用拡大を企図し、植物及び菌類に対する至適環境(周波数・磁束密度・曝露期間)の検討を行った。この結果、本研究で対象とした4種の植物及び菌類はいずれも本装置による成長促進作用を示した。特にカイワレダイコンにおいては、1)成長促進作用には25kHz近傍を中心とした周波数依存性があること。2)磁束密度と曝露期間の間に至適な組み合わせがあること。をそれぞれ発見し、至適環境で栽培することによりこれまでの装置に比して約71%の電力削減でも同様の成長促進効果を得ることができ、より効率的な栽培手法を確立した。磁界と曝露期間に対する至適な組み合わせは、栽培対象ごとに異なる可能性があり、今後さらなる追加実験を行い、さらなる高効率化を検討する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、交流磁場の暴露による成長促進効果を4種の植物および菌類について確認したことは評価できる。一方、現象解明のための植物ホルモンの計測が実施されていないので、実施するとともに実用化に向けて克服すべき機器の製造コストについての検討をおこなう必要があると思われる。今後は、装置コスト、ランニングコストを把握し、採算の取れる作物について試験を実施することが望まれる。
地域住民による公共施設の点検が可能なICタグセンサのプロトタイプ開発 広島大学
大久保孝昭
広島大学
伊藤勇喜
本課題は「一般住民による公共建築物の点検ネットワーク」を前提とした「建築物の異常・不具合検知のための現場設置型計測システムのプロトタイプ」を開発することも目的として実施した。目標とした計測システムのプロトタイプの作製に成功し、実験室レベルで各種建築材料の濡れ検知試験を行い、静電容量型濡れセンサの計測精度や今後の課題を明確にすることができた。最終実験として、実際の公共施設(東広島市三ッ城コミュニティハウス)にプロトタイプ計測システムを10日間設置し、地域住民・児童に計測システムを活用してもらい、その使用性について意見を収集するとともに、濡れ検知の確実性についても検証を行うことができた。以上のように、本研究では当初設定した目標を十分に達成できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標としたプロトタイプの作成に成功し、各種の実験を通して問題点等も把握されていると評価できる。一方、技術移転の観点からは、構造物のどの位置にどのようにセンサーを設置すれば、その構造物の健全度を的確に判定できるかといった使用におけるノウハウの蓄積が必要であり、さらなる検討を加えて実用化に進むことが望まれる。今後は、住民が主体となって計測し、構造物の健全度を判断することを可能とする技術開発は、意義があると考えられるので、センサーで計測される局所的な変化(漏水など)と建物全体の健全度との関係を明らかにし、社会還元につなげることが期待される。
潮流エネルギーフラックス計測システムの開発 広島大学
川西澄
広島大学
榧木高男
音響トモグラフィー法を用いた潮流エネルギーフラックス計測システムの開発を目標に、中心周波数7 kHz~30 kHzの広帯域トランスデューサーに対応できる信号処理システムおよび、クロス音線法による断面平均流速と流向の計測を実現した。音線距離200 m~30 kmの範囲で断面平均流速と流向の同時モニタリングが可能となり、高精度な潮流エネルギーフラックスの計測を達成できたと考える。本システムは海岸に4つのトランスデューサーを配置するだけで潮流ベクトルを計測できるので、システムの設置が容易であり、対象海域を航行する船舶も計測の障害とならない。このように、海峡通過流のエネルギーフラックスを断面平均流速と流向をもとに評価する本システムは、精度と導入の容易さの点で従来法に対して大きな優位性を有しており、潮流エネルギー分野への技術移転の可能性は高いと考える。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に河川音響トモグラフィーシステム(FATS)により、潮流発電に適した海域の探査や発電量の予測に不可欠な、海峡部の潮流エネルギーフラックスを自動連続計測できるシステムを開発している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、自然エネルギーの活用である潮流発電は、CO2の排出がなく、温室効果ガス低減という意味での社会還元が期待されため、開発システムで測定した結果の検証、それに更なる精度と安定性向上による実用化が望まれる。潮力発電への応用展開に対し、今後はパートナー企業を見つけ連携して研究を進めることが期待される。
トマトの重要病原体トマトモザイクウイルスの発病を抑制する深紫外線LED光照射技術の開発 広島県立総合技術研究所
松浦昌平
広島県立総合技術研究所
水主川桂宮
抵抗性遺伝子打破系統のトマトモザイクウイルス(以下ToMV)は、日本をはじめ多くの国々で、トマト生産に被害を及ぼしている。今回、3種類の波長の深紫外線LEDをトマトに照射する実験により、少ない副作用で、効果的にウイルス増殖と発病を抑制できるLED波長およびその照射エネルギーを特定できた。また、ウイルス感染より前に予め照射することで、高い抑制効果が得られたことから、UV照射によるトマトへのウイルスに対する免疫誘導が作用機構として重要と考えられた。この技術は、植物工場型苗床等において、ウイルスの密度を低減し、本圃(施設)への二次感染を抑制する技術として期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、特定波長のLED-UVを照射することによる、トマトのモザイクウィルスの発病抑制を実証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、UV照射による巻葉などの障害やこれらの障害が生果に与える影響の検討など、トマトの生産性を確認した上での実用化が望まれる。今後は、植物工場で栽培される他の作物や他の病原微生物に対する有効性も検証することが期待される。
インフラ構造物の変状自動抽出が可能な無人ラジコンヘリデバイスの開発 山口大学
江本久雄
山口大学
田口岳志
インフラ構造物の変状自動抽出が可能な無人ラジコンヘリデバイスの自動航行に必用不可欠なGPSによる巡航に関して、検討及びデバイスの開発を試みた。その結果、GPSの不感地帯および精度の問題があることが分かった。特に、橋梁の桁下での自動航行では、桁下高さと幅員の関係、および周辺環境(高層マンションの側、無線LANなどの電波密集地)が影響を及ぼす。さらに、ひびわれの抽出では、カメラの撮影距離やレンズに大きく影響されるが、安全に航行させるための離隔距離の確保も重要となることから、0.2mmのひび割れ幅の認識は本検討では困難であったが、活用方法としてはひび割れのスクリーニングとしての活用が考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に無人ラジコンヘリによるインフラ構造物の変状自動抽出に関する技術については評価できる。一方、技術移転の観点からは、桁端部等の撮影困難箇所への対策についてはGPS中継機の設置による対策や、桁下空間や狭所部、さらには風雨の影響など、現場条件下でのラジコンヘリの操縦および撮影精度の改善などでの実用化が望まれる。今後は、機械、電気情報、土木構造等、各専門技術者の連携による開発研究体制の構築が期待される。
超高圧と八戸前沖サバを使ったシメサバ加工プラント創造のための研究開発 独立行政法人水産大学校
古下学
独立行政法人水産大学校
川崎潤二
本課題では、既存工程に超高圧処理を加え、商品寿命が長く、酸味が弱くて旨味の強いシメサバ製造工程の創造を目指した。研究の結果、旨味の強さは実現できなかったが、(1)従来品よりも酸味の弱いシメサバ製造法を確立し、(2)4℃3週間保存後でも新鮮なシメサバと同等の品質維持に成功し、かつ、(3)4℃3週間保存後シメサバの汚染細菌のレベルを魚肉1 gあたり10の1乗以下に抑えることを達成した。今後は、超高圧処理をラボスケールから工場レベルに拡大するための機械開発を(株)東洋高圧と進め、シメサバ製造工程への超高圧処理技術導入を図ると同時に、上記超高圧処理技術の他食品への転用を図りたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、超高圧処理と断熱材を用いた解凍法で殺菌効果が高いことが検証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、官能検査による食味の客観的な評価を充実させて旨味を増加させる条件検討も加えるなどでの実用化が望まれる。今後は、セシメサバの製造工程での超高圧処理の効果やアニサキスの加圧殺虫実験、遊離アミノ酸の測定データなどの追加も検討されることが期待される。
バウンダリスキャンテストによる半断線検出を可能にする検査容易化回路の開発 徳島大学
橋爪正樹
徳島大学
増田隆男
ディジタルICのプリント配線板へのはんだ付け時だけでなく、市場へ出荷後に熱応力等でICとプリント配線板間の信号線に半断線が発生する場合がある。本課題ではその半断線をICに内蔵されているバウンダリスキャンテスト機構を流用し、その信号線に電流を流し、その電流の異常で発見するIC内組み込み型検査容易化回路の開発を行った。その回路を内蔵したICのレイアウト設計を行い、試作発注したICを用いて作った回路に発生する半断線の検査能力をシミュレーションと実験で調査した。その結果、その検査容易化回路で各信号線当たり1μsecで100kΩ以上の抵抗断線、10μF以下の容量断線の半断線を発見できることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に出荷後に熱応力等によるプリント配線板へのストレスでICとプリント配線板間を接続する信号線に発生する半断線検出用にIC内蔵のバウンダリスキャン検出回路を設けている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、他の重要項目であるオーバーヘッド(回路面積、通常動作への影響、テスト時間)、しきい値による合否判定の可能性判別の可能性、及び、入力ピンの多い実回路への適用可能性)等について客観的に明確化することにより実用化が望まれる。今後は、試作回路及びシミュレーションを用いて「改善点」や、バウンダリスキャンテスト機構がないICにも適用可能な半断線検出技術についての検討を進めれらることが期待される。
コンクリート構造物のひび割れ自動検出技術の開発と、FPGAによる高速化 愛媛大学
全邦釘
愛媛大学
吉田則彦
近年、橋梁やトンネルなどの損傷状態の把握を目的として、コンクリート構造物に発生するひび割れの点検が行われているが、精度、効率の両面で問題となっている。本研究は、画像解析によりコンクリート構造物のひび割れを全自動、かつ高精度で検出する手法を構築し、点検の高精度化、および効率化を目指したものである。
本研究では、ナイーブベイズ分類器を機械学習により訓練することで高精度化を目指した。その結果、非常に精度の高い結果を得ることができ、特に影や汚れなどのひび割れと誤認識しやすい箇所について極めて良好に両者を区別することができた。また同時に、事業化を視野に入れ、FPGAによる高速化手法の開発も行い、その効果についても実際に確かめた。
今後の展開としては、撮影自体が難しい狭隘部を撮影するための例えばラジコンヘリコプターによる撮影機具の開発や、コンクリート以外のアプリケーション、例えば精密機器の損傷検出などへの応用が考えられる。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に土木構造物の撮影画像から、その主な損傷であるひび割れをベイズ推定と機械学習を組み合わせることで自動的に検出する手法を開発しており、点検の高精度化および効率化の技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、トンネル、橋梁、原子炉格納容器等の老朽化に備えた技術開発へのチャレンジとして、汚れなど雑音が重畳した画像からひび割れを検出する方法や、画像による事前確率の推定などでの実用化が望まれる。今後は、トンネルや橋梁の表面の画像処理に限定しているが、構造物内部の応力・歪の可視化など画像処理技術の拡大が期待される。
塩酸ガス簡易自動測定システム構築のための水晶振動子型ガスセンサーの開発 愛媛大学
松口正信
愛媛大学
吉田則彦
低コストで量産性の高いスプレーコーティング法を新たに提案し、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(以下、PNIPAM)ナノ微粒子膜を作製した。本研究では、PNIPAMナノ微粒子膜の最適作製条件を明らかにするとともに、PNIPAMナノ微粒子膜を塗布した水晶振動子の塩酸ガスセンサー特性を測定した。塗布量が少ない場合は微粒子膜が生成し、当初目標としていた100%可逆的な応答特性が得られた。しかし、塗布量が増加するにつれて微粒子が凝集した膜形態が同時に生成した結果、センサーの実用化の目標とした感度と回復率を同時に満たす特性は得られなかった。本研究の遂行によって今後解決すべき新たな技術的課題を明確にすることができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、センサー感度と、回復率の目標を達成するための課題が明確になった点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、商品イメージをより明確にし、そのために克服しなければならない研究課題を抽出する必要がある。今後は、回復率を支配している因子、例えば細孔構造、吸着エネルギーなどをより明確にすることが期待される。
γアミノ酪酸強化食品製造のための食材選択と製造工程モニタリング技術の開発 愛媛大学
渡部保夫
愛媛大学
吉田則彦
ガンマアミノ酪酸(GABA)の製造に適した食材を選択するためと、それを用いたGABA製造の成否を判定するために、簡便なモニタリング技術を開発した。L-グルタミン酸からGABAが生成されると副産物としてCO2が発生すること、その反応がpH4.5で最適であること、そのpHではCO2の形態で溶存することから、CO2選択性隔膜式炭酸ガス電極を用いて、CO2の発生とGABAの増加の間の相関性について検討したところ、食材の形状に依存するが、それらは高い相関性を示すことを発見した。CO2の飛散を防止するため半密閉容器で温和に撹拌する条件で溶存CO2測定によりGABA製造工程をモニタリングすることができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、一般品のCO2センサーを用いてGABAの生成工程をモニターできることを示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、モニタリング装置としては自己代謝分の区別とCO2発生速度・量の何を指標とするのかを明確にする、雑穀物を用いるGABA生産についてはそのコスト優位性を明確にするなどでの実用化が望まれる。今後は、簡易モニタリング装置の開発と雑穀類からのGABA生産のどちらを目的とするのか、再検討されることが期待される。
小口ニーズに対応するマハタ、クエの戸別活魚輸送システムの構築 愛媛大学
松原孝博
愛媛大学
秋丸國廣
マハタ、クエの小口活魚輸送に必要な機材のデザインと機能について明らかにした。容器についてはハタ類の背鰭の棘が刺さらない工夫を施し、水漏れ防止、保温、作業の簡便性に優れていることを確認して試作品を製作した。同システムにより、実際のクール便での輸送試験を、マハタを用いて実施し、翌日到着時に元気よく生存していることを確認した。また、食味試験により、輸送したマハタの品質の高さが確認された。商業的実用化を果たすためには、実際の販売用輸送を実証試験として実施しつつ、機材の改良を進める必要があるが、本事業では次のステージに向けた十分な成果が得られた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初目標に沿い既存装置を組合せたシステムを構築したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、輸送後の活魚に関する官能検査(食味試験)を、複数の観点からの食味評価表に基づく客観的評価とするなどでの実用化が望まれる。今後は、時間経過に伴うアンモニア、pH、溶存酸素、温度など水質の変化を計測すると共に、初期投資や搬送容器の再使用など実用化に向けた課題を養殖業者、容器会社、運送会社との連携で解決することが期待される。
生活環境総合評価のための数値人体モデルの開発 九州大学
伊藤一秀
九州大学
古川勝彦
本研究は、広範な生活環境評価に適用可能な数値人体モデルを開発すると共に、技術移転のための整備を行うことを目的とし、以下の個別研究課題に取り組んだ。
(1) 人体の詳細形状を再現した数値人体モデル(Prototype0)に数値気道モデルを組み込んだ、経気道曝露濃度予測のための新たな数値人体モデル(Prototype1)を作成した。
(2) 非定常人体熱モデルであるGaggeの2-Nodeモデルを数値人体モデル(Prototype1)に組み込むことで、人体モデル皮膚表面温度(顕熱放散量分布)、ぬれ率分布(潜熱放散量分布)の詳細評価が可能となる改良型数値人体モデル(Prototype2)を作成した。
(3) 汎用的な熱流体ソフトウェアであるANSYS/Fluentを用いて、対流・放射連成解析、湿気輸送方程式、汚染物質輸送方程式との連成解析が可能となる汎用型の数値人体モデル(Prototype3)を作成した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、環境中の汚染物質や温度・湿度等の環境要素を入力条件とした場合の人体感覚量・生理反応を高精度かつ詳細に予測可能な数値人体モデルを開発することが当初の目標であり、概ね目標を達成している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、生活環境における快適性予測だけでなく、健康影響までを総合的に予測・評価できる精度の高い数値人体モデルの開発は、特に被験者実験によって評価し難い環境での環境評価法としての適用が大いに期待でき実用化が望まれる。今後は、環境評価法として期待されるため、特許を取得し、それを基に産学共同等の研究開発ステップへつなげ、研究成果が応用展開されることが期待される。
カメラを用いた塔状鋼構造物の損傷部位推定 九州大学
辻徳生
経年劣化に伴う社会基盤施設の耐荷性能に対し、地上から撮影したカメラを用いて鋼構造塔体の損傷部位の位置と損傷程度を特定する手法を開発した。送電鉄塔などの点検は高所作業を伴い、鋼構造に対する専門知識を要するため、技術者が不足している。このような状況下で、カメラによる計測は高所作業を伴わずに地上から計測できるため、搭状の対象物の劣化診断を効率化できる。本プロジェクトにおいて、送電線鉄塔のボルトを緩めて劣化を模擬し、加振実験を行った。カメラ画像上の特徴点を追跡し、振動変位の計測に成功した。さらに、提案する振動モード解析に基づく損傷部値推定手法により、ボルトを緩めた部位の抽出に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に大型鋼製塔状構造物に対して地上から撮影したカメラを用いて各部位変位の地震時、強風時波形および常時微動波形を計測し、腐食や部材変形による損傷部材の位置と損傷程度を特定する手法に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、供用年数の長い重要な構造物に対し、劣化診断技術の提案のみならず、その技術を実構造物について成果を得ている一方、鉄塔に登らずに強風時振動計測から評価できるよう改善することなどでの実用化が望まれる。今後は、カメラを含め当該システムの耐風性や耐久性の向上が望まれる。
養殖魚管理用水中ロボット「海の牧羊犬」の実用化研究 九州工業大学
石原大輔
九州工業大学
山崎博範
本研究では、パッシブ型胸ビレ推進の技術移転により、養殖魚管理用「海の牧羊犬」の実用化が可能かどうかを探るため、それに基づく推進体が養殖魚の管理に十分な推進速度を達成できるかどうかを明らかにした。強い流体構造相互作用を高効率、高精度かつ安定に解析するシミュレーションを用いて、目標推進速度を達成できる最適解を探索し、それを見出した。また実機を通じ、ヒレ運動による船体揺動の防止方法などの技術移転に必要な基礎技術を開発した。以上から、パッシブ型胸ビレ推進を技術移転して、海の牧羊犬を実用化することができると考えられる。今後は、防水技術の高度化や自律化などの研究開発を進めて、海の牧羊犬の実用化を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、シミュレーションではあるが10m/sを実現するための最適解を見出し、実機で推進速度2m/sを達成したことは評価できる。一方、目標である「実機による推進速度10m/secの達成」に関しては、今回の成果を実際の設計にどのように反映するかが今後の課題であり、試作機による運転を通してメカ設計上の課題を抽出し、解決していくことが必要と望まれる。今後は、本技術の実用化は養殖事業の無人化だけでなく、水中探索など幅広い応用が考えられるので、10m/sにこだわらないでまずは現在の2倍の速度を実現するための技術について検討するなど、段階的に開発と課題解決を進めるとともに、モータへの給電方法、例えば燃料電池の適用、水中ロボットと地上との通信方法の検討もなども加味して開発を進めることが望まれる。
世界初高温加熱用超長寿命・長尺セラミックロールの最適設計に関する研究 九州工業大学
野田尚昭
九州工業大学
田中有理
本研究では、1200℃もの高温環境下で用いられる加熱炉中ローラーに使用されているセラミック被覆スリーブ(母材:高合金鋼)の肌劣化寿命を飛躍的に向上させうるセラミックススリーブ(軸:鋼)の設計課題である接合部の強度評価及び軸の抜けの検討を行った。その結果、(1)セラミックスリーブの張割れに対しては、テーパシャフトモデル。(2)軸の塑性変形に対しては、ショートテーパモデルがそれぞれ最適。(3)軸抜けを、初めてシミュレーションできた。今後は、(1)加熱炉条件を、より実態に近づける。(2)軸の抜けにおいて、ローラー試験片を用い、実験的に解析精度の向上を検証する。(3)併せて企業との共同研究を進めたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標についてはほぼ達成したと評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用面を考慮した強度評価、疲労試験、および理論的評価を証明するための実験を、既に実施している共同研究企業との協力で実施し、実用化されることが望まれる。今後は、協力企業における実用面評価を経て、造船、プラント等広く産業界において採用されることが期待される。
マイクロチップ型電気泳動装置を活用した新しい微生物分類・定量化法開発 福岡工業大学
渡邊克二
福岡工業大学
大野富生
(1)分離菌を同定する場合や(2)分離せずに同定する場面には操作性の改善等のプログラムの小改変で普及できるレベルには到達。重複断片の発生が少なく信頼性が高い制限酵素の組み合わせを検索するシステムを考案し、比較的単純な菌相を有する試料は(3)分離せずに再現性良く同定・定量できるようになったが、土壌や堆肥等のように多様性が高い試料を解析するために新たに考案した検索方法は未完成で、再現性を高めるには高度な選択培地により解析対象の菌群を絞り込む必要有り。このため多様性が低い水系の試料の分析を解析対象に絞った実用化研究を進めることにし、ここではヨーグルト中の乳酸菌相、活性汚泥中の細菌相の培養法と直接抽出法による解析結果を比較した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもマイクロチップ型電気泳動装置を利用することにより、ある種の単純な試料における微生物分類・定量化手法をある程度達成されている技術については評価できる。一方、微生物相の同定と定量を短時間で簡便に行う技術の開発は、水処理等の環境浄化技術の発展とも深く関わり、社会還元に導かれることが期待される。今後は、プログラムの改良、適用可能性の技術的検討やデータの積み上げなどされることが望まれる。
コンピュータビジョンに基づいた昼夜にロバストな道路診断解析システムの開発 久留米工業高等専門学校
松島宏典
久留米工業高等専門学校
三島淳一郎
コンピュータビジョン技術を利用して、クラック、ポットホール、轍などの道路損傷計測手法の開発ための目標として、次の2点を挙げた。
(i) 夜間における計測を可能とする。
(i i)道路破損の一種である轍の計測を可能とする。
実験車両により撮影した道路画像に従来手法であるパーコレーション法のみを適用したクラック計測では、横方向や幅のあるクラックが十分計測できず、ノイズへの耐性が十分でなかったのに対し、提案する計測手法では、ノイズを抑制した計測結果を得ることができた。また、夜間にレーザラインを用いることで轍の計測も可能にした。しかし、夜間画像のコントラストは十分とはいえない。今後は、コントラスト強調処理などの前処理を行い、精度向上を図る。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもコンピュータビジョンに基づいた道路診断解析システムによりクラックやポットホールなどの道路破損検査を自動化する技術については評価できる。一方、現在問題となった夜間の外乱光(他車のランプ等)への対策として、赤外レーザーを利用されているレーザーレンジファインダーの利用や、1台の計測車両から複数の車線を計測できるように工夫するほか、当初計画された赤外カメラによる夜間の道路欠陥検出手法の確立に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、複数台レーザーレンジファインダーの導入や道路切断線の時系列接続による路面3次元データの復元などを検討されることが望まれる。
安全管理を目指した高圧環境下における応力分布測定法の実現 独立行政法人産業技術総合研究所
寺澤佑仁
独立行政法人産業技術総合研究所
野中秀彦
本研究では、高圧環境下における応力分布および、疲労き裂の進展挙動の可視化をすると共に、来るべき水素社会を見据え、高圧設備等の安全設計に資することが目的である。
応力発光センサを用いた実験的なアプローチにより圧力容器内部の応力分布測定を行うため、大きく分けて「(1) 圧力容器内部への応力発光センサ塗装条件の最適化」、「(2) 圧力容器に応力発光センサを実装し、疲労サイクル試験の実施」の2点について詳細な実験を実施した。
その結果、(1)については十分な目標値を達成した。また、(2)圧力容器のサイクル試験では、これまでに測定が不可能であった応力分布(応力集中)を可視化することに成功した。
今後は、高圧容器や高圧設備の健全性を評価するシステムの構築を進める予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、応力発光センサの最適塗膜条件を得て、圧力容器内の応力分布の可視化を行い、複合容器内部の応力分布のみならず、き裂の検知に対しても有用であることを実証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、定量的評価方法を確立、長期的耐久性を維持できる塗膜条件の確立などが課題と思われ、課題克服による実用化が望まれる。今後は、塗料塗布だけで応力分布を可視化できる本手法の早期の社会還元が期待される。
大型CT装置を用いた非侵襲肉質評価法と早期種雄牛選別法の開発 宮崎大学
浅沼武敏
宮崎大学
坂東島直人
口蹄疫禍からの復興やTPP等に対する国際競争力を持った日本の畜産復興のためには、早期の新たな優秀な種雄牛の確保が重要である。このため、後代検定の選別期間を短縮することが必須である。本研究では、世界に1台しかない産業動物用大型CT装置を用いて、優良種雄牛の早期選別のための非侵襲的生体肉質評価法を確立するための研究を行った。遺伝的に近い肥育開始期3頭と肥育中期1頭を使ってCT検査をおこなった。肥育中期の牛は枝肉時にもCT検査を行い、脂肪含量についても測定した。肥育前期の14-16ヶ月令における第6-7胸椎における脂肪交雑のCT値の分布がA5独特の形状を示す牛は霜降りの良い優秀な牛として早期選別することが出来る可能性が高いことが判った。さらに、20ヶ月令での第6-7胸椎における脂肪交雑のCT値の分布は枝肉評価時の結果を確実に予測することが可能であると結論付けられた。遺伝子型については成長ホルモンがABのヘテロ型、ジアセシルグリセリドアシルトランスフェラーゼ1がAAのホモ型、肝臓X受容体αがGGのホモ型である可能性が指摘された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初計画に沿いCT撮影のデータを解析し、後代の選別法としての有用性を示す共に、肥育中期以前に脂肪交雑が決定される可能性を示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、当初目標を達成すべく精査した計画に基づく研究を続行し本技術を早期に実用化することが望まれる。今後は、世界唯一の産業動物用CTを、産業に直結した技術移転を目指す研究により一層活用されることが期待される。
LAMP法によるヒラメクドア病原体Kudoa septempunctataの迅速検出法の確立 宮崎大学
引間順一
宮崎大学
坂東島直人
本研究事業では、ヒラメ食中毒の原因である粘液微胞子虫Kudoa septempunctata、ヒラメクドアの迅速かつ簡便な検出方法の開発として、まず、より種特異性の高いITS領域の塩基配列を決定したところヒラメクドアのITS1領域は475bp、5.8S rRNA遺伝子は158bp、ITS2領域が794bpであった。既知のクドア種との相同性は5.8S rRNA遺伝子領域は83%以上で保存性が高く、ITS1 およびITS2領域では42%以下と保存性が低かった。そこで種間での変異が多いと考えられるITS領域にLAMPプライマーセットを設計し、ヒラメクドアゲノムDNAを鋳型にLAMP反応を行ったところ、至適温度60℃で、45分以上で増幅が可能で、PCR法よりも検出感度が高く、種特異的にK. septempunctataのみを検出した。さらに簡便な検出デバイスの試作したところ、プライマーを乾燥させたチューブに反応液と鋳型DNAを加えるだけで上述と同様の結果が得られた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、PCR法よりも高感度、特異的、かつ迅速な検出法が確立され、当初の目標はほぼ達成された技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、感染モデル試料や感染したヒラメでの実用化試験、早期の特許出願をなどでの実用化が望まれる。今後は、感染したヒラメでの実用化試験を行い、受け皿企業のニーズを把握し、これを反映した共同研究されることが期待される。
微生物機能を利用したストロンチウムのカルサイトへの封じ込め技術の開発 宮崎大学
吉田ナオト
宮崎大学
新城裕司
好熱性細菌Geobacillus thermoglucosidasiusは25 mM酢酸塩、7 mMカルシウム、2 mMストロンチウムを含む結晶形成ゲル表面にてカルサイト結晶を形成する能力を持つ。G. thermoglucosidasiusの機能を利用して溶液中のストロンチウムをカルサイト結晶中に封じ込める最適な条件を探った。ストロンチウム初期濃度、G. thermoglucosidasius濃度がそれぞれ 60ppm、0.9 mg(湿重量)/mlのとき7日間で、90%のストロンチウムを除去することができた。G. thermoglucosidasius濃度が0.6、1.4 mg/mlのとき7日間でそれぞれ82%、85%除去することができた。0.3 mg/mlのときは除去効果が極端に鈍くなった。60 ppmのストロンチウムを7日間で除去するにはG. thermoglucosidasius濃度は0.9 mg/mlとなるよう添加すれば最適となることわかった。容器の底には肉眼で確認できる程の結晶が認められた。溶液中のストロンチウムはカルサイト結晶中に封じ込められ沈殿したと考えられる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、特定の微生物機能に着目した放射性ストロンチウムの回収技術に関し、ストロンチウム濃度が60 ppm程度の高濃度であれば効果的な除去が可能なことなどの基本的なデータが得られたことは評価できる。一方、0.1ppm程度の低濃度ストロンチウムの回収に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。本研究は、福島第一原子力発電所の事故処理から発生した高濃度汚染水に含まれるストロンチウム90回収に関連する重要な研究であり、今後一層の進展が望まれる。
餌料用プランクトン「ワムシ」の行動制御と海産仔魚飼育の効率化 長崎大学
萩原篤志
長崎大学
坂田智昭
ワムシの付着行動の頻度が遺伝的に異なる株の間で大きく変わることを見出し、産業に直接寄与できる知見が得られた。次に、βカロテン投与による眼点色素量の増大と、それにともなう眼点の光感受性増加を期待し、低光量でもワムシに走光性を誘発できないか検討したところ、眼点は逆に縮小し、光への感受性も低下する結果となった。それにもかかわらず、当初予期したように、遊泳する個体が増加する現象がみられた。βカロテン投与により、仔魚が摂餌しやすい浮遊するワムシの割合を増やすこともできたが、産業的な有効性をもたらすほどの効果ではなかった。
当初目標とした成果が得られていない。中でも、ワムシの浮遊・付着の影響を及ぼす要因に関する知見が依然として不足しており、これら要因についての技術的検討や評価が必要である。今後は、要因に関する基礎的な解析を継続して、浮遊するワムシの実生産レベルの条件検討に結びつけることが望まれる。
高断熱軽量モルタルにおける材料設計法の構築に関する研究 大分大学
佐藤嘉昭
大分大学
江隈一郎
本研究開発の目標は、大分県の地域産業資源である黒曜石を高温発泡させた、従来の市販品よりも硬度が高いパーライトと、耐火性に優れる従来のフライアッシュに含まれる未燃カーボン量を1%以下に低減した改質フライアッシュを素材として用いた高断熱モルタルの開発において、汎用性のある材料設計法を確立することである。パーライト自体の気泡径の分布やマトリクス中での分布に関する実験は継続中であるが、圧縮強度(ヤング係数)や割裂引張強度、曲げ強度がモルタルの単位容積質量の関数として整理できること、また、熱伝導率も同様であること等の成果が得られ、高断熱軽量モルタルにおける材料設計法の構築の可能性を見出すことができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも全く基礎物性の無かった黒曜石を高温発泡させた材料の基礎物性を解析することに成功したことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは今回得られた基礎的物性データにもとづき船舶艤装床材を対象とした高断熱軽量モルタルなどの材料設計手法の確立に向けたさらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、実用化を視野に入れ現行材料に対する優位な特性、コストなどの目標を明確にし、研究開発を進めることが望まれる。
簡易型高所打音検査装置の開発 熊本大学
森和也
熊本大学
東英男
打音検査装置を長さ3mの作業棒に装着して、簡易型高所打音検査装置「コンクリートペッカーI」を開発した。この装置の諸元は以下の通りである。
○打撃の強さは作業者の打撃に匹敵し、地上より約4 mの高所を打音検査できる。
○打撃の音響信号は作業者のヘッドフォンに送られるとともに、振幅スペクトルをモニター上に表示できる。また、打撃点の映像もUSBカメラで取り込んで、モニター上に同時表示できる。
○欠陥を有するコンクリートの検査に際して、直径200 mmの円盤状欠陥に対して、深さ約50 mmまで検出できる。
さらに、当初の目標を可能にするために、長さ6mの作業棒を用いた「コンクリートペッカーII」を開発した。検査可能高さは6mを越える。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標である5m以上の高所を検査するという課題に対し、作業性にも配慮した4mの高さでの検査を可能とするコンクリートペッカーを開発している。また、作業性には劣るが6mの高さでの検査を可能とするコンクリートペッカーIIも開発し、打撃装置および音響収録装置、音響特性評価アプリケーション、データ表示装置などの一式を開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、開発の方向として、装置の軽量化、信号処理ソフトの改良、音響収集装置の精度向上を挙げており、実用化において重要な項目であり、これらの克服による実用化が望まれる。今後は、様々な欠陥を対象として本装置の適用性を検証し、企業と連携し、企業の有する小型化技術を用いて装置の可搬性を高め、社会還元につなげることが期待される。
木造住宅制振標準化を目指したデバイス開発 第一工業大学
古田智基
木造住宅の制振構造標準化を目指し、安価で既往の技術・設計法で適用ができ、フェイルセイフ機能を兼ね備え、暴風に対しても効果を発揮する「減衰機能付加型筋かい金物」を考案・試作し、その性能評価を実施した。そして、実際に住む側のユーザー目線で見て費用対効果が確認できる設計・性能評価手法を提示した。
デバイスに適用した高減衰ゴムの等価粘性減衰定数はheq>23%であることを確認するとともに、試作を通した量産コストのシミュレーションにより、目標販売価格とした3,000円/個を達成する見込みを付けた。そして、静的フレーム実験により目標とした壁倍率2を確保し、デバイスを設置した際の効果を確認するソフトを開発した。さらに、特許出願のための内容を整理し、申請準備を整えた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標性能を発揮するディバイスの試作に成功し、応用展開に有用なディバイスの配置設計の制振効果を簡明に示すソフトも開発しており、概ね目標を達成たと評価できる。また、新たな特許出願も予定されている。一方、技術移転の観点からは、木構造という性能のバラツキが大きな材料では、そのバラツキを考慮した設計法が必要不可欠であり、実験研究データを蓄積し、実用化に進むことが望まれる。今後は、木造住宅の構造性能向上が期待される技術開発であると判断すれるので、現在実施中の、企業との協力体制で、社会還元につなげることが、期待される。

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