評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成26年7月公開 - グリーンイノベーション 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
水素吸蔵合金アクチュエータを用いた太陽追尾システム開発を目指した基礎試験 公益財団法人函館地域産業振興財団(北海道立工業技術センター)
松村一弘
公益財団法人函館地域産業振興財団(北海道立工業技術センター)
宮原則行
本研究の目指す太陽追尾システムは、水素吸蔵合金を入れた容器が太陽光を受光し暖められることで容器内の水素吸蔵合金から水素が放出し、その圧力により太陽追尾機構を駆動させる構造で、電気制御が不要で、駆動するためのエネルギコストがかからず、保守が容易という特長がある。本研究では、太陽光の輻射熱により、容器に入れた水素吸蔵合金の放出する水素圧力が、追尾機構として利用可能な値に達するかを、適切な合金を試作して、その合金を用いた太陽光受光試験によって検証した。実用的な圧力値が得られたことから、今後、実用化を進める予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、受光した太陽光の熱により水素吸蔵合金から水素を放出させ、その圧力により太陽光追尾機構を駆動させる新たな太陽追尾システムを開発しようとする開発目標に対して、設定した駆動に求められる30分に0.15MPaの圧力差と、太陽に対して7.5度以内の太陽追尾動作を実験により検証し、達成していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、応用展開としての、製品化システムのイメージは不明瞭なようであり、本機構を用いた具体的な応用システム(製品化例)の試算、見込みをたてることが、実用化の観点から望まれる。今後は、システム全体として経済的にも成立するかどうか十分に考慮しつつ、実用化研究にステップアップを図っていくことが期待される。
高純度な水素供給インフラ用天然ガス改質器の試作と実用性評価 旭川工業高等専門学校
宮越昭彦
苫小牧工業高等専門学校
土田義之
マイクロ波加熱装置と触媒を組み合わせた反応器を用いて、メタンの直接分解反応(スチーム添加なし)を実施し、高いメタン転換率(水素収率で90%以上)でかつ、COやCO2を副生させずに高純度水素(生成ガスの水素選択率でほぼ100%)を生成させることに成功した。
● マイクロ波加熱条件下のメタン分解反応において、触媒表面に析出する炭素質はほとんど水素生成反応を阻害せず、むしろ触媒反応の安定化に寄与することを初めて発見した。
● 高純度水素を1段で製造できることにより、燃料電池への水素供給装置やオンサイト型水素ステーションへの応用が考えられるほか、温室効果ガス削減のための環境技術として期待される。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、当初目標を大幅に上回る収率、純度での水素生成を実現させた技術に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、オンサイト水素製造設備などでの実用化が期待される。今後は、天然ガスを用いた確認、単位時間当たりの水素製造量増加、安全運転監視システム構築について検討されることが期待される。
バイオプラスチックのマテリアルリサイクルに関する研究 地方独立行政法人北海道立総合研究機構
可児浩
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
宮腰康樹
バイオマスプラスチックにポリ乳酸およびポリブチレンサクシネート、架橋剤としてエポキシ基含有ポリマー、カルボジイミド基含有ポリマーおよびイソシアネート基含有ポリマーを用い、新材、1回目リサイクル品、2回目リサイクル品を模して繰り返し成形加工を行い物性等を測定した結果、以下のことがわかった。
1) 各プラスチックの溶融粘度は成形を繰り返すことにより低下するが、適切な添加剤を適量用いることにより、新材と同等の溶融粘度を維持出来ることがわかった。
2) 充分な乾燥を行った上で再成形加工したバイオマスプラスチックは、1)のとおり溶融粘度の低下はみられるが、その強度等の物性は特にポリ乳酸においては新材と比較し大きな低下はみられなかった。またポリブチレンサクシネートにおいても適切な添加剤を適量用いて再成形加工することにより、新品と同等の物性を維持出来ることがわかった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、バイオマスプラスチックとして標準的な2種の材料、PBSとPLAを選択し、それぞれについて適切な鎖延長剤の添加により物性低下を抑制し初期の材料と同等の物性を維持するマテリアルリサイクル条件を見いだしたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、現場条件での最適化が望まれる。今後は、民間企業等に成果をアピールすることにより、研究成果を活用されることが期待される。
簡易な構成で装置サイズを大きくすることなく傾斜分離装置における処理量を増加させることが可能な傾斜軸方向多段供給型高効率連続傾斜シックナーの開発 苫小牧工業高等専門学校
平野博人
苫小牧工業高等専門学校
土田義之
被処理液の供給方法に着目した供給方法改良型の「傾斜軸方向多段供給」を用いて、固体処理能力を向上させる高効率な傾斜沈降分離装置の開発を目指し研究開発を行った。その結果、従来の供給方法による「平面供給」では、装置の断面積の制約を受け固体処理量には限界があるが、傾斜回分沈降の固体流束は傾斜高さが高くなるほど大きくなるという特徴を最大限生かした傾斜軸方向から一斉に供給する「傾斜軸方向多段供給」では、装置の傾斜板面積を有効に利用することができ、固体処理能力を30%程度向上させることが可能な高効率な供給方法であることが示された。したがって、傾斜沈降理論を基に、より高効率な傾斜シックナーの設計が可能であることが示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、30%程度効率の高い傾斜シックナーの作成が達成されたことは評価できる。一方、最適な操作条件や再現性に関する課題を持っており、研究の発展が望まれる。可視化実験も並行しているので、供給部の設計や操作条件を最適化するために、固液流動のシミュレーションによる検討が必要と思われる。今後は、傾斜沈降分離装置の最適設計および操作条件に向けた数値解析と沈降速度の制御や促進するための技術開発が望まれる。
生分解性吸水高分子をマトリックスとした新規肥効調節型肥料の開発 苫小牧工業高等専門学校
甲野裕之
苫小牧工業高等専門学校
土田義之
申請者が開発したカルボキシメチルセルロース(CMC)を原料とした生分解高吸水高分子(SAP)と化学肥料の複合化により、徐放性・緩効性と保水性を兼ね備えた新規生分解性徐放性肥料を提供することを目的とした。肥料を効率良く吸収可能なCMC-SAP合成条件と複合化条件を検討し、土壌での各肥料成分の溶出挙動を評価した結果、60日後においても肥料の20~40%を保持していることが明らかになった。また保水性能が確認され、酵素分解試験により生分解性を有することも実証できた。よって新規な環境調和型徐放性肥料として、農業の省力化・コストダウンに貢献できることが証明された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、安全性や肥効性の面で優れていると考えられる肥効調節型肥料を計画通りに開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、肥料としての合成と精製法の改良と安全性や土壌中での分解性の確認などを経た上での実用化が望まれる。今後は、圃場での実証テストに注力し植物の成長促進効果を確認されることが期待される。
医薬合成重要原料「光学活性プロパルギルアルコール類」の高純度合成 北海道大学
大熊毅
本課題は、医薬合成原料等として需要が非常に多い光学活性プロパルギルアルコール類を効率的かつ高純度に供給する方法の開発を目指すものである。申請者が世界に先駆けて開発した「光学活性ルテニウム錯体触媒を用いるアルキニルケトン類の不斉水素化反応による光学活性プロパルギルアルコール類の製造技術」をブラシュアップし、目標に掲げた「アルキニルケトンの1000分の1当量の触媒量、水素10気圧で24時間以内に反応が完了し、95%以上の鏡像体過剰率でプロパルギルアルコールを与える条件の確立」を達成した。また、広範な基質に適用できることを明らかにした。今後は、化学系企業と協力し、医薬品原料等の有用化合物合成に向けた検討を行う予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にプロパルギルアルコールの収率と不斉収率が良い点、用いる触媒が、触媒量として大きく削減している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、もう少し、需要の高い不斉プロパルギルアルコールを精査し、ピンポイントで実用的合成の試験研究を行うことと知的財産権の確保が望まれる。今後は、企業との共同研究を進め、実用化に向けて需要の高い不斉プロパルギルアルコール製品合成に反映させることが期待される。
水素ブロンズを前駆体とした貴金属を必要としない新規二元機能触媒の設計 北見工業大学
大野智也
北見工業大学
内島典子
資源の枯渇という観点から、貴金属代替触媒の開発は重要な研究課題である。この課題に対して、遷移金属酸化物は貴金属と類似の触媒特性を示すが、その活性は低い。しかし高表面積の遷移金属酸化物を調製できれば、この問題を解決できる。本研究では、水素還元速度を小さくすると高表面積のMoOxが得られ事を見出し、最大で340m2/gという高表面積を得た。これは当初の目標値とほぼ同程度の値である。また高表面積を有するHxMoO3を調製したところ、HxMoO3を出発物質に用いればPt/H-モルデナイトと同等の性能を有する二元機能触媒が設計できることを示した。今後は、還元時の高表面積化の機構の解明を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に還元速度を抑制することで非常に高表面積な酸化モリブデンの合成に成功したこと、また異性化反応に優れた触媒性能を示す事を見いだしたことは高く評価できる。
一方、技術移転の観点からは、高表面積の発現に関する基礎研究進めるとともに、産学共同研究により実用条件下での触媒性能の確認と改善点を明らかにし実用化に向けた改善の取り組みが望まれる。
環境負荷を軽減するセルロース糖化促進タンパク質の機能評価と応用 北見工業大学
住佐太
北見工業大学
内島典子
温和な条件下でのセルロース糖化効率の向上と工業化を目標とし、糖化促進タンパク質Expansinの探索と評価を行った。バクテリア約50株より新規Expansin遺伝子18を単離、うち13遺伝子について構造遺伝子全長を取得した。また、20以上の新規な推定Expansin遺伝子断片を検出し配列を解析中である。発現に成功した13遺伝子中3種について評価を行い、通常用いられる糖化酵素濃度の10-1未満(≒0.1%もしくはそれ以下)でも顕著な糖化促進活性が認められた。また、弱酸性付近において幅広いpH条件で活性を示しており、様々な至適条件のセルラーゼと共反応を行うことで、個々のセルラーゼや反応系に適したExpansinが選択可能となる。今後は、スケールアップと微生物変換系への導入を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にセルロース糖化促進タンパク質の遺伝子を単離し構造遺伝子全長を取得した事、並びに低濃度セルラーゼ存在下で糖化促進活性を示すことを確認した事は評価できる。一方、技術移転の観点からは、取得したタンパク質を特許出願として明示し、セルロースの糖化プロセスなどでの実用化が望まれる。今後は、未評価の遺伝子の評価を進めるとともに、コスト試算を行うためにもスケールアップを検討することが期待される。
代謝改変酵母を用いたバイオマスを原料とするアスタキサンチン・キシリトールの同時発酵生産 北見工業大学
堀内淳一
北見工業大学
有田敏彦
本研究では、赤色酵母Xanthophlomeyces dendrourousを用い、未利用バイオマスを糖化して得られるキシロース・グルコース混合加水分解液を原料として、キシリトールおよびアスタキサンチンを同時生産することができるバイオプロセスを検討した。すなわち、粉砕コーンコブを出発原料とした加水分解液(グルコースを約30g/L、キシロースを約25g/L含有)を培地とした回分培養の結果グルコースが最初消費され、その後キシロースが順次消費されるDiauxic growthが観察された。菌体増殖は大きく促進され、アスタキサンチン濃度は4.5mg/L程度まで増加したが、キシリトール代謝が過剰に促進されたことから、X. dendrourousのゲノム解析に基づいたキシリトール脱水素酵素をノックダウンする代謝改変を現在遂行中である。これらの結果を、国際会議2件を含む学会(5件)および雑誌(1件)で報告し、第22回化学工学・粉体工学研究発表会(函館、2013)において学術奨励賞を受賞した(松井麗樹、堀内淳一他;コーンコブ加水分解液を用いたアスタキサンチンの微生物生産)。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも粉砕コーンカブの糖化液からアスタキサンチンを生産する技術については評価できる。一方、キシリトールの分解の阻止、アスタキサンチンとキシリトールの安価な分離精製、培養後残渣の後処理の技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術移転したいものが発酵産物(アスタキサンチンやキシリトール)なのか、菌株なのか、全体のプロセスなのかをコーディネーターと協議し不足する技術を補完できる企業と連携されることが望まれる
全可視光応答性を有する有機p/n接合体系光触媒の形態探索 弘前大学
阿部敏之
弘前大学
工藤重光
これまでの研究成果を背景に、 有機半導体を基盤としたシンプルで活性な光触媒システムの構築に関する研究を行った。 基体上にペリレン誘導体PTCBI(n型)/コバルトフタロシアニンCoPc(p型)を積層し、 このp/n型有機フィルム(酸化サイト)と白金線(還元サイト)を外部導線で連結する方法で光触媒システムを構成した。 本光触媒システムではp/n型有機フィルム中のCoPc上に生じる光誘起の酸化力を使って分解反応が起こり、 特にアンモニアボランの酸化分解の際には、 約5.0 L/m2(6時間照射)の水素をもたらすことが明らかとなった。 本研究を通して、 全可視光応答型の目的の光触媒システムが見いだされた。 今後は研究シーズとニーズのマッチングを探りながら、 適用対象を明確にした上で有機光触媒の具体的な応用展開を図る等を構想している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に広範な可視光波長領域に亘り活性を発現する系を構築するとともに既存の光触媒系と同等量の水素発生に成功していることは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、 さらなる高活性な有機触媒システムや安価でより反応性の低い材料の検討とともに、共同研究企業と応用展開を明確にした上で具体的な検討による実用化が望まれる。
今後の研究の進展により、太陽光の利用によるクリーンな水素製造や環境浄化用途等の分野で実用化されることが期待される。
カルボサーマル反応を用いた固体高分子形燃料電池用複合金属酸窒化物触媒の低コスト合成と高性能化 弘前大学
千坂光陽
弘前大学
上平好弘
固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell、 PEMFC)カソードにおける非白金触媒である、ハフニウム酸窒化物担持カーボン(HfOxNy-C)のHfサイトに複数の異種金属元素を置換導入した。Hfよりも価数が低いAlを置換導入することにより活性は向上し、置換導入量に最適値20 atm%が存在することを明らかにした。本触媒はアメリカエネルギー省が推奨する20,000サイクルの加速劣化試験後も、安定に活性を示した。Hfとチタン(Ti)の複合金属酸窒化物触媒における活性なサイトを解明するため、TiOxNy触媒もカルボサーマル反応を利用して合成した結果、0.4 A g-1の質量活性がpH=1の可逆水素電極電位(Reversible Hydrogen Electrode, RHE)に対し0.8 Vの電位で得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、PEMFCの陽極電極触媒における作動特性は0.4A/g程度であるが、触媒合成プロセスの無害化や、ドープする金属元素の違いによる特性の違いを明らかにしている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、+P19Hf系触媒にドープする金属として、Al、Tiを取り上げ、また酸素の一部を窒素に置き換えることによるメリットを示している点や、技術課題として作動特性の向上のためのドープ金属種やドープ量の確定という点にあることを明らかにしており、早急な実用化が望まれる。今後は、企業との連携による早期実用試験が期待される。
高緻密なMgB2バルクの作製とパルス着磁法によるテスラ級バルク磁石開発 岩手大学
内藤智之
岩手大学
近藤孝
大型かつ高緻密のMgB2バルクを作製し世界最高性能のMgB2バルク磁石を開発することを目的として研究開発を実施した。熱間等方圧加圧法により最大直径65mm、充填率90%以上の大型かつ緻密なMgB2バルクの作製に成功した。磁場中冷却着磁法によりTi置換した直径38mmのバルクの表面中心において3.6テスラ(14K)の捕捉磁場を得た(目標値:直径30mmで3テスラ)。この値は現時点で世界最高値である。一方、パルス着磁法では無置換バルク(直径38mm)において0.75テスラ(20K)の捕捉磁場を得た(目標値:直径30mmで1テスラ)。捕捉磁場値は概ね目標値を達成できたと言える。今後はメカニカルミリングを実施して更なる高特性化を目指す予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもMgB2バルクの大型化による5テスラ超の捕捉磁場の当初目標は達成されていないが、38mmのバルクではTi添加で2割程度の捕捉磁場の改善をしている点については評価できる。一方、MgB2はRE-Ba-Cu-O系と比べると、粒界が弱結合にならないというメリットがあり、MgB2線材を用いたMRIなどもすでに世に出ているが、MgB2バルクの磁石応用に関しては、RE-Ba-Cu-O系に対する明確な優位性を示す技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、粉末法による試料作製において冶金(材料)学的な配慮として、粉末サイズ、表面酸化、不純物、比重差などがあるものの、混合状況、HIPの脱気、昇温・昇圧パターン、ミクロ組織等々を整理したうえで作製法を最適化されることが望まれる。
無電極ヘリコンプラズマ推進機の開発 東北大学
高橋和貴
岩手大学
大島修三
本研究では、宇宙空間における主動力推進エンジンとして応用が期待される磁気ノズル搭載型の無電極ヘリコンプラズマ推進機の開発とその推力計測を行った。当該推進機は、プラズマ生成、静電・電磁プラズマ加速、噴射イオンの電気的中和という電気推進機に必要となる一連の動作を無電極で実現可能であり、損傷個所が無いため他の方式に比べて原理的に長寿命化が可能な電気推進機が実現できると期待される。磁気ノズルの磁場強度を増強し推力が増大することが示され、10mNを超える推力が得られることが示された。また、磁気ノズルを永久磁石によってのみ形成することに成功し、現時点で推力15mN、比推力2000秒を得ることに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標推力 10mN、比推力 2000秒を越える、推力15mNを得た技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでのプラズマ物理に立脚した研究と平行して、実用化技術としてのロケットエンジンなどに用いての評価や検討による実用化が望まれる。今後は、本技術の汎用的応用分野の検討や、本技術をイオンエンジンに用いる際の課題を明確にした上で、その課題解決技術を研究されることが期待される。
高活性新規第1級アルコール選択的酸化触媒の実用化研究 東北大学
岩渕好治
株式会社東北テクノアーチ
白田大介
医薬品やファインケミカル合成の短工程化に資する、第1級アルコール選択的酸化触媒:ジメチルアザノルアダマンタンN-オキシル(DMN-AZADO)の大量合成法の開発とDMN-AZADOを用いたアルコール酸化反応の実用的プロセス開発を目的として検討を行った。その結果、総収率を大幅に向上させることに成功し、10 gスケールでのDMN-AZADOの合成を可能とする第二世代合成法を確立するとともに、DMN-AZADOのTEMPOに比べての優位性を実証する新たなデータを得ることができた。本課題研究の実施により、所期に掲げた目標にほぼ到達できた。今後は試薬としての上市と技術移転の準備を行いつつ、DMN-AZADOに潜在する機能性開発を継続する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に大量合成、NaOClや分子状酸素の利用、従来汎用されていたTEMPOと比較した優位性など、当初の目標が全て達成された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、工業的スケールでの酸化を行う際、触媒の当量数や反応時間においては、改良の余地がある。また、試薬ベースではなく商業ベースでの製造にはさらに収率、効率の向上と安全性の確認が必要である。今後、開発されたこの触媒を活用できる反応系、ターゲット化合物の市場調査を行い、製造規模などの具体化の準備が求められる。本研究は独創性が高く、適用範囲の拡張や反応条件の改善がさらに進み、実用化することが期待される。
抗緑膿菌活性を有する新規抗菌剤の開発 東北大学
米山裕
東北大学
渡邉君子
本研究において、緑膿菌の鉄欠乏条件に応答するシグナル伝達系を標的とした新規リード化合物を探索するためのスクリーニング系の開発に成功したことを検証し、実際に化合物ライブラリー約3,000種類をスクリーニングした。その結果、一つのヒット化合物を見いだした。本スクリーニング系は緑膿菌の鉄獲得に関連したシグナル伝達系を遮断する化合物に加え、レポーターとして用いた本菌のMexAB-OprM多剤排出ポンプ阻害剤も原理的に評価の対象となる。そこで、ヒットした化合物の活性を詳細に検討したところ、本化合物の標的はMexAB-OprMポンプであることが明らかとなった。今後はより広範な化合物ライブラリーのスクリーニングに向け外部研究機関との連携を模索し、多剤排出ポンプ阻害剤も含め新規な活性化合物の探索を進めて行く予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも多剤耐性細菌に有効なスクリーニング法が開発されている点については評価できる。一方、現時点において、候補化合物が一種類しか見い出せていないため、化合物の誘導体化を進めると共に、他の候補化合物を探索することが必要と思われる。今後は、優れた本スクリーニングシステムに協力できる製薬企業と産学研究を実現することが望まれる。
シリコンフォトニクスを用いたデジタルコヒーレント光通信用波長可変レーザの開発 東北大学
北智洋
シリコンフォトニクスを用いて作製した超微細リング共振器波長可変フィルターと化合物半導体光増幅器を組み合わせることで、光通信におけるL帯をカバーする波長可変幅67.6 nm、最大光出力(チップアウト)42.2 mW、発振線幅100 kHz以下の特性を持つ波長可変レーザーの作製に成功した。本レーザーは、デジタルコヒーレント光通信局発光源としての使用に耐えうる性能を従来のシリカ系導波路を用いた同様の構造と比べて1/9のサイズで実現している。また、スループットの高いパッシブ実装技術であるフリップチップボンディングによって精度良く波長可変フィルターチップと半導体光増幅器を結合させることに成功し、本課題の目標は完全に達成することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にSOAレーザーを改良するため、反射戻り光対策、放熱対策、フィルターの改良により出力42.2mWを得ている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、応用展開された時の社会還元性は大いに期待され、60mW必要という新たな目標をクリアすることにより実用化が望まれる。今後は、早急に特許出願ならびに技術移転の検討されることが期待される。
バイオマスから抽出した酢酸リグニンを用いる細胞染色用蛍光粒子の開発 秋田県立大学
伊藤一志
秋田県立大学
石川直人
本研究は、間伐材から抽出した酢酸リグニンを用いて細胞染色用蛍光粒子を開発することを目的とした。研究開発の結果としては、湿式粉砕により粒子径が約50 nmの酢酸リグニンを作製したこと、酢酸リグニンの細胞毒性を示す濃度を明らかにしたこと、 酢酸リグニンの蛍光特性および分子量を明らかにしたこと などである。以上の成果より、細胞染色用蛍光粒子の原料として、酢酸リグニンを用いることが可能である見通しが得られた。将来的に間伐材から抽出した酢酸リグニンが細胞染色用蛍光粒子の原料として活用出来れば、山林に放置されている間伐材の価値も高まり、現在衰退している国内の林業の活性化を期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に予想より大きな粒径で細胞内に導入できることが明らかになり、間伐材由来のバイオマスである酢酸リグニンを利用した蛍光微粒子の調整技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、本課題で得られた蛍光試薬を用いた細胞観察法としての実用化が望まれる。今後は、顕微鏡メーカー等との連携により、実用化に向けての一層の研究開発のスピードアップが期待される。
ゲノム情報活用による稲いもち病用農薬カスガマイシンのセルロース系バイオマスを発酵原料とした高生産株の作成 秋田県立大学
小嶋郁夫
我々が分離したセルラーゼ高分泌性放線菌Streptomyces thermocarboxydus C42株は、ゲノム中に9種のセルラーゼ推定遺伝子を持つ。本研究により、これら遺伝子群は、C42株で発現し、クローン化して強制発現を行い、8遺伝子がセルラーゼ活性を導くことを見出した。さらに、これら9遺伝子全てを含むセルロース系バイオマス資化酵素発現カセットを構築し、本カセットを放線菌用ベクターに挿入してpBOM51を構築した。本ベクターを放線菌発現用宿主Streptomyces lividansに導入し、セルラーゼ活性を検討し、さらにカスガマイシン生産菌Streptomyces kasugaensisへの導入を試みている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、複数のセルラーゼを強制発現させたセルロースバイオマス資化性の抗生物質生産菌を作製し安価に抗生物質を生産することを目的に、発現酵素群の活性を測定し発現カセットを作製していることは評価できる。一方、当初の目標であるセルロース資化及びKSMの合成に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、セルロース系バイオマスを資化できない放線菌に同バイオマスの資化性を付与できるかどうかがポイントであるので、その点を早く見極めることが望まれる。
製紙スラッジを原料とした多孔質粒状ハロゲンガス捕獲材製造技術の開発 千葉大学
和嶋隆昌
千葉大学
小柏猛
本研究課題の目的は、産業廃棄物である製紙スラッジを原料として低コストな多孔質粒状ハロゲンガス捕獲材を製造し、焼却炉の高温域におけるハロゲンガス処理を可能とする技術を開発することである。製紙スラッジが水分を含んだ状態で形状を制御し乾燥することで、造粒や顆粒化が容易にできた。また、得られた乾燥物を800℃で1時間加熱した後、3 M NaOH溶液に固液比1:10で添加し、100℃で8時間加熱することで、ハイドロガーネット相を含む多孔質な粒状材を作成することができた。また、塩化水素ガスの捕獲能を示すことがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に産業廃棄物である製紙スラッジを原料にして、形状や粒径の違う多孔質粒状体が得られた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、吸着材の物性、使用済み吸着材からの溶出試験等データの積み上げなどが必要と思われる。今後は、用途先を設定し、多孔質粒状ハロゲンガス捕獲を必要とするユーザーとエンジニヤリング企業との共同研究が期待される。
溶融塩を媒体とした希土類元素の電析によるニッケル-水素2次電池用負極の作製技術の開発 秋田大学
原基
秋田大学
佐藤博
現在のNi-水素電池の負極材にはNiと希土類元素から成る水素吸蔵合金が使用されているが、作製までの工程数が多く製造コストが高いという問題がある。本研究は、溶融塩を媒体とした希土類元素の電析によりNi-水素電池用負極材の簡便な作製法の開発を目指した。本研究により、Niを基材試料とし、溶融塩を媒体としてCeおよびLaを電析することにより、水素吸蔵合金であるCeNi5およびLaNi5を表面層とする電極を作製することができた。これらの電極について、電池の負極特性である水素チャージ後のアノード分極特性を調べた結果、LaNi5を表面層とする電極のアノード電流が実電池負極のそれに近い値になることが明かになった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、溶融塩を媒体として電析により、ニッケル水素電池用負極の新しい作製技術に挑戦し、新しい手法で目標の材料を作製できた点は評価できる。また、良好な放電特性を示すこと明らかにしている。一方、技術移転の観点からは、Ceからなる金属間化合物表面層を有する負極材については所要の放電特性を見出すことができていないので、研究の進展が望まれる。また、この研究の最大の問題点は試料厚さであるが、この課題の改善や、形成される金属間化合物層の材質(構造、組織、拡散)に関する検討も実施することが望まれる。今後は、厚みのあるLa基金属間化合物表面層を形成させるための溶融塩とその電析条件の最適化に関するさらなる検討を行い、ユーザーメーカーとの共同研究に発展することが期待される。
有機太陽電池専用の反射防止膜付基板の実証研究 山形大学
久保田繁
山形大学
高橋政幸
有機太陽電池は、フレキシビリティ、低重量、低コストといった優れた特性を有しており、次世代太陽電池の候補として近年盛んに研究されている。しかし、現状では、発電効率が10%程度と低いことが課題となっており、有機太陽電池特有の薄い発電層に光を閉じこめて、光吸収を最大化するための反射防止技術が重要となっている。そこで、本研究では、有機太陽電池に特化した反射防止構造の設計及び試作・性能評価を行った。その結果、多層反射防止膜による発電効率向上効果を実証すると共に、ナノ周期構造を利用した新しい反射防止構造の最適設計法の開発にも成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に有機太陽電池の発電効率向上を目指して反射防止多層膜構造の設計及び試作・性能評価を行っており、5%の電流密度の増加やナノ周期構造を利用した新しい反射防止構造の設計技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、新規反射防止構造について検証実験を実施している点や、 有機太陽電池が有する、フレキシビリティ、低重量、低コストといった特長での実用化が望まれる。今後は、改めて最終的な目標である発電効率1.1倍の増加、ナノ周期構造を利用した新しい反射防止構造に向けた更なる研究が期待される。
オフセット・フレキソ印刷の版表面加工による微細配線パターン形成の探索 山形大学
古川忠宏
山形大学
高橋政幸
エレクトロニクス製品の製造技術として、10~20μm程度の線幅の導電パターンを安定的に量産することを目指した凹版オフセット印刷手法の確立を目的とした探索である。
配線印刷用ブランケットは通常平らなシリコーンゴムを使用するのであるが、版表面の形状を微細な溝や穴にする。また、表面処理により、表面濡れ性を微細なメッシュのような形状で変わるように変化させることで、インキの転移現象を解明した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にオフセット印刷による微細パターン転写において、ブランケット加工の有効性を示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ブランケット構造と印刷版の最適化など基礎データの蓄積と再現性、信頼性の評価が望まれる。今後は、技術課題の解決と、企業との協力による実用化が期待される。
リチウムイオン電池用電極作製プロセスを簡便化するリチウムイオン伝導性バインダーの開発 山形大学
落合文吾
N-メタンスルホニルビニルスルホンイミドとアクリレート類の架橋ポリマーをバインダーとして、塗布によりリチウムイオン電池を作製した。塗布方法を工夫することで、フレキシブルかつ導電性をもつ電極を、塗布と熱硬化により作製できた。これらを上記のゲルをセパレーターとして用いて結着させた電池は、太陽電池によって充電することができた。内部抵抗により放電時の電圧は低下してしまったため、今後はより電子伝導度を上げる設計が必要である。また、計算化学的に本材料のアニオン構造とリチウムカチオンとのイオン結合強度を評価したところ、既存の塩型バインダーポリマーよりもリチウムイオン解離能が高いと見積もられた。このことから高いリチウムイオン伝導性が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に適切な塗布方法を用いることにより、電気伝導度を向上できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、適切な材料や設備による条件の最適化が望まれる。今後は、企業と連携が推進され実用化に向かうことが期待される。
光アシストスピンコート技術の開発 日本大学
加藤隆二
日本大学
小野洋一
スピンコート技術は有機薄膜太陽電池の作製に欠かせないものであり、高性能デバイスの実現のため、最適な成膜条件の探索が続けられている。現状では成膜条件に限度がある。革新的な構造制御を実現するために光アシストスピンコート技術開発を行った。光アシストスピンコーターを試作し、有機薄膜太陽電池材料の作製を行い、得られた試料の構造・光機能相関を検討することで本技術の有用性を示すことができた。成膜中の光照射で、基板の非接触加熱、成膜材料の分子レベル加熱等の新しいパラメータを導入できるようになった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、キセノンランプを組み込んだ光アシストスピンコーターの試作に成功し、近赤外光、可視光の二種類について励起波長の選択も可能としている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、近赤外光では80℃までの過熱を達成しているが、可視光による資料の直接励起ではせいぜい10℃程度の上昇であり、むしろ光分解におけるネガティブな影響や、波長域を拡張しての照射加熱の評価を進めることにより更なる実用化が望まれる。今後は、大面積における昇温の均一性向上技術を開発されることが期待される。
アラゴスポットを利用した球状物体の直径計測法の開発 茨城大学
辻龍介
茨城大学
園部浩
アラゴスポットを利用して、ベアリングやガラスボールなどの球状部品に対する高精度で高速な直径計測法の開発を行った。
具体的には、計画立案時の目標「3秒に1個以上の球状物体を、1ミクロン以内の精度で直径測定する」に対し
(1)3秒間に1個の球状部品(実験ではボールベアリングを使用)の自動的な移送メカニズムの開発を行った。
(2)CCDカメラおよびビデオカメラから、球状部品のアラゴスポット像を取り込み、その画像の中心位置を計算する事で、直径計測の精度1ミクロン以内を達成した。
以上の結果から、当初の目標を達成し原理的に本計測法が有効に働く事を示し、更にいくつかの実施上の問題点とその解決法のノウハウを得た。生産現場での具体的な各種球状部品の直径計測システムの開発を行う事が、実用化に向けた次の課題として残った。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、 当初の目標は、アラゴスポットを利用した球体の直径を高速・高精度に測定することであり、精度に関しては、1ミクロン以内の精度で測定するという目標を達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、複数の球体を移動させながら画像を連続撮影し、実時間で計算処理するという、全体のシステム化が今後の課題として明らかになっており、解決による実用化が望まれる。球体の直径を現場で高速・高精度に計測する装置の需要は高いと考えられ、実用化されれば各種球体部品の精度向上・コストダウンにつながることが期待できる。今後は、大学で担当できるかなりの部分の技術的課題は解決されているので、共同研究のステップで、実際の現場で使える計測技術として発展することが期待される。
高次局所自己相関を用いた掘削音からの地質・地層変化検知 独立行政法人産業技術総合研究所
佐宗晃
産総研の独自技術である高次局所自己相関(HLAC)を用いて、掘削音の微小変化を手掛かりとする地層・地質変化検知装置の実用化を図った。これは、掘削開始直後の数秒間の掘削音を基準音として学習し、それ以降は掘削音が基準音からどれだけ変化したかをHLACに基づいて数値化することで実現した。掘削機とHLAC音響分析装置を接続するためのI/F装置を開発し、掘削中の掘削音をリアルタイムで分析可能にした。一方、今後のエネルギー計画で注目されている石炭の効率的な採掘では、掘削機のドリルを砂岩層と石炭層の境界面まで掘り進める必要がある。インドネシアの石炭採掘場で実際に収録した掘削音を分析した結果、境界面の検知が可能であることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、研究責任者が所属する組織から独自に提案された方式を地層・地質変化検知システムとして発展し、その実用化に関して、実際の石炭採掘現場で当検知システムの有効性を確認していることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、複雑な地層変化に対応できるように学習機能の精度を高めることが望まれる。今後のエネルギー資源の探索は死活問題であるため、異なる石炭採掘現場で、実績と改善を積み重ねることが望まれる。今後は、企業との研究か開発計画が示されているので、プロトタイプを用いた多くのデータ集の集積を通じて、社会還元につなげることが期待される。
単結晶性LiMn2O4ナノワイヤーの簡易な合成法による高性能Liイオン電池正極材料開発 独立行政法人産業技術総合研究所
細野英司
独立行政法人産業技術総合研究所
小林悟
高出力型および大容量Liイオン電池用正極材料として理想的なナノ構造である単結晶一次元構造体である単結晶LiMn2O4ナノワイヤーを大量に合成する手法の確立を目指し研究を行った。本合成法の基本となる自己テンプレート材料の簡易な合成法の開発を行い、耐圧容器を用いることなく、一般的な容器を用いての前駆体ナノワイヤーの合成に成功した。この前駆体を用いてLiMn2O4を合成し、得られたLiMn2O4と導電助剤、結着剤により作製した作用極を用いてLiイオン電池を作成し、200mAh/g以上の大容量を示すこと成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもLiMn2O4ナノワイヤの量産に適用できる可能性のある作製プロセスが確認できた点は評価できる。一方、充放電特性、出力特性等の向上のために、原因を分析することが必要である。今後は、LiMn2O4の正極材としての優位性について他の物質も含めた検討と、サイクル特性などの具体的な評価が望まれる。
赤外熱画像装置オンサイト校正器の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
清水祐公子
独立行政法人産業技術総合研究所
切田篤
近年利用が急速に拡大してきた熱画像装置は、測定データの信頼性向上が強く要求されている。本研究では、定量的な熱画像データの取得のためのオンサイト校正器に必要な、高放射率小型黒体空洞技術を確立することを目標とした。その黒体空洞は、小型でありながら放射率が限りなく1に近く、可視から遠赤外領域において波長依存性をもたないことが必須であり、この課題を、カーボンナノチューブを空洞壁面の一部に適用することで解決した。これにより、空洞長を目標値の150mmと短くしても、実効放射率は熱画像装置の波長帯10μm付近で0.997となり、目標値以上の放射率を有した小型空洞技術が確立された。波長依存性による不確かさは従来技術の10分の1である0.1℃にまで大幅に改善することができ、校正の不確かさ目標値を達成した。今後は、本技術を市販の低放射率小型空洞にも適用した黒体空洞を製作し、広く普及させる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、放射率0.99以上の黒体空洞を持ち、室温から500℃程度までの温度範囲で使用可能な熱画像装置のオンサイト校正用の小型黒体炉技術の開発を行うことが目標であるが、300℃までの理想に近い黒体炉が実現されていることは、評価できる。一方技術移転の観点からは、高温側への展開を行うことが計画されており、黒体空洞に対してさらに高温側で使用可能なパージユニットの整備を行い、当初目標の500℃での動作達成はもちろんのこと、一般的な熱画像装置の使用温度範囲である1000℃付近までの動作を目指すことが望まれる。今後は、黒体炉だけでなく、赤外線を用いたセンシング機器の可能性を広げる要素技術であり、校正の問題から今まで実用化できなかった機器についても可能性を高めると考えられるので、別途応用展開に関しても、一層の発展がなされることが期待される。
近赤外分光技術を応用した木材の乾燥応力測定システムの開発 独立行政法人森林総合研究所
渡辺憲
独立行政法人森林総合研究所
井上明生
建築部材や家具などの製材品は、伐採した丸太を製材・乾燥して作られる。木材を乾燥するとき表面が割れるという現象が起こり、製品としての価値が著しく低下するという問題がある。本研究は、近赤外分光法を応用して割れの原因となる乾燥応力(乾燥中に発生する応力)を非破壊測定する技術の確立を目的とする。実験室レベルの実証実験を行い、現場で一般的にみられる乾燥条件下で乾燥応力を精度良く測定可能か検証した。近赤外スペクトルの解析にニューラルネットワークを適用した結果、高精度で乾燥応力を測定することができ、従来法(スライス法)による乾燥応力の測定値との比較では、相関係数0.87、推定誤差0.09%が得られ、目標値を上回り当初の目標が達成された。ただし、現段階では木材を乾燥機から取り出して乾燥応力を測定するため手間がかかるという課題が残された。今後、本手法の乾燥現場への普及に向け、高温高湿下で使用可能な近赤外分光装置を用いて乾燥中に全自動で乾燥応力を測定可能か検証する必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、近赤外分光法を応用して非破壊で瞬時に木材表面の乾燥応力を測定し、実測値との高い相関値を得ていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、乾燥応力の現象を解明するための基礎研究の進展が望まれる。また実際の木材乾燥規模での基礎データは乏しく、木材種などを変えた場合の多くのデータの蓄積が望まれる。また、研究者が計画している乾燥機の中という特殊な環境で使用可能な近赤外スペクトル測定装置を新たに開発することも必要になる。今後は、本技術が実用化されると、木材の乾燥スケジュールを適切に設計ならびに管理をすることが可能になるため、その社会還元の効果は大きいと言えるので、基礎理論の究明、データの蓄積、装置の開発とハードルは高いが、着実に進展することが期待される。
メタゲノム解析から標的遺伝子を特異的に増幅させるDPRCA法の開発 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
小堀俊郎
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
鍋谷浩志
ローリングサークル増幅(RCA)法に特異性を付与するため、環状化法と環状DNAの特異的増幅について検討した。環状化したDNAを鋳型として配列特異的プライマーによるRCA法を適用したところ、5.5x10-12 gの試料から対象領域を含むDNAを増幅できた。1種類のプライマーであっても環状化DNAを鋳型とすることで対象配列を含むDNAを増幅できることが判明し、当初目標としていたDPRCAよりも簡便な方法となった。今後、この成果はメタゲノム情報を活用した遺伝子探索技術への応用を図る。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、1種類のプライマーのみでも環状化DNAを鋳型とすることで対象配列を含むDNAを増幅できることを見いだした点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、極微量DNAを環状化する方法や対象領域のDNA濃度が低い場合に備えたRCA法の高感度化などの検討により、有用な遺伝子での実用化が望まれる。今後は、最終目標達成のために実際の難培養微生物のゲノムDNAを用いて本システムの有効性を検証されることが期待される。
ラベンダーオイルを利用した低コストなフジコナカイガラムシ性フェロモン剤の開発 独立行政法人農業環境技術研究所
田端純
独立行政法人農業環境技術研究所
安田耕司
厚い体表ワックスを有するフジコナカイガラムシは殺虫剤の効きにくい害虫であるが、この虫の性フェロモン物質(フジコノールの酪酸エステル)を大量に散布すると交尾・繁殖を抑えられること(交信撹乱効果)が実証されている。フジコノールの商業的な合成方法は確立していないが、天然のラベンダーオイルに含まれるラバンズロールを酸性条件下で異性化して生成することができる。本研究では、天然のラベンダーオイルを原料としてフジコナのフェロモン剤を作成した。この製剤は純品の合成フェロモンと同等以上の交信撹乱効果を発揮した。天然植物精油という「バイオマス」を利用した害虫管理資材であり、持続的な活用が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、効率は低いものの目標であるフェロモン剤の合成に成功し、試作品を実際に圃場で試し純品フェロモン剤と同程度の効果を確認した点は高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、化学物質管理、健康有害性評価、農薬取締法対応など製品化に係る検討も視野に入れた実用化検討が望まれる。今後は、誘引活性と攪乱活性に見られる若干の矛盾点やカリオフィレンなど未反応で残る化合物が農業生態系にどのような影響を与えるかなどについても検討されることが期待される。
熱交換器の高効率化を目指した傾斜機能ポーラスチタンの低環境負荷・低コスト製造プロセス 群馬大学
半谷禎彦
群馬大学
小暮広行
本研究開発では、ポーラスチタンを、(1)作製時に外部熱源が一切不要、(2)気孔形態の制御が容易、(3)安価な原材料で作製可能、(4)汎用のフライス装置で作製可能、といった様々な特徴を持ったプロセスにより開発する。本研究開発により、本プロセスで高融点のチタンのポーラス化が可能であることが示され、低環境負荷かつ低コストで高機能ポーラスチタンを供給できる可能性が示唆された。更に本研究開発では、気孔形態が変化する傾斜機能ポーラスチタンの作製およびその特性評価を試みた。本研究開発により、特性の変化する傾斜機能ポーラスチタンの作製の可能性が示唆された。今後は摩擦攪拌接合のようにツールを走査させることで大型化の可能性について検討する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、FSWを用いた傾斜機能ポーラスチタンを作製する目的を達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、傾斜機能ポーラス部材の構造(異方性、穴のサイズの分布等)、熱的特性についての定量的検討がほとんど行われていない。熱交換器部材としての利用を考えると、それらは今後の課題として明らかにすることが望まれる。また、提案されたプロセスは大型傾斜機能ポーラス部材の製造には限界があると考えられるので、部材の寸法についての検討が望まれる。今後は、ばらつきのない信頼性のあるポーラスチタン創製を目指して、社会還元につながる研究に発展することが期待される。
イオンビームを用いた超高密度磁気ドット列の形成 群馬大学
保坂純男
群馬大学
早川 晃一
本研究開発は、ブロックコーポリマーによる自己組織化法を用いて形成した微小ドット列をマスクとして磁気ドット列をイオンビーム加工法により実現することを目標に行った。目標は、磁気ドット径:10nm以下、ドットピッチ:約12nm、高さ:10nmである。実験の結果、自己組織化法、多層レジスト法およびイオンミリング法を用いた微小磁気ドット形成技術を確立した。PDMS微小ドットを、Si膜、C膜に転写し、最終的には、Cドット列を形成し、これをマスクとしてイオンミリングで10nm径以下のCoPt磁気ドット列を形成することができた。さらに、低分子量のPS-PDMSブロックポリマーを使用することにより5nm前後の磁気ドット形成が可能であることが分かった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも多層レジスト法によりカーボンドット列パターンを形成し、これをマスクとしてイオンミリングにより、ドット径10nm以下のCoPtドット列を形成する事に成功している点は評価できる。一方、これらの研究成果は学術的には興味深く、意義にある研究成果であるが、技術移転の観点からは、より簡便で安価な工程に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、特許出願を念頭においた技術レベルの向上や産学協同研究の実施に向けた企業との交流努力が望まれる。
窒化物量子ドット太陽電池の開発 埼玉大学
八木修平
埼玉大学
大久保俊彦
本研究課題では、高効率な窒化物半導体量子ドット太陽電池の開発を目的に、量子ドット3次元規則超格子に向けたInN量子ドット積層化技術の研究、並びに量子ドット太陽電池の試作を行った。実用化に向けより広く窒化物材料の可能性を探索するため、六方晶InN(h-InN)と、立方晶InN(c-InN)の2種類のInN量子ドットを用いて積層構造を作製し、その特性を明らかにした。特にc-InN量子ドットについては、太陽電池の光吸収層となる3次元規則超格子に適した面内規則配列量子ドットの積層化を実現した。さらにInN量子ドット層を導入したGaN 太陽電池を試作して光電流の生成を確認し、動作実証を行った。 当初目標とした成果が得られていない。中でも10層以上の積層化による3次元超格子の形成と1012 cm-2を超える全量子ドット密度の実現の点に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後、技術移転へつなげるには、基礎研究を一層進めたうえで、その成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。
炭化ケイ素半導体を用いた高効率な電気自動車用双方向非接触給電装置の開発 埼玉大学
金子裕良
埼玉大学
須田均
地球環境問題や石油への依存度を軽減するため電気自動車が期待されている。この充電インフラとして、利便性、安全性、保守性で優る非接触給電装置は将来有望である。本課題では当研究室で研究実績のある一方向非接触給電の知識を用いて、電気自動車の蓄電池を電力系統の負荷平準化や緊急時の電源として使用する際に必要不可欠な高効率、高機能な双方向非接触給電装置を開発した。同時に高機能化に伴う装置の肥大化と損失増大を押さえるため、高集積率と低損失性を有する炭化ケイ素半導体を用いて、車上蓄電池と電力系統間の充放電制御可能な双方向インバータを製作するとともに、駐車位置ずれ時の電圧制御に必要な高力率コンバータの設計を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に双方向給電におけるトランス最大効率とその時の抵抗負荷条件の理論式を導き最大効率運転理論を構築した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、電磁界放射によるEMC対策や人体への防護指針対策に有効な高力率コンバータを完成し、電気自動車のバッテリ充電用の非接触システムとしての実用化が望まれる。今後は、地域産学官共同研究拠点を中心にして次世代自動車関連技術の共同研究が実施されることが期待される。
再沈法で形成したEu錯体ナノ粒子を利用した太陽電池用波長変換膜の開発 埼玉大学
福田武司
埼玉大学
久野美和子
本研究開発では、Eu錯体のナノ粒子化(一次粒子径:30nm程度)による長期信頼性の向上とこれを利用した太陽電池用波長変換膜への応用を検討した。また、本ナノ粒子を含んだ波長変換膜では365nmの紫外光を90分間連続照射した後の蛍光強度は、通常のEu錯体では0.58であったのに対して、ナノ粒子化することで0.88へ飛躍的に改善した。また、太陽電池特性は波長変換膜を用いない場合が14.82%であったが、ナノ粒子化したEu錯体を添加した波長変換膜を用いると15.17%まで向上することを実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に太陽電池用波長変換膜として、希土類錯体ナノ粒子(Eu錯体)を導入し耐久性を向上するとともに太陽電池の発電効率を改善することに成功したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、さらに発電効率や耐久性を高める太陽電池用波長変換膜を研究するとともに、企業との共同研究を進め技術の完成度の向上や実用化に向けた取り組みが望まれる。本研究の進展はさらなる太陽電池の効率向上に貢献するものであり、成果が社会に還元されることが期待される。
酸化グラフェン・導電性高分子/シリコンヘテロ接合型太陽電池の高効率化 埼玉大学
上野啓司
埼玉大学
大久保俊彦
n型Si基板表面に、p型正孔輸送特性を有する酸化グラフェン(GO)や導電性高分子、あるいは両物質の混合物の薄膜を塗布し形成する、ヘテロ接合型太陽電池の高効率化について研究開発を行い、次の成果を得た。(1)GO調製行程の5日程度への迅速化、(2)簡便安全なSi表面処理法の開発、および増感剤候補の選定、(3)層状化合物ドーピングによる還元GO膜の低抵抗化、(4)パリレン膜による太陽電池劣化防止の実現。これらの成果により、光電変換効率12%超及び素子長寿命化を達成した。今後は目標値である15%超の光電変換効率達成、大面積化及び還元GO膜の更なる低抵抗化を目指し、企業との連携を進め研究開発を続行する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に酸化グラフェン薄片分散液の作製法の改善や、酸化グラフェン膜表面へのNbSe2塗布の手法に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、グラフェンのインク化等は世界的に研究開発が進められていることもあり、まずは陽電池メーカーとの協議を進めて太陽電池に適したグラフェンの開発に特化した形での実用化が望まれる。今後は、太陽電池としての実用化可能性についてメーカーとさらに検討されることが期待される。
核酸代謝酵素を利用した安定同位体導入ヌクレオシドの効率的合成 芝浦工業大学
幡野明彦
本研究では、核酸医薬品の薬物動態を明らかにするためのプローブ分子として、安定同位体導入ヌクレオシドを簡便、迅速に合成する手法について検討した。核酸代謝酵素であるチミジンホスホリラーゼを用いて、チミジンと安定同位体導入ウラシルを基質として、リン酸緩衝液中で塩基部位交換反応を行った。その結果、安定同位体を塩基部位に有するヌクレオシドを4種類合成することができ、いずれのヌクレオシドも、65%から95%程度の収率で単離する事ができた。全ての化合物は、核磁気共鳴法にて構造を確認した。今後、これらの安定同位体導入ヌクレオシドのアミダイト化を行い、DNA/RNA配列内に導入後、細胞内へのトランスフェクションを行い、細胞内挙動と局在化を観察する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に従来の方法では合成できない化合物の合成ルートの検討も進んでいることと最終的な成果物である安定同位体を導入したヌクレオシドの用途についても幅広く検討されていることに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業の商品化準備のスケジュールなども勘案して研究を迅速化することでの実用化が望まれる。今後は、安価に得られる安定同位体の標識ヌクレオシドならではの応用例を増やすことが期待される。
神経細胞間シナプス結合を同定するためのマルチ自動微小電極記録システムの開発 独立行政法人理化学研究所
太田桂輔
生きた動物の脳内神経細胞間で行われる情報伝達機序を明らかにするためには、細胞内記録法によりシナプス結合を形成した神経細胞ペアから同時に細胞内電位を計測しなければならない。シナプス結合を形成する神経細胞ペアを効率的に探すためには、出来る限り多くの神経細胞から同時に細胞内記録を行う必要がある。しかし、細胞内記録法は"職人技"と呼ばれ、手動により複数神経細胞から記録を取ることは極めて困難である。この問題を解決すべく、自動的に細胞内記録を達成する自動微小電極記録システムを開発した。1電極あたりの成功率は63%、平均記録時間は56分、最大記録時間は193分という結果を得た。この自動細胞内記録システムを6台並列稼働させることで、最大4つの神経細胞から細胞内記録が達成できた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、開発した自動微小電極記録システムは、シナプス結合をもつペアの神経細胞から同時に細胞内電位を計測する装置で、数値目標は概ね達成している。細胞内電位の測定が簡便に自動で行えることは改良していることは神経科学の有益なツールとなる可能性があり評価できる。一方、現時点においては、やはり装置の習熟などにおいて専門性が極めて高く要求され、汎用性は難しいので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、さらなる自動化と汎用性をめざして開発されることが望まれる。
LC-MSから得られるMS/MS情報に代謝物アノテーション情報を効率的に付加するMS/MSネットワーク解析ソフトの開発 公益財団法人かずさDNA研究所
鈴木秀幸
近年、LC-MS分析機器の分解能及び精度の向上により、代謝物の分子式情報の付与までは容易になったが、検出した代謝物の同定率は決して高くはない。代謝物の化学結合の開裂で生じるイオンフラグメント情報(MS/MS情報)を効率よく代謝物のアノテーション(化学構造的情報の付加)に用いて同定率を向上させることは最大の課題である。本研究開発期間では、MS/MS フラグメント情報を用いて、コサイン相関を計算し、ネットワーク描画機能を追加した金平糖JAVA-GUI解析ソフトを開発(委託外注)した。この解析ソフトにより、
代謝物のグループ化(整列化)を行うことが可能になり、MS/MS情報のネットワークモジュール形成による代謝物の高度なアノテーション情報への手がかりを導いた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、LC-MSを用いて代謝物質を同定するためのMS/MS情報解析ソフトとして、有用なものを開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、知財権の取得を急ぐ共に機能も強化し当該の解析ソフトとしての実用化が望まれる。今後は、ソフトウエアを適宜公開し、ユーザ情報を得やすくすることも検討されることが期待される。
超高過給ダウンサイジングコンセプトによるガソリン機関の熱効率向上と最適過給システム提案 千葉大学
森吉泰生
千葉大学
小柏猛
内燃機関の高効率化のために過給ダウンサイジングコンセプトが提案され、過給圧力の高圧化が進められているが、従来技術では想定されていなかった運転条件での燃焼が要求され、予期しない異常燃焼の発生などにより、更なる高過給化が制限されている。そこで、本申請課題では、現状の実用限界を超えて過給圧力を高めることで、過給ダウンサイジングコンセプトの限界を見極め、更なる高過給ダウンサイジング化を進める上での課題を抽出することを目標とした。研究開発の結果、異常燃焼の主因は筒内へ飛散する燃料とオイルの混合物の自着火であり、このオイルの飛散するタイミング、量によってプレイグニッションが発生することを明確にした。また、必要とされる過給システムや排気システムについて提案し、検証用単気筒エンジンシステムを設計製作した。現在、実験に着手したところであり、上記の現象解明により考案した対策を実証中である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、超高過給ガソリン機関の解析技術に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、現状から更なる高過給化、ダウンサイジング化に必要なエンジンシステム(燃焼システム、過給システム、排気システム)の仕様を明確にしており、それを基に最適過給システムなどでの実用化が期待される。今後は、欧州に後れを取っている日本のエンジン研究に向け、千葉大学に設置される次世代モビリティパワーソース研究センターの設備を利用して、産学連携、コンソーシアム体制での研究継続と早急に実用化されることが期待される。
層状粘土触媒によるCO2とエポキシドからの環状カーボネートの製造~層状複塩基性塩への機能集積~ 千葉大学
原孝佳
千葉大学
小柏猛
本研究では、NiZnという層状無機結晶性化合物のマトリックス内に存在する単核Zn2+種をLewis酸シングルサイトとして利用し、NiZnのアニオン交換能をも利用することで異なる反応活性点を同時に導入し反応空間をも制御した新規触媒開発を行った。具体的には、1)アニオン交換によるLewis塩基の導入、2)導入したLewis塩基分子による層間隔の精密制御、により、NiZnの層間を舞台とするLewis酸-Lewis塩基集積型不均一系触媒を開発し、1気圧CO2雰囲気下という温和な反応条件でのエポキシドへのCO2環化付加反応に有効な不均一系固体触媒を設計・開発した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、層状の粘土化合物の層間を反応場として利用する新規触媒系を開発したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本触媒により温和な条件で環状カーボネート合成反応が実現できているが、さらなる触媒の耐久性を向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、温和な環状カーボネート合成手法として注目すべき研究であり、社会的意義もあり研究の進展が期待される。
アブシナゾール処理による植物への乾燥耐性および塩耐性付与技術の開発 千葉大学
近藤悟
千葉大学
鈴木明
本技術はABA代謝に関与する酵素活性を、外生的な散布処理による簡易な技術によって気孔開閉等を調節し、植物に耐塩性等を付与するものである。NaCl処理は、葉の縮れおよび黄変などの障害を引き起こした。一方、アブシナゾール処理はこれらNaCl障害の程度を軽減した。すなわち、水ポテンシャルは、NaCl処理では処理後から大きく低下したが、アブシナゾール処理葉の水ポテンシャル値は無処理と有意差がなかった。また葉の気孔の開度はアブシナゾール処理により低下した。アブシナゾール処理区では、葉の内生アブシシン酸濃度は処理後有意に増加した。以上の結果は、アブシナゾール処理による内生アブシシン酸の蓄積がより早い気孔閉鎖を誘導することにより葉の水分ポテンシャルを維持し、NaCLに対する塩ストレス耐性を増加させたものと考えられた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ABA代謝に特異的な新しい阻害剤を用いリンゴ苗木の耐塩性を向上させたことについては評価できる。一方、当初の目的であったNaCl塩耐性の評価(薬剤施用の最適化とそれによる潅水軽減の程度の実測)に係るデータの積み上げや、芝を対象とする技術的検討などが必要と思われる。今後は、技術移転を目指した実践的で長期的な試験を検討されることが望まれる。
通電加熱を利用した早ゆで麺製造の最適化条件探索 東京海洋大学
福岡美香
東京海洋大学
前田敦子
製造過程の麺帯に熱媒体を必要とせずに加熱効率の著しく高い通電加熱による前処理を施し、麺の形状を変えず、食感も良好な、ゆで時間を短縮させた麺の開発を行った。適切な混練と圧延を施した小麦粉ドウ生地を作製し、断続的な通電加熱によって目的温度で保持したところ、生地全体でデンプンの糊化度を均一に上昇させることができた。この生地から作製した麺は内部への水分移動が速いだけでなく、茹で調理において麺表面の茹で溶けを抑え、良好な食感を維持することがわかった。さらに本手法のより広い適用を視野に入れ、糊化度制御のための加熱条件の予測に必要であり、通電加熱の支配因子である小麦粉ドウ導電率の温度依存性ならびに塩濃度依存性を明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、通電加熱により麺中心部への水移動の効率化および麺の澱粉糊化の促進という当初の目標は達成されたこと、およびMRIによる麺中の水分布の解析、使用した塩水の塩分濃度と通電加熱時の導電率評価なども当初の目標どおり実施されたことは評価できる。ただ、従来の茹で麺製造に対してどの程度の省エネルギーになったのかわかりやすい比較データ(茹で時間比較、電気代やガス代比較など)が示されていないのは、残念であった。一方、技術移転の観点からは、まず早期の特許出願が望まれる。また、感応試験を基にした通電加熱の優位性を示す評価も望まれる。加熱調理後の放置時間経過によるゆで麺の食味劣化を分析、および細菌増殖、カビ増殖の検定など食品安全性の試験も実施が望まれる。今後は、生地調整工程、通電加熱による前処理工程、麺の茹で工程を結びつけたうどん量産化ラインの開発に向けた装置メーカーとの共同研究が期待される。
ソリューションプラズマ法の低電力化と直接燃料型燃料電池用合金ナノ粒子触媒の調製 東京工業高等専門学校
城石英伸
東京工業高等専門学校
内海宏幸
本研究は、従来1kV、15kHzといった大電力が必要であったソリューションプラズマ法(以下SP法と略す)を、数百Vまで低電圧化することによって白金ナノ粒子合成時の消費電力を大幅に削減することや、ダイレクト形燃料電池およびセンサー用のプローブへの応用を目指し、白金合金触媒をSP法を用いて合成する手段を確立することを目標とした。その結果、前者に関しては、420V、100Hzの低電圧-低周波下において、金属微粒子を作製し、そのサイズを、条件最適化することにより14 nmまで縮小することに成功したが、目標の10 nmまではあと一歩及ばなかった。今後は10 nm以下の均一な微粒子が作製できるように研究する予定である。また、後者に関しても、種々の作成条件を検討することにより、比較的均一な微粒子を作製できることが明らかになったが、まだ不純物を含むため、今後の研究によって純粋な合金微粒子の作製を目指していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に低電圧下、ソリューションプラズマ法によって粒径10nmに迫る、燃料電池を指向した触媒が得られた技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、当該触媒は、燃料電池として広汎な社会的ニーズが存在しているので、今後の研究開発計画については、電極間距離等を始めとしてかなり的確に検討されており早急な実用化が望まれる。今後は、長期的な性能試験が不可欠で、使用中における当該触媒の粒径の粗大化に対する知見も有しておく必要があるものと考えられる。
Si系太陽電池に最適化された高耐熱ポリマー系波長変換膜の開発 東京工業大学
安藤慎治
東京工業大学
林ゆう子
研究責任者らは、最近、近紫外光を励起光として、可視光に変換できる高耐熱・高透明ポリイミド樹脂を開発した。本研究開発はこの基盤技術に基づき、近紫外光を20%以上の効率(量子収率)で可視長波長光に変換し、高耐熱性と長期耐久性(環境安定性)を有する、Si系太陽電池の波長変換膜に適した材料開発を目指した。第一の目標である近紫外光(350~400 nm)から可視・長波長光(590~642 nm)への波長変換能は研究期間内に達成できたが、その波長変換効率は9 %に留まり、目標値(20 %)には未達であった。今後は変換効率の向上が困難となるメカニズムを分子レベルで解明し、その向上を目指すとともに、励起状態プロトン移動機構を経由しつつ、さらに高効率な波長変換機能を有する新規ポリイミドフィルムの開発に注力する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもシリコン系太陽電池の光電変換効率を高めるべく有効利用できていない短波長光を可視光に変換する波長変換膜としてカスケード型分子内エネルギー移動機構を有する新規の三元系高蛍光性ポリイミドにより実証されたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、波長変換効率の向上とそのメカニズムを分子レベルで解明する基礎研究が必要と思われる。
本研究は、Si系太陽電池の高効率化のみならず、色素増感太陽電池、ディスプレィ光源、有機撮像素子、農業用光調整フィルムなど多分野で応用可能であり、今後の研究の進展が期待される。
産業排熱対応型化学蓄熱システムの開発 東京工業大学
劉醇一
東京工業大学
林ゆう子
本研究では、200℃~300℃程度の排熱を熱源とした化学蓄熱システムの開発を目的とし、主にMg-Co系複合水酸化物の組成最適化と性能評価を行った。蓄熱操作温度300℃、熱出力操作110℃の条件で16サイクルの反応を行い、平均蓄熱密度を評価した結果、Mg0.95Co0.05(OH)2の平均蓄熱密度が715kJ/kgとなり最も高かった。次に、充填層型反応器を用い、Mg0.95Co0.05(OH)2の熱出力試験を行った結果、熱出力操作開始後1分で110℃から161℃までの昇温に成功した。さらに、蓄熱操作温度を250℃とし、Mg0.95Co0.05(OH)2に塩化リチウムを添加した試料に対して、反応を200サイクル繰り返した際の反応転化率を評価した結果、100サイクルまでは55%以上を維持し、200サイクル終了後は約45%であった。今後は、蓄熱材組成の最適化、ペレット状蓄熱材の大量合成、反応条件の最適化を行う予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも200℃~300℃程度の排熱を熱源とした化学蓄熱システムとして主にMg-Co系複合水酸化物の組成最適化と性能評価を行っている点については評価できる。一方、実験に使用した充填層反応器の詳細が不明であるが、大きな発熱や吸熱を伴う固体反応実験を充填層で行うためには、断熱や層内温度分布等を考慮した反応器を開発した上で、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後のペレット化等を考慮すると、単一ペレット試験を熱天秤で行い、本試験のような蓄熱操作と熱出力操作を長時間繰り返す試験は、数センチ径規模の装置で行われることが期待される。
海産石灰化生物の人工培養による砂生産と、培養における低コスト化の実現 東京大学
細野隆史
海産石灰化生物としてサンゴ礁域に多産する大型底生有孔虫ホシズナに着目し、効率よい培養方法を検証した。ホシズナは強い光条件を好むため、安定培養のためには成長阻害藻類の繁茂を抑制することが鍵となる。研究の結果、鉛直的な水流によって微細砂を撹拌しつづけることで、ホシズナの成長を阻害することなく藍藻の繁茂のみを抑制できる新しい方法を開発した。
人工培養に必要なエネルギー(電気)・人的労働時間・培養装置の資材費用をそれぞれ計算し、1グラムの生物由来の砂を作るのに必要な金額を既往の方法と比較した。設備費用を含めた場合、新しい方法は既往の方法の約3.6%のコストで済む事がわかった。またランニングコストのみ比較した場合、従来の方法の4.7%のコストであった。この結果は今回開発した方法を採用することで有孔虫を大幅に効率よく培養することが可能であることを示している。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本技術により従来よりも低コストで有孔虫の生産を可能とした技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、まだ事業化には更なる低コスト化のための改善策が必要と考えられるのでCO2固定への寄与も加えた形での実用化が望まれる。今後は、この良い着目点を活かし海面養殖による高付加価値化を検討されることが期待される。
フォーム状電解質を用いた省液・低環境負荷型無電解めっき法 東京農工大学
臼井博明
東京農工大学
松下文夫
無電解めっき法においては、省資源及び環境汚染防止が危急の課題となっている。そこで本研究開発では、電解液に多量の気体を混入したフォーム状の電解質を用いて無電解めっきを行った。ビーカースケールのパイロット試験を行った結果を元に、フォーム状電解質の連続的な循環流の中で無電解めっきを行う装置の試作に成功した。フォームの含液率は3~4%であり、実質的な電解液の大幅な削減の見通しがついた。製膜速度は当初目標の70%程度ではあるが、流速の増大によって改善できることが示された。本手法で得られた皮膜は耐腐食性に優れ、フェロキシル試験による腐食斑点密度を従来の無電解めっき皮膜に比較して1/10以下に低減できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、フォーム状電解質を用いた無電解めっき法を概ね確立しており、企業が関心をもつ技術の確立がほぼ達成されていることは評価できる。また、皮膜の耐食性について、従来法と比較してピンホールが減少し、耐食性が向上している。一方、技術移転の観点からは、実際の生産に展開するための装置設計の指針が得られたので、今後はめっき事業者と連携することにより実用的な技術としての優位性を検討するが望まれる。具体的には、耐食性のほかに、皮膜硬度、皮膜性能の面内均一性などについて追加実験が計画されており、研究開発の進展が望まれる。今後は、実用化する企業が特定されているので、メッキ液の劣化なども含めて、企業側の実用化課題をさらに明らかにし、スケールアップした検討に進むことが期待される。
排水再生化・海水淡水化処理における目詰まりを防止する機能性ろ過膜の開発 東京農工大学
寺田昭彦
東京農工大学
諏訪桃子
本研究では、排水再生化や海水淡水化システムで問題となる細菌由来のバイオフィルムによるろ過膜の目詰まりを抑制するため、細菌の生理活性の制御やバイオフィルムの構成成分を分解可能な酵素を固定した新規ろ過膜の開発を目指した。バイオフィルムの成分分析により、バイオフィルム形成を抑制可能な酵素を選出した。また、酵素の架橋剤率と固定化量により、ろ過膜の透水性の減少を抑える条件を検討した。酵素を固定化した材料はモデル細菌のバイオフィルムを抑制可能であり、ろ過膜の試験により短期間ではあるがもとのろ過膜と比較して膜間差圧の上昇を抑制できた。酵素の長期耐性や薬剤耐性の試験が今後の大きな課題である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にバイオファウリングの抑制を目指した技術として画期的であり、応用展開できる可能性が示され顕著な成果が得られている。
一方、技術移転の観点からは、新規に開発したろ過膜の性能向上、耐久性確認及びエネルギー・コスト試算などに取り組むとともに、研究成果の特許出願が望まれる。技術移転先企業を探索し産学連携により排水の再生・浄水や海水淡水化などの分野で実用化されることが期待される。
今後本研究成果が水処理の際のバイオファウリングという技術的課題の解決手法として広く実用化されれば、その社会的意義はきわめて高いものと期待される。
リグニン由来分子2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を用いた高電導性繊維状フィルムの開発 法政大学
緒方啓典
法政大学
中江博之
樹木構成成分であるリグニンの中間代謝物である2-pyrone-4,6-dicarboxylic acid(PDC)を電子受容体として用いて、新規高伝導性電荷移動錯体(電荷移動塩)の開発を行い、その電子物性および結晶構造を明らかにした。さらに、直径数μmおよび数十nmを有する繊維状結晶の選択的作製技術・直径制御技術の開発を行った。さらに同繊維状結晶を用いて、導電性高分子PEDOT:PSSをコートした導電性繊維薄膜の作製を行い、透過率とシート抵抗の関係について調べた。その結果、同繊維薄膜がPEDOT:PSS膜の透明電極としての性能向上に寄与する可能性を明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新たな電解移動塩を作成しスピンコート法を含め様々な膜形成を試みたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ポリチオフェンを凌駕する電気伝導度のものを得ることや、用途に合せた電気伝導度や透明性などの物性目標を見直すなどでの実用化が望まれる。今後は、基材の準位に適したドナーの検討やカラムの形成手法の再検討も行うことが期待される。
閉鎖循環型燃料電池の実用化検討 独立行政法人宇宙航空研究開発機構
曽根理嗣
提案者らはこれまで、水素/酸素を使用した燃料電池の研究を通じ、水素ガス出口を閉塞し、酸素ガスを循環させつつ、燃料と酸化剤を100%消費する発電技術としての燃料電池システム検討を進めてきた。この中では、遠心加速を利用した小型の気水分離装置を試作して未反応ガスを閉鎖循環させつつ生成水を除去する閉鎖運転を可能にしつつ、更にはガス供給系/循環系/発電部をシーケンシャルに自動起動し、自律動作可能なシステムの試作を実施している。ここでは特に、起動/停止手順について、燃料電池の劣化傾向に与える影響を見極めた最適化を目指した探索を実施することとした。特に、閉鎖循環型燃料電池システムの起動/停止を繰り返し実施し、システムの動作安定性と、燃料電池発電性能の安定性をデータとして示す。このような試験を通じ得られる実績データの蓄積をもって、技術移転の可能性を高めたいと考えた。
このような検討の中では、過去の連続発電の実施例の中で得られている発電継続時の劣化傾向を指標とし、シーケンスに従い起動/停止を繰り返した場合に、この劣化傾向を逸脱しない範囲での起動/停止が実施できていることを示すこととした。更に、この手順をプログラムに反映し、マイコン制御による自律運転が可能なシステムとしての成熟を図り、当該技術の普及を可能にしたいと考えた。水素/酸素系燃料電池の過去の連続発電の中では、0.5 A/cm2通電時に最大で0.018 mV/hの劣化が見られた例があり、シーケンスの妥当性の判断基準としては、これを一つの指標としているが、起動/停止を頻繁に行う場合には、この劣化傾向を大きく逸脱し、顕著な性能劣化が現れることもあり得た。ここでは特に、起動停止を頻繁に行うことを前提とし、シーケンス・プログラムの改修等を行いつつ、自動起動/停止手順を明確にしつつ、これらをマイコン制御に取り込んだ自律駆動型システムとしての成熟を目指した設計/改良試作/実証運転等を実施した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に水素ガス出口を閉塞し、酸素ガスを循環させつつ、燃料と酸化剤を100%消費する発電技術としての燃料電池システムに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、自動起動/停止手順を明確にしつつ、これらをマイコン制御に取り込んだ自律駆動型システムとしての成熟を目指した設計/改良試作/実証運転等の実績による実用化が望まれる。今後は、閉鎖空間での特種用途燃料電池の適用分野を検討されることが期待される。
直管型自励振動ヒートパイプの高性能化 横浜国立大学
奥山邦人
横浜国立大学
原田享
本申請者が考案した単一の直管からなる自励振動型ヒートパイプは、加熱細管内の蒸発に誘起される液柱の周期的自励振動により、銅の約100倍の実効熱伝導率で、最大約80Wの熱の輸送ができる。本研究課題では、熱抵抗の低減化を図るとともに、さらなる小型化(細径化)について実験的に検討した。その結果、系圧力を0.05MPaまで低下させると熱輸送管長の70%にわたる蒸気プラグの大振幅振動により熱輸送時の熱抵抗を25%低減できることを示した。また試験部内の液流挙動や熱流束の影響を考慮することにより、当初モデルの約1/2まで細径化を可能にし、毛管型ヒートパイプの約2倍の熱輸送速度と実効熱伝導率が達成できることを示した。限界律速要因をさらに詳しく解析することによりさらなる小型化の可能性があることが示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本研究課題では、熱抵抗の低減化を図るとともに、さらなる小型化(細径化)を実施し、当初の約1/2まで細径化を可能にするとともに、毛管型ヒートパイプの約2倍の熱輸送速度と実効熱伝導率が達成できることを示しており、ほぼ目標を達成していることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、要素的な性能評価に留まらず、機器のターゲットを明確にした上で、実装時の課題を明確化して、さらなる改善に進むことが望まれる。また。コスト面を含めた他方法との優位性の評価をおこなうことも重要である。今後は、早い段階で、協力企業を見つけ、企業との積極的な意見交換を通じて、システム全体の設計・評価を経て、社会還元につなげることが期待される。
人工ゼオライト吸着とイオン液体電析の連携による希少金属回収技術の開発 横浜国立大学
松宮正彦
横浜国立大学
西川羚二
本研究では「人工ゼオライト吸着」と「イオン液体電析」の連携による白金族金属及び希土類金属の効率回収を検討した。自動車排ガス触媒を出発物質として、触媒成分をアミド酸に90℃, 500rpmで溶解させた。その後、人工ゼオライトを投入し、白金族金属の吸着処理を行った結果、白金族金属の分離率は71.6%に達した。白金族吸着後、人工ゼオライトを固液分離し、pH調整により白金族元素を別の電解槽中に脱着処理させた。脱着処理後、定電位電解を実施して、白金族金属:463.1mgを回収できた。引き続く金属塩合成工程にて酸成分を除去し、希土類金属塩を合成した。本合成収率は85%以上であった。希土類金属塩を回収後、イオン液体に溶解させて、定電位条件下で電析試験を実施した。46.2mgの希土類金属(La,Ce)を回収し、陰極電流効率は67.4%であった。本研究成果として、「酸溶解~人工ゼオライト吸着~脱着~白金族金属の電解析出~希土類金属塩の合成~希土類金属の電解析出」に至る一連の工程の特許出願まで完了した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に実廃棄物を利用し、解体作業から電解回収に至るまでの一連の工程技術の実証試験において当初の数値目標が達成され希少金属回収に関する技術において顕著な成果が得られた。 一方、技術移転の観点からは、本成果が特許出願されていることに加え、既に廃家電から希少金属を回収している企業との共同研究体制が構築されており、技術移転に繋がる可能性は大きいと考えられる。 今後、実用化にむけ希土類元素の回収電流効率の向上を目指すとともに企業と一層蜜に連携し現場で生きる技術までブラッシュアップし、希少金属のほとんどを輸入に依存している我が国の資源確保に貢献することが期待される。
独立三自由度を有する小型精密自走機構の位置決め精度向上と耐久性向上による実用性の探索 横浜国立大学
渕脇大海
横浜国立大学
西川羚二
現在の精密生産システムは、多軸のリニアステージを積層して構成しており、高精度、高荷重、高耐久性を実現できるが、高精度化するにつれ、重量が増加し、空間とエネルギーの利用効率が急激に悪化する。本課題では、軽量、省スペース、省エネ化が可能な100gの自走式精密位置決め機構に、四つの小型エンコーダによる精度向上、床面の非磁性化による耐久性向上のための二脚間の内力切り替え用のアクチュエータの研究開発を行った。得られた成果を定量評価し、電子部品関連の企業と議論し、本機構を継続して研究開発すれば、数年先の異種異形状の超小型部品の高効率・多品種変量実装に大きなアドバンテージが得られる可能性があることを確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、XYθのホロミック動作を同時に実現できる小型精密位置決め装置の新規性は評価できる。また、ソレノイドアクチュエータを用いた新しい着脱機能を設計して試作し、位置決め制御を実施した点も評価できる。一方、位置決めの整定時間や移動距離の標準偏差(位置決め再現性)の目標値が未達成である。実用化の際に要求仕様として求められる位置決めの整定時間や、移動距離の標準偏差(位置決め再現性)を調査して、再度、適切な目標値を見直すことも必要と思われる。また、経済性において従来技術との対比を行うことも必要と思われる。今後は、より現場に即した解決策も検討しながら実用化を進めることが望まれる
製造プロセスの省エネルギーを指向した高選択的パラキシレン製造のためのゼオライト触媒の調製法の開発 横浜国立大学
稲垣怜史
横浜国立大学
西川羚二
ゼオライト触媒の粒子外表面に位置する活性点である骨格内Alに由来するブレンステッド酸点を選択的に不活性化することで、同触媒のミクロ孔内での形状選択反応を有利に進めるゼオライト触媒の調製法開発を行った。特に、酸素10員環ミクロ孔をもつZSM-5ゼオライトに注目、水熱条件下での硝酸処理、及びリン酸処理を行った。前者では外表面酸点の大部分を選択的に除去できたものの、トルエンの不均化によるパラキシレン合成の反応では、熱力学的に安定なメタキシレンの生成が有利なままであった。一方、リン酸処理ではZMS-5外表面酸点およびミクロ孔入口付近を被覆することでき、3種のキシレン異性体の中でパラキシレン生成率が最大75%の値を示す触媒を得ることができ、水熱条件下での酸処理がゼオライトの形状選択性を効果的に発現することを示せたことを含め、概ね目標を達成した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもZSM5ゼオライトをリン酸処理することで、硝酸処理とは異なる機構で外表面の酸点を除去できることを見いだし、設定目標70%を超えるパラキシレン選択率を達成したことは評価できる。
一方、技術移転に向けリン酸処理によるパラキシレン選択率向上の作用機構に関する基礎研究を進めるとともに、トルエン転化率を高くするとパラキシレン選択率が大きく低下することなどの解決すべき課題や母体となるゼオライトの選択やパラキシレン選択率を向上などの技術検討を進め実用化されることが望まれる。
クライアント主導の電力ピークシフト・ピークカットのための居室環境ネットワーク制御アダプタの開発 青山学院大学
熊谷敏
ビル空調の8割以上に普及しているBEMSやマルチエアコンを対象に、省エネ且つ体にやさしい空調に改良する、居室環境ネットワーク制御アダプタを開発する。本アダプタにより、ビル全体の熱・環境の調停プロトコルを実行するネットワークを低コストで実現できる。また本アダプタは、個々の居室の性能を改良するために居室の熱慣性を利用し、熱消費と環境性能を居住者視点で改良するリズミング空調制御を行う。
本研究では、既存のビル空調に後付で設置可能な上記アダプタを開発し、リズミング制御方式を実装した。これを、複数の居室に熱資源配分に適用し、熱・環境の平準化を図り、電力のピークシフト・ピークカットの可能性を示した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもBEMSやマルチエアコンを対象に、居室の性能を改良するために居室の熱慣性を利用した空調制御を行う居室環境ネットワーク制御アダプタ技術については評価できる。一方、本リズミング制御による資源配分に、快適性を組み込むこととこれが省エネにつながることに関するアルゴリズム開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、不快指数は、気温、湿度、風速の3要素であることや体感性は個人差があることも反映されることが望まれる。
3次元駆動型インクジェット装置を用いた色素増感太陽電池の作製と評価 東海大学
功刀義人
東海大学
加藤博光
色素増感太陽電池の光活性層には二酸化チタンの多孔質膜が使用されている。本研究では3次元駆動が可能なインクジェット印刷装置を用いて、二酸化チタンペーストを曲面に印刷することを目指した。二酸化チタンのナノ微粒子を酸、界面活性剤、分散剤などを使用して、水溶液系のインクジェット用インクを開発した。インクの粘度、プリンターヘッドと基板電極との距離を制御することで、液だれを起こさずに曲面や斜面に均一な二酸化チタン膜を印刷することに成功した。今後、様々な形状の色素増感太陽電池を作製する上で、重要な基礎技術を開発できたと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に色素増感太陽電池作製を効率化するためにink jet 印刷装置によってポーラスチタニア膜を均一な膜厚で曲面や斜面に形成する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、基礎研究の継続と、作製プロセスのさらなる高度化・簡単化等による実用化が望まれる。今後は、太陽電池の変換効率を更に上げたり、膜自身の耐久性向上など、必要な開発課題について明確にされることが期待される。
クラゲ資源を有効利用した糖質試薬製造 北里大学
丑田公規
北里大学
佐藤修
今のところ全く利用価値のないクラゲ廃棄物を原料にして、アミノ糖のうち、比較的マーケットが大きく、付加価値の高い、高価なNアセチルガラクトサミンを生産し、研究用試薬を生産する技術を開発した。クラゲ由来のムチンには大量に同物質が官能基として含まれていることが判明していたので、ムチン生産工程をスキップし、直接加水分解し、できるだけ少ない工程および低コストで、工業的に純粋な物質を供給できる方法を検討した。その結果、原料の条件次第で適当な手法を用いれば、十分同化合物を生産できる可能性のあることがわかった。この方法は、水産加工廃棄物からコンドロイチン硫酸などが生産されている既存産業のアナロジーであり、産業化の可能性は十分にある。今後はさらに条件の不明な点を追求していかなければならない。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ミズクラゲからの抽出成分に分析レベルであるが目的とするアミノ糖を分離することを実現し、ミズクラゲ廃棄物の有効利用の可能性を示したことについては評価できる。一方、分離されたアミノ糖をアセチル化する技術的検討や原料の違いによる抽出結果が変動要因に係るデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、容易に大量に捕獲できるクラゲを特定し、コストを考慮した抽出プロセスを確立すると共に特許出願を踏まえた成果公表も検討されることが望まれる。
脱リグニン済みバイオマスを資源とするオリゴ糖の連続製造方法開発 明治大学
室田明彦
明治大学
米満恵子
本研究開発は、脱リグニン済み広葉樹を原料に用いて、加水分解反応を行い、高収率でオリゴ糖 を製造する技術開発が目的である。脱リグニン済み試料を対象に、鉛系、銅系、鉄系などの加水分解触媒を用い、ヘミセルロースおよびセルロースの構造に起因する加水分解温度帯の違いを利用し、オリゴ糖の連続製造方法の開発を試みた。この結果、脱リグニン済み広葉樹を用いた場合は、90%近い収率でオリゴ糖の製造が可能であることを明らかにした。今後は、糖化反応温度の低温化並びに多様なバイオマス試料の違いによる糖化条件の探索を実施する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、脱リグニン済みのバイオマスから高収率でキシロオリゴ糖とセロオリゴ糖を得る技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、バイオマス原料として稲わらの他にバガスや杉を検討することや環境負荷の低い触媒の活用を検討するなどでの実用化が望まれる。今後は、実際の廃棄物を対象に、より高収率・低コストな技術開発とその特許出願を検討されることが期待される。
高湿度高温度の環境下で作動するシール型高濃度水素センサの探索研究 新潟大学
原田修治
株式会社新潟TLO
結城洋司
水素ガス反応性の良い本学開発のEMF型水素センサに対して、燃料電池内部の制御用水素センサや原子力発電所内の水素ガスセンサなどの過酷環境用水素センサには新たなニーズがある。そのためシール型高濃度水素センサの開発を行った。シール型にすることで、酸素ガスの影響を排除し、真空中や液体中などの過酷環境における水素ガスの検知を可能とした。またセンサの構成を耐熱性の高い材質のものとすることで、高温度の環境下の使用にも耐えうるようにした。今後は実用化に向けて水素ガス応答性等のセンサ性能の更なる向上が課題である。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、多くのシール型センサを試作しているが、部分的な条件での評価となっている。当初の目標としている評価を実施する必要がある。今後は、新たな用途の研究よりも、これまでの成果をベースに、ユーザーを探し実用化を目指すことが望ましいいと思われる。
光異性化反応を利用した新規二核ルテニウムアコ錯体の合成と水の酸化触媒能 新潟大学
平原将也
新潟大学
嶽岡悦雄
人工光合成は、将来有望なエネルギー供給システムの一つとして期待されている。人工光合成の構築には、水の酸化反応を効果的に促進させる酸素発生触媒の開発が必須である。二核ルテニウムアコ(II) 錯体は近接したアコ配位子を有するため、ルテニウムアコ(RuII-OH2)からプロトン共役電子移動により生成するルテニルオキソ(RuV=O)種の分子内カップリングによる効果的な水の酸化が期待できる。本研究では、最近当研究室で見出したポリピリジルルテニウム(II)アコ錯体の光異性化反応を利用して二核ルテニウムアコ錯体の合成をおこなった。この結果、得られた二核錯体は電気化学測定において酸素発生過電圧は0.5Vと比較的大きいものの、1.4V vs SCEにおいて触媒反応の回転頻度が31-41s-1に相当する触媒電流を示し、有用な水の酸化触媒として機能することが判明した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも合成された新規ルテニウム錯体が水の酸化触媒として機能することを電気化学的に明らかにし、学術的な基礎研究として評価出来る。
一方、技術移転の観点からは、配位子への置換基効果などによる酸素発生過電圧低下などの触媒活性の向上に関する基礎研究の継続に加えて、人工光合成システムの実現に向け酸化物半導体などとの組み合せによるデバイス化などの技術的検討やデータの積み上げを進めるとともに特許出願や産学共同研究体制の構築が望まれる。
人工光合成システムの実現の社会的意義は大きく、今後の研究の進展が期待される。
低炭素社会を目指した大腸菌による糖からの芳香族アミン前駆体の発酵生産 新潟薬科大学
高久洋暁
公益財団法人にいがた産業創造機構
田辺寛
代謝工学的に改変した組換え大腸菌を利用することにより、グルコースから芳香族化合物前駆体DOIへ99%の効率で変換が可能である。この組換え大腸菌にアミノトランスフェラーゼ等を導入することにより、芳香族アミン前駆体DOIA, DOSの発酵生産及びその検出定量システムの構築を試みた。まず、in vitro DOIA合成系を構築し、HPLCを利用した検出システムを構築した。今後、強酸性陽イオン交換カラムによりDOIA を精製し、定量システムを構築する。また、DOI合成酵素遺伝子とDOIA合成酵素遺伝子を大腸菌内で共発現することにより、DOIA由来のピークを検出したが、変換効率が悪いことが予想された。組換え大腸菌の培養条件において、ほとんどのDOIA合成酵素が凝集してしまうためと考えられ、今後、凝集体を形成しにくい他種のDOIA合成酵素さらには培養条件を検討し、DOIA発酵生産効率上昇を試みる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、標品が得られない状況でvitro合成系で標本を調製したこととグルコースからの2-デオキシ-シロ-イノソース(DOI)への高効率での変換を達成したことについては評価できる。一方、高比活性の合成酵素の生産や一連の酵素バランスの最適化などによる2-デオキシ-シロ-イノサミン(DOIA)の生産性の向上、2-デオキシストレプトアミン(DOS)の合成組換え酵素の発現と生産系の最適化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、既存のbtrS等の変異導入による分子育種や、目的遺伝子がグラム陽性菌由来であることからコドンの最適化や宿主を変更するなども試みることが望まれる。
分散型メタンMHD発電機の能動プラズマ電離度制御技術の構築 長岡技術科学大学
原田信弘
長岡技術科学大学
品田正人
高温燃焼ガスを利用したMHD発電の放電制御システムを構築するために、高周波放電システム(RF発振周波数:13.56MHz、 RF出力:5kW) および高繰り返しナノ秒パルスパワー放電システム(パルス幅: 100ns、 繰り返し周波数:~5kHz、出力電圧: -20kV)を用いて、電離度制御が行えることを実証するため、種々のシステムを構築し、その制御性を評価した。高温高密度ガス下でのプラズマの電離度制御の検討を行うため、電離度制御装置の構築及び実験的検証を行った。電離度制御を行うために、当初の予定では圧力センサを利用したコンパレータを検討していたが、制御性の高さの観点から発電出力と直接リンクできるよう、発電電極に直接コンパレータを設置し、電離度の情報を読み取る様に装置を構築した。その装置の制御範囲は100kHz程度まで任意に制御できることを実証し、メタン燃焼機と同等のパラメータを有するモデルロケットエンジンを利用した燃焼ガスにより疑似繰り返し実験を行った。その結果、発電出力は比較的平準化できることを実験的に実証した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもMHD発電における電離度制御に、高繰り返しパルスパワー放電と高周波予備電離を組み合わせる提案システムを用い、まず当初目標としていた電離度制御が可能であることを検証できたことは評価できる。一方、最終的な発電出力の確認が十分にできていないことから、今後は発電出力に与える本システムの有効性を明確にするとともに、特許出願に繋がる技術開発、課題解決が必要と思われる。我が国だけでなくグローバルな立場からも大変重要な課題であることから、引き続き、最善の努力を傾注する事が望まれる。
スポンジ担体リアクターによる新規省エネ型メタン脱窒システムの開発 長岡技術科学大学
幡本将史
長岡技術科学大学
品田正人
メタンガスを直接利用して脱窒を行う嫌気性メタン脱窒細菌を用いた、低コスト温室効果ガス排出抑制型脱窒プロセスの開発を目的として研究開発を行った。スポンジを微生物保持担体としたラボスケールリアクターの実験を行い、処理速度の向上を試みた。その結果、硝酸のみでもメタン脱窒反応が継続することを確認し、その微生物群集の解析を行った。その後、リアクターのスケールアップを行った結果、嫌気的メタン脱窒プロセスは適切に管理を行えば、迅速にプロセスを立ち上げる事ができるという事がわかった。しかし、プロセスの実規模化に向けては、種汚泥の確保、増殖の遅い微生物をいかに効率よく増殖させるかが鍵となる事がわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも硝酸、亜硝酸などの受容体の違いが培養される微生物群に影響すること、適切な管理条件下では迅速なプロセスの立ち上げが可能になることの発見は評価できる。一方、嫌気性メタン脱窒プロセスは低コスト・低環境負荷型脱窒プロセスであるが、このプロセスの鍵となる嫌気性メタン脱窒微生物の増殖が遅いため、この微生物の培養条件の検討や更なる適切なリアクター形式を研究開発が必要と思われる。今後は、積極的に興味をもつ企業との信頼関係に基づいた連携や共同研究をスムーズに行う事が肝要であり、大学の広報活動や技術展に積極的に出展・発表し、関連企業の協力・連携を求めていくことが望まれる。
微生物機能を用いたスチレンからの新規マンデル酸生産技術の開発 長岡技術科学大学
笠井大輔
長岡技術科学大学
品田正人
本研究では、微生物機能を用いたスチレンからの新規マンデル酸生産技術の開発を目指し、スチレンからマンデル酸への変換経路において未同定であったPEDからマンデル酸への変換ステップに関して解析を行い、PEDからマンデル酸への変換に関わる可能性がある酵素遺伝子を特定した。マンデル酸を効率的に蓄積する株の作出には至らなかったが、PEDからマンデル酸への変換能が向上した変異株を育種することに成功した。得られた変異株のPED変換能向上に関わる因子を明らかにすることで、効率的マンデル酸生産系の構築につながると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本プロセスの鍵となる酵素株を見出せたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、本手法による高純度の光学活性のマンデル酸の大量生産法および技術移転が実現できれば、その学術的・技術的意義だけでなく工業的意義は大変大きく、実用化が望まれる。今後は、企業との連携体制の構築し、更なる展開の加速化や飛躍、および技術移転が期待される。
積層造形による環境に優しい曲げ加工用樹脂中子の開発 富山県工業技術センター
住岡淳司
アルミ押出形材の試作品など一品物のアール曲げ加工時、潰れ防止のため挿入する中子には、低融点合金が使用され、形材への流し込みと加工後の溶融回収が行われている。このため加工時のエネルギーコスト、有害金属系外溶出防止の環境対策コストも大きい。これに対し、中子を樹脂に代替し、形材断面図面データから迅速に成形できる樹脂粉末積層造形技術を活用して、多様な曲げ加工要求に短納期で応える環境に優しい曲げ加工用樹脂中子の成形技術の開発を行った。結果、中子の耐久性と製品のアール曲げ加工において若干の課題が残されたが、十分な生産効率の向上とコスト削減に貢献できる可能性があることがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に低融点合金に代わる積層造形技術を使った樹脂中子の技術を確立した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、タルク等の配合割合等を更に検討し、2万本以上の耐久性評価やシワの除去などにより、早期実用化が望まれる。今後は十分な生産効率の向上とコスト削減による社会貢献が期待される。
合成樹脂を使用しないスギ樹皮100%の成型ボードの開発 富山県農林水産総合技術センター
鈴木聡
スギ間伐材から大量に発生する樹皮の有用な処理手段がほとんど無い。本研究所では、富山県産スギ樹皮を粉砕(解繊)、蒸煮することで接着性を付与、樹皮100%のボード状成型に成功した。今回、この技術を応用し、富山県産スギ樹皮100%の内装用ボード製造可能性の検討を行った。
その結果、湿式解繊で装置をスケールアップしても、水含浸等前処理を行うことなく、効率よく十分に繊維化できること、乾式解繊で蒸煮温度を変えても繊維形状等に大きな違いはないこと、熱圧成型でJIS木材・プラスチック複合材(用途区分:住宅用室内造作)の曲げ強さ基準を満たすボードが製造可能なことを確認した。今後、製品化に向けて、蒸煮温度条件等、更なる検討を行う予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初目標のうちプレス成型については、設定目標の、曲げ強度の基準値を満たしており、目標が達成されたとことは評価できる。しかしながら。市販流通品の性能を材料規格によって判定する際には、統計的判断を行うため、概ね基準値に相当する数値が得られたとする本課題の報告からは実用可能な成果が得られたとは判断できない。一方、押出し成型についてはペレット成型に成功しておらず、目標を達成されたと判断できない。最も重要な製造技術に関する問題が未解決のまま残されており、得られた製品の性能評価に関しても不十分であり、残された課題の解決が必要と思われる。今後は、技術移転できる段階には達していないと思われるので、研究要素の整理とさrなるデータの蓄積が望まれる。
室温多軸鍛造と静的熱処理を組み合わせた超微細粒マグネシウム基合金の開発 富山県立大学
鈴木真由美
富山県立大学
山本 肇
室温多軸鍛造によってマグネシウム合金内部に多重双晶を発生させ、結晶粒の分断を行うと共に静的熱処理を組み合わせることで双晶を析出物による安定化と、部分的な1ミクロン以下の微細粒の生成、未分断領域の転位密度の大幅な低下をもたらすことが出来た。その後多軸鍛造を追加することで初期結晶粒内部に数ミクロン程度の微細分断粒領域を初期結晶粒内部に導入することが出来たが、材料内部の組織の不均一性は完全には解消されなかった。本研究によって1パスの加工量を0.05とすることで市販の鋳造ビレット(初期平均結晶粒径100ミクロン、5%流動応力200 MPa)から累積ひずみ2.4、5%流動応力が400 MPaのバルク材を作製できた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも室温多軸鍛造によるマグネシウム合金内部での多重双晶の発生による結晶粒の分断と、静的熱処理の組合わせによる超微細粒マグネシウム基合金の開発の検討により、初期結晶粒内部への数ミクロン程度の微細分断粒領域の導入には達成した点は評価できる。一方、材料内部の組織の不均一性を完全な解消には至らず、静的熱処理と加工条件については今後更なる最適化が必要と思われる。今後は、企業と共に産学官連携の協同研究体制を構築して上で、高温下でも使用可能な耐熱材料としての多軸鍛造材などの開発への展開が望まれる。
光通信デバイスによる燃焼炉の高効率制御のための高速ガス計測システムの開発 富山高等専門学校
由井四海
富山高等専門学校
古河秀一郎
光源として、光通信用DFBレーザーとPPLNモジュールを組み合わせ、760nmの第二高調波光を酸素の吸収測定に用いる測定システムを構築した。複数の吸収線の中から、レーザーの電流と温度、非線形素子の温度、吸収線の強度を考慮した結果760.445nmの吸収線が適していることがわかった。また、光路長20cmで大気圧下の酸素ガスを測定し、濃度約0.5%(光学的厚さ1.2e-4相当)まで測定が可能であることが確認され、その過程において変調条件についても検討を行った。測定応答性についてもリアルタイム測定ができることがわかった。さらに、これらの結果を元に大気環境計測分野のガス種での検出感度について調査を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に光通信技術を用いた焼却炉の効率的制御のための高速ガス計測システムにおいて焼却制御のための酸素濃度計測条件として、酸素測定濃度レンジ、分解能、応答時間について初期目標を達成し、光通信技術を利用した酸素の吸収計に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、産業ガス、危険性ガス、大気環境関連ガスの測定及び光通信帯レーザーをコアとする測定システムに合致した吸収線の位置・強度の特定や、産業ガス、危険性ガス、大気環境関連ガスの測定及び光通信帯レーザーをコアとする測定システムに合致した吸収線の位置・強度の特定などの研究を進めることでの実用化が望まれる。今後は、特許化が期待される研究であり、連携企業との共同研究を通じた計測システムの装置化・実用化が期待される。
加工成形性に優れる高強度Al-Li合金製造技術の開発 富山大学
才川清二
富山大学
永井嘉隆
Al-Li合金はLiが活性な為、通常の鋳造法では溶融状態で他の元素と化合物を形成し、これが加工性の著しい低下を招いていた。これを解決すべく本研究では、合金溶製と鋳造工程の研究を行い、特殊材質のるつぼ並びに新たな鋳造技術と諸条件を用いることで、これまでに無い健全な鋳物(鋳塊)が得られる技術を初めて確立した。この新規鋳造法によるAl-2%Li-2%Cu-1.5%Mg-0.1%Zr(質量%)合金鋳塊は、複数パスにて90%圧延を行っても、従来のような割れ欠陥の無い、展延性に優れた薄板材が成形可能となり、その効果は極めて有用と判断し、今年度初頭(平成25年4月16日)で特許出願(特願2013-085330)した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、挑戦的な冷間加工性など全ての目標値のクリアには至らなかったものの、比較的すぐれた展延性を持つことが確認されており、産学共同開発ステージにつばがる可能性が高まったことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、航空機分野で先行する米国の研究成果(知財)との差別化に留意して、次ステップに進むことが望まれる。今後は、早い段階で製造メーカとの共同研究に着手し、軽量構造材料にとっての基本的な特性である強度特性及び靱性等の評価に進むことが期待される。
量子ドット増感型超高効率太陽電池実用化のための革新的成膜技術の開発 富山大学
野瀬正照
富山大学
永井嘉隆
(1)装置自体の開発と(2)Ge/TiO2複相構造膜の開発を同時並行で実施した。(1)については、左右チャンバー間のクロスコンタミネーションを更に減少させる改良を行い、目標には届かなかったものの従来10-4台であった酸素分圧を10-5台に低下させることができた【70%】。(2)については、TiO2相中にGeの微粒子を分散させたナノグラニュラー膜の作製を目指したが、実現できなかった。しかし、TiO2とGeのナノ積層膜の作製には成功し、成膜直後の膜をXPS分析したところ、Ge酸化物のピークはほとんど検出されなかった。さらに、Ar雰囲気下での熱処理により、透過光スペクトルのオンセット(吸収端に相当)については目標値の1.4eVを達成した【60%】。(【 】内の数字は目標達成度) 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも差動排気型同時製膜装置の性能向上に関しては、目標値までは達しなかったが、特許申請に至る一定の成果が得られた点は評価できる。一方、TiO2の高速成膜、GeドットのTiO2中での量子効果や複合膜の物性などの実証評価やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後も、外部資金を活用して基礎的な技術的検討を重ね、是非ともGe/TiO2ナノグラニュラー膜の作製を実現されることが望まれる。
有機溶液中パラジウムの分離回収効率を飛躍的に向上させる高分子配位子固定化吸着剤の開発 富山大学
加賀谷重浩
富山大学
梶護
グリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートとを用い、懸濁重合法により基材樹脂を合成した。得られた粒子を篩にて分級し、90~150 μmの基材樹脂を得た。この基材樹脂に市販ポリエチレンイミンを導入し、これをチオアミド化してチオアミド化ポリエチレンイミン型樹脂を調製した。この樹脂は、水溶液および有機溶液中のパラジウムを捕捉可能であった。特に酸性領域での捕捉に優れ、この領域では金は捕捉されたが、白金、銅を含む22元素はほとんど捕捉されなかった。また、比較のために低分子配位子を導入した樹脂も調製し、評価した。これらもパラジウムの分離回収に有用であることが示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に医薬品中間体などを有機合成する際の触媒として用いられるパラジウムの分離回収を目指し目標の吸着容量を超える吸着容量の高分子配位子固定化吸着剤を開発したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、特許申請も予定されており、今後はパラジウム触媒に含まれる配位子が吸着に及ぼす影響など実用化に向けた検討を共同研究企業と進め、本研究成果が実用化されることが望まれる。
本研究の成果としてパラジウムのみならず金、白金の捕捉回収への応用の可能性が示唆され、今後は、医薬品製造業だけでなく応用展開されることが期待される。
ヘリウム使用量極低減化を可能にする極低温冷凍機のデザイン設計 富山大学
西村克彦
富山大学
高橋修
申請者は、金属間化合物ErCr2Si2が低磁場において温度ヒステリシス及び磁場ヒステリシス無しに大きな磁気エントロピー変化を示すことを見いだし、本物質を磁気冷凍システムの磁性材料として利用するためのデザイン設計を行った。研究を通じて、ErCr2Si2が大きな磁気冷凍効果を有することがわかった。その性能を引き出すための磁気冷凍デバイスのデザイン設計が重要であることがわかった。磁気冷凍性能を引き出すためのデザイン設計のポイントは、1)試料自身の渦電流による発熱を抑制する、2)温度計や試料ホルダーによる熱リークを小さくする、3)試料と試料ホルダーの熱接触を良くする、ことであることがわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、目標値とした10 K以下での冷却能の達成には至らなかったが、当初目標の最適デザイン設計に基づいたデバイス本体の製作・加工および基礎データ収集により解決すべき課題の抽出を行ったことは評価できる。一方、磁場をスケールダウンしたときの磁気エントロピー変化、渦電流損量、熱リーク量、比熱の温度変化などを定量的に見積もり、装置設計を見直すことが必要と思われる。今後は、装置設計の見直しを含めて、改善されることが望まれる。
水中気泡プラズマによる低環境負荷型レジスト分解プロセスの開発 金沢大学
石島達夫
金沢大学
安川直樹
半導体デバイス製造過程においてウェハー上のレジスト膜を除去する工程において、加温および硫酸・過酸化水素水等の薬液を用いることなく、プロセス速度を低減させない新たな方式が求められている。本研究では、新たに開発した平面的に広がる特徴を有するマイクロ波励起液中気泡プラズマ法を用い、超純水を利用した低環境負荷型のレジスト膜除去用の装置および技術開発を行った。本手法により、イオン注入により硬化し除去困難とされるレジスト膜に対しても低温下で高速除去できる技術を実現した。今後、低温かつ高速処理が求められる樹脂基板へのプロセスなどニーズがある分野を視野に、装置化に向けた研究開発を進めていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標値の、フォトレジスト膜に対し1μm/minの除去速度を超える除去速度が得られており、目標は達成されていることは評価できる。また、プラズマ照射時の基板の温度上昇は従来法に比べ低く抑えられること、プラズマ照射時に発生が想定されるラジカルの金属配線への影響が少ないことなど、成果が得られている。一方、技術移転の観点からは、装置化に向けた取り組みが必要となるが、次のステップに進むための改良点、目標を明確にして進めることが望まれる。今後は、産業界とのコンタクトを強め、早期の実用化に向けて研究を発展させることが期待される。
π共役高分子のキラリティー制御を新基軸とする至極の有機薄膜太陽電池開発 金沢大学
井改知幸
金沢大学
安川直樹
側鎖に導入する分岐アルキル鎖のキラリティーを制御した光学活性なπ共役高分子 (S,S)-poly-1の合成を行った。比較のためにキラリティーを制御していないpoly-1の合成も行った。(S,S)-poly-1, poly-1のHOMO準位及びバンドギャップを測定したところ、両ポリマーで明確な違いは見られなかった。一方、正孔移動度(μh)を算出した結果、(S,S)-poly-1: 31.0 cm2/V・s, poly-1: 8.4 cm2/V・sであり、側鎖のキラリティーを制御することで、μh値が4倍程向上することが明らかとなった。上記2種のポリマーを電子ドナー材料に用い有機薄膜太陽電池を作製したところ、光電変換効率に明確な違いは見られなかった。優れた正孔輸送性を有する(S,S)-poly-1を活かした太陽電池開発を進めるために、今後、素子作製条件を最適化する必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもキラリティー導入によりホール移動度が向上したことは評価できる。一方、光電変換効率の向上に向けて、原因の究明が必要と思われる。今後は、素子作製条件の検討を計画しているので、目標達成に向けた早期の実施を期待します。
エコ・ユーザーフレンドリーな酸触媒アルキル化剤の開発 金沢大学
山田耕平
有限会社金沢大学ティ・エル・オー
木下邦則
申請者らが開発した酸触媒ベンジル化剤・トリスベンジルオキシトリアジン(TriBOT)は、従来法に比べ、安定性やコストなどの点を大幅に改善している。本反応剤の産業化にむけて、反応条件の改良と、他のアルキル化剤への適用拡大を目指した。結果、TriBOTに関しては、産業化に適した反応条件が見つかり、論文一報と市販へとこぎつけた。他のアルキル化剤への適用拡大に関しては、パラメトキシベンジル化剤(TriBOT-PM)を開発し、TriBOTに比べて、より温和な条件で反応が進行し、反応条件(酸・溶媒・温度など)の様々な組み合わせが可能であることを示した。本研究を基に論文一報を出し、市販することができた。今後は合成上有用な他のアルキル化剤を開発し、ラインナップを充実させる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、酸性下での水酸基の保護法である酸触媒ベンジル化の反応試剤として、新たにトリベンジルオキシトリアジン(TriBOT)系化合物を開発して市販に到ったことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、予定にあるプロパギル、アリル、t-ブチルについての検討などによる広範囲での実用化が望まれる。今後は、トリアジン窒素に特異的に配位結合する金属触媒との併用や固体酸としての可能性も検討されることが期待される
コミングル繊維を利用した立体形状CFRP製造技術の開発 石川県工業試験場
長谷部裕之
石川県工業試験場
南川俊治
炭素繊維強化複合材料(CFRP)を深絞り等の立体的に成形する技術の確立が求められている。そこで、織物の立体形状に追従し易い特徴を利用するため、炭素繊維と熱可塑性繊維とのコミングル(混繊)法による成形技術を検討した。改質したPP樹脂を繊維化し、巻き数100T/mの条件で、ダブルカバリング法により炭素繊維とのコミングル繊維を作製した。その繊維を用いて製織を行ない、織物を積層・プレス成形することにより、φ100mm、高さ25mmの半球状CFRPを作製した。得られた半球状CFRPの表面はシワや目崩れ等の欠点は見られず、良好な成形品を得られた。そのCFRPを圧縮試験した結果、3.57kNの強度を得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも無水マレン酸変性PP繊維の製作から炭素繊維とのコミングル化、織物化、3D形状を含めた複合化と研究を進め、目標を達成した点は評価できる。一方、立体成形強化複合材料の製作における力学特性や構造評価が必要と思われる。今後は、具体的な用途を幅広く選定し、機能、コストの目標値や特徴を定量的に定め、地場産業との共同研究や技術移転などを積極的に進めることが望まれる。
耐衝撃性を向上させた炭素繊維複合材料の開発 石川県工業試験場
木水貢
石川県工業試験場
南川俊治
耐衝撃性に優れたポリカーボネート(PC)を用いた炭素繊維複合材料において、PC樹脂と炭素繊維との含浸性を向上させるため、PCの溶融粘度とその含浸について検討した。溶融粘度の異なる3タイプのPC樹脂について溶融特性を把握し、各PC樹脂のフィルム成形試験を行った。
試作した各PCフィルムと炭素繊維織物を用い、高温プレスで成形試験を行い、プレス成形条件による影響について検討した。その結果、プレス成形での予備加熱温度の上昇により曲げ強度、曲げ弾性率共に上昇した。衝撃特性は予備加熱温度の上昇により上昇するが、280℃を強大に低下した。また、プレス温度については、プレス成形温度にかかわらず曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃値及び衝撃吸収エネルギーはほぼ一定の値を示した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初目標としていた溶融粘度による影響および破壊での構造解析については解明できた点は評価できる。一方、産業用途であれば、耐衝撃性、剛性、耐摩耗性、成形性等に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、機能とコストの両面の目標値を定め、炭素繊維複合材料で実績のある企業とも連携し、これまでの成果を総合的に活かした研究が展開されることが望まれる。
タンパク質重合活性を持ったチロシナーゼ製剤の開発 石川県立大学
小西康子
加工適性は低いが入手が容易で廉価な原料を高品質化できる酵素製剤の開発をめざし、タンパク質重合活性を持ったナメコ由来チロシナーゼによるカマボコ用すり身ゲルの品質改善について検討した。スモールスケールでの実験を繰り返して条件を絞り込んだ後、実際の工程に近い形でスケールアップした実験を行い、カマボコの破断応力、圧縮距離、ゼリー強度が増加することを確認した。従って、加工特性が低い品質のすり身にチロシナーゼを添加することでカマボコのゲル化特性が明らかに向上し、高品質化できることが示された。製剤化に際して問題となる混在するプロテアーゼを簡単に除去する方法も開発できたことから、酵素製剤を調製する見通しがついた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に酵素製剤に混在するプロテアーゼを簡便に除去し、チロシナーゼ精製法や活性確認法の確立した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、共同開発企業と連携して、チロシナーゼ製剤の調整法を確立する共に、食品開発分野で実用的な食品用酵素の開発および実用化が望まれる。今後は、品の物性改良酵素であるトランスグルタミナーゼについても、学術的な研究開発と共に、企業との効果的な共同・協調研究により、具体的な有益な成果が出ることが期待される。
発電プラントの適切な経年劣化対策を可能とする高温多軸クリープ余寿命評価技術の開発 石川工業高等専門学校
旭吉雅健
石川工業高等専門学校
吉田博幸
ボイラー配管等の経年劣化対策のひとつとして、実機から採取したサンプル素材の余寿命評価が重要である。本研究では、任意の局所位置から採取した小型寸法のサンプル素材で多軸クリープ試験が可能な試験片の実現を目指した。
小型サンプル素材に引張負荷用継手を溶接する小型十字型試験片を設計した。溶接材の強度確保のためには、溶接電力は2~2.2[kW]、溶接速度は160[cm/min.]が最適であった。さらに、小型試験片の変位計測手法を確立した。提案する非接触手法は、変形初期の計測には制限があるものの、30~40%程度のひずみを対象とするクリープ変形曲線の計測には有効な手段である。
一辺が50mmの小型十字型試験片の形状寸法を決定して、目標を達成した。今後、小型の多軸クリープ試験装置を開発して、実験データの蓄積を図ることが課題である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、実機などでの素材を抽出し、小型試験片を用いた多軸クリープ試験法の検討をしたことは評価できる。一方、余寿命評価のための試験法の確立を目指すためには、試料の変形量、密度、抵抗、組織変化、超音波の速度や減衰率などから余寿命を推測することが必要と思われる。今後は、2軸クリープ試験用の小型十字試験法の確立と、余寿命推測法との関係を明確にして、データの蓄積と基盤技術の開発を行うことが望まれる。
揚力型垂直軸風車システム効率改善に向けた複数ぜんまいを利用したエネルギー回収型制動装置の開発 石川工業高等専門学校
原田敦史
石川工業高等専門学校
吉田博幸
本研究は、風力発電システム効率改善に向けたエネルギー回収機能を有する制動装置を開発するものである。従来、風速が設計値より高い風車は破損防止のため制動装置により止められていた。このとき生じるエネルギーは利用されていなかったが、ぜんまいを設けることにより、このエネルギーをぜんまい巻上げにより回収し、このエネルギーは電動機および風車初期回転の補助動力として供給され、従来捨てられていたエネルギーを再利用する装置となる。
研究は、風洞実験と数値解析を並行して行い、本提案の可能性を示した。この成果は、揚力型垂直軸風車の効率改善と安定化につながり、今後の分散型小規模発電の普及につながるものとなる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、実機相当のモデルを作製し、ぜんまいを利用したエネルギー回収型制動装置の実現が可能であることを示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、エネルギー供給機構を速やかに完成し、システム全体の性能試験を実施することが望まれる。今後は、実用化の観点からは、強度や耐久性についての検討を実施するとともに、実風力発電機と組み合わせたフィールドテストに進むことが期待される。
太陽電池用多結晶シリコン薄膜の高生産性技術の開発 北陸先端科学技術大学院大学
大平圭介
北陸先端科学技術大学院大学
松本健
ミリ秒台の瞬間熱処理法であるフラッシュランプアニール(FLA)により、電子線(EB)蒸着により製膜した非晶質シリコン(a-Si)膜を結晶化することで、ガラス基板上に、膜厚2 μm以上、横方向に数10 μm延伸した大粒径結晶粒からなる多結晶シリコン(poly-Si)膜を得られる。このpoly-Si膜の亀裂抑止と欠陥低減について研究を行い、高圧水蒸気熱処理により、1016 /cm3台まで欠陥密度を低減できることを明らかにした。また、膜厚を変化させることにより、結晶化機構および結晶粒径が変化する現象を見出した。今後、亀裂抑止技術を確立することで、薄膜結晶Si太陽電池への応用につながると期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもフラッシュランプアニール(FLA)により、電子線(EB)蒸着により製膜した非晶質シリコン(a-Si)膜を結晶化する技術については評価できる。一方、poly-Siの亀裂発生を抑制する技術や欠陥低減法を概ね確立しており、今後企業との連携による研究計画を進めることにより更なる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
5V級リチウムイオン電池を実現する表面フッ素化正極材料の創出 福井大学
米沢晋
福井大学
奥野信男
スピネル構造を持つマンガン酸リチウムのMnの一部を、Niで置換したLiNi0.5Mn1.5O4について、表面の精密なフッ素化処理を実施するプロセスを確立した。特にフッ素含有量が1%未満となる領域において、5%程度の容量向上とサイクル安定性の向上が確認できる材料の作製に成功した。表面フッ素修飾により、正極活物質の利用効率が増加したことと、正極活物質からのマンガン溶出の抑制されたことにより、サイクル特性の向上が達成され、また活物質表面の極性が増加したことによる溶媒との親和性向上も加えて、放電容量の増加が達成されたと考えられた。これは、当該表面フッ素化材料が、定置用などの比較的大容量の電池材料として利用可能であることを示す。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にLi-Ni-MnO正極材料の精密フッ素処理プロセスの技術に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、実用化に近い装置での技術開発を進めているため実用化が期待される。今後は、より放電容量の大きい正極材料に適応し、より大容量の電池の開発と実用化に展開していくことが期待される。
スマートエネルギーデバイス用高安全リチウムイオン電池正極活物質の開発 福井大学
井上利弘
福井大学
奥野信男
スマートエネルギー用蓄電システムとして、高容量で高い安全性を持ったリチウムイオン電池用正極活物質を開発することを目的に、ニッケル組成比の高いNi-Co-Mn系のリチウム複合酸化物への界面修飾を検討した。フッ素ガスにより0.005%までの界面修飾をLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2に試み、高容量化と熱安定性の向上を検討したところ、放電容量は202 mAh・g-1が得られた。一方、フッ素修飾により、電池特性からは高率放電時の容量低下が見られた。この原因としては、交流インピーダンス法による解析から、界面における電荷移動抵抗の増大が考えられた。また、過充電に対するフッ素修飾の効果は見られなかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも Li-Ni-Co-Mn系材料組成の最適化による高放電容量達成の技術に関しては評価できる。一方、安定化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、可能な限り基礎的な理論、技術に基づいた解明・アプローチをされることが望まれる。  
固体高分子形燃料電池用ステンレス鋼製セパレータのための高耐腐食性InGaN皮膜技術の開発 福井大学
杉田憲一
福井大学
青山文夫
これまでに得た、成膜装置(MOCVD法)による2cm角の平坦なステンレス鋼へのⅢ族窒化物の成膜技術を基に、10cm角の凹凸加工ステンレス鋼に耐腐食性に優れた皮膜材料を製膜する技術を開発する。ステンレス鋼の凹凸部分も均一に成膜するために、ステンレス鋼の凹凸に合わせて成膜装置の基板ホルダー(サセプタ)の形状を凹凸にするとともに、原料ガスの凹凸部分への均一拡散を促進するために、原料ガスの吹き出し口を改造する。この技術の確立により、高分子燃料電池のセパレータ材料をカーボンからステンレス鋼に置き換えることができ、コストが安く、振動、耐腐食性に強い部材を供給することができる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもステンレス鋼セパレータの上に成膜したInGaN膜による耐腐食性向上の技術に関しては評価できる。一方、SUS粒界におけるTiN薄膜形成の均一性に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、TiN薄膜の形成技術、電池性能向上のための技術など検討されることが望まれる。
高エネルギー・高出力密度の高性能蓄電材料としての誘電体/金属ナノ粒子集積体セラミックスの開発 山梨大学
和田智志
山梨大学
還田隆
金属Ti粒子をチタン酸バリウム(BT)セラミックス中に高密度で分散させた3次元メタル-セラミックスナノ構造複合材料の作製を目的に研究を行った。金属Ti粒子表面をBTで被覆するため、酸化チタンナノ粒子をTi源、水酸化バリウムをBa源とし、水熱法によりBT/Ti複合粒子を作製した。この複合粒子集積体の間隙をBTでエピタキシャル充填するため、作製した複合粒子、BT粒子、酸化チタンナノ粒子混合粒子集積体を作製し、水酸化バリウム水溶液中での水熱処理により、3次元メタル-セラミックスナノ構造複合材料を作製した。その比誘電率は複合粒子の含有量が50wt%を超えると10万を超えた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも金属Ti粒子の粒径をより小さいものにすることで比誘電率が向上することが示され、金属粒子もTiだけでなく他の金属の可能性がされ比誘電率10万を達成したことは評価できる。
一方、ナノサイズの金属粒子の作成課題や比誘電率の金属粒子の粒径依存性、絶縁破壊電界などの比誘電率のさらなる向上や誘電体性能評価関する技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
本研究の成果は自然エネルギー利用で問題となる出力変動の抑制のため、あるいは電気自動車の従来のものに比べ高出力、高容量の蓄電装置として応用展開されることが期待され、研究の進展が期待される。
レーザースポレーション法による燃料電池用SOFCセル薄膜の密着強度評価法の開発 信州大学
荒井政大
信州大学
宮坂秀明
さまざまな機械材料の特性改善を目的として、コーティング膜(薄膜)を有する材料がさまざまな機械構造物や機械部品に用いられている。著者らのグループは、コーティング膜の密着強度の評価手法として、レーザースポレーション法とに着目し、種々の検討を重ねてきた。本研究グループの評価法では、三次元波動を境界要素法を用いて解析することで、信頼性の高い密着強度データが得られることを見出している。
本研究開発では、燃料電池セルを想定した薄膜構造の着強度をレーザースポレーション法にて計測することを目的とし、軸対称境界要素法プログラムを新たに開発して、計算の効率化と解析精度の向上を目指した。実験により得られた変位の測定データよりコーティング膜・基材間の密着強度を算出し、ワイブル分布による統計的手法を用いて結果の考察を行った。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも固体酸化物燃料電池の電極、電解質界面の密着強度評価法としてレーザースポレーション法を利用し30ミクロンの薄膜の計測ができ評価法としての有効性を示すことができたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは30ミクロン以下の薄膜での計測の有効性、界面形成のプロセスの影響などの基礎検討を進めるとともに本手法の競合技術に対する優位性を明らか
にすることが必要と思われる。さらにこれらの検討結果をもとに特許出願の検討が望まれる。
今後は、燃料電池の開発や普及に貢献する評価技術として本研究の進展が期待される。
省エネ方式による感度/測定レンジ可変型光プローブ電流センサの開発 信州大学
曽根原誠
信州大学
小林円
電気・ハイブリッド自動車用の電流センサとして、外乱電磁ノイズの影響が無く、現用のホール素子に比べて温度特性に優れ、磁気ヨークを不要とする軽量な磁気Kerr効果利用型光プローブ電流センサを開発している。走行に応じて、低速;感度優先、高速;測定レンジ優先を切替えたいという要求があるが、感度と測定レンジにはトレードオフの関係があり、従来方式では解決できなかった。
そこで、センサ用軟磁性膜と硬磁性膜、着磁用コイルを組合せ、極少量電力によりパルス着磁で硬磁性膜の消/着磁状態を作り、生じる外部バイアス磁界でセンサ感度や測定レンジを変える方法を提案した。本申請では、その可変型センサの開発と特性評価を行なう。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、硬磁性膜の開発において、飽和磁化および保磁力が目標値を達成している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、センサ感度と変化率を向上させるために、硬磁性膜の改良と共に、新しい改善策も検討されることが望まれる。今後は、自動車関連の技術は進歩が速いので、着実で速い進展が期待される。
カーボンナノチューブ/ナノメタル複合体配線の実用化にむけた要素技術開発 信州大学
伊東栄次
信州大学
小林円
カーボンナノチューブ/ナノメタル複合体は従来のナノAgや銅配線に比べて低抵抗で高い耐電流密度を有する。本研究では、ソフトリソグラフィを基盤とした高精度印刷技術によりカーボンナノチューブ/ナノメタル複合体の高性能電極配線技術開発を行った。大面積化や作製時間の短縮に有利な既存の印刷配線技術を組み合わせてプラスチック基板等への直接印刷も行い、企業等との共同研究を見据えた複合電極配線の実用化に向けた要素技術開発を行った。また、カーボンナノチューブや複合体を電極とした有機トランジスタやポリイミド湿度センサの試作と評価を行いデバイス応用も実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にカーボンナノチューブ/ナノメタル複合体配線の電導特性、柔軟性等の優位性が示された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、具体的なデバイスに即した、課題の抽出と対応策の検討、優位性、信頼性等の評価が望まれる。今後は、応用範囲を絞り、連携企業を見つけて実現可能な用途を実行することが期待される。
磁石で回収可能な金属イオン吸着剤の開発 信州大学
岡田友彦
信州大学
小林円
有害金属イオンで汚染された水を浄化するために、金属イオンを選択的に吸着でき、かつ永久磁石で吸着剤と水とを分離して回収できる機能性粉末の設計を行った。磁性体ナノ粒子を内包したシリカマイクロカプセルの表面に金属イオンの吸着点(スルホ基(SO3H))を固定することができた。本成果物の特徴は、汚染水に吸着剤(微粒子)を整流せず投入しても磁石で分離回収ができる点にある。また、吸着剤に含まれる磁性体は耐酸性に優れた粉末であるため、金属イオンを保持した状態で酸洗浄しても磁性を失うことなく吸着点が再生される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に磁性体内包シリカ粒子表面にイオン交換性を有する官能基を導入しカチオン交換性を付与する点については新規性を有する技術として評価できる。
一方、技術移転の観点からは、吸着容量の増大や多イオン存在下での選択性などの吸着性能の改善に関する研究を進めるとともに技術移転先企業を探索し、新しい金属イオン吸着剤としての実用化が望まれる。
本技術は他の無機粒子の機能付与などへの応用や海水中から有害イオンの選択的除去などの可能性があり、今後本研究の進展により広範な応用と社会貢献が期待される。
農地を起源とする砂塵抑制のための地表面被覆資材の開発 信州大学
鈴木純
信州大学
福澤稔
長野県松本盆地の南西部に広がる畑地帯において、冬から春にかけて砂塵が大規模に飛遊する。本課題では、砂塵発生に対する対症法的対応として、地表面を被覆して砂塵発生を抑制し、かつ作物栽培にそのまま肥効を有する農水産業由来の砂塵抑制被覆資材の開発を行った。試験施工の結果、この資材は冬季から春季の風雪に耐えて地表を覆い、砂塵発生を完全に抑制した。また栽培実験では、地表面被覆のままのキャベツ栽培では有意に裸地栽培より生産量が高かった。また作土にすき込んだレタス栽培では、慣行栽培と比較して有意差はなく、施用による影響はないことがわかった。今冬は、本課題で調査した実大圃場の散布実験を実施し、圃場規模の実験によって資材の砂塵抑制効果を確認する段階にある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、特産品の廃棄物であるテングサの絞りかすを、地域の気候的な課題である農地からの砂塵抑制に繋げた技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、施用期間と施用量(厚さ)、効果の持続性との肥効成分の相関や砂塵を引き起こす風速との関係など、砂塵抑制の効果を定量的に評価するなどでの実用化が望まれる。今後は、農業資材メーカーも含めた体制で圃場試験に取り組むと共に長期の土壌や作物への影響についても検討されることが期待される。
LED電球から発生する近傍電界測定法の開発 長野工業高等専門学校
春日貴志
信州大学
中澤達夫
LED電球から発生する電磁ノイズの近傍電界測定法の開発を行った。シールドルームと疑似電源回路網を導入し、近傍電界の測定系を構築し、測定環境に影響を受けずに電界測定が可能となった。LED電球から発生する遠方電界と近傍電界を測定した結果、周波数特性は特徴が一致し、遠方界と近傍界の相関が見られた。
FDTD法による電磁界解析により、LED電球と電源線から放射する電磁界は、電源線周辺では電界成分が強いことが明らかとなり、近傍磁界が測定できないという結果と一致し、本研究の近傍電界測定法の優位性が明らかとなった。今後は、近傍界のノイズ規制レベルを設ける事や、LED照明ユニット全体から発生する電磁ノイズに関する評価を行う。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、疑似電源回路網を用いることで、電源インピーダンスの安定化ができ、測定環境に影響を受けずにノイズの測定が可能になり、近傍電界によるノイズ評価の可能性を見いだせたことは評価できる。一方、基礎研究がほとんどとなり、近傍界と遠方界との相関関係までは見いだせていないので、測定系として確立することが必要と思われる。今後は、製造分野の企業との連携を密にして、スピード間のある取り組みが望まれる。
低品位粘土を原料に用いた新規な遮熱・断熱タイルの開発 岐阜県セラミックス研究所
水野正敏
公益財団法人名古屋産業振興公社
亀山哲也
本研究では、数%の酸化鉄を含有する粘土およびせっ器素地(2種類)の焼成体を作製し、これらの赤外線反射特性に及ぼす影響因子について検討した。電気炉による酸化焼成の場合、低密度の焼成体では近赤外線領域で80%以上の反射率を示したが、焼成体が高密度に移行するに従って反射率は減少した。特に、かさ密度2.3g/cm3、吸水率3%を境にして急激に反射率が変化することが分かった。また、約4%の酸化鉄を含む素地を、ガス炉により室温から1200℃までを強還元焼成した場合、表面だけが橙色を呈した高密度な焼成体が得られた。この試料の赤外線反射率は、酸化焼成の高密度焼成体に比べて2倍以上高く、強還元焼成が高赤外線反射(熱遮蔽)材料を得るための有効な手段であることが見出された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、数値目標はおおむね達成され、実用に耐え得る焼成体が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、より高い反射率を有する緻密化素地を得ることはできなかったので、冷却過程での鉄の再酸化の試みや多孔化技術等の研究について、さらに綿密な検討が望まれる。また、特許出願の検討が望まれる。今後は、原料の産地ごとに最適化が必要な印象も受けるので、できれば、種々の原料系に適用可能な、汎用性を高めた方向で検討することが期待される。
LED電球の高輝度・長寿命化達成による環境影響低減を意図した熱対策用進行波型送風機 岐阜大学
松村雄一
岐阜大学
神谷英昭
LED電球冷却用として、二枚の共振平板を利用した進行波型送風原理を現存する送風機よりも小型の30×15×4mm以下で実現することを目指した。技術課題は、駆動源とした圧電素子の加振振幅が小さい点にある。送風量増大のために平板の振幅を大きくするには、積極的な増幅機構が必要になる。そこで、係数励振の原理を応用し、大振幅の不安定振動を作り出す機構の実現に取り組んだ。この結果、従来よりも大きな増幅率で、送風原理通りに正弦波状の実稼働モードを励起できることを確認できた。しかし、実機では送風を確認できず、予定していたLED電球の放熱実験までは至らなかった。小型化によって管の圧力損失が増したことなどが、その理由として考えられるが、原因解明には至っていない。一方、別の送風量増大手法として、平板の多層化にも取り組み、理論通りの送風を実現できた。今後は、圧力損失の有無や発生原因の解明などのため、流体-構造連成解析をさらに積極的に取り入れた設計法を確立していく予定である。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、当初目標に示した、原理通りの送風ができず、流速と圧力の測定を行ったが、流れを確認できなかった。単層型共振平板を多層型に変更することにより、送風を確認できたが、方式、材料を含めて再考の必要がある。今後は、共振(自励振動)を利用した送風機は、実現できれば、発想に優位性が有り、省エネにもつながるので、基礎研究からのさらなる発展が望まれる。
微生物燃料電池のためのバイオナノマグネタイト電極修飾技術の開発 岐阜大学
中村浩平
岐阜大学
馬場大輔
微生物燃料電池の効率的発電を可能にするアノード電極の新規修飾技術の開発を目的とし、Geobacter属が水酸化鉄(Ⅲ)から生産するナノマグネタイト(以降BNM)を電極に供した。BNMを供さない微生物燃料電池に比べて7倍の電流密度を生産することを本研究開発の目標とした。その結果、BNMを供した微生物燃料電池は供さないものの最大1.7倍のクーロン効率を発揮した。その一方、当初の目標としていた電流密度の増加はほとんど見られなかった。しかしながらクーロン効率の増加はより多くの電気エネルギーを回収することを示し、電極の修飾技術の改良によってこれが更に改善される可能性が示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも電極のバイオナノマグネタイト(BNM)修飾により最大1.7倍のクーロン効率が得られたことについては評価できる。一方、装着したバイオナノマグネタイトのほとんどが剥離しているようであり、電極修飾技術など電池開発に関する技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、BNMによる電流密度の増加の理論的考察を含め、電池開発の研究者との共同研究を進めることが望まれる。
新規レアアース依存型酵素の分子ドメインを利用した高効率なレアアース特異的回収技術の開発 岐阜大学
中川智行
岐阜大学
馬場大輔
本研究課題では、希土類元素(レアアース)の高効率なリサイクル技術の開発を目指し、以下の3点、(1)メタノール資化性細菌のレアアース依存型MDHの大量生産系の構築、(2)レアアース依存型MDH(XoxF1)の分子構造決定、(3)XoxF1のレアアース特異性の提示、を目標とした。結果、メタノール資化性細菌ではあるが、組換えXoxF1-6xHis生産系の確立、XoxF1のレアアース特異性を示すことができ、XoxF1のレアアース回収技術への応用の可能性を示すことができた。一方、目標のXoxF1の分子構造の決定には至らなかったものの、大量生産系・高効率精製法の確立の基盤を構築することができ、XoxF1のレアアース回収技術への応用を見据えた分子設計への第一歩を踏み出すことができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ランタン依存型メタノール脱水素酵素の大量発現系を構築できたこととセリウムなどへの特異性が確認されたことについては評価できる。一方、レアアース金属結晶のイオン化の条件や、結晶解析のためのタンパク精製手法の確立に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、精製タンパク質を用いてミニスケールによる回収技術を試行するなど、様々な超低濃度水溶液からのレアアースイオンの濃縮・回収に特化したバイオリアクターとして開発されることが望まれる。
スタキオース検出による緑豆類野菜の簡便・低コスト鮮度判定技術の開発 岐阜大学
中野浩平
岐阜大学
馬場大輔
青果物の流通・小売現場において緑豆類野菜の鮮度の良し悪しを、外観に頼ることなく客観的に判定する技術を開発することを目的に、ソラマメ、エンドウ、エダマメを用いて、貯蔵中における積算温度と可溶性糖組成の関係について検討した。いずれの緑豆類野菜においても、鮮度低下するとスタキオースが生成され、その有無によって鮮度を判定できることが分かった。また、薄層クロマトグラフィー法(TLC)によるスタキオースの分離条件や検出下限、抽出条件について検討し、簡便・低コスト化なTLCによる鮮度判定メソッドを開発できた。今後は、現場対応型技術とするために有機溶媒の使用を極力抑えた測定法の開発や画像処理によるスポット判定について検討する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、青果物の流通過程に品質に係る科学的な指標として比較的簡便なTLC手法を導入しようとする姿勢については評価できる。一方、TLCスポットの解析に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、生産者にも対応可能な、また、類似作物にも展開可能な技術にされることが望まれる。
水と有機分子触媒を用いる可視光空気酸化反応 岐阜薬科大学
多田教浩
公益財団法人名古屋産業科学研究所 中部TLO
大森茂嘉
芳香環上メチル基の酸化反応は重要であるが、安定で反応性の低い芳香環上メチル基を直接酸化することは非常に困難である。今回、溶媒に安価で環境に優しい水を用い、経済的かつ安全な可視光と空気中の分子状酸素存在下、基質に触媒量の光増感剤を加える穏和な条件での芳香環上メチル基の酸化反応を開発することを目的とした。基質として4-tert-ブチルトルエンを用いて検討を行ったところ、基質への溶解性の高い2-tert-ブチルアントラキノンが高い反応性を示した。さらに添加剤の検討を行ったところ、塩基の添加により目的の4-tert-ブチル安息香酸が高収率で得られた。基質一般性の検討を行った結果、芳香環に電子供与基や電子求引基が置換した基質でも良好な収率で反応が進行した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、水を溶媒とする可視光と有機触媒による芳香環メチル基の空気酸化反応の有用性を示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ラジカル連鎖系の酸化反応では反応基質で収率や選択率が大きく異なるので、電子配向性の異なる官能基を持つ化合物への適用を検討するなどでの実用化の促進が望まれる。今後は、光反応系の制約が少ないと考えられるフローシステムなど、スケールアップも検討されることが期待される。
わずかな外部熱で格子酸素の駆動を実現するタール改質用高伝熱性レドックス触媒の開発 静岡大学
渡部綾
静岡大学
伊藤寛章
本研究課題は、バイオマスからタールを経由して水素を製造する触媒反応システムの構築を目的としたものである。具体的にはチャー回収プロセスの構築と、模擬タールであるナフタレンの水蒸気改質および水素増加のためのCOシフト用構造体触媒の開発を行った。その結果、チャーの吹き上げ流速が一定条件を満たす場合にその回収が可能であることがわかった。ナフタレンの改質では、CeO2添加Ni/Al2O3構造体触媒がGHSV=460h-1、700℃で転化率100%を示し、安定性も高いことを明らかにした。またシフト用Pd/LaCoO3構造体触媒がGHSV=40,000h-1、300℃で転化率91.3%を示すことを見出した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に模擬タールであるナフタレンの水蒸気改質ではCeO2添加Ni/Al2O3構造体触媒で高活性と高い安定性が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からはシステム全体の構築を進め、実用的な条件における検討を進めシステム全体の有効性を示すことや特許の出願が望まれる。
今後は、システム化の検討や企業との連携を進め、バイオマスから水素への転換技術の実用化が期待される。
新規プロモーターを用いた種子貯蔵油脂増量技術の開発 静岡大学
木嵜暁子
静岡大学
大西由香
油糧作物由来のバイオ燃料の需要が高まっているが、増産化が課題となっている。植物種子における油脂合成は、種子成熟初期におこる脂肪酸合成と、少し遅れておこるトリアシルグリセロール合成からなっている。それぞれの反応に関わる酵素遺伝子は発現期間が限定されており、これが油脂合成量を制限している。この問題点を解決するために、種子成熟の初期から後期まで強い発現を示すキメラプロモーターを開発した。  本研究は、新規プロモーターを用いて油脂合成関連酵素を長期間発現させることにより、シロイヌナズナの種子貯蔵油脂量が増加することを示した。今後非食用植物(カメリナ)に応用することによりバイオ燃料を増産する可能性を示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、アブラナ科植物の蓄積油脂量の増加に効果があるキメラプロモーターに脂肪酸合成に関連する遺伝子を連する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、1.5倍程度の油脂量の増加率が目標値として妥当であるかを、コスト面・栽培面から見直した上での実用化が望まれる。今後は、別のアブラナ科実用植物への展開や海外を意識した特許出願も検討されることが期待される。
パワーデバイス用炭化珪素ウエハに対する低欠陥加工技術の開発 一般財団法人ファインセラミックスセンター
姚永昭
一般財団法人ファインセラミックスセンター
網治登
現在、汎用化されているSiパワーデバイスは既に理論的限界値近くの性能を発揮しているが、電気自動車・スマートグリッド等の用途には性能が足りない。一方、Siより優れた物性を有する炭化珪素(SiC)は次世代のパワーデバイスとして期待を集めているが、未だ充分な性能を発揮していない。その理由は硬くて脆いSiCをウエハに機械加工する時に多くの欠陥が導入される為である。本研究では熔融アルカリエッチング技術をベースにした化学的加工技術の開発を行う。SiCウエハに欠陥を導入せずに、機械加工によるダメージ層を容易に除去する点に特徴がある。SiCウエハの高品質化を達成できる低コストな新加工産業の創出をめざす。機械研削・研磨によって形成された表面ダメージ層を除去するために、高温熔融KCl+KOHエッチング法を提案した。1100℃で1時間熔融KCl:KOH (重量比99:1)エッチングを行い、Si面から約9μm 、C面から約36μm の表面ダメージ層を除去することができた。エッチング後の表面状態をAFMで評価し、機械研磨で生じた線状研磨傷の除去を確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも新たなエッチング液により研磨傷を除去できた点は評価できる。一方、空孔の発生など平坦性の改善が十分ではないので、更なる改善が望まれる。今後は、機械的研磨による欠陥の除去について、ミクロな解析と素子性能の両面から検証を進めていくことが期待される。
多孔質球状粒子を用いた太陽電池用低光反射超撥水膜の開発 一般財団法人ファインセラミックスセンター
高橋誠治
一般財団法人ファインセラミックスセンター
網治登
超撥水性と低光反射性の双方を有する材料を太陽電池表面に用いた場合、発電効率が向上するだけでなく、雨水や水滴が表面を転がり汚れを落とす自己洗浄効果を期待できる。申請者らは、多孔質球状シリカを骨材に用いる方法で既に超撥水膜を合成に成功している。この多孔質球状シリカの粒子は気孔率が高く、その粒子の屈折率はガラスと空気の中間の値となる。中間の屈折率の膜を制御よく合成できれば低反射膜(フレネルの式)を実現できる。本研究では、透明性多孔質球状粒子の合成方法の確立を行った。テトラエチルシリケートを用いたエマルション法により、透明多孔質粒子を合成可能とした。今後、膜化し、特性評価を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも目標の一つとしていた粒径の透明性多孔質球状微粒子の合成に成功しており、進展は認められる。
一方、技術移転の観点からは、最も重要な目標である膜作成の検討を早急に進め、低反射性、超撥水性などの特性確認を行い、今後どのような方向性で開発するのかなどの方針を明確にする必要がある。
凍結乾燥を用いたマイクロポーラス層レス固体高分子形燃料電池の開発 あいち産業科学技術総合センター
村上英司
あいち産業科学技術総合センター
山本光男
本研究課題は、従来技術と比較して低コスト化および小型化が期待できる固体高分子形燃料電池用膜電極接合体作製技術を開発することを目標とした。膜電極接合体を作製後、凍結乾燥処理を行った。作製した膜電極接合体の発電特性の評価および電極微細構造の分析を行った。結果、マイクロポーラス層を用いた場合の発電特性を上回る作製条件を見出し、本研究課題の目標値を達成した。また電位サイクルによる耐久試験を実施し、凍結乾燥処理による発電特性が持続されることを確認した。今後も凍結乾燥による性能向上について分析を行い、作製条件のさらなる最適化と、異なる発電条件下における発電特性の評価を行い、凍結乾燥による性能向上の有用性について検証していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に凍結乾燥処理による電極微細構造の電顕観察と長期耐久性の確認が実施・検証されている点と、マイクロポーラス層有の場合の最大出力密度を上回る値を達成している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、起動停止耐久試験の実施や電極微細構造変化の分析の進展を基にした上での実用化が望まれる。今後は、高性能な電解質/触媒比をポイントに更なる材料開発を進展されることが期待される。
太陽電池の発電効率を向上させる波長選択透過性遮熱ネットの開発 あいち産業科学技術総合センター
原田真
あいち産業科学技術総合センター
板津敏彦
太陽電池の夏場の温度上昇を抑えるための、発電に必要な波長の光は透過し熱線を遮断するネットの開発に取り組んだ。ネットを構成する遮熱糸として、溶融紡糸技術を活用した遮熱中空糸および太陽光の波長を選択的に透過・反射するフィルムをスリット加工した波長選択スリット糸の開発を行った。ネットは、太陽電池の冷却効果を高めるために5種類の網構造を検討し、遮光率、通気性、投影面積率を評価して構造を決定し、遮熱中空糸および波長選択スリット糸を用いて作成した。太陽電池を用いた評価は、あいち臨空新エネルギー実証研究エリアの多結晶シリコン型太陽電池施設で実証実験を行い、裏面温度の低減効果と発電能力の評価を行った。また、さらなる発電量の向上を図るために、未利用の紫外線を太陽電池の吸収波長に変換させる技術についても検討を行い、期待できる基礎的なデータを得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも蛍光材を用いた発電量を増やす糸の検討で発電量の増加が得られたことについては評価できる。一方、従来の設備で対応できる溶融紡糸法による遮熱中空糸の改良についても技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、太陽電池の発電効率を向上させる波長選択透過性遮熱ネットの開発に平行して、ハウス農遮光ネットの最適化と耐候性についても早期評価されることが望まれる。
自己組織化単分子膜(SAM)を応用した銀ナノ粒子の固定化及び微細配線パターン作製技術の開発 あいち産業科学技術総合センター
濱口裕昭
あいち産業科学技術総合センター
齊藤秀夫
基板上にアミノ基を有するSAMを形成することで金属ナノ粒子を固定化することができた。金属ナノ粒子は表面電位がマイナスであり、静電相互作用によりアミノ基と吸着している。またSAMへの吸着量は銀ナノ粒子を用いた場合より、金ナノ粒子を用いた場合の方が多く、AFM像より金ナノ粒子はナノ粒子数個が凝集した状態で付着していると考えられる。
フォトマスクを介して紫外線を照射することによりSAMのパターンを作製し、それをもとに銅めっきパターンの作製を行った結果、20μm程度の線幅のパターンが安定して作製できた。また部分的ではあるが5μm程度のパターンも作製できており、今後、パターンの高精細化に取り組むことにより、更なる微細パターンを作製できる可能性を見出した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新しい配線形成技術の提案を行い、その可能性と具体的な問題点を明確にしたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、未達であった密着性が低いことについて、計画されている基板表面に凹凸を付けるなどしてアンカー効果などを狙うなど、今後の改善が望まれる。樹脂フレキシブル基板へSAMを用いた銀ナノ粒子の固定・パターニング技術を確立するという、研究テーマとしては興味があるテーマであるが実用化までには課題が山積みであり、さらなる研究の発展が望まれる。今後は、ターゲットデバイス等を明確にして、基礎的解析も重要であるが、企業との連携による実用化を目指した開発に早く着手することが期待される。
液中プラズマで合成した複合ナノ粒子の燃料電池用触媒への用途展開 あいち産業科学技術総合センター
阿部祥忠
あいち産業科学技術総合センター
齊藤秀夫
液中プラズマを用いて、白金アルミナ複合ナノ粒子を合成した。また、カーボン粒子や導電性高分子を加えることで、固体高分子形燃料電池(PEFC)用触媒として性能を有することが分かった。さらに、シンクロトロン光を用いた硬X線XAFS測定による膜-電極接合体(MEA)触媒層中のPt-Pt結合の配位数の解析から、耐久性試験前後の白金粒径は変化せず、白金とアルミナ間にアンカー効果があることが示唆された。本研究により、白金の溶出・凝集が課題となっていた従来の白金カーボン触媒の代替として、白金アルミナ複合ナノ粒子は耐久性を有する触媒として有効であることが明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に液中プラズマを用いて、白金アルミナ複合ナノ粒子を合成し、カーボン粒子や導電性高分子を加えることで、固体高分子形燃料電池(PEFC)用触媒とする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、非導電性の新しい材料(Pt/Alベース)により、従来材(Pt/C)以上の耐久性を持つ触媒の研究、また、Pt複合ナノ粒子と導電付与材(カーボンや導電性高分子)との分散性や密着性などの検討課題が多いので、今後触媒性能を含め、総合的に評価を進めることにより実用化が望まれる。今後は、企業との連携によりPEFC触媒としての課題の摘出と実用化技術の開発が期待される。
自動車に搭載するCO2削減装置の開発 中部大学
池澤俊治郎
中部大学
岡島敏夫
LAMP(大流量大気圧マイクロ波プラズマ)は安価でCO2削減効率が高く(~50%)かつ大流量であるため産業応用として車載し排気ガスのCO2を削減することが目標である。さらに安価にするため給電用導波管を製作しした。大流量排ガス~100L/mで可能にするため、Gear電極を開発した。Gear電極の特徴は表面積が大きい、大流量が通過できることである(応物秋季講演会(8月)、電気学会プラズマ研究会(11月予定))。排気マフラー途中にこの新しいLAMPを搭載予定である。排ガスCO2が一酸化炭素COと炭素Cになる削減プロセスを分光で測定した。LAMPをONして約1秒以内で主としてCOに、数秒以内でCに削減された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、大気圧マイクロ波放電を利用したCO2分解装置を提案し、50%程度の削減率を実現し、同時に分解過程などの基礎現象も解明していることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、温暖化対策を目標に掲げるならば、生成した黒煙(C)やCO、プラズマ生成に必要なエネルギーも含めて、トータルの環境負荷低減効果の確認が望まれる。今後は、LAMP装置の開発や特性試験を企業と共同で行う計画がなされているので、CO2分解装置を車載搭載という制限された条件のもとで、エンジンやマフラーと如何にシステムとして調和させていくかに配慮して、研究開発を進めることが期待される。
イタコン酸を生産する麹菌の開発 中部大学
金政真
中部大学
山本良平
イタコン酸は、合成樹脂や接着剤の原材料として重要な有機酸であり、工業的には糸状菌(カビ)Aspergillus terreusによって生産されている。しかし、本菌は生育速度が遅い、ヒト日和見感染菌である、原料にデンプンを用いるにはアミラーゼ処理が必要という問題がある。一方、麹菌Aspergillus oryzaeは生育速度が速く、ヒトへの安全性が極めて高く、アミラーゼ生産菌である。しかし、A. oryzaeはイタコン酸生産能を有さない。本研究は、イタコン酸およびアミラーゼの両方の生産能を単一菌種で有する菌株の開発を目標とした。その結果、当初目標である菌株の開発に成功した。今後、本菌の工業利用を目指し培養条件最適化を継続する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、1種類のCAD1遺伝子を麹菌で発現させるだけの安全性の高い麹菌で、イタコン酸を合成できることを明確にしたたことに関しては高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、早急にイタコン酸耐性麹菌の育種を行うことなどでの実用化が望まれる。今後は、ワンステップにこだわらず、宿主の変更や発現システムの大幅な変更、イタコン酸を逐次回収することで培養系のイタコン酸濃度を調節するような工学的手法なども検討されることが期待される。
開放系による木質系・草本系バイオマスからのエネルギーおよび化成品生産 中部大学
倉根隆一郎
中部大学
杉山聰
食糧と競合しない木質系・草本系バイオマスを対象にしてリグニン高分解菌(同定済み)を新規に取得した。本菌 を活用して現行では避けて通れないアルカリ(または酸)前処理無しで粉砕処理したのみの対象バイオマスに作用させたところ、生物学的脱リグニンを行うことが確認された。 この結果、可溶性リグニンを多量に含む黒液(廃水)は排出されない黒液非排出型プロセスが可能であることを示した。また、粗粉砕草本系バイオマスを対象にして新規取得糸状菌(同定済み)を直接作用させたところ有効バイオマス成分(セルロースおよびヘミセルロース)を高糖化(これまで世界最強とされていたCTec2を大きく凌駕する)することを明らかにした。また、これらの2種類の微生物を人工的に複合させた複合微生物系にてさらに高い糖化率が得られることを示した。このバイオマス糖化液よりRhodococcus erythropolis  を用いてバイオ凝集剤を生産することを示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、2種類の有用な微生物、殊にセルロースとヘミセルロースを含む草本の粉砕物をそのまま糖化できる糸状菌を単離して性状を解明したことと、それらによりアルカリ前処理を回避できる可能性が示されたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、糸状菌に係る特許出願も終えているので、詳細なコスト計算に基づく低コストの糖化システムとしての実用化が望まれる。今後は、草本系糖化液を用いたアルコール発酵試験や木質系のリグニン処理後の糖化液のアルコール発酵試験などを行なうことが期待される。
木質バイオマスを用いた都市鉱山中のレアメタルの吸着回収システムの構築 中部大学
宮内俊幸
中部大学
中津道憲
本研究では、木質バイオマスを基体とするイオン交換体を合成し、廃電子基板中に含まれるレアメタルの回収を行ったものである。木質バイオマスは、スギおが屑を使用し、塩酸で前処理を行い、ポリアミン(TETA)を導入した。窒素含有量は8.2%であり、交換量は1.4meq/g-Rであった。このポリアミン型機能材料の王水溶液中でのレアメタルに対する分布係数を測定したとろ王水溶液中でも十分に吸着能を発揮した。さらに実サンプルへの応用として、廃電子機器の基板を王水溶液に溶解し、ポリアミン型機能材料を充填したカラムへ展開したところAu、RhおよびOsの回収を回収することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、レアメタル選択性を有する木質を基材とするイオン交換体を合成し、吸着条件の最適化などを達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、イオン交換体のライフサイクルコストと性能の既存品との比較や、V・Mo・Wの吸脱着を検討するなどでの実用化が望まれる。今後は、木質原料の選択とその処理方法を検討すると共に、地元企業に限らず広く提携先を求めることが期待される。
燃焼炉から排出される未燃炭素粒子の微細組織構造を評価するための対話型画像解析ツールの開発 中部大学
二宮善彦
中部大学
木本博
燃焼炉から排出される未燃炭素粒子の微細組織構造を評価するため、不定形未燃炭素粒子や周囲境界がつながっていない未燃炭素粒子に対して、測定者の知識と経験を画像認識の中に取り込む領域抽出ツールの開発を行った。動的輪郭モデル(Active Contour Model)をベースにしたアルゴリズムを利用し、未燃炭素粒子の内部に輪郭線C2、外部に輪郭線C1を設定し、となるCの最大面積を反復法によって求め、抽出対象領域とした。石炭燃焼から排出するフライアッシュ中の未燃炭素粒子群について、炭素構造に存在する空隙とバルーン状の中空粒子部分の空隙とその割合を数値的に求めることができるようになった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に石炭燃焼時に排出するフライアッシュ中未燃炭素粒子の微細組織構造を評価する対話型ツール開発では、炭素構造に関して数値的に求めることができるまでに進展したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本課題で開発した対話型画像処理ツールの精度を高めるための産学共同研究開発の継続と共に、フライアッシュや未燃炭素粒子に存在する重金属元素の化合物形態の分析技術を含めた対応づけ等を進めることにより技術移転が可能と思われる。
今後は、微粉炭等燃焼における混炭、燃焼助剤等による燃焼灰のリサイクル上の評価法としてその応用展開されることが期待される。
酵素の耐熱性向上を実現するメソポーラスジルコニア担体の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
加藤且也
独立行政法人産業技術総合研究所
渡村信治
本研究では、酵素のサイズに最適化されたメソポーラス(MP)ジルコニア上に熱に対して不安定な酵素であるホルムアルデヒド脱水素酵素を固定化し、その触媒特性と安定性向上の効果について明らかとする。これまでに報告例のあるMP シリカ/MP アルミナと比較して、MP ジルコニアは、熱伝導性が低く、かつ生体安全性も高いため、酵素の活性安定性・熱安定性を向上させる固定化材料として有望である。その結果、今回作成したMPZ固定化酵素は、40℃静置後、40分後で、初期活性の80%程度を保持していることが判明した。この結果は、MPZに固定化された酵素は、酵素活性にとっては高温である40℃に暴露された場合でも、酵素活性を低下させることのない極めて優れた酵素固定化材料であることが明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、特許出願はなされていないが、MPジルコニアの大量合成法、固定化酵素の活性、その熱安定性とも達成し、更に酵素の二次構造等メカニズムに関する知見を得ている成果は評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けてバイオセンサ等のターゲットを更に具体化してほしい。実用ターゲットを早めに絞り、目標値をできるだけ定量化して研究を進めることで実用化が望まれる。今後は、当面の課題である材料の最適化やコスト低減の為にも、実用ターゲットの設定が重要なので、企業との連携を最優先に進めることが期待される。
酸化グラフェン生物還元電極を用いた電位制御による人工透析排水の高度処理 豊橋技術科学大学
吉田奈央子
豊橋技術科学大学
田中恵
本課題は、人工透析廃水に対し、空気曝気による好気微生物処理に代わり、有機物分解により生じた電子を酸化グラフェン生物還元電極に回収することで、爆気せずとも有機物および窒素分を除去するリアクターを開発した。現在までに、0.12L~4L容量のリアクターにおいて、回収電力は目標に及ばず、4W/m3(500mW/m2)に留まったものの、滞留時間1.5日でCOD除去率92%、BOD2,000mg/Lの汚水を90mg/Lまで処理できたとともに、窒素分も排出基準値以下であったことから、設定目標を上回る結果が得られた。今後、リアクター構造を改良しつつ、さらにスケールアップし、現地での運転評価を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標を上回るCOD/BODの除去の結果を得て、応用が期待される人工透析廃水に効果が認められたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、医療廃水特に透析廃水には予期しない妨害物質が混入することが考えられるので理化学処理など別処理方法との組合せも考慮した実用化が望まれる。今後は、化学工学的な視点からの流動層等の装置設計を専門とする企業と連携されることが期待される。
植物系生分解性プラスチック廃材の気体燃料としてのリサイクル化 豊橋技術科学大学
山田剛史
豊橋技術科学大学
田中恵
本研究では、嫌気性消化プロセスにおいて、ポリ乳酸(PLA)から効率的なメタン生成を達成させるため、中温・高温条件下におけるPLAからの物理化学的な加水分解性を高める最適な物性(重量平均分子量や結晶化度)を評価した。中温・高温条件下における最適なPLAの重量平均分子量は、約10,000 (中温)および約16,000(高温)であり、結晶化度は、両温度域とも40%以上であることが判明した。これまで、PLAからのメタン生成は極めて非効率的であり発生まで時間を要していたが、嫌気性消化プロセス導入前に、重量平均分子量や結晶化度を調整することは、効率的なメタン生成のために極めて有効な手段であることが明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、高温と中温に最適化したポリ乳酸を用い、結晶化度の違いによる乳酸放出特性とメタン生成特性に関する丁寧な基礎検討を行ったことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、ラボスケールでの嫌気消化リアクターでの運転条件を最適化すると共に連続運転に係るデータを取得した上での実用化が望まれる。今後は、実用化までに検討する内容とスケジュールを明確にして、企業との共同研究で実用化を加速されることが期待される。
多重元素置換による酸化物熱電材料の高特性化に関する研究 豊橋技術科学大学
中村雄一
豊橋技術科学大学
白川正知
状コバルト系酸化物Ca3Co4O9 (Co349)の特性改善を目指し、(1)キャリア制御を目的としてBiおよび希土類元素やNaを同時に置換し、その熱電特性への影響について調査した。その結果、 Biと希土類元素を置換した際、キャリア濃度は希土類元素置換により低下し、導電率も低下したが、ゼーベック係数の明確な増加は見られなかった。一方、BiとNaを同時に置換した場合には、キャリア濃度はBi置換量とNa置換量のそれぞれの組み合わせにより複雑な変化を示し、酸素の不定比性によるものと推定された。また出力因子はCa2.6Bi0.1Na0.3Co4O9+xの組成において、約6.3 μW/cmK2の最大値を取ることがわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも層状コバルト系酸化物Ca3Co4O9 (Co349)の特性改善を目指し、Biおよび希土類元素やNaを同時に置換し、その熱電特性への影響について調査を進めている点については評価できる。一方、性能指数ZTが0.24~0.36となり、目標値であるZT=0.6は達成できなかったため、粒界ドープ、結晶粒の微細化による熱伝導率低下などによる特性向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、材料組成や試料作製プロセスの最適化手法について改めて再考されることが望まれる。
超高感度SQUID磁気センサと磁石およびコイルを組み合わせた高感度異物検査装置の開発 豊橋技術科学大学
田中三郎
豊橋技術科学大学
冨田充
本研究開発課題は微小磁性金属異物検出装置の開発に関するものである。従来から超高感度の高温超伝導磁気センサを用いて微小金属異物を検出する装置は提案されていたが、幅が広いものの検査では30個以上の超伝導磁気センサを用いる必要があり、1億円以上の高価な装置であった。今回提案の課題は、磁石と巻き線コイルを組み合わせることで超伝導磁気センサの数を1/6に減らすことでコストダウンが期待できる新規技術開発である。本研究開発課題の応用先は電気自動車やハイブリッド自動車などに用いられるLiイオン電池内の微小金属異物検査であり、高感度かつ低コストで異物を検出することで、電池の高寿命化や信頼性の向上に大きく貢献できる。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に磁石と巻き線コイルを組み合わせることで超伝導磁気センサの数を1/6に減らし、特に電気自動車やハイブリッド自動車などに用いられるLiイオン電池内の微小金属異物検査に適用することにより電池の高寿命化や信頼性の向上に大きく貢献できる技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、微小磁性金属異物の検出コイル部とSQUIDセンサー部を切り離したことで、検出部に空間的な余裕を生み出してより広範囲の異物検査を可能にしている点は高く評価できるが、SQUIDセンサーの必要性や、有効性に関する更なる検討が必要と思われる。今後は、SQUIDセンサーの製作費と運用費に対して得られる検出精度、すなわち、コストパフォーマンスを合わせて評価されることが期待される。
半導体製造チャンバーのH2パルスプラズマによるクリーニング技術の開発 名古屋工業大学
安井晋示
名古屋工業大学
岩間紀男
太陽電池製造工程におけるチャンバークリーニング用ガスとして、従来のメカニカルな清掃や高価なNF3ガスを用いたクリーニング方法に代わり、H2を用いたプラズマクリーニング技術を開発する。Poly-Si薄膜を用いたパルスプラズマによる予備実験の結果、電極の構造、圧力、アルゴンガスの添加によりクリーニングが影響されることを明らかにし、アルゴンを添加した条件でクリーニングレートとして0.01 μm/minが得られた。各種処理条件に対するクリーニングレートを把握し、そのメカニズムを解析することにより、実用的なクリーニングレート(0.1 μm/min)となる条件を見出す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、クリーニングレートは、目標値の約1/3となり、印加電圧、真空度などの条件検討は計画通り進められ、エッチングレート向上の見通しは得られていることは評価できる。また、今後の計画も具体的かつ、的確に検討されている。一方、技術移転の観点からは、実際の複雑なチャンバーチャンバ形状に対応するための検討、すなわち、内部にどのように電極がセットされるのか、大面積処理には移動するのか電極構造やサイズは、またその際の消費電力(ランニングコストに直結)は、などについても検討することが望まれる。今後は、実際の応用でチャンバークリーニングとなると、プラズマの状況が装置に依存する可能性もあるので、早い段階でプラズマ装置メーカーと連携して開発を進めることがが期待される。
小型・高効率絶縁形双方向交流/直流電力変換器の開発 名古屋工業大学
竹下隆晴
名古屋工業大学
岩間紀男
商用交流電源から直流の蓄電池へ充放電を担う電力変換器において、小型・高効率絶縁形双方向交流/直流電力変換器を開発した。マトリックスコンバータ方式により、10kHzの高周波変圧器の入出力にそれぞれ1つずつの電力変換器を持つ簡単で損失を抑制した回路構成を提案し、従来の商用周波数60Hzで絶縁をする回路に比較して体積、重量を1/5以下へ低減する回路を試作した。その制御系として、60Hzの三相交流を10kHzの高周波で任意の電圧実効値を持つ単相交流電圧への電力変換方式、さらに直流電圧へと電力変換する方式を確立した。本方式の特徴として、10kHzの交流電圧を任意の実効値に制御することで、直流電圧値を簡単に制御できる点にある。試作機を用いた実験により、本提案制御法の特性を明らかにした。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、提案した絶縁形双方向交流/直流電力変換器を設計し、従来回路に比較して、体積、重量目標値を上回るを1/8程度にできることが明らかにしたことは評価できる。さらに、シミュレーションにより制御特性を明らかにし、出力1KWの試作システムによる実験を行い、制御特性とスイッチング損失特性を測定し、設計通りの結果が得られることを確認している。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けて具体的に取り組むべき課題を明確にして、経済的観点も含めて研究を進めることが望まれる。今後は、連携を進めている企業との関係を深めて、実用化を強力に推進することが期待される。
p型3C-SiCを利用した太陽光-水素エネルギー変換技術の確立 名古屋工業大学
加藤正史
名古屋工業大学
岩間紀男
本研究では産業界にアピール可能なエネルギー変換効率である1%を目標とし、3C-SiCを利用した太陽光-水素エネルギー変換技術の確立を行う。研究開発期間において残念ながら変換効率の向上は達成できなかったが、SiC内部の空乏層幅およびキャリアライフタイムを長くすることがエネルギー変換効率向上に有効であること、また対向電極には酸素過電圧の低い物質を使わなければエネルギー変換効率が下がってしまうこと、の二点が明らかになった。さらに水素ガスの直接観測を実施し、光電流値によるエネルギー変換効率の見積りが妥当であることも明らかになった。これらの情報はSiCによる太陽光-水素エネルギー変換技術の確立において、有効に利用できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもSiC内部の空乏層幅およびキャリアライフタイムを長くすることがエネルギー変換効率向上に有効であることを指摘している点については評価できる。一方、当初目標の変換効率向上を今後達成していくための研究課題、指針がある程度明らかにされ、また、産業界との連携の可能性が示されているので、共同開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、3C-SiCは魅力的な材料ではあるが、この材料のみならず平行してほかの物質探索も行うことが望まれる。
新型・非偏心回転式・無振動エンジンの燃焼過程の把握と改善 名古屋工業大学
石野洋二郎
名古屋工業大学
山田秀夫
研究責任者の発明による「非偏心回転式エンジン」に関し、燃料の燃焼により回転する「自立駆動」状態の達成に向け、実機による実験データを獲得することを目的とし、吸排気機構などを単純化した第2号試作エンジンの設計・製作を行った。モーター駆動実験により、以下の結果を得た。(1)非燃焼時、ローターの衝突は確認されず、円滑回転・無振動特性が得られた。(2)燃料ガス投入による燃焼実験では、非燃焼時と比較し、機関回転数が有意に上昇し、自立駆動の可能性が示された。今後の技術課題(ガス漏洩量の低減など)を克服すれば、自立駆動の達成が見込まれる。以上、共同研究・事業化に向け、有効な結果が得られ、達成度は良好である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、非偏心回転式エンジンの発火運転に成功したことは評価に値する。一方、モーター駆動時の所要動力の把握や自立運転時の発生トルク、出力などの予測などエンジンとしての可能性を示す具体的なデータの取得が必要と思われる。今後は、廃棄特性および燃料消費率など、基本的な特性の向上により、本エンジンの有用性を明らかにすることが望まれる。
有機無機ハイブリッド環境振動発電素子の研究開発 名古屋工業大学
柿本健一
名古屋工業大学
山田秀夫
本課題は環境振動をエネルギー源とする発電素子の研究開発に関して、発電実効性に優れた無鉛圧電シートを開発する目的とした。電界紡糸法によってナノオーダーの直径をもつニオブ酸ナトリウムカリウム(NKN)ファイバーの合成に成功し、これをポリフッ化ビニリデン(PVDF)マトリックス中に配合することでフレキシブルな有機無機複合材料シートを得た。複合材料の強化繊維としての働きに加えて、セラミックファイバー自身の圧電効果によって、小振幅でPVDFが振動発電可能となった。今後は安定した発電性、蓄電特性、寿命特性の向上に向けて研究を展開する。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にニオブ系無鉛圧電ファイバーの新規合成と、有機無機ハイブリッド圧電シートの環境発電素子化により、小振幅での発電が可能であることを示した点は高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、成果を特許として早急に出願することが望まれる。今後は、有機無機ハイブリッド圧電シートの特性は、まだ改善が可能と思われるので、今後の性能向上が期待される。
導電性高分子膜の改質による有機薄膜太陽電池の高性能化 名古屋工業大学
小野克彦
名古屋工業大学
山田秀夫
有機薄膜太陽電池は安価で軽量な特徴をもつため、携帯電話や電子書籍などモバイル製品での利用が期待されている。これを構成する導電性ポリマーとして、近年ドナー-アクセプタ型ポリマーが活発に開発されている。一方、P3HTは利便性が高いため古くから研究されているが、光吸収波長が狭いために光電変換効率は5%以下にとどまる。我々はP3HT膜の改良が早期実用化の近道と考え、これに関する調査を行った。本研究では、(1)P3HT膜における光吸収帯の長波長化、(2)活性層のドメイン形成について調査を行い、その効果を観測することに成功した。今後は、デバイスにおいて(1)と(2)の効果を確認したのち、企業との共同研究を念頭においた材料開発へ展開する。 当初目標とした成果が得られていない。中でも導電性ポリマーP3HTを使用した太陽電池の改良を目指したが、研究が完全に実施されておらず、改質した材料の構造解析の段階にとどまっている点や、ホウ素試薬による処理で光吸収帯が変化することが確認され、本課題で目指すP3HTを用いる太陽電池の高性能化の可能性が示された点での技術的検討や評価が継続して必要である。研究成果が学術的であり、今後は、実用化を念頭において研究を推進されることが望まれる。
計算化学支援による水処理膜の新素材設計プログラム開発と高速化実証 名古屋工業大学
南雲亮
名古屋工業大学
太田康仁
日本が水処理膜の分野でトップレベルの研究水準を保つには、原水中の浮遊物質が膜に付着して性能低下を引き起こす、いわゆる「ファウリング現象」を抑止する取り組みが欠かせない。そこで本研究は、膜素材の耐ファウリング性を計算化学手法によって予測する理論的アプローチの実証作業を推進した。その結果、プローブ分子を活用した分子構造モデルの簡略化によって耐ファウリング性が予測できることを確認した。さらに本手法が、膜分離法の他、ガス吸収法にも適用できることを発想し、吸収材の高速理論設計につながる基礎データを得た。今後は、膜分離法やガス吸収法を始め、多種多様なプロセス用途に対して、本手法の応用を進める予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもプローブ分子を活用した分子構造モデルの簡略化によって耐ファウリング性が予測できることを確認し、膜性能の向上に向けて原理的な理解が深まった点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、引続き膜素材の耐ファウリング性能を理論予測できる高速計算プログラムの開発、実用条件下における現象と計算科学的知見を結び付ける方法論の確立などの技術検討やデータの積上げなどが必要と思われる。
親水ゲルを用いた簡便な還元操作による六価クロム特有の毒性除去 名古屋市工業研究所
石垣友三
本研究の目的は、我々が見出したポリエチレングリコール鎖を有する親水ゲルが(i)水溶液中で自発的に六価クロム種を選択的に吸着し、(ii)三価クロムに還元し、(iii)再び系中に放出するプロセスについて、ゲルの分子構造や共重合組成を最適化することにより、1)水溶液中に残留するTOCを抑制しプロセス終了後で5 ppm以下にする、2)pH1でCr(VI)消失までの所要時間を短縮し24時間以内にすることであった。
親水ゲルの分子構造を制御することにより、TOCは抑制され、pH1でのCr(VI)消失までの時間も短縮されたが、いずれも目標値には至らなかった。
今後は他の有機添加剤が用いられているためにTOCに寛容なクロメート浴など用途を限定して実用可能性を模索していく。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもポリエチレングリコール鎖を有する親水ゲルによる六価クロムの毒性低減プロセスに関して、新らたにその可能性が得られたことは評価できる。
一方、六価クロムの毒性低減メカニズムの解明とともに親水ゲル処理材に関して形状・分子構造等の検討による当初目標値達成に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。また、既に企業と共同研究を行う中でメッキ液に限定して技術移転の可能性が示され、同処理システム開発の進展が期待される。
クロマン系生理活性物質の環境低負荷型不斉合成法の開発 名古屋大学
UYANIKMuhammet
公益財団法人名古屋産業科学研究所 中部TLO
大森茂嘉
クロマン骨格は数多くの光学活性生理活性物質に含まれる重要な分子構造であり、その効率的不斉合成法の開拓が強く求められている。本研究開発では、ケトフェノールの分子内酸化的環状エーテル化反応の開発を通して、光学活性クロマン化合物の環境に優しい製造プロセスの確立に成功した。本手法は、遷移金属を全く用いず、安全且つ安価な共酸化剤存在下、ヨウ素化合物を触媒的に用いることで温和な条件で反応が進行し、スケールアップも可能である。今後は、本手法を用いるD-α-トコフェロールの真に力量のある製造プロセスの確立を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、光学活性のクロマン化合物の不斉合成に成功し、形式的ではあるがα-トコフェロール、トロロックスの全合成を達成したことについては評価できる。一方、触媒量の1%程度への削減、酸化剤の過酸化水素水への転換や100g程度のスケールアップに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、置換基が異なる芳香環への展開と併せて企業との連携による実用化を検討されることが望まれる。
光学活性エステル製造技術の開発 名古屋大学
波多野学
公益財団法人名古屋産業科学研究所 中部TLO
大森茂嘉
中性であることを最大の特長とする高活性オニウム塩-硝酸ランタン複合触媒を用い、エピ化(ラセミ化)しない光学活性エステル製造技術を開発した。100グラムスケール、触媒量1mol%以下、収率95%以上、光学純度98%ee以上を当初の目標とした。スケールアップについては20g程度にとどまったが、ほかの数値目標は達成できた。エステル合成技術は非常に応用範囲が広く、今後も公的資金の活用等で研究を継続する。特に光学活性エステルをラセミ化せずにエステル交換が可能である点、残留触媒による着色の心配がない点は企業への大きなPRポイントであり、今後触媒量の低減、実施例の拡充などの研究開発が進めば実用化の可能性は極めて高い。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、中性でのエステル交換反応について、量論量のアルコールで目標の収率と光学純度を達成し、触媒量と反応スケールについてもほぼ目標を達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業へのPRなど技術移転と実用化に向けた活動を積極的に行うことなどでの実用化が望まれる。今後は、本技術の適用可能な化合物のより多い具体的な例示やよりスマートな技術とすべく触媒の分離回収も検討されることが期待される。
超軽量ポーラス積層金属板の部分形状付与技術の開発 名古屋大学
金武直幸
名古屋大学
押谷克己
発泡アルミニウムの両面にアルミ板を積層したポーラス積層板(サンドイッチ板)の一部に緻密領域を形成して、竹の節構造を模したようなポーラス積層部材を成形する技術開発を目的としている。目標達成のための研究開発として、加熱発泡したポーラス積層板を、金型鍛造して形状を付与する技術の可能性を検討するため、加工温度、金型形状、試料サイズを変化して部分圧縮実験を行った。その結果、室温加工でもフォーム全体が圧縮されることはなく、部分圧縮成形が可能であることを解明した。金型形状を十分に転写できるような高精度の成形加工のためには、さらに加工条件の最適化が必要である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、部分的に圧縮成型加工できるということを確認できた点では目標を達成しており、評価できる。一方、次のステップへ進むためにはある程度実用化対象部材(荷重負荷条件、寸法等)を決める必要がある。技術移転の対象部材が決まると目指すべき部材全体の構造が決まるので、具体的な製品のイメージが必要である。本研究の成果は輸送機器の軽量化には有効で、製品化に結び付けば大きな社会還元に導かれることが期待できるが、データベースの構築においては、要求される製品の性能を考慮して、曲げやねじり等の外部荷重に対する試験片の変形、強度特性の評価結果も含めることが必要と思われる。今後は、どのような荷重が負荷される部材をターゲットとするのかを明確にして、最適な材料や構造を設計し、それを実現する製造技術を開発することが望まれる。
渦輪を用いた気泡群の生成・輸送装置の開発 名古屋大学
内山知実
名古屋大学
押谷克己
渦輪の渦運動により気泡を巻込んで気泡群を生成し、併進運動により輸送する技術を開発した。生成される気泡群の体積を渦輪体積の5%~50%の範囲で実現する目標は、ほぼ達成できた。生成時の80%の体積を保持したまま、渦輪直径の2倍~10倍の距離を輸送する目的を立てたが、それぞれ60%および5倍の結果となり、目標達成には及ばなかった。また、実験結果を補完する気泡運動と渦輪挙動に関するシミュレーション結果が求められ、目標通りのシミュレーションによる成果が得られた。今後は、生成と輸送に及ぼす気泡直径の影響を調査し、様々なサイズの気泡に適用可能な装置の開発を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初の数値目標値はほぼ達成されたことは評価できる。一方、当該技術の技術移転を目指すためには、具体的応用例を示し、その応用に必要な具体的数値目標を設定し、それを達成する為の具体的計画を立案して研究を進めることが必要と思われる。今後は、企業が参加する会合や講演会で発表して、事業性を確認し、再度目標を明確にした上で、研究を進めることが望まれる。
緑藻クラミドモナスにおける遺伝子発現の人為的制御系の開発 名古屋大学
松尾拓哉
名古屋大学
玉井克幸
緑藻はバイオ燃料などの有用物質生産のプラットフォームとして期待されている。しかし、分子生物学的なツールの開発が遅れている。その一つが、遺伝子発現の人為的制御系である。本研究では、モデル緑藻クラミドモナスにおいて、哺乳類(ラット)のグルココルチコイド核内受容体と転写因子の融合タンパク質を利用することで、薬剤(デキサメタゾン)依存的にターゲット遺伝子の発現を人為的に制御できるシステムの開発を実施した。その結果、導入したターゲット遺伝子(ルシフェラーゼレポーター)の発現を、デキサメタゾン濃度依存的(0.1~10 μM)に増加させることに成功した。今後の緑藻の有効利用において、このシステムは大いに活用出来る。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、緑藻クラミドモナスにおいて発現量を制御できる外来遺伝子の導入系を開発したこと関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、発現量がピーク到達後に比較的早く減衰する要因の解明や他のタンパク質での発現を確認するなどでの実用化が望まれる。今後は、可能な限り早く特許を出願し、環境・エネルギー分野の企業との連携を図ることが期待される。
亜鉛負極近傍における亜鉛イオン移動機構と電析形態の解明 名古屋大学
伊藤靖仁
名古屋大学
山本鉱
金属負極蓄電池の最大の課題である充電時の金属不均一析出メカニズムの解明と析出制御を目的とした実験研究を行った。電極材料には、扱いが簡単で多くの情報を得られる点で基礎研究に適しており、また大型定置型蓄電池の開発につながる亜鉛を用いた。Background Oriented Schlieren法を応用することで、従来シミュレーションソフトに頼らざるを得なかった、充電時の電極近傍亜鉛イオン濃度分布のIn-situ定量的評価法を確立した。また、集電体に結晶方位が揃った亜鉛を用いる実験を行うことで、亜鉛の不均一析出の原因の一つは析出する亜鉛が多結晶であるためであることが示唆された。今後、結晶方位と濃度分布の関係を明らかにするとともに結晶方位を制御することで、コンパクトで均一な析出を達成できると期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に実際の電池系に適用できる亜鉛濃度評価法を確立し、結晶方位制御による析出制御及び水素発生の抑制を実現させたことは、今後の亜鉛電池や他の金属負極蓄電池の高エネルギー密度化の実現に有用である。
一方、技術移転の観点からは、本研究成果の特許出願や共同研究先企業と本評価法の実用レベルでのフィージビリティスタディを行い金属負極電池への実用化が望まれる。
レアメタルを用いない大型の定置型蓄電池は再生可能エネルギーの安定供給や電力需給の平滑化に大きく寄与できるものであり省エネルギー社会の実現への貢献は大きく、本研究の進展による蓄電池の高性能化が期待される。
水熱爆砕と固体酸の併用によるバイオマスの高効率糖化技術の開発 名古屋大学
町田洋
名古屋大学
渡邊真由美
申請者らは、糖化前処理として水熱爆砕技術の研究を進めてきた。水熱爆砕とは飽和水蒸気以上の熱水をバイオマスと接触させ、一気に大気に開放することでセルロース繊維をほぐし酵素糖化を促進させる手段のことである。これまでに他の水熱技術に対し優位性があり、爆砕後の試料は炭素系固体酸の糖化により酵素と同等の糖化が可能であること、さらに発酵阻害物質を吸着除去することが示された。本研究では課題となっている、糖化率の向上に目指し、過酸化水素を添加した試験を実施し、条件を探索することでスギの糖化率をこれまでの25%から約2倍となる48%に向上させた。また、固体酸の耐久性に関するデータを取得した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標値に近いレベルの効果を固体酸を用いる糖化前処理で確認したことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、糖化率と反応操作因子との関係の把握、殊に固体酸の経済性評価などを経た上での実用化が望まれる。今後は、収率およびコストの目標値を達成するための具体的技術課題を明らかにし産学連携を積極的に行うことが期待される。
バイオエネルギーの創製を目指した環状ジアデニル酸誘導体による緑藻類の細胞増殖および生理活性に関する研究 名古屋大学
塚本眞幸
名古屋大学
武野彰
脂質や炭化水素を生成する緑藻類を効率よく増殖させ、さらにその代謝活性を促進させることは、バイオエネルギーの創製に繋がる重要課題である。本研究では、近年、バクテリアの二次情報伝達物質として注目されている環状ジアデニル酸を取り上げ、同化合物およびこれを適度に化学修飾した誘導体が緑藻類の細胞増殖とその代謝活性に及ぼす影響を精査した。その結果、いくつかの誘導体で緑藻類の細胞増殖を20から30パーセント、光合成を40から50パーセント、促進することが明らかとなった。さらに、アデニン塩基のアミノ基の保護基は、生理活性に影響を与えなかった。このことから、標的化合物の合成経路を大幅に簡略化できることも見出した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、環状ジアデニル酸の効果を詳細に検討して基礎データを蓄積したことについては評価できる。一方、実用化の出口イメージに基づく目標の設定と、工学的視点からのシステム設計に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、研究の実用化に視点を強く持った研究推進をコーディネーターと共に進めることが望まれる。
作物の亜鉛吸収蓄積能力の向上と応用展開 名古屋大学
前島正義
名古屋大学
武野彰
亜鉛は植物にとって必須微量元素であり、亜鉛不足は植物の生育遅延をもたらし、過剰亜鉛は根の伸長および植物全体の生育抑制をもたらす。亜鉛の吸収、組織への分配、細胞での蓄積において機能する膜輸送体に注目し、個々の輸送体の機能と特質を解明し、亜鉛の蓄積能力の向上を目的として研究を進めている。研究期間で次の成果を得た。 (1)細胞内の過剰亜鉛を液胞に蓄積する輸送体MTP1の機能構造、とくに亜鉛濃度センサーとして機能すると推測される部分の生化学的、分子構造的特性を解明し、論文として発表した。 (2)改変型MTP1遺伝子を植物に導入し、培地の亜鉛濃度の多寡、すなわち亜鉛の過剰と欠乏に対する生育特性の解析を進めた。MTP1改変分子の発現は、予測とは逆に、亜鉛欠乏への感受性を高めるなどの新知見を得た。亜鉛高蓄積への改変のためには、葉・茎特異的に発現する必要があることが示唆された。 (3)他の亜鉛輸送体MTP12あるいはZIP13の分子構造、輸送基質特異性等の解析を進めた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、亜鉛輸送体MTP1に関する基礎実験の成果、例えば、MTP1変異導入株の亜鉛蓄積の比較や分子内Hisループの役割などの成果については評価できる。一方、Hisループを液胞内に局在化する案の具体化や葉、茎、果実、種子等に特異的なプロモータの制御下で発現させる系に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、輸送機能に関する基礎的な知見も蓄積されることが望まれる。
農業害虫アザミウマの脱皮変態を特異的に阻害する新規殺虫剤の開発 名古屋大学
水口智江可
名古屋大学
武野彰
本研究課題では、世界的な農業害虫であるアザミウマに対する新規殺虫剤の探索法の確立を目指して、以下のような実験系の構築を試みた。
 (1)「蛹のような時期」から成虫への変態阻害活性を指標とした殺虫活性検定系
 (2)「蛹のような時期」におけるJH誘導性遺伝子の発現量を指標としたJH撹乱物質検出系
最終的には、(1), (2)の両方において簡易な検定系を構築することができ、ミカンキイロアザミウマに対して殺虫活性を示すJH撹乱物質3個を選抜することに成功した。将来的にはこの実験系を応用して、より大規模の化合物ライブラリーから新規殺虫剤のスクリーニングが可能となると期待される。また、そのような殺虫剤が実現すれば低薬量でアザミウマを効率よく防除できるため、農薬による環境への負荷を軽減できると考えられる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、JH誘導性遺伝子Kr-h1やbrの発現に関して投与後48時間の個体で発現量が数倍誘導されることを見出し、これをJH様活性物質検出の評価系としたこと、この改良した検定系を用いてJH類縁体ライブラリーの中から活性化合物3個を選抜出来たことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、他の化合物ライブラリーからのより強い化合物の選抜や安全性評価などを経た実用化が望まれる。今後は、アザミウマ以外の昆虫(例えばハエ、カ、ゴキブリなど)に対しても検討されることが期待される。
ヒジキ受精卵養殖を用いた養殖の実証研究 三重大学
前川行幸
三重大学
松井純
ヒジキは古くから食用とされ、現在では健康食の観点からも、日本における重要な伝統食品である。しかし流通するヒジキのうち、国内産は約10%であり、ほとんどは外国産すなわち中国や韓国産である。外国産のほとんどは養殖物であり、日本でも一部は養殖されているが、その方法は「挟み込み方」と呼ばれている。この方法は、全長10-15cm程度の天然のヒジキ幼体を根ごと採取し、ロープに挟み込んで養殖するものであるが、大規模に行われると天然のヒジキ群落を破壊してしまう。現に韓国や中国では天然ヒジキ資源が大きく減少しているという。そこで、受精卵を用いた養殖法を開発し、天然海域で実証試験を行うことにより、ヒジキ生産を安定させ、また、ヒジキ養殖を中心とする地域の活性化にも役立てることを目的として本研究計画はデザインされた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、天然個体からの受精卵の雑物の少ない採取法と、基盤への固着について基質と初期管理が重要であることを明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、基盤への固着後の実海域での培養(養殖)についての問題も解決するなどでの実用化が望まれる。今後は、ヒジキの国産品のシェア向上と天然ヒジキの資源保全の観点から、知財権の取得も考慮されることが期待される。
耐久性に優れるPd-Ag系水素透過合金めっき膜製造技術の開発 鈴鹿工業高等専門学校
南部智憲
鈴鹿工業高等専門学校
澄野久生
Fe粒子が付着しても劣化しないPd-Ag系水素透過合金薄膜を成膜するために、膜劣化防止元素であるWを含有するPd-Ag-W系合金薄膜をめっきによって成膜する技術の確立を目標とした。Pd-25mol%Ag-1mol%W合金層の成膜を目指し、めっきプロセスと熱処理プロセスとを組み合わせることにより、Agを25.8mol%、Wを0.6mol%含有する厚さ4μmの合金めっき層の成膜に成功した。合金めっき膜にFe粒子を付着させ、550℃の水素中で100時間熱処理した結果、Fe粒子周囲は全く劣化しておらず、ガスリークの原因となるカーケンダルボイドを形成しないことが明らかとなった。今後、めっき技術を活用した水素精製モジュールの試作へと展開し、高純度水素製造システムへの搭載を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にPd-Ag系水素分離膜で課題となる長期的な耐久性の向上に取組み、Pd層、Ag層、W層を成膜後の熱処理により形成したPd-Ag-W系合金膜が、Fe粒子の付着によりガスリークの原因となるカーケンダルボイドを形成しないことを見出したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、水素透過速度の確認や特許を取得し、企業との連携を進めることが望まれる。
水素社会の実現に向け、今後本研究の進展が期待される。
オクラ揮発性物質を用いた捕食性天敵ヒメハナカメムシ類の行動制御 京都大学
高林純示
京都大学
藤森賢也
ハナカメムシ誘引成分をオクラの先端部より同定し、それを用いたハナカメムシ行動制御技術のシーズを確立する研究を行った。オクラ先端部で採取したヒメハナカメムシ類の種を同定した結果、タイリクヒメハナカメムシ、ナミヒメハナカメムシとコヒメハナカメムシが約4:4:2の割合で発生していた。実験室内の誘引試験において、ヒメハナカメムシはオクラ先端部からの揮発性物質に特異的に誘引されることが明らかとなった。単なる天敵放飼ではなく、効果的な天敵利用技術を実現するために、今後候補化合物を用いた野外での誘引実験を行い、ハナカメムシ行動制御技術を確立する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、実験室内の誘引試験ではあるが、ヒメハナカメムシがオクラ先端部からの揮発性物質に誘引されることを明らかにしたことについては評価できる。一方、誘引効果を示す揮発性化合物の同定に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、誘引効果を示す化合物だけではなく、定着や忌避に関係する化合物も検討されることが望まれる。
新規賦活法による電気二重層キャパシタに適したバイオマス活性炭の製造 滋賀県東北部工業技術センター
脇坂博之
電気二重層キャパシタの電極材料である活性炭について、バイオマスからの製造可能性を追究した。これまでトレードオフの関係とされてきた活性炭の高比表面積と細孔の高径化を実現する新規賦活法によるバイオマスからの活性炭製造を試みた。新規賦活法の最適な製造条件を得ることにより、従来の一般的な調製法と比較し、比表面積の増加と細孔の高径化を実現可能とする知見を得た。また、得られた活性炭の比表面積は2000m2/g以上であった。新規賦活法により得られた活性炭のEDLC容量は従来法よりも増加し、高比表面積化と高径化の効果を示唆し、市販EDLC用活性炭の約3倍の容量を実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に提案されている活性炭製造方法は、多段階プロセスからなるものであり、生産性、経済性につい市販品に比して、高比表面積、高静電容量の活性炭の製造に成功している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、多段製造プロセスであるため、生産性、経済性についての検討が必要であり、また、当初目標に記載されているバイオマス原料の利用などでの実用化が望まれる。今後は、どのようなバイオマス材料が性能的に優れているかや、単位蓄電容量当たりのコスト及び量産化プロセスでのフィージビリティスタディを検討されることが期待される。
洗濯できる絹(シルク)素材の加工評価に関する研究 滋賀県工業技術総合センター
谷村泰宏
滋賀県東北部工業技術センター
阿部弘幸
絹の持つ特性であるフィブリル化を防止する加工の加工状態について、簡易に評価を行える技術の開発を行った。現在行っている評価法では多くの時間がかかるため、摩擦試験と光沢度測定を組み合わせた評価方法を検討し、評価が短時間で行えることがわかった。この結果を利用し、フィブリル化防止加工を行っている企業や、販売を行っている企業への品質管理に大きく役立つこととなり、絹関連企業の活性化に役立つ技術である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、定量的な評価が困難なフィブリル化の評価法を様々な観点から検討してることは、評価できる。一方、フィブリル化の定量的な評価法の確立には、到っておらず、今後のさらなる検討が必要と思われる。今後は、測定値のばらつき、再現性も考慮した測定方法をさらに検討することが望まれる。
音場調整による高効率ループ管熱音響システムの研究開発 滋賀県立大学
坂本眞一
滋賀県立大学
安田昌司
未利用熱エネルギーの利活用を目指した高効率なループ管熱音響システムの実現を目標として、提案する音場調整器の効果に対して熱交換器が及ぼす影響について検討した。ループ管実験装置に組み込む交換可能な評価用熱交換器を製作し、その並行平板フィンの管軸方向長さおよびフィン間隙の差による音場への影響を評価した。結果、提案する音場調整器の効果とフィンの寸法差の関係が実験的に確認され、ループ管における自励振動音場の調整手法の確立に繋がるデータが蓄積された。今後はさらに多様な熱交換器に対する評価およびシステムのモデル化を行い、最適化による性能向上を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも熱交換器の構造・熱音響現象の工業利用への取り組みにより、基礎的なデータが一部得られたことについては評価できる。一方、計画につながる具体的な記述はなく、熱音響の産業利用について、特殊な分野では有りうると考えるが、応用先を具体的に想定した上でその実利用に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、仮でも良いので、適用対象を決め、供試体の形、規模、温度条件等をそれに絞って特性試験すれば、結果の定量的な評価が進展されることが望まれる。
微生物機能を利用した金属ナノ粒子合成 立命館大学
三原久明
立命館大学
松田文雄
金属をナノ粒子化すると、バルク体にはない新たな特性や機能が発現する。微生物を利用した金属ナノ粒子の合成は、常温常圧下で行われるためエネルギー消費が少なく環境考慮型の無機材料合成技術である。本研究開発課題では、細菌を用いたセレン粒子および銀粒子の合成条件を検討するとともに、セレンナノ粒子結合タンパク質の同定、単離したセレン粒子の物性解析を行った。これにより、セレンナノ粒子および銀ナノ粒子の合成に適した条件が示され、セレンナノ粒子に結合するタンパク質を複数同定し、生成したセレンナノ粒子の性状が明らかとなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、少なくとも細菌によりある一定の粒径をもった金属ナノ粒子が生成されることを示した点については評価できる。一方、目標とする内容はかなり多く短期間での達成は困難と考えられるので、今回明らかになった技術課題を克服するための研究など、短期的な目標設定に基づく技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、微生物によるナノ粒子の形成メカニズムを解明することにより、カドミウム複合金属ナノ粒子の形成といった、太陽電池にこだわらない応用研究にも発展されることが望まれる。
超小型・低消費電力カメラセンサノードの開発‐人に代わってあらゆる現象を監視する 立命館大学
熊木武志
立命館大学
川根義教
超小型・低消費電力カメラセンサノードを開発するための重要な技術として、イメージセンサと赤外線センサを組合わせた間歇動作と取得画像のプライバシー情報保護を目標と定めた。センサノードの消費電力を抑えるために、赤外線センサによる物体検知時のみイメージセンサを動作させる仕組みを取り入れることで常時イメージセンサを動作させている場合と比較し、1/16の消費電力削減を実現した。また、取得画像内の顔を検出して、可逆マスクをかけるシステムを開発して展示会で発表を行った。今後はこれらの技術をまとめ、単体のセンサノードとして完成させるとともに赤外線によるイベント検知技術の更なる精度向上等が重要になってくると考えられる。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に赤外線センサによる物体検知によりイメージセンサを動作させる仕組みを取り入れて、常時イメージセンサを動作させている場合と比較し1/16の消費電力削減を実現する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、簡易なシステムで消費電力削減をしているが、最終的な用途によって異なる技術的課題の進展や、赤外線によるイベント検知技術が屋外や日中でも可能かどうかの検証、最終的なモジュールにおいてデータの保存形式(有線、無線、記録など)と電源をどのようにするのかなどでの実用化に向けた検討が望まれる。今後は、学会発表、技術展などで活発に成果報告をしており、企業・大学間での共同研究への発展が期待される。
自律分散型電力ネットワークのための電力融通シミュレータの開発 立命館大学
谷口一徹
立命館大学
川根義教
本研究課題では、自律分散型電力ネットワークのための電力融通シミュレータの開発を行う。すでに太陽光パネルと蓄電池を持つ家庭が相互に接続されたコミュニティを対象とした、人工知能に基づく電力融通量の決定手法が既に確立されているが、より詳細な電力ネットワーク・アーキテクチャを考慮した電力ルーティング手法はまだ開発されていない。そこで本研究課題では、トポロジや送電容量など実際の電力ネットワーク・アーキテクチャを考慮した電力ルーティングアルゴリズムを開発する。開発された電力ルーティングアルゴリズムは、評価実験より、最適解と比較して平均6%程度の誤差でのルーティングに成功した。 当初目標とした成果が得られていない。中でも送電距離を送電先の決定の条件にするためクラスター間の送電率を設定しているが、このモデルと実際のシステムとの定量的な比較の点での技術的検討や評価が必要である。今後は、実用に展開するためには実規模サイズのシステムでの解析評価が必要であり、これを早急に進められることが望まれる。
非線形動力学論を用いたガスタービンエンジンの希薄吹き消えの検知システム・制御技術の開発 立命館大学
後藤田浩
立命館大学
服部華代
ガスタービンエンジンでは、排ガスの低エミッション化において最大の技術課題となっているのは、吹き消えや振動燃焼などの燃焼不安定の発生である。 本研究は、力学系理論の考え方を用いて、吹き消えを事前に検知し、安定な燃焼状態を維持できる新しい検知・制御技術を開発することを目標とする。 ガスタービンモデル燃焼器内の圧力変動から構築される位相空間内の軌道群の平行度を検知システムに適用した結果、予混合気中の燃料濃度の低下によって発生する吹き消えの事前回避が可能となった。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、ガスタービンモデル燃焼器内の圧力変動から構築される位相空間内の軌道群の平行度を検知システムに適用した結果、予混合気の当量比低下によって発生する吹き消えの検知ならびに事前回避が可能となったことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、本手法により安全マージンがどの程度減少できるのか、定量評価がなされることが望ましいと考える。また、実エンジンへの適用を考えた場合、吹き消えの「検出」のみならず、可能な限り希薄状態を保ったままでの「精密な制御」が重要であり、今後の研究の発展が望まれる。今後は、本技術の基となる制御理論は吹き消えの制御だけではなく、熱流体現象の不安定現象一般に適用可能と考えられ、広い範囲に応用されることが期待される。
高耐熱特性を有するリサイクルPET成形品の開発 京都工芸繊維大学
山田和志
京都工芸繊維大学
行場吉成
現在、廃棄飲料用PETボトルは、ポリエステル繊維やPETフィルムとして再利用されているが、より効率的な新しいリサイクル技術の開発が必要とされる。一方、廃棄PETボトルから成形品を作製した場合には、加水分解による極端な物性低下のため、これまでリサイクルPET成形品の製造や研究例は非常に少ない。最近、研究代表者らは、ブロックポリマーやtalcパウダーを数%添加したPETの熱変形温度が数10℃以上増加することを見出した。そこで、研究代表者は、PETに添加する無機フィラーのサイズ(~数μm)や種類を制御することにより、高強度・高耐熱特性を有するリサイクルPET樹脂の開発および基礎的な研究課題を提案し、従来の成形法では使用不可能であった120℃以上の耐熱特性リサイクルPET成形品の創製に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、予定された検証実験がほぼなされ、フィラー混合後の試作品の基礎物性を種々の機器を用いて計測した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、総合的に見て適正なフィラー粒径、混合率はどうなのかを明確にするとともに、パラメータ間の相互作用などをも包含した検証がなされルことが望まれる。今後は、PETリサイクルの実用化を狙う限り、リサイクル現場の経験・知見を的確に収集することが必須であり、成型加工業者のみではなくリサイクル行為の担い手企業との連携もとりながら、実用化に進むことが期待される。
溶媒のはたらきに着目した多孔質電極内における金属ナノ粒子作製法 京都大学
深見一弘
関西ティー・エル・オー株式会社
大西晋嗣
ナノ細孔からなる多孔質電極を鋳型として、金属ナノ粒子を電解めっき法により作製することを目的とした。特に、ナノ細孔内での溶媒(水)が形成する液体構造と反応種である金属イオン、孔壁の相互作用を理論計算により予測することで、細孔内において高い金属イオン濃度が期待される系の設計を目指した。本手法の一般性を検証するために、種々の金属ナノ粒子を電解めっき法により作製することを試みた。本研究の成果として、白金以外にも亜鉛やパラジウム等の金属ナノ粒子が同様の手法で作製可能であることを示した。また、作製する際の電流密度を従来よりも約1000倍上昇させることに成功し、金属ナノ粒子作製を極短時間で達成し得ることを明らかにした。この技術は、ナノ粒子作製のみならず次世代蓄電池用の金属負極技術への展開が可能であることが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に電極材料や触媒担持材料などに有用なナノサイズの多孔質シリコン材料への白金、亜鉛やパラジウム等の金属ナノ粒子を形成する技術に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、粒子の粒度分布、電解条件等の検討とともに本法で得られたナノ粒子が他の手法で得られた粒子の機能的な優位性を検証し、触媒や次世代電池への実用化か望まれる。
マイクロバブル浮選によるメッキ排水中の環境規制物質一括除去システム開発 京都大学
日下英史
関西ティー・エル・オー株式会社
橋本和彦
規制金属の一つであるZnの鉄共沈物コロイドと硝酸性窒素をマイクロバブル浮選(MBF)で一括除去するための基礎資料を得ることを目的に、Zn/Fe共沈コロイドの共存下で硝酸イオンのMBF浮上特性について検討を行った。その結果、一級アルキルアンモニウム塩(DAA)を、Zn/Fe共沈が完全浮上するpH 8.2付近で添加すると、MBF 30分で硝酸イオン濃度が64.5 ppmから36.1 ppmにまで減少し、Zn/Fe共沈共存下でもある一定の効果が認められた。この効果はDAA 120~200 ppmの範囲でほぼ一定の効果が認められ、MBFによりメッキ排水中の規制金属と窒素酸化物の一括除去の可能性が確認された。今後は排水処理で共存する他の陰イオンの影響を明らかにすれば、実用化に近づくと思われる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、硝酸イオンと金属水酸化物との各種界面活性剤を用いた相互作用によるマイクロバブル浮選の基礎実験を試み、硝酸性窒素のマイクロバブルによる削減が達成されたことは評価できる。一方、金属水酸化物との相乗効果による削減には至らなかった。各種界面活性剤を利用して硝酸性窒素と金属水酸化物の相互作用を検討する必要があると思われる。今後は、企業ニーズを把握して、コスト低減効果など本手法のメリットを明確にして、産学連携による実用化に進むことが望まれる。
3次元リソグラフィ用プロセス最適化シミュレータの開発 京都大学
平井義和
関西ティー・エル・オー株式会社
橋本和彦
次世代のMEMSデバイスの高機能化、高集積化のための3次元(3D)加工技術として、フォトレジスト(感光性樹脂)の立体形状を作製するグレースケールリソグラフィが注目されている。しかし目的形状に精度の高い加工や複雑な形状が要求される場合、最適な加工パラメータの組み合わせを考えるのは難しい。これまでは研究者や技術者の経験による試行錯誤的アプローチだったため、膨大な労力と時間がかかっていた。そこで本課題では試作・開発時間の短縮と低コスト化を目的にグレースケールリソグラフィの加工パラメータを自動的に最適化するプロセスシミュレータを開発した。本シミュレーションを使えば目標の立体形状と5%以内の加工誤差で加工パラメータを決定できることを実験的に実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、3D形状作成のためのレジストの立体製作に関し、プロセスシミュレータを開発し、目標形状と5%以内の加工誤差で製作できることを実証し、目標を達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、シミュレータの適用事例を増やすことが望まれる。今後は、産学共同については生産機器関係メーカだけでなく、本技術を応用する医薬、化学、電子部品分野を含め、広い範囲の企業と接触し、開発展開されることが期待される。
高力ボルトのすべり摩擦減衰機構をモーメント抵抗接合部に利用した木質ラーメン架構の開発 京都大学
小松幸平
京都大学
荒川弘
2010年5月に公布された「低層公共建築物の木造化促進法案」によって大型木造建築物が確実に増加する見込みである。しかし、大地震の発生確率が高い日本では、大型木造建築物の耐震化が喫緊の課題である。
本研究では、変形メカニズムが明確な「高力ボルト接合」における鉄の辷り摩擦に依存した減衰機構を利用して、既往の木質ラーメン架構を、大地震発生前には限りなく変形しづらく剛に、一旦大地震が発生した際には高力ボルトが辷りを起こして、大きな揺れに対しても木部を破壊させず、どこまでも粘り強く変形する能力を持った「高剛性・高靱性」な架構に変身させる技術を開発する。しかも応用する技術は、既往の接合部を僅かに修正するだけの低コストでかつ効果的な技術の開発を目指す。
この目標を達成するため、木質ラーメン構造で重要な接合形式である柱の両方から梁が取り付いた十文字型柱-梁接合部の実大部分実験を行い、柱のパネルシアー破壊の補強効果、接合部の変形能力等を実験的に確認するとともに、柱のせん断性能の補強に対して全ネジスクリュー斜め打ち補強法の効果を確認する実験を行った。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、高い初期水平剛性と、大きな塑性変形能力を付与した木質ラーメン架構を実現したことは評価できる。一方、大地震後の再利用性を目指して提案した接合部の補強方法の効果が期待したほどでなかったことも有り、新たな方法を考案することが、必要と思われる。今後は、本課題をベースにしたさらなる改善が実施されることが望まれる。
空気振動を利用した果菜類受粉システムの開発研究 京都大学
清水浩
京都大学
藤森賢也
本研究は、ハチによる受粉の代替技術として、物理的な手法による受粉技術の提案を行なうが、植物は接触や振動によるストレスを感じ成長が抑制されることから、植物の花の上部の空気を花器の固有振動数で振動させ、花器のみを共振させるという方法によって花粉を飛散させ受粉する装置の開発を目標とした。超音波振動子を複数個集めた正方形アレイを用いたときに焦点面に生じる超音波音圧を利用したシステムを開発した。イチゴを用いた着果試験では既存の接触型受粉装置よりも良い結果を得ることができた(奇形果を考慮)、当初の目標をほぼ達成できたと考える。今後は民間企業と実用化に向けた共同研究を継続する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、超音波アレイを用いて強い音圧を生み出し、それを搬送波として花卉固有の振動数を変調させ各々の花卉類の固有振動数に対応できるようにして各種栽培品種に適応可能とした技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、超音波の放射範囲などの装置の更なる改善や試験結果の再現性確認、受音面の音圧分布の可視化方法の考案などでの実用化が望まれる。今後は、早期のコスト評価と他の果菜類での検討も期待される。
酸ストレスに高度な耐性を有する産業酵母の開発 京都大学
田中晃一
京都大学
藤森賢也
バイオエタノール生産の高効率化、低コスト化に寄与する目的で酢酸ストレスに耐性を有するバイオエタノール酵母の育種を試みた。有機酸ストレス応答に関わる転写因子をコードするHAA1遺伝子の過剰発現により、バイオエタノール酵母に非常に強い酢酸耐性を付与することができた。野生型株の増殖とエタノール発酵は0.5%酢酸の添加で著しく阻害されたが、HAA1過剰発現株は酢酸の影響をほとんど受けずに増殖し、エタノール発酵をおこなった。今後更なる条件検討や実証実験が必要であるが、研究実施前に掲げた目標をほぼクリアする能力を有する酵母の育種に成功したと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、遺伝子組換えに該当しない技術により、バイオエタノール製造酵母株でHAA1遺伝子を高発現すると酢酸耐性が高まるということを実証した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、酢酸耐性を当初の目標レベルにまで高めるなどでの実用化が望まれる。今後は、企業と共同研究により開発を継続されることが期待される。
脂肪酸の多価不飽和化による高度ストレス耐性を有する産業酵母の開発 京都大学
島純
京都大学
藤森賢也
酵母Saccharomyces cerevisiaeは、バイオエタノール等の持続可能なエネルギー生産においてキーとなる産業微生物である。細胞膜を構成する脂肪酸の不飽和化やエルゴステロールの蓄積量の増加により、エタノールストレス耐性の向上が期待できる。本研究開発では、エルゴステロール生合成酵素をコードするERG8を過剰発現させたところ、エルゴステロールの蓄積量が13%増加するとともに、エタノールストレス耐性が有意に向上することが明らかになった。本手法は、バイオエタノール製造用酵母の開発に有用な技術であると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、細胞膜の構成脂肪酸の不飽和化やエルゴステロール含量の増加が、種々のストレスへの抵抗性を高める技術になりうることを実証したことについては評価できる。一方、実用株になる得るレベルに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ストレス抵抗性への寄与メカニズムを考察し、適用分野を広めることが望まれる。
葉緑体を活用した病害抵抗性強化植物開発の新戦略 京都府立大学
椎名隆
京都府立大学
市原謙一
葉緑体包膜に局在するサリチル酸輸送体候補EDS5をEDS5の自己プロモータから発現する植物体において、植物の感染防御応答が亢進され、サリチル酸合成量が増大するとともに、耐病性が高まることを明らかにした。EDS5自己プロモータ::EDS-GFP植物は通常生育条件では防御応答は発動せず、生長阻害も見られない。病原体の感染シグナルを受けた時のみ防御応答が発動することおから、効率的な耐病性増強が可能になる。また、EDS5自己プロモータは表皮細胞特異的に発現しており、植物免疫応答における表皮細胞の重要性が明らかになった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、植物表皮細胞が外敵の認識や病害抵抗性に関与していることを見出したことについては評価できる。一方、実用植物での評価や競合技術との比較に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、可能な限り早期にモデル植物から実際の食用植物に展開し本技術の遡及点を明確にされることが望まれる。
天然繊維を用いた不織布マットの高剛性・高強度・軽量化 同志社大学
藤井透
同志社大学
奥平有三
自動車の内装材用ガラス繊維/PP不織布マットの代替として、環境やコスト面からジュートやケナフなどの天然繊維が使われつつあるが、一層の軽量化が要求されている。この課題に対し、成形前の同不織布に水溶性PVAを塗布する革新的方法を編み出した。PVAの濃度は3wt%、鹸化度、重合度の高いPVAが適切であることを明らかにした。本研究開発の結果、従来の天然繊維/PP不織布マット成形品と比較し、曲げ剛性で40%、曲げ強度で25%以上向上した。その結果、構造の最適化と併せれば40%の軽量化と10%のコスト削減が達成できる見込みを得た。竹繊維の場合もPVA処理により成形品の曲げ剛性・強度が高まることを明らかにした。今後、PVA処理効果のメカニズム解明と産学連携による実用化を目指す。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、天然繊維の状態やバインダー、PVA処理条件の最適化により、既存品と同等以上の高剛性・高強度・軽量のケナフ繊維不織布と竹繊維不織布を開発し、製品化に向けた検証を行っていることなどの成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、基材調達の安定化などの課題を製品メーカと共有するなどでの実用化の加速が期待される。今後は、竹資源の有効活用の観点からも早期の実用化が期待される。
布・空洞カップリング型吸音構造の開発 関西大学
河井康人
関西大学
石原治
筒状の空洞の一端が開放されて外気と接するような条件では、無数に存在する周波数で気柱共鳴が生じる。各共鳴周波数では開放端付近で空気の粒子の振動が最大となることから、この大きな振動エネルギーを適切な流れ抵抗を持つ布等の薄い吸音材で効果的に吸収することにより、少ない吸音材で非常に効率的な吸音が可能である。本研究ではこのような吸音構造に対して境界積分方程式を用いて吸音性能を解析した。用いる吸音層の物理特性や多数の筒状空洞の集積化が吸音特性に与える影響について検討を加え、多くの知見を得ることができた。今後は連成系による共鳴周波数のシフトや面積効果の影響などの点についても更に詳細な検討を加え、実用化を目指す。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、最大の吸音特性を実現するための布の流れ抵抗や面密度の数値が具体的に示され、筒状空洞の形状の吸音特性への影響についても検討が行われている点は評価できる。構造がシンプルで数値計算による設計が容易な吸音方式である。一方、技術移転の観点からは、ヘルムホルツ共鳴器型吸音構造のように単一周波数における吸音ではなく、複数の共鳴周波数による吸音効果は得られたが、それぞれの共鳴周波数ごとの広帯域化が改善点として、検討が望まれる。今後は、現在進行中の企業との共同研究について、産学共同による実用化につながることを期待される。
未利用の柿及び茸廃菌床を活用した機能性家畜飼料の開発および製品化 相愛大学
庄條愛子
大阪府立大学
下田忠久
ハナビラタケ廃菌床からの培養基質の分離と高濃度乳酸発酵試験および乳酸発酵物のマウス摂食試験を実施した。おが粉・コーンコブからなる培養基質からのハナビラタケ廃菌床の分離は、手での粉砕とふるいの使用で、容易に行えることが明らかとなった。また、ハナビラタケ廃菌床を乳酸発酵培地に添加した場合には、スターター乳酸菌を添加しなくとも、高濃度の乳酸生菌を含む乳酸発酵物の調整が可能であった。この乳酸発酵物をマウス用高脂肪高ショ糖(HFHS)食に混合した結果、柿・ハナビラタケ乳酸発酵物添加HFHS食で飼育したマウスは対照マウスに比べて、血中総コレステロール濃度が有意に低い値を示し、また盲腸内ビフィズス菌・乳酸菌数が著しく増加することが明らかとなった。これらの結果から、ハナビラタケ廃菌床は機能性家畜飼料として容易に調整が可能であり、飼料摂取動物の体調調節機能が明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、廃菌床からのキノコ根部の分離回収と乳酸発酵の条件検討と発酵生産物の機能評価について所定の成果を得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、キノコ根部の量の確保や保管、前処理法、更には素性の明らかな乳酸菌の入手などの課題を解決し、家畜用飼料での実用化が望まれる。今後は、マウス実験ではなく家畜への給餌試験や対象とするキノコ種の拡大も検討されることが期待される。
次世代エネルギーデバイスに対する人工知能技術に基づく損傷評価法 大阪大学
福井健一
企業の評価用固体酸化物形燃料電池(SOFC)スタックに対して、AE(アコースティック・エミッション)法により損傷波形信号を取得し、自己組織化マップに基づく独自データマイニング手法により類似損傷事象の自律的な分類および時系列可視化を行った。空気欠乏、燃料欠乏、炭素析出の3種類の損傷評価試験により、作為的に損傷を起こした。その結果、性能が低下する前段階のマイクロクラック等の構造変化が可視化結果からも確認できた。よってSOFCスタックに対しても、本手法の有効性が確認できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に固体酸化物形燃料電池(SOFC)スタックに対して、AE(アコースティック・エミッション)信号のスペクトル解析により損傷波形信号を取得し、検出可能とする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、発電性能に対して致命的な損傷を90%の精度で検出することに加え、発電性能が10%劣化する小さな損傷も把握できる技術の進展などでの実用化が望まれる。今後は、社会インフラに関わる研究であり、共同開発企業との連携を密にされることが期待される。
紙素材への貴金属担持技術の開発と触媒機能の確認 大阪大学
山本孝夫
大阪大学
多田英昭
紙、ポリマー繊維、セラミック繊維の素材に白金または白金と遷移金属のナノ粒子を放射線による還元作用を用いて担持した。金属の担持量は素材の含水量の制限を受け、パーセントオーダーの担持量を得るためには数mMの金属イオン濃度が必要であることがわかった。この条件でもPVA繊維に担持したPt量は約2 wt%、遷移金属はその1/10以下であった。CO酸化触媒活性と耐ガス流性の測定には、固定床常圧流通反応装置を用いて短冊状に切断した繊維担持触媒を反応管に詰め、室温付近での活性を中心に調べた。担持された金属は繊維にしっかりと固着し、繊維の変形やガス流通反応中に離脱することはなかった。同合成法を用いて粉末担体に白金を担持した場合に比べ、繊維に白金を担持した試料のCO酸化特性は低く、常温でのCO酸化活性点と考えられる白金と遷移金属酸化物の接触界面が小さく、Pt表面での反応が支配的であるためと推測された。種々の粉末材料に担持した触媒や非担持Pt系触媒の活性試験の結果を基に、繊維担持触媒の活性向上・実用化のための解決策を纏めた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも熱に弱い紙、ポリマー繊維等の素材上に放射線による還元作用を用いて白金または白金と遷移金属のナノ粒子を担持し触媒機能を付与できる調製技術に関しては評価できる
一方、技術移転の観点からは、室温付近のCOの触媒酸化能のさらなる改善を目指すべく調整条件の技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、貴金属と遷移金属酸化物の接触界面を高める触媒調整条件の検討による触媒能の向上が望まれる。
無機有機複合コーティングによる超撥水性光触媒薄膜材料の開発 大阪大学
亀川孝
大阪大学
多田英昭
二酸化チタン(TiO2)に代表される無機酸化物系の光触媒材料と構成単位により特性の大きく変化する有機高分子材料のナノレベルでの複合化を通し、『セルフクリーニング特性』と『撥水性・超撥水特性』を併せ持つ多機能集積型透明薄膜材料の設計と開発を行った。意匠性を損なわない透明コーティングのための技術開発や、太陽光・可視光の有効利用を視野に入れた材料設計と機能・特性の評価を中心に研究を推進した。ナノレベルでの無機有機複合化による機能性薄膜材料の設計指針を与えると共に、光エネルギーの有効利用を通し、セルフクリーニング特性を示す超撥水性光触媒薄膜材料としての優位性を明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも超撥水性と光セルフクリーニング機能を併せ持つ薄膜を形成するための基礎技術が確立されたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、研究成果の特許出願と本超撥水性光触媒薄膜材料によって得られる機能とコストの競合技術との優位性を検討することが必要と思われる。
今後は、開発した薄膜の潜在的な利用法や利用価値も含め、企業との共同研究によって用途開発が進み実用化されることが望まれる。
シングルナノサイズ半導体粒子を原料とするスプレー製膜による化合物薄膜太陽電池の開発 大阪大学
池田茂
大阪大学
有馬健次
加熱基板に化合物薄膜の原料を含む溶液を「吹き付ける」だけの簡単なプロセスであるスプレー製膜法を用い、化合物半導体ナノ粒子の水溶液を原料とする新たな製膜技術の開発を行った。CIGSナノ粒子水溶液を原料とした噴霧製膜実験を、条件を系統的に変化させて行った結果、比較的均一かつ十分な膜厚のあるクラックフリーの薄膜が得られた。グレインサイズを大きくするための熱処理条件を検討したところ、適量のSeを加えることでグレイン成長が促進されることがわかった。得られた薄膜をデバイス化したところ、有意な太陽電池特性が得られた。シャントパスとなるボイドや異相の形成の抑制など、薄膜品質の向上が今後の課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、クラックフリーで十分な膜厚の製膜ができ、CGIS結晶が確認できたこと、及びSe雰囲気で熱処理を行うことにより結晶成長が促進されることが分かったことについては評価できる。一方、未だ探索研究の段階を脱しておらず、シングルナノサイズ半導体粒子を原料とするスプレー製膜法の利点が示されたわけではないが、ナノ粒子前駆体メーカーとの相互協力体制ができつつあるので更なる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、シングルナノサイズ半導体粒子にチャレンジされるのであれば、ハードルが高い4元系により、2元系か3元系の半導体で、原理と課題を確認されることが望まれる。
廃棄コラーゲン繊維を用いて合成したマイクロポーラスシリカのVOC動的吸着特性と皮革廃棄物の新規有効利用方法の構築 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所
道志智
大阪府立産業技術総合研究所
稲次俊敬
皮革廃棄物である廃棄コラーゲン繊維を用いて合成したマイクロポーラスシリカのVOC動的吸着特性について検討し、皮革廃棄物の新たな有効利用方法を構築することを目的に実施した。トルエンの動的吸着特性を評価した結果、最適な合成条件において、シリカ系材料ではこれまで報告されている中で最高の吸着特性を示した。また、論文で報告されている活性炭の吸着特性と比較しても、その1.5倍の吸着特性を示した。皮革廃棄物を用いて非常に高性能なVOC吸着剤を作製できること、付加価値の高い新たな有効利用方法になり得ることを明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、廃棄コラーゲン由来の多孔質シリカが活性炭と同等以上の吸着性能を示すことを明らかにしたことについては評価できる。一方、疎水性の制御など、性能の優位性、コストなど実用上の有用性の明確化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、企業との連携により具体的に開発課題を整理し、その解決にあたることが望まれる。
ZnO-SnO2系レアメタルフリー酸化物を用いた高移動度薄膜トランジスタの作製 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所
佐藤和郎
大阪府立産業技術総合研究所
岡本昭夫
ZnO-SnO2(ZTO)は、レアメタルフリーの安価で環境に負荷をかけない元素で構成されている材料である。本研究では、このZTOを用いて次世代高繊細ディスプレイ及びフレキシブルディスプレイに使用できるTFTを作製することを目的とした。本研究実施の結果、非加熱成膜で良好なSiO2ゲート絶縁膜をスパッタリング法により作製することができた。このゲート絶縁膜を用いて、最高温度110℃の微細加工プロセスにより、ZTOを用いたTFTを作製することができた。また、ZTO成膜時の酸素流量比とTFT特性の関係を明らかにした。本研究により、電界効果移動度7cm2/Vs以上のTFTをZTOを用いて作製できる可能性を示すことができた。しかし、得られた電界効果移動度の偏差は大きく、特性向上のためにZTOの成膜条件などさらなる研究が必要である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にアモルファスZTO膜のTFT電界移動度が高いことを見出し、また動作特性が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ガラス基板上のTFTでリーク電流が大きく、動作電圧も高いので、これらを改善することが望まれる。今後は、高性能なTFTを早期に実現されることが期待される。
階層的な不均一構造を利用した非鉛系圧電材料の創製と機能開拓 大阪府立大学
森茂生
大阪府立大学
阿部敏郎
現在、有害な鉛を含む圧電材料は厳しく規制されており、非鉛系圧電材料の開発が急務である。本研究では、非鉛系圧電材料として申請者が見出した(1-x)BiFeO3-xSrTiO3および関連物質系で、自発的に形成されるナノからメゾスケールの階層的不均一ドメイン構造を利用して、大きな誘電率や圧電効果を示す非鉛系圧電材料を創製することである。その結果、(1-x)BiFeO3-xBaTiO3 (x~0.40)では、圧電定数151pm/V、(1-x)BiFeO3-x(Bi0.5K0.5)TiO3 (x~0.40) において、圧電定数190pm/Vが得られた。今後は、組成や試料作製プロセスの最適化(焼成温度、焼成時間、酸素アニール処理など)により、より大きな圧電定数を持つ非鉛系圧電材料の探索を行っていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、独自の発想に基づいてBiFeO3とペロブスカイト型誘電体との混晶化合物を作製し、階層的ドメイン構造と圧電特性や誘電性などの基礎物性との相関を明らかにし、ほぼ目標の圧電定数が得られる非鉛系圧電材料を開発したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、電気機械結合係数など総合的な圧電特性や信頼性などの評価とともにMPB(相境界)近傍の詳細な材料探索による更なる圧電性能向上を進めるとともに、産学連携による本研究の非鉛系圧電材料を用いた圧電デバイスの実用化が望まれる。
地球環境問題の観点からも、有害な鉛を含まない圧電材料の開発が待望されており、今後本研究成果の実用化の進展と更なる応用展開が期待される。
高NOx吸着量の担体の開発による完全脱硝ゼロエミッションプロセスの構築 大阪府立大学
安田昌弘
大阪府立大学
井上隆
ガラス繊維フィルターを充填物とし、オゾン酸化を用いた吸収装置により廃棄ガス中の窒素酸化物(NOx)を完全に除去できる。処理ガス量が0.5 m3/minまでの排ガス等の脱硝には、この方法が非常に有効であるが、焼却場などから出る数万m3/min以上の排気ガスを処理する場合、巨大な装置を必要とし、非現実的である。本研究では、大風量のNOxを含むガスを効率よく処理する方法として、吸着法によりNOxを濃縮後、脱着させて、ガラス繊維フィルターを用いたプロセスでNOxを水に吸収させ、56wt%の濃硝酸として回収するプロセスを考案した。このプロセスの中核となる、0.1 kg-NOx/kg-担体以上のNOx吸着能を有する担体の開発を行い、ゴミ焼却場での実排ガスを用いた実証試験を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、NOxを除去する方法を見出し、NO2のみでなく、NOの酸化による除去も見出したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、課題であるNOx吸着用担体からNOxを脱着するための適切なプロセスを構築することが望まれる。今後は、本研究に興味をもつ企業が存在しているので、企業との共同開発により、次の具体的目標を設定して、さらなる研究の進展が期待される。
畑地の連作障害と塩害を低コストで修復するための緑肥活性型「菌寄生菌」ペレット施用法の開発 大阪府立大学
東條元昭
大阪府立大学
下田忠久
畑作物の有機栽培の産業化を妨げている連作障害を防ぐための新技術として、緑肥を栄養源として増殖する菌寄生菌Pythium nunn (特願2010-144990)のペレット施用法の開発を試みた。ペレット剤の組成として米ぬかとアルギン酸ナトリウムを試したが、いずれの組成でもペレット化後2週間を経ると活性が失われることがわかった。このことから、本菌の接種形態としてペレットは不適であり生菌が適当と考えられた。そこで、生菌によるポット試験を行い、土壌中での増殖と連作障害原因菌の1つであるP. aphanidermatum に対する抑制効果を明らかにした。また、新たなP. nunn株を大阪府立大学教育研究フィールドの畑地から分離することに成功し、これらの菌株が5%海水塩を含む培地で生育することを確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、生菌によるポット試験によるP. aphanidermatumに対する抑制効果を確認したことについては評価できる。一方、米ぬかとアルギン酸ナトリウムでは経日的に失活した菌寄生菌のヘ?レット施用法の実現に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。耐塩性菌の探索は塩濃度の高い土壌での連作障害を回避する技術に繋がるので、今後は、圃場における連作障害についても検討されることが望まれる。
公定法COD測定法に代わる簡便な化学発光式COD測定法の開発とこれを用いた自然水の自然浄化能の連続測定 大阪府立大学
竹中規訓
大阪府立大学
亀井政之
公定法との相関性向上のために3段階反応方式を採用した。まず60℃で有機物を過マンガン酸と反応させ、残った過マンガン酸をピロガロールで還元、冷却後、残ったピロガロールと過マンガン酸の化学発光強度からCODを求める方法とした。その結果、一段法よりも格段に公定法との相関が上がり、これまで検出できなかった有機物も測定できるようになった。一方、感度向上のために化学発光反応セルをスパイラル状に変更した。さらに廃液量削減のためにフローインジェクション方式に変更し、実河川の連続測定でその効果を確認した。自然水の浄化能は、アスコルビン酸を加え、その減少速度から分解能を評価できる可能性があることを見い出した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、公定法との相関についての検討では、3段法(残ったピロガロールと過マンガン酸イオンと反応させ、その時の化学発光強度からCODを求める方法)を用い、種々の有機物に対して、公定法との相関が0.99であることを示し、目標を達成していることは評価できる。また、有機物分解速度のその場観測手法の開発では、化学発光式COD測定法をその場観測手法として用い、ピロガロールを用いれば10分程度で分解時間を求めることができることや池の水での微生物による有機物の分解を指摘し、化学発光式測定法の有用性を示した。さらに、測定試料の減量化については、測定の各過程に費やす時間を検討して、送液の自動切換えを検討した結果、連続で流したときの40%の廃液量で測定可能であることを示した。一方、技術移転の観点からは、新たな知的財産権を獲得するとともに、個々の事例についての公定法との比較や改良、実試料での有効性の検証の実施が望まれる。今後は、多種多様な有機物に対して、化学発光がどのような挙動をとるかを明らかにし、産学連携を通じて、社会還元につなげることが期待される。
環境負荷の低い元素からなるカルコパイライト構造化合物を用いた新規高効率熱電変換材料の開発 大阪府立大学
小菅厚子
大阪府立大学
赤木与志郎
本研究では、環境負荷の低い元素からなる新規カルコパイライト構造化合物CuInS2焼結体とその類似構造であるケステライト構造化合物Cu2ZnSnS4焼結体を合成し、高温での化学的安定性と熱電特性について評価した。本研究により、両化合物の合成条件を確立した。また、両化合物とも従来のテルライド系化合物に比べて高温での化学的安定性に優れていることを確認した。現時点では、熱電特性は最適化できていないが、今後電気的特性の調整により熱電特性の改善は可能であると考えられる。本研究で開発した材料は、希少・毒性元素を含まない環境調和性の高い化合物であり、高温での化学的安定性に優れる事から、自動車排熱回収システム搭載用の熱電材料として大きな可能性を秘めた材料であると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも有毒性元素の鉛、テルルを用いず、中高温でも化学的な熱電変換素子材料を見出し、その合成プロセスを提案できたことについては評価できる。一方、新規な熱電変換材料として、有毒なテルルを含まない合成手法が得られたので、他の元素も含めた新規な材料創製も期待され、熱的安定性、熱電変換特性に優れた材料の探索には地道な探索研究に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、材料合成から熱電変換デバイスへの適用という幅広い取組には、得意分野を伸ばし合うアライアンスの形成による推進も検討されることが望まれる。
海洋資源開発・環境モニタリングに最適な、先端的溶存無機物質計測器の開発 大阪府立大学
新井励
大阪府立大学
田中政行
本研究課題は、海水中の硫化水素イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオンが紫外光を吸収する特性を活用し、これらの物質濃度の現場型計測器を開発することを目標としている。海水の紫外吸光特性は海水中に含まれる上記イオン以外にも臭素や炭酸イオン、さらには各種有機物質の総和であることが知られており、海域が異なればその構成が異なるといった特徴がある。そのため計測対象物質に由来する紫外吸光のみを海水の紫外吸光スペクトルから抽出する、いわゆる波形分離をしてその濃度を定量することは極めて困難とされてきた。本課題では海水の紫外吸光スペクトルから計測対象物質に起因する紫外吸光スペクトルを波形分離する新たなアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムを用いることで河口域における海水中に含まれる硝酸イオン、亜硝酸イオンの濃度を現地計測することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、富栄養化した水域で、富栄養化の指標になる無機窒素系栄養塩類(硝酸態と亜硝酸態)の濃度を化学分析をすることなく、水温を測定するように瞬時に測定する機器開発の可能性が裏付けられ、当初の目的は達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、サンプル数と調査実験数を増やして、実測データと観測結果の相関解析を示すことが望まれる。今後は、本研究成果は技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップに十分つながると考えられるので、早い実用化を目指して、社会還元につながることが期待される。
レーザ誘起気泡の崩壊を利用した洗浄技術の開発 大阪府立大学
高比良裕之
大阪府立大学
東原稔
本課題では、液体中にパルスNd:YAGレーザを集束させることにより、レジスト基板近傍にレーザ誘起気泡を生成し、レーザブレイクダウンと気泡崩壊がレジストの剥離に及ぼす影響を検討した。高速度ビデオカメラによる気泡崩壊挙動の観測、微小高速応答圧力計による衝撃圧と力積の計測、ならびにGhost Fluid法による数値解析を通して、洗浄技術開発のための以下の知見を得た。(1) 基板からの気泡中心までの距離をL、レーザ誘起気泡の最大半径をRmaxとするとき、約L/Rmax=1.2以下の場合は、レジストの剥離が観測された。(2) 気泡崩壊時の衝撃波による最大圧力と力積は、レーザブレイクダウン時の衝撃波による最大圧力と力積と同程度であり、両者の洗浄および剥離及ぼす力学的な効果は同程度と考えられる。(3) レジスト剥離の主要因は、レーザブレイクダウンによる温度上昇と考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、液体中にパルスレーザを集束させることによりレジスト基板近傍にレーザ誘起気泡を生成し、レーザブレイクダウンと気泡崩壊がレジストの剥離に及ぼす影響を検討し、洗浄技術開発のための多くの基礎的な知見を得ていることは、評価できる。一方、レジスト表面の剥離面積を、 値で対応づけているが、気泡位置を10%の精度で制御する点や、せん断応力と接着強度の関係などは明らかにされていない。バブル崩壊による洗浄メカニズムの解明などの未解決の課題も明示しているので、本開発研究の一層の発展が必要と思われる。今後は、特許出願に取り組むことも重要であり、関連企業との連携を積極的に深めて、本研究成果の企業化に向けた可能性を高めることが望まれる。
ステンレスメッシュ上への酸化チタン膜電析とフレキシブル色素増感太陽電池への応用 地方独立行政法人大阪市立工業研究所
千金正也
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
内村英一郎
酸化チタン膜は、色素増感太陽電池(DSSC)の電極として利用されている。DSSCは、低コストで、フレキシブル化が容易という特長を有しており、その広汎な普及のためには、フレキシブルDSSCの製造方法を確立する必要がある。本課題では、安価なフレキシブル素材であるステンレスメッシュ上に、環境に優しいチタン乳酸錯体の水溶液から、電解析出法の技術を適用して酸化チタン膜を作製した。5μm以上の膜厚をもつ酸化チタン膜を作製した。これを電極として用いて、フレキシブルなDSSCを作製し、変換効率0.3%以上を得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも目標変換効率2%は出来達成出来なかったが、ステンレスメッシュ上に5.2μの膜を積めた技術については評価できる。一方、太陽電池の効率よりも膜厚の増加、膜質の向上など、膜そのものの検討を継続する点に主眼が置かれており、引き続き技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、太陽電池の効率向上は作り込みが重要であり、企業などとの共同研究の推進が望まれる。
電極近傍における高分子電解質イオンチャンネル構造の発光プローブを用いた解析技術 独立行政法人産業技術総合研究所
塩山洋
独立行政法人産業技術総合研究所
堀野裕治
高分子電解質膜は、疎水性主鎖マトリックス中に親水性側鎖からなるイオンチャンネルが拡がった構造をとっている。このイオンチャンネルのナノ構造は、カチオン性の発光プローブと消光剤を導入し、その発光挙動を解析すると求められる。本研究ではこの技術を発展し、固体高分子形燃料電池などに使われるカーボン電極表面のうち、イオンチャンネル部分に接しており電気化学反応に有効である割合を評価する方法を確立した。例えば表面に固定した発光プローブ量を特定できるカーボンナノチューブを評価した場合は、この割合は77%であることが確認できた。現実の燃料電池で使用されているカーボンブラック表面への発光プローブの定量固定が可能になれば、高性能燃料電池の開発指針を提供できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高分子系燃料電池の高分子電解質ー電極界面での現象解析は高性能燃料電池を実現するためのキー技術であり、今回カーボンナノチューブと電解質のイオンチャンネルの構造がかなり解明できるようになり評価に値する研究成果が出ている。一方、技術移転の観点からは、単層カーボンナノチューブの次に多層カーボンナノチューブさらにカーボンブラックと徐々に複雑な系に実験を進めることなどでの実用化が望まれる。今後は、燃料電池を試作、評価している研究機関、企業と連携して今後の研究を進めることが期待される。
励起子ダイナミクスを制御した次世代量子ドット太陽電池の開発 関西学院大学
増尾貞弘
関西学院大学
山本泰
コロイド合成量子ドット(CQD)を用いた太陽電池は次世代太陽電池として期待されている。本課題では、太陽電池の高効率化を達するために必要なCQD層における励起子・電荷拡散距離に対するCQDの粒径、および表面保護基の影響を分光学的手法を駆使し解明することを第一の目標、得られた知見を太陽電池作製にフィードバックさせることを第二の目標とした。種々の粒径、および表面保護基を有する硫化鉛量子ドット(PbS-CQD)をコロイド合成し、分光学的手法により評価した。その結果、PbS-CQD表面の構造欠陥等が励起子・電荷拡散距離が短い原因であることがわかり、現状の問題点について知見を得ることができた。これにより、今後の高効率太陽電池創製に向けた課題、および指針を得ることに成功した。 当初目標とした成果が得られていない。中でもコロイド合成量子ドット(CQD)の粒径、表面保護基と励起子・電荷拡散距離(d)の評価や、表面保護基も当初の検討物質を理由も明確でないまま変更されている点、太陽電池も単に積層膜を成膜しただけという点での技術的検討や評価が必要である。今後は、先ず、しっかりとしたCQD作製がすべての基本にあると思われる。
日本沿岸での実使用に耐える高精度沿岸海上風シミュレーターWRF-CWの構築 神戸大学
大澤輝夫
神戸大学
西原圭志
本研究課題では、メソ気象モデルWRFを沿岸海域の海上風況推定に最適化した「沿岸海上風シミュレーターWRF-CW」の開発を行った。和歌山県白浜沿岸の海洋観測鉄塔及びブイの2つの観測値と合成開口レーダーによる高解像度風速場の観測値、及びドイツの100m級気象マストの観測値を基にして最適な計算条件の設定を図った。その結果、年平均風速推定誤差5%以内、年平均風力エネルギー密度15%以内の精度を有する洋上風力資源調査手法の基礎の確立を達成するに至った。今後は、この手法を民間会社による風況コンサルティング業務での利用を目指して産学連携を図ると共に、数値計算手法と現場海域におけるブイ観測とを併用する「ブイ観測・数値計算ハイブリッド型洋上風況調査システム」の開発へと応用していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初目標である、年平均風速誤差5%以内、年平均風力エネルギー密度15%以内の精度を有する洋上風力資源調査手法に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、検証地点が、ドイツのマストと和歌山南西沖の2地点と限られており、日本沿岸部への適用性の検証が今後必要であることや、様々な複雑な地形を有する日本沿岸部への適用性の検証が必要であることなどの検証を踏まえた上での実用化が望まれる。今後は、合成開口レーダーによる2次元風速場との比較検討により、広範な領域を高精度に推定できるシステムを目指されることが期待される。
バイオマスからワンステップで乳酸ポリマーを直接生産する技術の開発 神戸大学
田中勉
神戸大学
高山良一
微生物を用いてバイオマスからワンステップでポリマーまで生産できれば、モノマー精製及びポリマー重合のコストが削減でき、環境に優しいクリーンなバイオプラスチック合成法として社会に大きく貢献できると期待される。本研究では、バイオマスから直接、ワンステップで乳酸ポリマーを生産する技術の開発を目指した。乳酸モノマー重合酵素を乳酸菌に導入し、得られた産物を評価したところ、オリゴマーが生成している可能性が示唆された。生産量の増加と物性評価が今後の検討課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初の目標である乳酸ポリマーが生成したことは評価できる。一方、乳酸ポリマーの重合度の制御は達成出来ていないので、ポリマーの特性評価が出来ない状態である。乳酸ポリマーの重合度を向上させ、実用化に適用可能な重合度まで向上させる必要がある。そのためには、純粋なグルコース原料から、実バイオマスへの適用を確立することなどの、課題克服のための戦略の再考が必要と思われる。今後は、重合度の制御を可能とする技術的検討の積み上げが、望まれる。
PdまたはPtイオンの選択的抽出に向けた環状ペプチドナノチューブの最適化 神戸大学
田村厚夫
神戸大学
鈴木茂夫
資源の少ない我国には、携帯電話などから部品を回収した結果生じる所謂「都市鉱山」としてレアメタル混合物が豊富にあり、回収できれば貴重な資源となる。そこで、人工設計したペプチドナノ構造体を用いて、レアメタルを選択的に回収する全く新規のリサイクル技術を開発することを目的とした。この結果、当初予定のPd、Ptに加えニーズの高いAu(金)との結合能を持ったペプチドの人工設計に成功した。また、選択能についても、二桁以上の結合定数の差を生み出した。さらに、結合後に金属のみを集合させナノ粒子を形成し赤色を呈色するセンサー能を発見し、ペプチドは何度も再利用可能なことからリサイクルでの有効性を示した。この一連の成果で特許出願を行い、企業を募った研究会および講演会で周知し、今後の実用化への一歩を踏み出した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、当初目標のPd(パラジウム)、Pt(白金)、に加えニーズの高いAu(金)との高い結合能と選択性を有するペプチドの人工設計・開発に成功し、全く新規のリサイクル技術を開発するといった顕著な成果が得られた。
一方、技術移転の観点からは、Au、Pt、Pdに対する選択的吸脱着能とともににAuに対するセンサー能に関し特許出願するとともに研究会を立ち上げ広く産業界に知らしめており、今後産学連携体性を構築し新規のリサイクル技術として実用化されることが期待される。
産業廃棄物中に含まれる貴金属をはじめとするレアメタルのリサイクルは、資源に乏しい我が国にとって極めて重要な課題であり、今後本課題の成果が応用展開された場合には大きな社会還元が期待できる。
高効率・高信頼性圧電MEMS振動発電素子の開発 神戸大学
神野伊策
神戸大学
高山良一
環境に存在する振動を電気エネルギーに変換するエナジーハーベスト技術が注目されている。発電方式としてエネルギー変換効率の高い圧電素子の利用、特に圧電薄膜を用いたMEMS振動発電素子の研究開発を実施した。本研究では、金属カンチレバー上に高い圧電特性を有する圧電薄膜を形成することで素子強度の向上とともに、金属材料の持つ高い破壊じん性をベースとした素子設計およびプロセス開発により高い発電性能を有するMEMS振動発電素子の実現を目的とした。素子化プロセスにおいては、中心課題となる単結晶基板上に作製した高性能圧電薄膜を微細加工した後、ステンレスカンチレバーにレーザーリフトオフによる転写技術に成功した。また、本技術を用いた試作素子で目標とした発電量を達成した。同時に、技術課題を見出し、発電量のさらなる向上や共振周波数低下のための設計指針も構築することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に振動発電素子の製作法と設計指針が示されている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、素子強度についても確認することが望まれる。今後は、利用できる振動発生源の特性の評価と、それに見合った用途を探索することが期待される。
時系列デジタル画像に基づく空間フィルタ流速計の開発と実用性向上 神戸大学
細川茂雄
神戸大学
高山良一
エネルギー・環境関連機器をはじめとした幅広い分野における機器の設計、開発、改良、制御において、しばしば、流体の速度分布の精度良い計測が要求される。しかし、既存の熱線流速計、レーザドップラ流速計(LDV)、粒子画像流速計(PIV)では、実用流れを対象とした計測において要求される精度、時空間分解能、空間分布計測を全て満足することが難しい場合が多い。本研究では、申請者らが提案した高時間・空間分解能かつ高精度で多点同時計測が可能な革新的流速計である空間フィルタ流速計(SFV)の実用性向上を目的とし、LDVと同程度の性能を達成するためのパラメータ設定方針策定、問題点抽出、および問題解決と限界の把握を行った。その結果、目標とされていた性能を達成し、当初目標範囲内での実用化への基盤を構築した。今後、SFVが実用化されれば、関連分野の発展に大きく貢献できると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、高時空間分解能を有し高精度多点同時計測を可能とする空間フィルタ流速計の基礎を確立したことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業と接点を持つようにして、技術移転へのマイルストーンも含めて、具体的に定量的な目標が設定され、企業と合同で研究開発が進められる体制づくりが望まれる。今後は、流速計測は産業分野での基盤技術のひとつであり、企業側から見た製品開発の視点を取り込んで、社会への貢献につながることが期待される。
多糖類を用いた有機-無機ハイブリッドガスバリア膜の開発 神戸大学
蔵岡孝治
神戸大学
高山良一
環境に配慮したガスバリア膜の開発のために、多糖類のデンプンまたはキトサンとシリカを用いた新規な有機-無機ハイブリッドガスバリア膜の作製を検討した。デンプンまたはキトサンの持つ官能基と親和性のある官能基を有するケイ素アルコキシドを用いることにより、多糖類とシリカのハイブリッド化が可能なことを明らかにした。さらに酸素および水蒸気バリア性の向上を図るためにハイブリッドガスバリア膜内への架橋構造の導入を検討した。架橋構造を導入した膜は、ガスバリア性能が向上し、酸素透過係数は10-19mol・m/(m2・s・Pa)台の値、透湿度は10g/(m2・day)以下の値を示し、目標とするガスバリア性を示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に環境にやさしいガスバリア膜として、多糖類(デンプンまたはキトサン)とシリカとの組み合わせによる有機ー無機ハイブリッドガスバリア膜を調製し、酸素バリア性および水蒸気バリア性ともに、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)と同程度の性能があることを示したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本法によるガスバリア膜の機械的強度について評価とともに非塩素系材料でもPVDCと同程度のガスバリア性があることなどを示し、フィルムメーカ等の企業との連携を推進するとともにニーズを取り込み研究開発に反映させ実用することが望まれる。
高温・高圧下で機能する高強度CO2選択分離イオンゲル膜の創製 神戸大学
神尾英治
神戸大学
河口範夫
低い高分子濃度で高い強靭性を有するダブルネットワークゲル(DNゲル)の強度発現因子である相互侵入高分子網目(IPN)構造をイオンゲルに適用した新規高強度IPNイオンゲルフィルムを創製した。溶媒として用いたイオン液体は、CO2の溶解度がN2よりも優れる1-Butyl-3-methylimidazolium terafluoroborate ([Bmim][BF4])およびtetrabutylphosphonium glycinate ([P4444][Gly])とtetrabutylphosphonium dimethylglycinate ([P4444][dmGly])の混合液の2種類で、双方ともDNゲルと同じ機構で高強度を発現していることを確かめた。また、厚さ300ミクロンのDNゲルフィルムを作製し、500kPaの圧力場でのガス透過試験より、耐圧性およびCO2選択透過性を確かめた。創製したDNイオンゲルは機械的強度、耐熱性、長期保存性、成形性、柔軟性および透明性に優れており、ガス分離膜を含む様々な応用分野に利用可能な材料である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも本研究での圧力場で使用可能なCO2選択分離膜実用化の検証に関しては評価できる。一方今後CCSのCO2分離・回収工程、リチウムイオン二次電池などのイオンデバイスへの適用なども期待され、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。当初設定目標がいずれも未達であり、今後は、実用化を目指す企業との議論を綿密に行い、安定性評価などの企業化への更なる検討が望まれる。されることが望まれる。
リサイクル底質改善材を用いた閉鎖性水域の硫化物イオン抑制 神戸大学
浅岡聡
神戸大学
河口範夫
閉鎖性水域における底質改善を目的としたリサイクル底質改善材(石炭灰造粒物)の硫化物イオンに対する吸着性能の持続性を定量的に明らかにすることを目標とした。室内実験にて嫌気条件(夏を想定)では、硫化物イオンが石炭灰造粒物に吸着され、その後、好気条件(秋から冬を想定)では、吸着サイトが再生することがXAFS分析から明らかになった。また、吸着実験にて好気・嫌気条件を10回繰り返して吸着サイトを再生させても吸着性能が持続することが確認できた。以上より、概ね目標を達成できたと言える。今後の展開として、一般的な底質改善技術である覆砂や浚渫の場合は2~5年で底質改善効果が低下する報告があり、本法の実用化に向け、現場における硫化物イオン低減効果の持続性を実証する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、底質改善材の硫化物イオンに対する吸着性能の持続性を定量的に明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、大掛かりとなるであろうが実証実験を行うなどでの実用化が望まれる。今後は、小規模な港湾域等での実証実験との比較検証をされることが期待される。
ナノテクスチャー化による高効率・低コスト太陽電池開発 公立大学法人兵庫県立大学
八重真治
兵庫県立大学
八束充保
結晶シリコン太陽電池の表面反射率低減のために形成されているテクスチャー構造を、従来の数十μmサイズのピラミッド型凹凸から、金属微粒子援用HFエッチングで形成した数十nmサイズの多孔質層に置き換えることで高効率太陽電池を低コストかつ安定に製造することを目的とした。あらかじめ均一なpn接合を形成した平坦な単結晶シリコン基板に深さ数百nmのナノテクスチャー層を均一に形成して、反射防止膜を形成することなく、広い波長範囲で反射率を大幅に低減させることに成功した。これを用いて太陽電池を作製すると光起電力を低下させることなく光電流を増大できることを明らかにした。この結果をもとに特許出願した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、結晶性シリコン太陽電池の表面反射率を低減させて、光電流を増大させることを目標とし、太陽電池特性の目標値は達成していないが、コンタクト抵抗の目標値はクリアし、ほぼ目標を達成していることは評価できる。また、技術移転する成果が得られ、連携企業との特許を出願した。今後、電極形成技術の実用化および電子デバイス製造技術への展望も開けた。一方、技術移転の観点からは、すでに国内大手メーカーや大手太陽電池メーカーと情報交換の段階から試作を行う段階にはいっている連携企業が存在するので、技術移転に向けた活動の発展が望まれる。今後は、成果の社会還元が期待される。
66ナイロンベースの生分解性ポリアミドの開発 公立大学法人兵庫県立大学
根来誠司
兵庫県立大学
八束充保
6ナイロンと66ナイロンは、合成ポリアミド全体の約90%を占め、繊維・プラスチックとして広く利用されている。本課題では、ナイロン加水分解酵素(NylC)の生化学的研究を基盤とし、酵素反応でモノマー化が可能な「次世代生分解性プラスチック」の開発の基礎検討を行った。66ナイロンの界面重合反応で、アジピン酸クロリド(C6)とコハク酸クロリド(C4)を混合して共重合させることで分解性が向上した。また、ヘキサメチレンジアミン(C6)の代わりに、ペンタメチレンジアミン(C5)を用いて合成した56ナイロンでは、高い分解性を示した。ギ酸による前処理後、NylCで反応させ、次いで、ナイロンオリゴマー加水分解酵素(NylB)で処理することで、ナイロンモノマーの回収率は90%以上に上昇することが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、酵素を利用するなどで高い分解性を持ち回収率90%以上を達成し得るナイロン系の生分解性プラスチック開発に関する基礎技術を確立したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ポリマーの用途開発も含め、研究から製品化までのロードマップを策定するなどでの実用化が望まれる。今後は、産学共同でロードマップに従った開発を行い、新たな生分解性素材への展開や高次リサイクルに結び付くことが期待される。
表面修飾酸化チタンナノチューブの大量生産と安定分散技術の開発 公立大学法人兵庫県立大学
加藤太一郎
兵庫県立大学
八束充保
本申請課題では、酸化チタンの持つ高いUV吸収能力はそのままに光触媒活性のみが完全に抑制された表面修飾酸化チタンナノチューブを、エネルギー転換材料として企業へと技術移転することを目標に研究を行った。本目標を達成するために克服すべき2つの課題、①原料となる酸化チタンナノチューブ(TNT)の大量合成方法の確立と、②作成した表面修飾酸化チタンナノチューブ材料の高効率な分散方法の確立、を設定した。検討の結果、オブザーバー企業の協力によって試作した70Lの反応容器を用いることによって、一度に1.1 kgのTNTを調製することが可能となった。また、分散についても濃度3wt%(添加剤なし)から30wt%(添加剤あり)にて安定分散する条件を見出すことができ、企業化への道筋を立てることができた。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に目標の大量合成を安定的に達成するとともに表面修飾酸化チタンナノチューブ(TNT)の高効率な分散法を確立し既存の光触媒活性抑制酸化チタンと同等以上の活性抑制を実現した成果は顕著である。
一方、技術移転の観点からは、既に産学連携体制が構築されており、TNTの安定的生産、より簡便な修飾法の確立、さらなる大型の装置の開発導入、新製品開発などを企業と連携し検討を進め実用化されることが望まれる。
本研究は酸化チタンナノチューブ(TNT)の初の量産製造につながる研究開発であり、今後TNTの特徴を利用した技術や製品の開発が期待される。
アセンキノン系有機正極材料を用いるリチウムイオン二次電池の開発 滋賀県立大学
北村千寿
滋賀県立大学
安田昌司
リチウムイオン二次電池の正極材料に現在用いられているレアメタル酸化物のコバルト酸リチウムの代替材料として資源制約のないアセンキノン系の有機系材料を新規に開発し、新しいリチウムイオン二次電池の特性評価を行うことを本研究の目的とした。高分子化の足掛かりとなるビニル基のテトラセンキノンへの導入をクロスカップリング反応を用いて検討した。ビニル基の付いた分子は有機溶媒に対して溶解性が低く精製は困難であった。このため当初の計画である高分子化には至らなかった。基礎的な知見を得るために高分子化前の電池特性を調べ、充放電容量はまだまだなもののサイクル特性が優れており、高分子化した材料を用いれば性能の向上が期待されることがわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初予定していた化合物・高分子の合成にはいたらなかったが、モノマーを使った電池の性能試験より、高分子化した場合、より優れた材料が得られる可能性を示した点については評価できる。一方、新しい電極とその電池の作成に成功すれば省資源化の観点から社会還元に導かれることが期待できるので、まずは溶解度を向上させることと試薬の純度を上げるなどによる反応性の向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ビニル重合以外の重合反応についても合わせて検討されることが望まれる。
再充電可能な高性能亜鉛負極の開発 奈良工業高等専門学校
片倉勝己
奈良工業高等専門学校
芳野公明
環境・エネルギー問題の解決に向けて安価で高性能な二次電池への期待が高まる中、金属負極を用いた二次電池が注目されている。本研究は、安価で安全な負極として注目されながらこれまで実現が困難であった亜鉛を二次電池の負極として用いるために、その最大の障壁であった亜鉛デンドライト成長を大幅に低減可能な電解液を開発することによって実現の可能性を示すとともに、本電解質系での充放電効率および充放電電流を向上させるための基礎的知見を得たものである。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新規電解質を開発し亜鉛電極表面へのデンドライド形成抑制に効果的な電解液組成を見い出しそのメカニズムを解明したこと及び亜鉛の利用率を最大にしつつ高い電流密度で充放電可能な負極となる亜鉛の粒径を設計指針として得たことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、今回の成果を受けさらなる基礎研究を継続するとともに実用化に向け充放電電流密度や充放電効率の向上などの技術検討を進め、産学連携による実用化が望まれる。
本研究の成果により亜鉛電極を用いた安価で高性能な二次電池が実用化されれば環境・エネルギー問題の解決に大きく貢献でき、成果の社会還元性は極めて高い思われる。
フォールス・ポジティブを利用して信頼性と消費電力を最大限バランスさせる計算機構の実用化 奈良先端科学技術大学院大学
姚駿
近年、電子機器の高信頼化と低消費電力の両立が重要な課題となっている。我々は、近似計算プログラムに特化した、信頼性・消費電力バランス型HW/SW協力計算機構を提案してきた。本研究では、(1)HWによるフォールス・ポジティブを利用したエラー検出漏れの防止を提案し、SDC エラーを1/100程度に削減、(2)コンパイラなどのSWによる部分的・全冗長化したバイナリの生成、(3)動的な部分的冗長化調整を行う効率的な実行機構などの成果を達成し、携帯や医療機構の領域で、次世代高信頼・低消費電力マイクロアーキテクチャの基盤技術として有望である。また、従来の3重化回路の効率的な稼働方法を追加提案し、温度制御により信頼性を向上する点で、特許化を進めることを検討している。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に近似計算プログラムに特化した、信頼性・消費電力バランス型HW/SW協力計算機構において、消費電力のオーバヘッドが5%~8%で、ある種のエラー (silent data corruption) 発生率を 1/100 に削減する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、モバイル端末や携帯医療機器に搭載される画像処理アプリケーションや知識ベースに用いるサーチエンジン等に有用であり、多重化回路の切り替え時の温度低減による nagative bios temperature instability の改善率とそれによる寿命の延長率を試算することや、実装コストを考慮した場合の、通常の生活の場でのエラー発生を前提とした評価などでの実用化が望まれる。今後は、国際的に提案されている莫大な手法を整理し、提案する手法にそれらの他の手法を組み合わせてトータルでの性能向上を目指されることが期待される。
高効率シリコン太陽電池を実現する塗布型Texture構造作製技術の開発 奈良先端科学技術大学院大学
石河泰明
奈良先端科学技術大学院大学
藤井清澄
ナノインプリントにより結晶Si太陽電池表面にテクスチャを作製し、同時に表面再結合低減に向けた指針を見出すことを目的として本研究が行われた。まず、Siフラット表面にZrO2のテクスチャ構造設計を2次元デバイスシミュレータで行った。その結果、高さ175nm、幅250nmのサブミクロンピラミッド構造により、22.9%の変換効率(両面コンタクト型Si太陽電池)達成されることが判明した。この時、表面再結合は1000cm/secである。次に、ZrO2塗布による表面再結合速度(Sr)の評価を実際に行った。ZrO2塗布後のSiウエハのキャリヤ寿命をμPCD法で測定しSrを算出した結果、4500cm/secと非常に高い値を示した。SiリッチなSiNを層間膜として挿入することで低Srを実現しつつ高変換効率を維持できることが指針として示された。今後、最適化した構造のモールドを作製し、数値解析の妥当性を検証する必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも数値解析によって目標値達成のための太陽電池の反射膜テクスチャー構造の指針を明らかにした点、実デバイスの設計とモールド作製に到達できた点については評価できる。一方、数値計算のアルゴリズムの検証を必要とするが、ZrO2反射防止膜テクスチャー構造の提案には新規性があり、目標としているSr値を達成するための成膜条件の確立、実デバイスでの実証に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、実使用を考え、ナノインプリントによるテクスチャー構造形成の面積拡大手法の検討もロードマップに加えて開発されることが望まれる。
麹菌における培養ストレスを考慮した有用遺伝子発現系の開発 奈良先端科学技術大学院大学
加藤晃
奈良先端科学技術大学院大学
塚本潤子
「麹菌における培養ストレスを考慮した有用遺伝子発現系の開発」のため、培養過程での翻訳状態変化をポリソーム解析により評価するとともに、個別mRNAの翻訳状態変化をポリソーム/定量RT-PCRにより解析した。その後、培養後期にも翻訳される候補mRNAの5'UTRをレポーター遺伝子に連結した発現系について、麹菌安定形質転換体での評価を行い、プロトタイプ発現系の構築に成功した。しかし、本プロトタイプの能力は、完成型と言えず不十分なものであり、ポリソーム/DNAマイクロアレイによりゲノムスケールで全mRNAの翻訳状態を網羅的に解析し、より良い候補を絞り込むことにより、完成型の発現系を構築する必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、プロトタイプではあるが、麹菌における培養ストレスを考慮した発現系を構築したことについては評価できる。一方、ポリソーム/DNAマイクロアレイによりゲノムスケールで全mRNAの翻訳状態の網羅的解析や完成型の発現系の構築に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、完成型の発現系の構築とその成果発表を実現されることが望まれる。
三本ロール漆の酵素/熱二段階硬化による食器洗浄機対応型塗膜の開発 和歌山県工業技術センター
梶本武志
三本ロールにて加工された漆について、酵素及び熱の二段階方法により硬化過程を改良することにより食器洗浄機で洗浄できる漆膜の開発を行った。漆膜形成に際し、初期は加湿に伴って酵素のはたらきで塗膜を形成させ、最終段階では加熱することでより一層塗膜の硬さを付与することができた。得られた漆塗膜は鉛筆硬度が3Hとなり水洗浄だけでなく耐摩耗性を付与した塗膜を提供することができることが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、食器洗浄機対応型塗膜の形成を目指して取り組み、適切な塗膜形成条件、堅さを向上させた食器洗浄機対応性能、変色防止性能を低下させることのない塗料形成技術について一定の成果を得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、熱可塑性樹脂を素地にした場合の三本漆の最適塗布法の開発と品質評価を重点的に進めることが望まれる。今後は、漆の需要拡大により、日本が誇る森林資源の実用化に繋がることが期待される。
亜酸化銅/酸化亜鉛太陽電池の電気化学的手法による作製と結晶性制御 和歌山大学
宇野和行
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
グラファイトシート(PGS)上に酸化物半導体による太陽電池を作製することが本研究開発の目標である。これにより、軽量で高効率、耐候性のある太陽電池膜が実現できる。n型層の成膜には非真空でドーピング可能な手法であるミストCVD法を導入した。p型層でありかつ光吸収層である亜酸化銅には電気化学的手法を用い、PGS上に成膜を行った。電気化学的手法による成長中のモニタリングおよび最適化のために、電気化学インピーダンス法を導入し、成長のその場観察法を実施した。
ミストCVD法を用いたことで、10マイクロメートル前後の凹凸があるPGS表面に高い被覆率と高い配向性をもつ酸化亜鉛(ZnO)が成膜できた。また、酸化物だけでなく、硫化物の作製を試行したところ、硫化亜鉛(ZnS)の成膜も可能であることがわかった。
亜酸化銅膜の最適化の一貫として、電気化学インピーダンス法による膜厚のリアルタイムモニタリングを試行した。その結果、成膜が進むにつれて直列抵抗成分が小さくなるという想定とは逆の結果が得られた。測定の妥当性を含めて検討が必要である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも酸化亜鉛膜について、電気化学的製法から、ミストCVD法に切り替えて、目標に近い膜が得られたことは評価できる。一方、電気二重層によるインピーダンスの測定結果が想定と異った点について、原因の調査が必要と思われる。今後は、この製法による太陽電池の作製が望まれる。
多機能発酵性キノコを用いた食品廃棄物からの効率的エタノール生産 鳥取大学
岡本賢治
鳥取大学
加藤優
本研究者はこれまで、バイオマスの糖化処理および、C5糖とC6糖のエタノール変換が可能な、多様な発酵特性を持つ担子菌(キノコ)を発見し、食品廃棄物や木質原料等から1つのプロセスによって直接的にエタノールを生産する方法を見い出した。本手法は、従来の方法で使用されてきた硫酸や、遺伝子組換え生物を使わず、簡単な装置でも安全に管理できる環境調和型のエタノール生産技術である。 本研究ではこの多機能な発酵性キノコを用いて、食品廃棄物(生ごみ)からエタノールを生産する効率を実用レベルにまで向上させることを目的として、①担子菌の培養特性・最適発酵条件の解析、②食品廃棄物からのエタノール生産試験を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、種々の試料を検討し実用化のための基礎的知見を一部得ており、エタノール収率も改善されていることに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、発酵条件の十分な検討による最適化などでの実用化が望まれる。今後は、2種のキノコの混合実験も検討されることが期待される。
発泡ガラスを素材としたホウフッ化物イオン除去材の開発 鳥取大学
中野惠文
鳥取大学
加藤優
ソーダ石灰ガラス粉末にアルミニウム、マグネシウム化合物及び発泡剤とし炭化ケイ素を混合した後、約900℃で焼成して得られたガラス発泡体を水酸化ナトリウム溶液中で水熱処理するという一連の工程によりホウフッ化物イオン(テトラフルオロホウ酸イオン、BF4-) の除去材を製造した。
ガラス発泡体へのアルミニウム及びマグネシウム化合物の添加量、振とう時のpH、温度、時間の影響について検討したところ、BF4-を分解できることを見出した。この分解には、共存イオンの影響がなく、また、生じたフッ化物イオンは水熱処理ガラス発泡体により吸着除去できることを明らかにした。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ガラス加工、非鉄金属精錬、半導体製造などの廃水中のホウフッ化物イオン(BF4-)の分解除去が従来困難であったが、廃ガラスを利用した発泡ガラスを用いフッ素を除去できる技術に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、残存するホウ素の除去に関し研究を進め研究成果を特許出願するとともに、既に連携し研究開発を進めている発泡ガラス企業と連携し実用化されることが、望まれる。
排水処理は社会的ニーズの高い研究課題であり、環境問題の観点からも今後も積極的に研究を進めることを期待したい。
空気圧を利用した薄膜軽量遮音構造の開発 鳥取大学
西村正治
鳥取大学
和田肇
本研究は、網で挟み込んだ袋状の薄膜に内圧を加えることにより、その剛性効果で高い遮音効果を得る全く新しい軽量遮音構造の開発を狙うものである。既に小型の要素試験でその効果は検証済みであるが、ここでは実物大寸法に対して、その効果の検証を行った。 結果、低周波で期待どおりの遮音効果が得られるものの、中周波域で必ずしも加圧力に比例しない複雑な遮音スペクトルが得られた。そこで、桟、網、膜の3自由度の並列回路モデルを構築することにより、その現象をある程度解明することができ、実際の設計に役立つツールを開発することができた。まだ共振による遮音効果の落ち込みを回避する手段の開発が課題として残っているが、共同研究企業が見つかり、今後実用化に向けて開発を進めていく予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、軽量で遮音効果の高い部材として、制作や取扱いもそれほど困難なものではなく、騒音対策として非常に有効であると評価できる。一方、技術移転の観点からは、中高音域での遮音特性を改善する質量効果を網構造などでどのように実現するかの具体的方策を検討する必要があり、研究の継続が望まれる。今後は、既に民間企業との共同研究に進んでいるので、社会還元に導かれることが期待される。
高効率不純物中間バンド型太陽電池のための新規化合物半導体の探索 鳥取大学
市野邦男
鳥取大学
和田肇
カルコパイラト系硫化物半導体を用いた高効率中間バンド型太陽電池、とくに不純物バンド型の中間バンドを用いた太陽電池の開発に向けて、まず高効率中間バンド型太陽電池の原理を実証するため、不純物添加による中間バンドの形成と、それを用いた太陽電池の高効率化を目標とした。不純物として遷移金属元素を添加して物性を評価したが、有効な中間バンドの形成は確認できなかった。しかし不純物の添加方法に改善の余地があることがわかり、今後さらなる検討が必要である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも実用化されているカルコパイライト系で中間バンドをもつ太陽電池を研究したことと、中間バンドは形成できなかったが、不純物の添加方法を改善することにより達成できる見通しを得たことについては評価できる。一方、更なる不純物の注入法改善に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、理論的な予測も含めて中間バンドをもつ半導体の開発に向け研究を進められることが望まれる。
低価格電気二重層キャパシタと10Wh級ソーラーパネル蓄電器の試作 松江工業高等専門学校
福間眞澄
申請者らは、これまで地域で産業廃棄物となっている木綿タオルまたは綿布を利用した低価格電気二重層キャパシタ(EDLC)の研究開発を行ってきた。その結果、木綿を炭化後、約1000℃の温度にて所定の時間賦活を行った木綿活性炭、紙、安価な集電極、および水系電解液を用いて数Wh程度の電気容量をもつ安全で低価格なEDLCが実現可能であることがわかった。 本研究では、開発を行ってきた安全で低価格なEDLCを用いてソーラーパネルを組み合わせた10Wh級の蓄電器の製品化の可能性を調査する。10Wh級のソーラーパネル蓄電器は、災害時等に利用される蓄電器を想定している。 概ね、期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。  特に、産業廃棄物である木綿タオルや綿布を活用した低価格電気二重層キャパシタ(EDLC)を当初目標通り開発し、蓄電器の制作が可能となったことは評価に値する。一方、技術移転の観点からは、市販まで持っていくためには、コスト計算を行い、市場の状況を把握することなどの技術的検討やデータの積み上げなどを実施し、”10Wh級の蓄電器”の製品化などでの実用化が望まれる。今後は最終的に技術移転先を決定し、企業との連携を行い、さらに、進展させていくことが期待される。
界面エネルギーを高次制御した新規ナノ乳化法の開発 岡山大学
小野努
岡山大学
今井俊夫
マイクロ流路乳化法によって機械的撹拌ではなくフロー型の乳化操作で単分散な数十マイクロメートルの液滴を自在に生産することは可能になりつつあるが、通常の剪断力だけではナノサイズ領域の単分散液滴調製は難しく、Bottom-up technologyも活用した液滴の微細化が不可欠である。本研究では、単分散液滴を連続的に生産するためのフロー型液滴生成技術の構築を、flow focusing技術やtip streamなどの最先端の技術を組み合わせて実現を試みるものであり、液滴生成時の界面自由エネルギーに着目することで、ナノスケールでの液滴生成に必要な因子の解明とその制御技術を蓄積し、flow focusing技術を極めたナノ液滴(ナノエマルション)の連続生産方法の構築を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にマイクロ流路法によるナノエマルションの連続生産の可能性を示したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、「界面エネルギーの高次制御」に基づくナノ乳化法の開発は着目点は斬新であり更なる基礎研究が望まれる。
今後、本法は医薬・化粧品・環境分野などで利用価値の高いナノエマルションの新規の効率的な連続生産手法として実用化が期待される。
風力発電用超電導コイルの小型・低コストのための新概念巻線方法開発 岡山大学
金錫範
岡山大学
村上英夫
本研究では、風力用超電導発電機の過渡安定性を向上させるために線間無絶縁および絶縁体の代わりに導体テープを挿入する全く新しい概念の超電導コイルを提案し、その有効性について実験的に検証する目的で行った。YBCOとGdBCO高温超電導線材を用いて5ターンから10ターン巻の絶縁・無絶縁・導体挿入(Cu, Brassなど)試験コイルを製作し、各試験コイルの最少クエンチエネルギーやクエンチ電流を評価することで提案したコイルの過渡安定性について評価し、その有効性について証明した。また、巻線張力が可変できる実験装置を開発し、無絶縁コイルの巻線張力と臨界電流低下の関係を明らかにすることで新しく提案した無絶縁超電導コイルの最適作製法を示した。そして、実験的に求められた線間方向への電気的接触抵抗特性を参考値として電磁場数値解析を行った。、しかしながら、実用化に向けては、100ターン以上のコイルにより、コイルのインダクタンス特性を評価することが必要であり、今後、当学の研究推進産学官連携機構の支援のもとに、競争的資金の獲得、企業との連携等を積極的に進め、実用化の検討に必要な線材量を確保し、引き続き研究を進める計画である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、小型試験コイルを用いた実験により、線間絶縁を施さない超電導コイルが風力用発電機へ適用可能であることを示すとともに、コイル設計に極めて有用な簡易型測定装置を開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化のためには実機サイズの試験コイルを製作し、実験することにより、実機への適用が可能であることを実証する必要があり、企業・大学からの資金獲得や企業との共同研究に進むことが望まれる。今後は、研究成果が応用展開され、超電導による風力発電機が実用化されると、既存の常電導発電機に比べて小型・軽量・高効率化が可能になるため、我が国のグリーン・イノベーションに大いに寄与することが期待される。
施設園芸を高効率化する温室環境・エネルギーマネジメントシステムの開発 津山工業高等専門学校
桶真一郎
津山工業高等専門学校
柴田政勝
高付加価値作物を栽培する施設園芸において、高効率な栽培を実現するために、温室内の環境を最適化する温室環境・エネルギーマネジメントシステムを開発した。本システムは、日射量をはじめとするデータの計測、気象予測、および計測困難データの推定補完により、温室環境を最小のエネルギーで最適に保つように制御指令値を自動出力するものである。まず、温室環境および計測機器の基礎データを収集し、計測困難データの推定モデルを構築した。次に、オリジナル計器を用いた日射計測と気象予測に基づき、独自の制御アルゴリズムを提案した。また、試作品を用いた環境制御実験を実施し、設計・仕様を実用化に向けて見直した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもフィールド試験によるデータ蓄積と解析による新たな知見により、実験用小型温室を用いたマネジメントシステムについては評価できる。一方、予測方式の精度やとくにエネルギー面における本マネジメント方式の有効性の検証(性能評価)や、施設園芸業者との連携による実際の園芸設備へのシステム実装およびフィールド試験を行うための計画等の技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、提案の技術が、他の既存技術と比較してどの程度の優位性があるかを示されることが望まれる。
流体ダイオードを用いた複動型バルブレスポンプの研究開発 津山工業高等専門学校
吉富秀樹
津山工業高等専門学校
柴田政勝
流体ダイオードを用いた複動型バルブレスポンプについて、サイクル数の影響やモータ駆動電圧の影響を解析し、最適な設計条件や運転条件を見極めた。また、サイズの異なる3基のバルブレスポンプの試験を通じて、性能上の限界となる限界揚程および最大流量を確認した。これらの研究と並行して、基礎となる技術である流体ダイオードについて、単体特性を解析し整流性能を分析すると共に流体力学的相似性が成り立つことを確認した。これらの研究成果をベースに、乾電池で駆動できる流量10mL/min~100mL/min程度の送液能力を持つ複動型バルブレスポンプの特性解析法を開発し、与えられた仕様を満足する体系だった設計手法を示すことで設計コード化を完成させた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、計画に対する遂行率が高く、定量的分析や数値モデルの研究において興味ある結果が得られていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、例えば、扱う液の粘度、材質や他方式に対する優位性など、次のステップに進むための課題を明確にして進めることが望まれる。また、早めの特許出願が望まれる。 今後は、機能は確認されているので、この機能を必要とするモノづくりをいくつか具体的に想定して、そこで必要とされるその他の課題も含めて研究課題を見直し、想定技術連携(移転)先を見付けて、社会貢献につなげることが期待される。
電磁波による人体への影響を防護した電動車両用非接触充電システムの開発 広島大学
勝代健次
電動車両用磁界共鳴式非接触充電システムにおいて、以下を実現する送受電コイル構造の研究を行った。
 ・高い電力伝送効率
 ・車両周囲への人体に有害な磁界漏洩の抑制
 ・車体鋼板等、周囲の磁性体の影響を受けにくい構造
電力伝送効率に関しては、ベンチの実測とあわせて磁界共鳴式給電システムをシミュレーションできる環境を構築した。電力伝送効率はベンチではインバータの損失を5%以下に抑え、効率80%を実現するとともに、シミュレーションで、コイルの抵抗削減により、目標とする85%達成の目処を付けることができた。更に、コイル構造の工夫で送受電コイルのずれや周囲磁性体の影響を受けにくくすることができた。
しかし、「漏洩磁界の抑制」に関しては、目標未達のため研究を継続している。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、伝送効率の目標値85%以上の目標に対して、80%達成は評価できる。一方、磁界漏洩の抑制に関する研究は目標未達であり、更なる技術的検討やデータの積み上げが必要である。本研究開発テーマは、これからの技術としてインパクトが強く、期待されているものであり、今後、さらに、研究計画を明確に設定し、着実に進展させることがが望まれる。
雰囲気制御高周波微粒子ピ―ニングAIH-FPPによる金属元素拡散層を援用した高耐久性・高摺動性を有する硬質薄膜コーティング材料の創製 広島大学
曙紘之
広島大学
伊藤勇喜
近年の地球環境問題から、高エネルギー効率化を実現する技術として極めて優れた摺動特性を有する硬質薄膜が広く注目されているが、その乏しい基材密着性から適用範囲は限定されている。そこで本研究では、「雰囲気制御高周波微粒子ピーニングAIH-FPP」により、母材表面に極めて安定した金属元素拡散層を形成することにより高い密着性を実現し、これにより長期使用に耐えうる硬質薄膜被覆部材の創製を目指した。その結果、本研究で提案したAIH-FPPを援用した硬質薄膜被覆材は、 AIH-FPPを施さない従来の硬質薄膜被覆材に比べ4倍以上の高い耐久性を有することが確認され、 AIH-FPP処理が硬質薄膜の耐久性向上に極めて有効であることが明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に雰囲気制御高周波微粒子ピ―ニング(AIH-FPP)処理によりCr拡散処理後、炭素系硬質薄膜(CTF)被覆することにより、摺動負荷に対する耐久性を大幅に向上させたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、静的負荷・動的繰返し負荷などに対する耐久性評価とともに実用化を見据え薄膜の耐熱性や薄膜の物性等の検証に加え特許出願を検討し実用化が望まれる。
今後は、耐久性に優れ駆動時・摺動時のエネルギー効率の向上する摺動部品部材として広く応用展開されることが期待される。
グラフェン複合材料を用いた革新的蓄電デバイスの開発 広島大学
播磨裕
広島大学
伊藤勇喜
高温(100℃)でヒドラジンを用いる従来の化学還元法に比べて、短時間で温和な条件下(室温)で酸化グラフェンを電気化学的に還元してグラフェン膜を作製可能なことを見出している。電気二重層キャパシタ(EDLC)への展開を目途に、グラフェン作製の際の電解条件(印加電圧、溶媒、電解質等)の最適化を行った。また、同様に電解還元を用いてグラフェンと導電性高分子(ポリアニリンやポリピロール)からなる複合膜を簡便に作製する技術の開発を行った。この手法を利用して作製したグラフェン/導電性高分子複合膜は高い蓄電能力(~200 F g-1)と優れたサイクル特性(2万回の充放電サイクル後でも85%の容量保持)を示すことを見出した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも目標250Fに対して今回の成果では200F/g程度の達成が行われており、容量の向上にはある程度の成果が認められる点については評価できる。一方、キャパシターに応用するにはコストがかかりすぎる点や、実際に応用するには容量を取るためにある程度の資料厚さの改善に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、企業との連携を進め、目標値の設定を含め、実用的にキャパシタに求められる特性を改めて確認されることが望まれる。
廃テトラヒドロフランをポリマー原料に転換する生体触媒の構築 広島大学
田島誉久
広島大学
田井潔
工業的に利用されるテトラヒドロフラン(THF)は、使用後には多大なエネルギーを必要とする化学的分解により処理される。THFを生物学的に分解し、ポリマー原料であるγ-ブチロラクトンに変換できれば省エネルギーな処理と物質変換が可能になる。本研究ではTHF分解微生物M8株の分解遺伝子の単離と機能を解析した。まず、M8株ゲノム配列よりTHF酸化酵素遺伝子群を単離した。次にγ-ブチロラクトンを生成する酵素遺伝子を探索し、THF資化条件下で高発現する遺伝子を候補に絞り込むことができた。今後、遺伝子の特定及び、これらを有機溶媒耐性微生物に導入し、THFをγ-ブチロラクトンに転換する生体触媒の構築を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、生体触媒の構築に必要な酵素群を絞り込み、それらを保持している株を明らかにしたことについては評価できる。一方、目的とする遺伝子の確定とその産物が生体触媒として好ましい性質を有することの確認に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術移転を目指した具体的な研究開発項目を整理されることが望まれる。
下水汚泥を高速・高収率に分解して電力変換するバイオ電池リアクタの開発 広島大学
柿薗俊英
広島大学
榧木高男
国内産業廃棄物の4割におよぶ余剰汚泥の処理には、現行の焼却法では原油高騰による焼却費の増大ゆえ、抜本的な汚泥処理技術の開発が急務である。本研究では、汚泥中の細菌同志に共食いさせる微生物燃料電池型反応器を用い、高速かつ高収率で汚泥を分解する技術を飛躍的に展開した。その結果、1) オゾンガスに比べて格段に安価で安全に利用可能なオゾン水を用いて汚泥細菌を前処理することで、汚泥の自己溶解速度を加速することを検証した。次いで、2) 炭素電極表面積を3桁以上に拡大したモール状極細炭素繊維を微生物燃料電池の負極に適用し、従来の炭素フェルト電極に比べて、10倍以上の高い電力変換率を達成できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に常温常圧下で下水汚泥を高速処理する技術の可能性を見出した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、ラボ試験で可能な基礎的な点は把握されており、実用化の可能性も示唆されているが、パイロットスケールでの実験の前に、ラボスケールでの長期運的の実施と課題の検討の上での実用化が望まれる。今後は、関連のある地方自治体下水道部局との連携によりパイロットスケールでのバイオ電池の稼働安定性と汚泥分解の有効性を検証されることが期待される。
高分子ミクロン粒子の低環境負荷製造プロセスの開発 広島大学
山本徹也
広島大学
伊藤勇喜
フェニル基を有するビニルモノマーを溶解させた水溶媒中に、油溶性重合開始剤を添加して、70℃でモノマーを重合することにより、負帯電の分散安定性の高い高分子微粒子が得られる。この系に、電解質を更に添加することにより微粒子を凝集させて、ミクロンサイズの高分子微粒子にまで成長させることができた。ミクロン粒子のサイズをコントロールし、単分散性の高いミクロン粒子調製のために最適なモノマーと電解質について実験的に模索した。その結果、非イオン性物質のみから構成される高分子微粒子の分散安定性は、モノマーに含まれるフェニル基上のπ電子雲が大きく関与している可能性が極めて高いという結論に至った。また、4-Vinylpyridineや1-Vinylnaphthaleneのような芳香族性を有するビニルモノマーでも分散安定性の高い微粒子が得られることが明らかとなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも短時間でミクロンサイズの高分子微粒子の作成において、種々の電解質添加の効果を明らかにしたことは評価できる。
一方、粒子径が大きくなるにつれ平均粒径ばらつきが増大することに対する改善や反応装置の開発などに対し、生成機構のメカニズムの解明など基礎的な取組みが必要と思われる。現在は基礎研究の段階ではあるが、今後は研究成果の社会的還元を目指しより具体的な目標を設定し研究開発を進めてもらいたい。
柔軟発電デバイスを用いた風力エネルギー・ハーベスティング技術 広島大学
陸田秀実
広島大学
伊藤勇喜
本申請は、申請者が開発した柔軟発電デバイスを用いて、新しいタイプの風力エネルギー発電方式を開発するものである。目標値は、1本のデバイス当たり平均発電量を0.5~1W/m2程度にすることである。本開発期間内において最大0.2W/m2(積層数2)の出力が確認された。また、構造解析および基礎実験結果より、積層数の増加、圧電素材間距離の拡大、最適弾性素材の選定による構造最適化を行えば、さらに発電量が2倍超となることが確認された。以上のことから、本課題の目標はほぼ達成されたと考えられる。今後の課題は、カットイン風速を1~2m/s程度にし、エネルギー回収効率をさらに向上させることである。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも新しいタイプの風力エネルギー発電方式において、デバイスのアスペクト比、構造様式、弾性素材等の発電性能パラメータの決定手法については評価できる。一方、目標値達成と性能向上に向けての具体的取り組み方針や、発電性能向上に向けた指針や設計ツールに関する具体的知見の提示に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、設定目標値が達成されるための具体的かつ革新的なアイデアを提案されることが望まれる。
高機能型亜リン酸デヒドロゲナーゼの分子改変によるNADPH再生系の開発 広島大学
廣田隆一
広島大学
榧木高男
NADPH再生系は、バイオプロセスにおける酵素反応の効率化と反応システムのコスト削減を可能にする重要な基盤技術である。しかし、既往のNADPH再生酵素は、反応効率や再生酵素の安定性、反応副産物等の問題など、実用レベルでの利用に多くの問題を抱えており、ほとんど実用化に至っていない。本研究では、申請者が取得した高機能型亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PtxD)を分子改変することにより、優れたNADPH再生酵素として開発することを目的とする。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、酵素タンパク質の構造的知見に基づくアミノ酸を置換した変異体により、NADPHの再生効率を20倍も高めた技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、別の技術との組合せを想定して更に改善すべき点(至適pH、至適温度など)を明確にすることなどでの実用化が望まれる。今後は、NADPHの再生により何を生産するのかを明確にされることが期待される。
VFP-CID映像コンテンツ透過番号管理システムの開発 広島大学
児玉明
広島大学
榧木高男
コンテンツ利用が急速に進み、映像コンテンツをTV、PC、モバイル端末等で横断利用可能なサービス統合化が急務の課題である。本技術には、コンテンツ特定技術が必須である。コンテンツのID(CID)付与は、編集・加工等改ざん時に元データ特定ができない。一方、電子透かし手法は透かしの有無の判別はできるが、CID特定ができない。そこで、情報特定を統合的に扱う画像内部の特徴情報を利用したVFP方式を利用して、本研究では、VFPとCIDを連携するコンテンツ透過番号システムを開発した。映像コンテンツの空間情報、時間情報の観点と、品質の観点からスケーラブル情報を活用し、特定精度、処理速度の観点からシステム性能を評価した。特に、動き情報を利用して、コンテンツ特定可能であることを確認し、また、リアルタイム処理が可能であることを示した。また、新たな番号システムにおいて、コンテンツの空間情報、時間情報、品質情報におけるVFPに基づいたCIDを割当てることで、コンテンツの内容から生成された番号を利用して、高速にコンテンツ検索・特定が可能であることを示した。本技術は、コンテンツ・品質管理システムにおける、システム内のコンテンツ検索にも利用可能である。さらに、他のコンテンツサービス分野への応用が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にコンテンツのID(CID)技術および情報特定を統合的に扱う画像内部の特徴情報を利用したVFP方式を利用してVFPとCIDを連携するコンテンツ透過番号システムに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、符号化されたデータの中から、特徴量を特定化することにより、CIDとしての確実性については評価しているが、リアルタイムでの実現については未だ十分な実証が得られていないことや、モバイル端末、ネットワーク分配、テレビ放送など、多様なメディアの広がりの中で新しい方式の信頼性、運用性について評価を進めての実用化が望まれる。今後は、コンテンツについては、国際的な協調が求められており、先行してイニシアティブを取るためにも、国際的な活動を積極的に進められることが期待される。
ゼオライト転換法による耐酸性ゼオライト膜の開発 広島大学
佐野庸治
広島大学
榧木高男
筆者らの開発した既存のゼオライトを出発原料に用いて目的のゼオライトを合成するゼオライト転換法を適用することにより、高選択・高透過流束・高耐酸性を兼ね備えた画期的な高シリカCHA型ゼオライト膜の調製に成功した。水/酢酸系の浸透気化分離において、本CHA型ゼオライト膜の透過流速および透過液中の酢酸濃度は、1700時間の長期耐久試験後においてもそれぞれ8 kg m-2 h-1および0.05 WT%以下であり、実用化レベルの安定した分離性能を示した。この高耐酸性はゼオライト結晶中の格子欠陥量が制御されてことに起因する。なお、透過流速および分離係数は、現在実用化されているLTA型ゼオライト膜と同等の値である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に既存のゼオライトを出発原料に用いゼオライト転換法により、高選択・高透過流束・高耐酸性を兼ね備えた画期的な高シリカCHA型ゼオライト膜の調製に成功するとともに水/酢酸系で優れた浸透気化分離性能と耐久性を達成し、研究成果を特許出願したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からはゼオライト膜の成膜時間の短縮や支持体の最適化を進め、酸性条件下での効率的な脱水が必要な工程の多いメタクリル酸メチル(MMA)製造などでの実用化が望まれる。
今後は本成果の産官学連携による実用化により、化学産業における脱水プロセスの省エネルギー化に貢献することが期待される。
二酸化炭素を効率よく吸収回収可能なイオン液体複合不織布の開発 山口大学
堤宏守
山口大学
LeeYongKyung(李鎔ギョン)
大量のCO2吸収能を有するものの高粘性のため効率的かつ高速なCO2吸収が困難なイオン液体(IL)の課題解決を目指した。極細繊維表面にIL極薄膜層を形成させた複合繊維からなる不織布を調製し、CO2含有ガスと接触しうるILの比表面積を増すことによりILへのCO2吸収を促進する方法を試みた。調製したIL複合極細繊維不織布のCO2吸収状態を水晶振動子マイクロバランス測定装置により測定したところCO2吸収に伴う重量増加に対応する速やかな周波数変化が観測され、IL複合繊維はCO2吸収能を有していた。今後は吸収性能のより高いIL複合繊維の探索や吸収速度評価について検討を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、特定のイオン液体複合不織布がCO2を吸脱着
することを検証したことについては評価できる。一方、CO2の吸収能に係る定量的な解析など実用化に向けた仕様の決定などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、企業との連携で、実際のプロセスを想定した開発項目に注力されることが望まれる。
非水電解質からの電析を利用したレアアース再資源化プロセスの開発 山口大学
吉本信子
山口大学
LeeYongKyung(李鎔ギョン)
本研究では、金属薄膜を低コストで大量に得る方法の一つである電析法に注目し、希土類磁石からの希土類金属の選択的溶出、選択的析出による、安全性が高く、リサイクル率の高い回収プロセスの開発を目標とした。希土類金属の選択的回収(電析)については、ジアルキルスルホンを溶媒とした電解浴から可能であることを見出した。しかしながら、希土類金属の選択的酸化溶解の最適条件の探索、NdとFeの効率的な分離回収については、当初の計画・目標を達成するには、もう少し研究期間が必要であることがわかった。今後は、電析物を薄膜状態で得るための条件の最適化を行い、希土類金属単独、あるいは希土類金属を含む合金の機能性材料への展開を進めていきたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも希土類磁石の再資源化プロセスとして電析法により希土類金属の選択的溶出・析出技術を検討し、希土類金属の選択的回収(電析)については、ジアルキルスルホンを溶媒とした電解浴から可能であることを見出したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本課題の基本となる希土類金属の選択的酸化溶解に係る基礎研究が必要と思われるとともに、研究の進展が期待される。
廃Siのリサイクルによる多結晶Si薄膜の電気化学的作製技術の開発 宇部工業高等専門学校
友野和哲
宇部工業高等専門学校
黒木良明
Siインゴットの切断加工時に大量に排出される廃Si(歩留り:50%)を電気化学的手法により再利用するプロセスを開発するものである。廃Siから合成したブロモシランを用いて多結晶シリコン薄膜を電気化学的に作製するプロセスを提案する。本研究では、熱力学的に安定なテトラブロモシラン及び廃Si由来のブロモシラン混合物をSi原料にして、電気化学析出を行った。XPS分析から析出したSiは、約300nmまで酸化されていることがわかった。電析浴温度変化から、浴温度を変化させることで膜の平滑性が向上した。これは、クロロシランとは異なり液体であるブロモシランが電析浴内で気化せず溶解しているための結果と考えられる。 当初期待していた成果までは、得られたとは言い難いが、技術移転につながる可能性が高まった。特に、廃Siをリサイクルし、ブロモシラン混合物をSi原料とする本研究は、新規であり、リサイクルの観点からも評価出来る。一方、製膜条件を達成したが、空気中暴露による酸化の進行やP導入の確証が十分でない等、課題も明らかになった。これらの課題を見据えながら、技術移転に向け、足らざるところを補い、データを蓄積し、研究を進捗させて欲しい。本研究課題は、市場ニーズも高いと推定されるので、今後は、特許を確立させ、企業化へ向かって更に研究を進展させることが望まれる。
廃バイオマス資源からのエタノール生産ための実用耐熱性酵母の非組換え育種 山口大学
星田尚司
山口大学
森健太郎
熱性酵母Kluyveromyces marxianusの多様な糖資化能をバイオエタノール生産に活かすために、交配育種によりラクトース資化能力の高い耐熱性株、および、セロビオースからエタノール生産できる株の獲得を目的とした。まず、K. marxianus株間で掛け合せにより生じた交配株を選択するために各株の栄養要求性株を取得した。この方法で獲得した要求性株は子孫の選択、子孫の再交配をもシステマティックに進めることのできる株である。K. marxianusを掛け合せと変異処理を組合わせ目的株の獲得を行った。セロビオースの資化性が向上した株は現れたが、明確なエタノール生産能の増加は見られていない。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、耐熱性酵母Kluyveromyces marxianusから、耐熱性とラクトース資化能に優れた株を取得したことについては評価できる。一方、セロビオースからのエタノール発酵株の取得に向けた技術的検討やセロビオースの資化性と発酵性の関係に係るデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、セロビオースからのエタノール発酵株を取得するための具体的な技術的課題を明確にされることが望まれる。
ホルムアルデヒドを選択的に計測するディスポーザブルセンサーの開発 山口大学
中山雅晴
山口大学
森健太郎
多孔性炭素をスクリーン印刷した市販のディスポーザブル電極やグラッシーカーボンディスク電極に、微結晶δ型二酸化マンガン薄膜を電析させた。グラッシーカーボン電極に被覆した二酸化マンガン薄膜は、水中のホルムアルデヒドに対して高感度、高選択性、速い応答速度を併せもつセンサーとして機能した。このセンサーは二酸化マンガンに一定電位を印加したときに特異的に起こるホルムアルデヒドの触媒酸化に起因する電流を計測するものである。従来の貴金属触媒とは異なり、メタノールなどの有機小分子には応答しない(=選択性が高い)。二酸化マンガン薄膜の析出条件や印加電位、溶液条件を系統的に変化させ、その特性を評価した。一方、スクリーン印刷カーボン電極は二酸化マンガン薄膜の析出には好適であったが、ホルムアルデヒドのフローインジェクション(連続注入)分析には不向きであった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも二酸化マンガン電極を用いたホルムアルデヒド検出下限値は約0.3ppmと他の電気化学センサより高い感度を達成できたことは評価できる。一方、技術移転に向け更なる感度の向上と当初のディスポーザブルセンサーとしての技術検討やデータの積み上げなどが望まれる。今後、企業へのシーズ紹介に留めるだけでなく積極的なニーズの発掘に期待したい。
電力品質保証機能を有する新しい電気自動車用双方向スマートチャージャの開発 山口大学
田中俊彦
山口大学
浜本俊一
本申請課題では、電力品質保証機能を有するPWM整流回路とチョッパ回路から構成される電気自動車用スマートチャージャを提案し、その実用性と商品性を検証した。はじめに、DSPを中核とする電源側で任意の力率が得られる無効電流制御機能を実現する制御アルゴリズムを構築し、電源側で任意の力率が得られるような無効電流制御機能を実現しながらスマートチャージャの変化器容量が32%低減できることを明らかにした。さらに、構築した技術移転対象である制御アルゴリズムをShマイコンに移植した。一方、技術移転対象であるIGBTを駆動可能なドライブ回路を構築し、安定なスイッチング動作が実現できることを実験により明らかにした。最終目標である構築したドライブ回路およびShマイコンを用いたシステム全体の動作実験については完了できなかったため、今後も引き続き研究開発を継続する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に理論的検討結果に基いて、プロトタイプの実験装置を製作し、電力品質について保証機能をもつ、自動車用の双方向スマートチャージャの要素技術について、機能を確認できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標である新しいデバイスを用いた検証実験と特許出願への取り組みが必要と思われる。今後は、実用化に向けて実施すべき技術的課題を着実に克服していくことが期待される。
超小型高密度エネルギー発生システムのための次世代マイクロ噴霧再生燃焼技術の開発 山口大学
三上真人
山口大学
浜本俊一
排熱利用による再生予熱型液体燃料適用マイクロ燃焼器を設計するための基礎実験として、気体燃料を用い、火炎定在化に及ぼす金属メッシュの役割、燃焼器各パーツ寸法および材質の影響、燃料の影響、燃焼器からの熱損失が火炎定在性に及ぼす影響を調べた。並行して、エレクトロスプレーモード改良に向け、エレクトロスプレー形成に及ぼす各種パラメータの影響を詳細に調べた。印加電圧、構造寸法、燃料流量などの影響より、マイクロコンバスターに適した条件を抽出した。この条件を燃焼器に適用することで、これまでの2倍の液体燃料流量でのマイクロ燃焼を実現でき、さらなる高負荷化および小型化への方向性が確認できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、燃焼器のさらなる小型化及び高負荷燃焼化のための手法にめどをつけた事は評価に値する。しかし、本技術開発は、基礎研究の確立段階にあり、技術移転の観点からは、電気制御可能な空気供給法の開発を行い、携帯用電源エネルギー要素としてマイクロコンバスターなどの実用化が望まれる。今後は、小型エネルギー源として展開が可能である故、優位性を明確化し、産学共同を含め、更なる発展を期待する。近い将来、企業化の可能性が高い楽しみのあるテーマであると評価する。
板磁石利用による減速機能を有する環境に優しい動力伝達機構の研究開発 阿南工業高等専門学校
原野智哉
安価な縦10mm、横10mm、板厚5mmのネオジム製板磁石を並列に直線配置した磁極長さの異なる磁石列間に、透磁率の高いSS400製の中間磁性媒体を配置した減速比1/3、1/6のリニア非接触駆動機構の開発に成功し、力密度300kN/m3すなわち最大荷重40N(推力1.5N)のリニア駆動が可能であることがわかった。また、駆動速度、板磁石厚さ、磁石列と中間磁性媒体との隙間(エアギャップ)、および中間磁性媒体幅が駆動性能に及ぼす影響も実験から詳しく調べたところ、板磁石厚さの増加や、エアギャップおよび中間磁性媒体幅の減少により、駆動力が2倍増加することが分かった。今後、エアギャップや中間磁性媒体幅などの寸法パラメータの最適化により駆動力の向上が見込まれる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本研究は、板磁石を利用した減速リニア運動機構の開発を目的として、実験装置の作成とそれを用いた基礎機能の確認に焦点を当て成果を得ていることは、評価できる。一方、技術移転へのステップとしては、例えば、減速比や伝達動力について、理論との差があること、種々の設計パラメータの影響の検討が必要なことなど、まだかなりの段階を経る必要があると思われる。今後は、現行のものとの比較から優位性を明確にする必要があり、実用化への要件を十分に把握することが必要であり、そのためにも具体的な共同研究先を具体化し、問題(ニーズ)を明らかにした取り組みが望まれる。
直並列インバータ方式による再生可能エネルギーと蓄電エネルギーの有効活用と制御手法に関する研究 徳島県立工業技術センター
酒井宣年
徳島県立工業技術センター
室内秀仁
近年、再生可能エネルギーの普及が拡大する中、太陽光発電などを単独でエネルギー源とする、独立出力を行うシステムも多く普及しているが、エネルギー供給量が比較的小さな場合、負荷急変時などに瞬時電圧低下が発生することが懸念される。またインバータ出力を用いた場合などでは定格容量内での使用でも無効電流成分により電流定格をオーバーすることでの電圧垂下が発生する。
そこで交流電力系統における瞬時電圧低下や垂下時などの電圧補償と無効電流補償を1台の電源で行う直並列補償型インバータを提案する。また、提案の補償装置に蓄電池などの直流エネルギー源を付加することで、発電エネルギーが不足している場合においても、不足分のエネルギー補償を可能とするシステムの検証を行った。
概ね期待通りの成果が得られ技術移転の可能性が高まった。特に、提案方式の制御法を確立し、それを用いた装置でその効果が示されたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、瞬低や他システムとの干渉の問題等、解決すべき課題がある。また、他システムとの連携の問題等以外に、パワーデバイス特性に依存する本方式の効率の問題なども整理しておく必要がある。研究成果に関する特許出願はなされていないので、概念特許は取得すべきであると思われる。
複合アニオンセラミックス組成制御によるPt代替電極材料の開発 徳島大学
森賀俊広
株式会社テクノネットワーク四国(四国TLO)
辻本和敬
本研究ではペロブスカイト型構造を有するLaTiO2N、LaNbON2やLaTaON2をベースとした酸窒化物の金属比やアニオン比等の組成比や任意の粒子径に制御してその電気的・電気化学的特性を明らかにしながら、固体高分子型燃料電池のカソードのPt代替となり得る酸窒化物を探索する。
研究開発実施期間内にはPt代替となり得る酸窒化物は提案できなかったが、平成19年度JSTシーズ発掘試験「赤から青へと色の制御が可能な新規酸窒化物光機能材料の開発と応用」にて真の赤色顔料が提案できていなかったが、今回、無機赤色顔料のベンガラ(Fe2O3)とほぼ同じ光学スペクトルを有するLaTi0.8Nb0.2(O,N)3やLaTi0.7Nb0.3(O,N)3酸窒化物試料を合成することに成功した。今後、Pt代替材料としての酸窒化物の研究も続けつつも、社会のニーズより大きい赤色顔料の作製に力を入れていきたい。
当初目標とした成果が得られていない。中でも固体高分子型燃料電池のカソードのPt代替となる酸窒化物の探索が目標であったが、見いだすことができなかった。
位相補正機能付センサレス制御高効率低騒音低振動電動バイク駆動システム 徳島大学
大西徳生
徳島大学
大井文香
一般の電動バイクは安価なホール素子を用いた位置検出による120度通電の方形波を基本とした駆動方式が採用されている。この方式は位置情報が段階的で方形波駆動のため、電流脈動が大きく、振動、騒音等の課題がある。
本研究では、位相追従形センサレス制御を簡易なホール素子センサと組み合わせ補正制御による正弦波PWM制御システムにより、センサレス制御で課題となっていた過渡変化にも追従できる低振動、低騒音、高効率の駆動特性に加えて回生動作も可能な省エネ電動機システムが実現できる特徴がある。この制御手法を電動バイクに搭載して、運転走行実験を通じて、高効率、低振動、低騒音等の駆動性能を確かめた。研究開発した電動バイク駆動システムは安価で実用的であり、技術移転の可能性を検証することができた。
概ね期待通りの成果が得られ技術移転の可能性が高まった。特に提案の駆動システムは、電動バイクの駆動回生を含む運転制御特性の改善や運転効率の改善および低騒音化に有効でありその成果は評価できる。一方技術移転の観点からは、地元企業に加え、大手の電動バイクの製造販売企業の参加により他の手法と比べたときの優位性を、コスト面や耐久性なども考慮して示す必要がある。今後は、電動バイクの市場拡大につながるシステム設計および実機による走行実験より電動機システムの低振動、低騒音、高効率の実現化を期待する。
3次元的に配光制御を行う植物工場向け高効率LEDイルミネーターの開発 徳島大学
山本裕紹
徳島大学
藤井章夫
本研究開発の目標は、直交ミラー素子によるLED照明光の3次元配光制御技術を植物工場分野への適用可能性を実証することである。今回、植物工場向けに量産と大型化が可能な設計により新しい直交ミラーアレイを設計し、ステンレスミラーを用いて試作した。LEDと直交ミラーを用いて緑藻類の育成で局所集光の効果を実証した。さらに3次元光分布を明らかにした。さらに、作業者の目に対する安全性(レーザーを用いても収束点の大きさは1cm以下にはならないこと)と植物工場向けのライン状の集光点の構成を実証した。これらはレンズやミラー素子による従来型の結像素子を用いた照明では不可能であり、提案手法特有の有効性である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に提案されたミラー素子を実際に作製し、その集光効果による植物の成長促進を、緑藻類を用いた育成実験により確認した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、従来法との比較や、ミラー素子の位置変化による生育状態の違いについて、実験的に検証することが望まれる。今後は、実際に植物工場で生育されている植物での応用研究を進めることが期待される。
人工ヌクレアーゼを用いたマウスゲノム編集技術の確立 徳島大学
泰江章博
徳島大学
平岡功
次世代遺伝子改変ツールとして注目されているZFN、TALENならびにCRISPR/Casシステムは、現在様々な生物・培養細胞(ES/iPS細胞を含む)で広く適用されてきている。
本研究では当初目標としていたTALEN RNAのマウス1胞期胚への導入による標的遺伝子破壊のみならず、今年になり報告されたばかりのCRISPR/Casシステムの導入にも即座に対応し、非常に高効率な両アレルの標的配列破壊を実現させた。我々は、これをホモ接合体マウスにおいて四肢欠損を呈することで知られるFgf10遺伝子を標的とすることで、明白な表現型により示した。
今後は、目標として掲げていたものの実現に至らなかったヒト疾患モデル動物のためのノックインマウス作製を検討していく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ヒト疾患モデル動物のためのノックインマウス作製には至らなかったが、TALEN RNAのマウス1細胞期胚への導入による標的遺伝子破壊は達成された。最新のCRISPR/Casシステムの導入も行い、非常に高効率な両アレルの標的配列破壊を実現させた。新規特許出願はなされていないが、遺伝子破壊に関する有用な成果を得た。本手法を利用すれば、患者ごとの疾患をマウスや培養細胞で再現することで、それらに対する個別の治療法や薬剤を開発することが可能となり、評価できる。一方、技術移転の観点からは、産学共同の研究開発ステップにつながる可能性は高まったと判断できる。 本課題で得た研究成果は応用展開できれば、社会還元に確実につながるので実用化が望まれる。今後は、より効率の良い変異マウス作成の技術開発を進めるか、本技術を用いて研究に有用なモデル動物や変異細胞の研究を進めることが期待される。
乳酸を原料とした構造制御高分子材料の創製 徳島大学
丹羽実輝
徳島大学
本那隆次
本研究は、水溶性構造制御高分子を自然由来物質である乳酸とアルデヒドから大量生産する方法および、その吸水性、有害金属の吸着能力の検討を行った。その結果、合成方法を工夫することにより、より優れた構造制御高分子の合成を容易に行うことができた。
また、高分子の吸水性については自重に対して1000倍以上の水を吸収する高吸水性ゲルを合成した。金属の吸着能力の検討では高分子の構造を制御することにより金属の種類によって選択的に吸着することがわかった。今後も応用研究を続け、生体・環境適合性材料および医療・サニタリー用品素材としての実用化を目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも新規な構造を持つ立体規則性・水溶性高分子の合成法の基礎研究として、また非塩素系溶媒を用いたモノマー合成法に関しては評価できる。しかし、目標であるこの高分子の洗浄能力、漂白殺菌力、吸水性ゲルとしての特性については具体的な成果が読み取れない。開発材の構造、物性およびこれらの相関を明らかにして従来材に対する位置づけを明確にする技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、開発された技術を具体的に活用できる企業との共同研究が期待される。
鉄鋼・触媒廃棄物からのバナジウム・モリブデン・タングステンの省力的かつ低環境負荷的リサイクル 徳島大学
薮谷智規
徳島大学
本那隆次
バナジウム(V)・モリブデン(Mo)・タングステン(W)は資源的有用性からリサイクルに向けた取り組みが国家的に推進されている。触媒・超硬鋼廃棄物に含有されるV. Mo, Wは大部分が再利用されておらず、少数の工程で対象成分の単離を行うための技術開発を実施する。
これまでに、鉄鋼試料には過酢酸-酢酸混合液、また、脱硝触媒には過炭酸溶液をそれぞれ溶離に使用した際にV, Mo, Wの良好な溶出を得た。さらに、V, Mo, Wと鉄系金属成分の一斉分離を試みたところ、アルカリ処理により上記3成分は溶液相に、鉄系金属成分は沈殿相にほぼ定量的に分配された。また、V, Mo, W吸着キレート樹脂充填カラムから非強酸・非窒素系水溶液により溶離を試みたところMo, Wのみが溶出された。
達成度としては、金属の溶出はほぼ予定通りであること、V, Mo, Wの分離はVの単離が成功しており、総合して90%としたい。10%の未達成分については、MoとWの単離について道半ばであることに依る。今後の展開として、レアメタル回収に関わる最新情報収集・成果移転とMoとWの分離効率の向上を目指して研究を継続する。
概ね期待通りの成果が得られ技術移転につながる可能性が高まった。レアメタル資源は世界中で渇望されている貴重な限りある資源である。レアメタルのうち廃棄物からのバナジウム・モリブデン・タングステンを強酸、強アルカリを用いることなく安全に回収する技術は評価できる。廃棄物中のモリブデン・バナジウム・タングステンが、2~3工程で分離可能であり、コスト・エネルギー的に有利である。ただ示された結果は、まだ実験室レベルであり工業化への具体的展望がほしい。今後は、単離方法を早急に確立し、実用化のために共同研究を行う企業を発掘して開発を加速して欲しい。
PM感応型ディーゼルエンジンターボチャージャシステムの開発 徳島大学
山中建二
徳島大学
藤井章夫
研究開発するセンサレス制御を用いた電動ターボシステムを用いて、ディーゼルエンジンに空気を過給し、排気ガスに含まれる黒煙(PM:粒子状物質)濃度を1/2~1/3以下にするとともに、10%以上の燃費向上または出力アップを目標とする。開発したシステムにより、黒煙濃度が約1/2以下と半減し、エンジン出力も約2割以上上昇し、当初の目標を達成することができた。しかし、これは小型のディーゼルエンジンを用いた実験にて確認したものである。今後この研究結果を生かし、自動車ディーゼルエンジンを用いて実機検証を続ける予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に開発したシステムを小型ディーゼルエンジンに装備した際、加速性能の改善と排気ガスのクリーン化の目標を達成している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、小型エンジンで電動ターボによる結果から、次には過給数を増やし自動車用エンジンへの適用を試みること、そして電動ターボの発熱等の対策として新たな制御方法の開発など、などでの実用化が望まれる。今後は、従来型排気ターボに対する本電動ターボの優位性の明確化や、最大のパラメータである燃費消費率を直接的に計測されることが期待される。
焼却処分から脱却する水溶性切削油廃水の省エネ型処理システムの開発 香川高等専門学校
多川正
香川高等専門学校
関丈夫
研究協力いただいたアクトと、水溶性切削油廃水処理向けの自動運転が可能な循環型嫌気性DHS処理システムを計画・設計し、装置化を行った。試運転の結果、散水部分やポンプ、充填する担体との廃水との接触など、システムとして重要な設計ポイントが判明した。実工場より排出される水溶性切削油廃水の水質分析を実施した結果、CODcrで40,000mg/L以上の高濃度であったため、20倍に希釈を行い、24時間の連続処理実験を行った。その結果、植種汚泥として容易に入手可能な腐葉土を懸濁してスポンジ担体に散水処理するだけでCODcrの除去が発揮され、処理時間6日程度で十分な処理水質(CODcr<600mg/L以下)が得られ、最終的には12日間でCODcr 230mg/L、除去率89%が得られた。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、環境負荷の少ない生物処理法の確立を目指して切削油を分解する微生物群の構築に成功した成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、協力企業と共同で、本技術の摘要可能範囲を明確にすると共に運転条件の最適化や処理後の残渣処理法も検討するなどでの実用化が期待される。今後は、シークエンサー技術による微生物群集の構造解析や切削油の成分分析も検討されることが期待される。
チェーン状鈴形中空金属球による新超軽量ポーラス金属成形体の開発 香川大学
吉村英徳
香川大学
小倉長夫
自動車等輸送機器において、CO2排出量削減・燃費向上のためのボディの軽量化と、衝突安全性向上のための重量増加の相反する課題を解決するには、部材の高比剛性、高比衝突エネルギー吸収性の向上が必須であり、その材料技術の一つに超軽量ポーラス金属がある。しかし、従来のポーラス金属はコストや性能面で実用化にまだ問題があり、これらを解決するため、安価な薄板材を使用し、分断されることなく等間隔に繋がった鈴形中空球を大量生産し、それを固化成形して安価、均質に作製することを提案した。試作を行って、圧縮および曲げの機械特性試験を実施し、配列方法に課題はあるものの、予想した性能を付与できることは証明された。今後、配列変化による性能評価・向上を図った後、モデル部材の試作に移行する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、計画していた実験装置の試作ができなかったが、成形体の特性評価を行い、圧縮は従来と同等以上、曲げに関しては曲げ外側で脆性的に割れることなく持続的にエネルギー吸収があることの目標はほぼ達成していることは評価できる。一方、次のステップに進めるためには安定したボールチェーンの成形が必要であり、そのためには手作り装置では不十分でプレス装置の試作を完成させる必要があると思われる。今後は、実用化に関して地域企業との連携が継続され、共同研究体制がとられようとしている現状であるので、量産化に向けた開発ステップに進むことが望まれる。
バイオディーゼル燃料用植物ジャトロファに含まれる抗酸化成分の探索 香川大学
片山健至
香川大学
狩野保
ジャトロファ搾油カスのMeOH抽出物有機層画分に抗酸化活性を見出し、それの植物油脂酸化防止剤として利用の可能性を示した。搾油カス試料をスケールアップして抽出・分画し、8種類のカテコール型のリグナン・ネオリグナンを単離・同定した。主要な抗酸化成分を充分量得て立体化学的性質を調べた。MeOH抽出物有機層画分のバイオディーゼルの酸化防止剤としての利用の可能性を検討した。単離物の合成も検討した。α-グルコシダーゼ阻害活性試験では、MeOH及びEtOAc抽出物有機層画分に強い活性を確認し、さらに、合成した3、3-ビスデメチルピノレジノールとイソアメリカノールAにエピカテキン以上の強い活性を認めた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ジャトロファ搾油カスを抽出・分画してバイオディーゼル燃料(BDF)の安定的な酸化防止剤として優れていることを明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、低コスト化と量産化に向けた技術開発及びBDFへの添加剤としての安定性と効果の持続性の評価をするなどでの実用化が望まれる。今後は、特許出願と実用化に向けたスケールアップデータを早期に取得されることが期待される。
高性能色素増感太陽電池電極表面デザイン技術の開発 香川大学
馮旗
香川大学
倉増敬三郎
本研究は色素増感太陽電池の逆電流を抑えるため、有機シラン系単分子膜によるTiO2電極表面修飾技術の開発を行い、開路電圧とフィルファクターを、それぞれ0.75 Vと0.65以上に向上させることを目標とする。各種有機シランを用いてTiO2電極表面修飾を行った。有機シラン単分子膜の形成により色素増感太陽電池の電子寿命、開路電圧、フィルファクターを向上できた。フッ素化アルキル鎖を有するFOS-C10F17は、もっとも有効的なシラン処理剤であり、開路電圧とフィルファクターをそれぞれ0.74Vと73.4%に向上することができ、目標値の開路電圧にほぼ達成でき、目標値のフィルファクターより大きく向上した。さらに色素太陽電池のエネルギー変換率を18%向上できた。今後、企業との共同研究を行い、本技術の実用化を進めていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に有機シラン表面処理をTiO2ナノ粒子に施し、色素増感太陽電池の開路電圧とフィルファクターをそれぞれ0.65Vと52.7%から0.74Vと73.4%へ改善している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、耐久性や退色性の確認、光電エネルギー変換効率の一層の向上などでの実用化が望まれる。今後は、期待される成果が上がりつつあるので、開発テンポを早めるとともに、具体的な応用分野を想定した開発が望まれる。
分光複屈折位相差断層イメージングによる生体成分の高精度定量化技術 香川大学
石丸伊知郎
香川大学
倉増敬三郎
提案する結像型2次元フーリエ分光光学系に偏光板を導入して、分光複屈折位相差断層イメージング装置を構築した。サンプルに分光複屈折位相差が既知である波長板を用いて、可視光領域での評価実験を行った。位相シフトにより変化する物体光偏光の1方向電界成分のみが検光子により透過されることにより、サンプルにより与えられた複屈折位相差量が、干渉強度変化の初期位相差として計測された。広帯域光源を用いているため、各波長の干渉強度変化がインターフェログラムと呼ばれる1つの信号として取得できた。これをフーリエ変換することにより、振幅項から分光強度、位相項から分光複屈折位相差量を同時取得することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に偏光板を導入することにより生体成分の3次元分布定量化を可能とした成果は評価できる。一方技術移転の観点からはハードウエアの小型化に試行錯誤の開発が必要であろう。臨床現場への応用からは、より高い精度が要求される。今後は、精度を高める次なる要素技術の開発をされることが望まれる。他方当初の目的外ではあるが、低い精度の測定で対応可能な「日本酒のグルコース濃度とアルコール濃度の同時計測への適用」に方向性が示されておりこちらについても技術移転ならびに社会還元が期待される。
セルロース繊維担持型パラジウム触媒の開発 愛媛県産業技術研究所
大塚和弘
愛媛県産業技術研究所
森川政昭
紙の原料として一般的に使用されているセルロース繊維の針葉樹クラフトパルプ(NBKP)をTEMPO酸化すると生じる同パルプ表面のカルボキシル基による金属吸着能に着目し、パラジウム(Pd)を担持させたセルロース繊維を作製した。この繊維は抄紙(紙漉き)を行うことによって、紙のようにシート化することができ、得られたPd担持シートは鈴木-宮浦クロスカップリング反応における触媒として有効に作用することが明らかとなった。同シートは触媒回転数(TON)100,000を達成し、繰り返し使用にも耐え得ることが分かった。一般的な抄紙過程と同様の工程で作製可能なシート状触媒となっており、目標としていた今後の実用化により即した研究開発結果が得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標に掲げられている触媒回転数(TON)100,000以上の性能を有するパラジウム固定化触媒をパルプ表面へのカルボキシル基の導入ならびに溶脱防止技術を組み合わせることで得られたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、さらなる繰り返し性能の向上、Pdを溶出させない最適イオン液体の解明、実機レベルでの抄紙機を用いた製造時の問題点の把握等、実用化に向けた課題の技術検討が必要と思われる。また、シート状触媒の応用や有用性を具体的に示し、産学連携展による実用化が望まれる。
今後、本研究成果を基に、紙製品がファインケミカル分野へ応用展開されれば、再生可能資源である木質バイオマスの利用推進、地球温暖化軽減に貢献することが期待できる。
柑橘精油抽出成分を用いた文化財害虫忌避剤の開発 愛媛県産業技術研究所
西田典由
愛媛県産業技術研究所
森川政昭
オゾン層破壊物質である臭化メチルの全廃に伴い、美術館等の展示収蔵施設では文化財害虫による展示収蔵品の食害が問題になっている。各種の防除法が検討されているがいずれも万能ではなく、天然物系の新たな害虫忌避剤が求められている。
一方、未利用資源である柑橘精油抽出成分が各種の害虫類に対し忌避性を示すことを、申請者らは明らかにしている。忌避性を示した害虫には文化財害虫に該当する種も含まれており、柑橘精油抽出成分は文化財害虫の防除にも活用できると思われる。
そこで本申請では、柑橘精油抽出成分の各種文化財害虫に対する忌避性を評価するとともに、柑橘精油抽出成分を活用した防虫剤の開発を行うことを目的とする。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、柑橘精油の抽出成分(リモネン抽出残分)が文化財害虫に忌避性を有すること、忌避性を持続させる方法と繊維製品や紙製品に影響を与えないことを明らかにしたことについては評価できる。一方、技術移転の観点からは、保護対象への影響の長期的評価と、有効成分の特定に基づく徐放性や有効濃度を明確にすることなどでの実用化が望まれる。今後は、植物のさく葉標本の保存などでの有効性、更には文化財保護という特殊用途以外への展開も検討されることが期待される。
水中で有機基質を選択的に水酸化する金属錯体内包ゼオライト酸化触媒の開発 愛媛大学
山口修平
愛媛大学
松本賢哉
炭化水素類の一段階で選択的な水酸化反応は極めて難易度が高いが、多段階プロセスの現行法より、用いる複数の溶媒や加熱・撹拌などに用いるエネルギーの低減が可能となる。水を溶媒として用いることで、有機溶媒が不要となる。さらに、過酸化水素を用いると、酸化剤からの副生成物が水のみとなる。本申請課題では、遷移金属錯体内包ゼオライト触媒を用いた水を溶媒とした炭化水素類の水酸化反応システムの開発を行った。ベンゼンの水酸化反応の結果、フェノール選択率90%以上、ベンゼン転化率約10%となり、目標値には及ばないが、クメン法での多段階プロセスの収率に匹敵する値が得られた。今後は転化率の向上を目指して開発を継続する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に選択性良く、シクロヘキセン・シクロヘキサンよりシクロヘキサノールを、ベンゼンからフェノールを、開発した遷移金属錯体内包ゼオライト触媒と過酸化水素から合成した点は、工業的に見ても価値があり評価できる。
一方、技術移転の観点からは、ゼオライト内包触媒の更なる改善や再利用など実用化に向けた検討を行い、ベンゼンの酸化によるフェノール合成など工業的に付加価値の高い反応での実用化が望まれる。
本研究は工業的、社会的に有用と考えられ、今後実用化の際には生成物の抽出等においても、グリーンケミストリー的視点が配慮されることが期待される。
発電プラントにおける海水漏れを検知する光化学式センサの開発 愛媛大学
板垣吉晃
愛媛大学
入野和朗
発電プラントでは通常、復水器の冷媒として海水を用いている。しかし復水器からの海水漏れが起こると管材の腐食など深刻な問題を生じる。したがって、海水漏れを迅速に検知するセンサが必要である。海水漏れの初期検知のためには10ppb程度の高感度センサが必要である。そこで本研究では極低濃度の塩化物イオン検知が可能な高感度センサ開発を目指した。本研究では検知方法として水晶振動子マイクロバランス法(QCM法)を用いた。QCM素子の金電極表面に金ナノ粒子(15nm)を化学修飾することにより検出感度が向上し100ppbレベルの塩化物イオン検知に成功した。これは、ナノ粒子修飾により塩化物イオンの吸着表面積が向上したためと考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、光学式センサーから、水晶振動子マイクロバランス法に変更して、目標に値近づく成果をあげた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、準備を進めている特許出願を進め、センサーの構造を改良することに、実用化につながる成果が得られると思われる。今後は、特許出願後、センサーの高感度化と企業等との連携により実用化が促進されることが期待される。
CFRPの放電アシストせん断切断技術の開発 愛媛大学
黄木景二
愛媛大学
入野和朗
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)積層板を切断加工する際、CFRPの高い強度と積層構造のために、工具の摩耗やCFRPの層間はく離が課題となっている。従来の加工技術は切断に長時間を要し、コストも高いため、高速、低コスト、高品質な切断加工方法の確立が求められている。そこで、本研究では、放電を用いて、比較的薄い(厚さ0.5~2 mm)CFRPを高速かつ高精度なせん断切断加工を機械的に可能にする技術の開発を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、放電を利用したCFRP板材の穴あけ加工について、技術基盤を確立したことは評価できまる。一方、技術移転の観点からは、刃の寿命、平行刃、高精度化、高速度化など、残された問題の解決が望まれる。今後は、地元愛媛県の炭素繊維関連創出事業と連携し、社会還元につながることが期待される。
キメラ細胞融合による高効率オイル生産藻の作出 高知工科大学
大濱武
高知工科大学
和田仁
油含量が乾燥重量の35-60%と高い事で知られている群体性の緑藻、ボトリオコッカスを用いても石油代替燃料の生産コストは1,000円/L程度程度となる。このような高コストの主因は、細胞分裂速度の速度が極端に遅いことにある。油含量が半分程度になっても、遺伝子工学的な手法によって、細胞分裂速度を倍化させることができれば、細胞数は指数関数的に増えるので、油の生産効率は大幅に上がる。 細胞分裂時間の大幅な短縮は、突然変異の導入では実現できない。これを実現するため、速い細胞分裂速度を持つ緑藻のクラミドモナスと、単細胞化したボトリオコッカス細胞を融合させてキメラ細胞の作出を行い、顕微鏡下でキメラ細胞の出現を確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、40%のプロトプラスト化率を得てキメラ融合細胞を作出したことについては評価できる。一方、薬剤耐性を持つ突然変異株の取得や共生バクテリアの増殖を抑制するための抗生物質耐性のボトリオコッカス株の取得などに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、他の細胞融合法についても検討するなど研究計画を再考されることも望まれる。
新規マイクロ波高活性化固体触媒の開発と、海藻バイオマスからのラムノース製造への応用 高知大学
椿俊太郎
高知大学
吉用武史
本課題では、大型緑藻類バイオマスに特異的な糖組成に着目し、マイクロ波照射法を用いることにより、迅速かつ環境に配慮した方法で大型緑藻類バイオマスを加水分解し、ラムノースやラムノオリゴ糖を得る触媒を開発した。ポリオキソキソメタレート錯体触媒(POM)は大型緑藻多糖の加水分解に対して硫酸や塩酸よりも高い活性を示した。続いて、POMをマイクロ波吸収性の固体材料(セラミクスおよび炭素材料)に担持して、マイクロ波エネルギーを吸収しかつ回収可能な固体触媒を調製した。特に活性炭担持型のPOMが水熱反応下においてマイクロ波吸収能が優れだけでなく、良好な酸触媒活性を示した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、大型緑藻類バイオマスの加水分解において、固体酸触媒の弱点である反応の遅さをマイクロ波を活用して克服すると共に容易な触媒回収を可能にしたことについては評価できる。一方、既存技術に対する優位性の明確化と目的の単糖への加水分解の達成に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、添加剤に加えマイクロ波の照射方法・混合触媒系・触媒と活性炭への担持率などの詳細検討と共に実用的プロセスを目指した企業連携も企図されることが望まれる。
印刷技術による有機-無機ハイブリッド熱電薄膜デバイスの開発 九州工業大学
宮崎康次
湿式ビーズミルで微粒子に粉砕した熱電材料を導電性ポリマーを含む溶媒に溶かしてインクとし、スクリーン印刷技術でポリイミドフィルム上に塗布し、発電デバイスとする。電気伝導度の高い実用的なマイクロ熱電発電デバイスを作製して環境発電技術へ応用する。これまで高真空パルスレーザー蒸着などランニングコストの高いプロセスが一般的に利用されてきたが、必要な最小サイズはミリオーダーであり、印刷技術でも大気中で容易にその構造を生成でき、厚膜としての利点も期待できる。唯一の欠点として、印刷で得られたデバイスは材料の充填率が低く、低い電気伝導度が実用化の課題として残っていたが、隙間を導電性ポリマーで埋めることで改善する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、熱電係数の高いデバイスの開発に期待通りの成果を収め、技術移転の可能性は高まっていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、モジュールの生成、熱処理温度と特性の対応の評価等によるさらなる性能の向上が望まれる。今後は、フレキシブル熱電薄膜デバイスはエネルギー関連分野で重要であり、社会還元に貢献することが期待される。
蓄電機能を有する金属酸化膜のプラズマプロセス技術の開発 九州大学
内野喜一郎
蓄電機能を有すると期待される2元金属酸化膜を、プラズマプロセスにより成膜する方法について開発研究を行った。そのような金属酸化膜には、フォトクロミック(PC)現象が現れることから、この現象を手がかりとして研究を進めた。まず、プラズマCVD法について検討した。超高周波(VHF)を用いたプラズマCVD装置を構築し、金属有機ガスからZnSiO薄膜を作製した。これにより得られたPCの領域は、数十mm2と基板の一部に限られた。プラズマCVDと比較するため、スパッタリング法とPLD(パルスレーザー堆積)法についても検討した。両方ともにPCの発現が確認されたが、スパッタリング法では堆積速度に難点があることがわかった。PLD法によれば、SnMgO薄膜において30mmサイズの基板全面でのPC発現と可視域での30%程度の光透過率を再現性良く得ることに成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも蓄電機能を有すると期待される2元金属酸化膜を、小面積ではあるがPLD法では達成している技術については評価できる。一方、当初目標である実用化に必要な大面積の成膜が可能な手法、即ちプラズマCVDやマグネトロンスパッタリングを用いる事に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが改めて必要と思われる。今後は、当初目標を達成し得る方策を見出されることが望まれる。
高効率フレキシブル太陽電池創出に向けたSiGe大粒径多結晶薄膜の低温形成 九州大学
佐道泰造
九州大学
猿渡映子
フレキシブル基板上に、複数のバンドギャップ(1,1、0.7eV)を有するタンデム型光吸収層(大粒径多結晶薄膜積層構造)を構築する為、非晶質基板上におけるSiGeの触媒誘起成長法を検討した。触媒(Au)を用いた層交換成長法を開発し、フレキシブルなプラスティック基板上に結晶方位が制御され、かつ大粒径(≧50μm)を有するSiGe結晶を形成するプロセス(~250℃)を開発した。更に、低温成長に適した触媒を探索し、低温(~150℃)におけるSiGe成長の端緒を取得した。高い変換効率(~30%)とフレキシブルな可搬性を兼ね備えた次世代太陽電池の基盤技術の構築につながる成果である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に技術的に困難であった、低温(150℃)でのSiGe結晶薄膜の成長、さらに250℃での成長では大粒径化を可能にしている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、低価格で、20%程度の太陽電池の可能性があり、フレキシブルなプラスチック基板上への太陽電池を検討されているので、150℃で大粒径のSiGe結晶薄膜の成長についての研究推進などでの実用化が望まれる。今後は、成膜したSiGe薄膜の光学的・電気的特性を評価されることが期待される。
電界紡糸法を用いた燃料電池用ナノガス拡散層の開発 九州大学
松本広重
九州大学
古川勝彦
家庭用電源・燃料電池自動車の用途に大きな普及が見込まれる固体高分子形燃料電池に用いられているカーボンペーパー・フェルトを置き換え、燃料電池を高性能化できるガス拡散層を開発することを目的として、電界紡糸法により紡糸した高分子繊維の焼成によるカーボンナノファイバーシートの調製プロセスの検討と燃料電池用ガス拡散層としての適用を試みた。紡糸によりPANファイバーを得ることができ、熱処理によりカーボンファイバーを得ることができた。燃料電池のガス拡散層として機能することが確かめられた。また、当初は撥水性のカーボンファイバーを得ることを目的としていたが、低温での熱処理において親水性のカーボンファイバーが得られており、これは予想外の興味深い成果であると考えられる。一方、抵抗値や膜の柔軟性、高温焼成時の微細構造の変化、MEAとの密着性が問題と考えられ、燃料電池用ガス拡散層として今後さらに検討の余地があると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも電界紡糸法によるPANファイバーを得てその熱処理によるカーボンナノファイバーシートを調製し、それを高分子型燃料電池用のガス拡散層として機能することを検証している技術については評価できる。一方、企業化には、燃料電池の性能向上の観点からガス拡散層の飛躍的性能向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、当初目標であるガス拡散層の電気伝導度の改善について評価検討されることが望まれる。
大気圧非平衡プラズマを用いたコア/シェル型シリコンナノ粒子の高速・精密合成法の開発 大阪大学
内田儀一郎
九州大学
古川勝彦
本研究では、リチウム(Li)イオン電池の高容量化を実現可能なコア/シェル構造シリコンナノ粒子膜の高速成膜を実現することを目標とした。この目標に対し、高圧ダブルプラズマCVD法を用いて、SiCナノ粒子の高速生成に成功した。また、SiCナノ粒子膜を用いて実際にLiイオン電池を試作した。その結果、従来型のグラファイト負電極Liイオン電池の約10倍の3000 mAh/g以上の初期容量を得た。また、10回の充放電後も3500 mAh/gを維持し、極めて良好なサイクル特性を達成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に大気圧非平衡プラズマ法でシリコンナノ粒子の高速生成技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の研究開発方針については検討されており、また調製されたナノ粒子の構造、組成、等のキャラクタリゼーションと他手法で得られたものとの差別された機能性の検討などでの実用化が望まれる。今後は、企業などとの連携を進め、電池活物質への応用において専門家との評価を進められることが期待される。
カーボンナノチューブ電極触媒を用いた燃料電池の高温化と耐久性評価 九州大学
藤ヶ谷剛彦
九州大学
山内恒
固体高分子型燃料電池(PEFC)の高温無加湿動作化(120 ℃~)は高効率化および低コスト化の解決策と期待されているが実現可能な材料系が見つかっていない。そこで高い構造安定性を持つカーボンナノチューブを触媒担体とし、無加湿下のプロトン伝導性を示す酸ドープポリベンズイミダゾールをハイブリット化した新規電極触媒を持つ独自の燃料電池システムの高温無加湿運転下の効率および耐久性について評価を試みた。その結果、200℃以上の発電は作製したセル部材の制約上測定が困難であったが、200℃までの発電特性の測定に成功した。今後は着手した耐久性測定を繰り返すことで~200℃における実用化可能性の評価を加速させる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも高い構造安定性を持つカーボンナノチューブを触媒担体とし、新規電極触媒を持つ独自の燃料電池システムの高温無加湿運転については評価できる。一方、本研究の中で得られた成果は作動温度120℃(またはそれより若干高い温度)の実用レベルの開発に活かすことが可能であると判断され、主要燃料電池メーカーとの共同研究による技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、作動温度120℃は既に商用レベルに近いので、先進的な研究開発としては200℃程度を目標として評価研究を推進されることが望まれる。
熱帯性食用ナマコの産卵誘発ホルモンの構造決定と種苗生産技術の開発 九州大学
吉国通庸
九州大学
古川勝彦
先行研究で、ハネジナマコの神経組織中に産卵誘発ホルモン活性候補として複数成分を絞り込んだが、精製量の不足から構造解明には至らなかった。本課題ではそれらの構造解明を目指し、精製材料であるハネジナマコ神経組織を100匹分以上に量上げすることを予定した。しかし、今夏の沖縄でのハネジナマコ漁は極めて不漁で、沖縄の漁業者から入手できた個体は10匹にも至らず、ホルモン活性検出の為の生物検定が実質上不可能であった。一方で、非食用ニセクロナマコの神経中にも同様の産卵誘発活性がある事、同活性は幅広い作用特性を有する事、新たに、排卵に関わる新規の生物活性が存在する事を発見した。今後、大量に捕獲できるニセクロナマコをハネジナマコの代替動物として用い、これらの解析を実施する事が可能となった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初予定のハネジナマコが入手困難となったが、それに代わるニセクロナマコにもハネジナマコの産卵誘発活性成分があることを見出したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、この物質の精製と活性検定、その後の応用範囲の確認などでの実用化が望まれる。今後は、資源管理が遅れている熱帯性食用ナマコの種苗の生産技術として沖縄県漁業の安定収入に繋がることが期待される。
SiCデバイス高温実装のためのNi系ナノ粒子による接続材料・技術研究 早稲田大学
巽宏平
早稲田大学
落合澄
ナノNiによる接合性について、従来ほとんど検討がなされていないが、ナノAgと比較して、耐食性、高温耐熱性にすぐれていることが期待される。従来明らかになっていた表面がAu以外のAg金属等についてもNiの直接接合が可能であることを明らかにした。またナノ粒子については、粒径、ペースト化条件による接合性評価を行った結果、いずれも100nm以下特に50nm程度のサイズのもので、接合性が良好であることを確認した。SiCデバイスの300℃での動作試験を行い、耐熱性を確認した。接合雰囲気については、還元雰囲気で、さらに強固な接合強度がえられているが、実用性を考慮して、大気中での接合の最適化にも注力した。STEMによる界面挙動解析も行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、耐熱性のあるNiナノ粒子を使った接合の良好な条件を明確にした点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標としている長期的な信頼性の試験の実施が必要である。今後は、自動車用の用途における信頼性の確保のためには、自動車メーカとともに、デバイスメーカとも協力して進めることが望まれる。
バイオガスSOFC用燃料極の流路加工技術に関する研究 佐賀県窯業技術センター
古田祥知子
公益財団法人佐賀県地域産業支援センター
安田誠二
バイオガス直接供給型SOFCは、次世代の高効率燃料電池として有望であるが、燃料ガス入口側で集中的に生じるメタン改質反応の強い吸熱効果により電解質材料に熱機械的ダメージを与えるという問題がある。これまで我々は、バイオガスの拡散性と温度分布を制御可能な流路付新規燃料極材料を開発し、500時間の安定動作を確認しているが、さらなる高性能化を目指して流路付セルの加工精度を向上させる必要があった。 本研究では、流路付新規燃料極材料の開発において、流路形成における成形・加工プロセスを精査し、精度を高めることで、スタック化への展開可能な流路付セルの製作が可能となった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもガス流路の切削技術、精度については詳細な検討がなされており、また、流路形成技術については評価できる。一方、より複雑な形状時の本手法の適用性や、他の加工・成形手法と比した際の本手法の有用性・経済性に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、バイオガス以外の燃料を利用するSOFCに対しても適用が可能だと思われるので、その方向性についても検討されることが望まれる。
新しい国内産業を興す可溶化ヘスペリジンの低コスト製造方法 長崎県農林技術開発センター
宮田裕次
長崎大学
坂田智昭
揉捻機を用いて、青ミカンと茶生葉を1:3の比率で20分間揉みこむ(混合揉捻物ヘスペリジン)ことで、ヘスペリジンの水溶性が高まることを明らかにした。製造したサンプルのヘスペリジン溶出率は熱水、エタノール抽出で差は認められず、有機溶媒を使用せずに効率的に抽出することができる。
今回、確立したヘスペリジン水溶性を高める製造技術は、従来の糖転移ヘスペリジン製造時間に比べ従来の糖転移ヘスペリジン製造時間に比べ1/30の時間で製造でき、製造原価の低減が可能である。
また、開発した混合揉捻物ヘスペリジンの水溶性は単体ヘスペリジンと比較して5,000倍であった。二次元DOSY-NMRおよびLC-TOF/MSを用いてヘスペリジンの可溶化促進に寄与する共存茶ポリフェノール類の検索を行った結果、テアシネンシンAの共存によってヘスペリジンの溶解性が約3倍増加すること、両者が水溶液中で安定した複合体を形成していることが判明した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。中でも青ミカンと茶生葉を混合撹拌する工程での成分変化及びヘスペリジン可溶化に及ぶすペクチン、カテキン等のポリフェノールの影響を解明し有機溶媒なしで熱水抽出ができるということを新規に見出し、製造時間の大幅な短縮と製造原価の低減が可能につながることを見出し製造条件を最適化したことは評価できる。 一方、技術移転の観点からは特許も出願されており水溶性ヘスペリジン含有原料や健康飲料として実用化が望まれる。
今後は、本研究成果が実用化された際には、ミカンの廃棄物に当たる摘果果実から有用品を創出でき社会還元が期待される。
低速回転で高効率を実現するアウターロータ型レアアースレス発電機の研究 長崎大学
樋口剛
安価で、高効率、低ディテントトルクの定格150 rpm、200 VA程度の風力発電用レアアースレス永久磁石発電機の設計に関する基礎研究を行った。まず、ロータ側に配置するフェライト磁石をハルバッハ配列すると高出力が得られることを確認し、三次元磁界測定装置の製作と実験及び解析結果の比較、磁石の構成や寸法と特性の関係を検討した。次に、アキシャルタイプの固定子側電機子コイルに圧粉磁心を挿入して特性を向上させる時の圧粉磁心の磁気特性と特性の関係を検討した。さらに、ディテントトルクを低減するための磁石設計や不等ピッチ巻線法の効果を検討した。今回の研究成果だけでは製品化に即移行できる段階ではないが、さらに実用化研究を続け、目標とする発電機の最適設計法の確立と実験機による特性検証を行っていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ディテントトルク軽減に関する基礎研究とそれに関する実験機製作をおこない、解決すべき課題がより明確になり、具体性の高い計画のもとに研究を進めうる基盤ができたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、最終的な発電機の最適設計と試作機による特性評価にいたっていないので、さらなる研究の進展が望まれる。今後は、企業化に向けた実用研究が進み技術が確立すれば、風力のみならず水力発電機、特に潮流発電機やマイクロ水力発電機への転用が見込まれので、研究計画全体にわたる企業との共同体制を構築し、実用化に進むことが期待される。
グリーンイノベーション世代のDC-DCコンバータの開発研究 長崎大学
黒川不二雄
長崎大学
坂田智昭
CO2削減あるいは電力の安定供給のために省エネは緊急の課題である。そのためには、再生可能エネルギーのための電力変換器や情報機器等の様々な機器の電源部を構成するために必須のDC-DCコンバータの電力効率の向上、省エネ化が重要である。しかし、DC-DCコンバータでは軽負荷時や待機時には電力効率や過渡応答の低下という本質的な問題が生じる。近年、実質的な運用の面から従来は問題視されなかった軽負荷時や待機時の電力効率の向上が求められ、この本質的な欠点の克服が課題となっている。本研究では、待機状態と稼働状態を2%以下の電圧の変化で、しかも200μs以下で急峻に切り替えることを可能にし、並列接続したDC-DCコンバータをエネルギーマネジメント技術で適切に切り替えることで軽負荷時での効率を30%改善できるディジタル制御方式を確立した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に軽負荷時における消費電力を30%削減することができた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、他のコンバータとのコストを比較する必要があると思われる。今後は、コンバータの効率化は産業界が注目している重要なテーマであり、コストメリットの考察を踏まえて実用化へ進めていくことが望まれる。
グリセリンの有用キラル合成素子への変換 長崎大学
尾野村治
長崎大学
石橋由香
近年、バイオディーゼルの急速な普及に伴いグリセリンが余っており、その有効利用が求められている。本課題ではグリセリンのキラル合成素子への変換反応の開発を目指した。検討の結果、キラル銅触媒によりグリセリンの1級水酸基を高効率に不斉モノスルホニル化し、光学活性グリセリンモノスルホネートに変換できる反応を見つけたので、化学会社と共同で11月18日に特許出願した。
一方、グリセリン類縁体であるグリシジルアルコールをスルホニル化によって光学分割し、医薬中間体として有用な光学活性グリシジルスルホネートを得ることにも成功した。こちらも特許出願を目指し、基質一般性の確認と、光学分割の効率を高めるべく検討中である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、比較的簡単な触媒系で選択的にグリセリンの1位置換体を合成し、企業と特許を共願したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、触媒量の低減や高選択性のグリシドール誘導体の合成検討を加えるなどでの実用化が望まれる。今後は、ターゲット化合物の市場調査に基づくコスト計算など、実用化に向けた課題を明確にすることが期待される。
硫酸化セルロースを用いた形態制御可能な全有機系透明導電材料の開発 熊本県産業技術センター
堀川真希
本研究では、セルロースフィルムおよびセルロース微粒子を基材に用いて、表面へPEDOTを複合化させることによって、One ステップで導電性に優れた全有機系透明導電膜の作製を目指した。具体的には、硫酸化セルロースフィルムと硫酸化セルロース微粒子にPEDOTを複合化させて、フィルム状および球状の導電性材料を調製することに成功した。申請者が以前開発したPEDOT/硫酸セルロースの水分散液から得られるキャスト膜の導電性には及ばなかったものの、既存のPEDOT/PSS以上の導電性能を確認できた。今後、PEDOT複合化量等を最適化して、導電性をさらに向上させて、電子デバイスへの応用を検討していく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも硫酸化セルロースフィルム、同微粒子、PEDOTの複合による透明導電膜の作製に成功した点は評価できる。一方、先行品に対する性能、コストの優位性の実証、性能/コスト面でも技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ユーザーからの意見を取り入れながら、応用分野を探索されることが望まれる。
光ペンシル書換型リライタブルペーパーの開発 熊本大学
栗原清二
熊本大学
緒方智成
高分子材料を用いた光ペンシル書換型リライタブルペーパーの実現化のために、ペーパー材料が紙代替媒体として要求される性能を満たす材料の開発を目指し、特に書込速度の高速化のための光応答性高分子材料開発を次の2つの観点から行なった:(1)光応答性に及ぼす主鎖と側鎖間のスペーサー長効果、(2)非光応答性側鎖の共重合による光応答性分子の濃度低下の効果。(1)より、メチレンスペーサー長が6の場合が最も応答性が良好であることが明らかとなった。(2)メチレンスペーサー長が6の光応答性高分子の共重合効果を調べたところ、アゾベンゼン分子濃度の低下により書込速度の短縮化を達成できた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも技術的課題を明らかにし、光書込ができるペーパー型媒体の開発の可能性を見いだした点に関しては評価できる。一方、高速な光応答性高分子材料の探索研究など、基本原理の確認と修正改良に向けた検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、連携できる企業と共同開発することにより一日も早く実現させることが望まれる。
蛍光材を不要とする酸化スズ白色発光ダイオードの開発 熊本大学
中村有水
熊本大学
東英男
現行の白色発光ダイオードは、窒化インジウムガリウムを発光層とした青色発光ダイオードと、青の補色である黄色蛍光体の組合せによるものであるが、インジウムの枯渇が懸念され、代替材料の開発が急務とされている。我々は、酸化スズの熱処理後における光学特性を研究する過程で、無添加酸化スズ自体から白色の発光が現れることを見い出した。本研究では、酸化スズをベースとした、蛍光材を不要とする白色発光ダイオードの開発を最終目的としている。なお、過去に半導体母材から白色光を得た報告は無く、これが実現すれば画期的な成果と成り得る。
本研究期間で得られた成果としては、真空蒸着で形成した酸化スズ薄膜の熱処理温度が高いほど、同薄膜からの発光強度は大きく、その発光メカニズムとして酸素欠損が有力であるという知見を得たことである。また、ミスト化学気相成長法で形成した場合、真空蒸着の場合よりも結晶粒径が大きくなり、発光強度も向上している。この理由としては粒界におけるキャリア再結合の抑制のためと考えられる。これらの結果をベースとして、今後、白色発光ダイオードを実現する予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも酸化スズの成膜、熱処理条件を調べ、白色発光を確認し、白色発光の機構として、高温熱処理による酸素欠損の形成、その準位からの白色発光を提案した点に関しては評価できる。一方、酸化スズからの白色発光の強度の確認と材料の結晶化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、コストや性能の目標を具体的にして、企業との連携が強化されることが望まれる。
水中衝撃波を利用したバリ取り加工技術の開発 崇城大学
白本和正
爆薬の水中爆発によって発生した高速水流の水撃作用で、主穴(直交穴)内に生じているバリを切除する方法について導爆線を用いた新しい装置を考案、試作した。実験では、主穴内に流入する水流の速度が従来の方法での約460m/sから860m/s 程度に大幅に向上できた。そして、バリ発生面に沿った上から下への水流が止まり穴終端で反対側に沿った下から上向きの流れに反転したことを確認した。また、バリ取り加工実験で止まり穴終端近くのバリも完全に除去することができた。
今後、主穴がもっと細く深い場合に挑戦し、そして、多数個の同時バリ取り作業の実現する装置の開発に取り組んでいきたい。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、水中衝撃をバリ取りに利用するという着想は特異的であり、 高速水流の速度を460m/sから860m/sに高めることに成功したことは、評価できる。一方、未達成、未実施の項目も多い。トライアンドエラー方式の実験をしており、数値シミュレーション技術なども利用して、技術的課題をクリアするための方法を探る必要があると思われる。今後は、今回の研究で構築しようとしている交差孔のバリ取りについては、簡単かつ低コストの技術がなく、今回の技術が確立されれば、応用される機会は多く、社会に貢献すると考えられるので、より緻密な研究計画、研究目標を設定して、課題解決を進めることが望まれる。
レアメタルを含まない低級鋼を表面硬化する大気圧プラズマ技術 大分大学
市來龍大
大分大学
江隈一郎
金型や自動車部品の表面硬化に適用される窒化処理は、クロム、バナジウム、モリブデンなどの多量のレアメタルを含有する鋼にのみ有効である。本課題の目的は、大気圧下で発生させたパルスアーク型プラズマジェットを低合金の低級鋼に照射することにより、鋼の表面への「窒素原子拡散」と「焼入れ」を同時に達成し、レアメタルを使わず表面硬度の高い部材を得る新規浸窒焼入れ法の開発である。結果として、大気圧下でのプラズマ浸窒焼入れが原理的に可能であることが実証された。今後は現状よりも均一な硬化層を形成すべく最適なプラズマ源を開発し、完全ドライプロセスでの大気圧下浸窒焼入れを目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、大気圧下でのプラズマ浸窒焼入れを原理的に実証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標値の達成と残った課題である硬度および深さの均一化に関する研究を継続し、技術移転につなげることが望まれる。また、熱応力による変形を押さえる対策についても検討が望まれる。今後は、実験では大気圧の利点に反する簡易チャンバーを設けているが、残留酸素による窒化プロセスへの影響は否めない。酸素を有効的に活用する、革新的な窒化用大気圧プラズマ源の課題解決が期待される。
グリーンかつ安全なキラル化合物合成を志向したキラルイオン液体型触媒の開発 大分大学
信岡かおる
大分大学
廣田賀生
現在開発された医薬品の半数以上を占めるキラル医薬品合成における問題点は"コスト高"、"有機溶媒の大量消費による環境および作業環境での危険"、"多大な労力"である。この問題の解決方法として、液体の塩であり、環境に優しく安全性の高い"イオン液体"をキラル触媒および媒体とする選択的キラル合成システムの開発を行った。 具体的には、天然のキラル化合物を原料に、リサイクル可能な室温で液体の塩であるイオン液体型のキラル触媒型媒体を複数開発し、触媒固定化法も取り入れた反応プロセスの構築に成功した。今後は低コスト且つ安全安心でグリーンなキラル医薬品・材料開発プロセスとして、医薬材料・環境・エネルギー面から幅広い技術移転を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、不斉マイケル付加反応、不斉[4+2]環化反応、不斉マンニッヒ反応にキラルなイオン液体を触媒として適用したことと触媒の固定化も成功したことについては評価できる。一方、技術移転や実用化に向けた具体的な課題抽出と計画の策定、それらに基づく技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。本研究のアイデアは独創的で有用性も高いので、今後も、基礎的な積み重ねを継続されることが望まれる。
環境保全型ダイズ生産のための植物微生物共生生態に関する基礎的研究 宮崎大学
佐伯雄一
宮崎大学
小林太一
本研究では、日本ダイズ品種由来Rj遺伝子集積ダイズ系統への有用根粒菌Bradyrhizobium japonicum USDA110株の競合菌株存在下における根粒占有率評価を行った。その結果、Rj遺伝子集積ダイズは、親品種と比較して、競合根粒菌の感染を抑制し、USDA110株の高い根粒占有率を示した。また、海外品種から育成したRj遺伝子集積ダイズと比較しても、その有用性が確認された。しかし、USDA110株の接種試験では、土着根粒菌の占有率が高く、接種根粒菌の占有率は低い値に留まった。これらの結果から、Rj遺伝子集積ダイズの有用性と有用根粒菌の競合能強化を図る接種資材開発の必要性が示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、Rj遺伝子集積ダイズと高窒素固定能と完全脱窒能を持つ根粒菌株USDA110の組合せによりUSDA110が高い根粒占有率を示すことを示した点については評価できる。一方、多様な土壌環境における根域菌相の制御や、安定的な摂取効果が期待できる資材の開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術移転に向けた無形資産のパッケージを構成すると共に特許出願と整合させた研究開発目標を検討されることが望まれる。
内部貫通孔を有するカプセル型抽出剤によるレアメタルの高効率回収 宮崎大学
塩盛弘一郎
宮崎大学
和田翼
W/O/Wエマルションを出発状態として有機相でジビニルベンゼンを重合して内部に連結した球状孔を有し抽出剤を内包もしくは含浸担持した多孔質マイクロカプセルおよび微粒子を調製した。レアメタルの抽出剤として2-エチルヘキシルリン酸モノ2-エチルヘキシルエステル(PC-88A)、ニッケルの抽出剤として1-(2-ヒドロキシ-5-ノニルフェニル)エタノンオキシム(LIX84-I)、貴金属の抽出剤としてトリ-n-オクチルアミンを内包もしくは含浸担持させた。内包率は、マイクロカプセルの場合が最大約30%および多孔質微粒子の場合が最大60%と高かった。連結球状孔の無い微粒子を用いた場合に比べ、連結球状孔を形成させた方が抽出速度は、早くなった。バッチ法およびカラム流通法により目的とする金属を抽出分離できることを実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にレアメタルの高効率回収法として内部貫通孔を有する樹脂の開発と抽出試薬を高内包率で含有する吸着剤を開発したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、内包抽出試薬の分布、流動性評価、分光学的特性解析に加え、実廃液からのレアメタルの回収、スケールアップなど実用化に向けた技術的な取り組みが望まれる。また、既存のレアメタル回収法と比較して、本法の優位性を明確にし共同研究先企業の探索が望まれる。
ミミズによる簡便な焼酎粕の堆肥化と新規機能性物質の探索 鹿児島大学
横川由起子
鹿児島大学
中武貞文
焼酎は鹿児島県の特産品であり、製造時に排出される焼酎粕は産業廃棄物の一つである。焼酎粕の有効利用法として、シマミミズを利用した簡便な堆肥化、および堆肥化過程で生産される有機物の抽出と、GC/MS、HPLCによる分析を行った。堆肥化は黒土に焼酎粕を混ぜ、シマミミズを投入し、約2か月間ミミズによって分解させるだけである。堆肥化の途中で堆肥化土壌から試料を採取し、水、酸、アルカリおよび有機溶媒で抽出した。有機溶媒による抽出物は、GC/MSで分析し、水系の溶媒による抽出物はHPLCによって分析した。GC/MSによる分析やHPLCの有機酸分析では、ミミズによる堆肥化土壌にのみに含まれる化合物が検出された。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、生成した堆肥化土壌中の窒素、リン、カリのバラツキを解決する方法、堆肥中に植物生育に必要な微量元素の分析、堆肥からミミズだけを効率良く取り出す方法、堆肥化土壌中の成分分析の点に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。
グリセリン廃棄物を副生しない廃食油からの軽油代替燃料製造技術の開発 鹿児島大学
甲斐敬美
鹿児島大学
中武貞文
廃食油の有効利用の観点から、油脂とメタノールと反応させて、軽油代替燃料であるバイオディーゼル燃料を製造する方法が普及してきた。しかし、このプロセスには用途のないグリセリンが副生されるという欠点がある。本研究では、メタノールの代替として炭酸ジメチルを使用することで、グリセリンを副生せず、触媒以外の物質がすべて燃料として利用できる実用的な製造方法の検討を行った。本研究においては、ナトリウムメトキシド触媒の新規な調製方法により動粘度等の物性が通常のバイオディーゼル燃料に対するJIS規格を満たすような燃料を常圧、90℃以下の比較的温和な反応条件で、分離工程まで含んで8時間未満で製造する方法を確立した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも触媒2wt%以上、DMC/油脂3倍以上の反応条件を示しているが、工業的に採用するには余裕がなく、ラボスケールにおける軽油代替燃料製造のための操作条件については評価できる。一方、ナトリウムメトキシドを固体触媒で利用する本反応では、触媒表面の変質による大幅な活性低下の可能性があり、反応条件範囲の明確化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、触媒の活性低下原因を解明し、触媒量を大幅に下げる、もしくはリサイクル使用、DMCの量論量使用などを可能にすることで、大幅なコストダウンの可能性を示されることが望まれる。
先進的太陽光発電電力予測による蓄電設備容量推定手法の開発 琉球大学
與那篤史
琉球大学
玉城 理
本課題では年間各月において太陽光発電の運用に必要な蓄電設備容量を気象予報値の補正による太陽光発電電力予測誤差から推定することを目標とした。本課題では沖縄県を対象としており、太陽光発電電力予測誤差の原因がデータ欠損等の場合は不確定であるが、太陽光発電電力予測値及び実測気象値の解析によって定性的に検証した。既存の電力系統では負荷需要予測誤差を考慮した運用されていることから、本課題では対象とする太陽光発電設備及び蓄電設備による合成出力電力変動が負荷需要予測誤差を補償できるレベルで推定できることを目標とし、太陽光発電電力予測値及び実測気象値の解析による蓄電設備容量の推定手法を開発するとともに、その有効性を検証した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも発電電力誤差予測と誤差補償を組み合わせた技術を組み込んだシステムについては評価できる。一方、発電電力誤差予測技術を、当初設定した目標を達成できるレベルまで縮小するための改善をはじめ、実システムでの有用性の検証に向けた技術的検証や、データの積み上げが必要と思われる。今後、技術移転に向け、電力や他のメーカーも含めた実用化のための検討を進められることが望まれる。

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