評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成25年2月公開 - 無機化学分野 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
自然な腐食反応を活用したアルミニウムアルコキシドの製造法の開発 室蘭工業大学
世利修美
室蘭工業大学
加賀壽
セラミックス材料や触媒等の前駆体として広く知られている金属アルコキシドは高価であるため、実際に製品化されている場合はそう多くは無い。本研究の目標は、有機溶媒中の金属の腐食加速現象を実験的に調べ、腐食生成物の一成分として得られる金属アルコキシドを安価に生産する手段を提示することにあった。具多的には金属種をアルミニウムに絞り、アルコール中での腐食挙動を試行錯誤的に調べた。その結果、アルミニウムアルコキシドは健全な酸化皮膜が生成しない、あるいは生成しにくい溶媒中で数時間加熱還流すると得られることが分かり、初期の目標はほぼ達成された。今後はアルコキシド単品ではなく複数のアルコキシドを混合した複酸化物の合成に展開していきたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。金属種をアルミニウムに絞り、そのアルコール中での腐食挙動を試行錯誤的に調べるという研究の中で、過去の研究実績をもとにして市販と同じ純度の目的物を作製するという目標が達成され、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。収率を含めた製造コストに関する検討の実施及びこれまでの研究成果の特許化をすすめることが望ましい。、今後は、産学連携による共同研究開発を行い、その中で市場調査及び他の技術と比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化につながつものと期待できる。
構造の乱れが生み出す高機能希土類材料の開発 室蘭工業大学
雨海有佑
室蘭工業大学
鴨田秀一
アモルファスCe-Mn合金は、その組成比によって幅広い温度領域で巨大な熱膨張係数が観測されている。この合金に対し、元素置換や外場によって熱膨張を制御することが可能であるかどうかを検討した。今回、Ceを同じ希土類元素で4f電子を持たないYで置換したアモルファスCexY80-xMn20合金を作製し、熱膨張及び低温比熱、磁場中での基礎物性を評価した。その結果、熱膨張係数は、Y置換によって抑制され、Ce(4f電子)の濃度によって熱膨張係数が制御できることがわかった。また、磁場の印加によって伝導性に大きな影響を与えないが、大きな磁気比熱が観測された。本研究の結果から、元素置換や外場は、巨大熱膨張の制御に有効であることがわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。 当初目標のうち「様々な濃度のアモルファスCe-Mn合金を作成し、熱膨張と比熱を広い温度範囲で測定し、巨大な熱膨張などの起源となる電子状態を明らかにする」は達成されているが、「その磁場や圧力による外場応答制御の可能性を調べる」という目標は達成に至っていない。探索研究の成果としては評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、残された課題の解決に向けてデータを積み上げることで、センサー等新たな材料開発への足掛かりとなることが期待できる。
液中プラズマによる水からの金属イオン捕捉・分離 北海道大学
米澤徹
北海道大学
須佐太樹
本研究開発において、水中に溶解したアルカリ金属イオンならびにアルカリ土類金属イオンを液中プラズマ法によって金属酸化物ナノ粒子に捕捉させ、不溶化し、水から分離させることに成功した。酸化物ナノ粒子を水中に懸濁させた場合でも、金属棒にプラズマを照射しその場で金属酸化物のナノ粒子を合成する場合でも、これらの金属イオンの多くはナノ粒子内に捕捉されることが明確となった。この点において、研究開発は成功したと言うことができ、すでに本手法について特許出願を行い、学会発表し、論文投稿を準備している。また、得られたアルカリ金属ドープ金属酸化物ナノ粒子はレーザー脱離イオン化質量分析法(LDI-MS)に有効なイオン化支援剤となることが見出された。これによって、従来LDI-MSでは検出できなかった薬物の検出が可能となり、安心・安全な社会の構築に資することが見出された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に水からの金属イオン捕捉・分離の技術開発において、製造技術としてのポテンシャルが十分に示されており、具体的な企業との共同研究開発計画も示されている。実用化に向けた探索研究yの成果としては十分に評価できる。また、研究成果を特許として出願している。発展展開への具体的な課題も示されている。一方、技術移転の観点からは、今後の研究計画は明かとなっており、発展性のある製造プロセスであることから実用化の可能性は高まってきている。今後は、具体的に示されている産学連携による共同研究開発を実施することで社会貢献につながることが期待される。
量子ドットを利用したスーパーキャパシタ用木質炭素材料の開発 北見工業大学
鈴木勉
北見工業大学
内島典子
市販活性炭の性能を凌ぐFe量子ドットKOH賦活木炭のスーパーキャパシタ電極性能のさらなる向上
を目指してFe添加量と賦活条件を変え、後処理(粉砕、酸洗浄)を行った。その結果BET表面積が2500m^2
/g以上に達し、2-4nmのメソ孔が選択的効果的に増加する条件、工程は見つかったが、無機、有機
電解液中の性能はもはや向上しなかった。これは細孔構造の優位性を生かす電極作成法が不備のためと推測される。なお、量子ドットの主たる役割がメソ孔発達であることはNi、Co、Cuを使って確認され、
いずれの金属種も疑似容量として作用しなかった。Cu量子ドットを使用する電極炭素の性能は、Feよりやや劣るが市販活性炭の1.8倍であり、賦活収率の高さと金属の回収-再使用の容易さから、実用生産は有望と考えられる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標とするFe量子ドット使用したスーパーキャパシター電極性能の向上には至っていないが、Cu量子ドットを使用した場合、性能向上に成功していることから実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。技術に対して興味を持つ企業情報の収集も実施している。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携の枠の中で市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化につながることが期待できる。
金属水酸化物と水和酸化物を複合化したスマートウインドウ用電極材料の開発 北見工業大学
阿部良夫
北見工業大学
内島典子
スマートウィンドウ用の新規エレクトロクロミック電極材料の開発を目的として、Co及びNi水酸化物と Nb及びZr水和酸化物との複合膜を作製した。これらのエレクトロクロミック特性を比較した結果、Co系 複合膜に比べ、Ni系複合膜の方が大きな透過率変化と高い着色効率が得られ、Zr濃度11%の NiOOH-ZrO 2・nH2 O複合膜では、波長600nmにおける透過率変化が70%、着色効率が29cm2 /Cと最も 良いエレクトロクロミック特性を得た。この複合膜は、pH=4の弱酸性水溶液電解質中でも800サイクルまで着脱色を繰り返すことが可能であり、複合化によりサイクル耐久性が大きく改善されることを明らかに した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に水酸化物、水和酸化物の複合膜の作製に成功し、その薄膜がエレクトロクロミック特性を示すことを実証しており、当初目標を達成したものと評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。耐久性の課題等についても解決のための研究開発計画が具体的に示されている。多くの企業へのプレゼンテーションの実施も評価できる。今後は、産学連携の枠の中で市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化につながることが期待できる。
高磁束密度と高電気抵抗を有するFeSiBPCuナノ結晶合金の創成とその応用化基礎研究 弘前大学
久保田健
弘前大学
上平好弘
モータやトランス部材として革新的省エネ化に資する軟磁性合金材料の組成探査を行い、1.71Tの飽和磁束密度と5A/m以下の低保磁力、および1.19μΩmの電気抵抗率を兼備したナノ結晶FeSiBPCu合金を見出した。さらに本合金系を高周波駆動の小型・精密機器への用途に見据え、渦電流損失の低減を図るための研究として、極微細な合金粉末の製造プロセスを検討し、20μm以下の粉末で収率75%、4μm以下で収率50%の粉末製造プロセスの可能性にメドを付けた。また、構造制御の難しいFeSiBPCu薄帯材の積層化による大型軟磁性部材化の展開として、フラッシュシンタリング法を用いた接合が有効であることを確認した。技術的な検討課題は依然含むが、ナノ結晶合金の応用展開にむけた取り組みとして、得られた成果は工業的に有用である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に電磁鋼板の代替材料として期待されるFeSiBPCu系軟磁性材料の渦電流抑制のための組成探索に成功しており、系統的な合金組成探索で魅力的な合金の開発に成功している点は高く評価できる。一方技術移転の観点からは、固化成形に供する量も問題や組成ずれという課題の改善が望まれる。今後の研究計画については具体的かつ的確に検討されている。これまでの研究成果を特許化することも望まれる。合金自体は素晴らしい性能を有しており、今後産学連携による共同研究等で実用化につながることが期待できる。
CVD法による低圧力損失型高性能光触媒フィルターの開発 八戸工業高等専門学校
長谷川章
八戸工業高等専門学校
佐藤勝俊
特定のチタン源と有機溶媒を原料に化学気相成長(CVD)法の手法を応用して、無機繊維フィルターの表面を極めて少量の酸化チタンで修飾した光触媒フィルター材料の開発を行った。得られた光触媒材料は、75mm角のフィルター材料にわずか2mg酸化チタン担持量であっても、優れた光触媒活性を示した。さらに、酸化チタン担持量が少ないことから担持に伴うフィルターの圧力損失の増大もほとんど起こらなかった。紫外線照射下におけるアセトアルデヒドの連続分解試験を行ったところ、光触媒活性の低下はほとんどなかった。本課題では、目標としていた高い光触媒活性と低い圧力損失を両立した光触媒フィルターの開発に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初目標において、「低圧力損失」と「高い触媒活性」を掲げていたが、低圧力損失については基材として用いたSiOフィルターに対してわずかな増加にとどめることができ、また触媒活性については対照としたDegussa P-25に対して遙かに少量で同程度の活性を示しており、目標は達成され技術移転に進む実証データが得られたものと評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。従来の光触媒の性能を維持しながら圧力損失を下げることに成功したことは、関連機器の省エネルギー化や小型化などの点で有効であり、実用化につながることが期待できる。
ゾルゲル-超臨界乾燥法による酸化チタンエアロゲル薄板の製造技術開発 八戸工業高等専門学校
本間哲雄
八戸工業高等専門学校
佐藤勝俊
超臨界乾燥法でエアロゲルを製造し、光触媒機能を有した断熱材の開発を行う。本研究開発の概要は以下の通り。
(1) 超臨界乾燥容器作製では標準的な円筒形状の乾燥セルを開発し、製造したエアロゲルを機械加工で断熱材とする方式とした。
(2) 超臨界乾燥試験を実施して、エアロゲル製造条件(乾燥に必要な二酸化炭素量)を決定した。また、大型セルにてエアロゲルの製造を行い、既存製品と同等で、より大型な試作品を得た。
(3) 得られたエアロゲルは高い比表面積を有する。また、光触媒活性があることを確認できた。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性が高まった。本研究は光・熱制御機能を持つ酸化チタンの応用「窓ガラスコーティング材」を目指して、現用の粉末塗布型に比してより効率的な単体フイルム型の酸化チタン・エアロゲル薄板を開発した。実験室的規模ながら、ひび割れ無しの酸化チタンエアロゲル薄板の作製に成功しており評価できる。今後、実用化規模の製造、光触媒活性特性の向上、他の応用展開、などが期待される。実用化に向けては準備中の特許を確実に権利化することが望ましい。企業と連携した実用化技術の研究開発をすでに検討されており、省エネ・グリーン技術として社会還元につながることが期待できる。
超臨界二酸化炭素中のレーザアブレーションによる微細配線用銅ナノ微粒子の簡易合成の開発 八戸工業高等専門学校
村上能規
八戸工業高等専門学校
佐藤勝俊
レーザアブレーションによる銅ナノ微粒子の生成と溶媒熱分解による銅ナノ微粒子の炭素被覆―微細配線用としての可能性についての検討を行う予備実験として、数多くの研究が行われ、ナノ微粒子生成に関する詳しい知見が得られているレーザアブレーションによる銀ナノ微粒子の生成と炭素被覆の検討を行った。その結果、真空排気した有機溶媒中に銀基板を配置し、レーザアブレーションをすることで炭素被覆した銀ナノ微粒子を生成できることを確認した。さらに、有機溶媒を超臨界二酸化炭素中に溶解させ、銀基板を配置し、レーザアブレーションをすると銀の炭素被覆状態がより均一になることが示唆された。そこで、本研究課題である銅ナノ微粒子をレーザアブレーションで製作すること、また、有機溶媒中でレーザアブレーションすることで炭素被覆銅ナノ微粒子が生成するかについて検討を行った。レーザアブレーションによる銅ナノ微粒子の生成をプラズモン吸収測定から確認できた。有機溶媒中での銅板のアブレーションでプラズモン吸収の消滅、つまり、炭素被覆の可能性は示唆された。そこで、銅ナノ微粒子についても炭素被覆していることを確認するため、生成したナノ微粒子に対して、FTIR-ATR分析を行った。その結果、芳香環に由来する赤外吸収ピークが確認され、銅ナノ微粒子についても芳香環由来の炭素膜に被覆されていることを確認できた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初目標の炭素被覆銅ナノ粒子生成の確認までは至っていないが、レーザーアブレーションにより銅ナノ微粒子を生成することができており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。研究成果が応用展開された際に、集積化配線技術など電気産業の分野において社会還元に導かれることが期待できる。残された課題解決に向けて具体的な研究開発計画を立案し、産学連携による共同研究を展開することが望まれる。
室温イオン液体電解液を用いるリチウムイオン二次電池用黒鉛系負極の高性能化 岩手大学
宇井幸一
岩手大学
今井潤
本研究では、リチウムイオン電池の安全性向上対策として不燃化技術を構築すべく、熱安定性の高いビス(フルオロメチルスルホニル)アミドアニオンを含む室温イオン液体中での黒鉛系負極の初期特性の改善を検討した。現行の有機溶媒系電解液中での初期特性には若干及ばないものの、室温イオン液体中の黒鉛系負極の初期特性に影響を及ぼす因子として、黒鉛の形状・サイズおよびバインダーの種類であることを見出した。さらに、黒鉛系負極/室温イオン液体電解液での界面制御に及ぼす基礎的知見として、初回の充電過程では黒鉛の種類に関わらず、室温イオン液体の還元分解による生成物が黒鉛電極の表面に堆積することを明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究は、室温イオン液体を電解液に用いたリチウムイオン電池用黒鉛系負極の高性能化に関するものであり、結果としては当初目標に及ばなかったものの、初回充電における反応機構についての基礎的な解明ができたことは実用化に向けた探索研究の成果としてはある程評価できる。室温イオン液体を電解液に用いたリチウムイオン電池を実用化するにはまだ更なる研究開発が必要であると思われる。今後、実用化を視野に入れて研究成果を特許として権利化するとともに、更なるデータを積み上げることで実用化が近づくものと期待できる。
塗布型固体太陽電池への応用を目指した光応答性生成法による光電変換素材の開発 岩手大学
土岐規仁
岩手大学
小川薫
現在、低コスト、大面積の太陽電池の作製のために、中でも、蒸着プロセスを用いない、溶液塗布プロセスに多くの注目が集まっている。また、ZnOナノ粒子は太陽電池において高いバンドギャップエネルギーや透明性の観点から利用価値があると考えられている。
本研究課題では、ZnOナノ粒子を用いた塗布型固体太陽電池への応用を目指した光応答性生成法による光電変換素材開発を進める。具体的には、未利用資源からの多機能材料を用いた新規光電変換素材開発を行う。さらに、光応答性有機分子配向制御を用いたナノ界面識別結合メカニズムを固-液界面の低周波領域のスペクトル顕微その場観察測定を用いて明らかにする。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に低コスト・大面積の太陽電池を目指した塗布型製造技術開発の研究を行い、高エネルギーバンドギャップZnOナノ粒子と有機分子の混合溶液からの塗布プロセス、光応答性有機結晶多形制御、未利用資源・木質バイオマスをバインダーに活用、などを基本方法としてZnOをナノ分散固定化にペプチド系有機分子の有効性を見出したことは探索研究の成果として評価できる。準備している特許出願を確実に実施することが望まれる。企業からの共同研究依頼もあり、今後は産学連携の枠組みを築き、共同研究を進めることで実用化が大いに期待できる。
電荷移動遷移を用いたTOF-PET用シンチレータの開発 東北大学
柳田健之
本研究の目的は、Time of Flight 型陽電子断層撮影装置への応用を目指し、Yb3+の電荷移動遷移を基づく新規透明セラミックスシンチレータの開発を行い、TOFゲイン(発光量/蛍光寿命)0.5が現在のTOF-PET汎用機での値を超える30以上を目標とする。加えて電子陽電子対消滅ガンマ線を効率よく検出するため、有効原子番号が 60 以上であることも必須な目標となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にTOF-PET用に適した透明セラミックシンチレータの開発を目指し、Ybの電荷移動遷移にもとづくシンチレータの開発を実施し目標が達成されており、実用化に向けた探索研究としては高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、高品質なサンプル作製に企業との協力がなされており、この協力体系を保ち、さらなる技術移転による進展が望まれる。PETは癌の初期診断に優れており、多くの医療機関に普及している。さらなる高精度化には時間情報(TOF)の利用が不可欠とされる。陽電子検出に検出能の良いシンチレータの開発が期待される。今後は、研究成果を特許化し、技術移管が期待される。
形状制御Pr:LuAGシンチレータ単結晶育成技術の開発 東北大学
横田有為
μ-PD法を用いた形状制御技術を基に、本課題ではシンチレータ結晶の中でもガンマ線用シンチレータとして、Pr添加Lu3Al5O12(Pr:LuAG)結晶の形状性制御単結晶育成に特化した形状制御用金属坩堝を開発するとともに、その開発した坩堝による形状制御Pr:LuAG結晶の製造技術を開発する。
本課題では、形状制御用金属坩堝の開発および、その開発した坩堝による角柱状形状制御Pr:LuAG結晶の製造技術の確立を達成した。ただし、角柱状形状制御Pr:LuAG結晶の6本同時結晶育成にはより均一な温度分布を達成する必要があり、残念ながら事業期間内には達成できなかった。今後の展開としては、より均一な炉内温度分布を周囲の断熱材、高周波コイル、アフターヒーター等を最適に配置することによって達成し、角柱状形状制御Pr:LuAG結晶の6本同時結晶育成技術を確立する。さらに、より長尺な結晶を育成可能にするために必要となる原料供給システムを開発する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初目標としていた濡れ角の適正な合金の探索、坩堝の設計、形状制御結晶の作製については目標を達成しており、実用化に向けた探索研究の成果としては十分に評価できる。一方、技術移転の観点からは、この期間に実施された研究成果をもとに特許出願することが望ましい。今後は、産学連携の中で市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にし、実用化研究を積極的に進めることで、6本の同時成長等の残された課題を解決し、実用化につながることが大いに期待できる。
新規シンチレータCe:(Gd,Lu)3(Al,Ga)5O12単結晶の特性向上と大口径化 東北大学
湯葢邦夫
本研究では企業側が事業化に必須とする2インチφ単結晶の大口径化技術の開発で、高い発光量(50,000ph/MeV)および高い結晶性(X 線ロッキングカーブの半値幅が 200 arcsec 以内)を目指すものである。まずは酸素分圧コントロールしたFZ法によるCe:GAGG単結晶合成に最適な条件の検討を行い、その結果を用いて、2インチの結晶技術を確立させる研究を行った。その結果、2インチの結晶技術を確立し、発光量は50,000ph/MeVを達成、X 線ロッキングカーブの半値幅は 55.8±0.2 arcsec と高い結晶性を持つことが確認できた。今後は、結晶の実用化に向けてさらに大きな結晶技術を確立等を行ってゆくことを考えている。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に高い発光強度を持つシンチレーター結晶の実現に向けて、実用化の可能性が高まる2インチサイズでのCe:GAGG単結晶合成試験を行うことは重要であり、新しいシンチレーターに求められる特性をクリアしたことは大変高く評価できる。次のステップとして新しい元素が候補としてあげられており、さらに改善できる見通しがあることも特筆点である。一方、技術移転の観点からは新規特許出願、学術論文等の成果発表のアピールが望まれる。今後、企業との連携を強め、高感度シンチレーターの実現で社会還元につながることが期待される。
Pr 添加 YAP シンチレータの高特性化および大口径化研究 東北大学
二見能資
次世代陽電子断層撮影装置への応用を目指し、マイクロ引き下げ法を用いて、Pr:YAP シンチレータを有効原子番号50以上、蛍光寿命 10 ns 以内、発光量 10000 ph/MeV 以上の高特性化を図り、これらの物性値を達成した組成でもって、チョクラルスキー法により 1 インチ径以上の結晶を育成し、量産化の基盤技術を確立することを目標とし、研究開発を行った。結果として、これらの目標を達成することが出来た。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に材料及び製法に関する工夫もあり、特性の向上と結晶の大口径化に向けて成果が顕著でり、実用化に向けた探索研究の成果としては大いに評価できる。一方、技術移転の観点からは、ノウハウに留めずに特許の取得を実施することが望ましい。連携企業との意思疎通もできていることから、市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確化することで、より実用化が確実になるものと期待できる。本研究は企業からの期待値も高く、今後は企業との連携をより強化して実用化研究を加速されることが期待される。
超臨界流体コンバージョン反応を利用したワンリアクターによる化合物半導体太陽電池作製プロセス 東北大学
笘居高明
東北大学
高橋直之
本提案では、CIS太陽電池の積層構造作製プロセスの”All超臨界流体プロセス化”を目標とした。本研究開発において、既存の超臨界流体製膜法と、本研究チームにより開発された超臨界流体コンバージョン法を組み合わせることで、本提案で主目標に掲げるバッファ層(CdS)/吸収層(CuInSe2)/Mo金属電極積層構造の、超臨界流体プロセスによる、ワンリアクター作製を実現した。本成果は、従来のCIGS系太陽電池の高コストの一因である乾式・湿式混在プロセスからの脱却を可能せしめるものであり、微細構造・プロセスの最適化により、高変換効率CIGS太陽電池の低コスト作製プロセスの創成が期待される。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にCIS 太陽電池のバッファ層(CdS)/吸収層(CuInSe)、さらにまたこれに加え、さらに目標以上の上層の窓層(ZnO)も含めた超臨界流体製と超臨界流体コンバージョン法を組み合わせることにより超臨界流体プロセス化を達成したしたことは顕著な成果である。一方、技術移転の観点からは、Al超臨界流体プロセスによるCIGS形太陽電池作製のため透明電極層・窓層の超臨界流体プロセス化と膜質の向上を中心にプロセスの最適化を図る計画が示されており、特許を出願することが望まれる。この製造法は低コストで高効率の太陽電池作製もたらすものであり、今後企業と連携して早期に実用化研究を展開することが期待できる。
α’マルテンサイト相を利用した航空機用Ti合金材の粉末鍛造加工成形法の開発 東北大学
松本洋明
東北大学
山口一良
本研究では、粉末冶金法(P/M法)による航空機用Ti合金(Ti-6Al-4Vを中心として)のα'相を利用した新組織制御とTiB2を用いたセラミックス強化 複合化技術による技術と素材の提案を行うことを目的とした。具体的には既存の航空機用Ti合金(Ti-6Al-4V合金)の特性(室温で強度:1000MPa以上、室温伸び:13%以上)以上を示す組織条件、加工条件の最適化を目指した。その結果、10vol.%のTiB2生成で、SPSと熱間加工(1000℃-高速変形)を最適に組み合わせることで、等軸(α+β)組織中にTiB2が微細に分散した組織が形成され、室温での強度が1100MPa以上、更には1000℃の高温ではTiB2無添加材に比べて約1.5倍以上の高強度特性を示すことが明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に素材開発に関しては延性を除きほぼ目標を達成しており、今後の技術課題も整理されていることは実用化に向けた探索研究として十分に評価できる。一方、技術移転の観点からは、新たな研究成果を特許化することが望まれる。今後企業と連携して、大型ネットシェイプ製造を予定しており、素材の化学組成、組織の最適化を続けることにより実用化が可能と思われる。本研究では、粉末冶金法によって航空機用Ti合金(Ti-6Al-4Vなど)のα’相を利用した組織制御とTiB2を用いたセラミックス強化を利用して高強度かつ高延性の新Ti合金を開発し実用化することを目的としており、企業との実用化研究の中から社会貢献が期待できる。
グリーンラストの酸化制御によるマグネタイト微粒子製造方法の開発 東北大学
藤枝俊
東北大学
山口一良
グリーンラストと呼ばれるアニオンを含む水酸化鉄の懸濁液を出発素材としたマグネタイト微粒子の新規作製方法を開発した。この方法では、まず、グリーンラスト懸濁液に水洗処理を施すことにより、マグネタイトを僅かに析出させる。その後、この懸濁液に酸化ガスを吹き込むと比較的低電位および高pHでグリーンラストの酸化が進行してマグネタイトを主相とした最終酸化生成粒子が得られる。さらに、酸洗処理を施すことにより、最終酸化生成粒子中のマグネタイト含有量が75 wt%程度まで増大するため、磁気特性は向上する。従来、加熱過程なしでマグネタイト微粒子の作製およびその磁気特性の制御は困難であったが、この方法では加熱過程なしで75 emu/g程度の大きな飽和磁化のマグネタイト微粒子が得られる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にマグネタイト微粒子をグリーンラストの酸化過程を制御して作製するという目的に対して、当初の数値目標である「バルクのマグネタイトの飽和磁化100 emu/g」をマグネタイトの含有率を70wt%まで高めることで達成しており、実用化に向けた探索研究の成果として評価できる。一方、技術移転の観点からは、加熱なしで優れた磁気特性のマグネタイト微粒子が得られるという従来法にはない特徴があり、特許出願を行うことが望ましい。今後は、産学連携により市場調査も含めて実用化研究を進めることが望まれる。
簡易・迅速・低コストな土壌の重金属汚染判定キットの開発 東北大学
壹岐伸彦
東北大学
山口一良
本研究では土壌汚染対策法の趣旨である土壌汚染リスク評価に資するため、現場で簡易に使用できる交換態重金属汚染の簡易判定キットを開発する。本キットはTCA土壌抽出法とそれに引き続く2種類の分離検出法(TLC法とメンブレン法)から構成され、対象とする重金属はCd, Pb, Hgである。TLC法では同時多成分測定、メンブレン法では高感度Hg測定を行う。TLC法に関してはTCA法との結合で予想外の問題が生じ、現在解決を急いでいる。一方メンブレン法は基準値(0.5ppb)レベルの土壌中Hgの存在を判別できるレベルにほぼ仕上がっており、技術移転、製品化を急ぎたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にHgのメンブレン法は概ね完成しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、メンブレン法は着色成分の除去等の問題があるものの、基本的な部分は目標に近づいており、技術的課題が的確に検討されている。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、Hgのメンブレン法は社会還元に導かれる可能性が大きい。産学連携の中で市場調査や他の技術との比較を行い、技術の優位性を把握することで実用化に進むことが期待される。
マイクロ波印加酸浸出法によるテレビ用ブラウン管ファンネルガラスからの迅速鉛抽出の研究開発 東北大学
吉川昇
東北大学
山口一良

これまでと同様に、実験室的な規模の実験(マイクロ波出力1kW)を継続する。基礎的な(マイクロ波加熱に必要な)物性値の測定を行うとともに、浸出反応速度に関して種々の条件での測定を行った。このような基礎的な速度データを得ることにより、プロセスのシミュレーションへの入力データとしての活用が期待されている。マイクロ波印加と通常外部加熱における浸出速度の相違を明らかにする。
更に次のステッップとして今後実用化のための溶液循環型装置を目的とし、実験室レベルの溶液循環系を試作し、研究を行う。現在、封鎖系で強酸を用いて浸出実験を行なうことにより99%の浸出率が達成できている。酸濃度、実験条件と浸出率の関係を今後精確に調べる予定である。
当初目標とした成果が得られていない。マイクロ波印加酸浸出法によるテレビ用ブラウン管ファンネルガラスからの迅速鉛抽出という研究計画は高く評価できるが、設定した目標(マイクロ波出力1kWという実験室規模により、最終的に1kg相当の鉛ガラスから1時間以内で99%以上の鉛を浸出/抽出する工程の実現)は達成されていない。大気圧下においては、マイクロ波印加による効果が十分ではないことが明らかになったことは探索研究の成果としては評価できる。社会貢献が期待できる研究内容であり、今後更なるデータを蓄積して、産学連携による実用化につながることを期待したい。
アルミナ基 新規「有色光輝性材料」の開発 東北大学
佐藤次雄
東北大学
芝山多香子
現有の「雲母」等の白色体質顔料の機能性を大幅に改良し、紫外線遮蔽能や鮮やかな呈色と光輝性を示す粉体の開発が望まれている。本研究では、硝酸アルミニウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを出発原料として用い、「ソルボサーマル法」により、粒径10-15μmでアスペクト比10以上の「単分散板状アルミナミクロン粒子」の作成法を確立した。更に反応溶液に硝酸鉄を添加しソルボサーマル反応を行い「板状アルミナ粒子」へ酸化鉄をドーピングすることにより、化粧料として求められている<紫外線遮蔽能>と肌色の呈色を示す<光輝性粉体>を作成することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に反応操作による粒径・アスペクトや光輝性、動摩擦係数の制御を行い、遷移金属酸化物アルミナドーピング効果として鉄イオン添加効果の検討を実施した。化粧品用途として大切なナノ粒子分散をZnOで実施している。Feイオンにより高分散も可能とした。拡散反射、紫外線カットについて定量的な評価も実施されており、実用化に向けた探索研究成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは研究成果を特許化することが望ましい。関連企業との連携による技術移転を検討されており、実用化が十分期待できる。
固相プロセスによるマンガンケイ化物系「高効率熱電変換材料」の創製 東北大学
宮崎譲
東北大学
芝山多香子
マンガンケイ化物MnSi1.7 は、自動車等の排熱から電力を回収する「熱電変換材料」として有望であるが、実用化のためには、p型材料と同程度の性能を示すn型材料の出現が不可欠である。本研究開発では、導電性の低下を招く副生成相の合成を抑制することが可能な固相反応プロセス(パルス通電加熱法)を用いて、合成条件の最適化を行い、n型Fe置換MnSi1.7系高効率熱電変換材料の創製を目指した。原料試薬の混合粉砕条件や焼結時の温度、時間、圧力等を検討したところ、無置換試料の合成条件を確立することはできたが、Fe置換試料に対しては、焼結温度を30-50℃低くする必要があった。n型試料の最適焼結条件の確立に時間がかかったため、p型と同等な性能を示す試料の合成には至っていない。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。無置換材については緻密な焼結体が得られている。Fe置換体では焼結体割れがあり、焼結温度を下げた結果、緻密化不足が生じてはいるが、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。技術移転の観点からはこれまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、添加材、焼結条件など検討課題を解決するための具体的研究開発計画を立案することが望まれる。自動車廃熱回収は社会的、環境的に重要なテーマであり、産学連携を視野に入れてデータの積み上げをすることで実用化が近づくものと期待できる。
銀ナノ粒子を使った色指示物質による「放射線量可視化技術」の開発 東北大学
足立榮希
東北大学
芝山多香子
水溶液に分散した無機材料発色材:「αアルミナ粉体吸着銀ナノ粒子」をγ線による水分解で生じるラジカルにより酸化し溶解させることで、γ線照射量を本発色材の変色により可視化する可能性を検討した。様々な溶液条件で、60Coによるγ線を3Gy - 3000Gyの間で照射し変色程度を評価・検討した溶媒条件の範囲では、この粉体が変色する下限は30-300Gyの範囲と推定した。この値は既存の化学センサーの下限感度と同程度である。γ線耐性は、「アルミナ担持銀ナノ粒子」の表面組成と内部電位で決まると考えられるため、今後γ線照射に対して更に一桁以上高感度に変色する溶媒条件を設計する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。簡便な放射線検出キットを目指した着眼点は評価できる。着色現象として銀ナノ粒子のプラズモン共鳴吸収を利用すべく、銀ナノ粒子をアルミナに吸着させたものを色指示物質として用いるときの条件設定を検討し、γ線照射による変色条件を見出した点は評価できるが、感度が不十分であり改善の必要がある。技術移転の観点からは、学会発表などが予定されているが、本研究期間の成果を特許として権利化することが望ましい。今後、産学連携を視野に入れて、データの積み上げやチップ化を進めることで、実用化が近づくものと期待できる。
浄化能力多様性をもつ環境浄化材料作製技術の開発 東北大学
井奥洪二
科学技術振興機構
山口一良
環境浄化において、吸着剤による汚染物質の除去は有効な方法である。環境中には様々な汚染物質が混在するので、吸着剤には多様性が求められる。そのような材料として、家畜骨の加熱により得られる水酸アパタイトと活性炭の複合体である「骨炭」に注目した。本研究では、骨炭中の水酸アパタイトの特性を制御した試料を作製し、フッ化物イオンや有機物など多様な物質に対して除去能力を有することを明らかできた。骨炭の原料は多量に廃棄されている家畜骨であり、廃棄物の有効利用という観点からも非常に優れている。今後、実際の汚染環境を模擬した環境において骨炭がどの程度の汚染除去能力を示すか調べることで、環境浄化材料としての可能性を模索していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初目標のFイオン除去性能を達成されたことは探索研究としては十分に評価できる。一方、技術移転の観点からは、水熱処理の効果や炭化条件の違いによる形成さたHA粒子の構造の差の解析等の研究課題が残っていると思われる。骨の低温蒸し焼き処理により発生が懸念される悪臭の処理対策や、原料である家畜骨の安定確保、また原料骨そのもののバラツキへの対応など、実用化を図る観点からは今後の企業との共同研究の推進に期待したい。今後は、研究成果を特許化するとともに産学連携を展開して社会貢献につながることが期待される。
Siナノ材料塗布膜のレーザーシンタリングによる太陽電池用Si半導体薄膜形成 東北大学
渡辺明
科学技術振興機構
藤田慶一郎
本研究では塗布型Si太陽電池の実現を目指して、Si微粒子とレーザーシンタリング法を用いたSi半導体薄膜の形成およびそれを用いて形成した太陽電池の特性についての検討を行った。高整流特性を有する塗布型Si材料からなる素子形成法の開発においては、透明電極(FTO)、n-Siとオルガノシリコンナノクラスター(OrSi)ハイブリッド薄膜、およびAuスパッタ電極からなる塗布型FTO/n-S-OrSi/Au 接合型素子においては数値目標である整流比500以上(596)を達成でき、ある種の有機化合物により表面修飾したn-S微粒子薄膜/Auショットキーダイオード型太陽電池においては、数値目標である変換効率1%以上(1.06%)を達成することができた。さらに、高い光伝導性を有する塗布型i型層の探索においても、塗布型のi-Si層を用いた系において数値目標:光電流/暗電流比 1,000以上を達成できている。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に素子の形成法の開発、太陽電池の変換効率の向上、高光伝導性を有する塗布型i型層の探索など、いずれの目標も達成しており実用化に向けた探索課題の成果としては高く評価できる。特許出願、論文発表も実施されている。高価な真空製膜装置を必要としない本塗布型プロセスは大変魅力的である。一方、技術移転の観点からは、各実施項目に対して、詳細な解析と対策・計画が的確に検討されている。今後は実用化に向けて企業との連携を密にして、さらなる変換効率の向上と低コス化がに実現されることが期待される。
天然ゼオライト-有機高分子樹脂複合多孔体の成型と構造制御に関する研究 独立行政法人産業技術総合研究所
長瀬多加子
独立行政法人産業技術総合研究所
松永英之
ゼオライトの吸着性能を維持した濾過膜の開発を目標に、天然ゼオライトー有機高分子樹脂複合多孔体紡糸条件の最適化を図り、再現性を高めるとして本研究を開始した。その結果、芯液、凝固浴の組成を調整することで、当初の目標をほぼ達成でき、ゼオライトに対するポリサルホン添加量が2:1~1:1の条件下で、曲げ強度4 N/mm2以上、透水速度は20-220 L/(m2h)で、加圧濾過が可能な透水性、耐水性、耐圧性を併せ持つ中空糸が得られた。イオン交換量はバッチ条件下24時間で原料ゼオライト粉末と比較して70-80%であり、ゼオライトとしての特性はポリサルホンとの複合化後も維持されていると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にゼオライトの吸着性能を維持し、精密濾過膜、限外濾過膜としての実用化を前提にして、天然ゼオライト-有機高分子樹脂複合多孔体の中空糸紡糸条件の最適化を図り、再現性を高めることを目標として研究が行われ、芯液、凝固浴の組成を制御することにより、ゼオライトに対するポリサルホン添加量が2:1~1:1の条件下で、曲げ強度4 N/mm以上、透水速度は20-220 L/mhで、加圧濾過が可能な透水性、耐水性、耐圧性を併せ持つ中空糸が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究開発計画や改良に向けての技術課題が明示されている。産学連携研究により実用化につながることが期待できる。
バイオエタノール製造プラント残渣のガス化技術の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
佐藤修
独立行政法人産業技術総合研究所
松永英之
バイオエタノール製造プロセス残渣の再資源化・高度利用技術として高温高圧水中での担持金属触媒による燃料ガス化反応を研究課題として提案、(1)バイオマス原料に対応した耐久性触媒の開発、および(2)使用劣化した触媒の再生方法についての検討を行った。耐久性触媒の開発では、外表面積の大きなグラファイトにルテニウム(Ru)を高分散担持せることで、市販の活性炭担持Ru触媒より高活性なものを調製することに成功した。対象残渣の触媒毒となるイオウおよび窒素化合物の含有率が極めて小さく、触媒の再使用時にもガス化活性が維持されたことから、再生処理の必要性がなかった。他の触媒での検討結果から、亜臨界水処理が適用可能ではないかと推察した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。申請時の研究計画に従ってリグニンの分解反応が検討され、基質0.1gに対して0.05~0.15gの触媒を用いること、再生触媒の使用回数が3回であること(触媒ロスが5~10%)、生成ガスの主成分が、CH4(53%)、CO2(41%)、H2(4%)となることを確認した。当初の目標に対しては未達成であるが、探索研究の成果としては評価できる。学会発表を実施しており、特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携による共同研究開発を視野に入れて、データを積み上げることで実用化に近づくものと期待できる。
マイクロ波利用流通反応器における高速高精度温度測定法の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
佐藤剛一
独立行政法人産業技術総合研究所
南條弘
新規に開発したマイクロ波照射型流通反応器において、正確な反応解析を行うためには触媒層の温度を高速、高精度で測定する手段が必要である。そこで、まず、放射温度計、光ファイバー温度計、サーモグラフィ等を用いてマイクロ波照射下の温度解析を実施し、サーモグラフィの測定波長の影響、触媒の反射率の影響などのデータを蓄積し解析した。その結果、触媒層の温度は反応ガスの種類により大きく影響されることなどを明らかにした。続いて、より正確に触媒温度を測定する手法を検討し、特に共振周波数を利用した測定方法の可能性を見出し、実証を試みた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にマイクロ波加熱流通反応における温度管理法の技術開発において検討した赤外スペクトル法の問題点を明らかにし、さらに提案した共振周波数を利用した測定方法ではその有効性が確認されており、実用化に向けた探索研究の成果としては十分評価できる。特許出願もされている。一方、技術移転の観点からは、共振周波数による測定データーの蓄積が今後の課題であり、信頼性の向上が望まれる。本技術はマイクロ波加熱装置以外にも直接温度測定困難な装置への応用も可能であり、今後は産学連携による共同研究開発を行うことで実用化につながることが期待できる。
低温成形配線用ナノ粒子インク材料を目的とした窒化銅微粒子の合成 独立行政法人産業技術総合研究所
中村考志
独立行政法人産業技術総合研究所
南條弘
本研究はプリンテッドエレクトロニクスデバイス(PED)の分野において必須である、印刷法で銅配線を作製する為の新規材料として窒化銅ナノ粒子を用いることを目的とし、窒化銅ナノ粒子の合成および粒径制御に関する研究である。
本研究では、まだ確立されていない窒化銅ナノ粒子の合成法の探索から始め、銅イオンの存在下、有機溶媒中でアンモニアを窒素源とすることで窒化銅粒子ができることを見出した。また、長鎖アルキルアミンを利用することで結晶子サイズを変化させうることを見出した。合成された窒化銅微粒子は市販の窒化銅微粒子よりも200℃以上分解温度が低下しており、本研究の目的の一つである粒子のナノサイズ化による分解温度の低下を確認できた。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも窒化銅ナノ粒子の合成法を確立し、ナノ粒子化による分解温度低下も確認されており、銅配線への適用可能性が示されたことは探索研究の成果としては評価できる。達成された成果については特許として権利化することが望ましい。一方で、現時点では収量が低く、分解温度も不十分であり、分解後の金属銅層の電導性評価も改善の余地がある。研究成果に対する問題点や改善点、今後の研究開発の方向性も明確化されている。 PED用の配線技術は大きなニーズがあり、産学連携による研究開発を展開し、実用化にむすびつくことを期待する。
粉末圧延法で調製したヘテロ構造Pb基合金の電解プロセッシング用不溶性アノードとしての特性 秋田大学
田口正美
秋田大学
伊藤慎一
粉末圧延法を用いて新たに製造したPb基合金は、結晶粒界に酸化物を濃縮したヘテロ構造を有し、その定常クリープ速度は、従来のPb基鋳造圧延合金に比較して最小で1/120程度まで抑制される。本研究では、この新技術を素材製造の電解プロセッシングに適用し、新規電極材料を開発・実用化することを目標とした。粉末圧延法により電解採取用不溶性アノードであるヘテロ構造Pb-Ag基合金を製造すると、電極寿命の大幅な延長の他に、厚さ・重量の低減による材料費の削減、電流効率・エネルギー効率の上昇など、電解プロセッシングにおける生産コスト・エネルギーコストの削減が期待できる。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に電解プロセッシング用のPb基電極材料を粉末圧延法で作製する技術に関しては成果が顕著である。得られた成果について特許の出願がされている。また、次のステップへ進むための技術課題も明確に示されており、大いに評価できる。技術移転の観点からは、今後の研究展開や産学共同での研究開発の方向性も明確に示され、得られた成果は、特許以外にも3件の学術論文として公開されている。実用化に向けた開発展開も大いに期待できる。今後、産学連携をより密にして共同研究開発をすすめることで実用化が近づくものと期待できる。
ナノスケール物性制御による表面平滑ビットパターン媒体の作製 秋田大学
長谷川崇
秋田大学
伊藤慎一
高密度・大容量の情報記録が可能なビットパターン媒体(BPM)の実用化が急務である中、ここでの課題はプロセスの簡素化、狭小ビット作製能、表面平滑度、結晶ダメージ等である。本研究では薄膜を物理的にではなく磁気的にのみ孤立化させるBPM作製法を開発し、以下の成果を得た。
(1)プロセス:(1)微細加工マスクを用いた3原子層FePt成膜 /→(2)FePtRh反強磁性膜の成膜 /→(3)熱処理 【簡素化を達成】
(2)最小ドット径: 15 nm 【狭小ビットを達成】
(3)表面平滑度:Ra= 0.55nm 【平滑性を達成】
(4)結晶構造:全面L10構造 ・・・【結晶ダメージを解決】
(5)キャラクタリゼーション:位置分散3.7nm,保磁力3.6 kOe,保磁力分散55.6% 【要検討】
今後は実用化に向けて、ドット位置と保磁力の制御を重点的に行う。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。次世代HDD用媒体であるビットパターン媒体(BPM)の開発目標として、作製プロセスの簡素化、ビット径15nmのドット作製、表面平滑化、結晶損傷を伴わない磁気的基本性能達成を掲げているが、このうち一部を残して達成しており、実用化に向けた探索研究の成果として評価できる。関連特許を2件取得済であるが、本研究期間における成果についても権利化することが望ましい。課題を解決するための具体的な研究計画が明示され、既に産学連携による共同研究開発が開始されており、実用化が期待される。
溶融硫酸塩を用いた希少元素酸化物の溶解とリサイクル法への応用 秋田大学
福本倫久
秋田大学
伊藤慎一
現在、我が国の希土類元素の供給は中国やアメリカ等からの輸入に頼っており、今後制限された場合安定した供給が得られなくなる可能性がある。資源小国である我が国においては、これら希土類元素を有効利用し、循環型のサイクルを形成する必要があるが、これら希土類元素は、ほとんど回収されておらず、例えば自動車のモーター等に使用されている、Nd-Fe-B 磁石などは、そのままスクラップとして処理されている。本研究では溶融硫酸塩を用いてネオジム酸化物中のネオジムを電気分解によりイオンとして溶解させ、そこから金属を電析回収する技術の確立を目指している。この一連の研究によりネオジムの新しいリサイクル法を確立させる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。「溶融硫酸ナトリウムを電気化学的に分極することで酸化ネオジウムを溶融塩中に溶解させ、さらに一定時間定電位分極を続けることによりネオジウムを電析させる」というサイクルを確認したことは評価できる。達成する目標の設定をどこにおくかも重要であるが、溶融塩を用いた電析によってレアメタルのリサイクルを行う際に、選択性あるいは電析速度についてもさらに検討し、従来の吸着法や溶媒抽出法と比較して優れていることを示すためにも、従来技術との比較が必要と思われる。実用化に至る道筋を総合的に判断すると、今後は、特に共存する他の金属イオンの影響や電析速度の評価が行われることが望まれる。
もみ殻由来マイクロ・メソポーラス活性炭の大容量キャパシタ電極への応用 秋田大学
熊谷誠治
秋田大学
伊藤慎一
もみ殻に天然に含有されるシリカをメソ孔の鋳型として利用し、マイクロ孔を発達させる糖類をもみ殻中に液相分散させることで、もみ殻から安価なマイクロ・メソポーラス活性炭を製造した。そして、有機系電解液を使用する電気二重層キャパシタの電極に応用した。構築されたナノ構造は、キャパシタ電極中の細孔への高いアクセス性を電解質に与え、フェノール樹脂由来の市販高性能活性炭と比較して、同程度の容積当たりの静電容量84 F/cm3と約50 %の内部抵抗0.69 Ω・cm3を実現した。今後、もみ殻活性炭の細孔構造の最適化を図ることで、さらに高い静電容量と低い内部抵抗を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。もみ殻由来のマイクロ・メソポーラス活性炭を作り、その活性炭からEDLC用電極ディスクを作るという発想は優れている。また電極材料となるもみ殻活性炭については、電極かさ密度、単位容積あたりの静電容量および単位容積あたりの内部抵抗の3項目とも目標値に近いところまで達している。利用価値の少ない廃棄物のもみ殻から電気二重層キャパシタの電極を開発しようとするものでコスト面および環境面からも社会的インパクトは大きい。今後は、研究の継続による更なる性能の向上が期待される。
複合材料化した微小試験片による金属間化合物の変形特性評価法の開発 秋田大学
大口健一
秋田大学
伊藤慎一
本課題では、電子パッケージのはんだ接続部に生じる金属間化合物(IMC)のCu3SnとCu6Sn5の変形特性を引張負荷で評価する方法について検討した。そのために、まず、直径0.5mm、長さ2mmの中実円柱状の試験部をもつ鉛フリーはんだの微小試験片にCuめっきをした上で熱処理を施し、試験部にCu3SnとCu6Sn5の各層を同心円状に分布させた試験片を作製した。次いで、この試験片を用いて引張試験を実施し、そこで得られた応力-ひずみ曲線からCu3SnとCu6Sn5の変形特性を導出する方法について検討した。その結果、応力-ひずみ曲線から得た情報に等ひずみモデルによる複合則を適用することにより、Cu3SnとCu6Sn5のヤング率と引張強さを導出する方法を提案することができた。今後は、非弾性変形特性の導出方法についても検討する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標として掲げていた「ヤング率を計測できるレベルの微小ひずみ計測システムの構築」「Sn/Cu系IMCの変形特性評価方法の確立」について期待された成果を得ており、実用化に向けた探索研究の成果としては十分に評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。微小材料の機械的性質評価という汎用性の高い技術の開発であり、今後は産学連携による共同研究開発の中で市場に見合う製品開発が大いに期待できる。
簡易・迅速・低コストな浄化処理を可能とする多孔質粒状環境浄化材製造技術の開発 秋田大学
和嶋隆昌
秋田大学
伊藤慎一
本研究課題の目的は、産業廃棄物である製紙スラッジと安価な未利用天然資源である珪藻土を原料として低コストな多孔質粒状浄化材を製造し、簡易かつ迅速な窒素・リンの連続浄化処理を可能とする技術を開発することである。製紙スラッジと珪藻土を1:1の比率で混ぜて水分を含んだ状態で形状を制御し乾燥することで、造粒や顆粒化が容易にできた。また、得られた乾燥物を800℃で1時間加熱した後、3M NaOH溶液に固液比1:10で添加し、100℃で8時間加熱することで、ゼオライト相を含む多孔質な粒状材を作成することができた。粒径2mmの浄化材をカラムに充填し、模擬溶液を用いて窒素・リンの処理を行ったところ、効率的な処理が行えることがわかった。
当初期待していた成果がほぼ得られており、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。製紙スラッジと珪藻土を用いて、窒素(アンモニア)、リンの両方が除去できるゼオライト相を含む多孔質浄化資材の作成を達成しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。外部発表及び展示会での出展も実施されており、積極的な技術移転活動も評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、実用化に向けて残された課題を解決するための具体的手法を盛り込んだ研究開発計画を立案し、産学連携による共同研究開発を実施することを期待する。
溶融塩電析による希土類元素を含むNi-Al合金コーティングプロセスの開発 秋田大学
原基
秋田大学
佐藤博
希土類元素を含むNi-Al合金は1000℃以上の高温環境下において高い耐酸化性を有することから耐酸化コーティング材料として注目されている。しかし、この材料を安価な方法で他材料にコーティングする方法が確立されていない。本研究は、溶融塩電析法によってコーティングする技術の確立を目指した。本研究により、YあるいはCeを少量含むNi-Al合金のコーティング膜を作製し、これを他材料に被覆することに成功した。また、このコーティングの良好な耐サイクル酸化性を確認した。今後は、長時間における耐酸化性の評価を行う予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高温で高耐食性の希土類元素を含むNi-Al合金を、溶融塩を媒体とした電析法によりコーティングする技術を確立する目標は達成しており、技術の優位性と他のコーティング方法との彼我比較も行っており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願も実施しており、企業関係者への連携活動も積極的である。希土類元素を含むNi-Al合金は高温で高い耐酸化性を有するため、合金被膜は耐酸化コーティング材料として注目されており、今後はさらに長時間での耐酸化性の評価を進めることで実用化されることが期待できる。
レア・アースフリーのフルカラー蛍光体の開発 山形大学
松嶋雄太
山形大学
佐藤春樹
本試験では、バナジン酸塩化合物に基づくレア・アースフリー蛍光体の開発および実用化へ向けた評価を実施した。一連のバナジン酸塩化合物では、構造中のバナジン酸クラスタ(VO4)が発光中心として機能するため、希土類元素を全く必要とせず、塩を形成する陽イオンの種類によって青~黄色まで発光色が変化することが明らかになっている。本蛍光体を実用化するにあたっては、1)赤色レア・アースフリー蛍光体の開発、2)発光効率の評価、3)耐久性・耐候性評価、等において課題があった。そこで本試験において前記1)~3)の項目を試験した。その結果、一連のバナジン酸塩化合物は紫外照射、大気暴露等に対し充分な耐久性を有していることが分かった。また、一部の蛍光体がUV-LEDで強く発光することが明らかとなり、演色性に優れた新しいLED照明などへの展開が可能であることが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に相対強度や蛍光体の内部量子効率について良い結果が得られており、長期安定性も確認している。実用化に向けた探索研究の成果としては十分評価できる。蛍光が発生する原理の追求と蛍光体の応用発展を目指して、基礎的研究と応用研究の両方で研究に取り組んでいくことを具体的に示しており、課題が明確になっている。一方、技術移転の観点からは、基礎的データの蓄積とそれを具体的に発展させる蛍光体メーカーとの連携をすることによって、次のステップに進むことが考えられる。今回の成果を基に、蛍光体メーカーとの共同研究を視野に入れており、技術移転につながることが期待できる。
マイクロ鈴構造型多孔メタルのミクロンスケール構造制御手法の開発と軽量・高強度・高機能化 山形大学
村澤剛
山形大学
佐藤春樹
混錬温度(600℃以上)・混錬トルク(20N・m以上)・混錬速度(100rpm以上)を制御可能な混錬機を開発し、マイクロ鈴構造型多孔メタルのより簡便な新規鈴構造制御法を確立した。空孔率は、目標である20%を上回る30%を達成しただけでなく、その量を制御することも可能となった。また、変形・強度・振動減衰特性評価を行った結果、マイクロ鈴構造を変えることでバルク材と比べて60(30)%の強度低下で30(10)%軽量化可能とし、高周波帯域(3MHz-30MHz)で99.92%の振動吸収特性が向上した。今後は、マイクロ鈴構造型多孔メタルの驚異的な振動吸収特性に注目し、衝撃強度試験を行うことで自動車等の衝撃吸収部材としての応用を模索していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に空孔率が30%までの範囲で制御可能になったことや簡便な構造作成法を開発したことは実用化に向けた探索研究の成果としては大いに評価できる。また、次の技術的課題として強度向上と耐衝撃性の評価が挙げられ、それらへの対応の計画が示されていることから技術移転へ向けての活動がなされていると判断できる。一方、技術移転の観点からは、強度向上や耐衝撃性の評価も必要な課題としてとらえている。共同研究の計画などから技術的課題の解決に向けた計画が示されており、低コストの製造法が確立されれば社会還元につなが可能性は大いにある。
小型燃料電池システムに対応した貯蔵安定性に優れる尿素供給型非常時水素製造技術の開発 群馬県立産業技術センター
鈴木崇
小型燃料電池システムでは50℃前後の温水と1~2kwhの電力を同時に得られる。このため、一般家庭用としてだけでなく災害時の非常用電源としても重要視され始めている。一般的に小型燃料電池システムは都市ガスなどが原燃料として用いられる。非常用電源として考えた場合、ライフラインが機能しないときに如何に水素を供給できるかが重要であり、貯蔵性、安全性に優れる都市ガス等の代替物質を用いる水素供給技術の確立が求められる。肥料等に用いられる尿素は入手しやすく安全性に優れ、貯蔵に関しても制約を受けない。本研究では尿素水を加熱した不均一触媒に接触させ、アンモニアと二酸化炭素への分解反応とアンモニアの水素および窒素への分解反応を固体触媒上で進行させ小型燃料電池システムに供給し得る水素富化ガスの製造技術を開発しようとするものである。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に尿素の分解については目標とする数値は得られており、アンモニア分解の過程についても明確にされていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、触媒の安定性やスケールアップの影響に関する検討(パイロットプラントの試作等)が望まれる。また、これまでの研究成果を特許化することが望ましい。今後は産学連携を視野を行い市場調査及び他の技術と彼我比較を行い、本技術の優位性を把握しすることが望まれる。成果が実用された場合には災害時に熱と電力を供給する手段として価値ある製品になることが期待できる。
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の最適摺動温度の検討 群馬県立産業技術センター
五十嵐昭
群馬県立群馬産業技術センター
北島信義
PBIID(RF・高電圧パルス重畳方式プラズマイオン注入・成膜)法を用いて成膜したDLC膜の耐熱性などの温度特性と摩擦挙動の関係を把握するために温度処理をした試料を用いて摩擦試験を行った。また水素含有のDLC膜の耐熱性、分解に関係すると思われる水素原子の温度変化に伴う挙動を、パルスNMRを用いてT2緩和時間を測定することで、明らかに出来ると推察し、温度変化に伴うDLC膜の運動性の変化について探索することを目標として実験を行った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも温度変化による摩擦係数の差を把握できたことは、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。実験結果においては温度変化による摩擦係数の差が少ないないために、他に影響する要因(水素)があるようであり、今後の研究に期待する。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携による共同研究開発計画を立案し、市場調査及び他の技術との比較を行い、本技術の優位性を明確化することで実用化につながるものと期待する。
双ロールストリップキャスティングによるMg合金とAl合金のクラッド材の開発 群馬大学
西田進一
群馬大学
小暮広行
本研究の目標は、双ロールキャスティングにより、マグネシウム合金とアルミニウム合金のクラッド材を作製することである。マグネシウム合金は実用金属中で最軽量であり、薄板が高価である点が普及への障害となっている。また、表面をアルミニウム合金で覆い、クラッド化することで、マグネシウム合金の欠点の一つである耐食性の改善を図ることができる。いずれの合金も溶湯から直接薄板を作製し、クラッド化に必要な接合を同時に達成することを目標として、実験装置の設計・試作、作製可能な範囲の条件の選定、伝熱凝固解析及び弾塑性有限要素法解析を行った。達成度として、クラッド材の作製、及び、高強度マグネシウム合金薄板の作製に成功した。今後の展開は、様々な合金種への展開、クラッド比の拡大を検討している。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。双ロールストリップキャスティングにより、マグネシウム合金とアルミニウム合金のクラッド材を溶湯から直接作製するプロセスを開発することを目的とした研究において、高アルミニウム含有Mg合金の鋳造結果であり、Mg合金とAl合金のクラッド材の作製に関してクラッド材の作製に成功している。実用化の観点からは本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後の研究開発計画については残された課題とその解決方法を具体的にし、産学共同等の研究開発ステップにつなげることが期待される。
イオン交換樹脂を適用した高耐久性コンクリートの開発 埼玉大学
睦好宏史
埼玉大学
角田敦
海岸近傍などに建設されている鉄筋コンクリート(以下RC)構造物は、海水飛沫等によりコンクリート中に塩化物イオンが浸透し、内部の鉄筋が腐食して劣化が進み(塩害)、構造物の供用性に大きな問題が生じている。あらかじめ成型した塩化ナトリウムを含むコンクリートブロック(A)にイオン交換樹脂を混合したコンクリート/モルタル(B)を打ち継ぐと、Aに存在する塩化物イオンがBに移動することを確認した。これを応用すると、塩害を受けた既存構造物の塩化物イオン濃度の高い表層のコンクリートをはつり、安価な強塩基性陰イオン交換樹脂を混合したコンクリート/モルタルで断面修復することにより、既存の鉄筋構造物の塩害を食い止める新規補修方法を開発できる期待があることが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究はイオン交換樹脂をモルタルに混入することにより、既存の塩化物含有モルタル中の塩化物量を減少させることを検討している。応用研究として産学連携で実橋で試験施工を行っており、実用化に向けた探索研究の成果としては十分に評価できる。また特許の出願も計画している。一方、技術移転の観点からは、産学連携をより密にして試験施工と基礎的研究を進めることが望まれる。安心安全につながる社会還元を目指した試験施工の実施は有意義であり、技術移転も大いに期待できる。
無光でヒドロキシラジカルを発生する新触媒担持抗ウイルス性・抗菌クロスの企業化の探索 千葉大学
白澤浩
公益財団法人千葉県産業振興センター
古屋敏昭
無光でヒドロキシラジカルを発生する新触媒を担持したクロスを開発することを目的として、ガラスクロスおよび不織布基材における触媒原料組成、触媒担持処理条件等の検討を行い、新触媒を担持したクロスを開発した。本触媒を担持したガラスクロスは抗ウイルス性を示したが、抗菌性を示さなかった。一方、本触媒を担持したコットンクロスは抗ウイルス性・抗菌性を示した。本触媒を担持する素材により抗ウイルス性・抗菌性の特性が異なることから、本触媒を担持したクロスの素材の特性に応じた応用が期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。触媒担持資材に対する抗ウィルス、抗菌クロスの評価試験結果は、コットン他担体自体による効果との識別評価において、当初計画していた「無光で生成するヒドロキシラジカル種」のESR等の機器分析手法を用いた検証が十分とは言えないが、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。技術移転の観点からは、本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後は更なるデータの積み上げを進めるとともに産学連携による共同研究を実施することで実用化につながるものと期待できる。
その場で水素を得るソーラー燃料電池の開発 千葉大学
泉康雄
(財)千葉県産業振興センター
古屋敏昭
その場で水素を得るソーラー燃料電池のフィージビリティを得ることを目標にした。本研究では太陽光に類似する波長分布をもつアーク灯を試作ソーラー燃料電池に照射し、反応試験を実施した。従来の燃料電池の要素技術と組み合わせつつ、段階的にソーラー燃料電池のフィージビリティを示してゆき、最終的には光励起のみでその場で水素を得る燃料電池が動作することを示した。光を利用する点以外の動作原理は燃料電池と同様で、室温で動作することを特徴とする。ソーラー燃料電池としての要素技術を最適化すること、電流値を最適化している。ソーラー電極材料の改良は、赤外分光・X線吸収分光・密度汎関数計算により反応原理をおさえてゆき、反応原理の観点からも要素技術の最適化を行なっている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、「その場で水素を得る技術」について、50μAを超える電流を得た点は評価できる。さらなる反応速度の向上を図るという技術的課題が明確になったことも実用化に向けた探索研究としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、計画をしている特許出願を確実に実施することが望ましい。今後は産学連携による共同研究開発の中で市場調査及び他の競合が予想される技術との比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで、実用化につなかることが期待できる。
振盪運動を付加した惑星運動型高速向流クロマトグラフ装置の開発 日本大学
四宮一総
日本大学
井上典之
カラムが水平方向の惑星運動と同時に垂直方向に振盪運動する振盪式高速向流クロマトグラフ装置を考案・製作した。水性二相溶媒を用いたタンパク質分離を行った結果、公転250 rpmでは下層を移動相とすると、振盪運動のない状態よりピークがブロードとなり、上層を移動相とすると分離は達成されなかった。また、500 rpmでは、下層と上層いずれを移動相に用いても振盪運動がない状態とほぼ同様の分離結果が得られた。以上の結果から、今回の分離では振盪により分離効率の向上は達成されなかったが、低回転速度では撹拌効果が得られることがわかった。今後、有機溶媒-水系二相溶媒での分離を検討すると共に、振盪効果が分離に及ぼす影響を検討する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に従来の水平方向の惑星運動に加えてカラムが垂直方向に振盪運動する新しい装置の開発が達成され、特許出願も行われ、次のステップへの技術課題も明確であることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、有機溶媒-水系二相溶媒を用いた物質分離を検討し、振盪による効果を更に検証することにより分離効率の向上が可能と思われる。すでに特許出願するなど技術移転に対しての準備も行っており、製品化により社会還元も期待できる。今後は、分離効率の向上により、独創的なクロマトグラフ装置技術として技術移転につながることが期待される。
環境汚染物質除去機能を有する粘土鉱物材料の開発 首都大学東京
高木慎介
首都大学東京
鷲田弘
カチオン交換性粘土鉱物であるサポナイトやフロゴパイトを用いた環境汚染物質の吸着挙動、ひいては、その除去性能等について検討を行った。吸着種としては、カチオン性有機化合物、セシウムイオンを中心に検討を進め、特にセシウムイオンについては、極低濃度においても有効な吸着が起こることを見いだした。この吸着挙動は粘土鉱物に特有な挙動であり、そのメカニズムに興味がもたれた。TEM, XRDにより、メカニズム解明のための足がかりを得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。粘土鉱物に関する過去の基礎的研究を通して得た豊富な研究成果に基づいて、排水中の界面活性剤や色素を選択的に吸着、排水浄化に寄与する研究であるり、粘土鉱物の色素吸着挙動については確認されている。放射性セシウムイオンを除く効果(0.01ppmという低濃度領域においても、ほぼ100%の吸着)は得られている。申請前に1件の特許出願があるが、本研究期間の成果を特許として権利化することが望ましい。今後、産学連携により回収、再利用、性能劣化の解明などのデータを積み上げることで実用化が期待できる。
低温焼結助剤と放電プラズマ焼結法を駆使した窒化アルミニウムセラミックスの低温・短時間焼結 中央大学
小林亮太
中央大学
加藤裕幹
窒化アルミニウム(AlN)セラミックスの作製プロセスにおいて、申請者が利用してきたホウ素を含有する低温焼結助剤と加圧焼結プロセスの一種である放電プラズマ焼結法を併せて利用し、従来よりも低温・短時間(目標:1600℃・1h以下)で緻密化させることを目的として研究を行った。焼結温度などのプロセスパラメーターを変化させて焼結体を作製し、密度や微構造、構成相、熱伝導率を評価した。目標温度である1600℃で5minのごく短時間の焼結で完全な緻密化を達成でき、さらに低い1550℃でも緻密な焼結体が得られた。得られた焼結体は粒径が1μm程度の微細な組織を有しており、熱伝導率は80~90 W/mK程度であった。今後の課題として、より高い加圧力での焼結や他の低温焼結助剤を利用し、焼結性を維持したまま熱伝導率をさらに向上させることが挙げられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも従来の方法で作られた焼結体より緻密化においては進化し、低コスト化の可能性が得られたことは実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。熱伝導率の改善、複雑形状品の製法、またSPS法を使用した生産性の高い装置の開発などの課題を今後解決することで実用的な生産方法として社会に普及することも期待できる。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携による共同研究開発の中で他の技術との比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化につながることが期待できる。
マイクロスケール実験を用いた物理化学実験教育 中央大学
片山建二
中央大学
武田安弘
少量の試薬と小さな器具を用いて行うマイクロスケール実験は、廃試薬量の削減による環境負荷の低減、小さな器具の使用による省スペース化、スケールダウンによる危険性の低減や実験時間の短縮などが期待される上、個別実験が可能になるため各人の理解度向上が期待される。本開発では、多くの有効性にもかかわらず、大学向けに適用されてこなかったマイクロスケール実験を大学向け教育実践シリーズを開発し、キット化することを目標とした。特に大学化学課程で理解が難しい物理化学のシリーズを4つ作成することに成功した。キット化し販売するよりも、テキストとして周知する方が、普及に対して効果的と考え、第一段階としてWeb公開した。今後、2つの実験を追加し、シリーズを完成させたのち、実験指南用のテキストとして出版していく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本課題は、マイクロスケール実験を大学向け教育実践シリーズとして開発し、キット化することが当初の目標であり、キット化は断念しているが、次のステップへ進めるための技術的課題として企業の協力を得て実験教材キットとして商品化を狙っており、探索研究の成果としてはある程度評価できる。今後、本研究成果を冊子化・Web化して普及する計画があり、その前にこれまでの研究成果の特許化を検討することが望まれる。今後は産学連携の中で市場調査を行い、本技術の優位性を明確化されることで実用化につながることが期待できる。
ソリューションプラズマ法による高分散ナノ微粒子の開発と長寿命燃料電池触媒への応用 東京工業高等専門学校
城石英伸
東京工業高等専門学校
佐々木桂一
本研究は、ソリューションプラズマ法(以下SP法)によって合成された白金担持触媒の固体高分子形燃料電池用電極触媒としての活性および寿命を電気化学的手法により評価するとともに、実際に単セルに組み込み、発電試験を行った。その結果、市販触媒と比較して、遜色ない出力特性が得られることが示された。また、FCCJプロトコルに従い、ハーフセルにて、劣化加速試験を行った。その結果、市販触媒(20% Pt/XC72, E-TEK社)と比較して起動停止プロトコルにおいて3.3倍長寿命であることが明らかとなった。SP法によってPtRu合金触媒を調製する手法を開発した。
 
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まったに当初の目標を全て達成している。特に触媒担持工程の簡素化や危険性の排除、環境汚染物質排出量の低減など社会的にも有意義であり実用化に向けた探索研究としては十分に評価できる。従来より工程の難易度が緩和され、プロセスの各段階での制御性も良いと思われる。技術移転の観点からは、ソリューションプラズマ法の応用範囲を広げる新展開も期待できる。特に触媒担持の有力な方法と位置づけており、今回の成功で実用化に一歩近づいたものと期待できる。既に産学連携も始めていることから、今後は研究成果を特許化して産学連携を密に展開することが望まれる。
イオン液体を用いた高効率な光アップコンバーターの開発 東京工業大学
村上陽一
東京工業大学
上羽良信
本課題は、エネルギーキャリアである有機色素分子の流動性エネルギー交換媒体として世界で初めてイオン液体を用いた不揮発・難燃な光アップコンバーターのアップコンバージョン量子効率(UC-QY)向上のための研究開発を行う。UC-QYはイオン液体の種類に依存することが見出されており、UC-QYを最大化するイオン液体の探索と、イオン液体が効率に影響を与えるメカニズムの解明が必要である。本研究では複数のイオン液体で試料作製・測定を実施し、今後の課題となる知見を得た。また、光パルス測定を行い、その解析を通じてイオン液体のカチオン分子が及ぼす影響について知見を得た。さらに、応用を見据えたプロトタイプデバイスを製作し、レーザー光および太陽光を入射光としてその動作確認を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にアップコンバージョンセルを作製しデモンストレーションを行うことで、企業との協業体制を確立する目標は達成することができたことは大いに評価できる。変換効率をイオン液体を検討することによる変換効率の向上については未達成であるが、効率向上への分子構造的指針の一つを得ており、変換効率の向上が実現できた際は太陽電池への実装も期待できる。一方、技術移転の観点からは、エネルギー問題や環境問題の観点から社会的に意義が深い取り組みであり、今後は産学連携により、変換効率の向上の阻害要因の解決が進むことが期待される。
磁性体薄膜における磁気異方性の電圧制御技術の高度化 東京大学
喜多浩之
東京大学
増位庄一
本研究では目標を強磁性体薄膜の磁気異方性の電界制御技術基盤の確立と高度化として実施した。成果として、(1)MgO/CoFeBの界面磁気異方性エネルギー(Jint)を最大化する要件について、熱処理時の強磁性金属表面反応やシード層Taの拡散に注目して解析し、それに基づき(2)MgO成長条件を調整し、強磁性金属表面の過剰な酸化を抑制することで同じJintであっても電界効果が増大することを見出した。さらに(3)界面をMgOに代えてHfO2やZrO2としても電界効果が得られること、また高誘電率化の効果を実証した。これらにより、Jintへの電界効果を増大させる指針が得られたと言える。ただし界面の構成元素が変化することの効果の定量化は今後の課題である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に窒素アニールによる特性劣化の原因をRBSの深さプロファイルで特定したこと、磁気異方性の電界依存性を目標値近くまで達成できたことは実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携を視野に入れた研究開発計画を立案し、その中で市場調査及び競合が予想される他技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることにで実用化による社会への還元が近づくものと期待できる。
工具/金型鋼へのダイヤモンド被覆実現のための表面シリサイド化処理の確立 東京都市大学
亀山雄高
切削工具への適用を視野に入れて、鋼基材へのダイヤモンドコーティングを実現するための表面シリサイド化処理の研究開発を行った。工具鋼の焼戻し温度を想定した処理温度でのAIH-FPPによって鋼基材へシリサイドを形成させる手法を確立し、これによって鋼基材上に良好な膜質のダイヤモンドを成膜することを目標とした。AIH-FPPの際に、粒子供給量や冷却速度などの条件を工夫することで、厚く均一で母材との間が傾斜組成構造となったシリサイド層が形成でき、その状態の基材へダイヤモンド成膜を行うとグラファイト成分を含まないダイヤモンド薄膜が形成できた。一方、処理温度に関してはさらに低温化できることが望ましく、課題が残されている。善後策として、低融点金属の元素とFe元素との金属間化合物は比較的低温で形成できることを見出した。今後、成膜工程も含めた処理プロセスの見直しを行うとともにその密着性の定量的評価を行い、実用化へつなげていく方針である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。800~900℃処理でのダイヤモンド層形成技術は確立されているが、目標とした工具鋼の高温焼き戻し温度(500~600℃)でのシリサイド処理が未達成である。AlのコーティングとFeAl系の金属間化合物層の形成で対策を実施しており、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。目的のダイヤモンドコーティングに向けて今後の成果を期待する。技術移転の観点からは、本研究期間の成果を特許として権利化することが望ましい。ものづくり分野でのニーズも十分あり、産学連携による共同研究開発を実施することで実用化が期待できる。
環境低負荷/高速/高選択性CO2吸着材料を用いたH2分離フィルターの吸着性能評価 東京農工大学
近藤篤
東京農工大学
堀野康夫
化石燃料の枯渇や地球温暖化が問題となっている現代において、クリーンなエネルギーとして水素が注目されている。主要な水素製造法として水蒸気改質法があり、メタンを原料としたときの最終生成物はH2とともにCO2が生成されるため、H2/CO2混合ガスからのH2分離が重要となる。我々は、金属イオンと有機配位子から成る有機-無機ハイブリッド結晶の研究を展開しており、常圧領域でCO2を吸着するがH2は全く吸着しない材料Cu-MOFを見出している。しかし、この材料は微結晶粉体として得られ、ハンドリングの悪さや粉体飛散などの課題を解決する必要がある。そこで、高分子ポリマーなどを利用してCu-MOFを固定化し、複合化による吸着特性や安定性への影響を評価した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。、吸着特性は当初目標としていた値からすると未達成であるが、Cu-MOF粉体と高分子ポリマーを複合化した分離フィルター作製は計画通り実施されており、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究開発成果を特許として権利化することが望ましい。今後、産学連携を視野に入れて、更なる技術的検討やデータの積み上げを行い、市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化が近づくものと期待できる。
二酸化炭素を利用した下水焼却汚泥から肥料用リン酸の回収プロセスの開発 日本大学
遠山岳史
日本大学
渡辺麻裕
現在、リン資源の枯渇により焼却汚泥などの未利用リン資源が注目されているが、重金属などの有害成分を多く含有しているため、これらを含まない簡便・省エネルギー型のリン酸回収プロセスの開発が求められている。本研究課題は焼却汚泥にCO2を吹き込むだけの簡便なプロセスで、可溶性炭酸水素塩となるカルシウム塩等だけを溶解させて、重金属を含まないリン酸溶液を回収するものである。本研究では、肥料取締法に基づく焼成汚泥肥料の有害成分であるカドミウム、ニッケル、クロム、鉛のリン酸塩のCO2吹込みによる溶解特性について検討を行ったところ、アルカリ土類金属と比較して、ニッケル、クロム、鉛はほとんど溶解しないことが明らかとなった。また、実際の下水焼却汚泥についても同様の操作を行ったところ、ニッケル、クロム、鉛の含有量の少ないリン酸含有粉末を回収可能であった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初目標であった複数の下水焼却汚泥は一種類ではあるが実施されており、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。技術移転の観点からは、本研究期間における成果を学会発表に留めず特許として権利化することが望ましい。今後、記載されている技術的課題を解決するためには、具体的な研究開発計画の立案が望まれる。溶液中で回収できるリン酸濃度が極めて薄いので、技術的検討やデータの積み上げなどを産学連携を視野に入れて展開することで実用化が近づくものと期待できる。
炭素熱還元-高温水蒸気酸化技術を用いた国内産鉱石からのガリウムの濃集 法政大学
明石孝也
法政大学
中江博之
栃木県の鉱山から採掘される鉱石(50ppmのガリウム含有)を、500ppmまで濃縮することを目的として、炭素熱還元-高温酸化技術を用いたガリウムの分離・回収を行った。回収された試料の主成分は、SiO2とGa2O3であり、ガリウムの濃度は4.6%(46000ppm)であった。この濃度は、当初の数値目標(500 ppm)や、ガリウム原料として用いられているアルミン酸ソーダ溶液(バイヤー液)中のガリウム含有量(約200ppm)をはるかに超えている。今後の展開として、栃木県鉱山におけるガリウム微量含有鉱石の分布調査と、ガリウム回収量あるいは歩留まりを上げるための技術開発を行うことが必要である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に低濃度の状態からガリウムを濃縮できることを実験的に確認でき、濃縮度は当初の予測より高く、目標は十分に達成されたとものと評価できる。また、キャリアーガス条件等の最適化を行い目標を短期間に達成できている。技術移転の観点からは、関連する企業をパートナーとして具体的な事業化の検討も進んでいる。ガリウムの安定供給のニーズは高く、工業化を期待したい。今後は実用化に向けて企業との連携を強化し、低コスト化を図ること技術移転されることが大いに期待できる。
スパッタ法を用いた赤外まで透明な酸化スズ透明導電膜の開発 財団法人神奈川科学技術アカデミー
中尾祥一郎
本研究はスパッタ法を用いて、次世代太陽電池にも十分対応できる赤外まで透明なSnO2透明導電膜を作製する事を目標とした。アナターゼ型TiO2シード層およびルチル(Ti,Nb)O2固溶体シード層を用いてSnO2薄膜の移動度改善を試みた。前者においては2倍程度の、後者においては30%の移動度の向上が見られた。現時点で得られた移動度は35~40cm2・V-1・s-1程度であり、最終的な目標値の80cm2・V-1・s-1の半分程度ではあるが、過去のスパッタ法による報告値10~20cm2・V-1・s-1から二倍近く改善されている。更に、スパッタ法においてはドーパントの活性化が抑制されやすい事、シード層がドーパントの不活性化を解消し、70%程度の高いドーピング効率が得られる事が分かった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初目標としたスパッタ法を用いて2cm角ガラス基板上に移動度80cm-1-1 (キャリア濃度1x1020 cm-3)の酸化スズ薄膜の作製は達成されていないが、過去のスパッタ法による移動度の報告値10~20cm-1-1に比較してと二倍近く改善されており評価できる。太陽電池への応用においてはさらなる特性向上が望まれる。今後は大面積化における技術課題を明確にし、解決策を具体的にすることが必要と思われる。本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。
非石油資源からの高選択的プロピレン製造のためのゼオライト触媒の開発 横浜国立大学
窪田好浩
横浜国立大学
西川羚二
ゼオライトを固体酸触媒としてメタノールもしくはジメチルエーテル(DME)などの非石油資源から低級オレフィンを製造する手法(MTOやDTO)が注目されている。特に需要の高まっているプロピレンの選択的製造に活かすべく、本研究では、酸処理でAl含有量を調整したMCM-68(骨格コードMSE)を触媒とし、MTOやDTO反応に対する触媒性能の検討を行った。その結果、Si/Al比100-180で炭素析出を十分抑制でき、高いプロピレン収率が得られることがわかった。今後は炭素析出の更なる抑制のため、ゼオライト触媒粒子の外表面活性点の選択的な除去効果を調べ、高効率プロピレン触媒の開発を進める予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にゼオライト触媒の酸処理により、その酸の強さを変えることでSi/Al比が20から613までの6種類の触媒調製に成功し、Si/Al比を上げることで、炭素析出耐性が向上する事を明らかにしたことは実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。プロピレン生成メカニズムの原理的な理解も進んでいる。一方、技術移転の観点からは、工業利用を念頭においた炭素析出耐性の高いゼオライトの大量合成など課題は明示されており、今までの成果を特許化することが望ましい。今後は、技術移転を目指した産学連携により実用化研究への進展が期待される。
粉砕再結晶化法により製造したナノゼオライトを用いた放射性セシウムイオン回収技術の開発 横浜国立大学
脇原徹
横浜国立大学
西川羚二
申請者が開発した新規ナノゼオライト調製法を放射性セシウムイオン回収技術へと応用することを目的とした。特に事前の調査で現実的にイオン交換特性に優れていると考えられるA型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライトに着目し実験を行った。例えばモルデナイト型ゼオライトに関して、純水中におけるイオン交換実験の場合、10分間イオン交換した場合、15分間粉砕を行ったものは原料に比べて約1.3倍のCs+を交換した。一方で海水を10倍に希釈した溶液中では、10分間イオン交換した場合、15分間粉砕を行ったものは原料に比べて約2.8倍のCs+を交換した。このように競合カチオンの存在下においてもビーズミルによる粉砕処理を行ったゼオライトのほうがCs+へのイオン交換速度、イオン交換量が大きくなり、純水中に比べてその差が顕著に表れた。現在、福島県内で除染事業を立ち上げる予定である会社と共同研究を行い、環境中に排水を捨てる前の吸着漕の実装試験を行っている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも2種のゼオライトについて粉砕によるナノ粒子の調製を行い、純水または10%海水中で異なるセシウムイオン濃度に対してイオン交換を試みており、競合カチオンの存在下においては、ゼオライトの微細化がイオン交換能の向上に有効である事を明らかにしたことは評価できる。実用化に向けて技術的課題も明確にしている。安価な天然モルデナイトと大規模面積の除染テストなどが研究開発計画として具体的に検討されており、また汚染土壌を洗浄しフィルタープレスをかけた後の排水処理をターゲットとして既に企業との共同研究を開始している。データの積み上げなどは必要と思われるが技術成果の応用展開が期待できる。
新しいイオン化支援磁性ナノマトリックスの創製 横浜国立大学
一柳優子
横浜国立大学
西川羚二
H15以来、独自製法による3d遷移金属を含むnmサイズ磁気微粒子研究を行ってきた。医療分野では生体組織や細胞内物質構造解析要求があり、本技術を質量分析用のイオン化支援剤に適用、質量分析スペクトルの高分解能化や高解像度分子イメージング技術に発展させることを目指した。
Co, Ni, Cu, Zn等の3d遷移金属を含む水酸化物、酸化物、それらを複数含む化合物のナノ微粒子がイオン化支援機能を持つことを明らかにした。また、これらをマトリックスとして低分子薬剤の質量分析を行い、従来困難であった低分子の質量領域で高分解能な検出を可能とした。分子イメージングでは、初期実験で、数十μmの解像度でイメージングが可能であることを突き止めた。今後、イオン化支援機能と原子の種類、磁化との関係や、熱力学的アプローチから未解明のイオン化メカニズム究明を進める。分子イメージングでは、具体的ターゲットを決め、分化過程や病気の進行に関する知見を得ていく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新たな磁気ナノ微粒子を作製し、さらにSiO層効果も見出しており、当初の目標が達成され、実用化に向けた探索研究の成果としては十分評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。ガン細胞などの検体を用いた具体的実験のデータが必要と思われる。今後は産学連携による共同研究開発をすすめ、市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで技術移転につながることが期待できる。
イオン液体電析法による廃触媒リサイクル技術の開発 横浜国立大学
松宮正彦
横浜国立大学
西川羚二
本研究は廃触媒中の白金族元素と希土類元素の回収に対して、環境調和型溶媒:イオン液体を電析媒体に利用した新規のリサイクル技術であり、本プロセスでは実廃棄物を使用し、解体・剥離~酸溶解・金属塩合成~イオン液体電析から成る全工程を実施した。その結果、廃触媒中の触媒部材を分離でき、イオン液体に可溶な金属塩に収率:85.2%で転換できた。また、白金族元素(Pt)は廃触媒中からイオン液体電析の電位を制御することで選択的に回収できた。さらに、白金族及び希土類元素について、電解セルをPt:8.6倍, La,Ce:12.5倍までスケールアップさせて電解試験を行った結果、最大9.9倍(Pt), 12.4倍(La), 12.7倍(Ce)まで増加させ、電流効率:約80%の条件下で効率回収できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に実際の廃触媒を利用して、解体・剥離処理-回収対象金属種のアミド酸への金属塩としての溶解回収ーイオン液体内での電解析出による各金属の回収という一連の基本工程が適用できることを実証し、さらに従来の10mgオーダーから、数100mgオーダーへのスケールアップによる電流効率の目標値をほぼ達成され、研究成果は十分評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化し、産学連携を進めることが望ましい。今後は再利用性を高める分解電圧の高い新イオン液体の開発や経済性評価のためのデータ収集などを行うことで実用化が期待できる。
超音波ピーニングによる表面き裂の無害化技術の開発 横浜国立大学
高橋宏治
横浜国立大学
西川羚二
近年、船舶等大型輸送機器や社会インフラ用部材の長寿命化や延命化に対する要望が年々高まってきている。本研究では、超音波ピーニングを用いることにより、社会インフラ等で使用される鉄鋼材料の初期き裂等を無害化し、延命化する技術を提案することを目的とする。深さが0.4mmおよび0.6mmの半円スリットを導入した高強度鋼に対して、超音波ピーニングにより深さ0.8mm程度まで圧縮残留応力を導入した。この試験片を用いて、平面曲げ疲労試験を行った。超音波ピーニングにより、深さが0.4mmまでの半円スリットを無害化できることが明らかとなった。本技術を開発・応用することにより、大型輸送機器や社会インフラ等の安全性向上および延命化による省資源化が可能となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の目標を全て達成している。特に超音波ピーニングにより、深さが0.4mmまでの半円スリットを無公害化できることを明らかにするとともに、無害化可能な欠陥寸法を予測することが可能となった。これにより大型輸送機器や社会インフラ等の安全性向上および延命化による省資源化が可能となり、研究成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携を強化して、市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化が期待できる。
ボンドコート層への剥離進展抑制機構の付与による長寿命遮熱コーティングの実現 横浜国立大学
長谷川誠
横浜国立大学
村富洋一
本研究で開発した剥離進展を抑制する機構をタービン翼に適用し、寿命が従来の3倍(約3年)となる遮熱コーティング(TBCs)の実現するため、まずは新規機構の具体的応用として界面剥離強度(界面剥離エネルギー解放率)の3倍化の実証を試みた。TBCsは金属ボンドコート(BC)層とトップコート(TC)層から構成され、TC層が剥離し、最終的に脱落することで寿命を迎える。研究責任者は金属BC層を組織制御することにより、従来のTBCsに比べて界面剥離強度が6.8倍程度にまで向上することを見出した。しかし、コーティングプロセスに起因する剥離強度のばらつきが見られることから、今後はそれを減ずるためにも企業と連携するとともに、長時間の熱的負荷試験による寿命評価へと展開する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。高温で使用されるタービン翼の寿命を3倍にすることを目的とした遮熱コーティング技術の開発が研究目標であり、コーティング材のせん断剥離強度の改善といった点では成果が得られており、当初目標の達成までは至っていないが実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、産学連携を視野に入れて、課題解決策を具体的に研究開発計画に落とし込んで研究開発を継続することで実用化が近づくものと期待する。
無機蛍光体の室温合成の実用化 新潟大学
石垣雅
新潟大学
定塚哲夫
申請者らの研究では、室温で原料粉末を接触させて静置しておくだけで反応が進み、結晶性の複合酸化物が生成するという世界で初めての現象を見出した(特許公開2011-16670)。RbVO3は近紫外線励起により高い量子効率で白色光を発光するため、LED照明用の蛍光体として有望である。一般的な無機蛍光体は、1000℃以上の高温での熱処理により合成されるため、本合成法を実用化できれば大幅なコスト削減が可能である。また、蛍光体に不可欠といわれる希土類原料を必要としないという観点からも有利である。本研究では、合成メカニズムの解明と合成した蛍光体の特性評価を行った。室温で大気中の水分を吸収して10分程度で反応が進行し、蛍光体が生成することが分かった。反応に必要な水分のpHを調製することで発光強度は増大し、遷移金属を導入することで増感効果も得られ発光色の調整の可能性も見出された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。無機蛍光体の合成反応、蛍光体の耐久性、発光中心の導入による効果など新しい成果を得ていることが実用化に向けた探索研究の成果としてある程度評価できる。実用化の観点からは本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。また、合成反応についてはより詳しい研究が必要であり、技術的課題解決のための具体的な研究開発計画の立案と実行が望まれる。今後、産学連携を視野に入れて更なるデータの蓄積を行うことで実用化が近づくものと期待できる。
高活性酸素発生触媒である単核ルテニウムアコ錯体を用いた水素生成型太陽電池の開発 新潟大学
平原将也
新潟大学
嶽岡悦雄
エネルギーおよび環境問題を背景に次世代エネルギー供給源として可視光水分解システムの構築に大きな関心が寄せられている。申請者は高活性酸素発生触媒を有する水素生成型太陽電池の開発を目的として、高活性な酸素生成触媒であるルテニウムアコ錯体と光増感剤であるトリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム部位をリンカー配位子によって連結した二核錯体を合成した。紫外-可視吸収スペクトル測定、発光測定、質量分析スペクトルおよび電気化学測定によって合成二核錯体を同定した。二核錯体において、ルテニウムアコ錯体部位が光増感部位の発光を効率よく消光することを明らかにし、合成した二核錯体が水素生成型太陽電池の水の光酸化分子素子として十分適用可能であることを示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高活性酸素発生触媒を有する水素生成型太陽電池の開発を大目的に、本研究では高活性な酸素生成触媒であるルテニウムアコ錯体と光増感剤であるトリス(2,2’-ビピリジン)ルテニウム部位をリンカー配位子によって連結した二核錯体の合成に成功したことは評価できる。二核錯体の半導体-水溶液界面への応用に向けて、金属酸化物半導体表面に結合可能なカルボキシル基を導入した二核錯体の合成に着手している。一方、技術移転の観点からは、研究成果を特許化することが望ましい。今後産学連携により将来に向けての水素生成型太陽電池の技術確立に期待したい。
発光型プロトン濃度モニタ材料の開発 長岡技術科学大学
黒木雄一郎
発光型プロトン濃度モニタの実現に向けて、以下の知見を得た。まず、近年我々が開発した新物質:銅添加ヒドロニウムアルナイト(H3O)Al3(SO4)2(OH)6:Cuの原料として、硫酸塩を用いることで、母体結晶の結晶性の向上ならびに発光強度の増大に成功した。また、励起・発光スペクトルの解析から、発光イオン(一価の銅イオン)の励起帯を明らかにした。さらに、この材料のプロトン伝導に深く関係すると考えられる結晶水の脱水・分解挙動を明らかにし、脱水量と発光強度の相関を明らかにした。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に銅添加アルナイト型化合物の青色発光(419nm)の発見に次いで、その発光とプロトンH伝導のメカニズムの解明、燃料電池としてのアルナイト型化合物材料の開発などを探究し、結晶化向上による発光強度の増大、発光励起帯として296と325nmの2つの存在、発光強度と結晶水の相関などを解明した。これらの成果は本化合物を基にした実用的な燃料電池内プロトン濃度モニタ材料の実用化を一段と促進するものであり、評価できる。特許も出願済みである。技術移転の観点からもは、産学連携による共同研究の計画が進んでいる。今後はプロトンモニタは燃料電池の信頼性を向上される点で社会的還元が期待される。
メタノール透過に伴う空気極での性能低下しない脱白金電極触媒の開発 長岡技術科学大学
白仁田沙代子
長岡技術科学大学
品田正人
直接メタノール形燃料電池(DMFC)の空気極材料として、メタノール透過による性能低下が生じることなく、かつ従来の電極と同等またはそれ以上の性能を有する脱白金電極触媒の作製を行うことを目的とした。非白金材料として、安価なCo、Niターゲット材料を用いて、Co-Ni-C-N電極触媒をスパッタ法により作製した。各組成比を変化させて作製した結果、酸素還元特性を有し、かつメタノール共存下でも、酸素還元特性を有する電極触媒ができることが見出された。今後、今回得られた組成比を利用して、大量生産が見込まれる粉末形状の作製へと、企業の協力を得て、展開できると考えられる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に安価なDMFC空気極材料の原材料費を70%以上削減するという高い目標に対して、未達成ではあるが、その原因に対する調査方法は示されており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標達成に向けて研究開発を進めるとともに、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。技術移転を実現するためには産学連携を密にした共同研究開発の推進が期待される。高い目標への取り組みではあるが、実用化につながることを期待する。
固体電解質を使用した色素増感太陽電池の開発 富山県工業技術センター
角田龍則
本研究では、色素増感太陽電池用電解質の印刷による形成、その光電気変換効率が6%以上であることを目的に電解液をゲル状にして酸化物粉末を添加したものを作製し、それを使用した色素増感太陽電池の評価をおこなった。最初に、酸化チタン膜の微細構造評価、色素吸着状態の評価をおこない、その後ゲル状電解質の評価をおこなった。酸化チタン膜の微細構造の評価について比表面積と硬度などから変換効率との関係を調査した。結果としてゲル状電解質を用いたセルを作製し変換効率6%が達成できた。しかし、長期信頼性の目標は達成できなかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもゲル状電解質を用いたセルを作製し変換効率6%を達成している。長期信頼性の目標は未達であるが、今後改善できる可能性が高く、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。すでに産学連携による共同研究開発をスタートさせており、市場調査及び他の技術との彼我比較を実施することで、本技術の優位性を明確にすることが望まれる。コストを意識した研究開発により色素増感太陽電池の新製法として応用展開が期待できる。
原子力施設等から排出されるナノサイズ帯電粒子を大風量処理できるフィルタの開発 富山高等専門学校
吉川文恵
富山高等専門学校
定村誠
本申請研究では、ナイロンメッシュの繊維径に対して1/200以下の厚みで炭素をコーティングし、メッシュに導電性を持たせることで、ナノサイズ帯電粒子の捕集効率向上を目的とした。無帯電粒子およびコーティングしない場合に比べ帯電粒子は、膜厚12.9nm(繊維径に対して1/20000)で、ろ過速度が0.147m/sの場合は捕集効率が0.3程度、0.221-0.295 m/sの場合は0.2程度の向上を確認した。また、このときの初期圧力損失は、コーティングなしのナイロンメッシュと同程度であった。
以上のことから、低圧力損失で帯電粒子に対して高効率で捕集できるフィルタの設計が可能であることが示唆された。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究は極めてユニークな研究であり、実用化された場合大きな成果が期待される。微粒子の吸着法として考案したカーボン・コーテイング法は当初の目標も達成されており評価できるが、今回の目標はテーマ全体の初期段階であり、有益な成果が次につながることを期待する。本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。技術移転の観点からは、技術的課題も明確化されており、産学連携の枠組みにより解決することが望まれる。今後は、データの積み上げを行い、実用化につながることを大いに期待する。
耐酸化性にすぐれた窒化物・酸化物系ナノコンポジット超硬質保護膜の開発 富山大学
野瀬正照
富山大学
永井嘉隆
窒化物微結晶を非晶質酸化物で覆うナノコンポジット膜を、超耐酸化性+超高硬度の膜に進化させ、従来材を凌駕する保護膜を目指す。切削工具に用いられる従来の硬質膜は、窒化物膜が主流であるが、耐酸化性は不十分である。他方、アルミナ等酸化物膜は靭性に乏しい。窒化物微結晶を非晶質酸化物が覆う構造のナノコンポジット膜ができれば両者の特長を兼備した夢の保護膜が実現する。申請者が独自に開発した差動排気同時成膜技術を用いれば、窒素雰囲気と酸素雰囲気の異なる成膜雰囲気が互いに混合せずに成膜できる。これにより窒化物 + 酸化物の微細構造制御ナノコンポジット膜を作製、耐酸化性に優れた切削工具用超硬質保護膜の実現を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にCrAlNとアルミナや酸化ケイ素の酸化物とのナノコンポジット膜を合成し、その組成、微細構造を評価し、硬度、耐酸化性、密着性の膜特性を調査し、目標とした硬度および耐酸化性を達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の研究開発計画を短期、中期、長期に分けて検討されていが、これまでの研究成果を特許化することが望ましい。今後、明確化されている残された課題(密着性向上及び成膜装置の改善)を産学連携により解決することで切削工具へ応用等の実用化が期待できる。
炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの高速成形に向けた樹脂含浸特性の向上 金沢工業大学
斉藤博嗣
金沢工業大学
諸谷克郎
繊維強化プラスチック(FRP)の成形において、繊維に対する樹脂の浸透性は、重要な材料パラメーターの一つである。しかし、繊維基材の織り形態や表面処理の相違による影響の理論的、体系的な議論が不十分である。提案者は、繊維と樹脂との馴染みやすさであるぬれ性、特に付着エネルギーに着目し、両者の相関性について定量的な評価を行った。その結果、ぬれ性と浸透性との間に明らかな相関性が認められた。他の材料系においても同様の取り組みを行ない、データの信頼性向上を図り、浸透性の再定義を行ないたいと考えている。一方、当初目標であった熱可塑性樹脂の含浸特性に関する定量的な評価には至っていない。定量評価法を含め、熱可塑性樹脂の浸透性に対するぬれ性の影響については、今後の検討課題である。 当初目標とした成果が得られていない。炭素繊維基材に対する熱可塑性樹脂の含浸特性評価などが行われておらず、内容は基礎的、学術的なものである。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。
汚染土壌中重金属の低環境負荷・高効率除去を実現するキレート洗浄技術の開発 金沢大学
長谷川浩
金沢大学
奥野信男
有害金属汚染土壌に対する環境改善技術において、現在は物理的或いは生物学的手法が主流であるが、汚染除去率の向上や処理コストの低減には化学的洗浄法の導入が不可欠である。本研究では、有害金属汚染土壌を対象とした化学的キレート洗浄技術に取り組み、土壌中に含まれる重金属を低コストで環境負荷の無いレベルまで低減するキレート剤及び洗浄法を基礎的に検討した。キレート洗浄では、洗浄後の土壌に残留したキレート剤による環境汚染を防ぐために、生分解性キレート剤を用いた。本技術は、重金属による土壌汚染を根本的に解決する新しい要素技術として、様々な土壌汚染に対しての適用が期待できる。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に特許の申請行われており、基礎的な処理条件も把握していることから実用化に向けた開発が有効であると評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けた課題は企業との連携の中で現場土壌の実施例を具体化することが必要であり、現在数社が連携しようとしていることから実施される可能性が高く社会還元も期待できる。今後は、生分解性金属キレート剤を安価に提供し、金属による土壌汚染の安価かつ簡易な対策技術を作るとともに、処理後の環境保全性も達成して土壌汚染の洗浄に有効な技術確立が期待できる。
熱可塑性複合材料用繊維を用いた複合材料の開発 石川県工業試験場
長谷部裕之
石川県工業試験場
米澤保人
熱可塑性繊維強化複合材料(FRTP)を作製において、炭素繊維間への母材樹脂の含浸向上の手段として、母材樹脂である熱可塑性樹脂繊維と炭素繊維との混繊繊維(コミングル繊維)から作製する方法がある。本研究では、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を母材樹脂として選定し、炭素繊維と同等の繊度と、昇温時に炭素繊維の配列を乱さないよう収縮率に注目し、PPS繊維を作製した。その結果、炭素繊維1980dtexに対して1800dtex、かつ、目標収縮率5.0%に対して収縮率6.6%のPPS繊維が得られた。このPPS繊維と炭素繊維のコミングル繊維から作製したCFRTPは曲げ強度531MPa、層間せん断応力535MPaであった。フィルムと炭素繊維から作製したCFRTPと比較すると、曲げ強度は低く、層間せん断応力は高い。これらの相違は混繊時の炭素繊維の毛羽が影響していると考察した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。
本研究では、新しい熱可塑性繊維強複合材料(CFRTP)板の開発を目的に、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維と炭素繊維とのコミングル繊維からなるCFRTP板を開発し、炭素繊維織物のCFRTP板と種々の物性を比較しているが、必ずしも当初目標を達成しているとは言えない。しかし、炭素繊維を重要なコンポーネントするCFRTPの開発は、工業的および学術的にも大変重要であると思われる。今後は、大学等との共同研究により、広い視野と柔軟な発想の下に研究開発される事を期待する。
混練り技術により接着性を向上させたポリプロピレンフィルムの開発 石川県工業試験場
木水貢
石川県工業試験場
米澤保人
近年、航空機や車輌の軽量化で炭素繊維複合材料が検討され、従来の熱硬化性樹脂から加工性やリサイクル性に富んだ熱可塑性樹脂へ転用が進められている。熱可塑性樹脂の中でも、ポリプロピレン(PP)は低コストで機械特性や成形性に優れているため、炭素繊維との複合化が望まれているが、PPは反応しにくく化学的安定性であり接着性が弱いため、衝撃により炭素繊維と剥離しやすいという課題がある。本研究では、炭素繊維との接着性を向上させるため、PPに改質剤等を練り込み、その樹脂から接着性の良いフィルムを開発する。併せて、PPフィルムと炭素繊維からシートを作製し、物性や衝撃性等を評価し、炭素繊維との接着性の向上を図る。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ポリプロピレン(PP)と炭素繊維との複合材料の接着性や衝撃破壊に対する耐性に関してほぼ当初目標を達成したことは評価できるが、特許出願がされておらず、関連企業への技術移転の実績は余り上がっていない。社会還元に期待が持てる研究成果が出てきつつあるので、今後は、関連企業と積極的に共同研究体制を構築し、技術移転に発展させてゆく事が強く期待される。
熱可塑性樹脂を用いた炭素繊維ストランドロッドの基本性能に関する研究 石川工業高等専門学校
持田泰英
石川工業高等専門学校
吉田博幸
熱可塑性樹脂を用いた炭素繊維ストランドロッドの以下のばらつきを含めた諸性能の把握を行う。その手法は、特殊な試験機にて開発された熱可塑性樹脂を用いた炭素繊維と合成繊維による異なる径の炭素繊維ストランドロッドを試験体にし、引張強度・剛性・熱膨張性・非破壊検査等の試験結果から評価する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。炭素繊維ストランドロッドが、既存不適格建物の耐震補強に用いられる軽量ブレース材として実用化されれば、社会還元に導かれる効果は大きいものと期待される。今後は、研究開発の目的を具体化することが必要である。
窒化された鉄合金表面のフェムト秒レーザー援用ナノテクスチャ加工とDLC被覆による高耐久性複合表面改質技術の開発 福井工業高等専門学校
安丸尚樹
プラズマ窒化処理された鉄合金(ステンレス鋼SUS304、金型用鋼SKD11)の窒化層表面に、フェムト秒レーザーにより平面状に均一に微細な間隔の周期構造(ナノ構造)を加工する技術を開発した。特にステンレス鋼については、レーザー波長800nmの約1/3の250nmから波長程度まで、ナノ構造の間隔を制御加工する条件を明らかにした。次に、ボール・オン・ディスク型摩擦摩耗試験機により、窒化層のナノ構造形成面にDLC膜を蒸着する複合処理材の実荷重域(1~10 N)の摩擦係数の変化を無潤滑下でモニタリングした。その結果、複合処理材の荷重10 Nの摩擦係数が、ステンレス鋼では超硬ボールに対して0.08、金型用鋼ではSUJ2ボールに対して0.19と小さい値を示すことが判明した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初の目標は概ね達成されており、産業界で用いられている様々な部材に対する表面処理効果が明らかとなっている。新規特許出願は行われていないが、基本特許は成立済みであり、技術移転につながるデータベース的な研究成果が得られたものと評価できる。次のステップに向けた技術的課題は産学連携の枠組みの中で具体化されることを期待したい。一方、今後の研究計画についても方向性(潤滑下試験、大荷重下試験)は示されており、更なるデータの積み上げや低コスト化を実施することにより技術移転の可能性は高くなると期待できる。
ナノ複合表面フッ素化による安全リチウムイオン電池活物質の開発 福井大学
米沢晋
福井大学
奥野信男
オリビン鉄リチウムおよび層状岩塩型、スピネル型構造を持つリチウムイオン電池正極活物質数種について、ナノ表面フッ素化改質を行った。種々の活物質に対して、それぞれ容量やサイクル特性等の電池性能を指標として表面フッ素修飾の効果を整理し、それぞれに別の最適条件が存在することを明らかにした。実験的な目標としては、0.2C のレートでの充放電において160mAh/g の容量を有する活物質について、0.2Cでの容量増加や充電状態での熱安定性の向上を目指し、オリビン鉄リチウムや層状岩塩型活物質であるLiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2についてこれを達成した。LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2については0.2C/2C での容量低下(ハイレート特性)を20%以上抑制できることも明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に種々の材料系についての有用性を検討した成果に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、材料製造のスケールアップ、電池設計などでの実用化に向けての検討が望まれる。今後は、他の材料、システムの開発状況と比較しつつ検討されることが期待される。
高出力長サイクル寿命リチウムイオン電池負極材料の開発 福井大学
高島正之
福井大学
奥野信男
表面をフッ素ガスにより精密にフッ素化することで、チタン酸リチウム粒子の親水化が可能であることを見出し、高出力長サイクル寿命リチウムイオン電池負極作製プロセスの開発を目指し、ナノ表面フッ素化改質による高性能電極作製を行った。目標としていた表面修飾試料の容量についてはほぼ達成しており、比較データは十分議論に耐えるものであったことから修正は正しくなされたと考えている。また、それ以外の項目については、計画時よりも範囲を広げての実施となっており十分なデータの蓄積を行うことができた。今後、既に担緒につけている共同研究において内容を展開することで、企業への技術移転による製品化の準備が整ったと判断する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、容量なども目標に達していないものもあるが、研究開発をさらにワンステップ進める方向性が見えた点に関しては評価できる。一方、チタン酸リチウムに対する表面処理法の開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、企業との共同による負極活物質材料の開発を推進されることが望まれる。
高容量型チタン酸リチウムの充放電特性の向上に関する研究開発 福井大学
小寺喬之
福井大学
青山文夫
本研究開発では、ラムスデライト型チタン酸リチウムの急速充放電性能の課題を、噴霧熱分解法による炭素複合化技術と粒子のナノサイズ化技術を組み合わせて解決を図った。本技術における粒子のナノサイズ化のための制御因子を明らかにし、200nm以下のナノ粒子を得るための合成条件を明らかにした。また、化学組成および炭素量などの粉体特性が充放電特性に及ぼす影響を明らかにして、目標である1Cに対する10Cレートの充放電容量が80%以上得られる高容量型チタン酸リチウムを実現し、リチウムイオン電池用負極材料としての実用可能性を確認した。今後は、サイクル特性の向上と材料の量産技術の研究開発を実施して、企業化に繋げる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に現在所有している装置の改造を実施し、炭素複合化技術と粒子のナノサイズ化技術を組み合わせることで当初の目標を達成しており、実用化に向けた探索研究の成果としては十分評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果をもとに新規特許を出願することが望ましい。今後は、産学連携の中で市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確化するとともに実用化に向けた具体的研究開発計画を立案して展開することで大型リチウムイオン電池の高容量化への寄与が大いに期待できる。
ナノめっき技術による新規炭素材料複合成形体の開発と応用 福井大学
金在虎
福井大学
青山文夫
本研究では、ナノめっき技術を用いた新規機能性複合微粒子の作製を行い、コストパフォーマンスに優れ、かつフィレキシビリティを有するなど従来技術の延長ではない新型燃料電池材料としての応用展開を行っていた。特に導電材である炭素材料(黒鉛)を用いることで高い電気導電率(500S/m以上)をもつ複合粒子作製に成功した。さらにこれらの複合粒子を加圧成型することで、電極内の均一な導電路の創出が可能となり、3次元的な導電路の確認と目標導電率(1×103S/m以上)と高いガス透過率(95%以上)が確保できた。これらの電極を用いた燃料電池セルの評価では、電流密度が300mA/c㎡以上を示した結果から新しい燃料電池用電極材料として期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも目標には達してないが電流密度320 S/mが得られ、今後の可能性は期待できできる。一方、実用化に向けた技術的検討やデータのさらなる積み上げなどが必要と思われる。今後は、企業との連携に向けて具体的なターゲットを構築されることが望まれる。
赤外線集中加熱法によるシリコンゲルマニウム半導体バルク単結晶の育成 山梨大学
綿打敏司
高純度のSi棒とGe棒の組合せた原料棒を加熱溶融することで均一組成のSiGe単結晶を行うものであった。SiGe単結晶の育成では成長界面形状が傾斜法を用いなくても平坦に近いことが分かった。赤外線集光加熱は温度勾配が急峻であることから融点が異なるSiとGeの溶融状況はあまりかわらないと予想していた。しかし、実際にはGeが著しく溶融し、これが溶融帯を不安定化させていた。Ge原料の形状を扁平にすることで溶融帯を安定化され、目標としていた直径20mmのSiGe結晶の育成に成功した。しかし、溶融帯の安定化は不十分で単結晶育成に失敗する確率が高いこと、長尺化が困難なことが大きな課題である。溶融帯の一層の安定化のための新たな工夫が必要であることが分かった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。赤外線集中加熱法を用いて単一組成のSi棒とGe棒からSiGeの単結晶材を生成することが可能であることが示されたことは実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。Si棒とGe棒を組み合わせた原料棒の形態や溶融帯の状態などに関する検討が進められ、概ね有効な手法が示されている。理想的な溶融帯の状態を実現する必要があるという技術課題も明確にされた。一方、レーザー光による集光加熱などが必要であるという方向が示されているが、どの程度の向上が見込めるかの検討が必要と思われる。大口径長尺の単結晶SiGe材を効率的に製造する手法が確立されれば社会還元性は高いで今後の研究が期待される。
ホウ酸塩高品質単結晶の高速育成技術の開発 山梨大学
田中功
山梨大学
荻野修邦
本研究開発では、強磁場効果を利用して四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)結晶中への気泡の混入を防ぎ、5T以下の印加磁場中で1.0mm/h以上の高い育成速度で気泡含有量2 %以下のLi2B4O7単結晶を育成することを目標とした。印加磁場は、5Tと10Tでは気泡含有率が3%程度しか変わらず5Tでも十分有効であることが明らかになった。また、2mm/hの高速育成でも、育成雰囲気を空気から酸素に変えることで8%低減できることが明らかになった。本研究開発実施により、Li2B4O7結晶中の気泡含有率を従来の18%から8%まで向上させることができた。今後は育成雰囲気の効果を更に検討することで品質向上が期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも印加磁場、育成速度、気泡含有率という数値目標をほぼ達成している。最終目標に向けた研究指針について多くの知見が得られ有益な成果を出しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。本研究期間における成果を特許として権利化し、残された課題解決に向けて具体的な研究開発計画を立案することが望ましい。技術移転の観点からは、産学連携を行い、その中で市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで、実用化の可能性が大きくなるものと期待できる。
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電極と電解質をプラズマ溶射によって直接形成する技術の開発 山梨大学
園家啓嗣
山梨大学
還田隆
目標:微細粉末を用いたプラズマ溶射法によって、ポーラス(気孔率70%)な電極(厚さ10μm)、及び緻密な電解質(厚さ10μm)の皮膜を直接形成する技術の開発を目指す。そのため、部分安定化ジルコニア及び酸化ニッケルの微細粉末を作製し、緻密な電解質皮膜形成を試みる。
達成度: 固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電極と電解質へ適用するためには、組織制御技術は不十分であり、もっと詳細な実験を行って検証する必要がある。更に、プラズマジェット内での粉末微細化の制御、一次粒子径の微細組織に及ぼす影響なども解明する必要がある。
今後の展開: 今後、燃料電池ナノセンター(山梨大学)とも共同研究を行って基礎試験を更に蓄積し、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電極と電解質へのサスペンション溶射技術の実用化を推進して行きたいと考えている。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標の一つである部分安定化ジルコニアと酸化ニッケルの微細粉末を作製することに成功した。さらに、得られた微粉末を用いて、もう一つも目標である微細組織を有する溶射皮膜の作製に成功し、サスペンション濃度や溶射条件によって組織制御がある程度可能であることを明らかにしたことは研究成果として大いに評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、産学連携の枠組みを築き、高性能な電解質膜が実用化につながることを期待したい。
地下水中のCFCsとSF6および流動トレーサーを用いた循環地下水の高精度年代測定法の標準化 信州大学
中屋眞司
信州大学
宮坂秀明
自治体等が河川や湖沼、地下水等の水資源の統合的管理・保全を図るには、見えない地下水について涵養域、涵養量、流動経路、滞留時間、汚染物質の履歴等の調査が必要となる。これらのうち滞留時間や時間履歴の測定データが圧倒的に不足している。それは年代測定法が普及していないこと、決定精度が管理水準に達していないことが主因である。そこで年代トレーサーとなる地下水中のSF6とCFCsの濃度、涵養・流動トレーサーである酸素と水素の安定同位体比を組み合わせた地下水の高精度年代決定法を開発した。実用化すれば、3種のトレーサーの利点を利用したあらゆる地域の循環地下水について年代決定(滞留時間:0~50年)が可能な標準手法となると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。都市域に近い地域では、何らかの原因で地下水のCFCs汚染が広がっており、CFCsは年代トレーサーとして役に立たない地点が多い。それに対し、都市部においてもSFは決定的な汚染はなく、地下水の年代トレ-サ-として有効であることを見出したことは評価ができる。当初目標の水素と酸素の同位体との関係など未達部分はあるががあるが、これをステップに次の段階に進むことができると思われる。地下水の年代決定ではトリチウムが使えなくなった現在、他の方法が模索されており、この研究により一歩前進して社会還元に導かれることが期待できる。
高純度金属ナノ粒子担持マイクロ粒子の製造技術の開発 信州大学
酒井俊郎
信州大学
宮坂秀明
保護剤や還元剤を一切使用することなく高純度の金属ナノ粒子をミクロンサイズの粒子(マイクロ粒子)上へ担持する技術の開発を目標として研究を進めてきた。その結果、超音波を利用することにより、"保護剤や還元剤を一切使用することなく"金ナノ粒子をポリマー粒子上に均一に担持することに成功した。また、担持する金ナノ粒子のサイズや担持量を制御する技術も見出した。今後は、核粒子や担持する金属の多様性を検討し、触媒、エレクトロニクス、光学材料、医療用材料、装飾品分野など、幅広い分野での応用の可能性を模索していく予定である。さらに、本技術の実用化・早期技術移転の実現に向けて、大量生産技術の開発を進める。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に担持する粒子については制限があり、全ての粒子に担持できるわけではないが、簡単に金ナノ粒子を担持できることが明らかになり、実用化に向けた探索研究として成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、特許も出願され、さらに他の金属粒子や無機粒子にまで拡張することが計画されている。担体をアクリル樹脂に限っても、種々の金属を用いることができそうであり、応用展開、実用化が大いに期待できる。今後は、企業との連携を進め、市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を確認することで技術移転の可能性がより高くなると思われる。
一桁ナノダイヤモンド粒子分散による複合メッキ 信州大学
沖野不二雄
信州大学
宮坂秀明
固体マトリックス中に、一桁ナノダイヤモンド粒子をZernerピニング剤として分散させて、前者の強度を増大するモデルとして、ナノダイヤモンドを添加した複合めっきを試みた。共存する強電解質との相互作用によるナノダイヤモンド粒子の凝集・沈降が起きるために、23年度は難航した。しかし、24年度に入ってナノダイヤ自身が多極両性イオンであって、金属イオンと同様にめっき処理に使えることが解り、非シアン性で中性の金錯体溶液を自作し、低電流密度希薄めっき条件下で金薄膜を得て、これを剥離しAFM、 X線回折などによって確認し、複合めっきへの準備を整えることができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。非シアン系金メッキ浴の調整は行っているが、目的であるナノダイアモンド粒子を分散させた複合めっきを作製・評価するには至っていない。電解金メッキは実施しており、探索研究の成果としてはある程度評価できる。耐摩耗性の高いメッキに対するニーズは十分にあり、今後の研究開発の成果に期待したい。メッキ浴を含めた調整条件の安定化を図る必要があると思われる。これまでの研究成果を整理し、特許出願の可能性を検討することが望ましい。課題を整理し、解決策を盛り込んだ具体的な研究開発計画の立案と実行に期待する。
環境調和を志向した微量金属の新規濃縮・検出システムの開発:ソノプロセスの利用 信州大学
金継業
信州大学
倉科喜一
本研究では、超音波が提供した物理的反応場を利用して、環境調和を志向した新しい微量金属の濃縮・検出技術の開拓を行った。超音波周波数や照射方法を精密に制御することによって油滴のエマルション化と再凝集をコントロールできるという知見が得られ、この現象を利用した超音波微小液的溶媒抽出技術を確立した。このアプローチは、有機溶媒有の使用は極限まで抑えられ、目的金属を効率よく濃縮できることが実証され、濃度が数ppbの極微量アルミニウムの濃縮・定量に応用できたことから、その実用性を認められた。今後、フロー系の超音波濃縮装置の開発と最適化を行い、希少金属の連続的な濃縮回収へと展開する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にソノプロセスの有用性が確認されている。スケールアップへの取り組みは未達であるが、必要な高周波領域での課題解決に目途をつけており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの成果を特許として権利化しておくことが望ましい。溶媒回収も考慮すると分析装置として実用化の可能性がある。今後は、専門企業との産学連携をすすめ、高周波領域でのスケールアップに向けての課題解決や有害溶媒の後処理法を確立することで、小型分析装置としての実用化が期待される。
超音波加振型加圧焼結法によるNi-Ti系超弾性合金の作製に関する研究 長野工業高等専門学校
森山実
(財)長野県テクノ財団
玉井秀男
試作した超音波加振型加圧焼結機を用いて、Ni及びTi粉末を出発原料としてNiTi合金の焼結を行い、超音波の付与の効果を調査した.超音波付与した場合は付与しない場合と比較して、以下となった。
(1) 800~900℃の焼結温度範囲において、引張強度が1.6~1.8倍に向上できた.研究目標(引張強度1.4倍以上)を達成できた。
(2) 800℃以上で相対密度、硬度、ヤング率などの特性が向上した.超弾性効果は示さなかった。
(3) 電気伝導度は、1~2MS/m程度であった。
(4) 約800℃程度で化合が進み、900℃以上でNiTi合金が生成された。
今後、熱処理による特性改善が見込めると推測される。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。超音波を付加しながら金属粉末の圧密を行い、相対密度を上げることにより、焼結後の強度向上を狙った研究において超音波付加による引張強さの向上は部分的であり、期待した効果は十分ではないが、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。技術移転の観点からは、本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携を視野に入れた具体的研究開発計画の立案が望まれる。市場調査及び競合技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確化することで実用化に近づくものと期待できる。
マイクロ波を利用した陶磁器の新規加熱技術の探索 岐阜県セラミックス研究所
水野正敏
(財)名古屋産業振興公社
亀山哲也
本研究では、これまで開発を行ってきた陶磁器製リサイクル食器とマイクロ波による焼成技術(選択加熱)を複合化し、低温焼成における釉の融解促進について検討した。その結果、マイクロ波を照射することでガス焼成の場合に比べて釉の融解状態を約20℃高い状態にすることに成功した。またマイクロ波の照射により焼成中における炉内上下の温度差が8℃から3.3℃に低減され、均質焼成に応用できる可能性を見出した。冷却過程において温度勾配を通常の冷却と逆転させることを試みたが、1150℃付近におけるSiC、コーディエライト、カーボン系材料のマイクロ波吸収の差が小さく、優位な温度勾配を実現することができなかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもマイクロ波照射により焼成温度を低減させた焼成方法の可能性を確認できた点は評価できる。今後は、研究体制として、産学官の連携を深め、陶磁器の現場経験者、熱力学、伝熱工学の技術者を交えて、課題摘出・整理(重要度付け)し、地元の陶磁器現場をフルに活かした研究計画を立て、研究を進めることを期待する。
CFRPへのブラスト孔明け技術の開発 岐阜大学
深川仁
岐阜大学
安井秀夫
CFRP(カーボン繊維強化プラスチック)に対する小径の穴あけ技術として、ドリル・レーザー・ウォータージェット加工などを比較検討したが、それぞれ加工コスト・加工時間・穴品質などの点で課題があり、効率的な加工技術が確立されていないのが実情である。本研究ではCFRPに対して、微細砥粒を用いた直噴式ブラスト加工による穴あけ実験を試み、比較的良好な加工ができる事がわかったので、ブラストの各種条件を変え、穴精度や品質への影響を調べて、加工技術を開発した。また、CFRP材料の除去加工メカニズムについて実験結果から考察した。今後、航空機部品への適用など実用化を目指して、研究を進める。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。加工時間や加工精度の点から見て技術移転につながる可能性が高く、アプリケーションも明確であり、技術移転を目指した研究開発ステップにつながる可能性は高い。研究成果の詳細な数値データや今後、解析的な考察が必要であると考えられるが、応用展開も近く、社会還元が期待できる。
紫外線及び近赤外線遮蔽機能を付与した配向性を有する複合粒子の開発 岐阜大学
櫻田修
岐阜大学
神谷英昭
紫外線遮蔽能を有することが知られている酸化亜鉛に、アルミニウムを固溶させたナノ粒子を水熱合成することで、紫外線だけでなく近赤外領域の波長を遮蔽することができる粒子を合成することができた。これにより、紫外線のみならず熱も遮断することが可能となった。しかし、このナノ粒子だけでは凝集が避けられず、均一に塗布・分散させることができないため、効果的な遮蔽効果が得られない。本研究では、このナノ粒子を鱗片状の板状粒子に担持することにより、目的物への均一塗布、プラスチックフィルムなどへの均一分散させることの可能性が示唆された。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に紫外線及び近赤外線の遮蔽特性を付与し、鱗片状粒子に酸化亜鉛固溶体ナノ粒子として担持した複合粒子の水熱合成に成功した。合成条件や調製条件の知見を得ており、実用化に向けた探索研究の成果としては十分評価できる。技術移転の観点からは、すでに企業との共同研究を実施しており、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。また、市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にするとともに試作レベルのスケールアップ研究を進めることで実用化につながることが期待できる。
重金属不溶化資材における微視的空間の重金属不溶化反応の解明 岐阜大学
加藤雅彦
岐阜大学
馬場大輔
重金属土壌汚染の大部分を占める元素を同時に不溶化できる資材の開発・改良に向けて、土壌中においてマイクロスケールでの不溶化反応の解明および不溶化反応が生じうる資材と重金属との距離間隔を明確化すること目的とした。土壌での重金属移動を模擬した実験装置により、重金属は、Fe・Mn酸化物に収着した形態を介し、汚染土から資材に移動することが確認された。また粒度が大きい土は、汚染土から離れるにつれ重金属の移動を介さないことも示された。また降水量1ヶ月程度の水移動では、重金属は、4~6mm移動することが明らかとなった。不溶化処理を考慮すると、不溶化反応を生じさせるためには、資材の粒度を0.25mm以下とする必要があることがわかった。重金属の移動量は比較的小さかったため、不溶化資材の開発・普及には汚染土と資材間での重金属の挙動を解明し、不溶化反応を促進させるような条件を見出す必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に重金属土壌汚染元素を同時に不溶化できる資材の開発・改良を行い、重金属はFe・Mn酸化物に収着した形態を介し汚染土から資材に移動することが確認された。また降水量1ヶ月程度の水移動では重金属は4~6mm移動することが明らかとなり、不溶化反応を生じさせるためには資材の粒度を0.25mm以下とする必要があることを把握した。また次のステップにつながる課題も明確化されている。土壌の不溶化の技術開発であり、特許化は難しいかもしれないが、特許化を検討することが望まれる。今後は産学連携による共同研究開発により実用化され社会還元が期待できる。
陽イオン性カプセル分子を利用した有害陰イオン除去剤 静岡大学
近藤満
静岡大学
吉田典江
過塩素酸イオンは子供の成長を阻害する毒性を有するため、水溶液中から簡便に除去する技術の開発が求められている。飲料水中の安全基準濃度は24.5ppb (米国、日本)とされているが、瞬時に、この濃度以下に過塩素酸イオンを除去できる物質は未開発であった。本学では、2価の正電荷をもつカプセル型分子を開発し、この化合物が過塩素酸イオンをこの濃度以下に効率良く除去する活性があることを見いだした。その活性は従来の除去剤を凌駕し、再生が容易な点、など従来技術に比べて多くの点で優れている。本研究では、処理水のpHや水温が除去活性に及ぼす影響を検討し、この除去剤が有効に使用できる条件を解明した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に陽イオン性カプセル分子を用いた過塩素酸除去の研究において本来の機能である過塩素酸除去能と問題となる銅イオンの溶出の抑制という観点から、pHと使用温度の適用範囲を明らかにするという研究内容であり、使用可能条件を明確にするという当初の目標は達成されており評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果をもとに特許として権利化することが望ましい。今後は、この技術を具体的に活かすアプリケーションないしは使用環境・状況を検討するとともに、産学連携の枠組みを築き、実用化研究に進むことが期待される。
安価で再生可能なAFMカンチレバー作製技術の開発 静岡大学
坂元尚紀
静岡大学
橋詰俊彦
安価で再生可能なAFMカンチレバー作製のため、シリコン基板上への柱状構造InNの作製可能性を検討することが本研究の課題であった。当初の予定ではSi(111)基板上の酸化被膜の膜厚を溶液あるいは反応ガスのエッチングにより制御することを計画していたが、これらの方法では柱状構造InNの成長は全く起こらず、根本的な打開策が必要となった。Si基板上で結晶成長が起こりにくい原因としてSi(111)とInN(0001)の格子ミスマッチが大きすぎることが考えられたため、Si(111)とInN(0001)の間の格子定数を有する酸化物をバッファ層とすることを検討した。この酸化物の単結晶上で柱状構造InNが成長することが明らかとなった。この結果、Si(111)基板上に適切なバッファ層を導入することにより当初の目的であった柱状構造InNの作製が可能であることが示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。計画していた方法でのAFMカンチレバーに必要なInNの柱状成長を得ることは達成されなかったが、酸化物単結晶上には良好なInNの柱状結晶成長を得ており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。目的とするシリコン基板上へのInN柱状結晶成長にはシリコン基板上への単結晶酸化物の成長などの課題解決が必要である。実用化の観点からは本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携を視野に入れてデータの積み上げをすることで実用化が近づくものと期待できる。
最密充填単分散ポリスチレン微粒子をテンプレートに用いた球殻状マイクロGMアレイの試作による放射線入射方向の可視化 静岡大学
脇谷尚樹
静岡大学
藤縄祐
二次元最密充填構造とした単分散ポリスチレン(PS)微粒子をテンプレートとし、個々の球殻をガイガー・ミューラー(GM)管として機能させることにより、GM管のアレイを試作すること、および試作したGM管のアレイを用いて放射線の入射方向を可視化することを本研究の目的とした。研究開発の結果、フォトリソグラフィーなどのトップダウン的な微細加工を使うことをせずに、二次元で網目状の電極がつながっていて、各リングの中央付近に孤立した電極が存在するというGM管アレイの構造体の作製に成功した。本研究期間内では放射線の入射方向の可視化には残念ながら至っていない。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に単分散ポリスチレン微粒子をテンプレートとし、GM管として機能させることにより放射線の入射方向を可視化できる放射線検出器の開発を目指して研究が行われ、二次元の網目状の電極とリング中心の電極をフォトリソグラフィーなどの既存の微細加工技術を使うことなしに作製することに成功したことは評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許化することが望ましい。GM管、放射線可視化デバイスの今後の研究開発計画も具体的に記述されており、バイオセンサーなどのデバイスへの展開も視野に入れた計画ができており、今後は技術移転を目指した産学連携の研究開発ステップにつながることが期待できる。
2V級マグネシウム二次電池を可能とする高機能電解液の開発 静岡大学
嵯峨根史洋
静岡大学
藤縄祐
マグネシウム二次電池の実用化に必須となる電池の高電圧化を目指し、ボロキシン化合物を添加剤として利用する事で、負極反応と2V級正極を同時に達成可能とする高機能電解液の開発を目標とした。ボロキシン化合物は添加剤ならびに前処理剤として有効な役割を担う事ができなかった一方、そのLewis酸性によって電解液中のイオン伝導率を向上させる事が可能であり、ボロキシン化合物の添加によって、正極反応に対して利用が困難であったマグネシウム塩を用いた新規電解質を開発した。今後、添加量や、さらなるボロキシンの材料設計を推し進める事で、マグネシウム二次電池の高速充放電を可能とする新規電解質の開発が期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究は、マグネシウム二次電池を実用化するための新規電解液の開発に関する研究である。マグネシウム二次電池用の電解液には、正極・負極両方にて機能する必要があるため、リチウムイオン電池並みの可逆性を持つ電解液を開発することは大変難易度が高く、目標には至っていないが基礎的な研究成果として大変重要である。MgBr2電解質塩が正極でも機能するような添加剤を発見したことは成果として評価できる。実用化するには更なる技術革新が必要であるが、今後も研究成果に期待する。
プラズマを利用した触媒ナノ複合材料製造技術の開発 愛知県産業技術研究所
行木啓記
あいち産業科学技術総合センター
齊藤秀夫
液中プラズマ法により、白金/アルミナ複合化ナノ粒子の合成を試みた。得られた試料の透過型電子顕微鏡観察やX線回折の結果より、白金が均一にアルミナ上に分散した複合ナノ粒子の生成が確認できた。白金の粒径は数~10nm程度であり、アルミナの比表面積については、最も大きい試料で40m2/gであった。また、この複合化ナノ粒子に関連し、「知の拠点」に建設中の中部シンクロトロン光利用施設の活用を念頭においた放射光測定により、SPring-8や広島大学放射光科学研究センターにて、銀および金ナノ粒子の材料評価を行った。その結果から、ナノ粒子の溶液中の状態と触媒性能の関連において、有用な知見を得ることができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもプラズマ利用ナノ触媒生産技術は、高性能自動車用触媒への実用の可能性を有する技術であり評価できる。プロセスの最適化、関連特許の出願などが今後の課題となる。産学共同研究への移行が期待される。
表面修飾ナノチューブを用いた超精密研磨用スラリーの開発 中部大学
高橋誠
中部大学
粟野洋司
本研究は、次世代光デバイス用の基板として用いられるサファイアおよびニオブ酸リチウム基板やLSI多層配線で必要となる超精密研磨用研磨剤としての表面修飾カーボンナノチューブ(CNT)の応用を検討したものである。酸素プラズマ処理によりCNT表面にC-OH結合、C=O結合、およびCOOH結合
を導入しサファイア基板を研磨した。研磨速度は-OH基濃度に比例し、同一研磨条件でコロイダル
シリカの約2倍の研磨速度を得る事ができた。また、15wt%表面修飾CNT研磨溶液を用いて研磨した
結果、平均Ra=13.5±5nmの鏡面研磨ができ、表面修飾CNTが超精密研磨用研磨剤として利用できる可能性を明らかにした。
当初目標とした成果が得られていない。カーボンナノチューブを研磨剤としてサファイアおよびニオブ酸リチウム基板の超精密研磨技術を確立することが当初の目標であるが、酸素プラズマ処理が良好に実施できないため、目標の研磨剤としてのカーボンナノチューブ試料が得られていない。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。次のステップへ進む際に技術的課題を明確にした研究開発計画の立案も望まれる。技術移転の観点からは産学連携を視野に入れて、更なる技術的検討やデータの積み上げ、他の技術との比較を行い本技術の優位性を明確にすることを進めることで実用化に近づくものと期待できる。
環境配慮型セレンフリー無機系赤色顔料の実用化促進に関する研究 独立行政法人産業技術総合研究所
楠本慶二
独立行政法人産業技術総合研究所
山東睦夫
現在、鮮明な赤色を示す無機系顔料としては、金属セレンを着色源とする顔料が主に使用されており、セレンは毒性が高いことからセレン系顔料を代替可能で安価な無機系顔料の開発が望まれている。また、道路交通標識においては、紫外線によって退色しやすい有機系の赤色塗料が使用されており、規制標識における赤色の退色が長年の問題となっている。著者らは、クエン酸鉄化合物を着色源として使用し、これらを各種の酸化物とともに熱処理した後、塗料化することによってセレン系赤色顔料の代替となりうる酸化鉄系赤色顔料の開発を目指した。その結果、目標とするセレン系顔料にかなり近い赤色を示す酸化鉄系赤色顔料を開発した。さらに、将来の実用化を促進するために、各種の市販ベンガラ粉末を入手し、クエン酸鉄系赤色顔料の実験で得られた知見をもとにして実験を行った結果、交通規制標識のJIS規格の赤色とほぼ同等の酸化鉄系赤色顔料が得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。セレンフリー無機系赤色顔料の研究の中で当初の目標が達成され、 実用化に向けた探索研究としては十分な成果が得られたものと評価できる。技術的課題も明確になっており、今後の研究計画についても具体的に検討されている。 赤色顔料の数値化、再現性、安定性などを確立することも期待される。一方、技術移転の観点からは、今後の研究開発計画が具体的かつ的確に検討されており、研究成果の特許化が望ましい。鉄系赤色顔料で社会還元に導くことが十分期待できる。今後は、産学連携による研究を展開することで実用化が十分に期待できる。
液状発酵食品中の不要タンパク質の高効率除去材の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
加藤且也
独立行政法人産業技術総合研究所
渡村信治
みりん等の液状発酵食品の食味や視覚を劣化させる滓の原因となる不要タンパク質を安全かつ確実に吸着するために、ペプチドを複合化したリン酸カルシウムを創成し、不要タンパク質を多量かつ選択的に吸着させる新規な複合材料の開発を行う。酸性ペプチドであるポリL-グルタミン酸及び塩基性ペプチドであるポリL-リジンならびにポリL-ヒスチジンをリン酸カルシウム合成時に混合させることにより、新規な無機-有機ハイブリッド材料を効率良く合成することに成功した。その複合体を用い、数種類の混合タンパク質溶液より、任意のタンパク質のみを選択的かつ多量に吸着できる材料への構造最適化を実施した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究で目標としていたペプチド複合型高結晶性リン酸カルシウムの大量合成技術、吸着タンパク質量の増大、選択的吸着に成功しており、実用化に向けた探索研究の成果としては大いに評価できる。今後の課題についても明示されている。技術移転の観点からは、これまでの研究成果をもとに特許を出願することが望ましい。また、産学連携の枠組みにより、残された課題の解決と市場調査や低コスト化を追求することで幅広い応用展開が考えら、実用化が進むものと期待できる。
赤外ガラスレンズのモールドプレス成型における離型膜の開発 豊橋技術科学大学
滝川浩史
車載搭載カメラや防犯カメラなどにおいては、色収差補正機能としての回折格子構造を表面に施した赤外レンズが必要とされている。量産性の観点から、モールドプレス法による同レンズの製造が期待されている。しかしながら、Ni合金メッキ金型に対するスーパーDLC離型保護膜の密着性に問題があり、実用に至ってない。本研究は、金型基材とスーパーDLC膜との間に中間層を形成することにより、密着力の改善を検討した。種々の膜種の中間層から、加熱試験において密着性の良い中間層を絞り込み、モールドプレス試験において100回のプレスに耐える中間層を見出した。今後、企業との連携を通じ、実用的検証を進め、技術移転を目指す。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にガラスレンズ成形を模したモールドプレス試験において100回のプレスに耐える中間層を見出すことを目標とし、それを達成しており実用化に向けた探索研究の成果としては大いに評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との連携もできており、具体的に示された実用化における課題解決を目指すとともに、早期に特許を出願することが望まれる。今後は、企業との連携をより密にして、市場調査及び他の技術との彼我比較の中で本技術の優位性を明確にすることで実用化研究が加速されるものと期待できる。
コンポジット電解質を用いた中温無加湿作動燃料電池の連続運転特性評価 豊橋技術科学大学
松田厚範
豊橋技術科学大学
田中恵
本研究開発により、当初想定した「技術目標」および「実証試験目標」の中、500時間連続運転は終了し優れた発電性能を維持することを確認した。また、1000時間連続運転は現在実証中であり、「4月25日」に達成できると予想されている。その他の目標値はすべて達成した。特に、電解質中のミリングナノ粒子とポリマーマトリクス樹脂の間の組成比や電極の触媒層における構成材料の最適化を行い、この独自に作製したMEAを用いた燃料電池発電実験では、「リン酸ドープ量(PADL)6 mol未満」という技術目標の条件よりさらに過酷な条件である「PADL=3 mol」ですべての性能目標値の達成に成功した。この結果は、本研究開発から試作したコンポジット電解質およびそれを用いたMEAが中温無加湿燃料電池の材料として非常に有望な材料であることを示すものである。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に500時間連続運転やPADLが3 molなど、当初の目標が達成されたことは実用化に向けた探索研究成果として十分に評価できる。1000時間連続運転中であることや、さらに長時間運転の必要性についても課題が明確化されている。一方、技術移転の観点からは、特許の出願も実施されており、技術移転の可能性は高まったといえる。今後は産学連携により燃料電池の実用化研究を加速されることが望まれる。他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで技術移転の可能性がより大きくなるものと期待できる。
光誘起電荷移動を利用した書換え可能ホログラム材料の開発 豊橋技術科学大学
河村剛
豊橋技術科学大学
田中恵
次世代光メモリや3-Dディスプレイなどへの応用が期待されるホログラム技術においては、ホログラム記録材料(メディア)の開発が遅れており、実用化の障壁となっている。我々はこれまでに、青色光に高い感度を持つ新規無機-有機ハイブリッドホログラム記録膜の合成に成功しており、メディアとしての応用可能性を見出している。本研究では、メディアへの光照射による電荷移動を可逆的に誘起することでホログラムに書換え性能を付与することを目的とした。本研究の遂行によりこれまでに、作製した材料内で光誘起電荷移動が実際に起きている証拠をつかんでいる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本研究は、次世代光メモリや3-Dディスプレイなどへの応用が期待されるホログラム技術においてホログラム書換え可能回数500回以上を達成した。高い空間分解能(2-5 nm)は、添加する銀および銅の量を減らすことにより、粒子の肥大化を防ぐことに成功しており、探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携の枠組みにより、残された課題を解決するとともに市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化にむすびつくことが期待できる。
超高温下での合成によるハフニウム酸窒化物担持カーボン触媒の高活性化 豊橋技術科学大学
千坂光陽
豊橋技術科学大学
冨田充
固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell, PEMFC)カソードにおける非白金触媒として、近年申請者らが開発したHfOxNy-Cの高性能化に取り組んだ。1000 ℃超での合成を実施した結果、性能が低下した。性能低下の原因はCの大部分が気化したことにあり、解決策として耐久性の高いCを合成した。その結果Cだけで目標値をほぼ達成する、標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode, SHE)に対し0.81 Vの酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)開始電位が得られた。白金触媒の9割を超える性能であり、今後は本研究で開発されたCにHfOxNyを担持することによる高性能化が期待される。また、HfOxNy-Cの表面では、酸素が直接水に変換される、四電子反応が主として起きていることも解明された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に固体高分子形燃料電池カソードにおける非白金触媒として開発されたハフニウム酸窒化物担持カーボン触媒の活性を高め、酸素還元反応開始電位を0.85Vまで高めることと酸素還元反応が望ましい4電子反応であることを解明する研究の中で今後の研究開発に役立つ結果と知見を得たことは実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、この期間の研究成果をもとに新規特許の出願が望まれる。今後は実用化に向けた具体的研究開発計画を検討するとともに産学連携による展開を進めることが期待される。
表層ナノ結晶粒化摩擦加工/高周波焼入れに基づく新規表面処理技術の開発 豊橋技術科学大学
戸高義一
豊橋技術科学大学
冨田充
鉄鋼材料表層を結晶粒径20nm程度にまでナノ結晶粒化できる表層ナノ結晶粒化摩擦加工(SNW)と、短時間の熱処理が可能な高周波焼入れ(IHQ)とを組み合わせることで、表層に高硬度なナノ・サブミクロン結晶粒層を有し、その内部に十分な厚さの焼入れ硬化層をもつ組織の創り込みが可能な、新規表面処理技術を開発した。SNWとIHQを組み合わせた新規表面処理技術により、歯車等の機械構造部品に必要不可欠な転がり疲労寿命を、本研究開発の目標とした「IHQのみ材に比べて一桁程度の特性向上」を達成した。今後、当該表面処理技術の特長を最大限に活かすための表面処理条件の最適化、および、そのための材料の開発を進める。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に従来の浸炭・窒化などの表面処理加工に比べ、資源・環境面において優れており、成果が顕著である。表層ナノ結晶粒化摩擦加工法は最近開発された技術であり、従来からの高周波焼入れ法を組み合わせたところに本研究の特色があり、実用化も十分期待できる。一方、技術移転の観点からは、企業と長年にわたって連携した研究を行なっており、本期間の研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、企業との連携をより密にして展開することで応用の拡大を図ることが期待できる。
ナノマニピュレーションを用いた黒鉛化処理カーボンナノコイルの電気特性 豊橋技術科学大学
須田善行
豊橋技術科学大学
冨田充

本研究ではフレキシブルな燃料電池の製品化を目標に掲げ、本研究開発においては、まず単一のカーボンナノコイル(CNC)の電気特性を測定するための実験系を構築した。基板上の一部に電極を作製し、収束イオンビーム(FIB)装置内にて、単一のCNCをマニピュレートしてCNCの一端を基板上の電極に接合することに成功した。合わせて、走査型電子顕微鏡(SEM)内にCNCの電気測定をするための3次元ナノマニピュレータを含む測定系を構築した。今後は、CNCを接合した基板をSEM内に設置し、SEM内でCNCの一端を電気的にコンタクトしてCNCの電気測定を実施する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。カーボンナノコイルの黒鉛化処理を実施し、表面にグラファイトが形成されていることは確認できたが、目標としたカーボンナノコイルの電気的特性測定は期間内に実現には至っていない。次のステップへ進めるための技術的課題は明確化されており、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。本技術は燃料電池に応用できる可能性が十分あり、今後セルの試作および発電性能評価等のデータを積みて、実用化につながることを期待する。
曲がるセラミックス材料の開発 名古屋工業大学
太田敏孝
名古屋工業大学
岩間紀男
天然に産出する曲がる岩石、コンニャク石(itacolumite)の微構造を模倣して、セラミックス内部に微細な空隙、マイクロクラックを発生させることにより、曲がるセラミックス材料を開発することを行った。実用性の観点から、原料として一般に市販されているシリカやアルミナを用いることを試みた。また、既に可撓性を付与することに成功しているチタン酸アルミニウムについては、アルミナとの複合を検討した。得られたセラミックスは、コンニャク石と同様な可撓性や優れた耐衝撃特性を示した。この新規材料について、今後、具体的な用途開発を行っていく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも実用性の面からチタン酸アルミニウムに替わる石英、アルミナ添加の材料開発は強度、変形能の点で成果が得られており、実用化に向けた探索研究の成果として評価できる。今後の検討課題は示されているおり、その後の研究開発計画の検討が必要と思われる。また、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携を視野に入れて残された課題の解決をすすめるとともに、市場調査や他の技術との比較検討を行い、本技術の優位性を明確にすることが望まれる。
革新的鋳造アルミ合金用結晶粒微細化剤の開発 名古屋工業大学
渡辺義見
名古屋工業大学
山本豊
純AlあるいはAl合金に対し、従来剤よりも不整合度が小さい不均質核粒子を含む鋳造用結晶粒微細化剤を開発した。放電プラズマ焼結法により低温短時間での結晶を行うことにより、本来Al母相と平衡には存在しない、不整合度の小さいL12構造を有する金属間化合物粒子をAl母相に含有させることに成功した。ここでL12構造を有する金属間化合物粒子としては、Al5CuTi2、Al22Fe3Ti8およびAl67Ni8Ti25金属間化合物を採用し、これらの粒子を含む鋳造用結晶微粒微細化剤を得た。この結晶粒微細化剤を溶湯中に添加することで、純Al鋳造材の組織の微細化・均一化が可能となり、従来の純Al鋳造材に比較して強度1.5倍以上を達成することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にAl用結晶粒微細化剤の開発を試み、Al-Cu-Ti粉末で強度目標値1.5倍を達成しており評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願もなされており今後の実用化が期待できる。
層状複水酸化を前駆体に用いた全固体リチウム電池の開発 名古屋工業大学
園山範之
名古屋工業大学
山本豊
層状複水酸化物(LDH)を前駆体に用いて、全固体リチウム電池の正極、固体電解質材料の探索を行った。リチウム-マグネシウム-アルミニウム含有LDHを用いて合成した材料ではイオン導電性が得られなかったが、他のLDHを用いて合成した試料では、イオン導電性が確認された。正極材料探索では、ニッケル-バナジウム含有LDHを前駆体に用い、400℃焼成した試料で、350 mAh/g以上の容量が得られ、10サイクルの充放電後も85%の容量が維持された。
これらの材料をホットプレス法により同時に一体焼結・積層化することを試みたが、焼結性が悪く、積層した焼結体は得られなかった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも固体電解質と正極の結晶構造を同じにして両者の界面抵抗を低下させるアイディアは魅力がある。正極材としてのLiイオン電池の魅力である高起電力が実現されていないので、原因を究明し改善を図るべくデータの積み上げが必要と思われる。技術移転の観点からは、本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。平均放電電圧が低いことやサイクル寿命が短いことなどの課題解決を盛り込んだ研究開発計画を立案し、産学連携を視野に入れて展開することで実用化につながるものと期待できる。
自己組織化ペプチドが誘導する金属ナノ粒子の規則配列化 名古屋工業大学
田中正剛
名古屋工業大学
長沼勝義
10nm未満の金属微粒子を規則配列させるため、両親媒性ペプチドの二次元自己組織化を用いた手法を開発した。本研究で設計したペプチドは、溶液中ではランダムコイルをとるが、固/液界面で選択的にβ-シート転移する。つまり基板を溶液に浸漬するだけで、簡便にナノ繊維構造体が自発的に配列化する。システインと金の結合を利用し、ペプチドを修飾した金微粒子を用いて自己組織化を行ったところ、基板に吸着したペプチドが選択的に繊維化し、金微粒子を配列化することに成功した。微細な空間で精密に金属を配列化する本技術は、ナノワイヤー作製やナノマスキング材として展開でき、新しい電子素子の開発に貢献することが大いに期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に両親媒性ペプチドの固液界面でのβシートへの転移を利用した自己組織化により金ナノ粒子を連続的に配列させる基本的な技術開発を行い目標を達成している。両親媒性ペプチドによる金属微粒子をナノスケールで二次元的に配列化させることができており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、電子材料への応用展開が挙げられており、研究期間における成果を特許として出願することが望ましい。今後は電子材料分野での実用化を目指して産学連携により応用研究を展開されるが期待できる。
ナノ粒子水分散液の高濃度化を指向した液面プラズマ技術の開発 名古屋市工業研究所
山口浩一

液面プラズマによるナノ粒子の水分散液の調製において、分散液の高濃度化について検討した。ナノ粒子TiO2の水中分散に有効なプラズマ処理条件を明らかにし、その最適条件下において研究目標に掲げた1 wt%のTiO2水分散液の調製を達成した。分散液のTiO2粒子はプラズマ処理により正に帯電していることを確認した。また、その分光測定ではプラズマ処理により生成した過酸化物と推定されるピークが認められた。これらのことから、液面プラズマ処理によるTiO2粒子の分散はその表面の改質に起因する静電反発力によるものと考察された。今後は実用化を目指し分散液のさらなる高濃度化の実現に向けて取り組む。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。「水分散液を原料とした化粧品の製品化」を目標とした研究課題の中で、物理的、化学的な粒子の分散機構などの解明など、まだ未解明の部分はあるが、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。特許出願も実施されている。一方、技術移転の観点からは、実用化におけるスケールでの課題も把握されている。今後は、産学連携を展開し、その中で市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで技術移転につながることが期待される。
無機系電解質による中低温駆動可能な燃料電池の開発 名古屋市工業研究所
宮田康史
名古屋市工業研究所
大岡千洋
常温から100℃を超える温度域で十分なプロトン伝導度を有する無機系電解質を開発し、燃料電池へ適用することを目的とした。新規無機系電解質の開発はセラミックスとガラスの複合材料とし、溶液から合成した。イオン伝導性は硫酸基と燐酸基を化合物に固定化して電池用電解質とした。得られた電解質は従来のNafion樹脂からなる燃料電池用電極を用いて評価用電池を作製し、イオン伝導度および基本的な電池特性を評価した。50μmまでの薄膜化によりプロトン伝導抵抗を減少させることができた。薄膜化により電解質のガス透過性が顕著になり開回路電圧の低下を生じたが、防止層を導入したところガス透過を抑制し電池特性を大幅に向上させ、実用化に近づけることができた。 概ね期待していた成果が得られ、技術移転につながる可能性は高まった。常温から100℃を超える温度域でプロトン電導度を有する無機系電解質を開発し、燃料電池に適用することを目的としてカルシウム燐酸塩、硫酸塩を合成し、またゲル化した化合物を電極上に塗布することにより、薄膜として優れた電導度を得ており、さらにガス拡散防止膜により電導度を更に向上させた。今後、ガス拡散防止膜を使用しない電解質の緻密化、電極製法の改良、長期間の性能評価を行う予定であり、関連企業との連携も進めている。燃料電池としての評価までには至らなかったが、電解質膜作成の当初目標はほぼ達成されている。研究成果を特許としての権利化することが望ましい。
イオン性界面活性剤を用いた温度誘起コロイド結晶化による光学材料の創成 名古屋市立大学
山中淳平
(財)名古屋産業科学研究所
羽田野泰彦
本課題は、100nm程度の荷電コロイド粒子が、粒子間に働く静電相互作用により水中で規則的に配列した「コロイド結晶」構造の作成に関するものである。コロイド結晶は新規材料として、フォトニック結晶など光学材料への応用が期待されているが、粒子の電荷が十分大きくなければ結晶化しないため、適用できる粒子が限定されてきた。本課題では、電荷数が低いためこれまで結晶化が困難であったは、高屈折率の酸化チタン粒子を対象に、申請者らが近年開発した、イオン性界面活性剤の吸着量の温度変化を活用した技術により、結晶材料の作成を目標とした。2種類の界面活性剤の混合系を用いることで、酸化チタンの温度誘起結晶化に世界に先駆けて成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。結晶サイズの大型化など残された課題はあるものの当初目標である結晶作成に成功し、学術的には有意義な成果であり、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。本研究成果も特許として反映されている。大面積化及び光学特性評価などの課題も明確化されており、具体的な研究実施計画が立案されている。今後は、産学連携の枠組みを築き、応用製品などの市場調査及び競合が予想される他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで、技術移転につながつことが期待できる。
フラーレンナノウィスカーを用いた電界放出電子源の創製 名古屋大学
安坂幸師
名古屋大学
安田匡一郎
本研究では、フラーレン集合体からなる単結晶繊維状物質、フラーレンナノウィスカーを真空電子デバイスへ応用することを目指し、ナノウィスカーを用いて電界電子エミッタを作製し、その構造と電界電子放出の基礎特性を明らかにすることを目標とした。真空中熱処理を施したナノウィスカーから電子が電界放出することを実験的にはじめて見出し、放出電流-電圧特性、電界増強因子、放出面積、電子放出サイトの構造、放出電流の変動率、ナノウィスカーの結晶構造などの基礎特性を明らかにした。今後、さらに、最適な熱処理条件の探索や、放出電流の安定性の向上、寿命特性の評価などを行い、技術移転につなげる基礎データを蓄積する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。単一フラーレンナノウィスカーの単結晶状繊維による電界電子放出を目標としており、そのままでは電子放出の観測までは至っていないが、真空熱処理によりグラファイト化により成功したことは実用化に向けた探索研究の成果としてある程度評価できる。熱処理生成物がナノチューブなどの関連物質と差別化できるかが重要と思われる。一方、技術移転の観点からはこれまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。更なる技術的検討やデータの積み上げなどを進めることで実用化に近づくものと期待できる。
炭素繊維を用いた触媒担持型DPFの開発 名古屋大学
山本和弘
名古屋大学
押谷克己
ディーゼル車は高い熱効率を持っているが、排ガス中の微粒子(PM)が問題になっている。白金触媒を担持した既存のディーゼルフィルター(DPF)は、耐熱性が弱いためPMの燃焼により触媒が損傷し、フィルターの基材内部に亀裂が入るなど耐久性にも問題があった。特に、白金はレアメタルであるため、従来の方法とは異なる新しいPM処理技術の確立が急務である。そこで、耐熱性の高い炭素繊維に着目した。本研究では、低温で微粒子を酸化するため触媒を担持した炭素繊維フィルターを用いて、ディーゼル微粒子を想定したカーボン粒子の酸化実験を行い、排気ガスの後処理過程を実験により評価した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)に関する社会的ニーズは大きく、当初計画である炭素繊維を用いたフィルターの設計・試作、分析、その性能評価に関する研究は重要である。当初目標は達成されていないが、触媒を担持するとカーボン粒子の燃焼温度が低下することを確認しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携を視野に入れて具体的な研究開発計画を立案することで実用化が近づくものと期待できる。
廃棄物系炭化物による元素水銀蒸気吸収剤の開発 名古屋大学
植木保昭
名古屋大学
渡邊真由美
本研究では、石炭燃焼や廃棄物焼却プロセスから微量ではあるものの排出されている元素水銀蒸気を吸収可能な吸収剤の開発を行う。水銀の酸化反応を促進することが分かっている塩素や硫黄を含有する、バイオマスや都市ゴミからのリサイクル資源である廃棄物系炭化物を吸収剤として利用する。具体的には、対象としている廃棄物系炭化物の比表面積制御および塩素や硫黄による化学的修飾を駆使して水銀吸収を活性化させ、既に水銀吸着剤として実用化されている活性炭の吸着能に匹敵する廃棄物系炭化物を利用した吸収剤の開発を目指す。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に活性炭に匹敵する水銀吸収性能を有する廃棄物系炭化物による吸収剤を開発できたことは実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果をもとに特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携により、市場調査やコストも含めて実現可能性を追求するとともに、残された技術課題(耐熱性等)解決をはかることが望まれる。本技術がが実用化された場合は大気汚染の防止等につながり社会還元が期待できる。
結晶成長方位制御した積層型圧電アクチュエータ用耐還元無鉛BaTiO3系セラミックスの開発 名古屋大学
坂本渉
名古屋大学
野崎彰子
本研究では、望む高性能化を達成するためのCaTiO3との固溶体形成およびNiなど卑金属電極との同時焼結を可能にする耐還元性の付与に効果的なMn元素のドープなどBaTiO3セラミックスの組成設計を行い、結晶成長方位制御のための板状種結晶の調製および現行の積層型セラミック電子部品の工程に適応可能な配向セラミックス作製プロセスの最適化を行うことで、優れた圧電特性を有する無鉛BaTiO3系配向圧電セラミックスの作製に成功した。ここでは、積層型圧電アクチュエータへの応用を可能にする電気的特性(特に電気絶縁性)および電界誘起歪み現象から見積もった実効圧電定数約570 pm/Vを達成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にフラックス法とTMC法によりBaTiOおよびCaTiOの板状粒子の作製が可能になったこと、還元雰囲気下でBaTiOを焼成する際のMnの最適ドープ量を明らかにできたこと、実効圧電定数の目標値が達成できたことは評価できる。積層型圧電セラミックスアクチュエータを作製する上での問題点を把握しており、今後の課題が明確になっている。技術移転の観点からは、鉛フリーの強誘電体・圧電体材料の性能向上と製造プロセスの効率化を発展さることによって実用化が期待できる。鉛フリーの強誘電体・圧電体材料の製造プロセスが確立できれば、セラミックス電子部品メーカーとの開発に発展させることができ、技術移転につながることが期待できる。
異常電子熱伝導度の制御方法の確立と熱流制御材料の創製 名古屋大学
竹内恒博
名古屋大学
野崎彰子
化石燃料枯渇問題を緩和するために、発生した熱を無駄に捨てることなく必要な箇所に移動して有効に活用する技術(熱マネージメント)の確立が強く求められている。本研究では、熱マネージメントにおいて主要な役割を果たす“熱流制御材料”を開発することを目的にしている。温度上昇に伴い熱伝導率が顕著に増大する材料と、顕著に減少する材料を組み合わせると、流れる方向により熱流の大きさが異なる効果(熱に対する整流効果)を得ることができる。室温以上の高温域において前者の条件を満たすことは極めて難しいが、研究代表者は、微細な電子構造に由来する異常電子熱伝導度を利用することで目的の材料を開発できると考えた。この考え方に基づき、異常電子熱伝導度を利用した熱流制御材料を創製する研究を実施した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に大きな熱流比を示す材料開発に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、工場等から廃熱回収などでの実用化等、エネルギー有効利用の分野での開花が期待できる。
立方晶SiC高速成長技術の確立 名古屋大学
宇治原徹
名古屋大学
野崎彰子
これまでに我々は、6H-SiCの(0001)面上への溶液成長により、大面積の高品質3C-SiCの成長に成功してきたが、わずかに6H-SiCの混在がみられるという問題があった。多形変化過程を詳細に調べたところ、6H-SiC上への成長では、成長多形は過飽和度に依存し、高過飽和度では3C-SiCの二次元核成長、低過飽和度では6H-SiCのスパイラル成長が優先的に生じることを見出した。本研究ではその知見に基づき、過飽和度制御によって3C-SiCの単相を成長させることに成功し、23年度の当初目標に関しては、完全に達成した。また、24年度計画についても、温度差法による過飽和度制御、および窒素添加による3C-SiCの高温安定性の確保により、成長速度を2μm/hから24μm/hへと10倍向上させることに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に現在のCVDと同等の成長速度(100μm/h)という目標までは至っていないが、改善方法も検討されており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。また、研削・研磨メーカーを含む産学連携を強化し、溶媒組成の制御等を行うことで実用化の目処が立つものと期待できる。今後は市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで、実用化の可能性がより高まると期待できる。
材料表面上レアメタルの非高温型乾式処理による選択的回収技術の開発 名古屋大学
寺門修
名古屋大学
野崎彰子

産業のビタミンといわれるレアメタルを廃棄物から回収する技術開発は、循環型社会確立のために重要である。一方これらのレアメタル類は電子基板表面などに微量存在することが多く、従来的な回収手法はコスト高になりがちである。本研究開発においては、レアメタルとしてインジウム(In)に着目し、液晶ディスプレイガラス上のITO透明電極といった表面上に存在する材料からのIn回収について、400℃程度の比較的低温において、塩化アンモニウムを用いた乾式塩化法による簡便な分離回収技術の開発を行った。その結果、反応に伴うInの挙動の解明をした。また、ITOのみならず、摺動性向上を目的とした表面処理合金からIn回収が可能であることを見出した。今後、技術移転の可能性を、既存技術と比較して進める。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にITO蒸着ガラスに対し各種の塩化剤添加手法によるインジウムの回収実験を実施し、添加量の増加により回収率が向上すること、添加方法により回収率に差異があること、インジウムの移行過程の経時変化を明確にしている。軸受合金系に対しても回収実験を実施し、処理温度と雰囲気の影響を明らかにしており、研究成果として十分評価できる。一方、技術移転の観点からは、今回の研究成果で塩化剤添加方法を工夫することでITOガラスからのインジウムの回収率が向上できること、合金系へも適用できることが示されており、技術移転への研究開発ステップにつながる可能性が高まった。今後は、産学連携により技術的課題を解決することで実用化につながることが期待できる。
可視光応答型光触媒による水の完全分解からの高効率水素生成 三重大学
勝又英之
三重大学
横森万
本研究は、太陽光エネルギーを高効率で利用可能とし、水溶液から水素を製造するための可視光でも触媒作用を発現する光触媒の開発を行うものである。水素生成光触媒としてチタン酸ストロンチウム系及び硫化カドミウム亜鉛系について検討を行った。特にCd0.3Zn0.7S光触媒が、Na2SO3/Na2S混合水溶液からの水素生成に優れた活性を示した。その水素生成量は、7時間の可視光照射後11mmol/gに達し、平均水素生成速度は、1.7mmol/h-g(最大生成速度は1.9mmol/h-g)であった。さらに、Cd0.3Zn0.7Sに助触媒として金属硫化物を担持すると水素生成活性が向上することを見出した。水素生成量、水素生成速度共に約2倍の活性を示し、Cd0.3Zn0.7Sへの金属硫化物担持が極めて有用であることが分った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。可視光応答型光触媒による水の完全分解からの高効率水素生成という研究は大いに社会貢献が期待できるテーマであるが、難易度も非常に高いものと考えられる。当初目標は部分的に達成されており、今後も研究を継続し、データを積み上げることが望まれる。本研究期間の成果を特許として権利化することも技術移転に向けては必要である。これまでの研究成果と課題を整理し、具体的な研究開発計画を立案して展開することが望まれる。産学連携による研究を視野に入れて実用化につながることを期待する。
酸化チタンナノチューブを用いる次世代型高次排水処理プロセスの実用化 三重大学
金子聡
三重大学
松井純
本研究では、まず、電気化学的手法を利用してチタンシート上にTiO2ナノチューブを作製するする技術のスケールアップを行い、10cm×10cm程度のチタン板上にナノチューブを配向性良く配列させる技術を確立する。このTiO2ナノチューブを排水30 Lの浄化に応用する。難分解性のキレート剤有機物質であるEDTAを完全に無機化することは困難であるので、一次処理としてTiO2ナノチューブを用いた光分解処理を行い、分子量を小さくし、二次処理として活性炭で吸着除去を行う。排水中の化学的酸素要求量(COD)値の低減化を図る。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に実用に適するサイズのチタンナノチューブ形成条件を見出し、触媒能の数値目標は達成されていないが、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。本研究成果と他の技術を複合させることで新規技術が生まれる可能性は高い。本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。次のステップへの技術課題も明確にされており、技術移転の観点からは具体的な研究開発計画を立案し、実施することが望ましい。今後は産学連携を視野に入れて、市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化が十分期待できる。
高効率水素製造を実現するNb-W-Mo水素透過合金膜の開発 鈴鹿工業高等専門学校
南部智憲
鈴鹿工業高等専門学校
澄野久生
高周波電磁浮遊溶解法によって総重量500gのNb-W-Mo合金をパイロット製造し、実用化に向けた技術移転の可能性を探索した。溶製された合金インゴットは、1)インゴット中のWおよびMoの許容偏析範囲が±1mol%以下、2)100μm以下の薄膜加工が可能、3)500℃、0.2MPa以下の水素雰囲気下で水素脆性破壊しない、④実用Pd系水素透過合金膜の5倍以上の水素透過速度が得られる、という技術移転が可能な4つの開発目標値をおよそクリアすることができた。しかしながら、溶解インゴット中のWの偏析が+1mol%以上あり、今後、より高品位なNb-W-Mo系合金を溶製する技術の確立が必要である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標の「Nb-W-Mo合金500grパオロット製造、成分偏析抑制、薄膜化、脆性抑制、水素透過速度のPd系対比5倍」を具体的実験によって達成したことは実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。これまでの研究成果も特許として出願を実施している。一方、技術移転の観点からは、計画している産学連携による製法のレベルアップと本合金の高温耐久性の改善などを進めることが望まれる。今後は残された課題である合金膜の高温耐久性向上等を実施することで高い水素透過特性、低コスト性、長寿命性に優れた材料として実用化が大いに期待される。
太陽電池の高効率化を実現する酸化物―貴金属ナノ粒子複合膜の開発 滋賀県立大学
秋山毅
光エネルギー濃縮効果を示す貴金属ナノ粒子を電子輸送機能を備える酸化物に組み込めば、次世代の太陽電池として期待を集めている有機薄膜太陽電池の性能向上に寄与する材料となることが期待できる。
この背景から、本研究開発においては、貴金属ナノ粒子□チタン酸化物複合膜や貴金属ナノ粒子とホール輸送機能を備える高分子からなる複合膜の作製を行い、逆型有機薄膜太陽電池の構成部材として適用した。これらの光電変換機能について評価を行ったところ逆型有機薄膜太陽電池への貴金属ナノ粒子の組み込みによってその光電変換特性の向上や、直列抵抗の低減効果が生じることを見いだした。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも貴金属ナノ粒子を逆型有機薄膜太陽電池のホール輸送層へ組み込むと 顕著な光電変換効率向上効果があり、電子輸送層に組み込むと太陽電池の直列抵抗を減じる効果が得 られることが明らかとなったことは評価できる。変換効率の向上につながることも期待できる。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携による共同研究開発をすすめ、有機薄膜太陽電池の効率向上に寄与するデータの積み上げをおこなうことで、技術移転がより可能になるものと思われる。
エレクトロスピニング法による固体電解質の創製 滋賀県立大学
山下義裕
滋賀県立大学
安田昌司
1) ゾルゲル法によるナノ繊維の繊維径制御(目標50nm)は作成条件を精密にコントロールすることで作製が可能となった。今後は実用化に向けた取り組みを行う。
2) ナノ繊維固体電解質膜の厚み安定性はエレクトロスピニングによるナノファイバーの積層時間と吐出量をコントロールすることで均一な膜厚を安定して作製できるようになった。
3) イオン伝導体の種類は基本的なLLTOの組成ならびに他の合金の作製と評価を行った。
④ 全固体リチウムイオン2次電池のモデル構築による充放電特性評価は2極セルを用いてその充放電特性を調べた結果、ナノファイバーの比表面積が大きいほど重量容量密度は増加した。このことからナノファイバー化することのメリットが明確となった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。研究成果に基づいて新規に特許出願も実施されている。リチウムイオン2次電池の全固体電解質化をめざし、独自のエレクトロスピニング法によりイオン伝導体からなるナノ繊維をゾルゲル法で作製する成果は評価できる。従来のナノ粒子による固体電解質よりも大きな比面積を有し、次世代型リチウムイオン2次電池の全固体化高性能・小型化が期待できる。一方、技術移転の観点からは、研究成果が応用展開された際に、社会還元に導かれることが期待でき、実用化が望まれる。今後産学連携を展開することで、次世代型リチウムイオン2次電池の全固体化高性能・小型化が期待できる。
白金減量化を目指したノベルNi-Pt合金ナノ粒子触媒の創製 滋賀県立大学
バラチャンドランジャヤデワン
滋賀県立大学
安田昌司
申請者らは、斬新な磁性Ni-Pt合金ナノ粒子の合成に成功すると共にその触媒活性を確認している。本研究課題では、その粒子の更なる微粒化を図り、高機能化学触媒/燃料電池電極触媒として応用を目指した白金減量化Ni-Pt合金ナノ粒子の開発を行う.具体的には、Ni-Pt粒子微小化、白金含有量の最適化、結晶構造(規則/不規則)制御による物性制御されたNi(-rich)NixPt1-x粒子を開発し、反応触媒および燃料電池電極触媒として評価を行い、現在実用化されている触媒を凌駕する特性を導出する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもNi-Pt系のナノ合金粒子の合成に成功した点は十分に評価できる。実用触媒を凌駕する特性にまでは至っていない。触媒の大量合成、機能向上おいては今後の研究開発に期待する。技術移転の観点からは、本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。白金の使用量削減は重要なテーマであり、目標が達成されれば社会還元が期待できる。今後、産学連携による共同研究開発により大量合成手法の確立、低コスト化、触媒性能の向上などを進めることで実用化が期待できる。
液相反応法による光機能性薄膜の作製と電界発光への応用 立命館大学
眞田智衛
立命館大学
矢野均
ゾル-ゲル・ディップコーティング法により、チタン酸バリウム(BaTiO3)を基板としてZn2GeO4:Mn2+薄膜を作製し、無機EL材料としての評価をおこなった。紫外光照射下および電圧印加下において、Mn2+による緑色発光を確認した。これらの紫外光照射下での発光は、従来の石英ガラス基板にコーティングしたZn2GeO4:Mn2+薄膜の発光よりも弱い強度であったが、電圧印加下においても発光を示したことから、電界発光(EL)を示す無機EL材料としての応用を期待できる。今後、ディップコーティング法と並行してスピンコーティング法を用いることで、より均一かつ発光強度の強い薄膜が作製できる条件を模索する。 概ね期待していた成果が得られ、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ZnGeO:Mn2+薄膜をディップコーティング法で制作し、紫外励起とELでの発光を確認しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。カラー表示デバイスでは540nm付近の準緑色発光は重要であり有効な成果と判断できる。技術移転の観点からは本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。高いEL効率を実現するのが次の課題であり、比誘電率との関係など検討課題が明確化されている。今後は産学連携による共同研究開発により、残された課題の解決と低コスト化を進めることで実用化が期待できる
ドーナツ型ポリオキソモリブデートを基盤とした機能材料の開発 立命館大学
堤治
立命館大学
中尾亨
本研究では、ナノチャネル構造を示す大環状ポリオキソモリブデート(GR-POxMo)の材料としての機能評価を行うことを目的とする。まず、GR-POxMo単体でメソポーラス特性評価を行ったが、測定の前処理操作でナノチャネル構造が崩壊することがわかった。そこで、有機分子と複合化して、ナノチャネル構造を安定化させることを検討した。液晶性有機分子をGR-POxMoに導入した複合体は、導入した液晶分子のHydrophile-Lipophile Balance (HLB)が小さい場合に液晶性を発現し、規則的な凝集構造をとることがわかった。いろいろな構造の有機分子と複合化し液晶性を評価した結果、HLBが小さいほど液晶相を示す温度範囲も低下することがわかった。今後、複合体の規則構造を詳細に調べ、ナノチャネル構造を示すことを確認した後、メソポーラス機能やプロトン伝導性評価を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。研究内容としてはプロトン伝導性評価とメソポーラス機能評価を行う予定であったが、物質の改変について検討時間が必要となり、当初の目標には至っていない。物質調製等においては探索研究の成果としてはある程度評価できる。実用化の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化しておくことが望ましい。今後、物質の評価等のデータを蓄積し、技術的検討をすることがが必要と思われる。開発された機能材料の使用分野や競合が予想できる他技術との比較検討を行い、本技術の優位性を明確化することで実用化につながるこのが期待できる。
アルミニウム合金の高疲労強度化を目的とした超微粒子衝突プロセスによる界面レス改質層創製 立命館大学
菊池将一
立命館大学
服部華代
本研究開発課題では、既存の微粒子衝突プロセスを超微粒子域まで発展させることにより「界面レス」改質層を創製させ、アルミニウム合金の高疲労強度化を目標としている。そのため本年度は、超微粒子の飛翔速度解析および衝突解析の結果(昨年度実施分)をもとに実験パラメータを設定し、アルミニウム合金に対して超微粒子衝突プロセスを実施した。その結果、超微粒子衝突プロセスを施すことにより、超高サイクル域においてアルミニウム合金の疲労強度が改善した。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に超微粒子衝突プロセスによるアルミニウム合金の高疲労強度化には先進性と優位性が認められ、成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、産学連携を進めるために、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。新しい表面改質プロセス技術の可能性も考えられており、次のステップに進めるための技術課題は明確になっている。今後は技術移転を目指し、装置製造企業との連携を行い、実用化に向けて研究成果の応用展開が期待される。

ペプチド集合体を鋳型とする金属担持シリカナノチューブの合成 龍谷大学
富崎欣也
龍谷大学
筒井長徳
シリカやアルミナ等の無機材料は、化学物質耐性および温度耐性に優れ、固体触媒として産業応用が進められている。特に、界面活性剤を鋳型として結晶構造中にナノメートルサイズの均一の空隙を創り、基質の選択的な取り込みに利用する固体触媒が有効である。
本研究課題では、シリカ合成の鋳型として、界面活性剤に代わり、ペプチドナノファイバーを用いるシリカナノチューブの合成法を検討した。次いで、ペプチドナノファイバーの表面に金属(化合物)粒子を配列化する方法を種々検討し、得られたペプチド-金属(化合物)複合体をシリカで被膜する技術を開発した。本研究成果は、基質選択的ナノ反応場を有する固体触媒の構築へ応用可能である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に最終目標であるペプチド集合体を鋳型とする金属(化合物)担持シリカナノチューブの合成までには至っていないが、その前段階となるペプチドを用いた金属担持ナノファイバーの合成に成功しており、実験条件の最適化等も課題として抽出されており、研究成果については評価できる。一方、技術移転の観点からは、金属粒子の高密度化や焼成工程などの実験条件の最適化が検討されており、特許の出願と産学連携による共同研究開発が望まれる。今後は、金属粒子の高密度化や焼成工程などの実験条件の最適化研究が進展し、高機能化が実現すれば、基質選択的ナノ反応場を有する固体触媒としての応用の可能性も開けるものと期待できる。
マイクロバブルを用いたメッキ排水中の環境規制物質除去技術開発 京都大学
日下英史
関西ティー・エル・オー株式会社
橋本和彦
本研究期間において、硝酸イオンを含む事業系排水からそれを除去するマイクロバブル浮選の適用可能性について検討を行った。陰イオン交換樹脂と同じ官能基を有する捕収剤、とくに1級アミンの酢酸塩、4級アミンの水酸化物の効果が顕著であることが確かめられた。さらに、多価陽イオン等を助剤あるいは介在物として添加することでも一定の除去効果が確認できた。今後、環境基準値等を踏まえ、浮選剤の更なる選定とその効果および除去機構やマイクロバブル浮選操作条件などについても検討を行うことが今後の展開と思われる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。マイクロバブルを用いたメッキ排水中の環境規制物質を除去する技術の開発は、新規性・独創性があり排水処理技術として革新をもたらす可能性がある。本研究期間における試験結果としては、硝酸性窒素除去が目標未達成であり、残留油類に関しては試験未着手である。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、具体的な研究開発計画を立案し、産学連携による共同研究開発の検討を進めることで実用化につながることが期待できる。
光誘起プラズマを利用した磁性ナノマテリアル合成技術の開発 京都大学
下間晴彦
京都大学
井内浤二
近年、磁性ナノ粒子に関する研究が注目されている。磁性ナノ粒子は電気自動車用モーター、データ記憶デバイス、多機能触媒、バイオセンシングなど様々な応用が期待されており、特に単磁区構造(一般的には数百nm以下)をとるサイズにまで小さくすることによって、飛躍的に磁気特性を向上させることが可能であるため、Nd、Sm、Pt等の使用量の大幅な削減が期待できる。本研究は、磁気特性に優れた永久磁性材料を酸化させることなく単磁区臨界径以下のナノ粒子にすることによって、飛躍的な磁気特性を目指すものである。超単パルス光の照射部で過渡的に発生するプラズマを利用して作製したFePtナノ粒子の磁気特性を評価したところ、飛躍的(約20倍)に増加させることに成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究は基礎研究フェーズであり、多元系のNd2Fe14B磁性体ナノマテリアルが形成されるか否かの検討が最重要である。磁性体ナノマテリアルが合成できれば、希土類元素の使用量が削減が期待できる。今後は、バッチ式でのSiの成果を多元系磁性体へ適用できるか否かなど、計画の具体性、明確化が望まれる。
粉末塩テンプレート電析法によるポーラスアルミニウムの作製 京都大学
三宅正男
京都大学
増田亜由美
ポーラスアルミニウム材料の新しい製造方法として、有機溶媒浴からのアルミニウム電析を利用した新しいプロセスの開発を行った。電析浴に加える塩粉末の粒径を変化させ、アルミニウムの電析条件を最適化することで、孔径および空隙率の異なる様々なポーラス構造をもつ多孔質アルミニウム層を形成することができた。本プロセスによって作製されたアルミニウム多孔質体は、二次電池の電極材料をはじめとする様々な用途への応用が期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初目標の中で、電池への適用にまでは至っていないが、作製条件については達成しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。コンデンサへの応用についても検討を進めることが明記されており、具体的な研究開発計画の立案が望まれる。企業からの複数アプローチもあり、今後は産学連携による共同研究開発の中で、市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化が近づくものと期待できる。
イオン液体-固体基板界面分析のための超高感度圧電プローブの開発 京都大学
一井崇
(財)京都産業21
辻岡則夫
近年、固-液界面の高分解能解析手法としての周波数変調原子間力顕微鏡 (FM-AFM) が着目されているが、新規機能性溶媒であるイオン液体は、その粘性の高さより、Siカンチレバーをフォースセンサとする既存のFM-AFMでは、固-液界面の高分解能解析は困難であった。本課題では、水晶振動子を用いた超高感度圧電プローブを開発し、それをフォースセンサとするFM-AFMによりイオン液体-固体基板界面の高分解能観察に取り組んだ。従来に比べノイズレベルを約4割低下させ、それにより、イオン液体中における原子分解能観察に成功した。この結果より、本課題で開発したセンサの有用性が確認された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にイオン液体中で原子分解能をもつ固体表面の形状像を計測するという目標を達成し、イオン液体中で水晶振動子式のFM-AFMが動作することを実証しており実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究成果を特許化することが望ましい。原子分解能観察を達成したことで顕微鏡装置メーカーとの共同研究の可能性は高まったといえる。イオン液体に浸漬したマイカ表面を形状観察することで原子分解能が達成されたことを確認しており、今後は産学連携により装置開発につながることが期待される。
疎水性イオン液体を用いる高効率マンガン電解リサイクリング 京都大学
邑瀬邦明
京都大学
荒川弘
金属マンガンは、鉄鋼や軽金属に添加し耐食性や展伸性を付与するための重要素材である。しかし、その供給は国外に全量依存し、供給障害の不安をかかえている。本研究では、高い電流効率での金属マンガンの電解採取技術のため、イオン液体系電解浴からのマンガン電析を調べた。イミダゾリウム型のイオン液体を用い、浴の電気化学特性を調べ定電位電析を試みた。その結果、2位をメチル置換した1-butyl-2,3-dimethylimidazoliumum陽イオンを選ぶことで、金属マンガンの電析が可能であることを見いだしたが、大気中ではイオン液体の分解が同時に進行し、高い電流効率の達成は困難と判断された。比較のため行ったスルホン系溶媒では、より可逆性の高いマンガン電析がうかがわれた。
当初目標とした成果が得られていない。イオン液体を溶媒とすることで、電解Mn の電析電流効率を95% 以上とすることや電解Mn に含まれる不純物レベルを市販の99.9%金属Mn フレークと同等とすることを目指して研究に取り組んだが、目標には至っていない。次のステップとして、イオン液体の分子設計等の基礎的検討とさらなるデータの積み上げるを実施することが望まれる。技術移管の観点からは、本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。これまでの結果を踏まえて課題解決のための研究開発計画を立案し実施されることが望まれる。本課題は魅力があり今後の研究に期待する。
アニオン交換膜形燃料電池用マンガン酸化物系カソード触媒及び触媒層の開発 同志社大学
齋藤守弘
同志社大学
松井健一
白金フリーなアニオン交換膜形燃料電池(AMFC)の構成を目指し、ペロブスカイトやホランダイト等のマンガン酸化物系カソード触媒の創成とそれらの酸素還元反応(ORR)活性及びAMFC発電特性の評価を行った。その結果、特に逆ミセル法を応用した合成法にて平均粒子径4.3 nmのLa0.83Sr0.17MnO3(LS0.17M)をケッチェンブラック(KB)担体上に高分散担持した高活性触媒LS0.17M/KB(ORR開始電位:0.9 V vs. RHE、四電子還元率:約98%@0.6V)を得ることに成功し、また最大130 mW cm-2の発電出力を達成した。今後、更に合成法やMEA構成等の最適化を進めることで実用化を期待できる性能を示すと期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の計画通り研究は進められており、特許出願も実施されている。貴金属である白金の代替材料を用いた燃料電池用電極触媒の開発においてペロブスカイととホランダイトの2種類を扱っており、「白金系触媒と同等レベルの酸素還元反応」には達していないが、評価できる性能は得られている。良い結果が得られているペロブスカイでは希土類であるランタンが含まれており、その量も比較的多いことから技術移転や実用化に向けては希土類の低減も必要と思われる。今後産学連携を推進して実用化につながつことが期待できる。
単分散カーボンナノ構造コロイド粒子の集合次元制御と応用 関西大学
田中俊輔
関西大学
柴山耕三郎
電気二重層キャパシタの欠点であるエネルギー密度を改善するためには、均一なメソ細孔が規則的に配列した構造を特徴とする規則性メソポーラスカーボンが電極部材として有効である。本研究課題では、これまでメソポーラスカーボンの合成に必要とされてきた無機シリカ鋳型を用いない製造法の確立を目的とした。(1)サブミクロンオーダーの高単分散コロイド粒子の調製、(2)コロイド粒子を用いた階層構造の構築、(3)エネルギー密度の向上、の三点の目標に対して、(1) 200nm~1μmの粒子径制御と5%以下の分散度、(2)二次元粒子膜化と粒子群の離散的配列化、(3)~100F/gの高容量化を達成した。また、規則性メソ細孔が超高速イオン拡散を実現する反応場として有効であることを電気化学的測定により実験的に実証した。今後は、電極の実製造を重視したコスト性、拡張性に優れたプロセスに本手法を発展させ、規則性メソポーラスカーボンの製造をスケールアップしたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にサブミクロンオーダーの高単分散コロイド粒子の調製、コロイド粒子を用いた階層構造の構築、エネルギー密度の向上、の三点の目標を達成したことは実用化に向けた探索研究として十分に評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化のためには耐久性の向上という課題があり、具体的な検討策が望まれる。電気二重層キャパシタのエネルギー密度を改善するためには、均一なメソ細孔が規則的に配列した構造を特徴とする規則性メソポーラスカーボンが電極部材として有効であり、実用化が期待できる。今後は、成果を特許化するとともに産学連携により実用化研究を展開されることが期待される。
アクティブスクリーンプラズマ熱処理技術を応用したハイブリッド硬質皮膜の同時形成プロセスの開発 関西大学
西本明生
関西大学
松井由樹
本研究は、プラズマ熱処理技術の改良に関するものである。処理品の周囲に陰極のかご状スクリーンを設置し、このスクリーン上でプラズマを発生させるアクティブスクリーンプラズマ窒化技術を応用している。本研究では基材として低合金鋼SACM645を選び、チタン製スクリーンを用いてアクティブスクリーンプラズマ窒化を行った。処理ガスの組成を窒素:水素=1:3,1:1,3:1と変化させた。処理後の試料について、外観観察、表面のX線回折試験、断面の組織観察、硬さ分布測定および摩擦・摩耗試験を行い、試料表面に窒化チタンと鉄窒化物のハイブリッド硬質皮膜を形成させることが可能であることがわかった。今後はこの成果を学会発表により公表し、企業などとの共同研究につなげていきたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に自製のTi製スクリーンを用いたプラズマ窒化処理により、低合金鋼表面に高硬度のTiN層、その内部に窒素拡散層を生成する条件を見出しており、当初の目標を概ね達成している。一方、新たな課題として窒化層の更なる高硬度化、試料エッジ効果の抑制を挙げており、その解決を図り、技術移転を進めることが期待される。関係の深い研究会メンバーを中心に実用化に向けた共同研究体を組織し、素材や目的に応じた処理条件の最適化研究を進め、実用化を図る計画もできている。今後は本研究成果を踏まえて、特許取得をおこなうとともに産学連携を密にした応用研究が期待できる。
プラスチックス表面に機能性酸化物セラミック薄膜を作製するための革新的技術の開発 関西大学
幸塚広光
関西大学
松井由樹
本研究開発の当初の目標は、耐熱性基材の表面にゾル-ゲル法により作製されるセラミック薄膜を、接着剤を使用してプラスチックス基材表面に転写する独自の技術において、1)接着剤の粘弾性特性と、転写時のセラミック膜の亀裂発生の関係を明らかにし、亀裂発生を確実に抑制する設計指針を構築すること、2)単分子膜を接着剤とすることにより、膜の機械的耐久性を基材のプラスチックスの硬さ程度まで上げることの2点にあった。しかしながら、セラミック薄膜側からの急速な加熱によってプラスチックス基材表面を溶融し、溶融層を接着層とし、接着剤を介することなく、セラミック薄膜をプラスチック基材表面に直接転写する技術を開発した。この技術によって、セラミック薄膜をのせたプラスチックス基材の鉛筆硬度を、プラスチック基材そのものの鉛筆硬度と同程度まで高めることに成功した。さらに、この方法によって、パターニングされたセラミック薄膜をプラスチック基材表面に形成することができた。また、極性基をもたないプラスチック基材とセラミック薄膜の密着性は低いが、基材の表面を酸化すれば密着性が高くなることも見出した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に接着剤を介することなく、プラスチックス基材表面に厚さ数十~数百nmの各種機能性セラミック薄膜を転写する新たな技術を開発しており、当初の目標は達成されたものと評価できる。特許出願や論文発表、記事掲載等積極的に実施されている。一方、技術移転の観点からは、材料とその材料に求められる特性・品質によっては、まだ技術課題があると予想され、解決するための具体的研究開発計画の立案が望まれる。プラスチック製品製造業、電機産業などの企業との産学連携を視野に入れており、これらの応用展開を通して研究成果は、社会に還元されていくと期待できる。
水熱酸化法をベースに独自のフェントン型促進酸化触媒を用いた有機ハロゲン化合物の高度処理法の開発 大阪市立大学
米谷紀嗣
大阪市立大学
立川正治
本技術は、分解処理が困難な有機ハロゲン化合物およびそれらを含む廃液等に対し、水熱酸化法をベースに独自開発したフェントン触媒を用いることで酸化分解を促進させ、反応温度を大幅に下げて処理を可能にするものである。今回の研究では(1)各種有機ハロゲン化合物の処理、(2)固定床型反応器の試作、(3)触媒の改良、(4)触媒安定性の評価、について検討を行なった。項目(1)では本技術による4-クロロフェノールの処理が可能であることを実証した。項目(2)では、固定床型反応器を作製し、それを用いて項目(4)の触媒安定性の評価を行った。また、項目(3)では銅担持酸化チタンが安価で優れた触媒であることを見出した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に有機ハロゲン分解用触媒の開発と安定性評価まで終了しており、当初目標は達成している。特許出願も実施済である。本成果に対する企業ニーズの掘り起こしも行われていおり、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、計画として上げられている反応器の腐食の解決課題とニーズに応じたシステムの設計の検討が望まれる。今後は産学連携により、共同研究開発を展開し、市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化及び社会還元が期待できる。
新規なフロートキャスト法によるナノセラミックス細胞足場材料の開発 大阪歯科大学
岡田正弘
生体骨に類似した構造をもつ低結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子からなる新規な透明体の開発を目的とした。この透明体は、低結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子の水分散液を基板上でキャスト(乾燥)することで作製されるが、作製時にクラックが発生するため、細胞の増殖性や機能性などを評価する際に求められる面積・形状で作製することが困難であった。このような問題を克服するために、新規な製造方法「フロートキャスト法」によって、目的とする形状かつ大面積化した透明体の製造を達成した。この透明体は、先行技術と比較して、製造コストが低い一方で機能性(細胞接着性)に優れるため、再生医療用の細胞培養基材としての実用化が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に湿式法という簡便かつ新規な独自のシーズでアパタイト透明体が得られ、基板上でクラックのない一体型材料に成形できており、実用化に向けた探索研究の成果として評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化するとともに、基板の制約、大量製造等の技術課題解決に向けては、産学連携の枠組みの中で展開することが望まれる。製造の簡便さは大きなセールスポイントであり、今後は大量生産や低コスト化、用途における拡張性を検討し、技術移転につながることが期待される。
鋼/アルミニウム異材接合のためのプラズマミグブレージングプロセスの開発 大阪大学
田代真一
大阪大学
多田英昭
アルミニウムと鋼の異材接合は、自動車等の輸送機器の軽量化の観点から極めて重要であり、種々の部品に対して異材継ぎ手が用いられている。本研究開発では、アルミニウムと鋼の異材接合を簡便かつ安価で行うことが可能な、プラズマミグブレージングプロセスを開発する。本プロセスではろう材の高いぬれ性の確保と金属間化合物の生成の抑制が可能であり、高品質な継手を得やすいというメリットも期待できる。継ぎ手強度に強い影響を及ぼす金属間化合物層の厚みを5μm以下に抑えるとともに、アルミニウムの熱影響部にて破断する条件を明らかにすることを目標とする。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アルミニウムと鋼等の異種材料の接合は、輸送機器等の軽量化の観点から重要である。本研究ではアルミニウムと鋼の異種材料の接合を簡便かつ安価に行う技術の開発を目指しており、継ぎ手強度に大きな影響を及ぼす金属間化合物層の厚さを薄く抑えるとともに、アルミニウムの熱影響部にて破断する条件を明らかにすることを目標とした実験を実施した。概ね目標は達成しており、研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携による「研究開発により、市場調査及び競合技術との比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化が近づくものと期待できる。
鉄鋼スラグからの先進塩基触媒の製造と資源循環型プロセスの創成 大阪大学
山下弘巳
大阪大学
多田英昭
グリーン・サステイナブル・ケミストリーに貢献しうる資源循環型化学プロセスの構築を目的として、鉄鋼スラグを原料とした先進塩基触媒材料への変換と、それを利用した触媒反応への応用を行った。本研究では、鉄鋼スラグからの先進塩基触媒(ハイドロタルサイト)の合成方法を世界に先駆けて開発し、高機能化を図るとともに、合成した触媒がバイオディーゼル合成やCO2固定化反応など、よりエコロジカルかつ高度な触媒反応にも高い活性を示すことを明らかにした。今後は、本研究で得られた知見をもとに、次の資源循環型化学プロセスの探索を行うとともに、さらなる高活性触媒設計指針へと還元する。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に鉄鋼スラグを原料にハイドロタルサイト様化合物の合成に成功し、それらが塩基触媒活性を有することを検証し、当初の研究目標が達成されており、実用化に向けた探索研究の成果としては十分評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。本研究で合成された塩基性層状化合物が塩基性触媒としてだけではなく、多量に消費されるリン吸着資材として注目をされており、鉄鋼スラグ処理の廃棄処理の観点からも、今後の新たな展開に向けた企業との共同研究化が期待できる。
高次ナノ構造を有するAl含有多孔性シリカの開発と酸触媒機能の探索 大阪大学
亀川孝
大阪大学
多田英昭
省エネルギー・省資源・低環境負荷に貢献可能な新規なナノ触媒材料の創出を目指し、単分散な球状高分子微粒子を構造アシストとして調製可能な高次ナノ構造体、すなわち階層的なマクロ細孔とメソ細孔構造を併せ持つ多孔性シリカを利用した機能先進触媒材料の開発を行った。数多くの反応を触媒し、工業的にも重要な酸触媒機能を付与するため単核のAl種をそのマトリックス内に導入した高次ナノ構造体の調製法を確立した。さらに、その構造・機能を強く意識し、グリーンケミストリーを志向した触媒反応系への応用や吸着材としての利用を進め、高次ナノ構造の有効性について明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標である階層的なマクロ細孔とメソ細孔を併せ持つ多孔性シリカの調製法と酸触媒機能の付与に成功しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果をもとに特許を出願することが望ましい。今後の研究開発計画を具体的にし、産学連携を進めることで実用化が近づくものと期待できる。今後は、産学連携の中で市場調査や他の技術との比較を行って、本技術の優位性を明確にすることで実用化による社会還元を期待する。
膜内の応力制御による超硬材への高密着性c-BN被膜の合成 大阪府立産業技術総合研究所
三浦健一
膜厚1μm程度の密着性に優れたc-BN膜を1μm/h程度で合成することを目標とし、ホウ素炭化物ターゲットを用いたCVA法による合成の可能性について探索した。その結果、(1)【ホウ素炭化物】焼結体はアーク放電時の熱衝撃により短時間で破壊するため、そのままではターゲット材料として使用できない、(2)ホウ素焼結体やホウ素-炭素混合焼結体では抵抗値が高いため、アーク放電は不可能であり、アーク放電はホウ素炭化物でのみ可能である、(3)短時間放電で堆積した膜にはc-BN相の存在が確認でき、CVA法では比較的容易に合成が可能であることが探索された。ただし、成膜技術として確立するには、耐熱衝撃性の優れたターゲットの開発が必要と結論付けた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもホウ素炭化物材をターゲットとしたCVA法で膜厚1μm の密着性に優れた膜の生成目標は達成されなかったが、ターゲット材がアーク放電で破壊されるまでに生成された膜内にc-BNの生成を確認したことは成果であり、アーク放電で破壊されないホウ素炭化物ターゲット材に絞れたことは評価できる。実用化の観点からは、本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携を視野に入れて具体的な研究開発計画を立案し、実行することで工具の長寿命化など生産性の向上に寄与することが期待できる。
積層造形法の適用による力学特性の異方性を制御した低弾性率・高強度人工骨の開発 大阪府立産業技術総合研究所
中本貴之
単孔四角柱状構造からなるセル構造体の中に種々の梁構造を設計し、気孔の伸長方向と平行および垂直方向の弾性率を有限要素解析から求めた結果、脆弱な垂直方向の弾性率は梁補強により増加し、異方性を低減できることがわかった。生体材料である純Tiの積層造形により、種々の梁補強構造体を実際に作製し力学特性を評価した結果、有限要素解析の結果と同様に異方性低減の傾向が認められた。特に脆弱方位に対して平行方向に近い向きに水平板を補強することが、弾性率および強度の異方性低減と強化能の発揮には有効であることがわかった。これらの結果より、骨と同程度の低弾性率を維持しながら、骨よりも高強度で、力学特性の異方性を制御した人工骨の提供が積層造形法により可能になると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に強度と弾性率と力学異方性のバランスに富みかつ従来技術より優れた人口骨特性発現を目指した本課題において梁構造による違いが特性に大きく関わっているとの成果は重要な知見である。今後の研究課題も明確であり、実用化に向けた探索研究の成果としては十分に評価できる。一方、技術移転の観点からはこれまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、共同研究が可能な連携先を探し、実用化を目指すことが望まれる。本研究は超高齢化社会において求められる重要な技術であり実用化につながつことが期待される。
切削性と耐摩耗特性に富むNi基超々合金製耐熱工具の開発 大阪府立大学
高杉隆幸
大阪府立大学
阿部敏郎
既存Ni基超合金より耐熱・耐摩耗特性が各段に優れ、新規な超微細2重複相組織(Ni3Al-Ni3V金属間化合物)からなるNi基超々合金の開発に成功した。本合金は優れた熱的、化学的、物理的、機械的特性を有し、かつ、現用の金属素材製造技術と2次加工技術が利用できる利点を有している。これまでタービン用ブレード材および摩擦撹拌接合用ツールの開発を企業と共に行ってきたが、本合金を広く次世代型耐熱工具へ展開するためには切削技術課題の克服が必須となる。本研究課題では、本合金のもつ優れた高温高硬度を減じることなく、切削性と耐摩耗特性に富む新規な成分と組織からなる合金を固溶炭素および炭化物を含有させることにより開発し、次世代型汎用耐熱工具開発の道筋をつけた。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にNi基の金属間化合物を利用した耐熱鋼具の開発で十分な成果が得られており、今後の研究計画も明確に示されていることは実用化を目指した探索研究としては十分な成果と評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携により、具体的な研究開発計画を立案し、その中で市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化が近づくものと大いに期待される。
ナノ構造制御による脱レアメタル新規磁性材料の開発と機能探索 大阪府立大学
森茂生
大阪府立大学
阿部敏郎
本研究開発では、擬スピノーダル分解により形成されるナノ組織構造を利用して、大きな結晶磁気異方性を有する新しい磁性材料の開発を目指した。特に、スピネル型磁性酸化物CoFe2O4やCuFe2O4に注目し、Feの一部をMnで置換することにより、ナノスケールでの微細構造を制御し、微細構造と磁気特性の相関について調べた。Co0.6Fe2.4-xMnxO4試料では、275℃から375℃の温度範囲で10時間アニール処理を行うことで、磁性相(立方晶構造)と非磁性相(正方晶構造)から成る2相共存状態へ相分離し、10nmサイズのチェッカーボード型パターンを形成し、磁気転移温度が150℃から430℃へと上昇するとともに、保持力も大きくなった。また、レアメタルを含まないCu0.6Fe0.9Mn1.5O4の作製に成功し、ナノスケールの双晶構造の形成により磁気転移温度が150℃から180℃へと上昇し、保持力も大きくなることが見出された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アルニコのスピノーダル分解に対比してチェッカーボード型の分解を利用した磁石材料の開発を目指したテーマであり、チェッカーボード型のキャラクタリゼーションが報告されている。今後は磁石開発の専門家と共同開発研究をすることでエネルギー積など磁石特性に関するデータの積み上げに期待したい。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、産学連携を視野に入れて、磁石開発の方向性を含めて具体的な研究開発計画を立案し、データの積み上げを行うことで実用化に近づくものと期待する。
高温高強度・高耐摩耗性を有するNi基金属間化合物合金基複合材料の創製 大阪府立大学
金野泰幸
大阪府立大学
阿部敏郎
Ni3(Si,Ti)基金属間化合物合金は室温延性を有し、金属間化合物としては異例とも云えるべき強冷間加工が可能である。これまでの研究で、強冷間圧延した開発材が汎用のニッケル合金やステンレス鋼と比べて格段に高い強度特性を有していることが明らかにされている。一方、本合金は温度上昇に伴う硬さの低下が少なく、高温ではマルテンサイト系ステンレス鋼をも上回る高硬度特性を示すことから、高温耐摩耗材料としての使用も期待される。本課題では、Ni3(Si,Ti)基金属間化合物合金複合材料の創製を目指し、合金設計ならびにプロセス条件の最適化を図った。 概ね期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に計画の全調査項目を期間内に実施し、設定目標値(室温硬さが600HV以上、600℃における硬さが550HV以上)も達成した。特に室温で1200HV、600℃の硬さ1000HVを越える成果を得ていることは特筆される。一方、技術移転の観点からは、具体的な材料開発方針が示されている。 今後はさらに企業との連携強化を進め、実際のニーズに即した研究開発を進めることで、本研究成果を技術移転することができると期待される。ベアリングメーカー等以外の業界に対しても、成果をアピールすることで新しい産業創出が期待できる。
新規に見出したイオン性半導体ナノ結晶を介したシンチレータ材料の開発 大阪府立大学
河相武利
大阪府立大学
阿部敏郎
本研究では、Au-イオンを添加したCsI結晶中にAu-イオンの凝集センター(イオン性半導体CsAuナノ結晶と見なせる)を作製し、そのナノ結晶に起因した発光を、550-600nmに出現させることを目標とした。CsI:Au-結晶に対して紫外線を照射したところ、610nm付近に新たな発光バンドが出現し、当初の目標は一応達成した。しかしながら、610nm発光の発光寿命は約3.0μsであり、また発光強度も期待していたほど強くならなかった。原因としては、高濃度にAu-イオンを添加したCsI結晶では、金コロイドが形成され、CsAuナノ結晶の濃度を上げることができなかったためと考えられる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ガンマ線検出用シンチレーターとして、高検出効率と高速応答性能の面で貴金属陰イオン含有ヨウ化セシウム結晶は新しいシンチレーター材料として期待できる。発光波長がフォトダイオードとマッチしないために、添加する金イオンの制御で波長シフトの実現している。波長が移動した成分の強度が十分ではなく、減衰時間が長いなど実用化には改善の余地がある。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、技術的検討やデータの積み上げを実施することで実用化につながることが期待される。
冷間成形性に優れた高強度マグネシウム合金とそのプレス成形技術の開発 大阪府立大学
高津正秀
大阪府立大学
井上隆
自動車の軽量化にマグネシウム(Mg)合金の利用が注目されているが、高張力鋼板やアルミニウム合金に対抗するには、コストに見合った冷間成形性と強度が求められる。申請者は、過去にAZ31合金で開発した結晶方位ランダム化による冷間成形性改善技術を、高強度の時効硬化型Mg合金AM60に適用し、上記目標を達成しようとした。その結果、広幅材でのランダム化と冷間曲げ性は確保できたが、冷間深絞り性は無理で、200℃までの加熱でも通常工程で容易に作成できる微細粒底面配向材を超えられなかった。今後、高強度材については結晶粒微細化による高速プレスでの成形可能温度の低減や、強度は劣るがAZ31合金の冷間プレス成形の実用化を目指したい。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。高強度マグネシウム合金の結晶方位分布のランダム化による成形性向上と耐力差を成形後の時効での改善を図る当課題には新規性と優位性が見られる。当初目標に対して一部は達成されており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。深絞りにおけるフランジ加熱の効果、成形後の時効硬化特性の調査、自動車部品を想定した実機試験の検討、プレス成形の有限要素シミュレーションの実施については今後の成果として期待する。本研究で得られた成果を特許として権利化し、産学連携による共同研究開発に進むことを期待する。
全固体アルカリ形燃料電池用無機水酸化物イオン伝導体の膜化 大阪府立大学
忠永清治
大阪府立大学
稲池稔弘
我々は先に、Mg-Al系層状複水酸化物(LDH)の圧粉体ペレットがアルカリ形燃料電池の電解質として使用可能であることを見出した。この燃料電池をさらに高出力化するためには、電解質膜の薄膜化・大面積化が必須である。本研究開発では、ガラスペーパーやガス拡散層として用いている触媒を担持したカーボンクロスを支持体として用いることにより、Mg-Al系LDH電解質膜を構築することを検討した。その結果、これらの支持体を用いることにより最大約5cm^2、電解質層の厚み約100μmの電解質膜を得ることに成功した。この電解質膜を用いた燃料電池が、ペレットを電解質として用いた場合に比べ大きな出力を示すことを確認した。目標とした25cm^2の電解質膜を作製するには至らなかったが、プロセスを最適化することにより大面積化は十分可能であると考えられ、実用化に向けて一歩前進したと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に粉末電解質抵抗値の目標値が達成されており、全固体燃料電池電解質としての最適化に向けての課題を明確にしており、実用化に向けた探索研究の成果としては十分に評価できる。特許も出願済である。技術移転の観点からは、粉末を使用した全固体電池として実用化に一歩近づいており、社会ニーズに大きく応えると思われる。今後、産学連携により市場調査等を踏まえて二次電池開発企業への技術移転に向けてより実用化に近いレベルで研究を推進されることが期待される。
太陽光エネルギーを利用する可視光応答型光触媒による水と窒素からのアンモニア合成 大阪府立大学
堀内悠
大阪府立大学
亀井政之
本研究は、水分解のための高活性な可視光応答型光触媒の開発と光エネルギーを利用した温和な条件下でのアンモニア合成を目指して実施した。その結果、マグネトロンスパッタリング法を用いて調製した、TiやTaをベースとしNをドープした薄膜光触媒が、可視光域に優れた光吸収特性を有し、太陽光照射下で高い光触媒活性を示すことを見出した。しかし一方で、同光触媒を用いた水分解を通したアンモニア合成に対しては期待していた成果は得られなかったため計画を若干変更し、Ru担持酸化チタン触媒による気相でのアンモニア合成に対する光照射効果を検討した。結果、比較的低温の条件下において、光照射によりアンモニアの生成速度が向上することを初めて見出した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初の計画の酸化チタン光触媒によるアンモニア合成は認められなかったが、酸化チタンを担体としてRuを担持した触媒でアンモニア合成を検討し、光照射効果を見出したことは基礎的な探索研究としては興味ある内容であ評価できる。本研究「期間における成果を特許として権利化することが望ましい。Ru触媒で光照射効果があり、技術的検討やデータの積み上げに期待がかかる。今後は、市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にし、産学連携の枠組みによる共同研究開発が望まれる。
高比強度・高成形性チタンクラッドマグネシウム合金薄板の大型化 大阪府立大学
井上博史
大阪府立大学
亀井政之
実部品のプレス成形を試行するにはMg/Tiクラッド板の大型化が不可欠である。本研究開発では高度な技術を必要とする薄肉クラッド板の大型化を目的として強度・成形性の評価を行うとともに、さらなる高強度化を目指してAZ80Mg/2種Tiの大型クラッド板を試作した。強度、伸び、円筒絞り成形性、曲げ成形性については目標値をほぼ達成したが、角筒絞り試験で側壁部に剥離が生じた。クラッド板作製条件を再検討し、剥離の問題を解決したものの、新たにTi層でのクラック発生が問題となった。今後の展開として、クラッド板の接合強度とTiの延性について調査を行い、最適条件下での大型クラッド板の試作を再度実施する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にグラッド材の製造、特性評価、成形についての研究成果は目標を達成しており実用化に向けた探索研究の成果としては十分評価できる。技術的課題として、異種材料接合界面の強度とチタンの延性についての課題も明らかされている。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許化して産学連携を進めることが望ましい。耐食性の優れた軽量高強度部材のニーズにおいて見合うコストが実現できることが望まれる。今後は、製造プロセスの簡素化、コスト低減に向けた研究開発を進めることで航空宇宙産業等の分野での実用化が期待できる。
チューブ内狭空間と超音波を利用する金ナノロッドアスペクト比制御技術の開発 大阪府立大学
興津健二
大阪府立大学
亀井政之
アスペクト比や形状の制御された棒状の金粒子(金ナノロッド)を連続合成する方法を開発するために、チューブ内狭空間からなる流通式実験系に対する超音波照射効果について検討した。各種照射条件の影響を調べた結果、生成する金粒子の収率は原料溶液の流速に影響されることがわかった。また、振動子に対するチューブの固定方法も収率に影響を与えることがわかった。チューブ内狭空間からなる流通式実験系では収率が低いため、高効率合成法の開発ならびに比較実験として、バッチ式実験系で添加剤濃度の影響について検討した。その結果、添加剤の濃度を変化させると形状制御が可能であることが確認できた。今後、反応溶液内での定在波の形成を考慮した実験系の設計が必要である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標とする粒子合成の基礎的な知見を得ており、ナノ粒子の合成における形態制御への寄与が期待できる。実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。本研究で得られた成果は論文として公表されており、技術移転の観点からは早期に特許出願することが望ましい。研究開発計画については具体的に検討されている。今後は、産学連携の枠組みを築き、その中で市場調査及び他の技術との比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化につながることが期待できる。
固液界面における不均一核生成を利用した層状ケイ酸塩大型結晶の迅速成長合成法の開発 大阪府立大学
岩崎智宏
大阪府立大学
赤木与志郎
機能性素材としての応用が期待されるアイラアイトを高効率で合成するために、その結晶核の生成と結晶成長を制御する手法について検討した。生成物の粒子径を20μm以上とし、72時間以内に収率を90%以上とすることを目標に、出発原料溶液をジルコニアボールとともに加熱する前処理を用いた合成法を開発した。前処理条件や反応温度等について検討したところ、合成時間は従来法の約4分の1まで短縮できた。しかし、反応速度の増加のために不均一核生成を促進させた結果、相対的に結晶成長が抑制され、今後の課題となった。これは、結晶核生成の理論解析を通じ、不均一核生成と結晶成長の各過程の詳細を明らかにすることで改善できると考える。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標の20~30ミクロンのアイアライトの合成を72時間以内に収率90%で得ることに対して、粒子サイズは4ミクロン、収率40%であった。標を達成するための方策を提示しており、今後の解析により目標が達成された際は化粧品としてのマイカへの置き換えの可能性も見えてくるものと期待できる。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、産学連携による研究開発を実施し、その中で市場調査及び他の技術との比較を行って、本技術の優位性を明確にすることで実用化に近づくものと期待できる。
リチウムイオン二次電池負極用3次元構造スズ系合金シートの作製 地方独立行政法人大阪市立工業研究所
小林靖之
高容量、かつ充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用スズ系合金負極を開発することを目的とし、めっき法を用いて3次元網目構造を有するフレキシブルなスズ-銅合金シートの作製をおこなった。具体的には、ナノスケールの高分子ファイバーで構成された不織布をテンプレートとし、ナノファイバー表面に均一に無電解銅めっき・スズめっきをおこなうことにより3次元構造をもつスズ-銅合金導電性負極シートを作製することができた。リチウム充放電特性については現時点では優れた特性が得られていない。しかしながら、テンプレートの材料や活物質層の厚さの最適化により改善が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にスズ系合金材料で従来の黒鉛電極の3倍程度の容量を持つ高容量な材料とサイクル特性に優れた電極構造体をめっき法を用いて大量にかつ低コストで製造できる技術を開発し、目標達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、不織布のみならず他のポリマーの表面改質法へと展開が可能である。リチウム電池の高性能化ならびに今後環境負荷物質フリーのエッチング技術として技術移転の可能性が十分ある。今後は、特許の出願と産学連携による実用化研究の促進が期待される。
Yb-ファイバーレーザーによるセラミックス上への導電パターン直接書込み 地方独立行政法人大阪市立工業研究所
木戸博康
絶縁性の酸化物セラミックス基板上にYb-ファイバーレーザーを走査するだけで、配線金属材料を使用せずに導電パターンを形成できる技術を開発する。従来の導電パターン作製技術に比べ極めて省エネルギー・省資源的なプロセスであり、導電回路作製の他、電子部品の作製などにも応用可能である。これまでに、ZnOやTiO2などでは、Yb-ファイバーレーザー照射により、電気抵抗率が大きく減少することを明らかにしたが、改質部の電気抵抗率は0.1~1Ωcm台であり、さらに低減する必要がある。本研究ではこの問題点を解決するため、TiO2を対象にし、レーザー照射条件の詳細な検討を行い、電気抵抗率を約2桁減少させる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標であった1×10-2Ωcmにほぼ匹敵する電気抵抗率を示す改質表面の形成に成功している。Yb-ファイバーレーザー照射のみによってこのような改質を行えることは、従来のフォトリソグラフィやリフトオフ法等によるパターニングに比べて利便性や汎用性の点で大変優れており評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の開発計画として還元雰囲気中でのレーザー処理により、さらなる低抵抗化が検討されている。今後は、これまでの研究成果を特許として権利化を行い、産学連携の枠組みにより実用化研究の展開につながることが期待される。
Mg基長周期積層構造組織の生成機構 関西学院大学
西谷滋人
関西学院大学
山本泰
長周期積層構造(LPSO)型Mg合金の開発ツールとなる、添加元素量/熱処理条件の最適化、高価な希土類元素の代替元素探索のための第一原理計算によるシミュレーション技術及びモンテカルロシミュレーション技術の確立を検討した。
その結果、既開発の第一原理計算により核生成の活性化エネルギーを求める方法を活用し、平衡モンテカルロシミュレーションの原理に基づいた新たな組織生成シミュレーション手法を独自に確立できた。また、Mg-Zn-Y系を対象に、溶質原子ペアの配置周期よるエネルギーの依存性の検討を行い、6周期で規則化した場合がもっとも安定であり、溶質元素ペアの周期的な規則化が長周期積層構造生成を支配する機構を解明できた。今後、確立した手法を用い、より安定なMg-Al-Gd系や他の積層周期を示す合金系においてこの仮説は検証する計画である。また、将来的には、高価な希土類に代替する元素の探索も行う予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。軽量を特徴とするマグネシウム合金はいろいろな分野で使われ始めている。本研究はマグネシウム合金の問題点がどこにあり、それを解決するためにはどのような元素を添加すれば良いかというシミュレーション技術を開発することであり、研究開発成果としてシミュレーションの結果が示されていることは実用化に向けた探索研究の成果として評価できる。技術移転観点からはこれまでの研究成果を特許化することを検討することが望ましい。今後、産学連携を視野に入れて更なる技術的検討やデータの積み上げをすることで実用化が近づくものと期待できる。
高温系潜熱輸送スラリーの長期的利用技術の研究 神戸大学
鈴木洋
神戸大学
大内権一郎
本研究は暖房用途に利用され、熱輸送に画期的省エネルギー化を実現する高温系潜熱輸送スラリー(無機水和物スラリー)の長期的利用に関する問題点である、相分離問題、腐食問題およびファウリング問題について実験的に検討する。無機水和物は潜熱量が大きく、潜熱輸送媒体として期待されているが、高温で溶解度が高く、多量の無機塩を溶解させる必要があり、そのため常温での流動性が著しく低下する。申請者は無機塩が溶解しない液体と水との混合溶媒を利用することで、高温での溶解度を低下させ、常温でも流動性を維持する手法を考案した。ここでは本システムの技術移転をめざして長期的利用を行う場合の上記3つの問題に関する対策を検討する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初設定した3課題については目標を達成したと評価できる。成果に基づいて技術移転につながる産学協同の研究会が設立されたたことも評価できる。基盤研究段階での課題は克服され、今後は実用化フェーズに向けた大型試験研究の実施に移行することが期待できる。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けた研究会が設置され、ここで実用化フェーズの研究が計画されており、技術移転される可能性が高まったと判断できる。今後は、特許を取得するとともに産学協同で研究開発を進めることで、暖房に使用される熱輸送プロセスの省エネルギー化に貢献することが期待できる。
ネットワーク解析を基礎としたプロセス強化手法による炭酸ガス低減触媒プロセスの開発 神戸大学
西山覚
神戸大学支援合同会社
河口範夫
劣化を組み込んだ反応速度モデル式に関しては、炭素質蓄積速度のメタンおよびCO2分圧依存性を測定し構築を試みた。炭素質蓄積速度は、メタン分圧について、ほぼ2次、CO2分圧に-0.5次を示し、炭素質前駆物質の融合過程が律速段階である可能性が示唆された。最終的なモデル式構築には、さらに詳細なデータを取得する必要がある。メタン雰囲気中からCO2雰囲気にステップ的に切り替えたときの炭素質蓄積に対する応答実験を行った。その結果、メタンおよびCO2を分圧および分圧比を変動させることで、炭素質蓄積過程を制御できる可能性が示唆された。最終的な複合速度式を得るに至っていないが、継続して検討することで、触媒表面の各種吸着種(炭素質を含む)濃度を見積もることが可能になり、反応シミュレーションに耐えうる式が構築できると期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。Ni/Al触媒の劣化要因を組み入れたメタンのドライリフォーミングのモデル式の構築と周期的変動操作で触媒の劣化低減をはかる触媒反応プロセスの創生が目標であり、触媒への炭素質蓄積速度の測定およびCOによる炭素質の酸化除去の測定が実施されているがモデル式の構築には至っていない。触媒に蓄積した炭素質がCO導入で減少する知見を得ており評価できる。本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携を視野に入れてデータ蓄積をすることで実用化が近づくものと期待できる。
ニッケルアレルギー対策用スズ-鉄合金めっき皮膜の作製 兵庫県立工業技術センター
園田司
兵庫県立工業技術センター
富田友樹
これまで報告されていなかったピロリン酸浴からの光沢スズ-鉄合金めっき皮膜の作製について検討した。めっき皮膜の外観に及ぼす錯化剤および添加剤の影響を検討し、鉄含有量約19%の平滑なスズ-鉄合金めっき皮膜の得られる浴組成を見出した。ニッケルめっき皮膜に匹敵する耐食性および機械的特性を目標としており、0.1N硫酸水溶液中において、スズ-鉄合金めっき皮膜のアノード分極測定を行ったところ、従来から使用されている光沢ニッケルめっき皮膜よりも耐食性に優れており、目標を達成した。当該めっき皮膜のエリクセン高さは、目標を達成したが、硬さについては、平滑で厚いめっき皮膜の作製が困難なため、評価できなかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に無機酸を錯化剤としたスズ-鉄合金めっき浴を作製し、光沢めっき外観の得られる浴組成を最適化することを目標に、めっき皮膜の耐食性評価、皮膜の延性等についても調べており、目標が達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ニッケルアレルギ-対策用スズ-鉄合金めっきプロセスの技術を企業に対して情報発信しているが、特許化を進めることが望ましい。スズ-鉄合金めっき皮膜は、安価で環境にやさしいめっき皮膜であるため、社会貢献が十分に期待できる。今後は産学連携を密にして実用化に向けた研究の促進が期待される。
コート膜に分相を誘起した有機無機ナノハイブリッド体による高硬度、高柔軟性、高密着性ハードコートの開発 兵庫県立大学
矢澤哲夫
兵庫県立大学
松井康明
当該研究開発のコンセプトは、コート膜表面側に硬度の高いシリカネットワーク相、プラスチックス基板側に有機高分子相が傾斜的に分相された構造を形成することにより、プラスチック基板に特段の処理を施すことなく、一液コートによって、コート膜の硬度、柔軟性、プラスチックス基板への密着性に優れたコート膜を得ることである。密着性、柔軟性については、プラスチック基板とのπ電子相互作用に基づく分相によって目標値を達成できた。硬度については、第三成分のアルコキシドの添加によって目標とする鉛筆硬度4H以上が達成できた。今後は、密着性と硬度を目標レベルまで両立させたコート膜の開発を進めていく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。プラスチックのハードコート技術は様々な産業分野で必要とされている。本研究は、フェニル基のπ結合を利用して密着性・柔軟性の問題を、また傾斜組成によって表面硬度と柔軟性の問題を解決しようとするもので、アイデアには新規性がある。表面硬度・鉛筆硬度試験4H以上、密着性・テープ剥離試験100%、柔軟性・3R以下(基板厚み200μm程度)の当初目標に対し、硬度、密着性、柔軟性を総合的に達成するには至らなかったが、フェニル基のπ結合を利用して密着性・柔軟性の問題を解決し、傾斜組成によって表面硬度と柔軟性の矛盾を解決しようとするアイデアは評価でき、今後の研究に期待したい。
超軽量マグネシウム合金の角筒多段深絞りによる冷間加工性の評価 兵庫県立大学
原田泰典
兵庫県立大学
上月秀徳
本研究では室温で比較的延性を示すマグネシウム合金に注目し、温間加工においても成形の厳しいとされる角筒多段深絞り加工を室温で行った。おもに容器破断を防ぐための加工条件を調べることを目標とした。まず、室温において第1段目の深絞り加工を行い、成形性に及ぼす金型形状の影響について調べた。その結果、パンチやダイにおける肩半径やパンチ金型間のクリアランスを変化させることで、良好な成形が可能である加工条件が得られた。つぎに、第1段目の結果に基づき、第2段目以降の多段深絞り加工を室温で行った。その結果、容器破断を防ぐための加工条件が得られ、また6段の加工で目標寸法の角筒容器が得られ、研究開発目標が達成できた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に超軽量材料のマグネシウム合金の板材をインゴットから圧延して製造し、冷間で角筒の多段深絞り成形が可能になることを確認しており、実用化に向けた探索研究の成果としては大いに評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は企業との産学連携による共同研究開発が計画されている。市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで技術移転につながる可能性がより高くなるものと期待できる。
過剰酸素が高速イオン伝導を担うアパタイト系材料の特性制御 兵庫県立大学
嶺重温
兵庫県立大学
上田澄広
本課題では、酸化物イオン伝導性のあるオキシアパタイト型酸化物、ランタンシリケート(LSO)に焦点をあて、燃料電池応用を可能とするための組成制御を行った。1)元素置換固溶と、2)粒界への元素添加の二つのアプローチから研究開発を実施し、LSOのLa:Si比10:6とLa過剰組成とし、Siサイトの3.3%をAlに置換した試料が最適であることが分かった。さらにこの組成に、固体電解質では通常は好まれない遷移金属元素、鉄を極微量添加した試料が、伝導特性、化学的安定性に優れた、実用組成であることを明らかとした。今後は、この電解質に最適な電極材料を開発することにより、高性能燃料電池が開発されるものと期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究は燃料電池用電解質材料として期待されるランタンシリケート材料に焦点を当て、Al添加、Fe添加により材料特性の改善を行っている。特に材料安定性の面で大幅な改善が行われており、実用化に向けた探査研究の成果としては大いに評価できる。次のステップとして電極材料探索が明示されている。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。燃料電池の電解質として応用が進めと社会的インパクトは大きい。今後は、産学連携の枠組みの中で実用化につながることが十分期待できる。
プロトンの触媒還元電流を利用した高感度DNA計測 兵庫県立大学
安川智之
兵庫県立大学
八束充保
本研究は、特定の塩基配列を有するDNAを、DNAにシグナル変換分子を修飾することなく、固相表面にDNAを固定化することなく、極めて簡便に高感度で計測する手法の開発を目標としている。ターゲットとするDNAの存在する溶液中にプローブとなる相補的配列を持つDNAと2本鎖DNAにインターカレートする白金錯体を混合しプロトンの触媒還元電流を利用して計測する。ターゲットDNAが存在するとプローブDNAと相補的な2本鎖を形成し、白金錯体のインターカレートによる溶液中のフリーの白金錯体が減少する。よって、電極表面に触媒活性を有する白金粒子の析出が抑制され、プロトンの触媒還元電流が減少した。この原理に基づき、0.25μMのDNAを極めて簡便に計測することができた。今後は、高感度化と迅速化を目標に、電極材料の検討、化学的シグナル増幅法の開発を継続する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の目標が達成されており、探索研究としては十分な成果が得られらものと評価できる。技術的課題として白金の還元析出の問題と再現性があり、実用化する上では課題解決が必要と思われる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化し、産学連携による共同研究開発を進めることが望まれる。研究開発の成果としては医療分野等への貢献が期待できる。今後は、企業と連携を図り、市場調査を進めt\るとともに電極材料の開発等を実施することで実用化がより加速されるものと期待できる。
アミン硬化エポキシ系ナノアロイによる強靭複合材マトリックス樹脂 兵庫県立大学
岸肇
兵庫県立大学
八束充保
エポキシ/ブロック共重合体ポリマーアロイ樹脂について、ブロック共重合体への官能基付与を行うことにより、アミン硬化系においても50nm以下のサイズの相構造形成を実現した。また、このナノ相構造形成とベースエポキシ樹脂の塑性変形能力向上手法を組み合わせることにより、ポリマーアロイ樹脂の著しい破壊靭性向上に成功した(1220J/m2)。この靭性値は一般のエポキシ樹脂の約12倍に相当する。但し本FSスタディの目標値2000J/m2対比では未だ61%の現状にある。ベース樹脂の塑性変形能力はエポキシモノマー分子量(架橋点間分子量)の増加により向上し、ナノ相構造形成との組み合わせによりアロイ樹脂は強靭化した。粘度・プロセス性や耐熱性とのバランスを考慮に入れ、実用的樹脂組成を見出すことが今後の産学連携研究課題となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本研究は軽量かつ高強度・高靱性な新規複合材料開発の基礎になるものであり、成果は輸送分野の軽量化をもたらす技術として期待される。目標設定は高く一部の目標は未達成であるが、改善する方向は明確に把握できており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携による共同研究開発の中で具体的な研究開発計画を立案して展開することで、技術移転につながることが期待される。
金ナノ粒子のフォトサーマル効果を利用したDNA増幅と解析技術の開発 兵庫県立大学
高田忠雄
兵庫県立大学
八束充保
金ナノ粒子は光を吸収して表面に熱を生じるフォトサーマル効果を示すことが知られている。本研究では、このフォトサーマル効果を利用して金ナノ粒子表面の温度制御を行い、表面に固定したDNAの変性・解離・DNA鎖交換を光照射によって制御する方法を確立するとともに、ポリメラーゼ伸長反応を組み合わせることでDNAの増幅および遺伝子解析を試みた。光照射による温度制御を使うことで、DNA増幅を行う上で必要な温度変化サイクルに要する時間を大幅に短縮できると期待できる。さらに、DNA増幅に伴う金ナノ粒子の凝集や照射光を励起光として用いた発光検出を組み合わせることで、光照射によるターゲットDNA増幅と検出を同時に行う遺伝子解析技術の開発について検討した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に金ナノ粒子のフォトサーマル効果を利用してDNAの増幅を実現するための要素研究として当該効果を利用したDNA鎖の交換反応が検討され、光照射によって交換反応が促進されることが確認されていることは実用化に向けた探査研究としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、今までの研究成果を特許化するとともに残された課題を明確にして具体的な研究開発計画を検討することが望ましい。今後は、市場調査等を行い、基礎研究から応用研究に向けて産学連携を実施して実用化につながることを期待する。
高い放射性物質吸着特性を有する新規無機イオン交換体の開発 兵庫県立大学
西岡洋
兵庫県立大学
八束充保
本研究の目標は、拡散する放射性物質、特に半減期の長いセシウム137やストロンチウム90を環境中から高速かつ高効率で除去するための吸着材となる無機イオン交換体を安価な原料から開発することである。開発はほぼ完了し、新規吸着材として特許出願済み(兵庫県とフジライト工業㈱の共同出願、出願番号:特願2011-239290)である。10ppmのセシウムやストロンチウムの水溶液を用いた吸着実験では10分程度でほぼ100%の除去が可能であった。人工海水を使用した実験では吸着率が低下したものの、セシウムについては天然ゼオライトの1/10の時間で70%以上の吸着率を示した。目標は概ね達成したと考えられる。今後の展開としては、スラリー化した吸着材による土壌の洗浄を想定している。南相馬市で予備実験した結果では、簡単な操作で57%程度のセシウムを除去できたため、土壌洗浄剤としての応用開発も目指している。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に本研究により、浄水発生土、牡蠣殻、廃棄ガラスを原料として、CsイオンとSrイオン吸着材の合成試験を行い、吸着速度、吸着量、及び、吸着性に関する目標値を達成したことは大きな成果である。既に特許も出願されている。技術移転の観点からは、今後の技術的課題も明確になっており、研究開発計画も具体的に検討されている。今後は、産学連携による共同研究開発を進め、市場調査やコスト比較等を行い、本技術の優位性を明確にすることが望まれる。実用化研究が社会貢献につながることが大いに期待される。
新規超格子構造による表面プラズモン共鳴現象の創出と光CPUへの展開 奈良工業高等専門学校
平井誠
奈良工業高等専門学校
芳野公明
本研究ではUBMS装置を用いて準安定な遷移金属酸窒化物薄膜の作製技術を確立し、それら誘電率の組成に対する依存性を明確にする。NaCl構造を有するCr-N-O薄膜においては、酸素含有量xが0 at. %の時に基板に対して垂直なz軸方向に格子が伸びており、xの上昇に従ってその格子歪みが増大したのはヤーン・テラー効果による。Cr-N-O薄膜を金属電極で挟んだコンデンサーでは、静電容量が酸素含有量の増加に従って10-6 Fから10-4 Fまで変化したことから誘電率を制御できていると言える。この他にもCrの一部分をAlで置換固溶したので、今後は全組成に対する誘電率の変化の幅を調査し、遷移金属酸窒化物媒質中に半金属超微粒子を分散させ光学特性を明らかにする。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。UBMS法で硬度が高いCr-Al-N-O薄膜が堆積できることを明確にしたことは評価できる。一方、この成果を基に超格子構造を形成し、表面プラズモン共鳴現象創出と光CPUへ展開する課題には、ほど遠い。今後は、遷移金属酸化窒化物膜のコーティング材料としての分野での産学共同研究への発展が期待される。
DMFC用新規機能性を有するST-type Core-Shell アノード触媒の開発 奈良工業高等専門学校
山田裕久
奈良工業高等専門学校
芳野公明
DMFC用アノード触媒として、高いメタノール酸化活性と高CO被毒耐性を有し、かつ長寿命を兼ね備えた新しい機能性触媒の開発を目的として、Pt ML/Au/ Ti1-xNbxO2触媒の合成を試み、その電気化学特性について評価した。その結果、電気伝導性を有するPt ML/Au/Ti1-xNbxO2触媒を調製することができた。メタノール酸化反応において本触媒には、市販PtRu(1:1)/C触媒の約1.8倍程度の質量活性があることがわかった。また、加速劣化試験後もメタノール酸化活性を維持しており、高い耐久性を有することが確認された。今後の展開として、本研究で得られた結果より明らかとなった触媒設計および評価法の問題点を改善し、学術誌や学会を通じて本成果を広めていく予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。DMFCへの応用が目標であり、調製した触媒の性能は目標値には至っていないが、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。研究成果及び次のステップにおける技術課題は明確化されており、実用化につながるデータの積み上げが期待できる。今後は、産学連携による共同研究開発を進め、その中で市場調査及び競合技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確化することで実用化が期待できる。
高親和性と認識特異性を有する水銀イオン選択的蛍光プローブ分子の設計 奈良女子大学
三方裕司
奈良女子大学
藤野千代
本年度は、昨年度開発したHg2+センサーであるL2において見られた、Cr3+やFe3+に対する蛍光応答を抑えることと、化合物の水溶性およびppbオーダーの検出感度の実現を目標とした。クマリン誘導体L7を合成し、水溶性を達成することができたが、分解反応が見られたため、測定には有機溶媒との混合系を用いた。L7の蛍光はHg2+の存在下で大きく消光し、Cr3+やFe3+に対する応答はほとんど見られなかったが、銅イオンに対する応答が見られた。L7はHg2+と同属であるZn2+およびCd2+に対しては全く応答しなかった。すなわち、 L7と L2を組み合わせて使用することによる、水銀イオンの特異的な検出系が構築できた。Hg2+に対する感度は数十から数百ppbであると見積もられた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究は微量有害金属イオンの高選択的検出試薬の開発であり、従来のキノリン部位をもつアミン誘導体から蛍光性の増大を期待しクマリンの導入および架橋鎖にチオエーテルを導入し親和性及び選択性の向上を目指したものである。特にHg2+に着目し従来識別が困難であったCr3+、Fe3+に対しても選択性が向上しており優れた蛍光センサーの開発に成功している。一方で当初目的であったチオエーテル誘導体の合成には至っていない。論文発表は行われており、特許の出願も望まれる。今後、産学連携により、当初目的の水銀選択的センサーの実現が期待される。
ICTグリーン化を目指した、フォトニック結晶導波路と量子ドットの融合による超低消費エネルギー、超高速光スイッチの開発 和歌山大学
尾崎信彦
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
本研究は、半導体ナノ材料である量子ドット(QD)およびフォトニック結晶(PC)を用いた、高速かつ低消費エネルギーの光スイッチ素子開発を目指した。InAs-QDを埋め込んだGaAs薄膜内に2次元PC導波路の構造設計と作製を行い、作製したPC/QD導波路の光学評価を行った。その結果、PC導波路モードによるパーセル効果のためにQDの発光が増強され、この発光増強波長がPCの格子定数変化により制御できることが確認できた。これは、PC導波路モードの低群速度領域波長と、QDの発光波長との共鳴によってキャリア緩和が促進されたことを示しており、我々が提案する高速光スイッチ実現の可能性を支持する結果が得られた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に量子ドットとフォトニック結晶用いた高速・低消費エネルギー光スイッチの開発を行うという研究課題において、当初の数値目標である「高繰り返し位相シフト動作」「低消費エネルギー動作」は未達成であるものの、量子ドットを含むフォトニック結晶導波路の作製を行い、その特性測定から所望の光スイッチの可能性を見出している点は評価できる。今後の研究計画についても、記述されている。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携による共同研究開発によって実用化につながることを期待する。
ガスタービン翼材料として実用化を目指したAl2O3/SmAlO3二元系MGC材料組織の微細化技術の開発 島根大学
和久芳春
島根大学
丹生晃隆
現在のガスタービンの入り口温度は1500-1600℃であり、この温度域において耐熱性を有する材料は唯一MGC材料だけであり無冷却構造タービン翼実現の可能性がある。MGC材料は新しい組織構造を有するため従来の高温構造材料には見られない画期的な 耐熱性を示す他、組織を微細にすると常温強度と高温強度がともに向上するなどユニークな性質を持っている。Al2O3/SmAlO3系セラミックスにおいて組織を微細にすることにより、1600℃で高い曲げ強度を持ち、1600℃大気中で粒成長および重量増減の全くない材料を開発した。この材料の室温破壊靱性値はSi3N4と同程度な値を持ち、タービン翼への応用の可能性が広がった。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。MGC材料は、破壊靭性が弱いことが課題であったが、1600℃における曲げ強度715MpPaを達成し、且つ1600℃大気中で粒成長および重量増減が全くない材料を開発できたことは実用化に向けた探索研究の成果としては大いに評価できる。組織微細化技術の開発及び高温特性の評価を進めることで技術移転が期待できる。今後、産学連携による共同研究開発の中で、市場調査及び競合が予想される他技術との比較や低コスト化を進めることで本技術の優位性が明確化し、実用性が加速されるものと期待できる。
ミリ波-HIP複合焼結による完全緻密セラミックスの作製 岡山大学
岸本昭
岡山大学
薦田哲男
ミリ波焼結を一次焼結に用い、これに引き続く熱間静水圧加圧処理(HIP)と組み合わせることにより、気孔を排除した完全緻密セラミックスの作製を試みる。ミリ波照射による内部加熱、事後HIP圧力による緻密化といった利点を生かし、それぞれ単独や他の手法との組み合わせに比べ、特性を維持もしくは向上させつつ生産性の向上を図る。ミリ波加熱、HIP処理ともに圧力伝達媒体(加圧ロッド)を必要とせず、不純物の混入を抑えるためにも有効である。得られた完全緻密セラミックスは欠陥や不純物が排除されており、これらに敏感に影響を受ける光透過素子や放熱基板として特に有効であると考えられる 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった当初の目標は達成されており、探索研究としては評価できる。特に、LED照明基板としての技術転移の可能性は高まったものと期待が持てる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果をもとに特許出願することが望ましい。バイオセラミックスや医療分野への応用に関しても計画を検討することが望まれる。高密度化及び熱伝導率向上のためのミリ波焼成処理及び同様の目的のためのpost HIP処理等の作製プロセスに関してほぼ目標を達成できており、今後は複雑形状LED照明用の放熱基板応用を実用化の第一目標として産学連携により多くの成果が期待される。
室温で機能する高効率新規キセノン(Xe)吸着・分離剤の開発 岡山大学
黒田泰重
岡山大学
齋藤晃一
大気中に0.086 ppmしか存在しないXeは希少で高価なガスである。近年、Xeの利用は電球封入ガス、X線CTの造影剤、麻酔、半導体製造プロセス、イオンエンジンの燃料など多岐に渡り、確実にXeへのニーズが高まっている。Xeの工業的な調製手段としては、原料の液体酸素からXeを濃縮・精製する方法が用いられているが、液体酸素中にはXeの他にKr、Ar、炭化水素、フッ化物が共存するため、それらの中からXeのみを再分離する必要がある。分離コスト削減のために、多段階の濃縮・精製工程の簡素化が望まれている。本研究では、この問題点を克服可能なXe吸着剤を開発し、新規なXe濃縮・精製プロセスへの提供をめざした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。高効率新規Xe吸着・分離剤の開発の中で50KJ/mol以上の吸着熱を示す吸着量を10-15cm/g(研究開始前5cm)を目標とし、吸着量の増加に関しては、目標の達成に至っていないが、AgFER型ゼオライトを用いた場合、既知のAgMFIより増やすことを可能としており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、技術移転に向けて必要な性能を検討して、産学連携による共同研究開発を進めることが望まれる。
セシウムイオン吸着剤としてのチューブ状酸化チタンの可能性 岡山大学
黒田泰重
岡山大学
齋藤晃一
ゼオライトより高効率でイオンの吸着が可能である材料の開発は大変重要なテーマである。我々は、大きな比表面積をもつと共に高い光触媒活性を示すチューブ状構造を有する酸化チタンの調製に成功した。この試料は極めて高い酸特性 (イオン交換特性) も有しており、そのイオン交換特性はゼオライトに勝る。本課題では、このチューブ状酸化チタンの特異な性質を利用することにより、金属イオンの吸着剤や吸蔵材としての可能性検討への研究展開を図ることを目的とした。本研究結果を基に、セシウムイオンの吸着高効率化をめざしたゼオライトに代わる新規な金属イオン吸着剤としてのチューブ状酸化チタンの可能性を検討する。現在までに、セシウムイオン吸着特性を確認した。今後,さらなる高機能化をめざすと共に、イオン交換状態およびイオン交換サイトの状態解明をめざす。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アンモニア水を用いた水熱合成法で層間距離の大きなチューブ状TiOの合成法を確立しており、イオン交換性能を評価するまでは至っていないが、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。ゼオライトよりも高いイオン交換能を有するチューブ状TiOの合成法の開発は大変有意義であり、今後は産学連携を視野に入れた研究開発計画を立案し、技術的検討やデータの積み上げを行うことで実用化につながることが期待できる。
カーボン材料を担体とした亜酸化銅ナノ粒子の室温簡易合成 岡山大学
大久保貴広
岡山大学
齋藤晃一
本研究では、単層カーボンナノチューブを担体とした亜酸化銅ナノ粒子製造プロセスを発展させ、安価なカーボン材料を用いて亜酸化銅ナノ粒子を高収率で得るための材料開発を 行った。当該研究開発期間内で、カーボン材料を担体とした亜酸化銅ナノ粒子の生成には、(1) 亜酸化銅の前駆体としては酢酸銅が適当である (2) 亜酸化銅の生成プロセスでは担体のカーボンが光を吸収することで還元反応がおこる といった点が明らかとなった。引き続き他の銅前駆体が候補になる可能性やカーボンの表面状態の影響、或いは担体の除去方法について開発を進める予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初目標としていたCuOナノ粒子の生成メカニズムの解明を達成し、安価な材料を用いた検討がなされている。技術移転の観点からは、本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。CuOの単離やより良い原料の検討などの技術的課題も明確化されている。今後は、産学連携による共同研究開発の中でスケールアップ化、低コスト化が展開できることで十分に実用化されることが期待できる。
反応焼結法を利用した低コストAlN/Alヒートシンク材料の開発 広島県立総合技術研究所
坂村勝
Al粉末を出発材料として、表面に高熱伝導・高放熱特性を有するAlN、内部に機械加工が可能で、かつ、熱伝導性に優れるAlを有するAlN/Al系ヒートシンク材料の開発に取り組んだ。その結果、Al焼結体の密度を上昇させるためには液相の存在が不可欠であるものの、液相の存在によりAlと窒素の反応が阻害され、窒化は抑制される傾向にあることが分かった。また、Al粉末にMgとCuを複合添加し、窒素雰囲気で、ヒートパターンに工夫を施して焼結を行うことで、相対密度95.2%で、かつ、表面にAlNを含む膜を形成することができた。当該焼結体の熱伝導率を、本事業で自作した定常法熱伝導率測定装置で測定したところ、熱伝導率は約140W/m・Kに達した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究では、窒素雰囲気においてAl粉末の反応焼結によるAlN/Alヒートシンク材料の作製プロセスを調べ、特にAlN皮膜の形成およびAlの緻密化挙動に及ぼすCuやMg合金元素添加の影響を検討し、AlN皮膜の形成およびAlの緻密化についてCuやMg合金元素添加の影響や焼結条件を見出しており、今後の研究につながる方向性が得られている。技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化しすることが望ましい。産学連携を視野に入れて研究開発を展開することで実用化につながることが期待できる。
二酸化炭素を用いた太陽光応答触媒的ベンゼン-フェノール転換 広島大学
井出裕介
太陽光を利用したフェノールのベンゼンからの効率的かつエコな直接合成を目指し、CO2雰囲気下での水中ベンゼンの光酸化を様々な触媒を用いて行った。TiO2単体、金微粒子担持TiO2、鉄修飾TiO2による酸化をCO2分圧を変え調査したところ、CO2分圧120kPaの時、金微粒子担持TiO2上で選択率96%、収率11%でフェノールが得られた。CO2雰囲気下での反応は汎用的であり、シクロヘキサン選択的酸化など他の有用反応にも応用できた。酸化鉄担持TiO2によるシクロヘキサン酸化では、光照射時間、CO2分圧の最適化により、選択率100%、TON200にも及ぶシクロヘキサン、シクロヘキサノール合成に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に光酸化反応でのベンゼン/フェノールの選択性と反応速度の向上については選択性の目標を達成した。反応速度の向上については原因を解明し、反応基質をシクロヘキサンに変更することで、新たな技術移転の可能性を見出す事ができた。特許出願、論文発表、学会発表の成果もあり評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との共同研究としての取組みが具体的に計画されている。本技術は光酸化により従来の汎用化学品の製造を大きく改善するものであり、成果として社会還元が期待される。今後は、本成果を踏まえた企業と密に連携して技術移転に繋がることが期待される。
世界初パワーエレクトロニクス対応高温鉛フリーはんだ合金の開発 広島大学
松木一弘
広島大学
伊藤勇喜
欧州環境規制でさえ、高温用はんだ合金へは適用除外となっている。平成26年の規制実施に向け再見直しされるが、高温用無鉛はんだ開発に目途がない。電子パラメータの有効性に立脚し、材料のミクロ物性とマクロ特性相関を明らかにした、マルチスケールでの材料設計技術を確立するための指針をいくつか得た。実用合金(Pb-15Sn)の代替に、Zn基合金を取り上げ、パワーエレクトロニクス対応とした。具体的特性の目標は、533-633Kの固相線温度、5%以上の破断伸び、200MPa以上の引張強度、実用合金並みの濡れ性兼備とし、本グリーン材料を迅速、正確かつ低コストで開発することとした。電子パラメータを用いて合金設計指針を提唱し、破断伸びと引張強度の目標値を満足する合金数種を得た。これら合金を用いて、高温はんだとして具備すべき固相線温度や濡れ性の評価を行い、設計指針の高精度化に備えた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に不活性雰囲気での高温鉛フリーはんだ合金の開発において当初目標を達成しているとともに、本技術ははんだ合金を探索する上で有力な手法になり、データベースの構築にも寄与するものと評価できる。特許出願も実施済である。一方、技術移転の観点からは、家電電球への実装を考慮すると実装部分での課題の解決が望まれる。今後も、産学連携の中で市場調査及び他の技術と彼我比較して技術の優位性を確認するとともに、情報共有、技術共有を図りながら、候補合金の絞り込みを行うことで実用化に近づくものと期待できる。
マイクロアンカ接合による中間層レスコーテッド工具の開発 広島大学
加藤昌彦
広島大学
榧木高男
切削用工具においては、寿命をのばすために表面に硬質薄膜が成膜されることがある。一般に、硬質薄膜と基材との密着性は良くないので、多大なコストをかけて中間層が付与されている。本研究では、研究者らが新たに開発したナノワイヤによるアンカー効果を利用して、中間層レスコーテッド工具への適用を目指し研究を行った。種々の条件でワイヤを形成させた基材にSiC薄膜をスパッタコーティングし、薄膜の密着力を定量的に評価した。その結果、ナノワイヤ形成によりSiC薄膜の密着力は大幅に向上することがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に計画目標に据えた項目はすべて実施して成果を得ており、当初目標は達成された。これまでの研究成果をもとにした新規特許の出願も学内審査で出願が決定しており、評価できる。技術移転実現への残された課題を明確にし、課題の具体的な解決手段の検討が望まれる。一方、技術移転の観点からは、ナノワイヤの大面積化に対して具体的な検討計画を作成することで産学連携が展開できるものと期待できる。今後はナノワイヤ作成の大面積化や対象物の形状の影響などの課題を企業と連携して研究開発を展開することが望まれる。
水素を利用した高容量全固体二次電池の開発 広島大学
市川貴之
広島大学
榧木高男
次世代自動車として、EV(電気自動車)やプラグインハイブリッド自動車などのモーター駆動車両の躍進が予見される中で、高性能電池の開発が求められている。本研究では、原子重量の最も小さな水素を用いて、従来の固体高分子膜とは異なるセラミック材料系のプロトン(水素原子)伝導体の開発を目的とした。典型的なターゲットとして、水素化マグネシウムとリチウムボロハイドライドの複合体をプロトン伝導体として用い、正極として水素化ランタン負極としてランタンニッケル合金を用いて充電実験を行った。結果として、100℃とやや高温ではあるが、水素が固体中を拡散させることで、僅かではあるが充電反応が進行することを確認できた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも水素を固体中に拡散させても、充放電反応の進行が確認されており、実用化に向けた探索研究の成果として評価できる。一方、研究開発目標に掲げた「セラミック系水素貯蔵材料の固体電解質特性として、0.5~1S/cmを得る」については更なる研究が必要と思われ、今後の研究開発計画を具体的に検討することやこれまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後、産学連携を視野に入れて研究開発を展開する中で、技術的検討やデータの積み上げに期待する。
有機溶媒フリーな無機/ポリマー複合材料製造方法の最適化 広島大学
春木将司
広島大学
榧木高男
本研究は超臨界二酸化炭素を利用することによって有機溶媒を用いない無機/ポリマー複合材料作製法の最適化を図ることを目的とし、代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリイミド(Kaptonシート)ならびに代表的な導電性材料である銅の前駆体bis(2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato)copper(II) (Cu(thd)2)をモデル材料として研究を遂行した。まず、内部ヒーター付き高圧収着セルを作製し、ポリイミド中への金属錯体の収着実験を行ったが、本研究の実験条件(ポリマー温度60-250℃)ではKaptonシート内部への錯体の埋め込みは観察されず、錯体がKaptonシート表面上で凝集していることが確認された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究は超臨界状態にある二酸化炭素を用いて銅錯体とポリイミドの複合化を実現することを目的としているが、目標とする複合体は得られていない。複合化のための装置制作については目標を達成しており、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。本研究期間における成果を特許として権利化するとともに、次のステップへ進めるための技術的課題を整理し、具体的な研究開発計画を立案することが望まれる。今後、産学連携を視野に入れて、さらなるデータを積み上げることで実用化が近づくものと期待できる。
廃瓦粗骨材の内部養生による高性能鉄筋コンクリート部材の開発 広島大学
佐藤良一
広島大学
榧木高男
適度な吸水率と人工軽量骨材の半分程度の破砕値を有する廃瓦を内部養生効果を有するコンクリート用骨材と適用し、その内部養生効果により、高炉セメントB種を用いたコンクリートおよび鉄筋コンクリートの性能向上を図ることを目標とする。検討の結果、コンクリートの圧縮強度は、材齢3日以降乾燥暴露の条件下では、内部養生コンクリートの場合の検討要因は養生条件、廃瓦粗骨材、廃瓦細骨材の骨材種類で、置換率の水準は前者の場合容積置換率10%、20%、後者の場合12%、23%である。検討項目は強度、ヤング係数、破壊エネルギーである。これらについてはほぼ実施した。
今後は、廃瓦骨材の置換率を増大させて、強度、耐久性の観点から最適な置換率を検討するともに、鉄筋コンクリートはりのひび割れ抵抗性、ひび割れ幅、耐荷力を検討し、廃瓦による内部養生効果を明らかにする。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本来投棄されていた廃瓦をコンクリート用骨材の一部として用い、吸水量の大きい特性を利用してコンクリートの内部養生材と使用し、コンクリート構造物のひび割れを抑制する技術開発の中で、廃瓦が内部養生材の役割を果たすことを実証したことで当初目的を達成していおり、実用化に向けた探索研究の成果としては十分評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携により本技術の優位性を高めることで実用化につながることが期待できる。
解体コンクリート有効利用のための重金属分離技術 広島大学
河合研至
広島大学
榧木高男
本研究は、解体コンクリートの再生過程において発生する微粉処理の問題を解決すべく、微粉に吸着・含有される恐れのある重金属を微粉から分離・回収することによって、解体コンクリートの有効利用の促進を目指すものである。これを達成するため、微粉に含有される重金属の80%分離・回収を目標とし、研究期間を鑑みて重金属の対象は鉛に限定して研究を実施した。その結果、鉛が吸着したセメントペースト試料は、CaCl2・2H2O溶液中で鉛を脱着し、CaCl2・2H2O溶液濃度が35%~40%のとき、吸着量の70%を脱着することが明らかとなった。このことから、セメントに吸着した鉛の分離・回収が少なくとも70%までは可能であることを明らかとし、当初目標に近い結果を得ることができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に鉛については当初の目標値を達成されており、一定の成果が得られていると評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果をもとに特許化することが望ましい。また、産学連携による共同研究を進めることで実用化が進むものと期待できる。鉛を一例に研究を行っているが、今後は鉛以外の重金属の回収についても最適な手法を検討を進めることが望まれる。本研究課題が解決されることでの社会的な貢献は、極めて大きいものであり、実用化につながることが大いに期待される。
TiB2-Al3Ti複合材の実用化試験 宇部工業高等専門学校
吉田政司
宇部工業高等専門学校
黒木良明
二硼化チタン(TiB2)は、軽量で、高硬度、高耐食性を有する材料であるが、難焼結性であるため、緻密で高硬度な材料を作製することが困難であった。申請者は、Al3Tiを焼結助剤とすることによって、1000℃という極めて低い温度で、緻密で高硬度な焼結体を作製できることを見出した。本研究は、この新規な複合材について、作製条件を詳細に検討するとともに、得られた複合材の硬度、靭性、耐酸化性などの基礎特性を評価し、材料として実用化の可能性を探った。その結果Al3Tiの添加量、および温度条件を最適化することにより、ビッカース硬度2200Hv、曲げ強度800MPaの特性が得られ、高硬度、高強度材料として金型、工具等への実用化が可能であることがわかった。今後、高温での強度特性を評価することにより、耐熱材としての応用可能性を検討する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に二硼化チタン(TiB)は、難焼結性であるが、AlTiを焼結助剤とすることによって低い温度で緻密で高硬度な焼結体を作製できることを見出し、硬度1500Hv高硬度(ビッカース強度2200Hv)、高強度(曲げ強度700MPa)のTiB基焼結体が作製可能であることを明らかにしており、当初目標をほぼ達成していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願も実施されており、高温強度試験を行いタービンブレード等への実用可能性を具体的に検討することが望まれる。今後は、産学連携を視野に入れて実用化研究が展開されることが期待される。
軽元素窒化物を利用した高容量水素貯蔵材料の開発 山口大学
今村速夫
山口大学
松崎徳雄
軽元素から成る軽量で高容量な窒化物系水素貯蔵材料の開発を目指した。Ca窒化物では研究期間内での4Wt%達成は果たせていないが、Ca窒化物を活性炭上に高分散させた試料にするとCa当りの水素貯蔵量が増加することを見出したので今後の展開に繋げたい。この事実は、本研究の目標の一つでもある窒化物中での吸収水素の特定に関連して、吸収サイトとして窒化物と活性炭界面も重要であることを示唆している。また、他の貯蔵材料の探索については、新たにマグネシウム窒化物や窒化炭素の合成と貯蔵特性について検討し、窒化炭素についてはメラミンからの合成法を開発し453K、73.3kPaの条件で0.07wt%の水素貯蔵をみとめた。今後はさらに、これまでのCa、Mg、C系材料について調製法や条件を含めた材料探索を行う必要がある。 当初目標とした成果が得られていない。軽量で高容量化を期待したCa窒化物の有効水素貯蔵量の目標値4wt%に関しては、データが低すぎ、乖離が大きい。残念ながら、まだ基礎研究の域を出ていないものと判断される。研究の焦点も絞りきられておらず、目的のCa窒化物の検討が不十分と思われる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして、研究開発内容を再検討することが必要であると考える。
リポソーム懸濁気泡塔による炭酸カルシウム微粒子分散系の製造プロセス 山口大学
吉本誠
山口大学
森健太郎
本研究では、リポソーム内水相における安定な炭酸カルシウム微粒子の生成反応と気泡塔による反応の高効率化を目標とする。カルシウムイオンを安定に内包させたリポソーム懸濁液を調製して、二酸化炭素飽和溶液と接触させることにより、リポソーム内に直径100 nm前後の炭酸カルシウム粒子を生成させることに成功した。一方、炭酸ガスを通気した気泡塔では、pHの低下とリポソームからのカルシウムイオンの漏出などのため粒子生成が阻害される可能性が示された。リポソーム内での粒子生成という本質的に重要な点を含め、当初の目標の7割程度を達成した。今後の展開として、気泡塔内のpH、流動条件の最適化により、リポソーム内微粒子生成反応の高効率化を図る。 当初目標とした成果が得られていない。「リポソーム内水相へのCOの供給」「生成微粒子径の制御」「生成微粒子の濃縮・回収」に取り組んでおり、気泡塔に懸濁させた気液流動場ではうまく反応が進まなかったが静置した系での反応には成功しており、探索研究の成果としては一定程度評価できる。気泡塔内でリポソーム内のカルシウムイオンと供給された炭酸ガスが、安定に反応する条件が見出されれば大量合成の可能性も期待できる。これまでの研究成果の特許化を検討することが望ましい。今後は産学連携を視野に入れて、具体的な研究計画を策定することで実用化が近づくものと期待できる。
廃シリコンスラッジの前処理フリー新規再生技術の開発 山口大学
友野和哲
山口大学
森健太郎
シリコンインゴットの切削加工時に大量に発生する廃シリコンスラッジ(切削時の歩留りは50%)をリサイクルするための新規前処理プロセスの開発を目指した。本研究では、化学的手法であるブロモ化反応による廃シリコンのリサイクルに関して、不純物(砥粒、摩耗金属、クーラント)が与える影響を調査した。廃シリコンの不純物を段階的に処理し、ブロモ化反応を実施した。各工程で得られたサンプルの純度分析から、砥粒除去工程と酸処理(金属除去)は不要であると結論できる。これは、冶金学的手法の克服すべき課題である砥粒の問題点(SiCの高い融点とSiと比重が近いことから分離が困難)と酸処理の問題点(Siの酸化による酸素不純物の混入)を解決出来うる結果と考えられる。一方で、クーラントに関しては従来方法では完全除去は困難であり、真空加熱処理を行う必要が分かった。今後は、水系クーラントを含む廃シリコンに関して除去方法を検討し、最適な前処理方法を提案する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に廃シリコンスラッジの再生プロセスとしての反応性(HBr転換率)とトリブロモシラン選択率の向上を目指すと同時に化学的手法における前処理工程の簡略化を開発する課題において、金属や砥粒を添加することで反応性が向上することで目標値を達成すると共にそれらの除去工程が不要であることが明らかになり、当初の目標は達成されており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化し、今後は産学連携による実用化研究をすすめることで実用化が期待できる。
環境浄化触媒としての極細酸化銅チューブの可能性探索 山口大学
堤宏守
山口大学
林里織
電界紡糸法により調製した極細繊維を鋳型に用い、これに無電解めっきを施した後、鋳型繊維を除去することで、様々な内径、外径を有する極細酸化銅(CuO)チューブを調製した。この極細CuOチューブを用いて、その難分解性有機化合物の分解触媒としての可能性について検討を行った。難分解性有機化合物のモデル化合物として各種色素を用い、調製した極細CuOチューブを用いて過酸化水素共存下、難分解性有機化合物分解の触媒活性を、CuO粉末と比較した。その結果、極細CuOチューブは、CuO粉末よりも高い活性を示した。さらにモデル化合物に用いる有機色素の構造によっても分解速度が異なることが明らかとなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも十分な条件検討が行われていないが、極細酸化銅ナノチューブの製造技術に関しては評価できる。一方、記載されている4つの目標に関しては、それぞれの項目について、長期的な、細かな計画を作成し、実用化にに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要である。今後は、作成された計画に従い、実験を継続実施し、新たな知見を出すことが、次への展開につながることになると考える。今後の展開に期待する。
無機ピラーを挿入した可視光型層状ナノシート光触媒の開発 徳島大学
中川敬三
株式会社テクノネットワーク四国
辻本和敬
可視光型光触媒として期待できる薄片状層状ナノシート光触媒の構造安定化及び機能性向上を目指し、層状構造の層間に無機ピラーを挿入した層状ナノシートを開発した。無機ピラーを層間へ挿入した場合、2次元ナノシート構造の安定化が見られた。一方、可視光照射下における光触媒活性試験では、光触媒活性が向上する成果が得られた。これらの結果により今後光触媒材料の事業化へ向けた取り組みが加速されると共に、層状ナノシートの新規機能性の創出に繋がることから新たな応用展開が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に層状ナノシート光触媒に無機ピラーを導入することで、構造安定性が達成されたたことは実用化に向けた探索研究としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、光触媒以外の用途展開も期待できる。今後は、成果を特許化するとともに産学連携により光触媒や色素増感材料等への展開が期待される。
バナジウム・モリブデン・タングステンの非強酸・非毒劇物工程による選択的分離 徳島大学
薮谷智規
徳島大学
大井文香

これまでに、イミノジ酢酸キレート固相に吸着した30種類以上の金属から、ペルオキソ系試薬を通液することで、V, Mo, W, Nb,Taの5元素を選択的に抽出できることを明らかにした。さらに、現在非窒素・非強酸系溶媒(X)を用いてV, Mo, W間の単離のための実験を実施中である。(特許出願予定)また、金属回収法の1種で、共同沈殿法に着目し、対象金属であるV, Mo, Wを含む複数の金属を包含した水酸化物沈殿に対してペルオキソ系試薬を溶離液とした場合の金属溶離挙動の解析を行った。現在までに、タングステン、モリブデンなどが選択的に溶離することを確認している。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に非強酸で非毒劇系溶媒を溶離液としてキレート樹脂に吸着したタングステン,モリブデン,バナジウムが溶出すること、金属水酸化物を担体とする共沈において50 %以上の回収率でアンチモン,セレン,タングステンの回収ができたことは大いに評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許群化するとともに産学連携により実用化に向けてスケールアップすることが望まれる。この技術は、省資源の観点から見て社会に大きく還元できる可能性が十分あり、実用化が期待される。

金ナノ粒子を配列した透明基板へのレーザー照射による極限微細加工技術の開発 徳島大学
橋本修一
徳島大学
大塩誠二
ガラス基板上に直径40 nmの金ナノ粒子を担持させてそれにフェムト秒レーザーを照射することにより、金ナノ粒子と同じ位置、同じ形状にナノ孔を作製することに成功した。これは、従来のナノ秒レーザー照射では実現できなかったことである。そして規則的なリソグラフィーパターンに照射することによりガラス表面に数十ナノメートルスケールの規則的な凹凸パターンが作製できるようになった。また、レーザーエネルギー密度(フルエンス)を変化させることによってナノ孔のサイズ、深さを制御することも可能となった。高分子フィルムに金ナノ粒子を用いてナノメートルの貫通孔作製は実現できなかった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。金ナノパターンを作製したガラス基板表面にフェムト秒レーザーを照射し、ほぼパターンどおりの凹凸形成技術を確立した。さらに精度を向上させるためには、できる限り同一サイズのナノ構造を作製する必要はあるが、研究成果として評価できる。高分子フィルム材料にナノサイズの貫通孔を形成することができれば、高機能な電池材料等への応用展開が可能であり、今後の研究成果に期待したい。技術移転の観点からは、本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。将来性の高い研究テーマであり、産学連携により実用化につながることが期待される。
Al置換による高靭性・高磁束密度の高Si含有電磁鋼板の開発 香川大学
水口隆
香川大学
倉増敬三郎
電磁鋼板では、磁気特性の観点からFe-高Si合金の適用が期待されているが、脆化が問題となっており、靭性の改善が求められている。本研究開発では、ひずみ速度変化引張試験を用いて、SiとAl添加量の異なるFe-Si-Al合金についての靭性評価を行い、SiからAlへの置換を利用した高靭化とその機構解明を行った。Alの置換により脆性的な破壊から延性的な破壊へ破壊形態が遷移するひずみ速度が高ひずみ速度側へ移行し、Al置換を利用したFe-高Si合金の高靭化が達成された。また、この高靭化には転位セル組織の形成が密接に関連していることが明らかとなった。今後、高磁束密度と高靱性を併せ持つFe-Si-Al合金の開発および技術移転を目指すために、Al置換による磁気特性の研究を行っていきたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にターゲット材料の重要な特性をある程度達成しており、残された課題である特性、磁気特性(高い磁束密度)についても調査方法が検討され、次にステップへの技術的課題が明確であるていることは実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携による共同研究を進め、高靭性・高磁束密度の高Si含有電磁鋼板の開発が加速されて、実用化による社会還元につながることが期待される。
骨由来ヒドロキシアパタイト配合鉄筋腐食抑制コンクリート基材の開発 香川大学
掛川寿夫
香川大学
倉増敬三郎
家畜骨及び魚骨廃棄物から、強力な金属鉄からの鉄イオン溶出抑制作用及び金属イオン吸着作用を持つヒドロキシアパタイト(HAP)を製造し、HAP を配合した鉄筋腐食抑制機能を持つ新規コンクリート基材の開発を目指した。また、HAPの金属鉄腐食抑制機構を解明することを目的として、HAPの金属からの金属イオン溶出抑制作用及び金属イオン吸着作用の詳細な化学反応機構についても追求した。近年、鉄筋コンクリート構造物内の鉄筋腐食による耐久性低下が大きな問題となっているが、鉄筋腐食機能を有するコンクリート基材は、未だ開発されていない。家畜骨及び魚骨廃棄物の再資源化技術の開発は、高度な資源循環型社会の構築において非常に重要である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にHAP(ヒドロキシアパタイト)を配合した鉄筋腐食抑制機能を持つ新型コンクリート基材を開発するという目標において、高純度HAPを得るためには採取した骨から有機物を効率的に取り除くこと、香川県三豊市で実証実験中の廃棄物生物的処理施設を利用することや市との共同プロジェクトなどを検討しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として出願することが望ましい。今後は、産学連携を密にするjことで実用化が進むものと期待できる。
室温で染色が可能な、綿繊維の低エネルギー・低コスト染色法の開発 愛媛県産業技術研究所
中村健治
愛媛県産業技術研究所
石丸尚志
綿繊維中に水酸化アルミニウムを形成し、この水酸化アルミニウムに染料を吸着させることで染色する方法を開発した。この方法は、染料水溶液を加熱して染色する必要がないため、低エネルギー・低コストで実施できるのが利点である。
綿繊維中に水酸化アルミニウムを形成するために、綿繊維を飽和塩化アルミニウム水溶液に浸漬したのち、アルミニウムイオンを飽和させた水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した。この綿繊維を染料水溶液に浸漬したところ、染色が確認できたため、水酸化ナトリウム析出処理の有効性を確認できた。
水酸化アルミニウムを析出させた綿生地で、2013年の流行色(24色)を染色した。この結果、淡色においては元の色を正確に再現できたが、濃色においては元の色との誤差が大きかった。これは、濃色においては、綿生地への染料の吸着が不十分であったためと考えている。
また、実際の染色装置を利用して、今回の手法で綿糸を染色した結果、正常に染色できることを確認した。この染色プロセスでは熱エネルギーは使用しなかったため、この技術の実用化が期待できる。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に綿繊維中に吸着剤を合成することで綿繊維を室温で染色する方法として、環境負荷の低減、優れた色表現の実現、洗濯試験後の色落ち防止、既存の染色設備が使用等の目標を全てクリアされており、得られた成果は顕著である。一方、技術移転の観点からは、濃色の染色の場合、反応性染料に較べて色の濃さに差が出る傾向があるという課題を解決するとともに、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は企業との共同研究開発を促進し、技術移管を実施することが十分期待される。
高周波アンテナ材料に適した高飽和磁化磁性合金ナノ粒子の合成 愛媛大学
山室佐益
愛媛大学
亀岡啓
磁性金属ナノ粒子にNi被覆を施したり、Ni被覆後の熱処理を併用することにより、耐酸化特性を付与することを試みた。Ni被覆のための条件最適化について検討・試行した結果、既存のFeナノ粒子の表面のみにNiを選択的に付着させて被膜形成(厚さは1nm程度)するのに必要な反応条件の抽出ができた。また、このようにNi被覆されたFeナノ粒子はNi被覆なしの場合に比べ耐酸化性が顕著に向上していることが確認されるとともに、Ni被覆後にFeナノ粒子をNi被覆した反応溶液中でさらに200℃まで昇温してコアであるFe相と被覆したNi相との間での合金化を促進させることが、酸化特性のさらになる改善に有効であることが確認された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にFe-Co合金ナノ粒子の表面にNiを薄く被覆する技術を確立できており、Ni被覆によりFeの酸化が抑制されていることがTEM観察及び磁化測定により確認され、当初の目標は達成されたものと評価できる。技術移転につながる成果が得られており、新規特許出願も実施されている。さらに今後の課題もFeコア粒子のサイズ制御、Ni被覆の膜厚制御、Feコア/Ni被覆界面での合金化制御等で明確にされており、技術移転の観点からは、産学連携による実用化研究を展開することが望まれる。ナノ粒子の被覆技術は広い応用展開の可能性があり、社会還元が期待できる。
蒸発成分を含むアパタイト型単結晶の育成技術とその特性に関する研究 新居浜工業高等専門学校
中山享
高い酸化物イオン伝導性を示しc軸方向に伝導路を持つLa-Si-O系と同じくアパタイト型構造を有するLa-Ge-O系の単結晶育成を目標とした。La-Ge-O系は高温での蒸発成分GeO2を含むため、その単結晶育成に一般的な高温溶融状態を必要としない「焼結法による単結晶化」技術を用いて、La-Ge-O系単結晶育成実験に取り組んだところ1500℃付近でLa-Ge-O系単結晶育成に成功した。また、このLa-Ge-O系単結晶から得られた酸化物イオン伝導性に関するデータから、La-Ge-O系の伝導機構を解明できた。これにより、La-Ge-O系セラミックスの伝導率向上手法が明らかになり、La-Si-O系セラミックスの1700℃の焼結温度に較べ1450℃焼結温度が低いLa-Ge-O系セラミックスを電解質に用いた600~700℃中温域SOFCの実用化へ向けた取り組みが展開できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも焼結法による単結晶育成を用いて、Cz法では困難なアパタイト型ランタンゲルマネートの単結晶を得たことは概ね期待通りの成果であり、これを電解質として用いたSOFCセルも作成しており、実用化に向けた探索研究の成果として評価できる。「600~700℃の温度域で0.1 S・cm-1 以下の酸化物イオン伝導性」という当初目標は今後の研究成果として期待したい。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は産学連携の中で他の競合材料との比較優位性は明らかにり、明確化された技術課題の解決を行うこおtで実用化が期待できる。
植物色素を用いた安価・高効率色素増感太陽電池の開発 九州工業大学
古川昌司
九州工業大学
山崎博範
植物色素を用いた色素増感太陽電池において、色素溶液のpH、色素溶液の溶媒を変化させるなどの吸着方法の工夫、色素を吸着させる酸化物半導体膜、電解質溶液などの変更、及びタンデム型構造の作製などにより、変換効率の12倍の増加を目標とした。色素の吸着方法については、色素溶媒を変更するなどの方法を試み、酸化物半導体膜の作製においては、複数の酸化物半導体を種々組み合わせ、混合比を変化させることを試みた。電解質溶液については、ヨウ素とヨウ化リチウムの混合比を種々変化させ、溶媒についても検討を行った。その結果、主に、色素を浸漬する場合に使用する溶媒を変化させることにより、本研究開発を実施する直前と比較して約2倍の変換効率が得られた。酸化物半導体膜の部分についても、多少の改善が見られた。タンデム型構造については、時間的な理由により、作製することが出来なかった。今後は、種々のパラメータを、さらに幅を広げ、変換効率の、さらなる向上を目指す予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも色素増感太陽電池の設計において、基礎的検討が進められ、技術的課題の洗い出しを実施していることは実用化に向けた探索研究の成果としてはあると程度評価できる。これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、残された課題の解決のために具体的な研究開発計画を立案し、変換効率や素子寿命の向上を進めることが期待される。また、産学連携を視野に入れてコストを含めて他の太陽電池と比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化につながるものと期待できる。
環境調和型薄膜コーティングによる超硬工具の長寿命化 九州工業大学
和泉亮
九州工業大学
山崎博範
現在、銅やSUS薄板などのプレス抜き金型のパンチ等の工具は、超硬合金が主流であり、耐摩耗性向上の為に超硬合金へのコートが一般的に行われている。硬質炭素膜(DLC)、硬質セラミック薄膜、等のコートが行われているが、価格が高く、装置も高価なものである。本課題では、安価で安全な手法と原料を用いた、シリコン炭窒化膜(SiCN)コートを行い、超硬工具の長寿命化を実現するものである。SiCN膜堆積には環境に配慮した原料利用効率の高いHot-Wire CVD(HWCVD)を用いて、安価で非爆発原料であるヘキサメチルジシラザン(HMDS)を使用する。本課題により超硬工具の長寿命化の実現、価格の低減や資源保護が可能となる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも超硬合金へのSiCNコートティングにおいて、NH流量を固定し、HMDS流量を変化させたときの皮膜の組成及び硬度を調査し、適正なHMDS量を決定している。このSiCNコート超硬工具により、SUS板20万ショット打ち抜き実験を行い、工具損傷が全くないことを明らかにしている。当初目標には至ってはいないが実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。技術移転に向けて本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後、産学連携を視野に入れて残された課題を解決することで実用化が近づくものと期待できる。
多層膜コーティング技術を応用した構造色加飾顔料の開発 九州工業大学
安田敬
九州工業大学
堀田計之
光の干渉によって発色する多層構造のフレーク状顔料を独自技術で開発し、発色の鮮明化、製造工程における焼成温度の低減、及び耐熱性の実証を行った。発色については、青から緑までの波長領域において原色の発色に必要な鋭い反射スペクトルピークを得ることに成功した。また、作製時の焼成温度を110℃まで低減できた。さらに、発色を損なうことなく900℃まで使用可能なフレーク状顔料を実現した。得られたフレーク状顔料は、特徴ある干渉色を生じる意匠性顔料として幅広い分野への応用が期待される。一般的なラメ状顔料は高温用途には使用できないが、本フレーク状顔料により陶磁器やガラスにラメ状装飾を付与することも可能である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にTiO/SiO多層膜フレーク状構造色顔料の実用開発を目指し、目標である「鮮やかな3原色の発色」「製造温度の低温化」「700-900℃における耐熱性」が達成されており、技術移転につながる基礎的な研究成果は得られている。一方、技術移転の観点からは、これまでの成果で特許として権利化する必要はあるが、産学共同研究開発ステップに繋がる可能性は高まったといえる。材質の点から市販の構造色顔料と異なる分野での応用が期待されることから、実用化されれば社会還元に繋がることが期待される。今後は、赤色用多層膜の厚膜化技術や量産化の課題は反射色の輝度劣化や退色等の問題を解決することや産学連携による製造手法・膜質解析研究により実用化が期待される。
CNF複合材料を用いた製鋼用高強度耐火用最適CNFの低コスト調製研究 九州大学
尹聖昊
申請者らは、構造最適化したカーボンナノファイバー(CNF)をマグネシア表面に複合した CNF/MgO複合材を、既存のマグネシア耐火物へ0.1~6wt.%程度適切に分散配置し成形及び焼成することにより、耐火物の組織が強化され飛躍的な高強度化および低弾性率化が図られることを世界で初めて見出した。特に、複合対象の CNF は、ナノロッド単位が繊維軸に最適に配列している繊径が20 nm以下のチューブラーCNF(TCNF)であることが必須であり、その原因を解明すると共に目標に適したTCNFの低温大量合成法の開発研究が必須である。しかし、これまでのところ、メタンを原料として900℃以上で成長したTCNF(KNF003)を用いたTCNF/MgO複合材のみが6 wt.%未満の添加によって目標性能を発揮したものの、それ以外の、例えば700℃以下の低温でCOまたは炭化水素ガスを用いて製造したCNF/MgOでは逆に強度や靭性が低下してしまい、実用には供せない。そこで、本研究開発においては、最適な複合用CNFの低コストかつ大量製造可能な触媒と合成条件を明らかにし、熱衝撃に対して高靭性化されたCNF複合高強度耐火物の実用化のための基盤を構築することを目標とした。この研究成果により、耐火物の大幅な耐用性向上が期待され、鉄鋼業において大幅な生産性向上による省エネルギー化への貢献と膨大な利益が見込まれる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にTCNF/MgO複合材の技術開発に関しては実用化に向けた探索研究の成果としては大いに評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究成果をもとに特許出願も実施されている。企業との連携も密であることからコスト意識も入っており、実用化が十分に期待できる。今後は市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にして大量合成や強度評価を進めることで技術移転され、社会還元につながることが十分に期待できる。
中小規模発生源対策用VOC分解処理システムの開発 九州大学
永長久寛
九州大学
猿渡映子
本研究では、オゾン触媒酸化法を基盤とした低濃度VOC処理技術を開発し、実用化を目指しており、このためのキーテクノロジーである1) 触媒活性の向上、2) オゾン有効利用率の向上、3) 有害副生成物の抑制という3つの機能を有する触媒材料を開発した。Mn酸化物に他種の遷移金属を複合化した際の触媒特性の変化について検討を行い、Mn酸化物に遷移金属を複合化することによりCO選択率が低下すること、オゾンの有効利用率の向上にはMn酸化物のSiO2への担持が有効であること、MnOx/SiO2にCuを複合化することで、高いベンゼン酸化活性を示す触媒が得られることを明らかにした。これらは実用的なVOC処理システムを構築する上で重要な基礎的知見であり、今後触媒材料を最適化することにより高機能触媒を開発する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究の課題とされた「触媒活性の向上」「オゾン有効利用率の向上」「有害副生成物の抑制」について向上が認められ、実用化に向けた探索研究の成果としては十分に評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、産学連携の枠組みを築き、その中で市場調査及び競合が予想される他技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで、技術移転の可能性が向上するものと期待する。
バイオガス直接供給型燃料電池を可能にする流路付新規燃料極材料の開発 九州大学
白鳥祐介
九州大学
古川勝彦
本研究では、技術移転が可能な独自のSOFC作製プロセスを確立するとともに、燃料に空気添加を行う燃料組成制御からのアプローチにより、SOFCへのバイオガス直接供給時に、内部改質により発生する大きな温度勾配を抑制してバイオガス直接内部改質型SOFCの長時間安定作動を達成した。さらに、燃料極の構造制御による課題解決に取り組み、佐賀県窯業技術センターと共同で、新規燃料極を支持体とする新構造SOFC作製プロセスを確立した。SOFC可視化システムを用いた評価により、燃料極形状を工夫することで局所的に生じる内部改質反応を分散化できることを確認し、今後、さらなる安定性の向上が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に電解質膜のプロセス技術と劣化メカニズム解析、燃料極の流路形成、発電性能評価の3点を目標とし、全ての目標を達成しており、探索研究の成果として評価できる。技術移転の観点からは今後の展開として継続研究項目が記載されており技術的課題は明確である。研究の成果はカーボンニュートラルな高効率発電として社会貢献が期待される。本研究で提案のバイオガスの直接供給が可能となれば、一層の高効率化またシステムの低コスト化に貢献できる。研究成果を特許化して、産学連携により更な進展と成果に期待がかかる。
バイオマスを利用する可視光駆動型水素発生ハイブリッド触媒の開発 九州大学
嶌越恒
九州大学
山内恒
ビタミンB12モデル錯体と無機材料である酸化チタンを複合したハイブリッド材料を作製し、バイオマスを電子源とする光水素発生触媒の開発を行った。表面ゾル-ゲル法を用いた複合化法により、安定なハイブリッド触媒の合成に成功した。本触媒は電子源としてエチレンジアミン四酢酸塩(EDTA・2Na)やバイオマス由来の糖類を用いることで、紫外線照射下で水素発生を触媒することを見出した。また水素発生部位となる金属錯体として、天然由来のコリノイド錯体を選択することで、高い耐久性を示した。今後は、応答する光の長波長化と触媒のデバイス化を検討することで、実用化に向けた取り組みを鋭意検討する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもビタミンB12モデル錯体と酸化チタンを複合したハイブリッド材料を作製し、バイオマスを電子源とする光水素発生触媒の開発を行っている。このハイブリッド触媒はEDTA・2Naやバイオマス由来の糖類の存在下、紫外線照射下で水素発生を触媒することを見出しており評価できる。一方、人工光合成系光触媒として、可視光照射によりガリウム・タンタルを含む化合物半導体を用いて、水素発生の量子収率向上が望まれる。今後、他の研究者や企業との連携による共同研究を実施することで、量子収率が向上するものと期待される。
金属空気電池の二次電池化に向けた導電性酸化物空気極の開発 九州大学
湯浅雅賀
九州大学
山内恒
金属空気電池の二次電池化の実現のために、従来の電極材料であるカーボンの代替材料としてLaNiO3に着目し、LaNiO3粒子の微細化およびナノ構造制御により、充放電可能かつ高性能な空気極の開発を目指した。電流密度50mA/cm2における充電-放電間の電位差を、現状の0.8 Vから、0.5 V以内に縮小することを目的とした。平成24年度においては、平成23年度に引き続き更なるLaNiO3粒子の微細化について、メソポーラスシリカ内の細孔を反応場としたLaNiO3微粒子合成を利用して取り組んだ。その結果、昨年度の取り組みよりもさらに比表面積の大きなLaNiO3の合成に成功し、目標値(充電-放電間の電位差 0.5 V)の達成に前進することができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。多孔性テンプレートを用いるという提案手法によりナノ粒子化を目標とし、 メソポーラスシリカをテンプレートとするLaNiOナノ粒子合成手法の有効性が示されたことは一定の成果と評価できる。一方で比表面積やナノ集合構造制御という点では十分な改良に至ることができず、電池性能についても改善の余地がある。次ステップに進むには現在の系の問題の原因を明らかにする必要があり、問題点の把握と具体的解決策の確立が望まれる。今後、産学連携によりLaNiO空気極の性能向上を継続研究することで実用化が期待できる。
静電的防食を可能とする帯電化セメント系微粒子の創製 九州大学
高橋史武
九州大学
石盛英樹
セメントを分極固化させることにより、帯電化微粒子を創製することに成功した。印加昇温処理の最適条件を検討した結果、印加電圧が最も影響が大きな条件であり、15~25 Vであった。ただし、得られた電位差は1~12 mVであり、目標値(100 mV以上)以下であった。この最大の原因は水分解で発生した酸素、水素ガスがセメントと電極を物理的に剥離して印加効率を下げたためである。ただしこれは、電極の物理的振動による発生ガスの強制排除で解決できる課題と考えられる。電気泳動法による帯電化微粒子の分別回収は粒径依存性が大きく、粒径を75μm以下にすることが望まれることを見出した。電位差以外は当初の研究目標を概ね達成できたが、最大の目的である固化体の電位差(100 mV以上)については今後の検討点を残した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に帯電化セメント粒子の作成技術の開発に関して目標電位差(100mv以上)以外の条件は達成されており、実用化を目指した探索研究の成果としては十分に評価できる。目標電位差を達成できる分極固化条件の検討という課題も明確化している。一方、技術移転の観点からは、放射性セシウムイオンの移動抑制技術確立の可能性が高まり、放射性廃棄物保護コンクリートへの応用が社会還元効果を期待できる。今後、将来の放射性セシウムなど廃棄物処理コンクリートへの応用を考えれば、特許化を加速し、産学連携により技術移転を確実になるものと期待できる。
シリカナノコンポジットを用いた透明導電性ガラス材料の開発 九州大学
藤野茂
九州大学
坪内寛
従来、高価なシリカガラス基板へ導電膜の塗布、メッキ処理を施す等、導電性の付与が行われてきたが、ガラス基板との接合性不良、製造プロセスの複雑さおよび高コストが問題であった。本研究では、細孔径分布ならびに空隙率の異なるシリカナノ粒子/有機高分子ナノコンポジット(メソポーラス)材料を開発した。更に、メソポーラス構造を有する利点を利用して、導電性ペーストの細孔内へ浸透・反応機構を制御し、最適な焼結条件を見出すことで、密着性に優れ、導電性を付与した透明ガラスの開発に成功した。今後は連携企業と微細配線形成を印刷技術により行う予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標としていた透明シリカガラスへの導電性の付与ならびに接着強度の増大を達成しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許化するとともに市場調査及び他の技術との彼我比較を行い、波及効果と優位性を確認することが望まれる。今後は産学連携による研究開発を積極的に進めることによって実用化の加速が期待できる。この技術のさらなる高度化が進めればより広い範囲への応用に向けた展開が期待できる。
織物構造マイクロチューブラー型電気化学セルの開発 九州大学
松本広重
(財)九州先端科学技術研究所
山本竜広
極細チューブ状であり、織物構造により高い体積密度をもち、プロトン伝導性酸化物を用いて中温領域を作動温度とするマイクロチューブラー電気化学セルの研究開発を行うことを目的とし、セルのプロセッシング方法の検討および作動実証を目標として検討を行った。
織物構造とするためのセル前駆体には、(i)柔軟であること、かつ、(ii)焼成処理によりセル形状に脱脂・焼成できることが要件として求められたが、検討の結果、当初想定したバインダー(PVAc、PVBなど)ではどのように条件を調整しても、要件(ii)を満たせないことが判明した。そこで、バインダーの種類の探索を行った結果、ある種の樹脂をバインダーとして用いたときに、(ii)の要件を満たせることが判明した。バインダーの探索と検討に時間を費やしたため、電気化学セルの検討は行えなかったが、ここで得た知見を用いて電気化学セルの作成が可能であり、今後検討を行っていく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に既に特許化している「電気化学セル及びその製造法」を実施するためのマイクロチューブラーセルの簡便な製造法を検討されたものであり、応用目的が明確であることも含めて研究成果は大いに評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の計画についても研究結果を踏まえた計画がされており、内容も具体的に示されている。本研究の成果についても特許化することが望ましい。燃料電池の分野でこの研究成果は十分に社会還元されるものと期待できる。今後は、産学連携により実用化における抽出課題を解決し、高効率の電解セルの実現が期待される。
コンクリート用表面含浸材の応用技術の開発と用途拡大 福岡大学
櫨原弘貴
福岡大学
芳賀慶一郎
これまで適用が難しかったコンクリート構造物にコストパフォーマンスに優れるコンクリート用表面含浸工法を適用するための材料および技術開発を行った。その結果、当初の目標を達成することができ、 本材料および技術を実用化するための取り組みとして、実構造物に試験施工を行うまでに至った。本工法は、コンクリート構造物の維持管理が急務な課題となっているEU、アメリカ、アジア諸国などにも海外展開が可能であるため、その波及効果は大きなものになっていくと考えている。実際に本材料を波及するためには、今の材料をさらに効果の高いものに改良して効果を安定的にすること、その他に施工後の効果を確認するための非破壊検査手法を開発し、劣化予測を行うシステムを整える必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に試験結果に対する定量評価が未達成であるものの、それ以外については、暴露試験も含め十分な成果が得られている。特許出願の見込みや商活動に移行する事業準備体制等々も明確に示されており、探索研究としては十分な成果が得られたものと評価できる。一方、技術移転の観点からは、既存技術であるコンクリート表面に帖着させるシート工法技術等と彼我比較を行い、優位性を確認することが望ましい。更新時期を迎えているコンクリート構造物に対する喫緊の課題であるため、社会的還元性が高いと判断できる。今後は、研究成果を特許化するとともに産学連携を進めて確実に技術移転されることが期待される。
石膏型圧力鋳込みによる複雑形状セラミックス成形の実現 佐賀県窯業技術センター
蒲地伸明
財団法人佐賀県地域産業支援センター
安田誠二
本研究では、複数の鋳込口を利用しながらもスラリーの流路を自己判断機能を持った弁機能により制御し合流線のない成形体を得ることができる新しい圧力鋳込成形技術の確立を目指した。実験計画法により圧力鋳込み制御因子の成形体に与える影響を確認すると同時に本技術の有効性について確認した。さらに、弁機構の改良による耐久性の向上や作業性の改善を行った。結果、複数の鋳込み口を用いながらスラリーの合流線のない高密度化した成形体を得ることに成功し、本技術を実用化可能なレベルまで高めることが出来た。本技術により、従来技術では成形不可能であった複雑形状の成形体でも充填不足や合流線が発生することなく安価に成形することが可能となった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。研究計画に従ってきちんと実験が実施され、鋳込みの制御因子の抽出および弁機構の改良に至っている。特に弁機構の改良により、作業性・生産性を犠牲にすることなく複雑形状セラミックス成形を実現したことは実用上重要な成果であると評価できる。技術移転の観点からは、既出願特許はあるものの本研究期間に発生した成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、実用化に向けた具体的研究計画を立案し、産学連携による共同研究開発を積極的に展開することが望まれる。
アモルファスおよびナノコンポジット構造を有する低フリクション炭素系膜の開発 佐賀大学
長谷川裕之
佐賀大学
佐藤三郎
本課題では、放電プラズマ焼結法により作製した炭素と金属を含む焼結体を用いて、プラズマ環境下において炭素系膜を合成するともに、結合状態・微細構造・摺動試験・ぬれ性評価を実施した。焼結体作製では、試料は十分な密度を有しており、膜作製の原料となるターゲット材として適用することが可能となり、合成した膜試料においては、アモルファスおよびナノコンポジット構造を持つ炭素系膜が完成した。炭素系膜のダイヤモンド成分は、試作時の20%から50%程度まで増加し、摺動試験において摩擦係数と摩耗量が低減することを明らかにした。今後、技術課題として残されている膜の緻密性、密着性の改善、耐酸化性評価を進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アモルファスカーボン膜を堆積するための焼結体ターゲットの作製は目標を達成しており、シリコンまたはタングステンを含有するアモルファスカーボン膜が合成できているが、摩擦係数や硬さ、耐摩耗性の点で目標に達していない。金属添加膜の硬度や耐摩耗性が低いことを課題として示されており、実用化に向けた探索研究の成果としてはある程度評価できる。本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後は、提案手法の優位性を明確にすることで技術移転を目指した産学共同研究開発も可能と思われる。
ソリューションプラズマ法を用いる新規且つ低コストな貴金属ナノインク製造技術の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
松田直樹
(財)福岡県産業・科学技術振興財団
太田嘉孝
近年、電子部品用途用の貴金属ナノインクへの需要が高まりつつある。ソリューションプラズマ(SP)法は、1)必要設備は電源のみである、2)ナノ粒子の製造には電極材料(原料)と電気代だけが必要であり工業的に安価である、3)ウエット法等の他のプロセスに比べて化学薬品を省けるため地球に優しい製造方法である、という特徴を有している。本研究ではSP法を用いて貴金属ナノ粒子(NP)合成をおこない、更に遠心分離等を用いて貴金属NP分散水溶液を濃縮しナノインクを製造するものである。プラズマ条件を検討することで貴金属NPを大量に合成し、更にその水溶液の濃縮条件を検討することにより、新規且つ工業的に低コストの貴金属ナノインクの製造法を開発する事が目標である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は高まった。 ナノ粒子の粒径と濃度等を制御し、ナノインクの金属含有量が質量比で30%以上を達成するという目標は達成しており含有量48%という値を得ている。市販のナノインクと比べて同等以上の性能を実現するという目標は達成されていないが作製した薄膜が剥離しにくいという点は評価できる。得られたナノインクは種々の応用が可能と思われる。本研究期間における成果を特許として権利化することが望ましい。今後の研究成果に期待する。
液状微粒子を利用し作製した希土類系厚膜磁石の超小型モータへの応用 長崎大学
中野正基
本研究では、希土類系磁石であるNd-Fe-B系ターゲット表面にアーク放電を生じさせ、それより飛び出す「数ミクロン径の液状微粒子」を利用した高速成膜下での「Nd-Fe-B系厚膜磁石」の作製技術を用いる。その際、厚膜磁石の超小型モータへの搭載実現を目指し、磁気特性の改善を図る。 具体的には、「応用に際し最も重要な特性である(BH)max」の向上に対し、(1) 「成膜直後のアモルファス試料に施す熱処理の極短時間化ならびに第4元素の微量添加による粒成長の抑制」、(2)「液状微粒子の形態・微細構造への影響が期待されるアーク放電の条件制御(コンデンサー容量・印加電圧)」を試み、研究当初の目標値である10 MGOe程度の(BH)maxを有するNd-Fe-B系厚膜磁石を実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、モーター応用に重要な(BH)maxに関しては目標値を達成している。作製工程が簡便であり、低コスト化も期待でき、実用化に向けた探索研究の成果としては十分に評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。残された技術課題であるデバイス応用上重要な保j磁力、成膜速度を改善する必要があると思われる。今後は産学連携の枠組みの中で市場調査や他の技術との彼我比較を行い、技術の優位性を示すことで実用化につながるものと期待される。
アノード酸化法によるカーボン素材への金属微粒子修飾法の開発 熊本大学
冨永昌人
熊本大学
緒方智成
金属粒子修飾カーボン電極は、ナノ粒子触媒による広い反応面積の確保とカーボン素材による高導電性と触媒粒子の優れた担持性により、燃料電池などに広く利用される。本電極の従来の作製法では、カーボン素材への金属微粒子修飾後の後工程処理の必要性があった。また特に網目構造カーボンへの均一な微粒子修飾が困難であった。本課題により、アノード酸化法によりカーボン素材への均一な微粒子修飾を可能とした。特に、従来の手法では極めて困難であった、4-10nmの粒径が揃った金ナノ粒子の高密度修飾を達成できた。また、高密度・高分散金-銀合金ナノ粒子修飾炭素電極の作製も可能であった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に合金微粒子修飾の目標を概ね達成し、着実に目的に向かっている。アノード酸化印加電位の操作ではなく、時間制御で金属組成比率の制御を解決しており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。高性能が期待できる電極の作製技術が進展し、具体的な用途としても糖燃料電池やセンサーでの応用が期待できる。今後は、産学連携の枠組みを築き、共同開発研究を展開することで実用化につながつことが期待できる。
使用済みリモナイトによる排液処理法の開発 熊本大学
戸田敬
熊本大学
松本泰彦
熊本県阿蘇で大量に産出するリモナイトは脱硫剤として用いられている。本課題では、脱硫に使用後、廃材となった「硫化リモナイト」を用い、排液の処理に用いることを目標とした。今回は手始めに養豚場のし尿排水の脱色をターゲットとした。本法は、硫化リモナイトに過酸化水素が接触するとOHラジカルが発生し、有機物を分解することに基づいているが、従来のフェントン反応と異なり、効率よく継続的にOHラジカルの発生が可能であり、さらに廃材を有効利活用することができるという優位性を有している。
本研究においては、バッチ処理と連続カラム流通試験を行い、硫化リモナイトの剤の検討や、過酸化水素濃度の最適化と過酸化水素供給法の簡易化を行った。本流通カラム法により、排水の着色度を1/10以下にして連続して排出することが可能になった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に脱硫に用いて廃材となった硫化リモナイトにより、色素やし尿の処理に成功したことは評価できる。ビーカーレベルのバッチ処理ではMBで約10秒、し尿でも5分で分解でき、初期特性としては画期的な結果が得られている。オゾン処理に比べてもはるかに高い分解速度を示した技術に関しては高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、養豚場し尿は共存物が多く処理が難しいことが判明しており、研究成果を有効に生かせるニーズを調査することが望まれる。今後は、成果を特許化するとともに産学連携をおこなうことで実用化が期待できる。
強磁場印加結晶配向/水熱固化併用技術によるモルデナイトサブナノ細孔規則配列緻密薄膜の開発 熊本大学
松田元秀
熊本大学
松本泰彦
本研究開発では、物質の化学合成プロセス条件に全く依存しない結晶の磁気異方性という物理パラメータを利用してゼオライト細孔の配向性を制御可能とする汎用的なプロセス技術を提案し、その提案技術を基に、磁場中鋳込み成形によってモルデナイト配向体の作製と水熱固化について検討した。その結果、静磁場印加によってb軸配向体が、回転磁場環境下ではc軸配向体が作製可能であることがわかった。また、水熱反応に用いる反応溶液組成を制御することによって、試料の緻密化が進行することが微細構造観察ならびにガス透過性の検討から明らかになった。研究目標であるモルデナイトの緻密配向薄膜の作製に関しては、使用粉末粒子の形態制御や懸濁液の分散性の向上、それに加え基板上への粒子堆積挙動の検討が必要であることがわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。磁場鋳込み成形という特殊な方法がベースになっている提案であり、新規性はあるが目標としていた配向膜までは得られていない。文献投稿、学会発表の実績もあり、これまでの研究成果を特許として権利化することが望ましい。技術移転の観点からは産学連携を視野に入れて、当初目標を達成のための具体的な研究開発計画書を立案することが望まれる。今後、市場調査や他の技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にし、データを積み上げることで実用化に近づくものと期待できる。
分散水滴を反応場とするサブミクロン湿潤磁性粒子の新しい乳化合成と有機ハイブリッド乾燥磁性粒子の開発 宮崎県工業技術センター
清水正高
宮崎県工業技術センター
富永宏文
W/Oエマルションの水相を反応場にして、それぞれの分散水滴中にナノからサブミクロンサイズのマグネタイト磁性粒子を合成した結果、極めて安定な湿潤磁性粒子を生成できた。さらに、湿潤磁性粒子を使用して、ポリスチレンなどの高分子を壁材とした乾燥磁性粒子も開発できた。最終目標より大きな数百μmの球形粒子にとどまったが、十分な磁性を示した。本研究で得られた湿潤磁性粒子は磁性流体として、また、乾燥磁性粒子は粉体として取り扱えるため、様々な応用製品の基材に活用できるものと期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にサブミクロンFeO湿潤磁性粒子に関する技術開発に成功し、高分子ハイブリッド乾燥磁性粒子の開発にも成功していることは実用化に向けた探索研究の成果としては十分評価できる。本研究期間の成果を特許として権利化することが望ましい。FePt等によるサブミクロン湿潤磁性粒子の合成が技術的課題として残されているが、今後の研究成果として期待できる。技術移転の観点からは、産学連携による共同研究開発を計画し、市場調査及び競合技術との彼我比較を行い、本技術の優位性を明確にすることで実用化が近づくものと期待できる。
廃棄GFRPを用いた防災・環境調和型セラミック製造技術の開発とその応用 宮崎大学
木之下広幸
株式会社みやざきTLO
福山華子
本研究では、実際に廃棄されたGFRPと粘土を原料に用いて軽量で多孔質なガラス繊維入りセラミックスを作製し、コケからなる緑化基盤材へ適用するとともに、保水性路盤材への適用の可能性について検討した。その結果、基盤材上においてスナゴケが持続的に生育できるとともに、緑化基盤が建築基準の重量制限を十分に満足することが明らかとなった。また、強度的には5MPa以上の強度が必要な保水性路盤材への適用も可能であることがわかった。今後、コケ緑化基盤材については、実用化に向けて緑化基盤材としての有用性を検証するとともに、大量生産技術を確立する予定である。保水性路盤材については、製品化を目指しさらなるデータの構築を図る。
 
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標とした基盤材の強度の要件を満足する製造条件を確立した。作製した基盤材上でスナゴケが持続的に生育できる事を明らかにし、本緑化基盤が重量制限を満足しかつ十分な曲げ強度を有する事が確認できており、実用化に向けた探索研究の成果としては評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究計画等も具体的に検討されているが、廃棄GFRPの粉砕技術については、実験室レベルから企業への技術移管時には大型粉砕技術の開発が重要と思われる。今後は、産学連携を強化して工業規模の廃棄GFRPの粉砕技術が確立されることが期待される。
プラチナ使用量を低減した固体高分子形燃料電池の基礎研究 宮崎大学
田島大輔
宮崎大学
和田翼
本研究では、プラチナ均一分散技術を使用した固体高分子形燃料電池(PEFC)の膜電極接合体(MEA)を作製し、その最大出力密度、活性化過電圧等の評価を行った。プラチナ担持率の異なるカーボンを使用した評価においては、プラチナ担持率を10wt%、20wt%、40wt%、60wt%を用い、MEA作製時における最適な電解質混合比を見出すことができた。また、各担持率において、アノード及びカソードの触媒層数を変えたPEFCの評価を行った。その結果、20wt%において、触媒層を3層とすることで最大出力密度929.7mW/cm2を得た。今後は触媒層形成方法に新しいプラチナ均一分散技術を応用する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。電池の出力密度は触媒の活性な表面積、ガス流状況、導電体と触媒の接触状況などの影響を受ける。白金所要量もこれらの因子と活性な面積の広さに影響される。今回の実験結果としては最大出力密度1200mW/cmには未達の状況であるが、白金使用量の低減も可能性が見えている。白金を担持したカーボン層を積層すると手法は新規性があり、研究成果を特許として権利化することが望ましい。今後については技術的な課題は明確であり、実用化に向けて産学連携による共同研究開発を実施することが望ましい。
シラス細骨材の加圧脱水ブリケット化による低コスト製造技術の開発 鹿児島県工業技術センター
吉村幸雄
鹿児島県工業技術センター
山角達也
粗骨材として砕石を用い、細骨材として5mm以下に篩った表面乾燥飽水状態の火山噴出物のシラスを用いたシラスコンクリートは、普通コンクリートと同等の強度を示し、優れた耐久性を有する。
しかし、シラスは自然の状態では含水率が高いので、細骨材として用いる場合には、表面乾燥飽水状態にする必要がある。そのために屋内乾燥施設での時間と手間を必要とし、普通砂より割高になるので民間に普及しなかった。
鹿児島県工業技術センターは、シラスを低コストの乾燥方法で、表面乾燥飽水状態等の特定範囲内の含水率に水分調整できることを見出した。
本研究では、シラス細骨材の低コスト製造技術を確立し、それがコンクリート用細骨材に適することを実証する。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にシラス細骨材の有効利用と低コスト化は南九州の地元産業にとって重要な課題であり、それに対して充分な成果を得ているブリケットマシンを加圧脱水に活用する初の試みであり、ユニークな研究である。一方、技術移転の観点からは特許出願なども視野に入れ、企業と連携していることから地場産業と地域振興に対して大きな社会還元が期待できる。今後は、ブリケットマシンによるシラスの加圧脱水方法により、所定の線圧をかければ初期含水率が異なる場合でも比較的短時間にシラスの含水率の低減が行えることからコンクリートの配合設計が容易になり、シラス細骨材の普及に役立つものと期待される。
耐圧強度を向上させたシラスバルーンの開発 鹿児島県工業技術センター
袖山研一
鹿児島県工業技術センター
山角達也
シラスバルーンは、シラス等の火山灰を焼成発泡させた微細な風船状の粒径20μm~1.4mmのものであり、低かさ比重、不燃性、高融点、低熱伝導率、無色、無害、低価格という特徴をもつ。自動車部品や電子部品などの高付加価値品の無機軽量フィラーには、ガラスバルーンなどが用いられている。当センターでは、金属コーティングしたMMB(マイクロメタルバルーン)を開発しているが回収率が低い。一方、無処理のシラスバルーンでは無機軽量フィラーを用いるには耐圧強度が不足している。そこで、金属コーティング技術を改良し、回収率の向上と、シラス原料を改質することで、現状の2倍以上の耐圧強度を持つシラスバルーンの開発を目指した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。産地、採取場所によって品質にばらつきが多いシラス原料を工業材料の資源として活用する研究課題において、均質なガラス材料に匹敵するバルーン材料としての利活用をめざしており、地域活性化の視点も含めて評価できる。既に多くのノウハウ、実績を有しており、これらをもとに新たなコーテング方法を創出しようとしている。着目点、留意点も過去の経験を生かして的確におさえており、研究成果として十分に評価できる。新規特許出願や論文公表も積極的に実施されている。残された課題についても明確化されており、企業との共同研究の企画がすでに始められている。技術移転の観点からは、産学連携をより密にして実用化につながることを期待する。

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