評価結果
 
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事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成25年2月公開 - 装置・デバイス分野 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
電気自動車の正面と底面の圧力差を利用した風車の開発 室蘭工業大学
戸倉郁夫
室蘭工業大学
加賀壽
電気自動車に搭載する風車の開発を行った。走行抵抗の増加を防止するために、自動車内部に正面と底面を繋ぐダクトを設置し、その内部に貫流型風車を格納することを想定して実験を行った。ダクトの形状が、風車のトルクや出力に大きな影響を及ぼすこと、高い出力を得るためには、流れを急激に曲げない曲面を用いたダクトを使用することや直径の大きな貫流羽根車が有利であることが示された。また、走行速度に比べて羽根車入口の速度がかなり低下するので、通風抵抗の少ないダクトの開発が今後の課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもダクト内の風速は走行速度によって大幅に低下し、特に低車速域においては、1/10以下まで減少することを見出してたことは評価できる。一方、直径の異なる羽根車でデータを蓄積し、ベルマウス形状の入口を持つ曲面を使用したダクトの開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、実車に搭載できるような研究成果を得て、早く実証試験の段階に入ることが望まれる。
炭素高含有木質固形燃料のガス化発電用燃料としての適用 北海道立総合研究機構
山田敦
北海道立総合研究機構
菊地伸一
バイオマスを原料とした炭素高含有木質固形燃料を試作し、燃料特性を測定するとともに、熱分析により熱分解挙動を明らかにした。また小型ガス化炉に供し、ガス化条件を検討するとともに、発生した合成ガスを分析し、発熱量等を調査することにより、ガス化発電の燃料としての適性を明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、木炭粉を加えた炭素高含有木質固形燃料の熱分解挙動特性を明らかにすることで小型ガス化炉用の燃料として発熱量の増大等優れた特性が明確となったことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、困難ではあるが、タールの生成を抑制またはゼロにして分解ガスを得る研究開発が強く望まれる。本研究は、地域密着型研究であり、今後は、残された課題の解決により、バイオマス燃料のガス化発電への実用化が期待される。
金属粉末積層焼結造形技法による流体浸透性高機能金型の製作技術 北海道立総合研究機構
戸羽篤也
北海道立総合研究機構
高橋英徳
金属粉末積層成形におけるレーザー照射条件等と微小流路や多孔質領域の成形品質の関係については明らかにされていない。そこで本課題では、この成形制御技術を確立することにより付加価値の高い金属製品の製作技法を獲得することを目指した。具体的には、金属粉末積層焼結成形におけるレーザー照射条件の成形寸法および空隙率への影響を調べることにより、金属成形体への流体透過性能設計・制御技術を確立し、自在な加熱・冷却流路を付与した高機能金型等の製作技術を開発した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に金属粉末成型による内部成形および金属粉末成型による多孔質領域成型制御の技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、一般に使われている金型の材料・材質にも対応できる金属粉末積層成法による金型製作がなどでの実用化が望まれる。今後は、民間企業との産学官研究開発を更に進めされることが期待される。
高出力ファイバーレーザによる複雑立体形状の溶接に関する研究 北海道立総合研究機構
櫻庭洋平
北海道立総合研究機構
田中大之
形状が複雑な材料を高品位かつひずみを少なく溶接する方法として、高出力ファイバーレーザの利用が期待されているが、レーザ溶接における溶接姿勢と品質に関する研究はほとんど行われておらず、技術普及の大きな課題となっている。本研究では代表的なステンレス鋼やアルミニウム合金を対象に、レーザ出力と溶融状態の相関関係、溶接姿勢の影響と溶接条件の補正方法について、断面観察や強度試験、内部欠陥観察により検証し、品質のばらつきを抑えた姿勢別溶接条件を抽出した。今後はレーザ溶接の欠陥対策技術の研究を進め、地域の溶接製品の付加価値を高める研究や企業支援に取り組む。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にステンレス鋼の溶接条件に関し、パワー依存性や姿勢依存性のデータ蓄積に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、大阪大学接合研究所との連携、複数の溶接機を用いた実験を実施、補正値を含めたデータベースを構築、他材料への展開などを図り、食品加工装置などでの実用化が望まれる。今後は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、その他の解析により溶接に対する統一的な解析になることが期待される。
アノード酸化による色素増感太陽電池用メソポーラスチタニア膜の合成 北海道大学
幅崎浩樹
北海道大学
山口茂彦
本研究ではスパッタとアノード酸化を組合わすことにより、熱処理なしで高結晶性メソポーラスTiO2膜を合成し、色素増感太陽電池の高性能化を図ることを目標とする。ITO透明導電性ガラス上にスパッタ成膜したTi薄膜を160℃のリン酸含有グリセリン溶液中でアノード酸化することで、熱処理なしにアナターゼ型TiO2薄膜の作製に成功した。また、液性の異なるリン酸含有グリセリン溶液中でアノード酸化することにより、酸性度がその結晶性に大きく影響することを見出した。このTiO2膜を用いた色素増感太陽電池を実際に組むことで、これまで報告されている熱処理後のTiO2ナノチューブ薄膜を用いたものよりも優れた特性を示すことを明らかにした。今後は、これらの知見をもとにより熱処理なしでより高結晶性のTiO2薄膜を作製し、応用展開する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に熱処理なしでメソポーラスTiO膜を合成し、色素増感太陽電池の高性能化を図るという当初目標は概ね達成されている。生成プロセスの条件と、得られる材料特性の影響も明らかにしており、技術移転につながる研究成果が得られたといえる。一方、さらなる結晶性の向上に向けた今後の方針も明確に示されている。太陽電池に対する社会的な期待は大きく、社会還元が期待できる。
冷房・冷凍機器の高効率化を実現する表面微細周期構造を持つラジエータの開発 北海道大学
戸谷剛
北海道大学
勝世敬一
波長領域8~13μmのみで放射し、かつ放射率が0.9以上となる表面微細周期構造を実現することが 目標である。波長領域8~13μmで高い放射率を持ち、波長領域8~13μm以外では低い放射率とな る結果が得られ、目標である「波長領域8~13μmのみで放射し、」を達成できた。放射率の最大値は0.6であり、目標である「放射率が0.9以上」を達成できていないが、既存研究における表面微細周期構 造による放射率の増加の最大レベルを達成できた。以上より、表面微細周期構造を持つラジエータの必 要条件である「大気に吸収されることなく表面微細周期構造から宇宙への熱の放射を支配的にする」ことを 実現する目処がついた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、目標である「放射率が0.9以上」を達成できていないが、目標である「波長領域8~13μmのみで放射することは達成できたことは、評価できる。一方で、平成24年度目標(最終目標か)「冷媒温度が周囲環境温度より10℃以上低下」の実現に不可欠な条件であるならば、今回の実験で得られた結論「金をスパッタする場合、垂直放射率の最大値は0.6である可能性がある」を適用した場合、最終目標の実現は不可能と思われる。今後「金」以外の材料を使うことで「放射率0.9以上」をねらうのか(この場合、放射率向上が期待できる新規材料の目処はあるのか)、あるいは、放射率は0.6としてラジエータ構造を改良して「冷媒温度10℃以上低下」をねらうのか、明らかにして今後の計画を立案することが必要と思われる。今後は、未実施の試験を完遂後、次ステップに向けての具体的計画作成に進むことが望まれる。
GPS粉体シンチレータによる新型中性子線量計の開発 北海道大学
金子純一
北海道大学
田中紗奈
中性子感度の極めて高いGPS(ガドリニウムパイロシリケイト:Gd2Si2O7)シンチレータの低コスト粉体合成法を確立し、高感度中性子個人線量計のプロトタイプ開発を行う。小型化・低価格化を狙うためシンチレーション光の検出にマルチピクセルホトンカウンタ(MPPC)を用いて試作機を作製し、性能評価を行った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも中性子スペクトル計測が可能なシンチレータープレートを用いた測定システム開発技術に関しては評価できる。一方、高感度化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、小型・低価格でなくても、高感度なシンチレーターが実現されることが望まれる。
生体適合性を有する氷スラリーの小型生成装置の開発 弘前大学
麓耕二
弘前大学
工藤重光
医療分野において生体ならびに移植用臓器の冷却に利用可能な高い融解潜熱(冷却能力)を有し、浸透圧等による細胞破壊の影響を極力抑えた新たな冷媒、いわゆる生理食塩水(低濃度の塩化ナトリウム水溶液)をベースとした氷スラリー生成装置の開発を行った。本研究開発により、従来方法と全く異なる、新たな氷生成方法に基づく小型氷スラリー生成装置を完成することができた。また研究開発として、小型氷スラリー生成装置の基本特性を得るため、各種パラメータを制御した実験を実施した。今後の展開として、実際の医療現場ならびに急速冷却を有する農水産分野への応用および技術移転を検討する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、生体適合性のある独自スラリー生成技術を開発し、小型で純氷から生食氷まで広範なスラリー生成を可能とする我国独自のシステム試作に成功したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、生成条件と氷粒子特性の解明など、より掘り下げた基礎研究の実施と小型高圧水ポンプの開発が望まれる。今後は、直接目的とした医療応用ばかりでなく、一般的な汎用スラリー製造基礎技術としての応用可能性も想定できるので、さらなる研究の発展が期待される。
低コスト小型移動電源用固体高分子形燃料電池(PEFC)の開発 弘前大学
阿布里提
弘前大学
上平好弘
本研究開発は、小型移動体電源としてのPEFCの実用化に必要な低コスト化・軽量化・コンパクト化に資する技術レベルの確立を目標として、当初の研究開発内容を予定通り進行させ、性能予測シミュレーション評価に基づき、電解質膜厚さとセパレーター厚さの低減や白金使用量の低減等を図りながら20セルスタックを作製し評価を行った。その結果、電解質Nafion膜としてNRE-212(膜厚51μm)から薄いNRE-211(膜厚25μm)と、白金使用量を1mg/cm^2から0.5mg/cm^2に低減して作製したMEAの方がやや性能が高く、セル数を増やすことにより電圧の向上とスタック幅を4cm低減できた他、水素無加湿条件で加湿した場合の約90%の出力がある等スタックの軽量・コンパクト化を達成した。しかし、ユニット性能向上を達成したものの、スタック性能値は期待値まで上がらず、今後の課題となった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも白金使用量の低減、水素無加湿による機構の簡易化、スタック内現象のモデル化等当初の目標が達成されている点は評価できる。一方、スタックでの性能向上には至っていないが、研究を重ねることで一定の成果が期待できる。今後は、設計事項に関わる課題が多いので、コーディネータと協力して、電池メーカなどとの共同開発、試作電池のフィールドテストへのアプローチが望まれる。
光束走査型小口径内視鏡観察装置の研究 弘前大学
小野俊郎
弘前大学
上平好弘
本計画の光束走査型小口径内視鏡観察装置は、シングルファイバ光軸を観察面で二次元走査して、その1次画像を合成することで画素数の大きな広角精細観察像を得ることを特徴としている。その効果は、観察対象への挿入は細径のシングルファイバでよく極細径の内視鏡装置が実現できることにある。具体的には(1)光学系外形(直径3mm以下)、 (2)画素数(合成1600x1200pixel、単体:100x100pixel以上)、(3)観察領域(10x10mm)を目標とする。本研究では光軸走査にメカニカル手法、EO結晶手法を検討し、実用化フェーズを目標に技術的設計指針を明確化する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標は達成されており、技術課題についても十分練られており、明確に提示されている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、高まっていて、今後の検討課題も整理されている。技術移転による産学協同の研究開発が期待される。今後は、新たな課題が明確にされているので、解決方法を具体的に検討する必要がある。
小規模ランキンサイクル発電システムとの複合を目指す潜熱蓄熱技術 一関工業高等専門学校
星朗
一関工業高等専門学校
佐藤清忠
再生可能エネルギーや各種排熱を利用した小規模ランキンサイクル(ORC)発電システムに有効となる潜熱蓄熱技術の開発・実用化を目指して、最適な相変化物質(PCM)を選定し、金属メッキ法による新しい蓄熱カプセル製作方法の開発を試みた。硝酸リチウムと硝酸マグネシウムの混合物が80℃近傍の温度領域における蓄熱に有用であることを確認したうえで、潜熱蓄熱技術を複合させた小型ORCシステムの放熱シミュレーションおよび実証試験を行い、運転時間が2倍近く増大することを明らかにした。また、電気的に不良導体であるPCM周りに金属メッキを施す技術を確立し、新たな金属製PCMカプセルの製作方法を開発した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、溶融塩の硝酸リチウムと水和物の硝酸マグネシウム六水和物を用いた潜熱蓄熱技術の開発・実用化を目的として金属メッキ法による蓄熱カプセルの製作方法の開発が目標であるが、蓄熱効果や装置の小型化等、概ね期待通りの成果が得られ技術移転につながる可能性が高まったと評価できる。一方、技術移転の観点からは、暖房・給湯などの一般的な蓄熱タンクへの応用以外に、融雪やロードヒーティングなどの寒冷地での活用が考えられ、応用展開が望まれる。今後は、今後はシミュレーションと実際との対比と詳細条件の最適化が課題であり、コストも考慮して、実用化につながることが期待される。
瞬間的な光や音による運転者への影響 一関工業高等専門学校
秋山雅裕
一関工業高等専門学校
佐藤清忠
本研究は、雷の発光及び音が運転者に及ぼす影響を調査し、自動車及びその運転の安全性の向上を目的とした。運転シミュレータの操作中に雷を模擬した突発的な光の発生、及び雷鳴の再生を行い、それに対する運転者の反応を各種計測装置で測定した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。雷の発光と音に対する運転者の眼球反応、脳波変化を捉えたことは評価できる。一方、瞬間的な音や光が運転行動に与える影響の程度、発光から音が聞こえるまでの時間間隔の効果、年齢や運転経験等による差異などのデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、更に詳細な試験を重ね、生体反応から安全運転に結びつく基礎的知見を導き、産学官連携による技術開発に結びつけられることが望まれる。
サブナノパルスの電磁ノイズが組み込みシステムへ及ぼす影響 一関工業高等専門学校
秋山雅裕
一関工業高等専門学校
佐藤清忠
本研究は、様々な負荷や放電形態で電磁ノイズを発生させ、電磁ノイズの状態とプログラムの誤動作を調査し、プログラムの記述によるノイズ対策を施し、有効なコーディング手法を明らかにする事を目的としている。平成23年12月~平成24年7月を研究期間とし、開発・環境準備、制御装置の改造、ノイズ発生用のソフトウェア作成、研究発表を実施した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。プログラムにノイズ対策を施すことによって、極短パルス性ノイズによるプログラム暴走等への対処ができる成果をあげた。この研究成果は、電磁ノイズによって組込み機器が暴走するという問題に悩まされている企業にとって非常に有用な報告であり、技術移転につながる可能性が高い。また、スペクトラムアナライザの分析データと故障の関連性が新たな課題として明確になり、共同研究による次のステップへ進展する可能性が高まった。全体として、概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。
電気防錆加工法の開発─加工水調整と除菌評価ならびに加工機への接続─ 岩手大学
西川尚宏
機械加工で使用される油剤・極圧添加剤・乳化剤・防錆剤等を含む加工液は、廃液処理(焼却・埋立等)において、莫大な処理費と環境負荷を発生している。本研究では水のみを加工液とし、廃液処理を削減し、イオンサイズまでの微細切屑等除去で高精度加工を目論み、工作物・加工機の錆を抑制した電気防錆加工法システムの総合開発をしている。本申請研究では、電気防錆効率化のため浄化水の電気伝導度を100μS/cm程度への調整を達成し、浄化水は濁度0.1度以下を確認した。浄化水は食品衛生法の基準を達成する程清浄であった。また、レジオネラ菌等基準値以下を達成した。また水循環再生システムと研削盤を接続し腐食試験を実施した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の目標である金属加工時に使用する液剤を純水に置き換えることに成功しており、システムとしてもほぼ完成している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、実際の現場で問題なく使用できるか、さまざまな金属研磨、研削に適用してみる必要がある。今後は、具体的な用途を探索して、システム全体としての性能評価を行い、企業との共同により、実用化されことを期待する。
8の字形3次元振動を利用した直線溝アレイの高能率鏡面仕上げ 岩手大学
水野雅裕
岩手大学
近藤孝
金型材料に形彫り放電加工によって形成された三角形状の直線溝アレイを、自動で高能率に鏡面仕上げできるようにすることが研究目標である。そのため、これまで構築してきた3次元工具振動研磨システムに研磨ペースト自動供給装置を追加した。また、さまざまな形態の8の字形3次元振動を研磨工具に与えつつ、研磨力の大きさと方向を制御しながら研磨を行うための研磨プログラムを開発した。被研磨面の形状に合わせて樹脂製工具を作成し、2mm×10mmの領域に対して研磨実験を行った結果、溝アレイの山部と谷部の表面粗さ(初期面粗さ1μmRa程度)を約1時間で0.2μmRa程度に低減できたものの、斜面部の表面粗さはほとんど改善できなかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、クローム合金ステンレス鋼に形成された深さ0.5mmの三角形状のの直線溝アレイの高能率な鏡面仕上げの自動化を試み、3次元工具振動研磨システムに研磨ペースト自動供給装置を追加し、8の字形3次元振動を研磨工具に与え、研磨力の大きさと方向を制御しながら研磨を行うシステムを開発において溝アレイの山部と谷部の表面粗さでは、約1時間で0.2μmRa程度の表面粗さとなったことは評価できる。一方で、 溝アレイの斜面部の研磨効果が少ないため、目標が達成されていない。原因は、推測されているが、課題解決への道筋を具体的に示すことが必要と思われる。今後の技術移転に向けては、残された課題の解決が必須と考えられるので、さらなる検討が望まれる。
大型MgB2バルク超伝導体の作製技術開発と強力磁石開発への展開 岩手大学
内藤智之
岩手大学
近藤孝
磁束ピン止め効果を利用すると超伝導体はテスラ級の疑似永久磁石となる。本課題ではRE-Ba-Cu-O(REは希土類元素)超伝導体の代替材料として金属系超伝導体MgB2に着目した。新しい安価で簡便なMgB2バルク作製技術の確立し、テスラ級MgB2バルク磁石開発への展開を目指して研究開発を実施した。金属容器を用いて最大直径32mm、厚さ9mmのMgB2バルクの作製に成功した。作製したMgB2バルクに磁場中冷却着磁法およびパルス着磁法を適用することで各々最大1.5テスラおよび最大0.7テスラの磁場を捕捉させることが出来た。従って、当初の研究開発目標を概ね達成出来たと言える。今後はMgB2バルクの緻密化を行い捕捉磁場の更なる向上を目指したい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもMgBバルクの大きさ、並びに捕捉磁場は概ね目標が達成されている点は評価できる。また次のステップとして、当初の目標であるパルス着磁法によるテスラ級磁場を捕捉するための研究が計画されている。MgBバルクの緻密化に関して、大手高炉メーカーの支援を受けて予備的な試験研究が開始されており、産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性は高まったといえる。今後は、関連企業との共同研究を積極的に進め、更なる展開研究が望まれる。
超電導バルク磁石を用いた放射能汚染土壌や水の除染用吸着剤の開発 岩手大学
藤代博之
岩手大学
近藤孝
福島第1原子力発電所事故に伴い、広範囲に放出された低レベルの放射性物質の除去対策が早急に望まれる。本研究では第1に、代表研究者が開発した2テスラ級の5連型マルチ超電導バルク磁石を磁気分離による除染に 適用するため、捕捉磁場性能をさらに増大させる。第2に、磁気分離により放射能汚染土壌や汚染水の除染に活 用する磁性を有するマグネタイトと吸着材料との混合割合、粒径、比重等を最適化した顆粒状の放射性物質吸着 材の開発を行う。本吸着材の開発は回収汚泥等の減容性に優れ、水と土壌の複合的汚染にも対応でき、経済的 で管理が容易であるなど広域的な汚染に対応可能であり、放射性CsやSrの除去に関する実用化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、磁気分離可能なRI浄化材の製造と、磁気分離実験に関してはおおむね期待通りの成果が得られていることは評価できる。また、新規に最も経済的で、安定した原料の供給が可能な泥が最も吸着量が大きいことが明らかになっており、経済的に有利である。一方、技術移転の観点からは、当初目標を達成できなかった5連型超電導バルク装置の改良や、吸着能を劣化させないバインダー、粒状化方法などの改良などが実施されることが望まれる。今後は、超電導バルク磁石を用いることの優位性評価をおこない、実用化を目指すことが期待される。
交流電気試験法を応用したコンクリート構造物の含有塩化物量のオンサイト非破壊検査法の開発 岩手大学
小林宏一郎
岩手大学
小川薫
コンクリート構造物の塩化物量を0.6kg/m3刻みの分解能で、現場において非破壊、安価かつ簡易に評価できる測定方法の確立を目標とした。そこで、コンクリートの上に絶縁フィルムを介して電極を2個設置し、インピーダンスと位相角の周波数特性を測定し、塩分濃度を推定する方法を提案した。塩分濃度の異なる供試体を多数作成し、提案方法によるデータベースの作成を行った。この結果、湿度の変化によるデータの変動はあるが、相対的な塩分濃度の推定は可能であった。また、深さ方向の塩分濃度分布の推定として、電極間距離が影響することが分かった。しかし、塩分濃度の差を求めることは、現在の条件ではできなかった。さらに実用化のために絶対値の推定を目指して、今後も作成したデータベースを用いて検討する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。塩化物イオン量と湿度がインピーダンスに大きな影響を有していることは分かったことは評価できる。一方、塩化物イオン量の絶対値を測定することはできていない。また、実際のコンクリート構造物では、深さ方向の測定や鉄筋周囲の塩化物イオン量が問題で、しかも、表面および内部の塩化物イオン量を広範囲に評価する必要があると思われる。今後の技術移転を考慮するためには、実際の現場ニーズを踏まえた上で本手法の有効性を再度確認して研究を進めることが、望まれる。
農産物長期保存用の除菌・エチレン除去低電力型コロナ発生装置の開発 岩手大学
高木浩一
岩手大学
佐藤利雄
目的は、青果物を混載での長期輸送時に、エチレンガスを低濃度に保ち、農産物腐敗菌を不活性化し、鮮度を保つ、低電力コロナ放電装置の開発である。技術のポイントは、半導体素子による低電力化と制御性の向上、長寿命化で、またそれを可能にする電界ひずみ電極である。競合する技術は触媒や吸着材で、優位性は、処理速度が早い点、低電力・長寿命でランニングコストが低い点になる。研究開発では、初めに本目的に適した電源開発を行い、その後、エチレンガスの低減効果の確認、雑菌不活性化の評価などを行った。また触媒とプラズマの併用についても、エチレンガス分解の効果について評価を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。各目標に対して基本的な項目は確認している点は評価できるが、残された問題もある。一方、技術移転の観点からは、提案する全体システムの実用化が検証できれば、社会への還元の可能性はあると思われる。今後は、コロナ発生装置の重要な要素である電源について、検証と実用化の可能性(発生電圧、大きさ、価格、可搬性等)について検討することが望まれる。
遠心力を利用した向流クロマトグラフの可能性探索 岩手大学
北爪英一
岩手大学
大島修三
重金属の汚染除去に関する基礎的な検討のため、環境水を用いて濃縮効率をどこまで上げられるか検討した。カラム内部の観察に基づき検討した結果、より効率の良い、濃縮システムを考案した。一つは親水性液体の移動相と疎水性液体の固定相を利用する方法であり、疎水性固定相中に重金属と親和性の高いジー2-エチルヘキシルリン酸(DEHPA)等を導入して酸性にした後、弱アルカリの移動相を導入することにより、通常のクロマトグラムの溶離だけでなく、カラム内で中和反応を起こさせることによって生じる急峻なpHの濃度勾配が利用できるので、移動する中和点付近に重金属類を高倍率で濃縮できた。さらに固定相に気体や固体粉末を用いる方法についても検討し、新たな濃縮法と利用できる見通しが得られた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初目標であった少ない循環回数で大量に浄化処理を行える段階にまで到達していないものの、技術の改善が着実になされており、100倍以上の濃縮効果を確認していることは評価できる。一方で、分析前濃縮と水処理について検討しているが、両者で解決するべき課題も処理プロセスも異なると考えられるので、対象用途を絞り込むことが重要と思われる。次の段階に進めるには、到達目標と技術課題を明確にし、取り組みを具体化することが望まれる。
医療用全レーザ対応型高信頼性伝送装置の製作法 仙台高等専門学校
岩井克全
仙台高等専門学校
庄司彰
赤外レーザを用いる治療装置は、生体に対する適合性もよく、その需要は益々増加している。その中で赤外光伝送に適した高信頼性中空ファイバを医療用レーザ装置に搭載することにより、数多くの診療科目に適用可能な新たなレーザ医療装置が実現できる。中空ファイバは、高反射コートによりレーザ光の高効率伝送を可能にしている。しかし、内装膜の成膜でガラス母材表面に微小欠陥が形成され、強度の劣化を生じている。本課題においては、曲げ負荷に強い内径0.53mmガラスキャピラリを母材として用い、その保護膜の厚膜化を行うことで更なる高強度化を図り、内視鏡治療に用いても、折れない高信頼性中空ファイバの開発を試み、成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標である「内径0.53 mm 中空ファイバの外装保護膜成膜技術の確立」は達成されている。一方、次のステップに向けては、0.7mm内径のファイバの高強度化であるとのことであるが、今回の成果との関連性について明確にする必要がある。今後は、応用展開された時に容易に社会還元されるように、技術移転をめざして、医療機器メーカとより緊密に連携することが望まれる。
ワイヤレス磁気マーカを用いた経管チューブの誤挿入検知システムの開発 東北学院大学
薮上信
科学技術振興機構
藤田慶一郎
本研究は生体へのチューブの誤挿入による医療事故を防止するために、チューブ位置を簡便かつリアルタイムで確認する機器の開発を目的とする。提案する位置検出方法は磁性リボンの磁歪振動による誘導磁界を多チャンネルの検出コイルで計測し、マーカの位置および方向を最適化する手法である。貼付する磁気マーカはワイヤレス、バッテリレスで構成でき、光学的に遮蔽された空間でも、高精度かつ簡便な位置検出が可能である。本研究では経鼻経管チューブ先端に磁歪振動マーカを貼付し、コイルとコンデンサからなるLC共振型マーカに対して、信号レベルが約一桁大きくなり、位置精度が向上することを確認した。高速ADコンバータを使用することで、プロジェクト開始直後に対して振幅のノイズが約1/30に低減できた。また3軸励磁コイルを用いることでほぼマーカの死角のない状態で、任意の方向のマーカの位置を計測できることを示した。これらにより1辺350mm程度の立法体内部で、2mm以内の相対位置精度を得た。さらにウサギへチューブを挿入する予備的な動物実験を実施した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標はほぼ達成され、技術移転につながる研究成果が得られた点は評価できる。また研究成果に基づき新規特許出願が行われている。次のステップへ進めるための技術的課題が明確になり、具体的・定量的に示されている。今後は、この技術が実用化された場合の医療事故防止効果は大きいので、産学連携の制度を活用して、実用化に展開されることが期待される。
電磁力とメカニカルな振動を利用した原子炉配管内部検査用アクチュエータの開発 東北学院大学
矢口博之
科学技術振興機構
藤田慶一郎
本研究では、電磁力とメカニカルな振動の組合せにより、小型で高推進力を発生する内径25mmの管内検査用磁気アクチュエータを開発した。本アクチュエータは、電磁力により励振された複数の振動体が発生する力を制御することにより、管内での往復移動は勿論、T字管内走行にも対処させている。実機を試作して測定した結果、T字部を有する複雑管内をスタックすることなく高速かつスムースに走行できることを確認した。これまで提案されている管内部検査ロボットでは対応できない原子炉などの小口径配管の内部検査の可能性を見出すと共に、更なる小型化への発展が期待できることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にT字走行などの基本機能の動作、スタックの防止が確認ができたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標とした牽引力の出現、100mの走行は未達であり、今後の進展が望まれる。全体として、目標に近い成果は出ていると考えられ、特許申請後、共同研究企業を見つけて。技術移転に発展することが期待される。
社会基盤構造物の健全性評価に関する簡易診断技術の開発 東北大学
鈴木基行
本研究では、小型加振器を用いた簡便な振動試験法を提案した.供試体実験では、凍害、塩害、地震による劣化損傷を模擬して、損傷レベルと構造性能 (剛性、耐荷力、変形性能) および振動特性 (固有振動数や減衰定数) の関係を整理し、健全性評価に関する基礎的データを収集した.さらに応用研究として、小型加振器による道路橋と鉄道橋の現場試験を行った.その結果、スパン15m程度以下の橋であれば、500Nの小型加振器でも精緻な振動試験が可能になることや、加振器の周波数を高く設定することによって、主桁や床版などの部位・部材の局所的な振動特性を抽出し、損傷位置の同定や損傷レベルの評価が可能になることを示した.今後は、様々な環境作用を与えた供試体実験によって基礎的データを収集し、現場試験の経験を重ねることによって、簡易点検技術の高度化と実用化につなげる. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本課題は、スパン15m以下ということでわが国のほとんどの既設道路橋を対象とし、かつ小型加振機を用いた簡易な健全性診断技術を提案したものであり、実用化に向けて当初目標どおり着実な研究成果と改善すべき検討課題が明確に提示されていることは、評価できる。得られた成果は今後の技術移転に繋がる可能性があるが、現時点では、特許出願等は行われていない。一方、技術移転の観点からは、局所的損傷発生位置の特定についてはさらに改善の必要性があり、今後の発展が望まれる。また、各種環境劣化の損傷レベルと計測振動特性との関係や局所的損傷発生位置の特定などに関する現場計測データの集積による診断精度の向上への取り組みに期待したい。今後は、改善すべき検討課題が明確に提示されているので、近い将来において、実用化が期待でき、社会還元に導かれることが期待される。
マイクロ自由曲面創製用超精密インプロセス加工計測装置の開発 東北大学
高偉
本研究では、申請者がこれまでに開発してきたダイヤモンド切削工具高速制御装置(FTC:Fast Too Control)に、高感度高剛性力センサを新たに組込むことによって、工具の変位と加工力を同時に計測できる超精密インプロセス加工計測装置(FS-FTC : Force Sensor-integrated FTC)を提案し、加工機上で基礎実験を行うことによって、次世代省エネ3Dプラットパネル・ディスプレイや高性能燃料電池などで必要とされる大面積マイクロ自由曲面金型を高精度、高能率に製造するための基盤加工計測技術の実現の可能性を検証する。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、ダイヤモンド切削工具高速制御装置に、高感度高剛性力センサを組込み、工具の変位と加工力を同時に計測できる超精密インプロセス加工計測装置を開発において、次世代省エネ3Dプラットパネル・ディスプレイや高性能燃料電池などの大面積マイクロ自由曲面金型に対する技術移転が期待できる成果は、顕著である。一方、技術移転の観点からは、本研究の応用は、大面積のマイクロ加工に対するものであり、その応用は多岐にわたることが、期待できる。今後は、本課題では、理論的な背景に基づいて、研究実施者が提案する方法の妥当性を示しているので、多くの分野で実用化展開されることが、期待される。
水質浄化用放電型高活性多点バブルジェットシステムの開発 東北大学
西山秀哉
水処理を目的として、液中に溶存している難分解性有機物質の高効率分解技術確立を目指して、省エネ型気泡内パルス放電技術と微小バブルジェット発生技術を融合することにより、気泡界面近傍で活性種を生成するバブルを発生する高活性多点バブルジェット発生システムを開発した。6~8kVで600~ 1,200HzのDCパルス放電により、多数のバブルジェット内にストリーマが発生し、特に酸素バブルジェットでは、Oラジカル、OHラジカルやオゾンの生成により、30分間処理で550mLのメチレンブルー水溶液の脱色率が最大で、従来技術オゾンマイクロバブルジェットによるものと同程度以上であり、溶液の導電率効果も明らかにした。また、本システムでも20~40Wで、アルゴンバブルジェットの多くのOHラジカル生成により高難分解性物質である酢酸の分解にも成功し、分解効率を最大にする周波数効果も明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、浄化に関する一定の成果が得られていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業化に向け、難分解物に対する分解効率のアップやコスト面の評価という課題があり、対策が明らかにされているので解決が望まれる。今後は、企業との連携を軸に展開が予定されているので、課題解決による実用化が期待される。
新規合成した白金4価錯体の有機EL素子発光材料としての応用 東北大学
大井秀一
東北大学
高橋直之
本研究課題は、新規に合成した白金4価錯体を有機EL素子発光材料として応用することを目標として、配位子の異なる複数の白金4価錯体の合成し、発光特性の評価を行った。以前に合成した白金4価錯体に対して配位子交換により新たな白金錯体の合成を試みたところ、4種類の白金4価錯体を合成することができた。続いて、合成した白金4価錯体の発光特性の評価を行ったところ、いずれも低温において400~420nmに極大を有する極短波のりん光が観測されたが、室温での発光は認められなかった。理論計算の結果、熱失活が原因であることが示唆されたことから、今後、交換配位子の再設計により問題の解決を図る予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも発光波長範囲450~570nmに極大を有し、発光輝度10~1000cd/cm2の実用域で、外部量子効率を10%以上とする目標に対して、種々の白金錯体に関して効率的な合成手法を開発することができた点は評価できる。一方、合成された白金錯体では極短波長に発光が認められたものの、室温での発光が認められず、当初目標とした有機EL素子発光材料としての性能を得るには至らなかった。今後は、本研究課題で合成した白金錯体の発光波長は変化させずにより剛直な白金錯体を設計することで発光温度を室温まで改善することや、地域企業との連携が計画されているので、推進することが望まれる。
Si基板上への多機能性グラフェンのウエハースケール製造技術 東北大学
吹留博一
東北大学
高橋哲
2インチSiウエハーへのSiC薄膜を介したグラフェンの成長と微細加工による多機能化を目的とした研究を行なった。その結果、2インチウエハー上に均一な大免責グラフェンのエピ成長に初めて成功した。このグラフェン形成技術を基に、微細加工を施したSi基板上へのグラフェンのエピ成長に初めて成功した。更には、微細加工を施したSi基板上に異なる面方位を有するSiC(111)及びSiC(100)薄膜のエピ成長にも成功した。これらの薄膜表面上にグラフェンをエピ成長させることにより、グラフェンの多機能化(半導体vs金属)が可能となる。以上の技術は、将来的にはSi基板上の多機能デバイスを可能にするものとなる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にSi微細加工面へのグラフェン形成は確認でき、多機能グラフェンの形成に向けて、大いに期待できる重要な展開がなされた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、。しかし、実際の応用展開に向けてはプロセスのブラッシュアップによる品質の向上や、機能性の確認など明らかにすべき点も多くある。今後は、大面積化とより品質の向上が求められるので、研究が促進され、実用化に向かうことが期待される。
PCRAM用「TeフリーSbZn相変化材料」の開発 東北大学
須藤祐司
東北大学
芝山多香子
本研究は、Sb-Zn 薄膜を用いた相変化メモリ開発を行った。Sb-Zn薄膜は、アモルファス相を呈し、200℃以上の高い結晶化温度にて結晶化する事を確認した。Sb-Zn薄膜の電気特性評価の結果、典型的なメモリスイッチング挙動を示した。Sb-Zn薄膜 は、Ge-Sb-TeやGe-Teなどの既存相変化材料に比して高い結晶化温度および低い融点を併せ持つため、低消費電力かつ高耐熱性を有する新規相変化メモリとして十分期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にSb-Zn薄膜において相変化材料に典型なスイッチング特性が確認され、相変化メモリとして作動する事が確認された点は大いに評価できる。一方、SBデバイスの低消費電力化、多値記録化を実現するには、デバイス構造や電極材料の最適化など更なる検討が必要である。今後は、研究グループとの共同研究を通じて、デバイス構造の最適化を図り、更なるデータの蓄積・評価検討を行えば、携帯電話やデジタル家電企業の新たな製品のための魅力ある相変化材料となる可能性が十分に期待される。
シリコン基板を用いた超高効率窒化物半導体「太陽電池要素技術」に関する開発研究 東北大学
松岡隆志
東北大学
芝山多香子
本研究の目的は、バンドギャップ・エネルギ1.7eVを有するInGaN薄膜のエピタキシャル成長技術の確立である。 本研究期間では、厳密にIn組成を評価する方法を用いて、成長条件、特に、InとGaの原料供給比を一定としてV/III比を変えて、成長圧力650Torr一定の元で、有機金属気相成長法(metalorganic vapor phase epitaxy; MOVPE)を用いて、InGaNを成長した。その結果、V/III比と組成との関係を実験的に明らかにした。さらに従来用いられているGa極性面と本研究独自の手法であるN極性面を用いてInGaN結晶成長を試み、N極性面において平坦に高In組成InGaN結晶を作製可能であることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高品質N極性GaNテンプレート上で、高In組成化が可能であることを見いだしており評価できる。本研究提案はバンドギャップ1.7 eVを有するIn組成0.73のInGaN薄膜を、相分離なく、均一に成長できる有機金属気相成長技術を確立することを目指している。現状では、In組成0.3%程度で、0.73には達していない。しかしながら、高品質N極性GaNテンプレート上で高In組成化が可能であることを見いだしており、今後の展開が期待される。
人間の触覚特性に類似した計測が可能な触覚センサの研究 東北大学
嵯峨智
東北大学
齋藤悠太
我々は、人間の触覚特性に類似した計測が可能な触覚センサを目指し、提案する触覚センシング方式における人間の触覚特性との類似性や、さらなる精度向上のための計測手法を検討した。当初目標としての人間との類似性の検討や、高速センシングについてはほぼ達成したが、人間の触覚特性を持つロボットフィンガ型センサの開発については、より重要な課題としてのアクティブセンシングを実現することにより代替した。提案するアクティブセンシングにより、従来手法の10倍程度の精度向上を実現することができた。今後はこれら高速センシングとアクティブセンシングを包含したロボットフィンガ型人間類似触覚センサの開発に向け研究を進める予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。センサ素子の最適配置については目標に沿った研究を行い、光学素子の配置と、計測精度の関連性を明らかにした点は評価できる。一方、他の目標であるロボットハンドのフィンガセンサの試作を行わず、事前検討として、アクティブセンシイング方式の検討が行われているのは、申請時の検討が不十分であったと思われる。今後は、アクティブセンシイング方式の成果を踏まえて、目的であるロボットフィンガタイプの試作を実施することが望まれる。
スピンダイナミクスによる磁性材料設計指針の確立 東北大学
遠藤恭
科学技術振興機構
藤田慶一郎
本研究開発では、新規スピントロニクスデバイスの設計・実用化を促進するために、ダンピング定数αと磁気ひずみλsの相関関係に着目して、ゼロ磁気ひずみ近傍のNi-Fe合金に第三元素Mを添加した(Ni-Fe)-M薄膜に対する適用可能の検証、αのメカニズムの把握、添加元素を利用したαの制御法の確立に関して検討した。添加元素Mの量が10 at.%以下の場合、αとλsとの間に相関があり、|λs|および磁気弾性エネルギー(Eσ)が増加し、スピン格子緩和をへてαの変化に影響していると考えられる。したがって、添加元素を選択することにより、αの制御が可能であることを明確にした。また、デバイス動作周波数に関しては、添加元素とその量を制御することにより、0.60~1.25 GHzまで変化させることを示し、おおむね研究計画通りに成果を得ることができた。今後、素子サイズに合わせて、本研究開発で得られた磁性材料設計の指針の適用可能性を検討する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。Fe-Ni系に種々の添加元素を添加し、磁気的性質を調べ、設計への可能性は示せたが、いくつかの元素については装置の故障で作成できなかった点は残念である。ゼロ磁歪近傍のNi-Fe系薄膜において、幅広く3d-5d遷移金属を添加することにより、ダンピング定数と磁気ひずみとの間に相関があることがわかった点は評価できる。今後は、ダンピング定数と磁気ひずみが、スピントロニクスデバイスとどのように関連しているかを示し、技術移転を目指す研究を進めることが望まれる。
小型可搬式低温プラズマ滅菌装置の開発 東北大学
佐藤岳彦
科学技術振興機構
磯江準一
本事業では、小型可搬型の大気圧滅菌法を開発し、緊急災害時や世界各地における僻地、また家庭内の簡易殺菌装置としての実用化に供することを目的とする。実施方法は、φ7 cm×10 cmの小型滅菌装置を利用した大気空気滅菌と水蒸気滅菌の滅菌効果の検証と、より大型の容器を用いて大気空気滅菌装置で発生する窒素酸化物の低減法の開発を行う。本事業では、大気空気中で小型容器を用い60℃未満、10分で滅菌を可能とする装置の開発に成功した。また、簡便な装置で窒素酸化物を5 ppm以下に低減することに成功した。今後は、排出する窒素酸化物濃度のさらなる低減化ならびに水蒸気滅菌の滅菌効果の検証を進める予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に大気圧プラズマによる滅菌に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、滅菌特性の計測や殺菌効果の解明などにより感染予防や医療福祉などの分野での実用化が望まれる。今後は、大気圧プラズマによる滅菌に関しては、企業と連携して装置開発をすすめ、副生成物の低減化の実験に関しては、装置の改良などを行い、開発をすすめることが期待される。
ナノメータースケールパターン認識デバイス 独立行政法人物質・材料研究機構
根城均
独立行政法人物質・材料研究機構
中野義知
通常はCoumarin分子を基板上に堆積した状態で分子からの蛍光を検出しており、各々の分子固有の蛍光スペクトルが検出されることは公知理論であるが、分子の担持の仕方を工夫することにより蛍光分子から蛍光スペクトル以外の発光を検出できることを示す。カーボンナノチューブに蛍光分子が吸着する状態が多様であり、電磁場の多様性がカーボンナノチューブによってももたらされることを示し、その結果多様な分子発光スペクトルが得られ、デバイス化したときにより多くのパターンを生ぜしめることにつながる。以上の研究を進めることにより、各波長での発光スペクトル強度の複雑なパターンを得ることを試み、さらには複雑なパターン再現性の確認を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に近接場光で検出するときには光の分散関係に従わない大きな波数を持ったフォトンが放出され、その結果多様な波長のフォトンが検出される。これを2値化して複雑なパターンを得ている点は評価できる。さらに、多様な波長のフォトンを2値化して複雑なパターンを得ることを達成しており、複雑なパターン再現性や認識デバイスの開発に関した特許を取得している。今後は、応用を考える上でも励起エネルギーとの関係の結果が期待される。
表面プラズモンによる磁気光学効果の増大を用いた高感度バイオセンサの開発 秋田県産業技術センター
山根治起
秋田県産業技術センター
千葉隆
本研究課題では、表面プラズモンによる磁気光学効果の増大現象を利用することで、高感度かつ低ノイズでの検出が可能なこれまでに無い新たな高性能バイオセンサの開発を最終目標として研究開発を行った。
バイオセンサで一般に用いられている全反射減衰法に基づく光学系配置を磁気光学測定に適用した新たな評価システムを構築することができた。本システムでは、垂直磁場が印加可能な電磁石中に置かれた試料に対して、測定光を5μm程度に集光可能であると共に、測定光を反射、入射角度可変、および、透過光学系での磁気光学特性が測定可能である。さらに、微細加工を使った磁性フォトニック結晶の作製など磁気光学性能の向上に必要な基盤技術を確立することもできた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新たなシステムが構築されており、性能確認も行われ、期待どおりに評価システムが完成したことは価できる。一方、技術移転の観点からは、システムを完成させ、バイオセンサの検出感度の向上に取組み、今後の性能向上に必要な基盤技術を確立している。今後は、残された課題である感度を、今回得られた成果を基に達成されることが望まれる。
非金属柔軟物体用硬さ計測センサシステムの開発 秋田県立大学
高梨宏之
秋田県立大学
石川直人
本研究課題は、荷重および変位量の直接計測が不要な硬さ計測センサの開発を行うものである。2枚のひずみゲージと、硬さの異なる円筒と円筒内に置かれた円柱状ゴム、および円筒基部である薄肉円板から構成され、柔軟対象物の硬さを定量的に計測するセンサの計測精度改善を目指すものである。性能改善後のセンサを用い、携帯可能な「硬さ計測システム」として、センサの実用化に向けた試作機を製作し、実用化に向けた改善点の検討などを実施する。試作する測定器の利点は、ヤング率という統一指標で硬さを評価する点である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にセンサー構造の改良の課題については、ほぼ目標を達成していると評価できる。一方、技術移転の観点からは、医療用、農業用、食品用など応用範囲は広いが、開発段階では計測対象を明確にして、得られた計測データを関連専門家に評価・採用をしてもらうことが望まれる。今後は、さらに、連携・共同研究先(企業等)を早急に決めるて、対象を明確にした実用化に進むことが期待される。
高速・大容量磁気記録デバイスの実現に向けた高機能ルチル型CrO2薄膜の低温・高品位合成 秋田大学
吉村哲
秋田大学
伊藤慎一
本研究課題の目的は、研究者が有効性を示したスパッタンリング成膜中に弱い高周波(VHF)プラズマを照射する新たな手法を適用し、ルチル型CrO2薄膜をこれまで実現不可能であった生産プロセスに適合し得る条件で合成することである。CrO2は、高スピン分極率・高磁気異方性・低飽和磁化などの他には無い物性を有しており、磁気記録デバイスの性能を飛躍的に向上させる可能性がある。この薄膜の形成には結晶化・酸化の促進が重要であり、上記のプラズマ照射に加え、酸化力の強い酸化種を励起するプロセスの検討も行う。本研究により確立されたCrO2薄膜の合成手法の技術移転により、高性能磁気記録デバイスの形成が現実のものとなる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも作製した薄膜の磁化はまだ小さく、単相形成までには至っていないが、成膜法を確立するという当初の目標は概ね達成された点は評価できる。一方まだ基礎研究段階であり成膜速度、酸化促進、結晶化促進などを検討することにより単相の実現を目指している。今後は、技術的検討やデータの積み上げによる着実な進展が望まれる。また本技術の目標が達成された場合、広範囲の応用が可能なことから、実用化への可能性を高めていくことが期待される。
ヘテロ修飾構造を有するFePtナノドットパターンと超テラビット記録 秋田大学
石尾俊二
秋田大学
伊藤慎一
超テラビット磁気記録を目指してFePt/FeCoドットパターンの研究を行った。まずFePt膜作製→急速加熱熱処理→リソグラフィー/イオンミリング→再熱処理からなるパターン作製プロセスを開発した。次いでFePtドット群について、ドットの結晶構造と磁気特性の相関を調べた。L10規則度と[001]配向性に優れたドットの反転磁場は50-60kOeであることを明らかにした。FePtドットにFeCoを積層したFePt/FeCoドットパターン(ドット直径:15~100nm、FePt厚:6nm、FeCo厚:1~2nm)を作製した。FePt/FeCoパターンの保磁力は約30kOeであり、FePtの保磁力50-60kOeより低下し、磁化反転プロセスは活性化体積の磁化反転―>磁壁移動によるドット磁化反転であると結論した。実用性を考慮し、FeCo層の最適化により保磁力を20kOe以下とし、また熱磁気書き込みに有効な温度特性を有するFePt/FeCoビットパターンの開発を継続する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。FePt/CoFeヘテロドットパターンを、電子ビームリソグラフィ、イオンミリングを用いて作製し、磁化特性を評価した結果、反転磁場をFePtのみの保磁力(50-60kOe)のほぼ半分の30kOeに低下させることに成功し、磁化反転現象が、磁壁移動によるドット磁化反転であることを明らかにした点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、成果が纏まった時点で、特許出願をすることが望ましい。すでに複数の企業との連携を進めており、今後の発展が期待される。
回転逆さコーン外表面の液膜上昇流およびミスト分散を利用して液混合と酸素の高効率供給を可能にする新規バイオリアクターの開発 秋田大学
後藤猛
秋田大学
伊藤慎一
微生物による生理活性物質の効率的な生産には細胞の高密度培養が有効であるが、その最大の障害は呼吸量に見合う酸素の供給である。本研究では、頂点部を培地に浸漬して高速回転させた逆さコーンの外表面に形成される液膜からミストが放散される現象を利用し、培地の撹拌と酸素の供給を効率的に行う新規バイオリアクターを開発することを目的としている。逆さコーン撹拌器を有するバイオリアクターを試作し、種々の条件における酸素の液境膜物質移動容量係数を解析した。大腸菌の培養挙動の解析から、本バイオリアクターは培養細胞に対して低ストレスであり、脆弱な細胞の培養に適していることが分かった。今後はせん断応力に弱い放線菌による抗生物質の生産を試み、実証研究に向けた基礎データを取得する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、逆さコーン撹拌器を有するバイオリアクターを試作し、大腸菌の培養挙動の解析から、本バイオリアクターは培養細胞に対して低ストレスであり、脆弱な細胞の培養に適していることが明確になったことは評価できる。一方、目的とした二次代謝産物生産菌・放線菌での実証がなされておらず、研究成果に基づく新規特許出願もなされていない。この点での、計画の完遂が必要と思われる。今後は、コーン形状やバイオリアクター構造のさらなる最適化、さらには放線菌を用いた抗生物質生産の実証研究を迅速に進めることが望まれる。
モーションキャプチャを用いた舞踊の動作習得、学習支援装置の開発 秋田大学
松本奈緒
秋田大学
伊藤慎一
本研究課題の目的はモーションキャプチャを用いた舞踊動作習得のための学習支援装置を開発することである。本システムによって、学習者の舞踊動作データのリアルタイム処理による画像表示が可能となり、また、人工知能型アルゴリズムによってすでに取得してある熟練者の動作データとの比較を行うことにより、動きのできばえを点数化できる。さらに、動きのどの部分が異なるのかをすぐに把握することができ、その部分を繰り返し観察することができる。本学習支援装置を完成させるために、トライアル版を作成し、装置を用いて実際に学習者が学習を行う評価実験を行い、その結果明らかとなった限界点を踏まえ、装置を改良した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、熟練者―学習者比較の差異の大きな動作自動抽出・表示システム、練習システムの開発が最も難しいと思われたが、3名による実験評価によって、点数表示相違ポイントを表示し、実用化への課題も的確に抽出できたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、技術移転のためにブレークスルーすべき課題も明確になり、現状の技術を改良し企業化に繋がることが望まれる。今後は、連携先の企業を見つけて、ユーザビリティ等を改良し、実用化に進むことが期待される。
自律的で自由自在に水面を移動できる新しい推進機構を備えた回転円すい浮体式水質浄化装置の開発 秋田大学
足立高弘
秋田大学
佐藤博
閉鎖水系で水質を浄化するために、水面に設置された浄化装置を水系内で自由に移動させる機構の開発を目的とした。 本研究では、回転円すい体の外表面に沿って液体が上昇し、ミスト流が発生する現象を利用した浄化装置に対して、ミストを生成する回転円すいを4個用いることによる移動機構を考案し、水系を自由に移動し同時にミストや循環渦を発生させる装置の開発を行った。実験機の作製とモーター回転数などの電子制御系統を製作して走行試験を行い、回転円すいが形成する渦の誘起速度場によって、実験機が前後に移動できることを確認した。また、このとき生じる渦と速度場を可視化実験により明らかにした。この機構を用いれば、水面を直角に曲るなどの移動機構を実現することが可能であり、センサーにより溶存酸素の少ない位置を探し出し、自律的に移動して水質を浄化するシステムの実現が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、回転円錐の4個を用いて小動力で移動できる装置で循環流やミストを発生させ、水質を浄化する試みは興味深く、円錐が回転しミストと表面水流を発生させることができたことは水質浄化への活用の可能性を示したものといえ評価できる。一方、技術移転の観点からは、モーター制御の精度の向上、動力費用等のコスト計算についての検討が望まれる。今後は、企業からのコンタクトもあり、企業化への可能性も高いと判断されるので、研究の進展が期待される。
テラヘルツ帯の電磁波による環境モニタリング技術の構築 秋田大学
水戸部一孝
秋田大学
佐藤博
安全安心な循環型社会の実現には、最終製品だけでなくリサイクル過程の生成物による生体影響のモニタリングが不可欠である。本研究の目標は、生体由来物質であるタンパク質をプローブとして、環境汚染物質が生体に及ぼす影響をテラヘルツ帯の電磁波の吸収スペクトルにより定量する「環境モニタリング技術」を構築することである。本事業では、線幅4GHz以下で計測する指紋スペクトル技術を構築し、タンパク質の指紋スペクトルを明らかにすると共に、小型軽量なTHz光源を用いて電気泳動後のタンパク質の分布を非染色で可視化する技術を構築した。今後、サンプル数を増やすことで外部ストレスが指紋スペクトルにおよぼす影響の再現性を評価する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。タンパク質プローブの可能性を示す有益な知見が得られたことに関しては評価できる。一方、「環境モニタリング技術」の構築に向け、サンプリング数を増やして外部ストレスが指紋スペクトルに及ぼす影響の再現性を評価するなど本モニタリングシステムの優位性を証明することが必要と思われる。今後は、タンパク質の固定化プロセスの最適化、タンパク質及び外部ストレスの量および種類を変えた場合のスペクトルの評価などが行われることが望まれる。テラヘルツ波の活用に対する期待は大きいが、その実現は今後の研究の進展にかかっている。
新規ホイスラー型形状記憶合金を用いた超磁歪アクチュエータの開発 龍谷大学
左近拓男
龍谷大学
真部永地
新しく開発された形状記憶型ホイスラー合金の超磁歪材料としての機能性を評価しながらナノテクノロジー分野に展開できる磁気アクチュエータや振動子を開発し、実用に向けた物性評価を行なう。これまでに開発されたTerfenol-D超磁歪材料では大気圧下では0.08%、一軸応力下では最大で0.2%の磁歪が発生するので、これを越える歪み量を目標とする。アクチュエータや振動子として利用するためには交流磁場への応答性を確認する必要がある。交流磁場を発生できるパルス強磁場磁石装置を用いて磁場誘起歪みの高速応答性を確認する。応用的には10 ナノメートルの精度で位置決めが可能なナノラボ用ステージの駆動装置を目標とする。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にNi2MnIn単結晶で3%の磁歪を観測し、交流磁場による新規ホイスラー合金の磁気アクチュエータとしての原型を製作することができたことから、ほぼ目標が達成された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、医療機器メーカや精密機器メーカとの連携を目指しており、早い段階での企業との共同研究が望まれる。今後は、定量的な測定とデータの蓄積を行い、具体的な応用展開につながることが期待される。
グリーンケミストリーを指向した低環境負荷型グラフェン液相合成法の開発と透明導電膜への応用 山形大学
沖本治哉
本研究では、高導電性材料であるグラフェンの液相合成法の開発を行なった。従来の液相合成法は、強力な酸化剤を使用する方法が知られている。しかし、試薬の環境への影響やグラフェンへの過剰な反応を制御することが難しい。そこで、電気化学的な合成手法を開発し、中性条件下において、強力な酸化剤を使用しないグラフェン液相合成法を確立した。また、従来法では、グラフェンが修飾されるのに対し、本方法により作製したグラフェンの化学修飾量は、従来法に比べ極めて少ないグラフェンが合成された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に作製方法や基礎材料の観点からは興味深い結果が得られている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、ディスプレイ技術や様々なエレクトロニクス分野での技術開発において透明導電性材料の重要性が高まっていることから、ドーパントの探索など本材料のさらなる技術開発の進展を積極的に推進することが望まれる。今後は、グラフェン膜については競合が多く、特徴とする電気化学反応過程の検証も含めて検討が望まれる。
塗布型透明導電膜製造プロセス基盤技術の開発 山形大学
松田圭悟
山形大学
加藤博良
高度情報化社会の実現に伴いフレキシブルディスプレイや電子ペーパーといった新規デバイス製造のために必要となる印刷エレクトロニクス製造プロセスの開発が求められているが、導電性インク塗布によって形成されるこのプロセスの支配因子は明らかになっていない。申請者はこれまで撥水性をコントロールした透明導電膜基板形成に成功しており、本申請課題では塗布型透明導電膜製造プロセスを開発するためこの技術を用いて、1)撥水性と導電性インク液滴の濡れ性、2)撥水性と導電性インクの乾燥特性、3)撥水基板上における導電性インク塗布膜形成メカニズムを明らかにし、当該技術の実用化を目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標である、導電性インクに対して150度の接触角(超撥水)、粒子構造体のCV値が10%以下はともに達成された点は評価できる。一方、CV値を目的関数として接触角、乾燥速度を用いた多変数最適化手法による予測精度±20%モデル作成については、多くの実験データにより傾向を明らかにしたが、まだ十分で結果は得られていない。しかし課題と次の展開は明確になっている。今後は、課題を解決して、技術の完成度を高めることで、技術移転に進展することが期待できる。
超音波マイクロバブルを用いた金属ナノ粒子生成法の開発 山形大学
幕田寿典
山形大学
歌丸和明
本研究では、水と溶融金属の液液二相の界面近傍において、比重が重い溶融金属相から超音波でマイクロバブルを発生させると、溶融金属相から水相に溶融金属が飛び出して微細な溶融金属液滴が形成し、1μm以下の金属粒子が容易に生成することを見出した。この手法では数百nm オーダの金属ナノ粒子を容易に得ることが可能である。本研究期間においては、生成条件の最適化を行った結果、超音波出力の増加によってマイクロバブル発生量が増加し、それに伴って微小液滴の飛び出しが誘発されることで、平均粒径185nm以下および収量261mg/L(目標:平均200nm以下および収量100mg/L以上)で金属ナノ粒子を調製することに成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、水と溶融金属の界面近傍で超音波によってマイクロバブルを発生させ、溶融金属の微小液滴の飛出しを誘発し良質な金属ナノ粒子を生成する技術開発において、目標値の平均200nm以下および収量100mg/L以上の金属ナノ粒子形成に成功していることは評価に値する。一方、技術移転の観点からは、本方法による金属ナノ粒子を応用した実用的新コンポジット材料の創成などの技術移転には、未だかなり時間を要すると思われるが、溶融金属微小液滴の形成メカニズムの解明、適用する用途の絞り込みを通じて、実用化に進むことが望まれる。今後は、実用化に向けて積極的に企業とマッチングをはかり、金属ナノ粒子単体やコンポジット材料の具体的な特性を生かした開発に進むことが期待される。
単結晶圧電トランス方式の小形軽量・高効率ACアダプタの実用化に向けた研究 山形大学
廣瀬精二
山形大学
加藤博良
電磁トランスに代わって、圧電単結晶LiNbO利用の小形軽量高効率圧電トランスを用いたACアダプタについて、残された課題の解決を計って技術移転を目指し研究を行った。具体的には、(1)超音波振動部品である圧電トランスを確実に支持・固定を行うため、有限要素法解析を行い、支持・固定位置の検討を行った。(2)圧電トランスを高効率で駆動するスイッチング回路や制御回路の設計・製作を行い、電力効率の測定・評価を行った。技術移転につなげるには今後、さらに残された課題、すなわち実際的なマウント方法や最適な駆動方法などの検討を行う必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、圧電トランスのインピーダンスが高く、電圧変換は容易でも、電力変換が困難という事が明確になった。この点で圧電トランス方式そのものの実用性が強く限定されることが判明した。電圧だけの変換がどれほどの意味があるか再検討の必要があり、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、従来の様々な変換方式に比べて圧電方式の優位性について見極める必要がある。
非接触型表面抵抗率測定法を用いたプラスチック塗膜評価装置の開発 山形大学
杉本俊之
山形大学
歌丸和明
当該研究者が既に開発した非接触型表面抵抗率測定法を塗料の塗膜評価に応用し、塗料開発や塗装工程において、塗料を塗布した直後のウェット状態から溶剤が揮発して硬化に至るまでの硬化状態を非接触で定量評価できる装置の開発を行った。この装置は、塗膜の表面から1mm程度離して設置し、塗膜の一部にコロナ放電によるイオンを供給しながら、表面における電荷の移動を表面電位計によって非接触で測定するものである。表面電位の計測値を用いて、塗装直後の状態を0、指触硬化を1、指触乾燥を5とした評価指標の算出法を確立し、破壊試験である鉛筆硬度との間に相関関係を見出すことができた。また、計測時間を1分以内で行うことができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、非接触で塗膜の乾燥状態を、塗膜の種類にかかわらず数値評価できる目途が立ったことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、一番の課題は、大型化に対する対応であると考えられ、解決が望まれる。今後は、早急な知財化・事業化が期待される。
全方向駆動歯車により超適応性を実現する動力伝達機構の開発 山形大学
多田隈理一郎
科学技術振興機構
木村恒夫
本研究開発においては、任意の曲率を持ち、曲面に沿った任意の方向に駆動可能な、実用的な全方向駆動歯車を開発することを目標とする。この全方向駆動歯車の歯の最適な形状・構造・材料を明らかにし、歯車同士の噛み合い・スライドが十分に滑らかに行われるようにした上で、安定した大動力伝達を可能とする。当初予定していた厚さ19mmの平面型全方向駆動歯車機構を、超々ジュラルミンA7075を用いてモジュール0.5で製作することに成功し、ロボットアーム先端の平行グリッパの指部分に取り付けることが出来たため、この目標は十分達成できたと言える。今後の展開としては、全方向駆動歯車を、大きな曲率を持つ曲面にも適用して、様々な機器に動力を付加し、製品化を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、要素技術だけでなく、全方向歯車を備えた平行グリッパをロボットアーム先端に取り付けたハンドリングシステムの実験にまで至っており、当初目標の達成はほぼ成されていると評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業化時点で重要になる耐久性に関する検証は重要であり、今後さらに継続することが望まれる。また、学会発表を進めることにあわせて特許出願を進めるべきである。今後は、本技術は企業の協力のもとで小型化、経済性に関して可能性が見えており、企業化における課題を具体的に解決し、市場性調査を進め商品化を検討することが、期待される。
Petal Effect機能を応用した電力不要で安定な集水膜および集水装置の研究開発 日本大学
西出利一
日本大学
松岡義人
Petal Effect機能を応用して、空中の水分を捕集する電力不要の集水膜および集水装置を開発した。Petal Effect機能を発現するヒドロキシ酸およびアミノ酸含有ハフニア薄膜を作製し、撥水性、水滴の保持性および滑落性を調べた。その結果、グリシン含有ハフニア薄膜が、高い水滴保持性と良好な滑落性を示したので、主にこの薄膜を集水膜として検討し、水捕集性を簡易集水評価装置で調べた。水捕集性は集水板の傾斜角度によって変化し、その中でも3種類の傾斜角度のとき、水捕集量は多かった。この結果に基づき、傾斜角度の異なる3種類の集水モデル機を試作して、集水性を調べたところ、簡易装置とほぼ同様の結果が得られ、良好な水捕集性を示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標はPetal Effectを利用した集水膜の開発と集水装置の開発であったが、グリシン含有ハフニア膜により一定の集水性が得られていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、この技術の応用による製品像とその市場を明確にして進めることが望まれる。今後は、市場、環境雰囲気、装置規模(大型化)を想定した、実用化に向けての検討が期待される。
放射性物質除去を目的とした屋根洗浄ロボットの開発 日本大学
遠藤央
日本大学
松岡義人
本研究開発では、福島第一原子力発電所事故により拡散された放射性物質の除去を目的とした装置開発を目的としている。具体的には除染技術の提案、試験及び改善が急速に進められている路面の除染に対し、技術開発が遅れている屋根の除染に着目し、ロボット技術を応用した除染装置を開発している。この技術により高効率の除染及び作業者の安全確保を実現する。平成23年度末までに洗浄機構の設計及び製作、組立を行い、それに実装するアルゴリズムの試作を行った。平成24年度にはアルゴリズムの実装を行い、センサ情報に基づいた洗浄技術の確立及び、それを実現する装置の設計論をまとめる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、屋根洗浄を行うロボットのプロトタイプを製作・評価し、制御手法も開発しているので、概ね目標が達成されたと評価できる。また、「除染された洗浄水の回収」など、発生重要な問題に対して、ノズルに洗浄水吸収カバーを取り付けるなどの工夫もなされている。一方で、技術移転の観点からは、ノズルに洗浄水吸収カバーを取り付けた状態で洗浄面間距離を誤差±1mm、応答速度10ms10mmに保持することが可能かの検証が、望まれる。また、移動機構についても、洗浄機構に装着される高圧水用ホースや洗浄水回収用ホースなどを考慮した位置決め技術の開発が望まれる。今後は、複島県が制定した「福島県復興計画重点プロジェクト」の中の、環境回復プロジェクトに参画するなどの企業との具体的連携の中で、復興に役立つ実用化を目指すことが、期待される。
高効率・安定電力供給を実現する低コスト風力発電システムの開発 日本大学
天野耀鴻
日本大学
松岡義人
本研究開発の目標としては、まず風速センサーで測定した自然風速から最大発電の回転数を算出し、最適角速度と最適電流を求める。次に最適角速度と最適電流から風力発電システムの状態方程式を導出し、最適レギュレータを開発して最大風力発電が得られるように最適なコントロール信号を決める。そして、PWM制御を通してデバイスMOSFETのデューテー電圧信号を変化させ、風力発電機の負荷電流を変更することによって、発電機の回転数を最大発電の回転数に素早く追従できるようにし、高効率風力発電を達成する。更に、実用化に向けて技術移転可能な風力発電システムを構築し、実機実験により本研究開発成果の有効性や実用性などを検証する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、低コスト風力発電システムを開発するために、風速計測および回転計測装置をカットした最適レギュレータを開発し目標としている経費削減可能なシステム構築が達成されているのは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、自然風速で最も課題となる大変動に対してフォローできる安定なシステムとして稼働可能か、従来手法との比較も含めた検証により、有効性を実証することが望まれる。今後は、企業と共同で研究開発を進めた方が、産業界への展開が速やかに展開できると思われるので、共同研究に進展することが期待される。
高速レーザめっき法によるLEDモジュール用フリップチップ実装技術 茨城大学
前川克廣
本申請課題では、高輝度LEDモジュールへの適用を目指し、金ナノ粒子ペーストのレーザ焼結技術を用いたフリップチップ(FC)接合用はんだ下地機能性膜製造方法の開発を進めた。ニッケルめっき膜上に塗布した金ナノ粒子ペーストに、近赤外領域の波長のレーザを集光照射することで、膜厚0.5μmを超える金焼結膜の形成を確認した。金焼結膜のはんだ濡れ性は高くないものの、90°曲げ試験において、はんだは剥離しなかった。以上のことから、本研究開発の達成度は7割と考える。
今後は、シーズ顕在化タイプなどへの助成金に応募し、課題である局所的FC接合用パッド形成のためのIJ印刷技術の確立、焼結条件の最適化などを実施していく。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、金ナノ粒子の局所印刷とそのレーザ焼結において、膜厚0.5マイクロメートルを達成した点は評価できる。一方、今後の技術課題としても焼結メカニズム等についての解明が明確化されており、検討やデータの積み上げが必要と思われる。今後は、技術移転の候補となる研究成果は十分にあり、企業との連携も円滑に進められているので、実用化に向けて新たな展開が望まれる。
サブ波長金属縦壁構造によるテラヘルツ波帯光学素子の開発 茨城大学
鈴木健仁
現在、0.1-10THz付近のテラヘルツ波帯では、光源や検出器とともに、光学素子が発展途中であり、充実が求められている。代表的なテラヘルツ波帯のレンズとしては、屈折率n=1.52の高密度ポリマーレンズ、n=1.56のTsurupicaレンズ、n=3.41のシリコンレンズがあげられる。レンズの屈折率を電磁メタマテリアルにより制御できれば、設計の自由度の増大と産業応用の面での意義が大きい。本研究では、金属溝周期構造(コルゲーション)による遅波構造を用いたレンズの提案、及び解析によりテラヘルツ波帯での集光効果と金属溝周期構造のパラメータによる焦点距離の変化を確認した。波長に対して大規模なレンズの周期モデルによる設計に向け、周期モデルの位相遅れと全構造解析の焦点距離の変化の定性的な一致も確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に解析で有効性を確認して要素の金属周期構造の作製に成功して当初の目標を達成した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業と共同研究を進めるとのことであり、高性能のテラヘルツ帯のレンズを実用化することを期待する。今後は、解決できなかった課題の整理と解決に向けた研究計画の再検討を行い、実用化に向けた研究が望まれる。
プラズマ制御による多接合PVの効率向上に向けた広帯域透明導電膜の低抵抗化 茨城大学
佐藤直幸
茨城大学
宇都木勲
効率40%を超える多接合太陽電池を実現するには、紫外光から近赤外光に亘り透明で15Ω/□以下なる広帯域の透明導電膜が必須である。本研究開発では、亜鉛-酸素の混合プラズマの特性を高度に制御することにより、アンドープの酸化亜鉛材料でも広帯域(370~2100nm)で高い光透過率(> 84%平均)を満たし、再現性を高めて15Ω/□以下までの低抵抗化に成功した。更に安定した高密度の混合プラズマを生成し、プラズマと基板の間の電位差を制御すれば(特開2010-261084)、試料基板を衝撃するイオンのエネルギーを適切に保てるので、酸化亜鉛の結晶性が高まり移動度が向上して近赤外領域でも更なる抵抗の減少が期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。研究実施過程が詳細に示されているが、目標の一つである最適プロセス条件が示されていない。今後は、基礎研究の継続としての課題のみでなく、技術移転に関する問題点について明確にする必要があると思われる。当初の目標が未達成のため、目標の妥当性と、進める上での課題と見通しについて詳細に再検討することを望みます。
機構特性を考慮したホイールローダの半自律制御を利用した遠隔操作手法の開発 茨城大学
城間直司
茨城大学
園部浩
本研究では、センサで周囲環境中の障害物の存在しない作業可能領域を検出し、人が安全な遠隔地より与えたその領域内でのホイールローダの初期位置姿勢から目標位置姿勢までの大まかな経路情報をもとにしたホイールローダの半自律制御の実現を目指している。ホイールローダ全周囲の2次元環境形状情報を操作者へ提示し、直線および円弧経路情報を簡易に与えることができる操作インタフェイスの開発、操作者より与えられた経路情報をもとにその移動を実現するホイールローダの半自律制御の開発を行った。直線や円弧経路情報およびそれらを組み合わせた経路情報指示による直感的な操作でホイールローダの遠隔操作が可能なことを実験により明らかにした。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初の目的を1/10モデルの試作機を使って、実験室レベルで実現した点は評価できる。実際の環境での課題も多くあると考えられるので、試作機の課題と、実環境での課題を整理して、本システムがどの程度有効であるか見極め、実用化のための指針とすることが望まれる。
リアルタイム亀裂検出システムの開発 茨城大学
堀辺忠志
茨城大学
高木宣輔
本研究の目的は、打撃加振の応答から構造部材内に存在する欠陥を非接触かつ高速に検出するシステムの開発である。さらに、本研究では、欠陥検出精度向上のために、複数のセンサを組み合わせるとともに得られた固有振動数にマハラノビス判別法を適用し、より高精度な欠陥検出システムを開発することである。その結果、複数センサ信号処理システムの構築、判別システムの開発が達成された。このシステムを、亀裂を有する平板に適用したところ、判別精度の向上が見られた。今後は、複雑形状をもつ機械部品への適用およびリアルタイム検出を要望している実際の生産現場での利用である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に非接触かつリアルタイムでのき裂検出システムの測定精度を向上させるという当初の目標は達成されていることは評価できる。この成果は技術移転につながる有意義なものと思われるが、現時点では新規特許出願等の具体化はなされていない。一方、技術移転の観点からは、企業が求めている小さな亀裂の検出に関して問題があり、今後の研究開発による精度向上が望まれる。今後は、共同研究先である自動車メーカーへの本検出システムの設置が予定されており、メーカー側の協力を得ながら技術移転につながるより有意義な成果が得られることが期待される。
マイクロ固体酸化物形燃料電池のための選択的電極・電解質膜形成技術 茨城大学
山崎和彦
茨城大学
石川正美
本研究課題は、レーザ焼結法を用いたマイクロ固体酸化物形燃料電池のための選択的電極・電解質膜形成技術の確立を目的とする。空気極材料のサマリウムストロンチウムコバルタイト粉末、もしくは燃料極材料のセリア系ニッケルサーメット粉末と、造孔剤、高分子バインダを加えてそれぞれのペーストを作製し、セリア系電解質基板上に塗布、仮乾燥を行った。その基板を加熱しながらレーザを集光照射したところ、走査パターンに対応した多孔質電極膜が形成した。また同様の手法を用い、セリア系電解質粉末からバルク電解質膜の形成にも成功した。しかしながら、焼結膜と基板内部のクラックの抑制、それぞれの膜の電気特性の評価などが今後の課題となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に基本である密着性向上の対策として造孔材の適用、基板の加熱により目的を達成した点は評価できる。一方、焼結面の目標面積、50mm×50mmmはまだ達成できていない。技術移転の観点からは、燃料電池は今後も需要が増えると予想され、その開発は社会的に役立つものと考えられる。今後は、課題が明確に示されており、所期の目標の達成が期待される。
カラー電池素子の開発 筑波大学
守友浩
筑波大学
根本揚水
本研究開発の目的は、プルシャンブルー類似体薄膜を用いたカラー電池素子の技術移転の可能性を示すことである。研究開発の結果、(1)単位面積当たりの容量の向上(0.36mAh/cm2)、(2)単位重要あたりの容量の向上(140mAh/g)、(3)超高速放電レート(3000C)、(4)遷移金属の置換によるカラーバリエーション、を実現し当初目標をは充分に達成できた。特に、3000Cという放電速度は既存材料では達成できない速度であり、2012年3月15日に毎日新聞全国版等で報道された。今後は、薄膜電極の性能を粉末試料への転写、および、ナノ粒子化された厚膜の作成を目指す。さらに、元素戦略の観点から、ナトリウムイオン電池への展開、および、ポリマー型材料への展開を図る。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、電池の容量の増大化、カラー表示など目標としていた成果が得られ、2件の特許出願されたことは、評価できる。実用化へ向けた課題が残されているが、長中期の研究計画を立てて、実用化へ向けて課題解決へ取り組む姿勢が見られる。現在、技術移転先は決まっていないものの、DVDを作成して広報宣伝活動を積極的に行うなどの姿勢は好感が持てるが、できれば、ターゲットとなる企業の意見も交え、連携により開発を進めることで、効率よく事業化に結び付けられることを期待する。
酸化還元反応を利用した熱電変換素子の開発 筑波大学
小林航
筑波大学
根本揚水
本研究開発の目的は電気化学ゼーベック効果を利用した薄型熱電素子において、(1)1mV/K程度のゼーベック係数を得ること、(2)室温において性能指数ZT=10-3程を達成することであった。本研究によりLiCoO2電極において約1mV/Kの電気化学ゼーベック効果が、LixC6電極において約0.25mV/Kが得られた。またこのLixC6電極のゼーベック係数を用いて得られた性能指数は10-4となった。本研究の知見をいかしさらに大きなゼーベック係数を有する材料の開発を行うとともに、室温付近の廃熱を安価に電力に変換できる素子の作製を企業と共同で行っていく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもコバルト酸化物でほぼ1の目標を達成でき、グラファイトでのゼーベック係数で有望な値が得られている点は評価できる。一方、リチウムイオン電池の材料を用いた場合の、熱起電力の発生について基礎的に実証、検討されて可能性を示している。これにより、企業との連携の可能性が見えて、デバイス化への期待がある。企業からの問合せもあるので、より実用的デバイス化への課題解決に向けての連携した取組みが想定される。今後は、研究内容でリチウムイオン電池の電極材料に充放電をさせた材料でのゼーベック係数を測定しているが、リチウムイオンの吸脱着による材料変化の特性と熱起電力特性などの検討も進めることが望まれる。
バイオマス由来溶媒を用いたボンド磁石からのネオジム回収技術の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
加茂徹
独立行政法人産業技術総合研究所
小林悟
粉状のネオジム磁性材をエポキシ樹脂で固めたボンド磁石を400℃以上で熱分解しても残渣が多く、しかも回収した磁性材は高温で磁気特性が劣化して再利用できなかった。
提案者らは、バイオマス由来の安価な溶媒中でエポキシ基板を常圧下200~300℃の穏和な条件下で可溶化し、有用金属を回収する共に可溶化物を熱分解して溶媒を再生させることに成功した。また最近の予備実験で、ボンド磁石が200℃で可溶化できることを見出した。本研究ではこの新しい知見に基づき、ボンド磁石の製造工程で排出される端材をバイオマス由来の循環溶媒中で可溶化し、ネオジム磁性材の磁気特性を劣化させることなく工場内で再使用できる技術を開発する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ネオジウム磁性材の磁気特性を低下させることなく可溶化する方向性が見いだされ、今回の目標はほぼ達成されたことは評価できる。特許出願について視野には入れているが、まだ出願はされていない。一方、技術移転の観点からは、実用化にはまだ課題が多いと思われるが、実用規模装置での検討などが計画されており、進展が望まれる。今後は、具体的な企業との連携が進められているので、実用化による社会還元が期待される。
熱画像装置を用いた放射率補正型デバイス発熱モニタの開発 独立行政法人産業技術総合研究所
石井順太郎
独立行政法人産業技術総合研究所
切田篤
本研究は次世代の高集積化半導体デバイスやパワーエレクトロニクスデバイスの研究開発において鍵を握る、デバイス内の発熱モニタリング技術の可能性を検討することを目的とし、熱画像装置の放射温度測定適用で課題となる未知の放射率に関する新しい補正方式の適用検討を行った。温度測定精度に関しては薄膜熱電対を測定対象とした評価試験を実施、目標不確かさの 1℃が達成されることを確認した。時間応答に関しては目標とする 10kHz 以上を達成する方法を検討、高速応答性を有する他の温度測定手法との組合せとして反射測温と組み合わせることで十分な応答速度が得られる見通しを得た。空間分解能に関しては評価用の専用デバイスを今後製作し評価する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも温度測定精度に関する目標が達成できている点は評価できる。一方、今後の計画については具体的に検討されているので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は当初の目標を達成し、特許等の知財を確保した上で応用展開すれば、技術移転につながり社会還元に導かれることが期待される。
樹脂封止を必要としない次世代の超高出力GaN系LEDの開発 独立行政法人産業技術総合研究所
王学論
独立行政法人産業技術総合研究所
名川吉信
本研究の目的は、我々が独自に開発した微細リッジ構造におけるエバネッセント光の結合効果に基づく光取出し技術を利用した超高出力GaN系LEDを実現するための第一歩として、GaN表面上への微細リッジ構造の形成プロセスを開発し、エバネッセント光の結合による取出し効率向上効果を実証することである。研究では、シリコン酸化膜およびフォトレジストをマスクとして用いたICPエッチングプロセスを開発し、エバネッセント光の結合効果の発現が十分可能なGaNリッジ構造の作製に成功した。作製したリッジ構造試料は平坦表面試料に比べて2.7倍も強いフォトルミネセンス発光を示し、エバネッセント光の結合による取出し効率増大効果が実証できた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、樹脂封止を行わず、微細リッジ構造を使い、エバネッセント光結合によるGaN-LED取り出し効率の向上に成功している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、当初掲げた定量的数値目標は未達成であるが、微細リッジ構造形成プロセスの開発には成功しており、技術移転をめざした産学共同等の研究のステップにつながる可能性は高まったと判断される。今後は、次のステップにつなげるための技術課題をより明確にして、さらなる成果が期待される。
木質ボードのパンクを防止するための側面空気噴射装置の開発 独立行政法人森林総合研究所
高麗秀昭
独立行政法人森林総合研究所
林知行
連続プレスで製造する木質ボードの製造中に発生するパンク防止技術を開発した。プレス中にボード内部に発生する水蒸気がパンクの原因であるが、この水蒸気を効率的にボード外部に放出してパンクを防止できるようにした。本技術によりパンクが防止でき、ボードの生産性が飛躍的に向上できることが期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、申請時の目標である、開放式プレスを用いて側面噴射装置を開発すること、それを用いたボード製造の確認、及び製造したボードの性能を評価することの3点について、その目標はほぼ達成されたことは評価できる。噴射条件、ボード製造条件、及びボード性能評価試験の結果が明確にされている。一方、技術移転の観点からは、実大規模での実証試験の必要性が一部で検討されているが、具体的には記述に至っていない点、特許出願に至っていない点は、今後の実施が望まれる。今後は、技術移転を目指した企業との連携が検討されているので、実際の製造ライン(連続式プレス)に導入できるように、実証試験を進めることが、期待される。
同時計測法に基づく多重蛍光X線分析法の開発 (独)日本原子力研究開発機構
大島真澄
科学技術振興機構
中島広子
現在、農産物・食品中の有害物質が人体に悪影響を及ぼすことが非常に懸念されている。そのために我々は有害重金属の迅速・高感度の分析機器として、同時計測法に基づく多重蛍光X線分析法の開発を行った。同法により蛍光X線スペクトルのS/N比は17-40倍改善し、定量限界値は、目標値(10ppm)より2-3倍程度悪いものの、同じオーダーとなり、ほぼ目的を達成することが出来た。しかしながら、従来法ではこれより良い定量限界値となり、測定法に改善の余地があることが分かった。次に、食品中の放射能検査の実分析を行った結果、現場における実分析には10分程度以下の分析時間が望まれること、測定結果が、国が示した規制値以上の場合は出荷停止、それ未満の場合はHP等で情報提供するという対応が望ましいことがわかった。 当初目標とした成果が得られていない。複数の検出器を3次元的に組み合わせた方法を取り入れたが、十分な感度を得るに至らなかった。重金属が迅速かつ高感度に測定できるようになれば、社会的貢献も期待されるが、検出器を数多く用いて高価になっても改善が見られないのは問題である。基盤的な技術から再検討することが必要である。
金属材料の塑性変形の歪み分布を可視化するスマート光学コーティング 独立行政法人物質・材料研究機構
不動寺浩
独立行政法人物質・材料研究機構
中野義知
本課題はナノテクノロジーを活用して創製したスマート材料を社会インフラの安全性確保の1つである構造物ヘルスモニタリングへの展開を目標とした3研究機関による異分野融合プロジェクトである。それぞれの専門性を生かし、緻密な連携体制のもと材料設計、評価・計測、実装技術などの視点から既存にはない革新的な新技術(スマート光学コーティング)を開発した。PETシート上に形成したオパール結晶薄膜の構造色が歪みによって変化する新現象を歪みの可視化と歪み量測定へ応用した。また、試験片に実装する技術などを含め、その基盤となる要素技術を確立した。実用材料として技術移転を行うには、低コストで高品質なオパール薄膜の成膜技術(膜の結晶性・均一性)、既存の歪みゲージと同等の歪み感度を有する材料設計、実装時の環境による測定結果への影響に関する検証などが課題である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、歪量に応じて色調が変化するフィルムのポテンシャルを明らかにしている点、大面積化、効率的な評価法に関して進歩が認められる点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化の前提である大面積化や構造色の2次元評価に関して一層の進展が望まれる。今後は、機械部品や構造物の劣化診断などに用いられると期待されるので、計測技術も含め、コストや寿命など総合的な検討が進展することが、期待される。
ワンパルスアクティブリアクタンスによる新機能絶縁型電力変換回路 宇都宮大学
船渡寛人
宇都宮大学
佐々木智子
本研究開発プロジェクトの目標は、大きく以下の2つのテーマから成り立っている。 (1)改良型OPSACを用いた電界結合非接触給電システムの実験装置製作と実験検証。
(2)双対型D-OPSACの検討。
改良型OPSACについては、回路設計および基板設計が完了した。基板は外注も考えていたが、種々の条件を考慮の上、内製することとした。制御回路及び主回路は完成したが、実験の結果3段までの動作が確認できたが、4段以上は制御信号にノイズが混入する影響で動作できなかった。制御回路を雑音に強くするための改良を施し、当初予定通りの5段実現に向けて引き続き改良を続ける。D-OPSACについては、シミュレーション検討に成功して、双対型が実際の回路で実現できることが判明した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも開発する電力変換回路の実験装置が完成していないが、開発しようとしている回路の問題点は特定できている点は評価できる。今回の開発目標は未達だが、展開としてその応用を視野に入れた研究計画行っている。これらが達成できれば、他の提案回路に対する本提案回路の優位性が検証され、実用化へのステップへつながると考える。
合成ホログラムを原器とした自由曲面金型の形状計測・検査装置開発 宇都宮大学
茨田大輔
宇都宮大学
小野明
本研究課題では、工業部品や光学部品の表面形状誤差を大面積・高精度で高速に測定する方法を開発する。表面形状誤差は、被測定物体をレーザー光で照明したときの反射光波と原器となる計算機合成ホログラムから再生される光波を干渉させると、干渉縞として現れる。その干渉縞を解析すると、形状誤差を評価することができる。従来手法では、大面積を一度に計測するためには、それに対応した大きさをもつ原器を準備する必要がある。本研究では、原器として計算機合成ホログラムを用い、原器ホログラムの面積を広げずに測定範囲を大面積化を検討する。その方法として斜入射レーザー干渉計を用い、原器ホログラムが有用であることを示す。 当初目標とした成果が得られていない。原器ホログラムからの光波と被検光波の差が干渉縞として得られることが認められた程度である。狙いは悪くはないが、対象が大きすぎる感があり、先は長い。分波回析格子の利用や原器ホログラムへの効率良い光波の集積など、少し明るい材料も見受けられる。将来は新規測定機器として応用展開されるかもしれないが、現段階では不明である。
マスク検査用高輝度EUV光源の開発 宇都宮大学
東口武史
宇都宮大学
荘司弘樹
極端紫外 (EUV) リソグラフィーにおいて、マスク検査用光源がないことが指摘されている。マスクは多層膜形状であるため、従来技術の深紫外光ではマスク表面の欠陥しか調べることができず、マスク内部の欠陥を調べることはできない。EUV 光による欠陥検査が急務とされているものの、高輝度光源は未だに実現されていない。本研究では、要求されているマスク検査用高輝度EUV 標準光源を開発するための基本指針を得ることを目標とした。ドット状質量制限ターゲットを用いることにより、光源サイズが非常に小さい高効率の小型高輝度光源を実現するためのプラズマ状態の詳細な数値解析、高輝度化のための極小ターゲットの開発、放射スペクトルを観測すると共に、変換効率を評価するためのエネルギーメータを整備した。 当初目標とした成果が得られていない。現在研究中の光源開発指針は、従来法の延長上や EUV のダウンサイジングであり、新たなコンセプトのもとに仕様を満たすような光源を開発する必要がある。これまでの結果を生かし、早急に戦略を練り直すことが望ましい。目的に合致したEUV 光源が開発されれば、社会的貢献度はかなりのものとなろうが、先は長い。
ホログラフィック時空間レンズを用いたフェムト秒レーザー加工 宇都宮大学
早崎芳夫
宇都宮大学
荘司弘樹
本研究の目標は、伝搬光の6自由度(空間・時間・偏光・振幅)を操作する新手法を開発し、物質の光励起とその後の一連の物理現象を制御して、高効率な物質加工を行うことである。研究主題の一つである「ホログラフィック時空間レンズ」の基本特性評価は終了し、集光特性の優れる新タイプの「ラジアル時空間レンズ」の実証実験を進めている。また、並列加工の高密度化に関する実験的・理論的に検証 (Appl. Phys A掲載)、並列第2高調波発生による計算機ホログラムの最適化手法の考案 (Opt. Lett.掲載)、レーザー誘起現象の時間分解観測(Opt. Mat. Express掲載)等の学術的成果を得ると共に、3つの新しい共同研究を開始し、本技術の実用化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。フェムト秒レーザー加工は、その高い精度から、環境光デバイス製造工程の中で重要な役割を果たしており、ホログラフィック時空間レンズを用いた本レーザー加工技術はほぼ完成の域に達している。並列パルス技術は低エネルギーでの加工を実現している。レーザー加工の高速化、レーザー加工技術を中心とした空間光変調素子の新たな応用展開の掘り起し等、多くの企業と積極的に共同研究を始めていることが伺うことができる。近い将来、本技術の応用展開が図られ、社会への大いなる貢献が期待される。
低誘電率・薄型回路基板のミリ波複素比誘電率評価装置の開発 宇都宮大学
清水隆志
宇都宮大学
荘司弘樹
ミリ波帯数ギガビット級超高速大容量無線通信やミリ波車載レーダ等の研究開発が盛んである。さらに、ミリ波回路基板材料として低誘電率・低損失な薄型材料の開発が望まれ、その材料特性評価技術の確立もまた喫緊な課題である。
本申請では、共振法をベースとし、低誘電率・薄型回路基板のミリ波特性評価に特化した最適共振器寸法およびその励振構造の開発を通して、60GHz帯(V帯)向け低誘電率(約3以下)・薄型回路基板材料(0.5mm以下)の複素比誘電率評価システムを確立し、その有効性を実証する。これにより、ミリ波キラーアプリケーションの早期実現、さらには、周波数資源枯渇問題の解決というイノベーションを創出する。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に3つの目標をすべて達成した点は評価できる。技術移転の観点からは、装置が容易に使用できるようにする改善とともに、移転先の企業を探索して、実用化に進むことが望まれる。今後、ミリ波帯数ギガビット級超高速大容量無線通信やミリ波車載レーダ等への応用展開が推進され、実用化されることが期待される。
水耕栽培用培養液中無機養分の即時分光分析装置の開発 群馬県立産業技術センター
田島創
群馬県立群馬産業技術センター
北島信義
水耕栽培に用いられる培養液中の無機養分を、現場において即時に測定し得る分光分析装置の開発を目標とし、これを開発した。分光分析装置を技術移転する際の条件として設定した、1.分析手法の最適化、2.測定対象毎の検量線の作成、3.分光分析装置の基本設計と仕様の決定、4.試作装置の作成、そして、5.測定者の利便性を考慮した新しい分析手法の開発について、課題を解決すると共に、数値目標を達成した。この試作装置を利用することにより、水耕栽培施設において植物の育成とともに培養液中の養分濃度が変化することが確認された。今後は、群馬県内の企業と共に本研究結果を軸に、平成24年中の製品化に向け研究を行う。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、即時分光分析装置を開発し、生産者自身が野菜生産現場の施肥管理を行える環境を整え、植物工場などの水耕栽培向けに養分量の最適化に向けた装置の事業化を目標に、すでに事業化の方向が見据えられている成果は顕著である。一方、技術移転の観点からは、装置の製品化に向けての企業との共同研究が図られており、実用化されれば、生産物の品質向上、施肥量の削減による水耕栽培のコスト低減化及び食の安心・安全に寄与することが、期待できる。今後は、地元企業との共同研究、商品化計画等が検討されており、順調な技術移転が期待できる。
濡れ性制御による非延伸強誘電性ポリフッ化ビニリデン(PVDF)薄膜の導電性ポリマー上への転写製膜技術の開発 群馬県立産業技術センター
山本亮一
本研究は、非延伸で強誘電性(圧電性を含む)を有するポリフッ化ビニリデン(PVDF)薄膜を、大面積、低コスト製造が可能なRoll to Roll (RtoR) 法で成膜する為の重要な要素技術である、印刷ローラーから電極たる導電性ポリマー上へのPVDF溶液を転写する収率(転写率)を向上させる技術の研究と、その技術を実装して実際にRtoR法による成膜を実証する事を目的に行った。
具体的には、フレキソ印刷を模したジグを用い、各ローラーの濡れ性を表面処理により制御し、実際にRtoR法による成膜の実証を行った。結果として、転写率は、導電性ポリマーに転写するまでに二段階の転写を経た場合でも、当初目標の10%を大きく上回る事ができた。また、当初目標よりも若干厚いが、約2μm厚のPVDF膜を形成する事が出来た。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に転写率は当初目標を大幅に超過達成したが達成できた点は評価できる。今後の課題である薄膜化と圧電化の研究が進展すれば実用化の可能性が高まると考えられる。さらに量産性の高いロール to ロールが実現できれば社会還元が期待できる。
低ジッタ時間差増幅回路を用いた超高分解能オンチップジッタ測定回路の開発 群馬大学
新津葵一
群馬大学
小暮広行
超高分解能ジッタ計測に向けた低ジッタ時間差増幅器の研究開発を行った。近年の位相同期ループ(PLL)技術の進化によりクロックの低ジッタ化が進んでおり、チップ上にて高分解能にてジッタを計測する技術の開発が期待されている。超高分解でのジッタ計測を行うためのアプローチとしては時間差増幅器の導入によるジッタ増幅が有効であるが、時間差増幅器が低ジッタでないと正確な測定が不可能となってしまう。そこで、本研究開発においては低ジッタ時間差増幅回路を開発することを目標とした。本研究開発により、時間差増幅器回路の低ジッタ化設計理論を確立し、その有効性を回路網シミュレーションにて確認した。今後の展開としては、実際にチップ上にて設計した回路技術の性能を評価することである。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。回路シミュレーションにより、増幅回路に用いるNAND-SRラッチのジッタが1fs以下となる可能性を示したが、実デバイス上での検証が必要である。一方、本来の目的がどうして達成できなかったのか、またどのように実証するのか等の検討が必要である。今後、当初の目的である小さい低ジッタ時間差増幅回路を設計・試作・実装・評価を確認することが望まれる。
高アスペクトAFM計測のための通電加熱型ナノワイヤ探針作製装置の開発 群馬大学
曾根逸人
群馬大学
小暮広行
本研究では原料を通電加熱蒸発させて、AFMカンチレバの探針先端にナノワイヤ(NW)を成長させる高アスペクト探針作製法の開発を目指して研究を行った。研究内容は(1)通電加熱型高アスペクト探針作製装置の製作、(2)通電加熱による高アスペクト探針の試作を実施した。(1)では、高真空排気セットにSi基板の通電加熱機構、カンチレバ固定および基板への接近機構を取付けた装置を作製した。(2)では、Si基板を通電加熱させ、対面設置したカンチレバ探針先端にSi粒子の付着を確認した。さらに、高周波スパッタリング装置で金粒子を堆積させたカンチレバにSi通電加熱蒸着した結果、ナノワイヤの成長は確認できなかったが、探針先端にSi粒子が局所的に付着することを確認した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、作製方法と治具を工夫して多くのテストをした点は評価できる。方法として、1)Si基板の通電加熱蒸発により複数配列した対向カンチレバ先端へのSi粒子付着、2)Au粒子の触媒作用、などを検討した。しかし、研究期間内には目標の「シャープな先端、直径30nmでアスペクト比20以上の達成」はできなかった。通電加熱温度が低い、触媒Au量が不足、Si基板とカンチレバの接近が不十分、などの原因が検討されている。今後は課題と他の作製方法等を再検討して、研究を進めることが望まれる。
振動多孔板による微細気泡を利用した新型バイオリアクターの開発 群馬大学
伊藤司
群馬大学
小暮広行
本研究で開発する新型バイオリアクターは多孔板に超音波振動を与えることにより液体中に微細な気泡を多数発生させる特徴をもつ。生物活性の向上が期待できるため、装置の小型化と省エネルギーに繋がる。これまで振動多孔板による微細気泡の発生に成功したが、実用化には酸素の精密制御の精度、振動多孔板部分の耐久性や発生気泡の安定性、微細気泡や超音波振動の微生物活性への影響、最適な振動多孔板の形状などの把握が課題であり、これらについてデータを取得し、改善点を明確にすることが本研究の目的である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、主目標である振動多孔板による残存酸素濃度をほぼ0.1mg/lで制御できることが実証され、振動多孔板の耐久性や微生物活性化についても目標の達成が確認されていることは、評価できる。さらに、振動多孔板の最適形状も明らかにされ、全目標が達成されている。特許については、出願準備中である。一方、技術移転の観点からは、基礎的なメカニズムの解明と共に、実用化への企業選定を急ぎ、実用化への研究を目指すことが、望まれる。今後は、実用化のための連携企業も選定済みであり、振動多孔板により超小型で省エネルギーを実現できる高性能な気泡化装置の実用化が期待される。
メタノールの沸点以上で運転する高効率メタノール燃料電池の開発 群馬大学
中川紳好
群馬大学
小暮広行
申請者らが考案した電極構造体を有するメタノール燃料電池では90%以上の高濃度メタノールを直接利用できる。本燃料電池では、燃料のメタノール溶液の沸点を超えた温度のもので発電効率が大きく増大することが確認された。この機構を解明し、条件を最適化して、これまでになく高い発電効率、出力密度を持つ燃料電池の開発を目指した。調査の結果、高温条件下ではメタノール供給律速による限界電流が生じ、メタノール損失の低下により発電効率が増大することが分かった。条件の最適化により、発電効率(最大値34%HHV)と出力密度(54mW/cm2)のそれぞれについてはほぼ目標値に近い値を達成できた。しかし、それらを同時に達成することはできなかった。同時に達成するためには、触媒活性の増大などの構造パラメータ及び運転条件以外の検討が必用であることが示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標値に近い値が得られていることと、課題が明確に抽出されていることは評価される。一方、技術移転の観点からは、多孔質板を薄くすることがすでに限界に達しており、研究者の提案したさらなる薄板化のもくろみは研究着手時点でくずれている。また、空気湿度を上げれば発電効率は上がるが、電流密度は下がるという当然予想される結果が確認されているが、トレードオフの関係を打破するには、新しいアイデアを導入する必要があると思われる。今後は、高活性化な電極触媒の開発を含めて、性能向上に向けてのさらなる研究が期待される。
エネルギー調整器作成装置の重粒子線治療臨床実用化 群馬大学
田代睦
群馬大学
塚田光芳
昨年度導入されたエネルギー調整器作成装置を重粒子線治療へ臨床実用化するために、作製される積層型補償フィルタの検証、装置の改良・最適化を行う。第一に、補償フィルタ材料および積層型補償フィルタの幾何学的精度の検証を行う。第二に、フィルタ作製時の誤差が重粒子線治療に与える影響を調べるため、様々な条件で作製されたフィルタに対して重粒子線照射実験を行い、線量分布に与える影響を調べ、実用に要求される仕様を明らかにし、装置改良を行う。第三に、積層型補償フィルタの治療受け入れ検査を通常業務に取り込むため、既存の3次元検査装置を改修し、発注から検査までのシステムを構築する。以上より臨床実用を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。エネルギー調整器作成装置を重粒子線治療への臨床実用化するための積層型補償フィルターの製作精度・仕様を明らかにし、作製時間を短縮することは実現されている。一方、積層型補償フィルターのポリエチレン板材の厚み精度の高度化や異なる厚みに対応した装置開発、フレーム構造の簡略化・低価格化などが、今後の展開に重要である。更に、積層型補償フィルターのポリエチレン板材の厚み制度向上に関する技術開発や、フレーム構造の簡略化、低価格化やフィルターの種々の厚みに対応した装置開発が求められる。今後は、研究成果の関連企業に技術移転されることを期待したい。
シリコン系青色発光部材の低温プロセスでの高輝度化の検討 群馬大学
花泉修
群馬大学
塚田光芳
本課題では、SiとSiOからなるSi系青色発光部材に対し、(A)Cイオン注入による青色発光センターの追加および(B)表面へのフォトニック結晶構造の付与の二つの工夫を施し、実用化への大きなネックである1200℃前後という高温でのアニールをせずにより低温のアニールで強い青色発光を得ることを目標とした。その結果、(A)により700℃という比較的低温のアニールで発光を得ることに成功した。また、(B)による試料と空気の界面での反射抑制効果を確認し、光取り出し効率改善に向けた知見を得ることができた。今後、更に低温プロセス化することができれば、熱に弱い部材との集積化も可能となり、この発光材料を適用できる応用デバイスの範囲が拡大されるものと思われる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。Cイオン注入による従来の1200℃から700℃でのアニールでのSi系青色発光と、試料と空気の界面での反射抑制効果による光取り出し効率改善にむけた重要な知見を得ている。一方、技術移転の観点からは、引続き基礎的検討の継続し、医療技術や材料技術などの実用への応用や企業化も考慮することが必要であると思われる。今後、更なる低温でのアニールによるプロセス化が可能になれば、発光材料を適用できる応用デバイスの範囲が拡大される事が期待される。
小型イオン源装置の強度安定性、長寿命化に関わる開発 群馬大学
遊佐顕
群馬大学
塚田光芳
本研究では炭素線治療装置のビーム供給の安定化のため、小型イオン源装置テストスタンドを用いて強度安定化、長寿命化に関する研究を行った。具体的にはプラズマ電極の最適化を行い、出力ビーム強度を2倍に向上させた。また4価の炭素イオン生成時に生じる引き出し電極の汚れをヘリウムイオン生成により電極の洗浄を行う方法を開発している。 当初目標とした成果が得られていない。引き出し電極の形状の最適設計と引出電圧の調整、エージング作業による4価炭素イオンの僅かな出力増加、真空度回復確認試験やプラズマ電極改造、Heイオンによる電極洗浄などの点に関して、技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後の研究開発計画として、炭素線治療装置の安定運用のために、5価イオン発生や引き出し電極の汚れの低減の解決の成果を出す事が必要不可欠である。医工連携に関する成果を少しでも提供することが必要である。
大気圧ライン状噴霧CMD法による透明導電膜の大面積製膜技術 埼玉大学
白井肇
埼玉大学
永井忠男
研究開発目標である透明導電膜の基盤材料としてAl添加ZnOおよび導電性高分子PEDOT:PSSを選択し、霧化塗布法で塗布試験を行った。またそれらの膜を用いて結晶Si系太陽電池の試作を行った。この際ス塩終端結晶Si表面は疎水性であるため、従来のスピンコート等の塗布技術では均一塗布膜が得られない。この問題を克服するため静電塗布法または霧化塗布法にメッシュバイアスを印加することで均一形成を可能とした。その結果結晶SiとPEDOT:PSS(無機・有機ハイブリッド)太陽電池素子で変換効率11.3%および霧化塗布法で8.3%を実現した。特に平坦化基板上のみならずテクスチャー基板上の均一形成も可能であることから当該技術は関連分野のみならず有機EL等への展開が期待される。これらの成果に関する論文発表および特許申請をおこなった。今後はより一層の大面積化への対応を目指し、キャリアガスの流れの制御、大面積対応前駆体供給法の開発、走査基板上の塗布に関する検討を推進する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初計画どおりに、薄膜作製技術の向上と大面積塗布に成功している点は評価できる。本方法で水素終端c-Si上に塗布した導電性ポリマー(PEDOT:PSS)上に上部Ag、下部Al電極を設けた太陽電池素子を作り、変換効率8.3%を得ている。今後は、太陽電池以外にも、広く薄膜作製技術に応用されることが期待される。
電気化学画像センサの酵素阻害剤スクリーニングへ応用 埼玉大学
内田秀和
埼玉大学
永井忠男
創薬などの現場で利用できるスクリーニング分析装置等へ技術を移転することを念頭に、光導電性有機薄膜によるアンペロメトリックセンサをアレイ化センサへ発展させる研究を行った。酵素阻害剤の探索を応用例として、酵素反応に伴う酸化還元電流を観測可能とすること、および、小型アレイ化デバイスとしても利用できるように参照電極を用いずに安定した測定を可能とすることの2つの課題に取り組み、それぞれに有効な実現方法を見いだした。さらに、実用的な耐久性を有するデバイスの成膜方法についても重要な見地を得ることができた。今後はアレイ化の実現のために残った課題である電極構造の開発をクリアし、スクリーニングシステムを構築する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の目標はほぼ達成されている点は評価できる。一方、アレイ形成プロセスの開発を今後の課題としてあげているが、具体的な検討が必要である。今後は、当初の目標であるアレイ化センサに発展させて、実用化に向けた研究を継続することが望まれる。
高反応性大気圧プラズマ源の特性評価とガス処理への応用 埼玉大学
前山光明
埼玉大学
永井忠男
プラズマの持つ高エネルギー性、高反応性を利用したガス処理、滅菌処理などの産業応用を目的として、大気圧下での大容積プラズマの生成と、高効率オゾン生成について研究を行った。その結果、(1)正極性の高繰り返しインパルス電圧とMHCDにより、大気圧下乾燥空気の状態で安定した放電を実現、(2)放電可能電圧範囲が8.5~13.0 kVと従来の直流電源を用いた場合の 7.0~9.0 kVに比べ拡大、(3)放電可能電圧範囲は狭くなるがMHCDを利用しなくとも一様な放電が大気圧下で可能、(4)MHCDと直流高電圧を利用した放電によるオゾン生成で、目標とした50kJ/g を越える 36kJ/gの生成効率を得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも高繰り返しインパルス電圧を用いたマイクロ・ホローカソード放電により、放電可能電圧範囲を拡大して大気圧下乾燥空気の状態で安定した放電を実現しており、評価できる。また、学術的論文発表およびインパルス電圧を利用した大気圧プラズマ生成の方向性が述べられている。大気圧プラズマの基礎的な情報が提供されることで、技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップにつながると期待できる。
フロントガラス貼付型車載用マルチバンド平面アンテナの研究 埼玉大学
木村雄一
埼玉大学
永井忠男
本研究では、新しい車載用マルチバンドアンテナの開発を目標として、コプレーナ線路により給電されるスロットループアンテナのマルチバンド設計について検討した。はじめに、単周波における直線偏波アンテナ及び円偏波アンテナについて検討し、良好な特性を示すことが明らかにされた。次いで、直線偏波と円偏波を取り扱う2周波アンテナを設計し、概ね所望の特性を得ることができた。これらのことから、概ね目標は達成された。しかしながら、3周波アンテナの設計については、高次モードの発生が特性に影響を与えることが明らかとなった。今後は高次モードの影響の除去法を確立し、3周波マルチバンドアンテナの設計法を確立することが課題である。 当初目標とした成果が得られていない。3周波アンテナの設計について高次モードの影響の除去法を見出して設計法を確立することが、今後の課題である。進捗状況をみると、ややスピード感に欠けるように見受けられる。内容は興味深く、成功すればすぐにでも実用化される可能性があると考えられるため、早急に問題解決に当たることが望まれる。
脳賦活計測センサを用いた自動車室内温熱的快適性評価システムの開発 埼玉大学
綿貫啓一
埼玉大学
永井忠男
本研究では、小型で頭部に容易に装着可能な非侵襲型脳機能計測センサを開発し、前頭前野における脳賦活反応を高精度かつリアルタイムで計測した。また、車室内の温度、湿度、風速と脳賦活計測結果を総合して、運転時における温熱的快適性を評価するシステムを開発した。これにより、人間の温熱的快適性を感知することで、自律的に快適な車室内環境を実現することが可能となった。今後は、本研究で開発した脳賦活計測センサを用いた自動車室内温熱的快適性評価システムとともに、人間の五感を非侵襲的に計測した脳信号でセンシングする技術について研究し、人が意識せずに、安全、安心、快適でエコな空間や移動を実現するための先進的なインターフェイス技術として統合していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。脳機能をリアルタイムで計測するシステムの構築、計測センサの開発の開発により、データ取得が可能になったことは評価できる。開発したセンサを用いた解析や温冷感へ与える可能性のある環境条件(心理的影響以外)の更なる検討等、実施検証は必要ではあるが、今回の自動車室内温熱的快適性評価システムは完成度が高い。自動車関連企業だけでなく、その他適切な企業との連携による製品化が望まれる。
非接触式スリップリングを用いた永久磁石レス自動車用同期電動機の開発 埼玉大学
金子裕良
埼玉大学
永井忠男
レアアースのネオジウムなどを用いる永久磁石モータに代わる電気自動車駆動用の高効率モータとして非接触式スリップリング同期電動機の研究開発を行った。非接触式スリップリングには当研究室で研究実績のある電磁誘導式の非接触給電システムを適用し、回転子側の励磁コイルに電力を高効率で供給するためのスリップリングの形状や構造を検討した。また、回転時の非接触給電回路の論理的解析を行い、漏れリアクタンス補償用コンデンサの配置とその値の決定法を示すとともに、回転軸や外鉄への漏れ磁束損失低下のための遮蔽アルミの効果と形状を検討し、非接触式スリップリングの同期電動機への適用効果とその設計指針を示した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。非接触式スリップリングの基礎的な設計を実施し、回転体としてまず重要なギャップ変動の影響を含め、15kW、3000rpm同期電動機駆動実現の可能性が示されたことは評価できる。一方、同期発動機の試作を完成させ、高速回転時の特性解析などが必要と思われる。永久磁石モータにとって代わるような性能を持った非接触式スリップリング同期電動機の作製に成功すれば、レアアースを使用しなくて済む点で、今後大きな社会貢献が期待される。
酸化物イオン伝導体を用いた高効率二酸化炭素分離セラミック膜の開発 埼玉大学
柳瀬郁夫
埼玉大学
永井忠男
適切な材料が見出されていない中温域においてCO2を吸収・分離するセラミックス材料の開発を行った。材料のマトリックス物質に中温でCO2と化学反応するLiFeO2を選択し、さらにCO2分離速度を高めるため、LiFeO2粒子表面にCeO2ナノ粒子を被覆した複合材料を開発した。作製した材料のCO2分離能は、室温から500℃の範囲で温度上昇とともに向上した。そこで管状炉型電気炉とガスクロマトグラフを用いて、CO2/N2混合ガス中からのCO2分離能を評価した。その結果、中温域の400℃において、混合ガス中のCO2濃度を約10%低下させることに成功した。試料の量・表面積を増大させる等の最適化によって、従来の目標であるCO2完全分離も可能になると期待される。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、CO吸収物質と多孔質酸化物イオン伝導体からなる複合膜の作製およびCO分離特性の評価については、目標がほぼ達成されている点は評価できる。技術移転の観点からは、問題点は明らかなので、企業が何を求めているかを調査して今後の計画をよく検討する必要がある。今後、複合膜の作製プロセスをさらに改善し、組織制御によりCO分離能の向上に関する研究を継続することが望ましい。
MEMS技術を用いた超低ノイズフォトン検出器の開発 埼玉大学
田井野徹
埼玉大学
永井忠男
超伝導トンネル接合素子(STJ)を用いたフォトン検出器の超低ノイズ化、特にフォノンイベントの抑制を目的とした。ノイズの主たる要因として、入射フォトンに対するSTJの上部電極と下部電極の電気的接触を防ぐ層間絶縁膜からのフォノンイベントと基板からのフォノンイベントが挙げられる。まず層間絶縁膜の面積を出来るだけ小さくすることで、通常の層間絶縁膜と比較して約90%のフォノンイベントの抑制に成功した。次に、基板深堀技術を用いてSTJ直下の基板エッチングを行い、更なるフォノンイベントの抑制を目指し、基板のエッチング条件を見いだし、基板エッチングがSTJの特性に影響を及ぼさないことを確認した。今後は、基板深堀技術を用いたSTJのフォトン検出実験を行うことで、これらのフォノンイベント抑制効果を確認したい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、超伝導トンネル接合素子を用いたフォトン検出器の超低ノイズ化、特にフォノンイベントの抑制を目的とし、約90%のフォノンイベントの抑制に成功している点は評価できる。一方、目標はほぼ達成できたが、技術移転に関しては更に実験を重ねる必要がある。今後は、層間絶縁膜からのフォノンイベント発生メカニズムの解明という本質的な課題の解決が望まれる。
バイポーラ伝導性磁性体から構成するスピン注入型磁化反転素子 埼玉大学
酒井政道
埼玉大学
永井忠男
実質的にゼロとみなせる極めて小さいホール係数を有し、且つ、高いスピン偏極度を有するバイポーラ伝導性磁性体をスピン源とする新しいスピン注入型磁化反転素子を製作する目標に対して、当該実施期間では、(1)純スピン流発生領域に相応しい材料が、磁性モーメントを有するレアアース元素とそれを有しないレアアース元素を或る割合で合金化したものを水素化して作製されるレアアース合金水素吸蔵体であること、および(2)その水素吸蔵体を電流チャネル領域とする微小ホール素子製作を通じて、ウエットプロセスを含んだフォトリソグラフィ工程と、反応性の高いレアアースの成膜およびその水素化処理工程とを両立できる最適作製条件を見出した。これら(1)と(2)の成果は、バイポーラ伝導性磁性体を用いたスピン注入型磁化反転素子の実用化を高める上で極めて重要な知見である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。希土類化合物の特性であるが、接合部の安定性、保護膜のトラブルなど種々の困難に直面し、研究展開が厳しい状況である。今後は、水素化物の磁気転移温度が低いために、室温では応答が得れないのが実用の観点から問題である。室温で十分に作動する化合物を探索する必要があり、厳しい条件の純スピン流よりも、単にスピン流の材料まで間口を広げることの検討も必要である。
並列多重磁気浮上システムの開発 埼玉大学
水野毅
埼玉大学
永井忠男
「単一」の電力増幅器(アンプ)を用いて、「複数」の対象物(浮上体)の磁気浮上を同時に達成する多重磁気浮上システムを開発する。多重磁気浮上システムは、アンプの種類(電流出力または電圧出力)、電磁石コイルの結線方法(直列または並列)によって四つの方式に分類される。本課題では、それぞれの方式の多重磁気浮上を実際に構築し(平成23年度)、達成可能な多重度及び制御性能を調べ、制御系の最適化を図り、実用化にもっとも適した浮上方式を明らかにする。さらに、変位センサレス多重磁気浮上の実現を試みる(平成24年度)。変位センサレス浮上の実現には至らなかったが、それ以外の研究目標は、十分に達成された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。概ね設定された目標を達成している点は評価できるが、未解決の課題(変位センサレス磁気浮上)が残っている。一方、技術移転の観点からは、今後の展開が適切に計画されており、技術課題も明確である。今後は、難しい課題が残っているが、さらに研究を進展させ、解決につながることを期待する。
炭化ケイ素半導体MOS構造の界面準位密度低減化プロセスの開発 埼玉大学
土方泰斗
埼玉大学
角田敦
本研究では、Si-MOSと比べ約2?3桁も高い界面準位密度を有する炭化ケイ素(SiC)半導体MOS構造の、界面準位密度を大幅に低減化するMOS作製プロセスの開発を行う。まず、界面準位発生の大幅な抑制が期待される極薄SiO2膜を低温成長し、この上にSiCが酸化しない程度の低温プロセスによってSiO2膜を堆積し、界面準位の低密度化を目指す。界面準位密度および酸化膜絶縁性という観点からMOS作製プロセスを評価し、プロセスの最適化を試みる。最終的には、最適化したMOS作製プロセスを実際のMOSFET作製プロセスに導入し、優れた低損失性能を有するSiC-MOSFETの実現を目指す。 当初目標とした成果が得られていない。予定していたTEOS原料SiO2膜成長装置の導入が間に合わず、代わりに電子ビーム蒸着法によりSiO2膜を堆積した結果、界面準位密度を低減することには成功したものの酸化膜のリーク電流を抑制できず、絶縁破壊電界、絶縁破壊時間の評価ができなかったとある。まずは、当初の研究計画にあったTEOS原料による化学気相成長法を用いた研究を行い課題を解決した後で、次の段階に進むのが妥当である。 次世代自動車用エレクトロニクスの性能向上に貢献する可能性があるということで、期待したい。
半導体保護用インテリジェントエッチドヒューズの開発 埼玉大学
山納康
埼玉大学
角田敦
インテリジェントヒューズは、定常通電時と事故電流時でヒューズ自身が電流の経路をアークの特性によって変える新規ヒューズであるが、電流遮断時に確実に転流させることができるエレメントパターンを開発することが課題であった。電流遮断部の形状の変えた単位インテリジェントヒューズエレメントを試作して遮断実験を行ったところ、アークの特性によって遮断箇所の変化が現れ、電流の経路を変えることができ、遮断も成功することができた。また、電流経路が変わったときに動作過電圧を上昇させることができ、遮断時のI2t値を低下させることが可能となった。今後は単位エレメントヒューズの直列化による高電圧の適用や低抵抗化による大電流化が技術課題である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標がほぼ達成されている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、自動車用ヒューズに特化した技術開発について、具体的な企業の参加が期待できることは大きな成果である。今後は、具体的な自動車関連企業と製品開発に向けた研究を推進するし、EVの問題点を解決する技術として大きく期待される。
ナノ電子デバイスの電極基材となる、導電性・分子吸着性のナノメッシュ構造を持つカーボンナノチューブ透明薄膜、シートおよび固体材料製造法の開発 芝浦工業大学
小西利史
芝浦工業大学
長谷部貞夫
本技術開発の結果、「ナノメッシュ構造を有するカーボンナノチューブ100%の構造体」の試作に成功し、その構造体形成を電子顕微鏡撮影によって証明することができた。一方、導電性透明薄膜の製造のためには、カーボンナノチューブ100%のナノ分散薄膜よりも、導電性素材・高誘電率素材とのさらなる複合化材料に優位性があることがわかった。そのため、カーボンナノチューブナノ分散材料の汎用性と低コスト化を推進するためのさらなる検討を行った結果、予想以上に良好な成果を得ることができ、特許申請した。この成果によって、ナノカーボンナノ分散複合材料の開発にも大いに展望が開けた。今後、企業とのマッチングを加速させ、複合材料の開発、透明電極の開発を継続して進めていく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。複合材料、カーボンナノチューブ間の相互作用制御という新展開が明確にされた点は評価できるが、目標達成のデータが明確でないように思われる。一方、技術移転の観点からは、企業との連携により、新展開の技術開発を推進しようという、今後の計画が具体的に検討されている。今後は、カーボンナノチューブ間の相互作用制御という新展開があり、特許も申請していることから、研究の方向性を検討して、新たな成果に向かって進むことが期待される。
高アスペクトTSV作成のためのLIPAA加工技術の開発 (独)理化学研究所
杉岡幸次
電子機器の小型・高密度集積化を実現させるために、3次元LSI実装技術の開発が急務となっている。その中で特にシリコン貫通ビア(Through Silicon Via: TSV)加工はKey技術でといわれ、その実現のためにレーザー生成プラズマ支援アブレーション(Laser-Induced Plasma Assisted Ablation: LIPAA)法の適用を試みた。本研究では赤外ナノ秒パルスレーザーと金属ターゲットを用い、SiのLIPAA加工が可能であることを実証した。また高い集光強度が長い距離伝搬するベッセルビームをLIPAA加工に組み込みことで高アスペクト比加工への有効性を明らかにし、実用化の可能性を示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究の手法はユニークであり、評価できる。Si貫通ビアは三次元LSIに不可欠であるが、Bosch法を上回る実力が示されると、実用化への期待が高まる。現行水準を超える微細化への挑戦も期待される。
量子効果を利用した高耐久半導体電子源による高輝度電子ビームの実現 独立行政法人理化学研究所
西谷智博
独立行政法人理化学研究所
井門孝治
負電子親和力表面を持つ半導体フォトカソードは、電子ビームの単色化に利点を持ち、これまでにない高輝度電子源が期待できる。しかしながら従来技術では、高輝度化の両輪となる電子ビームの単色化と大電流化にトレードオフ関係があるだけでなくNEA状態の長時間維持に問題がある。本研究開発では、半導体が持つ量子効果の利用により、これらの隘路を突破し、これまでにない高輝度かつ高耐久の電子源の実現を目標とする。本研究開発による超格子半導体フォトカソードにより電子ビームの単色化条件である量子閉じ込め効果を観測に成功した。今後、耐久性を評価し、より高輝度と高耐久に最適な半導体の結晶構造を追求する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標を目指して研究を行ったが、量子効率倍増、室温レベルエネルギー分散、一桁高い耐久性能のいずれも達成されなかった。また原因の解明や対策がまだ明確になっていない。最初に低量子効率の改善策を考え、電子銃設計として、有限電荷効果まで取り入れた電子光学設計が必要と考えられる。
2光子吸収型全光スイッチに向けた非線形感受率テンソルの広波長域測定 千葉大学
坂東弘之
(財)千葉県産業振興センター
金田欣亮
InPの2光子吸収係数βの偏光方向依存性を調べることで、3次の非線形感受率テンソルχ(3)を、有効桁数3桁以上の精度にて求めることを目標とした。その結果、[001]入射した際の結果から、波長1640nm-1800nmにおいてχ(3)を求めることが出来た。この値を用いて、[-110]入射した際のβの偏光方向依存性を計算したところ、実際の測定結果と非常に良い一致が得られた。このことから、求められたχ(3)の値にて、対応する波長での任意の偏光方向のβを計算出来ることが実証された。今後、同様の方法で広波長域のχ(3)を測定することで、デバイス構造の2光子吸収特性がシミュレートでき、2光子吸収型全光スイッチの実現が期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標の波長域全体ではなく1640-1800 nmの狭帯域となったが、非線型感受率は求められており、概ね目標は達成されていると考えられる。また試作装置により、技術移転をめざした産学共同等の研究のステップにつながる可能性は高まったと判断される。今後、現状の測定結果(有効数字2桁)から非線型感受率の3桁の有効数字を出すには、課題の明確化と、技術移転のため計画が必要と思われる。
ナノ加工計測システムを用いたLSI多重配線層の故障解析・診断法の開発 千葉大学
森田昇
千葉大学
阿草一男
本研究では、 LSIの故障解析手法として、加工用AFMカンチレバーを用いた多重配線層の単一層除去加工法の可能性を検討した。具体的には、切れ刃先端形状や剛性の異なる加工用カンチレバーを用いてLSI表面の除去加工を行い、薄層除去加工特性を調査した。その結果、高剛性カンチレバーを使用することにより、最大で3.0μm以上の加工深さが得られ、また、荷重制御により、積層された各配線層の表出・観察が可能となった。この結果は、当初計画が概ね達成されたことを示しており、従来のエッチングや研磨による異常部表出法に比べて、信頼性の高い故障解析手法を創出できたと考える。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に加工用AFMカンチレバーによる微細加工の手法を用いて、LSI多重配線層の単一層除去加工の実験を行い、最大で3.0マイクロメータ以上の加工深さが得られること、荷重制御により積層された各配線層の表出・観察が可能なこと等を明らかにしている。これにより、LSIの故障診断法への可能性を見出していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、LSI多重配線層の故障解析・診断法として確立していくための課題として、高速・高精度ミリング機構を併用して予め平坦化加工を行った後、加工用カンチレバーによる局所的微細加工を適用することを検討する必要があることを明らかにしたので、今後の進展が望まれる。今後は、本技術は「ものづくり技術」として応用することも有望であり、そのためには、加工条件、経時劣化及び加工精度の相関関係を明らかにすることと、加工用レバーの供用寿命とコスト面からの検討が期待される。
革新的に高効率な無線電力伝送システムの設計とその設計ソフトウェアの開発 千葉大学
関屋大雄
千葉大学
竹内延夫
本研究では無線電力伝送システムの開発とその設計ソフトウェア開発を行った。研究者の持つ回路設計に関する特許技術と、 電力伝送媒体である無線部分の解析表現、 さらに研究者の持つ独自の磁性素子設計ソフトウェアを融合することにより、 スイッチング損失を極限まで低減した無線電力伝送システムの設計が可能となった。 また、 開発したソフトウェアを用いて無線電力伝送システムを試作したところ、 送信部分において、411MHz、16dBmの受信電力に対して、50%の電力変換効率を得ることができ、 実用化への目途がたつ結果を得ることができた。 また、 送信機の新しい回路構成を提案し、 歪率5%、 電力変換効率93%を24.4W、1MHz出力で達成した。 さらに、 ソフトウェアの性能を評価するため、 かつ具体的応用を意図して、1MHz、25Wの送信供給電力に対し、 磁界結合型無線電力伝送システムの実験を行ったところ、 最大83%の電力変換効率を達成した。 また、 いずれの回路設計に対しても、 回路設計アルゴリズムの計算時間は市販のWindows PCを用い、 3分20秒以内の設計時間を達成することができた。 実験結果は設計ソフトウェアの予測と比較し3%以内の測定結果を示し、 ソフトウェアの精度目標を達成した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に効率の目標60%に対して、結果は50%と達成されなかったが、大きく改善された。今後は使用しながら改善していくことが望ましい。具体的に企業と共同研究を開始しようとしているので、企業の視点が加わることで、研究開発において重要なポイントがより明確になり、次のステップにつながる可能性が増加することが期待される。
ロボット開発志向インテリジェントソフトデバイスの開発 千葉大学
工藤一浩
千葉大学
竹内延夫
無機的ロボットと有機的人間を橋渡しする上で重要なヒュ-マンインターフェースを目指した、インテリジェントソフトデバイスフレキシブルデバイス(有機ELを代表とする表示素子、圧力・視覚センサ、情報タグなどの)の開発を行った。このインテリジェントソフトデバイス開発に必要な有機材料設計・合成、機能階層構造制御、有機/無機界面物性、フレキシブルデバイスの研究開発を行った結果、フレキシブル性を有する有機材料をベースとする基礎的な光電子物性およびディスプレイ、トランジスタ素子の性能向上と新しいデバイス応用への指針が得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。CoNW の添加量による導電性と可視光透過率との関係がやや不明ではあるものの、有機材料を中心とした表示素子の開発について、ほぼ確立された点は評価できる。
無機的ロボットと有機的人間を橋渡しする上で重要なヒューマンインターフェースを目指したデバイスの開発研究であり、将来社会への貢献は大きなものがあろうと予想される。今後は現在共同研究を行っている企業のほか、材料、製造メーカーとも共同研究の可能性を探り研究を継続することが期待される。
高効率・低公害予混合圧縮自着火(HCCI)機関の研究開発 千葉大学
森吉泰生
千葉大学
竹内延夫
高効率、低公害化を両立するHCCI機関の実用化に対する期待は高いが、従来技術ではHCCI燃焼を適用できる運転条件が極めて狭く、実用性に乏しい。申請者らは、新しいHCCI燃焼システムを提案し、実用運転領域のほぼ全域でHCCI燃焼を適用でき、NOx排出量を従来の1%以下に留めながら、熱効率を従来機関に対して30%程度向上できることを実験的に示した。本技術の実用化に向けて残る課題は、従来の火花点火燃焼への運転モードの切り替えを含む過渡運転時の着火制御である。本申請課題では、提案システムを用いたHCCI燃焼の着火制御技術、燃焼モードの切り変え手法を確立し、量産化開発に向けて、共同研究先の自動車会社に技術移転することを目標としている。最終的には、本実績をベースとして、革新的な技術を発信する次世代モビリティ技術の研究拠点の事業化を目指している。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。運転モードの制御について、数値シミュレーションと実証試験を巧みに組合すことによって、NOx排出濃度1ppm以下(三元触媒浄化後)を実現した。一方、技術移転の観点からは、予混合圧縮自着火(HCCI)燃焼は、現在考えられる中でも最も高効率なエンジン燃焼形態の一つであり、常用運転に要求される運転領域に適用できれば、非常に高燃費の自動車が実現できると考えられる。更に、共同研究先の自動車メーカーに技術移転をして量産化開発を目指しており、予定以上の成果を上げている。
光ミキシングによるテラヘルツ波の発生と高分解能分光システムの開発 千葉大学
室清文
千葉大学
竹内延夫
独自に開発した1μm帯の高出力で高コヒーレントな外部共振器型半導体レーザとInGaAs光伝導アンテナを用いる小型のテラヘルツ分光システムを構築し、従来のシステムでは不可能なサブメガヘルツの超高分解能と50MHzステップでの高い波長制御性を実証した。最終目標とする3THzまでの広帯域化やエタロンによる100MHzレベルでの周波数較正、ミキシング光EO変調による高速信号処理技術の開発にまでは至らなかったが、光ミキシング光源に外部共振器型波長可変レーザを用いることの有効性・優位性は実証できた。今後、この成果をもとに、シーズ顕在化タイプなどへの応募を通して最終目標を実現していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、1ミクロン帯波長可変レーザ2台と1040nm帯のInGaAs光伝導アンテナを用いたテラヘルツ光源およびそれを用いた小型分光システムの試作に成功して、プロトタイプが試作できている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との連携も進めており、社会に還元されることが期待できる。今後は、明確にされている課題への取り組みにより実用化が促進されることを望みます。
電気化学反応を利用した新規な反射/発光型デュアルモード表示素子 千葉大学
中村一希
千葉大学
小柏猛
デュアルモードディスプレイ(DMD)は、明所での視認性に優れる省エネルギー表示の反射型表示と、暗所での視認性に優れ高速応答が可能な発光型表示の2つの表示方式を有し、状況に応じて表示方式を使い分けることでそれぞれのメリットを享受できるディスプレイである。本研究開発では、我々が開発した電気化学反応を用いた新規DMDにおいて、素子特性の向上へ向けた材料構成の検討を行った結果、素子駆動電圧の大幅な低下が達成された。また、実際の表示素子構築へ向けたプロトタイプ素子の作成を行い、デュアルモード表示のデモを行った。得られた研究開発成果は、PCT出願や学術論文、新聞報道という形で発信を行い、国際学会発表賞、千葉大発明賞等の評価が得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、交流駆動による電気化学発光と直流駆動による電気化学発消色を、単一セル中で低電圧動作する材料を見出し、プロトタイプ素子の作製が行われた点は評価できる。技術移転についは、特許も出願されており、数社との共同研究についも、情報交換が開始されていることから、電子ディスプレイへの応用展開が期待される。今後は、すでに明確にされている実用化に向けた課題を、開発計画に沿って進め、実用化に展開されることが期待される。
局所大気計測/評価のためのLED ミニライダーの開発 千葉大学
椎名達雄
千葉大学
小柏猛
本研究は光源にLED光源を利用した超小型低価格のポータブルLEDミニライダーを開発することを目的としている。光源をレーザーからLEDに変更することで、ライダーの機器コストを大幅に削減でき、光源の小ささならびに扱いの容易さからライダーとしての計測自由度を大きくすることができる。レーザーと比べて波長の選択性が広く、さまざまな計測対象に即した対応が可能である。同時に、送受信を一体とした光学系の構成を採用し、機器サイズの小型化、低コスト化、ならびに光学調整の簡素化を図る。
本研究では先行した研究試作をもとに、閉所内大気や交差点や窪地等での粉塵/ガスの対流と行った局所大気計測/評価を目的としたライダーとしての諸特性(光源のパルス特性、送受信光学系の効率、ならびに専用スケーラーの開発)を最適化させた上での機器開発を行った。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、3つの開発項目に対して着実に研究を遂行し、従来のものを改良したプロトタイプを製作しており、目標が達成されている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業からの注目度も高いようであり、また本研究の開発支援にとどまらず、企業との産学共同研究にも積極的な姿勢で臨んでおり、今後の研究開発が期待できる。
完全自律組立作業を目指した実用型双腕ロボットの研究開発 千葉大学
野波健蔵
千葉大学
小柏猛
本研究は、双腕マニピュレータ・ハンドロボットに関する、カメラとインピーダンス制御を用いた完全自律組立作業に関する研究である。完全自律組立作業としてM2~M10のボルトとナットの締結作業を対象としている。ステレオカメラで把持物体であるボルトとナットの位置を把握し、3指ハンドのモバイルカメラで位置精度を向上させて把持するということである。これらの把持対象物は任意の姿勢であり、かつ、複数個存在しても自律的に認識できる。ボルトに関しては重心の位置で把持するように、瞬時に重心を計算するアルゴリズムを独自に開発した。この結果、ロボットハンドにインピーダンス制御を実装することで人間のような柔軟かつ器用な組立作業が可能となった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。技術移転の観点からは、把持動作や締結動作の安定性、実現速度、対象とするボルトのフィード状況、作業アームの性能等の課題を改善する必要があると思われる。
高度な産業ロボットの開発で、将来どの程度の需要が見込めるかは定かではないが、次世代のステップアップしたロボット開発の先駆けになる可能性に期待したい。
インプリントリソグラフィによる高機能複合材料表面の創成と接着破壊靱性の制御 東京理科大学
松崎亮介
東京理科大学
金山正明
本研究ではインプリントリソグラフィ技術を用いて、複合材料の成形時に大規模ナノ/マイクロスケールの一括表面修飾を行い、表面機能化を実現する。まず有限要素法を用いて、微細構造が接着破壊靱性に与える影響について検討した。結果アスペクト比A=1.2までき裂はCFRP/接着剤の界面を進展し、以降では接着剤の凝集破壊を伴う破壊に遷移することを明らかにした。さらにアスペクト比が小さい領域では破壊靭性値はA増加に伴い線形に増加するが、A=1.2で最大値を取った後、A=1.3で凝集破壊を伴う破壊に遷移し破壊靭性値は一定となることを示した。A=0の平滑面と比較して破壊靭性値は最大で6.6倍の向上を達成した。解析結果は実験値に良く一致し、破壊形態より予測される理論値とも一致することを示した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に表面微細構造の基本的な創出ができ、シリコンの剥離を容易にする異方向性を達成できた点は評価できる。一方、インプリントリソグラフィの応用技術の実用化が期待できそうな業界を述べていますが、具体的な対象を絞って、進めると良いと思われる。今後は、量産化、設備内容などに視野を広めて、企業との共同研究に発展することを期待します。
自己組織化金属ナノ粒子を用いた配線形成技術の確立 芝浦工業大学
大石知司
芝浦工業大学
長谷部貞夫
金属ナノ粒子を用いたレーザアシストインクジェット法による金属微細配線の低コスト高速成膜法の開発を目的とし、自己組織化能を有する混合金属ナノ粒子の合成とインク化、インクジェット法による金属微細配線形成、レーザ照射による短時間での金属配線の緻密化の検討、回路形成の試作品の作製を行った。
Au/Agコロイドナノ粒子の組成比が導電性に大きな影響を及ぼすこと、インクジェット法による金属配線のパターン形成とCO2レーザの照射により400μm幅の配線がフレキシブル基板上に高速形成可能であることを明らかにした。本研究成果は、フレキシブルエレクトニクスへの展開が可能である。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にインクジェットによる導電性細線の高速形成に取り組み、組成およびCOレーザー照射などの技術の成功し目標を達成した点は評価できる。特許、論文については準備を進めており、早急な取り組みが求められる。今後の研究課題については、自己組織化をキーワードに技術の高度化と実用展開を計画している。関連分野は競争が極めて厳しく、早急な取り組みが可能であれば産学連携も多いに期待される。
レアアースフリーモータの振動抑制技術に関する研究 芝浦工業大学
赤津観
芝浦工業大学
長谷部貞夫
本研究は、レアアースフリーモータの代表格であるスイッチトリラクタンスモータ(SRモータ)の振動抑制を目的に、振動の一原因となるトルクリップルを抑制する制御手法を研究するものである。非線形性の強いSRモータのトルクリップルを新しい提案式により推定し、目標である10%以内の推定精度は得ることができた。推定したトルクリップルを抑制するように電流を制御することで、トルクリップルの主成分である24次成分は38%低減することはできたが、トータルのトルクリップル率は目標である10%に対して38%と未達であった。これは、電流制御に用いたヒステリシス制御の影響であり、今後の改善が必要である。またSRモータの駆動において重要なパラメータである、電流通電点弧角と消弧角の最適化が今後の課題であり、自動的に最適値を決定できるアルゴリズムを引き続き検討していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にトルクリップルを低減する手法の効果が実験により確認されており、トルクリップル率を38.8%に低減しており、目標を達成した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、関心を示した企業があったが、共同研究には至っていない。レアアースを用いないSRモータでトルクリップルを低減できれば、応用範囲が広がり、レアアース資源を持たない我が国への社会還元の期待は大きい。
超極細ワイヤを用いたマイクロねじ/マイクロナットの実用開発 首都大学東京
本田智
首都大学東京
草間茂
本研究では、マイクロマシン用のマイクロ機械要素として、研究室レベルで考案試作した「線経が20μmの超極細ワイヤを用いたピッチ40μmのマイクロねじ/マイクロナット」について、この実用試作のためのワイヤを密着機の開発、ワイヤをピンに半田付けする方法の確立、マイクロねじとナットを勘合させるための基本ねじ山形の寸法の規格化、製作したマイクロねじ/ナットのピッチ精度、ねじ山強度のデータの提示、さらに、マイクロねじとナットを組み合わせたマイクロ送り機構とマイクロ多針フィルタの試作、マイクロ歯車の噛み合い解析を行った. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本課題は、マイクロマシン用40μmのマイクロねじ/マイクロナット製造装置を開発するもので、この装置によって製作した試作品の精度検証を行い、実用化への課題が整理されていることは、評価できる。一方、超極細ワイヤをピンに固定する方法(クリップ等)の開発に至らなかったため、製作したマイクロねじ・ナットのピッチばらつき平均がねじで3.19μm、ナットで3.70μmと目標値の8~9倍になってしまった。鉛フリー半田の酸化による劣化でねじ破壊強度が低下するおそれもあり、マイクロねじ製造法の根本的な見直しが必要と思われる。今後は、実用化はまだ先であるが、研究者自身が提示した今後の課題に関して有用な解決策を検証し、それを提示し続けることで企業化への可能性追求を継続することが望まれる。
光化学オキシダント抑制に直結する大気中揮発性有機化合物診断法の開発 早稲田大学
松本淳
首都大学東京
柴田勲
大気試料のオゾン反応性測定装置の実用化を目指し、(A)装置の性能向上、(B) 共存NOx 干渉の把握・低減、(C)装置のコンパクト化と実試料の計測試験、を目標とした。研究開発の結果、(A) に関しては当初目標の0.0001 s^-1 の桁の検出下限を実現した。(B) に関しては、NOx 共存 VOC 標準試料に対する装置挙動を調査し、数十ppbv レベルのNOx が存在する場合には、NOx同時測定による補正が有効であることが示された。(C)に関しては、装置等をラック・シャーシに収納したうえで植物放出試料の計測試験を実施し、実試料測定への実用性を示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初目標としてあげていた三つの目標すなわち、(A)オゾン反応性計測装置の性能向上、(B)実大気に共存するNOxによる干渉の低減・除去、(C)計測装置自体のコンパクト化が、それぞれほぼ達成されていることは、評価できる。一方で、技術移転のためには、NOx干渉に対する基礎データの取得とその除去などの残された課題の解決が必要と思われる。今後は、環境計測機器メーカーとの連携による早期の実用化が期待される。
出力1kW級高効率超小型ガスタービンの性能実証 首都大学東京
櫻井毅司
首都大学東京
宗木好一郎
本申請課題ではパルスデトネーション燃焼器を用いた出力1kW級高効率超小型ガスタービンの性能実証を目標に研究開発を実施した。燃焼器と小型ターボチャージャーを組み合わせたガスタービンシステムを構築し、間欠的なデトネーションにより駆動されるタービンや圧縮機の作動状態や燃焼器の燃焼条件を調べた。ガスタービンシステムとして自立運転ができる目処を得たが、空気配管の不良や燃焼器の耐熱性のため自立運転と性能実証までには至らなかった。今後はこれらの課題に取り組み、超小型ガスタービンの性能実証を進めていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、第1段階の「要素性能試験」では、システムの自立運転の目処がたったことは評価できる。一方、「燃焼ガス非定常生」・「熱損失」により当初の目標性能に及ばないことが示された。熱損失の管理こそが、比表面積の大きい超小型機関開発最大の課題であり、熱平衡時の性能評価が可能となれば、技術移転へつながると判断する。第2段階では「自立運転実証」を試みたが、配管設計不良により実現しなかった。この点については、技術的課題は明確であり、さらなる検討が必要と思われる。今後は、目標とする超小型機関自体は極めて魅力的なものであり、技術的課題を克服し、性能実証・実用化へと進展していくことが望まれる。
磁場変動計測による都市直下型地震の超高速検知技術 首都大学東京
大久保寛
首都大学東京
宗木好一郎
地震断層運動に伴うピエゾ磁気効果による磁場変化は、光速で観測点に到達するため、地震波による地震検知に比べて、時間的アドバンテージを有する。したがって、この磁場変化を確実に観測し、かつ超高速で処理できれば、従来の緊急警報に比べてさらに早く地震の発生検知を実現できる可能性がある。本研究では、磁場変化の高感度計測のための新しい磁力計と観測された信号に対する超高速並列信号処理を検討した。磁力計の開発はほぼ完了し、プロトタイプでの計測を開始した。信号処理アルゴリズムの並列化は試作したが完成には至っていないため、今後は処理システムの高速化と、観測データの蓄積を行い更なる評価を実施する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に磁力計の開発はほぼ完了し、プロトタイプでの計測を開始したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、GPUによる超高速信号処理を用いた高速信号処理技術(すべての信号処理が100ミリ秒以内)の実現を確立する目標に対しては、まだ見通しが立っていない状態ではないかと思われるので、さらなる発展が望まれる。今後は、本技術を社会に還元するには、まだ多くの課題を解決する必要があると考えられ、さらなる研究の進展が期待される。
冷温感覚を利用した小型視触覚ボードの実用化に向けた検証 首都大学東京
串山久美子
首都大学東京
宗木好一郎
視覚情報に触覚情報が付加された視触覚ボードは、障がい者支援をはじめ、高齢者のリハビリや幼児の知育刺激で期待されている分野である。従来技術である凹凸点字のディスプレイに対し、本技術では、表示部材の表示面を触ることによって、視覚情報に適した冷温覚触表示を感受することができる小型視触覚ボードを開発した。これまでの実験により、視覚効果だけでなく触ることができるデジタルサイネージとして有効であることが検証されたが、本研究では情報を伝える触図としての装置の性能や触図コンテンツの判別など人間工学的なデータ収集をすることで、今までにない新しいコミュニケーションボードとしてより実社会へ向けた実用化の検討を図る。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に冷温触覚を加えた小型視触覚ボードの性能データの収集、体験者の生体データについての検証、提示コンテンツによる有効性の検証、小型冷温ペンの開発等で目標を達成したのは評価できる。一方、技術移転の観点からは、公共の科学館等の常設展示を通して展示体験者のアンケートやコンテンツのバリエーションの展開、視覚障害者施設との共同研究(障害者支援機器としての冷温ディスプレイの利用)や省コスト、省電力の携帯型冷温ペンの絵本との連動など実用化に向けた計画を検討しており、共同研究への可能性が高まったと思われる。今後は、視覚障害者施設との共同研究(障害者支援機器としての冷温ディスプレイの利用)や省コスト、省電力の携帯型冷温ペンの絵本との連動など実用化に向かうことがが期待される。
電場誘起ブラシ状ナノ粒子クラスタ粒動エンドミル 首都大学東京
小原弘道
首都大学東京
饗庭真悟
交流電場を印加することでナノサイズの粒径を有するダイヤモンド粒子の分散液中において、電極先端部にナノ粒子鎖状クラスタをブラシ状に配列させ電極近傍に形成される交流電場誘起流動により粒子の運動である粒動を誘起し、マイクロスケールのエンドミルとして機能化させることが可能な技術である。この開発研究により、ナノ三次元加工のためのマイクロスケール工具として機能をさせることが可能となり、次世代の革新的な医療デバイスや、光学・情報器機などに必要不可欠な極微細光学素子などの加工が低環境負荷で可能となり、産業分野に革新的なグリーンプロセッシング技術を提供できるものである。
当初目標とした成果が得られていない。中でも、当初計画にない電極移動3軸機構開発をおこなったが、加工メカニズム解析、加工条件研究に関しての記述がなく成果が得られたとは判断できない。少なくとも加工点での砥粒の挙動や加工状況の評価が必要であり、記述からは全く本来の研究が推進されなかったと言わざるを得ない。実際に利用される加工技術となるためには、今後相当の研究の積み重ねが必要となると思われる。
セミダイレス引抜きによる医療用生体吸収性マグネシウム合金マイクロチューブの創製 首都大学東京
古島剛
首都大学東京
草間茂
本研究開発では、医療用マグネシウム合金のマイクロチューブの創製を目標としている。具体的な手法としてマンドレルを用いたセミダイレス引抜き法を提案している。これまでにセミダイレス引抜きの変形挙動を解明するために、加熱温度が限界断面減少率、表面粗さ、結晶組織に及ぼす影響を実験的に明らかにし、セミダイレス引抜きの適正条件の解明を行った。また実験で得られない条件に関しては熱―変形連成解析モデルを作成し、引抜き速度が伝熱・変形挙動に及ぼす影響を解析的に明らかにした。以上の検討結果をもとに、これまでに外径815μmの極細マイクロチューブの創製に成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、マンドレルを用いたセミダイレス引抜き法により、医療用マグネシウム合金のマイクロチューブの製造を試み、マイクロチューブの製造が可能になることを確認できたことは評価できる。一方で、技術移転の観点からは、目標とした0.5mmまでの寸法までは達していない、また、計画したレーザによるステント加工が実施できていないこから、さらなる研究の進展が望まれる。今後は、民間企業との共同研究開発を含めて、実際のステント開発に必要な課題克服に進むことが期待される。
超高密度ビットパターンド媒体対応の磁性合金エピタキシャル積層薄膜形成技術の開発 中央大学
大竹充
中央大学
加藤裕幹
情報記録の主要技術となっている磁気記録分野では、記録の大容量化を図る新方式としてビットパターンド媒体技術が検討されており、ビットの磁気特性均一化のために、結晶方位と原子レベル構造を高度制御したエピタキシャル磁性薄膜形成技術の開発が必要となっている。本課題では、次世代記録層材料として有力候補であるRT5型希土類-遷移金属合金のエピタキシャル薄膜を単結晶基板上に形成する技術の開発を行った。RT5合金の希土類金属および遷移金属の種類を拡張させ、更に、RT5構造のRサイトおよびTサイトを複数種の元素で構成することにより、エピタキシャルRT5薄膜の結晶性やRT5規則構造形成のための基板温度、あるいは、飽和磁化などの磁気特性の制御範囲を拡大できることが明らかになった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも第一の目標である400℃以下の基板温度のもとでのエピタキシャル成長条件を明らかにできた点は評価できる。一方、応用が期待されるパターンド記録媒体として適用される段階には至っておらす、実用化に向けた研究計画の再検討が必要と思われる。今後は、強い膜面垂直磁気異方性を持つ、SmCo系薄膜を形成し、パターンド記録媒体を形成しようとする試みは挑戦的で意義あるものと思われるので、新たな展開が期待される。
単一の回路設計で様々な用途に適合する降圧型および昇圧型電流モードDC-DCコンバータICの回路技術の開発 中央大学
杉本泰博
中央大学
武田安弘
本研究ではいかなる使用状態、応用においても単一の回路構成でループの安定性が確保できるよう電流モードDC-DCコンバータICの統一化回路技術を開発する事を目的とした。研究の結果、降圧型電流モードDC-DCコンバータでは、2次スロープ補償を用いた回路構成とする事、昇圧型電流モードDC-DCコンバータにおいては、3状態制御と単純な電流帰還を組み合わせた構成とする事で、入出力条件によらずあらゆる場合で負帰還ループの安定性を確保できる事を見出した。統一化された回路を使用すれば、電流モードDC-DCコンバータICの回路を設計する部門の設計効率を大幅に上げる事が可能である。今後は企業と共同での試行が必要である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に一部目標の見直しがあったがほぼ計画通りの成果となっている点は評価できる。計画とおりの研究がなされており、学会発表などで学術的な成果も得られている。ただDC-DCコンバータは既存分野であるので従来技術と比して明確な優位性を提示しないと企業は魅力を感じないと思われる。今後、太陽電池など昇圧型コンバータでは差別化できる可能性が十分あると考えるので、この分野に特化した研究であれば実用化が期待される
ニッケル酸化物を活用した超高周波トンネルダイオードの作製:太陽光発電をめざして 電気通信大学
野崎眞次
電気通信大学
小島珠世
本研究では、光を高周波信号としてアンテナで受け取り、それを直流信号に変換できる光レクテナ用の超高速整流器を開発する。マイクロ波領域のレクテナはすでに製品化されているが、通常のショットキーダイオードが対応できる周波数は最高でも5THzといわれている。本研究では超高周波用として、Niの酸化によりNiOxを二種類の異なった金属間に挟んだショットキーダイオードを作製するのを目的とした。適当な仕事関数を有する金属を選ぶことにより従来のNiOxを金属間に挟んだMIMトンネルダイオードとは異なり、そのI-V特性には整流性を得ることができた。今後、微細化したダイオードに光アンテナを装着したレクテナの二次元アレーを作製し、太陽光発電用光レクテナ実現をめざす。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。達成できなかった目的について、原因究明がなされており、次のステップへ進むための技術的課題が明確になっている点は評価できる。第一の目標は非対称、非線形のI?V特性を有するMIMトンネルダイオードの作製である。そのためにはI層を挟む両サイドの金属の種類の選択が重要であることが明らかになった。目的の達成には、現状の酸化の最適化が必要なので、実施に向けた対応が望まれる。
高速摩擦による環境負荷低減コーティング層の生成技術の開発 東京学芸大学
大谷忠
東京学芸大学
佐藤郡衛
本研究は高速回転させた工具を用いて木材表面を摩擦することによって、摩擦熱と機械的作用によって、環境への負荷の少ない変質層の生成を行うことを目的とする。また、高速摩擦条件の制御により、新しい機能性を持たせた木材表面の生成を行うための技術開発が目標にある。本研究では、異なる凹凸形状をもつ工具を木材表面に転写させることによって、ある程度の凹凸形状の転写が可能であることがわかった。さらに、その形状の転写がより平滑な表面では、新しい機能性として、撥水効果の高い表面が得られることがわかった。さらに、既存の実験装置を改良することにより、従来の摩擦によって得られる機械的および熱的な影響をより高めることができる装置を試作した。今後の展開では、撥水効果に関するさらなる詳細な検討や、新しく試作した装置を用いて、より機能性の高い木材表面を生成する技術を開発していくことが課題になる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初目標の塗装面の2倍以上の撥水効果には到達しなかったものの、有効な撥水効果が検証された。また。摩擦面の凹凸形状の転写面への効果を明らかにしており、より平滑な高速摩擦面の開発へつながる成果が得られたことは、評価できる。一方で、摩擦工具の回転速度を20000rpmにまで可変できる装置を開発し、接触温度を800℃以上にまで高めることによって木材からセラミックス化された表面をつくることについては、十分な結果が得られていないので、さらなる検討が必要と思われる。今後は、再度研究計画を見直して、目標値を達成することが望まれる。
加速電極一体加工型テーブルトップ加速器の開発 東京工業大学
林崎規託
イオンや電子などの荷電粒子ビームにエネルギーを与える加速器は、非常に大きな高エネルギーのものからテーブルトップサイズのものまで多種多様なタイプが存在するが、一般的には専門的知識をもとにオーダーメードで製作することになるため、実用装置としての導入ハードルが高く、普及が遅れている状況にある。本プログラムでは、低エネルギーイオン加速器として単独で使えるほか、高エネルギー加速器のビーム調整用などにも利用可能な、半波長同軸型空洞共振器を用いた加速電極一体加工型テーブルトップ加速器にターゲットを絞り、アルミニウム製の実用化試験モデルの開発を通じて、今後の実用化・標準化に向けた研究開発をおこなう。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、小型の電子ビーム発生源として、加速電極を一体加工した半波長同軸共振加速器をアルミニウムで試作するという当初の目標が達成されいることは評価できる。一方で技術移転の観点からは、実施計画に示されている「実用機における性能とコストのバランス評価」、「化成皮膜処理による耐久性向上」、「加速器に利用可能な部品の高周波特性試験」について、明らかにすることが望まれる。今後は、小型の電子ビーム発生装置の商品化で電子ビームの応用範囲は拡大することが期待されるが、目標用途を明確にし、ユーザニーズを把握した実用化開発に進むことが期待される。
極薄遷移金属酸化物における電界効果による電気伝導制御の研究 東京大学
鳥海明
ReRAMの動作原理の明確化と制御手法の提案をめざして、薄膜遷移金属酸化膜、特にTiO2薄膜を用いた二端子電気伝導とNiO薄膜を用いた三端子電気伝導の評価を行った。TiO2酸化膜はTi薄膜の酸化温度を変えることで酸素濃度を制御した。抵抗値は酸化温度を制御することで約10桁変化した。この領域におけるTiO2の二端子電気伝導には時間依存性が観測された。電流は時間と共に増加し飽和する。NiO薄膜の場合、三端子素子を形成することで電流の時間依存性を調べた。その結果、大変ゆっくりとした時間変化とゲートバイアスによる電流の増加を観測できた。これらのことは遷移金属酸化物薄膜の電気伝導を考える時には、電気伝導の時間変化を考えなくてはならないことを意味する。原理的には原子の移動による局所的ポテンシャルの変化を通じたキャリア伝導の変化を観測していると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも酸化物薄膜における三端子電界効果動作の確認と極低酸素濃度までの雰囲気下における酸素濃度制御の電気伝導率へ及ぼす効果を実験的に解明した点は評価できる。本手法をスタンダードとして研究の幅を広げることで、技術力向上という意味での応用展開は期待できる。今後は、今回の成果を基に、実用的な成果目指した研究を継続していくことが望まれる。
高齢者の変形足を含む多様な足形状に適合する靴のオーダーメイドを実現する軽量・安価で瞬時計測可能な足形状計測器の製作 東京農工大学
北嶋克寛
東京農工大学
伊藤伸
高齢化の進展に伴い足の変形で適合する靴が見つからない悩みを抱える人が増えている。オーダーメイド向けに簡便な自動計測手法が試みられてきたが、市販のレーザ式計測器は高額かつ計測時間が長いなどの問題があり、普及が遅れている。そこで本課題では、webカメラの画像から得られる少数の特徴点情報を基にgenericモデル(予め準備しておいた足形状モデル)を変形する手法を用いて、瞬時に計測・分析が可能で、軽量安価な足形状計測器を製作する。研究開発終了後は、全日本革靴工業協同組合連合会などの協力を得て、靴のオーダーメイドに必要な木型モデルの自動生成を実現し、足計測から靴製造まで一貫したシステムの確立を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、足形状計測器の試作を行い、カメラでの計測方法を確立し、足形状計測器の試作を行い、技術的課題が明確になっていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、精度実験などの技術的課題に関する研究計画は明確となっており、産学共同の基礎は確立できている。さらに、試作機での精度評価の実験結果がまとまれば実用化が期待される。今後は、実際の人の足での精度達成や軽量化により実用化にむけて開発を進めることが期待される。
切削形加工機におけるオンデマンド機上表面強化処理に関する研究 東京農工大学
笹原弘之
東京農工大学
江口元
本研究開発では摩擦攪拌形バニシングを用いて、炭素鋼表面を高硬度かつ圧縮残留応力状態とし、粗さも十分小さい表面を得る新しい表面改質技術を開発することを目的とする。摩擦攪拌形バニシングは、高速回転するバニシング工具で金属表面を擦過・攪拌し表面層に極度に大きな塑性ひずみを与えると同時に、塑性変形と摩擦による局所的な温度上昇・急冷を生じさせ、金属表面に結晶微細化と変態による表面改質を行う手法である。実験的に、表面粗さ、表面硬度、硬化層厚さ、圧縮残留応力の導入状態について調査を行った。結果として、表面粗さ:2.5μmRa、表面硬度:600HV以上、硬化層厚さ:300μm以上、圧縮残留応力:-400MPaの表面状態を実現することができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、加工機に取り付けた摩擦撹拌バニシング工具により、粗さ、硬さは目標値を下回るものの、考案された工具経路によって圧縮残留応力を発生させ、局部的な硬化を行う可能性が示されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、表面粗さ、硬さ、圧縮残留応力のすべてを満足する最適条件を見つけ出すには、さらなる検討が望まれる。今後は、上記課題の解決、工具摩耗に関する確認、疲労強度に対する効果の確認等を実施し、技術移転が進むことが期待される。
航空機用難削材の高精度高品質穴あけ用非対称刃ドリルの開発 筑波大学
堀三計
東京農工大学
江口元
厚さ3mmのCFRP板に、直径8mmの2枚刃ツイストドリルで穴あけを行い、2枚の刃を非対称にしたときの効果について実験的に検討した。CFRP材としては、一方向性プリプレグ、交互積層材料、疑似等方材料、平織り材料である。一方向プリプレグでは穴が楕円形状となったが、他の材料ではほぼ円形状の穴があけられた。本研究の範囲内では非対称角度10°の場合にH7のはめあい精度をほぼ満たすことができ、本研究の目標を達成することができた。しかし、穴の入口や出口で穴あけ時にはく離が生じており、はく離を防止するドリル形状の開発が今後必要であると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、CFRPの穴明け加工に対する非対称ドリルの効果を確認し、非対称形状の効果と種々のCFRPに対する効果を実験的に確認し、有効な結果が得られたことは評価できる。一方、バラツキを考慮すると、真円度の最大値は、目標値を超えており、完全に達成できたとは言い難い。真円度のさらなる改善や、穴両端の剥離の解決も技術移転のためには必要であり、解決にための具体的計画の立案が必要と思われる。今後は、これらの課題解決に向けた確実な進捗が望まれる。
極端小口径・高密度ヘリコンプラズマ生成による高速プラズマ流形成の試み 東京農工大学
篠原俊二郎
東京農工大学
江口元
本研究では、無電極プラズマによる従来にないプラズマ直径2cm以下、1013cm^-3以上の非常に小口径で高密度プラズマを、1kWレベルの高周波入力で生成することを試みる。これは小惑星探査機「はやぶさ」の推進ではグリッド加速を用いており深宇宙探査では電極損耗が飛行距離・運転時間延長の障害となっているが、その問題解決にもなっている。その際、排出されるプラズマ流速目標はマッハ1を超える数km/s程度である。更に次段階として、直径0.3cm、1013cm^-3以上を目指し、排出プラズマ流速はマッハ5程度が最終目標である。この技術は、種々のプラズマ応用分野での革新的展開が期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも目標達成に向けての積極的な取組みにより概ね目標を達成を達成している。また現象あるいは性能に関する深い理解と、実績に対する十分な考察がなされ、技術的課題の把握が的確である。一方、具体的な研究開発計画を持っていて、技術面では更なる向上が期待できる。今後は、技術移転についての取組みが必要と思われる。
広域防災システム構築のための周波数多重信号による光ファイバセンサの高速長距離測定の実証 東京農工大学
柏木謙
東京農工大学
島村太郎
本研究課題では、大型構造物の内部劣化状態の診断のために、分布型光ファイバセンサの測定距離延伸、測定時間短縮を目指した。分布型のセンシングのために光ファイバ中で生じるブリルアン散乱を利用するが、散乱光は入射端付近で強く生じるため、遠方からの信号が極めて微弱となる本質的問題があった。研究代表者が検討してきた光源に光周波数コムを用いる手法では、遠方からも強い信号が得られる。この技術を利用して、測定距離の延伸と測定時間の短縮を目指した。単一周波数の光源を用いる方式に比べて、光周波数コムを用いることにより測定距離が2倍以上に延伸することができた。測定時間の短縮にはまだ課題が残っている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。広域防災の観点から、周波数多重信号を用いた光ファイバーセンサーによる高速長距離測定を行おうという研究提案である。特に、光周波数コムを用いた光ファイバーセンサーシステムを構築し、目標以上の100 km以上の監視距離は実現されていることは評価できる。また、測定時間の短縮のための議論、ポータブル化に向けた課題も明らかになっている。一方、技術移転の観点からは、今回未達成となった測定時間短縮化や、温度環境変動の影響などの解決が望まれる。今後は、上記課題の解決とともに、光散乱測定については現場での実験が必須であり、現場検証試験に進むことが期待される。
ガラス内部のアルカリイオンを光で追い出すアルカリ金属ディスペンサーの開発 東京農工大学
畠山温
東京農工大学
堀野康夫
アルカリ金属を含有したガラスに紫外線を照射するとアルカリ原子が真空中に追い出されることを過去の実験で見いだした。この現象を利用すると、従来の熱的な方法によるアルカリ原子供給源よりも応答が速く不純物生成の少ないアルカリ原子源の作製が期待でき、高純度のアルカリ金属が必要な新規材料合成分野などでの幅広い応用が見込まれる。実験ではパイレックスガラスにイオン交換によりルビジウムを拡散させた試料を作製し、紫外線を照射して、ルビジウム原子の脱離を測定した。現在のところ、ルビジウムと思われる信号と、光照射に由来する原因不明の信号の分離が十分できておらず、実験装置の工夫も含めて、今後引き続き研究が必要である。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、目標としたルビジウムの脱離は確認されていない。ただし、原因を材料科学的分析によって究明した点は的確であり、評価できる。今後の計画としては、「現象の解明」という基礎研究に立ちかえって、検討することが必要と思われる。
凹凸や障害物が散乱する床面でも安全に歩行できる足構造と制御アルゴリズムの開発 東京農工大学
Venture Gentiane
東京農工大学
堀野康夫
高齢化社会が進む日本で、ヒトの生活圏に適応した二足歩行ロボットの開発は急務である。しかし、現存のロボッ トは多少の段差で転倒し、ヒトと活動範囲をともにするの は困難である。転倒の原因は、ロボットの足機構がヒトと 比べて単純であり、路面の凹凸といった外乱を吸収できないことがあげられる。また、歩行時の負荷を受ける踝部は 巨大になりがちで、制御性に問題がある。爪先関節を足部 に付加して歩行をなめらかにする研究も行われているが、 外乱に対しての効果は爪先だけでは期待できない。一方で、ヒトは複雑な足機構を有しており、路面状態に よって形状を柔軟に変化させることができる。土踏まずにはアーチ構造と呼ばれる弓状の関節群が存在 し、歩行の際にはアーチ構造が変形することによって地面 との接触時に衝撃を和らげ、立脚時には推進を助ける効果 があることがわかっている。
アーチ構造を持ったロボットに、「WABIAN」がある が、これは歩行の推進と衝撃吸収を目的としていて不整地 に対しては考えられていない。そこで、本研究では、二足歩行ロボットの従来の足裏に粘弾性のある関節を追加し、その効果の実証を目的とした。第一段階として、ヒトの歩行動作中の足部の挙動について凹凸を考慮して動力学的に解析した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、提案研究は人間のような足のアーチ機構を二足ロボットに導入することで、平坦ではない路面で走行できることを目的であるが、モデルでの安定歩行に対して目標とする基本特性の有用性は確認できたことは評価できる。一方で、当初の目標であった提案モデルの優位性の定量的比較、そしてプロトタイプ機の試作および実機検証ができていないので、早期の実施が必要と思われる。今後は、本機構の優位性の検証を経て、実用化に向けての研究に進むことが望まれる。
音波トモグラフィ法による渦風速場のリアルタイム監視システムの開発 東京農工大学
李海悦
東京農工大学
木下麻美
本研究では、監視領域の両脇に複数の音波送受信器を配置し、その音波伝搬時間の測定データをもとに、領域内の渦風速場を検知できるトモグラフィ監視システムの実現に向けた検討を行った。符号変調4チャンネル同時送受信方式の小規模屋内試験装置を用いた評価試験の結果、フレームレート約1sの風速分布画像を十分な精度で再現できる結果が示された。これにより、送受信器が非常に少ない数に制約される中で、周囲環境雑音の影響の回避と、変動の激しい風速場のリアルタイム観測を実現できる見通しを得た。本研究では、屋外の評価実験(伝搬距離10m、4チャンネル送受信システム)は、短距離での基礎的性能試験の段階に留まった。今後は、未達成な部分について対策を施し、数十m規模の渦風速場が観測可能な実用システムとして完成させていく予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、小規模屋内試験装置を用いた評価試験の結果、フレームレート約1sの風速分布画像を十分な精度で再現できる結果が示された。これにより、送受信器が非常に少ない数に制約される中で、周囲環境雑音の影響の回避と、変動の激しい風速場のリアルタイム観測を実現できる見通しを得たことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、観測距離におよぼす横風の影響が大きいこと(観測距離が短くなる)が明らかとなり、その対策のため、屋外試験は実施できていないので、さらなる進展が望まれる。研究では、屋外の評価実験(伝搬距離10m、4チャンネル送受信システム)は、短距離での基礎的性能試験の段階に留まった。今後は、未達成な部分について対策を施し、数十m規模の渦風速場が観測可能な実用システムとして完成させていくことが、期待される。
アコースティック・エミッションを用いた紙の劣化度評価システムの開発 東京農工大学
岡山隆之
東京農工大学
木下麻美
測定に供する紙試料の大きさ及び損傷を最小限に止めながら、低水準にある劣化した紙資料の強度を精度よく測定する方法としてアコースティック・エミッション(以下AEと略す)を用いた紙の劣化度測定法を開発し、図書館や文書館等の現場に導入可能で、信頼性の高い汎用型劣化度評価システムの確立を目指す。
これまでの検討結果から、紙の劣化度評価が可能となる紙表面における最適AE測定条件を見出すことができた。20世紀初頭以降に刊行され、自然劣化した国内図書を用いて、AEを用いた紙の劣化度測定を行い、従来の標準的な強度試験法及び官能評価法による測定結果と比較し、AE法による紙の劣化度評価法の有用性を立証した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、紙の劣化の研究は条件などが異なり難しい問題であるが、アコースティック・エミッション法で図書館などの貴重な資料の劣化状態を調査する有効な技術が確立し、当初の目的が達成できたことは、評価に値する。一方、技術移転の観点からは、試験した資料特に貴重な資料の数も少ないので、データ数を増やし、貴重な紙の保存につながる技術の確立が望まれる。今後は、評価機器製造メーカーと共同開発により実用化に進むことが期待される。
圧電ポリマーを用いたフレキシブル圧電繊維の開発 東京理科大学
中嶋宇史
東京理科大学
金山薫
圧電ポリマーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)をディップコート法により金属線上に塗布し、圧電繊維の作製を行った。塗布形成によって得られるPVDF膜は圧電性を示さないα結晶が支配的であるが、電界印加処理によって強誘電性β結晶の増大を引き起こすことで、圧電特性の向上が可能であることを見出した。このような電界処理を有効に行うためには、平滑性に優れた薄膜の作製が必要不可欠であり、そのための条件探索を行った。結果として、直径50μmの金属線上に1μm以下の薄膜を形成し、その電気特性の評価に成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にポリマーの圧電繊維作製において、研究途中で成膜装置を改良することにより、当初の目標を超えた性能を達成している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、大面積化や長大化のための計画が検討されており、複数の民間企業との共同研究も具体的計画を進めているので、産学共同等の研究開発につながる可能性が高い。今後は、明らかになった課題を解決して、広く応用展開されることが期待される。
金属微細リンクル構造を基盤とした高感度ケミカルセンサーの開発 東京理科大学
遠藤洋史
東京理科大学
金山薫
本研究では、ゴム表面に金属蒸着を行い、座屈現象を利用して微細凹凸構造(リンクル)を作製し、高感度な表面増強ラマン散乱(SERS)センサーを開発することを目的とした。従来の1軸もしくは2軸伸長法とは異なる立体的な3次元伸長法により、より複雑な構造制御を試みた。その結果、金属リンクル構造に吸着した有機分子からのラマン散乱強度は大幅に増大した。また、コロイド粒子配列を鋳型とした新規メカニカル応答型SERSセンサーの開発に成功した。さらなる高機能化を目的として金属リンクル構造にフッ素系分子をコーティングすると、水滴接触角が160度以上の超撥水・高付着性表面が作製できた。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に立体的な3 次元伸長法によってより複雑な構造制御を可能としている点、コロイド粒子配列を鋳型とした新規メカニカル応答型高感度な表面増強ラマン散乱センサーの開発にも成功している点、超撥水および高付着性表面も作製している点等、当初目標は十分に達成しており、評価できる。一方、技術移転の観点からは、多くのアプリケーションが想定できることから、積極的なフォローアップができるよう産学共同体制の整備が望まれる。今後は、更なる研究の進展と、多くの成果に対して、技術移転を希望する企業と協力して、実用化に進んでいくことが期待される。
デジタル直接駆動による低電圧駆動・高効率電動モータシステムの開発 法政大学
安田彰
法政大学
村上義英
駆動回路を含めた電動モータシステムの効率向上は、電気自動車等電動モータを用いる機器に常に求められている。これまで、効率を向上させるため、高電圧化による手法がモータ駆動方式に用いられてきたが、本研究では、デジタル直接駆動技術を応用し、低電圧駆動で高効率高トルクを実現できる手法を開発する。この手法では、重ね巻き(分巻)したコイルの駆動数を、マルチレベルΔΣ変調器およびミスマッチシェーパを用いて必要なトルクに応じて最適かつスムーズに切り替え、デジタル電力信号で直接駆動する。これにより、コイル切替え時のトルクの変動を抑え、低トルクから高トルクまでの効率を大幅に向上させる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも低出力時の効率を最大出力時と同等にするという目標が達成された点は評価できる。一方、低出力時の効率向上は省エネになるため、技術の検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、次のステップへ進めるための技術的課題が明確になっているので、計画を作成して、技術移転を目指した研究を継続することが望まれる。
新規光学異性体分離用カラム開発促進のための分子識別機構の定式化 横浜国立大学
上田一義
医薬・農薬等の化学合成では、一般に異なった生理活性を有する光学異性体が同時に生成する。そのため、一方の光学異性体のみを分離・生成する方法としてセルロース誘導体を用いた高速液体クロマト法が実用化されている。しかし、その分離のメカニズムは明確ではない。本研究ではコンピューターを用いた計算機化学的手法により、セルロース誘導体による光学異性体分子の不斉認識機構を分子レベルで明らかにした。また、その分離係数を自由エネルギー法で解析した。認識機構情報は新たな分子セレクターの開発に直結しており、今後、企業との共同研究により、新規分子セレクターの開発を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にセルロース誘導体を利用した光学異性体分離のメカニズムについて、分子動力学的シミレーションを利用した分離機能サイトの特定とその場での自由エネルギー解析を行うことで明らかにしたことは高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、より高性能の光学異性体分離用カラムの設計を行うことが可能となり、応用上極めて有益な知見を得ている。また、技術移転の受け入れ先の企業も明確であり、企業化に向けた可能性も高く、成果は波及的に社会還元に繋がると思われる。
空間掃引を利用したロボット教示 横浜国立大学
前田雄介
横浜国立大学
原田享
研究責任者らは、非熟練者でも容易に高品質なロボット教示を実現できる手法として、空間掃引を利用した教示手法を提案している。この手法では、作業者がロボットの手先を持って適当に動かすことで、ロボット周囲の可動空間情報を獲得し、それに基づいて最適に近いロボットの経路を自動生成できる。しかし、掃引空間の計算量が大きいため、これまではオフラインで計算を行う必要があった。そこで本課題では、掃引空間の計算を7msに高速化(事前目標は33ms)することで、オンラインでの計算を実現した。今後は技術移転に向けて、ユーザインタフェースの完成度を高めていく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、技術の基礎としての研究成果はほぼ得られているものと考えられ、評価できる。一方。技術移転の観点からは、リアルタイムでグラフィック表示をする機能は達成されておらず今後の達成が望まれる。また、本技術の汎用性、ロボットの機種が変わった場合にどの程度対応できるかについて、さらに完成度を高めることが望まれる。今後は、実用化に向けてさらなる応用展開が発展することが期待される。
ハニカム多孔質体を用いた高発熱密度機器の冷却技術の開発 横浜国立大学
森昌司
横浜国立大学
原田享
近年、電子機器の小型化、高集積化に伴い素子の発熱密度が急増しており、高性能な熱除去手法の確立が急務である。本課題では、発熱体面上にハニカム多孔質体を設置することで、プール飽和沸騰の限界熱流束が向上できることを示した。またハニカム多孔質体性状のパラメータを幾通りか変化させ実験的に限界熱流束を測定し、限界熱流束向上メカニズムの解明を試み、ハニカム多孔質体形状と限界熱流束の定性的な傾向を明らかにした。これらの知見を元に、適切な多孔質体・形状を選ぶことで、これまで得られたことのない非常に高い限界熱流束(最大2.9MW/m^2)を得た。今後多孔質体の性状・形状を改良することでさらなる限界熱流束の向上を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標とする値には及ばなかったが、非常に高い限界熱流束が得られ、理論、実験の両面から検討し、理論値に到達し得ない理由の考察とそれに基づいた改善点の提案もできていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、限界熱流束を向上させるために毛管力を大きくし、透過係数を大きし、さらなる性能の向上を図るとともに、毛管力を考慮した理論モデルを構築することが望まれる。今後は、より安価で冷却機能に優れるハニカム多孔質体の実用化に向けて、特許出願をして、企業との連携を行い、研究がさらに発展することが期待される。
空間的水素漏えい監視システムの実現を可能にするRF水素検知タグの開発 横浜国立大学
岡崎慎司
横浜国立大学
西川羚二
水素の漏えいを高信頼性かつ低コストで監視可能とするため数多くの低コストセンサを無線化配置した分布型システムに着目した。本研究では、無線タグ自体に電源や信号処理回路を必要としない、アンテナコイルにセンサ機能を付与した極めて単純な構造のセンサを実現することを目標とした。アンテナ部にPt/WO3膜をゾルゲル法により固定化した水素検知タグを作製した結果、水素曝露によりPt/WO3膜が絶縁体から良導体に変化するため、アンテナコイル部に大きなインダクタンス変化が生じることを見出した。さらに目標である1ケタ以上の出力変化、10s以下の応答速度を達成した。今後更なる高感度化を目指すとともに当該デバイスを分散配置したセンサシステムの開発を行い、実適用性の高い運用技術の確立を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にRFタグを小型アンテナを兼ねて接続し、水素検出を無線で調べることができ、今後の水素利用社会において有用なセンサとなることが期待される。またセンサは、3秒以内の応答性をもち、0.4%での目標値での水素感応特性が示されたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、空気中での応答性、再現性、感応性の検討が今後の課題となる。これらを明らかにすることで、今後さらに研究展開の可能性が広がると思われる。ユーザー主体で、製造企業なども加わっての展開を期待したい。
摺動面の横すべりが生み出す仮想的な粘性減衰効果を利用した摩擦振動の抑制技術 横浜国立大学
中野健
横浜国立大学
西川羚二
研究責任者が有するシーズ(=摺動面の横すべりが生み出す仮想的な粘性減衰効果を利用した摩擦振動の抑制技術)を基礎として、技術の移転先をディスクブレーキとした研究開発を行った。回転するディスクにパッドを押しつけて、ディスクとパッドの摩擦により回転を止めた。1方向に柔軟な構造を有するパッドの支持部は、パッドまわりに回転可能な取付角を持たせて、摺動面に横すべりを与えられる構造とした。横すべりなしのときに振動と異音が発生する状況において、横すべりを与えると、特定の振動と異音が消失することを実証した。また、ディスクを静止させるために要する時間により制動性を評価したところ、振動と異音が消失しても、制動性が犠牲になることはないことをあわせて実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、特定の条件ではあるが、原理確認の目標は達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、条件を変えた場合の検討は行われておらず、本成果が種々のディスクブレーキに適用可能かどうかについては疑問が残る。本課題は、ディスクブレーキの「鳴き」の一つの要因を検討したもので実機のブレーキの振動・騒音の抑制を社会還元と考えると、本研究以外に非常に多くの分野の研究が必要になると思われ、その対応が望まれる。今後は、本研究成果はブレーキパッドの要素技術の一つとして産学共同研究に結びつく可能性があり、さらなる発展が期待される。
静電レンズを用いた高分解能電子エネルギー分析器の開発 横浜市立大学
木下郁雄
横浜市立大学
福島英明
本研究は、“光電子温度計”として既存にない高エネルギー分解能を有する新規な電子エネルギー分析器の開発のために、これまでに得られたシミュレーション計算結果を踏まえて、実際にプロトタイプの電子エネルギー分析器を製作し、本技術による高エネルギー分解能化の実用性を調べることを目的とした研究である。今回、シミュレーション計算においては、高エネルギー電子の振る舞いについて新たな情報が得られた。また、実験面においては、プロトタイプ電子エネルギー分析器を設計開発した。今後は、開発した電子エネルギー分析器により、様々な試料温度領域で光電子分光測定を行い、そのスペクトル測定能力に検討していく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも計算シミュレーションに従って、装置を作製したことは評価できる。一方、分析までは確認できていないので、目的の達成に向けて、電子エネルギー分析の実験を行い、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後の研究継続を期待する。本研究は、新たな高分解能電子エネルギー分析器を提案する独創的で新規な技術であるので、今後の具体的な分析実験の進展が望まれる。
長距離音響放射装置を用いた浅層音響探査法の騒音制御に関する研究 桐蔭横浜大学
杉本恒美
桐蔭横浜大学
安藤恒雄
長距離音響放射装置を用いた浅層音響探査法の騒音制御に関する検討を行った。逆位相音波を用いて周囲騒音の低減およびレーザヘッドの振動抑制効果について確認した。実験の結果、周囲騒音の低減についいては当初目標としていた広域の騒音低減は困難であることが明らかになったが、レーザヘッド程度の大きさであれば十分にその低減効果の恩恵に授かることが出来、測定感度の改善および出力音圧の低下に伴う周囲環境騒音の低減も同時に達成できることが明らかになった。今後は複数音源により振動エネルギーを測定対象面に集束させる方法を用い、周囲騒音の低減と同時に欠陥検出性能の向上を可能とする方式を検討する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初目標としていた広域の騒音低減は困難であることが判明し、期待したほどの効果が得られていない。他の手法による騒音制御、振動抑制の検討が必要であることが明確となり、研究開発計画が検討されている。今後は、、企業との共同研究体制で、他の手法による騒音制御、振動抑制の検討についての実施が望まれる。
LSI配線におけるナノコイル型層間絶縁膜の研究開発 慶應義塾大学
大宮正毅
慶應義塾大学
佐藤修
本研究では、低誘電率かつ高剛性の層間絶縁膜を製作することを目的とし、動的斜め蒸着法により、ナノ構造を有する層間絶縁膜を製作し、それらの観察、機械的性質、電気的性質を調べた。その結果、 成膜中の基板傾斜角度を変えることで内部構造を変化させることが可能であり、研磨プロセスに耐えうるヤング率である4 GPaをクリアするための成膜条件を明らかにした。また、ナノ構造体薄膜を絶縁膜とした多層膜を製作し、その静電容量を測定した。サイズが小さく、比誘電率の測定に成功しなかったが、今後は、測定および評価方法に検討を加え、さらに、均一なナノ構造とするための技術を開発し、実用化へ向けて研究を進めていく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、絶縁膜としての、機械的強度の評価が行われている点は評価できる。一方、今後の課題は述べられているものの、具体的な研究開発計画の立案が必要と思われる。今後は、特に、比誘電率の評価について、測定プロセスの再検討を行うことが望まれる。
燃料電池用電解質膜のメタノール透過性評価センサーの高スペクトル分離化 慶應義塾大学
小川邦康
慶應義塾大学
佐藤修
直接メタノール燃料電池(DMFC)では、燃料のメタノールが電解質膜を透過して、発電に寄与しないまま消費されてしまうという問題がある。このため、メタノールを透過させない電解質膜の開発が化学メーカで行われている。平成21年度のシーズ発掘試験において開発した電解質膜のメタノール透過性を簡便に計測するシステムの評価から、センサーの高精度化が評価の信頼性を向上させるために重要であることが明らかにされた。そこで、本課題ではスペクトル分離性を高くしたNMRセンサー(核磁気共鳴法を利用したセンサー)を開発し、電解質膜のメタノール透過性を高い精度で評価できるシステムを試作する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、状態の異なる二つの試料を用いてシム調整を行い、その評価関数としてΔRを用いることで計測のばらつきを従来よりも半分に低減させることができ、一定の目標を達成していると判断できることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化のためには「シム調整を自動化」「拡散係数算出過程の自動化」のソフト開発等にまだ多くの時間を要すると思われるが、確実な進展が望まれる。今後は、具体的な連携企業との協力関係も検討されているので、実用化に向けての検討が進むことが期待される。
電気粘性流体を用いたタッチパネル上への凹凸感呈示装置の開発 慶應義塾大学
竹村研治郎
慶應義塾大学
佐藤修
近年、スマートフォンやコンピュータ、ATMなどの公共端末においてタッチパネルが急速に普及している。タッチパネルは表示内容やボタン配置などを自由に変更できるため、インターフェースの設計自由度が高く、機器の高機能化に大きく貢献している。しかし、キーボードやマウスによる入力作業と比較して、操作者への触感フィードバックが欠落しており、誤操作や入力効率の低下が問題となっている。このため、本課題では電界の印加によってレオロジー特性が変化する粒子分散系電気粘性流体を用いて平面パネル上に凹凸感を呈示する手法を実現し、官能評価実験によってその有効性を確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ボタン形状の目標値は達成していないものの、タッチパネル上の凹凸感は実現している点については評価できる。一方、企業に送ったサンプルの結果がまだなので、結果を踏まえて、改良を進める必要があると思われる。今後は、技術的課題の整理と研究開発計画を再検討することが望まれる。
次世代フォトニックネットワーク用帯域可変導波路型波長選択光スイッチの開発 慶應義塾大学
津田裕之
慶應義塾大学
佐藤修
帯域可変波長選択光スイッチは、光ネットワークに不可欠なデバイスであり、ネットワークの大容量化と省電力化に寄与する。本研究は、光導波路を用いたワンチップの帯域可変波長選択光スイッチの実現を目的とする。石英導波路を用いて、分光用アレイ導波路回折格子、1×2スイッチアレイ、合分波器アレイ、及び合波用アレイ導波路回折格子から構成される帯域可変波長選択光スイッチを設計し、100GHz単位で40チャネルの切り替えが可能な、光通信用Cバンド全体を包含する帯域可変波長選択光スイッチを試作した。挿入損失は約5dBで目標を達成し、約25dBの消光比で任意の波長の信号を選択して出力できることを実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、100GHz単位で40チャネルの切り替えが可能な、光通信用Cバンド全体を包含する帯域可変波長選択光スイッチを試作し、目標は概ね達成できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、素子製作を依頼している企業があるので、技術移転の可能性が高いと考えられる。今後は、本素子の有用性についてシステムサイドの評価を取り入れて、実用化されることが期待される。
身体接触作業のためのモーションコピーシステムの開発 慶應義塾大学
桂誠一郎
慶應義塾大学
佐藤修
リハビリテーションやマッサージなど身体接触作業のロボットによる自動化は、高齢化社会における豊かな生活支援に不可欠であると注目されている。本研究では、研究責任者が世界で初めて成功した力覚を含む動作の保存・再現を行うモーションコピー技術を身体接触作業に適用し、生活支援に資するシステムの開発を行った。具体的には、適用先の最初のターゲットとしてマッサージシステムを選定し、エレクトロニクス部の実装方法について連携先企業と実用化を目指した基本仕様の策定を行った。今後はセットメーカーも加えて製品化へ向けた研究開発を進めるとともに、より幅広くシーズを展開し革新的な医療・福祉システムに関する技術移転や実用化を推進する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にサーボモータによる広帯域な触覚情報を力覚センサレスで検出し、再現する「実世界ハプティック技術」についてリハビリテーション、マッサージなどの作業への応用が期待できる成果が得られたことは、評価できる。押し、つかみ、ひねり動作に着目した技術課題をクリアしていく方向性に問題はないと考える。一方、技術移転の観点からは、被験者の満足感を得るためにはさらに多自由度のアクチュエータの構造が要求されると思われ、さらなる進展が望まれる。今後は、モ-ションコピーについては個人の状態等で微妙な差異があり、速度等に着目し、実用に向けて課題が解決されることが期待される。
粘性率の超高速・非接触モニタリングを可能とする光学式マイクロセンサーの開発 慶應義塾大学
田口良広
慶應義塾大学
佐藤修
本研究では、これまで誰も達成することができなかった非接触かつリアルタイムなインプロセス粘性率モニタリングの実現と実用化を目指し、測定精度を飛躍的に向上させる新しいマイクロチップの開発を行った。本提案手法は、フォトニッククリスタルファイバー(PCF)と微小レンズファイバー(CLF)の2種類の光学コンポーネントが微細加工技術によって形成されたマイクロトレンチにパッケージングされ、短パルスによって励起された表面波の形状を光学的にセンシングすることで超高速な粘性率センシングを可能とする。本提案では3層SOIを用いたファブリケーションプロセスを提案し、極めて高いアライメント精度を達成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。3層SOIを用いた斬新な製造プロセスを考案して製造した結果、光学式マイクロセンサーの測定精度が十分に実用化レベルに達し、粘性率の超高速・非接触モニタリングを可能にしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは極めて多くの分野(環境・エネルギー分野、コーティング分野、医療分野、計量標準分野、シミュレーション分野、等々)への応用が可能で、期待されるものである。今後は、基本的な要素技術をしっかり固め、センサーの耐久性や大量生産を可能にする量産化技術等、解決すべき技術的課題に早急に取り組む必要がある。
三次元微細メッシュ構造による電気粘着表面の実現 慶應義塾大学
柿沼康弘
慶應義塾大学
北吹順一
開発した電気粘着エラストマは電気で粘着性が変化する新規な機能性材料である。しかしながら、これまでに開発した電気粘着エラストマは絶縁性微粒子をゲルに分散させた構造のため、製造時の分散性などにより性能の個体差が生じることや、長時間使用による表面粒子の離脱が問題であった。そこで最新のナノマイクロファブリケーション技術を駆使して粒子の代わり3次元微細メッシュ構造体を適用し、性能安定化と高強度化を兼ね備えた電気粘着表面の開発に取り組んだ。電場解析による設計と実験的検討を重ねた結果、規則的な電気粘着効果を示す電気粘着表面の開発に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。3次元MEMS技術を用いて3次元メッシュ構造の加工を施すことにより、電場-構造解析により設計した3次元メッシュ構造にシリコーンゲルを含浸させた構造体において、電気粘着機能を発現させることが達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、本技術が応用されるまでには先が長いように思われる。又、製品化やシステム化に関して具体的にイメージし難いところがあるものの、可変ダンパ、ブレーキ、クラッチデバイス等の産業機器や大規模構造物の制震用素材としての実用化が考えられる。今後は、基盤技術の確立に邁進されることが期待される。
硼珪酸ガラスを対象としたインプリント用電鋳金型の開発 神奈川県産業技術センター
安井学
神奈川県産業技術センター
安田誠
有機合成の収率を著しく向上できるマイクロリアクターやバイオ・チップの高感度化などを実現するために必要な硼珪酸ガラスの微細加工技術として、熱インプリントが注目されている。そこで、本研究では硼珪酸ガラスを対象とした熱インプリント用耐熱電鋳金型の開発を行った。この耐熱電鋳金型を実現させるために、電鋳時のレジストパターンの剥離防止技術、レジストパターンの微細化技術、電鋳後のレジストパターンの剥離技術の3点を開発した。そして、目標である最小周期が10μmのパターンを有する耐熱電鋳金型を実現した。更なるパターンの微細化により、ガラス製エンコーダや局在表面プラズモン共鳴を用いたバイオ・チップなどへの応用展開が期待できる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、最小周期が10μmのパターンを有する耐熱電鋳金型が実現できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の研究開発に向けて、特許等も踏まえて、さらなる高度化を期待したい。今後の展開如何では、社会的な波及効果も期待できる。
多波長光源を用いた屈折率測定装置の開発と高精度化 東海大学
喜多理王
東海大学
加藤博光
研究責任者の「非平衡系の分子物性」研究では、屈折率を高い精度で取得することが極めて重要である。しかし、精密に制御された温度条件下で、広い波長にわたり、高い精度で屈折率を計測できる装置は見当たらない。本申請課題では、厳密な温度制御機能、測定制御、データ処理機能を組み合わせ、波長400nmから780nmの任意の波長で屈折率を測定するシステムを開発することが目標である。その基本的なハードウェアの設計・製作は順調に進行し、目標精度の達成および計測時間の短縮を鑑みるとその達成度は50%である。基本的な技術的な課題は解決できているので、今後も研究を継続することで本申請課題の目標を100%達成できると考えられる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも装置開発におけるセレクター製作、セル部製作部分では成果が出ている。一方、制御・データ処理に関する部分、レーザー光源に関する部分に課題があるため、解決する必要がある。今後は、類似技術との差別化を明確にして、装置が完成されることを期待したい。
振動周波数調整機構を有する万能型制振装置の開発 東海大学
島崎洋治
東海大学
加藤博光
次世代移動体通信にLTE(Long Term Evolution)がNTT初めとして導入されつつあり、その基地局用アンテナの設置計画が具体化してきた。このアンテナ塔は高さが10 m~15 mの鋼管柱であり、安全面からも基礎工事の面からも鋼管柱の揺れを防止するニーズは高い。研究責任者はこれまでに照明柱、ペンシルビル用に、独自の制振装置を開発・実用に供してきた。上記移動体基地局用では、構造が簡単で、低コストであること、更には多様なアンテナ塔の固有振動数、すなわち風などによる共振に対する対応性が必須になる。研究責任者は、上記ニーズに対応するための課題、解決策を見出し、予備検討を進めており、本事業では、詳細設計、試作、評価試験を行い、実用機開発に向けた研究開発を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、基本的なシステムが完成されていることは評価できる。また、技術移転の観点は、かなり具体的に考えられており、照明塔、アンテナなどの固有周期が長く、風で問題になるもののみに対象を絞り研究開発をしており、実用性が高いと考えられる。特に、本製品が、もう少しコンパクト化、コスト面での軽減ができれば、実用化はさらに早まると考えられる。
カーボンナノチューブ/フッ素樹脂複合膜を用いた燃料電池用セパレータの防食技術 東海大学
庄善之
東海大学
加藤博光
本研究開発では、カーボンナノチューブ(CNT)とフッ素樹脂(PTFE)で構成された導電性の高い(10S/cm)防食膜を低コストで大量に作製する技術の開発を目標にした。その結果、従来4時間の作製時間が必要であったCNT分散液を、湿式ジェットミル法を用いることで、30分以下に短縮することに成功した。このことで本防食膜の被覆コストの低減を行った。一方、本防食膜を被覆した燃料電池用セパレータの試作およびそれを用いた燃料電池の試作を行なった。本セパレータは、長時間(1万時間以上)の耐久性を有することを電気化学的手法で明らかにした。また、本防食膜の被覆で燃料電池の出力が1.2倍に増加することを確認した。今後は、企業による本防食加工を行なったセパレータの評価を行い、実用化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、防食膜用のCNT/PTFE混合分散液を湿式ジェットミル分散法により、短時間で作製する技術を確立した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、湿式ジェットミル装置を製作する企業と共同で、CNT分散液の製造コストの削減および量産化の研究を進めており、うまく進めば、企業化への展望も見えてくる。今後の研究成果と企業への技術移転が期待される。
小型流体軸受スピンドルにおける角度弾性係数・角度減衰係数評価法の開発 東海大学
落合成行
東海大学
加藤博光
流体軸受スピンドルにおける軸受角度動剛性の実験的同定法の確立を目指すものである.揺動試験装置を新たに設計・製作し、揺動振幅、揺動加速度を変更して試作スピンドルの揺動応答を取得した。その結果、揺動方向とは90°位相のずれた方向に大きく傾くことなどが確かめられた。一方、同実験結果に基づき係数の同定を行い理論との比較を実施したが、両者の整合性は得られていない。今後角度剛性の同定を行うために、モデルの見直しを進める計画である。油膜剛性の非線形性を考慮にいれた検討も必要と考えている。橋本 巨(東海大学工学部機械工学科 教授)との連携で研究開発を行っている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも理論値との比較により実験の妥当性を確認するとともに、実験と理論の相対誤差10%以下(10回以上の測定値に対して)を目標とし、目標には到達していないが、課題解決の方向性が明らかになったことは、評価に値する。一方、目標に到達するには、介在する要素が多く、その要素及び寄与度は対象によりさまざまで一般解として確立するのはハードルが高いので、今後は課題を一つ一つ克服していくか、的を絞るか選択が必要と思われる。今後は、小型精密スピンドルの開発のための開発ツールとしての同定手法であり、小型軸受けの特性を把握する観点からも、本研究成果が応用展開された際には、社会還元に導かれることが期待できる技術であるので、さらな、研究の継続が望まれる。
外部拡散法MgB2超伝導線の加圧熱処理による臨界電流の向上 東海大学
山田豊
東海大学
加藤博光
外部拡散法MgB2超伝導線の熱処理時に等方的に加圧するHIP法を用いて、緻密で空孔のないMgB2超伝導体が生成され、超伝導体部と金属シースとの間にも空隙が無く通電性能に優れたMgB2超伝導線が作製できた。また、実用上最も重要な臨界電流密度:Jcは、4.2K, 5T及び10Tにおいてそれぞれ3,800A/mm2および650A/mm2で、目標とする5,000A/mm2及び1,000A/mm2には達しなかったが、単芯線の値としてはほぼ実用レベルに近い高い値が得られた。今後は、本単芯線を集合・加工し、極細多芯線化後 本研究課題で得られた知見を基に加圧熱処理することにより臨界電流密度のさらなる向上が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に計画通りに研究は行われ、ボイドやギャップといった線材の不完全性は除かれた。重要な特性の臨界電流値については目標値に到達しなかったものの、従来法より格段に向上し実用レベルになっている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、多芯線化等の実用化を見据えた今後の開発目標が示されている。今後は、実用化に向けて研究は進展しているので、産学連携について検討を進めることが望まれる。
小型エンジン用TiB2+αベース潤滑性硬質複合膜の開発 東海大学
神崎昌郎
東海大学
加藤博光
小型水素ロータリーエンジンのアペックスシールへの応用を目指し、硬度25GPa以上、室温から500℃で摩擦係数0.1以下を実現するTiB2+α-MoS2複合膜に関するものである。これまでにTiNにMoS2を添加することで、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜と同等以上の低摩擦特性(摩擦係数0.1以下)を実現した。また、TiB2にホウ素を過剰に添加したTiB2+α膜において、高密着力かつTiN膜以上の微小硬度が得られている。この二つの成果を融合し、低摩擦性、高硬度性、高密着性を持つTiB2+αベース潤滑性硬質複合膜実現し、低振動、軽量、高効率、環境に優しい小型ロータリーエンジンの実用化の基盤技術に繋げる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、23年度目標の硬度35GPa以上のTiB2+α膜生成には成功していることは評価できる。一方で、24年度に創成したTiB2+α-MoS複合膜は目標としたTiN膜以上の密着性を有しているものの、硬度と摩擦係数は目標を達成できていないので、さらなる検討が必要と思われる。今後は、MoSの機能も含めて基礎的研究を綿密に積み重ね、複合膜の性能向上を図ることことが望まれる。
300℃廃ガスで動作する多段熱音響機関の試作と評価 東海大学
長谷川真也
東海大学
加藤博光
本申請課題は、自動車からの廃熱を使った熱音響機関に関するもので、発生する音波を用いてエネルギ変換を行うという特徴があり、装置は小型かつシンプルな構成である。また理論上カルノー効率で駆動する為に、高いエネルギ変換効率を実現できる可能性がある。一方現在の熱音響機関は500℃程度の高温で動作するのが実態である。研究責任者は自動車廃ガスの300℃前後で高効率に機能する熱音響機関の実現に向け多段熱音響機関の理論的検討を進めてきた。本申請では数値計算を用いて多段熱音響機関を最適化することで300℃の熱源から18%の効率で仕事を取り出すことに成功した。この成果は、これまで大量に捨てられていた工業排熱の高効率な再動力化が可能であることを意味する。得られた成果は2012年5月28日に記者会見にて公開し、大きな反響を呼んだ。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、解析モデルを構築した後に、実験によりモデルの検証、現象の実証などを実施しているので、顕著な成果が得られている。一方、技術移転の観点からは、 低品位熱エネルギの利用技術の開発における課題の検討がやや不十分であり、低品位熱エネルギを利用する際、装置の大型化によるコスト増など、実用化には大きな壁があり、これを克服できるかが今後の課題となるので、この解決に向けた検討が望まれる。今後は、 産学共同開発の具体的な活動が既に見られるので、社会還元に向けた発展が期待される。
プリント回路基板実装用近傍磁界抑制素子の開発 東海大学
村野公俊
東海大学
加藤博光
電子機器を構成するプリント回路基板には電子回路が高密度で実装されており、回路から発生する電磁界に起因して電子回路の誤動作を誘発することがある。本研究では、プリント回路基板上の伝送線路や電子回路から発生する磁界を抑制する近傍磁界抑制素子の開発を行った。本研究で提案する近傍磁界抑制素子はコイル、コンデンサなどで構成され、電磁誘導現象と共振現象を利用して、不要な磁界成分のみを抑制するものであり、コンデンサにバラクタダイオードを用いることによって、抑制したい磁界の周波数を外部から任意に設定できるものである。今回、近傍磁界抑制素子をプリント基板上に平面的に配置し、目標の寸法、目標の近傍磁界減衰量を達成し、基盤技術を確立した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にマイクロストリップ線路近傍に発生する不要磁界を抑制するための技術開発を行い、ほぼ当初の目標を達成した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の研究計画について具体的な検討がなされていて、 EMC対策等への応用展開が期待できる。今後は技術的な課題は具体的に述べられているので、課題の解決により、プリント回路基板周辺の電磁環境を能動的に制御できる素子としての実用化が望まれる。
電動非接触チャックの吸引力制御システムに関する開発研究 東京工業大学
黎しん
東京工業大学
尾上二郎
複数の電動非接触チャックを用いてワークを非接触で把持搬送するとき、各チャックの吸引力にばらつきが存在するため、ワークが装置と局部的な接触が生じる恐れがある。そこで、本研究の目標はフィードバック制御により各チャックの吸引力を均一に制御することである。まず、チャック内の圧力分布を実験により調べ、負圧分布と吸引力の理論計算式を導出した。これを踏まえ、吸引力を推定するω‐P法を提案し、さらに、ω‐P法の改良としてP‐P法を提案した。最後に、4つのチャックから構成される非接触把持搬送装置を製作した。P‐P法を用いる吸引力フィードバック制御系により4つのチャックの吸引力を均一(設定値との誤差±5%以内)に制御できた。今後、本研究の成果を大型液晶ガラス基板の非接触把持搬送装置の開発に応用することを予定している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初計画の内容を着実に実行し、推定値を用いる吸引力のフィードバック制御方法によって複数のチャックの吸引力を目標値である誤差±5%以内に制御する方法を確立したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、次のステップは、この技術を大形ガラス基板の非接触吸着搬送に適用することであるが、取り組むべき課題も多いと思われ、さらなる発展が望まれる。今後は、大型試作機による実証と産学共同を実施するメーカとの連携を進める段階にあると思われるので、確実な進展が期待される。
液浸ラマン分光法を用いた複数光学フォノンモード励起によるSi応力の定量解析 明治大学
小瀬村大亮
明治大学
久永忠
Siトランジスタに印加された複雑な応力場を定量解析するために、液浸ラマン分光法により複数光学フォノンモードを励起して多軸応力評価を可能とする技術開発を行った。これを達成するためには、従来のラマン分光法では禁制モードである(001)Siの横光学フォノンモード(TOモード)を、効率的に励起する必要がある。本研究では、1)マスク素子、2)z偏光光学系、および3)斜入射光学系を作製した。1)によって入射光の低開口数(NA)成分を除去した。1)と2)を組み合わせて強度比TO/LO約240%を達成した。3)についてもTOモードを励起できた。この場合、空間分解能が犠牲になるが、原理的にLOモードを完全に抑制できる。実際に、微細加工された歪Siの多軸応力評価を行い、液浸ラマン分光法が微細試料の複雑な応力場を解析可能なことを示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にZ偏光子及び、マスク光学系を用いてTOフォノンを効率的に検出するという目標は達成された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、本技術のSiGe系デバイスへの適用が計画されており、デバイスの低消費電力化等での社会還元が期待できる。本研究開発が対象としている測定技術は、既存の顕微ラマン測定装置に光学素子を追加するだけで実現できるため、既存のシステムに組み込むことは容易である。特許化を検討して、技術移転へと進めることを期待する。
リチウムイオン電池用金属合金内包カーボンナノカプセルの合成 明治大学
渡辺友亮
明治大学
米満恵子
近年、リチウムイオン電池の負極材料には、高電力密度特性の要求から黒鉛に代わってシリコンやスズ等の金属ナノ粒子が注目されている。それらの粒子は導電性や安定性などの点から表面処理が必要である。研究責任者は、シリコン・スズ合金作製から液相放電用の電極成形を行うことを目標とし、シリコン・スズ合金を内包したカーボンナノカプセルの合成を検討した。その結果、グラファイト層の形成および得られたカプセルがナノ粒子(およそ直径50 nm)であることが確認できた。さらに、作製したナカプセルをX線回折により解析した結果、シリコンとスズの結晶相の他に非晶質相も確認できた。よって、本合成法はシリコン・スズの合金化に一定の効果が期待でき、今後、諸物性の測定が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目的としたSi,Snの合金化はできているかどうか明確ではないものの、ナノカプセルの合成に成功したことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、本研究はリチウムイオン二次電池の負極材の製法に関し、金属内包カーボンナノカプセル合成において、炭素電極を使わず金属電極を使うことで、アモルファスカーボンが少なくカーボンナノカプセルの含有量を高めることが期待される点に特徴があるので、「負極材料としての特性評価」について、早急に評価することが望まれる。先行技術の放電容量600mAh/g、サイクル特性500回を超えることができるか否かの優位性評価が重要である。今後は、優位性の評価の後に、技術移転を考えたときに重要となる、負極材の製造条件、膜強度、耐久性等の検討に発展することが、期待される。
新しいナノ切削装置によるソフトマターの表面構造解析技術の開発 新潟県工業技術総合研究所
永井直人
新潟県工業技術総合研究所
磯部錦平
新たな機能材料開発や表面が関与する多くのトラブルを解決するために新たなナノ切削装置(ナノキャッチャー(NC)法)を使って分子構造の評価を行うことを目標とする。ポリカーボネートを中心に評価を行い、切削によって分子が配向するとともにコンフォメーションも変化することが分かった。切削スピード、切削厚さなどの条件を調べて、コンフォメーション変化に強く影響する条件を検討した。本技術によって従来解析が困難であった疲労破壊にいたるまでの分子構造変化の解析や成形条件による化学構造の差異が検出できるようになった。一方、表面分析の観点からは、印刷シミなどの原因解析に有効利用できることが確認できた。本手法は広範な材料に対して、有効な情報が得られる表面分析方法であることが実証できた。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、すでに試作済みの装置の活用方法の検討として着実な成果があったことは評価できる。一方、目標に対して、下記のように本手法の有効性を示せていないので、既に確立されている手法との比較により本手法の有効性を確認することが望まれる。目標aの切刃荷重や切込み深さと分子配向の関係の定量的把握については、定性的で不明確な結論しか得られていない。bの切削効果に対する本手法とXPS、反射法、ATR法と比較の結果が述べられていない。cの本手法で解決できる事例では、印刷シミを取上げているが、本手法スペクトルとATRスペクトルとの定量的比較が行われていない。これらの計画の完遂が必要と思われる。今後は、さらに本手法の有効性を評価できる比較データの蓄積、応用データの取得により、評価法を確立することが望まれる。
ロール・ツー・ロール生産方式のための高精度ロール検査技術の要素開発 新潟大学
新田勇
新潟大学
定塚哲夫
次世代の生産方式であるロール・ツー・ロール生産方式に使われるロール表面は、高精度に仕上げられており、その表面に傷などがあってはならない。しかし、円筒形状であることから既存の検査装置ではその全面観察に長時間を要し、現実的には円筒表面上の傷を発見することは難しい。これに対して申請者がこれまでに開発した広視野レーザ顕微鏡は広い円筒面の観察を短時間で行うことができる特長を有している。直径8mmで長さ15mmの円筒面に集束イオンビーム加工でサブミクロンサイズの凹みパターンを作製し、広視野レーザ顕微鏡で観察したところ、短時間で傷に見立てた凹みパターンの存在とその位置を特定することができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初目標の1μm×10μm、深さ2μmの微細パターンを認識できることを確認することについては、目標以上の成果を得たことは、評価できる。いわゆる不良品を迅速に見いだす技術であり、高速で回転するような製品の良否を判定するのに利用でき、応用展開された際には、社会還元に導かれることが期待できる。一方、実用化には、観察スピードの向上、精度改善などが課題としてあげられるが、それに対する検討課題を具体化し、解決する必要があると思われる。今後は、精度向上と大きな測定対象に向けた検証を行い、新たな検査機器の確立を図ることが望まれる。
プラズモニック構造導入高効率有機太陽電池の研究開発 新潟大学
馬場暁
新潟大学
定塚哲夫
本研究では金属薄膜格子上での伝播型表面プラズモンと有機薄膜中に分散させた金属微粒子による局在表面プラズモンを同時に励起し、その相互作用により太陽光のエネルギーそのものを界面で大きく増大することができる有機薄膜太陽電池の構築を行った。プラズモン複合励起の検討を行い、電気エネルギーへの変換の指針を得て、自然光エネルギー利用における抜本的な課題解決を推進することを大きな目的とした。金属格子上での金微粒子を含む有機太陽電池を作製し、当初の目的にあげたプラズモンを励起していない場合に比べて4倍以上を達成し、5倍程度の光電流増大を得ることができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも目標はほぼ達成され、次のステップに進めるための技術的課題が明確にされている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との共同研究までに至っていないが、計画も的確に検討されており、この研究成果が応用展開されれば、社会還元につながるが期待できる。今後は、有機太陽電池の効率を改善する有効な方法を提案していることから、効果を確認することが望まれる。
高温超伝導バルク磁石による永久磁石の静磁場着磁技術の研究開発 新潟大学
岡徹雄
新潟大学
定塚哲夫
現在、永久磁石の着磁工程は電磁石によるパルス着磁が主流である。しかしこの方法は着磁磁場に限界があり、高性能な永久磁石を完全に着磁することは困難になりつつある。また、着磁の度に熱が出て連続的な使用ができず、装置を冷やすために冷却水を用いるので漏電の危険などの問題もある。バルク超伝導体を用いた強磁場発生装置を用いれば、その3T以上の磁場によって高性能な永久磁石を完全に着磁することができる。この着磁の際には熱が出ず、冷却水を用いなくて良いことから新たな着磁法として注目を集めている。
本研究では、実用的な開発対象として、電気自動車などに使われるインテリア型DCブラシレスモータの回転子内部に組み込まれた高性能な希土類永久磁石を、回転子の外部から静磁場によって着磁するための技術開発を行う。着磁に使う静磁場は小型の超伝導バルク磁石で発生し、これをモータ回転子の表面で走査することにより、内部の磁石をその材料性能の限界まで着磁する。この静磁場着磁法は、モータ設計の自由度を向上することができるほか、従来のパルス着磁法に比べ、着磁に際して発熱がなく、連続した高い生産性の着磁工程が実現できるほか、機械的な衝撃を生じないことから機器の信頼性にも優れ、技術移転に際して残された課題が少なく、早期の実用化が可能である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高温超伝導バルク磁石を用いることにより発熱がなくパルス着磁よりも大きい磁場が発生可能な着磁に成功し、技術移転へつながる成果が得られており、関連する特許も出願されている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、モータの着磁は今後ますます重要性があるため、本研究の成果は技術移転につながる可能性が高く、電気自動車等で使われるモータの着磁に応用可能なことからも実用化が強く望まれる。本研究で提案された手法は、連続した高い生産性の着磁工程が実現できるほか、機械的な衝撃を生じないことから機器の信頼性にも優れ、技術移転につながる成果であり、早期の実用化が期待される。
金型加工における工具摩耗の補正システムの開発 新潟大学
川崎一正
新潟大学
定塚哲夫
金型の切削加工において工具摩耗は金型精度に影響を与える大きな因子とされている。そこで本研究では、金型の切削加工における工具摩耗のオンライン補正システムの開発を目的として、工具磨耗の測定装置を開発し、工具摩耗の定量的測定システムおよび工具形状を正確に認識する工具形状認識システムを開発する。また、測定した工具磨耗に基づいて工具形状補正をすることにより、適正な工具経路を生成するCAMシステムのアルゴリズムおよびソフトウェアの開発を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、金型の切削加工における工具摩耗のオンライン補正のために摩耗測定装置とシステムを開発し、さらに、摩耗補正をした工具経路を生成するCAM ソフトウェアの開発する研究であり、一定の成果を得ていることは、評価できる。一方、本技術のポイントは、オンライン補正を目的としているが、摩耗のオンライン・リアルタイム計測に対する試みがなく、汎用の表面粗さ測定器を用いたものであり、NCデータのリアルタイム補正に対して十分な成果が得られていないと思われるので、さらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、長時間の切削を要求される金型加工において工具摩耗とその補正は重要であり、解決課題を明確にして、さらなる研究を進めることが望まれる。
コヒーレントTHz波源への応用を目指した発振周波数安定化半導体レーザシステムの改良に関する研究 新潟大学
土井康平
新潟大学
定塚哲夫
近年目覚ましい進歩を遂げるテラヘルツ分光は、極めて高価な超短パルスレーを利用したテラヘルツ時間領域分光法によるものが主流であるが、一方でCW(連続)テラヘルツ波による高精度な分光法を確立するためのレーザ光源の開発が望まれている。このレーザ光源には外部共振器型半導体レーザ(ECDL)などが良く利用されるが、高い周波数純度を長時間に渡って得ることが必要な医療など用途には、その波長安定度は不十分である。本研究は、これまで行ってきた半導体レーザの発振波長安定度を改善する技術をさらに進展させ、高い発振波長安定度と広帯域な発振波長可変範囲を同時に実現するテラヘルツ波源用半導体レーザ光源の開発を目指す。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に目標とする発振周波数安定度、周波数掃引範囲を共に達成し、かつ当初の計画より簡単な操作によって、安定した動作を実現した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、要素技術開発の後を受けて、次の研究開発計画が検討されており、実際の応用を目的とした産学共同研究につながる可能性が高まった。今後は、コスト、メンテナンス性、信頼性など、実用化において重要な項目が向上したため技術移転や産学共同研究につながると期待できる。知財関連の出願を含めて検討が必要である。
光学計測を用いた非定常圧力場の非接触計測法の開発 新潟大学
山縣貴幸
新潟大学
定塚哲夫
本研究では、非接触の速度場計測であるPIVと圧力ポアソン方程式の組み合わせにより高空間解像度(500μm)の圧力計測法を開発することを目標とした。物体近傍を高解像度のPIVにより計測し、それ以外の領域は計測融合シミュレーションにより補完する方法を開発した。その結果、計測融合シミュレーションを用いることでPIVデータの周囲領域を補完することが可能となり、角柱や円柱を対象とした実験において600~1000μの空間解像度で圧力場計測が可能であることを示した。また、従来の圧力計測法と平均圧力や圧力変動が良好に一致した。今後は、より複雑な形状の物体への適用可能性や流れの3次元性の影響の評価が必要である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、物体近傍を2台のカメラでPIV計測(粒子画像流速計測法)を行い、遠方を計測融合シミュレーションで補完することで、物体周りの平均圧力分布や圧力変動分布が計測可能であることが示されたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、さまざまな形状の物体に対する検証が望まれる。実用的な形状の物体回りの圧力計測を実施する場合の課題について検討が必要であり、手法の有効性を示すためにも、さまざまな形状の物体について実験し、有効性を示す必要がある。対象によっては分割して計測した領域と基準領域間で代表速度場の相関が取りにくい場合もあると予想され、実用化には検証が重要と思われる。今後は、研究目標に挙げている自動車用ドアミラー回りなど実用的な対象に適用することが必要で、関連企業との共同研究による研究の発展が期待される。
表面プラズモン励起高効率有機太陽電池の光導波路上への作製と実用化検討 新潟大学
新保一成
新潟大学
定塚哲夫
本研究では、導波路上での表面プラズモン(SP)励起を用いた有機太陽電池の高効率化について検討した。SP励起に伴う強電場により有機薄膜における光吸収を増加させ、高い光電変換効率を得ることができる。ここで、導波路を利用して作製することによりコンパクトかつ安価な素子構造でSP励起させ、光電流を増大させることができると考えられる。種々の素子構造についてSP励起に伴う導波光の減衰、有機薄膜中の光吸収および電界強度の関係を検討し、提案した手法の有用性を調べた。特に、これまで検討されていなかった素子構造を用いており、従来法に比べて高効率化が期待できることを示した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標には届かないが、検証実験は可能性の一端を示唆している点は評価できる。一方、予定されていた実験の実施による技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、シミュレーションと基礎実験により技術的な可能性は明らかとなっているが、技術移転の可能性を考えるにはさらなる基礎実験の継続が必要である。
ワンチップ型バルク弾性波式メタノール濃度センサの開発 新潟大学
安部隆
新潟大学
定塚哲夫
本研究の目的は、バルク弾性波式でその振動特性を損なわずに小型化でき、かつ汎用品の流用で安価に製造可能な新原理のメタノール濃度センサを実現することである。センササイズと分解能の関係を特別なMEMS加工なしで作製したセンサと市販品を流用し作製した発振回路を用いて明らかにした。市販品のレベルに相当する0.1 wt %以上の検知ができるセンサを30 mm^2程度の面積に小型化できることが明らかになった。また、MEMS加工を加えることで分解能をさらに改善できることを実証した。本センサは、メタノール濃度センサ以外の用途の超小型液体センサとしても期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に作製したセンサのメタノール濃度変化に対する周波数応答について良好な関係を得ている点や、目標を達成して、特許出願されている点は評価できる。また次のステップへ進む際の技術課題が十分に認識されている。今後は、開発における技術課題の検討も既になされているので、産学連携の下での共同開発を促進することが望ましい。
超音波振動を援用したダイヤモンド焼結工具の機上微細放電加工技術 長岡技術科学大学
磯部浩已
長岡技術科学大学
品田正人
近年、超硬合金やセラミックスなどの高硬度・硬脆材の微細加工において、加工速度や精度向上のために切削加工の適用の要求が高まっている。このような難削材の加工には、より高硬度・高靱性を有する焼結ダイヤモンドを切れ刃とした工具を用いる必要がある。また、工具摩耗を抑制する方法の一つに、工具に超音波振動を重畳した加工方法がある。そこで、本研究では、φ0.3のブランク材から、工作機上で1本のチップポケットを設けたダイヤモンド焼結エンドミル工具を放電加工した。そして、製作した工具で超硬合金への溝掘り加工を実施した。超音波振動を援用することで、加工抵抗が低減し、高精度な実切り込みを実現できた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、振れまわりの目標は達成できたこと、直径0.3mmの焼結ダイヤモンド工具の微細放電加工の可能性が見いだされたことは評価できる。一方、機上工具成形時間やL/D比については、目標に対し、具体的にどこまで達成できたか、できない場合の具体的な課題はどのようなものかが明確にされていない。今後は、解決するべき課題を明確にして、実用化に進むことが望まれる。
低濃度用スポット酸素センサの開発 長岡技術科学大学
岡元智一郎
長岡技術科学大学
品田正人
食品の長期品質保持の為に、酸素センサを使用した食品包装中の残存酸素濃度の管理が行われている。ここで使用されているセンサは、製造コストが高く、また、食品から発生する有機ガスや二酸化炭素等の妨害ガスにより正確な酸素濃度の測定が困難となっている。これに対して、ホットスポット酸素センサは、製造コストが低く、測定値が妨害ガスに影響されない。本研究では、これまで、酸素濃度21 %から0.01 %の変化において10秒程度であったホットスポット酸素センサの90%応答時間を、素子の微細構造を制御することにより1秒以下に短縮させた。また、電源を含めた酸素濃度測定システムを、名刺サイズにまで小型化することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、応答速度、精度についてほぼ目標を達成し、他のガスの影響を受けないことという目標も達成している。また、技術移転可能な小型、軽量の測定モジュールを完成させていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業で実施中の評価結果を受けて、より実用的に使いやすい製品への改良を実施することが望まれる。今後は、企業との連携による早急な技術移転が期待される。
新規CVD法を用いたp型ZnO結晶膜の作製技術 長岡技術科学大学
安井寛治
長岡技術科学大学
品田正人
最近見出した世界最高品質のZnO結晶薄膜製造法のデバイス分野への応用をはかるために、p形ZnO結晶薄膜作製技術の構築を目指して研究を行った。即ち、触媒反応を用いて高励起状態のH2Oを生成、金属原料ガスと反応させることで超高品質ZnO半導体膜を得るという新しい作製法を元に、アクセプタ不純物の添加によりp型ZnO結晶膜の作製技術を構築することを目的とした。その結果、アクセプタとなる1×1018cm-3以上の窒素原子のドーピングに成功し、中性アクセプタ束縛励起子による発光を確認したが、同時に高密度の水素原子の取り込みも生じたため、低抵抗のp形結晶膜の作製には成功していない。ただ今後適切なアニールプロセスの導入やZnO結晶基板上へのホモエピタキシャル成長を行うことで目標を達成出来ると考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、Nアクセプタの増加を窺がわせるフォトルミネッセンスが得られている点は評価できる。しかし、アクセプタ濃度やそのエネルギーを評価する必要があり、特に、CV測定等によるアクセプタ濃度の同定が重要と思われる。一方、適切な結晶作製の探索のための課題を具体的に挙げ、計画は検討されているので、計画に沿った、データの積み上げが必要と思われる。
小型サンプルによるガスタービン翼の高温き裂進展特性直接評価 長岡技術科学大学
阪口基己
長岡技術科学大学
品田正人
高温下で使用されるガスタービン翼には運転中に多数のき裂が発生するが、薄い翼からは標準寸法の試験片を採取できないため、き裂進展特性に関する情報が極めて少ない。本研究開発では、これまでの研究成果を発展させ、タービン翼から直接切り出した厚さ0.5mm程度の小型サンプルに対する高温き裂進展試験が行える新しい試験装置を開発した。開発した装置を用いて、実際のタービン翼に対する高温き裂進展試験を行い、き裂進展抵抗に与える実機使用の影響を実験的に抽出した。得られた成果は、タービン翼に対する精度の高い余寿命予測法確立の基盤情報となり、また、き裂進展特性を考慮した高温材料の設計開発への活用が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。タービン翼から直接切り出した厚さ0.5mm程度の小型サンプルに対する高温き裂進展装置が行える新しい試験装置を開発し、さらに開発した試験装置にライムセンサ方式のオートフォーカス機能をを付与する事により、同一温度、同一負荷条件下でのき裂進展速度を誤差±5%の精度で測定する事が可能となったことは評価できる。技術移転の観点からは、本研究開発での小型サンプルを用いる多結晶超合金の疲労き裂進展における試験片板厚、結晶粒の方位、き裂面と粒界の幾何学的配置の影響などを抽出し、それらの温度や時間の依存性の変化の明確化による、き裂進展特性を考慮した耐熱材料の新しい設計指針の提示の可能性の拡大が期待できる。
地域適合型スマートグリッドのための高効率高力率パワーランネットワークシステムの開発 長岡技術科学大学
大石潔
長岡技術科学大学
品田正人
本申請課題では、地域適合型スマートグリッドの確立するために、先ず、多機能・多目的スマートグリッドシステムを実際の電力を使って仮想的に実現する装置である「パワーランネットワーク」システムを、開発する。そして、自然エネルギーによる電力を瞬時に効率的に電力安定供給するグリッドの要素技術の開発とスマートグリッド用高効率・高力率インバータの開発の両方を行った。
実験により、定格負荷時に98%の高効率を達成し、さらに難しい軽負荷時においても最高効率の5%低下の93%を達成した。また、模擬負荷変動実験を行い、高効率運転の再度確認した。今後は、新潟地元企業と共同で実用化に向けての開発を進める予定である。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。当初の開発目的であるパワーランネットワークシステムを完成させると共に、スマートグリッド用高効率インバーターを実現させ、更に自然エネルギーにより電力を安定供給するグリッド要素技術を開発した。更に定格負荷時に98%の高効率を達成すると共に、難しい軽負荷時においても最高効率の5%低下の93%を達成し、模擬負荷変動実験を行い高効率運転を再確認したことは、重要な成果である。一方、技術移転の観点からは、新潟地元の関連企業と共同で実用化に向けての開発を進めて行く予定との由であり、科学技術面での大きな成果と共に、地元への大きな貢献が十分期待される。
亀裂が加工中に修復する切削工具の開発 長岡技術科学大学
南口誠
長岡技術科学大学
品田正人
本研究は、ナノ金属分散セラミックスを利用し、切削時の加工熱により亀裂が自己修復される切削工具を開発するものである。これまでのところ、Ni/Al2O3の亀裂治癒における熱処理条件やNi体積分率の影響、さらなる微細構造化のためのプロセスデザイン、Co/Al2O3における亀裂修復機能(機械的強度の回復)が確認された。加えて、Ni/Al2O3焼結体から切削チップを自作し、SUS304のドライ切削試験を実施した結果、Ni/Al2O3切削チップは市販Al2O3チップよりも耐久性に優れていることがわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本研究は、高強度・高硬度でかつ亀裂修復機能に優れた材料を念頭におき、機械的特性、亀裂修復機能の向上をはかっていくことを目的として遂行されているが、ナノNi粒子を分散させたAlチップが、市販のAlチップに比べて摩耗量が減少するなどの評価できる結果が得られている。一方、切削加工性の定量的な評価は実施できていないので、さらなる研究の進展が必要と思われる。今後は、本研究を発展により、機械的特性の向上を図り、加工工具材料への適用へと進むことが望まれる。
無機-有機ナノ複合体の創製及びその接合界面制御による高機能・発色型表示技術の開発 長岡技術科学大学
多賀谷基博
長岡技術科学大学
品田正人
発光型ディスプレイは、屋外・暗所で視認性が低い問題がある。そのため、発色型の表示方式の開発が望まれている。現在の発色型・表示方式の技術課題として、“(I)印刷物と同等の高い反射率”・“(II)動画表示可能な応答速度”・“(III)フルカラー表示”の創出が挙げられる。本研究では、無機-有機ナノ複合体創製技術に基づいたエレクトロクロミック現象を創出し、主に、(I)と(II)の課題を解決した。具体的には、透明なn型半導体メソ多孔質薄膜の創製と発色性有機分子の修飾技術によって、高い発色強度を見出した [(I)を達成]。さらに、無機と有機ナノ接合界面を詳細に制御して、発・消色の応答速度(電子移動性)を制御した [(II)を達成]。今後の展開として、駆動デバイスを作製して、材料の透明化と三原色層の積層化技術によってフルカラー表示のための課題抽出を実施する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、表示デバイスとしての発色速度や繰り返し特性など、技術移転に求められるレベルの研究成果が得られていることは評価できる。また、表示デバイスとしてだけでなく、その基盤材料である導電膜などの透明性の向上などデバイス関連技術についての検討も積極的に進められている。一方、技術移転の観点からは、特許出願については報告書内にも記述があるが今後早いうちに検討することが望ましい。特許技術を基本として共同研究をより効果的に推進することが望まれる。今後は、表示デバイスとしての実用化を目指した研究計画について企業との共同研究の積極的推進について計画されており、実用化に向けた具体的進展が期待される。
rolloff特性の改善と超高輝度PM-OLEDディスプレイの実現 長岡工業高等専門学校
皆川正寛
申請者らの従来の素子は、発光開始時の効率に対する10,000mA/cm^2時の効率が約45%である。これに対し、roll off特性を65%程度まで改善できれば、2インチ(64×128dots)OLEDディスプレイにおいて製品輝度500nitを達成し得る。本申請課題では、有機-有機ヘテロ界面の電位障壁の大きさに着目し、デバイスのどの部分のヘテロ界面の影響がroll off特性に影響するかを調べ、その電位障壁を小さくすることでroll off特性の改善を試みた。
構造最適化後のOLEDでは、発光開始時の効率に対する10,000mA/cm^2時の効率が約60%を示し目標値に近い値が得られたが、発光効率の全体的な低下が見られた。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、rolloff特性の改善という観点では目標をおおむね達成できたと評価できる。技術的課題は明らかになったが、その解決方法についてはあまり検討が進んでいないようである。一方、技術的課題は明らかになったので、それに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、rolloff特性の改善という観点では成果が認められるが、高輝度特性が足かせとなって、技術移転の障害となっているように思われる。2つの課題を切り離して検討することが望ましい。
放射光X線ラミノグラフィを用いた電子基板接合部の非破壊寿命評価技術の実用化研究 富山県工業技術センター
釣谷浩之
富山県工業技術センター
杉森博
目標であった一辺の寸法が50mm以上の電子基板において、そのはんだ接合部の熱疲労き裂を、完全な非破壊で観察することが可能となった。得られたラミノグラフィ画像は、き裂を抽出するための十分な画質を有しており、同一のはんだバンプにおけるき裂進展過程を三次元的に明瞭に捉えることが可能となった。抽出されたき裂の三次元画像からき裂表面積を計測し、き裂進展速度を算出することが可能であり、これを基にき裂進展寿命を推定することが可能である。しかし、現時点では、測定サンプル数、測定サイクル数ともにデータ数が限定的なため、精度の向上のためには、さらに多数のサンプルの測定が必要である。今後は、この問題を解決するとともに、企業との共同で実際の製品開発への適用を模索したい。また、新たな研究課題への本技術の応用も検討している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ラミノグラフィを用いて、実用されている大きさの基盤を非破壊的に観察ができることは一つの成果である。ラミノグラフィー画像から、明瞭な画像が得られたことから、亀裂進展速度の算出を可能にしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、コスト面が憂慮される点であるためコストのかからない簡便な手法にもってゆくことが、望まれる。また、バンプ内には熱疲労き裂と作製中に導入されるボイドが共存しており、目的のき裂の発生箇所は、おそらくボイドの縁と考えられるため、画像処理中に仕分けができれば、汎用性が増すでことが期待される。今後は、電源メーカ等の実際のニーズを把握しながら、データ蓄積による精度の向上を図ることが期待される。
非鉛系圧電セラミックスを用いた医療用超音波探触子の開発 富山県立大学
唐木智明
本研究のチタン酸バリウム圧電セラミックスの圧電諸特性は室温付近の相転移に大きく影響され、抗電界が小さく、温度安定性が悪いという問題点がある。改善の結果、抗電界を300V/mmまで向上できたが、他の特性は比誘電率2500、電気機械結合係数kp39%、機械的品質係数Qm320、周波数温度係数2600ppm/℃、圧電定数d33280pC/Nとなった。アレイ振動子評価の結果、幅厚み比が0.5で短冊試料の矩形型k33'が47%であった。シングル振動子の感度は-55dB、帯域は45%であった。いずれも鉛系のPZT材料に比べて劣っている。
チタン酸バリウム圧電セラミックスの高性能(d33~460pC/N)を生かすには、温度があまり変動しない環境で動作するシングル振動子などに限定される。医療用超音波診断装置の探触子のような正負の駆動電圧動作のデバイスへの応用は難しいことが分かった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。圧電特性の部分的な改善はできたが、PZT素子と置き換えるまでの性能は、得られなかったのは残念である。一方、課題解決のためには現状の方法以外にも研究手法を検討する必要があると思われる。今後は、性能向上のための方法を再検討して、研究を進めることが望まれる。
高ガスバリア性ポリマー系ナノコンポジットを用いた真空断熱チューブの開発 富山県立大学
真田和昭
富山県立大学
定村茂
本研究開発は、現在実用化されている真空断熱材と同等以上の断熱性能を有し、かつ力学的強度に優れた真空断熱チューブの開発を行ったもので、建築用断熱材等としての実用化を目指し、地球環境問題解決に貢献することを目的とした。PET容器を用いた断熱性能評価を行った結果、輻射防止処理を施すことで、未処理の場合に比べて約2.6倍断熱性能が向上し、ガラスウールと同程度の断熱性能を示した。また、溶融混練法によるナノクレイ/PET樹脂コンポジットの作製と特性評価を行った結果、PET樹脂に比べて、剛性は1.3倍程度に向上したが、強度は0.8倍程度に低下した。今後、新たな輻射防止技術とナノクレイ分散技術を開発する必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初の目標を達成できなかった理由を真摯に摘出し、検証する姿勢は評価できる。当初目標を達成するために研究者自身が挙げた技術課題が解決されることを期待したい。これら課題が解決されれば研究成果の応用展開による社会還元はかなり大きいと期待される。特に、断熱材の開発は古く新しい課題であるが、単なる効率性に加えて、施工性、耐久性や安全性やさらに価格の問題も要求されるので、適切な企業と共同研究体制を構築し、性能面だけでなく価格面や実用性の面でも検討を続けることが望まれる。
産学官連携で行うマイクロ工具3軸位置の可視化と,超精密加工機を利用した実証実験 富山工業高等専門学校
鈴木伸哉
富山高等専門学校
古河秀一郎
本研究では、マイクロ工具を底刃側から撮影する光学系と、底刃表面に縞模様を投影する光学系を備え、従来は検出が困難であった表面あらさの小さいマイクロ工具においても、位置検出を可能にする刃先検出器の開発を行った。20回の繰り返し検出精度は、目標0.1μm以下に対し、σ≦0.028μmを得た。また、超精密加工機を用いた加工実験においても、溝深さの誤差の目標1μm以下を達成することができた。今後の展開としては、さらに多くの工具による溝加工の実証実験や、実際の加工現場での使い勝手をさらに考慮したソフトウェア開発を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初目標としたマイクロ工具の刃先検出器単体の繰り返し検出精度や加工実証実験による工作物の溝の深さの誤差については、ほぼ達成し、初期の工具位置出しの困難さや切削油対策を明確にしたことは評価できる。一方、積極的に共同研究先企業と連携し、超精密加工機を用いた検出加工や計測、評価などが必要と思われる。さらに、今後は、「初期の工具位置出しの困難さ」に対する素早く正確に位置を検索するためのソフトの開発及び、切削油対策ではレンズの拭き易さ、又は拭く必要のない方法の開発を早急にかつ積極的に進めることが望まれる。
10年以上使用できる自己再生型鉛蓄電池長寿命システムの開発 富山高等専門学校
水本巌
鉛蓄電池の電極板の容量変化に着目し、周波数掃引による位相比較を利用し、新しい劣化診断装置の開発を行った。また測定システムは交流インピーダンスが測定できる様に、ワンボード化の開発に目途をつけた。そのためコンパクト化により、バッテリー個々に装着出来る可能性が広がった。また交流4端子法による実抵抗のみで劣化を判断する時は、通常の測定周波数2kHzでは無くて1kHz以下の低い周波数で測定した方が劣化診断は正確にわかることを実験的に見出した。そのため従来行われてきた固定周波数による測定から、周波数が連続して可変するスイープ(チャープ信号)位相変調方式による寿命検出法を新規に開発した。本診断装置で劣化判断した鉛蓄電池をパルス充電で再生した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に自己再生型鉛蓄電池の構築を目差し、バッテリーの劣化度合いを診断する測定システムの開発、コンパクト化の実現により目標を達成した点は評価できる。さらに、パルス充電による蓄電池の再生や劣化計測システムのワンボード・コンパクト化などにより技術移転につながる成果が得られた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の展望、展開が示されている。今後は、課題に対する具体的な計画を作成し、実用化に向けて研究が進展することが望まれる。
騒音駆動型熱音響冷凍機の開発 富山高等専門学校
経田僚昭
富山高等専門学校
古河秀一郎
騒音で駆動できる熱音響冷却システムを開発し、未利用エネルギーの有効利用技術の創成と地球環境に優しい冷却システムの開発を同時に行うものである。
(1)スピーカーとスタックからなる熱音響冷却システムを構築し、単周波数の模擬騒音から冷却エネルギーを取得できた。これにより、騒音から冷熱へのエネルギー変換システムが構築できたといえる。
(2)FDTD法による音場解析手法に、エネルギー方程式を連成させることで、任意の入力音場特性に対して、スタック両端で得られる温度差を導出するプログラムを構築した。
今後は、複数の周波数成分を有する実機からの騒音を対象とした、熱音響冷却システムの高性能化を図る。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、特定周波数の騒音源を対象とした実験と音場と温度場を連成する理論解析を行い、両者の比較を行い理論解析の妥当性を検証した。そのうえで、その理論解析を用いて実際の船の騒音の場合をとりあげ、この騒音によって温度差を得られることを予測した。本研究により、有益な研究成果が得られたと考えられた評価できる。一方、技術移転の観点からは、計画した実験船の騒音を使っての実験的検討は未実施であり、今後の実施が望まれる。また、ユニークなかつ有意義な研究成果であるので、速やかな特許申請、論文作成が望ましい。今後は、今後の具体的な計画も立てられているので、産学協同の研究開発にステップアップすることが、期待される。
ハイブリッド整流方式風力発電装置の開発 富山大学
作井正昭
富山大学
梶護
本研究では、制御回路を用いなくても受動素子のみの簡素な回路構成で風車の最大出力が得られる新しい風力発電装置を開発した。本発電装置は、汎用の永久磁石形三相同期発電機に、低回転時の出力を担う既に開発していた三相三倍電圧整流回路と、高回転時の出力を担う一般的な三相ブリッジ整流回路の直流出力電圧の異なる2種類の整流回路を並列に接続したものであり、能動的な制御を行うことなく風車の最大出力特性である3乗曲線に近い特性が得られることをシミュレーションおよび模擬実験によって確認した。今後は、実証実験により有効性の立証を目指す。また、本発電装置は、風力のみならず流量が変動する小水力発電装置としても適用可能である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、実験的確認で提案した方法は、風力発電の3乗則にほぼ近い値が得られたことは評価できる。再生可能電気エネルギーの買い取り制度が認可され、太陽光発電、風力発電に対する取り組みが活発になっている中、FITの売電価格の一番高い小型風力発電では技術的な課題が多く導入の妨げとなっている。本技術は、それらの問題の一つを解決する技術として期待される。その内容は電気学会などでも発表され、特許も出願されている。一方、技術移転の観点からは、企業とのマッチングにより、実証試験にて本技術の優位性が確認されることが望まれる。今後は、企業との共同研究(企業資金)により、実用化に進むことが期待される。
塔状構造物の転倒・倒壊を阻止する制振装置の実用化 金沢工業大学
高畠秀雄
金沢工業大学
諸谷克郎
本研究開発は、煙突、タワー、災害無線塔、送電線鉄塔、広告塔、電柱等の塔状構造物が地震により転倒・倒壊する事を防止するための制振(震)装置の実用化である。塔状構造物の構造形式は、マクロ的には静定構造物であるから、地震により転倒・倒壊を生じやすい。また、固定周期が長いため、長周期地震動に影響される。大地震時において塔状構造物の転倒・倒壊を防止できる制振装置を考案し、実験室レベルでその有効性を確認した。そこで、本研究開発の目的は、提案した制振装置を実用化し、商品化する際に不可欠な実用レベルでの試作品を製作し、その有効性と、商品化する際の問題点を総合的に検討し、解決する事にある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも装置の仕様(形状寸法、総重量、バネ定数、粘性減衰定数等)を確定し、その有効性を地震応答解析により証明し大地震時の制振効果を解析により明らかにしたことは評価できる。一方で、具体的な搭状構造物に整合する制振装置の構成要素のもつ回転バネ定数の実験的確認、試作装置性能の加振実験での検証、などは実現できていないので、今後の課題解決が必要と思われる。今後は企業と連携して、装置の構成要素を定め、実験的に効果を確認することにより技術移転に進むことが望まれる。
軟X線用のオンサイト型背面反射回折環二次元イメージング機構の開発 金沢大学
佐々木敏彦
金沢大学
奥野信男
部品の疲労や寸法精度にとって重要な残留歪・結晶格子状態の非破壊評価を、金沢大・佐々木の新解析理論を基に大幅に効率化すべく、システムの主要部である2次元X線イメージングを実現することを目的とした。このための課題である回折角2θが約156°の背面反射回折環を、出来る限りサンプルに近づけて計測できることと、測定を高速・低コスト化のため、市販の素子を採用するとともに、画像転送回路や周辺回路も独自開発し、高2θ角測定に適した小型形状と性能をめざした。その結果、目標とする機構を実現できることが判明した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、当初の目標は、十分に達成されており、またその成果は、技術移転に繋がると考えられる。本申請の基本をなす提案である「市販の可視光用CCDカメラによる軟X線の検出可能性」について、検出可能であることを明確に実験結果に基づいて示したことは、実用化への技術移転という点で顕著な成果である。一方、技術移転の観点からは、安価な可視光用のCCDがカバーする波長範囲と軟X線の波長を示すことは特許性はあると思われるので、対応がの望まれる。今後は、技術移転先企業との連携により、安価で持ち運び可能なX線応力測定装置を実現することが期待される。
高気圧変調誘導熱プラズマによる純金属ナノ粒子の革新的高効率・大量選択生成法の開発 金沢大学
田中康規
金沢大学
小島敏男
本研究では、申請者らが独自開発した「高気圧変調誘導熱プラズマシステム」を、「純金属ナノ粒子生成」に応用し、熱プラズマの高安定化、原料の高効率蒸発を兼ね備えた「純金属ナノ粒子の高効率大量生成」を行う。誘導熱プラズマ気相反応ナノ粒子生成の最大の特長は、高純度ナノ粒子生成が可能であること、ガス選択が自由で酸化物以外のナノ粒子生成に使用できることである。本申請課題研究では、これらの特長を最大限に活かし、さらにNiナノ粒子を対象とし、原料間歇投入型Ar-H2変調熱プラズマによるナノ粒子生成を実施する。高温状態での原料の完全蒸発とそれに続く低温状態での高効率核生成を行い、純金属ナノ粒子生成手法を開発する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に純金属ナノ粒子を高効率で生成する手法について、当初の目標通りの開発成果が得られている。一方、技術移転の観点からは、技術的にはほぼ完成しており、可能性は高いと考えられる。今後本方法で生成されたナノサイズの金属材料は燃料電池や蓄電池の電極、あるは将来の多種多様な用途に応用されることが期待される。
光ピックアップ機構を用いたディスク型二次元放射線ガラスセンサ システムの開発 金沢大学
黒堀利夫
有限会社金沢大学ティ・エル・オー
山田光俊
本研究では、ラジオフォトルミネッセンス(RPL)現象に基づく銀活性リン酸塩ガラスの優れた放射線特性とその母体材料の機能性と形態制御性を活かしたコンパクトディスク(CD)型二次元イメージセンサの開発を行なった。さらに、光ピックアップ機構によってセンサ内の蓄積情報(イメージや放射線量)の読取り・消去が単一レーザーで計測可能なシステムを構築した。その結果、高い空間分解能(1μm)と吸収線量感度(1mGy)で迅速に放射線蓄積情報の取得が可能となり実用化に向けての基本技術を確立できた。今後、現場での材料や構造物の疲労損傷の評価や応力計測に向けて、さらにコンパクトで安価、ポータブルなエリア放射線計測システムの構築を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にAg材料の空間分解能の評価を行う(目標2)については、積層構造や2次元分布の測定などがされて、10μm程度の空間分解能を達成した点や、ガラスの薄膜化(厚さ100μm程度)の改良で1μm以下の空間分解能の実現に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、銀活性リン酸塩ガラスの繰り返し再利用については、まだ達成されていない。今後は、銀活性リン酸塩ガラスの繰り返し再利用のための条件の把握が望まれる。
高精度アーム型測定機の試作・開発 石川県工業試験場
中島明哉
石川県工業試験場
粟津薫
精度低下の原因となるアームリンク部の「たわみ」と「ねじれ」をリアルタイムで計測するシステムを組み込んだアーム型測定機を試作する。「たわみ」と「ねじれ」をリアルタイムで計測しアーム先端の測定位置を補正することで、測定時のアームの姿勢違いによる測定精度への影響を明らかにするとともに、負荷がかかった場合の測定機精度悪化の影響も低減できることを明らかにした。今後は、アームへ組み込んだ際の調整を容易にし、測定機全体での校正を行なうことで高精度な測定を可能とすることにより、アーム型の特徴を最大限に活用した三次元測定機の開発やロボットアームの測定への応用を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、デモ機が完成し、補正により精度に改善はみられるたことは評価できる。一方、測定誤差10μm以下という目標は達成できていない。また、取り付け位置ならびに姿勢の補正については未実施である。今後の技術課題も見えていないので、さらなる検討、データの蓄積が、必要と思われる。今後は、目標値の達成に対する解決策を明確にするとともに、デモ機を用いての企業側のニーズの把握を実施し、実用化に向けての改善を行うことが望まれる。
高度光学測定のための角度・焦点調整用小型多自由度モータの開発 石川県工業試験場
高野昌宏
石川県工業試験場
粟津薫
本研究では、目の動作が実現可能な2回転1並進自由度を持つ小型多自由度モータを試作し、3Dカメラへの応用の可能性について調査した。試作した多自由度モータは、球状の回転ユニットをその周囲に配置した複数個の振動子により駆動する構造であり、モータの外形寸法は最大52mmと、ほぼ目標値(50mm)に近い値に小型化することができた。動作に関係のない振動子の保持力を、縦振動を用いて低減することにより、2回転1並進の動作がスムーズに行えることを確認した。さらに高分解能化のため、通常の共振駆動以外の駆動方式について検討し、並進方向4nm、回転方向は2秒の最小分解能を得ることができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、コンパクトで2回転1並進自由度を持つモータの開発を行ない、モータ構造の設計、試作、駆動方法の検討などから、計画通りモータの試作を終えたことは、評価できる。寸法約5cm立法、駆動最小分解能は並進で2nm、回転で2秒となり、多方面の利用が可能となった。一方、技術移転の観点からは、3Dカメラにも利用でき、大きな可能性を含んでいることから、さらなる発展が望まれる。今後は、地元メーカとの共同研究が計画されているので、早期の製品化が期待される。
レーザーカオス光を用いた安価な広帯域テラヘルツ波発生検出システム 福井工業大学
桑島史欣
福井工業大学
鹿間敏弘
小型軽量安価なテラヘルツ波(以下THz波)発生及び検出装置として有望な、半導体レーザーを光伝導アンテナに照射する方法において、半導体レーザーに外部鏡によりレーザー出力の一部を半導体レーザーに戻し光学的遅延期間を加え系を無限次元化しカオス発振させることで、発生するTHz波の帯域が2倍以上拡大した。また、1THz付近までの成分が微弱ながら検出された。今後、光ファイバーを用いたアライメントの簡便化、及び他の安定なレーザーを加えることで1THz付近でのTHz 波成分の増強を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、帯域拡幅を概ね1THzまでを確認した点は評価できる。一方、基礎的条件出しの検討不足が課題で、出力安定性を得るためにも再現性を確保できる実験系の精度構築が望まれる。今後は、更なるデータの蓄積により、技術移転の可能性が高まることを期待する。
発電設備軸受を対象とした連続監視が可能な小型摩耗センサの試作と評価 福井大学
岩井善郎
大型機器の軸受部における摩耗は、時には致命的な損傷を発生させ、機器の保守管理上重要な監視項目となっている。研究者らは、摩耗深さをリアルタイムで計測可能な平面型摩耗センサ(特許登録済と公開中の2件)を開発し関連業界へ提案してきたが、小型化、耐熱性、長寿命化が実用化の必須事項であることが明白となった。そこで、円筒状ねじ込みタイプの小型摩耗センサを開発し、発電プラントや水中竪型ポンプの摺動部を模擬した摩耗試験装置において、耐熱環境と水、油、グリース中でのセンサ性能と耐久性を評価後、使用現場への試作品提供による再評価を得て、小型摩耗量連続監視用センサとしての価値を見出し、将来の商品化を最終目的とする。  概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に小型摩耗センサ(円筒型、平板型)は、潤滑状態での摩耗をオンラインでモニタリングするできることが実証されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、3種類の評価摩耗試験装置による充分な試験データの取得までには至っていないが、実用化に向けての解決するべき課題と具体的開発内容が整理されているので、さらなる進展が望まれる。今後は、精度と信頼性等のデータの蓄積を通じて、実用化されることが期待される。
自律浮揚機能を持ったモニタリング用テザー係留型飛行ロボットの開発 福井大学
高橋泰岳
福井大学
奥野文男
本研究では、開発中の飛行ロボットに浮揚補助動力装置と自律姿勢制御装置を追加し、実証実験を行うことにより将来の実用化に向けた有効性を検証した。
これまで、山間僻地や被災地などにおける情報収集支援を想定して、軽量で人力でも携帯が可能なパラグライダーに、風力発電機と各種のセンサや通信機を搭載し、空中で停留ができるテザー係留型飛行ロボットを設計・試作し、屋内・屋外での飛翔実験により多くの知見を得てきた。浮かび上がった課題として、上空に比べ地上の風力が弱く浮揚に困難が生じることがわかった。
今回、解決策として、軽量で小型のプロペラを備えたカイトと地上の自動テザー牽引装置による自立浮揚機能を追加し、安定した浮揚を確保した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも飛行ロボット側への補助動力の搭載の代わりに地上機側に牽引装置をつけることで、無風・微風での離陸が行えるようになったことについては評価できる。一方、力学シミュレータの開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は技術的課題を明確にし技術移転にむけて引き続き研究開発されることが望まれる。
窒化物半導体薄膜を被覆した燃料電池用耐食性金属セパレータの開発 福井大学
山本暠勇
福井大学
奥野信男
本研究の目的は、窒化物半導体InGaNが化学的に極めて安定であることに着目し、表面保護膜としてInGaNを用いた金属SUSセパレ―タを開発し、燃料電池PEFCへの応用を実現することである。
既に、InGaNを被覆したSUSセパレータを作製しPEFCでの基本動作を確認するとともに、InGaN膜の耐食性を確認した。残された課題として、セル抵抗低減のためのInGaN膜の低抵抗化と、セパレータの長寿命化のためのInGaN膜中ピンホールの低減について検討した。InGaN膜の低抵抗化は薄膜化とドナ不純物添加による高キャリア濃度化により解決し、ピンホールの低減はクリーンルーム内での成膜により解決した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、InGaNの成膜厚の均一性、比抵抗の低減、ピンホール対策の技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、得られた技術、素子などを保護するための特許、残された課題解決の道筋を明確にされることなどが望まれる。今後は、大面積化、量産化、安定な耐含性の実現等などの検討が期待される。
簡便で高精度な潤滑油劣化診断装置の開発と実用化検証 福井大学
本田知己
福井大学
奥野信男
研究責任者が世界に先駆けて考案した「ろ過残渣色相法」を採用した潤滑油劣化診断装置を開発するため、実機タービン油を用いて劣化した潤滑油の時系列的化学分析を行い、劣化判定に有効な色相の特徴量の抽出とそれらに基づく劣化度判定基準の確立を行うために、劣化の進行段階と汚染物の色との関係を調べた。また、「ろ過残渣色相法」による潤滑油簡易劣化診断装置の試作を行い、その性能を検証することで商品化に近づけた。酸化生成物と固形粒子のそれぞれの劣化要因を含む試料油について、試作した装置を用いて詳細に調べた結果、劣化の初期段階から最大色差により劣化油の劣化要因を、色の濃淡によりその汚染度を評価できることがわかった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、劣化油の分析により、RGB値と⊿ERGBと色差潤滑油の劣化の関係を明らかにしたことは評価できる。一方、分子量との相関は検討したが、全酸価試験や赤外分光との相関は述べられていない。劣化判定は、データの不足から明確に規定するには至っておらず、試作機は開発されたが閾置は組込めていない。また、実機を用いた試験において潤滑油の劣化状態を調べ、本手法を用いた診断結果が、実機で劣化した潤滑油を3段階に識別できるか、また、プロアクティブ保全に資するために劣化の根本原因を探ることができるかを調べることが目的であったが、これまで通りの実験室レベルにおける劣化診断実験のみに留まり、実機のデータは示せなかった。現場でのより多くのデータの取得し、全酸価試験や赤外分光、粒子計測等との相関を明らかにして、明確な閾値を決定することが必要と思われる。今後は、潤滑油の劣化判定は省資源、省エネの観点から社会への還元は大きいので、目的としたデータの蓄積に努めることが望まれる。
探知・検査用超高感度テラヘルツ波センサーの開発 福井大学
谷正彦
福井大学
奥野信男
本課題の目的は電気光学(EO)サンプリング法を用いた超高感度のテラヘルツ(THz)波センサーを開発することである。THz波センサーとして、チェレンコフ型位相整合およびTHz波の金属V溝導波路中の超集束効果を利用したEOサンプリング素子を開発し、従来のEOサンプリング素子と比較して約20倍の高感度化を達成した。この成果をもとに、光源に小型の通信波長(1.55μm)帯フェムト秒レーザーを用いた可搬型のセンサーシステムの構築を目指す。本年度は素子設計および金属V溝導波路、空間結合用Siプリズムプレート、EO結晶として用いる薄膜LiNbO3(LN)結晶を製作し、EOサンプリング素子の評価を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。最終目標には届かなかったものの、マイルストーンという意味では目標に向け進展し、最終目標に到達する技術課題が明確になった点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の研究開発計画は具体的であり、共同研究企業が特定されており、研究成果が社会還元される可能性が高いと思われる。今後は、最終目標に至るには、これまで以上に高度な技術的挑戦が必要と思われ、共同研究企業との連携して研究開発を進めることが望ましい。
屋根雪荷重予測モデルの開発 福井大学
藤本明宏
福井大学
宮川才治
本研究では、熱・水分移動解析による簡易型屋根雪荷重予測モデル(以下、モデル)を構築するために、福井大学校舎屋上で屋根雪荷重実験を実施し、計算結果と実験結果との比較からモデルの妥当性を検証した。
今冬、福井市では連続的な降雪があり、モデルの検証に必要なデータを得ることができた。観測した気象条件を入力条件として、モデルによって計算された屋根雪高さ、融雪水量および屋根雪荷重は、実測値と良好に一致し、モデルの妥当性を示すことができた。本モデルは物理的なアルゴリズムで構成されるため、気象観測データがあればどこでも屋根雪荷重を予測できる。今後、残された課題を解決するために野外実験の追加とモデルの改良を実施するとともに、気象予報会社等と共同で屋根雪荷重予報をインターネットやTVを通じて発信できるようなシステムの開発を目指す。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標の数値計算誤差が、雪密度を除いて達成されており、当初の目標はほぼ達成されていると考えられる。また、屋根熱の定量化等解決すべき問題点は明らかになっていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、屋根雪荷重推定のための精度に問題は残されているが、次のステップに進む可能性はあると考えられる。また、技術的課題が解決された場合には、屋根雪問題の予測・解決等に応用可能であり、社会に大きく貢献することが期待でき実用化が望まれる。今後は、屋根雪荷重を推定するための諸量の推定精度の向上が望まれ、さらなるモデルの改良が期待される。
住宅用太陽光発電群による配電系統の電力品質向上システムの開発 福井大学
川崎章司
福井大学
宮川才治
住宅用太陽光発電(PV)の電力系統連系に用いられる、パワーコンディショナ(PCS)を有効活用し、協調制御という複数台の住宅用PV群がお互いに電力の品質向上という目的に向かって、協力しあう制御をすることにより、系統全体で高調波・電圧変動の抑制や電圧不平衡改善に対する制御システムの開発を目標とする。系統の電力品質を向上するための制御システムを開発し、シミュレーションによる開発システムの有効性の検証を行い、電圧制御、電圧不平衡改善、および高調波抑制すべてにおいて有効であることを確認した。また、開発した制御システムを開発用PCSに搭載して、実機を用いた実験による検証も行うべく研究を進めているが、現段階ではまだ結果を得るまでには至っていない。今後は、実験による開発システムの有効性の検証を行う予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも計算機シミュレーションの実施は評価できるが、模擬系統と実機を用いた実験は装置が故障したために実施できなかった。一方、シミュレーションにより、太陽光発電系統連系PCSによる高調波抑制、電圧不平衡改善、電圧変動抑制、複数台PCSの協調制御について検討し、実用化の可能性について検証をした。今後は機器の故障に起因し、実験ができなくなっているので、それを優先的に実験を進め、当初の目的を達成することが望まれる。
ピコ秒レーザによるマグネシウム表面への耐食性被膜生成技術の開発 福井大学
大津雅亮
福井大学
宮川才治
マグネシウム合金の耐食性向上のため、表面をアルカリ処理したマグネシウム合金にピコ秒レーザを照射する際に、熱影響を小さくすること、およびアルカリ処理と耐食性被膜生成を同時に行う技術を開発することを目標とした。ピコ秒レーザ照射によりに従来までのマイクロ秒レーザ照射の1/10の入熱量で耐食性被膜の生成に成功した。このことから処理時間を1/10に短縮可能であることが示唆される。しかしアルカリ処理と被膜生成処理の同時処理やピーニングによる被膜強化による耐食性の向上までは実験が完了しなかったため、被膜強化後の腐食速度0.5mm/yearの目標は到達できなかったが、被膜強化前でも腐食速度1mm/yearを達成することができた。今後は他の制度を利用して研究費を確保し、研究を継続する予定である。 当初目標とした成果が得られていない。中でもピコ秒レーザでの膜形成技術の事業化に向けたシステム確立に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後は、メカニズムを含めた基礎研究を内外に発表し本特許の有意性をアピールすることが望まれる。
多軸変動負荷対応の疲労強度設計支援解析ツールの開発 福井大学
伊藤隆基
福井大学
宮川才治
航空機や高速鉄道車両、原子力機器などの実機を構成する部材では、繰返し荷重の応力・ひずみが多方向に複雑に変動する非比例多軸負荷を受けることが多い。このような応力やひずみの主軸方向が変化する場合の応力・ひずみ値や損傷状態を評価する手法はいまだ確立されていない。本研究では、IS損傷評価手法(2010年特許申請)を取り入れた強度設計・解析手法を提示し、その手法に基づく実機部材を用いた負荷データから実構造部材の応力・予測寿命などを正確に評価できる簡便で実用性の高い疲労強度設計支援解析ツールを開発する。本ツールは、将来的にはCAD・CAEと組み合わせることにより、疲労強度設計の高効率で高精度なツールとして広範に使用できることを目指している。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、非比例多軸負荷を受ける機械部品の疲労強度設計支援ツールを開発し、連携先から提供 される実機データに基づきプログラムを検証して、ユーザ利便性の改善を行ったこと は評価できる。一方、技術移転の観点からは、多数の実験データをもとにプログラム の有効性を検証する必要があると思われ、企業や研究機関等との連携を進め、使える ツールとして完成することが望まれる。また、実際の疲労寿命データの一致の確認な どの突合せが必要と思われる。今後は、別の研究プロジェクト等でデータベースを構 築していくことが期待される。
動的核偏極法による高感度核磁気共鳴システムの開発 福井大学
藤井裕
福井大学
宮川才治
本研究は、高分解能核磁気共鳴(NMR)装置に数ワット以上の高周波数の電磁波を導入した動的核偏極(DNP)-NMR装置を開発し、タンパク質など生体高分子の複雑な構造解析を迅速かつ高感度で可能にするものである。高周波でのDNP実験を成功させるためには、高周波数電磁波を印加した際の試料の発熱・蒸発の制御法の確立が必要である。高周波のパルス印加条件や試料温度制御法などの実験条件を抽出・検討するなかで、DNP発現条件・メカニズムを系統的に解明し、高感度で大幅な測定時間短縮を期待できるDNP-NMR装置の計測システムの開発を目指している。
試料の冷却を確保するための試料ホルダーやガス導入経路の改善などを検討・実施するとともに、DNPに寄与しない電磁波印加を避けるためのタイミングコントロールシステムを開発し、上述の発熱制御が可能となった。今後、実際の測定に適用していく。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。動的核偏極法による高感度核磁気共鳴システムの開発に関する研究で、一定の成果は得られたが、目標は装置の故障等で未達成であった。一方、次のステップへ進めるための技術的課題は明確である。今後は、ジャイロトロンの復旧を最優先で行い、残された目標と課題を解決することが望まれる。また今後技術移転を目指し、企業等への情報発信含めたアプローチが期待される。
支承に熱可塑性エストラマーを使った新しい小型3次元免震装置の開発 福井大学
新谷真功
福井大学
青山文夫
目標は、支承に熱可塑性エストラマーを使った新しい小型3次元免震装置の開発することである。開発する免震支承1本の耐荷重が200kg以上で、免震装置の固有振動数が0.25Hzの3次元免震装置を製作する。熱可塑性エストラマーを使った新しい免震支承は1本の耐荷重が50kgで、積載荷重50kgで免震装置の固有振動数が約3.0Hzであった。達成度は、70%と考えられる。今後の展開として、免震支承の構造やエラストマー成分を変えることにより、固有振動数を0.25Hzに目指していく。支承の耐荷重をさらに上げていき、1本200kg以上の耐荷重を目指していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、理論解析、実験等で概ね技術的目標は達成されていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、免振装置の耐荷重、固有振動数ともに目標値に達していないので、免震支承の構造やエラストマー成分などのさらなる検討が望まれる。今後は、企業と連携して、実用化レベルの装置を開発し、社会に還元することが強く期待される。
酵素-カーボンナノチューブ間電子移動の高速化とバイオ電池応用 福井大学
末信一朗
福井大学
青山文夫
4つのサブユニットから成る耐熱性L-プロリン脱水素酵素(L-proDH)は、熱安定的であり、バイオ電池のアノード用の生体触媒として有望である。本酵素のそれぞれのサブユニットのN末端にHis-tagを導入し、電極上のニトリロ三酢酸を介して配向固定し酵素反応に基づく電気化学的測定を行った結果、触媒部位が外側に位置するアルファ・-His L-proDH固定化電極が最も電子伝達が効率的であり、酵素分子の電極上での配向性が重要であることが明らかになった。
また、高効率なバイオ電池用電極の構築を目指し、マルチウォールカーボンナノチューブにポリエチレンイミンを複合体化し、これと L-proDHを交互積層法により炭素電極の表面に修飾した。20層の積層電極が最も高感度であり、未修飾の電極の約235倍の電流応答性を有していた。また作製から242週間後でも当初の768.8%の電流応答を維持していた。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも熱に強いプロリン脱水素酵素に変異やタグを導入して、MWCNTとの複合化、積層化によって高い電流応答性が得られた点は評価できる。この過程で次のステップへ進めるための技術的課題が明確になり、今後技術移転につながる知見が得られている。一方、本研究の結果を受け、今後の研究開発計画について検討され、技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性があると考えられる。今後は、バイオ電池の構成に関して、酵素の調整や配向制御などに時間がかかり、まだ完成に至っていないので、解決のための検討と研究を実施し、実用化が促進されることが望まれる。
超高パワー密度テラヘルツ光の発生とリモートセンシング法への展開 福井大学
出原敏孝
福井大学
青山文夫
これまで未開拓の状況であったテラヘルツの周波数領域に高出力の光源-ジャイロトロン(パルス出力10kW)を開発し、波長(0.3mm)程度のスポットにまで集光することにより、3×10^3 kW/cm^2 の超高パワー密度のテラヘルツ光を発生する技術を開発する。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にガウシアンモード出力のコンパクト・ジャイロトロンによるテラヘルツ光源装置の開発に成功しており、目標は達成されている点は評価できる。技術移転の観点からも、大学発ベンチャー企業との共同研究が検討されており、早期の実用化が期待される。特に、放射性物質のリモートセンシングなど、社会的要請の高い分野での測定システムとして、研究成果を活かした実用化への期待も大きい。今後は、特に、原発付近の放射線物質等の常時リモートセンシングへの活用が期待されている。
次世代携帯電話用SAWデバイスを実現する高速・低損失基板構造の確立 山梨大学
垣尾省司
Xカット36°Y伝搬LiNbO3基板表層に逆プロトン交換層を形成し、プロトン交換層を埋め込んだ提案構造を用いると、高速で伝搬する縦波型リーキー表面波の伝搬特性や共振特性が格段に向上する。しかし、逆プロトン交換時に十分な圧電性が得られない領域が多く、歩留り率が悪い問題点がある。この問題点の解決を目標として作製条件を実験的に検討した。当初の目標80%以上の歩留り率には至らなかったが、逆プロトン交換時に自発分極がランダムに配置されるために歩留り率が悪いことを明らかにした。さらに、核となる自発分極を残留させるために、初期プロトン交換時のLi+濃度を増加させた結果、共振特性が格段に向上する共振子の個数が4倍に増加した。今後は、4G携帯電話用フィルタへの応用を推し進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標は達成できなかったものの、歩留まり改善のポイントはつかめた点は評価できる。一方、今後の研究計画については、検討すべき課題が明確になったので、産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性が高まったと思われる。今後は、明確になった改善のポイントに沿って、計画を作成し、実施されることが望まれる。
低温環境対応型分光装置における水分測定の燃料電池評価への展開 山梨大学
松島永佳
山梨大学
還田隆
本研究開発は、極低温環境下(-20℃以下)での高精度な材料品質管理を目的として、近赤外や赤外分光を利用し、燃料電池に使われている固体高分子中の水分測定を行う。本装置ではNafion膜中の水分定量化だけでなく、伝導率と波形解析を合わせることで、水分子の結合状態をも加味した、付加価値のあるデータの取得を目指す。また光学系にヒーター等を組入れ計測器に対する霜などの付着を防ぎ、様々な低温環境下でも問題なく分光測定が行える、汎用性の高い開発案を提案する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、低温での近赤外線分光の測定を可能した測定データが得られた点は評価できる。一方、温度低下とともに自由水の単調な減少と伝導率の-40℃を境とするメカニズム変化を如何に説明するか深い考察が望まれる。今後は、単分子層膜の評価と、伝導率と中間水あるいは水素結合との関係についてのさらなる解明が望まれる。
多孔性材料を挿入した太陽熱集熱外壁の開発 山梨大学
武田哲明
山梨大学
還田隆
最近、スパンドレルと呼ばれる片面に凹凸を持った太陽熱集熱外壁が住宅壁として利用されている。この凹凸面により形成された空間内に高空げき率の多孔性材料を挿入することで、内壁の熱伝達率を向上させ、凹凸面内の空気への伝熱量を増大させることにより、太陽熱をさらに高効率で集熱できる可能性がある。そこで、多孔性材料を挿入した集熱パネルの住宅壁への適用性及び性能を評価するため、スパンドレル内に多孔性材料を挿入して伝熱実験を行い、強制対流による伝熱促進効果を明らかにし、最終目標である自然対流による伝熱促進効果が最大となる最適充てん率を求める。さらに3次元数値流体解析によって、住宅壁としての成立性を評価する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも伝熱促進効果を計測する技術およびシミュレーションする技術に関しては評価できる。実験結果を解析し、最適構造に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが今後はさらに必要であると考えられる。
位相遅れとゲインを独立に設定できるドライビングシステムの開発 山梨大学
毛利宏
山梨大学
還田隆
普段の運転では過敏に応答することなく、急な操作にはドライバの意思通りに動く自動車を題材として、ユーザの疲労感を大幅に低減可能なインターフェースを開発する。そのために、入力に対して位相遅れを小さく保ったまま、高周波ゲインを低減する非線形フィルタを作成した。そのフィルタをドライビングシミュレータに実装して、操舵角に対するヨーレイト特性を変更して実験したところ、位相遅れなく高周波ゲインを低減すると運転しやすくなるという期待通りの効果を体感できた。一連の研究結果は査読論文に掲載した。今後は企業と共同して商品化要件を考慮して研究を継続する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、車の操舵応答性に関して位相遅れとゲインを独立に設定できるフィルタ設計手法を確立し、設計したフィルターをドライビングシミュレータに搭載して制御機能の検証を行い、良好な結果を得たことは評価できる。「運転しやすい」操舵制御が実現できた。一方、技術移転の観点からは、操舵応答性の位相を遅らせずに、高周波ゲインを低減した車両は運転しやすい結果が得られており、このことがあらゆる条件で成立するのかという検討課題が残っており、解決が望まれる。また、アクセルペダル、駆動トルクの制御について産学共同研究を実施する予定であり、応用展開が望まれる。今後は、産学共同研究を進めて商品化につなげていくことが期待される。
(110)表面を有する圧縮歪みシリコン・ゲルマニウム(SiGe)薄膜の素子応用 山梨大学
有元圭介
山梨大学
筒井宏彰
本研究では、低コストで製造でき、電子・正孔ともに高移動度が期待される『(110)表面を有する圧縮歪みSiGe薄膜デバイス』の実証実験を行った。そのために必要な要素技術である表面ラフネスの低減を実現し、結晶欠陥形成メカニズムの解明に取り組んだ。積層欠陥密度・界面準位密度の低減やGe組成の最適化を図り、電子・正孔の高移動度化を目指し、結晶成長条件の検討を行った。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも表面凹凸1nm以下を達成した点は評価できる。一方、正孔や電子の移動度に関しては目標が達成されなかった。低温成長とキャリアの高移動度というトレイドオフの関係にあり、最適化をする必要がある。残された課題は、本質的な部分であるので、検討と計画を立てて、地道な研究を継続することが望まれる。
空気支燃型高速フレーム(HVAF)溶射法におけるWC系サーメット皮膜の機械的特性向上の検討 信州大学
榊和彦
ランニングコストが低い空気支燃型高速フレーム(HVAF)溶射法によるWC 系サーメット皮膜の機械的特性向上の検討を溶射粉末、溶射ガンを含む溶射条件の最適化により、[1]皮膜断面硬さ1300HV以上、[2]耐摩耗性を体積摩耗比(軟鋼SS400)で0.02以下、[3]付着率60%以上を目標に行った。その結果、燃料ガス条件を高圧化することで、[1]1350HV、[2]0.03となり、現在主流のHVOF溶射とほぼ同等の皮膜が得られた。しかし、[3]付着率は[1]と相反性があり、未達成となった。さらに、溶射粉末中の気孔率を増加させて、粒子が扁平しやすくなることにより、従来の溶射皮膜より気孔率がひと桁低い非常に緻密な皮膜ができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ランニングコストが低い空気支燃型高速フレーム(HVAF)溶射法によるWC 系サーメット皮膜の機械的特性向上の検討を溶射粉末、溶射ガンを含む溶射条件の最適化により、目標とした、皮膜断面硬さ1300HV以上を達成したことは評価できる。一方で、耐摩耗性を体積摩耗比(軟鋼SS400)で0.02以下、付着率60%以上をとした目標は達成されていない。皮膜特性と付着率は、トレードオフの関係にあることが改めて確認されたが、技術移転の目標である安価で高品質な耐摩耗WC系サーメット溶射皮膜の開発には、さらなる検討が望まれる。今後は、検討するべき課題も明確になっているので、連携企業との共同研究により、実用化が進むことが期待される。
磁性薄膜インダクタの開発に向けた解析手法の確立 信州大学
曽根原誠
各種情報通信機器におけるマルチ無線サービスに対応するため、無線回路のワンチップ化が要求されているが、依然として実現されない主たる理由がインダクタ素子の小型・集積化である。特に集積化においては、インダクタからのクロストークノイズによるLSIなど近傍素子の影響があるため、大きな課題である。
本申請では、磁性膜の特性解析および素子全体の電磁界解析を行ない、あらゆる構造のインダクタに対応するための最適化設計手法の確立を主たる目的とし、UHF帯用インダクタを共同研究先の高周波磁性材料を用いて作製し、磁性材料の透磁率によるクロストーク抑制効果およびインダクタサイズの小型化を検証し、実用化を目指す。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に磁気モーメントの動的解析を行い複素透磁率の増大を確認できたことは評価できるが、目標値は未達成である。理由として、「共同開発をしていた企業の方針転換により、材料が手に入らなくなり、新たな材料を模索している」ことはある程度評価するが、目標の達成はかなり先になることが予想される。研究の進め方を再検討し、推進することが望まれる。
体内ロボット用 磁界共振形非接触エネルギー伝送システムの開発 信州大学
水野勉
信州大学
宮坂秀明
治療機構や自走機構を有する体内ロボットが検討されており、十分な電力(30 mW)を得るためにはロボットへの非接触エネルギー伝送が必要不可欠である。そこで、磁界共振形非接触エネルギー伝送システムにおいて、交流抵抗を低減できる磁性めっき線の採用、受信コイルの内側に配置したフェライトコアによって、コイルのQ値と結合係数の両者を増加させることで、伝送電力30 mW、最大効率25%以上、さらに、位置ずれに強いことを実証して目標を達成した。今後は、実用化のために、磁界共振形非接触エネルギー伝送システムが生体に及ぼす影響(電磁波暴露に関するICNIRPガイドライン)、医療機器に与える影響等について次ステップの研究で検討する。  概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にLMWコイルの伝送効率は最大25%となり、目標である20%以上を達成した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、現在協力関係にある研究者と企業と連携を強めて実用化に向けて研究が推進することが望まれる。今後は、課題の解決とともに、体内で利用される小型機器の電源技術であり、伝送効率も大きいほど用途が広がるので、適用可能性を検討することも必要と思われる。
温泉水、地下冷水を利用した空調設備開発のための基礎データー取得 信州大学
小泉安郎
信州大学
宮坂秀明
当地長野県では、冬期に暖房用として大量のエネルギーが使用される。暖房に、温泉水や地下水の持つ自然エネルギーを熱源に利用する空調設備の開発を目的としてその基礎データー取得を行う。温水から冷空気へ伝熱を行う場合、管等を用いて両者否接触で顕熱のみの伝熱を行わせることに対し、温水と冷空気を直接接触させて伝熱を行わせると、潜熱輸送が加わり、伝熱効率は10倍上昇することを申請者は示してきた。冬期問題となる加湿も同時に行える。以上の空調設備への応用を図る。そのために、実際の装置設計に必用な幅広い条件下で、設計に必用な基礎データー取得を行う。なお、夏期は冷水と温空気に置き換えることにより、冷房装置とできる
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本課題の目的は基礎データの取得であり、その意味で提案者が報告する物質伝達相関式、強制対流熱伝達相関式が得られた最終結果とすれば、当初の目的は達成されたと評価できる。一方で、現状の成果の範囲は、提案の実現性に対するアイディアの段階と見られ、早期の実験機器を整備して、実験をしアイディアや理論を実証する必要があると思われる。今後は、具体的なシステムを挙げて事業化を見据えたテーマに絞り込み、定量的な課題に発展することが望まれる。
左右外耳道内脈波による非侵襲的脳内圧測定法及び測定装置の開発 信州大学
降旗建治
信州大学
小林円
頭蓋内圧は脳室内の脳脊髄液の示す静圧成分、呼吸器系変動成分、および循環器系脈動成分から成る。解剖学的に脳脊髄液は内耳と密接な関係にあり、幾つかの経路を経て鼓膜まで伝搬している。そこで、医療現場で計測可能な外耳道内脈波による非侵襲的脳内圧測定装置を3セット試作した。そのセットを利用して、一般企業の健康な方40名を対象として、5週間にわたり合計446データを収集した。これらのデータから、静圧成分は直接測定できないが、外耳道内脈波の呼吸器系変動成分は瞬時心拍数変動との相関関係が認められること、頸動脈脈波から外耳道内脈波までの伝達関数は医療現場で有効な生体情報を示していること等が明らかになった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に脳内圧を非侵襲的に測る技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、費用と時間がかかる臨床検査や認可が必要な医療現場だけではなく、家庭で使用する健康管理機器や福祉現場などでの実用化が望まれる。今後は、非侵襲型脳内圧測定のスタンダード機器となるよう、ハードウェア特にヒューマンインタフェースの開発に取り組み、さらにはセンサ等ハードウェア構造に一層進化させて、高齢者や認知症患者にとってもより負担の少ない機器として介護分野への展開が期待される。
プリンテッドエレクトロニクスに向けたナノ機能材料の高分解能パターン印刷積層化技術の開発とデバイスの試作 信州大学
伊東栄次
信州大学
小林円
本研究ではソフトリソグラフィ技術による選択的転写・積層法を用いて可溶性の有機半導体や絶縁材料、カーボンナノチューブ及びナノAgインク材料のパターン化と積層化技術の開発し、電極配線及び有機デバイスへの応用を試みた。各材料を分解能1μm程度でパターン形成し選択的に積層することに成功した。同技術により、オール印刷でパターン化と積層した有機薄膜トランジスタや、2種類以上の有機半導体膜を塗布法により積層化して作製した有機薄膜太陽電池や有機EL素子を試作し高性能化できることを示した。
また、凸版技術を使ってナノAgインク及びナノAg/CNT複合体をポリイミドフィルム上に直接パターン印刷して配線を行い、通常230℃の焼結温度を必要とするナノAgインクをCNTとの複合化により180℃以下の低抵抗化に成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に一部複合インクによる低温化に関してはまだ検証段階に至っていないが、大半の課題については、目標に近い可能性が示された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、本テーマに関心をもつ企業は多くあるので、全国規模の展示会や発表などを通じてパートナーを見つけることで、具体的な進め方が明確になることが望まれる。今後は、競争の激しい分野であるが、知財化を図り、企業との連携により、実用段階の課題を解決して、実用化に向かうことが期待される。
異物の存在する土中における切断機構の位置制御技術の開発 信州大学
千田有一
信州大学
中澤達夫
農業労働力不足・高齢化が指摘される中、生食用ほうれんそうなどの軟弱野菜の収穫用自動機械については、長年の研究開発にもかかわらず、広く実用化されているものは無い。その理由は、ほうれんそうの根を一定深さで切断する技術の困難性にある。この課題解決のため、土中に石などの異物が有っても、その影響を受けない切断刃深さの自動制御技術の開発、および深さ制御に必要な地表面位置検知用センサの開発を行った。試作した実験機による実地検証の結果、開発した地表面高さセンサおよび根切り刃の高さ制御システムは、所望の性能をほぼ実現できることを確認した。今後は、開発技術の完成度を高め、実用化を目指す予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、地表面の高さをリアルタイムで計測するセンサを開発し、また、地表面下の一定の高さでほうれんそうの根を切断するための制御システムを製作でき、開発システムにより、 成功率100% で、すべてのほうれん草を根の長さ5mm以上で切断できることを確認したことは評価できる。また、 ほうれんそう畑において実地実験を行い、商品として必要となる条件を満たす自動収穫が可能であることを実証しており、技術移転につながる成果が得られた。一方、技術移転の観点からは、刃で石を噛んだ場合への対策に関しては実験検証が実施されておらず、 次のステップに進むための技術的課題として残されているので、解決が望まれる。今後は、産学連携先と協力し、残された課題の解決、」実証実験を通じて実用化されることが期待される。
ナノインプリントによるガラスの高アスペクト成形法の開発 信州大学
荒井政大
信州大学
中澤達夫
収束イオンビーム加工機を用いてアモルファスカーボン金型にライン&スペース形状の加工を行う。ビームの出力制御およびステージ駆動の制御を最適化し、最終的に溝幅150nm、 高さ800nmの高アスペクト比の溝加工が可能となった。ガラス成形装置(ホットエンボス)を用いてナノインプリント成形試験を実施した。ガラス材料にはD263を用い、成形温度はD263のガラス転移温度を考慮して、600~650℃の温度範囲でライン&スペース金型を用いたナノインプリント成形を行った。さらには、ナノインプリント試験を模擬するため、汎用有限要素法解析コードANSYSを用いて熱ナノインプリント成形過程の数値計算を行った。その結果、成形温度と成形高さの関係において、概ね実験結果と成形結果は高精度に一致することを確認した。また、有限要素法による数値解析により、ナノインプリントにおける成形圧力や成形時間、成形温度等の諸条件を適切に予測し得ることを明らかにした。
本研究では、成形後の残留応力や応力集中部における応力低減を予測することを最終的なゴールとしたが、本研究期間内ではそれは達成できなかったため、達成度は70%と自己評価する。今後は、成形中および成形後の内部応力を適切に評価し、成形時に製品の破損が生じず、成形後の製品における残留応力を可能な限り低減し得る成型方法を数値シミュレーションにより予測することが課題となる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、カーボンナノチューブ添加の2層型アモルファスカーボン金型を、収束イオンビーム加工機を用いて開発し、微細なライン&スペースパターンおよびマイクロレンズアレイのナノインプリント成形に成功したことは評価できる。また、有限要素法を用いたシミュレーションによる、ナノインプリントにおける成形条件の予想と適正化を可能にている。一方、技術移転の観点からは、一部、課題を残しているが、解析により検討するべき解決方法は、明確になっているので、さらなる発展が望まれる。今後は、企業連携も開始されているので、ガラス製光学部品全般に適用可能な汎用技術として発展することが期待される。
精密欠陥制御によるTiO2薄膜の光触媒特性の向上に関する研究 諏訪東京理科大学
石崎博基
信州大学
宮坂秀明
低コストで作製が可能な色素増感太陽電池の変換効率を向上させるために光触媒層である酸化チタン薄膜の光触媒特性を更に向上させる必要がある、そこで本研究で開発した低温電気化学的製膜法によって酸化チタン薄膜内のバルク欠陥を抑制し、酸化チタン薄膜の光触媒特性の向上させることができた。またワイドバンドギャップエネルギーを有するZn1-xMgxOを用いたバンド構造の精密制御によりZn1-xMgxO / 酸化チタン薄膜層の光触媒特性の向上およびルテニウム系色素の吸着量を増大させることに成功した。今後の展開として高価なルテニウム系色素に変わる安価な色素の開発を行い、高効率色素増感太陽電池の開発研究を行なっていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。次ステップの課題が明確になっている点は評価できるが、酸化チタン薄膜の欠陥制御で10%の短絡電流の増加、色素増感層バンド制御で5%の開放電圧の増加などの成果が述べられていない。一方、色素増感太陽電池への応用展開には、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、課題に対してどのような体制で研究を続けていくのかを検討して進めることが望まれる。
レンズ製造工程におけるレアアース(酸化セリウム)のリサイクル方法の開発 長野県工業技術総合センター
江口穫正
レンズ製造工程から排出される研磨スラリーの廃液中にはレアアース(酸化セリウム)が多量に含まれている。この廃液中の酸化セリウムを再生処理し、使用量を抑制するための基本機構の開発を行った。試作した特殊形状の流路、実験装置を用いることで、酸化セリウム粒子を超音波の音場によって剥離・分散させ、粒子の一部を捕捉、抽出することが可能になった。しかし、レンズの研磨工程において機械的研磨で使用頻度の高い約1.0~2.0μmの大きさの酸化セリウム粒子をのみを抽出することができず、研磨能力の検証には至っていない。 当初期待していた成果は得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、解決するべき技術課題として、使用した超音波装置の出力の問題と微粒子操作のためのスペース形状の問題があることが明らかになった点は、評価できる。一方、目標とする粒径の酸化セリウム粒子を分離するには至らなかった。今後の技術移転を目指すためには、上記課題に対する技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、上記課題の解決により技術移転の道が開けることが望まれる。
音響測定による微細穴高精度検査技術の開発 長野県工業技術総合センター
長洲慶典
(財)長野県テクノ財団
坂上榮松
微細穴を有する様々な穴加工品の穴径と穴容積を音響測定により高分解能に検査する技術を開発した。微細穴は穴径50[μm]~100[μm]でアスペクト比1~2の微細穴を有しており、気体を通過させる部品に使用され、通過する気体流量が穴径と穴容積に大きく依存するため、精度良く高分解能に検査を実施する必要がある。この微細穴に対し、穴径±5[%]の穴径差測定可能な実験装置を開発した。今後は検査装置のさらなる高分解能化と、技術移転を目的とした加工現場での全数検査が可能なインライン計測装置の開発を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、100μmの穴に関してはほぼ目標とする精度で穴径の測定が可能になったことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、50μmの穴に関しては、実験的な精度評価がなされておらず、数値解析のみの結果となっている。また、コストの概念は不可欠であり、具体的な検査対象に於ける検査要求精度の把握が必要で、その数値目標を他より低いコストで実現出来なければ、実用化は不可能である。このような観点からのさらなる検討が望まれる。今後は、連携企業との協力により、加工現場でのインライン全数検査に対応した検査装置を試作による検証に発展することが期待される。
窒化炭素薄膜の合成と硬質コーティング材への応用 岐阜工業高等専門学校
羽渕仁恵
岐阜工業高等専門学校
杉山正晴
窒化炭素は窒素の含有量を増やすことは一般に困難であるが、申請者の合成技術を用いると、窒素/炭素含有量比が1.2以上の薄膜を作ることができる。本課題では、この合成技術を改良して、化学的に安定な窒化炭素(C3N4)薄膜を合成する。この薄膜は、DLC(diamondlike carbon)よりも高い光学ギャップを示し、DLC以上の硬度と平滑性があるので、本研究では、これをしゅう動部品・切削工具へのコーティングの他、ペットボトルのガスバリアや、透明性が必要な人工義歯などのコーティングなどへ応用する技術を開発する。さらに、窒化炭素を結晶化させるとダイヤモンドより硬度が高くなるので、これを利用した難切削金属の加工技術の改善の可能性を見いだす。 当初期待していた成果までは得られなかった。 軟質透明なアモルファス窒化炭素膜をマグネトロンスパッタで合成する技術に関してはある程度評価できる。今後の進め方はトライアンドエラーではなく、何らかの技術的見通しを持って探索することが必要である。
触感を識別可能な力触覚ハイブリッドセンサシステムの開発 岐阜大学
川村拓也
本研究では、人の指先のような柔らかいシリコーン製のCMCセンサ素子を軽く圧縮したときの力覚特性を明らかにして、CMCセンサで微小な力変化を推定できることを示した。センサ素子の圧縮力が100~200gf(約1~2N)の場合、約7~25gfの力変化を、50gf(約0.5N)の場合、約3~11gfの力変化を推定可能であった。力覚センサとCMCセンサを組み合わせたハイブリッドセンサシステムとすれば、力覚センサで圧縮力を計測しながら、CMCセンサで微小な力変化を推定できる。なおこの性能は、センサ素子の2μm程度の圧縮量変化を検出できることを示しており、人の指先の触覚とほぼ同等であり、今後は「つるつる・ざらざら」等の触感識別の実現につながることが期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目的、すなわち人の指先の触覚とほぼ同等の性能が達成できたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、人の指先の触覚センサで対象のどのような表面情報を今後どのように取り扱うのかあるいは取り扱えるのかを明瞭にすることが望まれる。今後は、耐久性などについて検討するとともに本研究成果に基づく特許出願されることが期待される。
胸部生体モデル自動生成技術を核とした触覚レンダリング法の開発 岐阜大学
川合隆光
岐阜大学
馬場大輔
乳癌触診訓練システムでは、高速・高精度な力覚シミュレーションおよび胸部生体モデルの自動生成が求められている。本研究では有限要素法による胸部触診用力覚シミュレーションのGPUを用いた高速化および高精度化手法の開発、および胸部生体モデルのうち、3D形状モデルの自動生成手法に関する研究開発を行った。有限要素法については、メッシュ解像度、動作速度に関する当初目標を1GPUでほぼ達成した。計算の安定性の改善および複数GPUによる高速化の実現が今後の課題である。3D形状モデルの自動生成に関しては、既知の胸部3D形状モデルを基に、成長率に応じた3Dモデルを自動生成することに成功した。脂肪率、筋肉量等の他の生体モデルの自動生成が今後の課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、乳癌触診訓練システムを想定した力覚シミュレーション手法と胸部生体モデルの自動生成法の開発を行い一定の成果が得られたことは評価できる。すなわち、GPUのための数値解法として並列処理に適したTLED法を採用して実装し性能評価を行い、1GPUに対しては目標とするフレームレートが得られたことは評価に値する。また、力覚シミュレーション手法、胸部生体モデルの自動生成とも、多くの有用な結果を得てはいることは評価できる。一方、シミュレーションのための数値解法についての課題は明確になったが、3D形状以外の、計画した体重、脂肪率、筋肉量等の生物学的パラメータを入れたモデルの自動生成は未解決であり、さらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、残された課題を解決し、次のステップに進むことが望まれる。
5-アミノチアゾールをコアとする青色蛍光発光分子の開発 岐阜大学
村井利昭
岐阜大学
馬場大輔
持続可能な社会を実現するために必要な省エネ型照明あるいはディスプレイの実現には、有機化合物による赤、青、緑の光の三原色の高効率な発光が必須である。そのような背景の中、本研究では、われわれが独自に開発した有機硫黄化合物を基軸とする反応を組み合わせることで、前例のない5-N、Nージアリールチアゾールでかつ青色蛍光発光を示す化合物群を開発した。とりわけチアゾール環に組込む置換基として、その2位に4-クロロフェニル基やピリジル基の組込みが高い光特性を示すことを明らかにした。またジアリール基に電子供与性の置換基を組込むことで、蛍光発光が長波長シフトし緑色発光を示す誘導体も構築することに成功した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。一方、技術移転の観点からは、研究の加速とその早期のアウトプットが望まれる。今後は、企業の選択、役割分担等、更なる戦略的な産学連携の推進が期待される。
手首運動機能のある筋電義手の研究開発 岐阜大学
川崎晴久
岐阜大学
馬場大輔
厚生省の調査によると平成18年度の日本人の上肢切断者は8万2千人である。これを人口比で比例させると、世界では450万人以上いることになるが、その殆どは電動義手を利用できていない。利用者からは重い、自由度が少ない等の意見が寄せられている。そこで、伸屈できる1自由度の4指と伸屈と内外転の2自由度の拇指、及び伸屈と旋回の2自由度の手首からなる合計8自由度の筋電義手を研究開発することとした。開発目標として 1) 人間の手と同程度の300g以下の軽量で20N以上の高把持力のハンド、2) ハンド搭載可能なFPGAベースの小型なハンド制御回路と高信頼度な筋電信号処理回路、3)筋電信号によるニューラルネットワークベースの多自由度ハンド制御の確立を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に筋電学習システムの確立などに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、当事者の客観的な意見を実現する電動義手を目指しており、社会的還元は期待でき、実用化が望まれる。今後は、企業との連携により、義肢装具士が制御パラメータをどのように変更すべきか等、より具体的に検討されることが期待される。
眼鏡レンズのレーザー染色における基材表面の温度測定と均一染色の制御技術の開発 静岡県工業技術研究所
植田浩安
静岡県工業技術研究所浜松工業技術支援センター
杉山治
レーザーのエネルギーを利用して眼鏡レンズの染色を従来技術より短時間で均一に完了させるための新しい染色方法を開発している。均一な染色が短時間で実現できることを確認したが、レンズ基材の変形や表面の白色化などの課題が顕在化している。これまでにない眼鏡レンズのレーザー染色技術を実用化するために、レーザー照射時のレンズ基材表面の温度を測定し、加工時の表面の温度分布を一定にするための最適なレーザー加熱を行う制御方法を開発した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に炭酸ガスレーザー光(出力波長10.6μm)に干渉されない感度波長3-5μmの放射温度計を用いることにより、被染色レンズの温度測定がリアルタイムとなり、レーザー出力へのフィードバックを可能とし、レーザを用いた短時間のレンズ染色を実用化に近いレベルまで可能にした点は評価できる。また、レンズの厚さの違いによる温度上昇の変化を制御し、レンズの過昇温を抑制できた。一方、技術移転の観点からは、高屈折レンズについては均染性に難が残ったが、同軸制御での精細なフィードバックおよび染料の選択により、解消されることが望まれる。今後は、企業との連携により、実用化検討がさらに発展することが期待される。
ガス完全循環式減圧流動層乾燥による低温度・高速度かつ低エネルギー乾燥 静岡大学
立元雄治
静岡大学
伊藤悟
ガス完全循環式減圧流動層乾燥を実施できるようにし、流通式と同等の乾燥速度を持ち、なおかつ熱効率85%を目標とした。
ガス完全循環式減圧流動層乾燥装置を作製し、低温度かつ高速度での乾燥が可能であることを確認した。また、送風機を内挿することで、別の熱源を加えることなく乾燥容器内温度が90℃以上に達したことから、乾燥に必要な熱を送風機のモーターの発熱のみでまかなうことが可能であること、すなわち極めて高効率な乾燥が可能であることが確認された。今後は、各種材料に対する適用可能性を評価するとともに、さらなる高効率化についても検討する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、乾燥速度、熱効率は概ね達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、パラメータ解析の検討が不十分であり、乾燥時間を短縮したとの知見は得ているが、なぜ、短縮したのか不明であり、且つ、短縮時間を最小にする流動層の条件や圧力などの最適化に関する知見は殆ど得られていない等の課題があり、さらなる検討が望まれる。今後は、いくつかの明らかになった課題を克服すると共に、連携企業等を速やかに決定して、実際の材料に対するデータ採取を通じての技術移転が期待される。
超臨界技術を活用した新規グラフェン製造法の開発 静岡大学
孔昌一
静岡大学
橋詰俊彦
本研究では、還元型酸化グラフェン(RGO: reduced graphite oxide)の新規製造技術を確立した。これは、まずグラファイトを化学処理して酸化グラフェン(GO: graphite oxide)を作製し、続いて酸化グラフェンを超臨界還元処理して還元型酸化グラフェン(RGO: reduced graphite oxide)を製造する技術である。具体的には、研究責任者は、GO溶液の加熱処理によるRGOの分散液の作製、およびGO薄膜の還元によるRGO薄膜の創製に成功した。さらに、GOの酸化度や、その際用いる溶液、また還元時の処理温度・処理時間がRGOの性能を大きく左右していることを明らかにした。また、基板と分離した電気伝導率が10000 s/mを超える自己保持膜の製作にも成功した。将来的には、「グラフェンが有する新規物性の有効制御」へと研究をさらに進めることで、次世代高機能炭素素材として産業分野への応用を目指して展開していく予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、電導度の数値目標や減量率、X線回折などの当初の定性的目標値は達成している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、プロセッシング過程の単純化や自動化、生成グラフェン膜の特性の再現性などが解明されれば、ノウハウの蓄積もあり、産学共同での開発に移行する可能性は大きい。今後は、生成物の物性を明らかいするために、XPS、ラマン分光、ガスクロー質量分析といった評価も必要になると考えられる。計画されていた流通型反応装置についても生産性を考えると具体化が期待される。
精密部品インプロセス検査のための高解像度三次元イメージング手法の開発 静岡大学
臼杵深
静岡大学
斉藤久男
精密部品の形状や欠陥をインプロセスで検査するために、高速かつ高解像度に三次元顕微観察する手法を提案し、提案手法の有効性を実験的に検討した。光学顕微鏡に三次元イメージング機器を導入することにより、高速三次元観察を可能とした。三次元イメージング機器としては、デジタルリフォーカスシステム(自作)、タイムオブフライトカメラ(本受託研究費で購入)を用いた。更に、結像光路のアクティブ制御によるサブピクセル超解像手法により機器仕様を上回る高解像度イメージングを実現した。具体的な結果として、500μmの測定範囲において5μmの空間分解能(測定精度)で全焦点画像を取得できた。この結果は、三次元イメージング機器における測定範囲と測定精度の比100を保持したまま顕微観察への適用を実現している点で、本課題の目標達成の可能性を示唆している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、高速かつ高解像度に三次元顕微観察する手法の開発で測定精度については目標を大きく上回って達成したことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標ではGPUによる高速処理により10fpsで三次元観察することを目標とすることがあげられているが、これについては実績という点では未達である。基本目標を実現するための潜在的な能力は示されたと思うが、広い面積で測定精度を確保し、なおかつ高速処理することが実際に可能なのか、技術課題をもう少し定量的に明確化することが望まれる。今後は、実用化に向けて解決するべき課題を定量的に明確化し、研究を発展させることが期待される。
カーボンナノチューブの樹脂基板上へのプラズマ低温合成技術の開発 静岡大学
永津雅章
静岡大学
斉藤久男
本研究では、従来用いられている高温下でのカーボンナノチューブ(CNT)合成技術とは大きく異なり、非熱平衡プラズマのイオンエネルギー制御を利用した新たなCNTの低温合成技術の開発を行った。本研究において、ナノ触媒微粒子の低圧マイクロ波励起プラズマを用いたイオン衝撃による前処理、およびメタンガスを添加したプラズマ処理を行うことによって、基板温度200度以下での多層CNTの直線配向成長を実現した。さらにCNTのプラズマ低温合成技術の実用化を目指し、非耐熱性であるポリイミド樹脂を用いたCNTの低温成長実験を行い、CNTの合成に成功した。これらの成果は学術論文および国際会議、国内学会等において発表するとともに、新聞においても発表を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に低温での カーボンナノチューブ(CNT)合成は際立った技術で評価できる。一方、技術移転の観点からは、低温で可能な合成法が確立されると低コストでナノチューブの作成が可能になり、ナノチューブの低価格化が図れ、実用化の可能性が高まった。今後は、特許の出願を検討して、成長速度などの技術的課題の解決をして、連携する企業を探索しながら、実用化へ進んでいくことが望まれる。
レアアース元素を含まない超磁歪材料の開発 公益財団法人名古屋産業科学研究所
松井正顯
(財)科学技術交流財団
安井克幸
レアアースを含まない超磁歪材料として、Ni2MnGa合金に着目し、その実用化のために、(1) Ni2MnGaの中間相変態点(LPB)を上昇させる。(2)キュリー点を上昇させる。(3)磁歪特性の外気温依存性を軽減けるため、LPB巾の拡大を目指す。(4)従来のものより、10倍程度の高感度捻りトルクセンサーを試作する。などの目標を立てた。その結果(1)、(2)は元素置換実験によって達成された。(3)ではLPB巾は熱処理によって制御できることが分かった。(4)では、目標とした10倍以上高感度な捻りトルク計を試作した。しかし、当該合金の靱性が不十分なため、大きいトルクの検知には適切でないことが分かった。以上、(1)、(2)は達成できたが、(3)、(4)は実用化のための新たな工夫が必要であることが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にシステマティックに材料特性の向上を図り、Co添加による超磁歪特性の改善など有益な知見が得られていることは評価できる。トルクが小さいところでは従来の材料に較べて10倍以上の検出感度を有する材料を得たことは特筆すべきである。一方、技術移転の観点からは、更に大きなトルクでも破断しないように靭性を上げ、かつ高感度の材料開発および室温で200ppm以上の材料開発が望まれる。今後は、将来の実用化に向けて、より一層の磁気特性向上や機械特性の改善などの基礎研究のさらなる進展とともに、適用分野の探索や作製法の確立を経て、製品化や技術移転が具体化することが期待される。
耐候劣化を判断する蛍光マーカー繊維の開発 あいち産業科学技術総合センター
佐藤嘉洋
あいち産業科学技術総合センター
板津敏彦
本研究は、耐候劣化を判断する蛍光マーカー繊維の開発を試みた。具体的には、繊維の中に耐候性の優劣が異なる蛍光顔料を練り込み、耐候劣化後の蛍光発光色を評価した。耐候性に優れた蛍光顔料の発色は変化しないが、耐候性に劣った蛍光顔料の発色は低下する。このときの繊維の色変化と残存強度を評価することで、使用中の繊維の寿命予測を可能とした。これにより、繊維製品の劣化程度は、現場での外観検査では判断困難であったが、蛍光顔料を発色させるブラックライトで色変化を観察することで、簡易・迅速な判断が可能となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に蛍光力の劣化により、ロープ強度の耐光劣化による保持率を予測するシステムの開発については目標達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、人命にかかわるロープの交換時期に関する研究であるので、今回明らかになった課題の克服、屋外暴露等のデータ蓄積を経ての技術移転が望まれる。今後は、早急な特許出願後、次のステップへの発展が期待される。
高機能異形断面コットンの開発 あいち産業科学技術総合センター
山本周治
あいち産業科学技術総合センター
板津敏彦
綿に対して、マーセライズ加工は古くから行われているがこれにさらに物理的方法を加えることによって新たな機能を付与することを目的とした。本研究の特徴は濃厚な水酸化ナトリウム溶液に浸漬し綿がマーセル化を始めると同時に加圧し内部の分子構造を変化させて異形断面コットンを作成するものである。これによる実験結果は加圧することによって未精練の生糸も均染性及び染着性が増加することが確認できた。特に生糸の場合、直接この処理を行うことにより精練工程を省略でき時間短縮、省エネに繋がると考えられる。光沢、柔軟性の付与に関しては今回では十分な成果は得られず、今後の引き続き研究を行い問題点を解決していきたいと考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、マーセライズ加工の技術に加圧処理を加えることで異形断面コットンの製作技術に突破口を見出したことは評価できる。一方、色性改良については、目標に対し70%の達成率であるが、生糸の場合本処理で精練工程を省略できるという知見は興味がある。光沢度、強伸度、風合については目標未達であり、もう一度原点に帰って本技術のメカニズムを精査し、所期の目標に向かって研究を継続することが、必要と思われる。今後は、企業との共同研究も進め、性能、生産性、コストなどの面で対抗技術との比較も行いながら、地場産業の発展に寄与することことが望まれる。
プリンター技術を用いたRFIDタグ用アンテナパターンの作製と評価 あいち産業科学技術総合センター
吉元昭二
あいち産業科学技術総合センター
齊藤秀夫
本研究は、RFIDタグ用のアンテナパターンをプリンター技術を利用して作製し、その性能について評価することを目的としておこなった。本年度研究では、いくつかのRFIDタグアンテナ用のネガパターンをプリンターで作製し、実際に銀アンテナパターンを作製した。作製したアンテナパターンに関して、その周波数特性をインピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、現在市場で使用されている13.56MHz(短波帯)の周波数帯域に感度があることが分かったため、市販のICを装着しRFIDリーダー装置を用いて作製したアンテナパターンでIC記録情報を読み出ししたところ、正常に読み出しできることが確認できた。本研究で開発したプリンター技術を利用したパターン作製技術が実際のアンテナ作製技術として十分可能性があることが見出せた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標はほぼ達成され、次のステップへ進めるための課題も明らかになっている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の研究開発計画は具体的に検討されており、今後この研究成果が社会還元に導かれることが期待できる。今後は、うまく行かなかった点(多重印刷の剥離、アンテナ特性の不足等)の原因を解明し、次の展開を考慮すべきと思われる
繊維素材の遮熱性測定法の開発 あいち産業科学技術総合センター
丹羽昭夫
あいち産業科学技術総合センター
齊藤秀夫
本研究は、繊維素材の遮熱性の迅速な評価に関するものである。この遮熱性測定法は自動で一定温度を保つ発熱体に熱が照射されると温度維持のための消費電力量が小さくなることを利用している。気温による校正の簡素化を目的として研究対象を具体化した。熱損失量は全体として気温に対し線形的に低下し、それはおおむね補正式に基づく理論値に一致すると考えられた。また風速が高くなるにつれ熱損失は上昇したが、発熱体に直接風を当てると放熱の変動が大きくなった。これらの知見より製作した遮熱性迅速測定装置により繊維製品の遮熱性を短時間で再現性良く測定できると考えられた。機器メーカーとの連携により、共同特許の出願も可能である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、繊維の遮熱簡易測定法に関して、ほぼ目標通りの精度、時間で測定を可能にしたことは、地域産業振興支援の意味で貢献度が大きいと評価できる。一方、技術移転の観点からは、成果が測定方法として特許可が可能であれば、権利化することが望まれる。今後は、機器メーカとの連携により、実用的で低価格の装置の開発に進むことが期待される。
新規構造による有機薄膜太陽電池の高効率化 愛知工業大学
落合鎮康
(財)名古屋産業科学研究所
山田義憲
ITO/PEDOT:PSS/PCDTBT:PC71BM/Al構造で、電力変換効率6.2%を達成した。さらに、有機薄膜太陽電池の製膜方法の中でもロール・ツー・ロールなどの作製法に転用が可能であるスプレーコート法を用いて有機薄膜太陽電池の活性層を作製し、その性能評価を行った。スプレーコート法において、噴射距離20cm、噴射時間30secで DIOを添加したPTB7:PC71BM活性層により、有機薄膜太陽電池の電力変換効率6%を達成した。貼り合せ法では、貼り合せ面に有機溶媒蒸発時の気泡発生のため、張り合わせが出来ないことが明らかになった。そこで、相互浸透型ヘテロ接合を採用した。相互浸透型ヘテロ接合ではドナー材料とアクセプター材料が分離しつつ、膜中央部では入り組んだ超格子構造となっている。そのため広いD/A界面で電荷分離を効率的に行いながら、キャリアの取り出しもスムーズに行うことができる。活性層として、PCDTBT、PC71BMをクロロベンゼンに溶かした。先ず、作製したPCDTBT溶液をPEDOT:PSS上に滴下し、スピンコート法で製膜し第1層とした。次に相互浸透型接合を実現するためにスプレーコート法を用いてPC71BM溶液をスプレーの噴霧によって相互浸透膜を製膜した。PTB7/PC71BM+DIO添加活性層で3.54%PCEを達成した。相互浸透型ヘテロ接合では、多層有機活性層の作製、大面積化が可能であり、実用素子に向け相互浸透型接合で、3.54%PCEを達成した意義は大きい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも有機薄膜太陽電池の成膜方法に関しスプレーコート法で6%の電力変換効率を得ている点は評価できる。一方、産学連携については企業と共同研究を行うことになっており、変換効率10%を目指して研究を行う。今後は、電力変換効率を向上させる方法について再検討を行い、新たなアプローチで展開することが望まれる。
液化天然ガスを用いた形状記憶合金エンジンの可能性に関する研究 大同大学
佐藤義久
大同大学
清水孝純
液化天然ガスの気化熱を利用した形状記憶合金(SMA:Shape Memory Alloy)エンジンの可能性を実証する為の実験装置(実機の約1/10相当モデル)を設計・製作し、作動流体としては液化天然ガス(-160℃)よりも入手が簡単な液化窒素(-195.8℃)を用いた動作確認実験を実施し、動作することを確認した。主な成果は以下のとおりである。
(1)高温輪と低温輪を逆さにしたSMAエンジンの1/10モデルを製作した。
(2)液化窒素(LN2)を作動流体としたSMAエンジンが作動することを確認した。
(3)液化天然ガスの気化熱を用いたSMAエンジンを改良し、よりスムーズに回転する条件を把握した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本提案では本研究の目的は原理実証であるとしており、凍結による回転停止を回避して、1秒間に1回程度ではあるものの原理的に回転するところは実験により確認していることは評価できる。一方、動作することが確認されたのみで、動作特性は調べられていない。またこのエンジンが高効率であることを実証することについても成果がなく基礎研究の段階であり、さらなる検討が必要と思われる。今後は、本エンジンを液化天然ガスの冷熱エネルギーを回収する方法としてエネルギー有効利用の観点から有用なものにするためには、まず、実用化のための有効性を評価する基礎データを蓄積することが望まれる。
グラフォエピタキシーによるカーボンナノウォール(CNW)を用いたFETの開発 中部大学
河原敏男
本研究開発ではカーボンナノウォール(CNW)を用いた超低消費電力の電界効果素子(FET)の開発を目指す。ユビキタス時代のIT機器には、超低消費電力化が求められるが生体の情報伝達の動作原理を模倣(Biomimetics)して動作電圧25 mVのFETを開発することにした。本課題ではFETの基幹部位となるチャネルをCNWで形成するためのグラフォエピタキシー技術の確立を目指して研究を行い、CNWを十分な長さに亘って配列させるプロセスの開発に成功し、さらに、これを用いたFETの試作を行った。FETの中には半導体特性を示すものも存在し、今後、FET動作安定化のためのプロセス制御技術の研究開発を行い集積素子を目指す予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にグラフォエピタキシー技術により、カーボンナノウォールの配列長さと溝の深さの目標値を達成している。さらにFET構造の作製についても実施されていて評価できる。一方、技術移転の観点からは、新規ナノデバイスとして、低消費電力で高速動作の素子の実用化が望まれる。今後は、プロトタイプのデバイス試作に向けての検討を進めて、企業との連携による技術移転へ展開していくことが期待される。
高度な加熱制御を実現するマイクロフレームアレイ式加熱デバイスの創製 中部大学
平沢太郎
中部大学
中津道憲
本研究課題の目標は、微小火炎の数を増やしても、個々の微小火炎を制御できるようにすることで、1ユニットで加熱できる面積を 10cm x 6cm まで拡大したマイクロフレームアレイを開発することである。数値解析及び燃焼実験により、燃焼均一化のために、燃料室内および空気室内の流れのバランスを制御する鍵となる設計要素を発見した。すなわち、各ノズルより噴出する流れを均一化するのに有効な流路設計手段を手に入れることができたのである。その結果、マイクロフレームアレイの加熱面拡大の目標値を達成することができた。今後は、出力制御範囲の拡大や、加熱面積のさらなる拡大を計り、より一層の汎用性を獲得しつつ、応用展開の範囲を広げてゆきたい。 おおむね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標達成の判定基準は、1) 10 cm x 6 cmの長方形内にマイクロノズルを高密度配置する、2) すべてのノズルにおいて火炎の合体や吹き消えが発生せずに微小火炎が形成されている、ことである。これを達成するために、 空気室ならびに燃料室の3次元モデルにより流体解析して噴流出口流速の均一化を図るとともに、実際に燃焼器を製作して微小火炎の制御性を評価している。これにより所期の目標を達成できていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、本研究の成果をマイクロフレームアレイ式加熱デバイスとして位置づけて、共同研究および特許出願についての検討が具体的に示されており、具体的実施と応用展開が望まれる。今後は、工業的にすぐに使える技術と思えるので、立ち上げた「マイクロフレームアレイ研究会」等を通じて、実用化に進むことが期待される。
組み込みカーネルマシンを使用した最大電力点高速追従機能付き太陽電池パネルの開発 中部大学
山内康一郎
中部大学
杉山聰
昨年度開発した組み込み神経回路を組み込んだMPPTコンバータを簡素化・改良して太陽電池一体型のコンバータを作成した。このコンバータは外部電源を不要としており、単独運転、並列接続による運転はもちろんのこと、直列接続も可能である。
今回の開発の要点は次の3点である。
1. 組み込み用の神経回路LGRNNをマイコンに組み込み、太陽電池の最大電力点を学習し、照度の変化に即応するMPPTコンバータを作成した。
2. 昨年度は2つのマイコンを併用して構成していたものを1つに集約し、回路の簡素化と自己消費電力の抑制を目指した。
3. 太陽電池とコンバータが一体となったパネルを構成した。これを実現するため太陽電池パネルに装着したコンバータが熱により破壊されないように太陽電池の熱を逃がす機構を開発した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本研究課題では、最大電力点追従コンバータ一体型の太陽電池パネルとして、1)低消費電力、2)高効率、3)高耐熱性、4)安価、5)省電力ワイヤレス通信機能の付加の五つを目標として掲げていて、3)について達成されたことは評価できる。一方、技術移転が可能となるためには、今後解決すべき4つの問題点を解決する必要があり、具体的な解決計画を作成して、検討することが必要と思われる。今後は、技術移転につなげるよう、課題の解決に注力するこことが望まれる。
新型ロールコータによるインライン式フィルムプロセスの研究開発 中部大学
菅井秀郎
中部大学
杉山聰
高密度のマイクロ波プラズマを組み込んだコンパクトな新しいロールコータを構築し、これを用いてタッチパネル用のITO/PET積層フィルムをインラインで作製する革新技術の実用化研究をおこなった。先ずPETフィルム表面の脆弱層をプラズマエッチングする独自技術を開発し、従来の中間接着層を用いることなく、ITO層との強い密着力を獲得し、耐久性を向上させることができた。さらに、大気に取り出すことなくITO膜をプラズマで加熱し結晶化を促進、その表面抵抗を下げることに成功した。 このように、従来のオフライン式に比べて今回開発したインライン式は大幅なコストダウン・生産性向上およびコンパクト化が可能であり、実用化の見通しが得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の目標は達成されており、評価できる。実用化に向けての課題は、処理速度やランニングコストなどで実用化に向けて解決すべき難しい課題が残っている可能性がある。ロール・ツー・ロールでの表面技術は、今後より重要性を増すと考えられる。技術移転を促進するために、有望な企業パートナーを見つけることが望まれる。
導電性高分子膜を透明ショットキー電極として用いた容量DLOS計測による窒化物半導体膜の欠陥準位分析法の開発 中部大学
中野由崇
中部大学
杉山聰
超低損失の高周波パワーデバイス材料として期待される窒化物半導体膜(GaN)について、導電性高分子膜を透明ショットキー電極として用いた容量DLOS(Deep-Level Optical Spectroscopy)計測法による欠陥準位分析法の開発を目的とする。前年度は、簡便なスピンコート法でGaN上にポリアニリン(PANI)電極膜を形成し、PANI成膜条件を最適化することで、高い光透過性と整流特性を併せ持つ透明ショットキーダイオードの作製に成功した。本年度は、このダイオードを用いて、単色分光照射法と電子計測条件を詳細に検討し、再現性のあるDLOSスペクトルを取得しGaNの欠陥準位情報の抽出を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、容量DLOS計測に用いる透明ショットキー電極の透過率、接合面積の最適化についての目標は達成され、容量DLOS計測を用いたGaNの欠陥準位のエネルギー位置、準位密度についても高精度に定量分析できることが示された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、GaNデバイス分野は市場の伸びが見込まれ、窒化物半導体の特性向上のための技術移転につながる有力な評価手法である。今後は、インプロセスが開発された場合は、応用範囲が広くなることが期待される。
画像処理と元素分析とを統合した無機固体粒子群の高度分析ツールの開発 中部大学
二宮善彦
中部大学
木本博
走査電子顕微鏡の反射電子画像(150~800倍)並びにパノラマ撮影により高倍率で撮影した反射電子画像(800~5000倍、25~200枚の合成画像)を用いることによって、0.1~1000μm範囲の粒子の内部構造を、MATLAB(r)のImage Processing ToolboxおよびRandom Forests法(決定木を弱学習器とする集団学習アルゴリズム)を併用した画像認識手法とEDSによる元素分析結果とを統合した無機固体粒子群の高度分析ツールの開発を行った。本開発ツールを石炭燃焼から排出されるフライアッシュ粒子、石炭ガス化スラグ中に相分離したFe/FeS粒子、石炭に含まれるIncluded/Excluded無機粒子の解析に適用することで、当初の目標とした解析結果をほぼ達成することができた。今後は、公的な研究開発支援制度を活用して、産学共同に向けた研究開発を継続し、分析ツールの高度化を図る予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の目標は達成できた点は評価できるが、画像処理技術の部分はまだ改善する必要があると思われる。実用化を目指す場合に、極めて多様な性状を持つ研究対象を扱うことを特徴とする点から、画像処理に関して残されている課題は、複雑な現象を解析する本研究の性質から、本質的で、技術移転の可能性に関わる項目であると思われる。従って、実用化に向けた研究には、画像処理の専門家と連携して、研究の促進を図ることが望まれる。
太陽電池の高効率化に向けた高い電子移動度を有する透明電極の実現 中部大学
山田直臣
中部大学
木本博
スパッタ法にて低い抵抗率かつ高い移動度を有するSnO:Ta(TTO)薄膜の作製に取り組んだ。ルチル型Ti0.55Nb0.45O2をシード層として用いることで、スパッタSnO2系薄膜としてトップレベルの抵抗率6×10-4Ωcmを達成することができた。ここで得られた電気的・光学的特性は太陽電池用の透明電極として非常に有望であると考えられる。しかし、移動度に関しては目標値80cm2V-1s-1には及んでいない。移動度を目標値に到達させるには、シード層の配向性をコントロールする必要があることが課題として抽出できた。もうひとつ、SnO2へ添加元素の検討も行った。その結果、Taが最も有効な添加元素であるという結論が得られた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、スパッタ法による低抵抗率で高移動度の透明電極薄膜の作製に関して多くの実験を行い、設定目標の移動度には未だ達していないが、スパッタSnO系薄膜として世界トップレベルの抵抗率を達成していることは大いに評価できる。一方、現時点では直ちに技術移転の段階とは言えないが、移動度を阻害している要因について、シード層や成膜温度等の課題を明らかにしており、これらの進展により実用化が進むことが望まれる。今後は、設定目標の移動度には未だ達していないが、得られた電気的・光学的特性は太陽電池用の透明電極として非常に有望であると考えられ、太陽電池の高効率化に貢献できるものと期待される。
車輪型移動ロボットの省エネルギー制御 豊橋技術科学大学
内山直樹
豊橋技術科学大学
冨田充
本研究では申請者が提案してきた産業機械装置の省エネルギー制御法を、車輪型移動ロボットを対象とした方法に拡張することを目的とする。また電動車椅子に応用し、実験的に有効性を検証する。車輪型移動ロボットは非産業分野などの多くの分野に普及すると予想されるため、環境問題、資源エネルギー問題の観点から、十分な意義を有する。機械装置の駆動に一般的に用いられている単純な動作軌道を電動車椅子に応用し、加減速度と定速度の大きさを調整することで、低速、中速、高速動作に各々においていずれの場合も約25%程度の省エネルギー効果が得られることを確認した。今後は、上記の単純な動作軌道を組み合わせることで複雑な動作に対して省エネルギー軌道を生成する方法を提案し、実験的に有効性を検証する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、技術開発の目標は達成されていることは評価できる。産と協力して開発を進めてきたので、技術移転を目指した産学共同の研究開発ステップにつながる可能性は高い。一方、技術移転の観点からは、マニュアル走行時の結果が記載されていない、電動車いすにおいて重要な乗り心地や快適性、操縦性能との関係についても言及されていない問題があり、残された課題の早急な解決が望まれる。今後は、協力先と共同で速やかに研究成果を応用展開し、実用化されることが期待される。
簡易頭部MRIへ向けた高温超伝導材料を用いた計測装置の開発 豊橋技術科学大学
廿日出好
豊橋技術科学大学
冨田充
将来、頭部MRIの簡易撮影を実現することを最終目標とし、本課題では、5~10cm立方ほどの計測範囲(指や卵をまずは対象として想定)を有するコンパクトな二次元MRI装置のベースとなる、高温超伝導線材を用いた検出コイルとSQUID磁気センサを組み合わせたMRI信号計測回路の作製・評価を行った。B系高温超伝導線材を用いて26回レイヤー巻きピックアップコイルを作製し、環境ノイズ遮蔽のため電磁シールドを施した結果、コイルと結合させたSQUIDを動作させることができた。また、高温超伝導円筒の磁気特性を評価した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも検出コイルに結合する電磁波の原因解明および解決を行ったのは評価できる。一方共振回路と線材比較については、実施に至らず早急な装置の完成が望まれる。今後は、多くの課題が残っているので、課題を整理して、計画を再度作成する必要があると思われる。
赤外線式ガスセンサのための傍熱型波長選択マイクロ光源 豊田工業大学
佐々木実
赤外線式ガスセンサのための傍熱型波長選択マイクロ光源を実現するために、原理検証ではニクロム線であった熱源のマイクロヒータ化に取り組んだ。Si/SiO2/Si構造を持つウェハの表裏側からのSi垂直エッチングにより、ほぼ宙に浮いたマイクロヒータ上に出射スリットが配置された一体構造を製作した。熱放射の閉じ込めができる光学系となる。マイクロヒータと基板間の熱絶縁には、幅の細い機械的に弱いデザインが良いが、パッケージする際のダイシングに耐える剛性とのバランスが問題となった。デザイン修正を3回加えた。格子とスペーサも製作してアセンブリし、出射スペクトルを計測した。コントラストは低いものの、波長選択的なピークが示唆された。光源構造および出射スペクトルの改善、効率の評価は今後も進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。次のステップに進むための技術的課題はある程度想定されており、評価できるが、当初の目標を達成するには克服する課題が多い。一方、今後とも企業との共同研究を継続する予定があり、今回明らかにされた課題について、技術的検討やデータの蓄積が必要と思われる。今後は、更なる研究が必要な状況であり、継続的な研究が望まれる。
小型・低損失配電系統用ループコントローラの開発 名古屋工業大学
竹下隆晴
名古屋工業大学
岩間紀男
放射状になっている日本の電力配電系統において、最近、太陽光発電などの分散電源の大量導入により、電圧が上昇する問題が引き起こっている。電圧変動の抑制と配電線路の損失を低減するために、ループ配電系統が検討されている。本研究では、ループ配電系統のループコントローラの小型・低損失化のために、マトリクスコンバータを用いた回路構成とその制御法を構築する。提案回路構成による、配電系統の送電損失最小化を実現するループコントローラの制御法を明かにする。特に、マトリックスコンバータの損失低減のために、スイッチング回数を従来の半分に低減する方式を明らかにしている。ループ制御特性をシミュレーションと試作システムを用いた実験で確認している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に概ね当初の目標が達成され、次のステップへ進めるための技術的課題を明確にしている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、 電力会社のアドバイスから、ループ配電系統から現状配電系統の電圧上昇抑制へと目標を変更するとのことである。今後は、新たな目標に沿った今後の研究次第である。新目標に沿って成果を挙げていくことが望まれる。
新規結晶欠陥抑制手法によるSiC接合障壁ショットキーダイオードの開発 名古屋工業大学
加藤正史
名古屋工業大学
岩間紀男
本研究開発で我々は新規手法である陽極酸化欠陥抑制法(PDA法)を用い、SiC表面の欠陥のショットキー障壁に及ぼす影響を抑制することで、高性能なSiC接合障壁ショットキー(JBS)ダイオードの開発を試みた。n型4H-SiCエピ膜を基にしたJBSダイオードを作製し逆方向電流を測定し、その後同じ試料に対しPDA法を適用した上で、再度JBSダイオードを作製し逆方向電流を測定することでPDA法適用前後の特性を比較した。その結果、PDA法適用前のJBSダイオードの逆方向電流が比較的大きかったこともあり、目標値には到達しなかったもののPDA法の適用により逆方向電流が低減できたことが確認された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に陽極酸化欠陥抑制法(PDA法)を用いてSiC接合障壁ショットキーダイオード(JBS)作製プロセスの開発に成功している。点は評価できる。また、技術移転の観点からは、今後のフォローアップ活動、課題解決、PDA法に関する特許出願等が予定されており、企業との技術移転についても、情報提供が行われて、十分な活動がされている。今後、高速、低損失の大電力整流素子としてSiCショットキーダイオードは期待されており、本研究成果が素子製造プロセスの低コスト化に寄与することが期待される。
準剛体回転流を用いた微粉体の高精度三産物・四産物分級機の開発 名古屋工業大学
土田陽一
名古屋工業大学
岩間紀男
本研究は、サブミクロン域に至る広い粒度分布をもつ微粉体を、粒度の揃った複数の微粉体(産物)に高精度で分ける湿式遠心分級方式の実用化を目指す。本方式は、乱れが全くない理想的分級場である層流の準剛体回転流中で、粒子に作用する遠心力と流体抗力の、粒度による差を利用して分級するため、従来の遠心分級方式よりも精度が優れる。本方式は少処理量向きであるが、従来方式では実施例が少ない効率的な多産物分級方式を開発することを目標として、三産物分級性能の実証と四産物分級機への拡張に取り組んだ。その結果、前者では粒子軌道が数値結果と相違したため実証できなかったが、改善策を明らかにした。後者では数値解析により高性能が得られる分級機形状を明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、目標の一つである三産物分級機の実証実験は、分級性能の点である程度は達成されたこと、および第二の目標である四産物分級機への拡張に関してもある程度は達成されたことは評価できる。一方、高精度微粉体分級を数式モデルを使った数値解析シミュレーションで予測しモデルの妥当性実証を試みたが、試作設計装置でのデータでは、目標性能数値解析と実際の性能データの一致が確認できていないので、さらなる改善が必要と思われる。今後は、研究開発の基本数式モデル応用の妥当性を再度検証し、タテ型、ヨコ型の選択や流入口形状設計の課題等の解決に進むことが望まれる。
柔軟リブレットによる流動抵抗低減技術の開発 名古屋工業大学
玉野真司
名古屋工業大学
岩間紀男
本研究課題は、毛の性状ならびに微細構造を容易に変化させることが可能な静電植毛技術を活用して、複数波長の微細溝を有する柔軟な植毛リブレットを創成し、高機能なDR(流動抵抗低減)表面を開発することを研究目的としている。本研究で開発した金属製のマスキングシートを用いた柔軟リブレットの創成方法では、植毛リブの断面形状が理想的なものとならなかったため、従来よりも高いDR効果の柔軟リブレットを開発するには至らなかった。しかしながら、低流量時の測定精度向上を目的とした実験装置の改修、ならびにフィルムシートを用いた新しい柔軟リブレットの創成方法を考案することができた。
当初目標とした成果が得られていない。中でも静電植毛をいかにやり遂げるかがテーマのポイントである。もっと原理に立ち返って、基礎を先に固める必要がある。バイオミメティックなものとして、ハスの葉の表面繊維の機能などに注目したものは従来からあり、DR効果にだけ注目しているが、他の方法についてもっと検討することが望まれる。
TEM内疲労試験その場観察を目的としたMEMS微小共振デバイスの開発 名古屋工業大学
泉隼人
名古屋工業大学
山本豊
代表的なMEMS構造材であるシリコンの疲労挙動およびメカニズムを明らかにするため、透過電子顕微鏡内で疲労試験可能な微小MEMS共振デバイスの開発を目指した。それを実現する試験デバイスの機械・共振特性を有限要素法解析により確認した。これに基づいてデバイス設計を行い、実際にマイクロマシニングにより作製した。TEM内でデバイスの駆動制御および性能評価するため、ピエゾアクチュエータと荷重評価用ロードセルを実装できるTEM試料ホルダとデバイスドライバの開発を併せて行った。今後、TEM内で疲労試験を実施し、疲労サイクル中のダイナミックな挙動の高分解能観察および疲労メカニズムを解明する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、試験デバイスの試作や有限要素法を用いての機械・電気的特性の確認は行われたことは評価できる。一方、基礎的な特性評価やTEM内での疲労試験の実現には至ってはいない。また、デバイスの製作技術には深掘り加工をするための最適条件の設定など解決されるべき課題が残る状況であり、さらなる研究の進展が必要である。今後は、本研究の主題であった疲労試験の可能性、その場観察の可能性についての指針を明らかにして、研究を進めることが望まれる。
強磁性体-強誘電体多層積層体の作製によるチューナブルインピーダンス素子の研究開発 名古屋工業大学
籠宮功
名古屋工業大学
山本豊
本研究では、強磁性体(CoFe2O4)と強誘電体(BaTiO3)の複合積層体セラミックスを作製し、静磁場印加によって誘電率の共振周波数を効率的に変化させることのできる積層体の作製条件、電気分極処理方向、磁場印加方向を検討した。本研究成果を踏まえ、今後本研究で取り上げた積層体の小型化が可能か検討し、目的に応じて磁場・電場両外場に容易にチューニング可能な新規チューナブルインピーダンス素子へ応用する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。研究では、目的は達成されなかったが、積層数や、分極方向と磁化方向の組み合わせを変化させて実験を行って、問題点を明らかにしている。一方、研究の成果に対して、企業が興味を示して、共同研究を希望しているとのことであるので、大学と企業で共同研究を続けることが望ましい。今後は、残された問題点を解決して、性能向上を図り、実用化が促進されることを期待する。
微小部分への対応が可能な新規ひずみセンシング材料の開発 名古屋市工業研究所
林英樹
名古屋市工業研究所
大岡千洋
顕微ラマン法によるひずみの検出は、空間分解能に優れているため、この方法により微小部分への対応が容易となると考えられる。そこで、ラマン活性な三重結合を主鎖に持つ新規ポリウレタンの合成を行った。得られたポリマーは塗布が可能な材料であったため、ひずみを検出したい基板に塗布して、種々の力でひずみを加えた状態でのラマンスペクトルを測定し、アセチレン由来のピークの位置の変化を調べた。その結果、アセチレン由来ピークの低波数側への移動が観測された。そこで、感度を調べたところ、-2cm-1/1%ひずみであった。従来はプレポリマーを塗布した後に加熱する必要があったが、本研究で合成した材料には加熱の必要がなくなった。今後は、更なる精度と感度の向上をすすめていきたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、微小部分への対応が可能なひずみセンサー材料の開発であり、材料の設計、合成、特性評価を実施しており、概ね初期の目標を達成していることは評価できる。当該材料を塗布して測定されたひずみの感度は、ラマンスペクトルで-2cm-1/1%であり、センサーとしての一定の感度を得ている。一方、技術移転の観点からは、感度は、加熱型センター材料の30%程度であり、実用化のためには、感度や精度を改善することが望まれる。また、当該材料は塗布型である特長を有しているが、塗布方法や被検体の形状による感度・精度の関連を詳細に検討することも必要であると思われる。今後は、連携企業との実証試験などにより、企業化に際しての課題を特定して、実用化に向けた研究に進むことが期待される。
高感度せん断力測定法を応用した固液界面のナノレオロジー計測装置の開発 名古屋大学
伊藤伸太郎
名古屋大学
安田匡一郎
固液界面における液体分子は、固体表面との分子間相互作用によって、特有の分子運動性や力学特性を示すことが知られており、その現象解明がナノデバイス、バイオ材料などの開発に重要である。申請者はこれまで、力感度0.1nNのせん断力測定法を確立し、固体基板上の液体分子膜のレオロジー計測に成功した。ただし、装置の光学調整の難易度が高く、測定精度の再現性に問題があった。本研究では、誰にでも最適な光学調整が短時間かつ再現よく実現でき、従来と同様の高感度測定が可能となるよう、新規な変位測定法の確立を目的とした。本研究で提案した手法により、より容易な手順により従来と同程度の測定感度と高い再現性を達成した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、従来とは異なる、新規で卓越したプローブ、光学系、計測系を用いて、測定誤差やSN比の向上が検討され、本装置の信頼性向上を高めていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、pmからnmまでの微小な長さを取り扱うので、実験条件に及ぼす温度の影響を検討する必要があるため、異なった温度環境で行ったデータの提示が望まれる。今後は、具体的なニーズのある企業との共同研究で、用途を特定した集中的な研究開発により、実用化に進むことが期待される。
大気圧下・水中でのナノスケールプラズマによる高精度加工技術の開発 名古屋大学
山西陽子
名古屋大学
安田匡一郎
本課題では、大気中・水中での微細なプラズマ技術を利用し、薄膜等を加工できる、新規且つ安価でコンパクトな微細加工装置の開発を目標に研究開発を行った。特許申請済みの特異な電極構造により水中放電時に一列にサイズの揃ったマイクロナノスケール気泡列が発生する現象を発見し、その気泡の圧壊時に数μm程度の解像度を持つ低侵襲・高解像度加工技術を確立した。また誘電体バリア放電により大気圧・水中下で安定にプラズマ気泡を発生させることにも成功した。今後は高解像度加工を目標に電極の微細化を行い、気泡数やサイズで加工深度を制御し幅広いダイナミックレンジでの加工を可能とする新しい大気中・水中での安価な微細加工技術を完成させる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、nmオーダの低温プラズマ気泡の発生が確認され、目標には未達であるが、μmレベルでの加工精度達成とダイナミックレンジを達成していることは、評価できる。また成果に関し特許申請1件は評価でき、論文発表も始まった。一方、技術移転の観点からは、電源部の開発で企業との連携した研究に進むなど着実な進展とともに、バイオメディカル、機能性材料創成などの幅広い分野への適応も望まれる。今後は、広い範囲で有効に社会還元ができる技術と推察されるので、種々な分野への応用展開とともに、着実な進展が期待される。
狭線幅広帯域高速波長可変光源を用いたリアルタイム超高分解能OCTの開発 名古屋大学
西澤典彦
名古屋大学
押谷克己
本研究課題では、超短パルスファイバレーザーと非線形ファイバを用いて、広帯域に超高速に波長をシフトできる狭線幅な新しいレーザー光源を開発し、それを用いて、umの分解能で高速・高感度にサンプルの断層情報を非破壊で計測できる、リアルタイム超高分解能光断層計測システムの開発を目標に研究を行った。EO変調器を用いて波長を高速にシフトできる波長可変ソリトンを、櫛状分布ファイバを用いてスペクトルを圧縮し、広帯域に波長をシフトできる狭線幅光源を開発した。更に、開発した光源を用いて光断層計測のベースとなる、超高速分光計測システムを開発し、10usでスペクトルを計測できるシステムを構築した。今後、光断層計測システムの高感度化を進めて行く。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも広帯域波長可変狭線幅光源に関する目標は概ね達成した点は評価できる。一方、新規性のある方法であるが、光源、あるいはイメージングとして本方式が適当であるかどうかの見極めも必要である。今後は、広帯域波長可変狭線幅光源の性能改善を応用的な視点で進めていることで、実用化に進んでいくことが、期待される。
共鳴領域中性子イメージング手法の開発 名古屋大学
富田英生
名古屋大学
押谷克己
先進ガン治療法であるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)への適用を念頭に、BNCTで用いられる熱外中性子ビーム断面の2次元形状・強度を共鳴吸収フィルタとガス電子増幅器を用いて測定する手法の開発を行った。熱外中性子の共鳴吸収と競合する熱中性子吸収を抑える熱中性子遮蔽の最適化と信号読み取り回路系の構築を行い、プロトタイプ装置で得られる空間分解能をパルス熱外中性子ビームを用いて実験的に評価した。これをもとに共鳴フィルタの設計検討を行い、BNCT熱外中性子ビーム照射場に対し、熱外中性子を空間分解能5 mmで測定可能であること示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標の「熱外中性子を空間分解能5 mmで測定する」を達成している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許を申請することと、産業用非破壊分析への応用展開に必要な中性子源等の開発が望まれる。今後は、連携企業を見つけ、開発・試作・試験を進め、システムの安定動作等については、企業の開発力が期待できる。
静電駆動小型アクチュエータを用いた流体摩擦力計測技術の確立 名古屋大学
寺島修
名古屋大学
押谷克己
静電駆動小型アクチュエータ(受感部寸法:100μm×100μm)を用いた流体摩擦力計測を行った。センサは可動部電極・固定部電極・ばねで構成されており、受感部はフローティングエレメントとなっている。さらに、可動部と固定部は櫛歯型構造を有するコンデンサとなっており、流体摩擦力による受感部の変位はこのコンデンサの静電容量の変化により検出された。流体摩擦力発生環境下でセンサの性能評価を行った結果、理論解に倣い、流体摩擦力の大きさに線形比例した出力が得られた。これより、静電駆動型小型アクチュエータによる流体摩擦力計測の可能性が見出された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、航空機等の移動体や流体関連機器の物体表面摩擦力のセンサとして、当該分野の研究開発のみならず、実機の制御用センサとして利用できる可能性を有する技術の開発であり、実現されれば社会に還元する技術となると期待できる。今回の採択内容に関しては、概ね当初目標を達成するとともに、プロトタイプを製作し、その性能評価も行っている。従って、技術移転を議論する際の基礎データが概ね収集されており、技術移転につながる可能性が高まったと評価できる。また、当初目標のうち空間分解能は目標より一桁高く優れている。一方、技術移転の観点からは、温度依存性の調査温度範囲が狭く、より広い温度範囲での検証が望まれる。今後は、当該センサの適用範囲や市場規模の検討が明確になされ、産学共同等の研究開発ステップにつながることが期待される。
液体を内臓する回転機械の自励振動の制振装置の開発 名古屋大学
石田幸男
名古屋大学
押谷克己
遠心分離機の基本形態を模擬した実験装置として、弾性軸の中央に空洞をもつ円板をとりつけた回転軸系を作成し、流体として水を100cc入れ、実験によって、不安定振動の発生状態を調べた。 その結果、実験装置の主危険速度は約560rpmであり、その高速側の約650rpmから780rpmの範囲で不安定領域が発生することを確認した。これに対応するモデルに対して、Wolfの理論を用いて固有値解析を行い、(主危険速度に対して相対的に)対応する回転速度範囲で固有値が複素数となり、不安定領域が存在することを確認した。制振装置については、軸に軸受を介して円板を取り付け、その両面をサンドイッチ状に板で挟み、その間にグリスを入れ、その粘性で制振する装置を製作中である。5ヶ月の研究期間では実験に間に合わなかったが、今後その実験を行う計画である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも 、制振装置を製作するための基本特性を実験的に把握し、理論的な固有値解析で、不安定領域が存在することを確認したことは、評価できる。一方、申請時において複数の制振方法を検討する予定であったが、粘性液体を用いた手法の試作にとどまっており、本研究のコアとなる制震部分の実験の完遂が必要でと思われる。今後は、回転機械の高度化を目指す際に非常に重要な技術であると考えられるので、実質的に研究を進め研究の達成度が上がることが望まれる。
低コスト・高効率実現のための色素増感太陽電池へのメッシュ正極タンデム構造の導入と擬固体化 名古屋大学
森竜雄
名古屋大学
押谷克己
有機色素の吸収は半導体材料よりも狭いので、高効率化には複数の有機色素の利用が必須である。そのためにはタンデム構造が重要である。本提案では色素増感太陽電池において簡便に並列タンデム構造を実現するメッシュ正極を利用する。ただし、これまでは従来正極にはPtを利用していたが低コスト化のために新規メッシュ電極を開発する。また、擬固体化電解質の導入は作成プロセスの簡便化につながる。これらの開発は新規色素の開発を素子構造として支えることができる技術である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもメッキ法を利用したナノメッシュ電極により変換効率を増大させることができた点は評価できる。一方カーボン、プラスチックメッシュ、セルの大型化、電解質の擬固体化については期待した成果はえられておらず、技術移転につなげるにはまだ多くの課題があると考えられる。今回の開発中のトラブルは、電解質の光透過性が思いのほか悪かった点に原因があると考えられるので、できるだけ透明な材料を電解質に選定し、しかも出来上がりの厚さを可能な限り薄くすることが重要と思われる。今後のこの問題の解決を期待したい。
半導体集積回路上での局所インピーダンス計測を用いた細菌検査装置の開発 名古屋大学
中里和郎
名古屋大学
押谷克己
本研究の目的は、半導体チップ上で高周波(1-10MHz)、局所領域(1μm-0.1μm)のインピーダンスを計測することにより、複数種類の細菌もしくはウィルスを1個ずつカウントする細菌検査装置を開発することにある。1個の細菌を捕獲するセルあたり1つのセンサ回路を設けることにより、電極の寄生容量を3桁以上低減し、個々の細菌が検出できるようにする。このための高密度・低消費電力のインピーダンス・センサアレイ集積回路を設計・試作し、基本動作を得た。スタンドアローン・プロトタイプ機としてエレクトロニクス部の設計・試作を行い20cmx20cmx20cm内に収まる見通しを得た。今後、半導体チップとフローセル流路とを一体化することにより、少量のサンプル採取・搬送の完全自動化を行う。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。スタンドアローン検査装置のプロトタイプ実証は今後の展開に重要な成果である。一方、技術移転の観点からは、企業と官との連携により、実用化に向けたステップが進行しつつある。これら取り組みの中で知財に関しても積極的な取り組みが望まれる。今後は、今後医療関係者との連携を進め現場の声を開発に導入することで更なる発展が期待される。
下肢麻痺患者の歩行を補助する装着型ロボットの転倒予防システムの開発 名古屋大学
宇野洋二
名古屋大学
押谷克己
下肢麻痺患者用の装着型歩行補助ロボットの転倒予防を目標として、センサ・制御系の開発を行った。歩行器に3軸角度センサと加速度センサを搭載するとともに、補助ロボットの足底に小型力覚センサを挟み込み、転倒予防の機構を組み込んだ。次に、段差面に対して歩行器のセンサ情報と足底圧情報に基づいてその高さを推定し、安定な昇段歩行のパターンを生成する制御法を開発した。また、歩行補助ロボットのつまずきに対して、身体バランスを回復するセンサ制御系を開発した。健常者に本システムを装着させて歩行実験を行った結果、足底の圧力情報に従って遊脚の動作パターンが選択されて、転倒することなくスムーズな歩行が継続できることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、研究計画通りに、歩行を補助する装着型ロボットが構築され、健常者を対象にではあるが実証試験まで実施され、段差乗り越えに対して十分な研究成果が得られていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、多くのセンサの設置、軽量化の問題、コスト低減の問題等解決するべき課題は多く残されており、これらの解決により実用化に進むことが望まれる。今後は、不整地や階段で歩行可能になるように開発を進めるとともに、患者の方を対象に実証試験を実施するとともに、産学共同を実施するメーカとともにコスト低減を図り、実用化されることが、期待される。
独自の気相濾過・転写法に基づく高性能カーボンナノチューブTFTのばらつき抑制 名古屋大学
大野雄高
名古屋大学
虎澤研示
カーボンナノチューブ薄膜トランジスタ(CNT TFT)は高い移動度と化学的安定性、柔軟性を併せ持ち、フレキシブルエレクトロニクス応用が期待されている。一方で、実用化に向けては素子特性の均一性の確保が最重要課題である。本研究では、プラスチック基板上に高移動度のCNT TFTを高速かつ簡単に実現できる独自の気相濾過・転写法を発展させ、高純度半導体CNTの高均一薄膜を実現する液相濾過・転写法を新たに確立した。その結果、オン電流としきい値のばらつきの小さいCNT TFTを得ることに成功した。今後は、分散剤除去技術や安定化技術などの材料・素子技術に加え、大面積化技術やロール・ツー・ロールプロセス適応化技術などのプロセス技術を開発し、ディスプレイなどへの応用展開を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に気相濾過・転写法に代わり、液相濾過・転写法で高均一薄膜を得る手法を確立した。この手法により、オン電流のばらつき50%以内、しきい値のばらつき±0.5V以内を達成している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けて、信頼性や安定性の確保が課題となっているが、これを含めて、企業との共同研究を開始予定となっている。今後は、フレキシブルデバイス分野に使用される高い移動度を持つTFTとして有望な技術であると考える。技術のプライオリティを確保するためにも出願を検討し、また今後企業との共同研究を進め、実用化の促進が期待される。
繊維状ナノ金属の電界放出材料への応用 名古屋大学
梶田信
名古屋大学
渡邊真由美
タングステン、チタン、鉄、ニッケル、ステンレスへのヘリウムプラズマ照射を実施した。その結果、様々な金属において、繊維状のナノ構造金属ができることが明らかになった。さらに、温度やイオンエネルギーを変化させると、ナノコーンができることが明らかになった。これらのナノ構造体はナノバブルを構造中に含んでいることが透過型電子顕微鏡での観察結果から明らかになった。タングステンナノ構造体からの電界電子放出電流を計測した。Turn on電圧は約15V/μmであり、プラズマ照射により減少したものの、タングステンナノピラーや、CNTと比べると一桁高い値であった。また、電界集中係数は200程度であり、ナノ構造形成による増加はそれほど著しいものではなかった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも種々の金属に対してナノ構造が作製された点とナノコーンという特異な構造が得られた点は評価できる。一方、実際はこの材料の電界放射性能は低く、他の多くの課題があると思われるので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、他の目標の達成と、当初想定されていなかったナノコーンが作製される条件が見つかったことから別の研究課題としての検討が期待される。
電界放出型超高輝度・高スピン偏極電子源の開発 名古屋大学
金秀光
名古屋大学
野崎彰子
我々の研究グループでは、輝度が1.3×10^7 A・cm^2・sr^-1(従来の10000倍)、スピン偏極度が90%(従来の3倍)のフォトカソード(電子源)の開発に成功している。これを用いたスピン偏極低エネルギー電子顕微鏡では、0.02sの撮像時間で明瞭なコントラストが得られ、従来の5-30sの撮像時間より1/1000ほど速いことになった。
優れた実績により、我々のフォトカソードの商品化が進んでいる。しかし、今の電子源では装置のサイズが大きい問題点がある。申請者は新しい電界放出型スピン偏極電子源を提案し、装置の小型化を実現し、その普及を目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも電界放出型フォトカソードの作製において、均一で、高密度なナノレベルの作製に成功した点は評価できる。一方、小さい高密度なパターンを型として用い、その穴にナノワイヤーの成長させることができれば大電流の電子銃としての応用が見込まれる。今後は、特許出願の検討とともに、課題を解決するための詳細な検討をして、研究を進められることが望まれる。
イオンビームを利用した燃料電池用イオン交換高分子電解質膜表面のプロトン伝導機構改良および評価技術の開発 名城大学
土屋文
名城大学
福田雄一
プロトンビームによるホットアトム反応法を利用したナノ領域における膜構造およびプロトン伝導機構の改良を試みた。イオン交換高分子膜にプロトンビームを約1015~17H+ions/m2の低照射量で照射することにより、約1μm以下の高分子表面のみに電荷を帯びた新しい水素イオン交換基であるラジカルを形成させ、プロトン伝導度を約3桁まで増加させることに成功した。また、紫外・可視分光器およびヘリウムイオンビームを用いた反跳粒子検出法によって、フルオロカーボンラジカルやペロキシーラジカルおよびC=Oグループの不飽和結合等の親水性のラジカル欠陥種の判別および高分子表面上の水素濃度の増加を確認し、プロトン伝導特性の向上について明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目的であったプロトン伝導度の3桁の増加にMeVイオンを用いて成功している。一方、技術移転の観点からは、機械的特性についても研究を予定しており、実用化にむけて進展しており、燃料電池の性能向上に大きく貢献できると思われる。今後は、実用化に重要な膜の機械的特性等の評価が必要である。
大口径・高結晶品質・自立AlN単結晶基板 名城大学
岩谷素顕
名城大学
松吉恭裕
本研究開発では、大口径・高結晶品質・自立AlN単結晶基板の作製を目的として研究を進めている。これまでの検討で、厚膜化するとクラックが発生する問題が明らかになり、その問題点を解決するために、溝基板の検討を行った。その結果として、溝基板を用いることによってクラックの抑制が可能であることが分かった。また、複数回成長による厚膜化の検討を進めたが、SiCから分解された炭素の混入が確認され、今後の課題が残され、今後解決をめざし検討を進める予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、厚膜化に向けて、溝構造基板の使用が有効であることを見い出すなどの結果は、評価できる。一方、本件研究提案では、AlN自立基板の大口径化・厚膜化を目指しているが、その目標は達成されていない。大口径化について、基板内の温度分布の低減が必要であるなど、次のステップへ進めるための技術的課題が明確になっているので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、元来可能性の高い技術であると考えられ、成果が得られた際には、大きく社会還元があるものと期待されるので、今回の目標の達成が望まれる。
グラフェンを用いた電気自動車用配線材料の作製方法の開発 名城大学
成塚重弥
名城大学
福田雄一
本研究課題では、グラフェン線材を作製するため、グラフェンの成長技術、パターン化技術に関して研究を進めた。金属触媒のパターン化技術の改善、パターン化した金属触媒を用いたグラフェンのCVD成長の最適化等をおこなった結果、初期的な段階ではあるが、20μm幅、触媒厚さ0.3μmのグラフェン+Ni触媒線材に対し、100mAのオーダーでの導電試験に成功した。今後、これらの研究成果を活用し、グラフェンの優れた導電特性を利用した電気自動車用配線材料の実用化を目指す。更にトランス、モーターコイル等への応用が実現すれば、性能向上と小型・省エネ・省資源化が期待される。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に成長技術、パターン化技術に関しては概ね目標を達している。また、伝導特性も100mAオーダーの導通試験に成功している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは実用化を意識した研究開発計画があり、本研究成果はトランス、モーターコイル等の性能向上と小型・省エネ・省資源化が期待される。次のステップは、多層化と導電特性の向上と目標が明確に示されているので、伝導特性の系統的な評価や、形状の最適化を進めることが望まれる。
フレキシブルシート型蓄電池の変形に対する安全性評価手法の開発 三重県工業研究所
増田峰知
三重県工業研究所
松田泰介
近年、全固体ポリマーリチウム二次電池など、従来にない安全性、薄型、柔軟性などの特徴を持つ新しいコンセプトの蓄電池が発表されている。これらは、柔らかく曲がる特長を活かして、形状自由度が高い新しい電源として活用が期待される。しかし、これらの電池が、例えば、積極的な曲げ加工や部材と一体となったプレス成形など、様々なニーズに応えていくためには、既存のリチウム電池規格(JIS C 8712~4等)だけでは評価しきれない安全性・特性の確認が必要である。そこで、本研究では、変形利用を前提としたフレキシブル電池を評価する方法として、曲げ変形と圧縮変形について、適切な評価基準を探索するため、実験によりその特徴を明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、シート型電池の「耐曲げ性」「成型時安定性」の評価法確認という目標設定に関しては試験法の変更はあるものの成果を得られたことは評価できる。特許申請はないが重要な評価手法であり今後出願に対する意欲が望まれる。一方、技術移転の観点からは、「妥当性の高い電池変形試験方法の提案を目指す」となっているものの、普遍性のある曲げ評価試験法の提案には至っていないと思われるので、さらなる検討が望まれる。今後は、実施中のA-Step シーズ育成型研究を推進する中で有効に利用されることによって、技術移転が進むことが期待される。
ボイド形成・歪制御法を用いたHVPE法による高品質AlN単結晶基板の実用化 三重大学
平松和政
三重大学
伊藤幸生
本研究では、HVPE法により100μm厚以上のクラックフリーAlN単結晶の厚膜を実現することを目指す。AlN/a面サファイアの面内関係制御とa面サファイア上への厚膜AlN成長に関する検討を行うことによって、当初の目標である、a面サファイア上に厚膜の高品質c面AlNを得ることに成功した。しかし、膜厚は20μmであるため、目標である100μmの高品質厚膜AlNを得るための結晶成長条件について課題を解決する必要がある。この課題を解決すれば、このような高品質AlNを用いることで、AlGaN発光層を用いた紫外線発光デバイス用基板としての実用化が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初目標の 80 %が達成されており、技術移転につながる成果と見なすことができる。膜厚100ミクロンの達成に向けて、成長速度や温度の制御によって、達成は可能と思われる。a面サファイア基板上に、溝構造をサファイア基板のm軸方向に作製することで、クラックフリーの高品質AlN 厚膜の作製に成功している点は評価に値する。一方、今後当初目標が達成されれば、技術移転の具体化は進む可能性が高い。今後は、成長時間、温度の制御などによって、目標の達成と、実用化への進展が期待される。
バイナリ型回折凹レンズのレンズアレイ化によるLED平面光源の開発 三重大学
元垣内敦司
三重大学
伊藤幸生
本研究は、バイナリ型回折凹レンズの配光制御に関する問題点を解決し、LED照明用配光制御レンズ素子の実用化を目指すものである。実用化に必要な研究開発目標のうち平成24年度は、当初23年度の研究成果を踏まえ、レンズを複数個並べたレンズアレイ化を行う予定であったが、レンズ1個での性能を更に引き出すために、平成23年度に作製した構造変調型バイナリ型回折凹レンズの中心部に第2レンズ構造を組み込んだレンズを作製し、0次回折光の更なる抑制と大面積での光の広がりが実現できるようになった。今後は、小型な光学系を必要とする照明器具や植物工場などの大面積での配光制御が必要な照明機器への応用を検討することと、このようなレンズをナノインプリントや射出整形で作製するための金型作製技術などの確立などが必要になると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にバイナリ型回折レンズの問題点を解決し、LED照明用配光制御素子の実用化のための検討が完了している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、技術的課題が把握され、今後の研究開発計画が明確に示されている。企業との共同研究も並行して進められ、複数の企業とLED照明器具への応用に取り組んでおり、実用化が期待される。今後は、明確になった技術的課題を解決に向けて研究が促進されることを期待する。
ナノスケール表面スピン分析のための電界放出型スピン偏極電子源の開発 三重大学
永井滋一
三重大学
横森万
ナノスケール表面スピン分析を目的に、W(001)面上にCr薄膜を堆積させた陰極の偏極度評価を行った。これまでに測定したバルクのCr陰極は、温度上昇と共に偏極度が低下したが、今回作製した薄膜陰極では、室温でスピン偏極電子線を得ることが出来た。その偏極度の値は、30~40%であり、成膜法を最適化することでさらに高い偏極度が期待される。偏極度の変動率は平均値の7.4%であり、極めて安定であった。しかしながら、10^-8Pa台の真空度で表面状態は時々刻々と変化し、寿命は2時間弱であった。表面への残留ガス吸着による過電流が寿命を制限しており、電界脱離処理を施す事により表面状態を復元することで長寿命化が期待される。今後、分析機器への搭載を視野に入れ、より高偏極度・長寿命な偏極電子源へと改良を施す予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本装置が市販の電子顕微鏡および分析器の電子源と互換を可能にした点は評価できる。一方、目標は未達ながら技術移転につながる成果は得られている。表面への残留ガス吸着による過電流が寿命を制限しており、電界脱離処理を施すことが重要など、課題は明確になっている。今後は、課題の解決を促進し得て、実用化に進むことが望まれる。
Si基板上への窒化物半導体のエピタキシャル成長における界面歪み制御技術の開発 三重大学
三宅秀人
三重大学
横森万
次世代パワーデバイスとして注目されているSiを基板に用いたGaN成長における界面歪み制御技術の開発を行った。Si基板とGaNとの間で生じるメルトバックエッチングを防ぎ、格子定数差と熱膨張係数差により生じる格子歪みを緩和するため、3C-SiCを表面に形成したSi基板を用いた。AlNバッファ層とAlN中間層の成長条件最適化によりクラックを低減し、転位密度を低減した。GaN成長時の表面からの反射光強度と基板の反りのその場観察を行うことで、結晶成長モードを把握し、精密な基板の反り制御を可能とする技術開発行った。AlN中間層を多段で挿入する効果を透過電子顕微鏡による観察により明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、超格子ならびに中間層を挿入した3C-SiC/Si基板上に、大面積のクラックフリーのGaNエピタキシャル層を得たことは大きな成果である。また、大面積クラックフリー基板の実現は企業化にとって非常に重要な視点で、それを実現したことは大きな成果である。今後、残留歪や欠陥密度などの評価と、デバイス作製プロセスに応用した場合の状況は、実証試験が必要である。
次世代高機能型アルミ電解コンデンサ向け新規アミジン化合物の開発 三重大学
清水真
三重大学
横森万
アルミ電解コンデンサの用途は幅広く、省エネ、高機能化に向けて研究開発が行われている。特にパワエレ分野のインバータでは、高耐電圧、高耐久性、小型化が求められている。アルミ電解コンデンサの重要な構成要素は電解質であり、構成は1)水溶媒、水/有機溶媒または有機溶媒などの溶媒、2)二塩基酸などの酸、3)中和塩基、各種アミン、添加剤各種が挙げられる。中でも二塩基酸および中和塩基の性質でコンデンサ特性が大きく変わり、最近では中和塩基「アミジン化合物」が高性能化へのポイントとなりつつある。本研究では、選択的有機変換反応を活用して多様な新規アミジン類を創成し、次世代高機能型アルミ電解コンデンサ開発を目指した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、アミジン化合物の熱劣化過程が明らかとなり、この知見をもとに新規アミジン化合物の合成も進んだことは評価できる。一方、全体としてアミンの作製まででと止まっており、評価にまでいたっていないため、さらなるデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は共同研究先企業との連携により、性能評価試験に進むことが、望まれる。
曲げた光ファイバを利用した光バイオ・ケミカルセンサの開発 三重大学
末原憲一郎
三重大学
加藤貴也
曲げた光ファイバを用いて屈折率変化を検出するセンサを開発した。試作信号処理回路の発振回路の見直しを行い、製品化に障害となっていた調整点の多さ(既存回路上に7点)を4点削減できることを明らかにした。また、光ファイバの曲げ方(曲半径)とファイバを通過する光の量から先端部の光の漏れる量を測定し、センサ先端部の加工方法に関する基礎的な知見を得ることができた。試作機により屈折率の違いが検出できたことから、バイオセンサ・ケミカルセンサの基礎となる屈折率センサの開発が見込まれる。また、調整点削減によりプロトタイプあるいはその前段階のセンサ回路開発への道が開かれた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも曲げた光ファイバをセンサーとする独創的な発想に基づき、本申請の課題の一つである回路部の調整点を3ないし4点まで削減することに成功した点は、評価できる。一方、出力電圧0.1~0.01Vのレンジでの安定性は現段階では到達できていない。実用化に向けた技術移転に繋げるためには、測定回路の安定化など、まだまだ実施できる改善点は沢山有り、それらを速やかに改善し、センサーとしての安定性を確保することが必要と思われる。今後は、具体的に何を分析するバイオ・ケミカルセンサーであるか、分析対象を明確にし、開発の方向性を決めた上で、改善・改良が実施されることが望まれる。
弾性ロッドの共振実験による超高層建造物の破壊的な揺れの研究 三重大学
牧原義一
三重大学
梅村時博
任意の強制振動数に対する弾性ロッドの振動状態を計測・解析するために、加振装置、高速ビデオカメラおよび画像処理システムから構成される振動計測実験システムを作製した。本装置を用いた実験により、ロッドの固有角振動数付近でロッドの振幅が急激に増大し、ロッド先端の軌道が直線的なプラナー軌道から周期的な楕円軌道および円軌道へと変化することを初めて明らかにした。さらに、楕円軌道が閉じずに規則的にその形や向きが変化する「準周期軌道」も観測され、そのストロボプロットが閉じた曲線を示すことが分かった。しかし、これまでの実験ではカオス軌道は観測されなかった。一方、シミュレーションでは、プラナー軌道および楕円軌道は観測できたが、周期的な楕円軌道や準周期軌道を観測することはできなかった。これは、弾性ロッドの復元力の項に起因するものと考えられる。今後、リアプノフ指数の計算方法の開発も含めて、実験およびシミュレーションの内容を改良してゆく予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の予想とは異なる結果が得られているが、実験およびシミュレーションにより弾性ロッド先端の軌道を解析するという目標は達成されていることは評価できる。また、ロッド先端の軌道が直線的なプラナー軌道から周期的な楕円軌道および円軌道へと変化することの実証や、規則的に楕円軌道の形や向きが変化する準周期軌道の観測など、重要な研究成果が得られている。一方、技術移転の観点からは、今回目標としたカオス振動が発現する条件を明らかにするとともに、弾性ロッドの長周期振動の特徴を明らかにしてゆくことが望まれる。今後は、企業との連携も実現いているので、電力や原子力設備の耐震解析、強度向上などの具体的な研究開発で成果を上げることが期待される。
自動車部品焼入部材硬化層深さの定量化技術に関する研究 滋賀県工業技術総合センター
井上栄一
滋賀県工業技術総合センター
木村昌彦
硬化層深さ1.07mm、1.60mmおよび2.28mmの試験片表面近傍の超音波応答信号波形を全没水浸式射角法で計測した。そして、全離散振幅データを特徴項目として使用し、判別に関してはMTシステムのRT法[T法(3)]を、また定量化に関しては同T法(1)を適用して検討したところ、単位空間データとした1.60mmの硬化層と1.07mmと2.28mmの判定については、距離4を閾値として判別できる可能性を確認できた。また、硬化層深さの定量化に関しては、得られた総合推定式により0.5mm範囲内での定量化の当初目標に対して、6σの場合で、硬化層深さ1.07mmで0.125mm、同1.60mmは、0.099mm、そして同2.28mmの場合は、0.046mm内で定量化できる可能性を確認できた。今後は産学官での共同研究を実施し、残された課題を解決することで、まずはオフライン検査での実用化を図る。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。高周波焼入処理を施した試験体の有効硬化層深さを全没水浸式射角法の超音波応答信号波形を利用し、得られた波形信号全体のデータからMTシステムによるパターン認識技術を適用して、良品判定と硬化層深さの定量化の実現するものであり、既知の試料を用いて予測できたという点については評価できる。一方で、汎用性を見出すには異なる焼入れ深さの判別や深さの定量化等に発展する必要があるが、それには、焼入れ組織構造と応答信号との関連性や超音波周波数依存性など物理的影響因子などに関するさらなる研究が必要である。今後は、産業界のニーズ、マーケットを把握、絞り込んだ上での、技術移転をめざした研究の発展が望まれる。
籾殻活性炭を用いたサステナブル建築資材用断熱ボードの研究開発 滋賀県立大学
菊地憲次
滋賀県立大学
安田昌司
「カーボンニュートラルな材料を用いた持続可能社会の構築」を目指す上で、水稲(米)の副産物である籾殻の有効利用は、二酸化炭素の固定化技術のみならず農政的視点においても重要な課題である。本年度は「細孔制御を行った籾殻活性炭を建築資材用高機能ボード」の事業化を目指した研究開発を実施した。籾殻活性炭の調製方法としてアルカリ処理/賦活処理により籾殻活性炭の比表面積を1,000m^2/g以上にまで向上させることに成功し、またアルカリ濃度の最適化や処理温度の最適化を行った。更に、上記条件で調製した籾殻活性炭よりボード試料を作成し各種物性評価を行った結果、良好な吸音特性やVOC吸着特性、吸放湿特性を有することが分かり、建材ボードとしての可能性を見出した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、1)VOC等の吸着能力を持つ比表面積の高い籾殻活性炭の製造とそのボード化が達成できている。2)賦活処理条件やボード加工条件などを見出し、その特許化が行えており技術移転に必要な情報が取得できている。以上の点は評価できる。一方で、ボード成形後の物性評価および耐水性の2項目については、作業場の都合で未達成であり、完遂が望まれる。また、目指した建材について、断熱性が期待した結果になっていない点と、主要部分であるボード成形に関する考察ができていない点が課題として残されている。今後は、不要物から2段階のリサイクル性の発現を視野に入れていることから、有用な技術になりうると評価できるので、想定されている自動車の内装材を目指した、企業連携による研究の進展が期待される。
分散制御による大型構造物の多点加振試験 滋賀県立大学
大浦靖典
滋賀県立大学
安田昌司
大型構造物の安全性の検証には、振動特性の測定が必要である。本研究では、分散制御された小型アクチュエータによる多点加振試験を提案する。まず、測定対象の各部に自励発振するアクチュエータを配置し、加振力を調整せずに、固有振動を励起させた。次に、測定対象の自由端1点を強制加振することで、全てのアクチュエータを同期させ(強制引き込み)、所望の振動モードを形成する手法を開発した。従来の集中制御による多点加振では、振動モードごとに全てのアクチュエータの振幅と位相の調整が必要だが、本手法では、1点の強制力のみの調整で測定ができる。複雑な構造物の局所的な高次振動による破損を防ぐための振動測定法の基礎を開発できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、小型アクチュエータによる分散制御による多点加振試験の可能性が研究用構造物上で例示され、集中制御に対する優位性を明確にする他、多点負荷による振動評価の有効性は確認できたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、 産業界との共同開発の可能性が評価中の状況で、具体的な適用対象を絞り込んだ研究の発展が、望まれる。今後は、適用対象を機械設備にする検討も含め、より具体的な各装置への応用段階での技術的課題の解決に進むことが期待される。
並列多重インバータの小形化技術 滋賀県立大学
稲葉博美
滋賀県立大学
安田昌司
並列多重方式で電力変換装置の出力容量を増大させたり、種々の容量に柔軟に対応するためには、並列多重の電力変換装置を構成する単位変換器の組み合わせに自由度を付与する制御法の確立と、多重化の際必要となる結合リアクトルの小形、電流センサの削減などが研究課題である。
本研究では、3台以上の単位変換器を組み合わせる際の1)結合リアクトルの小形化と2)電流センサ数の削減を可能として全体としての電力変換装置の小形を可能とするシステム開発をめざした。
これらを実現するため、奇数台数構成による並列多重方式に対する制御法、階層的な並列多重構成に対する制御法とを解析ベースで検討し、それぞれを実現しうる制御を見いだした。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にシミュレーションにより、結合リアクトルでの実現可能性、電流検出器の低減化の検証が達成された点は評価できる。一方、実験的実証が今後の課題であり、SiCを使って実施する計画を予定している。今後は、実証実験を行い、実用化への研究が進展することが望まれる。
レーザー描画微細加工とポスト機能化処理技術の複合効果による生化学デバイスの特性向上 立命館大学
小西聡
生化学デバイスチップで多用されるポリマーの微細構造について、高精度で三次元加工が可能な新規導入レーザー描画技術を適用した。さらには、加工後の微細構造にデバイス機能を付与するポスト機能化処理技術として、推進中の特徴あるシーズ技術(パルスプラズマCVD膜を用いた親水・撥水化技術とポリマーの炭化技術)を適用し、効果を評価した。レーザー描画技術が提供する高次の微細構造にポスト機能化処理を施すことにより、有望な特性が得られている。親水・撥水化技術の適用は液滴生成などに有効な流体構造形成に寄与し、炭化技術の適用は生化学センサに有効な電極形成への応用展開に新たな技術的可能性を提示することができたといえる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に櫛形電極の作製と更にSiCx堆積による撥水性の促進、及びサイクリックボルタンメトリ評価により大きな酸化、還元電流が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、この撥水性表面のカーボン電極のバイオセンサー応用に対して、他の電極では達せられないような特異な応用分野の探索が望まれる。今後は、親水性・撥水性制御に関してはあらためて生化学デバイスに必要なパターンがどのようなものであるかを明確にすることが期待される。
起動性と発電効率を両立可能な垂直軸風車ブレードの開発 立命館大学
吉岡修哉

本研究は、垂直軸風車の回転性能を向上させる新しいブレード断面形状の研究を目的としている。目標は、新しい断面形状を考案し、その性能確認を実機実験によって行う事としていた。本研究の結果、抗力型配置と揚力型配置の双方で動作可能な新しい勾玉型ブレード断面を考案し、これらが従来の断面形状と比較して高性能である事が確認された。一方、考案した勾玉型ブレードは形状が複雑である為、実機実験を断念し、風洞実験による性能確認を目指す事とした。本研究期間中には風洞実験の準備まで実施した。研究期間終了後も研究を継続し、発電実験による性能確認を目指す。本研究により考案した勾玉型ブレードのアイディアと運用方法は、特許出願した(特願2012-117646)。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初計画していた、ブレード断面よりも高性能な勾玉型ブレード断面形状が良好な性能を発揮することを見出した点は評価できる。一方、勾玉形状の最適形状について、具体的寸法が表記されておらず、発見結果が極めて定性的であり、風洞実験、実機試験が研究実施期間中に行われていないので、早急な実施が望まれる。また遠心力で風速に応じて、抗力型から揚力型に自動遷移する機構が、この提案のキーであったがこれについても、アイデア段階で、まだ実証にいたっていない。今後は、さらなるデータの蓄積により、本手法の有効性を検証した後に、次のステップに進むことが望まれる。
セルソーターに装着可能なオンチップ細胞内液抽出技術の開発 立命館大学
殿村渉
立命館大学
近藤光行
光触媒機能を有する酸化チタンを用いた細胞膜穿孔技術を細胞吸引固定用マイクロデバイスに応用することで、タンパク質などの生体分子を含む細胞内容物を1細胞レベルを目標に抽出できる技術の開発を目指した。研究期間内において、光触媒作用に優れたアナターゼ型酸化チタン薄膜を実現するためにスパッタ成膜条件を比較し、その光触媒活性を湿式分解性能試験により評価した。また、酸化チタン薄膜上で培養した多数の神経系株化細胞(PC12)に対して紫外光照射による細胞膜穿孔を実施し、細胞由来のタンパク質が抽出されている可能性を電気泳動(SDS-PAGE)法により見出した。今後は、超極微量の液量を操作できる機能をマイクロデバイスに付加することで、1細胞レベルでの内容物回収・定量評価を実施する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に細胞サイズの吸引孔アレイと酸化チタン薄膜の集積化の技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、新規特許出願や、技術移転を目指した産学共同を積極的に進めていくことが望まれる。今後は、更に光触媒作用の実験データの収集や最適化条件の解析・評価等の検討をされることが期待される。
バイオメディカル分野への応用を目指したMEMSターボ遠心ポンプの探索 立命館大学
鳥山寿之
立命館大学
近藤光行
本研究の目的は、血液ポンプ等への搭載を目指したMEMSターボ遠心ポンプの開発である。ポンプの超小型化実現のために、MEMS技術を応用したマイクロターボポンプの流体力学設計指針の確立を行う。血液などの生体流が作動するマイクロ領域のターボポンプでは、低レイノルズ数のマイクロポーラ(マクロ流にマイクロ粒子を含む流れ)内部流となることが予想され、従来ポンプに比べて流路壁面の境界層や翼列出口の混合損失による血球破壊と凝血のペナルティーが深刻であることが予想されるが、流れの物理は解明されていない。マイクロターボポンプの物理とメカニズムの解明は、流体力学設計に向けて定量的な知見を与える。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。マイクロターボポンプの設計および構造要素の試作に関しては評価できる。一方、特に危惧される血球破壊と凝血に関して配慮しながらポンプ駆動と安定性などの性能評価を進めていくことが必要と思われる。今後は、MEMSプロセスの容易性、組み立ての最適化、最適パラメータの調整等について、従来のMEMSポンプ性能との比較をしながら進めていくことが望まれる。
電磁波レーダーによる木質構造部材の内部劣化判定技術の開発 立命館大学
伊津野和行
立命館大学
鍵谷圭
木造建築物には、寺院や神社、古民家など、形状や寸法が異なる部材が数多く存在している。したがって、現地調査の際には、様々な形状・大きさの部材に対して、使用性が変わらない検査機器および手法の開発が必要となってくる。本研究開発では、内部劣化の大きさ・形状・度合いを簡易に、詳細に診断することが可能な、木質構造部材に特化した電磁波レーダーを開発することを目標とした。しかし、電磁波の特性を変更することが困難なことが判明し、新規レーダーの開発までは達成できていない。その一方、数多くの古材を用いた強度実験と、電磁波レーダーを用いた京都の清水寺における現地調査は実施でき、劣化状況の判断については、当初目標を達成することができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、研究成果として提示された電磁波探査および各種古材の強度試験等の成果は評価できる。一方、本課題の最大の当初目標である電磁波レーダーの改良開発という点については、実施できていないので、今後の技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、意義のあるトピックであり、応用展開されれば古材の劣化判定という社会的に求められているトピックに貢献することが期待されるので、まずは、当初計画を完遂することが望まれる。
微生物を用いた太陽電池発電層の合成 立命館大学
斎藤茂樹
立命館大学
松田文雄
微生物によるセレン化銅、セレン化インジウム、セレン化ガリウムの合成を目指した。先ず、セレン汚染土壌から単離された 33 菌株から、セレンオキシアニオン還元活性を指標に本研究課題に使用可能な菌の探索を行い、12 菌株を選抜した。キレート剤を用いて培地中での金属イオンの析出を抑える条件の検討を行い、単離された Bacillus 属細菌を用いてセレン化銅の合成を試みた。塩化銅と亜セレン酸を含む培地中で本菌を好気的に培養したところ、薄膜状の物質の生成が確認された。EDS 分析の結果、合成された薄膜はセレンと銅を含むことが確認された。今後薄膜中のセレンと銅の結合様式について分析を行う。またセレン化インジウム、セレン化ガリウムについては他の菌株を用いて合成を進めていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、セレンナノ粒子の取り出しに成功している点は評価できる。一方、目標である、菌体から得られたセレンナノ粒子からのCIGS
薄膜の合成と、菌体内でセレン化銅、セレン化インジウム、セレン化ガリウムのいずれかを合成することは、残念ながら達成できなかった。興味深いアイデアであり、セレン化インジウムが合成できる可能性等の重要な技術情報が得られている。今後は今回の結果を踏まえて、新たな課題に対する解決策の検討と、計画の作成が望まれる。
酸化スズ被覆カーボンナノチューブセンサによる災害予測 立命館大学
橋新剛
立命館大学
矢野均
本研究の成果は以下の通りである。当初の目標を9割程度達成したと言える。本研究のSnO2被覆CNTは微細なSnO2ナノ粒子(直径:数~10 nm)がCNT表面を覆った構造を有していた。SnO2被覆CNTをAu櫛型電極に成膜したセンサ素子は、その膜表面にひび割れが無く、200~300 nmの膜厚で均質に作製できた。センサ素子を水蒸気を含む硫化水素に曝露(600℃で6時間)した際、素材であるSnO2ナノ微粒子は腐食されることはなく、むしろ結晶化度が上昇するプラス因子が認められた。しかし、80℃の水蒸気に硫化水素を流通させたSnO2被覆CNTセンサの応答回復挙動は再現性が無く、コールドトラップ等により、予め火山ガス中の水蒸気を除去する必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも高温時と水蒸気存在中の対象ガス検出のための対策の有効性が示された点は評価できる。一方、ガスセンサ素子を用いた災害予測のために、条件によっては良好な結果が得られており、実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、解決すべき問題点は明らかになっているので、今後、技術的課題が解決されることが望まれる。
微小クリープ試験片の採取による高温機器の余寿命診断 一般財団法人電力中央研究所 
張聖徳
火力発電プラントのような高温機器の長期利用に伴う安全性確保のため、これらの高精度なクリープ損傷・寿命予測が大きな技術課題となっている。特にプラントの継続利用に影響しない評価法の開発が強く望まれている。そこで本研究では、標点部直径1mmの微小試験片を用いて、高経年損傷を受けた発電プラントの新たなクリープ損傷評価と寿命診断法を開発する。具体的には、経年劣化したボイラ配管部から、放電加工装置を用いて損傷量評価用のブロックを切出し、直径1mmの微小クリープ試験片を機械加工で製作する。この試験片を用いて得られるクリープ強度からボイラ配管の損傷量を正確に評価し、プラント継続利用が可能な評価法の確立を目指す。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初目標としていた微小試験片を用いて高経年損傷を受けた発電プラントのクリープ損傷を精度よく推定するシステムを開発したという点で評価できる。一方、技術移転の観点からは、問題は温度や荷重や荷重方向の異なる加速試験の結果と比較してどう評価するかであるが、これらも考慮した評価方法の確立が望まれる。今後は、研究成果を特許として権利化するとともに、企業と連携して長寿命域でのクリープ試験や溶接部のクリープ損傷評価等実用化に向けた研究に発展することが期待される。
明るさ感を取り入れた自律的省エネ照明の構築 龍谷大学
小野景子
龍谷大学
真部永地
従来、照明環境を計る指標には照度や輝度が用いられてきたがが、空間の輝度分布をもとに空間全体の明るさ感を計る指標が注目されはじめている。同じ机上面照度の環境下においても明るさ感が高い方が明るく感じると報告があり、この指標を用いることでより省エネルギーな照明制御が可能であると考えられる。本研究では、簡易明るさ感センサの試作と明るさ感センサを用いた自律的照明制御アルゴリズムの開発を行った。簡易明るさ感センサはWebカメラと画像処理を用いて実現し、調光可能な蛍光灯照明8台と照度センサ2台および明るさ感センサ1台でなるシステムを構築し、実証実験を行った。実証実験において、センサに定めた目標値への収束と、照度センサのみを用いたシステムと比較して約10%程度の消費電力の削減効果を確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初の実施計画と完了報告書の内容を比較すると、(1)目的関数の作成、(2)センサの作成 については当初の計画が達成されているといえる。また、(3)システムの構築 についても、当初の計画がほぼ達成されているといえることは、評価できる。一方、システムの性能評価の部分が不足している。1実験の結果のみであるが、よりデータを増やして検証する必要はないのか。もし他の条件でも検証実験を実施されているなら、その結果も記載するべきである。また、被験者実験等の実施などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、原子力発電所の停止が相次ぎ、電力不足から節電が要請されるようになっており、照明の節電効果への期待は大きいので、この研究成果が応用展開されることが望まれる。
第4世代携帯電話に用いる左手系マイクロ波フィルタの研究開発 龍谷大学
石崎俊雄
龍谷大学
真部永地
2GHz帯メタマテリアルLTCCフィルタの研究を行った。フィルタは、1セルのCRLH線路の-1次共振モードを利用したバンドパスフィルタである。集中定数線路パターンから等価な右手系・左手系成分を求め、組み合わせることでフィルタを作ることに成功した。試作フィルタのサイズは、2.5mm x 1.6mm x 0.5mm(目標:2.5mm x 2.0mm x 0.5mm)と超小型化を達成した。実測特性は、帯域幅が当初目論みより若干狭くインピーダンス整合も不完全であったため、挿入損が約5dBと目標の2dBより少し大きくなったが、帯域外減衰量は目標性能より良い特性が得られ、30dB以上の帯域外減衰量が実現できた。中心周波数は2GHzで、目標仕様の2.45GHzよりも低い。この原因は、素子間の電磁界結合によるものである。今後の課題は、電極パターンの効率的な設計方法を確立することと、周波数低下の原因である電磁界結合を逆に積極的に利用し、さらに小型化・高性能化を図ることである。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にフィルタ等価回路を考え、LCパターン構成を設計、電磁場シミュレータによるフィルタ特性の検証等を行っている点は評価できる。その結果、左手系を用いた独自の着眼点により、得られたフィルタは、技術移転をめざした産学共同等の研究のステップにつながる可能性が高まったと判断される。テーマは興味深く、研究成果が応用された際の社会還元性を見出すことができるので、迅速な実用化が望まれる。今後は、当初の目標とするフィルタ特性は得られているが、いくつか設計とは異なる特性が得られており、さらなる研究による原因の解明と、企業との共同開発が検討されていることから、実用化が促進されることを期待する。
薄膜デバイスによる複合センサアレイの研究開発 龍谷大学
木村睦
龍谷大学
真部永地
これまでの研究開発により、TFTを用いたフォトセンサ・磁場センサ・温度センサ・ケミカルセンサを単体のセンサとして作製し、動作確認に成功している。本研究開発課題では、実際にセンサアレイの試作を行い、センサアレイとして複数のセンサを集積化したとき要求される特性の整合性がとれるか、また、互いの検出動作が干渉することなく正確な検出ができるかについて明らかにし、動作確認を試みる計画であった。平成23年度は、予定どおりセンサアレイの実際の試作を完了した。トランジスタ特性は、スイッチング特性のバラツキも少なく、移動度もCAD設計で想定した範囲に収まっている。平成24年度は、センサアレイとして複数のセンサを集積化したとき要求される特性の整合性がとれることを、フォトセンサと温度センサについて確認した。今後は、同様のことを磁場センサとケミカルセンサについて確認するのと同時に、互いの検出動作が干渉することなく正確な検出ができるかについて明らかにしていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にTFTを用いた複数のセンサをセンサアレイとして集積化する目的に対して、センサアレイの試作は完了している。また、複数のセンサを集積化した場合、要求特性との整合性についてフォトセンサと温度センサは確認されてる点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、複合センサをワンチップで作製することにより、複数の物理、化学量を同時に測定することが可能になり、応用範囲が広がることが期待できる。今後は、課題を解決しながら、複合センサをワンチップで作製し、実用化のための研究が促進されることが望まれる。
高クラーク数材料を用いた新規透明導電薄膜の研究開発 龍谷大学
山本伸一
龍谷大学
真部永地
透明導電膜は、表示素子、太陽電池、タッチパネルなどに広く使用される電子材料である。現在は主にITO(インジウム・スズ酸化物)薄膜が実用化されているが、インジウムがレアメタルであることから、ITOの代替材料開発に関心が高まっている。ITO代替材料として、資源枯渇の問題のないMgを主成分とし、副成分を少量混合させることでブルサイト構造を作製し、高導電率薄膜を作製することができれば、環境負荷の低い電子デバイスとして、イノベーション創出の可能性が期待される。有機金属塗布熱分解法(MOD法)を用いて、省エネルギー、低コストで安定的にMgO系透明導電膜を製造することを試みた。作成したMgO-C系薄膜は、大気暴露によりMg(OH)2-C薄膜に変化することで透明化した。導電性は不十分であったが、さらに条件を詰めていけば、高透過率・高導電性薄膜形成の可能性がある。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも添加物注入により、高絶縁材料であるMgOに導電性を持たせる研究で、炭素を加えた系において、やや弱く酸化したMgOが水酸化し、透明性が増大することが確認さてた点は優れた成果である。一方、材料価格の点では、Inに比べて、MgO系は低いが、プロセスコストまで考慮すると、まだ多くの課題があり、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、低抵抗化のための検討と計画を立て、研究が進展することが期待される。
プラズマ反応と光触媒を併用した排水中の超難分解性化学物質の分解 龍谷大学
浅野昌弘
龍谷大学
筒井長徳
昨今、微生物を利用した排水処理技術である「活性汚泥法」や、オゾンや紫外線、二酸化チタン(TiO2)光触媒等を利用した排水処理である「促進酸化処理法」においても分解が困難な超難分解化学物質による水環境汚染が懸念されている。本研究は、これら超難分解化学物質の分解処理法の開発を目的とし、水中での「プラズマ反応により生じるラジカルおよび光(紫外線)」と「光触媒」の相乗効果の利用の下での、超難分解化学物質の分解/処理技術を実現させる。具体的には、水中のパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)を 80%分解処理可能なプラズマ/光触媒反応技術の開発を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、排水中の超難分解化学物質の分解処理法の開発を目指し、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の80%以上の分解処理に関して、TiO光触媒を5層とすることで約90%の分解が達成されていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、分解過程の解明やリアクターの設計条件の抽出は、紫外線の精確な照度測定の困難さや実験装置の不安定さのために十分な結果が得られていないため、さらなる研究の進展が望まれる。また、副産物の処理に関する検討が、実用化の過程では必要と思われる。今後は、処理装置の開発においては、電極の複数化と電極間隔やTiO光触媒の多層化、およびその組み合わせ等の課題を、企業との連携で進めることが期待される。
大表面積配向カーボンナノチューブの作製とスーパーキャパシタへの応用 京都工芸繊維大学
林康明
京都工芸繊維大学
行場吉成
カーボンナノチューブ(CNT)の大面積配向成長、従来よりも直径の細いCNTを作製する技術、キャパシタ特性の評価技術について、並行して研究開発を進めた。大面積配向成長では、RF-DCプラズマCVD装置を用い、直径50nm、高さ5μm(成長15分)、密度109/cm^2のCNTを、5cm×5cmの範囲一面に配向して成長させることができた。直径の細いCNTの作製では、熱フィラメント支援球状マイクロ波プラズマCVD装置によって実験を行い、微細化された触媒金属微粒子を用いて、直径10nm以下のCNTが成長できることを確認した。また、比表面積や細孔径分布の評価技術を確立した。さらに、配向CNTを電極としたキャパシタを作製しその静電容量を評価した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。大容量のスーパーキャパシタ電極への応用を目的としたCNTの作製技術に関する研究である。目標とした比表面積は1/7程度である。また、キャパシタンスの性能は40 mF程度であった。一方、解決すべき課題が多く見つかったので、具体的な進め方を再検討することが望まれる。今後は、スーパーキャパシタに興味を示す企業もあるので、連携を強めて問題を解決することが望まれる。
微量ガス成分の高速・高感度in-lineモニタリングを可能とする光ファイバレーザ分光式マイクロセンサの開発 京都工芸繊維大学
西田耕介
京都工芸繊維大学
行場吉成
燃料電池等のマイクロデバイスの性能向上に貢献するインライン型ガスセンシング技術の実用化を目指すため、本研究では、光ファイバ型のキャビティ・リングダウン分光法(CRDS)を応用することにより、微量ガス成分を高感度、高時間分解能かつin-lineで直接モニタリングできる「光ファイバレーザ分光式マイクロセンサシステム」の開発を行うことを目標とした。その成果として、光ファイバ型CRDSセンサの試作を行い、さらに本計測システムを実際の固体高分子形燃料電池(PEFC)に適用し、発電モードPEFCのカソード排ガス中に含まれる水蒸気濃度を定量的に測定することに成功した。また、センサプローブの更なる小型・軽量化を図り、外径1mm以下の「テーパー型ファイバプローブ」を開発した。今後は、本計測技術を様々な産業分野に応用・展開させ、実用化・製品化を図る予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本研究の目標は、光ファイバを用いたキャビティ・リングダウン分光法(CRDS)によって、極微量の水蒸気および酸素の濃度を高感度、高時間分解能かつin-lineで直接モニタリングできるセンサシステムを開発することであるが、本研究では、0.1%オーダーの水蒸気ガスを20 μs以内かつインラインで検出するとともに、外径1 mm以下のテーパー型ファイバプローブの開発にも成功していることは、評価できる。一方で、高感度測定という観点では、水蒸気0.1%の検出しか達成されていない。酸素は感度不足で検出できなかった旨の記載がなされており、その他のガスに対する対応等も十分な結果の記載がないので、さらなる検討が必要と思われる。微量ガスセンサーという観点では、他のセンサーと比較して本センサーの存在意義が不明瞭であり、まだこれからという段階と思われる。今後は、次のステップで共同研究企業との連携などを通して、本研究で達成できなかった感度向上などのCRDS本来の高感度化を実現することが望まれる。
可視光レーザーによるナノホールアレイ基板の創製 京都工芸繊維大学
山田和志
京都工芸繊維大学
行場吉成
現在の極短波長レーザーを用いた光リソグラフィーなどによるナノ加工法が用いられているが、光の回折限界のために加工限界に近づいており、新たなレーザーナノ加工技術の提案が必要とされる。研究代表者らは、可視光レーザーと金ナノ粒子を用いて高分子超薄膜上へ直径30 nm以下のナノ加工に成功した。しかしながら、ポリマー薄膜上へのナノオーダーでの2次元配列までは至っておらず、任意のナノサイズを持った2次元状に一様に配列させたナノ孔基板を創製することが必要不可欠となる。そこで研究代表者は、ブロックポリマーを用いて基板上にナノサイズのミクロ相分離構造を形成させ、金ナノ粒子を2次元状に配列させ、その基板に対してレーザーアブレーション法を駆使した。その結果、2次元配列したナノホールを有するポリマー超薄膜の創製に成功した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも直径30nmのナノ孔はできている点は評価できる。一方、形状は不均一で、2次元配列までは達成できていないので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ブロック共重合体のみで作製するナノ孔と、本研究開発により作製されるナノ孔とを比較して、優位性を示して、展開を再検討することが望まれる。
高感度示差走査熱量計のための温度走査技術 京都工芸繊維大学
八尾晴彦
京都工芸繊維大学
行場吉成
現在実用化されている示差走査熱量計の測定感度は±0.1μW程度であるが、研究開発の現場においてはこの感度はまだ十分ではない。そこで、これまでに示差走査熱量測定に適したサーモパイルを開発し、等温測定では従来のDSCのサーモパイルと比べて400倍の±0.25 nWの感度を得ることに成功した。ところが、温度走査を行うと感度が±5 nWまで低下する問題があることがわかった。そこで、本研究ではこの問題を解決するのに必要な高精度な温度走査技術の確立を目指して、装置の設計および試作を行った。その結果、温度走査を行っても、±0.28~1.1 nW程度の感度が得られることがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、従来の100倍という高い目標値を何とか達成した点と、新たな特許出願につながった点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、次の研究開発計画は明確に述べられているが、企業との共同が必要であり、次に開発すべき要素技術が明確なので産学共同の研究開発ステップにつながりやすくなったと思われる。今後は、装置の開発には企業との共同が必要であるので、企業との共同研究開発の実現に努力することが望まれる。
マイクロバブルの利用による高効率伝熱促進技術の開発 京都工芸繊維大学
北川石英
京都工芸繊維大学
行場吉成
本研究では、深夜電力利用型電気温水器や太陽熱利用型温水器などの自然循環型温水器の高効率化を実現するために、マイクロバブルを利用した伝熱促進技術を開発することを目的としている。この目的を達成するために、熱伝達率および熱伝達ゲインに対する数値目標を、それぞれ2.0倍および25倍とした。今回の研究では、熱伝達率が1.9倍となり、目標値に僅かにとどかなかったものの、正味の伝熱促進割合を示す熱伝達ゲインが51倍となり、目標値の2倍に達した。ただし、熱流束に関する実験条件に制限があったことから、今後の展開としては、より広範囲の熱流束に対してデータ取得を行い、マイクロバブルを利用した伝熱促進法の実用化に向けた最適条件を見出す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、)当初の目標については、熱伝達率の目標値(2.0倍)にわずかに届かなかった(1.9倍)が、正味の伝熱促進割合を示す熱伝達ゲインは目標値(25倍)の2倍が達成されていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、正味の伝熱促進割合を示す熱伝達ゲインが目標値を大きく上回ったものの、熱伝達率が目標値に届かなかった。熱伝達の向上には、気泡のクラスター化が重要であることを明らかにしているので、この点に関する研究の進展が望まれる。今後は、より実用を踏まえた観点でのアプローチにより、伝熱機器の大幅な性能向上により、省エネ等に大きく貢献することが期待される。
回折領域境界の波長依存性を利用したRGBカラー分解素子に関する研究 京都工芸繊維大学
裏升吾
京都工芸繊維大学
行場吉成
本研究開発は、単板式の小型カラーイメージセンサにおける入射光利用率の向上のため、カラーフィルタに代えて、RGB分波素子の適用可能性を探ることを目的とした。カラー分波のために回折格子を利用するが、通常の波長分散の利用に加え、特に、回折-非回折の境界が波長に依存することに着目し、2つの回折格子を組み合わせた新たな方式・素子を検討した。この新方式についてはFDTDを用いたシミュレーションにより分波の基本原理は検証できたものの、具体提案には至らなかった。すなわち、反射光や迷光を抑えるために具体構造を検討したが、材料や構造の制限から、入射光利用率が事業化に耐えうる60%以上のRGB分波を期待するのは、単純構成では困難であると判断した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。現在のアプローチでRGBの分離が可能なことを示したものの、効率を上げるのが難しいことが示され、現段階での技術移転は難しい。一方、RGBの分離は応用分野が大きいと考えられ、別の手法も含めて研究を推進されることが期待される。今後は、回折格子の形状の工夫などでまだ改善の余地はると思われるので、引き続き可能性を検討することが望まれる。
紫外レーザー駆動衝撃波クロマトグラフィー法の開発 京都工芸繊維大学
一ノ瀬暢之
京都工芸繊維大学
片山茂
短波長、短パルスの特性を持ち、かつ低価格である窒素レーザーを衝撃波発生源として用い、衝撃波による分子量分析(レーザークロマトグラフィー)装置を構築することを目的として、紫外パルスレーザーの水への集光によるプラズマ・衝撃波発生を種々の条件下で検討した。紫外レーザーでは水などの溶媒のイオン化において近赤外レーザーに比べて有利であり、プラズマ・衝撃波発生においても同様であろうとの予想に反して、プラズマ・衝撃波発生において紫外レーザーの使用は、近赤外レーザー光と同等のレーザー光強度を要した。このことは、プラズマ・衝撃波発生では、媒質の誘電破壊、あるいは媒質のイオン化の初期過程より、放出された電子のレーザー光の電場による加速・カスケードイオン化の後続過程がより重要であることを示した。今後は、再び近赤外レーザーを用いたレーザークロマトグラフィー法の詳細を検討し、さらに発展させて行く。 当初目標とした成果が得られていない。当初予定していた小型窒素レーザーとYAGレーザーを3倍波に変換する方法は、レーザークロマトグラフィーには使えないというデータが得られたのみで、期待していた成果は得られていない。どのレーザーが本方法に使えるのかを明らかにしないと先には進まないと思われます。いくつか候補は上がっているようなので、再度検討を行い、計画を再度作成することを望みます。
シャットル織機における新規よこ糸吸収・吐出機構の開発 京都市
本田元志
京都市
井上裕幸
小幅のシャットル織機を用いた西陣の伝統的な製織技法を広幅のシャットル織機にも適用できるようにするため、製織時にたるんだよこ糸を適切な張力で張り、連続的に製織できる機構について検討した。その結果、当初の期待通り真空エジェクタを用いることにより、たるんだよこ糸を吸収して張力をもたせる事が可能であることが分かった。また、よこ糸の吸収・吐出スピードは目標の0.25sec/回には達しなかったが、織機自動停止・再開機構を付与することにより連続運転を可能にした。このように真空エジェクタなどの空圧部品を組み合わせて既存の織機に後付けし、これらを制御することにより、新たなよこ糸吸収・吐出機構を実現した。
今後、従来の力織機では製織不可能であった織物を、この機構を搭載した織機で製織し、差別化・高付加価値化した製品の製造方法として提案していく。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも数値的に必ずしも目標が達成されていないが、色やよこ糸吸収・吐出速度について実用を考慮した具体的な解決策が示されている点は評価できる。一方、具体的な織物に向けて業界へのアピールが進めば、新たなデザインの織物の創出が期待される。今後は、目標に向けての課題解決と、本技術でなければ実現できない斬新な織物の創出を期待したい。
サブnmの深さ分解能を持った軽元素の超高感度分析法の開発 京都大学
木村健二
関西ティー・エル・オー株式会社
西田麻美子
高分解能反跳粒子検出法により、シリコン中に注入されたホウ素の深さ分布の測定を、1nm以下の深さ分解能で、0.1 at.%以下の検出感度で行うことを可能とする検出器システムと信号処理系を開発することを目標とする。これらの性能を確認するためにシリコン中にホウ素を注入した試料を準備して、高分解能反跳粒子検出法による測定を行い、その分解能と検出感度を実測で確認する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高分解能反跳粒子検出法で、バックグラウンドノイズをほぼ完全に取り除くことにより、1nm以下の深さ分解能で、0.1 at.%以下の検出感度を達成している点は評価できる。今後、技術移転の観点からは、特許出願を早急に行い、成果を明確にして、連携先の企業の探索が望まれる。
市販の顕微鏡を利用した超安定性光学顕微観察ユニットの開発 京都大学
西山雅祥
京都大学
増田亜由美
光学顕微観察の際に深刻な問題となっている、観測対象の位置のズレ、フォーカスのズレをなくす新しいサンプルステージの開発を行った。顕微鏡本体への接続部品さえ交換すれば、メーカーを選ばず市販の光学顕微鏡に組み込むことが可能である。今回開発した、超安定性ステージを市販の顕微鏡と組み合わせることで、フォーカスのズレや位置のズレを著しく軽減することが可能となり、1時間にわたって、顕微鏡下で安定して測定対象を観察することが可能にした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の37℃で、観測対象の位置のずれが1時間で10ナノメートル以下という目標を達成し、概ね期待通りの成果が得られた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、今回開発したステージの性能が、ユーザーの様々なニーズに合致しているかどうかの検討が必要である。今後は、ユーザのニーズをコーディネーター等の協力を得て、取り込んで実用化を進めることを期待する。
アニオン伝導性無機化合物を用いた電気化学エネルギーデバイスの構築 京都大学
宮崎晃平
京都大学
増田亜由美
水酸化物イオン伝導性を有する層状複水酸化物(Layered double hydroxide, LDH)の新たな電気化学的エネルギー変換デバイスへの展開を図るために、アルカリ形燃料電池の高活性化と金属-空気二次電池の金属負極の可逆性向上を目指して研究を行った。従来のアルカリ性高分子膜では実現が難しい高い温度領域での燃料電池発電を、LDHを電解質として用いることで可能となる見通しを得た。また、酸化亜鉛とLDHの複合化により、充放電に伴う亜鉛金属のデンドライト析出を抑制し、より安全性の高い亜鉛負極を構築することが可能であることが明らかとなった。今後は、それぞれのデバイス性能向上のために、電解質や複合体の作製手法などの検討が必要であると考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、LDHを電解質に用いることにより、高温にて、燃料電池として作動する可能性が確認されたことは評価できる。一方、亜鉛ー空気二次電池における負極デンドライト成長抑制にLDHとの複合化が有効であることを見いだしたことは重要な成果であるが、アルカリ型燃料電池において電解質の緻密性不足のため供給ガスのリークによって発電にまで至らなかったことは残念であり、今後の進展が望まれる。今後は、企業との共同研究等、次の開発ステップに進むためにはまだ基礎研究が必要であり、さらなるデータの蓄積により、本成果の他競合技術との比較優位性を明らかにすることが望まれる。
共通のモータで移動と作業の両方を実現するロボット駆動ベースを用いた省エネ型広域移動ロボットの開発 京都大学
小森雅晴
京都大学
中川雅之

製造現場では1つのロボットで多様な機能を果たすため、広い範囲を移動して作業できるロボットが要求されている。現在は移動装置の上にロボットアームを搭載したロボットが使用されているが、モータを有効に利用できない、多くのエネルギーを消費する、といった問題がある。本研究では、共通のモータで移動と作業の両方を実現するロボット駆動ベースを提案することにより、広域移動可能で、モータを有効に利用し、省エネルギー化を実現できるロボットを開発した。本ロボットを試作し、動作を実現できることを実験的に証明するとともに、省エネルギー効果を評価し、有効性を示した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、目標はほぼ達成され、技術移転に繋がる研究成果の一部が得られたものと評価できる。一方、ロボットメーカからの要望には応えているものの、本技術の応用先が不明確であるため、本研究の発展の方向性が見えていない。応用分野を明確にして、それにあった技術課題を明らかにすることが必要と思われる。今後は、本技術を使用する用途を明確にした研究開発に進むことが望まれる。
高密度・高品質積層誘電体デバイスの開発 神戸大学
神野伊策
神戸大学
高山良一
積層セラミックコンデンサや積層圧電素子等の積層誘電体デバイスは誘電体層の薄層化による大容量化、高密度化が進められている。しかしながら、従来のテープキャスティング法では、高品質積層構造の作製が限界に来ており、更なる薄層化が期待できる薄膜プロセスの開発が求められている。本研究では、ナノレベルの膜厚で緻密な層構造の成膜可能である真空成膜プロセスを用いて、内部電極と誘電体層を一括して作製する手法を提案する。Pb(Zr,Ti)O3(PZT)やBaTiO3(BT)等の材料を用いて、従来よりも厚みが1桁程度薄いサブミクロン厚の薄膜積層誘電体デバイスの作製プロセスを確立し、次世代積層コンデンサ、次世代積層圧電センサ・アクチュエータへの応用展開を目的とする。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。スパッタ法によるセラミックス多層積層技術の開発がテーマである。膜の応力が発生するが、10層程度まで可能との判定で、従来法より小型化を可能にした点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、薄層化や積層化が進んだことで、企業側もこの技術を受け入れやすくなったと思われる。今後は、積層段数の増大が今後の課題であるが、スパッタ方法の更なる改善が望まれる。
保育園・幼稚園が園児の地震防災に備える木造子供シェルターの研究開発 京都大学
小林正美
京都大学
門林剛士
保育園や幼稚園では、地震等が起こった場合に、小学校のように園児が入る各自の机はないので、建物内のつり天井の落下や蛍光灯の落下から園児を守るにはどう対処すべきかが課題になっている。研究責任者は、2 枚の板材の端部をずらして重ねた仕口を持つ辺部材を、ビスやボルトで直角に接合した井桁状のフレームを用いて、互いに入れ子の関係になる2 種類の井桁フレームを嵌合(かんごう)接合で固定化することで、耐震性を備えた櫓(やぐら)状の木造構造体を作る工法を開発し、京都大学の発明特許とした。研究開発では、幼稚園の教諭らに聞き取りを行い、開発工法を用いた子供シェルターを試作、幼稚園に供与して問題点を抽出し、実用モデルを完成させる。また節点で数値モデル化した入れ子構造体の応力や変位を、構造計算ソフトで解析し、建築基準法で要求される耐震性能を持つシェルターの設計仕様(データ)を整えた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本課題は申請時の予定通り、現実の使用を想定して幼稚園における試用を通して実用モデルを完成している、また、構造強度についても専用ソフトを用いて解析し、設計仕様を整えることにより、生産ラインにのせる条件設定を行っていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、今回の研究は、一自治体との研究交流を基に実施されたが、保育園児や幼稚園児という災害弱者に対する地震対策は我が国の喫緊の課題であるので、企業への働き掛けによる早急な実用化が望まれる。今後は、連携先企業を早急に見つけて、実用化に進むことが期待される。
デジタル画像相関法による次世代MEMS実装部のひずみ計測システムの開発 京都大学
池田徹
(財)福岡県産業・科学技術振興財団
藤田修司
さまざまな試行錯誤の結果、現在の汎用走査型電子顕微鏡の場合、画像精度の制限から高真空モードで計測を行うことが必要なことが分かった。寸法50μm 程度の直径のバンプ接合部をもつ三次元実装用の模擬試験片について計測を行い、その熱ひずみの分布取得に成功した。倍率的にはまだ十分に余裕があるため、10μm 直径のバンプを持つような試験片が試作できればすぐにでも計測可能である。また、解析における粗探索のアルゴリズムを改良して、1 枚の電子顕微鏡画像のひずみ解析時間を現有のPC ワークステーション(Intel XEON X5690)で107 秒にすることができた。非線形有限要素法解析についても金属間化合物などの物性値をナノインデンターで計測することにより、計測に一致する結果を得た。以上により、開発の目標には80%以上の到達を果たしたと考える。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標達成に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、具体的な計画等に基づき、本研究開発の産業上の有用性を検討されることが望まれる。
媒体ミル粉砕における混入磨耗粉の磁場分離技術の開発 京都府織物・機械金属振興センター
倉橋直也
京都工芸繊維大学
行場吉成
本研究では、媒体ミルの粉砕過程で混入する磨耗粉を磁場により分離・除去する手法を提案し、その利用可能性の実証を目的としている。このことから、媒体の高比重化による粉砕条件の修正及び難粉砕物 である繊維状フィブロインの微粒子化に取り組むとともに、磁場分離装置を試作し粉末試料からの磨耗粉 の除去分離の可否について検討した。 その結果、媒体ミルの粉砕条件を適正化したことにより、フィブロインを目標値(5μm)以下の微粒子と することに成功した。また、試作した磁場分離装置はフィブロイン粉砕物からも有意に磨耗粉を分離し得る ことが明らかとなり、粉体製品に含まれる磨耗粉の低減に本手法が有効であることを実証した。今後の課題として、フィブロイン粉末の解砕手法、並びに粉砕過程における変色の防止手段を見出す必 要があることが分かった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、シルクフィブロイン(シルクを粉砕して作製)の製造において、従来のアルミナをクロム鋼に変更し、磁性による除去を試み、概ね成功したことは評価できる。一方で、混入する磨耗粉を2wt%以下にするという目標であったが、媒体素材の変更により磨耗粉の混入率が0.2wt%と激減している。磁場分離により混入率を0.15wt%と更に減らすことに成功しているが、磨耗粉の混入そのものが激減しており、磁場分離による磨耗粉の除去が必要とも思えない。新技術の効果は認められるものの、研究計画の前提条件(予測値)とは大きくかけ離れている。新たにシクロフィブロインが黒く変色した問題が発生したが、磁場分離技術の技術課題とは異なる。シルクフィブロンの粉砕手法を確立するのか、磁場分離技術を確立するのかを明確にしたうえで、技術課題を明らかにする必要があると思われる。今後は、磁場分離技術はモデル試料を用いた性能評価で目標以上の効果が達成されており、磨耗粉の除去技術として広く応用展開をめざすか、シクロフィブロインの粉砕に特化して課題解決を図るか、ターゲットを明確にして、次のステップに進むことが望まれる。
超巨大磁気抵抗スイッチング現象の解明と高感度磁気センサー応用 関西大学
新宮原正三
関西大学
松井由樹
シリコン酸化膜に絶縁破壊を起こさせ、強磁性ナノ導通経路素子を作成し、磁気抵抗特性、及び抵抗揺らぎ特性などを評価した。ここで、酸化膜厚を5nm - 90nmの範囲で5通り変えた素子を作成し、磁気抵抗特性及びその統計ばらつきなどの評価を行った。また、収束イオンビーム加工により酸化膜に局所的に窪みを形成して、ナノ導通経路の形成の制御を試みた。磁気抵抗特性のばらつき低減法は未だ見出してはいないが、磁気抵抗比の最大値は数十万%以上という非常に大きい磁気抵抗スイッチング素子を数個見出した。また、酸化膜厚依存性はあまり明確ではないが、低抵抗状態の抵抗値は酸化膜厚にほぼ比例する傾向があることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に磁気抵抗比の最大値は数十万%以上という非常に大きい磁気抵抗スイッチング素子を数個見出し、低抵抗状態と高抵抗状態の伝導機構について知見を得ている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、関連市場の調査と情報発信を行うことが望まれる。今後は、磁気抵抗特性にはばらつきが大きいようで、安定的に高MR比を得るための研究と、素子特性の信頼性、動作範囲等の評価行う必要がある。
高エネルギー密度リチウム電池のためのシリコンナノワイヤの合成 関西大学
清水智弘
関西大学
松井由樹
メタルアシストエッチングを用いてリチウムイオン電池の負極材料用のシリコンナノワイヤの合成、および電池特性の評価を行った。エッチング液の組成を変えることで、電極材料として使用可能な高品質ナノワイヤの合成に成功した。しかしながら、一回の合成で得られるナノワイヤの分量が少なく改善の余地を残した。
ナノワイヤを負極材料とした用いたリチウムイオン電池を試作し、その特性評価を行った。シリコンナノ粒子を用いた場合と比較し、サイクル特性とクーロン効率に大幅な改善が見られ、優れた特性を示すことを明らかにした。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも「50サイクルの充放電を可能とする」という目標は達成している点が評価できる。一方、得られたナノワイヤの直径が20-100nmで、ばらつきが目標値よりも大きい。今後は、目標値に近づくように基礎的な検討が必要と思われる。
エッジ効果抑制型遮音壁の開発 関西大学
河井康人
関西大学
石原治
剛板のエッジ近傍に大きな粒子速度振幅が生じること(ここではエッジ効果と呼ぶ)を利用し、それらを抑制することで回折音を大きく減少させるという全く新しいアイデアによる遮音壁を提案し理論と実験からその有効性を示したが、どのような抑制を行うのが最適かが本研究のテーマであった。当初は均一な特性の布や薄い多孔質吸音層をエッジに沿って帯状に設置することで抑制することを試み、多くの数値解析から5dBAという目標は十分達成された。しかし、計算を進めて行く過程で、均一な特性の布等ではエッジ効果を大きく抑制するには大きな流れ抵抗や面密度が必要で、このとき上端にもエッジ効果が生じるため、ある値以上の性能向上は困難であった。それ故、流れ抵抗を下端から上端へ徐々に減少(グラデーション)させた布を用いることでこの問題を解決し、10 dBA程度あるいはそれ以上の目標を大きく上回る性能をもつ遮音壁開発の目処が示された。今後、実用化に向けて耐候性の材料の検討や降雨などの影響等を見極めながら開発を進める予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に遮音壁先端に配置する薄膜吸音材の物理的特性を明らかにしており、顕著な成果が得られている。また、本検討の成果は特許出願に結び付いている点も評価できる。一方、技術移転の観点からは、数値シミュレーションの結果から必要な物理特性が得られており、実際の薄膜素材の探索が望まれる。技術移転先となる企業もある程度絞り込まれており、今後は、早急な低コストの新たな遮音壁の実用化により、道路騒音の改善に寄与することが期待される。
ガラス表面上のナノテクスチャ複合防汚膜による超撥水表面の耐摩耗性向上 関西大学
谷弘詞
関西大学
石原治
本研究は、ナノテクスチャ複合防汚膜による超撥水表面の耐摩耗性向上を目標として、研究を進めた。ガラス平坦表面の撥水性に対するSAM膜の塗布濃度依存性を調べた結果、0.1wt%より大きい場合には影響は小さいことが判明した。さらに、ナノインプリント法により微細凹凸を形成して、撥水性および耐摩耗性との関係を調べた。その結果、耐摩耗性の突起の方向による影響は、突起が摺動方向に垂直の場合に低下すること、ピラー構造に比較してホール構造は撥水性がわずかに低いが、耐摩耗性は表面DLC保護膜の形成で100倍以上増加することが明らかになった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ナノインプリント加工、SAM膜やDLC膜の形成、さらにその表面の評価など多くの検討を行い、ナノテクスチャ複合防汚膜による超撥水表面の耐摩耗性向上を検討し、ナノインプリント法による微細凹面にDLC膜を形成し、目標の撥水性と耐摩耗性に目処をつけたことは評価できる。一方、現時点では特許申請には至っていない。実用化に向けて、微細形状の寸法設計、DLC膜の膜質設計、SAM膜の材料設計、さらに、これら組合わせの最適化などの課題の検討が必要である。 今後は、具体的用途を明確にして、研究を進めることが望まれる。
生体由来物質の薄膜化による新しい燃料電池電解質の開発 摂南大学
松尾康光
摂南大学
上村八尋
本研究は生体由来物質を用いた安価でかつ廃棄処理の問題等をクリアにした環境にやさしい新しいバイオ燃料電池に関する研究開発である。本研究の課題目標は主としてコラーゲンを用いた燃料電池電解質の薄膜化を行い、従来までの生体由来物質を用いた燃料電池出力密度(0.2mW/cm2)を向上させることである。本研究の実施により、(1)さらに発電能力の高いコラーゲン膜を選定、(2)表面処理、(3)電池として機能しうる力学的強度を保ったまま、従来の薄膜よりも十分に薄いコラーゲンの薄膜化を実施し、従来までの出力密度を約30倍も上回る燃料電池を作成できることがわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも電解質膜の薄膜化、電極との密着化の改良に工夫があり成果が得られた点は評価できる。一方、燃料電池の出力密度の目標に対しては、向上は認められるものの、目標レベルには達していない。今後の展開として、コラーゲンの改質やDNAへの展開を提案しているが、燃料電池電解質膜での得失を踏まえ、計画に反映した方がよいように思われる。生体由来物質であるコラーゲン膜のプロトン伝導挙動は大変興味深く、コスト的にも魅力はあるが、市場での燃料電池の開発状況から、技術移転には、多くの課題の解決が必要と思われる。
材料特性を活かした高付加価値薄肉製品のダイカストによる一体成型 -町工場でも使える省エネプロセスの開発- 大阪工業大学
羽賀俊雄
大阪工業大学
乙武正文
Al-25%Siは熱伝導率が高く、線膨張係数が小さい(銅と同等)という電子部品の放熱材として有効である。本研究では、プランジャーの高速射出、型およびスリーブの加熱(温度制御)無しにAl-25%Siの溶解時の溶解温度が800℃以下、スリーブ内で半凝固状態にして半凝固ダイカストを行うことで型寿命や溶解エネルギーの問題を軽減する方法を考案し、半凝固ダイカストにおいても厚さが1mm以下の薄肉ダイカストを可能にした。半凝固ダイカストと1m/s以下の低速射出を組み合わせることで、湯じわなどの表面欠陥も発生せず、良好なダイカスト品を作製することが可能であることを明らかにした。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、過共晶Al-25%Si合金が、半凝固状態においても良好な湯流れ性を示すことを見出し、従来のAl-Si合金では困難であった、半凝固ダイカストの技術構築に至る研究成果をあげ、技術移転への高い可能性を示した成果は顕著である。また、厚さが1mm以下のメガホン形状を本手法で作製するという目標を達成している。一方で、さらに複雑形状の一体成形は未達成であり、計画されている、実際の製品をターゲットにした試作で有効性を検証していくことが望まれる。今後は、企業との連携により、電子機器部、自動車関連部品などの実需要に対応した製品を対象に検討することにより、さらなる特性の向上、複雑形状への対応がなされることが期待される。
紙幣音による紙幣の新旧識別の高度自動化 大阪工業大学
大松繁
大阪工業大学
上村八尋
本研究では、紙幣が識別機を通過する際に生じる紙幣音を用いた紙幣の新旧識別の高度自動化手法を提案し、紙幣の新旧識別の高度自動化を実現した。新旧紙幣に対する紙幣音の特徴量を適応フィルタで抽出し、ニューラルネットワークで高精度かつ高速に疲弊札、流通札、新札へ分類する手法を提案し、それを実機に搭載して有用性を定量的に検証した。その結果、疲弊札の検出率100%、新札99%と流通札99%の検出率(新札と流通札の間で1%の誤識別率)を実現するという目標は達成された。
今後は、実機を製作する段階でどのような回路設計が良いかについて、価格と性能と処理時間の観点から検討することが必要である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標については、僅かに目標としていた識別率に到達できなかったが、従来方法に比べて大きく改善されており、ほぼ目標は達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、技術的には大きな課題はなく、識別の精度の向上ならびノイズ処理、紙幣の新旧判別の判断基準の明確化を実施し、実用化に進むことが望まれる。今後は、産学共同を進めることにより、紙幣識別機メーカー等へ技術移転されることが期待される。また、この技術が音響診断等への発展も考えられることから、その方面での産学共同に発展することも期待される。
電子スピン共鳴現象を利用した高感度磁気センサーの開発 大阪市立大学
鐘本勝一
大阪市立大学
倉田昇
有機薄膜素子において、磁場とマイクロ波照射による電子スピン共鳴が生じる条件下で、その共鳴磁場を変調することで交流電流を発生することを発見し、特に、定常電流が流れない素子においても交流電流が発生することを発見した。この申請の研究開発目標は、この素子の技術的完成度の向上と、産業分野への技術移転を目的として、観測された電子スピン共鳴時の異常過渡電流応答を、高感度磁気センサーとして実用化するための技術的課題を解決することである。実際に、数種類の試料群に対して、試験測定を行い、実用に最適な試料群を決定した。また、試料における過渡電流が試料作成条件によってどのように変化するのかを明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。試料に対する特性については詳細に検討されている一方、低磁場における特性や技術移転に向けて必要な条件について技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術移転のためには早急な低磁場特性評価とともに、特性を生かした分野への進出の検討、企業ニーズの開拓等が望まれる。
MEMSカンチレバー型多軸触覚センサを用いた物体表面テクスチャ計測法 大阪大学
寒川雅之
本研究開発ではエラストマに埋め込まれたMEMSカンチレバー触覚センサを用いて人間の触覚のように対象物に対しアクティブタッチを行うことで、物体の表面テクスチャ情報を計測する方法の開発を行なった。まず、エラストマの形状が触覚センサ感度に与える影響を有限要素法で解析し、半球状の形状が水平方向の力の検出に有利であることがわかった。次に、解析結果を元に実際に触覚センサ素子を作製し、紙幣表面の凹凸をスキャンしマッピングすることを可能とした。また、粗さ標準片を計測することで、凹凸の計測限界が25μmであることを示し、さらにそれ以下でも出力変化から求めた静止摩擦係数の違いとして検出可能とした。実際に5種類の紙を触覚センサで計測することでそれぞれの表面テクスチャの違いを識別することができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。紙幣の識別などを行う触覚センサの開発において、半球状の形状が望ましいこと、凹凸の計測限界が25umと目標の5umには届かなかったが、それ以下のものでも静止摩擦係数の違いとして計測可能なことを見出した点は評価できる。また、5種類の紙を触覚センサで計測することで、表面テクスチャの違いを識別できることを示した。全体として、技術移転につながる可能性は高まったものと判断される。
ナノ-マイクロ炭素系粒子の3次元構造化によるアルミの高熱伝導化 大阪大学
近藤勝義
Al-SiCおよびAl-SiC-VGCF複合粉末を熱間鍛造加工により緻密固化し、アルミ粉末焼結体内の旧粉末粒界(PPB)における表面電位差を走査型ケルビンプローブフォース顕微鏡によって計測し、焼結体の伝導性に及ぼす粒界(酸化皮膜)および分散第2相粒子(SiC/CNT)の影響を調査した。その結果、焼結体の旧粉末素地内では0.03V程度の微小な電位差であるのに対して、酸化膜が存在するPPBでは0.14~0.19Vに増大した。SiC粒子が分散する試料でのPPBにおける電位差は0.64~0.69Vとさらに高い値を示した。単体では高い電気・熱伝導性を有するSiC粒子が分散するアルミ素材であっても、原料粉末表面を覆う酸化膜の影響によりバルク体としての物性は大幅に低減した。また、部分溶融法により酸化膜を分断することで旧粉末粒界における伝導性向上を確認した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、アルミ粉末焼結体の焼結界面の酸化皮膜、ならびにSiC粒子により伝導性が低下することを見出したことは評価できる。一方、全体計画においては、(1) アルミ粉末表面へのCNT/SiC複合被覆法の確立、(2)CNT/SiC混合比率の最適化と大型設備を用いた板状アルミ焼結体の試作・特性評価をあげていたが、明確化されておらず、さらなるデータの積み上げが必要である。今後は、実施できなかった項目を実施し、得られた研究成果についての技術移転、企業との連携、特許出願についての今後の展開を明確にして、研究を進めることが望まれる。
13C-enriched単層グラフェンにおける同位体効果の増強とスピン素子への展開 大阪大学
白石誠司
本研究の対象材料であるグラフェンに新しい手法(力学的手法)によるスピン注入に世界で初めて成功し、グラフェンを介した電流を使わない情報伝播と新しい分子スピンデバイスの提案に成功した。今後、13C-enriched grapheneへの同様のスピン注入及び電子スピンと核スピンの相互作用による動的スピン偏極などの物理現象を活用したスピン素子への展開を目指す。 当初目標とした成果が得られていない。純スピン流を見いだした点と、天然組成のグラフェンに対して世界で初めて純スピン流が生じることを発見したことは評価できるが、当初の研究目標にあった、(1)13Cの含有率60%以上のグラフェンの開発、(2)誤差5%以内、測定時間5分以内での13C含有量の正確な見積もり手法の開発、(3)13C濃縮単層グラフェンを用いたスピン素子の開発、の3項目のすべてについて研究成果が得られていない。今後、研究の可否を含めて、計画の再検討が必要である。
原子間力顕微鏡を適用したSQUID高感度磁場顕微鏡システムの開発 大阪大学
宮戸祐治
大阪大学
中村邦夫
これまでに研究責任者が所属する研究室では、高い空間分解能と磁場定量性を両立させることを目指し、走査トンネル顕微鏡(STM)に超伝導量子干渉素子(SQUID)磁場センサを組み合わせた磁場顕微鏡システム(STM-SQUID)の開発を進めてきた。本研究では、これをさらに発展させ、導電性・絶縁性を問わず、計測可能にすることを目的とし、原子間力顕微鏡(AFM)とSQUIDとを組み合わせた磁場顕微鏡システム(AFM-SQUID)を開発した。性能実証の点で課題が残ったものの、新規に行った研磨条件の探索により、先端曲率半径10nm程度の磁気プローブの作製に成功し、磁場像の分解能向上に寄与した。今後は開発した本機構を改良し、安定した撮像を可能にするとともに、真空中でしか測定できない現状の構成から、大気中・液体中の測定もできるように発展させる予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に製作したプローブの磁場顕微鏡システムにて表面形状像を取得できたことが評価できる。一方、技術移転の観点からは、FM検出法による制御や磁界分解能の向上などでの実用化が望まれる。今後は、微細加工組み立ての専門業者との連携による作成法の改善等が期待される。
脂質分子を活用するタンパク質精製のための省エネ型晶析モジュールの開発 大阪大学
島内寿徳
大阪大学
中村邦夫
本課題では、タンパク質の結晶(アミロイドを含む)が得られ、その結晶形態(多形)の制御が可能な晶析膜モジュールを開発することを目標とした。モデルタンパク質としてアミロイドβペプチド(Aβ)を用いると、リポソームによる結晶化(アミロイド形成)とその形態制御も可能である事が分かった。次に、非対称孔構造を有する透析膜モジュールにリポソームを充填したものを晶析モジュールとして使用した結果。Aβアミロイドの高回収率(~80%)を達成した。しかし、膜モジュール環境が結晶成長挙動に影響を及ぼすため、形態制御は現時点では困難である事が明らかになった。今後はモジュール環境の影響を低減するため、リポソームを高濃度条件でゲルマトリックスに包埋するための技術開発を展開したい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本研究は、タンパク質の結晶形態を制御できる晶析膜モジュールを開発することを目的にしたものであり、リポソームを充たした晶析膜モジュールを用いた結果、高い回収率が得られたことは評価できる。一方、形態制御することは難しく、目標は達成されていないが、リポソーム濃度の条件を検討することによって改良できる可能性が示唆されており、さらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。また、産業応用への着地点が見えていないので、クリアにしていく必要がある。今後は、従来の晶析をブレークスルーする可能性のある特徴ある研究であり、有用な知見が得られつつあるので、研究の進展が望まれる。
サーボプレスを活用したパルス加工法によるチタン部品の冷間鍛造 大阪大学
松本良
大阪大学
有馬健次
本研究では、研究責任者が考案した「サーボプレスのスライドモーション制御と潤滑油流路を有するパンチ(工具)を活用したパルス穴成形加工法」について、難加工材であるチタンの穴成形加工に応用し、焼付き・かじり疵を生じることなくチタンの穴を加工することを目標とした。まずチタンの穴成形加工に有効な液体潤滑油を開発した。次に開発した液体潤滑油を用いて、純チタンのパルス穴成形加工を行い、適切なパンチモーションを導出し、焼付き・かじり疵を生じることなく穴深さ/直径比=2の穴を得た。また理論上、穴深さ/直径比=14の深穴を焼付き・かじり疵を生じることなく加工可能であることも分かった。
考案した加工法の加工原理は冷間鍛造やしごき加工等の他の塑性加工法へも適用可能であるため、今後はパルス加工を他加工へ展開する予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標の穴深さ/直径比=3の穴あけは達成できていないが、ドリルとほぼ同じ2までは成功しているのは評価できる。また、流体潤滑油の適正選定はほぼ達成している。一方、技術移転の観点からは、繰返し穴加工を行うことにより、理論的には、穴深さ/直径比=14が可能としているが、加工力から目標値の3を達成していないので、さらなる研究の進展が望まれる。ドリルに対するサーボプレスの優位性を示せたことから、今後は。残された課題を解決し、成果を技術移転することが期待される。
難削材の超精密切削加工におけるダイヤモンド工具の長寿命化 大阪府立産業技術総合研究所
本田索郎
超精密切削加工における単結晶ダイヤモンド工具の長寿命化を目的とし、電気援用切削、および加工前の工具の熱処理という二つの手法を試みた。前者では、導電性ダイヤモンド工具による炭素鋼(SS400)の切削において、アルカリイオン水を切削液に用いることで、良好な仕上げ面を維持できる切削距離が大幅に増加した。その際、工具-被削材間に流れる微小電流が仕上げ面性状の向上に関与している可能性を見出した。また後者では、無電解ニッケルめっき層の加工において、熱処理工具が非熱処理工具の2.5倍以上の寿命を有する結果が得られた。今後、複数の工具で検証実験を行い、再現性が確認できれば、実用性の高い技術になる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、超精密切削加工における単結晶ダイヤモンド工具の長寿命化に対して、電気援用切削、加工前の工具の熱処理を試み、その効果を示したことは評価できる。また、アルカリイオン水を切削液に用い、工具-被削材間に流れる微小電流によって仕上げ面性状を向上させている。一方で、汎用的な技術に発展させるためには、他の工具、被削材に対する検討、工具寿命に対するさらなる向上と、本研究の理論的な背景を明確にすることが必要と思われる。今後は、上記課題の検討により、本技術が社会還元されることが望まれる。
三次元構造を有する低コスト・高性能なフレキシブル有機トランジスタの開発 大阪府立産業技術総合研究所
宇野真由美
大阪府立産業技術総合研究所
井上幸二
縦型チャネルを有する高性能な三次元有機トランジスタについて、簡便なインプリント法を用いてプラスチック基板上に凹凸構造を形成し、デバイスを作製することによって、非常に簡便な方法でフレキシブルデバイスを実現することができた。構造体側面の縦型チャネルの有機半導体中での移動度は、平均で約0.3cm^2/Vs、最大約0.5cm^2/Vsの値が得られ、デバイス面積あたりの出力電流密度は1.3A/cm^2と、フレキシブルな有機トランジスタとして非常に高い出力電流値が得られた。同一基板上に作製したトランジスタの移動度のばらつきは25%程度であったが、トランジスタ動作の歩留まり率は平均90%以上の値が得られた。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に移動度及びトランジスタ動作の歩留まりについての目標90%以上を達成した。移動度の分布については、目標の10%以下に達しなかったが、その解決についての方針が示されており、総体的に目標は達成されたと評価できる。分布については目標を下回ったが、その解決についての方針が示されている。一方技術移転の観点からは、研究段階で企業との協力がなされており、成果の社会還元が期待できる。今後は具体的なデバイス回路への展開をめざしており、応用展開が期待される。
電析法による白金使用量を大幅に低減した水素製造電極の作製 大阪府立産業技術総合研究所
中出卓男
大阪府立産業技術総合研究所
山口勝己
白金使用量の大幅な低減化と水素発生触媒能向上の両立が期待できる電解白金処理法を水素発生用電極の作製に適用し、析出する白金ナノ粒子の形状制御を図るとともに、連続水電解時の耐久性を確認する事により実用化の可否について検討した。白金使用量の低減化の鍵である白金ナノ粒子の供給源となる白金陽極の溶解挙動について検討した結果、白金陽極の溶解速度は電解液の種類に大きく依存し、また電解液濃度・温度および陽極電流密度の増加とともにほぼ直線的に増加することを明らかにした。また、作製した電極の耐久性については、2000時間の連続電解後においても顕著な粒子脱落や凝集は認められず、また電気化学的な水素発生能についても初期性能を維持していることを明らかにした。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、水電解による水素製造において、電解白金処理法により白金の使用量を大幅に低減し、水素発生触媒能を向上させる方法を考案し、触媒性能を向上させ、耐久性を高めることを目指して研究し、ほぼ当初目標を達成し、耐久性については目標を上回る結果を得ていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、水素製造用の高電流密度電解に適用できるかどうかは、本報告のデータでは十分でなく、セル電圧などのエネルギー効率面でのデータも望まれる。今後は、企業との連携も積極的に行われているようであり、共同研究を通じて製品化に進むことが期待される。
先進電源系搭載超小型衛星の試験モデル開発と宇宙環境試験手法の確立 大阪府立大学
南部陽介

超小型衛星網による高頻度地球観測は、平時における環境監視や災害時における被害状況の迅速な把握など、即応的な情報収集を比較的低コストで実現することができるため、新たなビジネスチャンスとして注目を集めている。本提案では、従来の効率を大幅に改善する先進電源系を搭載した10cm角の超小型衛星を開発し、超小型衛星に適した宇宙環境試験手法の確立を行うことを目的とし、環境試験モデルの開発、電源システムの開発、環境試験の実施を行った。本研究の成果は、次世代の超小型衛星バスシステムの開発に大きく貢献するものであり、2014年に、その成果により開発されたバスシステムが宇宙実証される予定である。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、従来の効率を大幅に改善する先進電源系を搭載した10cm 角の超小型衛星を開発し、環境試験モデルの開発、先進電源系の開発、及び環境試験などを順調に実施し、実際にCubesatに実装されたことは顕著な成果である。一方、技術移転の観点からは、電源システムだけに限れば、緊急時(災害、登山、キャンプなど)の電源システムへの応用展開し実用化されることが期待される。今後は、本技術が、超小型衛星の開発に寄与していくことが期待される。
高速気流衝撃法の原理を利用した革新的な微粒子コーティング装置の開発 大阪府立大学
綿野哲
大阪府立大学
阿部敏郎
均一な被膜を有し、粒子間の付着・凝集がない微粒子を製造可能な新しい微粒子コーティングシステムの開発を目標とする研究である。試作した装置を用いて、微粒子コーティングの性能評価を平均径が15ミクロンの微粒子を用いて行った。その結果、粒子間の凝集がなく、内容物の溶出を完全に抑制できる被膜の形成が可能となり、当初の目標が達成できたことを確認した。実用化の可能性が高く、多くの産業で基盤技術を支える重要な要素技術として注目される可能性が高く、今後は公的な研究開発支援制度を活用して、産学共同に向けた研究開発を継続する予定である。  当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性 は一定程度高まった。中でも、コーティング装置を試作し、試作した装置のコーティ ング性能を評価し、粒子の凝集が起こっていないことが確認できたことは、評価でき る。今後は、目標としている新トナー粒子設計や徐放特性の評価への応用展開、運転 指針や制御システムの確立に向けて研究が進展することが望まれる。

超高感度質量分析機能を備えた温度可変レーザー分光装置の開発 大阪府立大学
藤原亮正
大阪府立大学
阿部敏郎
物質科学、生命科学の広範な分野で利用されている質量分析法の機能と超高感度な特徴を備えながら、構造の情報を同時計測する温度可変レーザー分光装置を開発する。相互作用の弱い水素結合クラスターや超分子錯体の質量と構造を超高感度で同時計測し、温度(4-400 K)や錯体形成による構造変化とそれに伴う電子構造変化の関係を分子レベルで追跡する。これまでの分析法では観測できなかった錯体同士の相互作用による機能発現を系統的に超高感度計測できることから、生体分子の揺らぎを利用した新しい有機・錯体反応設計などの制御・階層化された分子システムの研究開発が可能となり、新機能材料開発が新たに展開される。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高感度な質量分析法の機能を備えた温度可変レーザー分光装置の開発に成功した点は評価できる。、一方、技術移転の観点からは、特許出願と技術的課題が明確化されている。企業との連携についても具体的な方向性が示されているため、技術移転については問題ないと思われる。今後は、技術的な課題が解決されて、本研究成果が応用展開されることが期待される。
可搬型の周回型大気圧イオンモビリティの開発 大阪府立大学
岩本賢一
大阪府立大学
阿部敏郎
周回型であり小型のイオンモビリティを新たに開発した。この新規なイオンモビリティは、イオン軌道シミュレーション結果より、従来のイオンモビリティでは困難な低質量(m/z>12)のイオンの移動度の測定が可能となる。新規なイオンモビリティのサイズは全長4.3cm、幅2.1cmであり、手のひらサイズである。試料の分解が抑制される新規な大気圧イオン源とイオンモビリティに必要な高周波電源を新たに作製した。周回に必要である高周波に直流パルスを重畳する技術は完成しなかった。今後、高周波と直流の重畳技術の改良を継続し、手のひらサイズの周回型のイオンモビリティによるイオンの移動度測定を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、可搬型の大気圧イオンモビリティ装置をシミュレーションの結果を基に作製し、概ね当初の目標を達成した点は評価できる。一方、周回型イオンモビリティの動作確認までは至っていないが、課題は明確にされている。今後は、残された課題である周回部分の高周波電源と回路の改良により、実際の動作を確認することが望まれる。
超伝導トンネル接合(STJ)分子検出器による電子移動解離での中性フラグメント検出を目指した質量分析計の開発 大阪府立大学
早川滋雄
大阪府立大学
阿部敏郎
アルカリ金属ターゲットを用いた電子移動解離による中性フラグメントを、電荷の有無に拘わらず1つの粒子の運動エネルギーを直接測定できる超伝導トンネル接合(STJ)分子検出器で測定が可能であることを実証することを目標として本実験を実施した。STJ検出器を取り付ける事が可能な新規な質量分析装置にアルカリ金属ターゲットを導入できる反応室を作成し、実際に取り付けイオンの検出が可能である事を確認した。超伝導検出器には0.3Kまでの冷却が必要であるが、更新された冷凍機の不調により、電子移動解離で生成した中性種の直接検出の結果は出せなかった。電荷逆転質量分析法を用いて、生体分子につながるアミノ酸などのイオン化と電子移動解離か可能であることも実証し、冷凍機の正常運転が可能となり次第、最終的なデータ測定が可能な状況となった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に冷凍機が不調で冷却が不能のため、超伝導トンネル接合(STJ)分子検出器が作動せず、初期の目標が達成できなかった。しかし、目標達成に向けて、装置がほぼ完成されている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、当初の目的の機器を完成させて、実際に生体高分子等のデーターを取得することが重要である。今後は、STJ検出器を取付けた装置の完成とともに、性能評価に注力することが望まれる。
0.1Å以下の空間分解能をもつ電磁磁場中の固体表面原子観察装置 大阪府立大学
梅澤憲司
大阪府立大学
伊達晴行
本研究は、絶縁体表面第1層から3層程度までの原子配列について、構造解析ができることを目標においている。従来、絶縁体表面原子構造の測定は困難であった。パルス状の原子ビームを用いることでこれを可能にした。構造解析に伴うスペクトル数は、10000本であった。これらのスペクトル測定を行うのに5時間半程度の時間を要した。そこで、計測時間の短縮が必要となった。1つのスペクトル測定は、50万回の飛行時間測定の積算により成り立っている。1回のスペクトル測定から2つめのスペクトル測定に至る過程で、ソフト上オフの時間があった。これは、オシロスコープの信号を見るとわかる。計測プログラミングを改良することでオフ時間を大幅に減らしスペクトル計測を速めることができた。ハードウェアでは、マニュピュレータの改良が課題となっている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。計測ソフトと方法の改善により、画像取得にかかる時間が5.5時間の1/5であれば当初の1時間以内に計測を終えるとの目標はほぼ達成されている。一方、客観的なデータが不足しており、変更前との比較が示されていないので、成果が理解しにくいように思われる。今後は、具体的な計画を作成し、実用化に向けた検証を進めることをが望まれる
TLP型洋上風力発電用浮体の最適化に関する研究開発 大阪府立大学
二瓶泰範
大阪府立大学
井上隆
本研究はTLP型洋上風力発電用浮体の最適化に関する研究である。申請者はこれまでTLP型洋上風力発電用浮体の設計開発を行い、設計浮体の波、風中での動揺特性把握のために1/100スケール模型の水槽試験を実施してきた。その結果、海洋構造物の一般的な設計では考慮されない風車の回転効果等により、スラックさらには転倒に至るという危険な現象を明らかにした。この結果を踏まえ本研究において、その転倒に至るメカニズムについて転倒モデルを構築し明らかにした。また転倒を探索するプログラム開発も同時に実施した。最後にTLP型洋上風力発電浮体の最適な主要目を明らかにし、水槽試験によって検証することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に浮体動揺予測シミュレーションプログラムを構築し、転倒現象を生じさせず、かつ軽量なTLP型洋上風力発電用プラットフォームに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との連携して、浮体の軽量化や転倒策への解決等を行う研究ステップに入るとともに、今後は想定外の横揺れ振動に関する新たな課題解決を実施することが期待される。
プラズマ励起ナノラジカルクラスタ注入式大気環境浄化装置の開発 大阪府立大学
黒木智之
大阪府立大学
井上隆
VOC(揮発性有機物)などの有害ガスの処理方法に関して、プラズマ励起ナノラジカルクラスタを有害ガス吸着後の吸着剤に注入することで吸着された有害ガスを短時間で分解し吸着剤を再生処理する大気環境浄化装置の開発を目的とし、ウォータミストを併用することにより酸化力の非常に強いOHナノラジカルクラスタを多量に発生させ、より短時間での有害ガス処理を目指した。本研究開発では吸着剤の再生時間を1/5以下つまり、再生速度を5倍以上にすることを目標としたが、約1.4倍の増加にとどまった。しかしながら、ウォータミスト注入による効果は確認できたため、装置を改良し今後も研究を継続していく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。VOC吸着剤の再生速度を1.4倍にできた点は評価できるが、目標の5倍には達しなかった。まだ装置の改良が必要で、十分なデータが得られてないので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、環境問題の解決に重要な技術と考えられるので、改善案を検討して、課題が解決されることが望まれる。
粒子充填層空隙を利用した単純な液滴分割法の確立と連続重合プロセスの開発 大阪府立大学
安田昌弘
大阪府立大学
井上隆
申請者は、低流速、摩擦支配の押出流れ場で均一な剪断力をかけて液滴を分割・分散させれば液滴径分布の狭い液滴を作ることができると考え、ガラス球を充填したカラムを用いて液滴を分割・分散させ、液滴径分布が単分散に近い液滴の作製方法を新たに確立した。しかしながら、充填したガラス球の粒径の分散度に比べ、得られる液滴の液滴径の分散度が大きくなるという問題点があった。そこで本研究では、粒子充填層を焼結・固定するとともに、油相および水相の混合、送液方法を工夫し、生成液滴の変動係数を現状の最高18.6%から10%以下に低減させ、分級不要の実用的な高分子粒子製造や液滴分散液の乳化プロセス構築のための研究を行う。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、1)カラム内での液滴生成機構の解明、2)油相と水相の供給方法および粒子充填層への供給方法の最適化と充填層内のガラス球の変動防止方法の確立、3)充填層内のガラス球の変動防止方法の確立、4)管型反応器を用いたエマルションの連続重合、から課題が明確になり、当初目標は達成できると考えられることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、化学プロセスの規模拡大を論ずる場合、実験の装置、用いた物質の物性・性状への考察が重要である。用途を考える場合、本研究では、ビーズ槽出口後の管型反応器内での挙動解析が肝要である。ビーズ槽出口の撹拌混合検討に供した液性と重合に供した液性の違いにも言及が無く、管型反応器サイズへの言及もないので、数トン/時への拡大に対応した検討が望まれる。今後は、均一な粒径分布をもつ微細な粒径重合体(ナノ粒子)の用途は極めて多岐に亘り、重要度も高いと思われるので、予定されている共同研究により、早期の実用化に進むことが期待される。
有機ラジカルスピンqubitの配列制御 大阪府立大学
細越裕子
大阪府立大学
稲池稔弘
本研究は、有機ラジカル結晶中で、異なるgテンソルを持つ磁気二量体を複数形成させることにより、多電子スピンqubit系の実現を目指すものである。申請者が発見した、二種類の磁気二量体を含む物質について、単結晶電子スピン共鳴実験を行い、gテンソル解析が有効であることを示した。また、分子間配置をわずかに変化させた一連の物質群について、構造と磁性の相関を調べ、分子積層様式の違いが磁気相互作用に及ぼす効果を明らかにし、多電子スピンqubit系の合理的合成法について考察した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもb-2,3,6-F3PNNの電子スピン共鳴実験から、この物質中に含まれる二種類の磁気ダイマーが異なるgテンソルを持ち、この物質が4電子スピンqubit系であることを示すことができたことは評価できる。一方、基礎研究レベルのため、有機ラジカルスピンqubitの配列制御と技術移転の関連が明確でないように思われる。今後は、早く実用化レベルに達する成果が得られることが望まれる。
アスベスト中の自然放射線を利用した超高感度検出法の開発 大阪府立大学
谷口良一
大阪府立大学
亀井政之
高エネルギーX線を照射し、アスベストに含まれる微量のウラン・トリウムからの放射線を増幅する方法の検討を行った。X線照射によって誘起される光核分裂生成物による放射線成分は、数時間程度で減衰するが、11MeV前後の照射によって数十倍増幅できることが明らかとなった。この値はエネルギーに敏感であり、0.5MeV程度の変化でも増幅度に数倍の変化を及ぼす。また照射時間は20分程度で十分であることも明らかとなった。一方、放射線画像の測定は、イメージングプレート(IP)の低温、低バック照射環境を整備して行った。X線照射アスベスト模擬試料の放射線画像測定は3週間程度の露光が必要であり、空間分解能が不十分なことから繊維構造の弁別には至っていないが、今後有望な測定手段であることが明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に 高エネルギーX線を照射し、アスベストに含まれる微量のウラン・トリウムからの放射線を増幅する方法の検討を行い、 研究のステップは確実に進んでいる点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、非破壊関連の会社との共同開発の可能性がある。今後は、放射線照射設備の確保などの課題もあるので、産学共同の研究開発ステップに移行して進めることが望まれる。
簡便な化学的酸素要求量測定装置の開発と河川の環境負荷容量測定 大阪府立大学
竹中規訓
大阪府立大学
亀井政之
フォトダイオードを用いた化学発光検出装置による、水中の化学的酸素要求量(COD)の簡便測定法の最適条件を求めた。公定法COD法と同じ原理であるが、すべての有機物に対して公定法との相関は十分とは言えない結果となった。今後、温度を上げる、反応時間を長くするなどの工夫により相関は上がると予想される。この方法を用いて、河川水の有機物濃度の連続測定を行った。その結果、公定法では得られない時間分解能の高い有機物濃度変動を観測することができることが分かった。本法を適応して、その場での河川水の有機物分解速度測定に用いることができ、自然水のCOD濃度および浄化能力の迅速、その場観測の可能性が高い方法であることがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標は達成されていないが、本研究の基本的な部分は達成されたことは評価できる。特に、実河川での連続CODの測定に成功しているのは大きな成果である。一方、技術移転の観点からは、公定法との相関が低いことが問題があり、一定時間毎に、公定法とのバランスを取り補正する等検討が望まれる。今後は、環境水におけるCOD測定は、水質の基本項目であり、従来、多くの時間と労力を必要とした測定が、簡便に自動化されることは重要なことであり、企業連携による実用化が期待される。
小型ジャイロミル型風車用翼(スリット翼)の開発 大阪府立大学
新井隆景
大阪府立大学
亀井政之
ジャイロミル型風車は、垂直軸風車の一形態であり、風向に影響されず、小型で日本の風土に適した風車でありながら、ほとんど普及していない。これは起動時に大きなトルクが必要なこと、また低風速での性能が低いからである。これまでの研究で、起動特性を向上させるためには、失速を遅らせることと、失速直後の性能低下を防ぐことが重要であることが分かり、航空機の高揚力装置であるスラットやフラップの原理を応用し、翼構造にスリットを設けることで翼性能を改善できることを見出した。本申請では、このスリットの形状・位置の最適化を図り、翼上面の空気流れ層の剥離を抑制することで、起動性と低風速下性能に優れる翼の開発を行う。 当初目標とした成果が得られていない。中でも実験が遅れたこともあって、すべて基礎実験の範疇の結果であり、重要な実用実験がまったく行われていない。今後は、計画された実験の完遂結果に基づいて、今後の計画を立て直すことが望まれる。
高速解乳化マイクロリアクターの研究開発 大阪府立大学
武藤明徳
大阪府立大学
亀井政之
本研究者は、マイクロリアクターにより物理化学的に特異な微小空間場を構築し、 高速で解乳化できる装置を開発した。例えば、食用油と水からなる安定なエマルショ ンを、1分以内で解乳化率95%以上を達成できることに成功している。詳細は特許出願 のため、ここでは記載できない。本エマルションの組成に合わせて実用的な解乳化装 置の開発が今後必要である。実験結果は、廃棄機械切削油の処理、食料用、および機 能性エマルションの廃棄処理に適用できることを示唆している。また、レアメタルお よび金属イオンの高純度製造、ならびにその再利用プロセスのための抽出プロセスの 開発にも応用可能である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、研究開発目標の項目はずべて達成し、実用化につながる成果が得られたことは、顕著な成果である。また、多様なシステムへの応用を明確にしている。一方、技術移転の観点からは、応用展開を見据えた解乳化条件の検討に進むことが期待される。今後は、エマルションを扱うプロセスは多いので、その波及効果は非常に大きいと思われるので、技術移転先と組んだプロセス開発に進むことが期待される。
集束イオンビーム(FIB)照射誘起二次元強磁性体ナノドットメディアの実用化検討 大阪府立大学
松井利之
大阪府立大学
赤木与志郎
FeRhにおける高エネルギーイオンビーム照射誘起強磁性現象に注目し、集束イオンビーム装置の描画機能を用いた、短時間、大面積のナノスケール磁気ドットパターンの作製方法に関する検討を行った。結果的には目標とした1Tbit/inch^2 程度の密度に相当する磁気ドットパターンの作製までには至らなかったものの、短時間、大面積に多様な磁気パターンを描画する技術の開発に成功した。更なるイオン照射条件の最適化、また熱処理を加えた複合プロセスの開発によって、パターンの微細化と磁気パターンの多様化など、新たな微細磁気イメージの描画技術へと発展させる技術シーズを展開することができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもドーナツ状のパターンが作製できた点は良かったが、 25nmスケールの強磁性ドットを50nmピッチで数ミリメートル四方にパターニングする目標は達成できなかった。今後は、次世代スピンデバイスへ応用展開も含めた高密度磁気記録への足がかりを得る技術であることから、今回の結果を踏まえて、課題を再検討して、実現可能な計画を作成して、研究を進めることがが望まれる。
エネルギーロスの少ない浮体式洋上風力発電用2重反転風車の開発 大阪府立大学
坪郷尚
大阪府立大学
赤木与志郎
本研究では浮体式洋上風力発電用2重反転風車の開発を目的とした。当初は風車を浮体に搭載し、波浪中浮体のYaw運動を低減させることをターゲットとしていたが、研究期間では、2重反転風車模型の制作、小型簡易風洞の製作、そして風洞実験の実施に止まった。研究の達成度としては30%程度といわざるを得ない。周速比の低いところの実験しか実施できなかったため、結論を述べるには時期尚早であるが、実施した風速では、同一風速に対して2重反転風車の回転数は一重のものより大きく、またトルクは4倍程度大きい。今後は、まず必要となる周速比での実験を可能にし、翼形状の変更や付加物設置などの影響を調べ、年間発電量の増大を目指す。研究期間終了後、ギア等を改良し、設計周速比6付近の実験が可能になった。 しかし、最高効率については1重風車とほとんど変わらず, むしろやや落ちるという結果が得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、通常の1枚羽根型風力発電機に対して、揺れのある洋上浮体上では2重反転羽根型が効率低下が少ないという実験結果の得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、再生可能エネルギーの分野における実用化が望まれる。今後は、風力発電関係企業との連携をしつつ、技術的課題を克服されることが期待される。
低温CVDによる傾斜化構造を用いた高精度インテリジェント金型の開発 大阪府立大学
齊藤丈靖
大阪府立大学
赤木与志郎
プラズマCVDにおけるTiC薄膜の成長について、基板温度の上昇により結晶性が改善した。製膜速度は炭素源がCH4では0.1um/h程度と一定であるが、C2H2では基板温度の上昇に従い0.35um/h程度まで大きくなった。TiC膜の硬度は基板温度上昇により高くなった。
C/Ti比を増加させた場合、C2H2ではCH4と比べて製膜速度が大きく増加し、最大0.35um/h程度の製膜速度が得られた。H2流量の増加により、TiCの結晶性が向上するが、製膜速度は低下することがわかった。硬度は炭素源に関らずH2流量が500 sccmで最大値をとった。また、全圧を変化させると製膜速度は変化しないが、硬度は0.48Torrで換算ビッカース硬度2000以上の値が得られた。
当初目標とした成果が得られていない。中でも実験装置を試作し、傾斜化炭化チタン、窒化チタン、傾斜化炭化チタンのコーティングを行って膜物性の評価をおこなうという計画が実施されていない。今後は、当初目標に掲げた多層膜、装置との関連を明確にする実験を実施することが望まれる。
超長寿命フレキシブル有機EL発光素子を実現するフッ素系樹脂フィルムのプラズマ表面改質技術 大阪府立大学
大久保雅章
大阪府立大学
赤木与志郎
A4サイズフィルムシートプラズマ重合表面処理装置により、PCTFEフィルム表面に大気圧非熱プラズマを照射し、直ちにモノマ(アクリル酸)をグラフト重合することでガスバリア性が高い超長寿命の有機EL発光素子を可能とするフィルム創製を行う。接着はく離強度の数値目標としては、1mm幅あたり2 N(ニュートン)以上をA4サイズフィルム得ることに設定した。現時点で得られている結果は1mm幅あたり最大1.5 Nと目標値をやや下回る値である。この値でも実用上は十分であるが、処理条件の最適化により今後更なる強度向上を図るべきである。なお、もうひとつの目標である有機EL発光素子の試作であるが、専門機関の協力により、ガラス基板上での発光に成功している。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。スループットが得られるようキャピラリの設計を変更し、当初にできるだけ近い目標を立て研究を遂行した点は評価されるただ、次のステップにつなげるための技術課題はより明確になっている。今後は、明確になった課題に対する検討と、計画を作成して、実用化に向けて研究化推進されることが望まれる。
船体建造全工程における高精度溶接変形予測法の開発 大阪府立大学
柴原正和
大阪府立大学
竹崎寿夫
本課題では、申請者が独自に開発した陽解法をベースとする大規模解析手法である「理想化陽解法 FEM」をさらに改良し、1000 万要素以上もある大規模船体ブロックを溶接組立により建造する際に発生する 変形を予測するシステムを開発する。すなわち、造船設計現場で用いられる CAD 情報から部材形状および 溶接箇所に関する情報を抽出することにより、FEM 解析のための要素分割および溶接される要素を自動的 に構築し、小組立→大組立→船体ブロックの各建造段階における強度部材すべてを溶接することにより、船体が完成する全過程における変形を、溶接工程に従って予測するシステムを開発するものである。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、申請者が開発した「理想化陽解法FEM」をさらに改良して、1000万要素以上の大規模船体ブロックを溶接組立により建造する際に発生する変形を予測するシステムを開発することを目的とし、システムの構築には一応成功し目標を達成していると評価できる。一方、技術移転の観点からは、計算結果の妥当性などの検証などがまだ不十分であるようであり、さらなる完成度のアップが望まれる。今後は、企業との共同研究を開始するなど、技術移転への模索を行っているので、実用化に向けた完成度のアップが期待される。
電気二重層キャパシタを用いた宇宙用先進電源システムの開発 大阪府立大学
大久保博志
大阪府立大学
田中政行
本研究では、次世代蓄電デバイスであるリチウムイオン・キャパシタ(LIC)に注目し、小型衛星の宇宙機電源系(EPS)の蓄電部にLICを用いることで、従来の化学電池と比較して、多サイクル寿命、低内部抵抗、広範囲の温度特性を実現する宇宙用先進電源システムの開発をめざす。本研究の成果は、1)供試体LICの宇宙環境試験(試験電圧・容量の電流量、温度依存特性、熱真空耐性)を実施し、宇宙環境での特性を確認した。2)LICと化学電池の複合電源系を試作し、性能試験を実施した。その結果、とくに短周期の電力変動に対して、サイクル数及び放電量の軽減が見られ、メインバッテリーの長寿命化に有効であることを確認した。今後、数WクラスのEPSを開発して、本学で開発中の超小型衛星OPUSATに搭載し、軌道上実証(平成25年度GPM/DPR相乗り打上げが決定)を行う予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。電気二重層キャパシタの活用を図る上でのシステム構築と、検証実験においては、一定の成果が出ている。また、複合電源の試作評価が示されているが一定の成果が得られてはいるものの、使用状況によっては効果に疑問が残る。今後、2013年に打ち上げの小型衛星CubeSatによる軌道上の実証実験計画が進んでいる。その成果は、宇宙衛星だけではなく、電池利用のシステムにおける長寿命化などに応用する事が期待される。宇宙環境への適応性なども重要であると共に、電池は容量の増大と共に、更に小型化が求められる。それ等に向けた研究の継続が求められる。
ヒートポンプ高効率化を目指した金属/ゼオライト複合積層材料 大阪府立大学
小野木伯薫
大阪府立大学
濱田糾
ゼオライトと水のモル水和熱を利用することにより、50%以上の熱効率で、氷蓄熱と異なり-10℃以下の冷熱と100℃以上の温熱の両方を活用できるヒートポンプを作製できる可能性がある。実用化の大きな障害であるゼオライトの低熱伝導性を、高熱伝導性を有する銅、アルミ金属基板にゼオライト膜を積層することで克服し、高熱効率かつ低温熱源でも利用可能なヒートポンプ開発に繋げる。従来、高濃度アルカリ溶液中合成するため金属基板上へのゼオライト成膜は困難であったが、申請者が開発した新規粒子積層法により積層膜作製が可能となった。作製した銅/ゼオライト複合積層化材料は伝熱特性の向上が確認され、ゼオライトの低熱伝導性を克服する可能性が見出された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本研究の目標は、1)水熱ホットプレスにより銅またはアルミ系金属基板上にゼオライトを均一に成膜する技術を確立する;2)金属とゼオライトの界面を通過する熱流束を測定して伝熱特性を明らかにする、3)金属とゼオライトの単純接触の場合と比較して、本研究の金属/ゼオライト接合による伝熱効率向上の効果を検証する、4) 材料組織、膜厚、投入熱量と水分吸収脱着速度の関係を明らかにする、となっている。目標1)から3)については一定の成果が得られており、評価できる。一方、技術移転の観点からは、膜厚の制御、伝熱特性の検証および上記目標4)には課題が残されており課題解決が望まれる。また、現時点の研究成果は課題名にある「ヒートポンプ高効率化」に寄与することを確信させる段階には至っていないと思われるので、さらなる研究の進展が望まれる。今後は、研究の進展により、用途開発と技術移転に進むことが、期待される。
自律分光制御機能を有する省エネルギー型フィルムデバイスの開発 神戸市立工業高等専門学校
荻原昭文
(財)新産業創造研究機構
山口寿一
目標である太陽光中に含まれるエネルギー分布の大きい波長帯(750-850nm)における調光特性確保のため、シミュレーション計算に基づき格子間隔や膜厚を変化させた液晶・高分子複合体デバイス形成と赤外領域までの調光特性評価用の小型分光システムの構築を行った。
格子間隔及び膜厚を最適化したデバイスの透過率測定では、可視領域(550-650nm)で50%程度の回折特性を維持した状態で赤外光帯(750-850nm)において室温から40℃程度までの温度増加に対して30%程度の透過率変化を確保でき、目標をほぼ達成した。今後は、光照射時の温度の低温化等を導入したプロセスの改良を行いながら、デバイス作製方法の確立を図り、技術移転へと展開する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、格子間隔1μmで膜厚を25μmと最適化したデバイスの透過率測定では、可視領域で50%程度の回折特性を維持した状態で、赤外光帯では室温から40℃程度まで範囲で30%程度の透過率変化を実現できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、事業化を想定して、産学協同への展開は潜在的にあり、省エネルギー化に貢献できることが期待される。今後は、技術移転、実用化に向けて、製造コストや性能目標の設定が必要となると思われる。
超長尺スピンドルの回転精度向上のためのケーシング形状と支持軸受配置の最適化 神戸大学
安達和彦
曲げ1次危険速度を超えた回転速度で研削加工を行う超長尺単一型内面研削スピンドルの回転精度向上を実現するため、スピンドルの動特性をシミュレーションできる有限要素モデルを構築し、数値最適化手法によりスピンドルとケーシングの形状最適化とスピンドル支持軸受の配置最適化を試行した。数値最適化シミュレーションの結果、スピンドルの振動特性と回転精度に対する軸受配置の感度が高いことが分かり、回転突き出し部が長さ600mmで直径40mmのスピンドルを試作した。試作スピンドルにて振動特性と動的振れ回り振幅を実測評価し、回転精度向上を実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、技術移転につながる具体的研究成果(データ)が得られ、概ね当初の目標は達成されていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、もう少し加工精度等の検証が必要なようであり、その検証と計画を進めることが望ましい。今後は、企業と連携して実用化を進め、社会に成果を還元することが期待される。
イオンビームグラフト重合の薄膜内部空孔診断への応用 神戸大学
谷池晃
神戸大学
西原圭志
イオンビームグラフト重合法を応用した金属及び高分子等の薄膜の内部診断システムの検証を行った。測定対象は薄膜内部の微小空孔、クラックであり、それらの有無の判定及びその大きさを定量化した。数種類の模擬試料を準備し、空孔の大きさが異なる場合の診断、分析ビームの貫通/非貫通の違いによる観測像の違いについて比較検討を行った。また、葉と不規則な大きさを持つ空孔を含んだ試料に対しての診断も行った結果、内部の空孔の観測ができた。診断結果に対する薄膜の表面方向の分解能を求めた。ポリエチレンに対する最大分析分解能は13、分析可能最小深さは3μmであった。アルミ箔に対する最大分析分解能は13、分析可能最小深さは2μmであった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標値がほぼ達成された点と、技術的な課題は明確になった点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化のために、試験する対象を実際検査するものを対象にしてその有効性・限界の調査と、他の診断手法、たとえばX線診断等に比較し、優位な点を主張する必要性を感ずる。今後は、試験したい金属、薄膜で有効性を示し、企業にアピールすることで、薄い金属や薄膜の欠陥を検知できるシステムが構築されることが期待される。
中容量から大容量(3kW~100kW)に展開できる高効率・高性能多相多重直流昇圧コンバータの開発 神戸大学
三島智和
神戸大学
西原圭志
平成23年度の研究成果をふまえて、大規模太陽光発電システムに適した直流電力変換器として、部分共振方式ソフトスイッチング技術を適用した新型多相多重方式直流昇圧コンバータの基礎的検討を行った。模擬装置として2相1kW-100[kHz]昇圧コンバータを試作し、電圧変換比(昇圧比)、電磁ノイズおよび電力密度の観点からの電力変換効率特性などについて実証評価した。検証の結果、電磁ノイズについては所望の低減効果は達成されなかったが、電圧変換比は対従来比で1.5倍-2倍の昇圧比および95%の変換効率の達成を得た。さらに、環流ダイオードにSiC-SBDを適用し本ソフトスイッチング回路との併用効果を実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に 高昇圧化、電磁ノイズの低減、電力変換効率96%以上、装置の小型軽量化がほぼ達成された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業と具体的な交渉段階になっており、技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性が高まった。今後は、 特許申請と多相多重方式AC-DCコンバータの基礎研究を検討しており、企業との共同研究により、実用化が推進されることが期待される。
サブ波長構造紫外光用トゥルーゼロオーダー波長板の開発 神戸大学
藤井稔
神戸大学
大内権一郎
光の偏光を制御する波長板には3種類のデザインがあり、その中で最も高性能なものがトゥルーゼロオーダー波長板である。しかしながら波長400nm以下では、レーザー耐性の高い無機材料を用いてトゥルーゼロオーダー波長板を製造することが困難であり、この波長領域では性能の劣るコンパウンドゼロオーダー波長板が用いられている。本研究は、10~20nm程度の細孔を有するポーラスシリカ薄膜のマクロな構造異方性を精密に制御することにより、300nm以下の波長に対応するトゥルーゼロオーダー波長板を実現し、その特性を評価することを目的としている。研究の結果、波長250nm付近用のトゥルーゼロオーダー波長板の作製に成功した。また、位相差シフトの温度依存性や入射角度依存性を評価し、既存のコンパウンドゼロオーダー波長板に比べて高性能であることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にポーラスシリコン酸化による「反り」を抑制でき、屈折率異方性を0.001の低いレベルに抑えることに成功し、波長300nm以下の短波長で機能する波長板となることも実証され、ほぼ当初の目標を達成している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の研究開発計画について、再現性の確認と向上、面内分布の評価、生産性の向上、ならびに大面積化という課題が示されていることから、企業等との共同開発を視野に入れた展開が望まれる。今後は、実用化へ向けた幾つかの課題に対し、産学共同体制で、技術移転を進めていくことが期待される。
海水淡水化プロセスへの適用を目指した耐バイオファウリング性を有する次世代型逆浸透膜の創製 神戸大学
大向吉景
神戸大学
大内権一郎
RO膜を用いた海水淡水化プロセスにおけるバイオファウリングを低減すべく、抗菌性タンパク質であるリゾチームを膜表面に修飾した新規RO膜の開発を行った。ポリアミド膜表面に反応点となる分子を導入し、さらに縮合反応を行うことによりリゾチームの固定化に成功した。得られた膜は、上記の縮合反応に用いた試薬濃度が高いほどリゾチームの固定化量が大きくなった。この膜を用いて長期バイオファウリング試験を行った結果、バイオファウリングによる透水量の低下を有意に抑制することができた。また蛍光顕微鏡による観察からも、バイオフィルムの形成が顕著に抑制されることが確認され、バイオファウリングの低減に本手法が有効であることが示された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標達成度:リゾチームを固化することにより耐バイオハウリング性のポリアミド逆浸透膜の創製に成功したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、安定性やコスト面での実用化が望まれる。今後は、固定化した酵素の活性を長期間維持されるようにし、企業との共同研究開発にすすむことが期待される。
小孔内部応力計測と非接触表面変位解析を統合したコンクリートの微小領域評価システムの開発 神戸大学
三木朋広
神戸大学
大内権一郎
コンクリート構造物などの社会基盤インフラを維持管理していくための低コストかつ現場で簡易に実施可能な応力・変位測定手法を提案する。これまでに申請者 らは、平面領域を対象とするデジタル画像を用いた非接触変位計測法を開発し,その測定精度を確認してきた。本課題では、コンクリートに与える損傷を最小限 とする、コンクリート内部応力を測定する手法を提案する。最終的には、以上の 2つの手法を統合したコンクリートの微小領域評価システムの実用化の可能性を 検証する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、小孔内部応力計測に関する基礎実験については期待された成果は得られ、既に開発済みの非接触変位計測法と組合せ、技術移転に向けた研究開発ステップに繋がる可能性は高まったことは、評価できる。一方で、当初目標のうち、実構造物レベルでの検証および非接触変位測定法の再検証については達成できておらず、精度、計測手法など多くの課題が残されているので、さらなる研究の発展が必要と思われる。今後は、既設コンクリート構造物の非破壊検査手法として、本申請技術に対する実用化に向けた今後の研究の進展が望まれる。 
印刷法による新規パターニング法の開発 神戸大学
三崎雅裕
神戸大学
大内権一郎
多種多様な印刷技術の中でも、スタンプを利用したマイクロコンタクトプリンティングは、省エネ化、低コスト化の観点から注目されている製造プロセスである。しかし、従来のマイクロコンタクトプリンティングでは、スタンプの濡れ性を自在に制御することは困難であり、高品質な膜を得にくいことから汎用性も低い。本課題では、スタンプ表面を光異性化分子であるスピロピランで修飾し、外部からの光や熱刺激によってスタンプの濡れ性を自在に制御できることを見出した。常温・常圧で、汎用性の高い新規コンタクトプリンティングは、今後プリンテッドエレクトロニクスの共通基盤技術として発展していくと考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初の目標はほぼ達成でき、PEDOT/PSSの転写、及びミクロンオーダーの微細パターンの形成などの技術移転につながる成果が得られてはいる点は評価できる。一方、課題として塗り重ね技術の開発などが挙げられているが、転写の成功には膜の濡れ性が大きく影響すると考えられる。今後は、トップコンタクトのダイオードの製作及び特性評価が必要である。
実仮想融合アプローチによる生産システムにおける最適化・シミュレーション手法に関する展開研究 神戸大学
藤井信忠
神戸大学
中井哲男
本研究課題では、実仮想融合型の生産システム構成法の実用化に向けた展開研究に取り組んだ。実仮想融合型の生産システムとは、実工場などの実空間と計画・シミュレーション等に用いる仮想空間を融合させ、動的変動に対する頑健性・適応性と最適性を両立することを目指したシステム構成法である。本研究では、モデルプラントを小規模な実工場とみなしたこれまでの基礎的検討の段階から一歩進め、制御アーキテクチャの自律分散化を実現した。従来の集中制御と比較すると、制御機構の分散化により計算機の負荷が低減し、従来では不可能であった装置状態把握間隔を実現することで、実システムと仮想システムのより密接な連携を実現し、提案手法の実用化の目処を付けた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に動的な仮想空間の有効性評価、生産スケジューリングにおける有効性評価、現場エンジニアによる妥当性評価という当初の研究課題が実施されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、分散制御に対する生産現場からの期待に応えるためには、システムの複雑化に対する対応が行われることが望まれる。今後は、企業との連携により、システム規模の拡大や、拡大後の再スケジューリングなど、生産現場の要望に応える改良を重ねることにより実用化を図っていくことが期待される。
ホログラフィックディスプレイのための表示モジュールの開発 神戸大学
仁田功一
神戸大学支援合同会社
河口範夫
究極の3次元表示技術とされるホログラフィックディスプレイについて、その広視域化は現状において、最も重要な技術課題の一つである。これまでにも、空間光変調器の画素の高精細化や、各種システム構成の工夫によりこの課題を克服するための手法が数多く検討されている。本研究課題では、複数の空間光変調デバイスの組み合せと信号処理により、複合デバイスとして機能するホログララム表示モジュールを開発し、広視域化を実現する。また、申請者が研究している多眼撮像ホログラフィー再生型3次元画像システムに今回開発するモジュールとシステム制御のための信号処理を実装し、両眼で3次元実像を観察できるディスプレイシステムを開発する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもシミュレーション結果と追加の成果が得られた点は評価できる。一方、実験的なデモンストレーションに至らなかったこと、およびカラー化等の検討を行えなかったことは、今後の課題となる。今後はデモンストレーションの実現までは多くの課題があると思われるが、具体的な計画を作成し、実施することを期待する。
テイラー渦流によるデンプンの加水分解プロセス連続反応装置の開発 神戸大学
堀江孝史
神戸大学支援合同会社
河口範夫
テイラー渦流装置を高濃度デンプン懸濁液の糊化・糖化(加水分解)プロセスに適用した。これにより糊化プロセスと糖化プロセスを1段階で連続的に行うことができる。本研究では、糖化プロセスの温度を変化させ、その影響を調査した。原料デンプン濃度50g・L^-1においては温度の影響はでなかったものの、低温でも高効率に糖化処理を完了することができた。また、より高濃度の懸濁液においては、高温であるほど糖化性能が向上した。さらに、テイラー渦流装置と回分式装置との糖化性能を比較したところ、回分式の結果に及ばない条件もあったが、連続式かつ少ないトルクで高効率な連続プロセスを実現することができた。今後は、デンプン溶液の流動特性を詳細に調査し、スケールアップへの方法論へと展開する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、デンプン懸濁液の1段連続式加水分解プロセスとしてのテイラー渦流装置の有効性を示す成果は得られていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、糊化の問題が今後の課題として明らかになったが、これも装置の大型化と合わせて解決すべき問題であり、今後の進展が望まれる。今後は、連続式操作であることや操作条件の設定幅が広いことは優位な技術であるので、産学連携体制を構築し、大型化と残された課題の解決に進むことが期待される。
ガラスキャピラリによるX線の時間遅延および偏光制御技術開発 独立行政法人理化学研究所
田中義人
独立行政法人理化学研究所
井門孝治
ガラスキャピラリ偏向を用いたパルスX線の時間遅延技術開発および偏光制御技術開発が目標である。長さ70 cm、内径50ミクロンの湾曲可能なガラスキャピラリを用意し、これに放射光X線を導入するために、キャピラリの入力端に回転スイベルステージで構築したカプラ系を作製し、入力特性および出力特性を評価した。その結果、入力受け入れ角は約0.2°であることがわかり、最大50 %超の出力効率を得た。また、ビーム軸の偏角は、約3°を達成した。この結果を基に、遅延時間4 ps、偏光回転角0.2°実現できるよう設計した、長さ1.5 m、内径20ミクロンのキャピラリ、および、曲げ角調整ステージを作製した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にスループットが得られるようキャピラリの設計を変更し、当初に近い目標を立て研究を遂行した点は評価される。また、次のステップにつなげるための技術課題はより明確になっている。今後は、明確になった課題に対する検討と、計画を作成して、実用化に向けた研究が推進されることが望まれる。
大面積冷却面のホットスポットに適応する局所流量制御技術の開発 兵庫県立大学
河南治
兵庫県立大学
上田澄廣
本提案は、ハイブリット自動車のインバータ装置のようなパワーデバイスの電力変換損失の低 減をターゲットとして、高い冷却能力を誇る大面積対応沸騰冷却システムの、さらなる効率化と 小型化を目指すものである。具体的には、求められる冷却能力に対して、ポンプ出力の調節によ ってシステム全体流量のみを制御していたこれまでの方法から、温度応答性高分子を用いて、大面積冷却面のホットスポットに適応する局所流量制御技術を開発する。本提案によって、高い冷 却能力を維持しながら、必要流量を半減させることを実現する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本課題は、温度応答性高分子を用いて、大面積冷却面のホットスポットに適応する局所流量制御技術を開発し、これによって、高い冷却能力を維持しながら、必要流量を半減させることを実現することを目標とするものであり、概ね期待通りの成果が得られたと評価できる。一方、技術移転の観点からは、予定した効果の評価実験は実施できていないので、早急な実験の完遂が望まれる。現時点では、企業に提案できる段階に至っていないので、今後は、実験の完遂と、社会還元を目指すための課題抽出とその発展に期待したい。
硼素を添加した窒化チタン薄膜のナノ構造制御による精密金型の長寿命設計 兵庫県立大学
花木聡
兵庫県立大学
八束充保
本課題では、電子ビーム蒸着により薄膜を堆積させながら同時にイオンビーム照射を援用するイオンビーム援用蒸着法を用い、高硬質と密着性を両立するTiN薄膜のコーティング技術を開発した。成膜過程において、少量のBを添加することにより薄膜のナノ構造を制御し、密着性を維持したまま硬度を大幅に上昇させた。さらに、サブミクロンオーダーの精度が要求される精密金型へ本技術を適用することにより金型の長寿命化および信頼性の向上が可能であることを示した。今後、本コーティング技術を工具鋼等に適用することにより、高価で加工が困難な超硬合金を用いることなく精密金型を作製できる可能性がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ほぼ当初の目標は達成されたことは評価できる。すなわち、超硬合金を用いないで、通常の工具鋼に(Ti, B)N薄膜をコーティング処理することにより長寿命の精密金型を開発することを目標に研究い、以下の結果を得た。(1)通常2000 程度であるTiN のヌープ硬度を4000 以上まで上昇させることに成功し、(2)膜の積層化により内部応力の緩和方法を確立し、さらに(3)耐摩耗性に与えるコーティング条件や形状などの影響についても基礎的な解明ができた。基礎的なアプローチをきちんと行ったことの成果である。一方、技術移転の観点からは、実金型での評価は期間の関係から実施できなかったので、実施が望まれる。また、安価な工具鋼(JIS-SKD61等)に当該コーティング技術を適用することにより、精密金型の製造コストの低減を図ることを目指しているので、具体的成果が望まれる。今後は、企業と連携して膜の性能評価を行い、実用化に向けた研究開発を進めることが期待される。
極限環境下における高性能インバータ駆動モータに向けた絶縁診断技術の開発 兵庫県立大学
菊池祐介
兵庫県立大学
八束充保
モータ巻線の部分放電開始電圧の低下からモータ巻線の絶縁劣化を診断する技術を提案し、その基礎データを取得した。小型の実機モータを熱劣化させ、部分放電開始電圧を測定した結果、熱劣化の進展により部分放電開始電圧が低下することを明らかにした。また、部分放電により発生した電荷がモータ巻線表面に蓄積することにより、部分放電開始電圧が大きく変動することを見出し、劣化診断技術の精度向上につなげた。部分放電測定器の最適化として、方向性結合器を用いた部分放電測定器の導入により、高湿度環境下においても高感度で部分放電を検出できることを明らかにした。これらの成果をもとに今後は製造ラインにおけるモータや顧客先のモータにおける絶縁劣化診断システムを構築していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初設定した目標はほぼ達成したといえる。いずれの開発項目もすでに企業との間で実効性の高い内容のものとして設定されたもので、自ずと達成度の高い内容となったといえる。企業連携の中で本開発で得られた技術を特許出願する予定であることは評価できる。今後は、基礎データに基づいた具体的なシステム構築であり、技術的課題を明確にしているので、企業との連携による実用化が期待できる。
高品質BiFeO3薄膜形成のためのスパッタリングプロセス 兵庫県立大学
中嶋誠二
兵庫県立大学
八束充保
本研究では、量産に適したRFマグネトロンスパッタリングのターゲット表面磁場が BFO 薄膜の表面形状、D-Eヒステリシス特性に及ぼす影響を調べ、強磁場を用いると良好な特性が得られることを示した。また、傾斜基板を用い、その傾斜方向および角度を変化させることでドメイン構造を制御した。その結果、シングルドメイン薄膜を作製することができ、室温で完全に飽和したヒステリシス特性の観察に成功した。しかし、良好な特性が得られるメカニズムは未だ不明であり、今後は更にプロセス条件の必要条件を見極め、最適プロセスを見出す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にRFマグネトロンスパッタリングを用いて、室温で完全に飽和したヒステリシスループを示す高品質BiFeO(BFO)薄膜を作製するという目標は達成した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、具体的な技術課題が見つかっており、、産学共同等への可能性は高まったが、成果としてはまだ十分でないように思われる。今後は、他のプロセスに比べ、優位性を示す必要がある。リーク電流の低減、耐圧の低減等の課題が解決されることが望まれる。
光架橋/光配向ハイブリッドフィルムを用いた配向性有機トランジスタの開発 兵庫県立大学
近藤瑞穂
兵庫県立大学
八束充保
近年、有機半導体を電子デバイスに応用する研究が精力的に行われている。これらは有機材料の軽量性・柔軟性や加工性が注目され、学術、産業ともに活発な研究開発が行われている。本研究では、低分子液晶半導体を光配向性の高分子液晶フィルム上に水素結合を介して一様に配向させ、高度に構造制御された有機半導体複合膜を作製・評価することを目的とする。具体的には、分子末端に水素結合部位を有するオリゴチオフェン誘導体と、水素結合型の光配向性高分子液晶をくみあわせ、1)配向性と生産性にすぐれ、水素結合性とπ電子共役部位を具備する低/高分子液晶複合膜を作製し、2)これらを有機半導体デバイス、特に分子配向が重要となる有機電界効果トランジスタに応用する事を目的とする。本年度は昨年度に合成した液晶性オリゴチオフェンをもとに同等の液晶性、配向性を有するオリゴチオフェン誘導体を合成し、それらが電子輸送性を示すことを確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも目標の達成のための多くの実験と試行錯誤が行われたが、目標の達成には至らなかった。また研究内容に期待が大きいが、研究成果の説明に定量性が必要なように思われる。今後、液晶相の利用の観点から技術的課題を詰めて研究を進めることが望まれる。
軟X線励起による半導体中の不純物原子の低温活性化技術の開発 兵庫県立大学
部家彰
兵庫県立大学
八束充保
軟X線照射によるSi基板中のBドーパントの低温活性化を目指し、軟X線照射した試料のシート抵抗とB深さ方向分布の評価を行った。同一温度で熱処理した試料と比較して軟X線照射によりB原子の拡散は抑制されており、Bの拡散を抑制しながらも、Bドーパントの活性化が可能であることが示された。Si2pのエネルギー準位に照射するフォトンエネルギーを一致させると活性化を促進できることが明らかとなった。また、アレニウスプロットから見積もった活性化エネルギーは従来の熱処理に比べ低い値となった。冷却ホルダを用いて低温(35℃)に保ちながら軟X線照射したが、活性化は起こらず、ある程度の熱エネルギーのアシストが必要であることも明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に温度による活性化率を明らかにしたことと、半導体中の不純物活性化向上を目的とした成果にて、活性化しているが拡散は抑制されたことを明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、200℃での活性化率を評価することが計画されており、半導体関連企業との産学共同研究による成果が期待される。今後は、実用化のための基礎データの蓄積と、大型装置を使うため、コストの検討もしておくことが望ましい。
新規な高効率・低コスト貴金属回収プロセス 兵庫県立大学
八重真治
兵庫県立大学
八束充保

貴金属の精錬・回収は、古くから工業的に行われているが、近年、いわゆる都市鉱山からの回収が注目され、その高効率化が求められている。本課題では、従来の電解やイオン交換に代わる、新規な高効率・低コストプロセスの開発を目的とした。貴金属イオンを含む溶液にフッ化水素酸と安価な粒状ケイ素を加えることで貴金属のみを固体粉末として回収する方法を確立した。白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銅について、単純な溶液からそれぞれを回収することに成功した。白金について純金属粉末の回収を試み、成功した。また、それらとニッケルや鉄など他の金属イオンの混合液から、貴金属と銅のみを回収することに成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標のうち回収限界の明確化と連続化については検討できていないが、温度を上げることで回収速度が向上すること、混合金属含有溶液や王水含有溶液から貴金属を回収できること、ルテニウムについても回収できること、貴金属を金属粉末として回収できること、フッ化水素酸に代えてフッ化アンモニウムでも対応可能であることといった成果が得られ、特許も出願していることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、貴金属回収業者との意見交換に基づいて具体的な研究計画を、さらに進めることが望まれる。今後は、都市鉱山から貴金属を回収する効率的な技術の開発は資源確保にとって重要な課題であるので、企業との連携の上で実用化開発に進むことが期待される。
めっきプロセスにおける水素誘起現象の解明と応用 兵庫県立大学
福室直樹
兵庫県立大学
八束充保
本研究は、めっきプロセスにおいて様々な不具合の原因となる水素誘起現象の機構を解明し、水素の問題解決と水素誘起低温拡散現象を利用した機能性合金薄膜の創製を目標として行なわれた。その結果、Pt電析膜については約190℃でナノ結晶から数ミクロンの結晶粒への異常粒成長が観察された。Pd電析膜については室温でCu基板との界面相互拡散によるCu-Pd合金層の形成が確認された。これらは膜中の水素誘起超多量空孔による金属原子の拡散促進効果によるものと考えられる。今後、めっきプロセスにおける水素の問題解決の事業化に向けてケーススタディを行なって、水素誘起効果を制御した本質的な解決法を検討する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、めっきプロセスの課題である水素発生のメカニズム解明、その応用としての新規化合物合成への適用など、基礎から応用まで視点に持つ斬新な取組であり、ほぼ目標どおりの成果が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、金属材料、特に鉄鋼材料における水素脆化、応力腐食割れの問題は半世紀以上も前から極めて多くの研究がなされてきたにもかかわらず、未解決の問題が多くあり、実用材における水素諸問題の確実な解決が望まれる。今後は、多数の企業から技術相談を受けるに至っているので、、産学共同研究により本研究が進展することが期待される。
分子内・分子間水素結合エネルギーの測定装置の開発~マイクロ波照射による極性分子強制振動のその場分光測定技術の展開~ 兵庫県立大学
朝熊裕介
兵庫県立大学
八束充保
多くの有機化合物には2重結合や(C=C)、不斉炭素(C*)が存在するため、複数の配座(回転)異性体が存在する。しかし、この可能な立体配座数は結合の回転に起因する自由度に依存し、高分子側へと単結合が増えるにつれて爆発的に増大する。このため、その存在確率は分子内および分子間の水素結合のネットワークにも影響され、定量分析を困難にしている。そこで、マイクロ波照射による分子の振動・回転運動により、極性を持つ分子もしくは配位子のみを強制的に回転させ、オンラインで赤外吸収スペクトルを観察する。さらに、照射停止後のスペクトルの経時変化から水素結合のネットワークや回転エネルギーを算出する装置を開発する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。IR分光光度法による、マイクロ波照射による回転異性体の安定性、回転エネルギーの算出まで至っていないが、難しいテーマに対して、今後の対応策を考え、次のステップへ進むための課題は明らかにしている点は評価できる。一方、研究計画が具体的に検討されており、実用化に向けての施策にも言及されている。今後は、IR分光光度法による、マイクロ波による回転異性体の制御の可能性を示せたので、地道に課題に取り組むことで、社会還元に繋がる可能性は高いと判断される。
金属正方格子のセル内部に低剛性素材を充填した複合材の弾性限界 奈良工業高等専門学校
榎真一
奈良工業高等専門学校
芳野公明
持続的に地震エネルギーを吸収する木造建築用継手として、金属正方格子のセル内部に低剛性材を充填した複合材を提案し、荷重-変位線図においてエネルギー吸収で有利な非線形性があることを確認していたが、持続可能性を保証する弾性限界が不明確であった。そこで、ひずみ測定を行った結果、荷重-変位線図の弾性域内に非線形性があることが確認できた。しかし、弾性域内での吸収エネルギーの算出を静的荷重時及び衝撃荷重時において実施した結果、複合材の試作に用いた材質では震度1程度までしか耐えることができないことがわかった。この課題を解決するためには、金属格子と充填材との界面強度に依存せず、充填材の剛性を高くすると同時に、金属格子と充填材の剛性差及び金属格子の素材と構造の剛性差の最適化を図る必要があることがわかった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも制震機能を持つ木造建築用の継手として、新しく開発した複合材の性能(弾性限界)を見極めるという目標は達成できた。一方、実験に用いた複合材は震度1程度にしか耐えることができないため、技術移転につながる成果は得られていない。したがって、現時点では、本成果が社会還元につながるとは考えにくいので、新たな研究の進展が必要と思われる。今後は、新たな継手構造の開発、材料の検討等を行い、設定した目標を満足する技術の確立が望まれる。
超短光パルスを用いた三次元空間変調導波路デバイスの開発 奈良工業高等専門学校
玉木隆幸
奈良工業高等専門学校
芳野公明
次世代の光通信、光計測において重要な、導波路内の1)偏光フィルター、2)位相変調デバイスを実現するために、導波路内の屈折率を立体的に微細変調させた光導波路デバイスの作製技術を開発する。具体的には、水晶振動子を用いた発振回路により、光軸に対し垂直、および、水平方向に高速振動するガラス試料内部に超短光パルスを集光照射し、集光点を移動させて、三次元的に屈折率を変調する。この三次元空間変調導波路デバイスは入射光の偏光成分を分離する偏光フィルターとして機能する。さらに、屈折率変調領域の長さを調整すれば位相変調デバイスとしても応用可能である。導波路内にこれらの機能を組み込んだ本導波路を用いれば、情報通信、計測デバイス等の小型化、高性能化が可能となる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、試作を実施した点は評価できるが、目標の消光比0.01未満に対し、実現されたのは消光比0.91であり、まだ大きなギャップがある。今後は、当初目標とした消光比に近づけるための検討を行い、加工条件等の最適化を含めて、見直しをすることが必要と思われれる。
透明ディスプレイの実現を目指した酸化物半導体素子の開発 奈良先端科学技術大学院大学
浦岡行治
奈良先端科学技術大学院大学
戸所義博
透明ディスプレイの実現を目指して、酸化亜鉛を主原料とする酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの研究を行った。スパッタ法、原子層堆積法、スピンコート法など様々な薄膜堆積方法を用いて形成した薄膜トランジスタに、高圧水蒸気処理やレーザ照射によって、高性能化と高信頼性化を目指した。その結果、ガラス基板やプラスチック基板の上に、高移動度の透明な薄膜トランジスタを形成することに成功した。一方、DCストレスやパルスストレスに対する信頼性劣化機構を解明し、モデル化するとともに素子の信頼性を向上させた。本研究の成果は、次世代情報端末を実現する上で、有用な知見となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、透明フレキシブルディスプレイの実現化に向けて、IGZO材料を用い、プラスチック基板上に薄膜トランジスタを形成する方法が確立され、電気特性は目標値以上を達成し、信頼性も確認されている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、信頼性向上に向けての指針は示されているので、具体的な研究開発計画を作成して、解決を図ることが望まれる。今後は、透明フレキシブルディスプレイの応用範囲は広く、企業からも多くの関心が寄せられているが、IGZOに関する特許等の権利関係を確認して、実用化が促進されることを期待する。
有機薄膜トランジスタ用の低温重合可能なゲート絶縁膜 和歌山大学
田中一郎
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
本研究ではPSQをゲート絶縁膜として用い、その表面平坦性を向上させることによってペンタセンを半導体層に用いた有機薄膜トランジスタ(TFT)のキャリア移動度を今までの最大0.21cm^2/(Vs)から1cm^2/(Vs)以上に向上させることを目的とし、低分子架橋剤の添加、表面エネルギーの制御、プロセス条件の検討を実施した。全2者はキャリア移動度向上にはつながらなかった。しかし、PSQ薄膜作製条件を改善することにより、単発的ながら最大キャリア移動度1.2cm^2/(Vs)を得た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にポリシルセスキオキサン(PSQ)をベースにしたゲート絶縁膜で、トランジスタの移動度が1cm^2/Vs以上を達成したのは大きな成果である。しかし、プロセスの条件を厳密に抑えることができず、高移動度素子を再現性良く作製できなかったことは残念である。何が問題なのかを、学術的にもう少し詳しく検討し、再現性を上げて、実用化のを目指すことが期待される。
ひずみ分布計測用超小型光学デバイスの試作 和歌山大学
藤垣元治
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
橋梁や鉄塔などの鋼材でつくられた構造物の内部欠陥の検査を効率的に行うために、超小型のデジタルホログラフィを用いた光学式ひずみ分布計測デバイスを試作する。提案者は、従来は最低3本必要であった物体光を1本にして複数の撮像素子を用いる手法を提案している。これによって光学系が格段に簡素化することができるようになり、デバイス全体を小型化することができる。本研究では、最近入手可能となった約2ミリ角の撮像素子を複数個用いた光学デバイスを試作する。このようなものは他にはなく、世界一小型の計測デバイスとなる。これによって、実用的なひずみ分布計測装置が比較的安価に実現できるようになり、技術移転が可能な技術となる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、試作機の製作を完了し、小型、軽量化を実現したことは評価できる。一方で、目標としたソフトウェアの開発、装置の性能評価までは達成できていないので、早急に歪の計測まで実施されることが必要と思われる。今後は、計画された課題の完遂と、予定されている企業との共同研究により、研究開発が進展することが望まれる。
砂漠集落の水資源確保のための熱電素子利用型水分結露装置の実証研究 鳥取大学
田川公太朗
鳥取大学
松尾尊義
乾燥地に豊富に存在する風力発電や太陽光発電によって生産された電力を用いて、熱電変換素子による冷却面を作り出し、その冷却面で大気中に含まれる水分を取得する結露装置の実用化を目指している。本研究開発では、冷却面の構造改善による造水量の増大を図ることと、実用を想定した条件による装置性能を検証するための実証試験を行った。新たに考案した冷却フィン構造を導入し、従来のフィン構造に比べて結露する水分量が増加することを検証した。中国西部の乾燥地の温度や湿度を模擬した試験結果から、夜間から朝方の時間帯において相対湿度が高く、造水量の増加割合が大きくなることが分かった。一方で、実用に供する取得量(目標値)に向けた装置構造の改良、結露装置の耐候性の向上等、実用化に向けての課題も明らかになった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に装置構造の研究、結露実験等で確実な進行が見られ、ほぼ目標を達成したのは評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標とした造水量を2倍に増加させることは達成できていないので、装置面の改良と気象条件に応じた運転制御法の確立とともに解決するべき課題であり、研究の進展が望まれる。今後は、残された課題の解決とともに、早い段階で実証試験に進むことが期待される。
電気二重層キャパシタ製造工程における活性炭の特性評価装置 松江工業高等専門学校
福間眞澄

電気二重層キャパシタ(EDLC)は、二次電池と比較して急速充放電が可能であること、繰り返し使用による劣化が少ない等の優れた点がある。しかし、エネルギー密度が低く、電力用蓄電池として利用するには相当な低価格化が必要である。より安価なEDLCを実現するためには、より安価で高性能な活性炭が必要になる。ここでは、誘電体材料で利用されている空間電荷分布測定技術をEDLCの活性炭の評価方法として利用することで、より簡便でかつ有効な活性炭の評価が可能かどうかの調査を行った。その結果、従来の静電容量と内部抵抗の測定と併用することで活性炭製造条件の最適化等に有効であることがわかった。また、木綿活性炭シートの面内の特性ばらつきの測定について、上記の測定方法を適用する方法を考案し、賦活工程の製造条件と特性ばらつきについて調査を行った。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に廃タオルを原料とした木綿活性炭シートの製造法を検討し、低コストで製造できるプロセスを開発し、それを用いた電気二重層キャパシタ(EDLC)を作製・評価し良好な特性を得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、廃木綿タオルを利用した活性炭素シートを応用したEDLCの開発は、エコ商品の開発、地元産業の保護等を満たすユニークな開発研究であり、評価できる。EDLCは今後、スマートグリッドの実現などでは重要な機器になると予想されている。低コストで、小型のEDLCが作製できれば、十分社会還元が可能と判断できる。
超小型軽量タイプ電気自動車バッテリー充電システムの開発 島根大学総合理工学部
山本真義
島根大学
丹生晃隆
小型軽量化可能な新しい回路方式と次世代型半導体デバイスであるGaNデバイスを用いた超小型軽量タイプ電気自動車用バッテリー充電システムを開発した。それぞれの要素技術に対する有効性を全て実機において検証を行い、軽量化、高効率化において高い有効性を確保できることを示した。提案した新しい回路方式である結合インダクタ方式においては、結果として、コア部分において1/2の小型軽量化、効率において0.6%の効率向上性能を獲得した。またGaNデバイス適用時において1.3%の効率向上性能を獲得した。今後の事業化としては、量産の受注を待つ状態にある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標である小型化、高効率化、低ノイズ化の全ての要素技術の性能を有する電気自動車用バッテリー充電器の開発に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、コンバートEV事業を進める企業への安定供給することで実用化が望まれる。今後は、ノイズ規制をクリアして、具体的な製品に組み込み、展開されることが期待される。
ディジタルホログラフィーを用いた塗料乾燥評価装置の開発 島根大学
横田正幸
島根大学
丹生晃隆

研究目標は、塗料乾燥評価装置開発に必要なデータ取得法や解析法を明確にすることである。ディジタルホログラフィー光学系に分解能0.1mgの電子はかりを導入し、塗料内の顔料観察用に顕微鏡を組合わせた同時観察を行った。
乾燥過程でホログラフィーによる塗装面再生像の位相変化は、700倍の光学顕微鏡と同程度の感度であった。また、塗料重量と位相変化の直接比較から、減率乾燥期間中の溶剤の揮発と塗膜の静止(指触乾燥や硬化乾燥)との関連性が明らかになった。水性塗料(銀色、透明)、溶剤系塗料について実験し、溶剤成分や蒸発速度と位相変化の関連から乾燥過程の違いを評価した。また、透明な塗料の乾燥過程が明らかになった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、決定時間に多少のずれはあるが、当初目標の塗料乾燥評価技術を実現しており評価できる。一方、技術移転の観点からは、乾燥メカニズムの解明が不足しているので、技術的な補完とともに、今後の研究の進展が望まれる。今後は、当技術について、民間企業と共同研究が予定されており、着実な開発に進むことが期待される。また、塗料以外の分野への応用も検討されているので、その発展が期待される。
大面積電子ビーム照射によるセラミックスの新しい表面処理技術の開発 岡山大学
岡田晃
岡山大学
梶谷浩一
本研究では、大面積電子ビーム照射によるセラミックスの高能率表面仕上げ、表面改質法の確立を目的とし、表面平滑化特性の解明、照射面の組織変化、硬度や撥水性などの表面特性変化について検討を行った。その結果、ジルコニアについては、10μmRz程度の表面粗さを3μmRz以下に低減することが可能であり、表面の光沢度が上昇した。また電子の貫入現象を考慮した非定常熱電高解析により表面温度分布状態を再現することに成功した。さらに、表面改質効果を接触角および成形樹脂との接着性により検証した。その結果、撥水性はほとんど変化しなかったが成形樹脂との接着力は低下した。今後、耐摩耗性などの実用性を検討する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標値である1)ジルコニア表面粗さを3μmRz以下2)表面温度分布状態を再現3)成形樹脂との接着力を30%低減は、目標が十分に達成でき、開発の狙いである表面平滑化と表面改質の同時処理に成功していることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、照射後のマイクロクラック発生については、表面の熱影響や残留応力などの影響を最小限に抑え、平滑化や耐摩耗性、離型性に優れた表面創成のための照射条件の最適化など、実用化に向けた技術課題は残っているので、さらなる進展が望まれる。今後は、表面改質効果の検証では接触角と成形樹脂との接着性のメカニズムの解明まで至っていない点、セラミックス表面の撥水性と離型性の相関解明など、一歩踏み込んだ研究開発に進むことが期待される。また、技術移転候補先の大面積電子ビーム装置メーカとの専用装置の検討及び、セラミックス金型メーカーとの実用化検討を積極的に進めることが期待される。
電子誘電体の薄膜化基礎技術研究 岡山大学
池田直
岡山大学
梶谷浩一
電子誘電体の実用化研究の一助として、酸化鉄複電荷化合物をスパッタ法により、薄膜化する研究を行なっている。この材料は大気中において表面10nmのスケールで酸化が進行し、二価鉄と三価鉄の存在比が狂うことが判明した。薄膜試料は表面敏感になることから、アルゴン雰囲気中で試料特性を評価できる環境が整備され、薄膜試料の特性、微細加工試料の特性、フェルミ面の決定、磁場中誘電率特性の詳細が明らかになった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、薄膜化のための基礎研究をほぼ当初計画に沿って実施し、ショットキー接合形成方法が明らかになり、別種の半導体材料と組み合わせることで太陽 電池製作のための基礎データが得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、材料自身の特異性から、企業が興味を持っており、共同研究も活発に行われている。今後は、スパッタ条件の最適化をさらに進める
 ことにより、単相膜が得られ、研究が進展することを期待したい。
エバネッセント波の干渉を用いる長波長帯光ファイバ屈折率センサ 岡山大学
深野秀樹
岡山大学
薦田哲男

マルチモード干渉(MMI)構造光ファイバのセンサ部の長さを変えた場合の干渉スペクトル波形の変化を、波長可変レーザ光源を用いることによって波長分解能を向上させ、高精度に測定できるようにして調べた。この手法で、干渉信号を詳しく調べて行くと、主モードの干渉信号の間の波長において、特異的に干渉が強く、また、そのスペクトル幅の小さい信号が出現するポイントがあることが、明らかとなった。この干渉が得られるMMI長を有するセンサにおいて、入射光波長を光通信波長帯の1540.4nmに固定し、水とエタノールの測定結果より、わずかな屈折率差(0.0266nm@25℃)を、光強度変化(32.4 dB)で検出できた。これは、屈折率を8.2×10^-6の精度で測定できることに対応し、平成24年度の目標値の10^-5以下を達成した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に屈折率分解能の数値目標が達成されている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、温度も同時に測定できるようする方向性はよいと考えられる。その具体的な方法を検討する必要がある。今後は、実用化に向けて、製造法、光源や検出系の構成まで含めた総合的な検討が必要であると考えられる。
パラフィンへの金属繊維材混入による蓄放熱時間の短縮技術の開発 岡山大学
春木直人
岡山大学
齋藤晃一
本研究では、廃熱を貯蔵し、時間的空間的に隔てた場所で使用する潜熱蓄熱システムにおいて、潜熱蓄熱源であるパラフィンの低熱伝導率を改善するため、高熱伝導材料である金属繊維材をパラフィンに混入して金属繊維方向のパラフィンの熱伝導率を増加させ、蓄放熱時間を短縮させた新たな蓄放熱促進技術の開発を行った。本研究期間では、まず金属繊維材の混入によるパラフィンの熱伝導率の増加傾向を確認した。さらに、蓄放熱特性の厳密な測定を可能とする新たな実験装置の製作を行い、パラフィン単体を用いた予備実験で厳密な蓄放熱特性の把握を行った。しかしながら、本研究期間内では金損繊維を挿入した実験までは到達出来なかったため、今後は金属繊維挿入時の測定を継続する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、熱伝達の要素テストで伝熱促進効果を確認しているのは評価できる。一方で、蓄放熱過程実験装置の不具合により、目標としたパラフィンに金属繊維を混入した場合の蓄放熱特性が測定できていないので、課題の完遂が必要と思われる。今後は、研究開発計画について技術的課題は明確にしているので、目標の達成とともに、もう少し先の応用面について具体的な検討を行うことが望まれる。
コンクリートの乾燥収縮ひずみの早期推定試験方法の確立 岡山大学
藤井隆史
岡山大学
齋藤晃一
コンクリートの乾燥収縮ひずみの試験方法は、最低でも半年を要するため、1~2ヵ月程度で半年後の試験結果を推定する方法の確立が望まれている。本研究では、標準的な方法よりも小さな供試体を用い、JISの標準的な試験方法の試験値を早期に推定する方法の妥当性を、試験室で作成したコンクリートおよび生コン工場で製造されたコンクリートで検証した。いずれの材料および配合でも、φ50×100mmのコア供試体を用いることで、JISの標準的な方法の半年後の乾燥収縮ひずみを、40日程度で、おおむね±20%程度の範囲内で、推定可能である。今後、成果発表を行いながら、様々な研究機関で実験を行い、さらなるデータの蓄積を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、コンクリートの乾燥収縮ひずみの試験法を簡便化、迅速化することによって、コンクリート構造物の維持補修に寄与しようとする課題であり、試験時間を約4分の1にすることに成功しているのは評価できる。一方、技術移転の観点からは、特殊骨材を含めたより広範囲の試料について裏づけを行うことが望まれる。今後は、さらなるデータの蓄積、建築学会基準やJIS規格などとの整合性の評価などにより、早急に実用化されることが期待される。
超音波を用いた大型風車の総合的診断技術の開発 津山工業高等専門学校
鳥家秀昭
岡山大学
古賀隆治
大型風力発電所から遠隔地に立地する運転監視所等において、落雷故障を含む様々な故障に起因して発生する超音波を解析し、これにより大型風車の故障診断技術の開発を目標として研究を行った。風車鉄塔内に超音波センサと計測用パソコンを設置し、パソコンに保存したデータを風車鉄塔から約150km離れた監視所まで公衆無線回線で伝送した。上記監視所で、平成23年12月~平成24年1月に風車ブレードへの落雷発生時に誘起する超音波の解析結果から損傷なしと診断した。増速機から発生する超音波の周期性に着目し、回転機軸受あるいは歯車の潤滑不足の兆候ありと診断した。この結果、目標の70%程度を達成できた。今後、ブレード損傷時の超音波計測に展開する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、大型風力発電所の発電機内の超音波データの遠隔監視所までの伝送には成功し、故障解析についてはある程度の故障判定ができていることは評価できる。一方で、技術移転の観点からは、実施予定の擬似落雷については超音波データが取得できず、雷雲のエネルギーや落雷発生箇所を特定し、故障予測の検討については結果が示されていないので、さらなるデータの蓄積が望まれる。今後は、企業やウインドファームを運営する自治体と連携し、事業化に向けた検討に進むことが期待される。
形状記憶合金で駆動されるバルブレスマイクロポンプの研究開発 津山工業高等専門学校
吉富秀樹
津山工業高等専門学校
柴田政勝
本研究は、機械的可動弁の代わりに流体制御技術で整流する方式のバルブレスマイクロポンプについて、形状記憶合金で駆動することを試み、携帯機器組込用ポンプを想定した乾電池で駆動できる流量5~20mL/min程度の送液能力を持つポンプを開発し実用化の可能性を検証するものである。研究の結果、駆動電圧3.8Vという乾電池レベルで駆動できる流量5~10mL/minの送液能力を持つ形状記憶合金駆動型バルブレスマイクロポンプを開発でき、当初の目標をほぼ達成できた。一方、形状記憶合金アクチュエータは熱駆動型であるため駆動のサイクル数を上げることが難しく高流量化に難点があることも判明した。今後の実用化においては、駆動機構の更なる工夫や、形状記憶合金アクチュエータは作動音のしないサイレントなアクチュエータである点など、このアクチュエータの特長を活かせる用途開発を行うことが必要と考えられる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。駆動方式の変更等が生じたが、目標性能を達成し、中でも渦流型流体ダイオードの有用性は、マイクロ化においても有用であることが分かったことは評価できる。一方で、現在の用途では形状記憶合金アクチュエータでは十分でないので、他の方法を考える必要が生じた。 今後は、機械的なバルブを使わない用途として、実際のニーズ、必要特性を吸い上げて、用途に合わせて研究内容を絞って進めることが望まれる。
高速ハフマン符号化,復号化装置の開発に向けた環境整備と基礎実験 津山工業高等専門学校
前原健二
津山工業高等専門学校
大重広明
代表研究者が独自に考案したハフマン符号化法により、データの復号化が高速に行え情報源に適した符号に柔軟に切り替えることで情報圧縮率を上げられる符号化/復号化回路をFPGAボードに実現し、画像伝送実験を行ってその性能を実証することを目的としている。
提案復号化回路をカメラ画像キャプチャーボードに組み込み49MHzで送られてくる画素データを実時間で簡易符号化後、復号化処理することが出来た。(JPEG処理は行わず、画素データ毎にROMに用意した符号情報を使用してハフマン符号化/復号化処理を連続実施)
今後はJPEG処理やネットワーク伝送を含めた実験を行って、時々刻々の画像情報源に応じた符号情報の作成/使用による圧縮率改善効果を調べていく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にJPEG処理を実現できなかったことは残念であるが、復号化処理を実現できていることは評価に値する。一方、多様な符号化方式が実用レベルで存在しており、本技術をいかに技術移転するかは検討が必要である。今後は、実装が主たる目的であったとはいえ、特許性はあるので、出願することを勧めるとともに、どのように社会還元をするかの検討が望まれる。
端面掘削方式を用いた多段型掘削機の開発 呉工業高等専門学校
重松尚久
呉工業高等専門学校
繁村龍彦
本研究の目的は、ローラカッタビットを用いた多段型端面掘削方式による新しい深礎掘削機を考案し、実用化するための基礎となる設計指針を提供することである。今回の期間内で、廃土処理を行えるように実験装置の改良を行い、実機を想定したモデル掘削機を用いて荷重制御下における掘削刃に作用する力の測定を行い、モルタル(一軸圧縮強度40N/mm2)を効率よく掘削できることが確認できた。次に、強度が強い岩盤などに対応するために、センタービットの最適化の実験を行う予定であったが、予備実験の段階で予想している力と反対の方向に力が働くことがわかり、実験装置を改良しなければならなくなり、最適化の実験を行うことができなかった。今後は実験装置の改良を行い、岩盤などに対応できるセンタービットの最適化を行い、実機の実用化を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、騒音や振動などの規制の厳しい環境下における効率的な深礎掘削機を考案し、実用化の基礎となる設計指針を提供することを目指したもので、垂直力、トルク、掘削深さ、掘削速度、比エネルギーに関するデータにより、基礎的な傾向が示されたことは評価できる。一方、現状の掘削機においては、ビットに想定外の力が作用し、ビットが破損することが明らかになり、掘削ビットの形状・材質を含めた試験機の設計変更が必要であると思われる。また、排土改良の効果が一部示されているが、基礎的な傾向のみであり、当初の目標はあまり達成されていないので、さらなる検討が必要である。今後は、開発する深礎掘削の実施形態や適用問題の設定をより具体化して、研究を進めることが望まれる。
射出成形シミュレーション用高せん断樹脂粘度測定装置の開発 広島県立総合技術研究所
田平公孝
研究概要は射出成形シミュレーションに必要な樹脂粘度を測定することであり、目標値としては大別して、射出時先端流動速度が10の4乗での樹脂粘度測定を可能にすること、および樹脂粘度測定全工程の時間短縮(現状約60時間を30時間程度に削減)の二つである。樹脂粘度測定装置の樹脂流動部分(以降:流路)を改良することにより、高速せん断領域での射出工程における樹脂の逆流を防止し粘度測定が可能となり、高速限界がせん断速度10の3乗から10の4乗後半へと高速側に領域を移行できた。これまでは汎用表計算ソフトを用いて測定データを測定回ごとにグラフ化し個々のグラフから圧力差など必要データを読み取っていたため粘度計算に時間を要していたが、測定データから必要データを換算する専用ソフトを開発したことにより、計算工程の所要時間を約30時間から5時間程度へと大幅に削減することができ、また加熱ヒータの制御回路を改良することにより粘度測定試験時間を1割程度短縮でき、結果として全工程の所要時間を約60時間から約30時間へと半減する事ができた。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、樹脂の射出成形のシミュレーション精度を高めるため、従来より1オーダ高いせん断射出速度での粘度の測定を可能にしするとともに、計算時間の大幅な短縮を可能にするプログラムの開発に成功したのは、顕著な成果である。また、従来法と比較して型への充填結果も実験的に良く一致することを確認している。一方、技術移転の観点からは、樹脂粘度測定事業の可能性の検討、高融点樹脂への適用の拡大の可能性の検討などが必要であることが、明確に示されており、研究の進展が望まれる。今後は、この種の研究開発の技術移転は一般的には必ずしも容易ではないが、周囲に多くの移転先候補があり、またそれを待ち望んでいる環境もあるので、プラスチック成形加工業界にとって、大変有益なツールとして、早急に実用化されることが期待される。
光入射位置と入射角度を同時に検出可能とする光センサデバイスの開発 広島工業大学
大谷幸三
広島工業大学
大坂英雄
本課題では、光位置検出精度0.002mm、光角度検出精度0.05度を有する光センサデバイスを、単一のチップとして開発することを目標とした。本チップはフォトセンサ素子に光透過性があることに着目した多層構造を有しており、申請期間内に、5 x 5素子/層の光センサデバイスに対し、シミュレーション、設計、製作までを完了することができ、達成度は80%程度である。残り20%はチップの性能評価であり、これについては現在行っている段階である。特許に関しては、予定通り本チップの基本特許を出願した。今後は、チップ製作に関するプロセス特許を出願する予定である。また、性能評価が完了した段階で設計の見直し、もしくは3次元計測用センサとしてのシステム化を進めていく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもセンサデバイスの試作が終了したことは評価するが、特性評価までの結果がないのは残念である。一方、3次元計測として技術、製品の他分野での応用が期待でき、社会還元への期待は大きいので、今後は、デバイスの2層化を実現し、目標通りの性能確認を早急に実施することを期待する。
地域冷暖房プラントの短期・長期最適運転支援システムの開発 広島大学
坂和正敏
広島大学
山口裕介
地域冷暖房プラントにおける熱負荷データ特性を考慮したリカレントニューラルネットワークによる予測手法の提案に基づいて、機器の燃料費のみならず、電力会社やガス会社との契約違反に伴うペナルティをも考慮した短期の最適運転計画手法を開発した。ここで、実用的見地から、計画の単位時間の細分による処理時間の増大にも対処し得る進化計算手法を導入した。さらに、1年間の分割した各期間における標準的な一日に対する最適運転計画に基づく、実用的な長期最適運転計画手法への拡張を試みた。しかも、省資源および環境汚染の抑制をも考慮した運転支援システムを開発して、実データによる有用性の検証も行った。今後、関連企業等との共同研究により実プラントへの導入が望まれる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に契約違反ペナルティを考慮した最適運転計画、実用的短期・長期最適運転計画、短期・長期最適運転支援システムの技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、地域冷暖房プラントの最適運転が実現できれば、エネルギー消費量の低減につながることは明確であり実用化が望まれる。今後は、定量的な評価により現実の地域冷暖房プラントへの適用され、次のステップに進むことが期待される。
ナノカーボン系材料の直接配向的合成による充填層有効熱伝導率の促進 広島大学
井上修平
広島大学
榧木高男
自動車へ応用可能な水素吸蔵材の吸蔵量に関してはほぼ目標値を達成しているが、伝熱の問題に関してはほど遠い状態である。吸蔵容器内では充填層の形態であるため有効熱伝導率が低く、10倍程度は向上させる必要がある。既存の手法は内部に伝熱媒体を挿入する手法であるため実効容積の減少が問題となっている。伝熱特性に関しても伝熱媒体と粒子との接触抵抗が大きくたかだか数倍程度の改善しか得られていない。本研究では充填層粒子に直接CNTを生やすことで容積の実効容積を減少させることなく改善を試みた。その結果、十分高品質なCNTとは言えないものの充填粒子の空隙に対して6%程度CNTを合成するだけで数倍の向上を確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、SWCNTの充填層有効熱伝達率の促進性は確認されていることは評価できる。一方、目標とした有効熱伝導率や特にSWCNTの配向性の制御や充填率の影響に関する目標については達成されていないので、さらなる検討が必要である。また、接触抵抗値がCNTの有無で異なるなど測定手法の検証も必要である。今後は、積み残した課題の完遂が望まれる。
大きな推力が得られる斜旋回送りねじを用いた負荷感応型無段変速機 広島大学
高木健
広島大学
榧木高男
大きな推力が得られる斜旋回送りねじ機構を開発した。この機構は直線運動をし、負荷に応じて減速比が自動的に変化する負荷感応型無段変速機である。負荷が小さい時には俊敏に動作し、負荷が大きい時には力強く動作する。極めてシンプルな機構であるため、小型・軽量化に適している。また、転がり接触にて動力を伝達できる。開発した全質量31.0 gの斜旋回送りねじにて、500N以上の推力を得られることおよび、減速比を20以下から50以上に変速できることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、斜旋回送りねじは負荷に応じて減速比を変化できる負荷感応型無段変速機の機能を有することが確認され、目標とする推力も得られたことは評価できる。一方技術移転の観点からは、精度の向上と耐久性の評価についてさらにデータを積み重ねて実用化に進むことが望まれる。今後は、企業との連携により、絞り込んだ用途に対しての実用化検討に進むことが期待される。
マルチロボットシステムの知能化手法の開発と人間・機械協調系への応用 広島大学
保田俊行
広島大学
榧木高男
複数ロボットの協調行動を実現する際、ロボット間の役割分担が重要になる。本研究では、強化学習法を機能拡張することで、ロボットだけでなく人間も含む系における自律的な役割分担の発現とそれに基づく協調行動の実現を目指した。これまでに開発してきた強化学習法・BRLに内部パラメータを適応的に調整する機構を付与し、その有効性を検証した。実験の結果、ロボット群は人間の役割に応じて先導・追従などの役割を獲得するとともに、実験途中での作業者の入替えに対して役割を適応的に変更することを確認した。今後、システムの大規模化や別タスクへの適用を通してより詳細に分析し、ホームサービスロボットなどの制御器設計のための指針を構築したい。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、適用事例を人間との協調荷揚げ作業という極めてシンプルなものにせざるを得なかったため、技術的優生を評価できていない。適用事例をシンプルにしたことにより、技術的優位性が評価できず、技術的課題を明らかにできていない。また特許出願もされていない。今後は、適用事例を極めてシンプルにせざるを得なかった背景には、実用的価値があり、かつ技術的優位性を示せるというターゲットアプリケーションをそもそも見いだせていないことによると考えられるので、再度、研究計画の見直しが必要である。
パフォーマンス駆動型制御システムの構築とその実用化 広島大学
山本透
広島大学
榧木高男
本研究は、その操業データ(入出力)データから制御対象の制御性能を評価し、所望の制御性能が発揮されていない場合には、そのコントロールパラメータを再調整する仕組みを有する「パフォーマンス駆動型制御システム」を構築することを目的としている。とくに、対象を線形単一入出力系に限定することなく、多変数系、非線形系に対しても適用可能となるアルゴリズムを構築した。また、プロセスシステム(本研究では、射出成型プロセス、ならびに定量フィーダプロセス)への適用を通して、有効性を検証した。しかしながら、操業データから制御不良が制御パラメータの調整不良なのか、外乱による影響なのかを判別する部分のアルゴリズム構築が、思いの外難しく、引き続き解決に向けて研究を進める予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、制御システムのプログラム容量低減と処理時間短縮に関しては目標を達成した。また、制御性能劣化の原因特定のアルゴリズムに課題があることが明確になっている点は評価できる。一方、F/Sの結果次第では、現時点で得られている技術だけでも技術移転の可能性は出てくる。また、適用対象を絞って、制御性能原因劣化特定アルゴリズムが開発できれば、より広い技術移転の可能性も見込める。今後は、当初の目的達成は、制御性能劣化の原因特定のアルゴリズムが開発できるかどうかにかかっているので、注力する必要がある。
超臨界水による新規リン回収システムの開発 広島大学
柳田高志
広島大学
榧木高男
超臨界水ガス化は高含水系バイオマスを迅速に燃料ガスへと変換できる技術として注目されている。また、リンを含有するバイオマスを原料とした場合には、それはガス化後に固相もしくは液相に移行する。本研究は、含水系バイオマスの利用方法の一つとして超臨界水ガス化に着目して、エネルギーと枯渇資源であるリンの同時回収を提案するものである。廃棄物系バイオマスを原料として超臨界水ガス化を行い、ガスとリンの回収を試みた。さらに、シミュレーションにより超臨界水ガス化におけるリンの挙動を調査した。その結果、連続式超臨界水ガス化装置を用いて、燃料ガスの生成及びリン回収を達成することができた。また、原料に水酸化カルシウムを添加することで、リンを固体として回収できる可能性が示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ガス化率90%の目標に達していないが、無触媒で63%を達していることは評価できる。一方で、リンの物質収支は無機リンが多い下水汚泥について収支が取れているが、有機リンを含むバイオマス系は未着手である。また、固形物リンについては計算のみであり、早期の実験完遂が必要と思われる。今後は、固体触媒が提案されているが、反応条件では溶解する恐れがあり、均一触媒は回収の問題がある等の問題が予想されるので検討が望まれる。着眼点は良く、実用化が期待される技術であるので、今後の発展が望まれる。
液薄膜酸素供給方式による省エネルギー型高性能水質浄化システムの開発 宇部工業高等専門学校
中野陽一
宇部工業高等専門学校
黒木良明
本研究開発は独自技術により、水質浄化に効果的のある簡易な液薄膜型酸素溶解装置を開発した。この技術を用いて、省エネルギー型高性能水質浄化システムの開発を進めている。養鰻・クルマエビなどの養殖池の水質を浄化する際、電力消費量が少ないダイヤフラムポンプで、底質に酸素を溶解した水を供給することにより、従来の1/10程度の電力消費量で溶存酸素を大幅に増やすことが可能となる。更に、この技術に加えて、鉄鋼スラグカートリッジを用い、アルカリ成分で底質の酸化還元電位を上昇させ、硫酸還元菌の生育を抑制し、硫化水素の発生を抑える技術も開発する。このシステムは、湖沼や食品排水の浄化にも活用できる 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標に掲げた数値、1)電気料を既存施設の1/10程度、2)クルマエビの成長率1.5~2.0倍、生残率80%以上に対して、研究結果は、1)電気料、既存施設の約1/5、2)クルマエビの成長率同程度(親エビのため)、生残率78%であり、目標に近い達成度で評価できる。一方、技術移転の観点からは、産学連携による実用化が望まれる。今後は、既にしっかりとした研究体制を産学間で構築し、関係者による商品化に向けた検討も予定されているので、商品化・実用化への展開が大いに期待される。
プライバシーを侵害しない人物状態検知センサシステムの開発 宇部工業高等専門学校
中島翔太
宇部工業高等専門学校
黒木良明
本研究では、プライバシーを侵害せずに、人物の状態を検知するセンサシステムの開発を行った。本検知センサは、ロッドレンズとラインセンサで構成され、カメラで取得した画像の縦方向または横方向の明るさの積分値と同等の輝度の分布を取得できる。取得した輝度の分布を基本情報として、人物が入ってきたときの輝度分布との差分を求めることで、人物の移動及び転倒状態の検知が可能となった。さらに、2つの検知センサから得られる輝度分布から画像の再構成を行うフィールド試験を行った。実際に開発した検知センサを用いて、人物の状態を画像として取得することができた。これらの結果から、監視者が再構成された画像をモニタリングすることで、直感的に人物の状態を把握することが可能になることが分かった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標が概ね達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究計画に記載した複数人数への対応策、つまりロッドレンズによる輝度の積分が行われる方向に人物が複数いる場合の検知は検討されていない問題、その他の応用問題の検討をへて、実用化に進むことが望まれる。今後は、企業との共同研究も予定されているので、より実用化に近い研究開発が進むことが期待される。
メタリック塗装面のクリア層上のごく浅い表面キズの自動検出技術の開発 山口大学
河村圭
山口大学
森健太郎
本研究の目的は、工業製品の自動外観品質検査装置の開発である。特に、キズの深さにより、検出手法が異なることから、クリア塗装表面のごく浅いキズ(数マイクロm から10マイクロm 未満)を対象とした。本研究により、被写体が平面である条件での、ライティング手法および画像処理アルゴリズムを確立した。さらに、より浅いキズ(数マイクロm 以下)においても検出可能であることが明らかになった。しかしながら、1 台のカメラにおける検査領域が十分に確保できないこと、また、被写体が曲面である場合への対応が、課題となった。以上の特徴から、現時点では、本検査装置は、スマートフォンなど、平面かつ比較的検査領域が小さい条件の外観検査には有効である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、課題はあるものの、暗視野照明法による浅いキズを検出出来る装置の技術開発に関しては評価できる。一方、自動車用など高速検査が必要な分野にはまだ適さないために、ブレークスルーに向けて、更なる検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後、スマートフォン、家電製品などへ展開することも、応用展開として期待出来る。
マルチカラーLEDを用いた高効率白色LEDの開発 山口大学
岡田成仁
山口大学
杉浦文彦
現在商品化されている白色LED は青色LED に黄色蛍光体と組み合わせることで白色光などの多色発光を得る手法が主流である。しかしながら、蛍光体の寿命がLED の寿命を律速し、さらに青色から黄色に波長変換するときのストークスシフト損により高効率化を妨げている。この二つの問題を解決するために、本研究課題は蛍光体フリーのマルチカラーLED の開発を目的とし、現在のLED よりもより長寿命、高効率の白色マルチカラーLED が可能となる。本提案のLED 構造は、マルチカラーを用いる他に類を見ないことから白色LED のみならず一般的なLED 構造では再現が不可能であるとされる単一色以外の色彩豊かなLED も実現可能である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、未達に終わった原因の解析が明らかにされており、新規構造に関して提案された技術に関しては評価できる。技術移転の観点からは、ベンチャー企業などでの実用化が望まれる。今後は、提案された新構造のLEDの作成を急ぎ、性能を確認することにより、本技術の展開が期待される。
携帯情報端末を用いた道路付属物点検システムの開発 山口大学
麻生稔彦
山口大学
田口岳志
道路標識柱、照明柱、信号機などの道路付属物は交通機能を維持するために重要な構造物であるが、現在行われている腐食や劣化の確認は地表露出部の目視点検程度であり、損傷状況を十分に把握できているとは言い難い。そのため本課題では、道路付属物の損傷状態を簡易に計測・判定する手法の開発を目標とした。本研究により、対象とする道路付属物を衝撃加振により強制的に振動させ、この時の固有振動数および振動モードからニューラルネットワークを用いて劣化状態を推定することが可能となった。この際、1)損傷の有無、2)損傷の位置、3)損傷の位置と程度の3段階について、必要となる計測方法を明らかにした。今後、より簡便な測定・判定を実現するため、本研究により構築されたシステムの携帯情報端末への導入を図る。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標はほぼ達成された点は評価できるが、完成していないので、まだ技術移転は難しい状況です。スマートホンへの組込みに関し、ITベンダーとのマッチングを実現できれば、標識柱・照明柱・信号機などの柱基部の劣化状態把握に対するニーズは極めて高いため、技術移転につながる可能性が高いと判断される。今後、残りの課題を解決し、システムを完成させて、産学共同により実用化されることが望まれる。
蒸発促進冷却塔による冷房用電力の削減及びピークカット 山口大学
小金井真
山口大学
田口岳志
低湿球温度の空気を冷却塔に送り込み、蒸発を促進することにより空調に使える低温の冷水を作り出す仕組みを考案した。その仕組みを組み込んだ外調機システムについて年間消費エネルギー量を算出し、最適運転条件を把握するために必要な蒸発促進冷却塔の性能を調べた。本研究では、試作したダクト接続型冷却塔を用いて、導入空気の湿球温度及び水空気比と水温降下度との関係を明らかにした。今回得られた結果を用いて、まず種々の外調機システム構成について夏期の空調負荷最大時の消費エネルギー量を求め、最も消費エネルギーが小さくなるシステム構成を明らかにする。さらに新たに設計した小型冷却塔で得られる実験データも加えて期間シミュレーションを行い、システムの年間消費エネルギー量を算出し、最適運転条件を把握する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもダクト接続型冷却塔を用いたデータ収集の段階であるが概ね達成されている点は評価できる。一方、まだ基礎的なデータ収集段階であると思われる。今後、産学共同等の研究開発ステップにつなげるためには、優位性を判断するための技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
消費電力ゼロかつ放射性物質を同時測定できる簡易地下水流向流速計の開発 山口大学
山本浩一
山口大学
田口岳志

研究責任者は、電源を使用せずに、地下水の流向・流速を測定することが出来るディスポーザルな超低コストの装置「ペーパーディスク型地下水流向流速計」の開発を行っている。これまでの研究結果によれば、無電力ゆえに汎用性が高く、更には他付属装置を付することによって地下水中に拡散した放射性物質フラックスの計測ができる可能性を有することが分かっている。
本試験研究では、さらに本装置の計測精度を向上させるための最適設計と放射性物質の拡散状況を安全かつ効率的に計測する手法を確立する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、三次元地下水流動モデルによる数値計算による流速計の構造・流速測定法に関する検討はなされており、限定された条件下における試験結果であはあるが、流向測定精度はほぼ目標をクリアしているのは評価できる。一方、技術移転の観点からは、流速測定については定性的測定が可能になった段階で、定量的測定には至っておらず、今後の検討が望まれる。また、放射性物質を含んでいる地下水など多様な水質・温度に対する検討は見られない。今後は、企業化に向けて検討課題を明確にして、改良が進むことが期待される。
エナジーハーベスティング利用を想定した零次共振アレーアンテナを用いた高効率レクテナの開発 山口大学
山本綱之
山口大学
櫻井俊秀
「UHF帯動作零次共振アレーアンテナ」、 及び10mW未満の入力電力時に40%以上のRF-DC変換効率を実現する「UHF帯動作RF-DC変換回路」を開発する。 実施期間内において、 これまでよりも、 より小さい入力電力で動作する「UHF帯RF-DC変換回路」を開発した。 開発したRF-DC変換回路は入力電力が3mW以上で40%以上のRF-DC変換効率を示した。 さらに1μWという微小電力入力時でも整流動作を示すことを実験的に確認した。 開発を進める中で、 零次共振アンテナは損失が大きく高い利得が期待出来ないことが判明したため、 代替となる高利得UHF帯動作アンテナを用いて「UHF帯動作レクテナ」を開発した。 開発したレクテナを用いて無線電力伝送の実証実験を実施し、 蓄電池への充電を想定したキャパシタへの充電実験、 発光ダイオードの点灯実験に成功した。 今後、 高利得零次共振アレーアンテナの開発を進めると共に、 開発した微小電力用RF-DC変換回路を、 TV放送波や無線LANの電磁波を利用したエナジーハーベスティングへ応用することを目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもアレーアンテナを用いた高効率レクテナの開発に関して当初目的は達成され、実証実験も実施した点と次のステップへ進めるための技術的課題が明確にされた点は評価できる。一方、産学共同の研究開発ステップつながる可能性は高まっていると思われる。今後の応用として、微小電力によるエナジーハーベスティングなどへの展開が期待できるので、明確化した技術課題の解決を進めることが望ましい。
蓄電型太陽光模擬DC/DCコンバータの開発 徳島県工業技術センター
酒井宣年
徳島県立工業技術センター
柏木利幸
本研究で提案のDC/DCコンバータは日射量に大きく影響を受ける太陽光発電に関し、日射量低下および災害発生時などの系統電力遮断時において蓄電素子を用いることにより、安定な発電動作を目的とする。本研究は高周波トランス絶縁型方式として蓄電側電流電圧制御および太陽光パネル側の電流制御をおこなうことにより充電放電制御の検証を行った。また高周波トランスを独自開発しシミュレーション検証および試作実験を行うことで実機製作との比較検証を行いその基本動作を確認した。本原理により複数台での並列増設ができるため、設置箇所や用途によって自由に蓄電容量の選定が行えるなどの負荷機能も期待でき、これらの基礎技術をもとに今後普及の拡大が期待される蓄電システムへの適応の一手法としたいと考える。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。実用化されれば、企業からの製品開発の要望も多いインパクトのある研究と思われる。研究目標に対する得られた成果の記述が十分ではないが、今後、低コスト化システムが応用展開されるためには、総合的な効率等とコストを総合的に検討する必要があり、そのためには実機により、システムとしての性能評価が求められる。
小型風力発電に適した蓄電システムの開発 徳島県工業技術センター
室内秀仁
徳島県立工業技術センター
柏木利幸
風力発電の大きな問題とされるエネルギー変動への対応と発電した電力の活用について、有効な手法となる一般家庭用小型風力発電蓄電システムについて研究を行った。最終製品のローコスト化のためシステム主回路には直流中性点を利用したV結線三相インバータとDC/DCコンバータ制御を組み合わせることで大幅な部品点数の削減を行った。また小型でかつコギングトルクの発生しない高効率な永久磁石同期機を完成させた。小型の風力発電は日照条件に依存しない発電手段としてソーラー発電と補完しあう製品としてさらに普及することが期待され、地場にも風力関連企業があることから大学と共に共同研究等で実用化を図ることが可能と考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。太陽光発電システムを効率良く効果的に用いるための電力貯蔵システムで広い応用範囲が示されれば地域産業への貢献が大きいと思われる。今回の結果については、実動作としての充電動作のみであり、システムとしての種々の条件での評価が今後の検討事項である。今後は、蓄電設備も含めた総合的実証試験に取り組んで頂きたい。その上で、全体システムの高効率、低コスト、高信頼、システムとしての実現性等を実証評価して、課題の整理、全体システムの想定と実験評価を通じて、システムの有効性・優位性を示してほしい。さらに、技術移転を目指し知的財産権取得についても努力を期待する。
超音波キャビテーション技術を用いた放電加工におけるジャンプフラッシングレス化への取り組み 徳島県立工業技術センター
小川仁
放電加工は短間隙でのアーク放電を応用し、高硬度材料の除去加工を行う非接触加工方法である。一般的に放電加工では加工間隙にスラッジや気泡が発生し、その排出が不十分であると短絡や異常放電等が発生し加工面を悪化させる。このため、加工液の噴出や電極のジャンプフラッシングにより排出を促しているものの、ジャンプフラッシングの多用は加工速度を著しく低下させる。
本研究では、加工間隙の切削液の供給を効率良く行い、スラッジ排出促す超音波アシスト技術について取り組み、超音波出力や加工深さ及び側面ギャップ量の違いによる加工液の流動状態を可視化すると共に実加工を行い、高能率・高精度加工を実現する専用システムの開発を行う。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、放電加工に及ぼす超音波を用いたキャビテーション付与の有効性が確認されていることは、評価できる。具体的には、超音波キャビテーション付与放電加工法による止まり穴加工を実施し、電極先端振動振幅の拡大や加工屑流動観察、加工実験まで行っている。30分間の通常加工が加工深さ2.23mmに対し、超音波キャビテーション付与では5mmの加工深さを達しており、加工速度5倍の目標には達していないものの2.24倍向上していることは評価できる。加工穴の平行度向上や、5mm角の電極で加工深さ5mmまではキャビテーション効果が確認されるなど、目標数値の達成割合以上の実用的知見が得られている。一方、技術移転の観点からは、加工面粗さの記載が無いことから目標値(面粗さRa 1μm以下、 平面度5μm以下)は達成していないと推測され、確認が望まれる。今後は、技術移転予定先と共同で研究を進め、実用化されることが期待される。
堤防、護岸、道路盛土の浸水・空洞形成危険度判定方法の開発 徳島大学
上野勝利
株式会社テクノネットワーク四国
辻本和敬
土構造物にとって内部への浸水は、含水比上昇による土の強度の低下や、排水に伴う土粒子の流亡による空洞化など、重大な問題を引き起こす。そこで長大な土構造物の維持管理に適した、検出範囲が既存の計測器に比べ格段に広い、単純で低コストな施工性のよいセンサを開発した。さらにセンサ埋設位置での空洞の幅と測定値の変動の大きさとの関連を見出し、空洞化の危険性を評価する方法を開発した。また、カラム試験を行い、本方式によるセンサと、既存の計測器の性能比較を行ない、性能的に遜色のないことを確認した。今後は堤防など実構造物での試験計測を行い、実用性を高めていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、広大土構造物への空洞形成を検出するためのセンサの開発を目指したもので、土の締固め施工に追随できる、高感度の計測結果が得られている点で、評価できる。一方、技術移転の観点からは、陥没・崩壊等の局所的な変状を検出するためには、あらかじめセンサを設置するべき危険個所を予測できるかという問題があり、検討を要する。最近、ゲリラ豪雨が多発し、斜面崩壊や堤防決壊の危険性が高まっている。豪雨に伴う減災・防災への緊急度は高い。今後は、研究成果の応用により、実用化に向け進展することが期待される。
ローメンテナンス小型ハイドロタービンの研究開発 徳島大学
重光亨
徳島大学
兼平重和
ローメンテナンス小型ハイドロタービンとして二重反転形羽根車と低ソリディティ羽根車の採用を考案し、高性能かつ異物通過性の良好な小型ハイドロタービンの研究開発を行う。ここでは、研究開発期間の間に直径100mm程度の小型ハイドロタービンにおける最高効率50%を超える効率の実現と良好な異物通過性を実験的に検証することを目標とする。性能特性について調査した結果、本供試小型ハイドロタービンは最高効率70%を実現し広い流量範囲において高効率(50%以上)であることがわかった。また、砂、砂利、枯葉などに対する十分な異物通過性を確認できたが、繊維状の異物通過性の改善が今後の課題であることが明らかとなった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、小型水力発電において、水力効率を50%以上と目標を立てていたことに対し、最高で70%と良好な結果を得ていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、砂利、落ち葉などの異物通過は可能であるが、茎などの繊維の通過が困難である問題が発生し今後改良が望まれる。今後は、用水路などへの利用が期待でき、今回明らかになった課題の解決を経て、次のステップに進むことが期待される。
焦電材料の形成する誘起高電場を利用した新規な化学反応技術の開発 徳島大学
山本孝
徳島大学
兼平重和
本研究では、特定の焦電材料表面に自発的に形成される数十kVの電位を化学反応に利用することを目標とし、装置開発、高電圧発生実験、活性試験の三項目から構成される。今年度、小型ダイヤフラムポンプと小型ターボ分子ポンプ、低真空対応型質量分析計、温度コントローラー、自作高電場発生ユニット、真空配管部品を基に、超小型真空排気ユニットを製作し、到達真空度10^-5 Paを達成した。また焦電結晶による高電場発生現象の高効率化を目的としたX線計測実験を行った結果、既往の報告よりも三桁高い真空度でもX線が発生することを見出し、放電と浮遊荷電粒子の衝突に起因する新しい二元X線発生機構を提案し、査読付学術雑誌上で発表した。密閉系で化学反応を行うことを念頭に、高電場発生ユニット、10^-2 Paまで使用可能な超小型質量分析計、精密バリアブルリークバルブ、ダイアフラムポンプ、小型ターボ分子ポンプを取り付けた装置を製作した。質量分析計が使用可能な真空度を一時間維持することができた。また製作した装置を用い、白金触媒を焦電材料表面に装着した状態でも高電場を発生させることに成功した。本成果は、2012年11月に学会にて発表予定である。

概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、焦電結晶上での高電場発生に伴うX線発生現象に関して、基礎的で学術的に重要な知見を得ている。焦電体の結晶の温度を制御することにより、従来よりも強力なX線が長時間安定に発生できるようになったことも優れた成果であると評価できる。従来技術に対する優位性は確認できたが、新規特許出願や企業との共同研究には至っていない。一方、技術移転の観点からは、計画した活性試験が未達成である。機材からの出ガスの問題が生じたためにやや遅れてしまったが、原因がはっきりしているため対策を講じやすく、研究の継続により、完遂することが、望まれる。今後は、知的財産の確保に係る取り組みや、企業へのアプローチにより、次ステップの目標値を明確にして、研究が進展することが期待される。
走査プローブ顕微鏡用導電性ナノプローブの開発 徳島大学
永瀬雅夫
徳島大学
新居勉
ナノ加工技術を駆使した導電性ナノプローブの開発を行った。集束イオンビーム堆積法により走査プローブの先端部に導電性のカーボンナノ構造体を形成し、走査プローブ顕微鏡用のナノプローブとすることに成功した。作製したプローブの特性評価をSiC上グラフェンを用いて行った。その結果、従来の導電性プローブと比較して格段に高い空間分解能を有するナノプローブが実現されていることが判った。これは、カーボン構造体のコア部分の径1nm程度の領域が導電体として機能していることを示している。実測した摩擦係数は小さく耐摩耗性にも優れることが期待される。また、プローブの作製に掛かる時間も短く(数秒)と短く低コストで高性能なナノプローブが実現できる可能性を示すことが出来た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ナノスケールのカーボン構造体を用いた、ナノプローブを作製しようとする点の独創性は評価できる。一方、技術移転の観点から、耐摩耗性やその実証実験の必要性を指摘している点は同感である。今後は、今回の研究によって得られた知見を基に、実用化に向けた課題が解決されれば、技術移転につながる成果が得られると期待される。
高加工精度・高加工能率を目指したガラス基板への微細穴あけ加工用工具の開発 徳島大学
溝渕啓
徳島大学
新居勉
本研究の目標は、高加工精度、高加工能率および低加工コストを実現させるガラス基板への微細通り穴あけ加工法の構築である。本課題では、微細穴あけ加工において問題とされる切りくず排出について検討を行った。円筒状工具の側面にストレート面を2つ施したダイヤモンド電着工具をもとに、穿孔部の形状が異なる工具を新たに考案・作製し、切りくず排出性の向上について調査した。また、高加工精度を維持しつつ高加工能率を実現するために加工条件の検討を行った。本工具の特長は、工作機械の改造や切りくず排出を促進させる動作などを行うことなく、切りくずをスムーズに排出できることである。また、高い加工精度を保ったまま、加工時間の短縮を可能にした。今後は、微細径工具の作製に臨み、実用化に向けた試みを図りたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、加工精度や加工能率は目標に達しており、切屑の優れた排出を生み出す工具形状を明らかにし、送り速度を高め加工能率を上げる方法として、送り速度制御を提案していることは、評価できる。また、特許出願も行われていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、加工コストは目標に達していない、また、工具寿命の検討については、未着手であるなどの残された課題があり、さらなる進展が望まれる。今後、これらの課題解決については、企業と連携し、加工精度や加工能率が長時間維持できる可能性を明らかにし、技術移転を図ることが期待される。
ウエハー接合法による分極反転した結合共振器構造を用いた単色テラヘルツ光の生成 徳島大学
森田健
徳島大学
新居勉
本研究開発では、半導体多層膜結合共振器構造を利用した、より高効率なテラヘルツ帯差周波発生デバイスを実現するために、分極反転した半導体結合共振器構造を作製し、またそのテラヘルツ波増強について調べた。結合共振器内の二つの共振器層で生じる非線形分極が同じ向きである、分極反転構造は、常温表面活性化法を利用したウエハー接合によって作製した。そのテラヘルツ帯差周波発生をテラヘルツ時間領域分光法によって調べた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも分極反転した結合共振器構造を作製し、テラヘルツ波増強効果を確認するの技術に関しては評価できる。基盤部分の着実な進展はあるが、企業との共同研究の端緒となる成果にはまだいたっていないものと思慮する。今後は、問題点解決に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。また、共同研究や技術移転などにつながるよう、知的財産権取得されることが望まれる。
ナノ領域での光電界増強効果を用いた高感度光分析用チップの開発 徳島大学
原口雅宣
徳島大学
新居勉
ナノ領域で強い光電界増強効果を有する金属ナノ微細構造を作製し、その光電界を利用して入射光波長が500nm付近から1100nm付近にて超高感度な分子分光計測を行うためのチップを開発した。そのために、JST産官学拠点形成事業で導入された微細加工関連装置等によって、テンプレートとなる鋳型形成と異方性エッチングを行い、表面増強ラマン散乱による超高感度分光に最適化された金または銀によるナノ構造体の構造を作製するための微細加工技術の確立と光学的実験による有用性の実証実験を行った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。競争の激しい進歩の著しい分野での研究で、サンプルの作成に成功したことは評価できる。しかし、基礎的研究が主体であり、本手法で得られた金属ナノ構造体の表面粗さや加工精度等を、従来手法と比較し、パターンに必要な性能や品質、コストの目標値の再検討が望まれる。今後、技術移転を目的とした製造コストを下げる新しいチップ作成技術へ発展されることを期待する。
非接触型超音波による配管の超精密減肉計測 徳島大学
西野秀郎
徳島大学
増田隆男
本研究は、円周ラム波を用いて配管の減肉を高精度に計測する手法において、計測位置近傍に存在する溶接線が計測精度低下に与える影響を科学的に説明し、高精度に計測する方法を提示することで、実用化へのハードルを除去することにある。結果として、円周ラム波が円周軌道から斜めに伝搬する不要信号により計測が困難になることをモデル計算と実験から明らかにした。また本モデル計算を利用することで斜め不要信号を含有する場合でも、30μm程度の誤差の高精度で減肉計測できることを明らかにした。また、更なる精度向上には、センサーの中心周波数を校正することが必要である可能性を示し、その点を将来の重要な仕事と位置づけた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、配管の高精度な減肉検査は原子力発電所等の圧力配管や多くの化学プラントで切望されており、非接触で計測が可能な本手法において、実用化に向けた実環境での困難性の解決という当初の目標が達成されていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、今回の研究で取得した多くの実験データの解析を進め、校正法と精度向上策を計画し、一桁精度の精度向上を実現する方法を検討することにより、実用化に進むことが望まれる。今後は、本研究はまだ基礎研究の段階であると判技されるので、技術移転をめざした産学協同の研究開発に進むことが期待される。
空中3D表示のための高精細な多焦点レンズシステムの開発 徳島大学
陶山史朗
徳島大学
大塩誠二
本研究開発では、臨場感あふれる仮想的な協同作業や遠隔操作への適用を目指して、何もない空中へ3D表示できるキーデバイスとして、焦点距離を高速に変化できる多焦点レンズシステムにおいて、以下の4課題の解決することができた。(A-1)焦点位置を高速に切り替えるための高速駆動装置を構築、(A-2)偏光切替器の偏光方向の切り替えにおける不必要な成分の発生を1/10以下に改善、(A-3)偏光2焦点レンズが良好な結像特性を有することを検証、(A-4)高速な焦点位置の切り替えに対応できる高速な2D表示装置を小型プロジェクタアレイにより構築。今後、この多焦点レンズシステムを用いた空中3D表示システムのブラッシュアップを行い、その実用化を推し進めていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、個別の機能の研究の目標が達成できた点は評価できる。一方、提起されている4つの課題は、個々のアプリケーションに対しては、技術移転の可能性はあるが、機能を複合的に結合されなければ、3D画像を臨場感あふれる空中画像を生成させることはできないので、何らかの新しい取り組みが望まれる。当面は、提起されている課題の解決に注力し、挑戦的な課題の実現に向けて、研究を継続することが期待される。
深紫外LED用炭素系新薄膜材料の開発 徳島大学
直井美貴
徳島大学
大塩誠二
本研究は、気相成長法によるリンを添加した炭素系薄膜の薄膜成長技術の確立およびその基礎物性を解明することを目的として実施したものである。基板材料、原料供給条件等の成長膜への影響を、走査型2次電子顕微鏡、ラマン散乱分光法、2次イオン質量分析法、X線エネルギー分散法により解析し、リン添加により炭素系薄膜が気相成長法で作製できること、また、基板と炭素系薄膜間の中間層の選定が重要であり、炭化アルミニウムが有望であることを明らかにした。本手法の応用により、さらに高品質な薄膜作製およびデバイス応用が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。残された課題の解決の道筋も明らかにされている。ただし、現状は基礎的な研究に重点が置かれており、実用化のための具体的開発技術が明確とは言えない。今後は実用化に向けた知的財産権取得についても努力を続けて頂きたい。
マイクロ波のドップラーシフト分散を利用した飛翔体回転計測 香川県産業技術センター
小林宏明
飛翔回転体へ照射されたマイクロ波が回転速度に応じてドップラーシフトすることを利用した、非接触型の回転計測装置の開発を行ってきた。従来研究においては、超音波を用いた計測が行われているが、マイクロ波を利用することで測定時の距離及び感度、速度分解能等の性能を向上させることが可能となる。本開発では、2.4GHz帯域のマイクロ波ドップラーセンサを独自に試作し、非接触回転計測の原理検証を行うことで回転に伴うドップラーシフトの計測が可能であることを確認した。現状では、実際に移動する回転体の計測までは検証できていない。そのため、今後は協力企業と共に飛翔回転体の計測実験及び装置改良を進め、製品化を目指していく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、2つのアンテナによる改良により、回転に伴うドップラーシフトと思われるものは検出でき、非接触での回転体の回転計測が達成できたことは、評価できる。一方、試作装置ではドップラーシフト分散が観測できないとの結論にいたったため、基本にもどって、研究の進め方を見直すことが必要である。今後は、申請時に挙げている課題は実用化の上で解決することが不可欠であり、再度計画を見なおし、研究を進めることが望まれる。
単極型Zn4Sb3系熱電発電モジュールの開発 香川高等専門学校
相馬岳
香川高等専門学校
関丈夫
β-Zn4Sb3化合物は従来材料を超える熱電特性を有する熱電材料であるが、実用的な熱電発電モジュールの開発に到達していないのが現状である。Zn4Sb3化合物のモジュール化が進まない主たる原因は、同化合物がp型特性のみを有し、添加元素等の改良を施してもn型に転化できないためである。そこで、本研究ではp型材料のみの単極型モジュール作製を目標とした。今回は、研究開発期間の後半4ヶ月間の研究期間において1)Zn4Sb3化合物の簡易的作製方法の確立、2)4素子の単極型熱電モジュールの作製及び評価、3)長期耐久性試験を実施した。その結果、4素子の単極型熱電モジュールの作製方法を確立し、オーミック特性、発電特性において当初の目標をほぼ達成することができた。耐久性評価については、目標回数である365回の熱サイクル印加について未達であるものの現時点まで得られた結果から外挿した結果、365回の耐久性を確保できる見込みを得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。素子の作成への前例がない、β-ZnSBを用いる単極型熱電モジュールの試作を行い、小さいながら実際に発電が行えた点はほぼ目標を達成したといえるが、起電力も小さく、実際に素子として使用するにはかなりハードルが高いように思われる。、特にp型の半導体のオーミック性については材料を含めて再検討が必要に思える。今後は、材料の特性と素子の設計を再検討して、特性向上を目指すことが望まれる。
耐震形伸縮可撓・離脱防止機能付き大口径管路用継手の開発 香川大学
野田茂
3つの目標(管体・継手の復元力特性の解明、異形管を含む配水管網の耐震安全照査、従来技術との対比による新製品の効果解明)はいずれも達成することができた。各種の性能試験によって力学特性(変位-力、回転角-モーメントの関係)が明らかになるとともに、4cmの伸縮量と±5度の可撓角を満たす継手構造が求められた。修正伝達マトリックス法の適用により、地震波動ならびに地盤変状を伴う異形管の応答挙動が正確に算出できることがわかった。従来技術の継手挙動と比較した結果、継手に要求される耐震性能が明確化され、新たな耐震継手と本解析法の優位性が実証された。技術移転の可能性はあるが、新製品開拓に向け、さらに複雑な配水管網への適応性を検証する必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に計画した以下の目標を達成したことは評価できる。1)継手形状、材質による力学的特性を明らかにした。2)シミュレーションにより継手の、地震応答を解析し、継手形態による地震対応性(変位、耐震性)を明らかにした3)解析の有効性を確認した。一方、技術移転の観点からは、計画した大口径管の解析や伸縮可撓離脱防止メカニカル継手に関する記載がないのは残念である。また。次のステップへ進むための技術的課題は明確化されているが、その具体的記述は乏しい。総合すると、だいたい初期の成果は得られたものの、それらの技術移転に関しては、課題が残ったと見るべきであり、さらなる進展が望まれる。今後は、製品として具体化される予定であるが、水道管等の配管の地震に対する信頼性を経済性も考慮して評価できる手法になりうるように、さらに研究が発展することが期待される。
赤外分光イメージングによる無浸襲血糖値センサー実現可能性検討 香川大学
石丸伊知郎
香川大学
倉増敬三郎
我々が有する世界初の超小型赤外分光イメージング技術による、無侵襲血糖値センサーの実現可能性検討を行った。試験管レベルで、人の血糖値と同程度の極薄グルコース溶液濃度(約100mg/dl)を、近赤外領域の分光特性から計測可能であることを実証した。また、ラットの耳の生体組織片の近赤外分光断層像イメージング取得にも成功している。これは、提案手法が、計測深さを合焦面内に限定して2次元で分光特性分布を取得できる優位性を実証した結果である。今後、生体組織内部の近赤外分光特性分布からグルコース濃度の推定を行い、無侵襲血糖値センサーの実現を目指す。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。血糖値センサを中心とした赤外分光イメージングの開発については、ほぼ確立された。さらに研究を発展させるためには、研究規模の拡大あるいは事業化に向けた検討、加えて個々のセンサデバイスに対する実用化課題の明確化と詳細な計画を考えることが必要である。
MEMS技術を用いた医療用ラマン散乱式小型ガスセンサ 香川大学
下川房男
香川大学
倉増敬三郎
本研究は、ラマン散乱式のファイバ型ガスセンサのプロトタイプを製作し、センサ小型化の実現性、並びにその有用性の検証実験(従来の半導体式等のガスセンサにないガス選択性、H濃度1%計測)を行なうことを目標にしたものである。微弱、かつ空間に広がってしまうラマン散乱光を、Auメッキが内壁に形成された割りスリ-ブ内に閉じ込め、効率良く受光側ファイバに導波することで、Hガス検出の高感度化に高いポテンシャルを有する小型(センサ部の直径、長さ:φ4.5mm、4cm)のファイバ型ガスセンサを製作した。今後は、割りスリ-ブ内の光学部品の最適構造設計により、入射レ-ザを完全に遮断し、高効率に発生したラマン散乱光のみを取得できる状態を実現して、本センサの有用性の検証を行なう。 当初目標とした成果が得られていない。代替案としてファイバ型ガスセンサに計画を変更されたため、当初の目標に対して、代替案センサが目標を達成できるかどうかの判断をするには、データ収集が不十分である。代替案に切り替えたことにより、他手法との優位性も含め、目的や目標値に対する再検討が必要と思われる。
テーラーメード遠隔医療にむけたミスト混合型機能性気流デバイスの開発 香川大学
高尾英邦
香川大学
倉増敬三郎
高齢化社会の進行とともに、地域医療の問題を改善する遠隔医療への期待が高まっている。患者の体質や病歴を考慮したテーラーメード医療の重要性は遠隔の診療でも変わりないが、(1)触診による病状経過観察の困難性、(2)認知症患者への適切な薬剤投与の困難性等が障害となりうる。本研究は「医工情報領域融合による新産業創出拠点」のなかで、「ナノミスト等異種材料を混合した立体気流」を高密度で生成・制御可能なマイクロデバイスを実現する。力覚と冷温感の複合提示による遠隔触診提示装置、常時装着も可能な超小型投薬制御デバイス等を開発し、テーラーメード遠隔医療における課題を解決する新技術の可能性について検証する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に世界に先駆けて、力覚、冷温感、微少噴霧など多方面におけるマイクロベンチュリーの試作を実施し、その基本性能評価と実用デバイス構造作成に関する事業化の可能性を示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、医療用薬剤では難溶性が多いと思われ、微小投薬ディバイスとして活用が不適となる可能性がある。今後は、応用面で新しい医療機器の開発に向けて、その分野との連携も期待する。
結晶軸配向性Ba1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3高性能鉛フリー圧電材料の開発 香川大学
馮旗
香川大学
倉増敬三郎
本研究では、Ba1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3配向性板状粒子および実用化に求められる温度特性を有するBa1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3配向性圧電セラミックスの開発を行った。層状チタン酸板状粒子から新規二段ソルボサーマルソフト化学反応法で板状粒子形状を保持したまま、Ba1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3に変換し、結晶軸方位の揃ったナノ粒子集積体から構成されたBa1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3配向性板状粒子の合成に成功した。TEMやFE-SEM等のナノ構造解析の結果から板状粒子を構成するBa1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3ナノ粒子は[110]結晶方位に高い配向性を有することがわかった。このようなナノ粒子集積体からなるメソクリスタル板状粒子を配向成形した後、焼結してBa1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3配向性セラミックスの試作を行い、配向性セラミックスを作製できることを確認した。このような配向性圧電セラミックスにドメイン制御技術を利用すれば、これまでにない巨大圧電効果が期待される。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、Ba1-x(Bi0.50.5TiO板状粒子を構成するナノ粒子のサイズを50nm以下に抑えること、74%の配向度を達成できることを明らかにしている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、共同研究先、連携先企業などすでに明確化されており、具体的に検討されていると判断される。また、電子デバイス、環境保全の観点から鉛フリー圧電材料の開発は国内外において非常に重要な分野であり、本研究成果が応用展開された際には、社会に大きく還元されることが大いに期待できる。
ヒトの動揺感覚メカニズムに基づく車両乗員の動揺病低減装置 香川大学
土居俊一
香川大学
渡辺利光
我々は先行研究において神経生理学仮説に基づく動揺病(車酔い)数理モデルを提案している。またそのモデルと実車実験により、ドライバの頭部運動の動揺病低減効果を示した。そこで本研究では、動揺病低減効果および乗車快適性向上を目指し、ドライバに近い頭部運動を同乗者に誘発する動揺病低減装置を開発することを目的とした。エアバッグをシートに埋め込み横加速度に応じて大腿部に刺激を与える装置を試作し、本研究で検討したパック体積決定手法などを実装したプロトタイプを製作し、実車実験にてその効果を検証した。その結果頭部ロールを減少する効果があることを示唆する結果を得た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にエアバックをシートに埋め込んだ試作機を用いて、頭部運動抑制効果があることが示されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、作動タイミングの決定やエアバック体積の定量的な決定が望まれる。今後は、効果の個人差による影響の解明、車酔い防止装置の社会的ニーズの調査により、実用化に向けた要求仕様を検討することが期待される。
窒化アルミニウムの電気伝導度制御を可能にする工業的な製造方法の開発 香川大学
楠瀬尚史
香川大学
渡辺利光
先行研究において、導電性AlNを作製するために、AlNに助剤として希土類酸化物を添加し、1900℃以上の高温と炭素還元雰囲気の強い条件で、12時間の熱処理時間を必要とした。これは、導電経路となる粒界相が最初は絶縁体の希土類アルミネート相であるが、導電性のある希土類酸炭化物に変化させるために、炭素を焼結体表面から内部の粒界に拡散させることが必要であったためである。
本研究では、助剤成分としてCeO2を用いることにより、出発原料としてカーボン粉末を添加してもAlNの緻密化が進行することを発見し、原料としてAlN、Y2O3、CeO2、Cを用いることにより、低温・短時間で希土類酸炭化物粒界相を有する導電性AlN焼結体の作製に成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、実施計画通りに研究が進められており、申請時の目標をある程度達成している。一方、技術移転の観点からは、半導体作製装置分野への応用により、製造プロセスの低下につながると考えられ、研究の発展が望まれる。今後は、様々な焼結手法の適用などの検討を進めていくことで実用的な品質を有する窒化アルミニウム焼結体の物性制御が可能になることが期待される。
経皮投薬デバイス等の微細金型製造のためのマイクロテーパー微細孔の加工技術 香川大学
吉村英徳
香川大学
渡辺利光
経皮投薬用の剣山状微小中実針を樹脂のインプリントもしくは射出成形によって製造するための金型について、安価かつ大量に製作するための技術を検討した。穿刺性の良いテーパー状の針とし、樹脂成形金型への圧力を低減するため、針の輪郭となる金型の孔はテーパー状の貫通孔としており、この孔形状を容易に作り込む。約1mm厚のステンレス金属板材に直径0.1mm~0.15mmのドリルにて7~8倍の高アスペクト比の貫通穴をあけた後、高硬度工具鋼SKD材のパンチ型を用いて片側開口部を塞いだり、孔をテーパー状などの形状に成形した。貫通孔裏側に樹脂が漏れないよう、閉口化された片側開口部直径30μm以下、閉口化部近傍テーパー角度の制御ができる方法を開発した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、1mm厚のステンレス板に0.1mm以下、孔長さ0.5~1mm、閉口化された片側開口部直径30ミクロン以下、閉口化部近傍テーパー角度の制御を目指し 最初の目標の0.8mm間隔の剣山状型製作は、達成した。金型製作に関してはアルミ合金で当初目標を達成したことは、評価できる。一方、SUS材では十分な精度のものは実現できていないが、その可能性は見出しているので、さらなる検討が必要である。今後は、それらが解決できれば企業化への道筋も明確になると期待されるので、研究の進展が望まれる。
アクティブプラズモンフィルタの開発 香川大学
山口堅三
香川大学
渡辺利光
アクティブプラズモンフィルタ(APF)の実用化には、反射光効率の改善が必要である。数値計算を用い、金属膜厚依存反射光特性を評価すると、金属膜厚を薄くすることで反射率の増大を確認し、ある構造条件下で金属膜厚を100 nm以下にすると90 %以上の反射光効率を達成した。また、金属層数を変化させることで、プラズモン共鳴ピーク波長の大幅なシフトに成功した。この両者を組み合わせれば、APFの実用化が本格的に期待される。さらに、作製したAPFは、バイアス電圧で共鳴波長の可変化の観測に成功した。しかしながら、既存の作製方法では加工精度に問題があり、作製手法の検討が必要である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。スパッタ法によるセラミックス多層積層技術の開発がテーマである。膜の応力が発生するが、10層程度まで可能との判定で、従来法より小型化した製品を容易に作れるようになった点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、薄層化や積層化が進んだことで、企業側もこの技術を受け入れやすくなったと思う。今後は、積層段数の増大が今後の課題であるが、解決に更なる努力を期待する。
慣性誘発度に基づく大腿義足歩容制御技術の開発 立命館大学
和田隆広
立命館大学
西原卓哉
大腿義足では、一部の高価なものを除き階段昇段は不可能である。それは、階段昇段時に義足足部が段差に衝突することなどが原因である。そこで、本研究では、階段昇段が可能な大腿義足の歩容制御手法を確立することを目的とする。まず健常者の階段昇段実験を行い、異なる足部配置戦略の効果を明らかにした。また、義足下腿部の慣性特性を変化させた数値シミュレーションを行い、慣性運動のみで階段への衝突の生じない慣性特性の組み合わせを明らかにした。また歩行フェーズに基づいて膝関節の回転方向の制限を加える義足膝継手を考案し、プロトタイプを製作した。さらに、階段昇段実験を行い、提案制御手法の有効性を示した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初計画した3つの課題:階段昇段に適した慣性特性の導出、プロトタイプ試作、ならびに評価実験のいずれも目標を達成していることは評価できる。また、 本研究成果は、予め決められた階段を対象とするアルゴリズムにより構築されているが、多くの有用な示唆を含んでおり、技術移転につながる成果が得られたものと考えられる。また、新規の特許出願もなされている。一方、技術移転の観点からは、今回の結果は与えられた形状の階段に対する解析、一定速度に対する解析であり、種々の形状、速度等への変化への対応による実用化はこれからであり、さらなる課題解決が望まれる。今後は、連携先企業をみつけるとともに、価格、安全性など実用性に対する検討にも期待したい。
液中プラズマによる高品質カ-ボンナノチュ-ブの高速合成 愛媛大学
豊田洋通
愛媛大学
吉田則彦
本研究の最終目標は、液中プラズマCVD法を用いてシングルウォールカーボンナノチューブSWCNTを高速に大量合成するプロセスを開発することが目的である。本年度は、まず、液中熱CVD法を用いたSWCNT合成法を参考にして、熱化学反応を、液中プラズマ反応に置き換えることを試験した。液中熱CVD法では、通常、基板を500℃に加熱するが、本研究では、合成物の顕微鏡観察とラマン分光分析によるラジアルブリージングモード(RBM)測定をそれぞれ行った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも液中プラズマを用いてカーボンナノウオールが生成でき、カーボンナノウオールの生成の可能性を見い出した点は評価できる。一方、今後の実験による課題の明確化が必要である。企業との連携により、技術の解明を目指すことを予定しているので、期待したい。今後は、十分な実験を行い、カーボンナノチューブが作成できなかった原因解明とカーボンナノウオールが生成できた要因の解明を期待したい。
二次元走査型熱電特性評価装置の開発 愛媛大学
栗栖牧生
愛媛大学
松本賢哉
バルク状の熱電変換材料のゼーベック係数および電気伝導率の(1)空間分布(均一性)精密評価、(2)その可視化マッピングを行うために、微小プローブを用いた二次元走査型評価装置の開発を行った。汎用ノートPCを用いて、二次元走査の制御、微小領域のゼーベック係数と電気伝導率の全自動測定化を進めている。市販の自動ステージの自動制御プログラム開発に改良の余地があるが、種々の制御・計測プログラムと可視化プログラムは完成しており、各種の試験を重ねている。完成後は、単結晶試料の作製が困難である材料における熱電特性の異方性を明らかにすることが期待できる。更に傾斜機能材料の電気特性評価、格子欠陥の評価にも応用が可能である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、機械設計と自動測定プログラムを構築したゼーベック係数の全自動測定化と、2次元分布の可視化を実現している点は評価できる。一方、直流4端子法に基づいて電圧端子間を100~300μmまで極小化することに成功しているが、局所分解能としての20μmには達していない。目標をクリアした測定システムが完成すれば、ニーズがあるので実用化が望まれる。今後は、分解能の向上により目標の達成が望まれる。
視覚障害者用歩行支援システムの開発(転落防止システム) 愛媛大学
岡安光博
愛媛大学
松本賢哉
距離センサーを用いて、障害物を検知し、視覚障害者の転落防止システムを開発した。障害物検知には様々な距離センサーを用いた。障害物の情報提供は、触覚等によ り行なった。この開発は、実用化を考慮しており、システムは安価および軽量に取組 んだ。また、このシステムをコンパクトに設計すると同時に利き手が左右でも対応で きるようにした。このシステムの開発は、本研究目標をほぼ全てクリアーした。今後 は、システムの低コスト大量生産及びシステムの信頼性向上に取り組み、実用化(商 品化)を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に視覚障害者のニーズを把握した上でシステムを開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、障害者による評価だけでなく県内企業、自治体等を巻き込んで実用化のためのの細部を詰めていく段階であり、十分な成果と言える。また、生産コストの低減化に取り組む姿勢が認められ、今後は企業との共同開発のステージにおいて実用化を目指すことが期待される。
燃料電池用改質ガス中の微量CO検出センサの開発 愛媛大学
山浦弘之
愛媛大学
大野一仁
本研究の目標は、燃料改質水素ガス中における低濃度(5-100 ppm)付近のCOを検出するセンサの開発である。今回、SnO2-In2O3の複合系材料を用い、還元温度条件、SnとInの比率、担持CuO量の最適化を行うことで、目標濃度まで十分検知可能なセンサの開発に成功した。また、新たに還元ガス雰囲気でのセンサ検知メカニズムとして、COとH2Oの共存下での酸化、還元サイクルが重要なことを見出している。さらに、高感度化の達成は、SnO2複合材料上に高分散したCuによる反応場の増加に起因していると考えられた。今後は、実条件のガス雰囲気での評価を行い、実用化の可能性を探っていくこととする。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標がほぼ達成され、次のステップへの課題は明確になった点は評価できる。高感度センサ材料の作製、センサ素子作製条件の最適化は、技術移転につながる可能性が高いと判断される。模擬条件でのCOセンサ測定については達成されていないが、有望な材料および測定条件を見いだすことができており、今後の展開が期待できる。
被災地における障がい児者・高齢者のための「秘密基地」ユニットの開発ー安全で快適な避難を可能にするための環境づくりー 愛媛大学
苅田知則
愛媛大学
大野一仁
本研究では、障がい児者が安心・快適な避難生活を送ることができるように、簡易型個室空間とストレスを軽減させる装置を組み合わせた環境ユニット:「秘密基地ユニット」を開発しました。試作した環境ユニットでは、(1)閉鎖空間で、利用者のパーソナルスペースを保護する機能、(2)ノイズとなる視覚・聴覚情報を遮断し、S/N比を高める機能を実現しました。実証実験の結果、試作ユニットを利用した後、精神的ストレスの生理指標(唾液アミラーゼ活性量)が利用前の数値に比べて有意に低下したことから、「秘密基地ユニット」によって精神的負荷が軽減されたことが示唆されました。また、福祉現場での試用において、障がい児が好きな絵本・玩具等(快感情を促進する媒体)を持って自発的にユニットを利用する姿が観察されたことから、(3)過去の快エピソードを回顧できる機能についても、個々人のニーズにあわせて媒体の選定を行うことで対応可能と考えました。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、視覚及び聴覚ノイズを遮断しつつ閉鎖空間で利用者のパーソナルスペースを確保するユニットがよく検討されているのは評価できる。一方、技術移転の観点からは、被験者数が減ったこと、「過去の快エピソード回顧機能」研究は簡単なテストで傾向を調べた段階であることもあり、さらなるデータの充実が望まれる。今後は、災害の多発する昨今の世界状況の中で、様々な用途での実用化が期待される。
来島海域での潮流発電を想定した高い効率の直立型水車の開発 愛媛大学
中村孝幸
愛媛大学
大野一仁
来島海域は、多くの島が存在することで狭窄部が形成され、強い潮流が発生することで有名である。本研究は、最初に上げ潮時と下げ潮時で流況が異なるなど複雑な流れが現れやすい来島海域を対象にして、潮流エネルギーを効率よく変換できる水車構造を明らかにした。具体的には、流れの方向による影響を受けにくい鉛直軸型水車を想定して、低流速に対しても稼働性の高いサボニウス水車を用いた。この際、エネルギー変換効率を高めることを目的として、鉛直軸水車の外周りに流向制御板を取り付けるなどの改良工法や、現地の島周りにおける複数の発電水車の設置を想定して効率的な水車の配置方法などを計算流体力学に基づく数値解析法と水理模型実験により明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、サポ二ウス水車に流向制御装置(フィン)を渦流型に配置した増幅装置を取り付けることにより、目標とする潮流エネルギーの変換効率60%以上を達成したことに関しては評価できる。一方、水理モデル実験の結果を基にして実機の設計と製作およびそれらの設置を行い、実際の潮流発電へ具体的取組などを通じて直立型水車が実用化されることが、技術移転の観点から望まれる。今後は、地元企業や自治体との連携を密にして、次の段階に開発研究が展開されることが期待される。
排風利用風力発電システムの高効率化 高知大学
佐々浩司
大規模空調装置や換気装置の排風は自然風と異なり常時風力発電に有効な風速をもつため、小型風力発電機をそこに設置することにより、一部でも電力解消が期待できる。ここでは、排風がもつ旋回流の特性や、風速変動を抑制しつつより風量を増すような付加装置を開発し、排風利用発電の高効率化をめざす。本研究により、発電の妨げとなる旋回流や風速変動の抑制方法はほぼ確立した。さらに増速効果の方向性も明らかになった。今後、異なるフィールドで具体的な実証を進め、より高効率の排風利用システムの開発を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ハニカムの整流効果を利用した気流整流装置(バッフル)の開発と、排風力増速に関するガイドベーンが新たに試作されたことは評価できる。技術移転の観点からは、今後、発電効率に関する冷凍加工工場等でのフィールド実証研究が遂行され、本研究成果が排風利用高効率風力発電システムとして実用化されことが望まれる。本システムは発電量が少ないとは言え、多くの利用用途が期待できることから、採算性のある事業展開に結びつく研究展開が強く期待される。
ISMバンド周波数帯に対応したマイクロ波照射化学反応装置の開発 九州工業大学
大内将吉
種々の化学反応をマイクロ波照射下で行なった場合、従来の100分の1まで短縮されるなどの、反応速促進効果が認められる。しかしながら、現在利用されているマイクロ波照射化学反応装置は、周波数は制限され、ケミカルプロセスやバイオプロセス、あるいは分析機器への適用などユーザーフレンドリーな装置とは言い難い。ISMバンドとして利用可能な周波数帯に対応し、マイクロ波化学の特長を充分に実現できる微量反応も可能な新たなマイクロ波反応装置を目指した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。2.45 GHzのマイクロ波反応装置を作製し、これを用いて、多くの反応を検討し、どの系においてもマイクロ波照射の効果を示した点は評価できる。一方、他の周波数のマイクロ波を利用するという試みは新規性があり、効果を見極めることは意義がある。今後は、周波数を変えた時の効果について、他の方法と比較しながら、検討を進めることが望まれる。
分子配列を制御した燃料電池空気極触媒の高分散担持法の開発 九州工業大学
高瀬聡子
(財)北九州産業学術推進機構
米倉英彦
本研究では、固体高分子形燃料電池(PEFC)の空気極触媒用の白金代替材料として、白金と同じ反応機構を提供し、白金では問題となる一酸化炭素(CO)被毒や反応継続時溶解等の問題がない触媒である金属錯体のコバルトフタロシアニン(CoPc)のα相結晶に着目し、その触媒活性を向上させるために湿式法での高分散電極内担持法の開発を目的とした。
まず、湿式法の溶液条件と担持量を選択し、触媒活性が低下する原因となるCoPcの会合体を形成しないα相CoPcを電極電極材料であるカーボンに高分散担持させる条件を決定した。これから得られたα相担持カーボンで構成された電極が高い触媒活性と耐久性を示すことを確認した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも固体高分子形燃料電池(PEFC)の白金代替材料として、コバルトフタロシアニン(CoPc)の触媒活性を向上させ、カーボンに担持させる条件を決定し、触媒活性と耐久性を確認した点は評価できる。一方、課題としては、CoPc含有比率を思うように高められなかった点、カーボンが破損する点などあるが、目標に向かって研究を続けたことは理解でき、堅実な研究計画が示されているので、今後の展開が期待できる。
ハイブリッド自動車用パワー半導体の革新的故障ゼロ化技術 九州工業大学
大村一郎
九州工業大学
荻原康幸
1)数値目標に対する成果:短絡(故障)の予兆検出から保護信号発生までが1マイクロ秒で実現可能であることを、実験的に示し目標を達成した。高性能化が進む大容量パワー半導体(SiCパワー半導体や将来のIGBT)を短絡故障から高速に保護可能とする目処がついた。2)実用化技術の目標に対する成果:保護機能(検出、判断、フィードバック)をIC化可能な技術で構成できることを実験的に示し目標を達成した。即ち検出回路はゲートドライブ回路に集積可能な構成とし、信号処理による判断およびフィードバックを完全にデジタル化しFPGA上に実装した。企業からのコンタクトがあり、複数の企業との連携も視野に契約方法や研究テーマの準備を開始した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、短絡(故障)の予兆検出から保護信号発生までを1マイクロ秒で実現し、また保護機能をIC化可能な技術で構成できることを実証し、目標達成を果たしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、パワー半導体デバイスの故障ゼロ化技術に対し、技術移転につながる有益な成果が得られているが、特許出願はなされていないので、特許権利化につながる成果が望まれる。今後は、現在の構成をさらに改良、発展させるとともに、連携先企業を見つけることにより実用化に進むことが期待される。
トイレ動作自立のための認知運動発達支援トレーニングに基づくリハビリ支援機器の開発 九州工業大学
我妻広明
九州工業大学
山崎博範
本課題では、脳性麻痺児者のリハビリ訓練にヒントを得ることで、立ち上がりと歩行のために必要な体幹バランスの維持及び重心移動を支援するデバイス開発を行った。目標はトイレ動作の自立化で、立ち上がり動作を補助する機構を有することであり、電動部品に用いないメンテナンスフリーの機構提案で低価格化を実現することが必要であった。計画期間の後半期となる本実施期間では、前半期で設計開発した逆U字型骨格に対し、弾性棒を用いて立ち上がり動作を支援する基本機構が実現した。弾性体の瞬発性は、カタパルト様の射出方法で立ち上がり動作を支援する。歪みを与える条件により反応速度を変化させ、個人差に合わせて調節できる新たな機構設計が創出され、今後の事業化への具体化が進んだ。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、トイレ動作自立のためのリハビリ支援機器の試作機を完成させたことは評価できる。一方で、技術移転に向けては、脳性麻痺患者や高齢者における評価試験と評価が望まれる。今後は、連携先企業もあり、残された課題を整理し、コストを考慮しながら有用な成果に発展することが期待される。
ユビキタス元素及びボロン(B)を活用した自動車サスペンションスプリングコイル用途のチタン合金の開発 九州工業大学
萩原益夫
九州工業大学
田中洋征
本研究は、高強度β型チタン合金を新たに開発し、この新開発β型合金に0.1%の微量のボロン(B)を添加して加工性などをさらに高性能化しようと試みる。このようなBを活用した合金では、凝固時に形成されるTiB化合物に応力が集中し、その結果TiBが破壊(特に疲労)の起点になることが危惧される。そこで本研究では、まず、既存のβ型Ti-6.8Mo-4.5Fe-1.5Al合金を対象に、0.1%Bを添加し、かつ熱処理により強度水準を広範囲に変化させて高サイクル疲労試験を行った。結果より、「基質の強度水準が約1,300MPa以下では、TiBは疲労の起点にはならないこと、また金属組織が微細化するために疲労特性は向上すること」、などが明確になった。このような知見に基づいて、次に、Feなどのユビキタス元素を活用し、かつ強度水準は1,300MPa以下のβ型チタン合金の開発を試みた。機械試験の結果から、Ti-Al-(2~3)Fe-X系合金を有望合金として選定した。研究は継続中であり、最適熱処理条件の決定、B添加による特性の向上の確認、コイル化などが今後の課題である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の研究ターゲットである成分とは少し異なるが、同じ成分系のβ型Ti-Mo-Fe-Al系チタンへの0.1%B添加効果、熱処理の影響を確認し、疲労強度と強度の関係、熱処理と強度の関係など重要な結果を得ていることは評価できる。また、目標とする成分系のMo,Fe含有量の影響についても、7種類の鋼種で基礎的な引張試験を実施し、機械特性値については測定している。一方、技術移転の観点からは、未完であるB添加の引張強度及び疲労強度への影響、加工性の確認を実施することにより、技術移転の可能性が高まることが望まれる。今後は、企業との連携による残された課題の解決により、技術移転されることが期待される。
緩み止めと高強度化を兼備した高機能締結体の開発 九州工業大学
高瀬康
九州工業大学
田中洋征
ピッチ差0, 5, 15μmを設けて疲労強度のFEM解析を行い、αの増加により、通常ボルト・ナットの最弱部(No.1)応力の低減を、クリアランス(ボルト・ナット間の半径方向のすきま)条件下で明らかにできた。また、緩み試験装置を用い、αを変えて試験し、αが大きい程耐緩み性に勝れることが確認できた。形状改良(テーパー付)の効果は未解析であるが、トータル達成度は80%を考える。疲労と緩みの両立が、今後の課題。実験と解析の併用で解明していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ピッチ差による応力低減が解析により確認されている点、また、ピッチ差による緩み止め効果が実験により確認されていることから、ほぼ当初の研究目的が達成されたと評価できる。一方、技術移転の観点からは、ゆるみ止めと疲労強度の向上の両立を実現する最適値の見極めにはもう少し、データの蓄積が望まれる。今後は、技術的課題などは明確になっているので、課題解決により企業化と社会還元がなされることが期待される。
超伝導体における縦磁界効果を用いた高効率大電力超伝導ケーブル実現のための技術開発 九州工業大学
木内勝
九州工業大学
堀田計之
本研究開発では、RE123超伝導コート線材の通電電流の方向と同方向に外部磁界Bを加える"縦磁界下"での臨界電流密度を測定し、その特性評価を行い、今後の機器応用への可能性を調べた。縦磁界下での臨界電流密度は、金属超伝導体で知られたような印加磁界の増加に対する臨界電流密度の増加は示さないが、機器設計で重要な特性となる線材の広い面に対して垂直磁界下での特性"垂直磁界下"に比べて4倍程度の増加が確認でき、応用機器での縦磁界効果の利用が可能であることが確認できた。また、現在開発されている超伝導層の厚さは2~3 μm程度であるが、厚膜化による結晶の乱れの少ない薄いコート線材(1 μm程度)の方が、縦磁界効果が顕著になることが明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高温超伝導体コート線材において、縦磁界下では、広い面に垂直に磁界を加えた場合に対して4倍程度の臨界電流密度が得られることを明らかにして、当初の目標をほぼ達成している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、直ちに企業化へ向かうことは難しいが、企業との打合せを検討していることから、実用化の可能性が高まる可能性がある。今後は、継続して研究開発することが予定されており、実機レベルでの検証やケーブル開発も検討されているので、技術移転に向けて展開されることが期待される。
電磁波放射源可視化装置と放電大きさの非接触新評価手法 九州工業大学
大塚信也
九州工業大学
堀田計之
 本研究の目的は、これまで原理検証など基礎的な検討が終了している電磁波放射源可視化装置の実用化であり、この最終目標に到達するための第二ステップとして、本開発期間では主に可視化表示技術ならびに放電発光による放電の大きさ評価に関する新しい技術開発を行った。具体的には、1)経時変化(ダイナミック)特性の可視化表示手法や信号識別技術、2)放射電磁波による電荷量の評価技術、および3)放電発光による放電の大きさ(電荷量、エネルギー)の評価技術に関する開発を行った。ほぼ計画通りに実施でき、特に、1)と3)に主眼をおいて精力的に実施した。その結果、非常に有用な成果が得られ、その一部を特許出願し、現在さらに3件の特許出願を予定している。また、本開発技術に基づく共同研究も開始され、目標は十分達成されたと考えている。今後は、共同研究としての目的課題に特化した研究開発を進めると共に、本研究成果を広く公開し、更なる企業化に向けての連携活動を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、可視化について目標を達成している点は評価できるが、データが十分に示されていないのは残念です。また、次のステップへ進めるための技術的課題を明確にされています。今後、研究成果が応用展開された場合、社会還元に導かれることが充分期待される。
水酸化フラーレンを用いたLEDサファイア基板用新規研磨材に関する研究 九州工業大学
鈴木恵友
九州工業大学
堀田計之
本研究ではLED基板用サファイアCMPに加工効率向上により電力消費や環境負荷の低減を目指している。これまで水酸化フラーレンをシリカスラリーに混合することで加工効率の向上が確認できたが、Cu-CMPのような水酸基数による向上効果については未解明であった。そのため本研究では水酸基の効果について検証したところ水酸基数を高くした場合加工効率が1.5倍程度向上した。濃度に関しては水酸化数6-12で加工効率は2倍程度向上しており、水酸化数増加により飽和濃度が高くなるためより高い効果が期待できる。そのため目標の加工効率10倍へ到達させるため継続的に水酸基数と濃度を最適化実験を進める必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、水産化フラーレンの研磨効果、水酸基数を高くする効果は確認できたことは評価できる。一方、水酸化フラーレンの合成、研磨に最適な水酸基数およびその研磨レートや表面粗さとの関係について検討が不十分であり、研磨材調合条件の最適化等を検討し、目標とする研磨レートの実現に向けてのさらなる検討が必要と思われる。今後、次のステップへ進めるには、企業との連携も検討されているので、課題を絞り、段階的に取り組むことが望まれる。
グローコロナを利用した極微量溶液の発光分析法の研究開発 首都大学東京
角田直人
マイクロキャピラリ電極の先端に形成されるグローコロナと電極内部から供給される微量溶液との相互作用について調査し、発光スペクトルを測定した。先ず、印加電圧モード(正負直流、交流)と電極先端径が液面安定性とエレクトロスプレー現象へ大きく影響することを定量的に明らかにした。低周波交流の場合、エレクトロスプレー開始電圧は小さくなり、安定した発光スペクトルが得られないが、特定の先端径と高周波印加の場合、エレクトロスプレー開始電圧をグローコロナ開始電圧より大きくできることが示唆された。一方、電極間距離と液体圧力の影響は相対的に小さいことを明らかにした。今後の発光分析のために必要な放電条件を絞り込むことができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、Kの発光スペクトルは得られており、発光に関する基礎的なパラメータが明らかになりつつあるのことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、分析装置開発において基本的な開発のロードマップが不十分であったと考えられ、放電と溶液の放出の関係において、エレクトロスプレー現象の把握と解析がネックとなったようであり、解決が望まれる。今後は、スペクトル分析において、必要最小限度の発光ソースの安定性の確保が最優先であり、原子スペクトル測定に目鼻をつけることが期待される。
ウェークアップ回路一体型フレキシブルアンテナの開発 九州大学
金谷晴一
九州大学
古川勝彦
本研究の目的は、無線通信器機の待ち受け受信動作時の待機電力を低減するための、無線キャリアをトリガとしたウェークアップ回路をアンテナと一体化設計し、小型化と高性能化を実現するものである。
そのために、まず、設置自由度の高いフレキシブル基板上に片面指向性アンテナを構築する。また、共振回路および昇圧回路を一体化設計することで昇圧効率の向上を目指す。さらに、設計したアンテナと昇圧回路をインピーダンス整合回路により一体化設計することによりの回路の小型と低損失化を目指す。なお、想定する周波数帯を900MHz帯とし、10倍以上の昇圧を目指す。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に無線通信機器の待ち受け受信動作時に、待機電力を低減できる効果を試作回路で確認している点は評価できる。一方、今後の研究計画についてはもう少し具体的な検討が必要で、 今後技術移転を目指した産学協同等の研究開発ステップへの移行することが望まれる。今後は、すでに学会発表および展示会参加で研究成果の発表を行っているが、企業等との共同研究に進むことが期待される。
誘電体バリアパラレル電極を用いたカーボンナノチューブ複合材料の大面積化 九州大学
末廣純也
九州大学
山内恒
ナノテクノロジーを代表する材料であるカーボンナノチューブ(CNT)は、優れた熱伝導特性や機械的強度故にナノ複合材料のフィラーとして注目を集めている。そのCNTを含有するナノ複合材料中で、高電界によりCNTを配向させることで、CNTの優れた物性をより一層発揮できる。本研究では、我々が独自に開発した、誘電体バリアパラレル電極を用いた大面積配向複合材料の作製方法を更に発展させ、そのサイズを十数cmからmオーダーにスケールアップするための基盤技術を開発することを目標とした。種々の検討の結果、配向複合材料を連続生産するためのベルトコンベア型装置を考案し、そのプロトタイプを作製した。今後は、産業界のニーズを掘り起こしつつ、様々な材料で配向複合材料を作製する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、3コの目標のうち低抗率の均一性以外はほぼ達成されたと判断できる。即ち配向複合材料150cm×30cmを連続作製し、抵抗率3.5×(10の3乗)Ωmを達成している。加えて熱伝導率30%の上昇を可能にした。電界平均化の移動速度の最適化も抑えているので、技術移転につながると評価できる。一方、技術移転の観点からは、民間企業や九州大産学連携本部と連携してCNTのみならず他のフィラー材にも応用するという幅広い開発計画が読み取れるので、さらなる進展が望まれる。今後は、企業とも量産化を踏まえた連携が複数社と具体化されつつあるようであり、実用化が期待される。
酸化還元反応による発色消色の可逆記録と高屈曲耐久性フレキシブルマルチカラー電子ペーパーへの応用 九州大学
平田修造
九州大学
山内恒
研究責任者らは、電圧によって構造色を制御することにより、発色と消色を可逆的に記録可能な表示素子を初めて開発した。この表示素子では、低電圧で着色状態と消色状態の書き換えが瞬時に可能であり、高温、紫外線、大きく曲げた環境下でもその表示状態は安定である。
本申請では、紙レベルの薄さを有するエリアカラー電子ペーパーを目指し、屈曲後の液漏れの問題、および透明電極部位の断線に由来した書き換え機能の消失の問題の改善を目指す。具体的な目標値としては、300μm角の画素を有する素子において、Φ5mmの折り曲げを100回繰り返した後に液漏れがないことを確認し、着色記録時のエラーも10%以内に抑えることを目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも第1の課題である「液体電解質をゲル電解質に置換すること」が完成したことは評価できる。一方、第2の問題点である「ITO材料の代わりに透明導電性高分子であるPEDOT:PSSを用いること」について、完成には至っていないが期待できる方向に向って前進している。今後は、第2の問題点の解決に向けて研究を行い、技術移転の実現に向けて進むことが望まれる。
プラズモン共鳴を用いた大面積型発光デバイスの開発 九州大学
高橋幸奈
九州大学
山内恒
本研究では、高分子有機色素に、局在表面プラズモン共鳴を示す金属ナノ粒子を組み合わせることにより、近接場光によって色素の発光効率を向上させることを目的とした研究開発を行った。その結果、組み込む際の金属の形状(膜か粒子か)や、量が重要であることを明らかにした。金属ナノ粒子の量には最適値があり、それを大きく超過すると、たとえ単層以下の金ナノ粒子であってもかえって色素の励起効率が低下することを示した。これは、今後のデバイス設計に指針を与える大変有用な結果であると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもコア-シェル構造の金ナノ粒子ならびに色素とナノ粒子の固定化に関しては一定の成果が得られている。一方、スプレーパイロリシス法を用いる方法で、緻密な酸化チタン膜でAuNPを被覆できることがわかったことは、将来の技術移転につながると考えられる。今後は、技術移転のためには10mmX10mmの膜製作という目標をクリアする必要がある。
固体の熱輸送性質を測定するための接触式スタンプ型センサの開発 九州大学
福永鷹信
九州大学
山内恒
本研究は、固体の熱輸送性質を簡易的に測定できる接触式スタンプ型センサと測定法を開発することを目的としたものである。本研究申請時までに、本提案の測定が原理的に可能なことをシミュレーションにより明らかにしていたため、本研究の目標は測定精度に及ぼす試料の熱輸送性質やセンサの形状寸法の影響を明らかにするとともに、センサを試作して、測定の実証を行うことであった。そして、研究期間内の具体的成果については以下のとおりであった。
(1)MEMS技術を用いて円状の白金薄膜センサおよび測定器を作製することができた。
(2)測定試料としてアクリル樹脂、セラミックス、ステンレスの3種類の試料に対して測定実験を行なった結果、熱伝導率は誤差5%~15%程度、熱拡散率は誤差20%以下の精度で熱物性値を測定することが可能であった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、接触式スタンプ型センサを実用化するために必要な、測定範囲等の成果が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許の出願と、共同研究先の探索を検討をすることが望まれる。今後は、測定精度の向上や実用化を目指して、共同研究先を決めて、開発を進めることが期待される。
ナノ構造制御による高性能・高耐久性化を目指した固体高分子形燃料電池の開発 九州大学
林灯
九州大学
山内恒
本研究課題では、ナノ空間効果により半電池評価では燃料電池電極材料として従来触媒以上の活性を示す、8nm程度のナノチャンネル構造を有するカーボンのナノ空間にPtを導入した電極触媒材料の実用化に向けて、燃料電池セル(フル電池)の開発を目的とした。ナノ空間にイオノマーを導入する最適な方法を検討した上でナノ空間効果をフル電池にも活かし、従来燃料電池性能を超える電池セルの作製、更に低コスト化と高耐久性化を目標とした。その結果、従来燃料電池セル(ボタンセル)よりも高性能な燃料電池セルを作製することが出来た。しかしながら、耐久性の向上を考慮した作製条件の最適化までには至らず、今後カーボン材料の構造最適化も含め検討し、高耐久性且つ低コストの燃料電池セルの開発に繋げる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ナノチャンネル構造を有するカーボンのナノ空間にPtとナフィオンを導入した電極触媒材料を用いることによる燃料電池セルの作製と評価において一定の成果が得られていることは、評価できる。ナノ空間内へのナフィオンの導入に工夫がなされ、ナノ空間効果の一つである性能向上が達成されている一方、燃料電池の課題は、高性能化とともに、生成する水の排出とセルの耐久性の向上であり、これらについて、さらなるデータの蓄積が必要と思われる。今後、技術移転を目指して、これらの問題点の克服に向けた研究の継続と進展が望まれる。
沖合用大型生簀の挙動・係留シミュレーション法の検証 九州大学
末吉誠
九州大学
山内恒

外洋設置型の大型生簀を設計するための係留系を含めたランプドマス法による数値シミュレーションプログラムの検証・改良を行うために必要な実験データの取得と対応する数値シミュレーションをおこなうことでその検証を行った。異なった種類の実物の網に関する抵抗試験を行い、実際の海域で使用される網の選択による流体抵抗の違いを明らかにするとともに、側張り係留系を含む形での浮沈式生簀の流場注での模型試験を行い検証用データを取得し、開発した数値シミュレーションプログラムが生簀の変形量、移動距離、係留張力について定性的のみならず定量的な評価が行えることを確認した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標とする係留張力の誤差、水平方向変位、生簀の体積変化率は目標を達成し、また波浪への対応や相互干渉ソフト開発等、次ステップへの技術的課題が明確になったことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、水産事業者・関連資材会社等と共同研究の可能性が高まったことで実用化が望まれる。今後は、事業化に向け実際操業している企業のニーズとの連携をしつつ、汎用性のあるシミュレーションプログラムの検討などが期待される。
新方式薄型レゾルバの実証モデル開発 九州大学
笹田一郎
九州大学
上野浩義
ロータに一軸磁気異方性を持つ方向性珪素鋼板の円板(0.35mm厚)、ステーター側にPCBで作ったサイン相およびコサイン相を発生する各平面コイル、平面コイルのロータ側と異なる側に無方向性珪素鋼板からなるヨーク(0.3 mm厚)を基本構成要素とする、全く新しい原理で動作する超薄型レゾルバを開発した。ロータと平面コイル間に1mmの空隙を設けても基本部の厚みは3-4mmである。外径96mm-46mmにわたる5種類のロータと3種類のサイズのコイルを製作した。変圧比(正弦波出力実効値/励磁電圧実効値)は3.4%-1.4%、非線形性誤差はおおむね0.5%であった。これらの成果を2012テクノフロンティア(東京ビッグサイト)に出展し、多数の来場者があった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に「ロータに一軸磁気異方性を持たせ、構造が極めて簡単なアキシャル型レゾルバをセルフコンプリートな形で完成させる」という目標がほぼ達成されている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、製品化への検討項目について明確に示されており、展示により、数社から引き合いがあり、既に産学共同等の研究開発ステップに進みつつある。今後、応用展開されれば、電気自動車等の回転角度センサの小形簡素化、高精度化など社会還元が期待される。
フライアイレンズ方式の3Dディスプレイを用いた観察者の目の前への仮想物の結像に関する研究 九州大学
石原由紀夫
九州大学
平田徳宏
本課題では観察者の近距離に仮想物を結像させることが目標である。MCOP(Multiple Center Of Projection)画像をフライアイレンズアレイ(FELA)の背面に設置し、仮想物を結像させる方式を用いた。様々なFELAとMCOP画像をコンピュータ上でシミュレートし、FELAの正面に現れる仮想物を撮影した。撮影された仮想物のコントラスト値から、実環境において仮想物の結像が可能であるFELAとMCOP画像のサイズを算出した。そのサイズに基づき光学系を実環境に構成した。観察者の目の前30cm付近において、仮想物のコントラスト値が増加する傾向が現れたが、その仮想物に焦点を合わせることはできなかった。今後は、観察者の近距離に仮想物を結像させるために、FELAやMCOP画像の構成を改善する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも観察者の近距離に仮想物を結像させることが目標であり、基礎的な研究成果や知見は得られていると考える。また当初の予想通り進まない場合にも、研究を軌道修正し、今後の展開のための適切な検討がなされている。今後は、まだ試行錯誤の段階だが、フライングアレイ方式の3Dディスプレイ実現のために、シミュレーションから実機試作まで、様々な側面の検討や議論がなされているので、課題に対して具体的な対策をして実現を目指すことが望まれる。
高効率かつ長寿命LED照明開発のための高精度リアルタイム温度計測システムの開発 九州大学
富田健太郎
九州大学
槐島慎
白色発光ダイオード(LED)は次世代省エネルギー照明光源として期待されているが、その特長である長寿命・高効率は高温動作では発揮されない。今後、蛍光灯に匹敵する「明るい」LED照明開発ではLEDの集積化や大電流動作が必須で、熱発生増加は避けられない。そのため、いかに効率よく熱を逃がす照明構造を設計できるかが、重要な課題となっている。最適熱放出設計には、照明装置の温度を精度よく測る技術が不可欠だが、そのような技術は開発されていない。本研究ではレーザーと自作の低迷光分光器を用いることで、極限までノイズを低減し、誤差10℃以下で非接触、かつリアルタイムの温度計測システム開発を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。測定時間5秒以内の目標を、ほぼ達成している点は評価できるが、測定誤差10℃以内と、装置初期セッティング所要時間30分以内の目標については、不明である。検討されている課題を計画に沿って実行し、経過を明確にして解決していくことが望まれる。
ソフトマテリアルとシリコンLSIのマイクロインターコネクト 九州大学
浅野種正
(財)福岡県産業・科学技術振興財団
津留眞人
研究責任者らが考案した先鋭形状の突起電極(バンプ)による接合技術を発展させ、樹脂フィルム上の配線とLSIとの高密度インターコネクト技術を開発することを目的とし、I/O数5千ピン以上、接続抵抗0.2オーム以下を目標として研究を行った。先鋭形状バンプと対を成し、プラグ&ソケット様の形態機能を発現する新規形状の電極とその製造・接合プロセス技術を開発し、1チップ当たり1万ピンに達する接合を常温で実現する技術を開発した。I/Oピッチは20ミクロン、接続抵抗は0.18オームの性能を得、目標を達成した。この技術はプリンティッドエレクトロニクスの付加価値向上の鍵の技術になり得ることから、実用化に向けた技術開発を民間企業と共同で実施することになった。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にプラグとクロス型ソケットの電極構造は、一万接点のバンプ接合を一接点当たり0.84Ωの低抵抗で接合させることに成功したことは成果として、顕著である。産学連携も推進されており、残された課題についても検討されている。次のステップで、残された課題を克服し、産業技術になることが期待される。
半導体デバイスにおける機械的応力効果のシミュレーションモデル構築と汎用シミュレータへの実装 福岡県工業技術センター
小金丸正明
(財)福岡県産業・科学技術振興財団
藤田修司
本研究開発では、応力効果を反映する電子移動度モデルを汎用デバイスシミュレータへ実装することを目的にした。すなわち、汎用デバイスシミュレータにおいて、応力効果の物理現象(電子存在確率の変化、散乱確率の変化、有効質量、および電子の真性濃度の変化)が取り扱えるようにした。実験結果との比較により電子移動度モデルおよびシミュレーション手法の有用性が確認でき、本事業範囲で設定した目的を達成した。シミュレータの改造を拡張性のある形式(API)で実施しており、今後は応力効果を反映する正孔移動度モデルの開発を進め、p型半導体(およびCMOSデバイス)の評価も可能としたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に半導体作動時の電子移動度モデルを取りこんだ応力効果n型シミュレーター開発に成功した点は評価できる。今後は、p型シミュレーターの早急な開発によるCMOSとしてのデバイスシミュレータの完成が期待される。
一般廃棄物焼却残渣中に含有される鉛の不溶化技術の実用性評価 福岡大学
佐藤研一
焼却処理施設より排出される焼却飛灰は、薬剤処理(キレート処理)を施した後、管理型処分場にて埋立処分している現状にあり、処理コストが高く、環境変化に伴う再溶出の懸念が問題となっている。本研究開発は、焼却飛灰中に含まれる高濃度の鉛に対し薬剤処理に代わる新しい不溶化処理方法の開発を目標としている。本年度は、昨年度完成させた不溶化装置を用いて実証実験を行った。その結果、焼却飛灰中の鉛を効果的に不溶化させることが可能であり、僅か6時間以内で鉛を土壌環境基準値以下まで低減させることに成功した。今後は、より短時間での不溶化処理の検討を行っていくとともに、実用化に向け焼却炉メーカーにも参加して頂く予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、焼却灰におけるPb不溶化が短時間ででき、鉛を土壌環境基準値以下まで低減させることに成功したことは評価できる。一方、計画に含めていた長期の再溶出試験については実施できていない。また、土壌に対する適用についても目標の成果は得られておらず、課題として残されたので、計画の完遂が必要と思われる。今後は、残された課題の実施とともに、コストの試算による他技術の比較による本技術の優位性評価も実施されることが望まれる。
人的資源の安心・安全を実現するスマートハンドリングシステムの研究開発 北九州工業高等専門学校
久池井茂
様々な作業現場では、多品種な部品がバラバラな状態で払い出されることが多い。部品からモジュールへ移行する工程には、人が関与しているのが現状であり、被爆対象品を取り扱う危険な作業を行
っていることも多い。そこで、コンベアやシュータ上などにあるワークを画像処理で位置検出し、認識および姿勢制御できるスマートハンドリングシステムを研究開発する。従来人でしかできなかった部分をシステム化すれば、製造原価を下げることも可能である。課題は、ワークの3次元姿勢制御で
ある。本研究では、研究シーズである回転不変マッチングを活用して課題を解決し、様々な組立工程
に対応できる次世代生産用モジュール型システムの研究開発を行う。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもピッキング成功率、姿勢検出成功率、処理速度でおおむね目標は達成できたことについては評価できる。一方、、ピッキング成功率の格段の向上と様々の形状や材料に柔軟に対応できるシステムに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。さらに、画像認識とロボット制御生命生成の高速化が望まれる。
室内空気質の監視・制御用換気システムに組込むための多元計測用ガスセンサの開発 北九州工業高等専門学校
小畑賢次
(財)北九州産業学術推進機構
米倉英彦
本研究は、室温作動型固体電解質センサのガス検知の高精度化を実現し、多元計測用ガスセンサへの応用に展開するための基盤となる研究を行なうものである。具体的には、(1) NO2の影響を受け難いCO2センサの開発、 (2) CO2の影響を受け難いNO2センサの開発を行い、 最終的に(3) CO2及びNO2共存下でガス検知能を調べることで多元計測用センサとしての実用性を評価した。(1)及び(2)の項目では、目標値を概ね達成し、高いガス選択性を有するセンサの開発に成功した。(3)の項目では、開発したNO2センサにおいては、CO2共存下でも高いガス検知能を示した。今後も研究を継続し、実用化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、金属酸化物と炭酸塩を複合化した補助相を用いたCOセンサや、金属酸化物と硝酸塩を複合化した補助相を用いたNOセンサのガス選択性の評価を行い目標値に近い成果が得られている。また、他の固体電解質を用いたセンサのガス選択性の評価を行い、多元計測用センサの可能性を示していることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、このシステムの性能や特徴とマッチするようなニーズをみつけて、実用化に進むことが望まれる。今後は、成果のPRとそれによる産学連携先との提携ををもとに実用化が進むことが、期待される。
位相差を利用した新型表面プラズモン共鳴装置の開発 有明工業高等専門学校
内海通弘
(財)福岡県産業・科学技術振興財団
椛島武文
位相差を利用した表面プラズモン共鳴センサ装置では、従来法である角度の測定によるのではなく、位相差の測定によるため、計測精度の向上や種々の利点が期待される。今回は装置の製作・開発と性能評価を行った。また微量成分の計測のため流路システムも開発し、装置の試作と改良を行った。その結果、装置が完成し原理は実証されたが、精度の点では研究の継続が必要であることが分った。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも装置を小型化し、安定した流路を構築、光ヘテロダイン法の導入することにより、精度良い測定が可能となっている点については評価できる。一方、数値目標ほどの感度向上は達成されなかった。今後は、技術的な課題を明確にして、研究計画を具体的に再考することにより、研究が推進され、新たな成果が得られることを期待する。
視線追跡による学習者の視点履歴の評価および学習効果の向上 佐賀大学
新井康平
佐賀大学
下崎光明
e-learning コンテンツを用いて学習する際、学習者の視点がコンテンツ提供者の想定している視点と一致していることを確認するシステムを構築した。また、この一致度と学習者の成績との相関を調べた。さらに、コンテンツ提供者の想定視点を強調することの効果を確認した。
IPAD,SmartPhone 等の小規模画面による学習を行えるようにコンテンツアダプテーション(コンテンツ制作者が見ていてほしい画面の部位のみを表示する)を行った。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本課題は、学習者の視点とコンテンツ提供者の期待する視点との対応を確認・評価するシステムを開発し、その一致度と学習効果(成績)との相関を調査しているが、目標に掲げた各項目毎、十分な検討がなされており、おおむね目標を達成していることは、評価できる。新規特許等の出願は見られないが、成果の情報発信も十分実施している。一方、技術移転の観点からは、学習者の成績と視線部位の一致度との相関性の検討、脳波を用いた客観的評価との関係などが今後の検討課題であり、研究の発展が望まれる。今後は、教育用のアプリ制作、効果的なCMの制作支援などに応用が可能と思われ、実用化が進むことが期待される。
アスベスト含有建材の省エネルギー型常温分解技術の開発・研究 佐賀大学
田端正明
佐賀大学
佐藤三郎
アスベスト処理は現在1000℃以上の溶融法で行われている。我々は多硫化カルシウム溶液を用いるアスベストの常温分解法を見出し、標準アスベストと数種の吹きつけアスベスト建材中のアスベスト含有量を0.1%以下まで分解することに成功した。常温分解法は溶融法に比べて、省エネルギー型で分解装置も簡単であるので、本技術が企業化されるとアスベスト処理は一気に進展し、発がん性アスベストに起因する社会不安を除くことができる。従って、企業化に適した技術とするために、1)アスベスト含有建材の種類と常温分解法の関係、2)企業化に適した処理工程、3)分解生成物の同定と生物学的安全性、の研究・開発を行う。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標、すなわち多硫化カルシウム溶液をアスベスト建材に噴霧し、アスベストを常温で無害化し、生物学的安全性を確認するということについて、目標を達成していると考えられ評価できる。成果に関して学会発表や新聞への掲載が行われているが、特許出願はまだされていない。一方、技術移転の観点からは、経済的な粉砕法として期待した鋼球ボールミルでは所期の成果が得られなかった。建材に含まれるアスベストの無害化に関しては、すでに加熱による分解法など先行している技術があり、今後処理量やコストなど実用化に関するいくつかの課題のブレークスルーが望まれる。今後は主に工業化に向けての課題、建材(アスベストの存在形態の差)、分解生成材の安全性等について、企業との共同研究により検討、解決し、実用化に進むことが、期待される
リング状ホロー放電のマルチ化による高精度プラズマプロセス装置の開発 佐賀大学
大津康徳
佐賀大学
佐藤三郎
半導体素子の微細加工技術や太陽電池パネルの薄膜合成技術において、その生産性を向上させるためには、高精度なプラズマプロセス装置の開発が必要不可欠である。本研究では、従来のプラズマプロセス装置の課題である「低密度・不均一分布」を解決するために、リング状ホロー放電をマルチ化することにより、プラズマプロセス装置の高精度化(プラズマの高密度化・一様性)を検討した。粒子法による数値シミュレーションにより、リング状溝の本数を増加させることにより、プラズマの高密度化と一様性を実現できることを明らかにした。今後の展開として、設計したリング状ホロー電極を用いて、実証実験と改善を行い、実用化を進める予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもシミュレーションにより目標達成可能な電極構成を設計できた点は評価できる。一方、実験的検証は実験期間内に実行できなかった。未実施の実験的検証を確実に実行することが重要である。今後は、遅れはあるものの、方向性は誤っていないので、シミュレーションの結果を実験的検証で再現できれば企業への技術移転、社会還元に結びつくと期待できる。
牛精子の雌雄選別用フローサイトメーターのノズルレス化 独立行政法人産業技術総合研究所
山下健一
独立行政法人産業技術総合研究所
犬養吉成
マイクロ流体の操作性を応用し、流れの操作のみで、「精子を同じ向きに向かせる」「精子を一列に並べる」と「活度分離」の3つを達成した。精子は、それ自体が運動能力を持つため、マイクロ流体によって居場所を束縛されつつも、その束縛から逃れようとする。そのような行動を抑えることができつつ、かつできるだけ遅い流速で達成できる条件を探索するという検討を重ねることで「同じ向きに一列」を目指すとともに、その逃れようとする行動を応用して活度分離に応用するなどの方法を考案し、これらの結果を得るに至った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標が達成され、付加技術も確立している点は評価できる一方、畜産試験場などにおける技術移転には、現場で簡便に用いるプロトタイプ機が必要であり、詳細な検討が必要と思われる。これまでに、提案した手法のみに固守せず、実用化に向け新たな方法も応用している。その結果、精子を一列で流すという目標を達成している。また、計画になかった活度分離にも成功しているので、今後の成果が期待される。
マイクロ流体による物質の多層化と細胞への送達による評価 独立行政法人産業技術総合研究所
永田マリアポーシャ
独立行政法人産業技術総合研究所
犬養吉成
本研究を行うにあたり、「大きさ均一化による薬物送達効率の変化」と、さらに「多層化による効果」の二段階に分けて評価を行った。その結果、前者の検討では、確かに大きさ均一化することで薬物送達効率が上がることを確認できただけでなく、比較対象の市販試薬や従来法と比べ、添加DNA量が変化したときの送達効率変化特性の違いという結果が得られた。後者の検討からは、二層化するという手法自体の有効性は確認できたものの、一層目と二層目を構成する脂質の種類の組み合わせによって入れ替わりが生じているのではないかと推察される結果となった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初目標の多層型リポソームの調製を目指しプラスミドDNAの内包化に取り組み、バッチ調製と比較した場合2倍以上の効率を示しているこては評価できる。また、負電荷をもつDOPE-PAリポソームで被覆されていることが確認された。一方、技術移転の観点からは、最外殻へ被覆されたDOTAPが内側に入り込んで、内側と外側の入れ替わる現象が起こっており、解決が望まれる。また、モデル物質ではなく、”連携先が求める物質”への展開を目指して進めることが重要であり、応用展開に進むことが期待される。
半導体レーザ粒子流速計を用いた大気中微小粒子計測システムの開発 長崎大学
坂口大作
長崎大学
竹下哲史
ディーゼル噴霧粒子計測用として独自開発した半導体レーザ粒子流速計の技術を転用し、大気中微粒子計測システムを開発した。大陸から運ばれる大気中微粒子について、広域かつ定量的サンプリングによる影響評価を行うことが必要とされている。しかし粒子径分布を連続的に計測できる装置が普及しておらず、大気微粒子の飛散実態の把握が進んでいない。そこで、本研究者では独自に開発した半導体レーザ粒子流速計を用い、光計測によるメンテナンスフリーかつ連続計測が行える大気中微粒子計測システムベースモデルの開発を行った。試作したベースモデルの粒径計測精度は位相ドップラ粒子流速計による測定結果と比較・検証し、開発した本システムの有効性を確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に計画通りに大気中微粒子計測システムのベースモデルを開発し、計測精度および連続測定機能も目標を充分達成している点は評価できる。一方、研究成果であるベースモデルを低コスト化した量産装置が実現できれば大きな社会貢献が期待できる。今後は、装置の性能面の課題は達成できたので、装置の低コスト化が望まれる。
マイクロモータ用超多周期積層構造等方性厚膜磁石の開発 長崎大学
福永博俊
長崎大学
藤原雄介
我々は、超小型モータを開発するために、Pulsed Laser Deposition(PLD)法による超多周期積層型Nd-Fe-B/α-Feナノコンポジット厚膜磁石作製法を開発してきた。本研究開発課題では、厚膜磁石のマイクロモータへの搭載を視野に入れ、保磁力400 kA/m以上、残留磁化 0.9±0.1[T]の磁気特性を有する厚膜磁石を再現性良く作製する技術を開発することを目的とした。
Nd-Fe-B単相磁石膜の作製プロセスで明らかになった、パルスレーザ照射条件・成膜条件と得られる厚膜磁石の磁気特性の関係を参考に、Nd-Fe-B/α-Fe複合ターゲットへのレーザ照射条件、磁石膜堆積条件等を改善するとともに、Nd-Fe-B/α-Fe積層周期を制御した結果、作製厚膜磁石の磁気特性のバラツキを抑制しつつ、目標とする磁気特性を達成する成膜法を開発することができた。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に超小型モータ用厚膜磁石の成膜法を開発し、当初目標以上の成果を上げている。磁気特性の再現性が良く、成膜速度が高い成膜法の開発に成功している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、小型モータに実装するための解決すべき課題が明示されており、今後の研究計画が示されているので、計画に沿った改善がが望まれる。今後は、次のステップの課題として、コスト削減のための高効率・高速で厚膜磁石を大量に成膜する技術やモータ搭載のための厚膜磁石加工技術等の改善を挙げており、実用化を意識して研究を進めており、強力な小型磁石の応用範囲は広く、早期の製品化が期待される。
光電変換効率向上技術:全有機ポリマー系ケミカルソフト研磨材によるスクラッチフリー&高導電性透明導電膜表面技術 熊本県産業技術センター
永岡昭二
有機エレクトロニクスデバイスに必須の透明電極の膜材料には、インジウム錫酸化物やフッ素ドープ型錫酸化物が用いられる。これらはスパッタリング法により成膜するが、数百ナノの膜厚に対して、数十ナノの凹凸を生じる。有機ELデバイスの場合、突起部が存在すると、陽極と陰極のショートが生じ、素子が発光しなくなる。一方、有機系太陽電池において、その光電変換効率は、膜表面の凹凸と光電変換層との密着性およびその抵抗に大きく依存する。本研究では、ケミカルソフト研磨材として、カチオン性ポリマー微粒子を開発し、高導電性を維持し、しかも光⇔電変換効率の向上に寄与できる、剥離・スクラッチフリーの透明導電膜表面技術を確立する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に有機ポリマーソフト研磨材が製造できたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは ITO、ZnO等の研磨剤として有効であり、ディスプレイ関連デバイスなどでの実用化が望まれる。今後は、産学共同による研究促進が期待される。
形態制御酸化亜鉛微粒子を用いた高効率色素増感太陽電池の開発 熊本県産業技術センター
城崎智洋
化粧品原料である酸化亜鉛微粒子を用いて高性能な色素増感太陽電池を作製することを目標として研究を行った。製造工程の最適化を行い、光電極作製時のアニーリング温度について検討を行ったところ、一般的に用いられる酸化チタンを用いた場合と異なり、300?C以下の方が効率の良い太陽電池が得られ、100?Cの場合が最も効率が高くなるということを見出した。この結果を新しい色素増感太陽電池の製造方法として特許出願した。これにより熱に弱いプラスチック基板を用いることが可能となり、今後、フレキシブルな太陽電池の作製を検討する。また、透明性が高く低抵抗であるが熱に弱いITO電極を用いて高効率な太陽電池の作製を試みる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に色素増感太陽電池の開発を着実に進めている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、検討事項として挙がっている太陽電池の製造プロセスの簡便さ、省エネルギー性、フレキシブルな使い易さを加味すると、Siより低効率でも、実用され得ると思われる。産学官の連携はうまくいっており、今後の展開が期待される。
二層高透磁率形状記憶複合材料の開発 大分大学
榎園正人
大分大学
野村裕之
優れた磁性材料による軟磁性層と非磁性の形状記憶層からなる二層薄帯の開発を行った。軟磁性層に使用する合金としては、高透磁率や低鉄損など極めて優れた磁気特性を有し、磁気歪の小さい6.5%Si-Fe合金を選んだ。また、形状記憶層には軟磁性層と類似した組成を考慮して従来から開発してきたFe-Mn-Si合金を選んだ。二層薄帯の作製には、単ロール液体急冷法を用い、同時に二種類の溶融金属を噴射できるように、内部が2つの空間に分かれた石英ノズルを複数試作して最適な噴射口形状やノズル径を決定した。0.1wt%程度の僅かなBの添加により、二層薄帯の作製が容易となることを明らかにした。また同様にしてNi-Fe/Fe-Mn-Si二層薄帯の作製を試み、その特性を明らかにした。 当初目標とした成果が得られていない。中でも磁気特性と形状記憶特性を最適化させる二層構造薄帯の組成比や作成条件に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。
下水管変形の検査技術の開発 宮崎大学
川末紀功仁
宮崎大学
和田翼
東日本大震災の発生により、多くの下水管が損傷を受けており、管破裂による道路陥没事故を未然に防ぐため、早急に下水管の状態を検査する必要性が高まっている。一般的には下水管カメラ車によって撮影された画像から目視による検査が行われる。しかしながら、内面の凹凸は確認できても管の変形(歪み、たわみ)の状態は画像からの判断が困難である。そこで本研究では、複数のレーザスリット光を下水管内壁に投光し、撮影されるレーザ輝線の状態から下水管の損傷・変形状態を定量的に検査する技術を確立する。特に高精度な計測を保証するために、傾斜投光レーザを組み合わせ、管軸に対する検査ロボットの傾きを考慮した計測システムとする。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、光学系の開発や計測アルゴリズムの構築など、基本的な目標ポイントは達成されていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、実際の応用環境での損傷や変形に関する実験がなされていない。また、仕様性能や耐久性など検討する必要がなされておらず今後の課題である。また、本センサーを搭載するロボットも、検討は進められているが、具体化に向けてのメーカとの打ち合わせなどは、未着手であるので、これらの完遂が望まれる。今後は、企業との共同研究を通じて、実応用面での課題が解決されることが期待される。
メタノールガス照射によるシリコン酸化膜の高品質化に関する研究開発 宮崎大学
西岡賢祐
宮崎大学
和田翼
本研究では、シリコーンオイルとオゾンの反応により簡便に製膜されたシリコン酸化膜を、有機溶媒中にて低温で処理することにより改質および高品質化することを目的とする。シリコン酸化膜をエタノールやメタノール雰囲気中にて最高温度250度で処理することにより、膜中に含まれるOH基を大幅に減少させることに成功した。OH基除去のメカニズムを詳細に調査した結果、シリコン酸化膜中の炭素濃度が上昇していることがわかり、これは、OH基がSiOCH3に置換されたことに起因することがわかった。電気的特性を調べた結果、目標としていた5MV/cmにおいて10-7A/cm2のリーク電流を達成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、改善メカニズムの解明と高抵抗率化の目標は達成されたことは評価でき、Si-O結合の改善とOH基除去という二つの課題を明確にしたことは成果である。一方、技術移転の観点からは、低温酸化膜はこれからの電子デバイスには必須の部材であり、本研究の成果は実用的にも興味深い。具体的な素子構造やプロセスを視野に入れた企業との連携が必要である。今後は、技術移転の活動とともに、半導体基板との界面状態等の電子物性の解析が行われることが期待される。
スプレー熱分解法による酸化亜鉛薄膜の大気作製プロセス技術の開発 宮崎大学
吉野賢二
宮崎大学
和田翼
シリコン太陽電池等に利用されているPET基板上のAg電極上に、酸化亜鉛薄膜を大気中にて低温で、スプレー熱分解法を用いて作製する。スプレー熱分解法で使用した酸化亜鉛原料は、ジエチル亜鉛をベースにした材料であり、大気中でも安定で、さらに安全に使用できるように改良したものである。得られたAg電極上の酸化亜鉛薄膜の電子顕微鏡観察及び透過率を測定することにより、平坦性及び透過性を調べた。平坦性のある透過率の高い結果が得られ、シリコン太陽電池等の変換効率向上に大きく貢献した。今後、電気的特性を向上させることにより、さらなる変換効率の向上に貢献できる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも「スプレー法を用いて酸化亜鉛透明膜の低温成長を行う」当初の目的は達成された点は評価できる。一方、透明電極膜として実用化するためには、得られた酸化亜鉛膜の、電子濃度、移動度の測定と、その改善が必要であると考えられる。今後は、当初の目標である酸化亜鉛膜厚10μm、透過率85%を達成するための検討を行う必要があると考えられる。
3次元塑性流動可視化技術を用いた押出しフローガイド設計法の確立 鹿児島県工業技術センター
牟禮雄二
鹿児島県工業技術センター
仮屋一昭
軽量かつ耐食性に優れるアルミニウム合金製の押出し製品が、構成部材として多用されている。健全な押出し製品を得るためにはフローガイド設計が重要である。 本研究では、アルミニウム合金の塑性流動を再現するモデル材料と独自の3次元塑性流動可視化技術 を用いて加工現象を可視化し、製品の曲がりを抑制する効率的なフローガイド設計法を以下のとおり確 立し、初期目標を達成した。 (1)1個のフローガイドでフローガイド孔形状の設計変更に柔軟に対応できるモデル実験用フローガ イド構造を決定した。 (2)2回のモデル実験のみでフローガイド設計を最適化する実験手法を確立(作業効率3倍増)した。 今後は、同設計法のノウハウを生産現場へ展開する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、現在の特定な線対称形のダイス孔に対しての本研究成果により技術移転の可能性は高まったと判断され、評価できる。一方、技術移転の観点からは、今回の研究成果には特定の形状のもので、広く社会還元するためには線対称以外の形状にも適用できるものまで開発することが、望まれる。今後は、ソフトメーカーとの産学連携によるソフト開発とその販売が、社会還元の方向性として、期待される。
静電気放電発生箇所可視化技術検証装置の開発 鹿児島県工業技術センター
尾前宏
鹿児島県工業技術センター
仮屋一昭
電子関連企業等で深刻化している静電気放電トラブルに対応するため、静電気放電の発生源と思われる被測定物の動きを監視し、静電気放電を検知したら、即座に放電位置を算出してビデオ映像上の該当位置にマーキング表示することで、放電源を可視化する技術を考案した。本研究では、この技術の実現可能性を検証するための装置を試作し、模擬放電試験環境と実環境での評価を行った。模擬試験環境では、方位:±30 度、仰角:0度~+30 度の範囲で発生させた放電源の位置を最大 1.7 度以内の誤差で算出し、640×480画素、30fps の動画像上で放電が発生する様子を可視化することができた。実環境で発生していた放電現象の可視化にも成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に一部は目標を上回る成果が出ており、解決すべき定量的な技術目標が明確になった点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、良好な実証試験結果が出たことにより、技術移転の可能性は高い。今後は、電子装置の組立工程の信頼性向上に、静電気放電発生箇所可視化技術は有用であり、その実現が望まれている。
強風域特化型風力発電システムのダブルピッチ失速制御系の実証研究 琉球大学
玉城史朗
琉球大学
宮里大八
風力発電システムは再生エネルギー活用型発電システムとして実用化が進んでいるが、それは100kW以上の大型機のみである。一方、小型風力発電システム(10kW未満)は、小規模電力供給システムとして、揚水、照明、遠隔地や山岳地における電力源としてその用途は非常に幅広い。しかし、その普及は遅々として進んでいない。その理由は、強風による羽根の過回転による破損事故の多発に起因する。すなわち、15m/s 以上の強風域で小型風力発電システムを運転すると過回転を誘発し、その結果、羽根が遠心力により破壊されるという現象が起きる。大型風力発電システムの場合は、風速に応じてピッチ角をモーターで変化させることにより、能動的に羽根に失速制御を行わせて過回転を防止している。しかし、小型風力発電システムにこのような失速制御方式を採用すると、非常にコスト高になるばかりではなく、メンテナンス費用も膨大になり、その結果、実用化に程遠いシステムとなる。このような欠点を克服するために、我々は、強風域で羽根が過回転になると増大する遠心力の作用で自律的に失速制御を行う機構を有する風力発電システムを開発した。この失速制御機構は、以下のような仕組みである。まず、第一に、風車が受風面に強い風を受けると羽根は風圧で後方に押され、その結果、失速角度となり失速する。第二に風速が強まり羽根の遠心力が増大すると、その力で羽根の軸は中心線方向に移動すると共に、傾き角が逆ピッチとなり、その結果、失速制御が達成できる。それらの失速制御運動は、風速の程度に応じて、前後方向、および、回転方向への独立的な運動、あるいは、それらが連成された運動を行うことを可能とする。そして、失速制御が達成され、風車回転が減少すると、遠心力が消失するので、そのばね機構で羽根は元の位置に戻り再度回転運動を行なう。すなわち、羽根に取り付けられたばねのパッシブ制御による自律的失速制御機構である。本研究では、小型風車のカットアウト風速である15m/s-25m/sでの風力エネルギー回収を目指して、高風速でも運転可能な小型風力発電システムの開発を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも過回転抑止機構の作動確認がなされたことについては評価できる。一方、高風速域における実験、振動問題(ハンチング)、超小型発電システムの設計、風洞実験等に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、振動問題や実用域での試験を実施し、技術移転へのつなげていくことが望まれる。

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