評価結果
 
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事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成25年2月公開 - 情報通信分野 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
災害時を考慮したクラスタ分割型高信頼無線LANメッシュネットワーク 公立はこだて未来大学
高橋修
公立はこだて未来大学
篠原利幸
本研究開発では、災害時を考慮してバッテリ稼働と自由に配置可能な無線LAN基地局を提案すると共に、それらを利用した無線メッシュネットワーク(WMN)方式を提案した。具体的には、適当に配置された無線LAN基地局(ノード)が自律的に自身の位置情報を基にいくつかのクラスタに分割され、クラスタの代表ノードを選出し、代表ノード相互間でWMNを構築することで、通信の信頼性とWMNの生存期間を大幅に向上する方式を提案した。提案方式をネットワークシミュレータ上に実装し、有効性を実証評価した。更に、各種方式パラメータと通信性能との関係を明確にするなど、実用化に必要なネットワークの設計指針についても検討した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に災害時を考慮してバッテリ稼働と自由に配置可能な無線LAN基地局を提案すると共に、それらを利用した無線メッシュネットワーク(WMN)を構築する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、シミュレーションにおいては、ネットワーク維持時間、制御パケット削減等、当初目標を充分に達成しているが、実際のフィールドにおいては、不明である。今後は技術移転へ向けて、提案方式の検証を実際のフィールドでの実証実験を行うことを目指して想定される技術的課題の洗い出しを行い、研究計画を立案することが望まれる。
バーチャルリアリティ評価のための心理・生理的評価法の開発 室蘭工業大学
寺本渉
室蘭工業大学
鴨田秀一
本課題は、バーチャルリアリティ(VR)環境がどの程度「現実環境に近いか」を測定するための客観的尺度を、心理的リアリティを基準にして開発することであった。VR環境に再現された3次元空間の奥行き距離のリアリティを評価する指標として、大きさの恒常性現象と残像の大きさ(エンメルトの法則)の取り上げ、両者の有効性、定式化可能性を実環境とVR環境における心理実験によって示した。また、VR環境に再現されたコミュニケーション相手の存在のリアリティについても検討し、社会的サイモン効果を利用して評価可能であることを示した。技術移転を目指し、今後は、生理学的指標との対応づけを行い、脳情報処理の観点から補強していく必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にバーチャルリアリティ環境がどの程度「現実環境に近いか」を測定するための客観的尺度を、心理的リアリティを基準にする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、VR環境の質が何から構成されるかの全体像が見えないのでVR環境の質を構成する要因、その役割等の解明が必要と考えられる。今後は、実験した(A)大きさの恒常性及び残像、(B)社会的サイモン効果の2つの知覚/行動現象は、それ自身はリアリティ評価の要素といえるが、リアリティの評価項目のごく一部にすぎないとも思われ、個々の実験結果は評価できるが、技術移転にはさらに研究蓄積が必要と思われる。
COCR法に基づく並列電磁界解析手法の高速化、およびEMC解析への適用 苫小牧工業高等専門学校
武居周
苫小牧工業高等専門学校
土田義之
本研究の目的は、COCR 法の適用による並列電磁界解析手法の高速化検討、EMC 解析手法への適用である。本申請課題において、申請者がこれまで開発を推進してきた並列化アルゴリズムである反復型領域分割法に対して、正定値複素対称行列を安定的に解くことが可能な反復解法として知られる COCR 法を適用し、手法の高速化を行った。電磁界解析を対象とした標準問題のひとつであるTEAM Workshop Problem#29を用いて性能検証を行った。実証問題として、電気自動車等におけるモータード ライブ系のラジオノイズ低減のための、機器室内を対象とした EMC 解析に適用し、 設計手法として技術移転が可能であることを示した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも並列化アルゴリズムである反復型領域分割法に対して、正定値複素対称行列を有する行列方程式を安定的に解くことが可能な反復解法として知られるCOCR法を適用し、手法の高速化を行う技術に関しては評価できる。一方、EMC解析への適用は、引き続きの検討が望まれる。技術移転につながる可能性はあるが、報告書提出時点で、新規特許出願や展示会等での情報発信は行われていない。今後技術移転を目指し、企業等への情報発信含めたアプローチが期待される。
衛星画像の精密補正とその自動化 弘前大学
飯倉善和
弘前大学
上平好弘
衛星画像の精密な幾何補正法(オルソ補正を含む)および簡便な放射量補正法(大気・地形効果補正を含む)およびその自動化法の開発を行なった。さらに、多様なセンサ、処理レベルおよびフォーマットのデータに対応できるように、データの入力やオルソ補正の方式を実装した。
精密幾何補正については、日本で利用されている主要な衛星センサ500シーンに開発した手法を適用し、雲量が50%以下の90%以上のシーンで使用に耐えうるレベルAおよびBの評価を得た。目標(レベルAが90%以上)には及ばなかったものの、より現実的な評価基準の設定やパラメータの調整法を検討することにより、目標を達成できると考えられる。
放射量補正については、簡便な大気地形効果補正法およびその自動化法を確立し、精密幾何補正後のASTER画像13シーンに適用した。視覚的にはおおむね満足できる結果を得ており、今後、定量的な評価が必要と考えている。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にセンサによる衛星画像のオルソ補正を含む精密幾何補正を完全に自動的に行い、かつその精度を統計的に評価するプログラムの開発に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、精密幾何補正の位置ズレの検証方法や、大気・地形効果補正の方法が衛星データーオルソ補正技術をより進化させるなどでの実用化が期待される。今後は、より現実的な評価基準の設定やパラメータの調整法の検討が次のステップへの課題として明らかになっており、またリモートセンシング学会評価・標準化研究会の標準化にも役立つと考えられる。
多チャンネルアクティブノイズキャンセラの新しい制御法の開発 八戸工業高等専門学校
工藤憲昌
八戸工業高等専門学校
佐藤勝俊
検討した方法は、回転機系の騒音が共振特性を持つことを着目し、狭帯域信号に近似することでその帯域だけ学習することにより演算量を低減し、かつ収束特性の改善を図るものである。シミュレーションにより、狭帯域信号に近似するためのノッチフィルタのパラメータが0.5程度で良いこと、適応フィルタの次数は1程度にすむことを確認した。また、回転機の回転数が変化した時、周波数適応部のノッチフィルタの接続順序が適切でないとき場合、制御性能が劣化するため、その対処法を検討し有効性を確認した。さらに、塩化ビニルパイプ等を用いて、多チャネルANCのプロトタイプ機を作成し、性能について試験を行い、共振周波数の推定ができていることを確認できた。他方、騒音制御性能は、十分な騒音制御性能が得られていない。プロトタイプ機のダクト端の反射が特性劣化の原因と考えており、今後、対策を図りたいと考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも自動車内の騒音制御の基礎的なモデルとしてダクト付きファンを対象とした騒音低減対策技術技術に関しては評価できる。一方、共振周波数の検出には成功しているが雑音抑圧は未達成であり、特許につながるような知見は得られていないため技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ノイズ・キャンセルやエコー・キャンセルなど音響系のシステム制御技術は多くの提案がなされ実用化されている分野であり、従来技術と演算量、収束速度、安定性などを定量的に比較して差別化できるか評価することが望まれる。
海女の潜水エキスパートシステムにおけるハイブリッドセンサを用いた手指腕キャプチャ装置試作 八戸工業高等専門学校
細川靖
八戸工業高等専門学校
佐藤勝俊
本研究は、これまで海女の仮想体験学習システムを試作し、海女の潜水エキスパートシステムへの応用を目指してきたが、潜水操作を海女の潜水時の動作に近づけるため、データグローブとセンサユニットによるハイブリッド方式のセンサを用い、潜水操作系インタフェースの1kg小型軽量化と、85%以上のウニ採取動作検出と90%以上の水掻き動作検出を目標とした。結果、インタフェースは0.72kgとなり、目標の約78%の軽量化ができた。水掻き動作は90%以上、ウニ採取動作も90%以上の検出精度が得られ、目標達成できた。今後は、インタフェースの装着化手法検討と、小中学生を被験者とした水掻き動作等の検出実験と精度向上を行う。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に教育システム、エンタテインメントシステムとしての実用化に向けて設定された課題が概ね予定通りに達成されている。また、展示会などを通して社会還元にも取り組んでいることに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、学術的、知的財産的な独自性がどれほどあるかは疑問である。今後は、地域密着型の産学連携や、個別の着実な社会還元活動が期待される。
自立給電無線LANによる連携する沿岸および中山間地域対応の全方位映像カメラセンサーネットワーク 岩手県立大学
柴田義孝
岩手県立大学
岸本輝昭
太陽光・風力発電および燃料電池を組合せた自立給電を有する小型軽量の全方位映像カメラに高速無線LANを装備してP2Pネットワーク構成で相互接続することにより、商用電源が利用できない沿岸や中山間地域の任意の場所に取り付けて一度に360°の広範囲で高精細映像を高速リアルタイム伝送できるのに加え、カメラ同士がセンサーとして連携して複数の動体を同時に検出を行って互いに情報交換をし、動体の画面上からの切出し・拡大機能や動物体の検出・追従機能や記録機能により、広域での災害監視、自然環境監視や防犯監視等多目的に利用可能な新型映像伝送システムの実用化研究 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に自立給電を有する小型軽量の全方位映像カメラに高速無線LANを装備してP2Pネットワーク構成で相互接続する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、大規模監視、物体検出数、認識率、追従性を向上させる道筋が示され、警備会社やマンション管理会社、遊技場企業等との連携などの実用化が望まれる。今後は、広域での災害監視、自然環境監視や防犯監視等に利用可能な新型映像伝送システムとして社会還元につながることが期待される。
自動車走行時における車外環境音の自動識別に関する研究 岩手県立大学
伊藤憲三
岩手県立大学
岸本輝昭
自動車走行時における車内音データベース(車走行DB)を作成し、これを用いた信号区間検出法及び環境音識別法に関する検討をおこなった。車走行DBは、市街地及び高速道路走行時における車内音に走行状態のラべリングを施し、データベースとして構築した。また、環境音識別に関する検討では、信号区間検出法と信号識別法の開発を進めた。その結果、信号区間検出では、信号波形を2次元の画像情報として扱うことで、高い精度により信号切り出しができるようになった。また、環境音の識別では、周波数特性を4つのモデルでパタン化することで、緊急車両音を大局的に分類できる可能性が示された。これらの成果は、静粛性の高い自動車の増加に伴う車走行時の周囲状況を、音響情報のみで推定することへの基礎的な資料を提供するばかりでなく、今後、危険回避装置などへの応用が期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。環境音からサイレン音、交通信号音の識別についてほぼ目標を達成し、車の遮音性の向上や高齢運転者の増加に伴う安全システム開発に向けた基礎的知見が得られたことは評価できる。一方、安全を目指したシステム開発に結び付けるためには、環境音の検出率と誤差、類似音の識別技術など更なる検出技術の向上とデータの蓄積が必要と思われる。自動車関連企業との共同開発など今後の検討に期待したい。
広域センサネットワークの構築と広域センサ情報の可視化 岩手県立大学
瀬川典久
岩手県立大学
岸本輝昭
スペクトラム拡散通信手法の一つである高速同期を用いたスペクト ラム拡散通信を利用しセンサネットワークの構築を行った。受信局を盛岡近郊の2カ所に設置し、2カ所の受信ノードを管理ノードからコントロールを行い、データの受信が可能になったことを確認した。この仕組みで、複数の受信ノードを連携させて動かすことが可能になり、従来のセンサネットワークに比べてかなりの広域なデータの取得が可能になった。また、そのセンサネットワークから得られるセンサの情報を、JSTの拠点事業で導入する3次元可視化装置を利用し可視化を行った。この可視化によって、センサ情報を、一人の人が従来の平面ディスプレイ上だけではなく、複数の利用者がリアルタイムに3次元可視化装置上に可視化することが可能になった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にセンサ情報を複数の利用者がリアルタイムで共有することを可能とするセンサーネットワークを完成・成果を実証したことに関しては評価できる。今後の技術開発は本システムのユーザーや活用の方法によって異なるものと思われるが、技術的な工夫があれば特許を申請し、現時点におけるハード面、ソフト面の両面における課題を整理することが期待される。
災害における復興確認のための復興ウォッチャーネットワークの構築 岩手県立大学
村山優子
岩手県立大学
岸本輝昭
本研究開発では、静止画像による被災地観察システムのプロトタイプを運用し、利用者の実際のアクセスパターンを分析し、効果的な通信帯域の利用手法を明らかにすることを目標としている。被災地では配信PCからサーバまでの通信帯域が狭いことが問題である。静止画像による被災地観察システムにおいても、静止画像をローカルディスクに保存しておき、利用者にとって優先度の高い静止画像のみを選択して配信することができれば、狭帯域であっても効果的な被災地観察サービスを利用者に提供できると考えられる。平成23年度は、コンテンツへの詳細なアクセスログを保存する機能を持った静止画像による被災地観察システムのプロトタイプを開発し、被災地にシステムを設置した。平成24年度は、プロトタイプシステムの運用とアクセスログの分析を行った。今後の展開としては、優先度の高い静止画像の分析をさらにすすめ、プロトタイプシステムの改良を行う。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に被災地の定点観測画像を一般に配信し、計画内容をほぼ達成したことに関しては評価できる。一方、技術移転につながる成果や特許出願はこの研究の性質上期待しにくく、実用化のための課題を具体的に捉えていない。情報を見たい人々の立場に合わせてグルーピングした上で、優先付けした画像の提供方式を考え、また、被災後の時間経過による通信路の回復状況に合わせた情報提供方式を考慮するなどしないと実用システムに結びつかないと考える。今後は、本システムをそのまま実用化するのではなく、その運用形態や分析手法を技術移転することなどが期待される。
考古遺物実測図化のための大量同時計測型多方向形状計測システムの高度化 岩手大学
今野晃市
本課題では、土木工事などに伴う緊急発掘調査により出土した遺物を効率よく処理し、迅速に発掘報告書を作成するための基盤となる計測ハードウェアの改良と、組み込みソフトウェアツール群を高度化した。具体的には、これまで申請者らが開発してきた3次元形状計測システムを拡張し、より複雑な形状を精度よく計測しながら、計測による欠損を補完する手法を組み込んだ。計測データを実測図作成の次工程に適用して、計測データの評価を実施した。これによって、従来75%程度の割合で自動化されていた遺物処理を97%程度まで引き上げ、発掘報告書作成や文化財のデジタルアーカイブを高度に支援できる計測システムを開発することができた。今後は、本システムを中核とした実用化開発を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に報告書作成業務を、専用の計測装置と組み込みソフトウェアにより高度に支援する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは考古遺物実測図化以外への適用を考えた場合、本手法の特徴を活かすにはどのような応用がありうるのかや適用限界に関する一層の考察も必要と考えられる。
重度障害者の意思伝達を支援する舌インタフェースの開発 岩手大学
佐々木誠
岩手大学
小川薫
口腔内に如何なる計測装置も挿入する必要のない、安全かつ画期的な舌運動推定法として、非侵襲的に観測可能な舌骨上筋群の表面筋電位から、右、左、前方向へと随意的に押し付けた舌の運動、唾液嚥下、開口の各運動を90 %以上の精度で識別する手法を開発した。また、健常成人男性5名を対象とした実験により、口腔内に押し付けた舌の位置だけでなく、力の強弱についても、平均88%の精度で識別できることを示した。今後は、企業への技術移転を行うために、識別可能な動作数や推定精度の向上を図るとともに、汗や皮脂、疲労などが推定精度に与える影響や、本手法を適用可能な重度障害者の障害レベルなどを明らかにする必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に頸髄損傷や筋ジストロフィーなどによる重度四肢麻痺者の自立的生活支援を目的とし、運動機能の高い「舌」に着目したインタフェースの開発であり、多チャンネル顎裏表面筋電図による舌運動識別アルゴリズムは90%以上の精度で使用可能とする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、申請時の段階から重度障害者のニーズ調査、重度障害者の実用試験が行われていない(動きによるノイズ、筋緊張亢進の対策、電極管理など)など追加検討の上での実用化が期待される。今後は、実用化に向けたモデル(デザイン、価格、応用性など)の検討などが期待される。
河川堤防地下構造センシングのためのGPUクラスタを用いたFDTDシミュレーションによるリアルタイム超高速探査システムの開発 仙台高等専門学校
園田潤
地中レーダによる河川堤防の地下構造推定を高速・リアルタイムで行うことを目的に、描画用プロセッサGPUを複数台使用するGPUクラスタを用いて、地中レーダのFDTDシミュレーションを超高速に計算するプログラムを開発する。FDTDシミュレーションによる地下構造推定はこれまで研究されてきたが、計算時間がかかる問題があり実用化されていなかった。我々は、従来手法より500倍程度高速に計算することを目標に、GPUクラスタによるFDTDシミュレーションプログラムを開発した。本研究では2次元および3次元問題のGPUクラスタにおける地中レーダシミュレーションプログラムを開発し、従来の高速CPU 1コアを用いる手法と比較して、2次元問題では858倍、3次元問題では914倍の高速化を達成した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にGPUクラスタによるFDTDシミュレーションプログラムを開発し、測定現場において数分程度で地下構造推定が可能なリアルタイム地下構造を推定するシステムの技術に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、地下構造推定技術に関する研究成果が得られ、既に企業との共同研究も行われているため技術移転への可能性が高い。開発技術は地中探査全般に利用できるため、東日本大震災復興支援技術としての応用展開も期待され、広く実用化が期待される。
フィンガープリントを用いた予測適応型モバイル通信切替システムの検証 東北学院大学
鈴木利則
東北学院大学
鈴木利夫
本研究では主としてアクセスポイントの信号強度を予測する手法の開発と実環境における精度の評価を行った。その結果、フィンガープリントの時間変化から移動の程度を予測できること、フィンガープリントを構成するアクセスポイントの数は平均的には十分であること、過去の移動履歴から通信に適したアクセスポイントを85%程度の精度で識別でき、また、受信レベルが一定値を下回る可能性を目標とする70%程度の精度で予測しえることが明らかになった。一方、バッテリー消費や履歴情報のサイズ、様々な条件下での評価が実用上必要であり、その結果如何では新たな技術開発も求められよう。今後はそのような課題に対処する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に具体的な条件のもとで目標値を達成しており、提案手法の有効性を明らかにした。また今後の技術的課題も明らかとなった点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願の記載がなく、今後の展開に関して具体的な態勢が述べられていない。今後は、特許等の実用化に必要な検討を早期に行い、商用化ベースの検討を行うことで企業化に向けての可能性を大きく高めることが期待される。
マイクロステップ解析型DFAステーションの開発と検証 東北学院大学
神永正博
科学技術振興機構
藤田慶一郎
ICカードや携帯電話用SIM等のセキュアマイコンに対する差分誤動作解析攻撃(DFA)への脆弱性を評価するために、DFAステーションを開発し、DFA対策を実装したより強固な暗号計算マイコンを開発する基礎技術を確立することを目的に研究を推進した。本研究では、特に、誤動作のうち、命令バイパスに注目し、詳細を調べた。その結果、異常信号の印加タイミングと命令バイパスの成功確率チャートを生成するDFAステーションの開発に成功し、有効な脆弱性評価関数が提案できた。さらに、DFAステーションを用い、様々な命令のバイパス確率を測定し、これまで脆弱性が指摘されていた分岐命令の他にも脆弱性のある命令を抽出し、その攻撃方法の詳細をも明らかにした。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にDFAステーションを開発し、1データ取得が2~3秒に短縮され60倍以上効率化、4倍の速度で計測処理可能となったほか、異常クロックアタックの自動計測が可能となり、技術的成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、自動車や防災機器など安全・安心に対する要求の高い分野などでの産学連携による実用化が期待される。今後は、セキュリティ、安全・安心を追求した製品を通して社会に還元することが期待される。
電波マーカを利用した悪天候時運転支援システムの研究開発 秋田県立大学
礒田陽次
秋田県立大学
石川直人
豪雪地域の冬季の道路は積雪のためにガードレールやセンターラインが見えず、自動車が通行すべきレーンを維持することが困難となる。特に、地吹雪など、視界不良をもたらす悪天候時には非常に危険を伴う。本研究では、視界不良時でも通信が可能な電波を用いた安価なレーンキーピング支援システムを開発する。電波源として路肩設置型電波マーカを開発し、そのマーカから取得される位置情報を元に自車のレーン上の位置を求めてドライバにその情報を提示するレーン誘導システムを開発する。
開発課題は、電波マーカでは、ドライバが位置情報を得てから運転動作に反映するまでの短時間で送信を完了すること、電波マーカと車両間の通信距離の明確化、電池で2年以上作動可能とする低消費電力化等であり、レーン誘導システムでは、自車の不正確な位置情報と正確な電波マーカの位置情報から正確な相対距離・角度の算出方法を見出すことである。今年度は昨年度設置したスノーポールを使用して、電波マーカと車両間の実車を用いた通信試験を行った。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも様々な実験がなされいて、当初の目標はある程度達成されている点に関しては評価できる。一方、レーザセンサを使うことで、技術移転に必要な技術的ハードルは高まったといえる。技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、電波レーダをレーザセンサに変更したことによるコストの問題、積雪の影響等、多々あると思われる問題の解決が望まれる。
高速無線情報通信を支える高温超伝導バンドパスフィルタの開発 山形大学
大嶋重利
超伝導バンドパスフィルタは、ほぼ理想的なバンドパスフィルタ特性を有している。また、次世代の超広帯域通信(UWB通信)にも超伝導バンドパスフィルタが検討されている。しかし、超伝導フィルタを実用化する道は厳しいものがある。それは、超伝導フィルタを冷却した状態でチューニングすることが難しく、そのためにフィルタの歩留まりが悪いからである。我々は、トリミングライブラリ法という新しいチューニング法を提案し、容易に超伝導フィルタをチューニングする手法を開発した。その手法を、実用化超伝導フィルタに応用できるかどうかを検討することが本研究の目的の一つである。また、UWB通信用超伝導バンドパスフィルタを試作しその有効性をアピールすることがもう一つの目的である。2つの目的は我々の今までの研究成果で十分達成できるものであり、達成された技術を企業に移転できるかどうかを検討することが最終ゴールである。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に 次世代超高速・低消費無線情報通信を支えるためのバンドパスフィルタの技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、4段クロスカップル型フィルタのトリミングライブラリを作製し、その有効性を明らかにしたことや、UWB通信用超伝導フィルタを試作しその特性がほぼシミュレーション結果と一致していることを確認しとことなどでの早期実用化が期待される。
光単側波帯変調の光ファイバ伝送に適したヒルベルト変換器の研究開発 山形大学
高野勝美
光ファイバ通信に適した光単側波帯信号を生成するためのヒルベルト変換性能を理論的に明らかにした。理想的なヒルベルト変換器を用いた単側波帯変調では、ピーク対平均電力比が大きくなるため、変調度を大きくすることができなかったが、ヒルベルト変換器の振幅特性を高域通過型とすることで解決できることを明らかにした。変調度を上げたとしても側波帯抑圧比は20dB以上が得られることがわかった。高域通過型ヒルベルト変換器を用いた光単側波帯変調は、光ファイバ伝送中の非線形に起因する自己位相変調効果による波形歪みの抑制に効果があることもわかった。波形歪みが発生する閾値光ファイバ入力強度を20倍まで大きくできることが明らかになった。当初掲げた目標はすべて達成した。今後は、フィルタ最適化法などの設計法を詳細に検討し、産業化につなげたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初掲げた目標を数値計算上で達成された点に関しては評価できる。一方、ヒルベルト変換器のための最適フィルタ設計法が確立されておらず、光ファイバ伝送実験による当初目標の実証もなされていない。特許出願などに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、設計法を確立し、実証試験による評価を行うことで共同研究につながることが望まれる。
進行波型トランジスタを用いた短パルス生成・制御に関する研究 山形大学
楢原浩一
山形大学
櫻井宏樹
本研究は進行波型トランジスタ(TWFET)に誘起される非線形波動を利用した短パルス生成・制御に関する。素子の数理的描写を通してプリント基板回路技術を用いてのマイクロ波帯実践設計論を確立した。1次元および2次元TWFETについて素子試作を行い、短パルス生成・制御の動作原理実証に成功した。例えば100ナノ秒程度の時間幅のパルスを幅2ナノ秒にまで短パルス化することができる。また、パルス発振と位相制御性を実証した。速度性能には余裕があり一層の高速化設計が可能である。また、TWFET上におけるショック波生成条件を新たに導いた。ショック波を用いることでTWFET上の波動のキャリア周波数にドップラーシフトを引き起こすなど、波動制御の新たなシーズを開拓した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に一次元TWFETおよび二次元TWFETの動作実証が行われ、目標が達成されている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、既存技術に対するTWFETの技術的優位性についての追求が期待される。今後は、特許の取得や、たとえばピコ秒レベルのパルス圧縮、タイミング制御が可能であることの実証を行うことなどによる、技術移転の実現が期待される。
脳波光駆動反応を利用したコンピュータへの文字入力システムの開発 山形大学
深見忠典
山形大学
歌丸和明
本研究は、汎用ディスプレイ上に呈示された文字群から被験者の意図する文字を脳波により入力するためのインターフェイス構築が目的である。本研究では、文字の点滅周波数に対応する脳波成分が観測されることを利用するが、ここでは、点滅に使用する視覚刺激の最適な物理特性の獲得、点滅周波数の割り当て方法や判別に要する時間の短縮化を目指し実験を行った。結果として、汎用のディスプレイに表示される輝度レベルでも脳波による文字識別は可能であるが、高周波の点滅においては、計算機のタイマー機能を用いた文字呈示では、呈示間隔のばらつきにより意図した周波数からシフトした周波数として計測された。また類似する点滅周波数が入力対象文字の周辺の文字に割り当てられた場合、脳波における干渉が生じるため、今後は周波数の最適な割り当て方法も含めた研究が必要不可欠である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも脳波ルーチン検査の一つである光駆動応答検査をブレインコンピュータインターフェイスの文字入力システムに応用する技術に関しては評価できる。一方、文字入力を脳波で行うためには、文字に依存して明確に脳波が変化しなければならない。今回の研究では必要な分解能には遠く及ばないし、脳波の干渉の問題や、同じ個人でももともと脳波が持つ周期が状況によって変化することなどを考慮すれば脳波に高い分解能を要求する本研究課題は困難が予想されていたはずである。また、周波数分解能の面では文字呈示の間隔、すなわち呈示タイミングの精度が原因であり、専用ハードウェアを使用することで解決できるものと期待される。
線形帰還シフトレジスタを用いた微小遅延故障検出のための高速遅延測定法の開発 鶴岡工業高等専門学校
加藤健太郎
科学技術振興機構
藤田慶一郎
本課題の目的は、線形帰還シフトレジスタを用いた微小遅延故障検出のための高速遅延測定法の開発である。具体的には、高速化のためのスキャンパスを用いたテスト応答の高速非同期転送方式の実現可能性の検討、及び効果の確認であった。実験において64ビットのスキャン長において提案法同期方式と比較してデータ転送時間を3%まで削減が可能であることを確認した。これは測定時間に換算すると提案法同期方式の15.35%まで削減されることに相当する。このことから測定時間に関しては目標を達成した。面積に関しては、提案法非同期方式のフリップフロップの面積が提案手法同期方式のフリップフロップの面積に対してわずか2%の増加であった。これはシグネチャレジスタ数削減による面積削減目標の達成の可能性を示唆する結果と言える。今後は、面積削減、非同期転送の転送距離、スキャン操作時間の削減に注力して実用化の検討を行っていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもLSI製造プロセスの微細化、低電力化、高速化が進められる中での微小な遅延故障検査スキャンと可変クロックを用いた組み込み遅延測定技術に関しては評価できる。一方、現行技術の20%以下の面積オーバヘッドについては、実証に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後の技術的課題としてスキャン操作時間やコスト面を含めた実用性の検討が望まれる。
メディア隠蔽に基づくカードユーザ認証新技術の実用化に関する研究 会津大学
趙強福
会津大学
本杉常治
本研究は、二つの課題、即ち、認証画像の隠蔽と再現を高速化することと、認証画像をできるだけ自然な形で隠蔽すること、について検討した。前者については、メッシュワーピングを利用することで、目視で認証可能な顔画像(300x450画素)を2秒程度で隠蔽或は再現することができ、従来方法に比べ、実行速度を20倍くらい高くした。後者については、対話的進化的アルゴリズムに基づく方法について考察した。進化におけるユーザの疲労を軽減するために、収束が速い差分進化を採用した。また、ユーザの主観判断を安定化させるために、類似度に基づく評価値リコメンダーを導入した。更に、このリコメンダーを元にユーザ感性の進化的モデリングについても考察した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にカードが使用される時だけ、サーバ、端末、カードに分散された鍵情報を元に認証画像を再現する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標のうち、「認証画像の再現の高速化」については、達成されており、「認証画像の自然な形での隠蔽」に関しては次の段階に進むための技術的な課題が明確となるなどでの実用化が期待される。今後は、実用化に向けたプロトタイプシステムの構成という具体的な計画が立てられており、また、 携帯電話への応用が期待される。
見えない2次元コードを利用した読字障害者向けマルチモーダル教科書の開発 茨城大学
藤芳明生
茨城大学
太田秀夫
見えない2次元コードを利用したマルチモーダル教科書の試作を行った。これは、目に見えない極小ドットによる2次元コードが重ねて印刷された紙の教科書と音声再生用の2次元コードリーダ内蔵のペン型ICプレーヤーで実現される教科書である。これにより、視覚と聴覚のマルチモーダルでの学習が可能になる。読字障害者だけでなく、外国人子女の増加により、読みが困難な児童・生徒は増えつつある。本課題で開発されたマルチモーダル教科書は、紙の教科書とペン型ICプレーヤーの2点だけですみ、通常の教室でも容易に利用することができる。試作した教科書は、各方面から好評をいただいており、早急に実証実験に移りたいと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に教科書を取り上げ、文章を2次元コードに変換し、赤外線を吸収するインクで重ねて印刷し、点字図形に対しても同様な処理をするとか、これらの2次元コードを、2次元コードリーダ内蔵のペン型ICプレーヤーで音声に変換して読み上げる評価を行うことなどの技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、マルチモーダル教科書作成の一連の流れに関しては、既存の技術の比較検討を行っている点や、読書障害者にとっても有効とみられる点などでの実用化が望まれる。今後は、基本的には既存の技術で実現できるので技術的問題はないが、「使い勝手」に関しての実用性検証が評価されることが望まれる。
検索暗号システムにおけるクラウドサーバ不正検出方式の研究開発 茨城大学
黒澤馨
茨城大学
太田秀夫
文書、写真等をインターネット上に保管するクラウド・ストレージ・サービスは、既にGoogleなどによって実用化されている。これらのサービスにおいては、自治体クラウドの例をみてもわかるように、保管データの暗号化が重要である。さらにクライアントが検索キーワードも秘密にしたままキーワード検索を行うことができるような暗号システムを、検索暗号システムという。このとき不正なサーバは、ファイルを改ざんしたり、削除したり、すり替えたりといった不正行為を行うことが考えられる。本研究では、まず平成23年度に、クライアントがサーバの不正を検出できる手法を世界で初めて開発した。平成24年度は本手法を実装した評価システムを作成し、所望の機能を有することを確認した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にクラウドコンピューティングによる文書管理システムにおいて、サーバのいなかる不正をも検出可能とする検索暗号システム・サーバによる不正が行われたときに、クライアントがそれを検知できる技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業化に向けファイルの追加、削除、変更に対応可な方式と使い易いインタフェースの開発が検討されており、早期の実用化が期待される。
GHz級情報通信機器のための低クロストーク配線の開発 筑波大学
安永守利
筑波大学
太田司
GHz級ディジタル情報通信機器では、配線間のクロストーク(配線からの漏洩電磁波が周囲の配線に発生する寄生信号)が急激に増加し、高速化の妨げとなっている。この問題に対して、我々がプリント基板やLSI内配線構造として新たに提案している「セグメント分割伝送線」を適用し、試作評価を行った(1GHzのプリント基板配線のスケールアップ試作を行った)。その結果、従来配線のクロストークをその49~59%に低減(約半分以下に低減)することができた。また、伝送周波数の±10%の変動に対してクロストークの増加は33~37%であることが分かった。以上より、クロストークを大幅に低減できる基本的な見通しを得た。今後は、PC等のプリント基板への実適用を行い評価を進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも「セグメント分割伝送線」を用いることによりクロストークを低減させる技術に関しては評価できる。一方、特許出願や学会での発表、論文発表が全くなされていなことから技術的な成果がほとんどアピールできていないことや、企業との共同体制が全く構築されていないのは技術移転への取り組みが不十分である。今後は、実用性の観点ではまだ未確定な要素があり、実用的な実証が早急に望まれる。
半導体・液晶製造の良品スループット向上とコスト低減の両立を目指してQ-time制約の遵守と装置の生産性向上とを同時に実現する実時間最適オペレーション管理手法の研究 筑波大学
有馬澄佳
筑波大学
太田司
半導体等製造では、プロセスの高度化に伴い製造条件に品質保証時間制約(Q-time制約)が付加されている。他の生産目標と相反するQ-time制約の最適管理方法が確立されておらず、対処的な処置でコスト、資源・エネルギー等を浪費している。この問題を解決するために既に研究責任者が提案している「Q-time制約付き生産システムにおけるQCDRを考慮した多品種物流・装置保全の最適管理方法」を工場全体に展開する技術を提案する。本研究では、多品種・多目的生産において工場全体のオペレーション最適管理条件を実時間で算定する方法を確立することを目標とする。ソフトウエア開発、先行技術との性能比較、および知的財産の強化を図る。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標がほぼ達成されており、特許出願が行われた。また、研究成果に対する企業側からの評価を受け、次の研究方向の具体的な設定が行われている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、製造業の競争力強化などでの社会還元が期待される。今後は、実用化に向けた情報通信システムの課題に対し産学共同で取り組むことが期待される。
レンチキュラーレンズを用いた高精度な姿勢検出が可能な視覚マーカの開発 独立行政法人産業技術総合研究所
田中秀幸
本課題の目標は、正面から観測したときでも高精度な姿勢推定が可能な視覚マーカ(ARマーカ)を開発することである。研究開発の結果、レンチキュラーレンズを用いた視覚マーカの屋内版の開発を計画通り達成した。また、屋外版の開発に代えて、マイクロレンズアレイを用いた、より製造工程がシンプルな視覚マーカのプロトタイプを開発することができた。両マーカについて、その位置姿勢を計算するアルゴリズムを開発し、それぞれ目標とする姿勢推定精度を達成することを計測実験により確認した。今後はメーカと共同で両マーカのさらなる品質向上と、新たなマーカのデザイン(パターン)の検討、および製品化に向けた製造技術の開発を行う予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の計画通りには行われなかったものの、レンチキュラーレンズによるものからマイクロレンズアレイによるものへと発展的に計画変更することで、性能的には当初計画よりもむしろ進んだものとなっている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、大量生産方法の検討については計画の8割程度の達成度にとどまっている。また、計画変更のため十分な期間が得られなかったためもあり、性能評価が十分でないとも思える。今後は、特許出願や、企業との連携を通じた課題解決による社会還元が期待される。
光加入者網大容量化に必須なチューナブル波長選択フィルタチップの開発 宇都宮大学
依田秀彦
宇都宮大学
荘司弘樹
チューナブル波長選択フィルタを実用化することを目指して、3つの達成目標を設けて試験を実施した: (i)最大透過率を全ての制御温度に対して70%以上; (ii)応答速度を2秒以下、消費電力を0.3W以下; (iii)透過スペクトル形状を再現性よくBox-likeガウシアン形にする。
試験結果: (i)では、フィルタ加熱用ヒータ膜形状を見直してフィルタチップの面内温度分布均一化を実現し、成膜ガスを変更することで a-Siフィルタ薄膜の吸収を低減した。 (ii)では、フィルタチップガラス基板への局部薄型加工技術を新しく開発し、応答速度と消費電力を試験実施前の半分に改善した。 (iii)では、目標到達にむけて、in-situ光計測の光量安定性向上と、成膜シーケンスの半自動化を実施した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に温度制御形チューナブルフィルタに関する性能改善を目標とした最大透過率や制御温度に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、チューナブル波長フィルタの構造や材料を改良することによって、フィルタ性能(最大透過率、応答速度、消費電力)に向上の余地、温度制御型構造では応答速度に限界があるなど課題も明確になってきている点などでの実用化が望まれる。今後は、透過スペクトル形状の制御、応答速度の改善などをポイントとした技術を並行して検討されることが期待される。
超高性能レンズドファイバの量産化技術の開発 宇都宮大学
白石和男
宇都宮大学
荘司弘樹
集光作用が格段に優れたプラノコンベックス(PC)型レンズドファイバを量産するための基本技術開発が本研究の最終目標である。当初の実施方法を一部変更することによりこの目標を達成した。光ファイバ通信分野では既に技術的に完成している、光ファイバのフェルール化技術を利用した。従来の手工業的で熟練を要するレンズドファイバ研磨プロセスに替わり、安定で使いやすい形態かつ量産可能な技術であることが実証できた。レンズドファイバ本体の光学特性の改良も行った。集光ビーム直径が波長1.55μmにおいて1.0μm、反射減衰量21dB、透過損失0.06dBという高性能を得、さらに実際にシリコン細線導波路との結合実験を行い1.45dBという低損失を実現した。これらの光学特性は樹脂中で得られ、レンズドファイバを接着剤で固定して使用できることも証明した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。光ファイバのフェルール化技術を利用し、従来の方法に比べて安定で使用し易い、超高性能のレンズドファイバ量産化技術を開発したことは評価できる。本レンズドファイバは、光学特性や堅牢性、量産性のすべてがほぼ完成に近いレベルにまで至ったと考えられるので、企業に積極的にサンプル提供を行い、検証してもらうことは必要不可欠である。今後は、光通信網の高速・大容量化のみならず、医療や高密度光記録などの分野へ応用展開されることが期待される。
多サイズ間横断型画質評価手法の研究開発 東京農工大学
田中雄一
宇都宮大学
荘司弘樹
本研究の目的は、多サイズ間横断型画質評価手法の実現のため、二画像間の画素同士を対応付ける際、1画素で表される特徴「点」群ではなく、より多くの画素で表される特徴「領域」群(各々の領域が数十画素-百画素程度)によって対応させる技術を開発することである。初年度である今年度では、我々が先に出願した特許手法を元に、より主観的な評価に合致するための手法に関して研究を進めた。具体的には、先の手法と比較し、対応付ける参照範囲をより柔軟に設定するための各種技術を精査し、ソフトウェア上で実装した。先に出願した手法と比較し、画像のサイズに対する評価値が安定するという結果を得た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に多サイズ間横断画質評価手法を元に、それに内在する問題点を解決することでより産業応用に適した画質評価手法、ならびにその評価手法を利用した応用技術技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、 開発された像評価法・画像リサイズ法は技術移転の可能性があるが、学会発表・特許出願等は行われていない。今後は、 特徴点算出手法・特徴点マッチング手法に関する研究開発計画が示されている。
超高速アクティブビジョンによる対象追跡・計測システムの開発 千葉大学
並木明夫
千葉大学
小柏猛
近年、高速度カメラの普及が進んでいるが、オフラインでのデータ取得が目的であり、高速移動物体の実時間での画像計測には向いてはいない。本応募課題では、この欠点を改良し、汎用的な超高速実時間画像計測技術として、次世代知能ロボットに渇望されるミリ秒の高速視覚機能を開発した。具体的には、高速ズームフォーカスメカニズムの開発、視覚サーボ制御理論によるズーム・フォーカス同期制御、ズーム・フォーカス制御と視線方向制御を連動させた3次元トラッキング、高速分光画像取得投影制御、等の基礎技術の開発を行った。また、高速視覚フィードバック技術を注水ロボット、エアホッケーロボット等で運用することでその有効性を検証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。最終目的である対象追跡・計測システムを開発するには、今回の数々の保管技術・機能の完成が鍵となっている様相なので、全体をバランスよく進められたい。社会的ニーズの高い内容で、発展が期待される。
LED技術のデジタル制御に着目した照明機器への応用実用化 財団法人国際メディア研究財団
武藤努
(財)国際メディア研究財団
大野一生
次世代光源のインタラクティブな色彩照明機器・色彩照明手法への応用実用化を目標として、LED光源をデジタル制御するための入出力技術の研究開発を行った。具体的には無線LANネットワークに接続されたLED光源をタッチパッド型情報端末やカメラセンサーを用い独自色彩アルゴリズムで制御可能とした。技術的な部分での更なる高度化の必要性はあるが、出力光源の制御技術と入力インターフェース技術を組み合わせた、インタラクティブな光源制御システムの構築とともに、その具体的な利用方法を検討し基礎となる研究開発を達成した。これを基に今後は関連企業と従来光源の利用方法に捉われない、より実用的な応用への共同研究開発が展開可能である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に省電力化に向けた社会的な要請が強まる中で、LEDの利用は急速に進むものと言える。本研究は照明の明るさはもとより、色相、彩度の制御をインタラクティブにできるシステムは、スマートシステムとして実用化に向けた技術に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、生活環境のアンビエントへの適応性を高めた製品やシステムとした民生機器などでの実用化が期待される。今後は、キネクトなど人間のジェスチャー検出によるシステムが多種実用化が進んで来ており、それ等の技術も含めて丁寧なシステムとして構築される事が期待される。
異常イベント検出のための省電力型センサネットワーク制御技術 首都大学東京
朝香卓也
首都大学東京
宗木好一郎
地震による甚大災害や家屋の火災等の異常イベントを高効率に検出するセンサネットワークの実現は重要な技術である。これらの異常イベント検出を契機にデータ収集を開始するセンサネットワークでは、地理的に近い位置に設置されたノードは同一のイベントを観測する傾向にあることから、重複した冗長で無駄なイベント検出メッセージがネットワーク内に多数転送されることなる。イベントを検出したそれら全てのノードから観測情報を収集すると、消費電力の観点からは効率的ではない。そこで、本研究ではイベント発生領域を推定し、その領域のエッジに位置するノードのみのイベント観測情報を収集することで観測情報通知の冗長性を排除し、低消費電力化を実現するデータ収集法を提案した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも地震による災害や家屋の火災等の異常イベントを高効率に検出するセンサネットワークを実現する技術に関しては評価できる。一方、当初目標としていた、100分の1程度のネットワーク内転送データ量については評価が行われていない、また消費電力を10分の1程度に抑えるという点についても目標対して十分に達成されたとは言い難いため技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後省電力化の観点での改良と、MOTEへの実装実験など、いくつかのステップに対し産学共同研究などを通しての推進が望まれる。
小型超磁歪歯骨伝導アクチュエータを用いたコミュニケーションエイド 早稲田大学
及川靖広
本研究では、小型で様々な歯型に適合可能な歯骨伝導デバイスの開発とそれを用いた歯骨伝導現象の解明、両耳効果を含む聴覚特性の把握を行い、新たな音情報伝達経路の確立を目指す。超磁歪素子を用いた歯骨伝導アクチュエータを製作し、その特性の評価を行った。その結果、高能率で平坦で広帯域な周波数特性を持ち、また、2個のデバイスを左右の歯で噛み、その音響信号にレベル差をつけることで定位させた音像を知覚することが確かめられた。さらに、歯科医師の協力により歯への装着や埋め込みの可能性を確認することができ、受聴者個人へのフィッティングの可能性を示唆した。将来的にはヘッドホンやイヤホンに代わるデバイス、歯骨伝導補聴器等への応用が考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に歯を介した骨伝導に着目し、新たなコミュニケーションエイドとする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、製作と測定や、被験者実験は概ね達成されたと考えられるが無線化、フィッティングに関しては、客観的な記述がなく更なる評価が期待される。補聴器会社の研究者との共同研究であり、その面では有利ではあるが、口腔内配置に関しては、聞こえの改善に留まらない別の問題をかかえることになる。
地域の安心・安全を実現する異種情報の無線伝送制御システム 東京都立産業技術研究センター
中川善継
東京都立産業技術研究センター
三尾淳
近年、地域の防災への関心が高まり、都市に住む独居高齢者の安否や、災害時における過密地域の避難・消防の迅速な対応は大きな課題となっている。災害直後における通常の情報通信インフラはその殆どが制限されることを踏まえ、所在通知や緊急時の通報の代替手段として、平時に環境モニタリングなどにおいて活用している無線センサネットワークを利用した伝送制御手法に関する研究開発を行った。都市の電力監視、制御に向けた技術として無線センサネットワークが注目を集めており、センサと制御が広く生活に普及する中、既存の無線センサネットワークを活用する効果への期待は益々大きくなると予想されることから、実証、デモへと展開していく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。大震災等の直後における通常の情報通信インフラはその殆どが制限されていることを考慮すると、所在通知や緊急時の通報の代替手段として、平時には環境モニタリング等において活用している無線センサネットワークを利用した伝送制御手法は注目に値する。しかし、本研究で行われた評価は、現実世界より簡略化された条件でのシミュレーションによるものであるので、今後は、出来る限り実証試験を行い、問題点をフィードバックしながら改善を重ねていくことが望まれる。
年齢を考慮した無拘束型睡眠段階推定手法の開発と応用 電気通信大学
高玉圭樹
株式会社キャンパスクリエイト
高橋めぐみ
本研究では、高齢者の健康状態を把握するために「睡眠」に着目し、無拘束の状態で(布団やベットに寝るだけで)睡眠段階を推定できる手法を探究するとともに、その有効性を検証することを目的とする。具体的には、心拍データから睡眠段階を推定する方法を展開し、(i)レム睡眠かどうかの2値の判定ではなく、医療での評価として使われている4段階(覚醒、REM、ステージ1と2、ステージ3と4)での睡眠段階の推定を可能にする。また、(ii)睡眠の深さやリズムは年齢によって異なるため、年齢を考慮することによって睡眠段階推定率を向上させ、実用化レベルへの到達を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも高齢者の健康状態を把握するために「睡眠」に着目し、無拘束の状態で(布団で寝るだけで)睡眠段階を推定できる手法技術に関しては評価できる。一方、本研究は生理学者、医師グループとの専門分野との共同研究が必要と思われる。この睡眠活動が心拍で測定可能となれば、大きな実用化が期待できるが、基礎研究での証明が必要と思われる。今後は、今回得られた研究成果を人工知能などの学会よりも、まず、国内外の睡眠活動学会、睡眠活動学会、精神活動学会などの医学、生理学会でのご発表による確認が望まれる。
テキスト情報のイメージに合致した色彩提案システムの開発 電気通信大学
坂本真樹
株式会社キャンパスクリエイト
野崎絢子
パンフレットやポスター等のデザイン支援を目的とし、本研究では、ユーザが入力したテキストのイメージに適した色彩・感性情報・フォントを推定するシステムを開発した。テキストに含まれる各単語と結びつきの強い色彩を推定し、色彩の印象を感性評価尺度で定量化し、同じ感性評価尺度であらかじめ印象を評価した118種類のフォントとの類似度を計算する。これにより、テキストの色彩イメージが決定し、その色彩イメージが持つ感性情報を推定でき、さらに感性情報に適したフォントの選定が可能となった。以上の流れでシステムを実装し、本システムで提案されたデザインがテキスト内容に適しているか、その認知的妥当性を検証することでシステムの評価を行った。今後は、実際のパンフレットやポスターのデザイン作成における実用性を高めたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもテキストから想起された色彩の印象を感性評価尺度で定量化する技術に関しては評価できる。一方、「テキスト情報のイメージ」と「イメージに合致する色彩」を結びつける二重の感性情報を扱う困難さはあるが、歌詞と色彩から楽曲を選ぶという先行研究の手法を越えるアイデアに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後技術移転するためにはもっと基礎的な統計知識に基づいて正確な解釈を行う必要がある。
電気触覚ディスプレイと共存する触覚センサの開発 電気通信大学
梶本裕之
株式会社キャンパスクリエイト
李瑩玉
スマートフォン等で利用場面が飛躍的に拡大したタッチパネルには、表示映像の触感を得ることができないという課題がある。現在は主にパネル全体の振動による解決が図られているが、根本的には分布型触覚提示と分布型触覚センシングを同時に実現する必要がある。本研究開発は世界初の分布型触覚フィードバックを有するタッチパネルを目標に、その要素技術である「触覚ディスプレイと触覚センサの共存」を電気刺激の利用により実現した。さらに皮膚インピーダンスに伴う感覚閾値の関係を詳細に分析し、従来よりもはるかに簡便な方法で感覚の安定化を実現した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標から変更になったものの、感覚安定化に関する研究を行い成果を得た点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願や論文発表が行われておらず、また本課題自体の技術移転についての具体的検討が十分とは言えない。今後はコストや耐久性、透明化などの実用化に向けた課題を整理し、共同研究先企業などとの連携による具体的な取り組みが期待される。
水中ロボット用海水中2.4GHz帯通信の開発 東京海洋大学
清水悦郎
東京海洋大学
前田敦子
研究開発責任者らが発見した通信を行いたい機器間にゴム等の伝達媒体を接触させるだけで一般に利用不可能と考えられていた海水中での 2.4GHz 帯無線通信が可能となるという技術に関して、通信媒体の材質・形状・接触面積によって通信特性がどのように変化するかという特性検証実験を行った。その結果、通信機器間の距離が近くても形状によっては通信電波強度が低下することがわかり、形状には気を付ける必要があることが明らかとなった。しかし通信機器と通信媒体の配置に関して、新たな知見が得られたため、通信機器と通信媒体の配置に関して、さらなる検証実験を行う必要があることが明らかとなった。今後も継続して、本開発を進めていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に通信媒体の形状による影響の調査、材質による違いを明らかにした点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許化と共同研究の推進などでの実用化が望まれる。今後は、どのくらいの距離まで通信できるのかを早急に明らかにすることが期待される。
樹木種に固有の形状特徴を反映できる風害リスク診断システムの実用化 東京農工大学
赤木康宏
東京農工大学
島村太郎
果樹などの風害被害を未然に予測し予防することのできる、風害予測シミュレータの実現を目指し、従来手法では実現が困難であった、枝折れ等の破壊現象を伴う樹木の風による力学変形シミュレーション技術を確立する研究・開発を実施した。風のシミュレーション手法としては、流体力学の1手法であるSPH法を用いると共に、SPH法との親和性の高い樹木の変形モデルとして、樹木の内部構造を粒子により近似する手法を提案した。一連の手法を風害予測シミュレータとして実装し、実の樹木における枝揺れ量との比較実験を行い、誤差約10%以内の精度で枝にかかる負荷の予測が可能であることを実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、風シミュレーション技法の高精度化、力学変形モデルの開発等を通じて、枝にかかる負荷の予測シミュレーションシステムに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、風害シミュレーションの可視化ツールとして、CGによるアニメーション手法を構築し、確認容易性を向上していることや、台風災害等を考慮して非定常的な風環境評価も期待できる点などでの実用化が望まれる。今後は、さらなる実用的環境での性能評価、精度向上が実施され、剪定、農園システム設計支援システムの検討がすすめば、大きく社会的貢献に寄与することが期待される。
光ファイバ給電型超低電力カメラの開発と多点監視システム応用の実証 東京農工大学
田中洋介
東京農工大学
島村太郎
本研究開発では、光ファイバ給電による超低電力カメラの開発、ならびに多点監視網への応用可能性について検討を行った。昇圧回路の最適設計による高効率な光給電、マイクロプロセッサによる消費電力制御、ファラデー回転ミラーによるLN光変調器の偏波無依存化、それらによる高速で低電力な変調による光信号生成の達成により、当初の目標であった5mWの光パワーで動作し、30万画素の静止画を伝送するカメラノードの開発に成功した。この低電力カメラノードは、100mWのレーザが1台あれば、10台前後の動作が可能である。伝送された画像信号は、監視側のコンピュータでデコードし、鮮明な静止画として確認している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に光ファイバで送られる2mW程度の微弱光パワーで動く超低電力な光給電型センサによる光給電型監視カメラの技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、消費電力の小さな鮮明な静止画を用いた多点監視システムを目標を大部分達成しているが、カメラ1台について30sごとの静止画転送速度の改善などでの課題も残っている。今後は、監視カメラ以外についても具体的な必要性を掘り起こし、企業との連携等による機能的、性能的発展が期待される。
スマート・クラウドを利用したEDIのためのスクリプト言語の開発 法政大学
藤井章博
法政大学
村上義英

スマートフォンをクラウド環境と連携させ、EDIを柔軟に実装できることを目標とした。そのために、既存のSpecrip ( www.specript.org )を改良した SpecriptII の開発を行う。言語の特徴は、What 宣言型であり、RESTfulな情報リソースの活用を実現する。平成23年度の検討に基づいて、処理系としてJava/JavaScript と HTML5 を採用し、汎用性の高い処理環境を実現する。また、ユーザインターフェースの定義方法として、リソース指向という設計思想に基づいて、アプリケーションのリソースへの参照をWeb-APIで提供するものとする。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に計画時の目標が全て達成されており、Android端末向けのプロトタイプを得るなど、言語開発の技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、新しいサービスやビジネスモデルの創出が期待できるが、実装した成果物に対する効果や優位性の検証・考察が十分でない。今後の計画を明確化し、企業との連携を通じた技術移転が期待される。
同時送受信実現を目的とした干渉除去のためのハードウエア構成技術の開発 新潟大学
西森健太郎
新潟大学
定塚哲夫
本研究では、空間チャネルを利用したヌル制御と、無線LAN等に使用されている制御信号の性質を利用した信号処理による複合型干渉除去ハードウエア構成技術を提案し、中継局における同時送受信を実現することを目的として検討を行った。i) 固有モード伝送の考え方を利用した干渉除去法、ii) 無線LAN信号のヌルチャネルを利用した干渉除去法をそれぞれ提案した。i)においては、干渉除去に有効な素子間隔、送受信間隔を明らかにし、理論と実測値がよく一致することを示した。ii)においては提案する手法により、干渉信号を20-25dB抑圧できる性能があることを明らかにし、中継局同時送受信のための基礎データを取得した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に空間チャネルを利用したヌル制御と、無線LAN等に使用されている制御信号の性質を利用した信号処理による複合型干渉除去ハードウエア構成技術を提案し、中継局における同時送受信を実現している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、複数の基地局を近接で配置する場合に、新規基地局のみのアンテナ配置を最適化することで、既存システムの基地局に与える干渉を回避する技術を進めることが期待される。
大型構造物の健全性診断用光周波数コム計測装置の開発 長岡技術科学大学
塩田達俊
長岡技術科学大学
品田正人
二波長同時ヘテロダイン検波法の距離計測への適用性を検討し、10mm以上の距離を10ミクロンオーダーでの精度で計測できることを示した。さらに、空間的な物体までの距離がどの程度まで計測できるかを調査するために、ファイバーコリメータ-の性能を評価した。その結果、10メートル以上に平行ビームを調整できることがわかり、さらに40メートル(往復80メートル)以上の距離まで計測可能であることが分かった。今後は、さらに簡易的に計測できるシステムへと技術を拡張して実用性へ向けた技術レベルの向上を図る。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に空間スケールが大きい社会基盤構造物の変位を多数の点で同時に非接触計測できる多点同期計測器を開発する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標としてあげていた4つの課題のうち、2波長同時ヘテロダイン検波法の導入、1km光ファイバープローブの開発に必要なコリメータの調整については、報告書から確認できたが、1kmの光ファイバを使用したプローブシステムの実現や多点同時計測システムの試作に関しては不詳である。大型構造物の変位の調査は社会的な必要性が高く、研究成果が応用展開された場合は社会還元が可能であるなどでの実用化が期待される。
一電極脳波のデコーディングに基づく情報検索技術の開発 富山県立大学
唐山英明
富山県立大学
定村茂
本研究課題では、脳波計測を行い、複数の画像の中から注意を向けた特定の画像をリアルタイムで判定し、これを抽出する手法を開発することが目標であった。記録した脳波データを用いて脳波のデコーディングを行い、このデコーディングの精度については一電極で平均約80%を実現し、デコーディングのアルゴリズムとして完成度の高いものを実現した。オンラインシステムも構築し、今後、さらに精度を向上させるために、研究を継続し、技術の評価を行っていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に脳情報として一電極脳波をデコーディングすることにより、ヒトが望む情報を特定する情報の検索技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、エンタテインメント分野や医療分野のほか、人の思考が関与する多くのシステム分野での実用化が期待される。今後は脳波解読率の改善が望まれる。
近赤外光の照射方向に依存する虹彩の影を用いて偽造を排除する高信頼虹彩認証装置 富山県立大学
高野博史
富山県立大学
定村茂
これまでに虹彩端の陰影変化を用いて偽造によるなりすましに対応した生体検知法を開発し、被験者の頭部を固定した条件でその有効性を示してきた。本研究開発では、実際の使用環境を想定して、被験者の頭部を固定しない条件で実験を行い、生体検知システムの性能評価を行った。評価実験を行った結果、被験者の頭部を固定しない場合でも、偽造虹彩と生体虹彩を完全に識別できることを明らかにした。しかし、偽造によるなりすましを一層困難にするために用いる虹彩端陰影変化による近赤外照明の照射方向識別については、頭部を固定した場合に比べて照射方向識別率がやや低下する傾向が見られた。今後、虹彩端に生じる陰影変化の検出に新たな手法を組合せることにより、虹彩端の陰影変化による照明方向の識別性能向上を図る。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に虹彩模様を撮像するカメラと複数位置に配置した近赤外照明を一体化して、生体検知機能を搭載する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、近赤外照射の照射方向識別という点において、輝度変化率による測定方法では、頭部を固定しない場合の識別率が問題となっており、新たな手法を開発し組み合わせる事で識別率を向上させる事などでの実用化が期待される。今後の研究に対する期間も具体的に提示されてはいるが、認証技術は偽造技術とのいたちごっこでもあり、よりスピーディーな研究展開が期待される。
画像認識を用いた経編(たてあみ)ニット織り傷検出装置の開発 富山県立大学
中田崇行
富山県立大学
定村茂
本研究は、立体的な織り模様を持つ経編ニット生産に伴う編み傷を、画像処理を用いて自動検出するシステムの開発を目的とする。いわば本研究は「もともと穴だらけの布にできた、特別な穴を検出する」性質を持つ。23年度中はこれらの検出を実際に手作業で行いつつ、自動化に必要なパラメータの収集を行い、自動検出に有用なパラメータの洗い出しを行った。24年度に、これらの実装および実環境での検出試験を行い、本技術の実用化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に経編ニット生産に伴う編み傷を、画像処理を用いて自動検出する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、従来の無地布用に開発された疵検出装置は、検知能力が低く複雑な柄物中の疵を検知できないものであったが本技術はこれらの問題を克服し、これまで不可能であった夜間運転などでの実用化が期待される。今後は共同研究先である企業との、機械設計、製造、稼動分野での研究推進が進められる。
衝突回避のためのAISを用いた船舶動静表示システムの構築 富山高等専門学校
村山雅子
富山高等専門学校
村上達夫
大阪湾を航行する船舶のAIS受信データと、Google社が提供する地図情報(Google Maps)を用いて、大阪湾を航行する船舶の位置情報をWeb画面上でリアルタイムに表示するとともに、AIS受信データの履歴を確認できるシステムを構築することを目標とした。AIS受信データを収集し随時データベースに保存するシステムを構築した。構築したデータベースとGoogle Mapsを用いてAIS受信データのうち船舶の位置情報をWEB画面上で表示する仕組みを作成した。また、AIS受信データによる気象・海象情報、海難情報の履歴を検索・表示するシステムを作成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に既存のAISを有効に用いるところに特徴があり、データをWeb上で公開するシステムを構築するなど、目標を達成した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、課題の性質上企業化にはつながりにくい。一般航行時の安全確保や、災害時の避難対策などでの実用化が期待される。今後は、国・公益財団等との連携によりさらに公共性を高め、社会還元に導かれることが期待される。
津波の破壊力を消散させる未来型の防波堤「双胴型防波堤」の提案と逆問題設計システムの開発 富山大学
奥村弘
富山大学
永井嘉隆
昨今、日本では近い将来に発生可能性の大きい南海トラフなどを震源とする巨大津波に対する新しい防災技術の開発が切望されている。本研究では、波を「堰き止める」のではなく、波の性質を逆利用することで、波を受け流しながら「反射」させるという新しい発想から津波の波高とエネルギーを大幅に弱めることのできる新型防波堤の研究開発に成功した。本研究で開発した双胴型の新型防波堤は、波のエネルギーフラックスの集中によって引き起こされる特有の反射メカニズム(広義の意味での干渉)を発見応用し、双胴型の基礎ユニットを効果的に複合配置することで、津波の透過波高を10%程度まで減衰させることを数値シミュレーションと水槽模型実験により検証した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に津波に対する新型防波堤の提案を行い、津波シミュレータの開発・適用性の実証、ならびに双胴型防波堤設計と水槽実験での検証を行っている点に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、実証試験などに向けた具体的な検討は不十分であるが、他研究機関、企業とも興味を示しており、少なくとも技術移転を目指した共同研究を模索しているし、実証試験の成果を待たねばならないが、その成果が社会還元されることが期待できるなどの点などでの実用化が望まれる。今後は、今後、自然環境における実証試験が必要であり、更なる大きな規模での実証が示されることが期待される。
近赤外線光センサの極限的精度向上を目的とした次世代信号解析ソフトウェアの実装化技術の開発 富山大学
廣林茂樹
富山大学
永井嘉隆
申請者が発明した極限的な周波数分解能を有する信号解析技術NHA(Non-Harmonic Analysis)を使って、光計測センサシステムに組み込むためのソフトウェア技術を開発する。NHAは、計測信号を最も正確に解析する方法で、これまでの周波数分析法に比べ10万~100億倍以上の精度の向上があり、従来法では可視化できない僅かな変化もとらえることができる。本研究では、特に光ガスセンサや、断層撮影技術の一つであるOCT(Optical Coherence Tomography)などに使われる人体に無害な近赤外線に対し、その波長帯域に起因する計測精度の限界を大幅に改善する計算技術を確立し、ハードウェアの機能限界を大幅に向上させる次世代型光計測センサシステム技術の獲得を目的とする。本研究期間では、これら計測装置に組み込むための信号解析ソフトウェア技術を開発し、実装化を試みる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に鉛直分解能を数10mに高める大気レーダーのレンジイメージング測定を用いて小スケール大気乱流を自動検出する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、小スケール大気乱流自動検出手法の確立には至らなかったが、RIM-OSではじめて達成される高い精度の小スケール大気乱流検出が、レーダーのオペレータが実施する小スケール大気乱流の早期探知に十分有用な手段となり得ることが確認できたことから実用化が期待される。今後は、異常気象による被害も深刻なものとなっており、観測手段を得る意味で社会に貢献する研究であり、早期の技術移転が期待される。
脳情報を用いた商品価格評価システムの開発 富山大学
参沢匡将
富山大学
梶護
本申請課題では、新しい商品評価として、購買意思決定要因の1つである商品価格の評価を脳情報から行うシステムを構築することを目的とした。まず、商品と価格を提示した際の脳情報を計測した。その結果、提示価格と適正価格に相関関係があることが分かった。そこで、被験者が提示価格に関して高いまたは安いと感じているかの判別を試みた。その結果、78.5%の判別精度であり、当初の目的である80%に近い精度を得ることができた。さらに、提示価格と適正価格の乖離率の推定を試みた。その結果、44%の精度であった。これは、当初の目的である10%より悪い結果となった。今後精度向上のために、新しい手法について検討する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に購買意思決定に着目し、商品評価を脳情報を用いて行うシステム技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、脳内の反応情報を用いた適正価格の判別について、現状では少し判別精度が高くない点があり追加改善検討による実用化への進展が期待される。今後、価格について広く知られている反応であるプロスペクト理論や、そのほかに近年の実験経済学の成果を適用するような広がりを示すことなどの検討が期待される。
コンパクトで高速なXMLデータベースシステムの開発 福井大学
都司達夫
福井大学
宮川才治
本研究開発の目標は、動的にサイズ拡張可能な大規模XML文書を蓄積し、高速に検索するためのコンパクトなXMLDBシステムのプロトタイプシステムを設計・構築することである。XML文書を入力として、XML木の構造をエンコード/デコードするデータ構造と要素名パス式をエンコード/デコードするデータ構造を構築することにより、XML文書そのものの新しい実装方式を提案する。2つのデータ構造によるエンコード/デコード結果を相互に参照することにより、パス式検索と親子、兄弟などの軸指定による構造検索を組み合わせた効率良い検索方式を示す。構築予定のプロトタイプシステムの基本部分は80%程度完成したが、実用的な検索機能の設計と実現が残されており、これらの実現とシステムの評価が今後の課題である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にインターネット上で大量に流通するXML文書をコンパクトに蓄積し、高速に検索するためのXMLデータベース(XMLDB)システムを研究開発技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、XMLデータベースの実装を行うことが目的であったが、完全には実装されていないので適用予定の領域でのシステム評価を実施し、その有効性、課題などを確認する必要がある。
超低損失窒化物半導体トランジスタの開発 福井大学
葛原正明
福井大学
宮川才治
窒化物半導体トランジスタが低損失な能動素子として注目されている。本研究では、3つの課題(大電流MOSFETの開発、オーミックコンタクト層の低抵抗化、電極金属部の低抵抗化)を掲げ、超低損失窒化物半導体スイッチングトランジスタの開発を目標とする。デバイス開発では、原子層堆積法を用いてアルミナ(Al2O3)をゲート絶縁膜として用いることにより、良好な直流特性をもつMOSFETの試作に成功した。GaN層の低抵抗化では、Siを不純物としてイオン注入したGaNに高温熱処理を加えることにより、低抵抗GaN層を形成できる目処を得た。オーミック電極の直列抵抗低減の検討では、電極幅が狭い場合にパッド金属の厚膜化が有効であることを実験的に示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に原子層堆積アルミナをゲート絶縁膜とするMIS型トランジスタを試作した点は評価できる。また、個別技術について明確な進捗が見受けられる。一方、技術移転の観点からは、個別の要素技術での開発・評価に留まっているが、各々、デバイスメーカの研究開発に有効な知見を提供できると言える。今後は、残る個別課題を総合し、プロセスインテグレーションも含めた検証が期待される。
電気自動車電源の電磁波ノイズ低減技術の開発 福井大学
藤元美俊
福井大学
宮川才治
近年急速に普及しつつある電気自動車には、電動モーターの動力を制御するPCU(Power Control Unit)が搭載されている。そのPCUのインバータから発生する電磁波ノイズがAMラジオ放送に干渉し、音質を低下させることが問題となっている。
本研究では、電力最小アルゴリズムを用いたノイズ低減システムを提案した。提案システムはPCUに配置したノイズセンサを用いてPCUのノイズを観測し、これとアンテナで受信した信号との合成信号の電力が最小となるように適応フィルタの重み係数を制御するものである。検討の結果、ノイズ低減処理により、AMラジオ信号とノイズが混在した信号からAMラジオ信号のみを取り出すことが可能であり音質を改善できることが分かった。また、はしご型の適応フィルタを用いることで、到来波が複数の時でも十分な効果が得られることを明らかにした。さらに、ノイズの状況に応じた適切なフィルタの構成を明らかにした。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に電力最小アルゴリズムを用いたノイズ低減システムを提案し、シミュレーションによって有効性を確認した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願等が行われていない。また、実際の自動車に応用するためには様々な外的要因が予想される。今後は、明らかとなった実用化への課題に関し、実際のハードウェア試作を通じて企業と共同で研究開発を進めることが期待される。
災害における非常用通信ネットワークシステムの研究開発 福井大学
小高知宏
福井大学
青山文夫
本課題では、災害復旧支援ネットワーク向けの無線イーサフォン端末を実装して実際の通信を行うことで、本方法の有効性を実証した。イーサフォンは福井大学が特許を有する通信技術であり、事前の設定が不要で頑健な通信プロトコルであるところから、災害復旧支援ネットワークへの応用が極めて有用であると考えられる。これまで我々は、さまざまなタイプの有線接続のイーサフォン端末を開発するとともに、無線イーサフォン端末網のコンピュータシミュレーションによる評価を行って来た。本課題では、これらの知見を元に、実際に無線イーサフォン端末を開発して通信を行うことで、災害復旧支援ネットワークを構築する際の有効性を実証した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも水害、地震等の災害に対して極めて頑健な通信ネットワーク構築法の検討と、そのネットワークのための通信端末を開発する技術に関しては評価できる。一方、無線の場合は距離の問題についての検討が不可欠だがその記述がなく技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。災害時の頑健な通信ネットワークは社会のニーズの高いテーマであり、社会還元が期待される。
片眼失明・弱視者のための片眼鏡の研究開発 山梨大学
豊浦正広
山梨大学
還田隆
本研究開発では、片眼の視力を失った患者に距離感を提供する片眼鏡の高性能化を目指した。片眼の視力を失った患者は、両眼による立体視ができなくなり、手元の細かい作業が困難になる。片眼鏡は2台のカメラとディスプレイを備えた眼鏡型の装置であり、患者の両眼の機能を代行するものである。期間中に、単画像での距離表現に関する検討を行い、検討に従って片眼鏡の試作を行った。健常者を対象とする実験計画を立て、健常な被験者に対して実験を行った。実験結果により、片眼鏡が距離感を提供できる可能性を確かめた。今後は期間中に得られた知見に基づいて、さらに片眼鏡を実用に近づけたいと考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも片眼の視力を失った患者に距離感を提供する“片眼鏡”の研究技術に関しては評価できる。一方、焦点ぼけの画像生成にための距離算出精度の向上と距離感表示のための焦点ぼけの設計が実施されている。被験者実験により新知見が得られており、また実用化に向けての課題が整理されたなど技術的検討やデータの積み上げなどが行われている。今後は、概してまだ基礎検討の段階であるが、地道な研究開発が望まれる。
光反射モデルと画像計測に基づいた人間の肌の3DCG再現 長野大学
田中法博
信州大学
宮坂秀明
本研究は光反射モデルと画像計測に基づき、表面状態(色、光沢、粗さ)も含めて人の肌を高精度に3DCG再現できる手法を開発した。人の肌の反射特性を光反射モデルと呼ばれる数学モデルで記述し、肌の表面状態は光反射モデルのモデルパラメータとして定量化する。さらに、このパラメータは肌の色素・血管分布(ヘモグロビンの分布)や肌の粗さといった肌の表面状態を構成する物理量と対応させ、画像データから推定した。このとき被験者に負担なく高速に肌の反射特性を計測できる画像計測系を試作した。また、モデルのパラメータを変化させることで肌の粗さなどの肌の表面状態変化を予測できるモデルも構築した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に光反射モデルと画像計測に基づき、表面状態(色、光沢、粗さ)も含めて人の肌を高精度に3DCG 再現できる技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業のニーズに適合する方向に計測装置の小型化と計測の簡便化により実用化が早まり社会還元も期待できる。
製造業における動作分析のシステム化に関する研究 岐阜県セラミックス研究所
横山貴広
岐阜工業高等専門学校
杉山正晴
一般的に、作業改善を行うには高度な分析技術と長期間の技術教育が必要である。そのため、中小製造業は反復継続作業の作業改善を主に経験に依存し、客観的な視点で実施することが困難である。本研究は中小製造業の作業改善ツールの開発を目的として、動作分析に関するシステム化を検討した。研究開発を実施した結果、作業の状態を把握するデータの収集段階で、視覚センサを利用した人の動作と工具やワークのマーキング検出は作業環境に大きく依存し、現時点で安定的なデータが得られることが難しく、さらに動作の分類と標準作業時間の算出はさらなる検討が必要であることがわかった。
今後、動作データの収集に関する作業環境条件の最適化と、動作の分類のマクロ化や標準作業時間算出の簡易化をさらに検討する予定である。
当初目標とした成果が得られていない。中でも工具を使用する現場作業を複数のセンサを利用して、(1)人の動作を分類し、(2)標準作業時間が算出できる作業改善支援システムの開発に関して技術的検討が不十分であった。人と工具の状態に関して視覚センサを利用してデータ収集を行うための具体的な課題の存在が示されたが、データ収集が行われていないため、動作の分類や標準作業時間の算出などの課題には取り組めていない。
GPS衛星に依存し過ぎない都市部用自車位置推定システムの研究開発 静岡大学
羽多野裕之
静岡大学
神谷直慈
本研究は、街中での自車輌の位置推定手法を検討している。現在主流のGPS測位では、原理的に上空4基の衛星との見通しが必要とされる。しかし、街中では建造物により、4基との見通しが難しい箇所が存在する。この問題を受け、必要な衛星数の低減を目指す。1基で可能となれば、準天頂衛星の利用でいつでもどこでも測位が可能となる。本申請事業では、様々な推定特性を導出し、手法の改善に取り組む。様々なシミュレーションの中で、提案手法は車輌の同方向移動に不適であることが判明した。そのため、車輌内のセンサ情報を活用する手法へと改善した。現在、実機に基づいた特性把握のフェーズに進んでいる。しかし、衛星と受信機間の距離誤差の影響が大きいことが課題として得られた。今後は、導出された特性に基づき、手法の改善と評価を行っていく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも必要な衛星捕捉数の低減を課題とする小型移動車両などにおける自車位置推定システム技術に関しては評価できる。一方、真摯に研究に取り組んだと判断できるが、特許・学会発表等をできるという客観的な成果には至ってない。技術的検討やデータの積み上げなどが期待される。
高度な検索機能を備えた“つぶやき音声”によるコミュニケーションシステムの構築 静岡大学
甲斐充彦
静岡大学
藤縄祐
本課題では、既存のtwitterサービスと違って音声によるつぶやき(音声ツイート)を扱うコミュニケーションシステムを構築し、音声情報処理技術およびユーザインタフェースの連携によって閲覧性・検索性を高める仕組みの研究開発を行った。具体的には、音声ツイート中のキーワードに焦点を絞り、単純なフィードバック操作をユーザインタフェースとして提供して音声検索技術とを組合せる仕組みや、地図上への表示などの仕組みを構築した。実証実験によって音声ツイートを収集し検索性能の評価を行ったところ、目標を超える検索性能(F 値 70%以上)を得た。課題はテキスト情報と比べて豊富な音声情報をユーザが積極的に表現・利用できる仕組みを強化することであり、今後そのような課題について研究開発を継続する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもデモシステムができ、小規模実験とはいえ評価データも集まっている点に関しては評価できる。一方、論文や特許はなく、またユーザーが認識率を意識して固い発話になるなどの課題解決に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、特定のサービスに特化して企業へアプローチを行うなど、実用化に向けた検討が望まれる。
曲面形状の高精度三次元ベストフィット あいち産業科学技術総合センター
松浦勇
あいち産業科学技術総合センター
彦坂武夫
曲面形状の評価に必要なベストフィット処理を行う際に、従来は補間に基づいた手法が使われていた。本研究では、曲面が数式であらわされていることを利用し、より高精度なベストフィットを行うソフトウェアの試作を目標とした。計算機上でのシミュレーション実験では、目標である計算誤差0.2μmRMSを達成することができた。ガラスマスター半球の測定においても、計算誤差0.2μmRMSを目標とした。しかし、計算誤差は0.7μmRMSに留まった。今後は、より対応できる形状を増やしながら、依頼試験、技術相談に活用していきたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも機械部品等の曲面形状の測定評価において、設計形状と実測形状との重ね合せ処理(ベストフィット処理)について、設計形状を表す数式を利用する技術に関しては評価できる。一方、実測定機器による比較対象データについて不明な点(精度など)が見られ、測定・検証の高度化の前に信頼性の確認・実績の蓄積についてに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
並列演算処理を利用した撚り構造を有する繊維集合体の変形シミュレーション技術の開発 あいち産業科学技術総合センター
太田幸一
あいち産業科学技術総合センター
齊藤秀夫
三つ打ちロープについて、フィラメント、撚糸、ヤーン、ストランドを個別の要素としてモデル化し、モデルの最小構成要素であるフィラメントの応力ひずみ曲線を元に、構成されている撚糸、ヤーン、ストランドの順にマルチスケールシミュレーションにより最終的に三つ打ちロープモデルの伸張変形シミュレーションを行うソフトウェアを開発した。また、開発したシミュレーションソフトウェアはGPGPUを用いて並列演算処理化を行い、シミュレーション演算処理の高速化を図った。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に予測精度目標5%のところ最大で6.9%。計算速度目標10倍のところ9.8倍と十分な成果が得られた。プログラムのチューニングで十分に達成可能な計算速度への対応など実用化に向けての技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、今回の成果によって取得特許の理論が現実に近いこと、かつ実用時間で計算できることを十分に示でていることなどでの早期実用化が望まれる。今後は、予測精度が当初目標にまだ届いていない問題を解消する必要はあるが、サンプルの積み重ねや実証実験の推進のためにも早急に有力な連携企業を確保の上、実用的技術開発を推進されることが期待される。
構造化データ処理技術のオープンソースによるビジネス化 中部大学
前田和昭
中部大学
中津道憲
本研究は、独自に考案した「構造化データ記述方式RugsOn」とその関連研究を発展させ、ビジネスに貢献することが目標である。具体的には、(1) RugsOnを世界中の開発者に公開、(2) 開発支援ツールの充実、(3) オープンソースで利益を獲得するビジネスモデルの検討である。研究期間内に海外2回、国内3回の講演を実現し、専用Webサイトへの訪問者増加を確認した。また、実例を調査してオープンソースをビジネスに役立てる方法を探った。現在、大学での知的財産の扱いを決めることができず開発支援ツールの無料配布にまでは至っていない。今後、早期の無料公開を目指し、また同時に講演活動を継続する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも構造化データ記述方式を世界のソフトウェア開発者に公開できたことについては評価できる。一方、個人的活動での情報提供の限界や、開発支援ツールをオープンソースとして配布する目標に対する成果が得られたとは言い難い、また、オープンソースに向けた大学における知的財産の問題への対応などに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、「製品を無料で配布するオープンソースのスタイルでは、ビジネスが成立しない」を鑑みると、本研究成果のビジネスや、技術移転のあり方を再検討されることが望まれる。
認知科学的知見に基づくLow-First方式のモバイルe-Learning Systemの実用化 中部大学
水野りか
中部大学
木本博
「1.各種スマートフォン・タブレット端末への対応」については、平成24年度の目標通り、iOS系とAndroid系のラジオボタンを、前者は独自の入力しやすい形状に、後者はクリックエリアに変更し、回答しやすさを飛躍的に向上させた。また実用化に向けて、多様な教材に対応すべく1)問題に画像を貼付できるよう改良を施し、2)専門用語の英語と日本語のどちらも問題にしうるような逆転ボタンを追加し、3)学習時と確認テスト時に選択肢の順番を異ならせるよう工夫した。「2.他のWebサーバに移植可能な仕様への修正」のついては、平成23年度に完成したインストーラを拡張し、上記の改良を施した新システムがインストール可能となるよう修正した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に掲げた目標はおおむね達成されている。また実用化への具体的な試行結果でも良い結果が得られている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、指摘にある通り、教育支援ソフトは売り上げ等が読みにくいため事業化が難しい。今後は、論文や特許を進めることも合わせ、有用性を示すことで社会還元へつながることが期待される。
未知語と認識誤りに頑健な音声ドキュメントの高速・高精度ターム検索手法の開発 豊橋技術科学大学
中川聖一
インターネット上には、放送、講演・講義、ポッドキャストなどの大量の音声ドキュメントが蓄積・配信されている。これらには、タイトル等は記載されているが、音声コンテンツの記載はなく、音声波形情報だけであることが多い。このような大量の音声ドキュメントから、所望の語句を含んでいる箇所の音声を高速・高精度に検索することが望まれている。本研究では、大語彙連続音声認識技術と連続音節音声認識技術を併用して、認識誤りや未知語(認識システムの単語辞書に登録されていない単語)に頑健な検索手法を開発した。1000時間の音声に対して、未知語(検索ターム語)を0.5秒以内で、F値で0.6程度の精度で検索することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に認識誤りと未知語(認識用辞書に登録されていない単語)の問題があるため、音声認識技術として単語単位ではなく、単語を構成する基本単位(例えば音節や音素)で音声認識を行う技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、大量の音声ドキュメントから所望の検索ターム語を高速・高精度に検索する方法 (1000時間の音声に対して、未知語を0.5秒以内にF値0.7以上の精度で検索)が開発されているので基幹技術として実用化が期待される。
赤外域超広帯域スーパーコンテュニューム光源の開発 豊田工業大学
大石泰丈
豊田工業大学
後藤文夫
ガラス中で最も非線形性が高いが、デバイス応用の困難であったカルコゲナイドガラスを用いた新規構造の光導波路素子を開発し、これまでに例のない可視域から20μmの中赤外域に亘るコヒーレント光源の実現を目指す。可視域では光と物質との相互作用が強くなり、これを利用して3次元の光メモリー、多光子顕微鏡などの応用分野があり、また、中赤外帯には、CO、CO2あるいは炭化水素系のガス等のガスの基本吸収が存在するため、ppbレベルの超高感度ガス検出に基づく環境・医療など広い分野への応用が期待される。さらに、本研究の成果はぺタビット級の超高速光情報伝達技術への応用も可能であり、それら分野の革新的発展に寄与できる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新規な開発であり、広い応用が期待できる技術であることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、成果の書き方が曖昧であり、目標に呼応する成果の比較が明確でない。今後は、企業との実用化を視野に入れた共同研究が計画されているが、学問的な部分と企業化の部分を切り分けるなど、応用展開の進展が期待される。
複数アンテナ中継器とネットワーク符号化を用いた超高信頼無線データ伝送方式 名古屋工業大学
岩波保則
名古屋工業大学
岩間紀男
複数アンテナ中継器を持つ自動再送制御のネットワーク伝送により超高信頼性を持つ無線伝送方式を開発した。具体的にはLDPC(Low Density Parity Check)符号化MIMO OFDM方式を用いたARQ(Automatic Repeat reQuest)リレー伝送方式を提案した。符号化率の自由度の高さや繰り返し復号による高い誤り訂正能力を持つLDPC符号は任意の拡大ガロア体上での構成が可能であり、一般に用いられるBinary LDPC符号に対してPER(パケット誤り率)特性が良くなることが知られている。また、LDPC符号化された符号語から適切に符号をpunctureすることで、同じ復号器を用いて符号化率を可変にして復号ができるRate-Compatible- Punctured(RCP) LDPC符号方式がある。このRCP LDPC符号はARQ方式に適した誤り訂正符号である。本研究では、NB(Non Binary) RCP LDPC符号を、MIMO-OFDM変調を用いたType II Hybrid-ARQ(HARQ)方式に適用し、さらにDecode and Forward(DF)を用いたリレー伝送と組み合わせた。この結果、スループット特性及び平均再送回数特性が大きく改善されることを計算機シミュレーションで示し、高速で超高信頼なリレー無線伝送方式を提案した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に多アンテナを有する中継器(リレー)を複数用い、伝送速度の向上を図るためにネットワーク符号化を併用する信頼性の高い無線LANシステム技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、当初計画に含まれていたネットワーク符号化は未着手であるものの、リレー伝送方式の効果を確認し、良好な検討結果が得られている。企業との共同出願特許が出され、着実なデータ蓄積が図られ技術課題が明らかになってきており、実用化が期待される。
多段層構造ロットマンレンズ給電ミリ波マイクロストリップコムラインアンテナに関する研究 名古屋工業大学
榊原久二男
名古屋工業大学
岩間紀男
ロットマンレンズ給電ミリ波マイクロストリップコムラインアンテナの構成要素である、ロットマンレンズ給電回路、マイクロストリップコムラインアンテナ、順方向および逆方向出力導波管マイクロストリップ線路変換器を設計し、電磁界解析により、その特性を評価した。その結果、設計通り、±30度の指向性走査特性が得られることを確認した。一方で、正面ビームポートで約1.5dB、30度ビームポートで約3dBの損失が生じることが分かり、目標値の1dB程度よりも高い値であることが分かった。また、試作アンテナの実験でも32度の指向性走査特性が得られることを確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもプリント基板で構成されたロットマンレンズを用いて、給電回路に設けた入力ポートを切り替えることによって指向性走査可能な薄型のミリ波平面アンテナ技術に関しては評価できる。一方、解決すべき課題は指摘しているが具体的な解決手法は提示されてない。代替手段が多くあり、実用化には技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ミリ波アンテナの実現手段は多くあるのでロットマンレンズ給電アンテナでないと実現できないような応用を考えることも望まれる。
RFIDタグの不感地帯低減に関する研究 名古屋工業大学
平山裕
RFIDタグは電子マネーや乗車券としての普及が進んでいるが、リーダーに近接していても読み取りができない不感地帯が存在することが知られている。不感地帯の発生する原因として、ループ状に存在する磁界がタグ上でキャンセルし合うことにより電力の伝送が出来なくなること、負荷インピーダンスの変化が入力インピーダンスの変化として現れずに情報伝送ができなくなることの2つの理由が存在する。本研究では、リーダー側アンテナを2次元アレー化することにより、縦横両方向への位置ずれに対応し、不感地帯を低減する方法を提案した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもRFIDシステムにおいて、リーダーとタグが通信できなくなる不感地帯を低減する技術に関しては評価できる。一方、2次元アレーの効果は従来の1次元アレーの延長として容易に類推できるので更なる優位点を明確にした技術的検討やデータの積み上げなどが望まれる。
ミッションマネジメントのためのコンセプト設計・管理ツールの開発 名古屋工業大学
越島一郎
名古屋工業大学
岩間紀男
新製品開発期間サイクルの短縮を目的とした「新製品開発プロセス」が研究され、実用化されてきた。しかし、どれだけ開発期間を短縮させても、その製品がヒットするとは限らない。ヒット商品を生み出すためには、まず製品の根幹に画期的かつ魅力のある製品コンセプトが必要である。さらに創出されたコンセプトを設計、製造に反映させる必要がある。このため、本研究ではプラス・マイナス両面の評価構造を持つ新しい階層分析法を開発し、これに基づいた製品仕様設計手法の技術移転を目指して、以下の研究開発を行った。
1)製品開発におけるコンセプト設計のプロセスの手順化
2)そのプロセスにおける意思決定方法をツール化
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもプラス並びにマイナス評価パートを持つ意思決定ツールのプロトタイプ作成、コンセプト・オントロジーの開発などを実現するソフトウェアの開発技術に関しては評価できる。一方、本ソフトウェアは各種製品開発におけるコンセプト開発ツールとして幅広く社会還元が期待できる。
ユーザーの嗜好と利用シーンの変動に対応可能な統計モデルに基づいた楽曲からの感性推定モデルの研究 名古屋工業大学
酒向慎司
名古屋工業大学
岩間紀男
音楽から受ける印象を楽曲の電子データから直接推定する印象推定システムにおいて、個人の嗜好や感性の違いに対応するため、性別や音楽経験などからなるプロフィールを利用する新たな手法を開発した。この手法の特徴として、印象推定モデルを学習するための音楽を聴いたときの印象データを事前に収集する必要がなく、他者の印象推定モデルから、特定の利用者に合った(類似した)モデルをプロフィールの情報に基づいて自動選択することができる。また、音楽を聴いた際の印象データを短期間で効率的に収集するため、Webブラウザを利用した楽曲提示と印象データ収集システムを構築し、様々な年代を含む120名の大規模な印象評価データを収集した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に音楽を始めとした音響信号から人が感じる印象を推定する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の研究課題として、数値的な性能を改善する試みとして、音楽の物理量抽出手法を再検討する必要があるとしているが、実用化の視点からも性能向上のアルゴリズムを発見するために更なるデータの積み上げと評価が望まれる。
QoEベースビデオ出力方式SCSの高品質ビデオ・音声IP伝送への拡張 名古屋工業大学
田坂修二
名古屋工業大学
岩間紀男
HDビデオ(1920×1080画素)・音声のIP伝送にQoE(*1)ベース出力方式SCS(*2)を適用し、QoEを評価した。これにより、HDビデオ伝送でSCSが有効であることを確認するとともに、より高い性能を得るための課題を確認した。また、SCSの閾値選択方式として、リモコンを模したユーザインタフェースを携帯情報端末上に実装した。主観評価実験により、実装した2モード切替方式、4モード切替方式のQoEを、0%固定方式、100%固定方式と比較した。その結果、4モード切替方式の総合QoEが最も高くなることが分かった。更に、様々なユーザに使われることを考慮し、ユーザ属性がQoEに及ぼす影響を調査した。
(*1)Quality of Experience;ユーザ体感品質、(*2)Switching between error Concealment and frame Skipping;誤り補償・フレームスキップ切替方式
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に民生家電機器で高画質ビデオ・音声視聴に適した切り替え閾値設定・選択する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の開発計画は具体的に提示されており、いずれも技術移転に至るための重要事項となっており早急な実用化が期待される。
奥行き画像超解像によるリアルタイム自由視点映像伝送の実現 名古屋工業大学
福嶋慶繁
名古屋工業大学
山本豊
本研究では、多視点カメラから奥行き画像をリアルタイムに生成し、また同時に自由視点画像生成を行うための研究開発を行った。目標値であるVGA解像度のステレオ画像から、30fpsでの奥行き画像生成及びに自由視点画像生成を行うことに成功した。これは、階層的に計算する高効率なアルゴリズムを実現したことや、実装でGPUを用いて効率的に並列化した結果である。結果は、30fpsを達成するときには、画像品質は32dbを達成し、目標を上回ることが出来た。また、奥行き推定の精度に関しては、間引きによる高速化を行わない全探索を行うと、世界でトップの精度を達成することが出来た。今後は、自由視点の圧縮、伝送までを含めた実時間通信を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に遠隔地の映像を自由な視点で見ることが可能となる自由視点映像生成を、リアルタイムで実現技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標:1)奥行き画像を複数のカメラを用いても成り立つように拡張→3台のカメラで達成、2)30fps (フレーム/秒) が達成可能な計算速度→達成、3)画像品質PNSR30dB→32dB、となりすべて達成している。今後、技術移転を目指した産学共同の可能性は高まったが、実用化にはさらに研究を継続する必要がある。応用展開時には、自由視点映像により見ている人がその映像場所にいるかのように感じることができる究極の映像メディアで社会還元できることが期待される。
ハイビジョン受信機用超解像度技術の開発 名古屋工業大学
櫻井優
名古屋工業大学
岩間紀男
次世代のハイビジョン受信機においては、高精細化を目標とした画素数を4倍にした4*2K超解像パネルが開発されている。この次世代パネルへの画像表示には、超解像信号処理が不可欠となる。本研究では、TV正則化手法と事例学習法の組み合わせた新しい超解像復元システムを提案し、高い画像改善効果を実現した。同時に、複雑な処理アルゴリズムのハイビジョン受信機搭載への実用性を、CELLプロセッサへのリアルタイム動画像処理プログラムの実装によって、実証した。今後の展開としてはGP-GPUによる実現も視野に入れている。なお、ハイビジョンテレビにおける、高精細化は3D機能やネットワーク機能と並ぶ、次世代のテレビとして注目されている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新しい超解像度化手法の優位性が示されており、複数のCELLプロセッサのシステム開発とGP-GPUへの展開技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、新しい超解像度化手法の優位性が示されおり、実用化に必要な処理時間も実現されている。 圧縮ひずみの除去、処理時間の高速化が達成されて、次世代ハイビジョンテレビでの技術移転につながるなどでの実用化が期待される。今後は、 GP-GPU への応用を検討するとしている。実時間処理が可能な超解像復元システムの可能性が示されたことで、画像の高精細化が必要とされる分野への採用が期待される。
人体医療無線網のためのデュアルモード通信機の開発 名古屋工業大学
王建青
名古屋工業大学
山本豊
医療・ヘルスケアに活用する人体無線網を考える場合、カプセル型内視鏡のような毎秒十数メガビットの体内から体外への高速伝送が必要である一方、体表での脈拍、血圧などの生体情報については毎秒数キロビット以下の低速伝送が十分である。本研究では、この特徴を捉え、On-Body生体センサー間の通信には人体通信技術を採用し、無線伝送に比べ低伝送損失と高秘匿性という優位性をもたせ、In-Bodyからの通信に高速・大容量な超広帯域(UWB)技術を採用し、従来対応困難なカプセル内視鏡などのリアルタイム画像伝送を可能としたデュアルモード通信機の開発を行った。約70dBの人体伝搬損の目標値に対し、On-Bodyモードでは1Mbps以上、In-Bodyモードで10Mbpsの高速伝送が実現できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に人体情報の無線による双方向通信の実現に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、実際の医療技術分野での企業、機関の協力を前提に応用アプリケーションの拡大などでの実用化が望まれる。今後は、医療技術分野での通信性能の明確化、システムの小型化、特にアンテナや電源回路の小型化などの技術を改善されることが期待される。
閲覧者の観点に基づくWeb情報構造化とWeb情報再利用機構の開発 名古屋工業大学
新谷虎松
名古屋工業大学
山本豊
Web情報は意味的な構造を持たないテキストであり、計算機を用いて情報の統合や検索をするためには多くの課題を解決する必要がある。本研究では既存のWeb情報を閲覧者の観点で構造化し、効果的な情報閲覧を支援するための技術を提案する。提案手法ではWebページのレイアウト情報を基にWebページ分割を行い、Web情報の構造化を試みた。分割した結果得られる単位をWebブロックと呼ぶ。Webブロック管理機構を実装し、その有用性を実証した。本研究の成果は、Webページから特定のWebコンテンツを高い精度で収集可能にする。また、既存のWebコンテンツの再利用性を向上させ、Webページの閲覧性を効果的に改善できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもWeb情報を閲覧者の観点で構造化し、効果的に情報閲覧を支援する技術に関しては評価できる。一方社会還元に向けては、APIの更なる工夫など技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は研究成果に基づき産学協同によるイノベーション創出が望まれる。
相談構造の特徴を重視した学生相談記録システムの開発 名古屋工業大学
犬塚信博
名古屋工業大学
山本豊
教育環境の変化と社会の抑うつ的状況から学生相談には社会的要求が高まっている。その一方で専門カウンセラーの配置など、人的負荷が高く、相談を分析し教育への反映にまで手が回らない。研究責任者は情報工学を専門としつつ、学生相談に関わり、その情報的特徴を分析してきた。相談は複数の人間関係が本質的で、時系列の追体験的記録が必要など、医療の記録にない特徴を持つ。また構造が豊かで情報分野で挑戦すべき課題に富む。既に研究責任者は学生相談を分析し記録方式を提案した。本課題はこの分析に基づいて記録システムを設計し、実証する。教育産業への技術移転を図り、教育機関の需要に供する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも学生相談を分析し記録するシステム技術に関しては評価できる。一方、教育機関の需要に供する1番目の目標に挙げられている、「研究責任者が提案してきている方法が実際に効果があるのか実証する必要がある」という課題に対する取り組み、また、第二の課題として挙げられているオントロジーの利用方法についても、表示のみで相談への具体的な活用方法は、明らかにされておらず技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
コード化プロジェクションによる3次元強調提示システム 名古屋工業大学
佐藤淳
名古屋工業大学
太田康仁
本研究では、複数のプロジェクタから投光した光の重ね合わせによって3次元計測と結果の提示を光の速度で同時に実現する全く新しい発想の3次元計測システムの実用化を目指した。特に、本研究では、特定の3次元形状から逸脱した部分のみに着色を行う3次元強調提示技術において、その高精度化と温度変化などによるドリフトを抑制する技術を開発した。本研究開発の結果、強調提示の分解能が現状の2.0mmから0.5mmに向上し、また、ドリフトによる投光パターンのずれを抑制する技術を開発することができた。ドリフトの問題は解決したが、分解能がまだ不十分であることから、今後さらなる分解能の向上を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもカメラ画像に基づく3次元計測システム技術に関しては評価できる。一方、主目標分解能0.1mmを実現するには8000画素のプロジェクターが必要なことを示している。今後は、現段階で要求を満たすプロジェクターの試作品はあるようだが、一般に普及するにはかなりかかるであろうし、ほかの技術とのコスト面を含めた優位性の検討が望まれる。
中心市街地再構築のための回遊行動エージェントシミュレーションソフトウエアの実用化模索 名古屋工業大学
兼田敏之
名古屋工業大学
長沼勝義
目的は、試作した回遊行動シミュレータを中核アイデアとした、統合システムの仕様設計書の作成を行う。また、実用化時における提携企業等の候補選定を模索する。成果は、統合システムを、(1)データ採取モデュール、(2)パラメータ調整モデュール、(3)エージェントシミュレーションモデュール、(4)シミュレーション結果可視化モデュールから構成するとし、その仕様設計書を作成した。また、実用化時における提携企業について4社に呼びかけ、うち2社からの前向きの返答を得た。また、(1)における遊行動分析用データコーディング装置の特許出願を行った。(2)の中核部分にあたるシミュレータの簡単なデモプログラムを作成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に名古屋の商業地来訪者の回遊行動調査データ分析を踏まえた、知的エージェントアプローチによる回遊行動シミュレータ技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、当初目標の統合システムとして4つのモデュール名称は示されているが、その内容と実用化時の要素ソフトウェア及び要素システムの詳細は不明であり、これらを明確に提示する必要がある。
自動抽出により個別化された道路交通情報の個別配信システムの開発 名古屋大学
山本俊行
名古屋大学
安田匡一郎
本研究は、プローブ情報収集技術により収集した個々の運転者の自動車利用パターンから将来トリップを予測するとともに、他の多くの車両から収集するリアルタイムのプローブ情報から交通状況を把握し、個々の運転者に必要な突発的交通渋滞等の情報をトリップ開始前に提供する技術を開発するものである。本研究開発では、一般の個々の運転者の自動車利用パターンの継続的観測データを用いて、自動車トリップの定常性に関する分析を行い、蓄積データに基づく将来トリップ発生予測の可能性を確認した。また、当該データ取得対象運転者に対するアンケート調査により、情報提供サービスに対する利用希望を把握した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、プローブ情報収集技術により収集した個々の運転者の自動車利用パターンからトリップを予測する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、一般の個々の運転者の自動車利用パターンの継続的観測データは十分でなかったが、専用車載器を用いた長期観測を始めているためデータの早期フィードバックが期待される。また、得られた成果の社会的受容性を検討しており、今後この成果に基づいたサービスへの反映が期待される。
境界要素法による大規模高速音場形状・トポロジー最適化システムの開発 名古屋大学
松本敏郎
名古屋大学
押谷克己
本研究では、音場内の一定の領域の騒音低減のために最適な音場の形状やトポロジーを、大規模高速境界要素法とレベルセット法を用いて開発することを目標とし、境界要素法に基づく音場形状感度解析とトポロジー感度解析法の枠組みと基本的なソフトウェアを開発した。今後は、計算精度・計算速度について精査する必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも音場形状や音場トポロジーを高速に行うための理論とソフトウェア技術に関しては評価できる。一方、本研究の中核である音場の形状最適化とトポロジー最適化のシステムの完成を急ぎ、実用規模の問題による実用化の検証が急がれる。また今後、実用規模の問題に対しては、計算精度と計算効率の検証も必要と考えられる。
可視光通信によるドライブレコーダの高機能化 名古屋大学
山里敬也
名古屋大学
押谷克己
研究開発担当者である山里は、LED式信号機から走行する車輌へ情報伝送を行う路車間可視光通信についての検討を重ねてきている。2011年3月に行った公開実験では、車輌が交差点に進入し右折待ち行う状況を想定し、110m先の時点からテキスト情報、また、30mでは音声情報(音楽)の受信に成功している。本研究開発では、この路車間可視光通信の伝送レートを向上させることで画像情報の伝送を行うことを目標とし、加えて、この技術をドライブレコーダに組み込むための基盤技術の確立を目標とする。ドライブレコーダに組み込むことで、車両前方の画像の録画だけで無く、交差点付近でドライバーからは死角となる対向車線あるいは交差車線の映像も同時に取得および記録できるようになる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。LED等の可視光による近距離通信に対する一応の目処はついており、特にLED式信号機から走行する車輌へ情報伝送を行う路車間可視光通信に関する技術については評価できる。一方、技術移転の観点からは、車両台数、交差点モデル、車道レーン構成、そして天候(雨天などの影響)は実際上の重要な検討項目であるので、今後さらなる研究が期待される。
鋼構造物の実務的構造創生支援ソフトの開発 名古屋大学
大森博司
名古屋大学
山本鉱
構造最適化手法を応用することで、鋼構造物の実務的構造創生支援ソフトの開発を行う研究である。構造最適化手法として離散変数を扱うことが容易な遺伝的アルゴリズムを用い、多目的最適化手法を利用することで複数の目的関数を扱うことが可能となっており、その結果としてトレードオフの関係にあるコストと構造性能を目的関数として選択することにより得られるパレートフロントを示すことに成功した。ここでは、コストとして鋼材費用、構造性能として層間変形角を採用している。施工費用など建設費中無視できない費用項目を考慮すること、構造性能として層間変形角以外に水平耐力を考慮してより良い設計解を提案する手法を実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の計画をほぼ達成しており、試設計によりその有用性を提示している点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との連携を計画しており、応用展開が期待される。今後は、企業との連携を通じた実務者の知識や技術の援用も含め、技術移転を進めることが期待される。
イオン照射法による超平坦・超高密度ビットパターン媒体の開発 名古屋大学
加藤剛志
名古屋大学
山本鉱
情報通信技術の高度化により、人類が扱う情報量は飛躍的に増大しており、これを低コスト、低消費電力で蓄えるハードディスクの高密度化が必要となっている。本研究は、次世代の記録媒体である超高密度ビットパターン媒体を低コストで作製できる技術を開発することを目的に研究開発を行い、以下の結果を得た。まず、300-400℃程度の実用的プロセス温度で成膜でき、イオン照射だけで強磁性/非磁性転移が可能なMn系材料を開発した。次に、このMn系材料を用いたイオン照射型ビットパターン媒体を試作し、表面平坦性に優れた微細磁気パターン構造を簡便な加工プロセスで実現できることを示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に次世代の記録媒体である超高密度ビットパターン媒体を低コストで作製可能な技術として評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標の内、MgO膜上の作成が残されているが、目標と同程度の温度(約250度)作成可能との報告事例もあり、本研究でも可能と判断して差し支えない。もう少しデータが蓄積され整えば特許出願も期待される。また、技術移転や応用への展開においてCrPt3と異なり、MnAlおよびMnGaの耐候性に関する議論も必要になるので、この項目も検討項目に追加されるべきである。ほぼ目標は達成されているので、今後の展開が期待される。
IPv6ネットワーク上で既存IPv4アプリケーションを利用可能となるIPv4-IPv6アドレス変換技術 三重大学
内藤克浩
三重大学
松井純
IPv4アドレス枯渇後にはIPv6アドレスのみしか割当が行われないことが予想されることから、IPv6アドレスのみしか利用できない端末においても、既存のIPv6非対応アプリケーション資産を有効利用することである。本研究では、端末内に仮想IPv4アドレスを割り当てることにより、IPv6非対応アプリケーションが仮想IPv4アドレスを利用することにより、IPv6アドレスしか割り当てられていない端末においても、IPv6ネットワークを通した通信を実現するものである。また、提案方式をLinuxOSのカーネルモジュールとして実装することにより、アドレス変換時にもIPv6通信とほぼ同等のスループットを達成可能であることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、IPv6のみを使用できるアプリケーションに対し、仮想的IPv4アドレスを付与してIPv4ノードと通信可能とすること、ならびにその実装と評価によりIPv6のみで通信可能な状況とほぼ同等のスループットが得られることの確認が実現できており、当初の目標技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、IPv6でのみ通信可能なアプリケーションが、現時点ではまだ広く普及しているIPv4ネットワークで通信可能となることによる実用化が期待される。今後は、本技術をもとに企業と共同開発・技術移転を具体的に進めていただくことが期待される。
文書画像中の文字列タッチ方式による就職相談システム 三重大学
鶴岡信治
三重大学
八神寿徳
本申請課題のソフトウェアシステムは、サーバ用システム(デスクトップ・パソコン)と利用者用システム(タブレット端末)から構成されており、現在、以下の目標に従って、システム設計を行い、一部のプログラムを作成し始めた。
(A) 求人票の登録時:紙形式の求人票の文書画像解析と文字認識システム
○求人票のキーワードとキーワードに対する文字列画像の抽出率:90%以上
○A4判1ページあたりのキーワードの認識処理速度:1分以内
(B)学生の利用時:求人票画像中のタッチした文字列の抽出処理と企業情報探索
○タッチした文字列の抽出精度:95%以上
○タッチした文字列の抽出速度:1秒以内 
○Web上の会社情報検索精度:95%以上
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも求人票や会社案内などの紙形式の資料をスキャナから入力し、従来のOCRと異なる方法で文字列を自動認識し、人手をかけずに求人情報を自動登録する新しい方法技術に関しては評価できる。一方、求人票の登録時、紙形式の求人票の文書画像解析と文字認識システムについては認識率90%、処理速度1分以内ともに目標達成、、学生の利用時の求人票画像中のタッチした文字列の抽出処理と企業情報探索についてはシステム未完であり、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後、応用展開され社会還元に導かれることは期待できる。
トンネル内空変位センサの開発 三重大学
成瀬央
三重大学
八神寿徳
トンネルの内空変位(天井と側面の半径方向の変位)を計測する内空変位センサを開発した。このセンサは、内空変位が伝搬される円弧状曲り梁とそれによって生じるひずみを計測するためのファイバブラッググレーティング(FBG)からなっており、梁に生じる変位とひずみとの関係の力学的解析に基づいている。アルミニウム製中空パイプ曲り梁にFBGを設置した内空変位センサを製作し、これを用いて実験を行った。その結果、目標とした計測誤差2mm(内空変位センサ直径2mの1%、のさらに10分の1)に対し、得られた誤差は変位20mmに対して最大でも2mmであり、目標の精度で計測できたことが確認された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもトンネル内空変位計測のための、円弧状曲り梁とひずみ検出用光デバイスとからなる新しいセンサの開発技術に関しては評価できる。一方、変位測定の誤差の抑圧を実現し、2方向での変位検出を可能としている。企業化のためには、センサ開発に加え、システム化、施工方法の明確化が必要と思われる。今後は、当該分野での技術移転は、企業の連携先が対象になり、システムおよび施工技術を含めた総合技術として提案が必要である。普及が始まれば、世界的に還元される効果の大きい技術である。
組込みシステム向けコンポーネントシステムの車載向けリアルタイムOSへの適用 立命館大学
安積卓也
本研究課題では、ソフトウェアの生産性を向上するため、車載向けリアルタイムOSのOSEKでコンポーネントベース開発を行える環境を構築する。コンポーネントシステムとして、TECSを採用し、タスクなどのカーネルオブジェクトをコンポーネントとして扱える仕組みを構築した。同時に、コンポーネント記述からカーネル設定ファイルを自動生成できる仕組みを構築した。動作環境として組込みシステム向けのプロセッサであるARMプロセッサを搭載したMindstorms NXT上での動作確認を行った。
今後は、本研究課題で開発したプラットフォームを日本最大規模のロボットコンテストであるETロボコンの認定プラットフォームとして申請する予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に車載向けリアルタイムOS下でのコンポーネントベース開発を可能とする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、当研究そのものが企業との共同で行われており、また、オープンソースとすることによる社会還元などでの実用化が期待される。今後は、企業からも研究スタッフが参加しており、既に産学協同の研究開発ステップに入っていることで更なる進展が期待される。
入力インタフェースのための視触覚複合センシングデバイス 立命館大学
下ノ村和弘
立命館大学
橋本敏信
単一のカメラを用いて光学的な方法で接触検出と近接検出が可能な複合センシングデバイスを構築した。物体の接触は、近赤外光を導入した光導波板への接触を、カメラで撮影した近赤外画像から画像処理により検出する。近接は、同一のカメラから得られる視点の異なる2枚の可視光画像から、視差計算により検出する。製作したデバイスは、センサ面のサイズ100mm×100mm、厚さ40mmである。実験により、本視触覚複合センシングデバイスが目的の機能を実現できることを検証した。高い空間分解能が実現できるため、微小な物体や形状が複雑な物体に対して有効であり、また得られる画像から接触・近接の検出と同時に物体認識を行う応用も可能である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にカメラによる視覚情報に加えて、これと整合した座標系で触覚情報を同時に取得できる“視触覚複合センシングデバイス”において、視触覚情報を統合して、柔軟かつカメラのみの場合よりも確実、精緻な情報入力を実現する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、複眼カメラで可視光と赤外光を同時に撮影することで、視触覚の位置ずれの問題が無くなり、期待通りの研究成果が得られているといえる。デバイスの厚みが改善されていないので、現状ではスマートフォンや携帯タブレットへの利用には難しいが、一般機器の入力装置としては実用化が期待される。今後は、例えば、視触覚複合の特徴をいかすことで、微妙なセンシングが要求されるロボットハンドリングや福祉機器の入力装置としての利用が期待できる。
ハイブリッド型違法情報フィルタリング手法の提案 立命館大学
小柳滋
立命館大学
今村真貴子
本研究では、違法情報をフィルタリングする方式として、ブラックリスト方式とコンテンツベースによる方式を組み合わせたハイブリッド型違法情報フィルタリング手法の開発に取り組んだ。本成果として、ブラックリスト方式の汎用性を向上するための有害なドメインを自動的に収集するシステムを開発し、約93.78%の精度で収集することができた。また、コンテンツ方式よりも高速なフィルタリング手法の実現を目指し、従来方式と比較してほぼ同等の判別精度で約6倍の高速化に実現した。今後は、本研究成果の一部をシステム化し、ブラックリストの自動生成するシステムを開発し、有害情報フィルタリングを開発する企業の辞書構築支援ツールとして展開する可能性があるかを検討する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に膨大な数のユーザーが利用するインターネットにおいて、有害な情報をフィルタリングするシステムの開発は重要であり、本研究ではこれを効率的に実現するための方式を複数提案している点に関しては評価できる。今後は、有害情報の検知精度の向上や既存システムとの融合による信頼性向上、また技術移転へ向けて企業と連携していくことなど、社会に広く発信していくことが期待される。
高齢者の認知機能・運動制御機能を向上させる他動揺動刺激パターンの開発 立命館大学
萩原啓
立命館大学
西原卓哉
高齢者の認知機能・運動制御機能の向上に大きな効果をもたらす他動揺動機器による他動揺動刺激パターンの開発を目標として本研究開発に取り組んだ。
その結果、他動揺動運動のスピードをコントロールすることで運動野や前頭前野背外側部の活性度合いをコントロールできる可能性が示された。また、ランダム動作がリズム動作に比べより一層運動野や前頭前野背外側部の活性度合いを高めることが分かった。
これらの研究開発成果により、従来の他動揺動機器に脳機能活性化揺動パターンとして組み込むことが可能であり、また従来の鍛錬機器とは異なった、認知機能や運動制御機能などの上位中枢系が司る脳機能の向上促進を促す新規の鍛錬機器としての実用化が期待できる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも高齢者の認知機能・運動制御機能の向上に寄与する他動揺動機器による他動揺動刺激パターンの開発を目標とした研究に関しては評価できる。一方、揺動動作のピッチを可変にしたリズム動作とランダム動作との脳機能活性効果の違いについての結果から、ランダム動作がリズム動作に比べ運動野や前頭前野背外側部の活性度を高めることに関するデータの更なる積み上げなどが必要と思われる。
歩行者が気付きやすい電気自動車用模擬エンジン音の設計 龍谷大学
三浦雅展
龍谷大学
真部永地
高次変動を持たせた変動音を用いて模擬エンジン音を合成し、気づきやすさの向上が認められるか否かを検討した。具体的には、日常の実環境を想定し、高次変動を持たせたエンジン音とそうでないエンジン音を比較する聴取実験を行ない、高次変動の気づきに関する妥当性を検証した。具体的には、電気自動車モーター音にガソリン車の排気音から収録した2次変動を与え、その2次変動の強度を変化させることで、音の主観的な大きさであるラウドネスが減少し、かつ気づきやすさが向上した。これより電気自動車用接近音として妥当な指標となることが確認できた。今後は、サウンドデザインの観点からこの音の妥当性を調査するとともに、現在の電気自動車音の気づきやすさに対する客観化手法の開発を行なう。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究は、EV車固有の問題である、清音性による歩行者側の気付きにくさを低減するために、疑似モーター音を合成する手法を開発し、気付きにくさの低減が見られるかどうかを検証しようとするもので、当初目標は達成されている。一方、技術移転の観点からは、また、音響パワー及びラウドネスを下げたまま(騒音の弊害が増大しない状態で)気付きやすさの向上を達成できた点は、交通騒音防止の点からも評価できる。今後は、疑似モーター音の心理評価、自動車への実装等の課題を解決する必要があるが、関連技術の特許出願も行われ、企業との連携も具体的に進んでおり、将来性が高く評価できる。
信頼性を有する情報と人の検索およびコミュニケーション促進システムの開発 京都産業大学
河合由起子
本研究開発は、情報とその情報に関して知識や経験の豊富な人の両方を瞬時に検索でき、即時にコミュニケーションを可能にする信頼性の高い検索コミュニケーションシステムの開発である。検索とコミュニケーションの両方を同時に実現することで、ページ内の用語説明といった信頼性の高いアドバイスを人から受けられる。また、内容に対する意見や感想をページ閲覧しながら人と会話やアノテーションができ共有できる。さらに、ログを用いることで、信頼性の高いページを上位にランキングできる。本研究課題では、チャット、アノテーション等のコミュニケーション機能ならびに信頼性の高いページとユーザの検索機能を開発する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも情報とその情報に関して知識や経験の豊富な人の両方を瞬時に検索でき、即時にコミュニケーションを可能にする信頼性の高い検索コミュニケーションシステムの技術に関しては評価できる。一方、開発されたシステムの使い良さ等に関する評価が残っており、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術的方法論の完成度は高いため適切な応用分野を選び、システムの使いよさなどの評価を実施し、技術移転につなげられることが望まれる。
音響技術を用いた水中における高精度測位システムの開発 京都大学
三田村啓理
京都大学
門林剛士
高度音響通信技術を用いて、新しい視点にたった水中におけるID識別可能な高精度測位システムを開発する。本研究課題では、水中ステレオハイドロホンを駆使して、幾つもの音源(個々)を、同時に、かつ高頻度に測位できる高精度測位システムの開発を目指す。具体的には、ハイドロホン2組を搭載した水中ステレオデジタル録音型のテレメトリーシステムを開発する。超音波発信器の信号の音源方位を、2組のハイドロホンから得た録音データから算出する。本機を複数台使用して音源を測位する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に計画時の目標を達成し、企業からも高い評価を得ている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、水産資源管理などでの実用化が期待される。実用化されれば、資源の少ない日本において大きな価値があると考えられる。今後は、さらなる実験の積み重ねが望まれる。また、報告書にもあるように、測位精度の向上には計測装置の設置精度の向上が重要であり、企業との共同研究を進め、技術移転につながることが期待される。
突風災害の低減に向けた小スケール乱流検出手法の開発 京都大学
山本真之
京都大学
門林剛士
レンジイメージング(RIM)とオーバサンプリング(OS)を組み合わせた高レンジ分解能大気乱流観測技術(RIM-OS)の開発を通して、大気レーダーによる鉛直スケール100m程度の小スケール大気乱流の検出を実現した。観測システムの構築にあたり、RIM-OSに対応した高速信号処理を実施できる安価(従来の1/10の価格)かつコンフィギュラブルなデジタル受信機の開発にも成功した。開発したデジタル受信機を既設のUHF帯大気レーダーに付加し、RIM-OSを用いた大気乱流の連続測定を実施した。連続測定結果を用いて小スケール大気乱流検出におけるRIM-OSの有効性を示し、さらに企業・ユーザーに対して開発成果を示すことで、開発技術の実用化に対する見通しを得た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に鉛直分解能を数10mに高める大気レーダーのレンジイメージング測定を用いて小スケール大気乱流を自動検出する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、小スケール大気乱流自動検出手法の確立には至らなかったが、RIM-OSではじめて達成される高い精度の小スケール大気乱流検出が、レーダーのオペレータが実施する小スケール大気乱流の早期探知に十分有用な手段となり得ることが確認できたことから実用化が期待される。今後は、異常気象による被害も深刻なものとなっており、観測手段を得る意味で社会に貢献する研究であり、早期の技術移転が期待される。
点群座標データを用いた効率的な3次元道路ネットワークデータ作成手法の研究 関西大学
田中成典
関西大学
柴山耕三郎
本研究では、地図データと点群座標データとを用いた効率的な3次元道路ネットワークデータ作
成手法の確立を目標とした。まず、AHSやEV等の施策や関連する文献を調査し、提案アルゴリズ
ムを精査した。次に、プロトタイプを開発し、実データを用いて提案手法の有用性を評価した。結果、いくつかの課題があるものの期待したとおり精緻な3次元道路線形データを生成でき、提
案手法の有用性を確認できた。道路ネットワークデータは、3次元道路線形データを既存技術に
より接合することで作成できる。今後は、さらに企業化ニーズを高めるため、車線単位や自転車向けの精緻な3次元道路ネットワークデータの効率的な作成手法の確立に取り組む。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも点群座標データを用いた効率的な3次元道路ネットワークデータ作成技術に関しては評価できる。一方、いくつかの点で当初目標から目標を下げている。車両ノイズ除去は達成できなかった。一部路線で路線単位の道路地図情報の提供が始まったため、「ブレークライン点群の抽出技術」や、「道路平面図補正技術の確立 」を用いての補正を行う必要性が薄れ、これらの技術の検証精査を行わなかったとあり、今後、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
音響信号による情報の無線伝送技術の開発 関西大学
梶川嘉延
関西大学
中川美利
街中には多くのスピーカがあり、それらからさまざまな音楽が流れている。そのような音楽を耳にしたとき、その音楽に関する情報(タイトルなど)をすぐに手に入れたいと思うことは多々ある。本研究では、そのようなユーザの要望を実現するために、音楽そのものにその音楽に関わる情報を埋め込み、スピーカ再生されたその音楽を携帯端末などのマイクロホンで録音することで、それらの情報を取得するシステムの構築を目指す。音楽店などでは無線による情報提供があるかもしれないが、街中のいたる所にそのような設備を導入することはコスト的に見合わない。それに対して本課題のシステムでは特別な設備は必要としないため、実用化の意義は高いと考える。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも音響信号からの情報抽出という技術に関しては評価できる。一方、雑音および残響の影響を低減するための基礎的な検討は行われているが、技術的検討やデータの積み上げなどが望まれる。今後は、より実際の環境に近い環境での試作実装が必要と思われる
複雑ネットワークにおけるコミュニティ発見方式の開発と実証実験 大阪大学
土方嘉徳
大阪大学
中村邦夫
本研究では、複雑ネットワークにおいて、密なノードの集まりであるコミュニティを発見する手法を開発し、実際の複雑ネットワークに適用し実証実験を行った。具体的には、交グラフとモジュール性、意味的解析に基づく、コミュニティ発見手法を開発し、特に有効グラフに適用する際の工夫を行った。開発した手法は、複雑ネットワークの一つであるTwitterに適用した。既存手法に比べて、約1.5倍の抽出精度向上を実現したが、意味的解析の効果は期待ほど見られなかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも複雑ネットワークにおいて、密なノードの集まりであるコミュニティを発見する技術に関しては評価できる。一方、今回の評価は大学内の狭い閉じたコミュニティでの評価と思われ、外部コミュニティでの評価と課題は不明であり、今後さらに技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
電力エネルギー制限下での複数企業間生産計画の自動交渉システム 大阪大学
西竜志
大阪大学
中村邦夫
電力エネルギーやマンパワーなどの資源の利用が制限された条件下で、複数企業間で合理的な生産計画を行うための自動交渉システムを開発する。本研究では、各企業が電力貯蔵装置を有するとき、 電力需要やスポット単価、 契約情報が与えられた条件下で生産活動に必要な総コストを最適とする電力契約の方法と最適なポートフォリオを算出し、各企業の意思決定者が他の企業の決定も考慮して最適な電力使用スケジュールを自動的に調整して決定支援を行うことのできる複数企業間での自動交渉システムを開発する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも電力エネルギーやマンパワーなどの資源の利用が制限された条件下で、 複数企業間で合理的な生産計画を行うための自動交渉システムに関する技術に関しては評価できる。一方、最適化による省エネルギー化を目標と言いながら、総エネルギーコストの最適化を行っているように見受けられる。 アルゴリズムの改善、動的計画法などによる生産量の削減による計算時間の短縮が課題である。今後は、実用化の面から考えると各企業の設備稼働率変動にともなう生産原価にどう影響するのか、原料や部品の供給体制が間に合うのかといった問題とそのコストなどの分野の研究、検討が望まれる。
必ず設定以上の画質にできる電子透かし法 大阪府立大学
岩田基
大阪府立大学
阿部敏郎
本研究開発課題の目標は、「透かし入り画像の劣化の下限をあらかじめ定義できる」という特性を維持したまま、「攻撃に対する耐性を従来方式以上にする」ことである。研究の結果、均等色空間上での変化量の上限を厳密に規定することが可能な上、透かし入り画像からの抽出誤りを0にできる電子透かし法を開発できた。実験により、従来手法では完全には0にすることができていなかった、均等色空間を用いた透かし入り画像からの情報抽出誤りを、世界で始めて0にすることに成功した上、画質面においても定量的な向上を示せた。開発法は画質設定部と耐性設定部を切り分けて設定することが可能となっているため、今後はこの特性の有効利用を図るとともに、短所である実行時間の長さを解消する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に画質を劣化させずに、埋め込まれた透かし情報を読みだす技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、透かし情報の埋め込みに関しては、デジタル画像の利用が進む状況の中で、極めて重要な機能として社会から求められており実用化が期待される。今後は、社会的にも活用が期待されるものであり、コスト低減に向けた研究が望まれる。
新たな高速化技術と単語辞書の導入による文字利用の高度情報提示システム 大阪府立大学
岩村雅一
大阪府立大学
阿部敏郎
申請者らはカメラで撮像した様々なレイアウトの文字や単語を実時間で認識可能な技術を世界で初めて開発した。本研究の目的は、申請者らがこの技術を用いて開発した情報提示システムの反応速度と提示情報の正確さを改善し、機能性を向上することで実用化への道筋を確かなものとすることである。このために、前述のシステムに申請者らが世界に先駆けて開発した高速検索技術と単語認識を高精度化する機構を導入する。提案システムは我々の身の回りに存在する文字情報を、画像、音楽、翻訳情報など様々な情報と関連づけることができる。これにより、視覚障害者や外国人の支援、教育補助システム、老人のぼけ防止システム、携帯電話アプリケーションといった幅広い応用に道を開く。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初目標数値を全面的に達成したとは言い難いが、文字関連情報提示システムに統合する文字検索技術を構築した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、リアルタイム性を追求して文字や単語など様々な情報との連携で実現されるシステムなどでの実用化が期待される。今後は、検索DBの膨大化への対策や具体的なサービスや製品を想定してクリアすべき数値目標を定める視点からの検討が期待される。
世界初のカメラペンシステムのプロトタイプ構築 大阪府立大学
黄瀬浩一
大阪府立大学
阿部敏郎
本研究では、我々が開発しているカメラペンシステムを対象とし、安定性向上、データベース拡充、空白・白紙への対応を施すことにより、実用性の高い技術とすることを目指している。平成24年度の評価実験に先立ち、平成23年度は上記3点の研究開発を目標とした。その結果、安定性向上については当初考案していた複数カメラを用いる手法は不調に終わったものの、トラッキングを導入する新しい手法を考案し、目標を達成した。データベースの拡充については、安定性向上に時間を割いたため、現段階で完了することができず、平成24年度の目標とした。最後の空白・白紙への対応は、トラッキングを用いる手法で対処可能なことが実験で実証された。また、ペンの試作に必須となるペンアップ・ペンダウン判定機構を実現し、評価実験を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にペン先のカメラで筆記中の文書を連続的に検索することにより、筆記情報を電子化する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、安定性向上、データベース拡充、空白・白紙への対応の3課題を当初挙げていたが、データベース拡充を除き達成している。これまでの成果をブラッシュアップすれば、技術移転が可能な領域に入っており実用化が期待される。今後は、デジタルデバイスなど従来に入力方法に不慣れなユーザーに道を拓いた問いたと言う点で、社会還元は十分なされるものと期待される。
表情モニタリングシステムの構築に関する研究 大阪府立大学
有馬正和
大阪府立大学
稲池稔弘
本研究の目的は、安全・安心で快適な公共交通機関を実現するための「表情モニタリングシステム」を構築することである。複数台のネットワークカメラと赤外線カメラを組み合わせることによって、被験者の向きや所作などを推定して顔面表情を追跡しながら、そのステレオ画像から3次元画像解析技術によって表情を定量的に表現し、その時間的な変化から生理的・心理的な状態を検出することを目指している。現在、表情モニタリングシステムのハードウェアの構築を終え、ソフトウェアの完成を目指しているところである。今後は、船舶の航海船橋などの公共交通機関の現場でデータを収集し、実用化に向けた改善を進めつつ、技術移転を模索したいと考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも人の生理的・心理的状態を定量的に推定・評価することのできる「表情の3次元計測・解析・評価システム」技術に関しては評価できる。一方、計画に対してハード構築までしか進んでおらずソフトウェアが未完成であり、3次元解析ができるとこまでには至っていないのでシステム開発、完成の上、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
無線LANにおけるネットワークコーディングとブロックACKの適応的連携に基づくマルチメディア配信基盤の研究 大阪府立大学
谷川陽祐
大阪府立大学
田中政行
無線LANを用いたマルチメディア配信においては、パケットロスによる通信品質低下に対処する必要があるが、特にマルチキャストで配信する場合、基地局が全受信端末局のロス状況を把握することや全端末局に対してロスパケットを完全に再送することが困難である。本課題では、ネットワークコーディングとブロックACKを適応的に連携させてロスパケットを効率的に再送することで上記問題に対処した。端末局からのロス状況通知や基地局からのロスパケット再送の頻度をパケットロス率、伝送遅延に関する目標値の範囲に適切に限定することで、当初の目標性能を達成できることを示した。今後は、各構成システムのブラッシュアップおよびネットワーク利用形態の一般化に関する発展課題に取り組む予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にパケットロス率、パケット伝送遅延性能に関する数値目標はすべて達成されていることから、通信品質の低下対策技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、ACK同士の衝突問題による効率低下、マルチキャスト複合状態などへの対策などの技術開発の見通しと対応技術などでの実用化が望まれる。今後は、想定ネットワークの拡大と各付帯的問題の基本的対応策について企業との協力や実証を追求されることが期待される。
光A/D変換器の符号化技術と実光信号観測システムの開発 大阪府立大学
三好悠司
大阪府立大学
田中政行
現在、大容量の光通信を実現する為、多値変調された広帯域の光信号を受信可能な高速高分解能の光アナログ―ディジタル(A/D)変換器の実現が求められている。申請者は高分解能の光A/D変換器を実現する光アナログプリプロセッサの光入出力特性を用いたA/D変換方法を提案し、その光入出力特性を実現した。本課題では、光アナログプリプロセッサの出力信号からディジタル信号を得るための符号化技術の開発を行い、実光信号を観測する為のシステムを開発する。そして、実光信号に対しての光A/D変換器の特性評価を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に大容量の光通信を実現する為、多値変調された広帯域の光信号を受信可能な高速高分解能の光アナログ―ディジタル(A/D)変換技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、実装に関しては目標達成だが、5bit精度の面での問題が残っているので更なる技術検討の上での実用化への進展が期待される。今後は、近年CMOSで光通信の復調器用に50GサンプルのA/D変換機も実用されていることを考え、更なる特徴を出していくことが期待される。
長周期光ファイバグレーティング型高温分布センサの開発 大阪府立大学
小山長規
大阪府立大学
田中政行
本研究では構造物の異常部検出用の高温分布センサの実用化を目指し、LPFGのグレーティング間隔の高精度な調整による共振波長シフト技術を適用することで、LPFGの多重技術の開発を行う。これまでの多重数は2であったが、本研究の結果、5つのLPFGの多重化に成功した。LPFG作成時に張力を一定とする仕組みや、500mm移動可能な微動台の導入など、LPFG書込みシステムの性能向上を目指した工夫が大きな原動力であったと考える。また多重化したLPFGの温度分布センサとしての性能評価も行い、隣接LPFGの温度差が100℃程度の環境下でも使用できることを明らかにした。今後は更なるLPFGの多重化を目指し、LPFGの光損失ピークの尖鋭化、より微細な共振波長シフト技術の確立を実現する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に中心周波数の先鋭化、高密度化は達成されているとは言えぬまでも、LPFGの多重化には不十分ながらも成功しているようであり、また、温度分布センサとして動作することも確認している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、中心周波数の先鋭化、高密度化、LPFGの作成法、多重化法などのデータを積む必要があるがそれぞれ企業とともに優位化技術としてクリアすべき課題であり、早期の実用化が期待される。今後は、光源を含むシステムの小型化や、センサの簡便な読み出し法の技術開発が期待される。
劣通信環境下における蓄積搬送型通信に基づく地図推定方式の設計と開発 関西学院大学
巳波弘佳
関西学院大学
丸本健二
本課題は、劣通信環境である災害時における蓄積搬送型通信に基づく地図推定方式の実用化に向けた検証に関するものである。震災など大規模広域災害時においては、ビル・工場・発電所など建物内外の通行可能箇所(地図)は通常から大きく変化するが、通信も困難な場所における状況把握は容易ではない。しかし復旧や救助のためには、作業者やロボットなどから情報を収集し、それに基づき地図を推定する技術が必要不可欠である。そこで本課題では、実用的な精度の地図を現実的な時間で推定する技術の確立を目標とし、下記の2つの開発を行った。
・蓄積搬送型通信を利用した、災害時の地図推定方式の開発
・地図推定方式の実装と性能評価実験
実道路網トポロジを対象とした様々な角度からのシミュレーション評価を行い、蓄積搬送型通信に基づく地図推定の有効性を示した。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に災害時の利用可能道路や屋内外のアクセス可能ルートの作成への応用など、この技術の重要性は高まっている。蓄積搬送型通信に基づく地図推定方式の開発に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、企業との共同研究などでの実用化が期待される。今後は、予定されている携帯端末による実証実験などを進め、社会還元に繋がることが期待される。
リアルタイムに視線情報を共有できる実世界コラボレーションシステムの開発 関西学院大学
山本倫也
関西学院大学
丸本健二
申請者は、世界初の技術として、独自の高精度な視線計測技術を基盤として、視線とタッチをテーブルトップで統合したインタラクションインタフェース(ETTI)を開発してきた。本課題では、モックアップなど実物を見ながらの協調デザインや、現場での、マイスターの視線を伝えながらの技術伝承を目的に、リアルタイムに視線情報を共有できる実世界コラボレーションシステムの開発を行った。
具体的には、視線計測技術のマルチユーザ化と、インタラクション対象の実物体化を進め、これらの技術基盤を統合した“見たところが光る箱”を開発することで、コラボレーション技術の基礎となる技術開発を行った。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に特別な装置の装着を必要としないで、複数人の視線情報を共有できる技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、情報を共有する必要のある分野や、学校あるいは市民講座等の教育分野や福祉分野での利用などでの実用化が期待される。今後は、光る箱、読んだところがわかる本などのアプリケーションをさらに拡大した分野での進化が期待される。
バイナリコードからのMPUアクセラレータの自動生成 関西学院大学
石浦菜岐佐
(財)京都高度技術研究所
高木誠
コンパイル後のバイナリコードを入力し、指定した区間の演算を(CPU が実行するよりも)高速に実行できるコプロセッサ・ハードウェアの回路を自動生成する「バイナリ・シンセシス」技術に関する研究を実施する。複数アルゴリズムを実行できるコプロセッサの自動生成を達成し、完全自動でCPU との一体化を実現できる基盤技術を確立する。マルチコアCPUよりも少ない回路規模で大きな高速化を達成可能であり、かつプログラム側の変更が不要であることが特長であり、ハードウェアの知識のない組込みソフトウェア技術者でも、実行効率に優れた組込みシステムのハードウェア・プラットフォームの設計を実施できるようになる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初目標でもある「バイナリコードからコプロセッサの自動生成」に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、提案技術のコスト・パフォーマンスの改良に加えて、市場ニーズの調査に基づいて提案技術の優位性をアピールできる実験データを揃える必要があり、また、協力企業との間で技術スペックの検討段階から参画させるなどでの実用化が望まれる。今後は、現段階の実験結果から、提案技術はdual-CPUと同程度の回路面積で単一CPUに比べ2倍程度の高速化しか達成できていないので、dual-CPUと比べればメリットが薄まる恐れがあり、本技術の更なる優位性を示されることが期待される。
小型プレジャーボート・漁船用“見張り支援システム”の研究開発 神戸大学
村井康二
神戸大学
西原圭志
本課題は、小型プレジャーボート及び漁船を主対象とした見張り支援システムの研究開発を目的とし、地域の船舶交通流特性を考慮した他船舶の接近/衝突警報アルゴリズム機能の構築を行い、さらに習熟を必要としない取扱い説明レスの表示・操作部を検討し、生理指標による定量的なシステム検証を目標としている。そして、地域特性としては、国内のみならずアジア地域を広く対象とするため、中国の寧波における調査も含め、AIS、レーダを情報源とするCPA、TCPAを用いたアルゴリズムを検討した。また、表示・操作部については、日本および中国を主とした航海機器の調査を行い、その特徴について検討し、日本メーカーに共通スタイルが存在していることがわかった。今後は、実際のレーダ、AIS観測データを用いたシミュレーションを展開する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。達成度については不十分な所も散見されるが、問題点、解決すべき課題は明白になっている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、ニーズは明確であり、具体的にアルゴリズムを確立し使用機器との組み合わせが明確になれば技術移転の可能性は高まると考えられる。今後は、産学共同の具体的な計画を進め、安全向上に寄与することが期待される。
ハイエンドプロセッサ向けハッシュ関数の構成法に関する研究 神戸大学
桑門秀典
神戸大学
大内権一郎
ハッシュ関数は電子データの完全性・真正性を保証するために必要な技術であり、近年の電子データのサイズの急激な増加に伴い、高速なハッシュ関数が求められている。本研究開発では、最近のハイエンドプロセッサの機能を活用することにより、従来のハッシュ関数よりも高速に処理できるハッシュ関数の開発を目指し、暗号処理命令を利用した double-block MMO 型のハッシュ関数と複数の演算コアを利用した multilane hashing mode のハッシュ関数を開発し、それらの処理速度の評価及び安全性の理論的解析を行った。その結果、処理速度が大幅に向上していることと従来のハッシュ関数と同程度の安全性を達成できることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にハイエンドプロセッサ向けハッシュ関数の構成方法、安全性、処理速度技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、サイズの大きなデータに対し、その完全性や真正性を検査するセキュリティソフトウエアの開発などに有効などでの実用化が期待される。今後は、共同研究や学会などでもっとアピールされることを期待する。
自己補償機能を有する可搬型デジタルホログラフィック瞬時3次元計測システムの開発 神戸大学
的場修
神戸大学
大内権一郎
デジタルホログラフィ3次元計測システムのプロトタイプを構築し、その動作確認を行った。作製したプロトタイプは90cm×54cm×20cmと当初の予定より2.6倍の大きさとなったが、2次元画像を原信号とした干渉画像の取得と位相変調型空間光変調素子による位相補償実験を行った。再構成計算の高速化に関しては、GPGPUを用いて、画素数512×512ピクセルの画像の伝播計算100回での計算時間として1.025秒を達成した。研究目標に掲げた1回当たりの再生計算時間0.1秒を約10倍上回る計算速度で再構成することに成功した。これらの結果から将来的に高速3次元センシングシステムの開発とその可視化システムへの展開が可能であることを実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高速に製造ラインを流れる製品の欠陥検査やミクロ/マクロな領域での超高速な3次元計測技術技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、更なる実証実験の必要性が述べられており、具体的には最大撮像速度での処理が提案されているなどでの実用化が期待される。今後は、より高度な光学系技術を持つ企業との共同研究によってこそ良い解決策が模索可能と思われるので、速やかに産学共同研究体制への移行が望まれる。
音素固有部分空間法による構音障がい者の声質変換の研究開発 神戸大学
滝口哲也
神戸大学支援合同会社
河口範夫
本研究は、ユビキタス社会における構音障がい者の自立生活を情報技術により支援する新しいユニバーサルデザインの研究開発を目的としている。構音障がい者の発話は、その内容を聞き取る事が困難な場合があり、地域社会から取り残される事がある。本代表者らがこれまでに研究を進めてきている構音障がい者の音声認識システムを活用し、本課題として音声認識誤りに頑健な構音障がい者の声質変換の研究開発を行った。今後、実生活環境下において、入力音声に重畳される背景雑音による影響を対処することにより、本システムが地域生活において実用化され、全ての人々が共存したコミュニケーション社会の構築を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標のうち、音質変換については目標誤り率12%を達成、音素部分空間のデータベース構築については目標値に僅か届かないものの、ほぼ支障ない精度で構築できた技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、社会福祉的価値のある研究であり成果は出ているものの技術移転の可否を検討するには評価データが多少 少ない。継続したデータの積み上げなどを進められた上での実用化が期待される。今後は、構音障がい者だけでなく広く技術を応用することによりバリアフリー社会への貢献が期待される。
災害時避難・安否確認のクラウド型支援システムの開発 兵庫県立大学
有馬昌宏
兵庫県立大学
上月秀徳
災害時の避難支援と安否確認には、機微情報である個人情報を地域社会内で社会情報化して、地域住民や関係者が共有する必要がある。本研究は、災害時要援護者支援ガイドラインに基づく災害時要援護者名簿による避難支援が東日本大震災時に有効に機能しなかったことに鑑み、全国で146,396団体が組織され、世帯カバー率が75.8%に達している自主防災組織の活動を支援できる情報システムの構築と運用を目的としている。事前登録された個人情報あるいはQRコード化されて携行される個人情報を避難所での入所手続きや電話のワン切りによる安否連絡に活用するシステムのプロトタイプを構築し、兵庫県三木市で開催された防災訓練において、システムの有効性を検証した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に個人情報をQRコード化してシールや携帯電話に保存し、スマートフォンを用いたクラウドシステムとして行政および住民と連携した実証実験を通して、システムの検証が進められている技術に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、行政的な住民向けサービスに関する技術開発であるため、一般消費者を対象とした企業化は難しいかもしれないが、行政自身が顧客になるなどでの実用化が期待される。今後、三木市での千人程度の実証も行われ、さらに改良が進めば、極めて有効な地域安全向上の手段となることが期待される。
高速な特徴選択アルゴリズムの性能の改善とユーティリティの開発 兵庫県立大学
申吉浩
兵庫県立大学
上田澄広
本研究で提案している高速な特徴選択アルゴリズム(Combination of Weakest Components以下CWCと略す)は、一貫性ベースの特徴選択アルゴリズムの重要な問題である速度性能を画期的に改善すると共に、精度の点でも既存の一貫性ベースアルゴリズムのみではなく、その他の特徴選択アルゴリズムを有意に凌駕している。本研究開発では、実行速度をトレードオフとして、より高精度な選択を行うCWCのオプションを実現するアルゴリズムを考案し、当該アルゴリズムを包含し、かつ、高速なCWCのユーティリティプログラムを実装し、研究及び実務コミュニティに公開・提供することを目的とする。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも機械学習に関するアルゴリズムの実用化のために、応用分野の実務者が利用できるユーティリティプログラムの開発と、精度・速度両面での更なる改善を目指す技術に関しては評価できる。一方、提案アルゴリズムの実用化のためのユーティティ化および実装レベルでの高速化が実現されておらず、今後技術的検討が必要と思われる。
適応的高信頼化低電力コンピュータの実用化 奈良先端科学技術大学院大学
姚駿
半導体微細化技術の高度化に伴い、電子機器の高信頼化が重要な問題となっている。我々は、効率的な高信頼実行が可能な、冗長化機構を備えるVLIW命令セットと実行機構を提案してきた。本アーキテクチャは、(1)要求信頼性が異なることを明示的に指定するための、ソフトウェア/ハードウェア連携プロトコル、 (2)アレイ型アクセラレータにおける多数演算器およびデータ・パスを利用して部分的な冗長化を行う効率的な実行機構を備え、ワーストケースのみの信頼性対応ではなく、より少ないエネルギーにより適応的に高信頼プロセッサを実現できる点で、次世代マイクロアーキテクチャの基盤技術として有望である。本研究では、上記アーキテクチャの実現および実用化を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に着実に技術的な成果を得て目標をほぼ達成している点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願の記載がない等、事業化に向けた技術移転に関する検討が弱いと思われるため、その強化が期待される。今後は、社会還元にはまだ時間がかかると思われるものの、企業と連携をとり、一部適用でも技術移転されることが期待される。
偏光双安定VCSELを用いた光周期回路による超高速・高機能光クロック信号発生器 奈良先端科学技術大学院大学
片山健夫
奈良先端科学技術大学院大学
戸所義博
10GHzを超える光クロックの発生は、半導体レーザの直接変調では困難であり、間接変調では外部回路が複雑で高価になる。そこで偏光双安定VCSELの発振光の偏光を90度回転して戻す簡便な光学系で、自己偏光スイッチング動作を実現し、高速光クロックの発生を行う。高速化のためにVCSELと外部ミラーの間隔を狭くした場合、光学系の機械的安定性が重要になることを明らかにした。厚さ8μmのポリイミド薄膜1/4波長板とハーフミラーを用い、それらをVCSELのマウントと一体化することで機械的な安定性を増し、外部共振器長13.1mmの光学系で繰り返し周波数5.1GHzの光パルスを実現した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも光入力によって制御可能な面発光半導体レーザ(VCSEL)の偏光双安定性を用いて、外部光学系によって発振偏光を回転させてレーザに戻し、発振偏光を交互にスイッチする全光型の高速光クロック発生器の技術に関しては評価できる。一方、目標の10GHzのクロックに対して5GHzまでのクロック発生までの研究進捗であるが、内容的には当初の目標達成に近い。技術課題も明確にされている。今後は、VCSELによるクロック信号の発生という点で大いに研究が進捗していてレベルも高いが、システムや装置の小型化など、短期の技術移転よりも長期的な視点で将来の可能性としての研究と考えて進めていくのが妥当と思われる。
発声障害者補助のためのリアルタイム声質変換処理の実装 奈良先端科学技術大学院大学
戸田智基
奈良先端科学技術大学院大学
酒木聞多
喉頭摘出者は、音源生成器官である声帯を失うため、他の調音器官が正常に動作するにも関わらず、発声障害を患う。代替発声法により無喉頭音声の発声は可能であるが、その自然性は低く、個人性も欠落する。この問題に対して、本課題では、無喉頭音声をリアルタイムで所望の声質を持つ自然な音声へと変換する処理の実装に取り組む。音声コミュニケーションでの利用を可能とするために、十分に短い遅延時間で動作する変換処理を実装する。また、限られた計算機資源での動作を目指して、変換処理の演算量を低減し、DSPへの組み込みに取り組む。構築したシステムの性能を評価し、実用化への可能性を示すと共に、解決すべき問題点を明らかにする。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にリアルタイム化、DSP実装に関しては目標を達成している。通常音声ではなく音声合成処理に負荷の少ない「ささやき声」での実装となったが、音声障害者用の携帯型補助音声変換装置の基盤技術としての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、本研究の成果に基づく新たな知財確保が必要。今後はボイスバンクプロジェクトの立ち上げや、共同研究を通じた他用途への展開などが予定されており、社会還元が期待される。
小型情報ポーター端末を用いた災害時情報配信技術の開発 和歌山大学
塚田晃司
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
不安定で断続的に切断され、分断される通信環境を前提とし、そのような通信環境下であっても情報伝達の可能性を高める情報配信手法を開発する。これにより災害時における情報の孤立を防ぐことを目指す。被災地の孤立地域上空を飛行するヘリコプタ、地上を走行する緊急車両、歩行者などを情報の運び手として利用し、少ない通信機会であっても、複数の運び手が連携し、駅伝でたすきをつなぐように、孤立地域と外部との間で情報を伝えるアプローチで解決をはかる。
平成23年度は固定通信機と移動通信機(情報ポーター端末)との間での情報通信方式の設計を実施した。平成24年度は引続き「やり取りする情報の種別・特性に応じた情報交換方式の設計」と10台規模の実証実験を実施する。
今後は、機材の低価格化を見据えて共同研究企業の模索をすすめていく。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも学内でのシステムに対する評価実験での、不安定な環境における通信ネットワーク構築のための技術に関しては評価できる。一方、十分な目標達成が出来ておらず、新たな特許および外部発表が行われていない。通信手段の設計に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は地域防災担当組織との深い連携が望まれる。また、独自の技術開発だけではなく、既に存在する機能の活用に、蓄積されたシステム構築のノウハウを活かすことも考えられる。
ユーザ通信が切断されないロバストな多チャンネル無線メッシュネットワーク構築技術の開発 和歌山大学
吉廣卓哉
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
本研究開発課題では、無線メッシュネットワークにおいて、「無線リンクの切断」によりユーザの通信が切断されることに対する解決方法を確立する。無線メッシュネットワークにおいて、各無線リンクが切断された場合に備えて代替リンクを予め計算しておき、リンク切断時には、これを瞬時に検出して代替リンクを用いて通信を継続することで、ユーザの通信を継続させる手法を開発する。提案手法を具体化し、ネットワークシミュレータに実装した。平成23年7月末において、評価としてのシミュレーション実験を完了し、本提案手法により、単純なトポロジのネットワークにおいては、通信の安定性を大幅に向上できることを確認し、提案手法の有効性が確認された。本成果により、計画当初に掲げた成果目標を達成できた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にシミュレーション実験によりスループットの向上が得られた点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、費用対効果から最適なチャネル数を導出することや、消費電力の考慮など、実装面で残された課題も多い。プロトコル階層における2層、3層バッファ間のパケット転送タイミングにより、本提案方式の効果が大きく左右される可能性もある。今後は、当初計画していたリンク切断率の改善という観点での評価や、実機を用いた評価を通じた実用性の確認が期待される。
Wikipediaと機械翻訳を用いた多言語用語間における文化差検出サービス 和歌山大学
吉野孝
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
多言語間コミュニケーションにおいて、同一の単語を用いて会話をしている場合でも、相手の文化について十分に理解していないために、誤解が生じる可能性がある。現在、文化差の有無の判断は、人が行う必要があるが、その判断には相手の文化に関する十分な知識が必要なため、容易ではない。本研究では、文化差の検出手法として、Wikipedia の記事における執筆者の意図に着目した方法、記事内の情報を利用した方法など複数を統合することにより、それぞれの文化圏で意味の異なるものに関して、従来手法よりも精度よく検出できることを示した。さらに、文化差を検出・可視化するサービスを構築し、公開した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初の目標を達成し、文化差検出サービスを公開した技術に関しては評価できる。一方、本技術を用いた応用展開の広がりや道筋がよく見えない。対象データの大規模化及び対象言語を増やしての検証など、技術移転に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、本技術に対する企業等の反応を見て、技術移転につながる道筋の明確化が望まれる。
スマートグリッドにおける動的電力消費原因特定・制御方式 和歌山大学
瀧寛和
和歌山大学
鈴木義彦
発電・蓄電・送電の大規模地域を想定した省エネ技術としてスマートグリッドの開発が進んでいる。また、スマートグリッドでは、エネルギー消費の平滑化を行う必要があるが、総量制御による方式が研究されている。しかし、急な変化の消費バランスの原因が特定できないため、電力不足や停電が発生しやすい。そこで、電力消費の変動要因に関係するオントロジーを整理し、各電力消費エリア内での消費量変動要因(パラメータ)の推定技術として、属性選択アルゴリズム(VFE)を開発した。また、電力消費変動要因を考慮した動的な電力供給量の決定のために動的評価調整型A*アルゴリズムを開発した。この技術を応用することで、急な電力化に対応した消費機器の安定利用が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に100個ものパラメータを収集して、その中から消費電力変動要因となるものを選別して電力分配に使用するシステムを提案し、その中核となる解析アルゴリズムの改善を行っている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、提案アルゴリズムを用いたスマートグリッド制御サーバーの商品化を計画しており、電力消費増加の要因解析と電力供給量決定を高速に行うこと可能となったことなどでの実用化が期待される。今後は、電力消費制御の改善効果の評価や、他のスマートグリッドで使用される電力制御方法との比較、複雑な計算に伴うサーバーの演算問題などの検討などが期待される。
非剛体変形する衣服の高速・高精度な全周3次元計測技術の開発 和歌山大学
小川原光一
和歌山大学
鈴木義彦
本研究では、歩行時のスカートのように時間軸にそって非剛体変形する衣服を対象として、その全周3次元形状を複数のカメラを用いて計測する技術を開発する。特に、非剛体変形に基づく自己隠蔽によって未計測個所が生じる問題に着目し、未計測個所を補間して欠損のない全周3次元形状を取得する手法の開発を目標とする。本研究期間では、形状をパラメトリック曲面で表現し、時系列計測データに対する時空間あてはめによって欠損のない全周3次元形状を取得する手法を開発した。開発した手法は円筒状の形状を対象としており、変形するスカート部分に対して欠損のない時系列3次元形状を取得できることを確認した。今後はパラメトリック曲面を拡張し、人体全身の形状を取得可能な手法を開発する。 当初目標とした成果が得られていない。中でもスカートなど人が運動する際に形状が大きく変化する衣服の全周3次元形状を、時間的に連続かつ高精度で計測する技術に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。次のステップに進むための見通しは立ちつつあるようだが、期間中に目に見える形で成果を残すには至いいていない。使用予定であったワンショット型プロジェクタ・カメラ式計測法が自己隠蔽の多い場合には対応が困難であることが判明したため、目標を変更しパラメトリック曲面の拡張に先立って全周多視点ステレオ計測法を開発したとしているが、完了報告書の記述からはその内容の詳細は不明である。
医療クラウドの普及促進を目的とする電子カルテシステムユーザビリティ評価のためのシミュレーション環境構築に関する研究 鳥取大学
寺本圭
鳥取大学
足森雅己
病院情報システムをクラウド上で利用するための課題の一つとして、遠隔地のサーバからクライアントPCへ送信される描画情報の応答遅延とそのバラツキが、利用者の操作性を大きく阻害していることがある。特に病院情報システムで利用される電子ペンなどのインターフェースは、遅延の値が80msec、そのバラツキが35msec以内でなければ業務での利用は難しい。本開発では、描画情報のIPパケットをカプセル化し、スケジューリングをする機能を有する装置を開発することによって、描画応答速度を最適化しユーザの操作性を改善することを目的とした。本装置の性能評価の結果、描画情報の遅延のバラツキを縮小させることを確認している。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも診断用画像などの高度な処理を要する電子カルテにおいて、 SBC適用時に生じる画面反応速度の遅延が及ぼす操作性・見読性への影響を制御する技術に関しては評価できる。一方、Latency制御装置を使用してパケットの遅延を平準化することが、ユーザの操作性の改善に繋がるなど、今後の技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
水を媒体に用いた3次元ジェスチャインタフェース装置のコンパクト化実現 島根大学
平川正人
島根大学
丹生晃隆
本研究では、水を媒体に用いた3次元ジェスチャインタフェース装置の実用化に向けた取り組みを行った。考案する装置の特徴としては、水に浸けた手指等の3次元位置の追跡が行えるようになっており、触覚器を通したモノ(水)の存在感や温度伝達による刺激効果が実現でき、これまでにはない新たな機器開発が期待できる。一方で、実用化にあたっては装置のコンパクト化が欠かせない。本研究では、レーザモジュールとフォトトランジスタを格子状に配置したセンサアレイを用いた物体位置検出機構を構築し、目標に掲げた2項目の達成を図った。上肢・手指の動作障害のリハビリテーションや足湯といったリラクゼーション等への応用展開に向けて確かな足がかりを得ることができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にディスプレイとマウスを組み合わせたグラフィカルユーザインタフェースに代わる新たな技術として、水を媒体に用いた3次元ジェスチャインタフェース装置の実用化技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、全体として、水槽サイズとの比較で長さ方向で+10cm、幅方向で+15cmとなっており、実用性にやや問題が残る。安全性の確保、水質の維持等、次のステップへの技術的課題も明確にされてなど早期技術移転先の確保とともに実用化が期待される。
次世代カラーバーコード読み取り精度向上とその拡張 島根大学
六井淳
島根大学
丹生晃隆
本研究では三次元カラーバーコードの印刷において、安定した読み取り法の実現を目指す。これまでの研究を通して、三層(8色)までは、ほぼ100%の読み取り性能を実現してきた。本研究では、撮影環境の変化に対応するため、統計的手法である変分ベイズ法、EM法の適用検討を行い、四層(16色)程度まで安定した読み取り性能を得た。大容量化にあたっては、層数を増やし配色数を多くするよりもセル数を増やす方がより効果的であることが確認された。セル数を多く設定することで、1MB格納を実現できる目途が立った。今後はより高い読み取り性能、推定精度の向上を図り、ユーザからのフィードバックを加味したアプリケーション開発を行う予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に16色の3次元カラーバーコードの読み取り性能改善に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、情報の埋め込み技術は広要望が高く、この技術で大容量化が進めば社会インパクトはあるものと考えられ実用化が望まれる。今後は、セル数を増やす方向と、1セルの層数(bit数)を増やす方向の比較を行い、切手サイズで1MB以上の情報埋め込み技術としてさらに発展されることが期待される。
認知障害者の行動管理を支援するスマートメモリーエイドの開発 島根大学
廣冨哲也
島根大学
丹生晃隆
認知症や脳血管疾患等に起因する認知障害は、記憶・注意・遂行機能の低下を引き起こす。自立した生活を実現するため、低下した機能の代償手段として、行動を想起する手がかりを提供する支援機器「メモリーエイド」が使用されている。しかし、既存の機器は、認知障害に起因する日々の活動性の変化に対応できず、介護者による頻回な介入を必要とする。本研究では、行動の手がかりとして提示する内容や提示のタイミングを、スマートフォンの加速度から推測する活動性に応じて変化させる「スマートメモリーエイド」を試作した。さらに、プロキシユーザによる実験とフォーカスグループでの意見交換等を通じて、試作したプロトタイプの有用性を評価した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に認知症や脳血管疾患等に起因する認知障害は、記憶・注意・遂行機能の低下を引き起こすため、低下した機能の代償手段として、スマートフォンの加速度と操作ログから推測する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、地元企業との共同研究へ向けての取り組みも進められ、技術移転を目指した産学共同での研究開発に繋がる成果が得られたと考えられる。
脳の学習機能に基づく脳型画像フィルタの開発 津山工業高等専門学校
藤田一寿
津山工業高等専門学校
大重広明
本研究課題では、学習を用いた脳型画像フィルタの開発と能力の検証を行った。本課題で用いた脳型画像フィルタは、スパイキングニューラルネットワーク(SNN)で構成され、スパイクタイミング依存可塑性で学習する。画像を入力すると、学習によりSNNのネットワーク構造が変わる。学習後のSNNにより画像が加工され、画像処理が行われる。この脳型画像フィルタの機能検証の結果、実画像において線分強調、ノイズ除去などの機能を実現できていることを確認できた。動画処理においては、軌跡抽出の機能を有する可能性があることを示した。また、フィルタの計算速度の検証を行った結果、SNNを用いた脳型フィルタの場合、現在のコンピュータでは計算時間がかかるため動画のリアルタイム処理が難しいことが分かった。 当初目標とした成果が得られていない。中でも信号のタイミングに依存した学習則をニューラルネットワークに適用に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。「脳の学習機能に基づく脳型画像フィルタの開発」では、提案された脳型画像フィルタの機能検証を行ったが、実画像において線分強調の結果画像にはコントラスト変換のないところもエッジを抽出された。また、ノイズ除去の結果は従来からよく知られているメディアンフィルタより悪いなど、処理時間も膨大であるので、当初の目標設定に無理があったものと考えられる。
ヒトの温冷感覚特性を考慮した自動車空調システムの開発 近畿大学
中村一美
自動車の快適性向上に空調システムは欠かせない。しかし、空調システムは電気自動車(EV)走行時の発電量の約30%を消費すると言われ、走行性能に与える影響は小さくない。そこで本申請課題では、ヒトの温冷感覚特性を生体情報の計測により明らかにし、主にセンシング技術への応用を視野に、迅速かつ快適に感じる自動車空調システムの構築の基礎研究をおこなった。具体的には(1)温度変化に対する官能評価と生理指標の関係、(2)被験者属性による温冷感覚の違い、(3)光トポグラフィ装置(近赤外分光法)を用いた評価、の各検討をおこなった。今後は乗員配置・属性(運転者/非運転者等)や風向などと生理指標との関係を明らかにし、消費エネルギーが少ない空調システムの開発を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ヒトの温冷感覚特性を考慮し、快適と感じる自動車空調システムを開発するために、種々の関連データをとり解析した点は大いに評価できる。一方、技術移転の観点からは、これらのデータをしっかり整理し、新しく開発される自動車に適用され、人間工学的に快適な自動車の実用化が望まれる。そのためには、自動車メーカーと共同研究を進めていくことが、今後の展開に結び付くと思われる。
都市型農作物直売所におけるトレーサビリティシステムの環境構築 近畿大学
加島智子
近畿大学
江口知之
近年、農産物直売所の数はコンビニの店舗数を超え人気を得ている。しかし、農家にとって課題も多い。生産者の高齢化、安い輸入農産物、安心・安全の問題など国内農業への影響を懸念する声もある。よって、これらの問題を解決するため農業経営の安定、農作物の安定供給、農作物の価値の向上という3つの目標を掲げ、 ITを用いて解決するための仕組みを構築した。まず、直売所におけるビジネスモデルの作成。次に農産物直売所のための情報発信システム(FIS: Farmers Information System)の構築。最後に業務用農産物の受発注システムである。これらを兵庫県の直売所に導入し、実験を行った。システム導入による売上の向上、直売所の作業の効率化、そして消費者に対して農作物への理解へ繋がったことが確認された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に農作物直売所において「正確な情報を知りたい」、「安心安全な食品を食べたい」「自慢の野菜を届けたい」という食べる側と作る側の要望に応えるためのトレーサビリティシステムの環境構築技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、カメラの設置場所、リアルタイム映像の困難性などの問題点や、web-siteで新規訪問者が増えたとあるが、どのような意見が多かったのかの分析をすすめるなどでの実用化が期待される。今後は、技術移転というよりはビジネスモデルとして広範囲に展開可能かの観点からの検討が期待される。
高精度異方性降伏関数の開発とプレス成形加工シミュレーターへの適用 近畿大学
上森武
近畿大学
江口知之
本研究では、高精度異方性降伏関数とそれを適用した有限要素法の開発を行った。高精度降伏関数は不変量をベースとした6次降伏関数で、従来の降伏関数よりも高精度に流動応力の方向依存性とr値の面内分布(塑性異方性)を再現し、汎用有限要素法ソフトウェアに組み込むことが完了した。これは当初の目標を100%達成した。更に、新アルゴリズムの開発により計算コストも従来の理論と比べて設定問題に依存するが、最大2倍ほどの低減も可能にした。今後は本降伏関数と開発したプログラムを商用プログラムとして早急に適用し、工業界での積極的な使用をソフトウェア会社に依頼する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に金属材料の塑性加工工程最適化を行うため、簡単な材料試験によりパラメータを決定できる高精度降伏関数と高精度バウシンガー効果の記述可能な高精度構成方程式を有限要素法に導入したソフト技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、従来、複雑なパラメータを必要とするプレス成形シミュレーションに入手しやすい試験データで解析を可能とする試みは計画通りに進み、研究開発の目的は達成し、残りの課題の解決しだいで、企業に技術移転可能な状況になっている点で早期実用化が期待される。
パーソナルフィットを実現する手袋用手型設計の自動化 広島県立総合技術研究所
横山詔常
本研究の最終目標は、個人の手形状計測から自動的にその人の手に適合する手型の設計手法を開発することにある。そのために、(1)手から手型へ自動変形するアルゴリズムの開発、(2)簡便な手計測寸法の開発を行った。(1)は、手の関節位置を手型に転写し、手型に手の骨格構造を対応付け、関節を中心とした手部の幅や長さなどの寸法、関節角度などを「変形ルール」とし定義した。計測した手寸法にこの変形ルールを適用し、個人の手型モデルを生成することができた。(2)は、デスクトップサイズの手形状計測装置を構成し簡便な計測を実現した。以上により、本課題の目標を達成することができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に手から手型への自動変形アルゴリズム技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願が行われていないが、移転を想定する企業が明確となっており、実用化が期待される。今後は、さらなる多くの形の手形、使用素材の検討、コスト、ユーザの評価などの範囲を広げた検証や、パーソナル手袋市場が採算のとれる広がりか等の確認を充分検討して、技術移転をより早く進めることが期待される。
歩留まり・コストモデルに基づくテスト容易化技術を用いた低コスト・高信頼LSI設計手法の開発 広島市立大学
市原英行
本課題では、テスト容易化設計法(LSIの故障部分をできるだけ容易に見つけることができる設計法)がLSIチップの設計・製造に与える影響(コストと利益)を見積もるためのモデルの構築に取り組んだ。実用的なモデルの構築に向けて、現在使用されている、そして、これらからの使用が期待される5つのテスト容易化設計手法の効果を表現できるモデルを提案した。これにより各テスト容易化設計手法の設計コストと利益を比較できるようになり、環境に応じて適切なテスト容易化設計を選択できることが可能となった。今後の展開として、さらに他のテスト容易化設計法への対応と、一般のLSI設計者が利用可能なテスト容易化設計法の選択システムの構築が挙げられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に市場での不良率を低く維持しながら、設計・製造コストを下げるための新しいLSI設計手法を開発する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、DFTを適用するための設計費用、LSI製造費用およびテスト時間の増大による追加設備投資なども合わせて評価するなどでの実用化が期待される。今後は、テスト品質(LSI製造費用)と市場品質の考え方の整合を図る検討が期待される。
知覚情報処理特性に基づいたヒューマン‐ビークルインタフェースの開発 広島市立大学
樋脇治
本研究課題では、ドライビングシミュレータを用いて自動車運転中の中心視と周辺視とで認識される視覚の特性に関する誘発脳電位の計測解析を行うことにより、自動車を安全快適に運転するための視覚環境について検討を行った。その結果、中心視よりも周辺視のほうが視覚認知に長い時間を要すること、走行中の視覚認知は静止状態よりも遅れること、視覚情報の頭頂連合野における処理は、周辺視では走行状態と静止状態とで差はないが、中心視では静止状態よりも走行状態のほうが処理時間が長くなることを見出した。今後、本研究課題で得られた自動車運転中の視覚情報処理特性に関する成果に基づいて、自動車の窓枠や車内の計器の配置等の検討を行なうことにより、安全快適な自動車の開発に応用展開する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、160kmに限定された解析が中心であるが、認識特性を明確化している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、限定された速度だけではなく、実用的な速度でのデータを蓄積し、自動車分野で、この知見を活用して安全システムへ適用するなど、実用化されることが望まれる。今後は、上記に加えて、人間工学的な観点を含めて展開されることが期待される。
船舶の緊急避難時における最適錨泊シミュレーターの開発 広島商船高等専門学校
笹健児
広島商船高等専門学校
長谷川尚道
本研究では船舶が錨泊している時に荒天に遭遇し、走錨するときの錨の土中抵抗を明らかとし、これまで考慮されていなかった錨、土質ごとの付加質量、減衰係数を用いた錨泊船のシミュレーターを完成させることを目標としている。平成23年度の研究では、錨水槽にて二種類の模型錨、二種類の土質、含水率を対象に引っぱり試験を行い、錨の変位と張力をビデオカメラおよびロードセルにて計測した。平成24年度の研究にて付加質量と減衰係数をデータ分析により求め、これらの係数を開発した数値モデルに組み込むことにより錨泊シミュレーターを完成させたい。 当初目標とした成果が得られていない。開発目標の精度で予報できるシステムが達成されておらず、中でも水中でのチェーンの挙動実験や、土質、錨、引張速度ごとの錨の挙動実験に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。
ICタグを活用した建設写真への情報付加システムの開発と維持管理への応用 広島大学
大久保孝昭
広島大学
伊藤勇喜
建設物にとっては、写真は重要な工事記録であるととともに、経年劣化を記録し、補修や改修などを含めた維持管理には必須の情報である。現在、建設工事においては工事途中で数多くの写真が撮影されているが、これらは単に工事品質の確認のために使用されており、維持管理段階まで活用されることはほとんどない。本研究では、構造物の建設途中や供用段階で撮影される写真に「後の維持管理に有益な情報」を付加するシステムを開発し、建設物の維持管理に写真の画像データと付加された情報を活用することを試みた。ICタグを活用した工事記録写真システムを試作し、実際の工事現場で実証実験を行い、本システム活用の見通しを得ることができ目標成果を達成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に構造物の建設途中や供用段階で撮影される写真に「後の維持管理に有益な情報」を付加するシステム技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、投入ICタグIDから施工時の写真情報を入手できるので維持管理の合理化、作成手間が不要、記録情報を見やすく調整できるなどの点での実用化のための検討が期待される。今後は、産学連携研究室を想定し、市販段階まで考えており、技術移転の可能性がある。情報デジタル化によって後の維持管理の活用で社会還元が期待される。
音響トモグラフィー法を利用した河川流量の自動計測システムの開発 広島大学
川西澄
広島大学
榧木高男
音響トモグラフィー法を利用して河川流量のリアルタイム計測を実現するためには、河川の両岸で記録されている音響データをデータ集中局に集めて処理する必要がある。本研究開発では無線LANブリッジ(最大伝送距離4km)により両岸で受信したデータをFTPサーバーに集めた後、FOMA網を利用してデータ処理局に転送処理し、この目標を達成した(30秒~1分間隔で受信した音響データの連続伝送に成功した)。さらに、一般の実務者が計測システムを運用できるように、システムパラメーターの設定および計測データを処理・解析できるアプリケーションプログラムを開発した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に音響トモグラフィー法を用いた河川音響トモグラフィーシステム(FATS)を開発し、これまで計測不可能であった河川の流量を自動連続計測する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、低コストであることや、汎用性の高い技術であり大地震などの異常時においてもフレキシブルな計測が可能という点などでの実用化が期待される。今後は、地方自治体や海外における異常監視システムや、河川流域の流量監視などに向けての採用が期待される。
人間のひらめきを模倣する認識処理のLSI化に向けた周波数マッピング連想処理アーキテクチャの開発 広島大学
小出哲士
広島大学
榧木高男
認識処理・人工知能システム・圧縮処理などの技術において、入力データとデータベースを比較して最類似データを検索する最小距離検索連想メモリが注目されている。本研究では距離情報を周波数領域に変換する周波数マッピング連想メモリを開発し、チップ試作後に調整可能な周波数・時間差を利用して検索を行うことにより、テクノロジのスケーリングや連想メモリのデータ数の増加に依存しない距離情報の表現を可能とした。開発した方式は、従来の電流マッピング方式より微細プロセスでの製造ばらつきにロバストであり、ディジタル方式よりも高速・低消費電力な検索が可能である。本研究で開発した最小ハミング距離検索周波数マッピング連想メモリでは、検索の高速化・低消費電力化と高信頼化を両立したLSI設計を実現することができた。特に、65nm CMOS技術での試作では、最短検索時間25ns、最大消費電力4.3mWであり、これまでに知られている従来方式より最短検索時間は80%以上、最大消費電力は95%以上削減し、実用時に重要となる検索範囲でのエラーフリーな検索を実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究で開発されたハミング距離/マンハッタン距離連想メモリの試作チップは、これまでに知られている従来方式と比較して最短検索時間が80%以上、最大消費電力が95%以上削減可能とする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、新しく開発したパスエンコーディング方式の有効性、製造ばらつきにロバストであること、および、実用時に重要となる範囲でのエラーフリーな検索が可能であることも検証されており、幅広い用途などでの実用化が望まれる。今後は、早期に技術移転を進められることにより、大きく社会還元されることが期待される。
筋感覚に基づく操縦反力制御システムに関する研究 広島大学
田中良幸
広島大学
榧木高男
真に人間と一体となって可動する操縦デバイスを実現するには、操作者の運動能力と微妙な感覚心理までを考慮する必要がある。そこで本課題では、操作者に所望の反力負荷を忠実に知覚させるための提示方法の確立を目指して、上肢姿勢と筋活動レベルに基づいて反力負荷をリアルタイムで調整する制御システムを開発した。そして、健常者による基礎実験を通じて、操縦者の運動負担の軽減を実現することを確認できた。今後は、リハビリテーション支援装置や自動車など、対象とする産業機器を明確にして、提案手法の実応用を目指していきたい。 当初目標とした成果が得られていない。中でも予定していたいくつかの目標が達成されていない。具体的な成果が挙げられておらず、新規特許出願などの検討もなされていない。また、作成した小型操縦デバイスについても、当初の課題である「最大反力15Nを誤差1%内で提示できる」という条件を満たすことが証明されていないなどの点での技術的検討や評価が必要である。今後は、次のステップへ進むための技術的課題も不明なままに残されているなどを踏まえて研究方針を見直しされることが望まれる。
「問題を作ることによる学習」の協調化のためのオンラインモニタリング機能 広島大学
平嶋宗
広島大学
榧木高男
研究責任者らは、これまでに単文カードを組み合わせることで学習者が問題を作成し、それをシステムが診断・フィードバックを行うといったソフトウェアを用いたインタラクティブな作問学習の支援システムを実現し、実践的な運用も行ってきた。本研究では、これまでデスクトップ型パーソナルコンピュータによってスタンドアロン型で運用してきたこのシステムを、(1)メディアタブレット化、することで、通常教室での運用を可能にした。また、通常教室で運用することで、従来のシステムに比べて(2)協調的な活動を生まれやすくなることを確認した。さらに、(3)サーバクライアント方式、で本システムを実現することで、(4)リアルタイムモニタリング機能の実現、までを行っている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に問題を作ることによる学習」を支援するソフトウェアを開発しておりサーバクライアント化、メディアタブレット化に適用する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、問題作りの協調活動化については、学習者の話し合いは実現しているが、グループで作問を行うところまでは到達しておらず、実証を進めながら実用化が期待される。今後、この研究は、義務教育である小学校の教育を対象にしているので、応用展開された場合は、社会還元に導かれる可能性は高いと思われる。
キーワード群構造に基づくノートとしての知識記録とWeb文書からの吸収によるその拡張を支援するモバイルシステムの開発 創価大学
舟生日出男
広島大学
榧木高男
本研究開発の目標は、(1)日本語の文(小学校理科)を簡便に記述するための日本語コンセプトマップ記法の開発、および、(2)日本語コンセプトマップ記法に基づく、コンセプトマップ記述支援システムの開発、(3)Web文書のコンセプトマップ自動変換システムの開発、であった。(1)については、対象範囲を限定し、キーワード群と動詞群の同定、および、日本語コンセプトマップの蓄積、動詞ノードや補語リンクのカテゴライズと記法の整理を終えた。(2)についても、Android Tablet上で利用可能なシステムの開発を終えた。しかしながら、(3)については開発に至っていない。引き続き開発を進め、自動変換システムの完成を目指す。
当初目標とした成果が得られていない。中でも本申請では、学習者がノートとしてコンセプトマップの形式で知識を記録し、Web文書をコンセプトマップに知識を取り込んで自身の知識を拡張するモバイルシステムの開発に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。さらに、必要とされる日本語コンセプトマップの蓄積・記法開発についても、有用性のための評価やシステム化のための見通しなど、その後の段階に進むための成果が十分に得られておらず、得られた成果の検証も不十分と思われる。
衛星画像を用いた自動高精度水深マッピングシステムの開発 山口大学
神野有生
山口大学
田口岳志
浅水域の水深情報は、沿岸開発・運輸・漁業・環境管理などの人間活動の安全性・効率性のために重要な基盤情報であるが、既存の測深技術が高コストであるため、一般に不足している。そこで本研究開発は、近年低価格化しているマルチスペクトル衛星画像を用いて、浅水域の高精度水深マップを自動作成するシステムの開発(実装およびテスト)を目標とした。研究開発の結果、目標が完全に達成され、実用的で高精度なシステムが得られた。開発したシステムは、衛星画像による水深マッピングの実用性を飛躍的に高めるものであるため、研究責任者らは、本システムによる水深マッピングの知財化・事業化を計画中であり、水深情報の整備を通じて冒頭に挙げた各種活動の発展に寄与したいと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に浅水域水深自動マッピング技術(ソフト)の開発は達成され、従来法では精度の確保が困難であった浅水域暗部での水深推定のアルゴリズム改良した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、懸案である雲の影響の有無を容易に判断することや、浅水域水深が空間的かつ時間的(干潮・満潮時)に詳細に把握することが出来れば、浅水域の利用向上、利用の利便性などの社会還元をもたらす方向などでの実用化が期待される。今後は、複数の衛星画像を利用したマッピングによる水深地図を作製できるようにするなど、容易な衛星画像利用ソフトに完成度を高めることが期待される。
ナノサイズのプラズモン共振器を用いた微小屈折率変動計測手法の開発 阿南工業高等専門学校
岡本浩行
阿南工業高等専門学校
西岡守
ナノサイズのプラズモン共振器を用いて屈折率の微小変動(1×10^-7程度)を計測するシステムを構築することが本研究の目的である。一辺が2μmの正方形のプラズモン共振器を用いて1×10^-4程度の屈折率変動の検出が可能であることを確認した。正方形のプラズモン共振器を用いる場合、1×10^-6程度の屈折率変動の検出が可能であることをシミュレーションにより確認できているため、今後は正方形のプラズモン共振器を用いて1×10^-6程度の屈折率変動の検出ができることを確認する予定である。また1×10^-7程度の屈折率変動が検出可能な感度を持ち、容易に作製できるプラズモン共振器構造の検討、評価を実施する予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも表面プラズモンポラリトンを利用したプラズモン共振器を用いることで、屈折率変動の計測技術に関しては評価できる。一方、当初の目標は~1×10^-7の屈折率変化の検知であるが、実際は3桁低い10^-4であり更なる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
LSIの遅延故障検出用テスト容易化設計手法の開発 徳島大学
四柳浩之
徳島大学
新居勉
本研究では、LSIチップ内部およびLSIチップ間接続で発生する遅延故障を検出するためのテスト容易化設計回路の開発を行った。遅延故障検出用テスト容易化回路として、観測対象の信号に対して遅延付加・検出する回路を従来のバウンダリスキャン方式に組み込む形で実装する新たな回路を設計した。 遅延付加・検出する経路を選択する制御回路について2種類設計し、遅延故障の検査対象経路の選択方法についても検討した。設計したテスト容易化回路をCMOS 0.18umプロセスでIC試作を行い、遅延付加・検出回路の評価を行った。今後、より大きな検査対象回路に対して、複数経路を同時検査可能とするなど遅延故障検査を効率よく行うための改良が求められる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にLSIチップ内部およびLSIチップ間接続で発生する遅延故障を検出するためのテスト容易化設計技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、テスト時間、テストコスト面や製品信頼性の評価をはじめとして次のステップに進めるための課題の明確化が必要である。今後、具体的な応用対象、課題等を明確にし、LSI関連企業等との研究開発で実用化を加速することが望まれる。
生活関連機器からの情報をクラウドに送信する通信モジュールの開発 香川大学
垂水浩幸
香川大学
倉増敬三郎
家電製品や健康機器に挿入する小型モジュールを開発し、それぞれの機器からの情報をLNSと呼ぶクラウドサービスに送信する。送信されたデータは、独自のサービスとして運用するだけでなく、facebook等のSNSと連携し、機器からのメッセージを特定の相手にのみ通知する。本研究開発ではWi-Fi通信機能をもったSDカードであるFluCardという製品に改良を加えて用い、機器からLNSへの通信機能を実現する。通信データのフォーマットにはJPEGで用いられるEXIFを用い、家電製品メーカ等の開発工数を削減させ、LNS及びSNSとの連携を容易にすることができる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にネットワーク対応されていない様々な機器をマイクロブログサーバに通信させるためSDカードインタフェースと無線通信機能を持つマイクロコンピュータにより、データを送信する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、すでに事業会社との討議を開始している等、産学共同による新事業創出へ向けた取り組みが積極的になされており実用化が期待される。今後は、開発した通信モジュールは、情報家電とインターネットとの無線ブリッジとして広範囲の活用が期待される。
重度肢体不自由者の特性を考慮した視線入力インタフェースシステムの開発 愛媛大学
山本智規
愛媛大学
亀岡啓
本研究は、重度肢体不自由者が使用しやすい視線入力インタフェースシステムの開発を目指したものである。提案するシステムは、安価に導入できるカメラを用いて視線を検出する。このため、まず画像処理技術を用いて人間の視線がどの方向を向いているのかを取得するシステムを構築する必要がある。 実施期間において、視線移動特性を明らかにするため、PCの画面上を移動する図形を、頭部を動かさず目だけで追ってもらい、その様子を動画データとして記録した。取得した動画データをもとに、目の部分を特定し、視線方向の推定を行い、さらに、推定された視線方向をもとに、PCの画面上でカーソル(矢印)を動かす アルゴリズムを実装した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも提案されたシステムにおいて、画像処理による視線方向検出についての基本的なアルゴリズムを明確とした技術に関しては評価できる。一方、問題になった点や今後の課題などは、先行研究や医療従事者の話から予想される内容であると思われ、課題解決方針の検討も含めた実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術移転に向けた着実な課題解決の継続が望まれる。
頭部MRI検査に基づく高齢者の運転適性評価用DBに関する調査 高知工科大学
朴啓彰
高知工科大学
和田仁
本研究によって、頭部MRI検査で評価される高齢者の白質病変と交通事故との有意の関連性が認められ、脳MRIデータに基づく高齢者の運転適性評価用DBの有用性が示された。従来はドライバー属性として年齢が唯一であったが、脳組織変化が新たなドライバー属性として評価され、DBを利用することで交通安全対策が飛躍的に向上することが期待される。DBは、車両開発・道路や情報提示のインフラ設計開発・運転指導指針・運転免許更新等のガイドラインに応用可能と考えられ、今後は自動車メーカ・運転機器開発メーカ・損保会社などとの共同研究の可能性を追求する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高齢ドライバーの運転適性を脳医学・科学的に定量性かつ客観性を以て評価するためのモデルデータベース(DB)の構築に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、交通事故誘発要因の一つが明らかになったことからなどでの実用化が期待される。今後は、MRIによる測定が運転能力の評価につながること、脳萎縮と運転能力の成果について、損害保険等に活用可能としているが、社会的受容性や倫理的な問題への対応についても検討することが望まれる。
動作合成技術を用いた伝統芸能の習得・継承のための能アニメーション制作システムの開発 九州工業大学
尾下真樹
九州工業大学
荻原康幸
本研究課題では、これまでに研究代表者が開発した動作合成技術の拡張(能の動作への対応)、能アニメーション制作システムの開発、演技者・舞台モデルデータの作成と組み込み、能の所作の動作データのモーションキャプチャと組み込み、開発したシステムの評価実験、などを目標として取り組み、予定通りの成果を挙げることができた。今回の研究開発の結果、アニメーション制作に関する専門知識を持たない一般の利用者であっても、単位動作である所作の動作データを組み合わせて簡単に能の舞のアニメーションを作成することができる、能アニメーション制作システムが実現できた。今後は、開発したシステムの実用化に向けた活動を行っていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に動作合成技術を応用し、日本の伝統芸能である能のアニメーションを簡単に制作できるシステム技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、舞の基本単位である所作をデータベース化して予め準備し、それらの動作を合成できるシステムを改良・開発している。その結果、既存のアニメーションソフトによる能の立ち振る舞いのアニメーションに比べ、格段に作成時間が短縮されている。学会発表も行われているが、研究上の知見が中心であり、技術移転の観点からの活動(特許出願や技術公開、デモンストレーション)はほとんどない、技術移転までのステップが示されておらず、実評価に向けての検討が望まれる。今後は、本テーマは社会還元が大いに期待されるテーマであるだけに、そのための取り組みを活発にする計画が望まれる。
マイクロマシンの構造-流体-静電界相互作用シミュレーションのためのインターネット並列計算プログラムの開発 九州工業大学
石原大輔
九州工業大学
山崎博範
本研究開発では、マイクロマシンの構造‐流体‐静電界相互作用シミュレーションのためのインターネット並列計算プログラムの開発を行った。一体型解法と分離型解法を組み合わせた構造‐流体‐静電界相互作用解析アルゴリズムを開発し、領域分割法に基づき、一体型解法の有限要素解析プログラムを並列化した。インターネット上に分散配置されたPCにおいて、本並列計算プログラムが高い並列化効率を有することを実証した。さらに静電気力によって駆動される空気中のマイクロ片持ち梁において、本並列計算プログラムの必要性と高い解析精度を実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に構造-流体相互作用の一体型解析については、インターネット環境での並列化プログラムを開発し、簡単なモデルでは実験との精度誤差5%以内という目標をほぼ達成している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、現状の技術的課題として、1)マイクロマシン解析の問題依存性、2)ジョブスケジューリング機能、3)GUI、が挙げられており、これらの解決のための研究推進と伴った実用化が期待される。今後マイクロマシン開発は増えていくと予想されるので開発の効率化を支えるツールになるものと期待される。
マルチエージェント技術を基盤とした知的ジョブマッチング支援システムに関する研究 九州大学
峯恒憲
本申請課題の目標は、従来の就労支援システムの課題を解決する新規機能の開発であり、そのため、 1)マイページ機能の導入と、求職者、求人企業側の双方からの双方向検索機能、2)検索項目を固定項目と調整可能項目の2種類に分け、調整可能項目に関して、マッチングが成立した相手と調整・交渉を行う機能、3)求職者と求人企業間での相互のやり取り内容を利用し、それを次回の検索結果のランキングに利用する、ランキング学習機能。の3つの機能開発を行った。1)2)については、実際の就労支援システムに導入されることが決まり、3)については、実際のシステムでの実証実験(利用ログ解析)を行い、効果の確認後に、利用者に対して利用の提案を行うことが合意された。以上の結果から、本申請課題の目標は達成された。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にジョブマッチングにおいてミスマッチを防ぐために双方向検索機能、フィードバック機能、およびコーディネータ機能の実装を目指した技術に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、実際に自治体でのシステム採用が決定しており、技術移転されていることは高く評価される。今後、より一層ジョブマッチングシステムの精緻化を期待しつつ、別の分野への技術移転も期待される。
触感表現を用いたハプティックアイコンの開発 九州大学
富松潔
九州大学
猿渡映子
研究開発実施期間に触感表現アクチュエータによる触感刺激をユーザに提示して、ユーザの主観評価によるユーザビリティテストツールを開発しユーザテストを実施した。主観評価に用いる評価語には日本語オノマトペを用いた。関連研究、先行研究を参考にして、つるつる、すべすべ、さらさら、ざわざわなどの触覚オノマトペを選定した。選定したオノマトペに対して摩擦感、堅さ感や粘性感など触覚の印象に関する主要な評価軸を設定して、触覚オノマトペ分布マップを作成しているところである。総括するとvibrotactileアクチュエータによる触感表現で提示する触感記号を、触覚オノマトペ分布マップにおける位置に対応づけるようなユーザテスティングを繰返し行うことができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも日本語オノマトペを抽出・選定し、触覚感の主観軸を用いて触覚オノマトペ分布マップを作製した成果に関しては評価できる。一方、触感記号10個以上の開発とした目標は達成されておらず、識別率の向上と合わせて技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、まだ基礎的な研究が必要だと思われるが、臨場感通信や視覚障害者などに対する感覚代行等への展開が考えられ、研究の継続が望まれる。
浅海域3Dマッピング構想(地域活性化と地球科学研究・防災へのアプローチ) 九州大学
清川昌一
九州大学
石盛英樹
鬼界カルデラの海底地形図と船上におけるGPSを組み合わせたシステムの構築を行い、浅海域3Dマッピングを試みた。1)地図データが大きすぎ、コンピューター上(グーグルマップ)にのせる事が難解であった。現在のところ細切れで貼り付けた試行版を作っている。2)船上でのGPSの位置関係が微妙にずれる。魚探による深さと地図上での深さの対応がつきづらく、もうすこし高性能のGPSが必要である。3)GPSがうまく入るときは海底地形図上を船が運航でき、地形図との対応が可能であり、通常の海図よりも、移動している場所が理解でき、非常にわかりやすい。浅海調査・漁業に有用であると思われる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも浅海域3Dマッピングシステムによって、身近な海底内部浅海部の海底地形をわかりやすく・簡単に・すばやくディスプレーできるシステム技術に関しては評価できる。一方、完了報告書によれば、地図データ量の大きさとコンピュータ処理速度の問題、計測データの歪みの問題などから、当初の目標は達成されておらず技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
トピックドリフトのない文書検索法の研究開発 九州大学
廣川佐千男
九州大学
前田真
Googleのランキング手法を文書と単語について応用したブートストラップ法では、単語と文書の重要度を相互に伝搬させ、大局的な重要度を求める。しかし、結果が検索語から乖離する「トピックドリフト」を防ぐ本質的な方法が知られていない。本研究では、反復過程で制約を設けることでこれを防ぐ方式を実現
した。倒産情報文書群を対象として、人間が選んだ倒産理由を正解として、個別の倒産理由や一般的な倒産理由を、反復過程の制約を調整することで、求めることができることを実証した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にGoogleのランキング手法を、単語集合と文書集合を相互に求める過程において、単語数を制約することでトピックドリフトを防ぐ技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の研究計画は具体的かつ的確であり、実用化および企業化した場合の有用性も検討し、今後の実証実験に用いるデータの種類が計画されている点などでの実用化が期待される。
SNSによる協調学習を支援するユビキタスシステムの構築 九州大学
殷成久
九州大学
前田真
本研究の目的は、学習者中心の考え方に立ち、知識を検索できるような検索エンジンを構築し、問題の解決、知識アウェアネスなどを支援するユビキタス協調学習環境をデザインし、システムを開発するものである。2011年9月に北京師範大学で頼みごとの難しさと人間関係の近さの相関を調べていた。以下のようなパターンを見つけました。
1) 親しい人に助けを求めやすい。
2) 簡単なことなら助けを求めやすい。
その調査結果を基にして、ユビキタスネットワーク技術を用い、システムをデザインし、開発を行った。本研究成果はWMUTE2012国際会議で発表した。今後システムを公開し、実際に使ってもらう予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも比較的信頼性が担保されるSNSによる協調学習を支援するユビキタスシステム技術に関しては評価できる。一方、申請時には、「学習者行動履歴やプロファイルを参照し、学習者の状況(興味・経験・知識レベルなどの個人情報)に応じて、知識に気づかせ好奇心を触発する。」協調学習支援システムの開発を掲げているので、今後これに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
脳機能を模倣した最適解探索アルゴリズム・デバイスの開発 九州大学
手老篤史
九州大学
前田真
最短経路解の探索アルゴリズムはカーナビやインターネットのルーティング問題だけではなく、組み合わせ最適化問題にも応用されるので重要である。一方、粘菌は内部に輸送ネットワークを持ち、輸送量に応じて伝導率を変化させる。この粘菌が迷路を解くという実験結果があり、我々はこれまでにこの現象から新しい最短経路探索アルゴリズムを抽出した。本手法は正解の解が見つかることから高い有用性を持つと予想される。本研究ではこれまで問題点であった計算時間の短縮のために、アルゴリズムの改良やメモリスタを用いた専用デバイス開発の理論研究を行う。 当初目標とした成果が得られていない。達成度が具体的・定量的に報告されておらず、従来手法との比較においても優位性が不明確である。また、技術移転・特許に関して記載がなく、今後の企業化(あるいは産学共同研究、社会還元など)に関して期待できる内容が見当たらない。今後は、研究開発内容を再検討し、デバイスの開発に結びつくようなモデル(アルゴリズム)を開発・検証されることが望まれる。
条件駆動型背景モデリングに基づく高性能かつ低コストな物体検出技術 九州大学
島田敬士
九州大学
前田真
定点カメラ映像内に出現した物体などを検出する技術として、背景モデリングに基づく手法が頻繁に利用される。先行技術には、高性能化を目指すと背景モデルで表現する情報量が増大し、実現するためのコストも増大してしまうという問題があった。これに対して本研究課題では、事例ベース背景モデリングと呼ばれるフレームワークを利用することで、モデル化される情報とそのモデルを利用する条件とを適切に分離した条件駆動型背景モデリングを実現し、高性能かつ低コストな物体検出技術を確立する。4つの条件駆動型背景モデルの設計を行い、典型的な8シーンについて評価したところ、当初目標値と同程度の検出率と目標値以上のコスト削減が実現できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に定点カメラ映像内に出現した物体などを検出する技術として、事例ベース背景モデリングと呼ばれるフレームワークを利用する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、現在よりも後に観測される未来の情報を利用して現在の観測に対する背景推定性能を高める新しいアルゴリズムを開発しており実用化が期待される。今後は、研究成果が一部応用展開できるならば、社会還元に導かれる可能性がある。
全有機多機能集積型マルチモードファイバーセンサーの開発 九州大学
興雄司
九州大学
坪内寛
本研究で利用される高精度ディスペンスによる導波路作製において初めて、100umを大きく下回った描画幅を確認でき、スペクトル幅も 0.07nmまで狭帯域化することに成功した。最大の問題点であった、ノズルサイズを20~40μmにすることで、これまで利用してきた粘度や描画圧が大きく変わるのみならず、ノズル先端の汚れを除去する洗浄プロセスが重要であることが今回初めて明らかになった。これらを最適化した結果、内径20μmノズルで20μm幅の描画に初めて成功した。これを利用し、0.25~0.5mm直径の光ファイバー上に光導波路を展開する3D精細描画によるファイバー上センサーの作製を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にレーザーの狭帯域化を行い、スペクトル幅を0.05nmと同等まで引き下げるという目標は達成、その後のねじりセンサーについて技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、Whisper Gallery Modeリングレーザーの作製などを計画、また、企業との共同研究を実施中で、成果の一部を含む色素レーザーの描画技術に関して技術移転が開始されるなどなどでの早期実用化が期待される。今後は、多層膜形成や多層スタッキングなどさらに複雑な製膜技術や、用途としての各種センサー分野への拡大が期待される。
非可換構造を用いた次世代暗号の設計と解析 財団法人九州先端科学技術研究所
安田貴徳
(財)九州先端科学技術研究所
坂本好夫
量子コンピュータに耐性を持つ公開鍵暗号として期待されている多変数多項式公開鍵暗号(MPKC)はRSA暗号に比べて鍵長が大きくなるという欠点を持っている。この研究は複雑な代数構造を提供する非可換環をMPKCに導入することで、安全性を保ったまま鍵長を小さくすることが目的であった。この研究の結果、MPKCの署名方式Rainbowに対し、非可換環を用いた新方式を提案し、従来のものに比べて秘密鍵長を約1/5に縮めることに成功した。今後はさらなる鍵長削減を目指し、今回鍵長削減に寄与した非可換環の特性を抽出し、その特性を効果的に発揮する新方式の開発を行うつもりである。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも多変数公開鍵暗号のRAINBOWの改良方式による暗号方式、著名方式により従来の方式に比べ秘密鍵長を1/5に削減できた点については評価できる。一方、署名作成の効率を35%改善されているが、当初目標である1024ビットRSA署名方式の鍵長の10倍未満までには至らなかった点や国際会議において新方式を提案するに至らずに終っている点など技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。技術移転の可能性については、改良ということで受け入れられる可能性もあり、引き続き技術的検討を推進されることが望まれる。
布内での液体拡散シミュレーションと現実環境の一致によるものづくり支援に関する研究 財団法人九州先端科学技術研究所
森本有紀
(財)九州先端科学技術研究所
坂本好夫
本研究では、染料が布に広がる様子を撮影したビデオから、染色のビジュアルシミュレーションに必要なパラメータを抽出し、シミュレーションと現実の環境を一致させることによって、実際の染色シミュレーションに応用する目標で研究開発を行った。達成度としては、実験方法や実験環境の構築などに予定以上の労力を要し、また全体に対して見積もっていたエフォートが少なかったため、50%程度の達成度であった。しかし今後の研究開発の重要な基礎となる部分を達成することができた。染色のビジュアルシミュレーションの技術を現実の染色シミュレーションに役立てる研究を続ける。 当初目標とした成果が得られていない。中でも実際の液体と繊維を用いた染料の浸透映像から、計算に必要なパラメータを自動的に計算し、現実の染色にフィードバックできるシミュレーションの枠組みの提案・検証を行う計画に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後の研究開発計画について具体的に検討されてはいるが、現状では技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性は低いと思われる。
高ダイナミックレンジセンサを用いた監視システムのための画像処理技術の開発 北九州市立大学
奥田正浩
(財)北九州産業学術推進機構
米倉英彦

イメージセンサよりも広い輝度範囲をもつシーンを白飛び、黒つぶれすることなく記録するには、高いダイナミックレンジを持つセンサが必要である。このセンサから得られる高ダイナミックレンジ画像を、局所コントラストを失うことなく現行の低ダイナミックレンジ画像に変換するトーンマッピング技術を考案し、その高速化を行った。本手法の特徴は暗所から明所までの全輝度域で高いコントラストが得られることである。従来の手法よりも高速で局所的コントラストが大幅に向上するため、監視カメラや防犯カメラへの応用を陽に意識したトーンマッピングとなっている。またそのトーンマッピング手法に基づく画像符号化を新たに提案している。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高ダイナミックレンジ画像を、局所コントラストを失うことなく現行の低ダイナミックレンジ画像に変換するトーンマッピング技術技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、画質向上の提示や、処理の高速化が達成されたことにより、産学共同の可能性は高まったと考えられ、監視や自動車の安全対策などでの実用化が期待される。今後は、符号化の更なる高速化について検討を行うことが期待される。
数値解析を用いた熱環境に配慮したまちづくりのための行政支援ツールの開発 佐賀大学
中大窪千晶
佐賀大学
下崎光明
本研究は、都市部の熱環境問題を対象に、行政実務者が、建物の配置や材料の変更、植栽などの熱環境緩和策を、数値解析を用いて定量的な予測・ 評価を行いながら、まちづくりを進めることが可能となるツールの開発を行った。具体的には、Webブラウザ上で対象となる街区を再現し、その表面温度分布を算出、可視化することが可能であるプリ・ポスト処理を開発した。表面温度分布の算出には、クラウド技術を用いており、Webブラウザを用いてアクセスすることで、一般のPCでも大規模の計算が可能となるほか、複数の人と情報の共有を行うことが可能となった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも熱環境に配慮したまちづくりを支援するために、行政実務者が数値解析を用いて対象街区の熱環境の予測評価を行えるツール技術に関しては評価できる。一方、社会還元については、波及を見込んだ市場性は考えにくく、社会環境の解析を要する場面では、所要コンテンツのひとつになると考えられるが、その機会は限定的で、必要に応じて権利を持つ大学等に委託するレベルではと思われる。今後は、例えばクラウド利用を想定した疑似試験やgoogle・earth利用における可視化上の課題等、実用性や事業性を図ることが望まれる。
静脈認証を用いた社会IDマネジメントの技術開発研究に関するフィージビリティスタディ:ケニア・ラオスの住民登録社会モデルをコアとしたアイデンティティ管理システムの開発 長崎大学
金子聰
住民登録社会モデルをコアとしたアイデンティティ管理システムの開発に関して、プロトタイプ開発を行い、同システムの実用検証試験をケニアの長崎大学アフリカ教育研究拠点のクワレ県、ならびにラオス人民民主共和国サバナケート県セポン郡のフィールドにおいて実施した。前者は、母子保健プログラムを受診する3歳以上5歳未満の母子約500組の指静脈認証情報の登録に成功し、その追跡調査においても、本人の確認・同定作業に問題は無く、本システムのIDとしての有用性が証明された。後者については約20村の村民約3500名の静脈認証登録を行い、その後の保健医療調査との連携を行った。以上の開発と実証試験より、住民登録社会モデルをコアとしたアイデンティティ管理システムの基礎開発が終了し、技術移転が可能な状況となった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に静脈認証を用いた社会アイデンティティ管理モデルのプロトタイプ・システムを開発し、ケニア・ラオスにおける試験運用を通じてその有用性を確認できている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との連携や、実証実験の実施国における応用サービスの拡大について具体的に検討されており、実用化が期待される。今後は、発展途上国での社会インフラの信頼性・利便性の向上が得られるだけでなく、日本社会についても応用が期待される。
外観検査のためのロバストかつ高速な画像照合アルゴリズムの開発 熊本大学
上瀧剛
熊本大学
松本泰彦
形状ベースのロバスト固有値分解テンプレートの基本アルゴリズムの検討を行い、プロトタイププログラムの作成およびシミュレーション画像および実画像での性能評価を実施した。シミュレーション評価では、回転精度においては従来の正規化相関法(NCC)では2.9[deg]、開発手法は0.03[deg]であった。位置ずれ精度においてはNCCでは0.12[pix]、開発手法は0.03[pixel]であった。実画像実験でも開発手法は回転精度0.057[deg]、位置ずれ精度0.10[pixel]となり目標精度を達成した。また、耐ロバスト性の評価として、ターゲットに遮蔽を加えた状態での性能評価を行った。その結果、対象物が1/3程度欠けていても開発手法が安定的に検出できることが分かった。さらに処理の高速化を目指してGPUによるFFT演算の高速化を図った。CPUの場合に比べて8倍の高速化が可能であることが分かった。これにより、目標の処理速度500[msec]以下を達成できる見通しを得た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に回転精度および位置ずれ精度ともに目標とする精度を達成しており、しかも対象物が1/3程度欠けていても開発手法が安定的に検出できる技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、工業部品等に対する実画像評価、処理の高速化、ならびにスケール変化への対応と技術課題も明確であり、今後は、既に企業とも共同研究を開始していることから、本研究成果の企業化が期待される。
3次元中性子トモグラフィを用いた炭素煤堆積非破壊計測法の確立 熊本大学
内村圭一
熊本大学
松本泰彦
ディーゼルエンジンから排出・堆積される炭素煤を試料の破壊なく計量するための3次元中性子トモグラフィ法の開発のための目標として、次の2点を挙げた。
(i)RTNR(Real Time Neutron Radiography)画像のコントラストおよびSN比の改善
(ii)新しい3次元中性子トモグラフィの提案
試料テストであるDPF(Diesel particulate Filter)のRTNR画像にOS-EM法のみを適用した再構成ではシェーディングアーチファクトが発生したのに対し、提案する後処理法による再構成結果ではアーチファクトを抑制した結果を得ることができた。しかし、コントラストは十分とはいえない。今後は、再構成に使用する画像枚数を増やすことなどにより、再構成画像のコントラストを上げて、精度向上を図る。
当初目標とした成果が得られていない。中でもディーゼルエンジンから排出・堆積される炭素煤を試料の破壊無く計量するための3次元中性子トモグラフィ装置の開発に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後は、RTNR画像のコントラストおよびSN比の改善については目標を達成できていると判断できる。しかし、新しい3次元中性子トモグラフィの提案については検討中である。
情報弱者に視点をおいた、手話要約技術を利活用した防災用情報表示システムの実用的開発並びに実践的構築研究 都城工業高等専門学校
上野純包
災害発生時に情報弱者に陥る聴覚障碍者らに対し、インターネット上に提供される地震情報を要約提供する「防災用情報表示システム」を開発した。本システムは聴覚障害者らの状況に応じメッセージ出力を可能とし、併せて震源地を示す画像の情報と安否情報などのフリーメッセージも出力可能とした。「第40回宮崎県耳の日記念大会」のデモ展示・検証協力の際のヒアリング・アンケートでは、多数の来場者が関心を示し好感触を得た。これらの意見要望を基に要約機能の向上とポータブル化への対応、及びシステム全体のコストダウンを図り研究開発及び構築検証を推進していく。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも災害弱者となる聴覚障碍者対し、ICT技術を利活用して緊急度の高い防災情報をインターネット等の情報網から得る技術に関しては評価できる。一方、その検証においてはやや物足りない点があり、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。社会的課題解決をビジネスにつなげていくためにも、今後の研究開発が大きく期待される。
不定形物に貼付された2次元コードの歪み補正および復号技術の開発 鹿児島大学
小野智司
鹿児島大学
遠矢良太郎
ゴミ袋などの不定形物に貼付され、非均一に歪んだ2次元コードを復号する技術を開発した。まず、歪みとオクルージョンを検出、補正することを目的として補助マーカを重畳した2次元コードを開発した。次に、ゴミ袋に貼付された2次元コードを検出する方式、および、補助線をもとに歪みを補正する方式を開発した。本方式は、ゴミ袋に複数の2次元コードが貼付されていても安定的に2次元コードの検出を行え、また、デブルーイン系列に基づく補助線を用いることでオクルージョン領域を特定することが可能である。また、2次元コードの歪みの量を定義し、開発した方式の有効範囲を明確化した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初目標にあった実用環境(ベルトコンベア上)での検証が、実験環境が整わず実施できていないが、実験室レベルでは当初目標を充分に達成している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、技術的課題として、ごみ袋の汚損に対する対処や、カメラの性能の問題が挙げられている。一方、一部企業との接触も開始されており、実用化が期待される。今後は、社会還元相手として廃棄物収集業、自治体を通して、物流業との連携も視野に入れることが期待される。

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