評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成24年1月公開 - 有機化学分野 評価結果一覧

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課題名称 所属機関 研究責任者 研究開発の概要 事後評価所見
超クリーン燃料製造のための新規硫化ルテニウム系脱硫触媒の開発室蘭工業大学神田康晴環境対策のため石油系燃料中の硫黄分のさらなる低減が必要であり、工業的に用いられているCoMo/Al2O3触媒よりも高活性な触媒の開発が望まれている。また、超深度脱硫を行うとオクタン価の高いオレフィンなどを同時に水素化してしまうため、燃料の品質が低下してしまう。したがって、新規の水素化脱硫(HDS)触媒に求められる性能としては高HDS活性かつ低水素化能がキーワードとなる。本課題では、硫化ルテニウム系触媒の調製法について詳細に検討し、著しく高いHDS活性かつ低水素化能が発現する条件を見出す。これによって、高性能な新規硫化ルテニウム系脱硫触媒を開発することを目的とした。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。工業的に使用されているCoMoP/Al2O3よりも高HDS活性で低水素化能を有する新規触媒を開発したH2Sを分解することができることを確認した。本研究開発により担持白金触媒に匹敵する性能が得られるよう改善することが明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からRuS2/SiO2系の触媒を基盤とした実用化研究に向けた実験展開の詳細検討が望まれる。
新しい抗インフルエンザ治療薬製造のための実用的化学合成法の開発室蘭工業大学中野博人タミフル耐性菌に有効な新しい抗インフルエンザ治療薬合成中間体である光学活性イソキヌクリジン誘導体を高光学純度で大量合成するための新しい合成方法を開発することを目的として、申請者が開発したβ-アミノアルコール塩型不斉有機分子触媒を用いる1,2-ジヒドロピリジン類とアクロレイン誘導体とのDiels-Alder反応を検討した。その結果、本触媒を用いた場合に、98%の化学収率と96%eeの優れた光学純度で目的のイソキヌクリジン誘導体が得られた。このことから、タミフル合成のための本触媒を用いるDA反応の有用性が明らかとなり、研究目的は十分達成できた。今後、さらに得られたイソキヌクリジン誘導体から多置換タミフル誘導体への変換を検討したい。タミフル合成中間体を高い収率で生産できる見通しを得た。作製した有機触媒の触媒能について、より詳細に検討することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
セルロースを用いた環境調和型高吸水性高分子の開発とその性能制御苫小牧工業高等専門学校甲野裕之セルロースにポリカルボン酸無水物を作用して得られる新規高吸水高分子(SAP)は生分解性を示すだけでなく、最大吸水量1150倍、吸水速度56g/sec/g-polymer、保水率85%/日と既存ポリアクリル酸系SAPよりも極めて優れた性能を有することが明らかとなった。また各物性値は原料仕込比、溶媒等によって制御可能であり、当初の目的は達成できた。新たな課題は電解質水溶液に対する吸水性能の向上、生分解速度の抑制と制御が挙げられる。セルロースSAPは既存代替品だけでなく、生分解性の特徴を生かし土壌保水剤等の園芸・土木分野に汚染の心配なく適用できることから、技術移転の可能性は極めて高い。吸水性・保水性の改善について期待以上の成果が得られている。50%と高い生分解性を示すことができた。本研究開発により工業化を見据えた開発をする必要があり、計画段階からコスト―性能バランスを考慮しておくことで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
医薬等合成原料アルケン類の高効率合成法の開発北海道大学大熊毅本課題は、将来に亘って医薬、香料等として使用が期待される(Z)-アルケンおよび末端アルケンを効率的に供給する方法の開発を目指すものである。研究者独自の「パラジウム ナノ粒子と水素化ホウ素化合物」から成る触媒を用い、各種内部アルキン、末端アルキンを部分水素化し、対応する(Z)-アルケンを92%-99%以上、末端アルケンを94%-98%の収率で合成することに成功した。また、いずれの場合も、アルキンの1万分の1-20万分の1当量の触媒量で反応が完結した。実用化可能な極めて高い反応性と収率でアルケンが得られることがわかった。今後、化学系企業と協力し、触媒の試薬としての販売と、本部分水素化を用いる医薬品や香料原料の合成に向けた検討を行う予定である。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。均一系ナノ粒子Pd(NPs)-(n-C4H9)4NBH4 系触媒を用いて2置換アルキンのz-1、2-二置換アルケンへの選択的水素化が達成できた。アルキンの部分水素化が完全に達成されている。
ZnOと有機半導体の複合デバイス開発のための界面構造精密評価岩手大学吉本則之有機半導体pn接合を用いた有機薄膜太陽電池は、バンドギャップが調節可能で、塗布プロセスで作製可能など、シリコン太陽電池にはない魅力的な特徴を持っている。しかしながら、有機半導体材料には安定なn型半導体が少ないという問題がある。そこで、n型半導体としてZnOを用い、安定なハイブリッドダイオードを構築すること目指し、微細構造の調査と太陽電池の試作を行った。具体的には、放射光を使った2次元のGIXD(すれすれ入射X線回折)により、有機半導体層の構造を明らかにした。また、有機半導体とZnOの複合体による薄膜太陽電池を作製し、ZnOナノロッドが特性に及ぼす効果を明らかにした。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。ZnOと有機半導体のハイブリッド構造を利用した太陽電池の構造は新規性があり、溶液製膜により実際に太陽電池を試作して、エネルギー変換効率2%を得たことを確認した。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
軽量材料の摺動性を改善する潤滑剤の探索岩手大学南一郎軽量材料であるアルミニウム合金とチタン合金の摩擦と摩耗特性を向上する潤滑剤の開発と評価を行った。アルミニウム合金に対して極性油(合成エステル油と合成ポリエーテル油)はよい結果を与えたが無極性油(合成炭化水素油)は劣った。新規に開発したホスホニウム塩を摩擦・摩耗向上剤として極性油に加えるとアルミニウム合金に対する摩擦と摩耗特性を顕著に向上した。そのレベルは現行の潤滑剤とスチール材の組合せに匹敵するほどで、摩擦初期のなじみ期間の安定化と短縮が達成されれば実用化が期待される。しかしこれらの合成油と添加剤の組み合わせではチタン合金の摩擦・摩耗特性を向上することはできなかった。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。ホスニウム塩を極性油に加えるとアルミニウム合金に対する摩擦等は現行潤滑剤とスチールの組み合わせに匹敵する結果を導き、軽量金属材料の潤滑性向上を確認した。軽量材料として多用されているチタニウム合金の特性を精査、し他の添加物や油を試すことで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
もみ殻に由来する活性炭系灯油脱硫剤の開発秋田県立大学熊谷誠治市販灯油中のアルキルジベンゾチオフェン類を効率的に吸着除去できるもみ殻に由来する活性炭脱硫剤の開発を行った。固定床流通式脱硫試験において、活性炭充てん層容積の30倍の市販灯油中の4,6-ジメチルジベンゾチオフェン(4,6-DMDBT)の濃度を0.02 mass ppm-S以下にすることを目標とした。もみ殻中に存在するシリカを除去する工程を加えて、充てん密度が高く、マイクロ孔とメソ孔が発達した活性炭を製造した。その活性炭に対して流通式脱硫試験を実施した結果、充てん層容積の27倍の市販灯油を処理することできた。今後は、細孔構造の最適化を図ることにより、目標値への到達を目指す。さらに、製造工程の簡略化など量産化に関する研究も行う。当初予定したもみ殻活性炭を試作することには成功した。今後、合理的なシリカ除去プラントの開発することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
フェライトモーションコントロールによる余剰汚泥の減容化システムの開発秋田大学カビールムハムドゥル本研究は、下水処理場で大量に発生される余剰汚泥の減容化を目的とし、余剰汚泥のゼロ・エミッションを目指している。その手法として、余剰汚泥の一部にフェライト微粒子を加え、それに交流磁場を照射することで、フェライト粒子と活性汚泥の衝突を引き起こし、汚泥の殺菌・可溶化を行う。また、処理された汚泥を未処理の汚泥に酸化分解処理させることで汚泥の減容化を目指している。本手法は薬品類を使用せず、他の方法と比べて経済・環境面で優れている。汚泥の減容化が可能になると、例えば1%余剰汚泥の削減でも80億円の経費節約ができ、国内では各自治体にそのニーズが大きい。また、汚泥の脱水および非熱的殺菌法としても期待できる。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。フェライトモーションコントロールによる余剰汚泥の減容化は新規な技術であり、可能性が示されたことを確認した。
含硫黄シルセスキオキサン微粒子を基盤とした高屈折率透明樹脂の開発山形大学森秀晴本研究では、次世代の情報記録、表示、伝送を担う光技術分野の基盤材料の開拓を目指し、高屈折率(屈折率1.7以上)を有する含硫黄シルセスキオキサン微粒子の開発と高屈折率透明性樹脂の作成を試みた。具体的には、化学構造の異なる様々な新規含硫黄シルセスキオキサン微粒子を合成し、その屈折率を検討した。その結果、屈折率1.673を達成する事ができた。本材料は3nm以下のナノサイズを保持しつつ、良好な溶解性、分散性、熱安定性、製膜性を示した。残念ながら、屈折率に関しては目標値には届かなかったが、従来の最高値(屈折率1.58-1.59)を大きく上回ることから、この方向で材料設計・開発を推進する事で、近い将来には目的とする高屈折率透明樹脂の開発が可能になると思われる。従来の値よりも高い屈折率を持つ高硫黄含有ハイブリッド微粒子を合成し、上記微粒子を分散させた、透明で均一な薄膜、フィルムを作製した。本研究開発により、屈折率が目標値に届いておらず、硫黄成分の化学構造をさらに工夫すること。微粒子を分散させた薄板形成、この薄板の均一分散性と屈折率・透明性の相関評価を行うことが明確となった。今後、方法論自体を再検討することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
有機ポリマーに容易に分散する高屈折性ハイブリッドナノ粒子の開発山形大学落合文吾亜鉛と有機イオウ分子を用いるハイブリッドナノ粒子の作製方法を検討し、より簡便なワンポット法での合成を行うことで、以前の手法で得られたナノ粒子よりも溶解性に優れる粒子を得ることができた。また、アルキル基の長さを短くすることができたため、高屈折部位の割合を向上させることができた。 新たな高屈折性材料として、ジチオールと亜鉛塩の重縮合による有機-無機ハイブリッドポリマーの合成を行った。その結果、ナノ粒子では可溶性のものが得られなかった脂環式アミンをもちいた場合でも可溶性のポリマーを得ることができた。今後、これらの手法で得た粒子およびこれを配合した樹脂の屈折性の評価を行う。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。合成プロセスの簡便化を図り、ワンポット法の合成法を検討し、有機基を削減できたことを確認した。本研究開発により得られた材料の物性(屈折率、組成、粒子径、分散性、耐熱性等)評価をする必要がある。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
生体適合性および加工性に優れた医療用新規シロキサン系高分子材料の創製日本大学根本修克本研究では、高極性基の導入により分子間相互作用を増大させ、その結果、高いガラス転移温度(熱安定性)・強い親水性・接着性などの加工性を有するように設計されたポリ(テトラメチル-p-シルフェニレンシロキサン)誘導体を創製することを目標とした。 具体的には、ポリジメチルシロキサンと双性イオン性基を有するポリ(テトラメチル-p-シルフェニレンシロキサン)とのABA型ブロック共重合体の合成を行った。異なる組成のABA型ブロック共重合体の合成を行ったところ、得られたブロック共重合体は、-50~400℃の間に明確なガラス転移温度を示すことがなく溶融することがないことから高い熱安定性を示すことが明らかとなり、さらに、水のみに溶解する強い親水性を有しガラス基板上に安定な薄膜形成を行うことができることから接着性を有することが明らかとなった。当初計画したポリシロキサン系高分子の合成に成功した。今後、親水性から両親媒性分子の構築へと展開することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
テルペン類の新規オゾン化法による医薬品原料合成宇都宮大学葭田真昭テルペンを始めとする天然物をオゾン酸化して医薬品に誘導する方法が実験室ではよく用いられるが、オゾン酸化反応に付随する爆発の危険性からオゾン酸化は工業的な利用があまりなされていなかった。我々は高純度オゾンを液化二酸化炭素中で取り扱うことによって、燃焼の三要素のうち支燃物を除去した安全性の高い新規なオゾン酸化反応システムを開発した。本研究ではこの方法を松油のテルペンである(1S)-(-)-ピネンに適用し、医薬品合成原料となる(1R)-(+)-ノピノンを収率よく得た。酸素ラジカルにより容易に過酸化物を生成するエーテル類に対して、高純度オゾンとの反応では過酸化物の生成が抑制されることを明らかにした。炭酸ガス中のオゾン反応で、目的とする物質が純度だけでも確認できた。企業等に、本反応の可能性をくみ取らせるための強固なデータを取得することで、技術移転を含んだ新たな問題や技術目標の明確化が期待される。
絹フィブロインナノロッドの開発群馬大学河原豊液状絹の水溶液から、ほぼ均一なサブミクロン程度の太さ、数ミクロン程度の長さのロッドの調製に成功しているが、液状絹のロッド化(短繊維化)には、物理的なせん断力の作用が大きく影響することから様々なせん断流動条件を組み合わせてナノロッドの調製を試みる。本研究開発の最終目標は、絹フィブロインの水溶液から生体親和性を持つ結晶性の高強度のナノロッドを成形可能にして、将来、例えばコラーゲンを補強して新たな医用材料を創出することを期待している。当初目標の成果は未達と思われる。今回の研究成果を基に、今後技術移転へ繋げるべく、研究開発内容の見直しが必要である。ミクロンレベルのロッド(申請書記載)からナノロッドに展開できておらず、その条件を見出す基礎的な再検討や研究開発が望まれる。
ケイ素型光増感色素に基づくトリプル・ターゲティング型の癌治療薬の開発群馬大学堀内宏明光線力学療法に用いる薬剤の腫瘍への選択的集積性の向上を目指し、光応答性ドラッグデリバリーシステム(DDS)との複合化を目指した。光応答性DDSとして、光開裂性脂質から構成される光崩壊性リポソームを利用した。まず、光照射により親水性部位と疎水性部位が解離する光開裂性脂質を合成した。この脂質を用いてリポソームを形成させ、紫外光照射を行うことにより、リポソームの光崩壊が起こることを明らかにした。さらにこの光崩壊性リポソームに薬剤である光増感色素を内包させ、紫外光照射を行った結果、リポソームの光崩壊に伴い、光増感色素を放出させることに成功した。今後、この系を培養癌細胞に対して適用する予定である。光線力学療法による薬剤の腫瘍への選択的集積性の向上を目指し、光崩壊性リポソームとそれに光増感色素(ポルフィリン)を内包させ、目標達成の見通しを得た。本研究開発により動物モデルでの検証、さらなるDDSの改良することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
生理活性フッ素化シクロプロパンの効率的製造法の探索群馬大学網井秀樹新しい高活性ジフルオロシクロプロパン化試薬(BrCF2CO2Na)を用いた生理活性物質の合成研究への可能性を検討した。特に、ジフルオロシクロプロパン骨格を有する抗ガン剤合成の中間体の効率的合成に重きを置き、研究を進めた。環状アルケンのジフルオロシクロプロパン化反応は、従来法と比較して、より少ないカルベン源の使用量、および煩雑な実験操作を要さないなどの多くの利点が見られた。一方、エステル基などの電子求引基を有するアルケンについては触媒の使用など更なる検討を要するため、前提的なテーマ遂行の達成度は7割程度と考えている。今後は、新しい生理活性物質の探索を目指し、ジフルオロシクロプロパンの化合物ライブラリーを構築し、企業と協力して研究を進めたい。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。BrCF2CO2Naを電子不足アルケンとの反応や生理活性物質の合成を確認した。本研究開発により技術移転の観点から、もう少し適用条件に幅を持たせた検討が望まれる。
超音波と固体酸触媒を併用したセルロース糖化手法の開発埼玉大学関口和彦近年、バイオ燃料の利用からバイオエタノールに関する関心が高まる中、食料と競合しないとの理由から、植物や木材などのセルロースを糖化するプロセスが特に注目を集めている。本研究では、これらセルロースの糖化促進に関する基礎研究として、超音波と固体酸触媒を用いた結晶性セルロース試薬の糖化実験を行った。20 KHz の超音波を直接照射しながら各種固体酸触媒を調査した結果、固体酸触媒の酸強度、粒径を適切に選択してやれば、従来から用いられている硫酸糖化とほぼ同様の糖化率が得られる可能性が示唆された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の着想を確認するべく適正な実験が計画され、アイデイアを確認し、技術移転につながる可能性を高めた。ステップ毎の定量的目標を立てて整理し、実用化の課題をクリアーして欲しい。社会的に大きく期待される課題であり、遅滞なく確実に実用化を達成されるために、バイオエタノール発電の専門業者等と提携し確実なスケールアップを期待する。
植物由来熱硬化型エポキシ樹脂と木粉を複合化させた高強度バイオマスコンポジット材料の開発千葉工業大学柴田充弘石油系材料からの二酸化炭素排出増による地球温暖化を防止するため、バイオマス資源由来の材料が注目されている。既に製品化されたものとして、木粉とポリプロピレン (PP) からなる複合材料が人工木材等として使われているが、木粉と樹脂の密着性が劣り強度が低いこと及び生分解性がないなどの問題点があった。我々は、本研究課題において、目標としていたPP/木粉(50/50)複合材料よりも優れた力学物性をもつバイオマスコンポジット材料として木粉含量が60~70wt%のバイオマス由来エポキシ樹脂とタンニン酸からなる木粉複合材料を開発することに成功した。産業用素材として実用性ある高強度と生分解性を併せ持つバイオマスコンポジット材料をとしての製品化が期待される。目標としていた既存の複合木材より力学物性に優れた新規のバイオコンポジット材の開発の見通しを得た。複合材料について力学物性以外の熱特性や生分解性などの評価結果が明らかにすることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
ウィントシグナルを制御するナフトキノン化合物の開発と応用千葉大学石橋正己ウィントシグナルを制御する化合物は癌を始め幅広い分野への応用が期待されるが、その一つとして毛髪形成に深く関連し育毛剤の開発に有効な素材となる可能性がある。本研究ではウィントシグナルに作用する天然物の詳細なスクリーニングを行い活性成分の探索を行った。その結果、センダン科植物Xylocarpus granatumより2種の新規リモノイド成分を単離し、一方千葉市内の土壌サンプルから分離した放線菌株からは活性成分として大環状マクロラクタム化合物を単離した。これらのなかには選択的なTCF/βカテニン転写阻害作用をもつものも含まれていたため、有用なウィントシグナル阻害剤としての応用が期待される。グループならではの技術を駆使し、有望物質として、新規リモノイド化合物やラクタム化合物を同定できた点を強調したい。得られた化合物の生理活性を調べ、実用化への向けての試みを行ってほしい。
高い脱離能を持つ新規キレート樹脂の開発研究東京電機大学田中里美本研究では、重金属廃液より有価性の高い特定重金属を捕獲しこれを再利用する働き(省資源的用途)を持つ樹脂として金属捕獲部位をアミジノ尿素およびアミジノチオ尿素とする新規キレート樹脂を合成し、両樹脂のキレート樹脂特性を明らかにすることを目標とした。アミジノ尿素樹脂においてはCu2+および数種の有価金属に対して、省資源的観点からの利用を可能とする結果を得た。アミジノチオ尿素樹脂においては、達成度は対応するモノマーモデルの合成までであり、樹脂化には至っていないが、モノマーモデルを用いた検討から複数の有価金属に対して有効性を予測させる結果を得ている。今後、樹脂化およびキレート樹脂特性の測定を行い、この点を明らかにする。アミジノ尿素をアミジノチオ尿素に置き換えた樹脂開発の基礎となるモノマーモデルの合成に成功した。本研究開発により樹脂化までに必要な工程を明確に示すことで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
古紙パルプを材料とした新規ポリマー原材料の生産方法の開発東京農工大学梶田真也2-pyrone-4,6-dicarboxylic acid(PDC)は、バラ科の植物や低分子リグニン様化合物を分解する細菌の細胞内代謝物として知られており、ポリエステルやポリアミドなどのポリマーへ変換が可能な化合物である。現時点では、PDCは試薬等としても上市されてはおらず、また有機合成法も確立されていない。我々は、このPCDを原料とした機能性高分子を開発する前段として、各種微生物から取り出した遺伝子を組み合わせた遺伝子発現コンストラクトを用い、多様な単糖類を代謝することができる大腸菌でPDCを効率的に生産させる方法の開発を試みてきた。より具体的には、大腸菌内のシキミ酸合成経路にバイパスをつなげることで、糖類からのPDCへ向かう代謝経路を構築してきた。本研究では、大腸菌、糸状菌、その他土壌細菌等から取り出した複数の遺伝子をつなげた合成遺伝子コンストラクトを作製し、これを大腸菌へ導入することで、これまで以上に効率的なPDCの生産方法の確立をめざした。また、購入したグルコースを炭素源とするのではなく、より安価に入手可能な廃棄物由来の糖からのPDC生産を検討することにした。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目的の遺伝子組換え大腸菌を作製するためのプラスミドを作製することはできなかったが、既存のプラスミドにより作製を行い、PDCの生産実験を行うことができ、一部では、脱墨パルプの結晶性セルロースを定量し、単糖の組成が明らかにできた。このことを踏まえ、PDC合成遺伝子を組み込むためのベクターの作成。コストを下げたPDCの生産方法を本提案方法に留まらず広い視野に立ち確立してほしい。
新規ヘテロ環構築法を利用した有機半導体の開発東京農工大学高野一史有機半導体は、無機半導体と比較して省電力・省スペース・軽量化など多くの利点を持っているが、様々な問題で普及レベルまで至っていない。このような機能化芳香族ヘテロ環化合物を構築する場合、1)ベースとなる芳香族ヘテロ環化合物への直接機能化、2)機能化原料からのヘテロ環の構築、の2つの方法があるが、高価な原料を用いる必要があり、かつ現在の構築法では機能化に技術的な制限がある。 本技術は、安価なアルケニルアルデヒドとアリルアミンから調製したアルケニルイミンからピリジン誘導体が合成することができるため、従来法よりも安価にピリジン誘導体を合成する手法となることが期待できる。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。本申請の基盤として、アルケニルイミンの酸化的環化反応によるピリジン誘導体の新しい合成法を見出している点を確認した。本研究開発によりピリジン誘導体の新しい合成法が、試みた多環式芳香族ピリジン化合物の合成に適用できないことが判明し、目標達成に向けてこの技術課題をどのように克服していくかについて具体的計画を立てることが明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
近赤外吸収を示す水溶性ポルフィリン色素の開発慶應義塾大学前田千尋本研究課題を開始する前に私は従来にないポルフィリン合成法により近赤外吸収を示す新規拡張系ポルフィリンの開発に成功していた。本研究計画では、この拡張系ポルフィリンの展開を考え、以下の項目を重点的に取り上げる。・本拡張系ポルフィリンへの置換基導入法の探索・本拡張系ポルフィリンの置換基効果の調査・本拡張系ポルフィリンへの水溶性の付与以上3点のように、まずはマクロサイクルの反応性を調査することで、どのような置換基を導入できるかを明らかにする。これをもとに適切な反応を用いる事で、種々の置換基を導入し、その効果を調べる。また近赤外吸収色素は光線力学療法などへの応用が可能である事から、医療分野への展開を見据え水溶性の付与も目指した。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。共役系が広がることによる長波長シフトが観測されたことを確認した。今後上記点を含めて技術移転の観点から実用化を意識した研究方針と視点が望まれる。
複眼型揮発性有機化合物検出チップ素子の開発東京工業大学牧岡良和単数又は複数の発光性部位を有するアルキルホスホン酸エステル、アルキルホスホン酸エステル、シリカで構成され、VOC(Volatile Organic Compounds=揮発性有機化合物。常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質の総称。溶剤、燃料等として幅広く使用されているが、環境へ放出されると、健康被害等を引き起こす可能性がある。)を選択性良く検出する複数種のVOC検出素子を作製した。発光性部位を有するアルキルホスホン酸エステルは10種類程度、発光性部位を有するアルキルホスホン酸エステルを合成、置換アルキルホスホン酸エステル及びシリカからなるVOC検出素子を25種類作製し、その発光特性及びVOC接触時の発光特性の変化を評価した。複数の種類の検出素子の発光変化を利用するノルマルヘキサン、トルエン、メタノール、クロロホルム、酢酸エチル、アセトンの6種類のVOCの選択的検出法を開発した。当初のねらい通りの成果が得られることを検証できた。反応時間の問題が改善されると、実用化に近くなる。そのために、各化合物の検出濃度設定の客観性と、定量性能の可能性の評価が必要である。応答性改善することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
三次元ナノネットワークの形成によるプロトン伝導性高分子電解質膜の創製長岡技術科学大学山本祥正天然ゴム粒子表面へのスチレンのグラフト共重合をラテックスの状態で行った後、生成したポリスチレンをスルホン化することにより、粒径約1μmの天然ゴム粒子と厚さ数十nmのスルホン化ポリスチレンから成る三次元ナノネットワークを有するプロトン伝導性高分子電解質膜を調製した。得られたプロトン伝導性高分子電解質膜は、工業的に利用されているペルフルオロカーボンスルホン酸膜(Nafion117)のプロトン伝導度よりも高く、さらにスルホン化ポリスチレン単体のプロトン伝導度の約三倍となることを明らかにした。また、スルホン化における条件の最適化を行い、0.8 Nのクロロスルホン酸を用いることにより高いプロトン伝導度を低吸水率で達成されることを明らかにした。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。カーボンニュートラルな原料である天然ゴムをスルホン化ポリスチレンで修飾することで三次元ネットワークを形成してNafion117に匹敵する高いプロトン伝導性の材料を開発した点を確認した。本研究開発により固体高分子型燃料電池用の電解質膜への適応がこのままでは不可能であるため、物性の改善が急務となった。今後本研究の高分子膜を用いることで、現在汎用的に使用されているナフィオンや類似のフッ素膜の欠点を克服できることを実証することが重要である。
刺激応答性イオン液体ゲルを用いたナノインプリント用レジストの開発富山県工業技術センター横山義之本研究では、熱ナノインプリント法を用いてナノオーダーの微細パターンを形成でき、長期の乾燥・真空下でも任意の箇所の微細パターンを可逆的に変形できる温度応答性高分子「バイオレジスト」の開発を行った。その結果、熱ナノインプリント法で微細パターニングできる2種類の温度応答性高分子を合成し、50nm~30μmの微細パターンを転写することができた。さらに、狙った箇所の微細パターンを可逆的に変形させることができた。今後は、微細パターンの可逆的な変形を利用した応用技術(可変機能を有する光学素子やナノアクチュエーターなど)を開発し、本レジスト材料の企業へのPRに役立てていきたい。ナノパターンを熱により可逆的に変形させることのできるナノプリント用レジスト2種を見出した点に着目したい。可能な限り特許出願を考えていただき、技術移転が進むよう期待する。
漆への超微粒子配合による硬度および耐光性向上に関する研究石川県工業試験場梶井紀孝ナノオーダーの無機物粒子(粉)を漆(液)に分散良く混練する技術を基礎として、さらに複数種類の超微粒子を組み合わせることにより、従来の黒漆と比べて、漆塗膜を硬さ1.2倍、耐光性と耐摩耗性1.5倍(変化値が2/3)の性能向上を目標とした家具・内装材用漆の研究を行った。 研究の結果、従来の黒漆塗膜と比較して、ダイナミック硬度1.6倍、耐光性試験288時間での黒味の変化を1/2に低減した性能を有する漆(液)作製条件を見出すことができた。 今後は本研究データを基に、漆の製品利用に向けて、最適な漆塗装工程法の開発を目的とした企業との共同研究体制整備を図る。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。漆器は擦り傷の跡が目立ちやすく、直射日光による変色するという弱点を硬度の高い超微粒子の無機物(もしくは酸化物)を混入する方法でその配合割合を変えて着実にその効果を調べ上げ、かなりの性能向上に成功したことを確認した。本研究開発により、耐摩耗性を向上した漆液の製造方法が明確になった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
高温での耐貫通性に優れた合わせガラスの開発福井大学中根幸治高温でも耐貫通性が低下しない合わせガラスの開発を行うことを目的とした。現在の合わせガラス用中間膜には、可塑化ポリビニルブチラール(PVB)樹脂が用いられている。可塑化PVBはガラス転移温度が40~50℃と低いため、合わせガラスが高温にさらされた場合(夏の自動車のフロントガラスなど)、耐貫通性が低下することが知られている。当グループは、PVBに金属酸化物を複合化させることにより、従来樹脂よりガラス転移温度が10℃以上高く透明性に優れたハイブリッド材料を形成している。この材料を用いて合わせガラスを作製し、これまでの合わせガラスの特性を凌駕できることを示すと共に技術移転を目指す。ハイブリッドフィルムの作成と熱・力学特性の評価については当初目標の成果が達成されている。本研究開発により酸化チタンのハイブリッドの着色であるが、ノウハウを持っている企業探しすることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
セルロース超微細繊維創出を基軸とするグリーンイノベーション信州大学大川浩作本研究課題の成功裏な達成のため、計画全体を5つの課題に分割した。(1) エレクトロスピニングを経るセルロースナノファイバーの作成条件の最適化について検討し、平均繊維直径100 nm以下のナノファイバー不織布を得た。(2) セルロースナノファイバー製造の大規模化を試み、平均繊維直径86 ± 40 nmのナノファイバーから構成される幅30 cmの不織布を得た。さらに、セルロース-キトサン複合ナノファイバー不織布の作成も可能になった。上記 (1) (2) をもとに本研究課題の主要目標がほぼ達成された。以上に加え、(3)金属物吸着能評価、(4)ナノファイバー上への酵素固定、および、(5) 低分子化合物担持・徐放機能評価を含む応用に関する研究についても、当初計画に準ずる成果が得られた。新しいタイプのセルロースナノファイバー製造技術の開発ならびに改良において、ファイバー平均直径を100nm以下に抑えた安定な生産技術を確立したこと、また、ファイバーを構成するセルロース構造が非結晶型であることなど、特徴ある製造技術の開発に成功した。本研究開発によりスケールアップ化への対応、また、コスト面での評価を行うことが明確となった。製品の大型化がうまくいかなかった原因を明らかにすることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
フラーレンの光化学反応を利用した光電気化学蓄電池の開発信州大学樋上照男本研究開発実施期間において、フラーレンの光化学反応を利用した光電気化学蓄電池(Photoelectrochemical Condenser、PEC)の製品化に対する検討を2つの面から行った。1つ目は1 V以上の電圧を得るためのカソード反応の検討であり、これについては過マンガン酸カリウムや硫酸セリウムの硫酸酸性溶液を用いることによって0.8~1.0 Vの電圧を達成した。2つ目は大きな電流を得るための工夫であり、これには広い電極面積の白金網電極を用いるとともに支持電解質の種類や濃度を検討した。この検討により、従来は0.1 mAであった電流を1.2~1.4 mAにまで改善でき、少なくとも3日間LEDを点灯し続けることができた。今後、カソード反応として空気中の酸素の利用、より大きな電流確保のために、電極や塩橋部だけではなく支持電解質や液絡の改善を行い、PECの製品化に努力する。当初の計画に基づいた光電気化学反応と蓄電機能が確認できたことは大きい。本研究開発により使用薬剤の光反応が不可逆反応であり、蓄電池ではあるが再利用ができない点や蓄電量、コストなどの課題が多く存在する。実用化のロードマップを作成することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
樹脂/カーボンナノチューブ複合材料とインプリント加工を用いた超はっ水性表面の創製長野工業高等専門学校柳澤憲史現在,機能材料には水や油をはじく能力であるはっ水・はつ油性能が求められる。安価で長持ちする機械的な方法でこの性能を高めるために微細形状を表面に転写することで超はっ水表面を樹脂表面に得ることを目標とした。本プロジェクトは、1)はっ水性能評価装置の開発、2)微細な形状を転写するための金型の作成、3)樹脂表面に転写する方法の確立と評価を行い、それぞれにおいて当初の目標を達成した。そして、シリコーン樹脂およびアクリル樹脂とカーボンナノチューブの複合材料の表面に超はっ水表面を創製することに成功した。 今後の課題として開発された表面の耐候性と低温でのはっ水性を調査することで実用化の検証を行っていく予定である。カーボンナノチューブの応用により、撥水性を得る事が出来る事を実験的に検証した。本研究開発により複合樹脂におけるカーボンナノチューブの撥水性に対する効果がはっきりしていないことが明確となった。今回カーボンナノチューブ添加による耐摩耗性、耐候性など表面形状安定性を確認することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
蛍光色を広い可視域で制御できる超分子材料の開発岐阜大学(現、東京工業大学)坂尻浩一発光色を広い可視領域にわたって制御することができる蛍光性超分子材料を開発することを目標に当該課題に取り組んだ。使用した蛍光性超分子は溶媒の極性に応じて超分子構造を変化させることにより、様々な発光色を呈することができる有機化合物で、最近当該課題責任者により見出されたものである。本課題では、これまでの研究成果を基にして、固形化技術を検討した。種々の溶媒と樹脂の組み合わせで蛍光性超分子を混合し、薄膜の作製を行った。混合溶液状態までは問題なく予定の蛍光色を発したが、固形化の段階で、青色近傍の短波長側の蛍光色だけは保持することができなかった。化合物や樹脂を含め工夫する必要がある。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。申請計画どおり着実に研究を進め、当該キャスト膜が蒸気などのセンサー機能をもつことを見出している。 また、混合溶液についても樹脂1g/10mLの高濃度条件下でさえ、蛍光色が保持されること等を明らかにしている。これらの知見が得られた点を確認した。本研究開発により固形化技術などのエンジニアリングが必要不可欠であることが明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
白色シースルー色素増感型太陽電池の製造プロセスを革新する色素ポリマーの開発岐阜大学船曳一正本研究は、申請者が世界で初めて開発した、可視光を透過する「白色シースルー色素増感型太陽電池」の発電効率向上を狙いとするものである。すなわち、現在の近赤外光を選択的に吸収する色素は半導体への吸着時に凝集体を形成して性能が著しく低下するため、この凝集を抑制する画期的な色素の開発を目標とする。具体的には、現在の有望な色素の分子を単位として、配向を制御した色素ポリマーを開発する。この色素ポリマーを用いれば、現在行っている共吸着剤の添加や製造プロセスの複雑な制御は不要となり、安定して高性能な色素/半導体複合薄膜を作製することができる。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。スチレン導入色素モノマーを合成し、 DSCの変換効率を申請時の1.23%から2.42%と大幅に向上させた結果を確認した。本研究開発により新規白色シースルーDSCの性能・耐久性向上を確認されたのであれば、早急な特許出願と重合反応条件を検討することが望まれる。
発光ダイオードを用いる環境に優しい光酸素酸化反応の実用化への展開岐阜薬科大学多田教浩申請者が開発した芳香環上のメチル基から対応するカルボン酸への光酸素酸化反応は環境負荷が低い新規の酸化反応であり企業化が期待されるが、バッチ式の反応では高濃度の酸素の使用や光の透過性が問題点として残されていた。そこで本反応をマイクロリアクター化することでこれらの問題点を克服することを目標とした。その結果マイクロリアクターを用いることにより、省エネルギーの発光ダイオードからの照射でもバッチ式の反応に比べ短時間で酸化反応が進行することを見出すことに成功した。今後、反応装置及び反応条件をさらに検討することで、目的物であるカルボン酸の効率的な合成を達成する予定である。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。バッチ型の反応と比べマイクロリアクターを2個直列に繋いだ結果、その生成物の変換率の向上を見出した。また、酸素と反応液による気液反応を均一なパルス流として装置の条件を精密化したことを確認した。本研究開発により収率が目標値を大きく下回っている_ことがが明確となった。今後上記点を含めてトルエン類をワンポットで芳香族アルデヒドや安息香酸誘導体に導く製造法は工業的に重要であることから、技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
固定化オキソ金属触媒の実用化と酵素触媒動的光学分割静岡県立大学赤井周司本試験では、アリルアルコールの水酸基1,3-転位反応とラセミ化を高速に進行させる固定化オキソ金属触媒の高活性化、並びに本触媒と加水分解酵素リパーゼとの併用によるアリルアルコールの動的光学分割法の効率改善を目標に研究を行った。その結果、本触媒の構造を明らかにし、また、触媒量0.01当量で従来法よりも優れた収率、光学純度を得ることに成功し、目標の一つを達成した。この成果は、医農薬、香料などの合成中間体として重要な光学活性アリルエステルを入手容易な原料から短工程、高収率で合成することを可能にする。現在、工業化への応用展開を目指して、触媒合成のスケールアップ、触媒の回収再利用などの研究を継続して行っている。ラセミ化触媒とリパーゼを用いた不斉アセチル化で動的光学分割を達成し、触媒をメソポーラスシリカに坦持させることで高効率化を達成している。本研究開発により未着手の触媒再利用技術の開発と大量生産に関した課題を遂行することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
未利用・廃棄ケラチンのケミカルリサイクルによる再生毛髪の開発愛知県産業技術研究所金山賢治未利用・廃棄ケラチン(KR)含有物質のケミカルリサイクルと新規の頭髪代替繊維素材の開発とを目指して、可溶化KRをコラーゲン(CL)繊維にコーティングした再生毛髪の製造技術について研究した。羊毛布団綿、羽根、毛織物裁断屑、毛髪の各原料から KR を還元抽出して、高分子量で再架橋可能な可溶化 KR液を得た。この可溶化KR液を透析・濃縮した後、コラーゲン繊維の表面にコートした。その結果、引張強度が約 1.6(cN/dtex)、水分率約 17%、パーマネント液によるセット性を有し、繊維断面が2層構造を有する再生毛髪用繊維を開発できた。今後は、KR とCLとの密着性、櫛どおり性、連続加工技術等を解決することで実用化が期待される。コレーゲン繊維へのケラチンコーテイングに成功し、作成した糸状繊維は1)強度、2)水分率、3)ウエーブ効率で目標を上回る数値を得た。本研究開発において、製品の実用化を目指すにはKRとClとの密着性、連続加工技術等の解決することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
赤外線選択反射機能と高い断熱性能をあわせ持つフラットヤーンの開発愛知県産業技術研究所原田真本研究では、遮熱材料、ベース樹脂、加工方法の最適化などを検討することで、赤外線を選択的に反射し、断熱性能のある糸の開発を行った。目標値として、「遮光率50%以下」、「遮熱性能は温度低下10℃」の2点を挙げた。開発した糸について各種評価を行ったところ、遮光率は目標にわずかに及ばなかったが、遮熱性能は温度低下目標を達成することができた。しかし、製品化に向けて構造などをさらに検討することで、目標を満たす遮熱資材を作ることができる。遮光率および遮熱性能の見通しを得た。本研究開発によりこのままでは商品化につながらないので、当初の目標としている技術的な課題解決に全力を挙げることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
天然繊維により強化した木質系プラスチックの開発愛知県産業技術研究所高橋勤子本研究開発では、循環型資源である木質系材料を原料としたプラスチック状成形体を天然繊維で強化して物性向上を試みた。補強用の天然繊維として、リネンおよびケナフ織布を用いた。蒸気処理した木粉と織布を積層して複合化成形体を作製した。物性試験の結果、曲げ強さ、引張強さはあまり変化しなかったが、耐衝撃性は織布含有率20%で、木粉100%の成形体の約7倍(18kJ/m2)となった。植物繊維織布を補強材として用いることにより、成形体の耐衝撃性を向上できることが分かった。天然繊維を利用した強化プラスチック開発の可能性が示されており、資源循環型の材料開発の進展の見通しを得た(検証した)。本研究開発により衝撃以外の物性向上にむけたアプローチを明確にすることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
かさ高な超極細オレフィン系繊維の開発愛知県産業技術研究所佐藤嘉洋本研究では、オレフィン系樹脂であるポリエチレンから、繊維径 1μm 以下の超極細フィラメントの開発を目的とした。 発泡剤を添加したポリエチレン/ポリ乳酸繊維をモノフィラメント溶融紡糸した後、ポリ乳酸をアルカリ加水分解することで、繊維径 1~3μm の超極細繊維からなるポリエチレン繊維を作製することができた。この繊維は内部まで極細化されており、かさ高性を有している。 本開発繊維は繊維表面積が飛躍的に向上しており、機能性繊維の基材として、多くの展開が期待できる。例えば、キレート剤や機能性薬剤を練り込むことで、吸着性やセンサー機能を有する繊維の開発に応用可能と考えられる。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。繊維径1μm 以下の超極細フィラメントの開発目標に対して、繊維径1~3μm の超極細繊維からなるポリエチレン繊維を作製できた点を確認した。本研究開発により細線化プロセスの見直しと、吸着効果向上のための表面状態が明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
薬剤浸透性向上のための木材改質処理法の開発愛知県産業技術研究所西沢美代子木材の利用拡大のため、樹種や部位を限定することなく、均質に薬剤処理可能にすることを目標として、木材改質処理法により薬剤浸透性の向上を図った。難注入性のスギ 100mm 角材に適する改質処理条件を検討し、適切な注入条件を得た。その条件で改質処理したスギ角材は、未改質処理材では達成されなかった木口から150mmの均質な処理が達成された。また辺材は、角材の長さ方向全体に薬剤処理可能となり、浸透性の向上が認められた。しかし心材においては、長さ方向全体の薬剤浸透には至らなかった。高濃度の改質処理剤を用いることにより、より強力に改質が作用する可能性が得られたため、心材の浸透性の向上を目指す。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。改質処理の方法を抜本的に見直すことで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
オゾンマイクロバブルを利用したスーパー繊維の表面改質処理の開発愛知県産業技術研究所小林孝行スーパー繊維は航空産業を始め、産業資材用途の FRP 用繊維やネットとして用いられている。優れた強度や耐薬品性を有している一方で、FRP 用繊維素材として樹脂との密着性や、販路拡大のため染色性の改善が望まれている。本研究課題は、この解決法として当センターで培われた低環境負荷型処理技術を活用・発展させ、簡易で、低コスト、低環境負荷の新規な表面処理方法の開発を目指した。その結果、染色性においては一部の繊維と染料の組み合わせで濃色化が見られた。また、密着性についても一部の繊維と樹脂の組み合わせで引張強度の向上が確かめられた。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。マイクロバブル処理による樹脂密着性と染色性に関する研究とポリアリレート繊維について、黒色染色について当初の目標以上の結果を確認した。本研究開発によりオゾンバブルの濃度や大きさなど、基本原理は繊維の破壊行程になるので、バブルのサイズや密度など、基本に返った検討が必要であることとなった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
農産物由来原料を用いたエコ&ナチュラル染色に関する研究愛知県産業技術研究所浅野春香これまで、当センターでは地元企業と連携し、特産品であるミカンの色素をスプレードライ法により粉状にして綿繊維を染色する技術を開発した。この技術を地元企業に移転し、平成22年5月に地元の呉服屋から販売を開始するに至った。本研究ではこの技術シーズを環境負荷の少ないバイオマス素材のポリ乳酸繊維に応用し、インテリアファブリックあるいはアパレル分野への展開を目指した。具体的には、1工業的な染色方法であること2各種染色堅牢度3級以上を達成すること3染色による著しい強度低下が認められないことを開発目標とした。その結果、ポリ乳酸繊維の性質を考慮した最適かつ効率的な染色条件を見出すことが出来た。特に、一般的に危惧されている加熱に対する劣化について、強度保持率は99%と、染色による低下は見られなかった。これにより、農工連携、産業観光の技術として『エコ&ナチュラル』を売りにした他産地にはない様々な商品に用途展開が可能であり、地元繊維業だけでなく観光業を含めた産業の振興に貢献できることが示唆された。ミカンの色素をポリ乳酸繊維に応用する基礎技術を開発し、その技術を企業へ移転することを可能にして,その技術を汎用性の大きいポリエステル繊維にも適用が可能と考えられる。本方法で染色された繊維材料の活用方向に模索し、たとえば、「農産品(天然物)由来」は消費者に安心感を与えることが多いため、介護衣料などユニバーサルデザインへ向けた方向を考えていただきたい。
光学活性化合物群の自動合成装置用高分子組込み型不斉触媒の開発豊橋技術科学大学伊津野真一医薬品等の光学活性高機能化学物質を合成する際には、機能の最適化のため、構造の類似した多種類の化合物群を合成し、その性能を迅速に比較する必要がある。光学活性有機化合物を多種類、迅速、高純度に合成するための自動合成装置の開発が有効である。そこで自動合成において最も重要な構成要素である反応用カラムの充填剤を開発することを目標とした。本研究ではキラル第四級アンモニウム塩触媒を主鎖に組み込んだ高分子触媒を合成し、イオン結合による新しい架橋構造を適切に導入することにより、高活性を維持した高性能不斉反応用高分子触媒の調整に成功した。今後、適切な架橋構造により、反応性を低下せずに充填性能を高め、実用的フローシステムの構築が重要である。目標である高分子触媒が合成でき、またこの触媒の不斉アルキル化反応に対する活性が得られた。本研究開発によりより実用的なものに近づけるようカラムに充填した触媒の反応活性ならびに耐久性を解明することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
有機反応自動化システム用環境低負荷型高分子微粒子不斉触媒の開発豊橋技術科学大学原口直樹環境低負荷型有機反応に有効な単分散高分子微粒子触媒を沈殿重合法により開発し、有機反応自動化システムの構築を試みた。沈殿重合により、イオン性官能基の導入位置と導入量が制御された単分散高分子微粒子の合成に成功した。イオン性官能基を有する不斉触媒と得られた単分散高分子微粒子のイオン交換反応は円滑に進行し、種々の触媒的不斉反応に有効な単分散高分子微粒子触媒が得られた。高分子微粒子の親水性―疎水性バランスを制御することで、水系反応をはじめとした環境低負荷型有機反応への適用が可能であった。単分散高分子微粒子触媒をカラムに充填し、有機反応自動化システムに使用可能な自動合成用カラムの作成を行った。種々の不斉有機分子触媒をポリマーに固定化した固体不斉触媒が合成されており、また均一系触媒と同程度のエナンチオ選択性を示すことを実証できた。本研究開発により、触媒の安定性試験ならびに再使用性の検討が明確となった。高分子担体に分子触媒を固定化することによって新たに発現する機能や均一系触媒の性能を大幅に上回るような特異な性質を引き出す_ことで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
金および白金有機金属錯体を用いたELデバイス用発光ドーパントの開発名古屋工業大学塩塚理仁新規なジエチニルフェナントロリン配位子骨格を有する直鎖型一次元構造の金(I)及び白金(II)有機金属錯体ポリマーの合成を行い、そのELデバイス用発光ドーパントとしての可能性に注目して研究開発を行った。 白金(II)錯体ポリマーに関しては、薄膜、固体、液体状態及びドープした高分子フィルム等の光物性測定により、様々なサンプリング状態において特有のリン光発光を示すことが判明した。今後の展開としては、定量的な薄膜厚形成と発光効率について明確にすることが重要である。更には、実際のEL素子回路上に発光ドーパントとして用いた機能評価や他のドーパントとのブレンドによる発光効率に対する効果などを調査する必要がある。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。ジエチルフェナントロリン配位子を有する直鎖型一次元構造の白金(II)有機金属錯体ポリマーの新たな合成と発光スペクトルの計測に成功していることを確認した。本研究開発により発光特性の定量的解析をおこなって、具体的な技術移転のイメージを構築することが望まれる。
メソイオン液体の開発と高性能バッテリー電解液への応用名古屋工業大学平下恒久イオン液体は電気をよく通す。しかし、電池の起電力を作り出す目的イオンとともにイオン液体を構成するイオン自体も電位勾配にそって移動するため、目的イオンの伝導度が必ずしも高いわけではない。一方メソイオン液体は、分極による安定化によって分子内塩となっているため、極性の高い液体でありかつ、目的イオンの効果的な移動が期待できる。今回、テトラゾリウム系メソイオンにパーフルオロアルキル側鎖を導入する手法について研究した。3位窒素上にこれまでにない多様なアルキル基をもつメソイオンのワンポット合成方法の開発に成功し、本方法を利用することでフロオラス基を有するメソイオンを合成した。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。テトラゾリウム系メタイオンの3位窒素に多様なアルキル基をもつメソイオンの合成を確認した。本研究は重要なアプローチであるので、合成法の検討からイオン液体創製の取組みを継続して頂くことを強く要望したい。
カーボンナノホーンによる高導電性・高熱伝導性ゴムペーストの開発名古屋工業大学林靖彦本研究では、低コストで大量合成した導電性カーボンナノホーン(CNF)を用い、高導電性・高熱伝導性のゴムペーストを開発した。従来、カーボンブラックによるゴムペーストの導電率は 0.1S/cm 以下で、本研究で数十 S/cm でかつ熱伝導率が数十 W/m・K を目標とした。10wt%の CNF をフッ素ゴムにイオン液体と混合することで、従来問題であった CNF の凝集を押さえ、均一分散の技術を確立した。CNFのゴム中での特定含有率(パーコレーション閾値)が 15wt%程度であることを明らかに、導電率 15S/cm、熱伝導率 18W/m・K を実現した。未だ CNF のネットワーク形成が不十分で、今後この問題を解決することで、伸縮自在な配線材料やセンサ、ユビキタスデバイスへ応用する。当初予定の成果までは得られなかった。イオン液体の利用によりある程度の重量濃度で分散性が達成されたが、得られた分散では、導電性や熱伝導率などが数値目標に達していない点での検討課題が明確となった。
過酸化水素水を酸化剤に用いる触媒的バイヤー・ビリガー酸化反応:ε-カプロラクトンの高効率合成名古屋大学ウヤヌク・ムハメット本研究では、バイヤー・ビリガー酸化反応による真に力量のあるε-カプロラクトンの合成プロセスの実現を目指した。その結果、安全・安価で取り扱い容易な市販の3%又は30%過酸化水素水を酸化剤に用い、遷移金属を含まない毒性の少ないアルカリ金属やアルカリ土類金属金属の塩をルイス酸触媒とする環境低負荷型バイヤー・ビリガー酸化反応を開発した。本法はシクロアルカノン、なかでも難度の高いシクロヘキサノンの酸化反応に適用でき、ε-カプロラクトンを高収率かつ高選択的に合成できた。今後、本法の更なる最適化を行い、実用的なスケールアップの実現に向けて研究を続ける予定である。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。新たな触媒をすることを確認した。本研究開発によりスケールアップのためには、モルレベルでの反応でいかなる副反応が進行しているかを明らかにする必要であることが明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
廃潤滑油から膜分離プロセスによって得られた再生油の評価名古屋大学義家亮溶媒抽出をともなう膜分離プロセスによる廃潤滑油再生処理法において、不純物除去性能の向上に適した膜材料および溶媒の種類を探索することが本研究の目的である。再生油は潤滑基油としての利用を前提とした。平成22年度は主に膜分離性能の定量的評価に主眼を置き、膜透過係数等の今後のプロセス設計において重要なパラメータとなる物性値を実験的に取得した。また、それらの数値に対する分離時間および溶媒使用量の影響も検討された。一方、市場において商品価値を持つ再生基油のガイドラインの明確化も本申請における初期の重要なタスクとしていたが、これについては今後の課題として残された。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。有機溶剤として石油エーテル、膜材料として天然ゴムを用いた場合について、膜性能の定量的評価(膜透過係数)が得られたことを確認した。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
触媒的脱水縮合によるカルボン酸無水物の環境調和型高効率合成法の開発名古屋大学坂倉彰カルボン酸無水物は、ポリエステルやポリイミドなど様々な高分子材料の合成に幅広く利用されている。研究責任者は、基礎研究段階として、テトラカルボン酸の分子内脱水縮合反応に有効なアリールボロン酸触媒の開発に初めて成功した。本試験研究では、工業的実用化を目的に、穏和な反応条件下で短時間にカルボン酸二無水物が合成できる新規アリールボロン酸触媒の開発を行った。また、実用化を目指したスケールアップの検討、触媒の回収再利用法の開発、分子量分散度の狭いポリイミド合成法の開発を実施した。さらには、カルボン酸二無水物の反応混合物をそのまま用いてジアミンと反応させるポリイミド合成法の開発を行った。新規アリールボロン酸触媒を用いて目標としていた反応成績を概ね達成し、使用触媒量の低減、再使用実験の実施と好成績も達成していることを確認した。スケールアップについては、企業との連携も視野に入れることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
化成品製造用Agナノクラスター触媒の開発北海道大学清水研一化成品合成反応用銀アルミナの高機能化(活性の2倍向上)と新規用途開拓を目標とした。その結果、1Cu-Ag合金触媒がアミンのアルコールによるアルキル化にAg触媒の20倍の活性を示すこと、2Agアルミナ触媒がニトロ化合物とアルコールから一段階でアルキルアミンを合成することを見出した。成果1は、安価な卑金属に微量の貴金属(Ag)をドープして、従来の卑金属やAg触媒を凌駕する高活性触媒を設計できることを示唆しており、今後、応用・基礎両面での新規方向性を与えた。成果2は4段階の反応を同一の容器にて、一段階で進行させるものであり、今後、環境調和型化成品合成反応として応用が期待される。実効性の高い化学的手法によって、当初「Ag触媒の2倍の活性向上」と掲げた目標を大幅に上回る活性を示す触媒の開発に成功していることを強調したい。何故、Cu-Ag合金にすることで触媒活性が向上したのか、考察と作業仮説、活性上限についての見込み等を踏まえた論理的なアプローチに基づく展開を考えていただきたい。.触媒劣化の問題は難しい課題であるが、用途によっては実用上大きな問題にならない場合もあるので、今後、企業等と連携を深め、実プロセス反応における性能を総合的に評価していくことが期待される。
神経系に作用するポリ環状エーテル化合物の実用的合成研究名城大学森裕二シガテラ中毒の原因毒の一つとして考えられているポリ環状エーテル神経毒ガンビエロール(1)は有毒渦鞭毛藻から単離構造決定された8環性のポリ環状エーテルで強力なマウス致死毒性を示し、ブレベトキシンの電位依存性ナトリウムイオンチャネルへの結合を競争阻害することが示唆されている。本研究では神経系に作用するガンビエロールが創薬研究のシーズになる可能性を秘めていることから、その化学合成研究を実施した。既に合成済みのABCDフラグメント2にスルホニル基が置換したオキシラニルリチウム3および4を合成ブロックとして用い、順次連結後エーテル環を構築する手法を繰り返し、最後に5との鈴木カップリングによりトリエン側鎖を構築してガンビエロール(1)の全合成を達成した。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。ポリ環状エーテルの合成を検討し、神経系に作用するガンビエロールの全合成を達成したことを確認した。本研究開発により総反応工程数の増加にともなう総収率の低下をいかにして改善が明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
自己ドープ型電導性高分子とシリカとのハイブリッド導電膜の開発三重大学久保雅敬スルホプロピル基あるいはスルホブトキシエチル基を側鎖に有するポリシクロペンタジチオフェンを、対応するナトリウム塩モノマーの化学酸化重合とそれに引き続くイオン交換反応によって調製した。得られた新規水溶性ポリシクロペンタジチオフェンは、薄膜状態で5S/cmの電気伝導性を示す自己ドープ型電導性高分子として機能することがわかった。さらに、この自己ドープ型ポリシクロペンタジチオフェンの存在下で、テトラエトキシシランの共加水分解重合(ゾル-ゲル法)を行い、シリカとのハイブリッドを調製した。このハイブリッドには電気伝導性が観測され、新しい有機/無機ハイブリッド電子材料として興味深い材料であることがわかった。高い電導性を示す自己ドープ型電導性高分子の基本骨格として二つのスルホ基含有ポリマーを作成し、水に対する高い溶解性を見出している。さらに数S/cmの電導性を有していることも見出した。。本研究開発により可視光領域の透過率(95%以上)及び表面抵抗(数十から数千Ω/sq)について、具体的に評価することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
電子部材の高耐久性化を目指す新規導電性高分子の開発研究三重大学八谷巌電気伝導度、空気中における安定性、耐熱性のいずれもがポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)より高い値を示す新規PEDOT誘導体の合成を目標に、出発物質としてブタ-2-イン-1,4-ジオールを用い検討を行った。しかしながら、当初予定していた合成ルートでは新規PEDOT誘導体を合成することができなかった。そこで次に、入手容易な2,3-ブタンジオンからの新規合成ルートを検討した結果、わずか2段階でPEDOTの前駆体モノマーである3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を得ることに成功した。今後、新たに見出した合成ルートによる新規PEDOT誘導体の合成を行う予定である。当初の計画には予定されていなかった研究内容であるPEDOTの前駆体モノマーであるEDOTの短工程合成法を開発することができた。本研究開発により評価因子としてあげている耐熱性、安定性などに対する検討をすることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
バイオマスを用いた高機能成形活性炭の開発滋賀県東北部工業技術センター脇坂博之有機系新規バインダーを用いて、成形後1回の賦活処理によりコーヒーかすからの成形活性炭の製造技術を追究した。その結果、1回の賦活処理により、900㎡/gを超える成形活性炭を得た。このバインダーは、添加量の増加による比表面積の低下を招くことなく、強度を向上させることが可能であり、実用化可能性の知見を見出せた。また成形活性炭について、VOC及びカビ臭の吸着性能を市販のヤシ殻活性炭と比較した。その結果、トルエンの吸着性はヤシ殻と同等であった。一方、カビ臭については、2-メチルイソボルネオールではヤシ殻に劣るものの、ジェオスミンではほぼ同等の吸着性を得た。これは、比表面積の差や細孔分布が影響したものと推測され、成形活性炭はヤシ殻活性炭に比べメソ孔が多いことがわかった。バイオマスを用いて、有機系新規バインダーによる成形体を作製することができたことを検証した。本研究開発により比表面積に関しては設定目標値を達成したが、比表面積の増大、吸着性能の向上だけでなく、企業ニーズに即した課題抽出及び研究開発にも取り組むことを望む。
酸化鉄コアを有するフェリチンの基板上への一次元配列龍谷大学富崎欣也近年、半導体デバイス製造プロセスにおいては、フォトリソグラフィー用光源波長等の根本的な技術限界を迎えつつある。新規製造プロセスとして、これまでに分子内部に酸化鉄コアを有するフェリチンの二次元配列化とデバイス機能が評価されている。そこで、パターンニングのためのフォトリソグラフィーを必要としない独創的なデバイス製造プロセスを目指して、分子ナノ集合体を鋳型とするフェリチンの一次元配列化を試みた。本研究では、タンパク質等の生体分子の非特異的吸着を抑制する基板表面の開発と鋳型分子集合体の設計・合成および基板表面への固定化に成功し、フェリチンを基板上に鋳型に沿って固定化する技術基盤を確立した。今後は、フェリチンと鋳型分子集合体との結合様式を最適化することによって基板上への明確な一次元配列化および企業等との共同研究へと展開が可能と思われる。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。技術的修正を加えながら、ペプチドファイバーの代わりにカーボンナノチューブを用いることによりフェリチンの配列化を確認した。本研究開発によりペプチドおよびフェリチンの基板上への非特異的吸着を抑える技術を開発する必要があることが明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
イオンビーム照射による高分子材料表面のマルチ機能化京都工芸繊維大学奥林里子本課題では、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにリンイオン(31P+)ビームを照射し、リン元素の注入と同時に照射時に発生するラジカルを利用してアクリル酸をグラフトすることで、難燃性と親水性の両機能をPETフィルムに同時に付与する技術の開発を目的とした。リン注入量10atm%(C比)、注入深さ0~10nm、アクリル酸グラフト量10wt%、水の接触角50度以下の目標に対して、60%~90%程度目標を達成することができた。しかし、難燃性については、目標は達成できなかった。今後は、全目標値が100%以上となる条件を見出し、機能の耐久性を検討した後に、注入元素、グラフトモノマーを変え他の機能性付与についての可能性を探る。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。イオン(31P+)ビームを照射し、PET中へのリン元素の注入と同時にアクリル酸をグラフトによる親水化を達成。本研究開発により難燃性の発現やグラフト量の調節のために必要なリン注入条件である具体的な材料特性をより精細に解明することが明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点から基礎データをさらに蓄積し、イオンビームの特性を活かした機能性材料をより具体的に示す更なる検討が望まれる。
多様な模様染を可能とする新規天然染料染色法の開発京都市向井俊博天然染料による染色は浸染により行うため、デザイン性に乏しく、水を大量に消費するという問題があった。本研究開発では高濃度の媒染剤を部位選択的に塗布し、発色、固着を蒸熱中で行うことでこれらを解決し、現代の繊維産業に求められるQR、多品種少量生産に対応した新規天然染料染色法の開発を目指した。この新規染色法による被染色物は短時間の蒸熱処理にも関わらず従来法と同程度の消費性能を満たす。また、染料と媒染剤を自由に組み合わせることができるためデザイン性に優れている。現時点では表現できる色数は少ないが、天然染料による模様染という差別化商品を展開できるため、京都の捺染業界の発展に大きく貢献できると考えている。インクジェットプリンターの特徴である多ヘッドを活かし、天然染料インクと媒染インクの組み合わせによる多色捺染を実現した。本研究開発により天然染料の分子構造も考慮した選択を行うことにより、さらに技術的基盤が固まる_ことで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
セルロースナノファイバー複合化ポリオレフィンのリチウムイオン電池用セパレータへの適用検討京都大学吉岡まり子ポリオレフィンに対する、より進んだ新規な手法による工業的セルロースナノファイバー強化法の実現と、リチウムイオン電池用セパレータとしての応用の可能性を探った。提案者は、実用的方法でカルボキシル基を導入したセルロースナノファイバーを使用することにより、溶融混練法によるセルロースナノファイバー複合ポリオレフィンの開発に成功した。該材料はシート状にした段階で二軸延伸性を示し、孔隙性と薄膜化に耐える十分な強度特性、耐熱性などを有することが知られた。従って今回のFS段階の目標を達成した。これは今後、本研究の延長線上でのリチウムイオン電池セパレータを、本格的に検討する価値を見出したものといえる。今後拡大が予想される電気自動車用リチウムイオン電池の性能や安全性向上が期待できる。セルロース自体はプロセス中で凝集しやすく、一方、ポリマーとの複合化すれば凝集性は抑制できるが薄膜化し難い。そこで、セルロースをコハク酸やマレイン酸とエステル化することによりハーフエステルとし、カルボキシルアニオン同士の反発により凝集を抑制し、多孔性薄膜を作成しようとするものであり、興味深い。本研究開発により複合材料のニーダ―による混練条件および延伸シート作成の際の成型条件の詳細な検討することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
アシル基を持つ配糖体天然物及び関連非天然物の位置選択的合成京都大学川端猛夫配糖体天然物は従来よりよく知られている生理活性物質であるが、近年抗ウイルス作用やMRSA耐性菌に対する抗菌剤増強作用、糖尿病合併症の治療効果、さらに抗アレルギー作用等が相次いで報告されている。このように配糖体は現代病の治療候補化合物の宝庫であり、その簡便で多様性ある合成法開発は急務である。一方、糖類の合成研究は既に膨大な実績があるが、対応するペプチド合成に比べて格段に困難である。これは糖類が複数の水酸基を持つため、それらを区別して結合形成を行う必要があるためである。この問題点はこれまで複数の水酸基を保護-脱保護により区別する多段階合成法により克服されてきた。一方、我々は多段階の保護-脱保護操作によらない一段階の触媒的位置選択的な官能基化を基盤とした糖関連物質の精密有機合成法の開発に取り組んでいる。我々の開発した触媒は無保護グルコピラノースへの4位選択的なアシル化が可能である。本研究ではこの位置選択的反応を利用し、抗腫瘍性配糖体天然物multifidosideの全合成を達成した。今後、さらに複雑な構造を持つ生理活性糖体天然物の全合成や種々のアシル基を持つ非天然配糖体のライブラリー構築へと展開したい。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。独自に開発した触媒によりグルコースの4位選択的アシル化を行い、目的化合物の1つであるmultifidosideの合成を確認した。本研究開発により3つの目的化合物のうちわずか1つが合成され、検討課題は残り2つとなった。今後上記点を含めて残る課題達成が望まれる。
両親媒性ブロック共重合体を用いた金属ナノクラスターの分散制御と材料化京都大学中村泰之ミクロ相分離構造中にドメイン選択的に金属ナノ粒子が分散された材料の創製を、リビングラジカル重合法を用いた新しい高分子合成を基盤として行った。重合制御された両親媒性PSt-b-PNVPブロック共重合体の合成を行い、ミクロ相分離構造の形成および金属ナノ粒子の合成について検討した。PSt-b-PNVPの組成比を変えることにより、ラメラ構造、シリンダ構造、球状構造のミクロ相分離構造が径されることを見出した。またPSt-b-PNVPの溶液中での会合挙動を明らかにし、同時にブロック共重合体を用いた金ナノ粒子の形成を行った。金属ナノ粒子分散ミクロ相分離構造の形成のための基礎技術開発が行えたと考えられる。今後はこれを発展させた、ミクロ相分離構造のさらなる精密制御法と、金属ナノ粒子の分散制御法を開発する必要がある。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。目標を達成するための基礎技術が確立されつつある点は評価できる。
水溶性単分子型アップコンバージョン色素の開発京都大学田中一生本研究では、水中で効率よく三重項-三重項消滅(TTA)を経由したアップコンバージョンを起こす単分子型の色素の開発を行うことを目的とした。一番優先する目標としては、発光効率の向上を狙うことであった。そのために様々な化合物の合成を行い、得られた分子において光化学的特性を調べた。まず、量子収率を算出したところ、以前まで行っていた多分子系と比較して、量子収率が倍増したことが分かった。この理由として、目的通りにTTAの効率が単分子化により向上していたためであった。また、修飾デンドリマーにより分子を水溶化することと、並びに水中でも同様の挙動を得ることができた。さらに、発光色の調節や励起光の長波長化も同時に達成できた。これらの結果から、本研究の目標を達成したといえる。有機溶媒中であるが、アップコンバージョン発光の効率の向上を達成した。独自の分子デザインに基づく研究であることより、周辺の関連研究を調査することで、より高性能な色素開発に向けた分子デザインが可能と思われる。シーズ技術であることから、それを高める努力をじぞくすることで展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
二本鎖DNA配列を標的にするPIポリアミド製品の開発京都大学板東俊和本研究では、DNA塩基配列特異的アルキル化能を有するPIポリアミドの生体応用に向けた機能性の確立を目指し基盤研究を進めた。実際に、申請者が以前報告しているPIポリアミドの分子設計[Bioorg. Med. Chem.,2008, 16, 2286-2291]を基盤として、1) 配列特異性の延長、2)水溶性の付与、3)ゼノクラフトマウスを用いたヒトがん細胞増殖阻害活性の評価を進めた。その結果、一定の研究目標は達成し、現在それらの研究成果を専門誌に報告するため、論文として投稿を予定している。将来的には、得られた結果を基盤として、配列特異的アルキル化により標的とする特定の関連遺伝子群の発現を制御する分子生物学的技術としての応用に向かう予定である。標的DNAに対する特異性を付与するための複数の構造(ImとPyの様々な配置)をもつPIポリアミドseco-CBIコンジュゲートとが合成され、それらの配列特異性が解析した。本研究開発により構造-活性相関について地道な検討、製品供給に向けて既存のfmoc固相合成法の改良_が明確となったPIポリアミドによる配列特異的アルキル化と遺伝子発現の増減が関連した生物応答であることを立証するすることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
プラスチックのナノサイズ放射線損傷を紫外線とエッチングで拡大することにより低倍率光学装置で高速分析することを可能にする方法の開発舞鶴工業高等専門学校石川一平本研究では、PADCプラスチック(固体飛跡検出器CR-39)に紫外線を照射することで放射線損傷(飛跡)を拡大するメカニズムの検証・解明と一層の飛跡拡大を目指した。飛跡拡大は紫外線で発生する活性酸素との結合によりプラスチック表面に親水基が形成されエッチング速度が加速された事が原因であると結論付けられた。紫外線を照射した試料と紫外線を照射しない通常の試料を同条件で比較した場合、飛跡を面積比で最大約16倍拡大することに成功した。拡大させた飛跡を光学スキャナで分析した結果、得られた画像データは個々の飛跡を計測できる範囲にあり、低倍率光学装置でも入射粒子数の計測を目的とした実用化に耐え得ると判断できる。飛跡の面積16倍の拡大に成功した。低倍率光学顕微鏡評価の方法と、従来のそのまま高倍率評価の方法と、どちらが効率的か経済的か、検証することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
環境汚染物質捕捉応答性ゲルの開発関西大学宮田隆志本研究では、内分泌かく乱化学物質の疑いのあるビスフェノールA(BPA)を認識して体積変化する環境汚染物質捕捉応答性ゲルを合成した。さらに、それらのゲルからなる薄膜やナノ粒子の合成も行い、実用化するためのデバイス化も試みた。その結果、BPAを選択的に捕捉して40%近く体積が減少するBPA応答性ゲルの合成に成功した。また、BPAの類似構造を有する分子に対しては異なる応答性を示すことも明らかにした。一方、精密ラジカル重合法を利用することにより金基板表面上にBPA応答性ゲル薄膜も調製した。さらに、無乳化剤乳化重合法により数百nm程度のゲル微粒子の合成にも成功した。このゲル微粒子は、BPAに応答して瞬時に粒径変化し、BPAに対するセンシング材料や捕捉材料として実用化が期待される。ビスフェノールAを選択的に捕捉して体積変化し、その類似化合物とは異なる挙動を示し、薄膜化やナノ粒子化によって応答速度が向上したゲルを開発した。具体的な適用現場を想定した研究内容の検討することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
同一の不斉触媒配位子だけで両鏡像体をつくりわけるための手法の開発関西大学坂口聡エナンチオマーを任意につくりわけることは製薬、農薬、香料産業において重要な研究課題である。本研究では非天然物に頼ることなく、天然アミノ酸から誘導したキラルなN-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)配位子のみの使用で、Cu触媒による共役付加反応において、両エナンチオマー生成物を高立体選択的につくりわける技術を確立した。具体的には(i)配位子のデザインおよび配位子前駆体化合物群の調製、(ii)不斉触媒反応における配位子のスクリーニングおよび反応条件の最適化についての検討を行い、立体選択性が逆転した生成物を90%を超える不斉収率で得ることに成功した。配位子前駆体の合成が簡便に行えることからも、本法は実用に向けて技術移転可能な技術になると期待される。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。研究責任者が独自に合成した天然型アミノ酸由来NHC配位子を用いた場合、銅触媒を変えることで、生成物の絶対配置が異なる現象は非常に興味深い。技術移転の観点から早急な天然型アミノ酸由来NHC配位子の基本特許取得が望まれる。
ピッカリングエマルション燃料の開発大阪工業大学藤井秀司地球温暖化対策の観点から、重油を燃料とする熱機関から排出される大気汚染物質排出量の抑制は急務である。このような背景を受け、重油中に水滴が分散したエマルション燃料が大気汚染物質排出量の少ない環境低負荷型燃料として近年注目を集めている。本課題では、固形有機高分子微粒子を乳化剤として使用し、保存安定性に優れる油中水滴型の微粒子安定化エマルション燃料(ピッカリングエマルション燃料)の開発を行った。その結果、エマルション作製後2か月間は解乳化が10%未満である高い保存安定性を有するエマルション燃料の開発に成功し、実用化に向けた技術移転の可能性を見出した。新しく開発するエマション燃料の不可欠な特性として、低解乳化性による高い保存安定性の実用上の目標値を確認できた。社会的ニーズが高いので、協力企業との実用化の共同研究を進展させることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
二重保護されたアクリル系解体性接着材料の開発大阪市立大学佐藤絵理子本課題では、使用時の十分な粘着強度と安定性および使用後の容易な解体(はく離)が可能な二重保護されたアクリル系解体性接着材料の開発を行った。t-ブチルエステルなど酸触媒存在下で分解が促進されるエステル基を含むアクリル系樹脂と熱安定性に優れた光酸発生剤を用いることにより、加熱や紫外光照射をそれぞれ単独で行った場合はく離強度が低下せず、紫外光照射後に加熱した場合のみはく離強度が著しく低下する二重保護された解体性接着材料の開発に成功した。安定性と強度に関しては、当初目標を達成することができ、今後接着強度のさらなる向上ができれば、技術移転も可能と期待される。二種類の外部刺激により効果的に強度が低下する接着剤料を新たに合成し、他方で、市販のセロハンテープと同等あるいはより高い剥離強度を有する接着材料の開発にも成功した。本研究開発により加熱と紫外線によってのみ強度が低下する原理について明確な説明が望まれる。今後実用化を目指す上で原理を明らかにした上で改良することが明確となった。高強度かつ二重外部刺激により接着強度が低下する接着剤料の開発と並行して、工業的規模で合成を行った場合の材料特性についても検討することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
シクロヘキセンからシクロヘキサノンの1段階合成法の開発大阪大学實川浩一郎ナイロン合成の鍵中間体となるシクロヘキサノンを、シクロヘキセンから1段階で收率よく合成できる触媒プロセスの開発を行なった。例えば6,6-ナイロンは、シクロヘキサンをKAオイルに酸化し、さらに環開裂でアジピン酸に導いてから、ヘキサメチレンジアミンとの縮合重合によって合成される。また6-ナイロンは、シクロヘキサノンをオキシム化した後転位させることによってε-カプロラクタムに導き、その開環重合によってポリマー化している。このようにシクロヘキサノンはナイロン合成において重要な存在であり、工業原料として汎用されるシクロへキセン(水素化によってシクロヘキサンに変換する)を出発物質にして、簡便にかつ効率的に合成する触媒システムの開発を行なった。 シクロヘキサンを直接に酸化する従来法はラジカル反応のために反応の制御が困難であり、シクロヘキサノンへの高い選択性(80%)を維持するためには、工業レベルでは低い転化率(5%)での反応操作に限定されていた。これに対して本研究では、シクロヘキサンの前駆体であるシクロヘキセンを出発物質に用い、オレフィン類への水酸基導入反応として、DMA(N,N-ジメチルアセトアミド)溶媒中、PdCl2(塩化パラジウム)を触媒として、3気圧の酸素雰囲気で水の共存下の新規の系で、シクロヘキセンの反応を行なった。その結果、シクロヘキセンからの收率73%で目的とするシクロヘキサノンを一段階で得ることができ、10倍以上の効率をもつ触媒系を開発した。ナイロン合成の中間体となるシクロヘキサノンを高収率(73%)で合成することに成功した。反応後の反応生成物と触媒との分離を容易にする触媒の固定化、触媒ターンオーバー数の向上、その固定化触媒を用いてラジカル反応を抑制する反応条件の検討をすることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
高原子効率ペルフルオロ化によるフッ素化ポリマー合成法大阪府立大学小川昭弥本研究は、ケイ素-フッ素複合材料の創生を目的に、高原子効率ペルフルオロアルキル化によるフッ素化ポリマー合成法を確立し、種々のビニルケイ素化合物に対して、光照射によりフルオラス基の導入を行うものである。研究内容として、1。ビニルポリシランのフルオラス化、2。シランモノマーへのフルオラス基導入、の各々の項目について検討し、ポリシランおよび種々のケイ素化合物に対し、光照射によるクリーンなフルオラス置換基の導入が可能であることを明らかにした。これにより、ビニルポリシランの薄膜上でフルオラス化が可能となり、高い撥水性を発現することに成功した。高原子効率ペルフルオロ化によるフッ素化ポリマーの合成法を達成した。本研究開発によりこの程度の撥水性の向上で、実用性が出るのかの確認することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
バイオジーゼル燃料製造過程から副生するグリセリンの精製とエネルギー化大阪府立大学前田泰昭アセトンを添加した共溶媒法により、石鹸混入の極めて少ないグリセリンを得ることができた。このグリセリンを2.45GHzのマイクロ波を照射して加熱し、99.5%以上の純度のグリセリンを得ることができた。マイクロ波加熱の消費エネルギーは通常の電熱器による加熱の約1/5であった。マイクロ波加熱精製で得られたグリセリンを燃料とした燃料電池を白金触媒を用いて組み立て、その電流値を測定した。メタノールと比較して電流値は約3倍で、より高出力の燃料電池が構築できる可能性が示された。さらにパラジウム微粒子を触媒として燃料電池の構築を図った。微粒子触媒の安定性がまだ十分でなく更なる工夫が必要である。本研究のベースとなる『アセトンを添加した共溶媒法を用い、超音波を照射する方法』は、反応が迅速で、石鹸の副生が極めて少ないという特徴を持つ優れた廃油からのBDF製造技術の見通しを得た。本研究開発により(1)マイクロ波加熱法特有の課題(例えば温度制御方法)およびその解決技術を明らかにすること。設備費、ユーティリティ等の点から他の精製法と比較することも必要である。(2)超音波法で調製した水素活性能の大きなナノ微粒子を燃料電池用触媒として使用するための技術開発(安定的な固定技術)をすることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
低コストのキノキサリン系抗エイズ薬の環境調和型省エネプロセス化大阪府立大学谷森紳治本研究は、低コストのキノキサリン系抗エイズ薬の環境調和型省エネプロセス化を目的に実施した。結果、一段階ワンポット合成法は達成できなかったが、効率的な二段階合成法を確立した。鍵段階の触媒量は、従来の10mol%から1mol%まで低減化することができた。触媒の固相担持化は、現在固相担持触媒の調整を検討している段階にある。また実用性の高い溶媒について種々検討したところ、従来のDMSOから、より工業スケールでの合成に適した1-プロパノールに代替できた。反応のマイクロフロー化も検討した。現在ミキシング等の方法について検討しており、最適条件の確定まで到っていないが、徐々に収率が向上している。以上の検討結果により、実用的な抗エイズ薬の合成が達成されつつある。低コストのキノキサリン系抗エイズ薬の環境調和型省エネプロセス化において、効率的な二段階合成法を確立した。本研究開発により触媒の固相担特化することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
有機ドナー分子ーシアニン複合分子を用いた色素増感太陽電池の開発大阪府立大学藤原秀紀本研究では、シアニン系色素を用いた色素増感太陽電池の変換効率を、10%強にまで向上させることを目標とし、有機ドナー分子であるTTF分子とシアニン部位を結合させた色素分子の合成を行い、良好な光電変換特性を示す色素増感太陽電池の作製を検討した。今回合成した分子では、カルボン酸基の置換や4級アンモニウム塩への変換によっても、光励起-電荷分離状態の形成による光電変換機能性を示した。更に、太陽電池の作製・性能評価を行ったところ、カルボン酸基を2つ有する分子において今回測定した中でも最も良い変換効率(0.16%)を示すことを見いだした。今回、TiO2への吸着力が重要な鍵を握っていることが明らかとなったので、カルボン酸基を複数有する分子の改良を今後展開していく予定である。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。光電変換効率を高める色素増感太陽電池用色素分子構造の一つを確認した。本研究開発により実用化においてもっとも重要なファクターである、太陽電池の変換効率の検討が明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
自己修復性を有するポリマー-クレイナノハイブリッドの創製地方独立行政法人大阪市立工業研究所松川公洋硬い無機物であるナノクレイやシリカナノ粒子がソフトな光架橋ポリマー中に分散した新規ポリマーナノハイブリッド材料を開発し、ある程度の硬度を有する「自己修復性コーティング材料」の開発を目指した。ソフトな光架橋ポリマーとして、ポリチオールとポリエンを用いたエン-チオール反応によるポリマー合成を検討した。ナノクレイ表面にチオール基と反応可能な二重結合を付与することで、エン-チオール反応に効率的に取り込まれる様に変性を行った結果、紫外線照射でポリマー-ナノクレイハイブリッド薄膜を形成できた。柔軟性の指標となるガラス転移温度は、チオールの種類、組成で制御することができ、軽い傷であれば、体温付近での自己修復性が認められた。また、表面処理を施したシリカナノ粒子を用いた光架橋エン-チオール-シリカナノ粒子ハイブリッドは、通常のハードコート材料には見られない柔軟性を示した。ポリマーナノクレイハイブリッド薄膜の調製に成功した。また、通常のハードコート材料には見られない柔軟性を示すハイブリッド材料も作製した。本研究開発により、硬度と自己修復性を検討することが明確となった。ナノクレイを高充填したハイブリッド材料の研究を行うことで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
革新的な表面構造を有する低ファウリング性を付与した中空糸膜の開発と浄水処理への適用神戸大学松山秀人本研究は、膜表面に革新的な表面構造を付与することで表面近傍の流れを制御し、ファウリング抑制能を向上させようとするものである。本申請課題までの検討で、凹凸形状を有する中空糸膜は平滑表面の場合に比べてファウリングが低減されることを見出しており、本課題ではCFD解析を利用してさらなる性能向上を目指した。膜性能の目標値は、初期透水量で1000 L/(m2 h atm)、ファウリングした後の透水量比J/J0で70%を維持するものであったが、形状をCFDにより検討して実際に作製した膜の性能は初期透水量1470 L/(m2 h atm)、J/J0 50%であり、ファウリング後の実透水量で考えれば目標を達成することができた。今後は、凹凸膜の構造をより精緻に制御してさらなる性能向上を目指すとともに、MBR等の水処理についても適用を検討する予定である。PVDFを用いての製膜は困難なためセルロースアセテートブチレート製中空糸を作成し性能試験を行った結果、目標の相対透水量70%は達成できなかったが、初期透水量が目標を上回ったため実流量としては目標を上回った。本研究開発により実操業に対する長期安定性などへの具体的な問題点を抽出することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
化学合成法による各種希少糖の短段階かつ大量合成法の開発神戸大学林昌彦本研究の目標は、自然界に大量に存在するD-グルコース、D-マンノース、D-ガラクトースから希少糖であるD-アロース、D-タロース、D-イドース、D-アルトロース、D-グロースを合理的かつ簡便に合成することである。その実現手法として、不斉ジヒドロキシル化触媒を用いて、糖質内に二重結合をもつD-グルカールなどに対し、ジヒドロキシル化反応で二重結合の上下の面を選択するという方法を考えた。これまでに、2,3位に二重結合を持つグルコース由来の基質に対し、Sharplessの不斉ジヒドロキシル化触媒(AD-mix-α, AD-mix-β)を作用させたが全く反応は進行せず、当初の計画どおりには進まなかった。そこで、触媒制御より先に、基質制御を調べた。すなわち、キラル源を持たないマイクロカプセル四酸化オスミウム(触媒量)とモルホリンオキシド(化学量論量)を用いて反応を行った。その結果、反応は進行したものの、ジオール化が二重結合の上から起こり、希少糖のD-アロースではないD-マンノースが中程度の収率で得られた。今後の展開としては、このジオール化が進行した条件で不斉源を添加し、逆の下からジオール化を進行させること(D-アロースが得られる)、さらに、D-グルコースの代わりにD-ガラクトースを用いることで、上下いずれの面からジオール化が進行しても、それぞれD-タロース、 D-グロースの希少糖が合成できる。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。マイクロカプセル四酸化オスミウムとモルホリンオキシドの組み合わせにより糖質中の二重結合がジオール化されたのを見いだした点を確認した。本研究開発によりもっと様々な試薬を用い、ジオール化反応を検討することが望まれる。
縫合技術を用いたカーボン複合糸から作製する高耐久性バネ材料の開発兵庫県立工業技術センター藤田浩行搬送用振動フィーダーで使用されるCFRP製板バネは、多湿環境下での樹脂の変性や亀裂発生・進展等による搬送能力の低下で、約3ヶ月で交換されている。本研究は、この耐久性を4倍にすることを目標とした。樹脂の耐水性の観点からポリエステルをマトリックスとした炭素繊維強化のバネ材料を開発した。縫合技術を用いて炭素繊維とポリエステル糸からなる複合糸を作製することで、樹脂の含浸性と織物の生産性を大幅に向上させた。また、複合糸から作製した織物の密度や積層構成などを制御することにより、従来の板バネの約1.6倍の耐久性を得ることができた。今後は、糸のうねり変化や高密度化などに対応した製織技術の開発と炭素繊維と樹脂の接着性改善等により目標を達成する。 従来の熱硬化製樹脂に替わり、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維織物で強化したバネ材料の見通しを得た。本研究開発により曲げ剛性を向上させる方法、高密度側の糸を直線上に織る方法など改善が明確となった。今回、実用化に向けた取組みを平行して行うことで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
有機-無機ハイブリッドフィラーによる結晶性・バイオマスプラスチックの加工性、耐熱性の向上奈良県工業技術センター足立茂寛ポリ乳酸(以下、PLA)は結晶化速度が遅く、そのことが成形加工性や耐熱性の悪いことの大きな原因になっている。具体的には、PLAは結晶化速度が遅いために金型内での冷却時間を長くしなければならず、射出成形時のサイクルタイムが長くなり加工コストが増大する。また、ポリ乳酸の軟化点は60℃程度でありポリプロピレン(以下PP)や高密度ポリエチレン(以下、HDPE)と比較すると低い。PLAの結晶化を促進できればこの点についても改善が期待できる。PLAは機械的強度や弾性率などは、他の汎用ポリマーと比べて遜色ない物性を持っており、結晶化しにくいという欠点が解決されれば利用用途は大きく広がると考えられる。そこで本研究ではPLAにかご型シルセスキオキサン(以下、POSS)有機-無機ハイブリッドフィラーを合成し、ポリ乳酸に混合することによって、ポリ乳酸の結晶化と耐熱性を向上させることを目的とした。まずフィラーの合成については本研究で新規に合成した2種類を含めて、置換基が異なる合計8種類のフィラーを合成した。ポリ乳酸の結晶性については、フィラーを加えることで結晶化を促進する効果が見られた。効果の程度はフィラーの分子構造によって違いが見られた。また、一部のフィラーについては耐熱性向上の効果も見られ、高温状態での軟化が少ないという結果が得られた。今後は、ポリ乳酸以外の結晶性ポリマーに対するPOSSフィラーの効果も調べる予定である。PLAにかご型シルセスキオキサン(POSS)有機-無機ハイブリッドフィラーを合成し、ポリ乳酸に混合して、PLAの結晶化時間の短縮を確認するなど結晶化と耐熱性の見通しを得た。本研究開発により物性向上メカニズムの解明や、そのための最小フィラー濃度の決定や機械的特性の測定など実験条件等の確立することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
抗酸化能・高機能性を有する両親媒性デンドリマー-金・白金ナノコロイドの開発奈良女子大学吉村倫一本研究では、化粧品への実用化を目指して、高い抗酸化能を有する金または白金ナノ粒子の開発を行った。ナノ粒子の保護剤として、アルキル鎖数およびデンドリマー数の異なる3つのTadpole型、ジェミニ型およびトリメリック型両親媒性デンドリマーを分子設計・合成した。これらの両親媒性デンドリマーは、従来の界面活性剤と同様に気/液界面に効率よく吸着・配向することができ、水溶液中で特異な会合挙動を示すことがわかった。また、両親媒性デンドリマーを保護剤とすることで数nmのサイズの安定な金および白金ナノ粒子が得られ、デンドロンの世代や金属との濃度比を調節することにより高いDPPHラジカルの消去活性を示すことが明らかになった。技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。Tadpole型両新媒性デンドリマーの合成および金、白金ナノ粒子複合体の合成を確認した。本研究開発によりキトサンとビタミンCの活性酸素消去活性が80倍よりも高いかどうかの課題。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
低環境負荷型反応を指向した有機金属錯体含有デザイン酵素の創製奈良先端科学技術大学院大学松尾貴史精密分子設計に基づき合成した有機金属錯体を用いて、天然には見られない高度触媒機能を持つデザイン金属酵素の創成を試みた。入手容易なセリンプロテアーゼ(加水分解酵素)の活性部位へ、有機金属錯体を位置選択的に導入するために、素材となる酵素に対して不可逆的阻害剤として機能する化合物の化学構造をもつ有機金属錯体を合成し、素材タンパク質本来の機能を応用して新規金属酵素を構築した。導入する金属錯体の効率的合成法の確立、構築した金属酵素の精製、同定、生化学的性質の検討を行い、この酵素を用いた「水中における炭素ー炭素結合生成反応」を実施した。本研究により、水中において高難度の触媒反応を達成でき、その成果は、生成物と触媒の分離が容易な低環境負荷型の物質変換システムにつながるものと考えられる。有機金属錯体含有酵素の構築およびその酵素を用いたオレフィンメタセシス閉環反応は期待通りの結果が得られた。本研究開発により実用化を意識した研究方針と視点が欲しい。酵素分子の導入による飛躍的効果は観測されていないが明確となった。実用に向けたTPCKとグラブス触媒部位をつなぐリンカー部分の長さを検討する等、反応機構的な基礎的データを蓄積することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
キチンナノファイバーで補強した高強度、高機能性繊維の開発鳥取大学伊福伸介キチンナノファイバーを補強材として配合した繊維の開発に成功した。また、配合効率の向上につながる多彩な表面改質方法を確立した。更にキチンナノファイバーの諸物性、諸性質のデータを集積するとともに、その生体への効果・効用に関する重要な知見が見出された。すなわち、キチンナノファイバーを皮膚に塗布することによって、短時間で真皮の厚みおよび皮下のコラーゲンの密度が増大することが見出された。よって、今後は補強材としてのみならず、これらの生体への機能を活かしたキチンナノファイバー配合繊維を用いた多彩な利用展開が期待される。耐熱温度、弾性率はナイロンやテトロンより優れ、破断強度も適正なナノファイバーを開発したことを強調したい。高強度・高機能性の具体性と設定値。物性の基礎データとして比重を測定すること、および繊維強度をg/dで示してもらいたい。生体材料による国内繊維産業等の活性化を大いに期待したい。
ナノ細孔空間を利用した超高活性原子状パラジウム触媒の創成鳥取大学奥村和これまで、Pd/USYに水素をバブリングしながら鈴木カップリング反応を行うことで、USYゼオライトの細孔内で原子状パラジウムが形成し、反応活性が顕著に増大することを見出してきた。「水素バブリング法」をより簡便な「ヒドラジン添加法」に変えた検討をおこなった。SPring-8のシンクロトロン放射光を使った解析を行い、原子状パラジウムの形成過程を観察することに成功した。IRMS-TPD法によって原子状パラジウムに対するUSYゼオライトの酸点の効果を考察した。触媒の実用化にとって課題となる簡便な調製法の開発や、高価なパラジウムの有効利用を目指した不均一系Pd/USY 触媒への展開の見通しを得た。本研究開発により触媒の熱的安定性に問題あることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
遷移金属を用いる有機薄膜太陽電池用の共役系有機分子の創製岡山大学西原康師本研究では、太陽光を良く吸収する新規な電子共役系有機半導体の開発を目的として、遷移金属錯体を出発物質として用いて、アルキン類の反応によるメタラサイクルの形成、それに続く金属と硫黄の交換反応を利用したチオフェン誘導体の合成をおこなった。その結果、テトライソプロポキシチタンを出発原料に用いて低原子価のチタン錯体を発生させ、アルキンとの反応によりチタナシクロペンタジエンを形成することに成功した。チタン金属周りの立体反発が軽減されたため、フェニル基のような大きい置換基をもつ内部アルキンを用いてもチタナシクロペンタジエンが形成でき、さらにチタン部位を硫黄で置換することにより、チオフェン誘導体の合成が可能となった。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。チタナシクロペンタジエン及びチオフェン誘導体の合成に成功した。本研究開発により電池としての評価に絶えられるようなサイズの試料作製法の検討、および電池としての評価に絶えられるようなサイズの試料作製法の検討課題が明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
実用的な不斉アリル化剤(Nokami アルコール)の開発岡山理科大学野上潤造アルデヒド(R’CHO)の不斉2-アルケニル化による光学活性ホモアリルアルコール、R’C*H(OH)- CH2CH=CHR、の直接的な合成法は無かった。我々はそれを実現できる反応を開発しAllyl-Transfer 反応と命名した。これに用いる不斉2-アルケニル化剤 (Nokamiアルコール:王立(イギリス)化学会誌のコラムでそう紹介された) は光学活性メントンに対応するグリニヤール試薬を作用させて調製できる。本研究はこのNokamiアルコールを用いるアルデヒドの2-アルケニル化の実用化を目指して、その大量生産の可能性を検索した。その結果、粗成生物を精製するよりも精製を必要としない製造法を検索すべきと判断するに至った。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。当初の目標である合成法が開発されたことを確認した。本研究開発により申請段階で強調していた大量合成法の検討が未着手の点での検討課題が明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
クラウンエーテルの運動性を利用したリチウムイオン二次電池用ポリマーゲル電解質の開発とイオン伝導度向上に関する研究山口大学山吹一大本課題では、化学ゲルと物理ゲルとの両方の特性を有する新規ポリマーゲル電解質を合成し、液漏れの防止ならびにイオン伝導性向上システムの開発に関するものであり、具体的には、クラウンエーテルの環状分子を動的な架橋点とすることで、リチウムイオンの移動効率(イオン伝導度)の向上を図った。目標値として10^-2 S/cmを掲げていたが、結果として10^-3 S/cm程度の値に留まった。しかしながら、電解液の使用量を極力低減させた状態での結果であるため、ネットワークなどの網目のサイズなど変化させ膨潤度を高めることができれば、10^-2 S/cm以上の値が期待される。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。イオン伝導度は向上したことは確認したものの、目標値の10分の1のイオン移動効率では、更なる検討が必要と思われる。本研究開発により電解質と電解液の最適化ならびに、クラウンエーテル誘導体とアルキルアンモニウム塩の構造の改善が望まれるが、今後コストと性能との観点から今後はクラウンエーテル誘導体から脱却することも視野に入れた研究開発が望まれる。
光機能材料の創出につながる有機ホウ素試薬の開発山口大学村藤俊宏特異なπ分極能を有するアズレン骨格をポルフィリンなどの有用な機能性π電子系へ導入すると、従来には見られない光機能性が発現する。このような状況を踏まえ、申請者は光機能性の飛躍的な向上に寄与するアズレニル基を様々なπ電子系へ導入可能にするため、ホウ酸エステルのクロスカップリング反応に着目した。本研究では、1-アズレニルホウ酸エステルを簡便かつ高収率で合成するための方法論を開発し、クロスカップリング試薬としての有用性を明らかにした。研究開発は順調に進み、得られた成果については、特許出願を済ませている。技術移転を含め、カップリング試薬としての今後の展開が期待されている。アズレン誘導体の合成に必要なアズレニルボロン酸エステルの合成法を確立して、そのクロスカップリングによる誘導体合成に成功した。本研究開発により反応スケールの記述がなく、反応の後処理、収率80%の残り20%についての記述がない。今回、従来品との比較することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
コンビナトリアル合成法を基盤としたフレロプロリン類の合成徳島大学河村保彦フレロプロリン類(ピロリジノフラーレン)は、医薬業界および産業界においてニーズの高い化合物である。この化合物は通常付加環化により合成されるが、一般にその収率は低く場合により2-3%に留まることも例外ではない。これまでの研究を背景に本研究では、ポリマービーズを基材としたコンビナトリアル合成法を適用したところ、著しい収率の向上(6倍-30倍程度)と溶媒使用量の低減が実現できた。また従来法で目的物の収率向上を阻害している原因は、反応時の付加環化と逆反応の競争によることも明らかにした。これらの研究から、フレロプロリン類の高収率合成を実現する方策が見出された。著しい収率の向上をみた。本研究開発により溶媒、反応ステップ、コスト等におけるさらなる技術的課題の克服した。応用への具体的なターゲットの設定ができることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
空気中に存在する二酸化炭素の有機分子への効率的固定化反応の開発徳島大学吉田昌裕二酸化炭素は化学の観点から有用な炭素資源として注目を集めており、二酸化炭素の有機分子への固定化に関する研究が現在盛んに行われている。しかしながら二酸化炭素の固定化には高温、高圧下や超臨界状態等、特殊な条件下で行う場合が多く、より効率的かつ温和な条件下で進行する反応の開発が強く望まれている。最近実施者は有機強塩基存在下において、空気中に含まれる二酸化炭素を固定化できることを発見した。今回本研究の更なる展開として、空気中に無尽蔵に存在する二酸化炭素の高効率的かつ汎用的な固定化反応の開発を行った。空気中の二酸化炭素を効率的に反応させオキサゾリジノン環の効率的な合成手法を見出した。本研究開発により0。03%程度の空気中の二酸化炭素を固定化することを目的とすることは現実的ではない。実用化に向けたCO2の大量固定化を再考することで、技術移転に向けた研究開発の明確化が期待される。
嵩高い3級アルコールの簡便なエーテル化およびエステル化反応の開発徳島大学三好徳和嵩高い3級アルコールに対し、反応系中にてヨウ化メチルストロンチウムを用いてストロンチウムアルコキシドを生成させ、酸塩化物を作用させることにより、エステルを得る予備的知見を得ていた。これを基に、種々の嵩高い3級アルコールの簡便なエステル化反応の開発を行った。この手法は、用いることのできる嵩高いアルコールの汎用性を高めるものである。実際行ったところ、高収率にて対応する嵩高いエステルを得ることに成功した。本手法は実用化に向け有用性を秘めており、今まで合成困難であった種々の嵩高い3級アルコールのエステルを簡便に合成でき、機能性材料等に幅広く応用できると考えられる。当初の目標の嵩高い3級アルコールの簡便エステル化反応の開発は達成した。本研究開発により企業化を目的とする以上、もっと有用性の意味を出す必要が明確となった。今回、金属Srとヨウ化メチルによるストロンチウムアルコキシド合成の反応機構を解明して、Srの触媒としての役割、“ストロンチウムマジック”の原因を究明し、更なる収率の向上を目指すことで、技術移転の可能性が生まれる。
カチオン交換能およびエーテル加水分解能を有するケイ酸アルミニウムを利用した新規抗菌-芳香性ハイブリッドの開発徳島大学白井昭博非晶質ケイ酸アルミニウムに備わったカチオン性化合物の加水分解特性を利用する抗菌-芳香性ハイブリッドの構築を目標とした。第一目標は、カチオン性の抗菌性残基と芳香性残基をエーテル結合で介した機能性カチオン化合物を合成し、ケイ酸アルミニウムに担持することであった。第二目標は、その担持物の加熱処理による加水分解性の評価であり、第三目標は、抗菌性残基と芳香性残基の徐放特性と、徐放溶液の抗菌性を調べることであった。各目標の達成度は、第一目標を80%、第二目標を100%、第三目標を80%とした。今後の展開は、穏和な条件で加水分解反応が進行する新規化合物を担持させたハイブリッドの開発が望まれる。抗菌力と芳香効果の持続性を追求した新規材料の開発であり、その芳香成分と抗菌成分が共に徐放される点に新規性があると思われる。本研究開発により、芳香成分と抗菌成分が加水分解反応を経て同時に徐放されたことで、より新規ハイブリッド材料が開発できることが期待される。
ヒアルロニダーゼ阻害活性を指標としたアンチエイジング化粧品の開発香川大学掛川寿夫本研究の目標は、ILG(イソリクイリチゲニン)配合化粧品の実用化である。ILG配合化粧品は、組織中のヒアルロン酸の代謝分解を抑制し、エイジングやアトピー性アレルギー等による皮膚障害を防御する新しいコンセプトのアンチエイジング対策化粧品である。本研究で製作されたILG配合化粧品には、強力なヒアルロニダーゼ抑制作用、抗酸化作用及びフリーラジカル消去作用のあることが確認された。また、ILG配合化粧品中には、抗原抗体反応による肥満細胞からのヒスタミン遊離を十分に抑制できる濃度のILGが配合されている。本研究により、アトピーや敏感肌にも効果が期待できる新しいアンチエイジング対策ILG配合化粧品を実用化することに成功した。ILG(イソリクイリチゲニン)配合化粧品におけるヒアウロニダーゼ抑制作用に対して見通しを得た。本研究開発により種々の疾患の改善効果がみられるが、それぞれの作用機序を明確にしてもらいたい。今回ヒアウロニダーゼ抑制に必要なILGは、比較的高濃度であり、今後の展開には安全性と副作用の検討することで、実用化するうえでの研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
フタロシアニン類の熱変換型潜在色素の開発愛媛大学奥島鉄雄半導体材料としても期待されているきわめて安定な有機顔料であるフタロシアニン類の熱変換型可溶性前駆体の効率的な合成法の開発と半導体素子作製と動作を目標に研究を行った。反応スキームを検討することで別ルートでの前駆体合成に成功したほか、分子設計を新たに行うことで収率よく新規構造を有する可溶性前駆体を合成することができた。前駆体を用いた溶液法による薄膜作製と膜状態での構造変換によりフタロシアニン薄膜を作製し、これを用いた電界効果トランジスタの作製と動作に成功した。顔料に対して真空蒸着を用いない低コストかつ大面積化可能な製膜技術は商品化に向けて魅力的な手法であり、今後はフタロシアニンの安定性が生かせる有機薄膜太陽電池などへ展開する。熱変換によってフタロシアニンとなる可溶性前駆体の合成に成功した。素子構造の最適化することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
光線力学療法の光増感剤を指向した脂溶性蛍光ホスホニウム塩の開発福岡大学塩路幸生本研究は、長波長領域に蛍光及び励起波長を有する蛍光性置換基をもつ脂溶性ホスホニウム塩に電子供与基を結合させることで光誘起分子内電子移動起こす新規の光増感剤あるいは光触媒となり得る化合物を開発することを目的とした。まず、蛍光性置換基として、450 nm付近および600 nm付近に励起波長、500 nm付近および650 nm付近に蛍光波長をもつ蛍光団を選び、それらが結合するホスホニウム塩を合成し、さらに電子供与性の原子団を連結させることで目的とする化合物の合成を試みた。目標とする蛍光特性を有する蛍光性ホスホニウム塩の合成が可能であったが、目的とする化合物の合成には至っていない。今後それらを合成し、細胞殺能力及びその能力のしくみについて明らかにする。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。ペリレン誘導体の合成法で、総収率がペリレン部位を基準として、2%に留まったものの、前駆体は得られたことを確認した。本研究開発により、研究開発スピード、化合物の精製法の改善が明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
2-(N-保護アミノ)-1、3-プロパンジオール類の触媒的不斉変換長崎大学尾野村治入手容易な2-(N-保護アミノ)-1、3-プロパンジオールを原料とする、キラル分子素子の触媒的合成法開発を目指し研究に着手した。特に競合する酵素法では困難なスルホニル化に焦点を絞り鋭意検討し、上記ジオールの一方の水酸基だけをエナンチオ選択的に不斉非対称化できる手法を見出した。その結果、医薬中間体や不斉配位子の原料として有用な光学活性オキサゾリンを一挙に合成できるようになった。本方法は基質適用範囲が広く、従来法では難しかった四置換不斉炭素を有するオキサゾリン合成に特に有効であった。光学活性化合物の製造で実績のあるナガセケムテックス社が本方法を触媒効率、反応操作の簡便性の点からも高く評価し、共同で特許出願した。キラルオキサゾリン誘導体の合成法を見出し、基質汎用性についても明らかにした。本研究開発によりプロパンジオール誘導体からモノスルホニル体への誘導化反応は収率、光学純度、基質汎用性等の点で不十分であるが明確となった。本合成法の医薬品中間体等の合成における位置づけを明確にすることで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
DNA選択分離剤としての表面ナノ構造制御セルロース粒子の開発熊本大学坂田眞砂代本研究課題では、生体関連物質水溶液から核酸 (DNA) を高選択的に吸着するDNA分離剤の開発とその実用化を目指す。具体的には、表面開始原子移動ラジカルリビング重合法により、高分子ビーズにポリカチオン等の官能基を化学修飾することにより、化学的に安定で、再利用可能なDNA分離剤を調製する。同分離剤をクロマトグラフィ用カラム充填剤として用い、血液製剤等の注射用タンパク質水溶液から有効成分であるタンパク質を吸着することなく、不純物としてのDNAのみを選択吸着除去することを目標とする。注射溶液中の不要なDNAを10 ng/mL の濃度以下に吸着除去し、かつ有効なタンパク質の95%以上の回収率を目指す。ポリマー鎖密度、ポリマー鎖長の異なるpolyDMAPAA修飾セルロース粒子を調製し、DNA吸着特性の最適化を図った点。DNA吸着容量が従来の吸着剤の3倍程度であることを見出した。本研究開発により基体の細孔径の大きさとDNA選択吸着能の関係を明確することで、研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
ハイドロ・オルガノナノハイブリッドゲルを用いた生体関連物質統合分析システムの構築熊本大学國武雅司生体関連物質の高感度分析法への応用を目指し、オルガノゲルとハイドロゲルがナノスケールで共連続的に融合したハイブリッドゲルを担体としたキャピラリィ電気泳動カラムを開発することを目指した研究を行った。両連続相マイクロエマルションをベースとしたハイドロ・オルガノハイブリッドゲルがキャピラリーゲル電気泳動の担体として利用出来ることを明らかにした。ミクロ水相とミクロ有機溶媒相の界面を利用した新しい分離手法への可能性が明らかとなった。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。両連続相マイクロエマルジョンをベースとしたハイブリッドゲルが電気泳動の固定相として利用可能であることを見出した点を確認した。アクシデントで遂行されていないキャピラリー電気泳動装置での実際の分離の確認を早急に行う必要が明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
瞬間的高圧処理によるエマルジョン化とその燃焼性の評価熊本大学嶽本あゆみ油中に水粒子を分散させたエマルジョン燃料は、燃焼効率が高まり環境負荷の軽減に効果がある。しかし従来技術では、乳化維持のために界面活性剤の添加や攪拌処理が必要である。分離状態の水と油に対して瞬間的高圧すなわち衝撃波を負荷することで、界面活性剤を用いずに水を細粒化することで安定した乳化状態を作ることができる。本研究課題は、瞬間的高圧処理によって低コストで安定したエマルジョン燃料を製造する技術確立を目指し実施された。衝撃波処理条件と乳化状態との相関データは、軽油中に分散した水粒子の粒度分布が、ほぼ一ヶ月間にわたり安定して変化しない衝撃波圧力、衝撃波処理回数条件を明らかにした。燃焼試験では、CO2以上の温室効果ガスであるN2Oの排出量が大幅に軽減した。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。安定なW/Oの形成を確認した。本研究開発により技術的進歩が足りない。特に燃焼性評価が足りないことが明確となった。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。

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