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概要

JST20周年記念誌JapanWay0203

第1章│科学技術イノベーションの創出した。同宣言は、これからの科学技術は知識の生産だけでなく、「どう使うのか」に軸足を広げ、「知識のための科学」に加えて、「平和のための科学」「開発のための科学」「社会における科学と社会のための科学」という三つの理念を新たに掲げた。その翌年、わが国では当時の科学技術庁が「社会技術の研究開発の進め方に関する研究会」(座長・吉川弘之日本学術会議会長〈当時〉)を設け、「社会の問題の解決を目指す技術」「自然科学と人文・社会科学との融合による技術」「市場メカニズムが作用しにくい技術」の三つを「社会技術」として推進していくべきとの報告をまとめた。それを受け、JSTと当時の日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)が2001年に「社会技術研究システム」を共同で発足させた。JSTは研究課題をボトムアップで吸い上げるプログラムとして、公募型の3領域(「社会技術/社会システム論」「脳科学と教育」「循環型社会」)を立ち上げた。また、日本原子力研究所との連携および社会との交流のために「社会技術フォーラム」も設置した。その後、日本原子力研究所担当部分が移管され、JSTが一括して事業を実施することになり、2005年に社会技術研究開発センター(RISTEX)が発足した。2007年には1計画段階における社会的な問題の俯瞰および研究開発領域の探索・抽出機能の拡充、2提案公募事業への全面的移行、3研究開発における関与者との協働および社会実装の重視、を柱とするシステム変更を行った。その新しいシステムの下で、「犯罪からの子どもの安全」および「科学技術と人間(科学技術と社会の相互作用)」の2研究開発領域と、「研究開発成果実装支援プログラム」が発足した。以降、「地域に根ざした2011年3月11日、科学的防災教育が生かされた「釜石の奇跡」提供:片田敏孝群馬大学大学院教授脱温暖化・環境共生社会」(2008年)、「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」(2009年)、「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」(2012年)、「持続可能な多世代共創社会のデザイン」(2014年)という研究開発領域が、また、文部科学省の検討方針に基づきセンターとして取り組むべき課題・分野を設定する研究開発プログラムとして、「問題解決型サービス科学」(2010年)と「科学技術イノベーション政策のための科学」(2011年)が発足した。■津波防災啓発活動や発達障害の早期診断で成果最初に発足した2研究開発領域が2012(平成24)年に終了したことを踏まえ、RISTEXはこれまでの取り組みや成果などを振り返って今後の運営の方向性や取り組むべき研究開発等について検討を行い、2013年に「社会技術研究開発の今後の推進に関する方針」とその実現のためのアクションプランを策定した。これを受け、2014年には、社会問題の俯瞰・抽出ならびに新規研究開発領域の設計に関する活動を推進するとともに、過去の成果や取り組みの分析、類型化・体系化の取り組みを実施する組織として、「俯瞰・戦略ユニット」を創設した。2015年には、この新しい体制・コンセプトの下で、最初の研究開発領域となる「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」が発足した。これまでの顕著な成果として、津波災害総合シナリオ・シミュレータを活用した津波防災啓発活動が実を結び、東日本大震災当日、釜石市では登校していた約3,000人の市内小中学生全員が無事に避難することができたこと(片田敏孝群馬大学大学院教授)や、発達障害の子どもの早期診断に関わる研究成果に基づき作成した乳幼児自閉症チェックリストの1項目が、母子健康手帳の改定に際して取り入れられたこと(神尾陽子国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童思春期精神保健研究部部長)などが挙げられる。引き続き、社会的問題の俯瞰・抽出→領域設定→研究開発マネジメント→評価→社会実装に至る知見や方法論の蓄積を基に、広く対外的な発信を続けながら、RISTEXモデルを確立していく。55