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概要

JST20周年記念誌JapanWay0203

第1部│展望編のである。しかし、知識を体系化するという作業そのものが、インターネットの時代では、何十年もかけられるような作業ではなくなってきた。昨日聞いた知識が今日は違うデータになっている。そんな可能性すらあるように、知識体系が流動的で、フラットになっているのである。もはや大学の中だけに情報をしまい込み、時折、社会に小出ししてお金を稼ぐような時代ではないのである。もっとも、大学も新しい存在にならなければいけないということを、研究者は本能的に感じている。何事もオープンになっている時代で、大学というものの存在が今、非常に難しくなっている、と知っているからである。大学がこうした状況にある中で、JSTの存在理由がますます大きくなっている。■情報事業の立て直しは喫緊の課題歴代のJST理事長が一様に指摘しているように、JSTの情報部門は世界の流れから遅れてしまっている。一朝一夕にはできないが、今、私自身が参加して進めつつある研究がある。「研究の研究」つまり研究動向のメタ解析を試行している。日本全体で研究者たちはどういう方向へ動いており、どういう領域で何をやっているかがもっとよく見えるようにすることである。JSTだけでは力が弱いので、外部の機関とも協力して、議論を進めている。「見える化」したデータを基に政府などにもっとはっきりと提言し、政治家の方々にも「ああ、ここは大切だな」と実感していただけることを目指している。ただ「研究開発にもっと投資してください。まだ足りません」というだけでは、「すでにたくさん出しているではないか」という議論になってしまう。「今、この分野ではこういう若手研究者が育っていますから、この人たちにもっと資金がいくようにすることが必要」というような具体的な話をしないといけないと考えている。JSTが世界で3番目、日本で最もイノベーティブな国立研究機関であると、2015(平成27)年、国際通信社ロイターから評価された。基になったのは、国際情報サービス企業「トムソン・ロイター」のデータベースである。この他、質の高い研究論文数などを基にした研究機関や大学の世界ランキングが、毎年、海外の機関から発表されている。しかし、これは大いに問題である。現在、利用可能なデータベースでわれわれにとって一番問題なのは、日本人研究者の実際の正確な像が見えないことである。「M.HAMAGUCHI」と出てきても男か女かも分からなければ、名古屋大学の「M.HAMAGUCHI」と、米ロックフェラー大学の「M.HAMAGUCHI」が同じ人物かどうかも分からない。われわれが「名寄せ」と呼んでいる作業がなかなかできないのである。若手にどういう人がいるのか、例えば30~35歳くらいの年代でこれはと思う研究論文を発表している研究者を探そうとしても、どのデータベースからも引っ張り出せない。ほてん今、それらを補?するものとして、リサーチマップをしっかりしたものに作り上げようという議論を始めた。文部科学省の科学技術・学術審議会に総合政策特別委員会があるが、そこでもITを活用してリサーチマップをバージョンアップしようという議論が進んでいる。■黒子役返上してフロントラインにJSTの理事長になって、その責任は前職の国立大学総長と異なる質の重さを実感している。国立大学は86あるが、JSTは一つしかない。しかしながら、改めてよく見ると、JSTの職員は遠慮しているところがある。もはや「黒子に徹する」といった言葉は、忘れなければいけない。時代は、JSTがフロントラインに登場することを求めている。JSTの全役職員が大学や産業界の皆さんとさらに協働を深め、全力で職責を果たす必要がある。日本の科学技術を推進し、近未来の日本に希望をもたらす「イノベーションのナビゲーター」役が立派に果たせるよう、JSTの改革にまい進する。48