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概要

JST20周年記念誌JapanWay0203

第1部│展望編直接雇用をやめた現在、現場では学生の教育など大学での仕事、科学研究費補助金(科研費)など他の研究助成制度の支援によって進めている仕事と、JSTの研究資金提供によって進めている研究が混然一体となっているのが現実だといえる。結果的に、おそらく研究者の意識としては、JSTというものの存在がややかすんでいるのではないかと心配している。もっと大きな問題は、選ばれた研究者がJST支援の研究を進めるための時間、環境、情報を、JSTが大学との契約できちんと整備していない点だ。国立大学が法人化して以後、大学の先生たちが共通して訴えるのは、研究に充てる時間が減っているという悩みである。また、長期的な研究ができなくなったという不満である。言い換えると、挑戦的、革新的な研究がやりにくいということである。先ほど述べた通り今の日本の研究状況、総体的な1独創的な研究開発に挑戦するネットワーク型研究所の確立未来を創る人材の育成53濵口プラン力が落ちてきている現状の背景に、こうした研究者集団の中で研究者一人一人が感じている苦しさがあり、それが日本の研究力低下というデータに表れてきているように私には見える。「ネットワーク型研究所になる」とJSTがあえて名乗りを上げることによって、研究者に自分が本当にやりたいと思っている挑戦的な研究に集中していただけるような環境、時間を確保してもらいたい。そのような契約を大学と結ぶことで、今の状況を変えていきたい、というのが狙いである。JSTのためにネットワーク型研究所をやるのではなく、私たちが責任を持って選んだ優秀な研究人材が、十分に実力を発揮できる環境を整えるために、それが必要だということである。ハワード・ヒューズ医学研究所の方法は、理事長就任後すぐに訪問してよく調査した。一番印象的だったのは、5年計画の研究支援課題を選ぶのに複数の審査段階が2未来を共創する研究開発戦略の立案・提言4地域創生への貢献JSTの多様性・総合力を活かした事業運営あるが、最初はポスドクが審査することだ。若い人が見ると、これは面白いという研究テーマとこれは何にもならないというテーマははっきり分かれる。見方がシャープなのである。日本の場合、まずこの辺りからして異質であり、若い人を信頼していない傾向がある。■産業界・社会との橋渡し機能の強化ネットワーク型研究所の特徴として、イノベーションの推進と、産業界への橋渡し機能の強化を挙げている。JSTの研究は、研究開発の成果を社会へつなぐ橋渡しをして、社会的な価値を持つものを創り上げるべきだと考えるからである。これまで、戦略的創造研究推進と産学連携の事業は別枠で動いていた。産学連携のいろいろなプロジェクトが走っているが、それぞれが独立して審査、資金提供、評価を行っている。しかし、IoTとかビッグデータが出てきた時代にあっては、こうしたやり方では十分に機能を発揮することはできない。基礎戦略、基礎研究から応用研究、実用化という段階を踏んで社会実装を実現していく時代ではないという認識が、世界的にも広まっている。米国立衛生研究所(NIH)のコリンズ所長も、「段階的にイノベーションを生み出すというのはもう古い」と言っている。基礎研究と応用が一体化して進んでいくことが、今やイノベーションを生み出すシステムになっている。iPadなどを見ても革新的な要素がいろい44