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概要

JST20周年記念誌JapanWay0203

第2章│不易流行ミッション(任務)を明確にすることが必要だと痛感している。こうした事業運営で間違いなく弱い面がある。法人化して10年になる国立大学のマネジメントをずっとやってきた経験からいうと、JSTの改革は大学より遅れているのである。もう一つの大きな課題として、学術の信頼性を損なういろいろな事件が起こっている。データの改ざん、論文の盗用、あるいはもっと深刻な研究費の不正使用などである。近年、さらに深刻化していると感じるのは、従来こうした行為は、倫理性の欠如あるいは低下が基になった個人が起こす行為だったのが、この2、3年は組織的としか思えないような行為が多くなっていることである。複数の人間が組織的、継続的に論文の改ざんを行い、それも数十本も出して、その結果として博士号を取る人まで出てくるようなことまで起こり、大きく信頼を失う結果となったのである。その背景に、大学を中心とした研究者が疲弊しているという現状があり、それがこうした不正となって表面に出てきたのではないかと思う。研究の公正性をきちっと確保していくことが、JSTの仕事としてより一層重要になっている。さらに、5年後、10年後をどうつくっていくか。濵口プランの2番目と3番目に掲げた「未来を共創する研究開発戦略の立案・提言」、「未来を創る人材の育成」は、ますます大きくなるJSTの責任を明確にしたものである。あそこに優秀な先生がいる、ここに面白い研究があるということで研究費を投入し、後はよろしく研究をしてもらえばよい。そんな時代では、もはやないのである。日本の強さはどこにあるのか、弱点は何か、日本的なすごみを持つ新しく生まれつつある研究はどこにあるか。ビッグデータを用いて分析し、客観化しながら未来の課題を解決し、さらに新しい価値を創造していくために研究者を組織化して、一つの目的の下で働く。求められているのは、そうしたマネジメントである。同時に、かなり落ちてしまった科学技術に対する信頼を回復する。さらに、科学技術が持っている力の限界、あるいは真理というものの不確実性を、もう少し一般の方々に理解していただいて信頼を取り戻すという作業が必要と考えている。こうしたことが、「未来を共創する研究開発戦略の立案・提言」のポイントである。「未来を創る人材の育成」では、伸びつつある若い人材に私たちの支援をきちんと届け、10年後に彼らが十分に活躍できるような準備をしていただくことが、今は本当に重要だ、と考えている。■ハワード・ヒューズ医学研究所型の研究組織を目指す濵口プランの1番目に掲げた「独創的な研究開発に挑戦するネットワーク型研究所の確立」とは、簡単にいえば「ハワード・ヒューズ医学研究所」型の研究組織を目指したいということである。この研究所は私的な研究機関で、発足時は独自の研究所を持っていなかったのが特徴である(現在は少し持っている)。基本的な研究支援法は、クロスアポイントメント、つまり大学に所属している研究者とも雇用契約を結び給与を支払うという形であるため、大学も助かるのである。革新的な研究を5年間支援するという目的が最大の特徴で、研究者を選ぶ審査も、その研究者しか持っていない技術をしっかり調べることが要点となっている。その技術を実用化して成果を出せば、関連する業界が大きく変わるような人材を米国中から探し出して、テーマを設け、その目標のためにきちんと研究できるシステムである。テーマを設定して研究者に研究資金を提供するというスタイルは、JSTも同じである。違うのは、ハワード・ヒューズ医学研究所の方が人材の選定が非常に先鋭的であることと、研究所が研究者に給与を払っていることである。かつてJSTは、研究者と雇用契約によるクロスアポイントメントの先駆けとなった時期がある。プラス・マイナスの両面の評価がありマイナス面が大きいことが強調されて、直接雇用という形はやめることとなった。しかし、実際に直接雇用を体験された大学の先生たちに聞いてみると、JSTと契約した研究については1週間のある時間、JSTのオフィスで研究するため、その時間帯は大学の仕事から離れて研究に集中できる時間が確保できる、それぞれの機関の責任の下で業務を行うというメリットを挙げていた。43