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概要

JST20周年記念誌JapanWay0203

第1章│社会の変化と共に広がったJSTの役割された時期でもあった。2011~2015年の5年間の回答の変化を分析した調査結果から、自然科学における分野間連携、官民一体の海外展開、政府主導プロジェクトの実施、規制緩和などにおいて、一定の進展が見られたと評価する声が高まってきていることが分かる。他方、大学部局や各教員に配分される基盤的研究費の減額や、博士課程進学者の質の低下など、大学や公的研究機関における研究人材や研究環境といった、基礎研究など、研究活動の基盤が脅かされているという危機感が増大していることも明らかになった。この調査報告書公表に当たり、同調査委員会委員長を務めた阿部博之氏(元総合科学技術会議議員、元東北大学総長、現JST特別顧問)は見解を公表している。阿部氏はその中で、2016年度からの第5期科学技術基本計画期間中に取り組む必要があるとして、次のような課題を挙げている。(1)若手教員・研究者が長期的な展望をもって独立して研究に打ち込める環境を雇用面も含めて確立する。(2)大学教員は自覚と責任を持って学生の自立を促すような教育を行い、また、給与などの経済的支援を通じて博士課程後期の魅力を向上する。(3)独創的な研究成果が減少しないよう想定外のプロセスや結果に対応する柔軟な研究マネジメントと評価を行う。(4)大学教員の研究時間を減少させないように大学が組織的に取り組む。(5)科学技術やイノベーションを考える上で核となるような事項に対し、継続性に留意し長期的な視点を持った施策を実施する。日本の研究基盤をめぐる状況は相当深刻で、科学技術政策を進める上で多くの課題に直面していることを、総合科学技術会議議員も経験した阿部氏が認めざるを得ないという事実は、JSTとして重く受け止める必要がある。JST発足前から事業の核ともなってきた基礎研究推進事業だけをとっても、課題が浮かぶ。「2段ロケット型研究推進システム」の2段目を担うと北澤宏一が表現したJSTの基礎研究推進事業については、学界、産業界から基本的な支持が得られているとみられる。ただし、画期的基礎研究成果であるロケットの搭載物をどのように選び、それをイノベーション創出に至るどの地点まで運び上げるか、については、なお議論の余地があるということだろう。「ERATO」「さきがけ」「CREST」という研究推進事業の3本柱に加え、「ACCEL」「ACT-C」「ALCA」「S-イノベ」「先端計測分析技術・機器開発プログラム」「A-STEP」など、現在、進行中のプログラムは数多い。「手を広げすぎているのではないかという感じがしないでもない。本来、本当にやるべきことがやれなくなってはいないだろうか」(中村守孝)、「これが目玉という特徴ある制度が何か一つ欲しい」(川崎雅弘)、「あまりにプログラムが多くなって外部から分かりにくくなっている。きちんと評価して絞ることも必要ではないか」(沖村憲樹)といった歴代理事長の声もある。また、大学の指導的立場にある研究者の中からは、「『2段ロケット型研究推進システム』の考え方には基本的に同意するものの、JSTは大学や研究機関の研究開発支援を主にすべきである。より産業に近い開発資金支援は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などがやればよい」という意見も聞かれる。さらには「JSTの研究資金について、科研費などとの差別化が見られない」と研究現場から疑問視する声も聞く。科学技術基本計画で進められてきた「選択と集中」による研究費配分が、かえって日本の研究力を停滞させては本末転倒である。少子高齢化への対応、ハード、ソフト両面からの災害に強い国土造り、財政健全化など日本が抱える課題は多い。さらに、持続可能な開発、途上国の発展支援、地球環境保全など国際的な課題の解決にも貢献できるイノベーション駆動型機関として、初期の志を忘れず、今後どのような役割を果たせるか。JSTに掛けられた期待と責任は極めて大きい。39