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概要

JST20周年記念誌JapanWay0203

第1部│展望編公然と交わされていた1970年代や80年代の記憶がまだ薄れていない1999(平成11)年の6~7月に、ハンガリーの首都ブダペストで「世界科学会議」が開かれた。そこで重要な宣言が採択される。開催地の名をとって「ブダペスト宣言」として以後、しばしば引き合いに出される「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」である。21世紀の科学の責務として、それまでうたわれていた「知識のための科学」のほかに、「平和のための科学」「開発のための科学」と「社会における科学と社会のための科学」が打ち出された。科学および科学者が、知識を豊かにすることのみを考えることは許されず、持続可能な開発など社会への貢献を政府や市民などとともに進めることを宣言した、と受け止められている。JSTの対応は早かった。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)と共同で2001年に「社会技術研究システム」を立ち上げ、2005年にJSTの社会技術研究開発センター(RISTEX)として再発足した。取り上げられたテーマを見ると、「社会技術研究システム」の時代は、「循環型社会」「脳科学と社会」など社会の在りようをどう変革すべきか、という大きな課題が多かった(それだけ社会実装も容易ではなかった)。RISTEXとなって以降は、「地域に根差した脱温暖化・環境共生社会」や、「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」のように、社会に実際に取り入れられるまでを射程に据えた課題が目立つ。新しい社会的価値の創出を目指す研究により力を注ぐことや、実際の具体的社会的課題に対する解決に貢献していくこと。RISTEXの活動方針については引き続き、外部の識者も交えた議論が期待される。■新たな展開が期待される情報事業の取り組みJST発足前の特殊法人から、独立行政法人、さらに国立研究開発法人に変わり、組織名もJST発足時の科学技術振興事業団から2003(平成15)年10月に科学技術振興機構へと変わった。初代理事長の中村守孝が今、「これだけ膨大な仕事をする法人になるとは夢にも思わなかった」と、述懐するように、JSTは20年間で大幅な事業の拡大、変革を成し遂げてきた。20年間一貫して強化してきた国際協力、地域活性化がその成果である。科学技術政策に不足していることを明快に示し、JSTの取り組みに変革を求め続けた川崎雅弘、沖村憲樹両理事長時代を経て、北澤宏一理事長によって大学、日本学術会議との協働が進められ、中村道治理事長による産学官連携のさらなる強化策が打ち出された。一方、JSTが今後注力して取り組むべき領域は、データを活用した研究開発の推進である。科学技術情報流通事業は、国内外の科学技術文献、特許、研究者、化合物情報などを検索するデータベースを提供し、大学や企業の研究開発の下支えを長年行ってきた。また、長年わが国における情報分野の中核的機関として海外の関係機関との連携やデータベース提供に取り組んできたが、米国化学会の情報部門「CAS(Chemical AbstractsService)」との連携解消やデータベースの国際ネットワーク「STN」からの撤退など事業の見直しにより経費削減を図り、困難な事態に陥った産業投資特別会計を単年度ベースで黒字に改善した。海外に目を転じると、検索サービスだけでなく、保有するデータを活用して積極的なサービスを展開する情報関連企業の動きも目立つ。2016年4月、国際情報サービス企業「トムソン・ロイター」が自社の論文データベースを基に研究分野を22に分け、それぞれ被引用数がトップ1%に入る論文数(対象は2005~2015年の11年間)が多い国内の大学・国立研究開発法人ランキングを公表した。JSTは「戦略的に科学技術イノベーションの創出を推進するファンディングエージェンシーとしての事業内容に鑑み」という理由で、ランキングの対象からはずされたが、データは公表されている。それによると、11年間でトップ1%に入る高被引用数は767本であり、1位の東京大学に次ぐ多さで、2位の京都大学、3位の理化学研究所より上である。JSTが誇れる数字がもう一つある。高被引用論文が、その機関から2005~2015年の11年間に発表された全部の論文のうちの何%に当たるか、つまり価値の高い論文の生産効率ともいうべき数値も併記されている。JSTは2.4%で、東36