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概要

JST20周年記念誌JapanWay0203

第1部│展望編先の新しい技術を準備しておくには、ストックを作ることが大事である。そのバランスを保ちながらトップサイエンスの成果を社会的価値のあるトップイノベーションに結び付ける必要がある」というJSTの戦略が明確になる。JSTは、前身のJRDC時代から、トップサイエンスを育てて、トップイノベーションに結び付ける事業を地道に続けてきた歴史を持つ。地域の活性化を目指し、地域で生まれた研究成果を地域の産業に結び付ける事業にも早くから取り組んできている。地域の活性化が簡単ではないことは、手を替え品を替え政府の地域振興策が打ち出されてきたことからも明らかだ。JSTも例外ではなく、2009年に民主党政権下で行われた事業仕分けで、地方活性化の拠点になっていたJSTイノベーションプラザやサテライトが不要として切り捨てられたといった苦い経験もある。しかし、一部の地域では、JSTの事業で活躍したコーディネーターたちが残した地域活性化事業の経験が引き継がれている。「研究者、産業界と議論しながらうまくコーディネートしていくのは、気の遠くなるような仕事である。JSTは内部でもそういう人間を育ててきたが、考え方は『黒子に徹しろ』というものだった。私は、逆に有言実行であるべきだと言った。実際にJST理事長就任が決まったときに多くの研究者からいわれたことは、JSTの意思がどこにあるのか分かりにくいことだった」と、中村はJST職員の意識の切り替えを強く求めた。山中伸弥氏の研究の潜在的可能性を見抜いた岸本忠三氏のような目利きをJST外で探し出すことに加え、JST内でも育てることの重要性は、JST発足時から言われ続けていた。さらに今では、基礎研究の良し悪しを見抜けるだけでなく、研究成果を産業界に橋渡しできる人材「プログラムマネジャー(PM)」の必要が叫ばれている。中村の下で、PMの育成・活躍プログラムが2015年からスタートしている。これに先立ち、経験豊富な学界、産業界のPMが、研究を率いる研究代表者と二人三脚で企業やベンチャーなどに研究開発の流れをつなげることを目指すプログラムACCELも2013年から走り出した。中村によると「トヨタが、米国の国防高等研究計画局(DARPA)のナンバーワンPMを引き抜いて所長にしたように、日本の大企業でも多分、スーパーと名が付くようなPMは片手もいない」。JSTでも、外部から来てもらう、あるいはコーディネート能力の高い専門職を育て、PM、スーパーPMとキャリアアップできるような複線型の人事制度をつくる必要を、中村は今でも強調している。■国際協力で科学技術外交にも貢献中村道治第五代理事長相澤益男東京工業大学学長(現JST顧問)、薬師寺泰蔵氏(現JST・SATREPS運営総括)ら総合科学技術会議(現総合科学技術・イノベーション会議)の有識者議員による提言「科学技術外交の強化に向けて」が2007(平成19)年4月に総合科学技術会議に提出され、翌2008年5月本会議で決定された。日本の科学技術と外交が相乗効果を発揮し、日本と相手国が相互に受益するシステムを構築することや、人類が抱える地球規模の課題の解決に率先して取り組むことなどをうたっている。「科学32