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概要

JST20周年記念誌JapanWay0203

第1章│社会の変化と共に広がったJSTの役割国際シンポジウム「iPS細胞研究が切り拓く未来」の後、廃止されたが、北澤の下でJSTは、こうした技術移転を加速するため、2009年に研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)と、戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)という新しい資金制度を立ち上げた。A-STEPは、実用化を目指すための幅広い研究開発フェーズを対象とした技術移転支援制度である。S-イノベは、産業創出の礎となる「研究開発テーマ」を設定し、産学連携の複数の研究開発チームによる研究開発を支援する制度で、最長10年という長期間が特徴である。さて、「基礎研究ただ乗り」などと日本たたきに躍起となっていた米国は、その後、手をこまぬいていたのだろうか。日本批判のニュースが目立つ一方、座長であるヒューレット・パッカード会長の名前をとって「ヤング・レポート」として知られる報告書が1985年に出ている。レーガン大統領が作った産業競争力委員会による報告書で、米国の産業力の低下が製造業の衰退に起因するとして、さまざまな取り組みを提言していた。この後継版ともいわれる報告書「イノベート・アメリカ」(座長であるIBM最高経営責任者の名前から「パルミサーノ・レポート」と呼ばれる)が2004年暮れに公表された。ヤング・レポートが出た翌年に産業界、学界、労働界のリーダーによって設立された競争力評議会が、1年以上議論してまとめた報告書だ。21世紀の世界で競争の優位性を得るのはイノベーションしかないとし、大学生に対する民間セクターによる新たな奨学金の創設、小学校から大学までの教育で、問題解決型の学習を通じ、創造的思考法とイノベーション能力を触発するなど人的資源の確保策や、国防総省の研究開発予算の20%を長期的研究に振り分け、かつてのように基礎研究面での役割を増やすといった、先端研究の再活性化策などが提言された。自分の国を強くすればよいという考えで貫かれてはいないのも、この報告書の特徴とされている。ある国がある国との競争で勝つということより、全世界の人々のためによりよい世界を築いていくことにイノベーションの重要性があると指摘していることも注目された。このレポートに着目したCRDSは、2005年からレポートの詳細な分析と提言書を相次いで公表した。さらに2006年9月に生駒俊明CRDSセンター長を中心とした「グローバル・イノベーション・エコシステム」組織委員会主催の国際会議を東京で開催する。2007年の第2回目のシンポジウムとワークショップでは、米競争力評議会のデボラ・ウィンス-スミス会長が、パルミサーノ・レポートについて基調講演した。生駒CRDSセンター長からの呼び掛けに応じ、当時日立製作所フェローだった中村道治もパネリストとして参加している。「イノベーションの重要性に最初に気付いたのがJSTだったことを示している。世界あるいは日本の新しいパラダイムを生み出す、あるいはそれを定着させる役割がJSTにはあるということを分かりやすく示した例だ」と、中村は振り返る。理事長就任後に中村の打ち出した方針が「世界を導くようなトップサイエンスを奨励し、世の中が変わるような新しい果実を生み出すことを、まず1丁目1番地に置く」としたのは、自然な流れだった。「今あるものを組み合わせて何かやろうとするのは、消費型の研究開発でフローとしてはよい。しかし、次の時代、10年、20年31