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概要

JST20周年記念誌JapanWay0203

第1章│社会の変化と共に広がったJSTの役割ドである。ERATOに始まる基礎研究推進事業の3本柱の一つとなっている「さきがけ」(独創的個人研究育成事業)がスタートしたのは、ERATO同様、JST発足前のJRDCの時代。ERATOから10年遅れて1991(平成3)年からである。ERATOが研究拠点を大学外に置いて研究を進める中で総括責任者たちから出た「若手にはさらに伸び伸びと研究をやらせなければならないのでは」という声が、誕生のきっかけとなった。目的志向型の基礎研究という「さきがけ」の目的は、ERATOと同じである。ただ、公募によって選ばれるのは30代が大半という若手研究者で、独立して研究を進められるという特徴が研究者にとっては大きな魅力となっている。さらに、選ばれた若手研究者たちは、それまで指導を受ける機会がなかった研究総括と領域アドバイザーから助言が受けられるほか、同じ研究領域に集まったさまざまなバックグラウンドを持つ研究者と交流・触発しながら研究できる魅力も大きい。どのような若手研究者を選ぶかが、この制度では特に重要となる。実は、これもJRDCの創意が十分込められた制度だった。当時、科学技術庁の課長として「さきがけ」の予算獲得に当たった沖村憲樹が、次のようにたたえている。「予算を取ったときに財政当局に示していた内容と、実際にJRDCで事業としてスタートするときの内容が、大幅に変わっていたのに驚いた。千葉玄彌によってまるで違った事業に改良されていた」「さきがけ」のユニークさを示す挿話として、「さきがけ」で研究費を支給する若手研究者を選ぶ役目を担ってもらう研究総括たちに、川崎が繰り返し念を押した言葉がある。「先生、ここは万馬券(を当てるかどうか)の世界ですよ」。NIHの幹部研究者が川崎に指摘したように、平均的な研究者が選ばれがちなピアレビュー的人選になってしまってはこの事業の意味はない。それを避けるため、目利きの「伯楽」役を期待する研究総括たちに、しつこく注意喚起した、というわけである。「さきがけ」での経験をバネに研究者として飛躍を遂げ、その後、大学教授などのポストを得て活躍し続ける人も多い。ただ、川崎の懸念を裏付けるような声が、現在、再び聞かれる現実もある。発足当初と制度運用法が変わったために、研究領域が似たような若手研究者たちばかり選ばれるようになってしまっている、という批判だ。「研究領域が『文部科学省の定める戦略目標に基づいて決められる』プログラムになった結果、一部の専門分野の研究者しか応募できなくなった」と、元JST理事の永野博は、著書『世界が競う次世代リーダーの養成』(近代科学社、2013年)の中で書いている。永野は、理事になる前にも文部科学省からJSTに出向し、目的が変わる前の「さきがけ」運用に関わった経験を持つから、この批判は重い。JST発足直前の1995年度に、基礎研究推進事業3本柱のもう一つCRESTがスタートした。インパクトの大きなイノベーションを生み出すためのチーム型研究という目的を持つ。川崎は、CREST発足のきっかけを次のように話している。「発足後15年というERATOの実績を基に、ERATOに属している人たちから『単なる継続ではなく新規のテーマで新たな挑戦をするような事業を作ろう』という提案が出された」。事業全体の予算規模は、基礎研究推進事業の中で最も大きい。国から示された戦略目標を基に研究領域を設定し、研究提案を募集する。一つの領域に強力な研究集団が並び立ち、政策実現に向け研究を推進する、というのがCRESTの特徴である。ERATOが総括責任者に研究の指揮を一任するという強力な権限を与えるのに対し、複数の山々がそびえ立つ八ヶ岳型の研究推進事業を狙っている。2001年にこれら三つのプログラムの転機ともなった、科学技術政策上の大きな出来事があった。1月に科学技術政策のかじ取り役として総合科学技術会議が発足し、省庁再編で文部省と科学技術庁が合併して文部科学省が誕生する。さらに、基礎研究の推進と国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化などによる、科学技術の戦略的重点化を掲げた「第2期科学技術基本計画」(対象期間2001~2005年度)が、同じ1月に決定する。重点分野として、ライフサイエンス、情報通信、ナノテクノロジー・材料、環境の4分野が挙げられ、優先的に研究資源を配分するとされた。同年7月に川崎か25